【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、驚くべきことに、フィコビリタンパク質の水性抽出物にサリチル酸を添加することによって上記技術的課題を解決できることを明らかにした。
【0023】
したがって、本発明の主要な主題は、フィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物を得る方法であって、フィコビリタンパク質の水性抽出物にサリチル酸を添加する沈殿工程を少なくとも1つ含み、上記沈殿物のフィコビリタンパク質含量が上記水性抽出物中の初期含量の少なくとも50%に等しく、上記沈殿物の清澄度が少なくとも70%に等しい、方法である。
【0024】
「フィコビリタンパク質」とは、特定の微細藻類又はシアノバクテリアから単離された水溶性光合成色素タンパク質、例えばアロフィコシアニン(APC)、フィコシアニン類(C−PC及びR−PC)、フィコエリスリン類(R−PE及びC−PE)及びフィコエリスロシアニン(PEC)等を意味するものである。
【0025】
「水性抽出物」とは、水、海水、又は、CaCl
2、NaCl若しくは任意の他のリン酸塩若しくはカリウム塩を含有する任意の水溶液などの水性溶媒を用いてフィコビリタンパク質を抽出及び溶解する工程によって得られるものを意味するものである。
【0026】
沈殿工程により生じる「沈殿物」とは、すなわち、水性抽出物から沈殿によって濃縮されたフィコビリタンパク質の量を意味するものである。本発明においては、サリチル酸でフィコビリタンパク質を沈殿させる。
【0027】
「安定」とは、フィコビリタンパク質が分解されない、特に自然光で分解されない沈殿物を意味するものである。安定性は、フィコビリタンパク質の半減期によって測定することができ、該半減期とはフィコビリタンパク質の半分が分解するまでの日数を表す。
【0028】
本発明の方法によって沈殿したフィコビリタンパク質の半減期は、20℃未満の温度、特に10℃〜20℃の温度、及び、50μmol・m
−2・s
−1未満の光強度、特に5μmol・m
−2・s
−1〜50μmol・m
−2・s
−1の光強度において、50日、60日、70日、80日、90日、100日又は110日に達し得る。
【0029】
半減期は、例えば、日数(又は時間)の関数として示したフィコビリタンパク質の濃度によって求められる。そして、フィコビリタンパク質の分解度は次のように表される。(フィコビリタンパク質の初期量−日数(d)でのフィコビリタンパク質の量)×100/フィコビリタンパク質の初期量)。半減期は、初期濃度の半分(50%)が分解される日数に相当する。つまり、分解度50%に等しい。分解度が低く、50%に達しない場合、実験範囲で得られた1日当たりの分解度から外挿することにより範囲外の半減期を推定することができる。
【0030】
安定性は、色の維持によって評価することもできる。実際、フィコビリタンパク質が少しでも分解すると、懸濁物又は抽出物の色は変化することとなる。
【0031】
色は、例えばフィコビリタンパク質の吸収ピークに相当する620nmでの抽出物の吸光度を測定することによって評価できる。この波長での吸光度の減少は、フィコビリタンパク質の分解を示す。
【0032】
微細藻類バイオマスに含有されるフィコビリタンパク質は、培養条件によるが、多くとも20%〜25%である。したがって、「上記沈殿物のフィコビリタンパク質含量が上記水性抽出物中の初期含量の少なくとも50%に等しい」とは、水性抽出物が含有する20%〜25%のフィコビリタンパク質のうちの50%が本発明の方法によって沈殿されることを意味するものである。
【0033】
本発明の主題であるフィコビリタンパク質は、シアノバクテリア又は微細藻類から抽出できる。
【0034】
上記微細藻類は、特に、紅藻綱(Rhodophyceae)、クリプト藻綱(Cryptophyceae)及びシアノバクテリア、とりわけシアノバクテリア、更により具体的にはアルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)及びアファニゾメノン・フロスアクア(Aphanizomenon flos−aquae)、特にクラマス藻類(alga Klamath)から選択される。
【0035】
アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナ)から抽出する場合、M.Rebeller et al.,1979の記載による方法に従う。この抽出方法は10g/LのCaCl
2溶液中で2時間行い、その後、10μmガーゼで濾過する。海水中で行うこともでき、この場合、微量元素によりフィコビリタンパク質抽出物を富化することができ、市販の塩を使わないため抽出コストを低減することができる。
【0036】
溶液中の種々のフィコビリタンパク質の量は、Bryant et al.,1976によって確立された分光光度法で求められる。
【0037】
本発明の方法によれば、元の水性抽出物中のフィコビリンタンパク質量の少なくとも50%、好ましくは75%、より好ましくは80%を含有するフィコビリタンパク質沈殿物を得ることができる。
【0038】
本発明の特定の一実施形態において、上記フィコビリタンパク質沈殿物は、元の水性抽出物中のフィコビリンタンパク質量の少なくとも85%、又は少なくとも90%、95%、更には沈殿が完全となるまで(すなわち上記沈殿物は水性抽出物中のフィコビリタンパク質を100%含有)含有する。
【0039】
乾燥した又は新鮮なバイオマスからフィコビリタンパク質を抽出することにより、細胞溶解が起こる。
【0040】
「細胞溶解」とは、任意の手段、特に物理的/機械的手段(超音波処理、凍結/解凍サイクル)又は化学的手段(CaCl
2、(NH
4)
2SO
4の溶液)又は生物学的手段(酵素)による細胞又は細菌の原形質膜の破壊を意味するものである。細胞溶解によって不溶性の膜断片及び複合体が生成され、回収された抽出物中に懸濁状で残留する。このような抽出残渣の除去は清澄化として知られている。
【0041】
驚くべきことに、本発明者らは、フィコビリタンパク質の水性抽出物にサリチル酸を添加することによって、抽出物中に含まれるフィコビリタンパク質を沈殿させ、且つ、抽出残渣を除去できることを明らかにした。
【0042】
選択的沈殿によりフィコビリタンパク質を抽出残渣から分離してもよい。サリチル酸濃度を変えることでこれら2つの化合物群の一方又は他方を沈殿させることが実際に可能である。
【0043】
「清澄度」とは、本発明の方法により得られる全沈殿物中のフィコビリタンパク質の割合を意味するものである。沈殿物が細胞溶解残渣である膜断片を含まない場合、清澄度は100%である。サリチル酸の添加後、沈殿しなかったフィコビリタンパク質及び断片の量を別々に分光光度法で測定する。この測定値から、沈殿したフィコビリタンパク質及び断片の含量を推定する。また、清澄度は以下のように測定される。100×フィコビリタンパク質沈殿量/(フィコビリタンパク質沈殿量+断片沈殿量)。
【0044】
フィコビリタンパク質含量は、Bryant et al.(1976)に記載の数式を適用して620nm及び650nmでの光学密度に基づいて推定する。断片含量は、OD
680と微細藻類の乾燥バイオマスとを関連付ける確立された相関曲線(Costa et al.,2002)を用いて680nmで光学密度を測定することによって評価する。
【0045】
本発明の方法よれば、フィコビリタンパク質含量が上記水性抽出物中の初期含量の少なくとも50%に等しく、清澄度が少なくとも80%、好ましくは90%又は100%に等しい沈殿物を得ることができる。
【0046】
本発明の方法によれば、上記水性抽出物中のフィコビリタンパク質量の50%〜80%を含有し、清澄度が少なくとも70%に等しいフィコビリタンパク質沈殿物を得ることができる。
【0047】
本発明の特定の一実施形態において、上記フィコビリタンパク質が豊富な沈殿物の清澄度は、75%、80%、85%、90%、95%又は100%に等しい。換言すれば、膜断片又は複合体の含量は、沈殿物量の0%(この場合、清澄化は完全)〜30%であり、5%、10%、15%又は25%に等しくすることができる。
【0048】
本発明の好ましい一実施形態において、本方法によれば、フィコビリタンパク質含量が上記水性抽出物中の初期含量の少なくとも70%に等しく、膜断片を含まない沈殿物を得ることができる。
【0049】
「膜断片を含まない」とは、沈殿物の清澄度が100%であることを意味するものである。
【0050】
本発明の特定の一態様において、本発明の方法は、フィコビリタンパク質を少なくとも1.5g/L含有するフィコビリタンパク質の水性抽出物を用いる。
【0051】
したがって、サリチル酸による沈殿のために使用するフィコビリタンパク質の水性抽出物は、フィコビリタンパク質を1.5g/L以上含有してもよい。
【0052】
本発明では、下記数式を確立して、元の抽出物中の任意量の可溶性フィコビリタンパク質に対して使用するサリチル酸の最小量を決定することができる。サリチル酸(g)=0.007×フィコビリタンパク質(mg)/0.52
【0053】
本発明の方法で使用するサリチル酸は、実質的に4g/L以上であって実質的に20g/L以下であるサリチル酸濃度となるように、上記フィコビリタンパク質を少なくとも1.5g/L含有する水性抽出物に添加される。本発明の特定の一実施形態において、サリチル酸の添加量は、4g/L〜10g/L、10g/L〜15g/L、又は、15g/L〜20g/Lである。
【0054】
本発明の特定の一実施形態において、サリチル酸は、実質的に4g/L以上であって実質的に13g/L以下であるサリチル酸濃度となるように、フィコビリタンパク質の水性抽出物に添加される。この実施形態では、フィコビリタンパク質沈殿物は、フィコビリタンパク質含量が水性抽出物中の初期含量の少なくとも50%に等しく、清澄度が100%である。換言すれば、沈殿物には、水性抽出物を得ることができる抽出工程で生じた膜断片又は残渣がもはや存在しない。
【0055】
この場合、清澄化は完全であり、膜断片及び複合体は上清に残留する。
【0056】
より詳細には、清澄化の質(完全又は部分的な清澄化)は、フィコビリタンパク質及び膜断片のそれぞれの含量に依存することが明らかとなった。実際、溶液のフィコビリタンパク質がより濃縮されていて、含まれる断片が少ないほど、清澄化はより良好となる。より具体的には、フィコビリタンパク質含量が1.5g/Lを超える、好ましくは1.5g/L〜1.8g/Lの範囲であり、且つ、膜断片含量が0.7g/L〜0.9g/Lの範囲であるフィコビリタンパク質溶液であれば、良好な清澄化となる。このような条件の場合、実質的に4g/L以上であって実質的に13g/L以下であるサリチル酸濃度であれば、清澄化を完全なものにできる。
【0057】
本発明の別の実施形態において、サリチル酸は、実質的に13g/L以上であって実質的に14g/L以下であるサリチル酸濃度となるように、フィコビリタンパク質の水性抽出物に添加される。この実施形態では、フィコビリタンパク質沈殿物は、フィコビリタンパク質含量が水性抽出物中の初期含量の少なくとも70%に等しく、清澄度が少なくとも70%に等しい。
【0058】
本発明の特定の一実施形態において、本方法は、サリチル酸による沈殿工程の前に清澄化工程を含んでもよい。
【0059】
清澄化は、残渣の大部分を除去する単純なデカンテーションにより実施できるが、この条件下では、細胞溶解により生じた不溶性の膜断片及び複合体が多少とも高い割合で、回収された抽出物中に懸濁状で残留する。
【0060】
完全な清澄化には、より徹底した方法に頼る必要がある。例えば、8000rpmを超える遠心分離、100キロダルトン未満のカットオフ値を有するチューブ若しくは膜による透析若しくはタンジェンシャル限外濾過、又は、抽出物の通液中に断片を保持することが可能な高分子を用いたクロマトグラフィーが挙げられる。このような徹底した清澄化方法を工業規模で適用すると、投資コストが高くなることが多い。
【0061】
したがって、清澄化は、サリチル酸を添加することによって、又は、2つの相補的な手段、すなわち、最初の工程でデカンテーションを行い、沈殿中に水性抽出物にサリチル酸を添加することによって実施できる。
【0062】
本発明の特定の一実施形態において、本方法は、サリチル酸を用いたフィコビリタンパク質の選択的沈殿の後に、沈殿物を溶解する工程を含んでもよい。
【0063】
上記溶解工程は、特に、食品品質の天然ポリオールを用いて実施される。その例としてグリセリン又はグリセロールが挙げられる。グリセリンは優れた天然防腐剤であり、タンパク質を安定化し、細菌及び真菌の増殖を防止する。グリセリンは、フィコビリタンパク質をより良好に保存できるという点で有利である。
【0064】
本発明においては、グリセロール、又は、多価アルコールであるプロパン−1,2,3−トリオール(又は1,2,3−プロパントリオール)の任意の誘導体若しくは任意の形態を使用することもできる。
【0065】
本発明においては、1.2リットルのグリセリンであれば、沈殿した及び/又は清澄化したフィコビリタンパク質を27g溶解できることが判明した。
【0066】
フィコビリタンパク質/グリセリン溶液は、周囲温度の明条件下では3ヶ月を超える期間、冷暗所では数年間保管することができる。
【0067】
本発明の方法は、増殖が阻害されたバイオマスにおいてフィコビリタンパク質合成を誘導する工程を行った後に実施することもできる。本発明の方法で得られるバイオマスのフィコビリタンパク質含量は、該バイオマスの乾燥重量の少なくとも20%に等しい。
【0068】
本発明の方法で得られるバイオマスのフィコビリタンパク質含量は、特に、該バイオマスの乾燥重量の少なくとも21%、22%、23%、24%又は25%に等しい。
【0069】
本発明の方法で得られるバイオマスのフィコビリタンパク質含量は、特に、該バイオマスの乾燥重量の20%〜25%である。
【0070】
本方法の合成工程は培養槽の外で行われるため、バイオマスの生産性を損なわない。
【0071】
「バイオマス」とは、特定の時点での培養液中の生きた微細藻類の全質量を意味するものであり、グラム/リットル(g/L)で表される。
【0072】
「フィコビリタンパク質」とは、特定の微細藻類又はシアノバクテリアから単離された水溶性光合成色素タンパク質、例えばアロフィコシアニン(APC)、フィコシアニン類(C−PC及びR−PC)、フィコエリスリン類(R−PE及びC−PE)及びフィコエリスロシアニン(PEC)等を意味するものである。
【0073】
「合成を誘導する」とは、微細藻類バイオマスによるフィコビリタンパク質の産生を任意の手段で促すことを意味するものである。
【0074】
「誘導培地」とは、最適増殖に必要な塩の濃度と比較して1種以上の塩を過剰に含有する又は欠乏する任意の微細藻類培養培地を意味するものである。本発明において、この培地は窒素を過剰に含有するものであり、Zarrouk培地にNaNO
3を2.5g/Lを超える濃度、好ましくは3〜5g/Lの濃度で添加することで得られる。
【0075】
「増殖の阻害」とは、微細藻類の増殖を停止することを意味するものである。増殖の阻害は可逆的である。実際、増殖を阻害した後、バイオマスの一部を回収して濃度を低下させると、バイオマスは再び増殖できる。したがって、バイオマスを害することはない。
【0076】
上記微細藻類バイオマスの増殖を阻害する工程は誘導槽で行い、上記槽内の上記バイオマスの濃度を培養液中での微細藻類の最適増殖を許す濃度よりも3〜13倍高くして行う。
【0077】
上記微細藻類、特にシアノバクテリア、より具体的にはアルスロスピラ・プラテンシスのバイオマスの増殖の阻害は誘導槽で行い、上記槽内の上記バイオマスの濃度は、特に、培養液中での微細藻類の最適増殖を許す濃度よりも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13倍高い。
【0078】
増殖の阻害(微細藻類の増殖の阻害)は、例えば、培養密度の関数として示した微細藻類の増殖速度の曲線によって判断される。微細藻類の増殖速度がゼロである場合、阻害が観察される。
【0079】
なお、「濃度」は「密度」と置き換えることができる。「バイオマス密度」、「バイオマス濃度」は区別せずに使用する。密度は濃度と同様にg/Lで表す。
【0080】
培養液中での微細藻類の最適増殖を許す密度/濃度は約0.4g/Lであると認められる。
【0081】
阻害は、濃度が1〜5g/Lの範囲のバイオマスを誘導槽に導入して行われるが、本発明においてこの手段に限定されず、バイオマスの増殖を阻害できる任意の手段を用いることができる。阻害時の上記バイオマス濃度は、1g/L、1.5g/L、2g/L、2.5g/L、3g/L、3.5g/L、4g/L、4.5g/L又は5g/Lに等しくてもよい。
【0082】
バイオマスの密度/濃度は様々な方法によって測定できる。
【0083】
・セッキ板:水培地で培養した細胞の密度を迅速に推定できる簡単な装置である。長さ30cmの目盛り付き定規からなり、ゼロの目盛りの付いた下端に直径5cmの白い円盤を備える。円盤を培地に浸してから該円盤を識別できなくなった深さ(センチメートル)を記録する。
【0084】
・顕微鏡でのカウント:この方法は時間がかかるが、フィラメント数とフィラメント当たりの巻数を推定できる。目盛り付きピペットを用いて一滴の試料をくぼみスライドに滴下して顕微鏡で観察し、一滴中のフィラメント数を評価する。我々のピペットで滴下した17滴の体積は1mLとなることが分かっている。培養液の濃度が非常に高い場合は試料を希釈する。ランダムに採取した30本のフィラメントから平均巻数を計算する。
【0085】
・665nmでの光学密度:この方法では、クロロフィルの吸収波長の一つである665nmの吸光度を用いてバイオマスを迅速に推定できる。一般的に、このインビボ吸収はクロロフィル濃度との相関性が高い。平行面を有する25cL容キュベットを備えた分光光度計を使用する。未接種の培地でゼロ調整を行う。
【0086】
誘導槽は、中間培養槽、回収槽等、生きた微細藻類を保管するための任意の閉鎖系であってもよい。
【0087】
本発明の好ましい一実施形態において、誘導槽内の上記バイオマス濃度は、実質的に1g/L以上であって実質的に5g/L以下である。この濃度は、誘導媒体を誘導槽に添加することで得られる。
【0088】
1g/L〜5g/Lの範囲の濃度は、回収時(すなわち、濃度が約0.4g/Lとなる最適増殖時)に増殖中のバイオマスの密度よりも3〜13倍高い密度に相当する。この濃度では、増殖が阻害されて微細藻類の防御代謝が促進される。
【0089】
バイオマスの増殖、例えば最適増殖、特に約0.4g/Lの濃度での増殖を阻害するには、上記バイオマスを濾過、デカンテーション又は遠心分離などによって1g/L〜5g/Lの濃度にすればよい。
【0090】
また、誘導槽に入れる前にバイオマスを洗浄してもよい。洗浄によって、培地に由来する過剰の塩を除去できる。これにより、誘導溶液の窒素濃度をより良好に制御できる。
【0091】
この場合、バイオマスは、生理食塩水又は新たに調製した誘導培地溶液を用いて3回洗浄する。
【0092】
これらの条件下では、元のバイオマスは上記方法の影響を受けず、フィコシアニン合成の誘導はバイオマスの培養条件に依存しない。
【0093】
上記手順は、従来のスピルリナ培養農場の生産ラインに容易に組み込むことができる点で有利である。中間培養槽又は回収槽で3時間、4時間又は最大5時間行うことができる。
【0094】
本発明の特定の一実施形態において、フィコビリタンパク質の合成を誘導する工程は、
1)光合成微細藻類バイオマスを光束に暴露する工程であって、上記光束は、実質的に10μmol・m
−2・s
−1以上であって実質的に13μmol・m
−2・s
−1以下である光強度を有する、工程、
2)誘導培地中のNaNO
3濃度が2.5g/Lを超えるように窒素源を添加する工程
を含む。
【0095】
1平方メートル当たり1秒当たりの光子数(μmol)で表される光強度は、例えば、光合成に有効な放射量を測定する光度計を用いて求められる。
【0096】
なお、特に照明が蛍光灯、例えば「植物育成蛍光灯」タイプである場合、10μmol・m
−2・s
−1は330ルクスに相当し、13μmol・m
−2・s
−1は429ルクスに相当する。この場合、1平方メートル当たり1秒当たりの光子数1μmolは33ルクスに等しい。
【0097】
誘導培地中のNaNO
3濃度は、特に3〜4g/L又は3〜5g/Lである。
【0098】
10〜13μmol・m
−2・s
−1の範囲の光強度と、NaNO
3(窒素源)を3〜5g/L含有する培養溶液とを併用することによって、フィコシアニンを20%〜25%含有するバイオマスが得られる。この含量は、本発明の方法を適用せずに行う実験で得られる3%〜12%の範囲の含量と比較すると非常に高い。
【0099】
上記光は、単純な40W出力の白熱灯又は蛍光灯によって供給できる。
【0100】
誘導溶液は、Zarrouk培地で作製するのが好ましいが、スピルリナに適した他の任意の培地を使用できる。いずれにせよ、誘導溶液の窒素濃度は、硝酸ナトリウム(NaNO
3)を過剰に添加することで変更できる。最終濃度は、NaNO
3が3〜5g/Lの範囲でなければならない。これは、元のZarrouk培地中の濃度(2.5g/LのNaNO
3)よりも1.2〜2倍高い濃度である。
【0101】
上記培養条件下、誘導工程は3時間、4時間又は最大5時間行われるが、これにより、乾燥バイオマスの20%〜25%の含量を安定して得られるフィコビリタンパク質合成を充分に誘導できる。
【0102】
フィコビリタンパク質含量がバイオマスの乾燥重量の少なくとも20%に等しい光合成微細藻類バイオマスを製造するために、本発明の方法は、バイオマスの増殖を阻害する工程、及び、フィコビリタンパク質の合成を誘導する工程を含む。
【0103】
有利な一実施形態において、バイオマスのフィコビリタンパク質含量は、該バイオマスの乾燥重量の少なくとも21%、22%、23%、24%又は25%に等しい。
【0104】
有利な一実施形態において、バイオマスのフィコビリタンパク質含量は、該バイオマスの乾燥重量の20%〜25%である。
【0105】
特定の一実施形態において、フィコビリタンパク質の合成を誘導する工程の前に、微細藻類バイオマスを回収する工程を行うことできる。培養液が指数増殖期にあるとき、すなわちバイオマス生産性が最大であるとき、バイオマスを通常の培養槽に回収する。回収分をガーゼで濾過(又はデカンテーション又は遠心分離)して新鮮なバイオマスを得る。得られたバイオマスを誘導槽に移す。
【0106】
また、本発明の方法は、濃縮バイオマスを回収する最終工程を含んでもよい。
【0107】
したがって、本発明の方法は下記工程を含んでもよい。
・a)微細藻類バイオマスを回収する工程
・b)上記バイオマスの増殖を阻害する工程
・c)フィコビリタンパク質の合成を誘導する工程
・d)上記フィコビリタンパク質が豊富なバイオマスを回収する工程
【0108】
本発明の方法は、シアノバクテリア、紅色植物(Rhodophytes)又はクリプト植物(Cryptophytes)から選択される光合成微細藻類を用いる。
【0109】
本発明の方法を実施するために使用する光合成微細藻類は、アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナとも呼ばれる)であるのが好ましい。
【0110】
上記光合成微細藻類は、特に、紅藻綱、クリプト藻綱及びシアノバクテリア、とりわけシアノバクテリア、更により具体的にはアルスロスピラ・プラテンシス及びアファニゾメノン・フロスアクア、特にクラマス藻類から選択される。
【0111】
また、本発明は、上述した方法によって得られる粉末状又は懸濁状のフィコビリタンパク質の安定した沈殿物を保護するものである。実際、本発明による清澄化及び安定化したフィコビリタンパク質は、化粧品分野でも、機能性食品、食品加工又は医薬品においても任意の適用形態(粉末、液体又は半液体)で使用できる。
【0112】
本発明の方法によってサリチル酸で沈殿させたフィコビリタンパク質は、デカンテーション工程によって予め清澄化されているか否かに関わらず、40℃でオーブン乾燥するか又は凍結乾燥することにより安定性を向上させ、保存可能期間を長くすることができる。該フィコビリタンパク質は、あらゆる食品加工、治療、化粧品又は医薬品用途の任意の粉末製品にそのまま配合できる。
【0113】
本発明の方法によってグリセリンで溶解及び安定化した沈殿物は、そのまま例えばバイアル中に包装したり、任意の液体若しくは粘性用途中に食品、化粧品若しくは医薬品の添加剤、染料及び活性成分として配合したりすることができる。
【0114】
フィコビリタンパク質の粉末又はグリセリン溶液という2つの形態は、更に、関連するタンパク質、最初の抽出に使用したCaCl
2塩の残渣、及び、沈殿に使用したサリチル酸の残渣を含む。これらの成分は全て食品であり、いかなる食品、化粧品又は医薬品用途の製品の使用をも決して害することはない。
【0115】
一変形例では、沈殿物を蒸留水で洗浄することによって塩及びサリチル酸含量を低減してから、グリセリンに溶解することができる。このような洗浄は、過剰なサリチル酸が許容されない用途において好ましい。
【0116】
また、本発明は、沈殿及び/又は清澄化工程の終了時に得られる新規製品としての上清溶液に関する。この溶液は、フィコビリタンパク質及び断片の非沈殿画分を含む。また、水溶性タンパク質、微量元素及び溶解サリチル酸を豊富に含む。この溶液は、任意の液状食品及び/又は化粧品に使用可能な活性成分を豊富に含む組成物を構成する。
【0117】
また、本発明は、フィコビリンタンパク質が豊富な粉末状又は懸濁状の安定した沈殿物であって、本発明の方法によって得られ得る膜断片を全く含まない沈殿物も包含する。
【0118】
最後に、本発明は、上記フィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物又はフィコビリタンパク質が豊富な安定した複数の沈殿物の混合物を含む化粧用又は機能性食品組成物を保護するものであり、該組成物は、粉末、錠剤若しくはゲルカプセル形態の組成物であってもよいし、液状又は粘性(クリーム、ゲル、ペースト等)組成物であってもよい。
【0119】
本発明の化粧用組成物は強力なシワ防止特性を有し、深いシワ、肌の弛み及び肌のくすみに対処することができる。
【0120】
本発明の化粧用組成物は、抗酸化化合物が豊富であり、フリーラジカルに対して作用し、細胞の酸素化を促す。継続的な使用により、顔の輪郭が変わり、深いシワが減り、肌の色がより均一になる。また、本発明の化粧用組成物は、目袋及び目のクマを軽減することができ、乾燥を防いでより快適にできる。
【0121】
また、本発明の化粧用組成物は、シミ消し効果を有し、細胞の解毒を促し、太陽及び汚染の影響を防ぎ、過剰メラニンを特徴とするシミに対処する能力を高める。
【0122】
シミの濃さに応じて、1日当たり2〜4回投与する必要がある。薄く広がったシミは数週間で消えるが、輪郭がはっきりした濃いシミは完全に消えるまでに6〜12ヶ月かかることもある。また、本発明の化粧用又は皮膚科学的組成物は、重度のニキビの発症による痕跡に対しても推奨される。また、しなやかで柔らかい肌となるよう保湿効果を示す。
【0123】
また、本発明は、活性物質として上述したフィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物又はフィコビリタンパク質が豊富な安定した複数の沈殿物の混合物と、薬学的に許容される担体とを含む皮膚科学的組成物に関する。
【0124】
また、本発明は、上述したフィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物又はフィコビリタンパク質が豊富な安定した複数の沈殿物の混合物の抗酸化剤としての使用に関する。