特許第6667527号(P6667527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6667527フィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物を生成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6667527
(24)【登録日】2020年2月27日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】フィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物を生成する方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/30 20060101AFI20200309BHJP
【FI】
   C07K1/30
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-530438(P2017-530438)
(86)(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公表番号】特表2017-533254(P2017-533254A)
(43)【公表日】2017年11月9日
(86)【国際出願番号】FR2015052293
(87)【国際公開番号】WO2016030643
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2018年8月22日
(31)【優先権主張番号】14/01918
(32)【優先日】2014年8月28日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517067682
【氏名又は名称】アルゴビオテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベン ウアダ, ハテム
(72)【発明者】
【氏名】アマル, ジヘン
【審査官】 千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−137805(JP,A)
【文献】 特開平06−271783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物を得る方法であって、
フィコビリタンパク質の水性抽出物にサリチル酸を添加する沈殿工程を少なくとも1つ含み、
上記沈殿物のフィコビリタンパク質含量が上記水性抽出物中の初期含量の少なくとも50%に等しく、
上記沈殿物の清澄度が少なくとも70%に等しい、方法。
【請求項2】
上記沈殿物のフィコビリタンパク質含量は上記水性抽出物中の初期含量の少なくとも50%に等しく、上記沈殿物の清澄度は少なくとも80%、好ましくは90%又は100%に等しい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記沈殿物のフィコビリタンパク質含量は上記水性抽出物中の初期含量の少なくとも70%に等しく、上記沈殿物は膜断片を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記フィコビリタンパク質の水性抽出物は上記フィコビリタンパク質を少なくとも1.5g/L含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
上記フィコビリタンパク質の水性抽出物に上記サリチル酸を4g/L〜20g/Lの範囲で添加する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記フィコビリタンパク質の水性抽出物に上記サリチル酸を4g/L〜13g/Lの範囲で添加する請求項1又は3に記載の方法。
【請求項7】
フィコビリタンパク質の水性抽出物に上記サリチル酸を13〜14g/Lの範囲で添加する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
サリチル酸による沈殿工程の前に、デカンテーションにより清澄化する工程を追加する請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
上記沈殿物を溶解する工程を追加する請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
グリセリン、グリセロール、又は、多価アルコールであるプロパン−1,2,3−トリオール(又は1,2,3−プロパントリオール)の任意の誘導体若しくは任意の形態から選択される天然ポリオールに上記沈殿物を溶解する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
事前に、光合成微細藻類バイオマスのフィコビリタンパク質を富化する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
上記フィコビリタンパク質を富化する事前工程は、増殖が阻害されたバイオマスにおいてフィコビリタンパク質合成を誘導することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
a.バイオマスの増殖を阻害する工程、
b.フィコビリタンパク質の合成を誘導する工程、
c.サリチル酸で沈殿させる工程、
d.工程cで得られた沈殿物を溶解する工程
を含む請求項1、11又は12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
上記フィコビリタンパク質の水性抽出物は、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)である光合成微細藻類から得られる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類からフィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物を得る方法に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、フィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物を得る方法であって、フィコビリタンパク質の水性抽出物にサリチル酸を添加する沈殿工程を少なくとも1つ含む方法に関し、該沈殿物のフィコビリタンパク質含量が上記水性抽出物中の初期含量の少なくとも50%に等しく、該沈殿物の清澄度が少なくとも70%に等しい。フィコビリタンパク質は、フィコシアニン、フィコエリスリン、アロフィコシアニン及びそれらに関連するタンパク質に分けられ、特定の藻類(紅藻及びクリプト藻綱)及び全てのシアノバクテリアに存在する光合成色素タンパク質である。これらのタンパク質色素は、赤色から青色にわたる範囲の発色能を有する。
【背景技術】
【0003】
近年、これらの色素に新たな関心が寄せられている。実際、現在では、合成成分を天然物に置き換えようとする傾向が強い。この傾向の背景には、健康、生態系及び環境の保護を求めて天然物に対する消費者の需要が高まっていること、また、合成製品よりも天然物を推進しようとする法律の変更がある。このような状況から、天然染料に対する市場需要は大幅に増加している。
【0004】
市場で入手可能な天然染料のリストを検討した結果、青色染料がかなり欠如していることが明らかになった。用いられるのは、カマズレン(カミツレの花から抽出される)とインジゴ(インジゴ植物の葉を発酵させて得られる)のみである。しかし、これら2種類の染料は抽出収率が低いため(両方とも乾燥重量で0.1%以下)、供給が市場のニーズに対して不足したままである。
【0005】
フィコビリタンパク質の中で、フィコシアニンはその独特の青色から事実上の独占状態である。フィコシアニンは、ラン藻類のみに見られる有色タンパク質であり、化学的に合成することができない。フィコシアニンに関する様々な研究の結果によれば、フィコシアニンには抗酸化、抗炎症及び抗腫瘍能を有する可能性がある。
【0006】
フィコシアニンは、特定の食品(コールドドリンク、アイスクリーム、パン生地、ケーキ、クッキー等のアイス又は菓子類)を青色に着色するために広く用いられている。
【0007】
スキンケアクリーム、美容マスク及び日焼け防止製品に成分として導入することができる。リスクが疑われる合成色素の代替として有利である。
【0008】
現在、工業規模でのフィコシアニンの用途として知られているのは、少数の食品(マジパン、甘いジュース、アイス、シャーベット、更にはチョコレート)又は少数の化粧品(クリーム及びゲル)に限られる。フィコシアニンの市場での唯一の販売は、少数の企業(実質的に日本企業)によって独占されており、どうにかアメリカの天然食用色素市場のたかだか2%を占めているに過ぎない。
【0009】
また、フィコシアニンは、シアノバクテリアであるスピルリナ(アルスロスピラ・プラテンシス)から抽出可能であり、該スピルリナは3%〜12%のフィコシアニンを含有し得る。この青色の微細藻類は、WHOによって安全性が認められており、工業規模で生産されている。その利用は世界中の複数の国々に広がっている。
【0010】
バイオマスからフィコビリタンパク質を抽出したら濃縮工程を行う必要がある。通常、この工程では沈殿が生じる。
【0011】
フィコビリタンパク質の濃縮方法が複数存在する。遠心分離、凍結乾燥又は透析等、大型設備を用いた非常に時間がかかるものもある。このような方法を工業規模で適用すると、投資コストが高くなる。より単純な他の方法では、塩、特に硫酸アンモニウムを使用して沈殿を行う。これにより、フィコビリタンパク質を細菌及び真菌から保護することも可能である。硫酸アンモニウムを使用した沈殿に関して言えば、この塩は多量(抽出物の重量の60%を超える量)に必要となる。また、硫酸アンモニウムは、摂取又は吸入の際に急性作用として皮膚及び眼に対する刺激や肺鬱血及び呼吸困難を引き起こすことが知られている。
【0012】
上記方法以外の他のタンパク質を沈殿させる一般的な方法は、酸、有機溶媒、非イオン性ポリマー、更には非食品グレードであり且つフィコビリタンパク質の変性を引き起こすことが多い凝集剤を使用するものである。
【0013】
本発明者らは、フィコビリタンパク質の水性抽出物にサリチル酸を添加することによって、フィコビリタンパク質を沈殿させることができることを明らかにした。サリチル酸は食品品質の天然の酸であり、食品保存料としてごく一般的に使用されている。
【0014】
フィコビリタンパク質市場で求められる主な要件は、以下の3つの重要な点を満たすことである。食品又は化粧品に関する様々な法律に対応しなければならないこと、色安定性が良好であること、及び、競争価格を有すること。一般的なフィコビリタンパク質の天然の性質、及び、フィコビリタンパク質が有機溶媒の非存在下、水溶液で抽出されるという事実は、法律の点で明らかに有利である。
【0015】
本発明が解決しようとする技術的課題は、フィコビリタンパク質が豊富であると同時に安定している沈殿物を得ることである。
【0016】
フィコビリタンパク質は天然のタンパク質であり、水性溶媒に可溶であるため、細菌及び真菌の発生が促進され、保存可能期間に深刻な影響がでてしまう。また、フィコビリタンパク質は感光性が強いため、色安定性が悪く、その工業的な大量使用が制限されてしまう。実際、フィコビリタンパク質は光分解しやすく、そのため弱い照射によっても発色能が急速に失われてしまう。この光化学的プロセスによって、発色団分子は部分的又は完全に変性する。酸素捕捉剤及びフリーラジカル捕捉剤(例えばビオプテリングルコシド)を用いる方法もある。フィコビリタンパク質はこれらの捕捉剤に化学的に結合する。このような安定剤は非毒性が不確実であるため今のところ完全に満足できるものではない。また、そのコストが高すぎるため、フィコビリタンパク質の最終用途が何であれ、大規模な使用が想定できない。
【0017】
最後に、これまでの安定化したフィコビリタンパク質は短期間(数時間)しか安定化していないため、その色素は化粧品、機能性食品又は食品加工用途には適合しない。
【0018】
特許文献1は、不溶性でより安定した形態の紅藻由来物質の使用を提案している。該物質は有機溶媒を用いる方法によって得られる。このように不溶性であるため、該色素を粉末状化合物に適用することが制限される。
【0019】
特許文献2は、水性抽出物にアスコルビン酸を含有する賦形剤を添加することによってフィコビリタンパク質を光安定化する方法を開示している。この方法には、低含水量とするためには必須である抽出物の濃縮工程は記載されていない。
【0020】
特許文献3は、バイオマスをグリセリン又は水/グリセリン混合物に直接浸軟させてから濾過することによってフィコシアニンを抽出及び安定化する方法を開示している。浸軟は非常に時間がかかり、15日間にまで及ぶ。その上、抽出収率は非常に低く、使用されるバイオマスの1%以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第5643585号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/065697号
【特許文献3】国際公開第2014/045177号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、驚くべきことに、フィコビリタンパク質の水性抽出物にサリチル酸を添加することによって上記技術的課題を解決できることを明らかにした。
【0023】
したがって、本発明の主要な主題は、フィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物を得る方法であって、フィコビリタンパク質の水性抽出物にサリチル酸を添加する沈殿工程を少なくとも1つ含み、上記沈殿物のフィコビリタンパク質含量が上記水性抽出物中の初期含量の少なくとも50%に等しく、上記沈殿物の清澄度が少なくとも70%に等しい、方法である。
【0024】
「フィコビリタンパク質」とは、特定の微細藻類又はシアノバクテリアから単離された水溶性光合成色素タンパク質、例えばアロフィコシアニン(APC)、フィコシアニン類(C−PC及びR−PC)、フィコエリスリン類(R−PE及びC−PE)及びフィコエリスロシアニン(PEC)等を意味するものである。
【0025】
「水性抽出物」とは、水、海水、又は、CaCl、NaCl若しくは任意の他のリン酸塩若しくはカリウム塩を含有する任意の水溶液などの水性溶媒を用いてフィコビリタンパク質を抽出及び溶解する工程によって得られるものを意味するものである。
【0026】
沈殿工程により生じる「沈殿物」とは、すなわち、水性抽出物から沈殿によって濃縮されたフィコビリタンパク質の量を意味するものである。本発明においては、サリチル酸でフィコビリタンパク質を沈殿させる。
【0027】
「安定」とは、フィコビリタンパク質が分解されない、特に自然光で分解されない沈殿物を意味するものである。安定性は、フィコビリタンパク質の半減期によって測定することができ、該半減期とはフィコビリタンパク質の半分が分解するまでの日数を表す。
【0028】
本発明の方法によって沈殿したフィコビリタンパク質の半減期は、20℃未満の温度、特に10℃〜20℃の温度、及び、50μmol・m−2・s−1未満の光強度、特に5μmol・m−2・s−1〜50μmol・m−2・s−1の光強度において、50日、60日、70日、80日、90日、100日又は110日に達し得る。
【0029】
半減期は、例えば、日数(又は時間)の関数として示したフィコビリタンパク質の濃度によって求められる。そして、フィコビリタンパク質の分解度は次のように表される。(フィコビリタンパク質の初期量−日数(d)でのフィコビリタンパク質の量)×100/フィコビリタンパク質の初期量)。半減期は、初期濃度の半分(50%)が分解される日数に相当する。つまり、分解度50%に等しい。分解度が低く、50%に達しない場合、実験範囲で得られた1日当たりの分解度から外挿することにより範囲外の半減期を推定することができる。
【0030】
安定性は、色の維持によって評価することもできる。実際、フィコビリタンパク質が少しでも分解すると、懸濁物又は抽出物の色は変化することとなる。
【0031】
色は、例えばフィコビリタンパク質の吸収ピークに相当する620nmでの抽出物の吸光度を測定することによって評価できる。この波長での吸光度の減少は、フィコビリタンパク質の分解を示す。
【0032】
微細藻類バイオマスに含有されるフィコビリタンパク質は、培養条件によるが、多くとも20%〜25%である。したがって、「上記沈殿物のフィコビリタンパク質含量が上記水性抽出物中の初期含量の少なくとも50%に等しい」とは、水性抽出物が含有する20%〜25%のフィコビリタンパク質のうちの50%が本発明の方法によって沈殿されることを意味するものである。
【0033】
本発明の主題であるフィコビリタンパク質は、シアノバクテリア又は微細藻類から抽出できる。
【0034】
上記微細藻類は、特に、紅藻綱(Rhodophyceae)、クリプト藻綱(Cryptophyceae)及びシアノバクテリア、とりわけシアノバクテリア、更により具体的にはアルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)及びアファニゾメノン・フロスアクア(Aphanizomenon flos−aquae)、特にクラマス藻類(alga Klamath)から選択される。
【0035】
アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナ)から抽出する場合、M.Rebeller et al.,1979の記載による方法に従う。この抽出方法は10g/LのCaCl溶液中で2時間行い、その後、10μmガーゼで濾過する。海水中で行うこともでき、この場合、微量元素によりフィコビリタンパク質抽出物を富化することができ、市販の塩を使わないため抽出コストを低減することができる。
【0036】
溶液中の種々のフィコビリタンパク質の量は、Bryant et al.,1976によって確立された分光光度法で求められる。
【0037】
本発明の方法によれば、元の水性抽出物中のフィコビリンタンパク質量の少なくとも50%、好ましくは75%、より好ましくは80%を含有するフィコビリタンパク質沈殿物を得ることができる。
【0038】
本発明の特定の一実施形態において、上記フィコビリタンパク質沈殿物は、元の水性抽出物中のフィコビリンタンパク質量の少なくとも85%、又は少なくとも90%、95%、更には沈殿が完全となるまで(すなわち上記沈殿物は水性抽出物中のフィコビリタンパク質を100%含有)含有する。
【0039】
乾燥した又は新鮮なバイオマスからフィコビリタンパク質を抽出することにより、細胞溶解が起こる。
【0040】
「細胞溶解」とは、任意の手段、特に物理的/機械的手段(超音波処理、凍結/解凍サイクル)又は化学的手段(CaCl、(NHSOの溶液)又は生物学的手段(酵素)による細胞又は細菌の原形質膜の破壊を意味するものである。細胞溶解によって不溶性の膜断片及び複合体が生成され、回収された抽出物中に懸濁状で残留する。このような抽出残渣の除去は清澄化として知られている。
【0041】
驚くべきことに、本発明者らは、フィコビリタンパク質の水性抽出物にサリチル酸を添加することによって、抽出物中に含まれるフィコビリタンパク質を沈殿させ、且つ、抽出残渣を除去できることを明らかにした。
【0042】
選択的沈殿によりフィコビリタンパク質を抽出残渣から分離してもよい。サリチル酸濃度を変えることでこれら2つの化合物群の一方又は他方を沈殿させることが実際に可能である。
【0043】
「清澄度」とは、本発明の方法により得られる全沈殿物中のフィコビリタンパク質の割合を意味するものである。沈殿物が細胞溶解残渣である膜断片を含まない場合、清澄度は100%である。サリチル酸の添加後、沈殿しなかったフィコビリタンパク質及び断片の量を別々に分光光度法で測定する。この測定値から、沈殿したフィコビリタンパク質及び断片の含量を推定する。また、清澄度は以下のように測定される。100×フィコビリタンパク質沈殿量/(フィコビリタンパク質沈殿量+断片沈殿量)。
【0044】
フィコビリタンパク質含量は、Bryant et al.(1976)に記載の数式を適用して620nm及び650nmでの光学密度に基づいて推定する。断片含量は、OD680と微細藻類の乾燥バイオマスとを関連付ける確立された相関曲線(Costa et al.,2002)を用いて680nmで光学密度を測定することによって評価する。
【0045】
本発明の方法よれば、フィコビリタンパク質含量が上記水性抽出物中の初期含量の少なくとも50%に等しく、清澄度が少なくとも80%、好ましくは90%又は100%に等しい沈殿物を得ることができる。
【0046】
本発明の方法によれば、上記水性抽出物中のフィコビリタンパク質量の50%〜80%を含有し、清澄度が少なくとも70%に等しいフィコビリタンパク質沈殿物を得ることができる。
【0047】
本発明の特定の一実施形態において、上記フィコビリタンパク質が豊富な沈殿物の清澄度は、75%、80%、85%、90%、95%又は100%に等しい。換言すれば、膜断片又は複合体の含量は、沈殿物量の0%(この場合、清澄化は完全)〜30%であり、5%、10%、15%又は25%に等しくすることができる。
【0048】
本発明の好ましい一実施形態において、本方法によれば、フィコビリタンパク質含量が上記水性抽出物中の初期含量の少なくとも70%に等しく、膜断片を含まない沈殿物を得ることができる。
【0049】
「膜断片を含まない」とは、沈殿物の清澄度が100%であることを意味するものである。
【0050】
本発明の特定の一態様において、本発明の方法は、フィコビリタンパク質を少なくとも1.5g/L含有するフィコビリタンパク質の水性抽出物を用いる。
【0051】
したがって、サリチル酸による沈殿のために使用するフィコビリタンパク質の水性抽出物は、フィコビリタンパク質を1.5g/L以上含有してもよい。
【0052】
本発明では、下記数式を確立して、元の抽出物中の任意量の可溶性フィコビリタンパク質に対して使用するサリチル酸の最小量を決定することができる。サリチル酸(g)=0.007×フィコビリタンパク質(mg)/0.52
【0053】
本発明の方法で使用するサリチル酸は、実質的に4g/L以上であって実質的に20g/L以下であるサリチル酸濃度となるように、上記フィコビリタンパク質を少なくとも1.5g/L含有する水性抽出物に添加される。本発明の特定の一実施形態において、サリチル酸の添加量は、4g/L〜10g/L、10g/L〜15g/L、又は、15g/L〜20g/Lである。
【0054】
本発明の特定の一実施形態において、サリチル酸は、実質的に4g/L以上であって実質的に13g/L以下であるサリチル酸濃度となるように、フィコビリタンパク質の水性抽出物に添加される。この実施形態では、フィコビリタンパク質沈殿物は、フィコビリタンパク質含量が水性抽出物中の初期含量の少なくとも50%に等しく、清澄度が100%である。換言すれば、沈殿物には、水性抽出物を得ることができる抽出工程で生じた膜断片又は残渣がもはや存在しない。
【0055】
この場合、清澄化は完全であり、膜断片及び複合体は上清に残留する。
【0056】
より詳細には、清澄化の質(完全又は部分的な清澄化)は、フィコビリタンパク質及び膜断片のそれぞれの含量に依存することが明らかとなった。実際、溶液のフィコビリタンパク質がより濃縮されていて、含まれる断片が少ないほど、清澄化はより良好となる。より具体的には、フィコビリタンパク質含量が1.5g/Lを超える、好ましくは1.5g/L〜1.8g/Lの範囲であり、且つ、膜断片含量が0.7g/L〜0.9g/Lの範囲であるフィコビリタンパク質溶液であれば、良好な清澄化となる。このような条件の場合、実質的に4g/L以上であって実質的に13g/L以下であるサリチル酸濃度であれば、清澄化を完全なものにできる。
【0057】
本発明の別の実施形態において、サリチル酸は、実質的に13g/L以上であって実質的に14g/L以下であるサリチル酸濃度となるように、フィコビリタンパク質の水性抽出物に添加される。この実施形態では、フィコビリタンパク質沈殿物は、フィコビリタンパク質含量が水性抽出物中の初期含量の少なくとも70%に等しく、清澄度が少なくとも70%に等しい。
【0058】
本発明の特定の一実施形態において、本方法は、サリチル酸による沈殿工程の前に清澄化工程を含んでもよい。
【0059】
清澄化は、残渣の大部分を除去する単純なデカンテーションにより実施できるが、この条件下では、細胞溶解により生じた不溶性の膜断片及び複合体が多少とも高い割合で、回収された抽出物中に懸濁状で残留する。
【0060】
完全な清澄化には、より徹底した方法に頼る必要がある。例えば、8000rpmを超える遠心分離、100キロダルトン未満のカットオフ値を有するチューブ若しくは膜による透析若しくはタンジェンシャル限外濾過、又は、抽出物の通液中に断片を保持することが可能な高分子を用いたクロマトグラフィーが挙げられる。このような徹底した清澄化方法を工業規模で適用すると、投資コストが高くなることが多い。
【0061】
したがって、清澄化は、サリチル酸を添加することによって、又は、2つの相補的な手段、すなわち、最初の工程でデカンテーションを行い、沈殿中に水性抽出物にサリチル酸を添加することによって実施できる。
【0062】
本発明の特定の一実施形態において、本方法は、サリチル酸を用いたフィコビリタンパク質の選択的沈殿の後に、沈殿物を溶解する工程を含んでもよい。
【0063】
上記溶解工程は、特に、食品品質の天然ポリオールを用いて実施される。その例としてグリセリン又はグリセロールが挙げられる。グリセリンは優れた天然防腐剤であり、タンパク質を安定化し、細菌及び真菌の増殖を防止する。グリセリンは、フィコビリタンパク質をより良好に保存できるという点で有利である。
【0064】
本発明においては、グリセロール、又は、多価アルコールであるプロパン−1,2,3−トリオール(又は1,2,3−プロパントリオール)の任意の誘導体若しくは任意の形態を使用することもできる。
【0065】
本発明においては、1.2リットルのグリセリンであれば、沈殿した及び/又は清澄化したフィコビリタンパク質を27g溶解できることが判明した。
【0066】
フィコビリタンパク質/グリセリン溶液は、周囲温度の明条件下では3ヶ月を超える期間、冷暗所では数年間保管することができる。
【0067】
本発明の方法は、増殖が阻害されたバイオマスにおいてフィコビリタンパク質合成を誘導する工程を行った後に実施することもできる。本発明の方法で得られるバイオマスのフィコビリタンパク質含量は、該バイオマスの乾燥重量の少なくとも20%に等しい。
【0068】
本発明の方法で得られるバイオマスのフィコビリタンパク質含量は、特に、該バイオマスの乾燥重量の少なくとも21%、22%、23%、24%又は25%に等しい。
【0069】
本発明の方法で得られるバイオマスのフィコビリタンパク質含量は、特に、該バイオマスの乾燥重量の20%〜25%である。
【0070】
本方法の合成工程は培養槽の外で行われるため、バイオマスの生産性を損なわない。
【0071】
「バイオマス」とは、特定の時点での培養液中の生きた微細藻類の全質量を意味するものであり、グラム/リットル(g/L)で表される。
【0072】
「フィコビリタンパク質」とは、特定の微細藻類又はシアノバクテリアから単離された水溶性光合成色素タンパク質、例えばアロフィコシアニン(APC)、フィコシアニン類(C−PC及びR−PC)、フィコエリスリン類(R−PE及びC−PE)及びフィコエリスロシアニン(PEC)等を意味するものである。
【0073】
「合成を誘導する」とは、微細藻類バイオマスによるフィコビリタンパク質の産生を任意の手段で促すことを意味するものである。
【0074】
「誘導培地」とは、最適増殖に必要な塩の濃度と比較して1種以上の塩を過剰に含有する又は欠乏する任意の微細藻類培養培地を意味するものである。本発明において、この培地は窒素を過剰に含有するものであり、Zarrouk培地にNaNOを2.5g/Lを超える濃度、好ましくは3〜5g/Lの濃度で添加することで得られる。
【0075】
「増殖の阻害」とは、微細藻類の増殖を停止することを意味するものである。増殖の阻害は可逆的である。実際、増殖を阻害した後、バイオマスの一部を回収して濃度を低下させると、バイオマスは再び増殖できる。したがって、バイオマスを害することはない。
【0076】
上記微細藻類バイオマスの増殖を阻害する工程は誘導槽で行い、上記槽内の上記バイオマスの濃度を培養液中での微細藻類の最適増殖を許す濃度よりも3〜13倍高くして行う。
【0077】
上記微細藻類、特にシアノバクテリア、より具体的にはアルスロスピラ・プラテンシスのバイオマスの増殖の阻害は誘導槽で行い、上記槽内の上記バイオマスの濃度は、特に、培養液中での微細藻類の最適増殖を許す濃度よりも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13倍高い。
【0078】
増殖の阻害(微細藻類の増殖の阻害)は、例えば、培養密度の関数として示した微細藻類の増殖速度の曲線によって判断される。微細藻類の増殖速度がゼロである場合、阻害が観察される。
【0079】
なお、「濃度」は「密度」と置き換えることができる。「バイオマス密度」、「バイオマス濃度」は区別せずに使用する。密度は濃度と同様にg/Lで表す。
【0080】
培養液中での微細藻類の最適増殖を許す密度/濃度は約0.4g/Lであると認められる。
【0081】
阻害は、濃度が1〜5g/Lの範囲のバイオマスを誘導槽に導入して行われるが、本発明においてこの手段に限定されず、バイオマスの増殖を阻害できる任意の手段を用いることができる。阻害時の上記バイオマス濃度は、1g/L、1.5g/L、2g/L、2.5g/L、3g/L、3.5g/L、4g/L、4.5g/L又は5g/Lに等しくてもよい。
【0082】
バイオマスの密度/濃度は様々な方法によって測定できる。
【0083】
・セッキ板:水培地で培養した細胞の密度を迅速に推定できる簡単な装置である。長さ30cmの目盛り付き定規からなり、ゼロの目盛りの付いた下端に直径5cmの白い円盤を備える。円盤を培地に浸してから該円盤を識別できなくなった深さ(センチメートル)を記録する。
【0084】
・顕微鏡でのカウント:この方法は時間がかかるが、フィラメント数とフィラメント当たりの巻数を推定できる。目盛り付きピペットを用いて一滴の試料をくぼみスライドに滴下して顕微鏡で観察し、一滴中のフィラメント数を評価する。我々のピペットで滴下した17滴の体積は1mLとなることが分かっている。培養液の濃度が非常に高い場合は試料を希釈する。ランダムに採取した30本のフィラメントから平均巻数を計算する。
【0085】
・665nmでの光学密度:この方法では、クロロフィルの吸収波長の一つである665nmの吸光度を用いてバイオマスを迅速に推定できる。一般的に、このインビボ吸収はクロロフィル濃度との相関性が高い。平行面を有する25cL容キュベットを備えた分光光度計を使用する。未接種の培地でゼロ調整を行う。
【0086】
誘導槽は、中間培養槽、回収槽等、生きた微細藻類を保管するための任意の閉鎖系であってもよい。
【0087】
本発明の好ましい一実施形態において、誘導槽内の上記バイオマス濃度は、実質的に1g/L以上であって実質的に5g/L以下である。この濃度は、誘導媒体を誘導槽に添加することで得られる。
【0088】
1g/L〜5g/Lの範囲の濃度は、回収時(すなわち、濃度が約0.4g/Lとなる最適増殖時)に増殖中のバイオマスの密度よりも3〜13倍高い密度に相当する。この濃度では、増殖が阻害されて微細藻類の防御代謝が促進される。
【0089】
バイオマスの増殖、例えば最適増殖、特に約0.4g/Lの濃度での増殖を阻害するには、上記バイオマスを濾過、デカンテーション又は遠心分離などによって1g/L〜5g/Lの濃度にすればよい。
【0090】
また、誘導槽に入れる前にバイオマスを洗浄してもよい。洗浄によって、培地に由来する過剰の塩を除去できる。これにより、誘導溶液の窒素濃度をより良好に制御できる。
【0091】
この場合、バイオマスは、生理食塩水又は新たに調製した誘導培地溶液を用いて3回洗浄する。
【0092】
これらの条件下では、元のバイオマスは上記方法の影響を受けず、フィコシアニン合成の誘導はバイオマスの培養条件に依存しない。
【0093】
上記手順は、従来のスピルリナ培養農場の生産ラインに容易に組み込むことができる点で有利である。中間培養槽又は回収槽で3時間、4時間又は最大5時間行うことができる。
【0094】
本発明の特定の一実施形態において、フィコビリタンパク質の合成を誘導する工程は、
1)光合成微細藻類バイオマスを光束に暴露する工程であって、上記光束は、実質的に10μmol・m−2・s−1以上であって実質的に13μmol・m−2・s−1以下である光強度を有する、工程、
2)誘導培地中のNaNO濃度が2.5g/Lを超えるように窒素源を添加する工程
を含む。
【0095】
1平方メートル当たり1秒当たりの光子数(μmol)で表される光強度は、例えば、光合成に有効な放射量を測定する光度計を用いて求められる。
【0096】
なお、特に照明が蛍光灯、例えば「植物育成蛍光灯」タイプである場合、10μmol・m−2・s−1は330ルクスに相当し、13μmol・m−2・s−1は429ルクスに相当する。この場合、1平方メートル当たり1秒当たりの光子数1μmolは33ルクスに等しい。
【0097】
誘導培地中のNaNO濃度は、特に3〜4g/L又は3〜5g/Lである。
【0098】
10〜13μmol・m−2・s−1の範囲の光強度と、NaNO(窒素源)を3〜5g/L含有する培養溶液とを併用することによって、フィコシアニンを20%〜25%含有するバイオマスが得られる。この含量は、本発明の方法を適用せずに行う実験で得られる3%〜12%の範囲の含量と比較すると非常に高い。
【0099】
上記光は、単純な40W出力の白熱灯又は蛍光灯によって供給できる。
【0100】
誘導溶液は、Zarrouk培地で作製するのが好ましいが、スピルリナに適した他の任意の培地を使用できる。いずれにせよ、誘導溶液の窒素濃度は、硝酸ナトリウム(NaNO)を過剰に添加することで変更できる。最終濃度は、NaNOが3〜5g/Lの範囲でなければならない。これは、元のZarrouk培地中の濃度(2.5g/LのNaNO)よりも1.2〜2倍高い濃度である。
【0101】
上記培養条件下、誘導工程は3時間、4時間又は最大5時間行われるが、これにより、乾燥バイオマスの20%〜25%の含量を安定して得られるフィコビリタンパク質合成を充分に誘導できる。
【0102】
フィコビリタンパク質含量がバイオマスの乾燥重量の少なくとも20%に等しい光合成微細藻類バイオマスを製造するために、本発明の方法は、バイオマスの増殖を阻害する工程、及び、フィコビリタンパク質の合成を誘導する工程を含む。
【0103】
有利な一実施形態において、バイオマスのフィコビリタンパク質含量は、該バイオマスの乾燥重量の少なくとも21%、22%、23%、24%又は25%に等しい。
【0104】
有利な一実施形態において、バイオマスのフィコビリタンパク質含量は、該バイオマスの乾燥重量の20%〜25%である。
【0105】
特定の一実施形態において、フィコビリタンパク質の合成を誘導する工程の前に、微細藻類バイオマスを回収する工程を行うことできる。培養液が指数増殖期にあるとき、すなわちバイオマス生産性が最大であるとき、バイオマスを通常の培養槽に回収する。回収分をガーゼで濾過(又はデカンテーション又は遠心分離)して新鮮なバイオマスを得る。得られたバイオマスを誘導槽に移す。
【0106】
また、本発明の方法は、濃縮バイオマスを回収する最終工程を含んでもよい。
【0107】
したがって、本発明の方法は下記工程を含んでもよい。
・a)微細藻類バイオマスを回収する工程
・b)上記バイオマスの増殖を阻害する工程
・c)フィコビリタンパク質の合成を誘導する工程
・d)上記フィコビリタンパク質が豊富なバイオマスを回収する工程
【0108】
本発明の方法は、シアノバクテリア、紅色植物(Rhodophytes)又はクリプト植物(Cryptophytes)から選択される光合成微細藻類を用いる。
【0109】
本発明の方法を実施するために使用する光合成微細藻類は、アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナとも呼ばれる)であるのが好ましい。
【0110】
上記光合成微細藻類は、特に、紅藻綱、クリプト藻綱及びシアノバクテリア、とりわけシアノバクテリア、更により具体的にはアルスロスピラ・プラテンシス及びアファニゾメノン・フロスアクア、特にクラマス藻類から選択される。
【0111】
また、本発明は、上述した方法によって得られる粉末状又は懸濁状のフィコビリタンパク質の安定した沈殿物を保護するものである。実際、本発明による清澄化及び安定化したフィコビリタンパク質は、化粧品分野でも、機能性食品、食品加工又は医薬品においても任意の適用形態(粉末、液体又は半液体)で使用できる。
【0112】
本発明の方法によってサリチル酸で沈殿させたフィコビリタンパク質は、デカンテーション工程によって予め清澄化されているか否かに関わらず、40℃でオーブン乾燥するか又は凍結乾燥することにより安定性を向上させ、保存可能期間を長くすることができる。該フィコビリタンパク質は、あらゆる食品加工、治療、化粧品又は医薬品用途の任意の粉末製品にそのまま配合できる。
【0113】
本発明の方法によってグリセリンで溶解及び安定化した沈殿物は、そのまま例えばバイアル中に包装したり、任意の液体若しくは粘性用途中に食品、化粧品若しくは医薬品の添加剤、染料及び活性成分として配合したりすることができる。
【0114】
フィコビリタンパク質の粉末又はグリセリン溶液という2つの形態は、更に、関連するタンパク質、最初の抽出に使用したCaCl塩の残渣、及び、沈殿に使用したサリチル酸の残渣を含む。これらの成分は全て食品であり、いかなる食品、化粧品又は医薬品用途の製品の使用をも決して害することはない。
【0115】
一変形例では、沈殿物を蒸留水で洗浄することによって塩及びサリチル酸含量を低減してから、グリセリンに溶解することができる。このような洗浄は、過剰なサリチル酸が許容されない用途において好ましい。
【0116】
また、本発明は、沈殿及び/又は清澄化工程の終了時に得られる新規製品としての上清溶液に関する。この溶液は、フィコビリタンパク質及び断片の非沈殿画分を含む。また、水溶性タンパク質、微量元素及び溶解サリチル酸を豊富に含む。この溶液は、任意の液状食品及び/又は化粧品に使用可能な活性成分を豊富に含む組成物を構成する。
【0117】
また、本発明は、フィコビリンタンパク質が豊富な粉末状又は懸濁状の安定した沈殿物であって、本発明の方法によって得られ得る膜断片を全く含まない沈殿物も包含する。
【0118】
最後に、本発明は、上記フィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物又はフィコビリタンパク質が豊富な安定した複数の沈殿物の混合物を含む化粧用又は機能性食品組成物を保護するものであり、該組成物は、粉末、錠剤若しくはゲルカプセル形態の組成物であってもよいし、液状又は粘性(クリーム、ゲル、ペースト等)組成物であってもよい。
【0119】
本発明の化粧用組成物は強力なシワ防止特性を有し、深いシワ、肌の弛み及び肌のくすみに対処することができる。
【0120】
本発明の化粧用組成物は、抗酸化化合物が豊富であり、フリーラジカルに対して作用し、細胞の酸素化を促す。継続的な使用により、顔の輪郭が変わり、深いシワが減り、肌の色がより均一になる。また、本発明の化粧用組成物は、目袋及び目のクマを軽減することができ、乾燥を防いでより快適にできる。
【0121】
また、本発明の化粧用組成物は、シミ消し効果を有し、細胞の解毒を促し、太陽及び汚染の影響を防ぎ、過剰メラニンを特徴とするシミに対処する能力を高める。
【0122】
シミの濃さに応じて、1日当たり2〜4回投与する必要がある。薄く広がったシミは数週間で消えるが、輪郭がはっきりした濃いシミは完全に消えるまでに6〜12ヶ月かかることもある。また、本発明の化粧用又は皮膚科学的組成物は、重度のニキビの発症による痕跡に対しても推奨される。また、しなやかで柔らかい肌となるよう保湿効果を示す。
【0123】
また、本発明は、活性物質として上述したフィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物又はフィコビリタンパク質が豊富な安定した複数の沈殿物の混合物と、薬学的に許容される担体とを含む皮膚科学的組成物に関する。
【0124】
また、本発明は、上述したフィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物又はフィコビリタンパク質が豊富な安定した複数の沈殿物の混合物の抗酸化剤としての使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0125】
図1】温度(Temp、℃)及び光強度(Lum、光子数μmol/m/s)の変化の関数として示した溶解したフィコビリタンパク質の等半減期曲線を示す。
図2】サリチル酸濃度(g/L)の関数として示したフィコビリタンパク質(phy)及び断片(frag)の沈殿度の変化を示す。
図3】断片濃度(g/L)及びフィコビリタンパク質の初期濃度の関数として示した沈殿物の清澄度の変化を示す。サリチル酸含量は13g/Lである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0126】
実施例1:サリチル酸による沈殿
本発明の方法は以下の2つの必須工程に分けられる。
1)市販グレードのサリチル酸粉末をフィコビリタンパク質抽出物に添加する。溶液(サリチル酸+抽出物)を15分間撹拌する。この工程によって、溶液を均質化し、溶液中のフィコビリタンパク質分子と酸との接触を促進することができる。
【0127】
溶液を分液漏斗に入れる。長くとも1時間後には90%を超える実質的に全てのフィコビリタンパク質が沈殿する。1時間後に実質的に全てのフィコビリタンパク質を沈殿させるために必要なサリチル酸の量は、元の抽出物中のフィコビリタンパク質の量に依存する。本発明では、下記数式を確立して、元の抽出物中の任意量の可溶性フィコビリタンパク質に対して使用するサリチル酸の最小量を決定することができる。
サリチル酸(g)=0.007×フィコビリタンパク質(mg)/0.52
【0128】
より純度の高いフィコビリタンパク質を必要とする用途においては、本発明では、サリチル酸を用いた選択的沈殿を行うと、フィコビリタンパク質抽出物を清澄化できることが示されている。清澄化は、デカンテーション可能な残渣を抽出物から除去できるデカンテーション工程の後に行う。したがって、デカンテーション後の懸濁物に残存する微細な膜粒子からフィコビリタンパク質を分離することを目的とする。
【0129】
デカンテーションにより清澄化されていてもよい沈殿したフィコビリタンパク質は、ガーゼ若しくは濾紙を用いた粗濾過により回収するか、又は、単に分液漏斗の上部から上清を注いで回収する。
【0130】
2)デカンテーションにより清澄化されていてもよい沈殿したフィコビリタンパク質をグリセリンに溶解する。本発明では、グリセリンが1.2Lであれば、沈殿したフィコビリタンパク質27gを溶解するのに充分であると判断する。溶解収率は95%〜99%である。なお、グリセリンに溶解しなかった画分は無水アルコールで回収できる。
【0131】
実施例2:本発明の方法に従ってサリチル酸で沈殿させ、グリセリンに再溶解したフィコビリタンパク質の半減期を温度及び光強度の関数として調べる。
【0132】
「半減期」(Y)とは、フィコビリタンパク質の半分が分解するまでの日数を示す。
【0133】
調べる温度範囲は20℃〜60℃、調べる光強度範囲は光子数50〜150μmol/m/sである。
【0134】
実験を11回行った。そのうち8回は、両要因に対応する3水準の組み合わせで表される。残りの3回は中心点で表され、実験誤差を評価できる。
【0135】
下記数学的モデルを提案する。
Log10Y=4−0.08Temp−0.013×Lum+0.0005×Temp+0.0002×temp×Lum
【0136】
上記モデルの有効性は94%、相関係数R=98%、予測可能性(Q)は95%である。
【0137】
温度及び光条件に応じたフィコビリタンパク質の半減期(日数)の変化を等半減期曲線(iso half-life curve)で示す(図1)。
【0138】
サリチル酸で沈殿させ、グリセリンに再溶解したフィコビリタンパク質の半減期は、温度が20℃未満、光強度が光子数50μmol/m/s未満の場合、110日を超え得る。
【0139】
試験範囲外の予測によって、保管条件が4℃の完全な暗所である場合、安定化したフィコビリタンパク質の半減期は11年と推定される。
【0140】
同じ温度(20℃)及び光度(光子数50μmol/m/s)条件による安定性試験によれば、未処理の水性抽出物の場合、すなわちサリチル酸及び/又はグリセリンの添加に基づく本発明の方法を実施していない場合、全てのフィコビリタンパク質が12時間後に分解する。フィコビリタンパク質粉末の場合、サリチル酸で沈殿及び安定化させたがグリセリンには再溶解しなかったものは、2ヶ月を超えるインキュベーション後でも分解率は10%以下である。
【0141】
グリセリンに溶解したが本発明の方法に従ってサリチル酸で沈殿させなかった水性抽出物の場合、1ヶ月インキュベーション後の分解率は50%である。
【0142】
サリチル酸で沈殿させ、グリセリンに溶解した水性抽出物は、より良好な安定性を示す。
【0143】
実施例3
サリチル酸を用いた選択的沈殿により抽出したフィコビリタンパク質の清澄化を試みる。抽出は、乾燥又は新鮮なスピルリナバイオマスから行うことができる。
【0144】
13gの乾燥スピルリナ(又は130gの新鮮なスピルリナ)を用い、0.2Lの滅菌海水に懸濁し、充分に均質化する。
【0145】
混合物全体を−4℃で一晩凍結する。これを0.4Lの滅菌海水で解凍し、低温条件で2時間撹拌する。2回目の凍結解凍後に低温条件で2時間攪拌しながら0.4Lの滅菌海水で解凍する。
【0146】
得られた懸濁液をデカンテーション容器に移し、低温条件で一晩放置して、デカンテーション可能なバイオマスから抽出物の水相を分離する。
【0147】
フィコビリタンパク質の抽出収率は、スピルリナの乾燥重量の12〜15%であると推定される。
【0148】
フィコビリタンパク質含量は、Bryant et al.(1976)に記載の数式を適用して620nm及び650nmでの光学密度に基づいて推定する。断片含量は、OD680とスピルリナ乾燥バイオマスとを関連付ける確立された相関曲線を用いて680nmで光学密度を測定することによって評価する。
【0149】
このように評価された抽出物のフィコビリタンパク質濃度は、海水1リットル当たり1.5gである。
【0150】
評価された断片及び膜成分の含量は1.9g/Lである。
【0151】
連続撹拌しながら1〜2gのサリチル酸粉末を断続的に添加する。
【0152】
添加毎に溶液を2時間放置し、該放置後、フィコビリタンパク質が沈殿する。次いで、溶液中のフィコビリタンパク質及び断片の量を評価して沈殿度を求める。
【0153】
沈殿度の結果を図2に示す。
【0154】
サリチル酸濃度が12〜13g/L未満の場合、100%清澄化した沈殿物が得られることが分かる。
【0155】
このようにして得られる沈殿し且つ完全に清澄化したフィコビリタンパク質の最大収率は、13g/Lのサリチル酸の添加の場合、70%である。
【0156】
膜断片及び複合体は全て上清に残留し、高濃度のサリチル酸でしか沈殿しない。
【0157】
実施例4:沈殿したフィコビリタンパク質の清澄度の変化
抽出物(様々な希釈及び遠心分離条件により得られたもの)中のフィコビリタンパク質及び断片の様々な初期濃度、並びに、サリチル酸の様々な濃度において、沈殿したフィコビリタンパク質の清澄度の変化を調べる。
【0158】
交互作用のある3水準の完全実施要因計画を用いて実験計画法に従って試験を行う。要因は、抽出物中のフィコビリタンパク質の初期濃度(0.3〜1.52g/Lの範囲)、断片濃度(0.7〜1.9g/Lの範囲)及びサリチル酸濃度(10〜20g/Lの範囲)である。
【0159】
上記モデルによる実験マトリックスは、上記3要因に対応する3水準(最小、最大及び中央)の組み合わせで表される15回の実験から構成される。同じ組み合わせを3回繰り返すことによって、実験誤差を評価できる。
【0160】
サリチル酸の添加後、沈殿していないフィコビリタンパク質及び断片の量を分光光度法を用いて実験毎に別々に測定する。測定値から、沈殿したフィコビリタンパク質及び断片の含量を推定する。清澄度を計算する。
【0161】
「清澄度」は、清澄度=100×(フィコビリタンパク質沈殿量)/(フィコビリタンパク質沈殿量+断片沈殿量)によって定義される。
【0162】
上記モデルによって、図3に示す等清澄度曲線(iso−clarity curves)をプロットできる。
【0163】
フィコビリタンパク質濃度が1.5g/Lを超え、断片含量が0.9g/L未満である場合にのみ、完全な清澄度(100%)にできることが分かる。このような条件で完全に清澄化するために必要なサリチル酸含量は13g/L未満である。
【0164】
実施例5:シワ防止クリーム
下記組成を有するシワ防止クリームが得られる。
水:59%
甘扁桃油:18%
グリセリンに溶解したフィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物:7%
パーム油:5%、ヒマシ油:3%
藻類抽出物:3%(β−カロチン)
蜜蝋:2%
キサンタンガム:1.7%
香料:1%
エチルパラベン:0.1%、メチルパラベン:0.1%、ベンジルパラベン:0.1%
【0165】
実施例6:シミ消しクリーム
下記組成を有するシミ消しクリームが得られる。
シミ消しクリーム:
水:59%
甘扁桃油:19.5%
グリセリンに溶解したフィコビリタンパク質が豊富な安定した沈殿物:7%
パーム油:5%、ヒマシ油:3%
藻類抽出物:1.5%(β−カロチン)
蜜蝋:2%
キサンタンガム:1.7%
香料:1%
エチルパラベン:0.1%、メチルパラベン:0.1%、ベンジルパラベン:0.1%
【0166】
引例
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図1
図2
図3