特許第6667554号(P6667554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6667554FRP用樹脂組成物、FRPシート及び成形体
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  • 特許6667554-FRP用樹脂組成物、FRPシート及び成形体 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6667554
(24)【登録日】2020年2月27日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】FRP用樹脂組成物、FRPシート及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/00 20060101AFI20200309BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20200309BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20200309BHJP
   C08F 291/00 20060101ALI20200309BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20200309BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20200309BHJP
   B32B 5/10 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
   C08F2/00 C
   C08F2/44 C
   C08F265/06
   C08F291/00
   C08F290/06
   C08J5/24CEY
   C08J5/24CFC
   B32B5/10
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-559180(P2017-559180)
(86)(22)【出願日】2016年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2016088692
(87)【国際公開番号】WO2017115749
(87)【国際公開日】20170706
【審査請求日】2018年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-257413(P2015-257413)
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594123387
【氏名又は名称】ヤマハファインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】中村 康敬
(72)【発明者】
【氏名】宗田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 和志
(72)【発明者】
【氏名】濱田 寛
【審査官】 岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−294634(JP,A)
【文献】 特表2004−525216(JP,A)
【文献】 特開2000−327813(JP,A)
【文献】 特開2001−038724(JP,A)
【文献】 特開2003−238211(JP,A)
【文献】 特開2005−048059(JP,A)
【文献】 特開2005−081602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R
B64C
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維製補強シートに含浸させてFRPを形成するための樹脂組成物であって、
主成分としてのメタクリル酸メチルと、
メタクリル酸メチルポリマーと、
重合開始剤と、
モノマーとしてのデンドリマー(メタ)アクリレートと
を含有することを特徴とするFRP用樹脂組成物。
【請求項2】
前記デンドリマー(メタ)アクリレートの含有量が、メタクリル酸メチル100質量部に対して1質量部以上25質量部以下である請求項1に記載のFRP用樹脂組成物。
【請求項3】
前記モノマーとして、グリシジル(メタ)アクリレートをさらに含有する請求項1又は請求項2に記載のFRP用樹脂組成物。
【請求項4】
前記グリシジル(メタ)アクリレートの含有量が、メタクリル酸メチル100質量部に対して10質量部以上25質量部以下である請求項3に記載のFRP用樹脂組成物。
【請求項5】
前記グリシジル(メタ)アクリレートは、重合後の前記メタクリル酸メチルポリマーの分子鎖と繊維製補強シートの繊維との間を接続する請求項3又は請求項4に記載のFRP用樹脂組成物。
【請求項6】
少なくとも表層がアクリル樹脂を主成分とする粒子をさらに含有し、
前記粒子の平均粒子径が0.02μm以上0.3μm以下であり、
前記粒子の含有量が、メタクリル酸メチル100質量部に対して1質量部以上20質量部以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のFRP用樹脂組成物。
【請求項7】
前記粒子がコアシェル構造を有し、シェルの弾性率がコアの弾性率よりも大きい請求項に記載のFRP用樹脂組成物。
【請求項8】
前記メタクリル酸メチルポリマーの含有量が、メタクリル酸メチル100質量部に対して5質量部以上25質量部以下である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のFRP用樹脂組成物。
【請求項9】
マトリックスとこのマトリックス中に存在する繊維製補強シートとを備えるFRPシートであって、
前記マトリックスが請求項1から請求項のいずれか1項に記載のFRP用樹脂組成物の硬化体を含むFRPシート。
【請求項10】
請求項に記載のFRPシートと、
このFRPシートの一方の面側に積層される基材層と
を備える成形体。
【請求項11】
マトリックスとこのマトリックス中に存在する繊維製補強シートとを備える成形体であって、
前記マトリックスが請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のFRP用樹脂組成物の硬化体を含む成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP用樹脂組成物、FRPシート及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
織布に樹脂を含浸することによって形成されるシート状のFRP(Fiber Reinforced Plastics)が各種用途に用いられている。このようなFRPシートの中には、織布の織目の意匠効果を利用する内装材に使用されるものもある。具体例としては、織布に樹脂を含浸したFRPシートと、このFRPシートに積層される樹脂基材層と、FRPシートの表面に積層される透明性を有する樹脂コーティング層とを備える複合材料が自動車の内装パネル等に使用されている。
【0003】
また、FRPの中でも、炭素繊維の織布に樹脂を含浸したCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、航空機の翼、風車の羽根、テニスラケット、釣竿等を構成する成形体に使用されている。具体的には、炭素繊維の織布に樹脂を含浸したCFRPシートを所望の形状となるよう積層し、これを加熱して樹脂を硬化させることによってCFRP成形体が形成される。
【0004】
シート状のFRPを得る方法としては、例えば熱硬化性エポキシ樹脂組成物を繊維布に含浸させて加熱する方法が知られている。しかしながら、熱硬化性エポキシ樹脂は硬化に時間がかかり、成形時間が長くなるという不都合を有する。また、熱硬化性エポキシ樹脂は紫外線によって黄変する問題もある。このため、耐候性の高いアクリル樹脂等の樹脂を繊維布に含浸させたシート状のFRPを短時間で成形することが検討されている。
【0005】
例えば特開平4−226740号公報には、主成分としてのメタクリル酸メチルとメタクリル酸メチルポリマーとを含有する樹脂組成物を繊維布に含浸させることでFRPシートを得ることが記載されている。また、同公報に記載のFRPシートは、例えば熱プレス等により賦型可能であり、樹脂板に熱融着又は接着することで熱賦型可能なサンドイッチ板に加工することもできるとされている。
【0006】
このように意匠効果を企図するFRPシートは、織目が目立つよう、織布を形成する繊維束(糸)の太さが比較的大きい場合が多い。繊維束の内部では、繊維同士を固定する樹脂の割合が比較的小さくなるため、例えば熱冷サイクル等の負荷によって繊維束が裂け、この裂けた繊維束が白く見える欠陥(以下、白化という)が生じる場合がある。
【0007】
このような白化は、繊維の線膨張係数と樹脂の線膨張係数との差が大きい場合に発生し易く、特にFRPシートの周縁部分において発生する頻度が大きくなる。これは、線膨張係数の違いによる応力がFRPシートの端面近傍で大きくなることに起因するものと考えられる。
【0008】
また、意匠効果を企図しないFRP成形体においても、繊維束内および繊維束間で白化が生じたり生じ易くなっている状態、つまり繊維束内および繊維束間が裂けたり裂け易くなっている状態は、成形体の強度が低下しているため、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−226740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記不都合に鑑みて、本発明は、繊維束の白化を抑制できるFRP用樹脂組成物、FRPシート及び成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するためになされた発明は、繊維製補強シートに含浸させてFRPを形成するための樹脂組成物であって、主成分としてのメタクリル酸メチルと、メタクリル酸メチルポリマーと、重合開始剤と、モノマーとしてのデンドリマー(メタ)アクリレート又はグリシジル(メタ)アクリレートとを含有することを特徴とするFRP用樹脂組成物である。
【0012】
当該FRP用樹脂組成物は、デンドリマー(メタ)アクリレート又はグリシジル(メタ)アクリレートを含有することによって、繊維製補強シートに含浸してメタクリル酸メチル等の重合により硬化した状態で、デンドリマー(メタ)アクリレート又はグリシジル(メタ)アクリレートが、メタクリル酸メチルポリマーの分子鎖間又はメタクリル酸メチルポリマーと補強シートの繊維との間を接続する。これによって、FRPの靱性が向上して繊維束が割れ難くなり、繊維束の白化を抑制することができる。ここで、「繊維製補強シート」とは、繊維質のシート状補強材を意味する。また、「主成分」とは、最も質量含有量が大きい成分を意味する。また、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。
【0013】
前記デンドリマー(メタ)アクリレート又はグリシジル(メタ)アクリレートの含有量としては、メタクリル酸メチル100質量部に対して1質量部以上25質量部以下が好ましい。このように、前記デンドリマー(メタ)アクリレート又はグリシジル(メタ)アクリレートの含有量が前記範囲内であることによって、比較的高い靱性向上効果が得られ、FRPシートの繊維束の白化をより確実に抑制することができる。
【0014】
少なくとも表層がアクリル樹脂を主成分とする粒子をさらに含有するとよく、前記粒子の平均粒子径としては、0.02μm以上0.3μm以下が好ましく、前記粒子の含有量としては、メタクリル酸メチル100質量部に対して1質量部以上20質量部以下が好ましい。このように少なくとも表層がアクリル樹脂を主成分とする前記粒子径の粒子を前記含有量でさらに含有することによって、樹脂組成物の靱性が向上するので、FRPシートの繊維束の白化をより確実に抑制できる。なお、「平均粒子径」とは、マイクロトームで作成したFRPの薄切片を透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影して得られる画像における100個以上の粒子のJIS−Z8827−1(2008)に準拠した画像解析により得られる体積平均径を意味する。
【0015】
前記粒子がコアシェル構造を有し、シェルの弾性率がコアの弾性率よりも大きいとよい。このように、前記粒子がコアシェル構造を有し、シェルの弾性率がコアの弾性率よりも大きいことによって、メタクリル酸メチルポリマーの分子鎖間をより堅固に繋ぐことができ、樹脂組成物の靱性をより向上できるので、FRPシートの繊維束の白化をさらに確実に抑制できる。
【0016】
前記課題を解決するためになされた別の発明は、マトリックスとこのマトリックス中に存在する繊維製補強シートとを備えるFRPシートであって、前記マトリックスが上述のFRP用樹脂組成物の硬化体を含むことを特徴とするFRPシートである。
【0017】
当該FRPシートは、上述のように繊維束の白化を抑制できる上述のFRP用樹脂組成物を用いたものであるため、繊維束の白化による意匠性の低下を抑制することができる。
【0018】
前記課題を解決するためになされたまた別の発明は、上述のFRPシートと、このFRPシートの一方の面側に積層される基材層とを備える成形体である。
【0019】
当該成形体は、繊維束の白化による意匠性の低下を抑制できるFRPシートを備えるので比較的意匠性が高く、かつ基材層を有するので比較的強度が大きい。
【0020】
前記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、マトリックスとこのマトリックス中に存在する繊維製補強シートとを備える成形体であって、前記マトリックスが上述のFRP用樹脂組成物の硬化体を含む成形体である。
【0021】
当該成形体は、上述のように繊維束の白化を抑制できる上述のFRP用樹脂組成物を用いたものであるため、維束内及び繊維束間が裂けて白化することを防止し、意匠性の低下を抑制すると共に高い強度を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明のFRP用樹脂組成物、FRPシート及び成形体は、繊維束の白化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態の成形体の積層構造を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0025】
[FRP用樹脂組成物]
本発明の一実施形態のFRP用樹脂組成物は、繊維製補強シートに含浸させてFRPを形成するための樹脂組成物である。
【0026】
当該FRP用樹脂組成物は、主成分としてのメタクリル酸メチル(MMA)と、メタクリル酸メチルポリマー(PMMA)と、重合開始剤と、モノマーとしてのデンドリマー(メタ)アクリレート又はグリシジル(メタ)アクリレートとを含有する。当該FRP用樹脂組成物は、モノマーとしてのデンドリマー(メタ)アクリレートとグリシジル(メタ)アクリレートとを両方含有してもよい。
【0027】
また、当該FRP用樹脂組成物は、少なくとも表層がアクリル樹脂を主成分とする粒子をさらに含有してもよい。
【0028】
<メタクリル酸メチル>
メタクリル酸メチルは、重合によりメタクリル酸メチルポリマー(アクリル樹脂)を形成し、FRP(Fiber Reinforced Plastics)において補強シートの繊維の間に充填されるマトリックスとなる。
【0029】
<メタクリル酸メチルポリマー>
メタクリル酸メチルポリマーは、当該FRP用樹脂組成物に適度な粘度を付与する。また、このメタクリル酸メチルポリマーは、重合後において主成分であるメタクリル酸メチルが重合して形成されるメタクリル酸メチルポリマーと同化する。
【0030】
このメタクリル酸メチルポリマーの含有量の下限としては、メタクリル酸メチル100質量部に対して5質量部が好ましく、10質量部がより好ましい。一方、メタクリル酸メチルポリマーの含有量の上限としては、メタクリル酸メチル100質量部に対して25質量部が好ましく、20質量部がより好ましい。メタクリル酸メチルポリマーの含有量が前記下限に満たない場合、補強シートに含浸させる際に当該FRP用樹脂組成物が補強シートから流出し易くなり、FRPの製造が容易でなくなるおそれがある。逆に、メタクリル酸メチルポリマーの含有量が前記上限を超える場合、当該FRP用樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎることにより補強シートへの含浸が容易でなくなるおそれがある。
【0031】
<重合開始剤>
重合開始剤は、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸メチルポリマーの重合を誘引する物質である。
【0032】
この重合開始剤としては、例えばラジカル重合開始剤、付加重合開始剤、リビング重合開始剤、酸化重合開始剤、光重合開始剤等を用いることができ、中でも比較的硬化速度が大きいラジカル重合開始剤が好適に用いられる。
【0033】
前記ラジカル重合開始剤は、ラジカルを発生し、モノマーの重合を開始させる化合物である。このようなラジカル重合開始剤としては、例えば「−O−O−」結合を持つ化合物(有機過酸化物)、「−N=N−」結合を持つ化合物(アゾ化合物)、「−S−S−」結合を持つ化合物(ジスルフィド化合物)等を用いることができる。
【0034】
重合開始剤の含有量の下限としては、メタクリル酸メチル100質量部に対して0.2質量部が好ましく、0.5質量部がより好ましい。一方、重合開始剤の含有量の上限としては、メタクリル酸メチル100質量部に対して5質量部が好ましく、3質量部がより好ましい。重合開始剤の含有量が前記下限に満たない場合、メタクリル酸メチルの重合を十分に促進できず、FRPの硬化が不十分となるおそれがある。逆に、重合開始剤の含有量が前記上限を超える場合、重合開始剤由来の化合物が不純物となることでFRPの強度が不十分となるおそれがある。
【0035】
<デンドリマー(メタ)アクリレート>
デンドリマー(メタ)アクリレートは、中心から三次元全方向に略規則的な樹状に多段分枝したポリマー又はオリゴマーであって、枝の末端に(メタ)アクリル基を有するものである。
【0036】
このデンドリマー(メタ)アクリレートは、表面の(メタ)アクリル基によって、メタクリル酸メチルの重合により形成されるメタクリル酸メチルポリマーの分子鎖間並びに重合により形成されるメタクリル酸メチルポリマーの分子鎖及び補強シートの構成材料(具体的には繊維)の間、特にメタクリル酸メチルポリマーの分子鎖間を接続することによって、FRPの靱性を向上すると考えられる。このため、デンドリマー(メタ)アクリレートを含む当該FRP用樹脂組成物を用いることによって、FRPの繊維束の割れによる白化を抑制することができる。
【0037】
デンドリマー(メタ)アクリレートとしては、例えば枝の末端に水酸基を有するデンドリマーポリオールをアクリル化したもの、多官能アクリレートをコアとなる化合物の周囲に付加重合させたもの等が挙げられる。
【0038】
デンドリマー(メタ)アクリレートの含有量の下限としては、メタクリル酸メチル100質量部に対して1質量部が好ましく、2質量部がより好ましい。一方、デンドリマー(メタ)アクリレートの含有量の上限としては、メタクリル酸メチル100質量部に対して25質量部が好ましく、15質量部がより好ましく、5質量部がさらに好ましい。デンドリマー(メタ)アクリレートの含有量が前記下限に満たない場合、FRPの白化を十分に抑制できないおそれがある。逆に、デンドリマー(メタ)アクリレートの含有量が前記上限を超える場合、FRPの骨格となるメタクリル酸メチルポリマーの架橋が進むことによりポリマーが剛直になって靱性が下がることでFRPの白化を十分に抑制できないおそれがある。
【0039】
なお、硬化後のFRP用樹脂組成物においても、デンドリマー(メタ)アクリレートの存在は、透過型顕微鏡で観察することによって確認することができる。
【0040】
<グリシジル(メタ)アクリレート>
グリシジル(メタ)アクリレートは、重合後のメタクリル酸メチルポリマーの分子鎖間並びに重合後のメタクリル酸メチルポリマーの分子鎖及び補強シートを構成する繊維間、特に重合後のメタクリル酸メチルポリマーの分子鎖と補強シートの繊維との間を接続することによって、FRPの靱性を向上すると考えられる。このため、グリシジル(メタ)アクリレートを含む当該FRP用樹脂組成物を用いることによって、FRPの繊維束の割れによる白化を抑制することができる。
【0041】
グリシジル(メタ)アクリレートの含有量の下限としては、メタクリル酸メチル100質量部に対して1質量部が好ましく、3質量部がより好ましく、5質量部がさらに好ましい。一方、グリシジル(メタ)アクリレートの含有量の上限としては、メタクリル酸メチル100質量部に対して25質量部が好ましく、20質量部がより好ましく、15質量部がさらに好ましい。グリシジル(メタ)アクリレートの含有量が前記下限に満たない場合、FRPの白化を十分に抑制できないおそれがある。逆に、グリシジル(メタ)アクリレートの含有量が前記上限を超える場合、FRPの骨格となるメタクリル酸メチルポリマーが成長できないことによりやはりFRPの白化を十分に抑制できないおそれがある。
【0042】
なお、硬化後のFRP用樹脂組成物においても、グリシジル(メタ)アクリレートの存在は、赤外線分光分析によって確認することができる。
【0043】
<粒子>
当該FRP用樹脂組成物に含まれ得る粒子は、少なくとも表層がメタクリル酸メチルポリマーとの親和性に優れるアクリル樹脂を主成分とすることが好ましい。このような粒子を含むことによって、当該FRP用樹脂組成物の重合による硬化後の靱性が向上するので、FRPシートの繊維束の白化をより確実に抑制できる。
【0044】
当該FRP用樹脂組成物に含有される粒子は、コアシェル構造を有し、粒子の表層を形成するシェルの弾性率がコアの弾性率よりも大きいことが好ましい。このように、シェルの弾性率がコアの弾性率よりも大きいコアシェル構造を有することによって、メタクリル酸メチルポリマー分子鎖間をより堅固に繋ぐことができ、メタクリル酸メチルポリマー分子鎖間をよりソフトに繋ぐことができることによって、樹脂組成物の靱性をより向上できるので、FRPシートの繊維束の白化をさらに確実に抑制できる。
【0045】
当該FRP用樹脂組成物中の粒子の平均粒子径の下限としては、0.02μmが好ましく、0.05μmがより好ましい。一方、当該FRP用樹脂組成物中の粒子の平均粒子径の上限としては、0.8μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。当該FRP用樹脂組成物中の粒子の平均粒子径が前記下限に満たない場合、十分な靱性向上効果が得られないおそれや、粒子ひいては当該FRP用樹脂組成物が不必要に高価となるおそれがある。逆に、当該FRP用樹脂組成物中の粒子の平均粒子径が前記上限を超える場合、粒子が補強シートの繊維の間に進入できず、白化抑制効果を促進できないおそれがある。
【0046】
当該FRP用樹脂組成物中の粒子の含有量の下限としては、メタクリル酸メチル100質量部に対して1質量部が好ましく、3質量部がより好ましい。一方、当該FRP用樹脂組成物中の粒子の含有量の上限としては、メタクリル酸メチル100質量部に対して20質量部が好ましく、15質量部がより好ましい。当該FRP用樹脂組成物中の粒子の含有量が前記下限に満たない場合、白化抑制効果を促進できないおそれがある。逆に、当該FRP用樹脂組成物中の粒子の含有量が前記上限を超える場合、補強シートへの浸透性が不十分となるおそれや、粒子を分散させるために必要となる添加剤によって当該FRP用樹脂組成物の物性、例えば耐熱性等が損なわれるおそれがある。
【0047】
当該FRP用樹脂組成物は、デンドリマー(メタ)アクリレート又はグリシジル(メタ)アクリレートを含有することによって、繊維製補強シートに含浸してメタクリル酸メチル等の重合により硬化した場合に、デンドリマー(メタ)アクリレート又はグリシジル(メタ)アクリレートが、メタクリル酸メチルポリマーの分子鎖間又はメタクリル酸メチルポリマーと補強シートの繊維との間を接続する。このため、当該FRP用樹脂組成物を用いたFRP成形体は、靱性が向上して繊維束が割れ難くなるため、繊維束の白化を抑制することができ、高い意匠性及び高い強度を有する。
【0048】
また、当該FRP用樹脂組成物は、硬化後に従来のエポキシ樹脂と同等の強度を発揮できるにもかかわらず、比較的粘度を小さくすることができるので、繊維の内部に効率よく当該樹脂を含浸させて硬化させることができる。すなわち、強度が要求される各種のFRP成形体を低コストで形成することを可能にする。また、当該FRP用樹脂組成物の硬化体は、振動減衰率が比較的大きくなる。このため、当該FRP用樹脂組成物を用いれば、強度と振動減衰率とが大きいことが望まれる製品を製造することができる。このように製造され得る製品としては、例えば航空機の翼、風車の羽根、テニスラケット、スピーカーキャビネット、釣竿等を挙げることができる。
【0049】
続いて、本発明の別の実施形態の成形体について説明する。
【0050】
[成形体]
図1の成形体は、例として自動車の内装パネル(例えばドアトリム、センターコンソール用装飾カバー、ダッシュボード用装飾カバー等)などを構成する内装材として使用することができる。従って、当該成形体は、使用する場所に合わせて任意の平面形状とすることができ、湾曲して形成されてもよい。
【0051】
当該成形体は、それ自体が本発明の別の実施形態であるFRPシート1と、このFRPシート1の一方の面側(本実施形態では裏面側)に積層される基材層2とを備える。また、当該成形体は、図示するように、FRPシート1の他方の面側(表面側)に積層され、透明性を有する保護層3を備えることが好ましい。なお、「表面」とは、成形体の観察される側の面を意味し、「裏面」とはその反対側の面を意味する。
【0052】
〔FRPシート〕
当該FRPシート1は、マトリックス4と、このマトリックス4中に存在する補強シート5とを備える。
【0053】
当該FRPシート1の平均厚さの下限としては、0.1mmが好ましく、0.3mmがより好ましい。一方、当該FRPシート1の平均厚さの上限としては、1.0mmが好ましく、0.8mmがより好ましい。当該FRPシート1の平均厚さが前記下限に満たない場合、十分な意匠効果を発揮できないおそれや、成形時に破断するおそれがある。逆に、当該FRPシート1の平均厚さが前記上限を超える場合、熱プレスによる成形が困難となるおそれがある。
【0054】
<マトリックス>
マトリックス4は、上述の本発明の一実施形態のFRP用樹脂組成物の硬化体である。つまり、マトリックス4は、当該FRP用樹脂組成物が、後述する補強シート5に含浸した状態でメタクリル酸メチルが重合して形成されるものである。このため、マトリックス4についての重複する説明は省略する。
【0055】
<補強シート>
補強シート5としては、織布、不織布、編物等が挙げられるが、中でも繊維が規則的に配列される織布が好適に用いられる。この織布の織り方としては、例えば平織り、綾織り、朱子織り等とすることができる。また、補強シート5としては、例えば繊維を数cm程度の長さに切断したものランダムに分散したチョップドファイバーマット等を用いてもよい。
【0056】
また、補強シート5としては、意匠性を向上させるために、織布等に例えばアルミニウム等の金属材料の蒸着などの加工を施したものを使用してもよい。
【0057】
補強シート5を構成する織布は、複数の繊維を撚り合わせた糸を経糸及び緯糸として用いて形成してもよいが、複数の繊維を撚り合わせずに束ねた繊維束を経糸及び緯糸として用いて形成することが好ましい。撚りを有しない繊維束を用いて形成することによって、補強シート5は、比較的薄く緻密でありながら、各糸が平面視で幅を有することで意匠性の高い模様を呈するものとなる。
【0058】
補強シート5を構成する繊維としては、例えば綿、絹、麻等の天然繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維(ケブラー(商標)を含む)、ザイロン(商標)等の合成繊維、ガラスファイバー、カーボンファイバー、金属繊維等の無機繊維などを用いることができ、FRPシート1の強度を向上できると共に意匠性に優れるカーボン繊維が好適に用いられる。
【0059】
補強シート5を構成するカーボン繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系カーボン繊維、ピッチを原料とするピッチ系カーボン繊維等を用いることができる。
【0060】
上記補強シート5を構成するカーボン繊維のフィラメント(単繊維)の平均径の下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、補強シート5を構成するカーボン繊維のフィラメントの平均径の上限としては、10μmが好ましく、8μmがより好ましい。補強シート5を構成するカーボン繊維のフィラメントの平均径が前記下限に満たない場合、カーボン繊維のフィラメント間に当該FRP用樹脂組成物を含浸させることが容易でなくなるおそれがある。逆に、補強シート5を構成するカーボン繊維のフィラメントの平均径が前記上限を超える場合、当該FRPシート1の賦型性が不十分となるおそれがある。
【0061】
補強シート5を構成する織布の経糸及び緯糸の密度は、企図する意匠に応じて選択すればよいが、例えば2本/cm以上10本/cmとすることができる。経糸及び緯糸として用いられる繊維束のフィラメント数としては、例えば1000本以上12000本以下とすることができる。
【0062】
〔基材層〕
基材層2は、当該成形体の強度を担う構造材料であり、通常、FRPシート1の裏面側に積層される。また、基材層2は、FRPシート1の表面側に積層されてもよいが、この場合、意匠効果を発揮するFRPシート1を視認できるよう透明性を有することが好ましい。
【0063】
この基材層2を構成する材料としては、例えば樹脂組成物、金属、木材等及びこれらの複合材を用いることができる。
【0064】
基材層2の平均厚さとしては、強度を確保できればよく、材質にもよるが、例えば1mm以上10mm以下とすることができる。
【0065】
図1に例示する成形体において、基材層2は、FRPシート1の裏面に接着剤層A1を介して積層される金属層6と、この金属層6の裏面に接着剤層A2を介して積層される中間層7と、この中間層7の裏面に直接積層される樹脂層8とを有する。
【0066】
(金属層)
金属層6は、当該成形体の耐衝撃性を向上するために設けられる。この金属層6は、FRPシート1に接着した状態で、FRPシート1と共に、例えば熱プレスによって成形することができる。
【0067】
金属層6としては、例えばアルミニウム板、鋼板、ステンレス鋼板等を用いることができる。
【0068】
金属層6の平均厚さの下限としては、0.2mmが好ましく、0.3mmがより好ましい。一方、金属層6の平均厚さの上限としては、1.5mmが好ましく、1.0mmがより好ましい。金属層6の平均厚さが前記下限に満たない場合、当該成形体の衝撃による割れを防止できないおそれがある。逆に、金属層6の平均厚さが前記上限を超える場合、FRPシート1と共に成形することが困難となるおそれがある。
【0069】
(中間層)
中間層7は、金属層6と後述する樹脂層8との密着性を向上するために設けられる。この中間層7を設けることによって、例えばインサート成型による樹脂層8の積層を可能とする。
【0070】
この中間層7の材質としては、例えば木材シート、織布、不織布等の樹脂が含浸できる繊維質の材料を用いることができる。
【0071】
中間層7の平均厚さの下限としては、0.05mmが好ましく、0.1mmがより好ましい。一方、中間層7の平均厚さの上限としては、0.5mmが好ましく、0.3mmがより好ましい。中間層7の平均厚さが前記下限に満たない場合、樹脂層8に対する密着性が不十分となるおそれがある。逆に、中間層7の平均厚さが前記上限を超える場合、当該成形体の強度が不十分となるおそれがある。
【0072】
(樹脂層)
樹脂層8は、樹脂組成物から形成され、基材層2ひいては当該成形体の強度及び形状安定性を担保する層である。
【0073】
この樹脂層8の主成分としては、例えばアクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロン、ABS樹脂等が挙げられる。また、これらの成分を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
樹脂層8の平均厚さの下限としては、1.0mmが好ましく、1.5mmがより好ましい。一方、樹脂層8の平均厚さの上限としては、5mmが好ましく、3mmがより好ましい。樹脂層8の平均厚さが前記下限に満たない場合、当該成形体の強度が不十分となるおそれがある。逆に、樹脂層8の平均厚さが前記上限を超える場合、当該成形体が不必要に重くなるおそれがある。
【0075】
(接着剤層)
接着剤層A1及びA2は、層間の接着のために必要に応じて設けられる。この接着剤層A1及びA2の材質としては、層間の接着が可能なものであればよく、適宜選択することができる。
【0076】
〔保護層〕
保護層3は、FRPシート1の基材層2と反対側の面を保護するために積層される。表面側に積層される場合、保護層3は、FRPシート1を視認できるよう透明性を有することが要求される。
【0077】
保護層3の主成分としては、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル等が挙げられる。
【0078】
保護層3の平均厚さの下限としては、0.05mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。一方、保護層3の平均厚さの上限としては、2mmが好ましく、1mmがより好ましい。保護層3の平均厚さが前記下限に満たない場合、FRPシート1の損傷による意匠性の低下を防止できないおそれがある。逆に、保護層3の平均厚さが前記上限を超える場合、当該成形体が不必要に重くなるおそれがある。
【0079】
〔成形体の製造方法〕
当該成形体は、当該FRP用樹脂組成物を調製する工程と、当該FRP用樹脂組成物の補強シート5への含浸及び硬化によりFRPシート1を得る工程と、FRPシート1、金属層6及び中間層7を積層して熱プレスにより予備成形する工程と、予備成形工程で得られる予備成形品を金型内に配置した状態で樹脂層8の構成材料を金型内に射出するインサート成型を行う工程と、インサート成型工程で得られる成型品の表面への樹脂組成物の塗工及び硬化により保護層を形成する工程と、保護層形成工程後のワークの余分な部分を除去する工程とを備える方法によって製造することができる。
【0080】
予備成形工程では、接着剤層A1,A2として熱硬化性樹脂を主成分とするものを用いる場合には、これら接着剤層A1,A2を介してFRPシート1、金属層6及び中間層7を積層したものを熱プレスにより一体化すると同時に成形することができる。また、この予備成形工程では、予め接着剤層A1,A2によって一体に接着したFRPシート1、金属層6及び中間層7の積層体を成形してもよい。
【0081】
FRPシート取得工程では、離型シートの上に補強シート5を配置し、補強シート5の表面に当該FRP用樹脂組成物を注ぎ、表面を別の離型シートで覆った状態で当該FRP用樹脂組成物を硬化させる。
【0082】
このFRPシート取得工程では、当該FRP用樹脂組成物の補強シート5への含浸を促進するために、真空引きを行うことが好ましい。
【0083】
また、FRPシート取得工程は、当該FRP用樹脂組成物の重合開始剤の種類等に応じて、例えば加熱炉での加熱、紫外線照射等の当該FRP用樹脂組成物の重合による硬化を促進する工程を有するとよい。
【0084】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0085】
当該FRP用樹脂組成物は、上述の構成以外にも、重合後の樹脂の物性や意匠性を調整するための改質剤を添加剤として適宜含有してもよい。このような改質剤としては、例えば他の各種モノマー、架橋剤、充填剤、着色剤等が挙げられる。また、上述の粒子を分散させるための添加剤として、例えばメタクリル酸メチルポリマーと結合するモノマー等を使用してもよい。
【0086】
当該FRP用樹脂組成物の硬化体を含むマトリックス中に、繊維製補強シートを有するFRPシートを含む成形体は、全て本発明の実施の一態様と解釈される。
【0087】
当該FRPシートは、複数の補強シートを重ねたものに当該FRP用樹脂組成物を含浸及び硬化させたものであってもよい。このように、当該FRPシートは、複数の補強シートを重ねて形成されることにより、例えば2mm以上の平均厚さを有し、比較的大きい強度を備えることができる。このため、当該成形体は、複数の補強シートを重ねた当該FRPシートを熱プレスした成型品又はこの成型品の表面に保護層を積層したものであって、基材層が積層されていないものであってもよい。
【0088】
当該成形体の基材層は、上述の実施形態の構成に限定されず、任意の構成とすることができ、金属層、中間層及び樹脂層の各層を省略してもよく、複数有してもよい。
【0089】
当該成形体は、上述の製造方法の他、内部に繊維製補強シートを配置した金型に当該FRP用樹脂組成物を注入して含浸及び加熱することによって所望の形状に成形されてもよい。具体的には、例えばRTM成形、VaRTM成形、HP−RTM成形等によって、当該成形体を製造してもよい。また、金型に当該FRP用樹脂組成物を構成する複数の材料を注入することで、金型内で当該FRP用樹脂組成物を調整し、そのまま硬化させるRIM成形を行ってもよい。
【0090】
また、当該成形体は、金型を用いず、繊維製補強シートに樹脂を含浸して形成してもよい。具体例としては、当該成形体は、繊維製補強シートを例えば筒状、螺旋状(シートを多層に巻き取った状態)等の所望の形状に成形し、この繊維製補強シートに当該FRP用樹脂組成物を含浸して硬化させたものであってもよい。繊維製補強シートの成形は、例えば棒状の芯材や所望の形状のコアに繊維製補強シートを巻き付けることによって行うことができる。また、当該成形体は、繊維製補強シートに樹脂を含浸して硬化させたものの内部や隙間にさらに当該FRP用樹脂組成物又は他の樹脂組成物を充填して硬化させたものであってもよい。
【実施例】
【0091】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0092】
(FRP用樹脂組成物)
本発明の効果を検証するために、表1に示す配合(表中の数値は質量部)で、FRP用樹脂組成物の実施例1〜12及び比較例1〜3を調整した。
【0093】
メタクリル酸メチルとしては、共栄社化学社の「ライトエステルM」を使用した。メタクリル酸メチルポリマーとしては、旭化成社の「SR8500」を使用した。デンドリマーアクリレートとしては、大阪有機化学工業社の「ビスコート#1000」を使用した。グリシジルメタクリレートとしては、共栄社化学社の「ライトエステルG」を使用した。表層がアクリル樹脂を主成分とする粒子としては、カネカ社のシェルの弾性率がコアの弾性率よりも大きいコアシェル粒子(平均粒子径0.1μm)を3倍質量のイソボルニルアクリレートに分散したコアシェル粒子分散モノマー「IBOA−MB302」(コア(核)がアクリル樹脂)又は「IBOA−MB602」(コア(核)がブタジエンゴム)を使用した(表1の括弧内の数値は粒子のみに換算した値である)。重合開始剤としては、日本油脂社のジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカルボネート「パーロイルTCP」を使用した。また、改質剤しては、共栄社化学社のネオペンチルグリコールジメタクリレート「ライトエステルNP」を使用した。このネオペンチルグリコールジメタクリレートは、架橋剤として機能し、形成されるポリマーの強度を向上する。
【0094】
(FRPシート)
FRP用樹脂組成物の実施例1〜12及び比較例1〜3をそれぞれ繊維製補強シートに含浸し、離型シートに挟み込んだ状態でオーブンで樹脂を硬化させることによってFRPシートの実施例1〜12及び比較例1〜3を得た。補強シートとしては、東レ社のカーボンクロス「C06347B」を使用した。
【0095】
(内装材)
FRPシートの実施例1〜12及び比較例1〜3を金型内に配置して三菱エンジニアリングプラスチック社のポリカーボネート樹脂「GS2030KR」を射出することによりFRPシートの裏面に平均厚さ2.0mmの基材層を積層した。次いで、FRPシートの表面をウレタン塗料によりプライマー処理した後、アクリル樹脂を塗工及び加熱硬化することで平均厚さ0.6mmの保護層を形成した。こうして得られたFRPシート、基材層及び保護層の積層体を所定形状に切断して内装材(成形体)の実施例1〜12及び比較例1〜3の試験片を得た。
【0096】
(冷熱サイクル試験)
内装材の実施例1〜12及び比較例1〜3の試験片を加熱及び冷却を繰り返す冷熱サイクル試験に供し、冷熱サイクル試験後の試験片を顕微鏡により観察することで、白化率を測定した。なお、表1に示す「白化率」は、試験片の切断面に略垂直な繊維束が切断面に沿う繊維束を白化させている(交差する繊維束がその両側で白化している)割合を百分率で示した値である。
【0097】
【表1】
【0098】
表に示すように、モノマーとしてのデンドリマー(メタ)アクリレート又はグリシジル(メタ)アクリレートを含有するFRP用樹脂組成物の実施例1〜12を用いた内装材の実施例1〜12は、デンドリマー(メタ)アクリレート及びグリシジル(メタ)アクリレートを含有しないFRP用樹脂組成物の比較例1〜3を用いた内装材の比較例1〜3に比べて白化率を抑制できることが確認された。なお、内装材の実施例1〜3及び5〜12は、白化率が0%ではないが、切断面にわずかに白化が生じていただけであり、目視において白化が目立たないため、実用上大きな問題とはならないと考えられる。一方、内装材の比較例1〜3は、白化率が大きく、切断面近傍領域以外にも白化が生じて意匠性不十分となる可能性を否定できない。
【0099】
(板状FRPシート)
さらに、上記実施例3のFRP用樹脂組成物、熱硬化性エポキシ樹脂、ポリアミド及びアクリル樹脂を用いて板状のFRPシートをそれぞれ試作して、その強度を比較した。
【0100】
なお、上記熱硬化性エポキシ樹脂としては、三菱化学社の「JEB811」に三菱化学社の硬化剤「EMI24」を4質量%添加したものを使用した。上記ポリアミドとしては、宇部興産社の「UBEナイロン1015B」を使用した。上記アクリル樹脂としては、上記表1の比較例2の組成物において、旭化成社の「SR8500」を旭化成社の「80N」に置き換えたものを使用した。
【0101】
補強シートとしては、東レ社のカーボンファイバーの繊維束を綾織りして形成される織布「トレカCO6347B」を9枚重ねて使用した。
【0102】
試作したFRPシートについて、平均厚さ、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した結果を、表2に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
表に示すように、モノマーとしてのデンドリマー(メタ)アクリレート及びグリシジル(メタ)アクリレートを含有する実施例3のFRP用樹脂組成物を用いたFRPシートは、エポキシ樹脂を用いたFRPシートと同等の曲げ強度及び曲げ弾性率を有していた。また、実施例3のFRP用樹脂組成物は、エポキシ樹脂と比べて補強シートへの含浸が容易であった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のFRP用樹脂組成物、FRPシート及び成形体は、例えば自動車用内装材として特に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0106】
1 FRPシート
2 基材層
3 保護層
4 マトリックス
5 補強シート
6 金属層
7 中間層
8 樹脂層
A1,A2 接着剤層
図1