特許第6667560号(P6667560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6667560ペースト組成物、ならびに焼成体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6667560
(24)【登録日】2020年2月27日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】ペースト組成物、ならびに焼成体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/14 20060101AFI20200309BHJP
   C08F 20/28 20060101ALI20200309BHJP
   C08F 20/34 20060101ALI20200309BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20200309BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20200309BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20200309BHJP
【FI】
   C08L33/14
   C08F20/28
   C08F20/34
   H01G4/30 510
   B28B1/30 101
   C08K3/00
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-9557(P2018-9557)
(22)【出願日】2018年1月24日
(62)【分割の表示】特願2014-549871(P2014-549871)の分割
【原出願日】2013年11月27日
(65)【公開番号】特開2018-104708(P2018-104708A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2018年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-262389(P2012-262389)
(32)【優先日】2012年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000202350
【氏名又は名称】綜研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】松本 広斗
(72)【発明者】
【氏名】宮本 豪
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−186116(JP,A)
【文献】 特開2002−226522(JP,A)
【文献】 特開平07−165833(JP,A)
【文献】 特開2004−203934(JP,A)
【文献】 特開2002−031891(JP,A)
【文献】 特開2009−069817(JP,A)
【文献】 特開2002−069135(JP,A)
【文献】 特開2012−215721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00− 33/26
C08F 20/28− 20/70
C08F 220/00−220/70
C09D 133/00−133/26
H01G 4/00− 4/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表され、2−ヒドロキシイソブチル(メタ)アクリレートおよび4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンから選ばれる少なくとも1種の単量体(a)の構成単位(A)を70〜100モル%含有する(メタ)アクリル系(共)重合体を含むことを特徴とする焼成用ペースト組成物。
【化1】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2はX<13.5Å、Y>6.15Åの径を有し、体積が80Å3より大きい基(ここで、Xは長辺方向の長さを表し、Yは短辺方向の長さを表す。)であって、かつ、前記単量体(a)に由来する基であり、nは5〜2000の数を表す。)
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系(共)重合体が、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸スチリル、スチレン、ビニル化合物、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、アセトアセトキシ(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシ−n−プロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−n−プロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−エチル−3−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートおよびポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種の単量体(c)の構成単位(C)をさらに含有する、請求項1に記載の焼成用ペースト組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系(共)重合体は、前記単量体(a)を70モル%以上100モル%未満含有し、前記単量体(c)を含有する単量体成分の共重合体である、請求項2に記載の焼成用ペースト組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系(共)重合体のSP値が7〜10である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の焼成用ペースト組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系(共)重合体の重量平均分子量が1,000〜200,000である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の焼成用ペースト組成物。
【請求項6】
溶剤と、無機粉末または分散剤とをさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の焼成用ペースト組成物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル系(共)重合体および前記溶剤が下記式(5)の関係を満たす、請求項6に記載の焼成用ペースト組成物。
|(前記(メタ)アクリル系(共)重合体のSP値)−(前記溶剤のSP値)|≦2
・・・(5)
【請求項8】
積層セラミックコンデンサーのグリーンシートの製造のために使用される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の焼成用ペースト組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の焼成用ペースト組成物を基材に塗布する工程と、
塗布された前記ペースト組成物を乾燥させる工程と、
乾燥させた前記ペースト組成物を含む基材を焼成する工程と、
を含む、焼成体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の焼成体の製造方法によって得られる焼成体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト組成物、ならびに焼成体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性粉末、セラミック粉末等の無機粒子を含むペースト組成物は、様々な形状の焼結体を得るために用いられている。例えば、導電性粉末を含む導電性ペースト組成物は、回路形成やコンデンサーの製造等に用いられている。また、セラミック粉末を含むセラミックペースト組成物やガラス粉末を含むガラスペースト組成物は、プラズマディスプレイパネル(PDP)の誘電体層や積層セラミックコンデンサー(MLCC)の製造、蛍光表示管等に用いられている。さらに、ITOを含むペースト組成物は、PDP、液晶ディスプレイパネル(LCD)、太陽電池パネル駆動部の回路形成等を製造するための透明電極材料等に用いられている。加えて、蛍光体を含むペースト組成物は、無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、PDP等に用いられ、銀を含むペースト組成物は、太陽電池、LED等に用いられている。これらの無機粒子含有ペースト組成物は、近年需要が急速に高まりつつある。
【0003】
これらの無機粒子含有ペースト組成物は、例えば、スクリーン印刷、ダイコート印刷、ドクターブレード印刷、ロールコート印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンス印刷等を用いた塗布法、シート状に加工するためのキャスティング法等により所定の形状に加工した後、焼成することにより、所望の形状の焼結体を得ることができる。
【0004】
また、誘電体層(例えば、MLCC)を製造する際に用いる無機粒子含有ペースト組成物には、バインダとしてエチルセルロース(EC)やポリビニルブチラール(PVB)が多く用いられる。ECやPVBを含むペースト組成物は一般に、塗工性および無機粒子の分散性は良好であるが、焼成性が悪いことが知られている。特に、近年のコンデンサーの小型化に伴い、ペースト組成物の性能向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−129181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、適度な粘性を有し、かつ、塗工性および焼成性に優れたペースト組成物、該ペースト組成物を用いた焼成体の製造方法、および該製造方法により得られる焼成体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、側鎖に所定の大きさの官能基を有する(メタ)アクリル系(共)重合体を含むペースト組成物が、適度な粘性を有し、かつ、塗工性および焼成性を両立させることができることを見出した。
1.本発明の一態様に係るペースト組成物は、下記一般式(1)で表される構成単位(A)を20〜100モル%含有する(メタ)アクリル系(共)重合体を含むことを特徴とする。
【0008】
【化1】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2はX<13.5Å、Y>6.15Åの径を有し、体積が80Å3より大きい基(ここで、Xは長辺方向の長さを表し、Yは短辺方向の長さを表す。)であって、かつ、水素結合性を有する官能基、アルコキシ基を有する基、またはアリールオキシ基を有する基であり、nは5〜2000の数を表す。)
本発明において、「水素結合性を有する官能基」とは、水素結合を形成する性質を有する基のことをいう。また、本発明において「(メタ)アクリル」とは、「アクリルまたはメタクリル」を意味し、「(共)重合体」とは、重合体または共重合体を意味する。また、「(メタ)アクリル系共重合体」とは、共重合体中に単量体単位として、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の塩、および(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種が50モル%以上含まれている共重合体をいう。
2.上記1に記載のペースト組成物において、前記(メタ)アクリル系(共)重合体は、下記一般式(2)で表される単量体(a)を20〜100モル%含有する単量体成分の系(共)重合体であることができる。
【0009】
【化2】
(式中、R1およびR2は、上記一般式(1)におけるR1およびR2と同義である。)
3.上記1に記載のペースト組成物において、前記(メタ)アクリル系共重合体が、下記一般式(3)で表される構成単位(B)をさらに含むことができる。
【0010】
【化3】
(式中、R3は水素原子またはメチル基を表し、R4はX<13.5Å、Y>6.15Åの径を有し、体積が80Å3より大きい基(ここで、Xは長辺方向の長さを表し、Yは短辺方向の長さを表す。)であって、かつ、水素結合性を有する官能基、アルコキシ基を有する基、およびアリールオキシ基のいずれも有さない基を表し、mは5〜1500の数を表す。)
4.上記2に記載のペースト組成物において、前記単量体成分中における前記単量体(a)および下記一般式(4)で表される単量体(b)の総量が70〜100モル%であることができる。
【0011】
【化4】
(式中、R3およびR4は、上記一般式(3)におけるR3およびR4と同義である。)
5.上記1ないし4のいずれか1項に記載のペースト組成物において、前記水素結合性を有する官能基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、アセトアセトキシ基、酸無水物基、スルホン酸基、リン酸基、チオール基および複素環基から選ばれる少なくとも1種であることができる。
6.上記1ないし5のいずれかに記載のペースト組成物において、前記(メタ)アクリル系(共)重合体のSP値が7〜10であることができる。
7.上記1ないし6のいずれかに記載のペースト組成物において、前記(メタ)アクリル系(共)重合体の重量平均分子量が1,000〜200,000であることができる。
8.上記1ないし7のいずれかに記載のペースト組成物において、溶剤と、無機粉末または分散剤とをさらに含むことができる。
9.上記8に記載のペースト組成物において、前記(メタ)アクリル系(共)重合体および前記溶剤が下記式(5)の関係を満たすことができる。
【0012】
|(前記(メタ)アクリル系(共)重合体のSP値)−(前記溶剤のSP値)|≦2・・・(5)
10.上記1ないし9のいずれかに記載のペースト組成物は、積層セラミックコンデンサーのグリーンシートの製造のために使用することができる。
11.本発明の別の一態様に係る焼成体の製造方法は、上記1ないし10のいずれかに記載のペースト組成物を基材に塗布する工程と、塗布された前記ペースト組成物を乾燥させる工程と、乾燥させた前記ペースト組成物を含む基材を焼成する工程と、を含む。
12.本発明の他の一態様に係る焼成体は、上記11に記載の焼成体の製造方法によって得られる。
【発明の効果】
【0013】
上記ペースト組成物によれば、上記一般式(1)で表される構成単位(A)を20〜100モル%含有する(メタ)アクリル系(共)重合体を含むことにより、適度な粘性を有し、かつ、塗工性および焼成性の双方に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、格別に断らない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0015】
1.ペースト組成物
本発明の一実施形態に係るペースト組成物は、下記一般式(1)で表される構成単位(A)を20〜100モル%含有する(メタ)アクリル系(共)重合体を含む。
【0016】
【化5】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2はX<13.5Å、Y>6.15Åの径を有し、体積が80Å3より大きい基(ここで、Xは長辺方向の長さを表し、Yは短辺方向の長さを表す。)であって、かつ、水素結合性を有する官能基、アルコキシ基を有する基、またはアリールオキシ基を有する基であり、nは5〜2000の数を表す。)
【0017】
1.1.(メタ)アクリル系(共)重合体
1.1.1.構造単位(A)
本実施形態に係るペースト組成物において、前記(メタ)アクリル系(共)重合体は上記一般式(1)で表される構造単位(A)を20〜100モル%(好ましくは30〜90モル%、より好ましくは40〜80モル%)有する。上記一般式(1)において、R2は、X<13.5Å、Y>6.15Åの径を有し、体積が80Å3より大きいため、立体障害が大きな基である。ここで、R2のX、Y、および体積は、MOPAC PM3のEF法によって計算された値である。ここで、Xにおける「長辺方向の長さ」とは、上記式(1)におけるR2と隣接して結合する酸素原子に結合するR2中の炭素原子から、該炭素原子から最も遠い位置にあるR2中の原子までの距離を意味し、Yにおける「短辺方向の長さ」とは、長辺方向と交差する方向において最も長い部分の長さをいう。
【0018】
本実施形態に係るペースト組成物において、前記(メタ)アクリル系(共)重合体が、上記一般式(1)におけるR2がX<13.5Å、Y>6.15Åの径を有し、体積が80Å3であることにより、上記一般式(1)におけるR2で表される基の嵩高さに起因して分子間の立体障害が生じるため、前記(メタ)アクリル系(共)重合体中における分子内および分子間の絡み合いを少なくすることができ、その結果、本実施形態に係るペースト組成物の塗工性が高められる。また、前記(メタ)アクリル系(共)重合体は焼成性に優れている(前記(メタ)アクリル系(共)重合体を焼成した際の残炭が少ない)。
【0019】
上記一般式(1)において、R2から水素結合性を有する官能基、アルコキシ基を有する基、またはアリールオキシ基を有する基を除いた基としては、例えば、分岐状のアルキル基(例えば、イソアルキル基、sec-アルキル基、tert-アルキル基)、環状基(例えば、環状炭化水素、ヘテロ環式化合物)を含む基(例えば、シクロヘキシル基、ベンジル基、ジシクロペンタニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、アダマンチル基、テトラヒドロフルフリル基、γ−ブチロラクトン基、ピペリジル基、およびこれらの基の誘導体など)が挙げられる。このうち、炭素数4〜6の分岐状のアルキル基、炭素数5〜10の環状基を含む基が好ましい。
【0020】
前記(メタ)アクリル系(共)重合体における分子内および分子間の絡み合いをより少なくすることができる点で、上記一般式(1)において、R2は、X<8Å、Y>6.15Åの径を有し、体積が85Å3より大きい基であることが好ましい。
【0021】
本実施形態に係るペースト組成物において、前記(メタ)アクリル系(共)重合体は、下記一般式(2)で表される単量体(a)20〜100モル%(好ましくは30〜90モル%、より好ましくは40〜80モル%)と、必要に応じて単量体(b)、単量体(c)(後述する)とを含有する単量体成分の(共)重合体であることができる。
【0022】
【化6】
(式中、R1およびR2は、上記一般式(1)におけるR1およびR2と同義である。)
【0023】
1.1.2.水素結合性を有する官能基、アルコキシ基を有する基、アリールオキシ基を有する基
前記(メタ)アクリル系(共)重合体に含まれる、前記水素結合性を有する官能基は、水素結合の形成により、適度な粘性の発現に寄与することができる。前記(メタ)アクリル系(共)重合体に含まれる、前記水素結合性を有する官能基は例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、アセトアセトキシ基、酸無水物基、スルホン酸基、リン酸基、チオール基、および複素環基から選ばれる少なくとも1種であることができる。これらの官能基の中では、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、酸無水物基、オキシラン基、およびオキソラン基が好ましく、水酸基、アミノ基、酸無水物基およびオキシラン基がさらに好ましい。
また、アルコキシ基を有する基に含まれるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基等の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基、エチルヘキシロキシ基等の分岐状アルキル基、及びシクロヘキシロキシ基などの環状アルコキシ基が挙げられ、分岐状アルコキシ基および環状アルコキシ基が好ましい。さらに、アリールオキシ基を有する基に含まれるアリールオキシ基としては、置換されてもよいフェノキシ基およびナフトキシ基が挙げられる。
【0024】
水素結合性を有する官能基、アルコキシ基を有する基およびアリールオキシ基を有する基の中では、水素結合性を有する官能基が好ましい。
【0025】
2で表される基が水素結合性を有する官能基、アルコキシ基を有する基、またはアリールオキシ基を有する基を含む前記(メタ)アクリル系(共)重合体を製造する場合に用いる単量体(a)としては、2−ヒドロキシイソブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシイソプロピル(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、γブチロラクトン(メタ)アクリレート、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、(メタ)アクリル酸[(3,4−エポキシシクロヘキサン)−1−イル]メチル、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートと無水マレイン酸の反応物等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。これらの単量体(a)はそれぞれ単独で、または、2種以上混合して用いることができる。
【0026】
1.1.3.構成単位(B)
前記(メタ)アクリル系(共)重合体は、下記一般式(3)で表される構成単位(B)をさらに含むことができる。
【0027】
【化7】
(式中、R3は水素原子またはメチル基を表し、R4はX<13.5Å、Y>6.15Åの径を有し、体積が80Å3より大きい基(ここで、Xは長辺方向の長さを表し、Yは短辺方向の長さを表す。)であって、かつ、水素結合性を有する官能基、アルコキシ基を有する基、およびアリールオキシ基のいずれも有さない基を表し、mは5〜1500の数を表す。)
前記(メタ)アクリル系(共)重合体中における前記構成単位(A)および前記構成単位(B)の総量は70〜100モル%であり、80〜90モル%であることが好ましい。
上記一般式(3)において、R4のX、Yおよび体積は、上記一般式(1)におけるR2と同様に、MOPAC PM3のEF法によって計算された値である。ここで、Xにおける「長辺方向の長さ」とは、上記式(3)におけるR4と隣接して結合する酸素原子に結合するR4中の炭素原子から、該炭素原子から最も遠い位置にあるR4中の原子までの距離を意味し、Yにおける「短辺方向の長さ」とは、長辺方向と交差する方向において最も長い部分の長さをいう。
【0028】
さらに、前記単量体(a)および後述する単量体(b)を用いて前記(メタ)アクリル系(共)重合体を製造する場合、該単量体(a)および該単量体(b)の合計量は、単量体成分の総量の70〜100モル%であることが好ましく、80〜90モル%であることがより好ましい。また、前記単量体(a)と前記単量体(b)とのモル比は任意であるが、単量体(a):単量体(b)=30〜100:0〜70(モル%)の範囲が好ましく、50〜100:0〜50(モル%)の範囲がより好ましい。
【0029】
【化8】
(式中、R3およびR4は、上記一般式(3)におけるR3およびR4と同義である。)
上記一般式(4)で表される単量体(b)におけるR4は、上記一般式(2)で表される単量体(a)中のR2で表される基の大きさと同じ大きさの基(立体障害が大きい基)を有するが、該R4は前記R2と異なり、水素結合性を有する官能基、アルコキシ基およびアリールオキシ基のいずれも有さない基である。前記単量体(b)としては、例えば、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、このうち、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。これらの単量体(b)はそれぞれ単独で、または、2種以上混合して用いることができる。
【0030】
1.1.4.他の構成単位
前記(メタ)アクリル系(共)重合体はさらに、他の構成単位(C)を有していてもよい。前記(メタ)アクリル系(共)重合体における他の構成単位(C)の割合は例えば、0〜30モル%であり、0〜20モル%であることが好ましい。
【0031】
前記構成単位(C)を得るためには、例えば、前記単量体(a)および前記単量体(b)以外の単量体(c)をさらに含む単量体成分を用いて前記(メタ)アクリル系(共)重合体を製造することができる。前記単量体(c)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸スチリル、スチレン、ビニル化合物、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、アセトアセトキシ(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキエチルメタクリレート、2−ヒドロキシ−n−プロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−n−プロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−エチル−3−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、このうち、(メタ)アクリル酸、アセトアセトキシ(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキエチルメタクリレート等が好ましい。これらの単量体(c)はそれぞれ単独で、または、2種以上混合して用いることができる。前記単量体成分の総量における前記単量体(c)の割合は例えば0〜30モル%(好ましくは0〜20モル%)である。
【0032】
1.1.5.含有量
前記(メタ)アクリル系(共)重合体の含有量は、適度な粘性ならびに良好な塗工性および焼成性を確保する観点から、本実施形態に係るペースト組成物の総量の1〜20%であることが好ましく、5〜10%であることがより好ましい。
【0033】
1.1.6.SP値
前記(メタ)アクリル系(共)重合体は、適度な粘性を有する観点から、SP値が7〜10であることが好ましく、SP値が8〜10であることがより好ましい。前記(メタ)アクリル系(共)重合体のSP値は、(共)重合体の極性を示す指標であり、ペースト作成にて使用される溶剤への溶解性を確認するための目安である。本発明において、前記(メタ)アクリル系(共)重合体のSP値および後述する溶剤のSP値は、OkitsuのΔFの定数(沖津俊直著、「接着」、第40巻8号、342頁(1996年))より算出することができる。
【0034】
1.1.7.分子量
前記(メタ)アクリル系(共)重合体は、良好な塗工性を確保する観点から、重量平均分子量が1,000〜200,000であることが好ましく、10,000〜100,000であることがより好ましい。前記(メタ)アクリル系(共)重合体の重量平均分子量が1,000未満であると、所望のペースト粘度が得られず、一方、前記(メタ)アクリル系(共)重合体の重量平均分子量が200,000を超えると、糸引き性が高くなり、十分な塗工性が得られない。なお、本発明において、分子量を測定する方法は、後述する実施例に記載の方法を用いる。
【0035】
1.1.8.(メタ)アクリル系(共)重合体の製造
前記(メタ)アクリル重合体の重合方法は、特に制限されるものではないが、通常は溶液重合を用いることが好ましい。溶液重合は、一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、単量体、重合開始剤を仕込み、窒素気流中、適当な重合温度で、撹拌しながら数時間加熱反応させることにより行われる。この場合、有機溶媒、単量体、重合開始剤および/または連鎖移動剤の少なくとも一部を逐次添加してもよい。
【0036】
重合用有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、テトラリン、デカリン、芳香族ナフサ等で例示される芳香族炭化水素、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−デカン、ジペンテン、石油スピリット、石油ナフサ、テレピン油等で例示される脂肪族系または脂環族系炭化水素、例えば、酢酸アルキル(ここで、アルキルとしてはメチル、エチル、プロピル、ブチル、アミルなどが例示される。以下、同じ。)、安息香酸メチル等で例示されるエステル、例えば、エチレングリコールもしくはジエチレングリコールのモノアセテート、ジアセテート、アルキルエーテルアセテート(例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)、モノアルキルエーテル、ジアルキルエーテル等で例示されるエチレングリコールの誘導体、例えば、プロピレングリコール、ジプロピレンエチレングリコール、トリプロピレングリコールのいずれかのグリコールのモノアセテート、ジアセテート、アルキルエーテルアセテート、モノアルキルエーテル(例えば、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル)、ジアルキルエーテル等で例示されるプロピレングリコール誘導体、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等で例示されるケトン、テキサノール(2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオールモノイソブチレート)などを挙げることができる。これらの有機溶媒はそれぞれ単独で、または、2種以上混合して用いることができる。重合用有機溶媒としては沸点が高い溶剤が好ましく、具体的には沸点が50〜300℃の溶剤が好ましい。
【0037】
重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、カプロイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、ジ−i−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシビバレート等で例示される有機過酸化物、例えば、2,2’−アゾビス−i−ブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等で例示されるアゾ化合物などをそれぞれ単独又は組み合わせて使用することができる。
【0038】
重合開始剤の使用量は、単量体の合計100質量部当り、一般には、約0.01〜5質量部であり、約0.02〜2質量部の範囲内とすることが好ましい。
【0039】
重合温度としては、40〜180℃が好ましい。40℃未満であると、十分な反応速度が得られないおそれがある。また、重合温度が180℃を超えると、解重合が起こるおそれがある。なお、溶液重合法などで得られた重合物中に未反応の単量体が含まれる場合は、単量体を除くために、メタノール等による再沈澱法で精製することも可能である。
【0040】
1.2.他の成分
本実施形態に係るペースト組成物は、前記(メタ)アクリル系(共)重合体に加えて、溶剤と、無機粉末または分散剤と、をさらに含むことができる。
【0041】
1.2.1.溶剤
本実施形態に係るペースト組成物に使用可能な溶剤としては、有機溶剤が挙げられ、例えば、前記(メタ)アクリル系(共)重合体と前記溶剤との間で下記式(5)の関係を満たす溶剤が好ましい。前記(メタ)アクリル系(共)重合体および前記溶剤が下記式(5)の関係を満たす溶剤を用いることにより、前記(メタ)アクリル系(共)重合体と前記溶剤との相溶性が高まり、ペースト組成物を作成した際の安定性が増す。
【0042】
|(前記(メタ)アクリル系(共)重合体のSP値)−(前記溶剤のSP値)|≦2・・・(5)
本実施形態に係るペースト組成物中における溶剤の含有量は、本実施形態に係るペースト組成物の総量の10〜60%であることが好ましく、30〜50%であることがより好ましい。
【0043】
本実施形態に係るペースト組成物に使用可能な溶剤は、焼成時に残留物となることのない溶剤であることが好ましい。好ましい溶剤としては、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロタピニルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ブチルカルビトール、ジエチレングリコールアルキルエーテルアセテート(ここで、アルキルとしては、n−ブチル、プロピル、エチルなどが例示される。以下同じ。)、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールアルキルエーテル、エチレングリコールアルキルエーテル、ジプロピレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテートや、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオールモノイソブチレートまたは2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオールジイソブチレート、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオールジイソブチレートなどの有機溶剤が挙げられる。これらの溶剤はそれぞれ単独で、または、2種以上混合して用いることができる。特に好ましい溶剤は、上記のうちの2種類以上を組み合わせた混合有機溶剤である。本発明における有機溶剤は、前記エーテル化合物以外の成分を本発明の目的を損なわない範囲で含有してもよい。
【0044】
また、溶剤の沸点は150〜300℃であることが好ましく、220〜280℃であることがより好ましい。該沸点が150℃未満であると、スクリーン印刷後のペーストの乾燥速度が速くなるおそれがあり、一方、300℃を超えると、乾燥速度が遅くなり、いずれの場合も作業性が低下するおそれがある。
【0045】
1.2.2.無機粉末または分散剤
本実施形態に係るペースト組成物に使用可能な無機粉末としては、例えば、金属粉末、金属酸化物粉末、ガラス粉末、顔料粉末、蛍光体粉末、セラミック粉末が挙げられる。これらの無機粉末はそれぞれ単独で、または、2種以上混合して用いることができる。
【0046】
金属粉末としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅、鉄、アルミニウム、タングステンやこれらの合金等からなる粉末等があげられる。
【0047】
金属酸化物粉末としては、例えば、ITO、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等が挙げられる、
ガラス粉末としては、例えば、酸化ビスマスガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、亜鉛ガラス、ボロンガラスや各種ケイ素酸化物のガラス粉末等があげられる。
【0048】
セラミック粉末としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等があげられる。
【0049】
また、本実施形態に係るペースト組成物に使用可能な分散剤としては、例えば、カチオン系分散剤、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤、両性界面活性剤、高分子系分散剤が挙げられる。これらの分散剤はそれぞれ単独で、または、2種以上混合して用いることができる。
【0050】
カチオン系分散剤としては、ポリアミン系の分散剤が挙げられる。
【0051】
アニオン系分散剤としては、カルボン酸系、リン酸エステル系、硫酸エステル系、スルホン酸エステル系の分散剤が挙げられる。
【0052】
ノニオン系分散剤としては、ポリエチレングリコール系分散剤が挙げられる。
【0053】
両性界面活性剤としては、カルボン酸と第4級アンモニウム塩とを有する界面活性剤が挙げられる。
【0054】
高分子系分散剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0055】
本実施形態に係るペースト組成物中における無機粉末の含有量は、本実施形態に係るペースト組成物の総量の20〜70重量%が好ましく、40〜60重量%がより好ましい。また分散剤の含有量は、本実施形態に係るペースト組成物の総量の0.01〜5重量%であることが好ましく、0.1〜3重量%であることがより好ましい。
【0056】
1.2.3.他の成分
本実施形態に係るペースト組成物には、上述した(メタ)アクリル系(共)重合体、溶剤、無機粉末、分散剤のほかに、本発明の目的を損なわない範囲で従来知られている可塑剤、湿潤剤、消泡剤等を含有してもよい。
【0057】
1.2.4.粘度
本発明の(メタ)アクリル系(共)重合体を用いることにより、本実施形態に係るペースト組成物は、適度な粘性および良好な塗工性を確保できる。具体的には、本発明の(メタ)アクリル系(共)重合体、平均粒子径200nmのニッケルフィラー、およびジヒドロターピネオールからなる組成物(重量配合比:5/100/70)を自転・公転ミキサーで混練した後、さらに3本ロールで混練して得られるペースト組成物が、25℃における粘度が0.5〜30Pa・sの範囲内、好ましくは3〜20Pa・sの範囲内である。
【0058】
1.3.用途
本実施形態に係るペースト組成物は、例えば、スクリーン印刷、ダイコート印刷、ドクターブレード印刷、ロールコート印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンス印刷等を用いて塗布するために使用することができ、中でも、スクリーン印刷に好適に用いられる。
【0059】
本実施形態に係るペースト組成物の具体的な用途としては、MLCCの製造に用いられる内部電極用ペースト、端子電極用ペースト、LTCCの製造に用いられる内部電極用ペースト、タッチパネルスクリーン用ペースト、PDP製造に用いられる誘電体ペースト、隔壁材ペースト、蛍光体ペーストやFEDの封止やICパッケージの封止に用いられる封止用ガラスペースト、グリーンシート用ペースト等が挙げられ、例えば、MLCCのグリーンシートの製造のために使用することが好ましい。
【0060】
本実施形態に係るペースト組成物を用いて、例えば、以下の方法を用いてMLCCを製造することができる。セラミック原料に、エタノール、およびPVB系バインダを加えて混合、分散し、セラミックスラリーを作製する。それから、このセラミックスラリーをシート状に成形し、セラミックグリーンシートを得る。そして、このセラミックグリーンシートに、内部電極形成用のNiペーストを印刷して、内部電極パターン(導電性ペースト層)を形成する。
【0061】
それから、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを、内部電極パターンが交互に逆の端部側に引き出されるように複数枚積層し、未焼成の積層体を得る。
【0062】
次いで、この積層体を、N2雰囲気中で熱処理してセラミック積層体(積層セラミック素子)を得る。焼成後得られたセラミック積層体の両端面にCuペーストを塗布し、N2雰囲気中で焼成し、内部電極と電気的に接続された端子電極を形成することにより、MLCCが得られる。
【0063】
1.4.作用効果
本実施形態に係るペースト組成物によれば、水素結合性を有する官能基を有し、かつ、前記構成単位(A)を20〜100モル%含有する(メタ)アクリル系(共)重合体を含むことにより、塗工性および焼成性の双方に優れている。
【0064】
一方、構成単位(A)を20モル%未満の割合で含む(メタ)アクリル系(共)重合体または構成単位(A)を含まない(メタ)アクリル系(共)重合体をペースト組成物に用いた場合、(メタ)アクリル系(共)重合体における分子内および分子間の絡み合いが強く、チキソトロピック性(粘度特性)が良好でなく、糸引き性が強いため、結果として、所望の塗工性を発現することが困難である。
【0065】
一方、(メタ)アクリル系(共)重合体中にアルキレンオキシドを官能基として導入する手法などが提案されているが、この場合、ペースト化した際の粘度が低く、ペースト組成物としては適さない。
【0066】
これに対して、本実施形態に係るペースト組成物によれば、前記構成単位(A)を20〜100モル%含有する(メタ)アクリル系(共)重合体を含むことにより、(メタ)アクリル系(共)重合体における分子間の絡み合いを少なくすることができるため、チキソトロピック性(粘度特性)を高めることができるため適度な粘性を有し、かつ、糸引き性が低いため、塗工性を高めることができる。また、本実施形態に係るペースト組成物は、前記構成単位(A)を20〜100モル%含有する(メタ)アクリル系(共)重合体を含むため、焼成性に優れている。
【0067】
2.焼成体の製造方法
本発明の別の一実施形態に係る焼成体の製造方法は、上記実施形態に係るペースト組成物を基材に塗布する工程と、塗布された前記ペースト組成物を乾燥させる工程と、乾燥させた前記ペースト組成物を含む基材を焼成する工程と、を含む。
【0068】
すなわち、まず、上記実施形態に係るペースト組成物を、例えば、スクリーン印刷、ダイコート印刷、ドクターブレード印刷、ロールコート印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンス印刷等を用いた塗布法、シート状に加工するためのキャスティング法等により基材に塗布し、所定の形状に加工した後、該ペースト組成物を乾燥させ、次いで該ペースト組成物を含む基材を焼成することにより、所望の形状を有する焼結体を得ることができる。ここで、上記実施形態に係るペースト組成物が塗布される基材としては、金属、セラミックス、プラスチック、半導体等の部材が挙げられる。中でも、上記実施形態に係るペースト組成物は、適度な粘性を有し、かつ、塗工性および焼成性に優れている点で、スクリーン印刷に好適に使用することができる。
【0069】
3.焼成体
本発明の他の一実施形態に係る焼成体の製造方法は、上記実施形態に係る焼成体の製造方法によって得ることができる。
【0070】
4.実施例
以下、本発明を下記実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されない。
4.1.(メタ)アクリル共重合体の調製
4.1.1.製造例1(ポリマー1の調製)
表1に示す組成を有する単量体成分を用いて、以下の方法にて(メタ)アクリル系(共)重合体であるポリマー1を調製した。まず、攪拌装置、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、メチルエチルケトン(MEK)100重量部を仕込み、フラスコ内に窒素ガスを導入しながら30分攪拌して窒素置換を行った後、フラスコの内容物を80℃まで昇温した。ついで、フラスコ内の内容物を80℃に維持しながら、2−ヒドロキシイソブチルメタクリレート(2HBMA)100重量部を2時間かけて滴下、および滴下開始と同時にアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.4重量部を1時間毎に計5回添加した。滴下開始から8時間後、室温まで冷却した。得られたポリマー溶液を、n−ヘキサン(n−Hex)2000重量部中へ30分かけて滴下を行い、ポリマー析出物を生成させた。ポリマー析出物については、200メッシュ金網で濾別し、105℃で8時間乾燥することで、ポリマー1を調製した。得られたポリマー1は重量平均分子量が5万、構成単位(A)の割合は100モル%、SP値は計算値で9.3であった。なお、本実施例において、構成単位(A)、(B)および(C)の割合については、単量体(a)、単量体(b)および単量体(c)の仕込み比から算出した計算値である。
【0071】
4.1.2.製造例2(ポリマー2の調製)
上記製造例1で使用した2HBMA 100重量部を、イソボルニルメタクリレート(IBXMA)30重量部、2HBMA 65重量部、メタクリル酸(MAA) 5重量部とする以外は、上記製造例1と同様の操作で、ポリマー2を調製した。得られたポリマー2は重量平均分子量が5万、構成単位(A)の割合は68モル%、構成単位(B)の割合は22モル%、構成単位(C)の割合は10モル%、SP値は計算値で9.1であった。
【0072】
4.1.3.製造例3(ポリマー3の調製)
上記製造例1の2HBMA 100重量部を、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)50重量部、シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート(CHDMMA)50重量部とする以外は、上記製造例1と同様の操作で、ポリマー3を調製した。得られたポリマー3は重量平均分子量が5万、構成単位(A)の割合は46モル%、構成単位(B)の割合は54モル%、SP値は計算値で8.8であった。
【0073】
4.1.4.製造例4(ポリマー4の調製)
上記製造例1のAIBN 0.4重量部を0.1重量部とする以外は、上記製造例1と同様の操作で、ポリマー4を調製した。得られたポリマー4は重量平均分子量が15万、構成単位(A)の割合は100モル%、SP値は計算値で9.3であった。
【0074】
4.1.5.製造例5(ポリマー5の調製)
上記製造例1の2HBMA 100重量部を、2HBMA 60重量部、CHMA30重量部、HEMA 10重量部とする以外は、上記製造例1と同様の操作で、ポリマー5を調製した。得られたポリマー5は重量平均分子量が5万、構成単位(A)の割合は60モル%、構成単位(B)の割合は28モル%、構成単位(C)の割合は12モル%、SP値は計算値で9.1であった。
【0075】
4.1.6.製造例6(ポリマー6の調製)
上記製造例1の2HBMA 100重量部を、HBMA 65重量部、イソブチルメタクリレート(iBMA)25重量部、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸(共栄社化学(株)製、ライトエステルHO−HH)10重量部とする以外は、製造例1と同様の操作で、ポリマー6を調製した。得られたポリマー6は重量平均分子量が5万、構成単位(A)の割合は72モル%、(C)の割合は28モル%、SP値は計算値で9.1であった。
【0076】
4.1.7.製造例7(ポリマー7の調製)
上記製造例1の2HBMA 100重量部を、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(日立化成工業(株)製 FA−712HM) 60重量部、CHMA 20重量部、HEMA 20重量部とする以外は、上記製造例1と同様の操作で、ポリマー7を調製した。得られたポリマー7は重量平均分子量が5万、構成単位(A)の割合は49モル%、構成単位(B)の割合は22モル%、構成単位(C)の割合は29モル%、SP値は計算値で9.3であった。
【0077】
4.1.8.製造例8(ポリマー8の調製)
上記製造例1の2HBMA 100重量部を、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピルメタクリレート(DMHPMA)60重量部、CHMA 20重量部、HEMA 20重量部とする以外は、上記製造例1と同様の操作で、ポリマー7を調製した。得られたポリマー8は重量平均分子量が5万、構成単位(A)の割合は56モル%、構成単位(B)の割合は19モル%、構成単位(C)の割合は25モル%、SP値は計算値で9.4であった。
【0078】
4.1.9.製造例9(ポリマー9の調製)
ポリマー製造例1の2HBMA 100重量部を、メタクリル酸[(3,4−エポキシシクロヘキサン)−1−イル]メチル(ECMA) 60重量部、CHMA 20重量部、HEMA 20重量部とする以外は、製造例1と同様の操作で、ポリマー9を調製した。得られたポリマー9は重量平均分子量が5万、構成単位(A)の割合は53モル%、構成単位(B)の割合は21モル%、構成単位(C)の割合は26モル%、SP値は計算値で9.1であった。
【0079】
4.1.10.製造例10(ポリマー10の調製)
攪拌装置、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、MEK 100重量部を仕込み、フラスコ内に窒素ガスを導入しながら30分攪拌して窒素置換を行った後、フラスコの内容物を80℃まで昇温した。ついで、フラスコ内の内容物を80℃に維持しながら、2HBMA 60重量部、IBXMA 31重量部、ジシクロペンテニルアクリレート(日立化成工業(株)製FA−511AS) 6重量部、を2時間かけて滴下、および滴下開始と同時にAIBN 0.4重量部を1時間毎に計5回添加した。滴下開始から8時間後、無水マレイン酸3重量部と、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日油(株)製パーブチルO)0.2重量部を添加し、さらに80℃で8時間後室温まで冷却した。得られたポリマー溶液を、n−Hex 2000重量部中へ30分かけて滴下を行い、ポリマー析出物を生成させた。ポリマー析出物については、200メッシュ金網で濾別し、105℃にて8時間で乾燥することで、ポリマー10を調製した。得られたポリマー10は重量平均分子量が5万、構成単位(A)の割合は74モル%、構成単位(B)の割合は26モル%、SP値は計算値で8.5であった。
【0080】
4.1.11.製造例11(ポリマー11の調製)
エチルセルロース(日進化成(株)製 エトセル グレード45(商品名))をポリマー11とした。
【0081】
4.1.12.製造例12(ポリマー12の調製)
ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製 エスレック BH−3)をポリマー12とした。
【0082】
4.1.13.製造例13(ポリマー13の調製)
上記製造例1の2HBMA 100重量部を、iBMA 70重量部、HEMA 30重量部とする以外は、上記製造例1と同様の操作で、ポリマー13を調製した。得られたポリマー13は重量平均分子量が5万、構成単位(C)の割合は100モル%、SP値は計算値で9.3であった。
【0083】
4.1.14.製造例14(ポリマー14の調製)
上記製造例1の2HBMA 100重量部を、iBMA 90重量部、MAA 10重量部とする以外は、製造例1と同様の操作で、ポリマー14を調製した。得られたポリマー14は重量平均分子量が5万、構成単位(C)の割合は100モル%、SP値は計算値で9.1であった。
【0084】
4.1.15.製造例15(ポリマー15の調製)
上記製造例1の2HBMA 100重量部を、tert−ブチルメタクリレート(tBMA)60重量部、HEMA 40重量部とする以外は、上記製造例1と同様の操作で、ポリマー15を調製した。得られたポリマー15は重量平均分子量が5万、構成単位(B)の割合は58モル%、構成単位(C)の割合は42モル%、SP値は計算値で9.2であった。
【0085】
4.1.16.製造例16(ポリマー16の調製)
上記製造例1の2HBMA 100重量部を、CHMA 70重量部、HEMA 30重量部とする以外は、製造例1と同様の操作で、ポリマー16を調製した。得られたポリマー16は重量平均分子量が5万、構成単位(B)の割合は64モル%、構成単位(C)の割合は36モル%、SP値は計算値で9.1であった。
表1に各ポリマーの組成を示す。
【0086】
【表1】
なお、表1および表2において、各略号はそれぞれ以下の単量体を示す。
【0087】
2HBMA:2−ヒドロキシイソブチルメタクリレート
CHDMMA:シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート
HO−HH:2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸
FA−712HM:4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン
DMHPMA:2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピルメタクリレート
ECMA:メタクリル酸[(3,4−エポキシシクロヘキサン)−1−イル]メチル
FA−511AS:ジシクロペンテニルアクリレート
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
tBMA:tert−ブチルメタクリレート
IBXMA:イソボルニルメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
iBMA:イソブチルメタクリレート
製造例1〜16において用いられた単量体を構成する(メタ)アクリル酸由来のCOOR基のR(単量体(a)のR2、単量体(b)のR4等)をMOPAC PM3のEF法によって計算したX、Yおよび体積を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
4.2.ペースト組成物の作成
上記で調製したポリマー1〜16、Niフィラー(平均粒径200nm)、およびターピネオール(SP値:9.2)からなる組成物(配合比:8/100/70)を自転・公転ミキサー(商品名「あわとり練太郎」、株式会社シンキー製)で混練した後、さらに3本ロールで混練して、ペースト組成物を得た。
【0090】
4.3.評価方法
4.3.1.SP値
SP値は、OkitsuのΔFの定数(沖津俊直著、「接着」、第40巻8号、342頁(1996年))より算出した。
【0091】
4.3.2.分子量
分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィーによる分析を行い、ポリスチレン換算による重量平均分子量より算出した。
装置:GPC−8220(東ソー(株)製)
カラム:G7000HXL/7.8mmID×1本 + GMHXL/7.8mmID×2本 + G2500HXL/7.8mmID×1本
媒体:テトラヒドロフラン(略称THF)
流速:1.0mL/min
濃度:1.5mg/ml
注入量:300μL
カラム温度:40℃
【0092】
4.3.3.印刷性
ペースト組成物をガラス板に640メッシュ、ギャップ0.1mm、速度30cm/秒でスクリーン塗工、乾燥したものの表面粗さ(Ra)を表面粗さ計で測定し、該表面粗さの値を指標として以下の基準にしたがって印刷性を評価した。
【0093】
Raが0.15以下である場合:◎
Raが0.15を超えかつ0.2以下である場合:○
Raが0.2を超えかつ0.25以下である場合:△
Raが0.25より大きい場合:×
【0094】
4.3.4.粘度
ペースト組成物をE型粘度計によって25℃にて粘度の測定を行い、以下の基準にしたがって粘度を評価した。
【0095】
粘度が3Pa・sを超え20Pa・s以下である場合:◎
粘度が1.5Pa・sを超え3Pa・s以下である場合:○
粘度が0.5Pa・s以上1.5Pa・s以下である場合:△
粘度が0.5Pa・s未満である場合:×
【0096】
4.3.5.分散安定性
調製されたペースト組成物が相分離するか否かを目視評価し、以下の基準にしたがって分散安定性を評価した。
【0097】
ペースト組成物が3日以上分離しなかった場合:○
ペースト組成物が1〜3日で分離した場合:△
ペースト組成物が1日以内で分離した場合:×
【0098】
4.3.6.焼成性
窒素雰囲気中700℃で1時間の焼成(TG−DTA)を行った後における残炭の有無を以下の基準にしたがって目視にて確認して、ポリマーの焼成性を評価した。
【0099】
残炭がない場合:○
残炭が微量有る場合:△
残炭が無視できない量有る場合:×
【0100】
4.4.評価結果
評価結果を表3に示す。
【0101】
【表3】
表3によれば、実施例1ないし10のペースト組成物は、上記一般式(1)で表される構成単位(A)を20〜100モル%(より具体的には70〜100モル%)含有する(メタ)アクリル系(共)重合体を含むことにより、適度な粘性および良好な分散安定性を有するため塗工性に優れ、かつ、焼成性および印刷性に優れていることが理解できる。特に、実施例1ないし10のペースト組成物は、(メタ)アクリル系(共)重合体の代わりにエチルセルロースまたはポリビニルブチラールをそれぞれ使用した場合(比較例1および2)と比較して、焼成性に優れていることが理解できる。
【0102】
これに対して、比較例3ないし6のペースト組成物は、(メタ)アクリル系(共)重合体における前記構成単位(A)の割合が70モル%未満(より具体的には20モル%未満)であるため、印刷性に劣ることが理解できる。すなわち、比較例3ないし6のペースト組成物は、構成単位(A)の割合が低いため、所望のペースト粘度が発現せず、さらにアクリル由来のエステル基と他の分子との間に相互作用が生じやすい。その結果、分子間の絡み合いが強くなるため、糸曳き性が悪化し、印刷性が悪くなる。