【課題を解決するための手段】
【0005】
冒頭で述べた光学フィルタは、上述の問題点を以下のようにして解決する。すなわち少なくとも2つの光学フィルタ段各々は、動作波長範囲にわたって広がる周期的伝達特性を有しており、各伝達特性は、他の伝達特性各々の少なくとも1つのピークとそれぞれオーバラップした少なくとも2つのピークを有しており、光学フィルタの総合伝達特性は、スペクトル的に互いに分離された少なくとも2つのスペクトル通過帯域を有する。
【0006】
冒頭で述べた形式のカメラは上述の問題点を、本発明による光学フィルタを備えることによって解決する。この場合、フィルタの総合伝達特性の少なくとも1つのスペクトル通過帯域は、スペクトル帯域各々の中に位置している。
【0007】
同時撮像のための本発明によるマルチスペクトル撮像システムは上述の問題点を、少なくとも1つの本発明によるカメラを備えることによって解決する。
【0008】
少なくとも2つの異なるスペクトル帯域の光によって試料を照射する本発明による照射システムは、広帯域光源と本発明による光学フィルタとを備えることによって、上述の問題点を解決する。
【0009】
通過波長とは、波長依存性の伝達カーブの中心波長のことであると解されたい。この場合、伝達カーブは特定のパルス形状を有することができる。
【0010】
よって、通過波長とは、対応する光学フィルタの最大伝達波長のことであると解されたい。この場合、通過波長と隣り合った波長を伝達することもできるが、その場合の伝達率は通過波長よりも低い。
【0011】
光学フィルタ段とは、波長依存性の伝達率を有する複数の光学部品から成るアセンブリのことであると解されたい。光学フィルタ段各々の伝達特性により、伝達方向に沿って光学フィルタ段へ入射される光に作用が及ぼされる。
【0012】
光学フィルタの総合伝達特性を得るために、全ての光学フィルタ段の伝達特性が掛け合わせられる。
【0013】
入射側偏光子を、予め定められた直線偏光をほぼ100%伝達する直線偏光子として具現化することができ、この場合、予め定められた上述の偏光とは異なる偏光の光は、偏光子によって減衰させられる。
【0014】
予め定められた偏光方向に対し垂直に偏光された光は、好ましくは完全に阻止される。入射される偏光と偏光子の予め定められた偏光方向との間の角度に関して、伝達率はコサインカーブを辿り、その際にコサインカーブの負の半波を辿る。
【0015】
光学フィルタ段各々の固定リターディング素子を、固定の複屈折を有する複屈折材料として具現化することができる。複屈折の結果、垂直に偏光された光成分相互間にリターデーションが生じるので、複屈折材料はリターダまたはリターディング素子とも呼ばれる。
【0016】
本発明による光学フィルタは少なくとも2つの光学フィルタ段を備えており、これらの光学フィルタ段の双方は、動作波長範囲にわたって広がる周期的伝達特性を有している。動作波長範囲とは、この範囲内で光学フィルタが少なくとも1つの通過波長の光を伝達する波長範囲のことである、と解されたい。
【0017】
光学フィルタ内に設けられる偏光子、固定リターディング素子、あるいは場合によっては反射防止層または保護層などといった、光学フィルタ内で適用される光学素子の個々の伝達特性によって、動作波長範囲が制限される可能性がある。
【0018】
本発明によればフィルタ段各々は、動作波長範囲内に少なくとも2つのピークを含む伝達特性を有する。複数の光学フィルタ段の少なくとも2つの伝達特性はオーバラップしており、この場合、各光学フィルタ段の伝達特性における少なくとも第1および第2の最大伝達率が、他の光学フィルタ段の伝達特性各々の少なくとも1つの最大伝達率とオーバラップしている。
【0019】
光学フィルタの総合伝達特性は、個々の伝達特性の乗算によって得られるが、このことは非線形作用を伴わない線形の光相互作用の場合にのみ当てはまる。
【0020】
光学フィルタの総合伝達特性は、スペクトル的に分離された少なくとも2つのスペクトル通過帯域を有しており、このスペクトル通過帯域内で、光学フィルタに入射される光が光学フィルタの最大伝達率で伝達されることになる。
【0021】
好ましくは、少なくとも2つのスペクトル通過帯域のスペクトルポジションとは異なるいかなる波長の光も、特に少なくとも2つのスペクトル通過帯域各々のスペクトル帯域幅外の波長は、光学フィルタによって完全に阻止される。少なくとも2つのスペクトル通過帯域間のスペクトル分離は好ましくは、それらのスペクトル通過帯域のスペクトル帯域幅の少なくとも2倍になる。
【0022】
光学フィルタの総合伝達特性は、複数の光学フィルタ段の個々の伝達特性を含むので、スペクトル通過帯域のスペクトル帯域幅および形状は、光学フィルタの全てのスペクトル通過帯域について同一である。
【0023】
以下では、本発明のさらに別の有利な実施形態について説明する。それらの実施形態の技術的特徴は、任意に組み合わせ可能または省略可能である。
【0024】
本発明による光学フィルタの1つの実施形態によれば、少なくとも2つの光学フィルタ段は、類似したまたはそれどころか同一である個々の伝達特性を有することができ、その際、少なくとも1つの個々の伝達特性は、第2の光学フィルタ段の少なくとも1つの他の個々の伝達特性に対して、スペクトル的にシフトされている。オーバラップした、ただしシフトされた個々の伝達特性から結果として生じるスペクトル通過帯域を、1つの伝達特性のスペクトルのシフトなしで得られたスペクトル通過帯域に対して、スペクトル的に狭めることができる。
【0025】
本発明による光学フィルタのさらに別の実施形態によれば、少なくとも3つの通過帯域が設けられており、その際に少なくとも3つの通過帯域は、波数スペクトル内においてスペクトル的に互いに等間隔で離間されている。この場合、波数は波長の逆数である。したがって結果として得られる光学フィルタの通過帯域によって、スペクトル通過帯域により規定される3つ以上の最大伝達率を有する光学櫛が形成される。
【0026】
各通過帯域間のスペクトルの離間を、実際に各通過帯域の中心波長間で測定することができる。
【0027】
なお、スペクトル通過帯域カーブの外観すなわち通過帯域の帯域幅とピーク・トゥー・ピーク距離とは、波長と対比してプロットした場合、動作波長範囲における短い波長の側と長い波長の側とで異なる可能性がある、ということに留意されたい。波数(波長の逆数)と対比してプロットした場合、スペクトル通過帯域の帯域幅とピーク・トゥー・ピーク距離とは同一である。
【0028】
本発明による光学フィルタのさらに別の有利な実施形態によれば、複数の光学フィルタ段のうちの少なくとも1つは、対応する光学フィルタ段の波長依存性の周期的伝達特性をシフトするために、可変リターディング素子を備えている。
【0029】
この実施形態によれば、光学フィルタ段の少なくとも1つは、固定量の複屈折を加える、すなわち入射光をリターディングする固定リターディング素子を備えていると共に、可変の複屈折ないしはリターデーションを加える素子も備えている。かかる可変のリターデーションによって、波長依存性の周期的伝達特性が波長軸に沿ってシフトされ、その結果、少なくとも2つの個々の伝達特性のオーバラップした最大値が、場合によっては異なるスペクトルポジションをとるようになり、他方、これによって光学フィルタの少なくとも2つのスペクトル通過帯域も同様にシフトされる。
【0030】
したがってこの実施形態の光学フィルタは、チューナブルマルチバンドパスフィルタであり、これによってこのフィルタを介して少なくとも2つのスペクトル通過帯域を伝達できるようになり、その際に少なくとも2つのスペクトル通過帯域のスペクトルポジションをユーザが変更可能である。
【0031】
光学フィルタ段各々が可変リターディング素子を備えていれば、本発明による光学フィルタをさらに改善することができる。この実施形態によれば、設けられた複数の光学フィルタ段における個々の周期的伝達特性の全てを、スペクトル的にシフトすることができる。よって、周期的伝達特性のオーバラップした最大値のポジションを、したがってスペクトル通過帯域のスペクトルポジションを、光学フィルタの動作波長範囲内のほぼ任意の波長に合わせてチューニングすることができる。
【0032】
このため本発明による光学フィルタの上述の実施形態によれば、従来技術では1つのスペクトル帯域であったのに、複数のスペクトル帯域のリアルタイム撮像が可能になることから、従来技術の光学フィルタを凌ぐさらなる利点が得られるようになる。他方、このことにより結果として、スループット効率の改善と合わせて、相応に高速化されたスキャニング速度が得られるようになり、すなわち損失が減少しかつコストおよびサイズが小さくなる。
【0033】
従来技術の光学フィルタは、たとえ従来技術のチューナブルフィルタであったとしても、リアルタイムでは単色像を供給することしかできない。本発明の光学フィルタによれば、少なくとも2つのスペクトル通過帯域をリアルタイムで、すなわち同時に、考慮することができる。
【0034】
本発明による光学フィルタのさらに別の実施形態によれば、可変リターディング素子の少なくとも1つは液晶素子として具現化されている。液晶素子は、電界内に配置したときに指向性をもたせることができる等方性液晶に基づくものである。電界の電界強度を変化させることによって液晶が回転させられ、それらの液晶に入射される光に対して加えられるそれらの液晶の複屈折ないしはリターデーションを変化させる。したがって可変リターディング素子によって加えられる可変のリターデーションを、容易に制御し変更することができる。
【0035】
本発明による光学フィルタのさらに別の実施形態によれば、少なくとも2つの光学フィルタ段は等しいリターデーションを有しており、この場合、2つの光学フィルタ段の周期的伝達特性は互いにシフトされている。本発明による光学フィルタのこの実施形態が有する利点とは、スペクトル通過帯域の光学的な帯域幅を変化させることができる、ということである。帯域幅のこのような変化を、光学フィルタのスペクトル通過帯域のチューナビリティに対する代案として、またはそれに加えて、適用することができる。スペクトル通過帯域の狭いスペクトル帯域幅を達成する目的で、2つ以上の光学フィルタ段が同一のリターデーションを有することができる。
【0036】
本発明による光学フィルタを、少なくとも1つの光学フィルタ段が、少なくとも1つの他の光学フィルタ段のリターデーションとは異なるリターデーションを有することによって、さらに改善することができる。固定リターディング素子のリターデーションがそれぞれ異なる結果として、個々の伝達特性においてそれぞれ異なる周期性が生じるようになる。
【0037】
複屈折材料すなわち液晶が適用される場合、伝達方向に沿って測定される液晶の厚さと共にリターデーションが大きくなる。したがって、比較的厚い固定リターディング素子を備えた光学フィルタ段は、周期性が低減された、すなわち周期的伝達特性のスペクトル周波数が高められた伝達特性を有することができる。また、比較的厚い固定リターディング素子を備えた光学フィルタ段の最大伝達率は、比較的薄い固定リターディング素子を適用した光学フィルタ段の周期的伝達特性の最大伝達率よりも、互いに密に位置している。
【0038】
低いスペクトル周波数を有する個々の伝達特性は、広いスペクトル帯域幅を有することができ、高いスペクトル周波数を有する伝達特性は、それに応じていっそう狭いスペクトル帯域幅を有することができる。よって、達成される総合伝達特性は、高いスペクトル周波数の個々の伝達特性のスペクトル帯域幅によって決定されるスペクトル帯域幅を有することができ、この場合、スペクトル通過帯域の中心波長を、低いスペクトル周波数の伝達特性の最大伝達率によって決定することができる。
【0039】
本発明による光学フィルタのさらに別の実施形態によれば、少なくとも1つの光学フィルタ段は、少なくとも1つの他の光学フィルタ段のリターデーションとは2倍異なるリターデーションを有する。リターデーションが2倍異なることから結果として、やはりそれぞれ2倍異なる対応する周期的伝達特性における最大伝達率のスペクトル周波数が生じることになる。
【0040】
よって、比較的小さいリターデーションの結果として生じた伝達特性の1つの半波内に、好ましくは、2倍のリターデーションの結果として生じた第2の周期的伝達特性の2つの半波が含まれる。
【0041】
このため、リターデーションがそれぞれ異なる複数の光学フィルタ段の少なくとも2つの周期的伝達特性におけるピーク(最大伝達率)間のオーバラップが保証される。
【0042】
さらに別の実施形態によれば、光学フィルタ内に一連の光学フィルタ段1,2,...Nを含めることができ、この場合、光学フィルタ段2のリターデーションは光学フィルタ段1のリターデーションの2倍であり、光学フィルタ段3のリターデーションは光学フィルタ段2のリターデーションの2倍であり、...、光学フィルタ段Nのリターデーションは光学フィルタ段N−1のリターデーションの2倍である。
【0043】
この実施形態によれば、個々の伝達特性の最大伝達率のオーバラップも保証される。光学フィルタ段1の周期的伝達特性によって、光学フィルタのスペクトル通過帯域の個数が決定され、この場合、スペクトル通過帯域の個数は、動作波長範囲内に位置する周期的伝達特性の最大伝達率の個数に相応する。
【0044】
さらに光学フィルタ段Nのスペクトル帯域幅によって、光学フィルタにおいて結果として生じるスペクトル通過帯域のスペクトル帯域幅を決定することができる。よって、この実施形態の光学フィルタは、少なくとも2つのスペクトル通過帯域を含む櫛形スペクトルを有することができ、この場合、櫛形スペクトル全体を、可変リターディング素子を用いてスペクトル的にシフトすることができる。
【0045】
櫛形スペクトルのスペクトル通過帯域を特に、スペクトル的に互いに等間隔に離間させることができる。このため結果として得られる光学フィルタによって、少なくとも2つの波長を同時に伝達させることができるようになり、それによってマルチスペクトルアプリケーションをリアルタイムに実施できるようになる。
【0046】
冒頭で述べた少なくとも2つの像を同時にキャプチャするカメラを、光学フィルタの動作波長範囲である伝達された全てのスペクトル通過帯域を検出するように、具現化することができる。この場合、光学フィルタの動作波長範囲は、好ましくはカメラが入射光に感応する範囲を示すカメラ波長範囲と一致する。カメラは、CCD検出器またはCMOS検出器として具現化可能な検出器を備えることができ、この場合、検出器の画素各々が1つのマイクロフィルタを備えることができる。
【0047】
少なくとも2つの像を同時にキャプチャする本発明によるカメラの第1の実施形態によれば、個々の画素に適用されるマイクロフィルタを、対応するマイクロフィルタの下限波長と上限波長との間の波長の光のみを伝達するバンドパスフィルタとして、具現化することができる。
【0048】
下限波長よりも短い波長または上限波長よりも長い波長は、マイクロフィルタによって好ましくは完全に阻止される。
【0049】
第2のマイクロフィルタのスペクトル帯域を、第1のマイクロフィルタのスペクトル帯域にスペクトル的に隣り合うように位置させることができ、この場合、第2のマイクロフィルタの帯域の下限波長は、第1のマイクロフィルタの帯域の上限波長以上である。
【0050】
したがって、カラーコーディングを規定するために、隣り合う画素に2つ以上のマイクロフィルタを適用することができる。レッド−グリーン−ブルー(RGB)カラーコーディングのケースであれば、3つの異なるマイクロフィルタから成るセットを適用することができ、グリーン−シアン−マゼンタ−イエロー(GCMY)カラーコーディングのケースであれば、4つの異なるマイクロフィルタから成るセットを隣り合う画素に適用することができる。
【0051】
このようにしてカメラの複数のマイクロフィルタによって、1つの波長範囲を予め選択することができ、この場合、光学フィルタのただ1つのスペクトル通過帯域が上述の波長範囲内にスペクトル的に位置しており、このスペクトル通過帯域はフィルタのスペクトル帯域の下位の波長範囲を形成する。したがって、上述の画素により測定される入射光の強度を、光学フィルタの対応するスペクトル通過帯域の強度に一義的に関連づけることができる。
【0052】
本発明によるカメラのその他の想定可能な実施形態によれば、それぞれ特有の伝達スペクトルを有する複数のマイクロフィルタが適用され、この場合、光学フィルタの少なくとも2つのスペクトル通過帯域は、マイクロフィルタ各々についてそれぞれ異なる伝達値を有する。このカメラはさらに、各画素の測定された強度をただ1つのスペクトル通過帯域に関連づけるために、後処理用のプロセッサを備えている。
【0053】
冒頭で述べたマルチスペクトル撮像システムを、少なくとも2つのカメラを設けることによってさらに改善することができ、この場合、少なくとも2つのカメラ各々の少なくとも2つの通過帯域は、スペクトル的に互いにシフトされている。
【0054】
一般にマルチスペクトル撮像システムは、複数のスペクトル通過帯域間のスペクトル距離が一定である、という制約を有しており、したがって通過帯域を互いに無関係に選択することはできない。本発明によるマルチスペクトル撮像システムのこの実施形態によれば、各カメラにより測定される通過帯域を互いに無関係に選択できることから、このような制約が緩和される。
【0055】
冒頭で述べた本発明による照射システムのために、広帯域連続光源または広帯域離散光源を適用することができる。このため照射システムは、少なくとも2つの異なるスペクトル通過帯域をフィルタリングして、この少なくとも2つの通過帯域によって試料を照射する。
【0056】
さらに考えられるのは、選択されたスペクトル通過帯域を得るために、広帯域離散光源のフィルタリングを適用できる、ということである。この通過帯域を、試料の個々の吸収特性に対応する照射波長に合わせてチューニングすることができる。したがって、2つの異なる蛍光チャネルにおける蛍光励起を実現させることができる。
【0057】
次に、本発明について添付の図面を参照しながら説明する。同じ技術的特徴および同じ技術的作用を有する特徴には、同じ参照符号を付すものとする。