(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記特定イオン種を放出するための前記励起周波数の前記スキャンに先立って、前記特定イオン種をあらかじめ捕捉し、あらかじめ放出することによって前記特定イオン種を濃縮することをさらに備える請求項1に記載の方法。
あらかじめ放出された前記特定イオン種を第二電極構造に閉じ込め、それによって前記特定イオン種を前記第二電極構造に優先的に蓄積することをさらに含み、前記特定イオン種を放出する前記スキャンが、あらかじめ放出された前記特定イオン種をさらに放出する請求項5に記載の方法。
前記スキャン制御器が前記励起周波数をスキャンして前記特定イオン種を放出するのに先立って、あらかじめ放出された前記特定イオン種を閉じ込め、それによってあらかじめ捕捉されかつあらかじめ放出された前記特定イオン種を濃縮する第二の電極構造をさらに備える請求項8に記載の装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の代表的な実施形態を以下に記述する。
【0018】
ART・MSのようなイオントラップにおいて、特定ガス種を検出する方法であって、その特定ガス種が、最初、ガスの容量中で第一低濃度の微量成分である本方法は、特定ガス種を含むガスをイオン化し、それによって特定イオン種を生成することを含む。本方法は、特定イオン種がイオントラップに閉じ込められて、第一および第二の対向するミラー電極とそれらの間の中央レンズ電極とを含む電極構造において、固有周波数で軌道に収まる静電ポテンシャルを生成することをさらに含む。本方法はまた、励起周波数を有するAC励起源で、閉じ込められた特定イオン種を励起し、AC励起源の励起周波数をスキャンして、特定イオン種をイオントラップから放出し、その放出された特定イオン種を検出することも含む。本方法は、特定ガス種のイオンを放出するために励起周波数をスキャンするのに先立って、イオントラップ内の特定イオン種の濃度を第一低濃度に対して高めることをさらに含む。
【0019】
本方法は、特定ガス種以外のガス種の選択的除去によって特定ガス種の濃度を高めることをさらに含み得る。特定ガス種を濃縮するのに、当技術分野で知られているいかなるガス分離技法をも用いることができる。例えば、ガス分離技法は、濾過、膜分離、一つ以上の収着媒(吸収剤、sorbent )を介しての分離、低温ガス分離および捕捉、イオン捕捉、ならびにそれらの組み合わせを含み得る。実施形態によっては、一つ以上の収着媒を用いて一つ以上のガス種を選択的に取り除くものもある。適切な収着媒には、反応性収着媒、非反応性収着媒、およびそれらの組み合わせが含まれ得る。収着媒には、分子ふるい、イオン交換器、ゲッター(例えば、非蒸発性ゲッター)、およびそれらの組み合わせが含まれ得るが、それらに限定されるものではない。実施形態によっては、本方法が、一つ以上の不要なガス種(すなわち、特定ガス種以外のガス種)の選択的収着を含み得るものもある。他の実施形態では、本方法が、特定ガス種の選択的収着と、それに続く特定ガス種の脱着を含み得る。
【0020】
ある特定の実施形態においては、本方法が、非蒸発性ゲッターでの特定ガス種の選択的収着と、それに続く、その非蒸発性ゲッターからの特定ガス種の脱着とを含み得る。非蒸発性ゲッターは、NEXTorr(登録商標)イオンポンプ(コロラド州コロラド・スプリングスのSAEGゲッターズ)のような収着素子としての非蒸発性ゲッター(NEG)に基づく新世代のハイブリッド収着/イオンポンプの一部であり得る。
【0021】
ART・MSとハイブリッド収着/イオンポンプ(以降「ゲッター/イオンポンプ」と称する)との組み合わせの利点には、以下の能力が含まれる。
1)低い所要電力で大気ガスをサンプリング(試料採取)する能力のある、低電力、高速サンプリングシステムを開発(構築)し、
2)試料ガスをサンプリング容積中にパルス状に送り込むパルス状サンプリングシステムを開発し、
3)ゲッター/イオンポンプのガス依存ポンピング速度を用いて、ガス試料から特にマトリックス(すなわちバックグラウンド)ガスを取り除き、それによって時間をかけて特定ガス種を濃縮するサンプリングシステムを開発し、
4)ゲッター/イオンポンプのイオンポンプ部のみまたはゲッターポンプ部のみが一度に作動し、それによって、時間をかけてサンプリングされつつあるガスの化学組成を変更するサンプリングシステムを開発し、
5)ゲッター/イオンポンプのゲッターポンプ部の作動条件(例えば温度)を調整してそのガス依存ポンピング速度を調節するサンプリングシステムを開発し、
6)現場で限界まで用いて、新しいポンピングパッケージと取替えることのできる使い捨てポンピングパッケージ(すなわち、消耗品)を開発する。
【0022】
NEXTorr(登録商標)イオンポンプ100のような、
図1に概略的に示されるゲッター/イオンポンプは、以下のように、相異なる二つのポンピング機構でガスをポンピング(排気)する。
【0023】
1)非蒸発性ゲッター(NEG)110による収着:NEGポンプは、最低限の所要電力で高いポンピング速度を達成できる小型、軽量、無振動のデバイスである。最初に、一時間、500℃に加熱して起動すると、ゲッター110は、電力がなくても室温で不活性ガス(すなわち、He、Arおよびその他の希ガス)以外のガスを取り除く。水素(および重水素と三重水素)が、NEGポンプによって可逆的に収着される唯一のガスであり、すなわち、ゲッター材を加熱して再びサンプリングシステムに放出することができる。収着ポンプは、工場で起動し、そして、真空が損なわれなければ、現場で相当な期間用いることができる。NEXTorr(登録商標)ポンプの最初のポンピング速度と種々のガスについての収着能力が表1に列挙されている。
【0025】
2)イオンポンプ120による排気:ゲッター/イオンポンプはまた、ゲッター110を通って真空チャンバー140から最適化された伝導路を経て流れるガスを受け取るイオンポンプ120を、ゲッター110の後ろに含む。NEXTorr(登録商標)ポンプにおいて、ゲッター110に対するイオンポンプ120の位置は、イオンポンプ120からゲッター110中に放出される何らかのガスかチタン微粒子を捕獲するよう設計されている。NEXTorr(登録商標)ポンプにおけるイオンポンプ120は、不活性ガスを捕獲しない。ゲッター110とは異なり、イオンポンプ120は、いつでもオン/オフすることができ、したがってゲッター/イオンポンプ100のポンピング速度もイオンポンプ120がオンであるかどうかに依存する。
【0026】
ゲッター/イオンポンプは、異なるガスに対して異なるポンピング速度を有しており、ゲッター/イオンポンプを用いての、特定ガス種以外のガス種の選択的収着による分析に先立って、ある容量のガス中で第一低濃度に対して特定ガス種の濃度を高めることを可能としている。例えば、N
2およびO
2用のゲッター/イオンポンプの高いポンピング速度によって、静的な試料またはサンプリングシステムへの緩慢な連続した流入体から不活性ガス(例えば、アルゴン)のような空気の微量成分を濃縮することが可能となる。それに代えて、特定ガス種の濃度を高めることは、非蒸発性ゲッターでの特定ガス種の選択的収着と、それに続く非蒸発性ゲッターからの特定ガス種の脱着とを含み得る。例えば、ゲッター/イオンポンプは、可逆的に、水素およびその同位体(すなわち、二重水素、三重水素)を急速に収着し、したがって、ゲッターを水素で充填して、他のガス種をイオンポンプまたはその他の真空ポンプで取り除くことができ、そうしてゲッターを加熱して水素を放出することで同位体分析を可能にできる。
【0027】
ART・MSデバイス210、ゲッター/イオンポンプ100および吸気口230を組み合わせたサンプリングシステムの一例200が
図2に示されている。装置200は、特定ガス種以外のガス種の選択的収着によって特定ガス種以外のガス種を取り除く非蒸発性ゲッター110を含み得る。それに代えて、前述のとおり、特定ガス種が水素であるなら、装置200は、選択的収着と、それに続く非蒸発性ゲッター110からの水素の脱着によって水素の濃度を高める非蒸発性ゲッター110をさらに含み得る。他の実施形態において、このゲッターは、他のいかなる収着デバイス/収着材でもあり得る。実施形態によっては、チャンバーの内側に収着材を付着させるか内側を収着材で被覆することができるものもある。実施形態によっては、収着材を、取り外し可能なカートリッジの形でチャンバーに提供して、もはや収着が不可能となればすぐにそれを取り替えることができるようにしたものもある。
【0028】
システム200は、連続的なサンプリングまたはパルス状のサンプリングによって作動できる。連続的なサンプリングのもとで、ART・MSデバイス210は、ゲッター/イオンポンプ100によってポンプされ、ガスを連続してチャンバー240に引き込むことができ、それは、吸気口230を通してであるが、それはまた漏れ(漏れ口)とも呼ばれ、例えば、穴、毛細管、フリットまたは薄膜であって、それによって圧力がART・MSデバイス210に適切な範囲に規制される。このサンプリングシステム200において、最初の試料におけるガスの相対濃度が維持されることはなく、それは、連続的にガスをチャンバー240に引き込む吸気口230を通る試料が潜在的に分別されて、異なるガスがゲッター/イオンポンプ100によって異なるポンピング速度でポンプされ、ゲッター/イオンポンプ100においてイオンポンプ120がオンであるかどうかによって潜在的にまったくポンピングされない種があったりもするからである。イオンポンプ120をオフにして、サンプリングシステム200を用い、連続的に空気をチャンバー240に引き込み、かつヘリウムとアルゴンの濃度を高めることによって空気中のヘリウムとアルゴンをサンプリングできる。そして、
3Heおよび
4Heの相対量をART・MSデバイス210で測定できる。測定が完了した後、チャンバー140を補助真空ポンプ220で排気して、次の試料のためにチャンバー240を浄化する。薄膜を吸気口230に加えることによって、例えば、水中でメタン(CH
4)をサンプリングすることが可能となるが、それには、メタンの透過速度(permeation rate )が高く、また水に対しての透過速度も著しいポリジメチルスルホキシド(PDMSO)薄膜を用いて、メタンについてのゲッター/イオンポンプ100のポンピング速度が、水についての対応するポンピング速度よりほぼ10倍遅いということを利用しており、それによってチャンバー240のメタンを濃縮している。しかしながら、連続的なサンプリングによって、蓄積能力に限界があるために、ゲッター/イオンポンプ100の寿命が制限される。
【0029】
ゲッター/イオンポンプの蓄積能力の限界に対処する代替の方法は、パルス状のサンプリングであり、ここで、ガスは、制御された短いパルスでチャンバー240中に導入される。各パルスで導入されるガスの量は、パルスの時間の長さ、パルス状の吸気口230のコンダクタンス、またはその双方を制御することによって、ART・MSデバイス210の圧力の上限との両立性を備えるよう制御される。適切なバルブ230には、ソレノイドバルブ(例えば、Parker)のような高速リークバルブ、圧電バルブ(例えば、Key High Vacuum )、または、特注の高速サンプリングバルブ(試料採取弁)が含まれる。Rev. Sci. Instrum. 81(201)p.023106を参照。高速サンプリングバルブが好ましく、それは、サンプリング時間がほぼ数ミリ秒であり得るからである。いったんガスのパルスがチャンバー240中に導入されると、可能なサンプリングのシナリオが少なくとも3つある。すなわち、a)圧力がART・MSデバイス210にとって十分に低ければただちにサンプリングするか、b)ART・MSデバイス210がサンプリングできる圧力までゲッター/イオンポンプ100によって圧力が低減されるまで待つか、c)ART・MSデバイス210がサンプリングできるレベルに特定ガス種の濃度が上昇するまでガス組成が変化するのを待つ。いったんサンプリングが完了すると、ゲッター/イオンポンプは、チャンバーを排気して次のサンプリングパルス(試料採取パルス、sample pulse)がきれいに開始できるようにする。パルス状のサンプリングでは、ガスが断続的にチャンバー240中に導入されるに過ぎず、ゲッターポンプ110の容量の制限は、必要な時のみに用いられて、ゲッターポンプ110の寿命が延ばされる。また、チャンバー240に固定容量のガスを詰め込み、そしてゲッター/イオンガス依存のポンピング速度を調整して特定ガス種を濃縮することも可能である。加えて、
図2に示されるように、最後に試料を浄化できる、または、ガス依存のポンピング速度を提供できるターボ分子ポンプのような別の真空ポンプ220であって、必要でないときはチャンバー240から分離できるものと、ゲッター/イオンポンプ100を組み合わせることも可能である。
【0030】
図3Aは、
図2に示される装置を用いての、パルス状のサンプリングにおける可能な一連の事象を示す。
1)ステップ310で、バルブ230が開いて、試料環境から直接得られるか薄膜を通して浸透したガスが、圧力がART・MSデバイス210と整合する最大レベルに到達するまで、他の場合には密閉されている真空チャンバー240に短時間入ることが可能となり、
2)ステップ320で、バルブ230が閉じて、ステップ330で、圧力がART・MSデバイス210の作動に適切なレベルに到達するまで、または、特定ガス種の濃度が最善のART・MSデータが得られるレベルに到達するまで、圧力をモニターし、
3)ステップ340で、望ましい信号対雑音比(SNR)が得られるまで、ART・MSスペクトルのスキャンが平均化され、
4)ステップ350で、チャンバー240が次のサイクルに備えて排気される。
【0031】
図3Bには、試料の空気からアルゴンとヘリウムをサンプリングする、
図1および
図2に示される装置を用いての代表的なサンプリングサイクルが示されており、ゲッター/イオンポンプ100のポンピング速度がガスに依存することを考え合わせると、異なる時間に異なるガスが排気される。主成分はサイクルの始めに測定でき、より遅く排気される(またはヘリウムのようにゲッターでまったく排気されない)微量成分はサンプリングサイクルの後の方で測定できる。
図3Bに示されるように、ステップ310で、バルブ230によって空気のパルスがチャンバー240に入ることが可能となり、そしてステップ320で、バルブ230が閉じられて、ゲッターは、N
2、O
2、CO、CO
2、H
2O等のような活性(すなわち、バックグラウンド)成分の試料を急速に枯渇させ、一方、ステップ330で、ヘリウムやアルゴンのような不活性ガスが取り残される。不活性ガスの濃度が十分に高ければ、ステップ340でART・MSデバイス210は、ガススペクトルを得る。そうでなければ、ステップ310とステップ320を繰り返して、さらなる空気パルスをチャンバー240に導入して、さらに不活性ガスの濃度を高めることができる。サンプリング時間340においてガススペクトルが得られた後、ステップ350で補助ポンプ220がオンにされて、新しい試料に備えてチャンバー240が浄化される。
【0032】
図3Bに示されるのと類似のサンプリングサイクルを用いて、薄膜導入質量分析(MIMS)によって、水中の揮発性有機化合物(VOCs)を検出できる。ゲッター/イオンポンプを用いるVOCsのポンピング速度は、空気の活性成分のポンピング速度よりも低い。薄膜を透過してチャンバー240にパルス状に送り込まれたVOCsは低濃度で、かつ高濃度の水蒸気とともに存在するが、水分をゲッターポンプで急速に排出するので、ART・MSがVOCsを検出できるようになる。
【0033】
前記例には、ART・MSのSNRを改善するために、ART・MSデバイスによるイオン化および分析に先立って、特定ガス種の濃度を高めるいくつかの方法が示されている。SNRはまた、揮発性有機化合物(VOCs)のような特定ガス種を真空紫外(VUV)選択的光電離によって優先的にイオン化することによっても改善できる。VOCsは、化学兵器、有毒の工業薬品、火薬および(機械的)真空ポンプ油のような炭化水素を含み得る。バックグラウンドガスに対応するピークのない、ポンプ油汚染の結果生じる質量スペクトルの例が
図4に示されている。エネルギーが約8eVから約12eVまでの範囲にあるVUV光子での有機分子のイオン化によって、ソフトイオン化が起こり、有機分子を著しく断片化することなくイオンを生成する。光電離によって、有機分子が単光子イオン化(SPI)で電子を失うが、エネルギーが光子から直接分子の電子状態に結合される。空気成分(すなわち、N
2、O
2、Ar等)は、VUV光子でイオン化されない。光電離用の光は、例えば、Hamamatsu 、Heraeus 、Cathodeon およびOptimareのようなランプ製造業者から得られる、He、Ar、Kr、XeおよびD
2ランプのようなVUVランプで作り出すことができる。異なるランプ充填ガスを選択することでも、イオン化プロセスのエネルギーを調整でき、イオン化についてさらなる選択性を提供できる。他の光源には、極紫外(EUV)レーザー源や、周波数を2倍または3倍にしたパルス状レーザーが含まれる。
【0034】
有機化合物のような特定ガス種をART・MSで検出する装置500が
図5に示されている。装置500に含まれるのは、特定ガス種を含むガスをイオン化し、それによって特定イオン種を生成する電離器(550、560)と、特定イオン種が、イオントラップに閉じ込められて、固有周波数で軌道に収まる静電ポテンシャルを作り出す電極構造(541、542、543)であり、その電極には、第一および第二の対向するミラー電極541および542とそれらの間の中央レンズ電極543が含まれる。装置には、閉じ込められた特定イオン種をAC励起周波数で励起するAC励起源546と、AC励起源546の励起周波数をスキャンしてイオントラップ540から特定イオン種を放出するスキャン制御器547と、その放出された特定イオン種を検出する検出器548とがさらに含まれている。特定ガス種を含む大気試料510が、差圧吸気口530を通して高真空システム520中に導入される。一段差圧吸気口、すなわち試料510とイオントラップ540との間に差圧を確立する吸気口が
図5に示され、一方、二段差圧吸気口が
図8に示される。低圧ガスがイオントラップ540中に拡散し、VUV源550がトラップ545のイオン化領域で特定ガス種を直接イオン化する。イオントラップ540が含み得るのは、光電離(PI)源550と、電子衝撃イオン化(EII)を用いるフィラメント560とを含む電離器であって、フィラメント560はPIと平行にまたは連続して用いることができる。EIIは、空気成分と有機化合物の双方をイオン化して、トラップ540がほとんど空気ガスイオンで充満し、有機化合物イオンが空気成分イオンで希釈されるようにする。EIIをPIと連続して用いて、十分な試料がトラップ540中に導入されているかチェックすることができる。イオン化が光電離に切り替わると、有機化合物のみがイオン化されてトラップ540に蓄積され、有機化合物イオン(すなわち、特定イオン種)を濃縮し、EIIに対してのVOCsの検出限界を向上させる。VUV源550とともにレンズを用いて、はっきりと定められたイオン化領域545に光の焦点を合わせ、イオントラップ540に捕捉される特定イオン種の数を最大にする。VUV源550は、イオン化の選択性を増すための複式ランプを含み得、
図5に示されるようにART・MSトラップ540の円筒軸に直交するよう配向されるか、以下に記述されるようにART・MSトラップ540と同軸であり得る。
【0035】
図6に示される、代替として設計されたガス吸入口には、ガスを、VUV源550の焦点領域545中に導く毛細管630が含まれる。毛細管630は、
図6に示されるようにART・MSトラップ540の円筒軸に直交するよう配向されるか、
図7に示されるようにART・MSトラップ540と同軸であり得、
図7では、同軸毛細管730がART・MSトラップの円筒軸と同軸に示されていて、毛細管730がART・MSトラップの円筒軸に直交するよう試料ガス510を導入している。VUV源550も
図7のART・MSトラップ540と同軸に示されている。毛細管730はまた、ピンホールかスキマーであり得る。
【0036】
図8に示される、代替として設計されたVUV源には、空気を大気圧でサンプリングするのに用いることができ、二段に異なったポンピングが施されたサンプリングシステムにおける二つのVUV源850および855が含まれる。特定ガス種を含む空気が、ポンプ870によって維持されて2、3トルからミリトルのレベルであり得る中間圧を有するチャンバー860中に導入される。そのガスは、ランプ850および855からのVUV光によってイオン化され、形成されたイオンが毛細管830またはスキマーを通ってART・MSトラップ540中に転送される。
【0037】
チャンバー860の中で圧力が低減されると、汚染の蓄積も低減し、
図9に示されるように、イオンレンズまたはイオン漏斗(ion funnel)930の使用が可能となってVUVランプ850および855(それらは、選択性を高めるために相異なるランプであり得る)の配置における柔軟性が高まる。チャンバー860はまた、SPIによっては効率的にイオン化されない特定ガス種からチャンバー860内にイオンを作り出すコロナ放電を含み得る。
図9に示される設計において、空気試料が、中間チャンバー860中に(膜型ポンプまたはターボポンプの段間のような真空ポンプ870を用いて)差動排気で約1トルから約30トルまでの範囲内の圧力で送り込まれる。毛細管935から流出するガスが、VUVランプ850および855によってイオン化され、そのイオンが、イオン漏斗930によってART・MSトラップ540中に結合される。ビームストップ920によって、毛細管935から流出する電気的に中性の粒子(neutrals)が直接イオン漏斗930の開口940に到達することはないが、イオンは、ビームストップ920を回避して、ART・MSトラップ540中への転送のために開口940中に焦点が合わされる(開口940中に集中する)。
【0038】
全有機化合物(TOC)の検出のために、
図5から
図9に示される前述の設計を用いて得られる質量スペクトルのデータ処理には、45amuを超える質量でのピークについて、トラックから放出される電荷を時間で積分することが含まれる(
図4に示される質量スペクトルを参照)。パーセントTOC(TOC%)は、全電荷に対するTOC電荷の比率であって、全スペクトルについての電荷を時間で積分することによって得られる。絶対TOC部分圧は、TOC%に、例えば、電離真空計を用いて測定した全圧を掛けたものである。
【0039】
ART・MSデバイスのSNRを改善するさらに別の方法(手段)では、特定イオン種を放出するための前記スキャンに先立って、またはそれに代えて、特定イオン種を放出するための励起周波数の前記スキャンに先立って、
図5に示されるスキャン制御器547とAC励起源546とを用いて特定ガス種以外のガスを捕捉して放出するとともに、特定イオン種をあらかじめ捕捉してあらかじめ放出することによって、かつ選択的に、あらかじめ放出された特定イオン種を
図12に示される第二の電極構造1220に閉じ込めて、特定イオン種を第二の電極構造に優先的に蓄積することによって、特定イオン種を濃縮し、特定イオン種を放出する前記スキャンは、あらかじめ放出された特定イオン種をさらに放出する。この装置において、すべてのイオンはまず、第一のトラップ1210に蓄積され、特定イオン種のみが、特定イオンの固有周波数に焦点を当てたAC励起スキャンを用いて第二のトラップ1220に転送される。第一のトラップ1210で励起された特定イオンは、それらの振幅とエネルギーが増大するために、格子プレート1217上の格子構造に到達し、横断して右側に渡る。第一のトラップ1210でAC励起が繰り返しスキャンされるにつれ、第二のトラップ1220に蓄積される特定イオンが増加する。この方法論のバリエーションには、独立した二つの特定イオン種を、それらの相対的な濃度に応じた(proportional to )蓄積時間だけ、すなわち、最も低濃度の特定イオン種についてはより長い蓄積時間だけ、そしてより高濃度の特定イオン種についてはより短い蓄積時間だけ、トラップに同時に蓄積する可能性が含まれる。この態様の作動のもとでは、より高濃度の特定イオン種は、前記検出限界に到達するのにより長い積分時間を必要とするより低濃度の種よりも、より高い頻度で放出される。より精巧な計器機構も
図12に示されるようなタンデム構造を伴うが、そこでは、特定イオン種を蓄積するのに単一トラップが用いられ、そして特定イオン種は、集束レンズとイオンを方向付ける偏向器とを用いて、第二の多重平行トラップに選択的に放出される。このアプローチにおいて、独立した特定イオン種が専用の第二トラップに蓄積され、第二トラップは続いて、イオン濃度が検出限界を超えるレベルに到達するときにスキャンされる。
図12に示されるような第二のトラップにおいてより急速にイオンを蓄積する代替の方法は、同じ特定イオン種を蓄積し、これらのイオンのみを単一の第二のトラップに供給してイオン蓄積の速度を高め、その第二のトラップにおける充填時間を短縮する(accelerate)多重平行第一トラップの使用を伴い得る。さらには、三つ以上のトラップをタンデムに(直列に)用いることもでき、後側のトラップは、イオンを一つのトラップから次のものに移動させるためのAC励起を用いて特定イオンを蓄積するのに用いられる。いったんトラップがイオンで充填されると、AC励起を用いてイオンを一つずつ検出器へと移す。
【0040】
ART・MSデバイス内の目的の微量ガスの特定イオン種を連続するイオン充填で濃縮する一つのアプローチは、RF励起周波数を、少なくとも一つのRFノッチで、すなわち、
図10に示されるように、少なくとも一つの目的の微量ガスの放出周波数に対応する少なくとも一つの周波数でゼロまたはゼロに近いRF振幅になるように、急速にスキャンすることによる。ノッチ以外のRF振幅は、標準振幅よりも高くて、高周波スイープ速度においても目的の微量ガス以外のイオンが効率的にART・MSから放出され得る。スキャン間(スキャンとスキャンの間)でイオン数がすぐ満杯にならないようにスイープ速度を上昇させ、かつスキャン間でイオン形成の速度が低下するように電子放出流も低減される。このスキャンプロセスが数回繰り返されると、目的の微量ガスのイオン(すなわち、トラップから放出されないイオンのみ)の濃度が、他のすべてのイオンの濃度に対して上昇する。ノッチの入ったRF励起スキャンのいくつかのサイクルの後、微量ガスイオンの放出周波数を中心とする最後のRF励起スキャンによって、目的の微量ガスについてART・MSデバイスのSNRが改善する。
【0041】
前記RF励起スキャン方法の代案は、それをトラップのパルス状充填と結び付けることである。
図11に示されるフローチャート1100で例示されるこの方法において、ステップ1110でトラップが所定時間イオンで充填され、そしてステップ1120でノッチの入った濃縮スイープが行われて目的の微量ガスイオン以外のイオンを放出する。目的の微量ガスイオンは、二つ以上の質量からなり得ることに注意する。パルス状充填のプロセスとそれに続くノッチの入った濃縮スイープは数回繰り返し得る。パルス状充填によって、各パルスでトラップに導入されるイオンの数を制御することが可能になり、それによってスキャン間の荷電飽和を回避できる。パルス状充填とノッチの入った濃縮スキャンとを数サイクル行うと、目的の微量ガスイオンの濃度が他の種に対して高まる。ノッチの入った濃縮スキャンのRF振幅を増大させて放出効率を高めることができる。この濃縮ステップの終わりに、それ以上のイオンをトラップに導入せずに、ステップ1130での最後のAC励起周波数スイープによってトラップから目的の微量ガスイオンを放出し、それに続いてステップ1140で検出を行う。
【0042】
パルス状充填方法について調整できるパラメーターには、1)各サイクルでトラップに導入されるイオンの数を制御する充填時間と電子放出電流、2)ノッチの入った濃縮スイープについてのスキャン時間とRF振幅、3)制御されたイオン充填直後のノッチの入った濃縮スイープの回数、4)微量ガス放出スイープのRF振幅、スイープ時間および周波数範囲が含まれる。
【0043】
図12に示されるように、微量ガス放出スイープを用いて、目的の微量ガスイオンを第二のトラップに送り込むことができる。タンデムトラップART・MSデバイス1200は、直列に接続されている第一のトラップ1210と第二のトラップ1220とを含む。第一トラップ1210と第二のトラップ1220は、それぞれ独立してイオンを蓄積でき、イオンを放出できる第一のRF源1215、第二のRF源1225を有する。デバイス1200を用いて、目的の微量ガスイオンの放出周波数を中心とする狭い周波数スイープで、第一のトラップ1210(一般蓄積トラップ)から第二のトラップ1220(選択的蓄積トラップ)に転送される個々のイオン質量が選択できる。複数のイオン質量を含み得る、目的の微量ガスイオンの、第一のトラップ1210から第二のトラップ1220への選択的な転送のサイクルを2、3回行った後、最後の周波数スイープを第二のRF源1225で適用し、蓄積された目的の微量ガスイオンを放出して検出器1230で検出することができる。タンデムトラップデバイス1200は、連続的にまたはパルス状に充填して使用できる。第一のトラップ1210から第二のトラップ1220へのイオンの転送は簡単に起こるが、それは、RF源1215が提供する励起周波数スキャンによって特定イオンのエネルギーが励起され、そのイオンをプレート1217の格子に近づけることで、第二のトラップ1220にイオンを送って蓄積することが可能となるからである。プレート1217への電圧を時間によって変えることにより、イオンを第二のトラップ1220に送り込む必要があるときに格子電圧を下げ、イオンがいったん送り込まれて蓄積されると再び上昇させて、格子プレート1217を電子イオンバルブとして作動させることができる。検出器1230につながる出口プレート1228の電圧も、第二のトラップ1220からのイオンの放出に先立って変えることができ、蓄積されたすべてのイオンが検出器1230に向かって出て行き、プレート1217で失われてしまったり、第一のトラップ1210に送り返されたりしていないことを確実にできる。
【0044】
本明細書で引用されたすべての特許、公開された出願および参考文献の関連する教示部分は、援用することでその全体が本明細書に組み入れられる。
【0045】
本発明は、その代表的な実施形態を参照して詳しく示され、説明されているが、添付した特許請求の範囲で限定される発明の範囲から逸脱することなく、その形状や詳細に様々な変化を加えることが可能であることが当業者には理解される。
なお、本発明は、実施の態様として以下の内容を含む。
[態様1]
イオントラップにおいて特定ガス種を検出する方法であって、前記特定ガス種は、最初、ある容量のガス中で第一低濃度の微量成分であり、
i)前記特定ガス種を含む前記ガスをイオン化し、それによって特定イオン種を生成すること、
ii)前記特定イオン種が前記イオントラップに閉じ込められて、第一および第二の対向するミラー電極とそれらの間の中央レンズ電極とを含む電極構造において、固有周波数で軌道に収まる静電ポテンシャルを生成すること、
iii)閉じ込められた前記特定イオン種を、励起周波数を有するAC励起源で励起すること、
iv)前記AC励起源の前記励起周波数をスキャンして、前記特定イオン種を前記イオントラップから放出すること、および
v)放出された前記特定イオン種を検出すること
を備え、
前記励起周波数をスキャンして前記特定ガス種のイオンを放出するのに先立って、前記イオントラップ内の前記特定イオン種の濃度を前記第一低濃度に対して高めることをさらに備える方法。
[態様2]
前記特定ガス種の濃度を高めることが、前記特定ガス種以外のガス種の選択的除去を含む態様1に記載の方法。
[態様3]
前記選択的除去が、前記特定イオン種を放出する前記スキャンに先立って、前記特定ガス種以外の前記ガス種を捕捉して放出することによる態様2に記載の方法。
[態様4]
前記特定ガス種以外の前記ガス種の前記選択的除去が、非蒸発性ゲッターでの前記特定ガス種以外の前記ガス種の選択的収着を含む態様2に記載の方法。
[態様5]
前記特定ガス種の濃度を高めることが、非蒸発性ゲッターでの前記特定ガス種の選択的収着と、それに続く前記非蒸発性ゲッターからの前記特定ガス種の脱着を含む態様1に記載の方法。
[態様6]
前記特定ガス種のイオン化が、前記特定イオン種の濃度を高めるための前記特定ガス種の選択的光電離を含む態様1から5のいずれか一態様に記載の方法。
[態様7]
前記特定ガス種の電荷を時間の関数として積分することによるデータ処理をさらに含む態様6に記載の方法。
[態様8]
前記光電離が、約8eVから約12eVまでの範囲内のエネルギーでの真空紫外光子によるものである態様6に記載の方法。
[態様9]
前記特定イオン種を放出するための前記励起周波数の前記スキャンに先立って、前記特定イオン種をあらかじめ捕捉し、あらかじめ放出することによって前記特定イオン種を濃縮することをさらに備える態様1に記載の方法。
[態様10]
あらかじめ放出された前記特定イオン種を第二電極構造に閉じ込め、それによって前記特定イオン種を前記第二電極構造に優先的に蓄積することをさらに含み、前記特定イオン種を放出する前記スキャンが、あらかじめ放出された前記特定イオン種をさらに放出する態様9に記載の方法。
[態様11]
前記イオントラップを所定量のガスで充満することをさらに含む態様1から10のいずれか一態様に記載の方法。
[態様12]
イオントラップにおいて特定ガス種を検出する装置であって、前記特定ガス種は、最初、ある容量のガス中で第一低濃度の微量成分であり、
i)前記特定ガス種を含む前記ガスをイオン化し、それによって特定イオン種を生成する電離器、
ii)前記特定イオン種が前記イオントラップに閉じ込められて固有周波数で軌道に収まる静電ポテンシャルを生成する電極構造であって、第一および第二の対向するミラー電極とそれらの間にある中央レンズ電極とを含む電極構造、
iii)閉じ込められた前記特定イオン種をAC励起周波数で励起するAC励起源、
iv)前記AC励起源の前記励起周波数をスキャンして、前記特定イオン種を前記イオントラップから放出するスキャン制御器、および
v)放出された前記特定イオン種を検出する検出器
を備え、
前記スキャン制御器が前記励起周波数をスキャンして前記特定ガス種のイオンを放出するのに先立って、前記イオントラップ内の前記特定イオン種の濃度を前記第一低濃度に対して高める装置。
[態様13]
前記特定ガス種以外のガス種の選択的収着によって、前記特定ガス種以外の前記ガス種を除去する非蒸発性ゲッターをさらに含む態様12に記載の装置。
[態様14]
前記特定ガス種が水素であり、選択的収着によって水素の濃度を高め、続いて水素を脱着する非蒸発性ゲッターをさらに含む態様12に記載の装置。
[態様15]
前記スキャン制御器が、前記特定イオン種を放出する前記スキャンに先立って、前記特定ガス種以外のガス種を捕捉して放出する態様12から14のいずれか一態様に記載の装置。
[態様16]
前記電離器が、前記特定イオン種の濃度を高める選択的光電離源を含む態様12から15のいずれか一態様に記載の装置。
[態様17]
前記光電離源が、約8eVから約12eVまでの範囲内のエネルギーで真空紫外光子を放射する態様16に記載の装置。
[態様18]
前記検出器が、前記特定ガス種の電荷を時間の関数として積分する態様16に記載の装置。
[態様19]
前記スキャン制御器が前記励起周波数をスキャンして前記特定イオン種を放出するのに先立って、あらかじめ放出された前記特定イオン種を閉じ込め、それによってあらかじめ捕捉されかつあらかじめ放出された前記特定イオン種を濃縮する第二の電極構造をさらに備える態様12に記載の装置。