(54)【発明の名称】リチウム電池のカソードに用いるためのリン酸マンガン鉄リチウム系粒子、これを含有するリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料、およびその粉末材料を製造する方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来のリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料は、平均粒子径が300nmよりも大きく比表面積が比較的小さい複数の一次粒子を含有する。このようなリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を用いて製造されたカソードを有するリチウム電池は、商業的な要求を満たす熱安定性及び充放電サイクル安定性を有する。しかしながら、従来のリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料は、その真性導電率が比較的低いため、これを用いて製造されるリチウム電池は、エネルギー密度や大電流放電能力が不十分となる。
【0003】
従来のリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料の電気化学的特性の向上を目的として、平均粒子径が100nm以下の複数の一次粒子を含有するリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料が製造されており、その電子伝導距離の短縮によって、リン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料の導電性の向上が図られている。これを用いて製造されたリチウム電池は、電気容量及び放電特性が効果的に向上し、エネルギー密度が比較的高くなるが、このようなナノスケールの平均粒子径を有するリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料は比表面積が増加するので、結果としてリチウム電池におけるカソードと電解液との反応面積が増加し、高温でのリチウム電池の熱安定性及び充放電サイクル安定性の低下に繋がることになる。
【0004】
リチウム電池のカソード用粒子材料に関しては、これを開示する他の関連文献が幾つかある。中でも、米国特許出願公開第2015/0311527号は、マンガン含有量が高く、ドーパント金属の量が少ない粒子状LMFP(リン酸マンガン鉄リチウム)カソード材料を開示している。このカソード材料は、好ましくは一次粒子の粒子径が200nm以下である。
【0005】
また、中国特許出願公開第102702954号は、カソード材料LiMn
1‐xFe
xPO
4/Cの製造方法を開示している。この方法は、カソード材料LiMn
1‐xFe
xPO
4/Cを得るために、A源とリチウム源および炭素源とを混合して反応させることを含む。A源に含まれるマンガン、鉄、およびリンのモルストイキ比(molar stoichiometric ratio)(Mn:Fe:P)は0.45〜0.85:0.55〜0.15:1である。中国特許出願公開第102702954号の実施例2および4で製造されるカソード材料は、粒子径が100nm〜120nmである。
【0006】
さらに、米国特許第9293766号は、複数の二次粒子を含むリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物カソード材料を開示している。各二次粒子は、微細な一次粒子の凝集体からなり、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、各二次粒子における表面からコアに向かって、一次粒子の化学組成が異なる構造を有する。このようなリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物カソード材料においては、二次粒子の表面に近いマンガンリッチな一次粒子と、コアにおけるニッケルリッチな一次粒子とが、高い安全性と高い容量といった利点をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の第1の目的は、前述の欠点を克服するための、リチウム電池のカソードに用いるためのリン酸マンガン鉄リチウム系粒子を提供することにある。
【0009】
本開示の第2の目的は、複数のリン酸マンガン鉄リチウム系粒子を含むリチウム電池のカソードに用いるためのリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を提供することにある。
【0010】
本開示の第3の目的は、リン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の第1の態様によれば、リチウム電池のカソードに用いるためのリン酸マンガン鉄リチウム系粒子が提供される。当該リン酸マンガン鉄リチウム系粒子は、コア部分と、シェル部分とを含む。前記コア部分は、互いに結合していて且つ第1の平均粒子径を有する複数の第1のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子を含有する。前記シェル部分は、前記コア部分を包囲していて、且つ、互いに結合していて且つ前記コア部分の前記第1のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子の前記第1の平均粒子径よりも大きい第2の平均粒子径を有する複数の第2のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子を含有する。
【0012】
本開示の第2の態様によれば、複数のリン酸マンガン鉄リチウム系粒子を含有する、リチウム電池のカソードに用いるためのリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料が提供される。
【0013】
本開示の第3の態様によれば、リチウム電池のカソードに用いるためのリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を製造する方法が提供される。当該方法は、
(a)リチウム源、マンガン源、鉄源、リン源を含有する混合物を用意し、
(b)前記混合物を製粉およびペレット化してペレット化混合物を形成し、
(c)前記ペレット化混合物を300℃〜450℃の温度で予備焼結処理して予備焼結プリフォームを形成し、
(d)前記予備焼結プリフォームを450℃〜600℃の温度で中間焼結処理して中間焼結プリフォームを形成し、
(e)前記中間焼結プリフォームを600℃〜800℃の温度で最終焼結処理してリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を形成する、ことを含む。
【0014】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照する以下の実施形態の詳細な説明において明白になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で使用される用語「リチウム電池」は、リチウム一次電池とリチウムイオン二次電池を含む。本開示に係るリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料は、リチウム一次電池またはリチウムイオン二次電池のカソードを作製するのに有用である。具体的には、本開示に係るリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料は、リチウムイオン二次電池のカソードを作製するのに有用である。
【0017】
本開示によるリチウム電池のカソードに用いるためのリン酸マンガン鉄リチウム系粒子は、コア部分とシェル部分を含む。コア部分は、互いに結合していて且つ第1の平均粒子径を有する複数の第1のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子を含有する。シェル部分は、コア部分を包囲していて、互いに結合していて且つコア部分の第1のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子の第1の平均粒子径より大きい第2の平均粒子径を有する複数の第2のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子を含有する。
【0018】
特定の実施形態において、リン酸マンガン鉄リチウム系粒子のコア部分の第1のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子の第1の平均粒子径は、リン酸マンガン鉄リチウム系粒子を含むリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料の電子伝達速度及び質量移動速度を高めるために30nm〜150nmの範囲にある。
【0019】
特定の実施形態において、リン酸マンガン鉄リチウム系粒子のシェル部分の第2のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子の第2の平均粒子径は、リン酸マンガン鉄リチウム系粒子を含むリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料の比表面積をより減らすために、150nm〜400nmの範囲にある。
【0020】
特定の実施形態において、リン酸マンガン鉄リチウム系粒子のコア部分の第1のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子は、リン酸マンガン鉄リチウム系粒子のシェル部分の第2のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子と同じ組成を有する。
【0021】
特定の実施形態において、第1と第2のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子はそれぞれ以下の組成を有し、
Li
xMn
1‐y‐zFe
yM
zPO
4
ここで、
0.9 ≦ x ≦ 1.2、
0.1 ≦ y ≦ 0.4、
0 ≦ z ≦ 0.1、
0.1 ≦ y+z ≦ 0.4、であり、且つ、
Mは、Mg、Ca、Sr、Co、Ti、Zr、Ni、Cr、Zn、Al、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるものである。
【0022】
特定の実施形態では、リン酸マンガン鉄リチウム系粒子のコア部分の第1のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子は焼結により互いに結合しており、リン酸マンガン鉄リチウム系粒子のシェル部分の第2のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子もまた焼結により互いに結合している。
【0023】
本開示に係るリチウム電池のカソードに用いるためのリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料は、複数のリン酸マンガン鉄リチウム系粒子を含有する。
【0024】
特定の実施形態において、リン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料に含まれるリン酸マンガン鉄リチウム系粒子は、平均粒子径が0.6〜20μmの範囲にある。
【0025】
特定の実施形態において、リン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料は、比表面積が5m
2/g〜30m
2/gの範囲にある。
【0026】
特定の実施形態において、リン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料は、タップ密度が0.5g/cm
3より大きい。
【0027】
本開示に係るリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を製造する方法は、
(a)リチウム源、マンガン源、鉄源、リン源を含有する混合物を用意し、
(b)前記混合物を製粉およびペレット化してペレット化混合物を形成し、
(c)前記ペレット化混合物を300℃〜450℃の温度で予備焼結処理して予備焼結プリフォームを形成し、
(d)前記予備焼結プリフォームを450℃〜600℃の温度で中間焼結処理して中間焼結プリフォームを形成し、
(e)前記中間焼結プリフォームを600℃〜800℃の温度で最終焼結処理してリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を形成する、ことを含む。
【0028】
特定の実施形態において、リン源は水溶性である。リン源の例としては、これらに限らないが、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。また、特定の実施形態において、リチウム源はリン酸である。
【0029】
特定の実施形態において、マンガン源の例としては、これらに限らないが、酸化マンガン、シュウ酸マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガンが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。また、特定の実施形態において、マンガン源は酸化マンガンである。マンガン源は、リン源1モルに対して0.6モル〜0.9モルの範囲の量で使用される。
【0030】
特定の実施形態において、鉄源の例としては、これらに限らないが、シュウ酸鉄、酸化鉄、鉄、硝酸鉄、および硫酸鉄が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。特定の実施形態において、鉄源はシュウ酸鉄である。鉄源は、リン源1モルに対して0.1モル〜0.4モルの範囲の量で使用される。
【0031】
特定の実施形態において、リチウム源の例としては、これらに限らないが、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウムおよびシュウ酸リチウムが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。特定の実施形態では、リチウム源は炭酸リチウムである。リチウム源は、リン源1モルに対して0.9モル〜1.2モルの範囲の量で使用される。
【0032】
特定の実施形態において、上記混合物は、Mg、Ca、Sr、Co、Ti、Zr、Ni、Cr、Zn、Al、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される追加の金属源を更に含有する。追加の金属源は、製造されるリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料の構造安定性を高めるために使用される。特定の実施形態において、追加の金属源はマグネシウム源である。追加の金属源は、リン源1モルに対して0.01モル〜0.1モルの範囲の量で使用される。
【0033】
特定の実施形態において、上記混合物は、還元剤として使用される炭素源をさらに含有する。炭素源の例としては、これらに限らないが、グルコース、クエン酸、SUPER P カーボンブラックが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0034】
特定の実施形態において、上記混合物は、必要に応じて溶媒をさらに含有することができる。溶媒の非限定的な例は水である。溶媒の量に制限はない。溶媒の量は、上記金属源および炭素源の量に応じて調整すればよい。
【0035】
特定の実施形態において、上記混合物は、例えば、ボールミルを用いて、800rpm〜2400rpmの範囲の回転速度で、1時間〜5時間粉砕される。その後、上記混合物を、スプレー造粒機にて160℃〜210℃の入口温度でペレット化する。
【0036】
上記混合物の粉砕およびペレット化のための上記の方法は単なる例示に過ぎず、それらに限定するものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。
【0037】
特定の実施形態において、300℃〜450℃の温度での予備焼成処理は、例えば6時間〜12時間行われる。
【0038】
特定の実施形態において、450℃〜600℃の温度での中間焼結処理は、例えば2時間〜6時間行われる。
【0039】
特定の実施形態において、600℃〜800℃の温度での最終焼結処理は、例えば2時間〜6時間行われる。
【0040】
以下、本発明の実施例について説明する。これらの実施例は、例示的かつ説明的なものであり、本発明を限定するものと解釈されるべきではないことを理解されたい。
【0041】
実施例1:
酸化マンガン、シュウ酸鉄、酸化マグネシウム、リン酸を、0.8:0.15:0.05:1.0のモル比で、適量の水中に30℃以上の温度で1時間混合した後、リン酸に対する炭酸リチウムのモル比が1.02〜1.00となるよう炭酸リチウムと混合し、その後適切な量のグルコースと混合して混合物を得た。この混合物をボールミルで4時間粉砕し、粉砕混合物を得た。粉砕混合物を噴霧造粒機を用いて入口温度200℃で造粒してペレット化した混合物を得た。ペレット化した混合物をベル型炉で窒素雰囲気下において450℃で10時間予備焼結処理して予備焼結プリフォームを形成した。予備焼結プリフォームをベル型炉において600℃で2時間中間焼結処理して中間焼結プリフォームを形成した。そして、この中間焼結プリフォームをベル型炉において750℃で3時間最終焼結処理してから室温(25℃)まで冷却することにより、比表面積が18.1m
2/gでありタップ密度が1.21g/cm
3となったリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を形成した。
【0042】
このようにして形成された実施例1のリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を走査型電子顕微鏡(日立SU8000)を用いて観察して
図1及び
図2に示す画像を得た。
図1及び
図2に示されるように、リン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料に含まれるリン酸マンガン鉄リチウム系粒子は、平均粒子径が50nmである複数のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子を焼結することにより形成されたコア部分と、平均粒子径が400nmである複数のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子を焼結することにより形成されたシェル部分とを含有する。第1と第2のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子の組成は、Perkin Elmer Optima 7000DVシステムを用いて分析した結果、Li
1.02Mn
0.8Fe
0.15Mg
0.05PO
4であった。
【0043】
比較例1:
酸化マンガン、シュウ酸鉄、酸化マグネシウム、リン酸を、0.8:0.15:0.05:1.0のモル比で、適量の水中に30℃以上の温度で1時間混合した後、リン酸に対する炭酸リチウムのモル比が1.02〜1.00となるよう炭酸リチウムと混合し、その後適切な量のグルコースと混合して混合物を得た。この混合物をボールミルで3時間粉砕し、粉砕混合物を得た。粉砕混合物を噴霧造粒機を用いて入口温度200℃で造粒してペレット化した混合物を得た。ペレット化した混合物をベル型炉で窒素雰囲気下において450℃で8時間予備焼結処理して予備焼結プリフォームを形成した。そして、予備焼結プリフォームをベル型炉において650℃で6時間最終焼結処理してから室温(25℃)まで冷却することにより、比表面積が26.3m
2/gでありタップ密度が1.12g/cm
3となったリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を形成した。
【0044】
このようにして形成された比較例1のリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を走査型電子顕微鏡(日立SU8000)を用いて観察して
図3及び
図4に示す画像を得た。
図3及び
図4に示されるように、リン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料に含まれるリン酸マンガン鉄リチウム系粒子は、平均粒子径が70nmである複数のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子を焼結することにより形成されたものであり、コアシェル構造を有しない。リン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子の組成は、Perkin Elmer Optima 7000DVシステムを用いて分析した結果、Li
1.02Mn
0.8Fe
0.15Mg
0.05PO
4であった。
【0045】
比較例2:
酸化マンガン、シュウ酸鉄、酸化マグネシウム、リン酸を、0.8:0.15:0.05:1.0のモル比で、適量の水中に30℃以上の温度で1時間混合した後、リン酸に対する炭酸リチウムのモル比が1.02〜1.00となるよう炭酸リチウムと混合し、その後適切な量のグルコースと混合して混合物を得た。この混合物をボールミルで2時間粉砕し、粉砕混合物を得た。粉砕混合物を噴霧造粒機を用いて入口温度200℃で造粒してペレット化した混合物を得た。ペレット化した混合物をベル型炉で窒素雰囲気下において450℃で8時間予備焼結処理して予備焼結プリフォームを形成した。そして、予備焼結プリフォームをベル型炉において750℃で6時間最終焼結処理してから室温(25℃)まで冷却することにより、比表面積が14.2m
2/gでありタップ密度が1.15g/cm
3となったリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を形成した。
【0046】
このようにして形成された比較例2のリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を走査型電子顕微鏡(日立SU8000)を用いて観察して
図5及び
図6に示す画像を得た。
図5及び
図6に示されるように、リン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料に含まれるリン酸マンガン鉄リチウム系粒子は、平均粒子径が250nmである複数のリン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子を焼結することにより形成されたものであり、コアシェル構造を有しない。リン酸マンガン鉄リチウム系ナノ粒子の組成は、Perkin Elmer Optima 7000DVシステムを用いて分析した結果、Li
1.02Mn
0.8Fe
0.15Mg
0.05PO
4であった。
【0047】
特性評価:
実施例1、比較例1、比較例2で形成したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を用いて、以下の手順でそれぞれCR2032コイン型リチウム電池を作製した。
【0048】
グラファイトとカーボンブラックとの組み合わせであるリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料と、ポリフッ化ビニリデンとを93:3:4の質量比で混合して混合物を得た。この混合物をN-メチル-2-ピロリドン(6g)と混合してペーストを得た。このペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔に塗布し、加熱台上で予備焼成し、さらに真空中で焼成してN-メチル-2-ピロリドンを除去することにより、カソード材料を得た。このカソード材料をプレスし、直径12mmのコイン型カソードを切り出した。
【0049】
また、リチウム金属を用いて、厚さ0.3mm、直径1.5cmのアノードを作製した。
【0050】
ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6、1M)を、1:1:1の体積比のエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートからなる溶媒系に溶解させて電解液を得た。
【0051】
このようにして作製したカソード、アノード、電解液を用いてCR2032コイン型リチウム電池を作製した。
【0052】
作製した各CR2032コイン型リムウム電池を以下の評価方法で分析した。
【0053】
1.充放電容量試験:
CR2023コイン型リチウム電池の放電容量を電流0.1C、電圧2.7V〜4.25Vで測定した結果を
図7に示す。
【0054】
2.放電Cレート試験:
充電電流1.0C、電圧2.7V〜4.25Vにおける、各CR2023コイン型リチウム電池の、放電電流0.1C、1.0C、5.0C、10.0Cでの初期放電能力を測定した。その結果を
図8に示す。
【0055】
3.サイクル寿命試験:
各CR2023コイン型リチウム電池を、55℃、定電流2.0C、電圧2.7V〜4.25Vで、200回の充放電サイクル後に測定した。その結果を
図9に示す。
【0056】
4.熱分析(安全)試験:
各CR2023コイン型リチウム電池を、4.25Vの電圧まで充電してから、分解してカソードを得た。カソードからリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を削り取った。リン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料3mgをアルミニウム製るつぼに入れた。その後、アルミニウム製るつぼに電解液(3μm)を加えて密閉した。示差走査熱量計(パーキンエルマーDSC7)を用い、昇温速度5℃/分、走査温度200℃〜350℃で熱分析を行った。その結果を
図10に示す。5%重量損失温度を熱分解温度(Td)として記録した。
【0057】
図7に示すように、実施例1で作製したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を用いて製造したCR2032コイン型リチウム電池は、放電容量が146.7mAh/gであった。一方、比較例1で作製したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を用いて製造したCR2032コイン型リチウム電池は、放電容量が144.2mAh/gであり、比較例2で作製したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を用いて製造したCR2032コイン型リチウム電池は、放電容量が132.8mAh/gであった。
【0058】
図8に示すように、実施例1で作製したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を用いて製造したCR2032コイン型リチウム電池の放電電流0.1C、1.0C、5.0C、10.0Cにおける各放電容量は、比較例1または比較例2で作製したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を用いて製造したCR2032コイン型リチウム電池の同各放電容量と比較して相対的に高かった。さらに、実施例1で作製したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を用いて製造したCR2032コイン型リチウム電池においては、放電電流10Cでの容量は、放電電流0.1Cでの容量の75%であった。一方、比較例1または比較例2で作製したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を用いて製造したCR2032コイン型リチウム電池においては、放電電流10Cでの容量は、放電電流0.1Cでの容量のそれぞれ68%、47%であった。
【0059】
図9に示すように、実施例1で作製したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を用いて製造したCR2032コイン型リチウム電池の200回の充放電サイクル後の容量は、初期容量の97%であった。一方、比較例1で作製したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を用いて製造したCR2032コイン型リチウム電池の200回の充放電サイクル後の容量は、初期容量の82%であった。また、比較例2で作製したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料を用いて製造したCR2032コイン型リチウム電池の200回の充放電サイクル後の容量は、初期容量の98%であった。
【0060】
図10に示すように、各CR2032コイン型リチウム電池を4.25Vまで充電した後の、実施例1、比較例1、比較例2で作製したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料からの放熱量は、それぞれ84.5J/g、192.9J/g、112.7J/gであった。また、実施例1で作製したリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料の熱分解温度(Td)を測定したところ、286.1℃であった。
【0061】
以上のように、特定のコアシェル構造が形成されたリン酸マンガン鉄リチウム系粒子を含有する本発明のリン酸マンガン鉄リチウム系粉末材料は、高エネルギー密度、良好な熱安定性、優れた充放電サイクル安定性を有するリチウム電池の製造に利用することができる。
【0062】
上記においては、本発明の全体的な理解を促すべく、多くの具体的な詳細が示された。しかしながら、当業者であれば、一またはそれ以上の他の実施形態が具体的な詳細を示さなくとも実施され得ることが明らかである。また、本明細書における「一つの実施形態」「一実施形態」を示す説明において、序数などの表示を伴う説明は全て、特定の態様、構造、特徴を有する本発明の具体的な実施に含まれ得るものであることと理解されたい。更に、本説明において、時には複数の変化例が一つの実施形態、図面、またはこれらの説明に組み込まれているが、これは本説明を合理化させるためのもので、また、本発明の多面性が理解されることを目的としたものである。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施形態及び変化例を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、最も広い解釈の精神および範囲内に含まれる様々な構成として、全ての修飾および均等な構成を包含するものとする。