【文献】
「JSCA 201010 1/3 特集『実験で再現する地盤の液状化』」,YouTube [online] [video],2011年 3月18日,主に0:08〜0:30を参照。,[2019年9月26日検索],インターネット<URL:https://www.youtube.com/watch?v=0quIEsMJjUU>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
マグマの上昇や水中における砂粒子の沈降、気流、降雨など、比重は、地球科学的現象を制御する極めて重要な要素の1つである。その最たるものが地球の比重に基づく層構造(比重層構造)である。地球は比重に応じた層構造(深部から浅部に向けて順に、核、マントル、地殻、海、大気)を成している。もしこの層構造の成り立ちへの理解に資する模型等を開発することができれば、小学校第6学年で学ぶ単元「土地のつくりと変化(非特許文献1)」や中学校の単元「大地の成り立ちと変化(非特許文献2)」等の教材として、教育現場で広く利用できるであろう。また、博物館や科学館等の社会学習施設の展示物や土産品としての利用も考えられる。
【0003】
これまでに比重が関与する地質現象を意識したモデル実験や教材は幾つか提案されている。しかし、それらは海に氷塊が浮かんだ状態に類する「地殻とマントルの浮力均衡(アイソスタシー)」(特許文献1)や、砂粒子の大きさの違いによって地層が生み出される現象(級化)の形成機構(特許文献2)など、地球の極一部で起こっている比重成層現象であったり、比重に直接関与しない成層現象であったりするため、地球全体を俯瞰した比重層構造を示す模型とは言えない。
【0004】
また、地球内部の層構造(核,マントル,地殻)を意識した断面模型が提案されているが、それらから地球の層構造と比重との関連性を読み取ることは不可能である。例えば、地球儀を複数の立体的なパーツに分割し、地球内部の層構造を立体的に提示することを可能とした発明(特許文献3)や、透明半球内に地球の内部構造(マントルや核等の層)を描いた円板を配置し、疑似的に地球内部の層構造を立体的に提示する教材(特許文献4)があるが、これらは、層構造を単に絵と文字情報によって示しているだけであるため、地球の層構造形成における比重の役割を理解することは不可能である。
【0005】
このように、日常生活とかけ離れた、全体像の視認が困難な数十〜数千キロメートルの空間スケールを持つ対象の成り立ちについては、口頭や図を用いた説明のみで理解を促すことは不可能であり、地学教育上の難点の一つともなっている。したがって、地球の層構造に代表される、壮大な空間スケールを有する対象の理解に有効に資する模型等のモデルも現在存在しない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明品は、透明容器内に地球を構成する層(核,マントル,地殻,海,大気)を象徴する物質を入れ、混合した後に静置することで、比重成層を観察することを可能とする模型等のモデルである。以下、本発明の実施形態について図を用いて詳細に説明する。
【0014】
本発明品の重要かつ独創的な特徴は、地球層構造の各層を象徴する物質として、実際に各層に存在する鉱物等を用いる点と、それらの比重成層が完全に形成される点、さらに、それらの比重成層が短時間に何度でも繰り返し形成される点である。地球を構成する層(核,マントル,地殻,海,大気)のうち、大気は気相で、海は液相であるため、それらは固相に比較して低い粘性を持つ。つまり、大気を象徴する気相物質と海を象徴する液相物質間に比重差があり、互いに不混和であれば、それらの比重成層は短時間(例えば数分間以内)に達成される。しかし、ここに核・マントル・地殻を象徴する複数種の固相物質を加えた場合、比重成層を短時間に形成させるためには下記4つの条件に適合した固相物質を使用することが必須である。
(1)使用する気相物質や液相物質と溶解し合わない固相物質。
(2)使用する気相物質や液相物質よりも比重が大きい固相物質。
(3)核・マントル・地殻をそれぞれ象徴し,かつ,比重差を有する複数種の固相物質。
(4)流動性を持つ固相物質。
【0015】
そこで本発明では、固相物質として粉末状形態にした複数種の天然岩石や天然鉱物を用いることを提案する。これらを気相物質や液相物質と容器に同梱し、混合すると、比重が小さい気相は上部に移動し、複数種の固相物質粉末は液相中を沈降する間に比重分離することによって、容器内に比重成層を形成させることができる。この際、用いる複数種の固相物質粉末は粒径を合わせなければならない。なぜなら、粒子の沈降速度には粒径依存性があるため(非特許文献3)、各層を象徴する固相物質粉末がそれぞれ異なる粒径を有すると、形成された層構造が比重によるものなのか粒径差によるものなのか判断できなくなるためである。
【0016】
次に、本発明品の形状に関する条件について詳細に説明する。本発明品がとりうる形状の一例を
図2に描いた。
図2に示す如く、この例ではポリカーボネート製円筒に5つの物質(石英粉末・かんらん岩粉末・ステンレス粉末・水・空気)を入れてゴム栓で封じ、全体をアクリル製円筒で囲う構成となっている。また、転倒時にアクリル製円筒が破損することを防ぐため、アクリル製円筒の上下端にコルク板を貼付する仕様となっている。当該模型を上下反転させ、縦に静置すると、下から比重が大きい順番(ステンレス粉末・かんらん岩粉末・石英粉末・水・空気)に成層する。この観察から、地球の層構造(核・マントル・地殻・海・大気)が比重に制御されていることを体感することが可能となる。
【0017】
この比重層構造を容器内で明瞭に作り出す条件を決定するため、流体力学的計算を行った。媒体中を移動する粒子には、重力と浮力、粘性抵抗力、慣性抵抗力がはたらいている。粒子にはたらくこれらの力を式に表すと下記数1のようになる(非特許文献3)。
【数1】
ここで、g: 重力加速度、C
v: 媒体の粘性抵抗係数、r: 粒子の半径、v: 粒子の沈降速度または上昇速度、d
1: 粒子の密度、d
2: 媒体の密度、C
i: 慣性抵抗係数である。
図1は、数1に基づき、かんらん岩の主要構成鉱物であるかんらん石が水中を沈降する間に生じる“かんらん石と石英との沈降距離差”および“かんらん石と合金鉄(ステンレス)との沈降距離差”を計算した結果である。この計算において粒子の形状は球形を仮定した。層構造を視認するためには層境界が明瞭に形成される必要がある。固相と液相、または液相と気相の境界は、両者に比重差があれば明瞭な層境界を見せるが、固相同士の境界である石英粉末−かんらん岩粉末間およびかんらん岩粉末−ステンレス粉末間は、これらの粒子が水中を沈降する距離が短いと不明瞭になる場合がある。これらの固相同士の境界が明瞭に形成されるためには、水中を沈降する間に、高い比重を持つ粒子が低い比重を持つ粒子をすべて追い抜いて着底する条件を満たした仕様が必要となる。
図2記載のポリカーボネート製円筒は長さ175 mmであり、粒子が移動できるゴム栓間の距離は160 mmである。固相各層が厚さ10 mmに相当する量であった場合、3つの固相のうち中間に成層するかんらん岩粉末と他の粒子との沈降距離差が20 mm以上あれば比重の順番通りの層構造が形成される。
図1を参照すると、石英とかんらん石の沈降距離差が20 mm以上になる沈降距離は100 mm以上と読み取れる。
【0018】
ただし、数1は、無限の広がりを持つ媒体中に存在する少数の球状粒子の動態を表現する関係式であるため、限られた空間を沈降する多数の不定形粒子の動態を表すものではない。そこで、様々な直径及び長さの円筒容器にて成層構造の形成実験を試み鋭意検討を重ねた結果、
図1から読み取れる、複数粒子が水中を沈降する間に比重分離を起こす理論的な沈降距離では、比重成層構造が不完全になることがわかり(
図3)、その沈降距離を20%以上伸ばすことによって、成層構造を完全な状態にできることを発見した(
図4)。そのため、
図2記載の模型例が有する160 mm沈降距離であれば、完全な層境界が形成される(
図5)。
【0019】
表1は、地球の比重層構造を象徴する物質及びそれらの密度を示したものである。
【表1】
図2では、地球層構造を象徴する物質として空気・水・石英・かんらん岩・ステンレスを記しているが、これに制限されるものではなく、表1に示す鉱物等を使用することが可能である。その場合においても、数1に基づいて粒子が比重成層を起こす理論的な沈降距離を計算し、その値より20%以上長い沈降距離を持つ仕様にすることによって、明瞭な層境界を形成する模型を作成することができる。
【0020】
最後に、
図2記載の本発明品例を製造する方法を手順に沿って説明する。
1.ポリカーボネート製円筒を175 mmに切り出し、断面を磨く。
2.切り出したポリカーボネート製円筒の片端にゴム栓(3号)を取り付ける。
3.フルイを使用し、海砂(石英)とかんらん岩粉末、ステンレス粉末を直径
0.425-0.500 mmに調整する。
4.粒径を調整した各粉末から必要量を量りとってポリカーボネート製円筒に入れる。
5.ポリカーボネート製円筒に水を入れ、もう片端にもゴム栓(3号)を取り付けて封入する。
6.アクリル製円筒を200 mmに切り出し、断面を磨く。
7.タップを使ってアクリル製円筒の片端に雌ネジを切る。
8.アクリル製円筒のもう片端にアクリル製円盤(底板)を接着する。
9.直径30 mm、厚さ10 mmのアクリル製円盤に、旋盤で直径22 mm、深さ5 mmの段差を作り、タップで雄ネジを切る。
10.アクリル製円筒にポリカーボネート製円筒を差し入れ、雄ネジ加工を施したフタをかぶせる。
11.直径40 mm、厚さ10 mmのコルク円盤に、直径30 mm、深さ5 mmの穴を掘り、アクリル製円筒の上下に接着固定する。
【0021】
図2記載の模型例を作成するために使用する材料構成については表2にまとめた。
【表2】
【0022】
本発明品は、形状を柔軟に設定することが可能である。
図2の作成例では長さ225 mmの円筒状としているが、円筒形に限定されるものではなく、多角形や不定形の柱状や板状等、数1や
図1に示した層境界の形成条件に基づき、大きさや形を調整することが可能である。
【実施例1】
【0023】
教育現場における教材利用:本発明品の動作原理は極めて明解であり、
図2記載の本発明品例の場合、製品を持ち上げて上下を反転させると、円筒容器内に詰めた物質(ステンレス粉末・かんらん岩粉末・石英粉末・水・空気)が混ざりつつ、比重の順番に着底するため、
図5に示す如く常に円筒容器内の物質は下方からステンレス粉末・かんらん岩粉末・石英粉末・水・空気の順番に明瞭に別れて成層する。これらの物質はそれぞれ地球の各層を象徴する物質であることから、地球層構造形成において比重が極めて重要な役割を担っていることを体感的に、かつ、瞬時に理解することが可能である。この特徴を活かし、教育現場における教材として利用することができる。
本発明品を教育現場において利用する場合は、観察模型としての視認性だけでなく、安全性や小型化、軽量化への配慮が重要となる。
図2記載の本発明品例は教育現場における好適利用を想定した仕様となっている。施した工夫を以下に説明する。
・初等教育でも使える教材にするため、倒す程度では壊れないよう、上下に耐衝撃用のコルクを配している。衝撃を和らげる機能があればコルク以外の物質でも構わない。
・落下等によって当該模型が破損し、内容物が漏出する場合に備え、日常環境に存在する素材で製作できる仕様にしている。
・アクリル製円筒の端部2つのうち、どちらを上下にしても見た目が変わらないよう、対称性を意識した外観にしている。
・頻繁に運搬される教材として取り扱いやすくするため、A4の長辺(297 mm)より短くなるようにしている。
・手に取って使用する教材であるため、500 mlペットボトルの質量(約0.5 kg)より軽い、約0.2 kgに質量を抑えている。
・原価を抑えるため、円筒部の直径を小さくし、また、内側の円筒には一般的にアクリルよりも安価なポリカーボネートを使用している。
【実施例2】
【0024】
土産品等商品利用:本発明品の材料には、生活環境において化学的に問題が発生する物質を使用していないため、例え破損事故が発生したとしても人体や環境への汚染を心配する必要はなく非常に安全性が高い。したがって、破損事故対策としては一般的な工業製品レベルに抑えることができるため、市民に土産品として市販することが可能である。
【実施例3】
【0025】
展示利用:本発明品は、円筒形に限定されるものではなく、多角形や不定形の柱状や板状等、本発明において発見した層境界の形成条件(数1を用いて計算した理論的沈降距離を20%以上伸ばした仕様)に沿っているのであれば、大きさや形状を柔軟に設定することが可能である。芸術性を備えた形状に設定することや、多人数による観察を想定した大きさ(例えば長さ1000 mm以上)に拡張することも可能である。このような措置が本発明品の性能に影響を与える可能性を見極めるため、円筒形の透明容器を用い、円筒の内径を10 mmから100 mmまで変化させて比重成層実験を繰り返し試みたが、比重成層構造に内径依存性は確認されなかった。
【課題】地球の層構造形成において、比重が深く関与していることを視覚及び触覚の両面から直感的に理解することを可能とする方法及び模型等のモデルを初めて提供すること。
【解決手段】地球の層構造のうち、大気を象徴する気相物質と海を象徴する液相物質に加え、地殻やマントル、核を象徴する粉末状形態の固相物質を使用することですべての物質に流動性を持たせ、流体力学的計算を基にした比重成層実験結果から、比重分離が完全に達成される条件を決定することで、容器内で比重成層を短時間に何度でも再形成させることが可能な模型等のモデルを製作することによって達成される。