特許第6667854号(P6667854)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6667854成形用加飾シートおよびその製造方法、並びに加飾成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6667854
(24)【登録日】2020年2月28日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】成形用加飾シートおよびその製造方法、並びに加飾成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20200309BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20200309BHJP
   B44C 3/02 20060101ALI20200309BHJP
   B41M 3/06 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
   B32B27/00 E
   B32B3/30
   B44C3/02 A
   B41M3/06 Z
   B41M3/06 C
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-243020(P2018-243020)
(22)【出願日】2018年12月26日
【審査請求日】2019年4月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517249118
【氏名又は名称】有限会社長山スクリーン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100124936
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 恵子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 隼人
(72)【発明者】
【氏名】長山 清和
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−120120(JP,A)
【文献】 特開2010−085508(JP,A)
【文献】 特開2006−068947(JP,A)
【文献】 特開2010−082912(JP,A)
【文献】 特表2016−508084(JP,A)
【文献】 特開2017−205992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B41M 3/06
B44C 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状透明基材と、
前記シート状透明基材の視認側とは反対の面において、当該シート状透明基材自体に形成された、または当該シート状透明基材上に他の透明部材を用いて形成された、高さが5μm以上の凸部模様と、
前記凸部模様が設けられた面を被覆し、前記凸部模様に由来する凹凸がその表面に形成された透明な光学調整層と、
前記光学調整層を被覆する着色層とを備え、
前記シート状透明基材、前記透明部材および前記光学調整層はそれぞれ、波長400〜800nmの可視光帯域の全光線透過率が80%以上であり、
前記光学調整層は、前記凸部模様を構成する部材の屈折率より屈折率が0.03以上大きく、且つ該屈折率が1.80以下である第一光学調整層を一層または複数層有する、成形用加飾シート。
【請求項2】
前記第一光学調整層は、有機バインダーを含有する請求項1に記載の成形用加飾シート。
【請求項3】
前記光学調整層は、更に、前記第一光学調整層の屈折率よりも屈折率が0.01以上小さく、且つ該屈折率が1.35以上である第二光学調整層を一層または複数層有し、前記凸部模様と前記第二光学調整層の間に少なくとも一層の前記第一光学調整層が配置されている請求項1又は2に記載の成形用加飾シート。
【請求項4】
前記第二光学調整層は、有機バインダーを含有する請求項3記載の成形用加飾シート。
【請求項5】
前記第一光学調整層と前記第二光学調整層が交互に積層された層からなる請求項3又は4に記載の成形用加飾シート。
【請求項6】
前記着色層は、インキ層からなる請求項1〜5のいずれかに記載の成形用加飾シート。
【請求項7】
シート状透明基材の視認側とは反対の面に高さが5μm以上の凸部模様を形成する工程(A)と、
前記凸部模様に由来する凹凸がその表面に残るように、当該凸部模様が設けられた面に透明な光学調整層を被覆する工程(B)と、
前記光学調整層を着色層により被覆する工程(C)とを備え、
前記工程(A)は、前記シート状透明基材自体に前記凸部模様を形成する工程、または前記シート状透明基材上に他の透明部材を用いて前記凸部模様を形成する工程を含み、
前記工程(B)は、前記凸部模様を構成する部材の屈折率より屈折率が0.03以上大きく、且つ該屈折率が1.80以下である第一光学調整層を一層または複数層形成する工程を含み、
前記シート状透明基材、前記透明部材および前記光学調整層はそれぞれ、波長400〜800nmの可視光帯域の全光線透過率が80%以上である、成形用加飾シートの製造方法。
【請求項8】
前記工程(A)は、(A−1)〜(A−3)のいずれか1つの工程である請求項7に記載の成形用加飾シートの製造方法。
(A−1)前記シート状透明基材の視認側とは反対の面上に透明インキをパターン印刷し、透明な前記凸部模様を形成する工程。
(A−2)前記シート状透明基材の視認側とは反対の面上に透明インキを塗布した後、型押しにより透明な前記凸部模様を形成する工程。
(A−3)前記シート状透明基材の一方の面に型押しにより透明な前記凸部模様を形成する工程。
【請求項9】
前記工程(B)は、更に、前記第一光学調整層の屈折率よりも屈折率が0.01以上小さく、且つ該屈折率が1.35以上である第二光学調整層を一層または複数層形成する工程を更に有し、
前記凸部模様と前記第二光学調整層の間に少なくとも一層の前記第一光学調整層を配置する請求項7又は8に記載の成形用加飾シートの製造方法。
【請求項10】
前記工程(B)は、前記第一光学調整層と前記第二光学調整層を交互に積層する請求項9に記載の成形用加飾シートの製造方法。
【請求項11】
被加飾体と、前記被加飾体の少なくとも一部を被覆する加飾シートとを具備し、
前記加飾シートは、請求項1〜6いずれかに記載の加飾シートである、加飾成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸部模様を有する成形用加飾シートおよびその製造方法に関する。また、前記成形用加飾シートを用いて形成した加飾成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
加飾シートとして、凹凸模様を有する加飾シートが知られている。例えば、表面に凹凸模様を有する透明な合成樹脂フィルムの凹凸模様面に、ZnO等の無機化合物からなる透明蒸着層と、Al等の金属からなる半透明蒸着層とを設けた蒸着積層シートが提案されている(特許文献1)。また、ヘアライン調加飾シートとして、基体シート上に、透明保護層、透明ヘアライン層、真空蒸着法等により形成された金属薄膜層を有する反射層が積層された積層シートが提案されている(特許文献2)。更に、装飾模様付き表示体として、透過性を有する基板裏面に、所定の図柄を印刷により形成した印刷模様層、真空蒸着法等によりTiO等の金属酸化物からなる反射増加膜層および着色層がこの順に積層されたが積層シートが開示されている(特許文献3)。
【0003】
また、見る角度に応じて輝度の高い部分が移動する、意匠性の高い光輝性を有する光輝性装飾体の提供を課題として、透明基材面に凸型透明突起からなる複数のブロックが形成され、これを被覆する光反射層が更に形成された光輝性装飾体が提案されている(特許文献4)。また、光と影のコントラストが大きい加飾シートとして、光反射性凸部と、黒色インキを用いることにより形成された黒色層を用いた加飾シートが提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−305063号公報
【特許文献2】特開2006−255894号公報
【特許文献3】特開2010−85508号公報
【特許文献4】特開2008−18631号公報
【特許文献5】特許第6405004号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加飾シートは、スマートフォン等の携帯情報端末機器、家電製品、自動車内外装部品等の樹脂成形物の表面に加飾するシートとして近年多用されている。金属薄膜等の金属光沢を用いなくても、例えば、白色層と組み合わせた場合でも凹凸模様の視認性に優れ、且つ成形加工できる加飾シートを提供できれば、自動車のダッシュボード等をはじめとする各種樹脂成形物の表面に高い意匠性を付与することができる。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、金属薄膜等の金属光沢を用いなくても、例えば、白色の着色層と組み合わせた場合でも凹凸模様の視認性に優れ、且つ成形性に優れる成形用加飾シートおよびその製造方法、並びに加飾成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本発明の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]: シート状透明基材と、
前記シート状透明基材の視認側とは反対の面において、当該シート状透明基材自体に形成された、または当該シート状透明基材上に他の透明部材を用いて形成された凸部模様と、
前記凸部模様が設けられた面を被覆し、前記凸部模様に由来する凹凸がその表面に形成された透明な光学調整層と、
前記光学調整層を被覆する着色層とを備え、
前記光学調整層は、前記凸部模様を構成する部材の屈折率より屈折率が0.03以上大きく、且つ該屈折率が1.80以下である第一光学調整層を一層または複数層有する、成形用加飾シート。
[2]: 前記第一光学調整層は、有機バインダーを含有する[1]に記載の成形用加飾シート。
[3]: 前記光学調整層は、更に、前記第一光学調整層の屈折率よりも屈折率が0.01以上小さく、且つ該屈折率が1.35以上である第二光学調整層を一層または複数層有し、前記凸部模様と前記第二光学調整層の間に少なくとも一層の前記第一光学調整層が配置されている[1]又は[2]に記載の成形用加飾シート。
[4]: 前記第二光学調整層は、有機バインダーを含有する[3]記載の成形用加飾シート。
[5]: 前記光学調整層は、前記第一光学調整層と前記第二光学調整層が交互に積層された層からなる[3]又は[4]に記載の成形用加飾シート。
[6]: 前記着色層は、インキ層からなる[1]〜[5]のいずれかに記載の成形用加飾シート。
[7]: シート状透明基材の視認側とは反対の面に凸部模様を形成する工程(A)と、
前記凸部模様に由来する凹凸がその表面に残るように、当該凸部模様が設けられた面に透明な光学調整層を被覆する工程(B)と、
前記光学調整層を着色層により被覆する工程(C)とを備え、
前記工程(A)は、前記シート状透明基材自体に前記凸部模様を形成する工程、または前記シート状透明基材上に他の透明部材を用いて前記凸部模様を形成する工程を含み、
前記工程(B)は、前記凸部模様を構成する部材の屈折率より屈折率が0.03以上大きく、且つ該屈折率が1.80以下である第一光学調整層を一層または複数層形成する工程を含む、成形用加飾シートの製造方法。
[8]: 前記工程(A)は、(A−1)〜(A−3)のいずれか1つの工程である[7]に記載の成形用加飾シートの製造方法。
(A−1)前記シート状透明基材の視認側とは反対の面上に透明インキをパターン印刷し、透明な前記凸部模様を形成する工程。
(A−2)前記シート状透明基材の視認側とは反対の面上に透明インキを塗布した後、型押しにより透明な前記凸部模様を形成する工程。
(A−3)前記シート状透明基材の一方の面に型押しにより透明な前記凸部模様を形成する工程。
[9]: 前記工程(B)は、更に、前記第一光学調整層の屈折率よりも屈折率が0.01以上小さく、且つ該屈折率が1.35以上である第二光学調整層を一層または複数層形成する工程を更に有し、
前記凸部模様と前記第二光学調整層の間に少なくとも一層の前記第一光学調整層を配置する[7]又は[8]に記載の成形用加飾シートの製造方法。
[10]: 前記工程(B)は、前記第一光学調整層と前記第二光学調整層を交互に積層する[9]に記載の成形用加飾シートの製造方法。
[11]: 被加飾体と、前記被加飾体の少なくとも一部を被覆する成形用加飾シートとを具備し、
前記成形用加飾シートは、[1]〜[6]いずれかに記載のシートである、加飾成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属薄膜等の金属光沢を用いなくても、例えば、白色の着色層と組み合わせた場合でも凹凸模様の視認性に優れ、且つ成形性に優れる成形用加飾シートおよびその製造方法、並びに加飾成形体を提供できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る成形用加飾シートの一例を示す模式的断面図。
図2】第2実施形態に係る成形用加飾シートの一例を示す模式的断面図。
図3】第3実施形態に係る成形用加飾シートの一例を示す模式的断面図。
図4】変形例に係る成形用加飾シートの一例を示す模式的断面図。
図5】変形例に係る成形用加飾シートの凸部模様の一例を示す模式的断面図。
図6】実施例に係るシート状透明基材と凸部模様を説明するための模式的上面図。
図7図6のVII−VII切断部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。また、本明細書で特定する数値「A〜B」は、数値Aと数値Aより大きい値および数値Bと数値Bより小さい値を満たす範囲をいう。また、本明細書におけるシートとは、JISにおいて定義されるシートのみならず、フィルムや板状のものを含む。説明を明確にするため、以下の記載および図面は、適宜、簡略化されている。本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
【0011】
本実施形態の成形用加飾シートは、凸部模様が形成されたシートである。ここで凸部模様とは、表面凹凸により形成された模様をいい、凹凸模様と同義である。即ち、視覚的に模様を構成している部分が凸部である他、凹部およびその両者により構成されている場合を含む。凸部模様における模様の種類に特に限定は無く、ドット模様、ヘアライン調模様、幾何学模様、花柄模様等が挙げられる。これらの模様は、規則的繰り返しパターンであっても不規則に形成されたものでもよい。また、凸部模様はシート状透明基材全体に形成されている態様の他、一部の領域に形成されている態様も含む。凸部模様は、シート状透明基材の視認側とは反対の面において、当該シート状透明基材自体に形成された態様、当該シート状透明基材上に他の透明部材を用いて形成された態様がある。
【0012】
成形用加飾シートは、更に、光学調整層および着色層を少なくとも有する。光学調整層は、凸部模様が設けられた面を被覆し、凸部模様に由来する凹凸がその表面に形成された透明な層である。この光学調整層は、単層または複数層から構成される。着色層は、光学調整層を被覆する。光学調整層は、凸部模様を構成する部材の屈折率より屈折率が0.03以上大きく、且つ該屈折率が1.80以下である第一光学調整層を一層または複数層少なくとも有する。成形用加飾シートは、着色層を背景として、シート状透明基材を介して凸部模様を視認することにより、意匠性の高い模様が確認できる。
【0013】
本明細書において透明とは、シート状透明基材側から視認したときに、着色層を充分に視認できる透過性があればよく特に限定されないが、成形用加飾シートを構成する各部材の使用膜厚において、各部材それぞれが、波長400〜800nmの可視光帯域の全光線透過率が80%以上であることが好ましい。より好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。シート状透明基材は、フィルム状、シート状、板状のいずれも含む。
【0014】
<第1実施形態>
図1に、第1実施形態に係る成形用加飾シートの模式的断面図を示す。同図に示すように、成形用加飾シート1は、シート状透明基材10上に凸部模様20、光学調整層30および着色層40がこの順に積層されている。光学調整層30は、第一光学調整層31,第二光学調整層32、第一光学調整層33がシート状透明基材10側からこの順に積層されており、凸部模様20に由来する凹凸がその表面に形成されている。ここで第一光学調整層とは、前述したように、透明であって凸部模様20を構成する部材の屈折率より屈折率が0.03以上大きく、且つ該屈折率が1.80以下である層をいい、第二光学調整層とは、透明であって且つ第一光学調整層の屈折率よりも屈折率が0.01以上小さく、且つ該屈折率が1.35以上である層をいう。
【0015】
第1実施形態に係る成形用加飾シートの製造方法は、シート状透明基材10の視認側とは反対の面に凸部模様20を形成する工程(A)と、凸部模様20に由来する凹凸がその表面に残るように、凸部模様20が設けられた面に透明な光学調整層30を被覆する工程(B)と、光学調整層30を着色層40により被覆する工程(C)とを備える。第1実施形態においては、シート状透明基材10上に他の透明部材を用いて凸部模様20を形成する。また、工程(B)において第一光学調整層31を形成し、続いて第二光学調整層32および第一光学調整層33をこの順に積層する。
【0016】
[シート状透明基材]
シート状透明基材10は、視認側から入射した光を透過させ、成形用加飾シート1内部で反射した光を再び透過させて視認側に放出する役割を担うと共に、凸部模様20,光学調整層30および着色層40を支持する役割を担う。シート状透明基材10の屈折率は特に限定されないが、例えば、1.45〜1.75の範囲とすることができる。
【0017】
シート状透明基材10の主面である第一面11側から視認され、第一面11とは反対側の主面の第二面12上に凸部模様20等が設けられている。シート状透明基材10は、後述する加熱により成形が可能な透明基材を用いる。シート状透明基材10の厚みは、成形加工が可能な厚みであればよく限定されないが、例えば50μm〜5mmとすることができる。シート状透明基材10は、熱可塑性樹脂を主成分とする組成物から形成された基材が好適に用いられる。
【0018】
前記熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリアクリロニトリル樹脂などが例示できる。特に、透明性、成形性の観点から、耐溶剤性に優れるポリエステル、成形性に優れるポリカーボネート樹脂、硬度に優れるポリメチルメタクリレートが好ましい。シート状透明基材10は、単一基材のみならず、積層した基材であってもよい。例えば、ポリカーボネート(PC)上にポリメチルメタクリレート(PMMA)が共押し出しされたPMMA/PCフィルムや、ポリカーボネートフィルムとポリエステルフィルムが接着剤でラミネートされたフィルムなどを用いてもよい。
【0019】
シート状透明基材10を形成するための組成物には、必要に応じて、本発明による効果を妨げない範囲で、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、充填剤、チクソトロピー付与剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、熱伝導性改良剤、可塑剤、ダレ防止剤、防汚剤、防腐剤、殺菌剤、消泡剤、レベリング剤、硬化剤、増粘剤、顔料分散剤、シランカップリング剤等の各種の添加剤をさらに添加してもよい。
【0020】
[凸部模様]
凸部模様20は、第1実施形態においては、シート状透明基材10上に透明部材を用いて形成されている。凸部模様20は、シート状透明基材10を透過した外光が凸部模様20により形成された凹凸表面で反射する反射光、および前記外光が光学調整層30および着色層40の表面等で反射した光が更に凸部模様20により形成された凹凸表面で反射する反射光が、シート状透明基材10の第一面11側から出射することにより視認される。この透明部材は、シート状透明基材と同一の材料または異なる材料から形成することができる。
【0021】
凸部模様20の断面形状、即ち、成形用加飾シート1の面に直交する方向で切断した短手方向の断面形状は、例えば矩形、台形、略半円形状、略半楕円形状、三角形状が例示できる。凸部模様20のコーナー部の形状は、R形状の他、鈍角または鋭角とすることができる。
【0022】
凸部模様20の形成方法は特に限定されないが、印刷法、型押し法が例示できる。凸部模様20の形成材料としては、熱可塑性樹脂、紫外線や電子線等の活性光線硬化型樹脂、或いは熱硬化性樹脂を主成分とする樹脂組成物が好適に用いられる。樹脂の好適な例としては、シート状透明基材と同様の樹脂を例示できる。熱可塑性樹脂を用いる場合には、成形温度が軟化点より高く、且つ溶融温度より低い樹脂を用いる。活性光線硬化型樹脂の場合には、組成物として、活性光線により硬化する反応性官能基を有する樹脂、および光重合開始剤や増感剤等の添加剤を用いることができる。また、熱硬化型樹脂の場合には、組成物として、熱により硬化する反応性官能基を有する自己架橋型の樹脂、或いは熱硬化性樹脂と硬化性化合物を組み合わせて用いることができる。光重合性または熱重合性モノマーを含む組成物も好適である。例えば、側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する樹脂と、この(メタ)アクリロイル基と架橋し得るラジカル重合性二重結合を有するモノマーを用いることができる。ラジカル重合性二重結合を有するモノマーとしては(メタ)アクリル系モノマーが例示できる。凸部模様20を形成するための組成物は、必要に応じて、各種添加剤、例えば、シート状透明基材で例示した添加剤をさらに添加してもよい。
【0023】
前記印刷法は、透明インキを調製し、当該透明インキをシート状透明基材上に例えばスクリーン印刷によりパターン印刷し、必要に応じて硬化処理を行うことにより凸部模様20を形成できる。紫外線硬化型の場合には紫外線を適量照射し、熱硬化型の場合には熱を適量加える。この段階では半硬化とし、後述する成形工程により実質的に完全に硬化するようにしてもよい。
【0024】
前記型押し法は、インキを調製し、当該インキをシート状透明基材の全面に塗工膜を形成し、得られた塗工膜に型押しを行い、必要に応じて型押し後または型押しと同時に硬化処理を行うことにより凸部模様20を形成できる。硬化処理は、印刷法と同じ要領で実施することができる。熱硬化型樹脂を用いる場合には、型押しを熱圧着として硬化処理を同時に行う方法が効率的である。
【0025】
凸部模様20の最適な平均高さは、図柄および成形の程度によって変動するが、視認性を良好に保つ観点から成形後に1μm以上であることが好ましく、5μm以上がより好ましい。一方、成形用加飾シートの生産性を考慮すると、凸部模様20の平均高さの上限は成形前の高さで200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。凸部模様20の高さを大きくしたい場合には、熱硬化型樹脂よりも紫外線硬化型が好ましい。なお、凸部模様20の平均高さとは、凹部から凸部までの成形用加飾シート1の面方向に対する法線方向の高さをいう。高さの測定方法は、JIS K5600−1−7に準拠して測定される。
【0026】
凸部模様20の断面視における短手方向の幅は任意に設定可能であるが、視認性を高める観点からは20μm以上であることが好ましく50μm以上であることがより好ましい。凸部模様20の断面視における幅の上限は、加飾シートを適用する製品によっても変動するが、スクリーン印刷で形成する場合には10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。なお、凸部模様20の幅は、断面視において最大幅をいう。幅の測定は、例えばデジタルマイクロスコープを使用して行うことができる。
【0027】
凸部模様20の指向性を高める観点からは、短手方向の幅に対する高さの比率を上げるとよい。この比率は、凸部模様20をスクリーン印刷等の印刷で行う場合、インキの粘度により容易に調製できる。また、スクリーン版の乳剤厚等を変えることにより、高さおよび幅を調整することができる。
【0028】
型押しにより凹凸形状を形成する場合は、凸部模様20を形成するための層を塗工し、塗工層の樹脂の軟化点以上でかつ熱分解温度未満に設定し、加圧条件下で例えば数秒から数分間押圧することにより凸部模様20を形成することができる。
【0029】
[光学調整層]
光学調整層30は、第1実施形態においては、第1層目の第一光学調整層31、第2層目の第二光学調整層32、第3層目の第一光学調整層33の三層からなり、これらの層が凸部模様20側からこの順に積層されている。
【0030】
第1層目の第一光学調整層31および第3層目の第一光学調整層33は、凸部模様20を構成する部材の屈折率より屈折率が0.03以上大きく、且つ該屈折率を1.80以下とすることに加え、凸部模様20に由来する凹凸形状を有することによって、凸部模様20の視認性を効果的に高めることができる。第一光学調整層31は、有機バインダーを含有することが好ましい。第一光学調整層として有機バインダーを用いることにより、金属酸化物等の無機物質からなる無機膜に比べて、凸部模様20およびシート状透明基材10との密着性を高めることができる。このため、成形加工性に優れた成形用加飾シートを提供できる。
【0031】
第2層目の第二光学調整層32は、第一光学調整層の屈折率よりも屈折率が0.01以上小さくし、且つ該屈折率を1.35以上とすることに加え、凸部模様20に由来する凹凸形状を有することによって、第一光学調整層と協同的に凸部模様20の視認性をより効果的に発揮させることができる。第二光学調整層は、有機バインダーを含有することが好ましい。
【0032】
光学調整層30の3層構造は、換言すると、高屈折率層、低屈折率層、高屈折率層の順に積層されている。ここでいう高屈折率および低屈折率の「高」および「低」は、両者の屈折率の相対的な大小関係を表したものである。第一光学調整層は第二光学調整層よりも屈折率が高い高屈折率層であり、第二光学調整層は第一光学調整層よりも屈折率が低い低屈折率層である。両者の屈折率の値は特に限定されないが、設計しやすさの観点では、第一光学調整層の屈折率は1.55〜1.8の範囲が好ましく、第二光学調整層は1.38〜1.5の範囲が好ましい。第一光学調整層と第二光学調整層を交互に積層することにより、凸部模様20の視認性をより効果的に高めることができる。
【0033】
第一光学調整層および第二光学調整層の屈折率は、有機バインダー樹脂により、或いは有機バインダー樹脂に添加した無機フィラー等の屈折率調整剤により調整できる。これらの屈折率調整剤は、透明性を妨げないように、例えば、2〜100nm程度の粒子とする。屈折率調整剤の含有量は、成形加工性を良好にする観点から80質量%未満とすることが好ましく、より好ましくは75質量%以下であり、更に好ましくは70質量%以下である。
【0034】
第一光学調整層31,33の有機バインダー樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、若しくは複数の樹脂をブレンドした熱可塑性樹脂等が例示できる。また、紫外線等の活性光線により重合するモノマーやオリゴマー、若しくは熱重合性モノマーやオリゴマーを有機バインダー樹脂の前駆体として用いてもよい。第一光学調整層31,33の屈折率調整剤としては、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、チタン酸バリウム、酸化ニオブ、酸化アルミニウム等の微粒子が例示できる。
【0035】
第二光学調整層32は、第一光学調整層31,33よりも屈折率が0.01以上小さければよく、第一光学調整層31,33に用いた屈折率を考慮して、例えば、上述した有機バインダー樹脂より選定することができる。屈折率調整剤についても同様である。低屈折率を発現しやすい有機バインダー樹脂として、フッ素樹脂等が例示できる。また、低屈折率を発現しやすい屈折率調整剤として、シリカ、中空シリカ、フッ化マグネシウム等が例示できる。
【0036】
一層あたりの光学調整層の厚みは、光学調整層30の積層数、凸部模様20の高さや断面形状に応じて凸部模様20に由来する凹凸形状を形成できる膜厚に適宜設計する。一般に、凸部模様20の高さが高いほど、光学調整層の膜厚を大きくすることが可能である。光学調整層の下限は被覆性を兼ね備えていればよく特に限定されない。また、一層あたりの光学調整層の厚みは光学調整層の積層数に応じて適宜設計すればよい。例えば、凸部模様20の高さが30μmの場合には、3層積層する場合、1層あたり10μm程度の厚みにすることができる。また、例えば凸部模様20の高さが10μm、直径が90μmの半球状のドット模様の場合には、3層からなる光学調整層の厚みは、各層独立に、0.1〜2μm、より好ましくは0.2〜1.0μmとすることができる。
成形性の観点からは、一層あたりの光学調整層の厚みは、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下が更に好ましい。
【0037】
第一光学調整層31,33,および第二光学調整層32の形成方法は、特に限定されず、例えば、コンマコーティング、グラビアコーティング、リバースコーティング、ロールコーティング、リップコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等の印刷による方法、スピンコート、スプレーなどの公知の塗装方法が挙げられる。
【0038】
[着色層]
着色層40は光学調整層30を被覆し、凸部模様20の背景色としての役割を担う。着色層40を設けることにより、凸部模様20の視認性を高めると共に意匠性を持たせることができる。着色層40は、白、パール、黒、赤、青などの単一の色とする他、複数の色を組み合わせて絵、図柄、金属調、文字、模様などを施すことができる。着色層40は、公知の製造方法により形成できる。着色層40は単層、複層のいずれでもよい。簡便性の観点からは、インキ層を印刷して着色層を得る方法が好ましい。
【0039】
着色層40は有機バインダーと顔料を含む組成物から形成する方法が簡便である。有機バインダーを用いることにより、成形性を高めることができる。有機バインダーの好適な例としては、シート状透明基材10で例示した樹脂を挙げることができる。顔料は有機顔料または/および無機顔料を用いることができる。着色層40を積層体により構成する場合には、各層の顔料および有機バインダーはそれぞれ任意に選定できる。
【0040】
光学調整層30との組み合わせにより意匠性をより効果的に高める着色層40の顔料として、パール顔料を用いてもよい。パール顔料は表層に金属酸化物を含む粒子が挙げられ、例えば、天然の雲母に酸化チタンや酸化鉄などの金属酸化物をコートした粒子が例示できる。金属酸化物としては、前述の他、ジルコニウム、ケイ素、アルミニウム、セリウム等の金属の酸化物が挙げられる。
【0041】
着色層40は着色塗料を光学調整層30に印刷する方法、塗工する方法等が挙げられる。基材層に印刷または塗工後、乾燥、エージングを任意に行うことができる。また、印刷または塗工後に光照射する方法等が挙げられる。着色層40の厚さは、意図した色、柄などが認識できる厚みであれば特に限定されないが、成形性の観点から500μm以下であることが好ましい。
【0042】
着色層40を光学調整層30基材上に設ける方法としては、公知の方法を用いることができ、具体的には、コンマコーティング、グラビアコーティング、リバースコーティング、ロールコーティング、リップコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷など挙げることができる。
【0043】
[接着層・保護層等]
第1実施形態の成形用加飾シートは、加飾シート製造時のブロッキング防止、傷付防止、成形時の傷付防止、金型跡防止、成形後加飾成形体が使用に供されるまでの汚れ防止の点から、シート状透明基材上に剥離可能な保護フィルムを設けることができる。また、着色層40の上層に、被加飾体との接合性を高める接着剤層を設けてもよい。無論、接着剤層を設けずに、着色層40自体に接着性機能をもたせてもよい。
【0044】
[加飾成形体]
第1実施形態の成形用加飾シートは、インサート成形、真空成形、圧空成形、TOM成形、射出成形、インモールド成形、プレス成形、スタンピング成形など様々な成形方法で加飾成形体を作製することができる。成形加工の程度は、凸部模様の視認性を良好に保つ観点から、凸部模様の凹凸および凸部模様に由来する凹凸がその上層の光学調整層で維持できる範囲とする。係る観点から、成形加工の程度が大きい場合には、凸部模様の凹凸を大きく設計することが好ましい。ここで加飾成形体とは、被加飾体が成形用加飾シートで表面が覆われた成形体をいい、被覆される被加飾体の素材に特に限定はなく、公知の素材を使用することができる。
【0045】
成形用加飾シートに用いる各層は、温度100℃における破断伸び率が5%以上である膜を用いることが好ましい。より好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上である。破断伸び率を5%以上とすることにより、成形加工性を良好にすることができる。破断伸び率は、有機バインダーの種類、架橋密度の種類、膜厚等を調整することにより調整できる。
【0046】
被加飾体として用いることのできる素材の例として、木材、紙、金属、プラスチック、繊維強化プラスチック、ゴム、ガラス、鉱物、粘土などを挙げることができ、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0047】
前記プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステル、ポリテトラフルオロロエチレンなどが挙げられ、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
前記繊維強化プラスチックとしては、例えば、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック、ポリエチレン繊維強化プラスチックなどが挙げられ、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
前記金属としては、例えば、熱延鋼、冷延鋼、亜鉛メッキ鋼、電気亜鉛めっき鋼、溶融亜鉛めっき鋼、合金化溶融亜鉛めっき鋼、亜鉛合金めっき鋼、銅めっき鋼、亜鉛−ニッケルめっき鋼、亜鉛−アルミめっき鋼、鉄−亜鉛メッキ鋼、アルミメッキ鋼、アルミニウム−亜鉛メッキ鋼、スズめっき鋼等、アルミ、ステンレス鋼、銅、アルミ合金、電磁鋼などが挙げられ、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。また、金属の表面に防剤層などが設けられていてもよい。
【0048】
例えば、成形用加飾シート1を所望の形状に予備成形した後、シート状透明基材10側が最外層になるように、プラスチックや繊維強化プラスチックを射出成形し、加飾成形体を得ることもできる。或いは、プラスチック、繊維強化プラスチック、金属から成形体を得ておき、該成形体の表面に、成形用加飾シート1を、若しくは成形用加飾シート1を所望の形状に予備成形した予備成形体を、シート状透明基材10側が最外層になるように貼り付け、得ることもできる。成形温度は、有機バインダー樹脂の軟化点以上、融点以下に設定することが好ましい。成形性を高める観点からは、成形用加飾シートの各種部材を有機バインダー樹脂で構成することが好ましく、成形度に応じて延伸性の優れた材料を用いることが好ましい。
【0049】
第1実施形態に係る成形用加飾シートによれば、シート状透明基材上に形成された凸部模様と、この凸部模様を被覆する、凸部模様に由来する凹凸がその表面に形成された光学調整層と、この光学調整層を被覆する着色層を有することにより、着色層として金属薄膜等の金属光沢を用いなくても、例えば、透明な凸部模様を視認しづらい、白色においても優れた視認性を有する成形用加飾シートを提供できる。
【0050】
また、第1実施形態に係る成形用加飾シートによれば、第一光学調整層、第二光学調整層、第一光学調整層をこの順に積層しているので、視認性をより効果的に高めることができる。更に、凸部模様をシート状透明基材とは別の部材で形成することにより、成形する形状に応じて延伸性の高い材料を凸部模様の材料として選定できる等、設計自由度が高められるという優位点がある。また、有機バインダー樹脂を用いているので、蒸着層を積層する場合に比べて製造コストを低減させ、安価な供給が期待できる。また、加飾シートのサイズを大型化しやすいという優位点もある。
【0051】
<第2実施形態>
次に、第1実施形態とは異なる成形用加飾シートの例について説明する。第2実施形態に係る成形用加飾シートは、凸部模様をシート状透明基材自体に設けている点において、凸部模様をシート状透明基材上に別の部材を用いて形成した第1実施形態と相違するが、その他の基本的な構成および製造方法は同一である。なお、以降の説明において、第1実施形態と重複する記載は適宜省略する。また、同一の要素部材には同一の符号を付す。
【0052】
第2実施形態に係る成形用加飾シート2は、図2に示すように、凸部模様20が形成されたシート状透明基材10上に、光学調整層30および着色層40がこの順に積層されている。凸部模様20は、シート状透明基材10の視認側の第一面11とは反対側の第二面12側に型押し加工により形成することができる。型押しは熱および圧力を加えて行うことが好ましい。射出成形等の成形加工時の熱と応力により、凸部模様20が平坦にならないように、凸部模様20の高さや幅を考慮しておくことにより、成形後も優れた視認性を発揮することができる。
【0053】
第2実施形態に係る成形用加飾シートによれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、凸部模様20をシート状透明基材と同一の材料により形成しているため、製造工程の簡便化を図ることができる。また、第1実施形態のように別部材で凸部模様を形成する場合に比べて、例えば高さの異なる形状を簡便に形成しやすいというメリットがある。
【0054】
<第3実施形態>
第3実施形態に係る成形用加飾シートは、光学調整層を1層設けている点において、光学調整層を3層設けている第1実施形態と相違するが、その他の基本的な構成および製造方法は同一である。
【0055】
第3実施形態に係る成形用加飾シート3は、図3に示すように、シート状透明基材10上に凸部模様20、光学調整層30および着色層40がこの順に積層されている。光学調整層30は、第一光学調整層31のみの単層からなる。
【0056】
第3実施形態に係る成形用加飾シートによれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、光学調整層30を単層により形成しているため、製造工程の簡便化を図ることができる。
【0057】
<変形例>
次に、本実施形態に係る成形用加飾シートの変形例について説明する。但し、本発明は、上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得る。また、各実施形態および変形例は、互いに好適に組み合わせられる。また、本発明の成形用加飾シートの製造方法は、上記実施形態の製造方法に限定されるものではなく、種々の製造方法により製造できる。
【0058】
第1実施形態においては、複数の凸部模様20がシート状透明基材10上に互いに離間して形成されていたが、連接する凸部模様を形成してもよい。また、第1実施形態においては、凹部はシート状透明基材が露出していたが、図4に示す成形用加飾シート4のように、凸部模様20を構成する部材がシート状透明基材10を被覆し、当該部材により凹凸構造を型押し等により形成した構成としてもよい。
【0059】
また、凸部模様20は、例えば図5の凸部模様の部分拡大断面図に示すように、複数の高さを有するものであってもよい。また、凸部模様20はシート状透明基材の直上に形成されている必要はなく、例えば易接着層を介してこれらの層が積層されていてもよい。また、光学調整層30と着色層40の間に、凸部模様20に由来する凹凸がその表面に形成されていない透明層が形成されていてもよい。更に、光学調整層として、第一光学調整層と第二光学調整層をこの順に2層積層した積層体や、同一または異なる屈折率を有する第一光学調整層を2層以上積層した積層体としてもよい。また、第一光学調整層と第二光学調整層を交互に若しくは任意の順に4層以上積層した積層体も好適である。
【0060】
本実施形態の加飾成形体は、インパネデコレーションパネルや、シフトゲートパネル、ドアトリム、エアコン操作パネル、カーナビゲーション等の自動車の内装部品として、あるいは自動車前後部のエンブレムや、タイヤホイールのセンターオーナメント、ネームプレート等の外装部品として用いられる。また、自動車内外部品以外に、家電、スマートキー、スマートフォンや携帯電話、ノートパソコン等の外装材に限らず、ヘルメットやスーツケース等の外装材料、カーナビゲーションシステムや液晶テレビ等の液晶画面を保護する保護シート、蓄電デバイス等の外装材、テニスラケットやゴルフシャフトなどのスポーツ用品、住宅用のドアやパーテーション、システムキッチンの壁パネル、壁材等の建材等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中、部は質量部を、%は質量%をそれぞれ示す。
屈折率(絶対屈折率)は、波長589nmの光(D線)の屈折率であり、 アッベ屈折計(株式会社アタゴ製「DR−M4」)を用いて25℃で測定した。
【0062】
(実施例1)
図3の積層構成を示す成形用加飾シートを以下の方法により作製した。まず、ポリカーボネートからなる400μm厚の25cm×40cmのシート状透明基材(帝人(株)社製、屈折率1.59、厚み400μm)10の一主面上に、上記凸部模様形成用のインキ(東洋インキ(株)社製、TU760 FDSS クリアワニスB、屈折率1.52)を、ポリエステル素材の420メッシュの版を用いてスクリーン印刷した。凸部模様20のパターンは、直径90μm、高さ10μmの半球を0.1mm間隔のドット状パターンとした。印刷後、光源としてメタルハライドランプ(アイグラフィック社製)を用い、120W/cm、コンベアースピード3m/分、1灯の条件でUV照射した。積算光量は約600mJ/cmとした。これらの工程を経て、シート状透明基材10の片面に凸部模様20を形成した(図6図7参照)。
【0063】
次いで、凸部模様20が形成されたシート状透明基材10上に、第一光学調整層31を形成するためのインキ(トーヨーケム(株)社製、リオデュラスTYT70、屈折率1.70)を、ポリエステル素材の420メッシュの版を用いてスクリーン印刷した。乾燥後の第一光学調整層31の膜厚は1.0μmとなるようにした。当該工程により、凸部模様20が形成された面が第一光学調整層31で被覆された積層体を得た。第一光学調整層31の表面に、凸部模様20の半球に由来する凹凸が形成されていることを確認した。
【0064】
その後、第一光学調整層31の上層に、着色層40を形成するための白色インキ(東洋インキ(株)社製、SS16、白色)を、ポリエステル素材の200メッシュの版を用いて計4回スクリーン印刷した。乾燥後の膜厚は80μmとした。これらの工程を経て成形用加飾シート3を得た。
【0065】
(実施例2)
第2実施形態のように、シート状透明基材10自体に凸部模様20を形成し、第3実施形態のように一層の光学調整層(第一光学調整層)を有する積層構成を示す成形用加飾シートを以下の方法により作製した。具体的には、ポリカーボネートからなる400μm厚の25cm×40cmのシート状透明基材(帝人(株)社製、屈折率1.59、厚み400μm)に、油圧プレス装置(日本オートマチックマシン(株)社製)を用いて型押し加工により凸部模様20を形成した。凸部模様20のパターンは、直径90μm、高さ(深さ)10μmの半球を1.0mm間隔のドット状パターンとした。それ以外の条件および方法は、実施例1と同様に行い成形用加飾シートを得た。
【0066】
(実施例3)
図4に示すように、シート状透明基材10上に凸部模様20を形成するための塗膜を形成し、その後に型押しにより凸部模様20を形成し、第3実施形態のように一層の光学調整層(第一光学調整層)を有する積層構成を示す成形用加飾シートを以下の方法により作製した。具体的には、ポリカーボネートからなる400μm厚の25cm×40cmのシート状透明基材(帝人(株)社製、屈折率1.59、厚み400μm)の一主面上に、上記凸部模様形成用のインキ(トーヨーケム(株)社製、リオデュラスLCH2432、屈折率1.52)を用いて、全面に乾燥膜厚が10μmの塗膜を得た。次いで、ラミネーター装置(大成ラミネーター(株)社製)を用いて型押し加工により凸部模様を形成した。凸部模様のパターンは、直径90μm、高さ(深さ)10μmの半球を0.1mm間隔のドット状パターンとした。それ以外の条件および方法は、実施例1と同様に行い成形用加飾シートを得た。
【0067】
(実施例4〜9,12〜14)
表1に示した条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法により成形用加飾シート3を得た。実施例6,7は、第一光学調整層を形成するためのインキとしてトーヨーケム(株)社製のリオデュラスTYT55(屈折率1.55)、リオデュラスTYT80(屈折率1.80)を用いた。また、実施例12の赤色インキには(東洋インキ(株)社製、SS16 紅)を、実施例13の青色インキには(東洋インキ(株)社製、SS16 藍)を、実施例14の黒色インキには(東洋インキ(株)社製、SS16 墨)を用いた。
【0068】
(実施例10)
光学調整層30が第一光学調整層31と第二光学調整層32からなる成形用加飾シートを作製した。具体的には、第一光学調整層31を形成するまでは実施例1と同様とした。次いで、シート状透明基材10上に形成された凸部模様20および第一光学調整層31上に、第二光学調整層32を形成するためのインキ(トーヨーケム(株)社製、リオデュラスTYM45、屈折率1.45)を、ポリエステル素材の420メッシュの版を用いてスクリーン印刷した。乾燥後の膜厚は1.0μmとなるようにした。第二光学調整層32の表面に、凸部模様20の半球に由来する凹凸がその表面に形成されていることを確認した。そして、実施例1と同様の方法で着色層40を形成し、光学調整層が第一光学調整層と第二光学調整層の二層の積層体からなる成形用加飾シートを得た。
【0069】
(実施例11)
図1に示す積層構成を示す成形用加飾シートを作製した。具体的には、第二光学調整層32を形成するまでは実施例10と同様とし、次いで、3層目の第一光学調整層33として1層目と同じインキを用い、ポリエステル素材の420メッシュの版を介してスクリーン印刷した。乾燥後の膜厚は1.0μmとなるようにした。光学調整層30の最表層の第一光学調整層33の表面に凸部模様の半球に由来する凹凸がその表面に形成されていることを確認した。そして、実施例1と同様の方法で着色層40を形成し、成形用加飾シートを得た。
【0070】
(比較例1)
光学調整層を設けないこと以外は実施例1と同様の方法により成形用加飾シートを作製した。即ち、シート状透明基材10上に凸部模様20を形成するまでは実施例1と同様とし、その後、光学調整層30を設けずに、凸部模様20に由来する凹凸がフラットになるように実施例1と同様の方法により着色層40を形成した。
【0071】
(比較例2)
第一光学調整層31を形成するためのインキとして、凸部模様20との屈折率差が0.02であるインキ(トーヨーケム社製、リオデュラスTYT54、屈折率1.54)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により成形用加飾シートを作製した。
【0072】
(比較例3)
第一光学調整層31を形成するためのインキとして、屈折率が1.85越えのインキ(トーヨーケム社製、リオデュラスTYT90、屈折率1.90)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により成形用加飾シートを作製した。
【0073】
(比較例4)
第一光学調整層31の位置に相当する層の乾燥後の厚みを15μmとした以外は、実施例1と同様の方法により成形用加飾シートを作製した。第一光学調整層に相当する層として15μmの厚みとした結果、凸部模様20に由来する凹凸がフラットになった層が得られた。即ち、比較例4においては、凸部模様20に由来する凹凸を有しない、実施例と同一のインキからなる層を有する成形用加飾シートの例となる。
【0074】
(視認性評価1(成形用加飾シート))
得られた成形用加飾シートの視認性を目視で、シート状透明基材面から30cm離間した位置で、且つ特に記載が無い場合には当該面の法線方向から以下の評価基準により判断した。光源を用いる場合には、シート状透明基材面から50cm離間した位置に光源を配置した。太陽光の場合には直射日光が当たらない位置で判断した。
5: 暗い状況下(10ルクス)でも模様がはっきり確認できる。
4: 5未満であり、室内蛍光灯下(100ルクス)で模様がはっきり確認できる。
3: 4未満であり、太陽光下で模様がはっきり確認でき、室内蛍光灯下(300ルクス)でも角度によって模様を確認できる(実用レベル)。
2: 3未満であり、太陽光下では模様が確認できるが、室内蛍光灯下では模様が確認できない。
1: 2未満であり、強い光を当てても、どの角度からも模様が確認できない。
【0075】
(加飾成形体の作製)
上記各実施例および比較例の成形用加飾シートを用いて、以下の方法により加飾成形体を製造した。まず、上下2室のチャンバーボックスに分かれた真空成形機(布施真空(株)社製)の真ん中に、シート状透明基材側が下側になるようにセットする。型は、直径5cm、高さ2cmの半球状の形状とした。次に真空ポンプでチャンバーボックス内を真空状態にする。チャンバー上部の加熱ヒーターを点灯し、成形用加飾シートの表面温度が170℃になるまで加熱を続ける。成形用加飾シートが熱軟化し、垂れ下がり状態になった時に、下チャンバーボックスの金型を上昇させて、金型を成形用加飾シートが覆った状態にする。
次に、上チャンバーボックスを大気開放状態にする。成形用加飾シートは気圧差により、金型に密着する。上チャンバーボックスに圧縮空気を送入することにより、成形用加飾シートは更に大きな力で金型に密着させられる。下チャンバーボックスを大気圧状態に戻し、上チャンバーボックスを上昇させ、冷却してから、金型から予備成型物を取り出すことにより、成形後のシートを下記の基準で評価した。
【0076】
(視認性評価2(加飾成形体))
成形後の成形用加飾シートの凸部模様である球面の模様の視認性を、シート状透明基材面から30cm離間した位置で、且つ当該面の法線方向から以下の評価基準により判断した。光源等の各種条件は視認性評価1と同様とした。
5: 暗い状況下(10ルクス)でも模様がはっきり確認できる。
4: 5未満であり、室内蛍光灯下(100ルクス)で模様がはっきり確認できる。
3: 4未満であり、太陽光下で模様がはっきり確認でき、室内蛍光灯下(300ルクス)でも角度によっては模様が確認できる(実用レベル)。
2: 3未満であり、太陽光下では模様が確認できるが、室内蛍光灯下では模様が確認できない。
1: 2未満であり、強い光を当てても、どの角度からも模様が確認できない。
【0077】
(成形性評価)
上記各実施例および比較例の加飾成形体の成形後の成形用加飾シートについて、各層の密着性を以下の基準で評価した。
3: 浮きおよび剥離が見られない。
2: 浮きまたは剥離がわずかに認められる。
1: 浮きまたは/および剥離が認められる
【0078】
評価結果を表1,表2に示す。
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
表1,表2に例に示すように、光学調整層30を用いない比較例1の成形用加飾シートは外観が合格レベルに達しなかった。また、凸部模様20との屈折率差が0.02である第一光学調整層31を用いた比較例2の成形用加飾シートも視認性評価が合格レベルに達しなかった。更に、光学調整層30に相当する層として、その層の表面が凸部模様20に由来する凹凸がなくフラットな層を有する比較例4の成形用加飾シートも視認性が合格レベルに達しなかった。これに対し、本発明の実施例に係る成形用加飾シートはいずれも合格レベルに達しており、視認性に優れることを確認できた。特に透明な凸部模様の視認性という点では難易度が高い白色の着色層においても、優れた視認性を示すことを確認できた。
【要約】
【課題】金属薄膜等の金属光沢を用いなくても、例えば、白色の着色層と組み合わせた場合でも凹凸模様の視認性に優れ、且つ成形性に優れる成形用加飾シートおよびその製造方法並びに加飾成形体を提供する。
【解決手段】
本発明に係る成形用加飾シート1は、シート状透明基材10と、シート状透明基材10の視認側とは反対の面12において、シート状透明基材10自体に形成された、またはシート状透明基材10上に他の透明部材を用いて形成された凸部模様20と、凸部模様20が設けられた面を被覆し、凸部模様20に由来する凹凸がその表面に形成された透明な光学調整層30と、光学調整層30を被覆する着色層40とを備える。光学調整層30は、凸部模様20を構成する部材の屈折率より屈折率が0.03以上大きく、且つ該屈折率が1.80以下である第一光学調整層を一層または複数層有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7