(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パラクロレラ・ケスレリ(Parachlorella kessleri)種藻類KNK−A001株(受託番号:FERM BP−22256)またはその変異体の18S rRNAの部分塩基配列が、下記(1)〜(3)から選択されるものである請求項1に記載のワムシの飼料:
(1)配列番号1に相当する(1)の塩基配列;
(2)上記(1)に規定される塩基配列において、1以上、31以下の塩基が欠失、置換および/または付加された塩基配列;
(3)上記(1)に規定される塩基配列に対して98.5%以上の配列同一性を有する塩基配列。
パラクロレラ・ケスレリ(Parachlorella kessleri)種藻類KNK−A001株(受託番号:FERM BP−22256)またはその変異体の乾燥体を1.0質量%以上含む請求項1または2に記載のワムシの飼料。
【背景技術】
【0002】
養殖とは、主に有用な水生生物を人が管理して飼育することにより数や量の増収を図ることをいい、天然水生生物を捕獲するよりも安定供給が可能になるという利点がある。
【0003】
マダイやヒラメなどの高級魚を養殖するに当たっては、稚魚の段階ではシオミズツボワムシ(Brachionus plicatilis)などの生体飼料が用いられている。また、海中で養殖する前の稚貝には、Nannochloropsis oculataなどの藻類の生体が飼料として用いられている。また、生体飼料であるシオミズツボワムシ自体の養殖においては、クロレラ(Chlorella)属藻類の生体細胞が飼料として主に用いられる。生体飼料生物は、一般的に、養殖場またはその近辺で養殖し、養殖生物に施餌される。
【0004】
水生生物の養殖においては、プランクトンの異常増殖がしばしば問題となる。プランクトンの異常増殖は、主に海水や淡水が富栄養化して窒素やリンといった栄養成分の濃度が高まり、特定のプランクトンが過剰に増加する現象であり、原因となるプランクトンの種類に応じて、赤潮、アオコ、水の華、淡水赤潮などと名付けられている。さらに、異常増殖したプランクトンが死滅し、バクテリアにより分解される際に酸素が消費され、酸素不足となる青潮という現象もある。何れにせよ、プランクトンの異常増殖により養殖場の海水や淡水が酸素不足となり、養殖水生生物やその生体飼料生物が壊滅的なダメージを受ける場合がある。また、赤潮などの原因となるプランクトンの中には、渦鞭毛藻であるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)など、水生生物に対する毒素を産生するものもある。そこで、プランクトンの異常増殖に対応するための様々な技術が開発されている。
【0005】
例えば、赤潮に対応する技術としては、赤潮自体を回収するものや(特許文献1など)、赤潮が発生した海水を浄化するもの(特許文献2など)、また、赤潮の原因となるプランクトンを駆除するための薬剤を散布するもの(特許文献3など)などがある。その他、特許文献4には、特定微生物の培養液またはその処理物が、魚介類には害を及ぼさず飼料となるものである一方で、赤潮の原因となるシャトネラ(Chattonella)属藻類に対して高い致死活性と生育阻害活性を示すことが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、赤潮などプランクトンの異常増殖への様々な対応技術が開発されているが、赤潮などを回収する技術や海水などの浄化技術は、必要な設備投資費用が莫大なものとなり、少なくとも小規模な養殖には適さないといえる。また、異常増殖プランクトンを駆除する薬剤などは、たとえ魚類などには悪影響を及ぼさない場合であっても、養殖対象である飼料プランクトンには悪影響を示すおそれがあり得る。一方、養殖対象である水生生物のプランクトン異常増殖に対する耐性を高めることができれば、プランクトン異常増殖は一過性のものである場合が多いことから、その被害を低減することが可能になる。
【0008】
そこで本発明は、養殖対象である水生生物自体のプランクトン異常増殖に対する耐性を有効に改善する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、クロレラ属藻類に近縁なものではあるがクロレラ属藻類とは異なるパラクロレラ属藻類を飼料として水生生物に施餌した場合、プランクトンの異常増殖に対する水生生物の耐性を有効に改善できることを見出して本発明を完成した。
【0010】
以下、本発明を示す。
【0011】
[1] プランクトンの異常増殖に対する水生生物の耐性を改善する方法であって、
水生生物にパラクロレラ(Parachlorella)属藻類を有効成分として含む飼料を施餌する工程を含むことを特徴とする方法。
【0012】
[2] パラクロレラ属藻類がパラクロレラ・ケスレリ(Parachlorella kessleri)種藻類である上記[1]に記載の方法。
【0013】
[3] パラクロレラ・ケスレリ種藻類がKNK−A001株(受託番号:FERM BP−22256)である上記[2]に記載の方法。
【0014】
[4] プランクトンの異常増殖が赤潮である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
【0015】
[5] プランクトンがヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)である上記[4]に記載の方法。
【0016】
[6] 水生生物が、貝類、魚類、飼料用動物プランクトンから選択されるものである上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明方法で用いるパラクロレラ属藻類は、それ自体が水生生物の成長を有効に促す優れた飼料であるといえる。また、当該パラクロレラ属藻類の施餌期間が長くなる程、飼育系内におけるプランクトンの異常増殖に対する水生生物の耐性が改善されることが実験的に見出されている。よって本発明方法は、特別な操作を必要とせず、飼料としてパラクロレラ属藻類を施餌することによりプランクトン異常増殖対策になるものとして産業上非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明方法は、プランクトンの異常増殖に対する水生生物の耐性を改善する方法に関するものである。
【0020】
本発明の対象であるプランクトンは、その異常増殖が問題となるものであれば特に制限されないが、例えば、赤潮の原因として、キートケロス属(Chaetoceros spp.)、スケルトネマ・コスタツム(Skeletonema costatum)、リゾソレニア・インブリカータ(Rhizosolenia imbricata)、リゾソレニア・セティゲラ(R.setigera)、タラシオシラ属(Thalassiosira spp.)などの珪藻類;シャットネラ・アンティカ(Chattonella antiqua)、シャットネラ・マリナ(C.marina)、ヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)などのラフィド藻類;アレキサンドリウム属(Alexandrium spp.)、ギムノディニウム属(Gymnodinium spp.)、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)、カレニア・ブレビス(Karenia. brevis)、カレニア・ミキモトイ(K.mikimotoi)、ヤコウチュウ(Noctiluca scintillans)、プロロセントラム・ミカンス(Prorocentrum micans)などの渦鞭毛藻類;アカシオウズムシ(Mesodinium rubrum)などの繊毛虫類などを挙げることができる。アオコや水の華の原因として、例えば、ミクロキスティス属(Microcystis)、アナベノプシス属(Anabaenopsis)などの藍藻類;クロレラ属(Chlorella)、イカダモ属(Scenedesmus)、クラミドモナス属(Chlamydomonas)などの緑藻類を挙げることができる。
【0021】
特に、ヘテロカプサ属、アレキサンドリウム属、ギムノディニウム属、カレニア属、プロロセントラム属などに属する渦鞭毛藻類の中には、異常増殖による酸素不足が問題になるだけでなく、水生生物に対する毒素を産生するものもある。
【0022】
本発明において、プランクトンの異常増殖としては、赤潮、アオコ、水の華、淡水赤潮と呼ばれるものの他、異常増殖したプランクトンが死滅し、バクテリアにより分解される際に酸素が消費され、酸素不足となる青潮も含まれるものとする。
【0023】
本発明方法によりプランクトンの異常増殖に対する耐性を改善すべき水生生物は、養殖対象とされているものであれば特に制限されない。例えば、カキ、アワビ、ホタテ、シンジュガイ、イタヤガイ、ヒオウギガイなどの貝類;タイ、ヒラメ、マグロ、ブリ、カンパチ、シマアジ、イサキなどの海水魚;ウナギ、イワナ、アマゴ、マスなどの淡水魚;シオミズツボワムシやチグリオプスなどの飼料用動物プランクトンを挙げることができる。
【0024】
本発明方法により改善すべき耐性とは、プランクトンの異常増殖に対するものであり、例えば、プランクトンの異常増殖に伴う酸素不足や、異常増殖し得るプランクトンが産生する毒素などに対する耐性をいうものとする。
【0025】
本発明方法は、水生生物にパラクロレラ(Parachlorella)属藻類を有効成分として含む飼料を施餌する工程を含むことを特徴とする。
【0026】
パラクロレラ属は、トレボキシア藻綱(Trebouxiophyceae)と緑藻綱(Chlorophyceae)とにまたがるクロレラ属のうち、トレボキシア藻綱に属するものであるが、18S rDNAおよび16S rDNAを用いた分子系統学的解析によれば他のクロレラ属とは別のグループを形成するものである。
【0027】
パラクロレラ属藻類にはクロレラ属藻類のような強固な細胞壁構造が認められず、代わりに多糖類を主体とした厚い膜で覆われている。このことが、クロレラ属藻類に比べてパラクロレラ属藻類が水生生物に消化吸収され易く、その成長効果や飼料効率が高く、飼料として優れている理由であると考えられる。
【0028】
一般的に、パラクロレラ属藻類は、野外で採取した淡水サンプルから、一般的な培地を使った継代培養によりコロニーを分離し、最終的に分子系統学的解析により属種を特定することにより得ることができる。また、市販のものなどがあれば、入手して使用すればよい。
【0029】
パラクロレラ属藻類は、淡水培地やLB培地などの一般的な培地中、好気条件、嫌気条件のいずれでも生育可能であるが、室温〜30℃、明条件、好気条件で特によく増殖する。
【0030】
パラクロレラ属藻類としては、例えば、パラクロレラ・ケスレリ(P.kessleri)、パラクロレラ・バイエリンキ(P.beijerinc)、パラクロレラ・マリニクロレラ(P.marinichlorella)、パラクロレラ・ディクチオスフェリウム(P.dictyosphaerium)、パラクロレラ・ムキドスファエリウム(P.mucidosphaerium)、パラクロレラ・クロステリオプシス(P.closteriopsis)、パラクロレラ・ジクロスター(P.dicloster)が挙げられる。これらの中でも特にパラクロレラ・ケスレリが好適である。
【0031】
パラクロレラ・ケスレリ種藻類のうち、特に好適なKNK−A001株(受託番号:FERM BP−22256)は、下記の通り寄託機関に寄託されている。
(i) 寄託機関の名称およびあて名
名称: 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター
あて名: 日本国 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8−1 120号室
(ii) 受託日: 2013年9月3日
(iii) 受託番号: FERM BP−22256
本発明に係るKNK−A001株の形態的特徴などは、以下の通りである。
【0033】
また、KNK−A001株の18S rRNAの部分塩基配列を、配列番号1(SEQ ID NO:1)に示す。
【0034】
また、その18S rRNAが、配列番号1に相当する(1)の塩基配列に対して、下記(2)または(3)の塩基配列を有する場合には、KNK−A001株と同じくパラクロレラ属藻類に属し、且つKNK−A001株と同様に、プランクトンの異常増殖に対する水生生物の耐性を改善する効果を示すと考えられる。
【0035】
(2) 上記(1)に規定される塩基配列において、1以上、31以下の塩基が欠失、置換および/または付加された塩基配列
(3) 上記(1)に規定される塩基配列に対して98.5%以上の配列同一性を有する塩基配列
なお、欠失などの変異の導入により18S rRNAの塩基配列の塩基数が変化する場合においても、変異数が上記のとおり1以上、31以下の範囲内にあるか、配列同一性のパーセンテージが上記のとおり98.5%以上の範囲内にあれば、変異導入後の配列において、変異導入前の特定位置に相当する位置を特定することは当業者にとり容易である。具体的には、塩基配列の多重アラインメント用プログラムで比較すべき配列をアライメントし、位置を決定することが可能である。また、塩基配列の同一性も、多重アラインメント用プログラムで容易に求めることができる。
【0036】
上記塩基配列(2)において、欠失などの変異の数としては、30以下、20以下または10以下がより好ましく、9以下、8以下、6以下または5以下がさらに好ましく、4以下または3以下がさらに好ましく、2または1がさらに好ましい。
【0037】
また、上記塩基配列(3)において、塩基配列の同一性のパーセンテージとしては、99.0%以上、99.2%以上または99.4%以上がより好ましく、99.5%以上、99.6%以上または99.7%以上がさらに好ましく、99.8%以上または99.9%以上がさらに好ましい。
【0038】
本発明で用いるパラクロレラ属藻類としては、少なくとも最終の培養段階で従属栄養培養したものが好ましい。パラクロレラ属藻類は、独立栄養培養した場合と従属栄養培養した場合とでは細胞の構成や細胞に含まれる成分に相違が生じる場合があり得る。
【0039】
本発明で用いるパラクロレラ属藻類には、その変異体であって、水生生物に対する飼料となり且つプランクトンの異常増殖に対する水生生物の耐性を改善するものも含むものとする。ここで「変異体」とは、人為的な選択、交雑、突然変異、遺伝子組み換えなどにより改良したパラクロレラ属藻類をいうものとする。
【0040】
上述したように、本発明で用いるパラクロレラ属藻類にはクロレラ属藻類のような強固な細胞壁構造が認められないが、薄いながらも細胞壁が認められる。よって、水生生物での吸収効率をより一層高めるために、細胞壁を破壊するための処理を行うことが好ましい。パラクロレラ属藻類の細胞壁は、例えば、藻体の乾燥により容易に破壊することができる。
【0041】
本発明方法で水生生物に施餌する飼料の有効成分としてのパラクロレラ属藻類の乾燥体は、パラクロレラ属藻類の生細胞や、当該生細胞を含む培養液を乾燥することにより得ることができる。即ち、パラクロレラ属藻類の培養液から濾過や遠心分離などにより生細胞を分離して乾燥したり、或いは培養液をそのまま乾燥すればよい。パラクロレラ属藻類の生細胞としては、その破砕物を用いてもよい。生細胞の破砕物であれば、飼料としてより有効であり得る。なお、パラクロレラ属藻類は、培養液中に分泌物を放出し、この分泌物が水生生物の成長に有効な成分の一つである可能性がある。培養液をそのまま乾燥した場合には、乾燥体にはかかる分泌物が含まれることになる。
【0042】
パラクロレラ属藻類の生細胞や当該生細胞を含む培養液の乾燥は、常法に従って行うことができる。例えば、当該生細胞などを50℃以上、200℃以下で10秒間以上、10時間以下程度乾燥すればよい。乾燥時には減圧してもよい。なお、培養液を薄膜状に流下させつつ乾燥すれば、乾燥時間を短縮することができる。また、凍結乾燥してもよい。具体的な乾燥条件は、乾燥すべきパラクロレラ属藻類や培養液の量、使用する機器などに応じて適宜調整することができる。また、得られた乾燥体は、一般的には凝集しているので、さらに粉砕してもよい。粉砕程度は、給餌すべき水生生物が摂取し易い程度に調整すればよい。
【0043】
なお、本発明における「パラクロレラ属藻類の乾燥体」は特に制限されず、パラクロレラ属藻類が生細胞ではなく、また、明らかな湿潤状態になければその水分含量は問わないものとする。例えば、乾燥体の水分含量としては30質量%以下とすることができる。当該水分含量としては、その値が低いほど飼料の保存安定性が高く、また、運搬が容易であるので、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、8質量%以下がよりさらに好ましい。一方、過剰に乾燥させる必要はないので、当該水分含量としては1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。なお、上記の乾燥は、吸収効率の向上の他、細胞を殺すためや保存安定性を向上させるために行うものであるので、実際の飼料製品や給餌時の飼料における水分含量は問題にならない。例えば、パラクロレラ属藻類の乾燥体を養殖水などに分散した上で給餌してもよい。また、乾燥体中の水分含量は、カールフィッシャー法により容易に測定することができる。
【0044】
また、本発明において「有効成分」とは、養殖対象である水生生物に対して少なくとも毒性を示すことはなく、飼料として用い得るものであり、且つプランクトンの異常増殖に対する水生生物の耐性を改善できるものをいう。
【0045】
パラクロレラ属藻類の施餌量は、給餌すべき水生生物の種類や成長度合いなどに応じて適宜調整すればよいが、例えば、陸上養殖される稚貝や稚魚、輪形動物のような飼料用動物プランクトンの場合、養殖水に対するパラクロレラ属藻類細胞の数で、一回の給餌当たり1×10
5cells/mL以上、5×10
7cells/mL以下程度とすることができる。当該給餌量は、養殖対象である水生生物の成長度合いに応じて適宜調整すればよい。
【0046】
また、一般的な魚類に対する施餌量も、その種類や成長度合い、他の飼料との配合割合などを考慮して適宜調整すればよいが、例えば、一日の施餌当たりのパラクロレラ属藻類乾燥体の摂取量を0.2g/kg体重以上程度とすることができる。
【0047】
パラクロレラ属藻類の一日当たりの施餌回数も適宜調整すればよいが、例えば、一日当たり1回以上、3回以下とすることができる。その他、飼料用動物プランクトンの場合には、適量のパラクロレラ属藻類を含む海水または淡水を新たに調製し、そこへ適数の飼料用動物プランクトンを添加してもよい。
【0048】
パラクロレラ属藻類を魚類用に他の飼料などと混合する場合には、例えば、パラクロレラ属藻類乾燥体の含有割合を1.0質量%以上とすることが好ましい。上限は特に制限されないが、栄養の偏りを低減するために、10質量%以下とすることが好ましい。配合すべき他の飼料としては、例えば、魚粉、大豆粕、米糠、小麦粉、でんぷん、酵母、油脂、ビタミン類、ミネラル類などが挙げられ、対象魚類の種類や成長度合いに応じて適宜選択すればよい。
【0049】
パラクロレラ属藻類を含む飼料の形態は特に制限されず、給餌すべき水生生物の種類や成長度合いなどに応じて適宜決定すればよい。例えば、稚貝や飼料用動物プランクトンには、摂食し易いようパラクロレラ属藻類を粉砕したものとすることができる。一方、稚魚の場合、上記のような粉砕物では、養殖水中に拡散してしまい稚魚が摂食できないおそれがあるので、パラクロレラ属藻類の粉砕物を、必要に応じて他の飼料と共に適度な大きさに成形して固形状とすることが好ましい。
【0050】
以下、本発明方法につき、工程毎に説明する。
【0051】
1. パラクロレラ属藻類の培養工程
本工程では、パラクロレラ属藻類を培養する。本工程の実施は任意であるが、本発明方法で用いるパラクロレラ属藻類の生産の観点からは、本工程を実施してパラクロレラ属藻類の総量を増やすことが好ましい。
【0052】
パラクロレラ属藻類の培養条件は、培養すべきパラクロレラ属藻類の至適条件に応じて適宜決定すればよい。例えば、上記のとおり、淡水培地やLB培地などの一般的な培地中、好気条件または嫌気条件下、室温〜30℃で培養すればよい。
【0053】
パラクロレラ属藻類は、一般的には明条件で特によく増殖する。よって、パラクロレラ属藻類の総量を増やすという観点では、明条件で、特に独立栄養条件で培養することが好ましい。しかし、少なくとも従属栄養培養したパラクロレラ属藻類の水生生物用飼料としての優れた成長効果は確認されていることから、遮光し、従属栄養条件下で培養することも好ましい。その他、独立栄養条件でパラクロレラ属藻類を十分に増殖せしめた後に、従属栄養条件下で培養してもよい。
【0054】
2. 処理工程
本工程では、パラクロレラ属藻類を処理する。本工程の実施は任意であるが、摂取効率や吸収効率の向上などのために実施することが好ましい。
【0055】
具体的な処理としては、乾燥処理と破砕処理、および乾燥処理と破砕処理の組み合わせを挙げることができる。乾燥方法や乾燥の程度などは、上記に従えばよい。また、破砕処理としては、超音波やホモジェナイザーなどによる処理を挙げることができる。
【0056】
3. 給餌工程
本工程では、パラクロレラ属藻類を有効成分として含む飼料を水生生物に施餌する。具体的な施餌条件は、上記のとおり、養殖対象である水生生物の種類や成長度合いなどに応じて適宜決定すればよい。
【0057】
パラクロレラ属藻類を施餌する場合には、一般的な飼料を施餌する場合に比べ、より少ない量で水生生物を正常な、またはそれ以上の成長を促すことができ、給餌量を抑制することが可能である。また、一般的な飼料を同量給餌した場合に比べ、水生生物の個体数や総重量を顕著に増加させることができる。さらに、プランクトンの異常増殖に対する耐性が改善され、飼育系内でプランクトンが異常増殖しても、水生生物の致死率を顕著に低減することができる。
【0058】
上記の効果は、パラクロレラ属藻類の施餌期間が長い程より確実に得られる。よって、パラクロレラ属藻類の施餌期間としては、5日間以上が好ましく、1週間以上または2週間以上がより好ましく、3週間以上がさらに好ましい。施餌期間の上限は特に制限されず、養殖すべき水生生物によって異なり、例えば、養殖期間にわたってパラクロレラ属藻類を施餌してもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0060】
実施例1: 赤潮耐性試験
渦鞭毛藻ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama,以下、「ヘテロカプサ」と略記する)は、赤潮の原因となるプランクトンの中でも最も有害なものの一つであり、特に貝類のエラや外套膜に障害を与える毒素を産生し、養殖されているカキ、アコヤガイ、アサリ、サザエ、アワビなどにも深刻な悪影響を与えるものであり、ワムシに対しても致死作用を示すことが示されている。そこで本実験では、ヘテロカプサの異常増殖に対する耐性を試験した。
【0061】
(1) ワムシの前培養
パラクロレラ・ケスレリKNK−A001株の細胞を超音波処理して分散させた後、オートクレーブ処理し、SWM−3培地(40mL)に、200万細胞/mLの割合で添加した。次いで、ワムシを100匹程度添加し、明暗12時間サイクルの白色蛍光下(200±5μmolm
-2S
-1)、28℃の条件で1週間培養した。次いで、100〜200個体のワムシを新しいSWM−3培地(40mL)が入ったフラスコに移した。この作業を繰り返すことでワムシを3週間培養した。
【0062】
対照例として、KNK−A001株の代わりに、ワムシの一般的な飼育飼料であるナンノクロロプシス・オキュラータ(Nannochloropsis oculata)を用いた以外は上記と同様の条件でワムシを3週間培養した。
【0063】
(2) 赤潮耐性試験
SWM−3培地へ1×10
5cells/mLの割合でヘテロカプサを添加し、当該細胞懸濁液(500μL)を24穴細胞培養用プレートの各ウェルに添加した。上記(1)でKNK−A001株を1週間または3週間給餌培養したワムシ、或いは通常飼料で3週間給餌培養したワムシを10匹ずつ、それぞれ3ウェルに添加した。
【0064】
1時間毎に6時間まで各ウェルを顕微鏡にて観察し、ワムシの生存個体数を確認し、各群における生存個体割合を算出した。顕微鏡観察では、ワムシ個体の内部の胃、卵黄線、繊毛葉、足のいずれかの動きが観察されたものを生存個体とした。結果を
図1に示す。
【0065】
図1に示す結果のとおり、通常飼料で飼育した場合、ヘテロカプサによりワムシは6時間で全滅してしまった。
【0066】
一方、飼料としてパラクロレラ・ケスレリKNK−A001株を使って1週間飼育した場合には、5〜6時間後における個体数はかなり減ってしまったものの、それまでの生存率は高く維持されていた。さらに、パラクロレラ・ケスレリKNK−A001株で3週間飼育した場合には、生存率は明らかに改善され、ヘテロカプサに対する耐性が顕著に高まっていることが分かった。
【0067】
以上の結果から、飼料としてパラクロレラ属藻類を用いることにより、プランクトンの異常増殖に対する水生生物の耐性が改善し、その改善作用は、パラクロレラ属藻類を飼料として用いた飼育期間が長いほど高まることが実証された。