特許第6668091号(P6668091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ミヨシ油脂株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6668091-紫外線吸収剤とそれを用いた樹脂部材 図000021
  • 特許6668091-紫外線吸収剤とそれを用いた樹脂部材 図000022
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6668091
(24)【登録日】2020年2月28日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】紫外線吸収剤とそれを用いた樹脂部材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20200309BHJP
   C07D 251/24 20060101ALI20200309BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20200309BHJP
   C08K 5/378 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
   C09K3/00 104B
   C07D251/24
   C08L101/12
   C08K5/378
【請求項の数】7
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-16041(P2016-16041)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-132948(P2017-132948A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174702
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】河合 功治
(72)【発明者】
【氏名】金子 恒太郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 信裕
(72)【発明者】
【氏名】矢下 亜紀良
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−352728(JP,A)
【文献】 特開昭50−123747(JP,A)
【文献】 特開平07−070091(JP,A)
【文献】 特開2011−148865(JP,A)
【文献】 特開2011−006517(JP,A)
【文献】 特開昭49−126581(JP,A)
【文献】 特表2013−539458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C07D
C08L
C08K
A61K 8/
A61Q
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
(式中、R1〜R15はそれぞれ独立に、下記式(i):
【化2】
(式(i)中、R17はyが2以上の場合はそれぞれ独立に芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価もしくは2価の基で、水素原子が置換されるか、両端の少なくともいずれかが中断されるか、又は炭素−炭素結合が中断されていてもよい炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示し、R18は芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価のもしくは2価の基で、水素原子が置換されるか、基端が中断されるか、又は炭素−炭素結合が中断されていてもよい炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または水素原子を示す。y個のR17とR18の総炭素数は60以下である。yは0〜3の整数を示す。)で表わされる1価の硫黄含有基、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、芳香族基、不飽和基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルホ基、チオカルボニル基、チオカルバモイル基、チオ尿素基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価の基を示す。R1〜R5、R6〜R10、及びR11〜R15の3つの群から選ばれるいずれか2つの群のうちの1群当たり1〜4個の基が、式(i)で表わされる1価の硫黄含有基である。)で表わされる紫外線吸収剤。
【請求項2】
前記式(i)で表わされる1価の硫黄含有基は、yが0である、請求項1に記載の紫外線吸収剤。
【請求項3】
前記式(i)で表わされる1価の硫黄含有基は、y個のR17が炭素数18以下のアルキレン基を含み、R18が炭素数18以下のアルキル基を含む、請求項1又は2に記載の紫外線吸収剤。
【請求項4】
1〜R15のうち式(i)で表わされる1価の硫黄含有基以外の置換基が、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基、及びハロゲン原子から選ばれる、請求項1から3のいずれか一項に記載の紫外線吸収剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の紫外線吸収剤をマトリックスの樹脂中に含有する樹脂部材。
【請求項6】
マトリックスが透明樹脂である請求項5に記載の樹脂部材。
【請求項7】
フィルム、シート、プレート状部材、又は光学樹脂である請求項5又は6に記載の樹脂部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂等のマトリックスに添加される紫外線吸収剤とそれを用いた樹脂部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂や人体に対する紫外線の有害性が知られている。
【0003】
樹脂部材は紫外線の作用により劣化し、変色や機械的強度の低下等の品質劣化を引き起こして長期の使用を阻害する。このような品質劣化を防止したり、あるいは透過光の波長を制御したりするために、樹脂部材に無機系又は有機系の紫外線吸収剤を配合することが一般に行われている。
【0004】
また、紫外線は皮膚に作用し、シミ、そばかす、しわの形成、皮膚がんの原因になるものである。このような皮膚への影響を防止するために、化粧料や日焼け止め等に無機系又は有機系の紫外線吸収剤を配合することが一般に行われている。
【0005】
無機系の紫外線吸収剤は、耐候性や耐熱性等の耐久性に優れている反面、吸収波長が化合物のバンドギャップによって決定されるため選択の自由度が少なく、近紫外線の中でも400nm付近の長波紫外線(UV−A、315〜400nm)領域まで吸収できるものは少なく、長波紫外線を吸収するものは400〜500nm(可視域)までの波長光を多く吸収するため着色を伴ってしまう。
【0006】
これに対して有機系の紫外線吸収剤は、吸収剤の構造設計の自由度が高いために、吸収剤の構造を工夫することによって様々な吸収波長のものを得ることができる。従来、有機系の紫外線吸収剤としては、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系、サリシレート系等の紫外線吸収剤が知られている(例えば特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−67811号公報
【特許文献2】特開2012−184168号公報
【特許文献3】特表2005−504047号公報
【特許文献4】特表平6−505744号公報
【特許文献5】PCT/JP2015/72284
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、光学フィルム、光学成形品等の光学材料、各種コーティング剤においては、UV−A領域まで遮蔽効果を示すことに加えて、その透明な外観を得る点等から、紫外線吸収剤の可視光吸収に起因する黄変着色を抑制することが望まれていた。
【0009】
光学材料、コーティング剤をはじめとする透明樹脂部材は、用途上、成形後又は経時で透明であることが望まれ、紫外線劣化による不透明化や変色が起こす光学特性の劣化を防止する面から、また、皮膚等へのヘルスケアを観点におく用途においても、UV−Aでも長波長の360〜400nmの波長光を効率良く吸収する薬剤が必要とされている。しかしながら、360〜400nmのUV−A領域の波長光を十分吸収させようとすると、従来の紫外線吸収剤では、その波長領域の吸収効率が低く、多くの添加量が必要となり、同時に、その光学的特性より、400nm付近より長波長の可視光領域の光も多く吸収するため、例えば、樹脂部剤に使用した際に黄色化する問題があった。一方で、400nmまでのUV−A領域を十分吸収する紫外線吸収剤であっても、やはり、400nm付近より長波長の可視光領域の光も同時に多く吸収し、樹脂部材が黄色化する問題があった。
【0010】
また、紫外線吸収剤の添加量が多くなると、コストの問題、またはマトリックスの樹脂との相溶性に制約が生じ、高濃度での均一な溶解が困難になったり、白濁を生じてしまい透明性を損なってしまったりする場合がある。そのため、高い透明性が要求される用途、過酷な条件下での使用が想定される用途では、少量添加でも必要とする紫外線吸収性能を十分発現することが望まれていた。
【0011】
従来の有機系の紫外線吸収剤の多くは、上記したような、長波長領域の紫外線の吸収、黄変抑制、少量添加での使用が可能な高モル吸光係数の3つをバランスよく持ち合わせていない。
【0012】
一方、有機系の紫外線吸収剤は、紫外線吸収剤を含む樹脂組成物を加熱して成形、加工する際に紫外線吸収剤が熱分解し、樹脂部材の紫外線吸収能の低下、そして、透明樹脂部材の場合、その透明性を損ない、さらには、成形、加工装置内を汚染させる可能性があり、より耐熱性に優れた有機系の紫外線吸収剤が求められている。
【0013】
本発明者らは、トリアジン系の紫外線吸収骨格に、硫黄含有基を導入した紫外線吸収剤を開発した(特許文献5)。しかし、実施例ではトリアジン骨格に結合する3つのベンゼン環への硫黄含有基の導入位置について、少量の添加量でも長波長領域の紫外線を吸収し、かつ黄変着色を抑制する観点から特に優れたものに着目した検討はされていない。
【0014】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、少量の添加量でも360〜400nmの長波長領域の紫外線を効率よく吸収し、かつ黄変着色が抑制された樹脂部材を得ることができ、耐熱性にも優れた紫外線吸収剤とそれを用いた樹脂部材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の紫外線吸収剤は、下記式(I):
【0016】
【化1】
(式中、R〜R15はそれぞれ独立に、下記式(i):
【0017】
【化2】
(式(i)中、R16は芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価もしくは2価の基で、水素原子が置換されるか、両端の少なくともいずれかが中断されるか、又は炭素−炭素結合が中断されていてもよい炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示し、R17はyが2以上の場合はそれぞれ独立に芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価もしくは2価の基で、水素原子が置換されるか、両端の少なくともいずれかが中断されるか、又は炭素−炭素結合が中断されていてもよい炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示し、R18は芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価のもしくは2価の基で、水素原子が置換されるか、基端が中断されるか、又は炭素−炭素結合が中断されていてもよい炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または水素原子を示す。R16とy個のR17とR18の総炭素数は60以下である。xは0又は1の整数を示し、yは0〜3の整数を示す。)で表わされる1価の硫黄含有基、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価の基を示す。R〜R、R〜R10、及びR11〜R15の3つの群から選ばれるいずれか2つの群のうちの1群当たり1〜4個の基が、式(i)で表わされる1価の硫黄含有基である。)で表わされることを特徴としている。
【0018】
本発明の樹脂部材は、前記の紫外線吸収剤をマトリックスの樹脂中に含有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の紫外線吸収剤によれば、吸収ピークの特徴により、360〜400nmの長波長領域の紫外線を吸収し、かつ黄変着色が抑制された樹脂部材を得ることができる。また、モル吸光係数が高く、長波長領域の紫外線吸収の効率が良いことから、樹脂等のマトリックスに対して添加量の低減化を図ることができる。さらに、耐熱性に優れており、高い樹脂の成形加工温度にも適用することができる。
【0020】
本発明の樹脂部材によれば、長波長領域の紫外線吸収性能に優れ、かつ紫外線吸収剤に起因する黄変着色が少ない。また、透明樹脂部材は、それらに加えて高い透明性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1〜5の紫外−可視吸収スペクトル(UVチャート)である。
図2】比較例1〜5の紫外−可視吸収スペクトル(UVチャート)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を詳細に説明する。
前記の式(I)で表わされる紫外線吸収剤は、トリアジン系の紫外線吸収骨格に、式(i)で表わされる1価の硫黄含有基を導入するとともに、トリアジン骨格に結合する3つのベンゼン環への硫黄含有基の導入位置を、R〜R、R〜R10、及びR11〜R15の3つの群から選ばれるいずれか2つの群としたことを特徴としている。この特定の位置での硫黄含有基の導入によって、モル吸光係数が高く、少量の添加量でも長波長領域の紫外線を吸収し、かつ黄変着色が抑制された樹脂部材を得ることができ、耐熱性にも優れたものとすることができる。
【0023】
[置換基等]
本発明において、「芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価もしくは2価の基」には、高屈折率を付与できる基、耐熱性、樹脂に対する相溶性を調整できる基、樹脂及び/又は樹脂のモノマーと反応する基等が含まれ、例えば、次のものが含まれる。
(芳香族基)
芳香族基は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香環を含み、炭素数が好ましくは6〜18、より好ましくは6〜14である。1価もしくは2価の芳香族基としては、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,4,5−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−ビフェニル基、1−ナフチル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、2−クロロフェニル基、2−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2−トリフルオロメチルフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。
(不飽和基)
不飽和基は、炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合、炭素−酸素二重結合(カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基等)、炭素−窒素二重結合(イソシアネート基等)、炭素−窒素三重結合(シアノ基、シアナト基等)等の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子の不飽和結合を含み、炭素数が好ましくは1〜10、より好ましくは1〜8である。1価もしくは2価の不飽和基としては、アクリロイル基、メタクロイル基、マレイン酸モノエステル基、スチリル基、アリル基、ビニル基、アミド基、カルバモイル基、シアノ基、イソシアネート基等が挙げられる。
(硫黄含有基)
硫黄含有基は、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルホ基、チオカルボニル基、チオカルバモイル基、又はチオ尿素基を含み、炭素数が好ましくは0〜10である。1価もしくは2価の硫黄含有基としては、チオメトキシ基、チオエトキシ基、チオ−n−プロポキシ基、チオイソプロポキシ基、チオ−n−ブトキシ基、チオ−t−ブトキシ基、チオフェノキシ基、p−メチルチオフェノキシ基、p−メトキシチオフェノキシ基、チオフェン基、チアゾール基、チオール基、スルホ基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、チオカルボニル基、チオ尿素基等が挙げられる。
(酸素含有基)
酸素含有基は、芳香環基又は脂環式基を含む場合には炭素数が好ましくは6〜12、芳香環基又は脂環式基を含まない場合には炭素数が好ましくは0〜6である。1価もしくは2価の酸素含有基としては、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基、ナフトキシ基、フェニルメトキシ基、フェニルエトキシ基、アセトキシ基、アセチル基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルバモイル基、尿素基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、オキサゾール基、モルホリン基等が挙げられる。
(リン含有基)
リン含有基は、ホスフィン基、ホスファイト基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、リン酸基、又はリン酸エステル基を含み、芳香環基又は脂環式基を含む場合には炭素数が好ましくは6〜22、芳香環基又は脂環式基を含まない場合には炭素数が好ましくは0〜6である。1価もしくは2価のリン含有基としては、トリメチルホスフィン基、トリブチルホスフィン基、トリシクロヘキシルホスフィン基、トリフェニルホスフィン基、トリトリルホスフィン基、メチルホスファイト基、エチルホスファイト基、フェニルホスファイト基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、リン酸基、リン酸エステル基等が挙げられる。
(脂環式基)
脂環式基は、炭素数が好ましくは3〜10、より好ましくは3〜8である。1価もしくは2価の脂環式基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
(ハロゲン原子)
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
1.式(I)で表わされる紫外線吸収剤
前記の式(I)で表わされる紫外線吸収剤は、トリアジン系の骨格に前記の式(i)で表わされる1価の硫黄含有基を含む。
【0024】
式(i)において、R16は芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価もしくは2価の基で、水素原子が置換されるか、両端の少なくともいずれかが中断されるか、又は炭素−炭素結合が中断されていてもよい炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示す。
【0025】
16の2価の炭化水素基としては、直鎖又は分岐のアルキレン基、直鎖又は分岐のアルケニレン基、直鎖又は分岐のアルキニレン基等が挙げられる。具体的には、例えば、メチレン基、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、1−メチルエタン−1,2−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基、2−メチルプロパン−1,3−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ペンタン−1,4−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基、ヘプタン−1,7−ジイル基、オクタン−1,8−ジイル基、ノナン−1,9−ジイル基、デカン−1,10−ジイル基、ウンデカン−1,11−ジイル基、ドデカン−1,12−ジイル基、トリデカン−1,13−イル基、テトラデカン−1,14−イル基、ペンタデカン−1,15−イル基、ヘキサデカン−1,16−イル基、ヘプタデカン−1,17−イル基、オクタデカン−1,18−イル基、ノナデカン−1,19−イル基、エイコサン−1,20−イル基等が挙げられる。これらの中でも、アルキレン基が好ましく、直鎖のアルキレン基がより好ましい。
【0026】
16の2価の炭化水素基が、前記1価もしくは2価の基で、水素原子が置換されるか、基端が中断されるか、又は炭素−炭素結合が中断される場合、前記1価もしくは2価の基の数は2個以下が好ましく、1個以下がより好ましく、0個が特に好ましい。
【0027】
前記1価もしくは2価の基の芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、ハロゲン原子の具体例としては、前記[置換基等]の欄に例示したものが挙げられる。
【0028】
式(i)において、R17はyが2以上の場合はそれぞれ独立に芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価もしくは2価の基で、水素原子が置換されるか、両端の少なくともいずれかが中断されるか、又は炭素−炭素結合が中断されていてもよい炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示す。
【0029】
17の2価の炭化水素基としては、R16の2価の炭化水素基で前記に例示したものが挙げられる。これらの中でも、アルキレン基が好ましく、直鎖のアルキレン基がより好ましい。
【0030】
17の2価の炭化水素基が、前記1価もしくは2価の基で、水素原子が置換されるか、基端が中断されるか、又は炭素−炭素結合が中断される場合、前記1価もしくは2価の基の数は2個以下が好ましく、1個以下がより好ましく、0個が特に好ましい。
【0031】
前記1価もしくは2価の基の芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、ハロゲン原子の具体例としては、前記[置換基等]の欄に例示したものが挙げられる。
【0032】
式(i)において、R18は芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価もしくは2価の基で、水素原子が置換されるか、基端が中断されるか、又は炭素−炭素結合が中断されていてもよい炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または水素原子を示す。
【0033】
18の1価の炭化水素基としては、直鎖又は分岐のアルキル基、直鎖又は分岐のアルケニル基、直鎖又は分岐のアルキニル基等が挙げられる。具体的には、例えば、メチル基、エタン−1−イル基、プロパン−1−イル基、1−メチルエタン−1−イル基、ブタン−1−イル基、ブタン−2−イル基、2−メチルプロパン−1−イル基、2−メチルプロパン−2−イル基、ペンタン−1−イル基、ペンタン−2−イル基、ヘキサン−1−イル基、ヘプタン−1−イル基、オクタン−1−イル基、ノナン−1−イル基、デカン−1−イル基、ウンデカン−1−イル基、ドデカン−1−イル基、トリデカン−1−イル基、テトラデカン−1−イル基、ペンタデカン−1−イル基、ヘキサデカン−1−イル基、ヘプタデカン−1−イル基、オクタデカン−1−イル基、ノナン−1−イル基、エイコサン−1−イル基等が挙げられる。これらの中でも、アルキル基が好ましく、直鎖のアルキル基がより好ましい。
【0034】
18の1価の炭化水素基が、前記1価もしくは2価の基で、水素原子が置換されるか、基端が中断されるか、又は炭素−炭素結合が中断される場合、置換基の数は2個以下が好ましく、1個以下がより好ましく、0個が特に好ましい。
【0035】
前記1価もしくは2価の基の芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、ハロゲン原子の具体例としては、前記[置換基等]の欄に例示したものが挙げられる。
【0036】
式(i)において、xは0又は1の整数を示し、yは0〜3、好ましくは0又は1の整数を示す。 式(i)において、R16とy個のR17とR18の総炭素数は60以下であり、36以下が好ましく、24以下がより好ましく、16以下が特に好ましい。これらの中でも、少量の添加量でも長波長領域の紫外線を吸収し、かつ黄変着色が抑制された樹脂部材を得ることができ、耐熱性にも優れたものとすることができる点等を考慮すると、式(i)で表わされる1価の硫黄含有基は、R16とy個のR17とが、それぞれ炭素数18以下のアルキレン基を含み、R18が炭素数18以下のアルキル基を含むことが好ましい。さらに、R16とy個のR17とR18がいずれも直鎖で、かつR16、R17、R18のそれぞれの炭素数が1〜18であることが好ましい(ここではx=0の場合、及びy=0の場合をも包含する。)。これらの中でも、x=0、かつy=0である態様は、好ましい態様の一つである。
【0037】
式(I)において、R〜R15が式(i)で表わされる1価の硫黄含有基以外の基である場合、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価の基を示す。
【0038】
〜R15が1価の炭化水素基である場合、この1価の炭化水素基としては、直鎖又は分岐のアルキル基、直鎖又は分岐のアルケニル基、直鎖又は分岐のアルキニル基等が挙げられる。具体的には、例えば、メチル基、エタン−1−イル基、プロパン−1−イル基、1−メチルエタン−1−イル基、ブタン−1−イル基、ブタン−2−イル基、2−メチルプロパン−1−イル基、2−メチルプロパン−2−イル基、ペンタン−1−イル基、ペンタン−2−イル基、ヘキサン−1−イル基、ヘプタン−1−イル基、オクタン−1−イル基、ノナン−1−イル基、デカン−1−イル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜8の直鎖又は分岐のアルキル基が好ましい。
【0039】
〜R15が芳香族基、不飽和基、硫黄含有基、酸素含有基、リン含有基、脂環式基、及びハロゲン原子から選ばれる1価の基である場合、その具体例としては、前記[置換基等]の欄に例示したものが挙げられる。
【0040】
これらの中でも、R〜R15のうち式(i)で表わされる1価の硫黄含有基以外の置換基が、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基、及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種である態様は、好ましい態様の一つである。
【0041】
式(I)において、R〜R、R〜R10、及びR11〜R15の3つの群から選ばれるいずれか2つの群のうちの1群当たり1〜4個の基が、式(i)で表わされる1価の硫黄含有基である。2つの群の各々における1〜4個の基は、数が同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0042】
式(I)における式(i)で表わされる1価の硫黄含有基の位置は、特に限定されるものではないが、R、R、R13等が挙げられる。
【0043】
式(I)の紫外線吸収剤は、樹脂モノマーに対する溶解度も高く、樹脂部材に加工しても表面に析出せず、透明性が高く、また、その光学的特性から、250〜400nmまでの波長領域の光を十分吸収することができる。しかも、紫外線吸収効果(モル吸光係数)が高く、少量の添加で、その波長光を十分吸収でき、クロロホルム溶液中で360〜400nmの吸収ピークの傾きが従来の紫外線吸収剤よりも大きいことから、樹脂部材の黄色化を抑制することができる。
【0044】
UV−A領域の特に長波長領域の360nmから400nm付近の波長光を効率良く吸収し、黄色化を抑え外観に優れた樹脂部材を得るためには、長波長領域(360〜400nm)吸収効果、黄色抑制効果、紫外線吸収効果を勘案する必要がある。
【0045】
UV−A領域でもより長波長領域の360〜400nmの波長光を効率良く吸収するためには、最大吸収波長の吸収ピークはより長波長領域に存在し、360〜400nmのピーク面積は大きい方が良い。そのため、5μMクロロホルム溶液における315〜400nm領域の光の吸収ピークが最大吸収波長(λmax)で370〜400nmにあることが好ましい。また、長波長領域の360〜400nmのピーク面積は、7以上が好ましい。 また、樹脂部材に添加した場合に、より可視域の吸収を抑え、黄色化を抑制するためには、315〜400nm領域にある吸収ピークは400nmに近接しすぎても好ましくない。従って、5μMクロロホルム溶液における315〜400nm領域にある吸収スペクトルは390nm以下が好ましく、そのピークはシャープな方が(傾きの絶対値が大きい方が)良く、吸収ピークの長波長側の傾き(吸収ピークと長波長側の吸収スペクトルのピークエンドを結んだ直線の傾きの絶対値:図1、後述の実施例欄を参照)は0.003以上が好ましい。そして、そのような光学的特性から可視域の400〜450nmのピーク面積は1以下が好ましい。
【0046】
また、少量で効率よく吸収するためには、上記の315〜400nmの吸収ピークのモル吸光係数(最大モル吸光係数:ελmax)は、40000L/(mol・cm)以上が好ましい。
【0047】
つまり、長波長領域の360〜400nmの波長光を効率良く吸収し、樹脂部材に添加した際、黄色化を抑制するためには、5μMクロロホルム溶液における315〜400nm領域の光の吸収ピークが最大吸収波長(λmax)で370〜390nmにあり、上記の傾きが0.003以上、モル吸光係数が40000以上で、360〜400nmのピーク面積が7以上、400〜450nmのピーク面積が1以下であることが好ましい。
【0048】
また、R〜R15の位置に電子吸引基、例えばハロゲン原子を結合させた化合物は、黄色抑制効果の点から315〜400nmの最大吸収ピークが390nm以下の範囲で、より長波長にシフトさせ、長波長領域(360〜400nm)のピーク面積およびモル吸光係数をより大きくし、長波長領域(360〜400nm)の吸収効率をより高くすることを可能とする。また、R〜R15の位置に式(i)で表わされる1価の硫黄含有基または水素原子を結合させた化合物は、400〜450nmのピーク面積をより小さくし、より黄色化を抑制することを可能とする。
【0049】
本発明の紫外線吸収剤は、トリアジン系の紫外線吸収骨格によって、紫外線吸収能を発揮し、250〜400nm付近に紫外線吸収帯があり、紫外線領域の波長をカットし、可視光領域の波長は透過する。あらゆる有機物質の光劣化に影響のあるUV−A領域(315〜400nm)まで吸収できる紫外線吸収剤が求められているが、本発明の紫外線吸収剤はUV−A領域の紫外線吸収能に優れ、400nm付近の領域までの紫外線を効率的にカットすることも可能である。トリアジン系化合物にチオエーテル基(i)を導入した本発明の紫外線吸収剤は、400〜450nm(可視域)の波長光の吸収を抑制し、大きく長波長にシフトし、UV−A領域でも、より長波長の360〜400nm付近の紫外線を効率よくカットすることが可能である。
【0050】
本発明の紫外線吸収剤は、樹脂に添加した際、樹脂の透明性を維持することができ、また、本発明の紫外線吸収剤は耐熱性に優れることから、これを含む樹脂部材を加熱成形・加工する過程で熱分解されにくいため、外観が損なわず、樹脂部材の紫外線吸収能、高屈折率性を低下しない樹脂部材が、さらに、透明樹脂部材では、透明性が高い部材が得られる。
【0051】
一方で、R〜R15、式(i)のチオエーテル基に炭素−炭素二重結合、ビニル基、ビニロキシ基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、マレオイル基、スチリル基、シンナモイル基等の重合性官能基及び架橋性官能基も含む水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、シリル基等の反応性官能基を持つ式(I)で表わされる本発明の紫外線吸収剤は、それらの官能基と反応する官能基(例えば、イソシアネート基、エポキシ基、カルボキシ酸基、カルボニル基、ヒドロキシ基、アルケニル基、アルキニル基、エーテル基、チオイソシアネート基、チオエポキシ基、チオカルボキシ酸基、チオカルボニル基、チオール基等)を含有するフィルム及び樹脂部材の原料モノマー、樹脂を用いて反応、共重合、成形加工して樹脂部材を得る場合、上記の紫外線吸収剤が、それらのモノマーと共重合または樹脂の官能基と反応し、マトリックスに固定化され、ブリードアウトすることなく、透明性を保持して、それぞれの紫外線吸収能、高屈折率化の機能を長期間保持することができる。
【0052】
式(I)で表わされる紫外線吸収剤を製造する際には、後述の実施例の開示と公知の技術が参照される。
【0053】
2.本発明の紫外線吸収剤を用いた樹脂部材
本発明の樹脂部材は、以上に説明した本発明の紫外線吸収剤を含有する。
【0054】
本発明の樹脂部材の形状は、特に限定されず任意の形状であってよいが、透明性を維持しながら高い紫外線吸収能及び/又は高屈折率を付与することができる点から、積層された複層構造は簡略化され、製造工程及びコスト削減が可能となる。中でも、複層構造を有する部材のうちの1つの層や、柔軟性又は可撓性を持つフィルムやシート、あるいは剛性を持つ板状のプレート状部材が好ましく、その他、光学成形品等の光学樹脂、光学レンズが好ましい。
【0055】
本発明の紫外線吸収剤を含む樹脂部材は、樹脂の透明性を維持することができ、また、本発明の紫外線吸収剤は耐熱性に優れることから、これを含む樹脂部材を加熱成形・加工する過程で熱分解されにくいため、外観が損なわれず、樹脂部材の紫外線吸収能、高屈折率性を低下しない樹脂部材が、さらに、透明部材では、透明性が高い部材が得られる。
【0056】
また、式(I)で表わされる本発明の紫外線吸収剤含有する透明樹脂部材は、紫外線吸収のピークの特性から、黄色化を抑制しながら長波長領域の波長の吸収を可能とする。また、R〜R15、式(i)のチオエーテル基にチオール基、ビニル基、ヒドロキシ基等の反応性官能基を持つ本発明の紫外線吸収剤を含む樹脂部材は、それら紫外線吸収剤に含有されるチオール基、ビニル基、ヒドロキシ基等の反応性官能基と反応する官能基(例えば、イソシアネート基、エポキシ基、カルボキシ酸基、カルボニル基、ヒドロキシ基、アルケニル基、アルキニル基、エーテル基、チオイソシアネート基、チオエポキシ基、チオカルボキシ酸基、チオカルボニル基、チオール基等)を含有するフィルム及び樹脂部材の原料モノマー、樹脂を用いて反応、成形加工する場合、得られる樹脂は、上記の紫外線吸収剤が、それらのモノマー、樹脂の官能基と反応し、マトリックスに固定化され、ブリードアウトすることなく、それぞれの紫外線吸収能、高屈折率化の機能を長期間保持することができる。
【0057】
本発明の紫外線吸収剤を含む透明樹脂部材は、透明性を維持し、さらに紫外線吸収剤の紫外線吸収能の特性から400〜500nm(可視域)の吸収を抑制し、UV−A領域でも、より長波長の360〜400nm付近の紫外線をシャープにカットすることが可能である。このため、樹脂部材は、黄色着色が抑制された、外観に優れるものが得られる。
【0058】
本発明の樹脂部材は、特に限定されないが、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体等のアクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系高分子等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、ナイロンなどの熱可塑性樹脂、ウレタン、チオウレタン、尿素、メラミン、アクリルメラミン、エピスルフィド、エポキシ、アリル、シリコーン、フェノール、ユリア、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂、アクリル、例えば多価アルコールのアクリル酸やメタクリル酸2−ヒドロキシエチル又はメタクリル酸エステルのような単官能又は多官能の(メタ)アクリレート化合物、ジイソシアネートと多価アルコール及びアクリル酸又はメタクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタン(メタ)アクリレート化合物、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル、ポリエステル、エポキシ、アルキッド、スピロアセタール、ポリブタジエン、ポリチオールポリエンなどの紫外線硬化樹脂が挙げられる。
【0059】
本発明の樹脂部材は、特に限定されないが、例えば、次の(1)〜(4)の方法で製造することができる。
(1) 本発明の紫外線吸収剤と樹脂又は、原料モノマーを含有するコーティング液を基材に塗布し、加熱、紫外線照射や乾燥で成膜する方法
(2) 本発明の紫外線吸収剤を樹脂又は、原料モノマーに混練して練り込み、押出機等を用いて成形・フィルム化する方法
(3) 本発明の紫外線吸収剤を樹脂接着剤に含有させ、その樹脂接着剤をフィルムに塗布する方法
(4) 本発明の紫外線吸収剤を原料モノマーに溶解し、金型やガラス型に注型し加熱、紫外線照射や乾燥で硬化させ成型する方法
【0060】
これらの方法のうち、(1)の本発明の紫外線吸収剤と樹脂又は原料モノマー材料を含有するコーティング液を塗布し成膜する方法は、透明な複層構造、フィルム、又はシートを得る点から本発明において好適である。
【0061】
この方法では、本発明の紫外線吸収剤と樹脂又は原料モノマーを、有機溶媒又は水系溶媒に希釈して、あるいは希釈しないでコーティング液を調製し、基材に塗布し成膜する。必要に応じて、乾燥、冷却、加熱、紫外線照射を行い、膜強度を向上させる。
【0062】
樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば機能性の光学層を有するフィルムや部材であれば、基材との密着性や硬度等の必要な物性を考慮して適宜に選択することができる。具体的には、紫外線硬化型の樹脂、電子線硬化型の樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。より具体的には、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アクリルメラミン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル系変性樹脂(PVB、EV等)、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、エピスルフィド樹脂、ナイロン樹脂又はそれらの共重合樹脂等が挙げられる。
【0063】
機能性の光学層を有するフィルムや部材においては、紫外線硬化型の樹脂や電子線硬化型の樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等を用いることができる。これらの樹脂を含むコーティング液を透明な基材に塗布して塗膜を形成し、この塗膜に対し、必要に応じて乾燥処理を施す。その後、紫外線や電子線を塗膜に照射または加熱して硬化反応を行うことにより、透明な光学層を形成することができる。
【0064】
紫外線硬化型の樹脂としては、アクリル系材料を用いることができる。アクリル系材料としては、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸エステルのような単官能又は多官能の(メタ)アクリレート化合物、ジイソシアネートと多価アルコール及びアクリル酸又はメタクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタン(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。また、これらの他にも、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等も用いることができる。
【0065】
紫外線硬化型の樹脂を用いる場合には、コーティング液には光重合開始剤を添加する。光重合開始剤としては、紫外線が照射された際にラジカルを発生するものであればよい。例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類等を用いることができる。
【0066】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリルメラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、エピスルフィド樹脂等を用いることができる。
【0067】
熱可塑性樹脂としては、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂等を用いることができる。
【0068】
コーティング液には、必要に応じて、希釈のための溶媒を加えてもよい。溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン等の炭化水素類、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、ジオキサン、ジオキソラン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール等のエーテル類;メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸n−ペンチル、γ−プチロラクトン等のエステル類;メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;水等が挙げられる。
【0069】
コーティング液には、必要に応じて、消泡剤、レベリング剤、酸化防止剤、光安定剤、重合禁止剤、触媒、染料、顔料等の紫外線吸収剤を配合してもよい。
【0070】
本発明の紫外線吸収剤の使用量は、目的に応じて、紫外線吸収能、高屈折率化、透明性等を考慮して、特に限定されるものではないが、溶媒等の揮発性成分を除くコーティング液の全量に対して0.01wt%、0.1wt%以上、10wt%以上、30wt%以上、又は50wt%以上添加することができる。
【0071】
作製したコーティング液は、バーコーター、グラビアコーター、コンマコーター、リップコーター、カーテンコーター、ロールコーター、ブレードコーター、スピンコーター、リバースコーター、ダイコーター、スプレー、ディッピング等の適宜の方法によって基材に塗布することができる。
【0072】
コーティング用の基材としては、特に限定されるものではないが、例えば、樹脂板、樹脂フィルム、樹脂シート、ガラス、建材等が挙げられる。
【0073】
本発明の樹脂部材を反射防止フィルム等の機能性の光学層を有するフィルムや部材の一部として使用する場合には、コーティング用の基材として、透明性や光の屈折率等の光学特性、さらには耐衝撃性、耐熱性、耐久性等の諸物性を考慮して材料を選択することができる。このような材料としては、特に限定されるものではないが、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体等のアクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系高分子等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂材料、あるいは、ソーダ硝子、カリ硝子、鉛硝子等のガラス(セラミックスを含む)、石英、蛍石、ダイヤモンド等の光透過性無機材料が挙げられる。
【0074】
これらの材料には、公知の紫外線吸収剤、例えば、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、高屈折率剤、可塑剤、滑剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤等を添加してもよい。
【0075】
なお、機能性の光学層を有するフィルムとして使用する場合の基材の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば10nm〜200μmである。また、このような基材は、単層であっても複数層を積層したものであってもよい。
【0076】
また、本発明の樹脂部材を製造する前記の方法のうち、(2)の本発明の紫外線吸収剤を樹脂に混練して練り込み、押出機等によって成形・フィルム化する方法では、本発明の紫外線吸収剤を、樹脂の粉体又はペレットに添加し、加熱、溶解させた後成形して製造することができる。
【0077】
樹脂の粉体又はペレットは特に限定されないが、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体等のアクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系高分子等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、ナイロン、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂材料、などが挙げられる。
【0078】
樹脂部材の成形方法は、特に限定されないが、射出成形法、押出成形法、カレンダー成形法、ブロー成形法、圧縮成形法等を用いることができる。押出機を使用する場合は、押出機によりフィルム化するか、あるいは押出機により原反を作製し、その後、1軸又は2軸に延伸してフィルムにする方法で樹脂部材を製造することができる。
【0079】
本発明の紫外線吸収剤は、チオエーテル基を導入することにより、耐熱性が向上する。本発明の紫外線吸収剤の5%重量減少温度は350℃以上であり、一般的な樹脂の軟化温度である100〜250℃(「よくわかるプラスチック」、監修:日本プラスチック工業連盟、出版:日本実業出版社)よりも高いため、成形加工温度100〜200℃の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂をはじめ、200〜250℃より高い成形加工温度が求められる熱可塑性樹脂に対しても適用が可能となる。
【0080】
なお、混練する際に、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、高屈折率剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、可塑剤等の通常の樹脂成形に用いる紫外線吸収剤を添加してもよい。
【0081】
また、本発明の樹脂部材を製造する前記の方法のうち、(3)の本発明の紫外線吸収剤を樹脂接着剤に含有させ、その樹脂接着剤をフィルムに塗布する方法では、樹脂接着剤として、一般に使用されているシリコーン系、ウレタン系、アクリル系、ポリビニルブチラール接着剤(PVB)、エチレン−酢酸ビニル系、エポキシ系接着剤等の公知の透明接着剤を使用し、本発明の紫外線吸収剤を添加した樹脂接着剤を用いて樹脂フィルム同士を接着、硬化することで、本発明の樹脂部材を含む複合材を製造することができる。
【0082】
本発明の樹脂部材を機能性の光学層を有するフィルムや部材の一部として使用する場合の膜厚は、樹脂材料の種類、密着性、硬度等の要求される物性を満足することができる範囲内であれば特に限定されるものではないが、例えば10nm〜200μmの範囲内である。
【0083】
また、本発明の樹脂部材を製造する前記の方法のうち、(4)の本発明の紫外線吸収剤を原料モノマーに溶解し、金型やガラス型に注型し加熱、紫外線照射や乾燥で硬化させ成型する方法では、加熱による硬化の場合、熱硬化性樹脂用モノマーを使用でき、特に限定されないが、例えばウレタン、チオウレタン、エポキシ、チオエポキシ、メラミン、シリコーン、フェノール、ユリア、不飽和ポリエステル樹脂を生成できる樹脂原料モノマーを使用することができる。樹脂原料モノマーのうちの少なくとも1種類のモノマーに本発明の紫外線吸収剤を溶解させ、樹脂化に必要なその他の樹脂モノマーを混合後、金型やガラス型に注型、加熱することで本発明の紫外線吸収剤を含む樹脂部材を製造することができる。紫外線硬化型の樹脂としては、アクリル系材料を用いることができる。アクリル系材料としては、アクリル酸やメタクリル酸2-ヒドロキシエチル又はメタクリル酸エステルのような単官能又は多官能の(メタ)アクリレート化合物、ジイソシアネートと多価アルコール及びアクリル酸又はメタクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタン(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。また、これらの他にも、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等も用いることができる。
【0084】
本発明の樹脂部材は、合成樹脂が使用される全ての用途に使用でき、特に限定されるものではないが、特に日光又は紫外線を含む光に晒される可能性のある用途に特に好適に使用できる。例えば、ガラス代替品、窓ガラス、採光ガラス及び光源保護ガラス等のガラス、金属類、樹脂等のコーティング剤や保護剤、蛍光灯、水銀灯等の紫外線を発する光源用部材、食品、薬品等の容器又は包装材、農工業用シート、印刷物、染色物、染顔料、表示板、表示灯、カード等の退色防止剤等を挙げることができる。
【0085】
中でも、本発明の樹脂部材は、マトリックスの透明性を維持しつつ、紫外線吸収能や、高屈折率の付与が可能である点から、特に光学材料、中でも機能性の光学層を有するフィルムや部材、光学成形品に好適である。
【0086】
機能性の光学層を有するフィルムや部材としては、単層フィルムや、基材フィルム又は基板に、各種用途に応じた1層又は複層の光学層が設けられた多層フィルムや光学層付き基板でもよく、複層の光学層が設けられる場合にはその少なくとも1層に本発明の樹脂部材が使用される。
【0087】
機能性の光学層を有するフィルムや部材のうち、光学フィルムとしては、基材フィルムに各種用途に応じた機能層が設けられたものであってもよく、例えば、各種光ディスク基板保護フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、配向フィルム、偏光フィルム、偏光層保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角向上フィルム、電磁波シールドフィルム、防眩フィルム、遮光フィルム及び輝度向上フィルム等が挙げられる。
【0088】
機能性の光学層を有する部材としては、パネル基板等の表面に、反射防止層、ハードコート層、帯電防止層、密着安定層、保護層、電磁波シールド層、赤外線カット層等の少なくともいずれかを、1層又は複層で積層した部材等が挙げられる。
【0089】
また本発明の樹脂部材は、太陽電池用表面保護フィルムに好適である。太陽電池素子は通常、一対の基板の間に、太陽電池として働く活性層が設けられた構成をしているが、フレキシブルな太陽電池は、その部材として用いられるガスバリアフィルム等のポリエステル材料や、有機太陽電池においては活性層そのものが、紫外線を吸収して劣化してしまうため、紫外線吸収性の保護フィルムを必要とする。また、太陽電池は、屋外で、永年に渡って設置されるため、このような保護フィルムには、高い耐候性が求められる。更に、太陽電池は、光エネルギーを吸収して電力に変換することから、このような保護フィルムには、高い透明性が求められる。すなわち、フレキシブルな太陽電池を保護するための保護フィルムは、高い透明性、高い紫外線吸収能、高い耐候性、及びフレキシブル性が求められるが、本発明の樹脂部材はこのような用途に適している。
【0090】
また本発明の樹脂部材は、光ピックアップレンズ、カメラ用レンズ及びレンチキュラーレンズ等の光学レンズ、プリズム、フィルター、並びにタッチパネル用基板及び導光板等の光学基板、光ファイバー、情報記録基盤等の光学成形品に好適に用いることができる。光学レンズとしては、フレネルレンズフィルム、レンチキュラーレンズフィルム等のレンズフィルムのようなプラスチックレンズや、小型化した光学機能素子で集光性や光拡散性を高める目的や撮像素子の受光素子への集光等の目的で使用される、数μmサイズの微小径のマイクロレンズを使用したマイクロレンズアレイにも好適である。
【0091】
また本発明の樹脂部材は、ディスプレイ用基板、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、電子ペーパー等のフラットパネルディスプレイ用基板又は液晶ディスプレイ、信号、ネオンサイン等のバックライト用基板等にも好適である。
【0092】
フィルム等の樹脂部材で広領域の波長の紫外線を吸収する場合、複数の紫外線吸収剤を使用したり、紫外線吸収剤を高濃度で添加したり、膜又は樹脂を厚くしたりする必要があるが、このような場合、透明性や着色上の点で問題が生じやすくなる。しかし本発明の紫外線吸収剤に使用されるチオエーテル基を二つ導入したトリアジン系化合物は、長波長領域360〜400nmと短波長紫外線の領域250〜300nmに紫外線吸収帯があり、より広範囲の紫外線吸収を可能とし、一つの紫外線吸収剤で、低濃度で、広領域の波長の紫外線を吸収することができる。
【0093】
例えば、遮光フィルムにおいては、360〜400nmまでの紫外線をカットすることが望ましいが、一般的な紫外線吸収剤は400〜500nm(可視域)の領域の波長光の多くをカットして、可視光が減退したり変色する問題があった。しかしながら、トリアジン系化合物にチオエーテル基(i)を導入した本発明の紫外線吸収剤は、400〜500nm(可視域)の波長光の吸収を抑制し、315〜400nm(UV−A領域)でも、より長波長の360〜400nmの紫外線をカットすることが可能となり、有用性が高い。
【0094】
また、本発明の紫外線吸収剤は、フィルム、樹脂部材だけではなく、上記の機能を持ちながら、紫外線吸収剤によって安定化、機能化することが求められる、例えば、染料、顔料、色素、インク、塗料、医薬品、表面コーティング、化粧品、写真材料、織物等にも用いることができる。
【実施例】
【0095】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
【0096】
【化3】
シアヌル酸クロリド(5.00g, 27.1mmol)をテトラヒドロフラン50mLに混合し、氷冷後、フェニルマグネシウムブロミド(16%テトラヒドロフラン溶液)(30.75g, 27.1mmol)を30分かけて滴下した後、1時間室温で反応した。反応終了後、トルエンを加えて水洗を行い、溶媒を留去して得られた固体を洗浄することにより中間体1を固体で得た。
【0097】
3−ヒドロキシベンゼンチオール(15.00g, 118.8mmol)、ブロモオクタン(21.79g, 112.8mmol)、炭酸カリウム(24.60g, 178.0mmol)をアセトニトリル150mL中で6時間加熱還流した。反応終了後、トルエンを加えて、水洗、溶媒留去、カラム精製を行うことにより、中間体2を液体で得た。
中間体1(5.00g, 22.1mmol)と塩化アルミニウム(9.73g, 73.0mmol)をO−キシレン100mL中で、25℃、30分反応させた後、中間体2(17.40g, 73.0mmol)を加え、80℃、8時間反応した。反応終了後、トルエンを加えて水洗、溶媒留去、カラム精製、再結晶を行うことにより、化合物1を得た。
【0098】
FT−IR(KBr):3064cm−1:O−H伸縮振動 1568, 845cm−1:トリアジン環伸縮振動 602cm−1:C-S伸縮振動
1H−NMR (CDCl3 400MHz): δ 0.90 (t, 6H, CH3(CH2)7S), 1.30 (m, 16H, CH3(CH2)4(CH2)3S), 1.48 (m, 4H, CH3(CH2)4CH2(CH2)2S), 1.76 (m, 4H, CH3(CH2)5CH2CH2S), 3.02 (t, 4H, CH3(CH2)6CH2S), 6.70 (d, 4H), 7.60 (t, 2H), 7.67 (d, 1H), 8.41 (d, 4H), (insg.13arom. CH), 13.27 (s, 2H, Ph-OH)
13C−NMR (CDCl3 400MHz): δ 14.1 (CH3(CH2)7S), 22.6 (CH3CH2(CH2)6S), 29.0 (CH3CH2CH2(CH2)5S), 29.1 (CH3(CH2)2(CH2)3(CH2)2S), 31.5 (CH3(CH2)5CH2CH2S), 31.8 (CH3(CH2)6CH2S), 114.3 ((HO-)CaromCaromC(-N)=N), 117.9, 128.8, 129.2, 129.8 (CHarom), 148.5 (Carom-S), 162.6 (Carom-OH), 178.5 (N-(Carom)-C=N)
【0099】
<実施例2>
【0100】
【化4】
シアヌル酸クロリド(5.00g, 27.1mmol)をテトラヒドロフラン50mLに混合し、氷冷後、p−トリルマグネシウムブロミド(19%テトラヒドロフラン溶液)(27.87g, 27.1mmol)を30分かけて滴下した後、1時間室温で反応した。反応終了後、トルエンを加えて水洗を行い、溶媒を留去して得られた固体を洗浄することにより中間体3を固体で得た。
【0101】
中間体3(5.00g, 20.8mmol)と塩化アルミニウム(9.15g, 68.6mmol)をO−キシレン100mL中で、25℃、30分反応させた後、中間体2(16.35g, 68.6mmol)を加え、80℃、8時間反応した。反応終了後、トルエンを加えて水洗、溶媒留去、カラム精製、再結晶を行うことにより、化合物2を得た。
【0102】
FT−IR(KBr):3065cm−1:O−H伸縮振動 1570, 845cm−1:トリアジン環伸縮振動 600cm−1:C-S伸縮振動
1H−NMR (CDCl3 400MHz): δ 0.90 (t, 6H, CH3(CH2)7S), 1.32 (m, 16H, CH3(CH2)4(CH2)3S), 1.48 (m, 4H, CH3(CH2)4CH2(CH2)2S), 1.77 (m, 4H, CH3(CH2)5CH2CH2S), 2.48 (s, 3H, CH3), 3.03 (t, 4H, CH3(CH2)6CH2S), 6.86 (d, 4H), 7.38 (t, 2H), 8.29 (d, 4H), (insg.13arom. CH), 13.33 (s, 2H, Ph-OH)
13C−NMR (CDCl3 400MHz): δ 14.1 (CH3(CH2)7S), 21.8 (CH3), 22.7 (CH3CH2(CH2)6S), 28.7 (CH3CH2CH2(CH2)5S), 29.2 (CH3(CH2)2(CH2)3(CH2)2S), 31.6 (CH3(CH2)5CH2CH2S), 31.8 (CH3(CH2)6CH2S), 114.2 ((HO-)CaromCaromC(-N)=N), 117.8, 128.8, 129.9, 148.3 (CHarom), 144.6 (Carom-S), 162.5 (Carom-OH), 178.5 (N-(Carom)-C=N)
【0103】
<実施例3>
【0104】
【化5】
シアヌル酸クロリド(5.00g, 27.1mmol)をテトラヒドロフラン50mLに混合し、氷冷後、4−クロロマグネシウムブロミド(1.0Mジエチルエーテル溶液)(19.34g, 27.1mmol)を30分かけて滴下した後、1時間室温で反応した。反応終了後、トルエンを加えて水洗を行い、溶媒を留去して得られた固体を洗浄することにより中間体4を固体で得た。
【0105】
中間体4(5.00g, 19.2mmol)と塩化アルミニウム(8.45g, 63.4mmol)をO−キシレン100mL中で、25℃、30分反応させた後、中間体2(15.11g, 63.4mmol)を加え、80℃、8時間反応した。反応終了後、トルエンを加えて水洗、溶媒留去、カラム精製、再結晶を行うことにより、化合物3を得た。
【0106】
FT−IR(KBr):3060cm−1:O−H伸縮振動 1560, 840cm−1:トリアジン環伸縮振動 600cm−1:C-S伸縮振動
1H−NMR (CDCl3 400MHz): δ 0.90 (t, 6H, CH3(CH2)7S), 1.32 (m, 16H, CH3(CH2)4(CH2)3S), 1.48 (m, 4H, CH3(CH2)4CH2(CH2)2S), 1.75 (m, 4H, CH3(CH2)5CH2CH2S), 3.03 (t, 4H, CH3(CH2)6CH2S), 6.85 (d, 4H), 7.56 (t, 2H), 8.33 (d, 4H), (insg.13arom. CH), 13.12 (s, 2H, Ph-OH)
13C−NMR (CDCl3 400MHz): δ 14.1 (CH3(CH2)7S), 22.6 (CH3CH2(CH2)6S), 29.0 (CH3CH2CH2(CH2)5S), 29.1 (CH3(CH2)2(CH2)3(CH2)2S), 31.6 (CH3(CH2)5CH2CH2S), 31.8 (CH3(CH2)6CH2S), 114.4 ((HO-)CaromCaromC(-N)=N), 118.1, 128.8, 129.2, 129.8 (CHarom), 149.1 (Carom-S), 162.5 (Carom-OH), 179.4 (N-(Carom)-C=N)
【0107】
<実施例4>
【0108】
【化6】
3−ヒドロキシベンゼンチオール(15.00g, 118.8mmol)、炭酸カリウム(24.60g, 178.0mmol)をアセトニトリル150mLに混合し、氷冷後、ヨウ化メチル(17.70g, 124.7mmol)を30分かけて滴下した後、1時間室温で反応した。反応終了後、トルエンを加えて、水洗、溶媒留去、カラム精製を行うことにより、中間体5を液体で得た。
【0109】
中間体1(5.00g, 22.1mmol)と塩化アルミニウム(9.73g, 73.0mmol)をO−キシレン100mL中で、25℃、30分反応させた後、中間体5(10.24g, 73.0mmol)を加え、80℃、8時間反応した。反応終了後、トルエンを加えて水洗、溶媒留去、カラム精製、再結晶を行うことにより、化合物4を得た。
【0110】
FT−IR(KBr):3060cm−1:O−H伸縮振動 1565, 840cm−1:トリアジン環伸縮振動 600cm−1:C-S伸縮振動
1H−NMR (CDCl3 400MHz): δ 2.53 (s, 6H, CH3), 6.83 (d, 4H), 7.56 (t, 2H), 7.64 (d, 1H), 8.38 (d, 4H), (insg.13arom. CH), 13.25 (s, 2H, Ph-OH)
13C−NMR (CDCl3 400MHz): δ 14.6 (CH3), 113.3 ((HO-)CaromCaromC(-N)=N), 117.1, 128.7, 129.2, 133.5 (CHarom), 149.2 (Carom-S), 162.6 (Carom-OH), 178.5 (N-(Carom)-C=N)
【0111】
<実施例5>
【0112】
【化7】
3−ヒドロキシベンゼンチオール(15.00g, 118.8mmol)、ブロモオクタデカン(37.61g, 112.8mmol)、炭酸カリウム(24.60g, 178.0mmol)をアセトニトリル150mL中で6時間加熱還流した。反応終了後、トルエンを加えて、水洗、溶媒留去、カラム精製を行うことにより、中間体6を液体で得た。
【0113】
中間体1(5.00g, 22.1mmol)と塩化アルミニウム(9.73g, 73.0mmol)をO−キシレン100mL中で、25℃、30分反応させた後、中間体6(27.64g, 73.0mmol)を加え、80℃、8時間反応した。反応終了後、トルエンを加えて水洗、溶媒留去、カラム精製、再結晶を行うことにより、化合物5を得た。
【0114】
FT−IR(KBr):3055cm−1:O−H伸縮振動 1572, 850cm−1:トリアジン環伸縮振動 602cm−1:C-S伸縮振動
1H−NMR (CDCl3 400MHz): δ 0.88 (t, 6H, CH3(CH2)17S), 1.25 (m, 28H, CH3(CH2)14(CH2)3S), 1.48 (m, 4H, CH3(CH2)14CH2(CH2)2S), 1.77 (m, 4H, CH3(CH2)15CH2CH2S), 3.02 (t, 4H, CH3(CH2)16CH2S), 6.90 (d, 4H), 7.57 (t, 2H), 7.65 (d, 1H), 8.43 (d, 4H), (insg.13arom. CH), 13.28 (s, 2H, Ph-OH)
13C−NMR (CDCl3 400MHz): δ 14.1 (CH3(CH2)17S), 22.7 (CH3CH2(CH2)16S), 29.2 (CH3CH2CH2(CH2)15S), 29.6 (CH3(CH2)2(CH2)13(CH2)2S), 31.5 (CH3(CH2)15CH2CH2S), 31.9 (CH3(CH2)16CH2S), 114.3 ((HO-)CaromCaromC(-N)=N), 117.9, 128.8, 129.2, 129.8 (CHarom), 148.5 (Carom-S), 162.6 (Carom-OH), 178.5 (N-(Carom)-C=N)
【0115】
<比較例1>
【0116】
【化8】
ヒドロキシベンゼンチオール(15.0g, 118.8mmol)、ブロモヘキサン(18.63g, 112.8mmol)及び炭酸カリウム(24.6g, 178.2mmol)をアセトニトリル150mL中で6時間加熱還流した。反応終了後、トルエンを加えて、水洗、溶媒留去、カラム精製を行うことにより、中間体7を液体で得た。
【0117】
2−クロロ−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン(1.92g, 7.14mmol)と塩化アルミニウム(2.37g, 17.85mmol)をO−キシレン50mL中で、25℃、30分反応させた後、中間体7(2.00g, 14.25mmol)を加え、80℃、8時間反応した。反応終了後、トルエンを加えて水洗、溶媒留去、カラム精製、再結晶を行うことにより、化合物6を得た。
【0118】
FT−IR(KBr):3064cm−1:O−H伸縮振動 1568, 846cm−1:トリアジン環伸縮振動 602cm−1:C-S伸縮振動
1H−NMR (CDCl3 400MHz): δ 0.90 (t, 3H, CH3(CH2)5-S), 1.34 (m, 2H, CH3(CH2)2(CH2)3S), 1.47 (quin, 2H, CH3(CH2)2CH2(CH2)2S), 1.75 (quin, 2H, CH3(CH2)3CH2CH2S), 3.03 (t, 2H, CH3(CH2)3CH2CH2S), 6.89 (d, 2H) , 7.62 (m, 6H), 8.58 (d, 1H) , 8.63 (m, 4H) (insg.13arom. CH), 13.43 (s, 1H, Ph-OH)
13C−NMR (CDCl3 400MHz): δ 14.0 (CH3(CH2)5S), 22.5(CH3CH2(CH2)4S), 28.7 (CH3CH2CH2 (CH2)3S), 28.8 (CH3(CH2)2CH2(CH2)2S), 31.4 (CH3(CH2)3CH2CH2S), 31.8(CH3(CH2)4CH2S), 114.3 ((HO-)CCaromC(-N)=N),117.9, 129.0, 129.9, 133.0 (CHarom), 135.3 (Carom-C=N), 147.4 (Carom-S), 162.3 (Carom-OH), 171.4 (Carom-C=N)
【0119】
<比較例2>
【0120】
【化9】
シアヌル酸クロリド(1.92g, 7.14mmol)と中間体2(7.66g, 32.13mmol)を1,2−ジクロロエタン50mL中で、加熱溶解させた後氷冷し、塩化アルミニウム(0.95g,7.14mmol)を30分かけて加えた後、70℃、54時間反応した。反応終了後、トルエンを加えて水洗、溶媒留去、カラム精製、再結晶を行うことにより、化合物7を得た。
【0121】
FT−IR(KBr):2951cm−1:O−H伸縮振動 1570, 843cm−1:トリアジン環伸縮振動 606cm−1:C-S伸縮振動
1H−NMR (CDCl3 400MHz): δ 0.90 (t, 3H, CH3(CH2)7S), 1.32 (m, 8H, CH3(CH2)4(CH2)3S), 1.47 (quin, 2H, CH3(CH2)4CH2(CH2)2S), 1.72 (quin, 2H, CH3(CH2)5CH2CH2S), 2.92 (t, 2H, CH3(CH2)6CH2S), 6.70 (d, 2H) , 7.72 (d, 1H), (insg.13arom. CH), 12.99 (s, 1H, Ph-OH)
13C−NMR (CDCl3 400MHz): δ 14.1 (CH3(CH2)7S), 22.7 (CH3CH2(CH2)6S), 28.6 (CH3CH2CH2(CH2)5S), 29.2 (CH3(CH2)2(CH2)3(CH2)2S), 31.5 (CH3(CH2)5CH2CH2S), 31.9 (CH3(CH2)6CH2S), 111.8 (CaromC=N), 113.9, 117.7, 128.4 (CHarom), 149.6 (Carom-S), 162.7 (Carom-OH), 168.2 (Carom-C=N)
【0122】
<比較例3>
【0123】
【化10】
【0124】
<比較例4>
【0125】
【化11】
2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(5.00g, 15.8mmol)、オクタンチオール(7.63g, 52.1mmol)、炭酸カリウム(7.20g, 52.1mmol)及びヨウ化カリウム(0.18g, 1.1mmol)を、DMF50mL中で、150℃、20時間反応した。反応終了後、トルエンを加えて、水洗、溶媒留去、カラム精製を行うことにより、化合物9を得た。
【0126】
FT−IR(KBr):3125cm−1:O−H伸縮振動 1438, 1391cm−1:トリアゾール環伸縮振動 661cm−1:C-S伸縮振動
1H−NMR (CDCl3 400MHz): δ 0.88 (t, 3H, CH3(CH2)7S) , 1.27 (m, 8H, CH3(CH2)4(CH2)3S), 1.49 (m, 11H, -Ph-OH-CH3-C(CH3)3, CH3(CH2)4CH2(CH2)2S), 1.75 (quin, 2H, CH3(CH2)5 CH2CH2S), 2.38 (s, 3H, -Ph-OH-CH3-C(CH3)3) , 3.03 (t, 2H, CH3(CH2)5CH2CH2S), 7.16 (s, 1H), 7.37 (d, 1H), 7.70 (s, 1H), 7.81 (d, 1H), 8.05 (s, 1H), (insg.5arom. CH), 11.61 (s, 1H, -Ph-OH-CH3-C(CH3)3)
13C−NMR (CDCl3 400MHz): δ 14.0 (CH3(CH2)7S), 20.0 (-Ph-OH-CH3-C(CH3)3), 22.6 (-Ph-OH-CH3-C(CH3)3), 28.7 (CH3(CH2)5CH2CH2S), 31.9 (-Ph-OH-CH3-C(CH3)3) , 33.2 (CH3(CH2)5CH2CH2S), 35.4 (CH3(CH2)5CH2CH2S), 113.6, 117.5, 119.3, 128.7, 129.3 (CHarom), 141.2, 143.4 (Carom), 125.4(Carom-N), 128.3 (Carom-CH3), 138.0(Carom-S), 139.1(Carom-C(CH3)3), 146.7(Carom-OH)
【0127】
<比較例5>
【0128】
【化12】
化合物10は、東京化成(株)製の試薬を用いた。
【0129】
紫外線吸収剤の長波長領域の吸収効果は、“315〜400nm領域の吸収ピークの波長(最大吸収波長:λmax)”及び“長波長領域(360〜400nm)のピーク面積”、樹脂部材への添加の際の黄色抑制効果は “315〜400nm領域の吸収ピークの波長(最大吸収波長:λmax)”、“315〜400nmの領域にある吸収ピークの長波長側の傾きの絶対値”及び“400-450nmのピーク面積”、紫外線吸収効率は“モル吸光係数”と相関がある。
【0130】
長波長領域の吸収効果
(1)315〜400nm領域の吸収ピークの波長(最大吸収波長:λmax)
実施例及び比較例の化合物をクロロホルム5μMで希釈して10mm石英セルに収容し、紫外可視分光光度計(日本分光社製 V−550)を用いて紫外可視吸収スペクトルを測定し(図1、2)、UV−A(315〜400nm)の領域の吸収ピークを読み取った(表1)。
【0131】
本発明の式(i)を導入した化合物1〜5(実施例1〜5)の吸収ピークは、化合物6,8,9,10(比較例1,3,4,5)の吸収ピークより長波長にシフトし、UV−A領域でも長波長領域370〜400nmにピークを持ち、良好に長波長の光を吸収することを確認した。
【0132】
(2)長波長領域(360〜400nm)のピーク面積
実施例及び比較例の化合物の吸収スペクトル(5μM)から、長波長領域(360〜400nm)の領域のピーク面積(例:図1実施例2)を、紫外可視分光光度計(日本分光社製 V−550)を用いて算出した(表1)。 化合物1〜5(実施例1〜5)の長波長領域(360〜400nm)のピーク面積は、式(i)を含有するフェニルを1つ導入したトリアジン系の化合物6(比較例1)、式(i)の置換基をもたないトリアジン系の化合物8(比較例3)及びベンゾトリアゾール系の化合物9,10(比較例4,5)の面積より大きい。
【0133】
つまり、上記(1)、(2)の結果より、式(i)を含有するフェニルを2つ導入したトリアジン系の化合物1〜5(実施例1〜5)は、UV−Aでも特に長波長の360〜400nm付近の紫外線吸収効果に優れることを確認した。
【0134】
黄色抑制効果
(3)315〜400nm領域の吸収ピークの波長(最大吸収波長:λmax)
上記(1)で測定した吸収ピークについては、紫外線吸収剤を添加した樹脂部材の黄色抑制の観点からは、315〜400nm領域の吸収ピークは400nmに近接しすぎると、可視域の波長をより多く吸収するため、その吸収ピークは390nm以下が好ましい。化合物7(比較例2)の吸収ピーク(392.5nm)は、391nm以上であり、樹脂部材を黄色化する傾向があるのに対して、化合物1〜5(実施例1〜5)は、360〜400nm付近の紫外線吸収効果に優れていると同時に、それらの最大吸収ピークは390nm以下にあり、可視域の波長の吸収を抑制し、添加した樹脂部材の黄色化を抑制する。
【0135】
(4)315〜400nmの領域にある吸収ピークの長波長側の傾きの絶対値
実施例及び比較例の化合物の吸収スペクトル(5μM)から、315〜400nmにある吸収ピークにおける長波長側の吸収スペクトルとベースライン(400〜500nmの吸収スペクトルの傾きが0のライン)との交点をピークエンドとして(例:図1実施例1)、下記式により、315〜400nmの波長領域にある吸収ピークの長波長側の傾きの絶対値を求めた(表1、3)。
|315〜400nmの波長領域にある吸収ピークの長波長側の傾き|=|(ピークエンドの吸光度−315〜400nmの波長領域にある吸収ピークの吸光度)/(ピークエンドの吸収波長−315〜400nmの波長領域にある吸収ピークの波長)|
【0136】
360〜400nmの領域の波長を吸収すると同時に、黄変色を抑制する場合、上記(3)に加えて、より大きな傾きの(シャープな)吸収ピークを持つ紫外線吸収剤は、可視域(400nm〜)の波長の吸収を抑制し、黄変色を抑えることを可能とする。化合物1〜5(実施例1〜5の)の315〜400nmにある吸収ピークの傾きは、式(i)を含有するフェニルを1つ導入したトリアジン系の化合物6(比較例1)、式(i)の置換基をもたないトリアジン系の化合物8(比較例3)及びベンゾトリアゾール系の化合物9,10(比較例4,5)の傾きより大きく(シャープである)、0.003以上であり、黄変色の抑制効果が高いことを確認した。
【0137】
(5)400〜450nmのピーク面積
上記の(2)と同様に、実施例及び比較例の化合物の吸収スペクトル(5μM)から、可視光領域(400〜450nm)の領域のピーク面積を、紫外可視分光光度計(日本分光社製 V−550)を用いて算出した(表1)。
【0138】
上記(3)、(4)の光学特性を合わせ持つ化合物1〜5(実施例1〜5)の400〜450nmのピーク面積は、式(i)を含有するフェニルを3つ導入したトリアジン系の化合物7(比較例2)と比べて、黄色の要因となる400〜450nmのピーク面積が小さく(可視光領域の波長の吸収が少なく)、樹脂部材に使用した際の黄色化を抑制することが示唆された。
【0139】
(6)モル吸光係数
実施例及び比較例の化合物の吸収スペクトルから、315〜400nmの波長領域の最大吸収ピーク(最大吸収波長:λmx)の吸光度を読み取り、そのピークのモル吸光係数(最大モル吸光係数:εmx)を下記式によって求めた(表1、2)。
モル吸光係数:εmx(L/(mol・cm)=:吸光度/[c:モル濃度(mol/L)×l:セルの光路長(cm)]
【0140】
化合物1〜5(実施例1〜5の)は、式(i)を含有するフェニルを1つ導入したトリアジン系の化合物6(比較例1)、式(i)の置換基をもたないトリアジン系の化合物8(比較例3)及びベンゾトリアゾール系の化合物9,10(比較例4,5)に比べてモル吸光係数が高く、少量の添加で効率よく紫外線を吸収することを確認した。
【0141】
つまり、これらの紫外線吸収剤を部材に添加して360〜400nm領域の紫外線を同程度吸収する場合、化合物1〜5は、上記のモル吸光係数及び長波長領域(360〜400nm)のピーク面積が大きく、化合物6,8,9,10の添加量より少なくてもよい。また、その際、そのピークの波長(390nm以下)及び化合物1〜5の傾きは大きく、可視域400nm〜450nmのピーク面積をより少なくすること(可視光の吸収を抑制すること)が可能となり、樹脂部材の黄色化を抑制することができる。
【0142】
また、R〜R15の位置にハロゲン原子を結合させた化合物3(実施例3)は、化合物1〜5の中でも315〜400nmの最大吸収ピークが390nm以下の範囲で、より長波長にシフトし、長波長領域(360〜400nm)のピーク面積(9.5以上)およびモル吸光係数(55000以上)が大きく長波長領域(360〜400nm)の吸収効率がより高いことを確認した。
【0143】
さらに、R〜R15の位置に式(i)または水素原子を結合した化合物1、4、5は、400〜450nmのピーク面積が0.5以下であり、化合物1〜5の中でも小さく、黄色抑制効果がより大きいことを確認した。
【0144】
一方、式(i)を含有するフェニルを3つ導入したトリアジン系の化合物7(比較例2)は、化合物1〜5より、360〜400nmのピーク面積並びに上記の傾きが大きいが、370〜400nm領域のピークが、化合物1〜5より長波長の392.5nm(391nm以上)であるため、400nm〜450nmの光を多く吸収し(400〜450nmのピーク面積が大きく)、黄色抑制効果は低い。
【0145】
上記の測定結果を、以下の基準で評価し、表1にまとめた。
[1] 長波長領域の吸収効果
315〜400nm領域の吸収ピークの波長(最大吸収波長:λmax)
○:370〜400nm
△:365〜369nm
×:365nm未満
長波長領域(360〜400nm)のピーク面積
○:7以上
△:3以上
×:3未満
[2] 黄色抑制効果
315〜400nm領域の吸収ピークの波長(最大吸収波長:λmax)
○:390nm以下
×:391nm以上
315〜400nmの領域にある吸収ピークの長波長側の傾きの絶対値
○:0.003以上
△:0.002以上
×:0.002未満
400-450nmのピーク面積
○:1以下
△:3以下
×:4以上
[3] 紫外線吸収効率
モル吸光係数
○:40000以上
△:20000以上
×:20000未満
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【0148】
【表3】
表1から、化合物1〜5(実施例1〜5)及び化合物7(比較例2)は、類似する式(i)を含有するフェニルを導入したトリアジン系化合物の化合物6と比較して、UV−Aでも長波長の360〜400nmの長波長領域の吸収効果は高い。しかしながら、化合物7は黄色抑制効果が低く、化合物1〜5と比較して樹脂部材に添加した場合、黄色化すると示唆された。つまり、化合物1〜5は、樹脂部材に添加した場合、黄色化を抑制し、長波長領域の波長光を効率良くに吸収することができる。
【0149】
つまり、化合物1〜5(実施例1〜5)は、上記の全項目において良好であり、315〜400nm領域の光の吸収ピークが最大吸収波長(λmax)で370〜390nmにあり、上記の傾きが0.003以上、モル吸光係数が40000以上で、360〜400nmのピーク面積が7以上、400〜450nmのピーク面積が1以下であり、化合物6〜10(比較例1〜5)と比較して、少量の添加量で、360〜400nmの長波長の領域の波長光を効率良く吸収し、かつ黄変着色が抑制された樹脂部材を得ることができる。
【0150】
5%重量減少温度
実施例及び比較例の化合物について、示差熱熱重量同時測定装置(SII社製、TG/T6200)を用いて、昇温温度:10℃/min、測定範囲:25〜550℃で測定を行い、重量変化(TG)が5重量%減少した温度を読み取った。
【0151】
測定結果を表4に示す。
【表4】
実施例1〜5の化合物は、式(i)の置換基を2つ導入することにより、式(i)の置換基のない比較例3の化合物8、ベンゾトリアゾール骨格の比較例4、5の化合物9,10や、更には式(i)の置換基を1つ導入した比較例1の化合物6よりも5%重量減少温度が高く、耐熱性(紫外線吸収剤の熱分解による樹脂部材の紫外線吸収能、透明樹脂の透明性の低下を抑制)が向上し、200〜250℃より高い成形加工温度が求められる熱可塑性樹脂に対して適用性があることを確認した。
【0152】
フィルムの評価
本発明の化合物のフィルム、樹脂部材に対する相溶性(透明性)の効果を下記方法で確認した(表5)。
【0153】
実施例1〜5、比較例2の化合物0.1g、アクリル樹脂0.1g、クロロホルム4gを均一に混合した後、クロロホルムを2〜3g程度濃縮させ、これをスライドグラスに滴下し、その後45℃のオーブン中で2時間溶媒を除去することにより、膜厚10〜100μmのアクリルフィルムを作製した。また、添加物を添加せず、アクリル樹脂0.1g、クロロホルム4gを均一に混合し、上記同様な操作を行い、フィルムを作製した。
【0154】
(1)外観
フィルムの外観を目視で観察し、次の基準で評価した。
○:白濁なく透明
×:白濁が見られ透明性が悪い
【0155】
(2)膜厚
膜厚は、フィルムを切断した断面を、卓上顕微鏡((株)日立ハイテク製Miniscope TM3000)を用いて計測した。
【0156】
【表5】
本発明の式(i)を含有するフェニルを2つ導入した化合物1〜5(実施例1〜5)は、式(i)を含有するフェニルを3つ導入したトリアジン系の化合物7(比較例2)と比べて、樹脂との相溶性が良好となり、黄変色がない透明なアクリルフィルムを作製することが可能であった。

図1
図2