特許第6669435号(P6669435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6669435
(24)【登録日】2020年3月2日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】堰堤の構築方法及び堰堤
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/02 20060101AFI20200309BHJP
【FI】
   E02B7/02 B
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-29852(P2015-29852)
(22)【出願日】2015年2月18日
(65)【公開番号】特開2016-151152(P2016-151152A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2017年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 幸司
(72)【発明者】
【氏名】山口 聖勝
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 実用新案登録第2551375(JP,Y2)
【文献】 特開平08−338014(JP,A)
【文献】 特開2004−225453(JP,A)
【文献】 特開平08−068039(JP,A)
【文献】 特公平05−022005(JP,B2)
【文献】 特開2007−051517(JP,A)
【文献】 米国特許第05788411(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/00−7/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼製のセグメントを互いに連結して構成された、河川の上流側に対向するように設けられる上流壁部と、
複数のセグメントを互いに連結して構成された、河川の下流側に対向するように設けられる下流壁部と、
前記上流壁部と前記下流壁部との間に形成された空間に充填された中詰材と、
を備える堰堤の構築方法であって、
少なくとも前記上流壁部の一部を前記下流壁部に向けて上方に傾斜させ、かつ前記上流壁部の一部と前記下流壁部の一部とを互いに所定の間隔をあけて構築し、両壁部間の空間に中詰材を充填して本体部を構築する工程と、
前記本体部の構築後に、前記本体部の上端に前記上流壁部の残りの部分と前記下流壁部の残りの部分とを互いに所定の間隔をあけて構築し、両壁部間の空間に中詰材を充填して、水通し機能を有する袖部を構築する工程と、
を備え、
前記本体部を構築する工程は、
前記複数の鋼製のセグメントを組み上げて部分的に上流壁部を構築する構築工程と、
前記構築工程の後、少なくとも前記上流壁部との間に空間を残した状態で両壁部間の空間にゼロスランプの中詰材を充填する第1充填工程と、
前記第1充填工程の後、少なくとも前記上流壁部と前記ゼロスランプの中詰材との間に残された空間に有スランプの中詰材を充填する第2充填工程と、
を有することを特徴とする、堰堤の構築方法。
【請求項2】
前記本体部の構築後に、前記本体部の上端に前記上流壁部の残りの部分と前記下流壁部の残りの部分とを互いに所定の間隔をあけて構築し、両壁部間の空間に有スランプの中詰材を充填して、水通し機能を有する袖部を構築する工程を有することを特徴とする、請求項1に記載の堰堤の構築方法。
【請求項3】
前記有スランプの中詰材を充填する前に、前記複数の鋼製のセグメントにより構成された前記上流壁部の、前記残された空間に面する側に補強部材を連結する工程と、
前記有スランプの中詰材を充填する工程後、前記有スランプの中詰材が固化する前に、前記補強部材を係止する係止部材を前記有スランプの中詰材に埋設する工程と、
前記係止部材に前記補強部材を係止する工程と
を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の堰堤の構築方法。
【請求項4】
前記本体部における前記上流壁部を、前記下流壁部に向かって傾けて構築することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項に記載の堰堤の構築方法。
【請求項5】
複数の鋼製のセグメントを互いに連結して構成された、河川の上流側に対向するように設けられる上流壁部と、
複数のセグメントを互いに連結して構成された、河川の下流側に対向するように設けられる下流壁部と、
前記上流壁部と前記下流壁部との間に形成された空間に充填された中詰材と、を備える堰堤であって、
河川の底部に設けられ、上方に向かうにつれて幅が狭くなる本体部と、前記本体部の上端に設けられる、水通し機能を有する袖部とを有し、
前記本体部において前記複数の鋼製のセグメントにより構築された前記上流壁部は、前記複数の鋼製のセグメントにより構築された前記下流壁部に向けて上方に傾斜する傾斜部を有し、前記傾斜部から離間した位置にゼロスランプの中詰材が充填されており、前記傾斜部と前記ゼロスランプの中詰材との間に、有スランプの中詰材が充填されていることを特徴とする堰堤。
【請求項6】
前記袖部は、前記上流壁部と前記下流壁部との間に有スランプの中詰材が充填されて形成されていることを特徴とする請求項5に記載の堰堤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川に設けられる堰堤の構築方法及び堰堤に関する。
【背景技術】
【0002】
河川に設けられる堰堤として、土石流等の発生による災害を防ぐ砂防堰堤が知られている。この砂防堰堤は、河川の上流側に対向するように設けられる上流壁部と、河川の下流側に対向するように設けられる下流壁部とを備えている。上流壁部と下流壁部との間に形成される空間内には、中詰材が充填されている(例えば、特許文献1参照)。
中詰材としては、ソイルセメントやコンクリート等が用いられることが一般的である。施工性に優れている観点から、中詰材としてゼロスランプ(目標スランプが0cmの超硬練り状態)のソイルセメントを使用することがある。この場合、バックホウなどの重機で中詰材を敷き均し、振動ローラ等で転圧して締め固める必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−48461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に河川に設けられる堰堤等は、上流壁部の勾配を緩くして上流壁部に堆積する土砂の荷重を利用することで堰堤の断面形状が小さくなるようにしている。しかし、ゼロスランプのソイルセメントを中詰材に用いる場合、流動性がほぼ無いため壁部際まで重機で敷き均し、振動ローラで転圧して締め固める必要があった。この場合、振動ローラを上流壁部及び下流壁部の際まで近づけて作業を行わなければならず、壁部際の上部作業空間が必要なため、各壁部を緩い勾配にすることができない。上流壁部の勾配を緩くできなければ断面を大きくしなければならず、施工性が低下するほか、材料のコストが嵩む。よって、施工性の向上やコストの低減に貢献する断面を有する堰堤の施工が困難であった。
また、上記の敷き均し、転圧、締め固めといった作業は、両壁部の間に形成された狭いスペースで行わなければならず、特に、堰堤の上方に向かうにつれて作業スペースが狭くなってくるため、各作業を効率よく行うことが困難であり、施工性が低下する。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、施工性に優れ、コストの低減に貢献する断面を有する堰堤の構築方法及び堰堤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、河川の上流側に対向するように設けられる上流壁部と、河川の下流側に対向するように設けられる下流壁部と、前記上流壁部と前記下流壁部との間に形成された空間に充填された中詰材と、を備える堰堤の構築方法であって、前記上流壁部と前記下流壁部とを互いに所定の間隔をあけて構築する工程と、少なくとも前記上流壁部との間に空間を残した状態でゼロスランプ(目標スランプが0cmの超硬練り状態)の中詰材を充填する工程と、少なくとも前記上流壁部と前記ゼロスランプの中詰材との間に残された空間に有スランプ(目標スランプが5cm〜25cmの軟練り状態)の中詰材を充填する工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明は、河川の上流側に対向するように設けられる上流壁部と、河川の下流側に対向するように設けられる下流壁部と、前記上流壁部と前記下流壁部との間に形成された空間に充填された中詰材と、を有する堰堤の構築方法であって、前記上流壁部の一部と前記下流壁部の一部とを互いに所定の間隔をあけて構築し、両壁部間の空間にゼロスランプ(目標スランプが0cmの超硬練り状態)の中詰材を充填して本体部を構築する工程と、前記本体部の構築後に、前記本体部の上端に前記上流壁部の残りの部分と前記下流壁部の残りの部分とを互いに所定の間隔をあけて構築し、両壁部間の空間に有スランプ(目標スランプが5cm〜25cmの軟練り状態)の中詰材を充填して袖部を構築する工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、前記有スランプの中詰材を充填する前に、前記残された空間に面する壁部の内側に補強部材を連結する工程を有することが好ましい。
【0009】
また、前記上流壁部を、前記下流壁部に向かって傾けて構築することが好ましい。
【0010】
本発明は、河川の上流側に対向するように設けられる上流壁部と、河川の下流側に対向するように設けられる下流壁部と、前記上流壁部と前記下流壁部との間に形成された空間に充填された中詰材と、を備える堰堤であって、前記上流壁部は、前記下流壁部に向けて上方に傾斜する傾斜部を有し、前記傾斜部から離間した位置にゼロスランプの中詰材が充填されており、前記傾斜部と前記ゼロスランプの中詰材との間に、前記有スランプの中詰材が充填されていることを特徴とする。
【0011】
本発明は、河川の上流側に対向するように設けられる上流壁部と、河川の下流側に対向するように設けられる下流壁部と、前記上流壁部と前記下流壁部との間に形成された空間に充填された中詰材と、を備える堰堤であって、河川の底部に設けられ、上方に向かうにつれて幅が狭くなる本体部と、前記本体部の上端に設けられる袖部とを有し、前記袖部は、前記上流壁部と前記下流壁部との間に有スランプの中詰材が充填されて形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、前記傾斜部は、最大で1:1.0の勾配を有することが好ましい。
【0013】
また、前記ゼロスランプの中詰材は、前記傾斜部から1m以上離間して充填されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、締め固めの作業が困難な箇所に有スランプの中詰材を充填するので、施工性の向上やコストの低減に貢献する断面を有する堰堤を提供することができ、堰堤の施工時における作業負担及び材料コストを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】堰堤の一部を断面視した斜視図である。
図2図1に示した堰堤の概略的な断面図である。
図3図2に示した堰堤の底部近傍を拡大した断面図である。
図4】第2の実施形態における堰堤の概略的な断面図である。
図5】従来の堰堤の概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施形態は一例であり、本発明の範囲において、種々の実施形態をとりうる。
【0017】
[第1の実施形態]
<堰堤の構成>
図1は、河川に設けられる不透過型の砂防用の堰堤1の斜視図であり、一部を断面視している。
図1に示すように、堰堤1は、河川の底に構築される本体部11と、この本体部11の上端に構築される袖部12とを有しており、上方に向かうにつれて幅が狭くなるように構成されている。堰堤1は、基礎部2と、上流壁部3と、下流壁部4と、中詰材5とを備えている。
【0018】
(本体部及び袖部)
本体部11は、堰堤1の底部側を構成し、断面形状が台形状になっている。つまり、本体部11は、下底から上底に向かって断面が縮小していく形状になっている。
袖部12は、本体部11の上端に連続して形成されていて、河川の両岸に接続されている。袖部12は、図1に示すように、台形状の断面形状を有するが、この形状に限定されるものではない。
堰堤1の袖部12には、水通しの機能を有する越流部13が形成されている。図1に示すように、越流部13の天端は、袖部12の天端よりも低い位置に構成されている。
【0019】
(基礎部)
基礎部2は、コンクリートで形成されており、河川の流れる方向に直交する方向(河川の幅方向)に沿って、河川の底部に設けられている。基礎部2は、2つ設けられており、上流側と下流側とに所定の間隔をあけて配置されている。
各基礎部2の上面は、それぞれ平面状に形成されており、上流側の基礎部2の上面に上流壁部3が設けられ、下流側の基礎部2の上面に下流壁部4が設けられている。
【0020】
(上流壁部)
図1に示すように、上流壁部3は、河川の上流側の基礎部2の上面に設けられていることから、上流壁部3は、河川の上流側に対向するように設けられている。
図1に示すように、上流壁部3は複数の鋼製のセグメントによって連結されて構成されている。隣接するセグメント同士の上下端縁が、互いに同じ高さにならないように、隣接するセグメント同士は上下方向に互い違い(千鳥状)、又はセグメント同士は左右方向に互い違いに配置されている。
隣接するセグメント同士は互いに、セグメントの4辺において、例えばボルト及びナット等を介して互いに連結されている。
また、上流壁部3は、図3に示すように、鉄筋等の補強部材6によって堰堤1の内側から補強されている。補強部材6は、一端部が中詰材5に埋設されて固定されている係止部材61に連結されていて、他端部が、上流壁部3のセグメントに連結されている。
【0021】
図2は、図1に示す堰堤1の断面図である。図2に示すように、上流壁部3は、堰堤1の本体部11における壁部を形成する下壁31と、堰堤1の袖部12における壁部を形成する上壁32とを有している。
下壁31は、堰堤1の底部側、特に、上流壁部3の下端から、河川の流れ方向に見て、下流側に向かって上昇するように構成されている。つまり、下壁31は、基礎部2から下流壁部4に向かって傾いた傾斜部として形成されている。傾斜部31の勾配(堰堤の高さ方向の長さと幅方向の長さの比)は、1:00〜1:1.0、特に、1:0.55〜1:1.0の範囲内であることが好ましい。上流壁部3は、特に、傾斜部31の傾斜角度を緩やかに、河川の流れ方向に寝かせるように構築することが好ましい。
なお、図2に示した上流壁部3は、傾いて構成されているが、下流壁部31、つまり傾斜部31は傾斜を有さず、鉛直であってもよい。
【0022】
上壁32は、堰堤1、上流壁部3の上側を構成し、上流壁部3の下壁31に接続されている。図1に示すように、上壁32は、袖部12の上流壁部3を構成している。ここで、越流部13が形成されている箇所は、袖部12が構築されていないため、上壁32は設けられていない。
また、図2に示すように、上壁32はほぼ鉛直方向に延びるように形成されているが、上流壁部3と下流壁部4との間に、所定の天端幅が設けられるのであれば、傾斜していてもよい。
【0023】
(下流壁部)
図1に示すように、下流壁部4は、下流側の基礎部2の上面に設けられていることから、下流壁部4は、河川の下流側に対向するように設けられている。下流壁部4は、複数のコンクリート製のセグメントによって連結されて構成されている。隣接するセグメントの上下端縁が、互いに同じ高さにならないように、隣接するセグメント同士は上下方向に互い違い(千鳥状)、又はセグメント同士は左右方向に互い違いに配置されている。基礎部2の近傍の下流壁部4のセグメントには、支持部材及び補強部材(図示せず)が連結されている。
【0024】
図2に示すように、下流壁部4は、堰堤1の底部側、特に、下流壁部4の下側から、河川の流れ方向に見て、上流側に向かって上昇するように構成されている。つまり、下流壁部4は、基礎部2から上流壁部3に向かって傾いて構成されている。
また、下流壁部4を、上流壁部3と同様に構成することもできる。
【0025】
(中詰材)
図1に示すように、中詰材5は、上流壁部3と下流壁部4との間にある空間S内に充填されるものである。具体的に、中詰材5として、ゼロスランプの中詰材51及び有スランプの中詰材52が用いられている。
ゼロスランプの中詰材51は、流動性がほぼない、超硬練り材料である。有スランプの中詰材52は、流動性がある、つまりスランプが発生する材料である。
中詰材5には、堰堤1を設置する現場の現地発生土にセメントと水とを混合して作成されるソイルセメントを使用することが好ましい。中詰材5は、堰堤1に所望の強度を提供することができれば、例えばコンクリートやモルタルであってもよい。
【0026】
図2に示すように、堰堤1の本体部11において、上流壁部3と下流壁部4との間にある空間Sに、ゼロスランプの中詰材51及び有スランプの中詰材52が充填されている。具体的には、ゼロスランプの中詰材51は、上流壁部3の傾斜部31から離れた位置に充填されていて、好ましくは1m以上離れた位置に充填されている。
有スランプの中詰材52は、ゼロスランプの中詰材51と上流壁部3、特に、傾斜部31との間に充填されている。
袖部12において、上流壁部3の上壁32と下流壁部4との間には、ゼロスランプの中詰材51が充填されている。袖部12における上流壁部3と下流壁部4との間に提供されている空間が、重機等による中詰材5の締め固めの作業にとって狭い場合には、堰堤1の施工性を考慮して、当該空間は、充填後の締め固め作業が必要とならない有スランプの中詰材52によって充填されていてもよい。
図2に示すように、堰堤1において、ゼロスランプの中詰材51は、下流壁部4との間に間隔をあけずに直に接して充填されているが、下流壁部4から離間して充填されていてもよい。この場合、有スランプの中詰材52が、下流壁部4とゼロスランプの中詰材51との間に充填される。
【0027】
<堰堤の構築方法>
次に、図3を用いて、ゼロスランプの中詰材51及び有スランプの中詰材52を用いた堰堤1の構築方法について説明する。図3は、堰堤1の構築方法を説明するために、堰堤1の上流壁部3の底部の一部を拡大した図である。
堰堤1の構築にあたっては、本体部11の壁部3、4を構築する工程及び中詰材5を充填する工程は、段階的に複数回に分けて実施される。本体部11の形成後に、袖部12が形成される。
【0028】
まず、堰堤1の施工位置にコンクリートを打設し、基礎部2を構築する。構築した基礎部2の上に上流壁部3を形成するセグメントを組み上げていき、一回の中詰材5の充填分の高さに相当する上流壁部3を構築する。上流壁部3の下壁(傾斜部)31は、堰堤1が所望の断面を有するように、下流壁部4に向かって傾けて構築する。上流壁部3の下壁31の勾配は、堰堤1の完成時に、1:0.55〜1:1.00の範囲内にあるように、下側壁部31を傾けることが好ましい。
下流壁部4も、上流壁部3の構築に合わせて、上流壁部3から所定の間隔をあけて構築する。
【0029】
この工程後、又はこの工程と並行して、施工現場に混合施設(混合枡)を設け、この混合施設内で現地発生土にセメント及び水を加えて、中詰材5としてゼロスランプの中詰材51及び有スランプの中詰材52を作成する。
次に、作成したゼロスランプの中詰材51を、上流壁部3と下流壁部4との間に形成された空間Sに、バックホウにより投入(充填)する。ゼロスランプの中詰材51は、上流壁部3から間隔、具体的には1m以上の間隔をあけて投入する。投入後、ゼロスランプの中詰材51を、バックホウやブルドーザ等の重機により敷き均して、振動ローラの転圧により締め固める。
なお、ゼロスランプの中詰材51の充填前には、ゼロスランプの中詰材51用の型枠を空間S内に設置する。型枠は、型枠へゼロスランプの中詰材51を投入し、ゼロスランプの中詰材51が固化した後、固化後の中詰材51の断面形状が、階段状となるように設置される。型枠は、有スランプの中詰材52が充填される前に撤去する。
【0030】
次に、上流壁部3とゼロスランプの中詰材51との間に、有スランプの中詰材52を投入する。有スランプの中詰材52の投入後に、鉄筋等からなる補強部材6を係止する係止部材61を、有スランプの中詰材52の固化前に埋設して、埋設された係止部材61及び上流壁部3に補強部材6を連結する。補強部材6の連結後、再度、有スランプの中詰材52を、補強部材6が埋設されるように投入する。この有スランプの中詰材52の固化前に、別の係止部材61を埋設する。
なお、係止部材61は、有スランプの中詰材52の固化後であっても、所定の工具により固化した中詰材52を穿孔することで取り付けることもできる。
この作業を、所定の高さまで繰り返して、堰堤1の本体部11を形成する。
【0031】
次に、本体部11の上に、袖部12を形成する。
袖部12においても、上流壁部3及び下流壁部4を段階的に構築し、その間に形成された空間に中詰材5を、段階的に構築される壁部3、4に合わせて複数回に分けて投入する。投入する中詰材5は、ゼロスランプの中詰材51又は有スランプの中詰材52のいずれであってもよい(図2においては、ゼロスランプの中詰材51を充填した)。
袖部12においても、この作業を所定の高さまで繰り返した後に、天端に保護コンクリート14aを打設し、これをもって堰堤1が完成する。
なお、越流部13を形成する場合には、越流部13を形成する位置に袖部12を構築することなく、保護コンクリート14bを打設する。
【0032】
<従来の堰堤との比較>
図5は、従来の堰堤100の断面図である。従来の堰堤100は、上流壁部130と、下流壁部140とを有する。上流壁部130の勾配は、図2に示した本発明の緩勾配を有する上流壁部3と比べて急勾配であるため、堰堤の高さを同じにした場合に、堰堤100の天端幅は、堰堤1の天端幅と比べて幅広になる。
【0033】
(本発明に係る堰堤)
図2に示すように、本発明に係る堰堤1は、中詰材5として、ゼロスランプの中詰材51及び有スランプの中詰材52を用いた堰堤であり、堰堤1の大きさは以下の通りである。
本体部の高さ:14.50m
袖部の天端幅:3.08m
越流部の天端幅:3.80m
本体部の底幅:21.20m
上流壁部の勾配:1:1.00
下流壁部の勾配:1:0.20
そして、越流部において堰堤の単位面積当たりの地盤反力度は、347.43kN/mである。
【0034】
(従来の堰堤)
図5に示すように、従来の堰堤100は、中詰材5として、ゼロスランプの中詰材51を用いた堰堤であり、堰堤100の大きさは以下の通りである。
本体部の高さ:14.50m
袖部の天端幅:10.64m
越流部の天端幅:11.20m
本体部の底幅:21.35m
上流壁部の勾配:1:0.50
下流壁部の勾配:1:0.20
そして、越流部において堰堤の単位面積当たりの地盤反力度は、347.32kN/mである。
【0035】
本体部の高さ、底幅、下流壁部の勾配及び単位面積当たりの地盤反力度は、ほぼ同じである。
しかしながら、堰堤1の上流壁部の勾配は、1:1.0である一方、堰堤100の上流壁部側の勾配は、1:0.5となっている。堰堤1の上流壁部側の勾配を、堰堤100の上流壁部側の勾配の2倍にすることで、堰堤1は、堰堤100とほぼ同じ地盤反力度を有しながらも、袖部の天端幅が、堰堤100の袖部の天端幅の約0.29倍(3.08m/10.64m)、越流部の天端幅が、堰堤100の越流部の天端幅の約0.34倍(3.80m/11.20m)に縮小されている。つまり、堰堤1の断面積は、堰堤100の断面積と比較して小さくなる。これにより、同じ強度を有しながらも、堰堤1の方が容積を小さくすることができるので、堰堤1の施工に必要となる中詰材の量についても、堰堤100と比べて少なくて済むことがわかる。
【0036】
<作用、効果>
以上のように、堰堤1においては、日当たりの施工量の多いゼロスランプの中詰材51を可能な限り使用するとともに、上流壁部3の壁際等の、中詰材5の締め固め作業が困難な場所に、締め固めが不要な有スランプの中詰材52を使用するので、天端幅を固定して上流壁部3の傾斜部31の勾配を緩くしながら、施工性の向上やコストの低減に貢献する断面を決定することができる。さらに、基礎地盤の単位面積当たりの地耐力度が小さい場合であっても、傾斜部31の勾配を緩くすることで、堰堤1の単位面積当たりの地盤反力度を、基礎地盤の単位面積当たりの地耐力度以下にすることができ、基礎地盤の改良工事を省略することができる。
上流壁部3を傾けて構築することで、上流壁部3に堆積する土砂の荷重を利用することができるので、十分な強度を備えた堰堤1とすることができる。
堰堤1内部において、上流壁部3に補強部材6を連結するので、堰堤1の強度をさらに高めることができる。
緩勾配を有する本体部11において、袖部12における天端幅に応じて、袖部12に充填する中詰材5を、ゼロスランプの中詰材51又は有スランプの中詰材52にするかを決定することができ、堰堤1の柔軟な施工が可能になる。
締め固めの作業が困難な上流壁部3の壁際に充填される中詰材5に、有スランプの中詰材52を使用するため、上流壁部3を傾けて傾斜部31として構成することができ、傾斜部31に上載される土砂の荷重を利用して堰堤1の強度を向上させることができる。
上流壁部3の傾斜部31の勾配を、最大で1:1.0にすることにより、より有効に傾斜部31に土砂の上載せをすることができるので、堰堤1の十分な強度を維持しつつ、堰堤全体で断面を小さくすることができる。また、充填する中詰材5の量も従来と比べて減らすことができるので、堰堤1の施工性を向上させるとともに、材料コストを減じることもできる。
ゼロスランプの中詰材51は、上流壁部3の傾斜部31から1m以上離れて充填されているので、上流壁部3の壁際での中詰材5の締め固め等の作業は回避され、堰堤1の全体的な施工性も向上する。
【0037】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、上流壁部3の傾斜部31の勾配、及び堰堤1Aにおけるゼロスランプの中詰材51及び有スランプの中詰材52の充填個所であるため、以下では、傾斜部31の勾配、及び中詰材51、52の充填個所についてのみ説明し、第1の実施形態と同じ構成については、同一符号を付して説明を省略する。
図4は、堰堤1Aの断面図である。上流壁部3の傾斜部31は、例えば勾配が、1:0.5の急勾配を有している。図4に示すように、堰堤1Aの本体部11において、上流壁部3の下壁(傾斜部)31と下流壁部4との間は、ゼロスランプの中詰材51のみで充填されている。
これに対して、堰堤1Aの袖部12において、上流壁部3の上壁32と下流壁部4との間は、有スランプの中詰材52のみで充填されている。これは、上述のように、袖部12において提供される、中詰材5の締め固め作業用のスペースが、極めて狭いことに起因している。
【0038】
<作用、効果>
急勾配の傾斜部31を有する堰堤1の大部分を占める本体部11に、安価で日当たりの施工量が多いゼロスランプの中詰材51を使用した場合、締め固め作業の困難な狭隘箇所である袖部12に、締め固めが必要ない有スランプの中詰材52を使用することにより、施工効率を向上させることができ、かつ幅広の天端幅を設定して、中詰材5の締め固め用の作業空間を確保する必要がないので、コスト低減に貢献する堰堤1の断面を決定することができる。
【0039】
<その他>
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば、有スランプの中詰材52を上流壁部3の下壁31に隣接する空間と袖部12の双方に充填した堰堤としてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1、1A 堰堤
11 本体部
12 袖部
3 上流壁部
31 傾斜部
4 下流壁部
5 中詰材
51 ゼロスランプの中詰材
52 有スランプの中詰材
6 補強部材
S 空間
図1
図2
図3
図4
図5