(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記環状アミド化合物は、N−メチル−2−ピロリドン、又は1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、又はそれらの混合物である、請求項1に記載の溶液。
前記環状アミド化合物は、N−メチル−2−ピロリドン、又は1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、又はそれらの混合物である、請求項9又は10に記載の溶液。
請求項9〜14のいずれか1項に記載のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液を基板に塗布して酸化アルミニウム薄膜を得ることを含む、酸化アルミニウム薄膜の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載のアルキルアルミニウム溶液、及びアルミアルミニウム加水分解組成物溶液は、水との反応性があり、そのため、窒素、アルゴン等の不活性ガス中で酸化アルミニウム膜を形成する必要がある。不活性ガス中での操作には、不活性ガス、不活性ガス供給設備、グローブボックス等の不活性ガス保持設備を必要とし、酸化アルミニウム薄膜の形成コストが高くなるという課題があった。
【0010】
本発明の目的は、空気に対する安定性が高く、自然発火性が実質的に無い、空気中での取扱いが可能であり、嵩体積が比較的小さく輸送等の移動が経済的に有利な比較的高濃度とすることも可能なアルキルアルミニウム溶液を提供すること、さらには、空気中で酸化アルミニウム薄膜を形成することが可能なアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液を提供することである。加えて本発明は、空気中での酸化アルミニウム薄膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の通りである。
[1]
ジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物(但し、アルキル基は炭素数1〜6であり、同一又は異なってもよい)及び溶媒を含有する、アルキルアルミニウム化合物含有溶液であって、
前記溶媒は、沸点が160℃以上であり、下記一般式(4)で示すアミド構造を有し、かつ、環状構造を有する有機化合物(以下、環状アミド化合物と呼ぶ)であり、
前記アルキルアルミニウム化合物に対してモル比で2.6を超える量の前記環状アミド化合物を含有する、
前記溶液。
【化1】
[2]
前記環状アミド化合物は、N−メチル−2−ピロリドン、又は1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、又はそれらの混合物である、[1]に記載の溶液。
[3]
前記アルキルアルミニウム化合物の含有量が15質量%以上である、[1]又は[2]のいずれか1項に記載の溶液。
[4]
前記ジアルキルアルミニウム及び/又はトリアルキルアルミニウムが下記一般式(1)又は(2)で表されるアルキルアルミニウム化合物である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の溶液。
【化2】
(式中、R
1はメチル基、エチル基を、R
2は、ハロゲン、メチル基、又はエチル基を表す。)
【化3】
(式中、R
3はイソブチル基を、R
4は、ハロゲン、又はイソブチル基を表す。)
[5]
前記一般式(1)で表されるアルキルアルミニウム化合物がトリエチルアルミニウム又はトリメチルアルミニウムである、[4]に記載の溶液。
[6]
前記一般式(2)で表されるアルキルアルミニウム化合物がトリイソブチルアルミニウムである、[4]に記載の溶液。
[7]
前記一般式(2)で表されるアルキルアルミニウム化合物を30質量%以上含有する[6]に記載の溶液。
[8]
前記環状アミド化合物以外の溶媒をさらに含む、[1]〜[7]のいずれか1項に記載の溶液。
[9]
ジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物(但し、アルキル基は炭素数1〜6であり、同一又は異なってもよい)の部分加水分解物及び溶媒を含有する、アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液であって、
前記溶媒は、沸点が160℃以上であり、下記一般式(4)で示すアミド構造を有し、かつ、環状構造を有する有機化合物(以下、環状アミド化合物と呼ぶ)であり、
前記部分加水分解物は、前記アルキルアルミニウム化合物中のアルミニウムに対して、モル比が0.5〜1.3の範囲の水で加水分解したものである、
前記溶液。
【化4】
[10]
前記アルキルアルミニウム化合物中のアルミニウムに対してモル比で1以上の前記環状アミド化合物を含有する、[9]に記載の溶液。
[11]
前記環状アミド化合物は、N−メチル−2−ピロリドン、又は1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、又はそれらの混合物である、[9]又は[10]に記載の溶液。
[12]
前記ジアルキルアルミニウム及び/又はトリアルキルアルミニウムが下記一般式(1)又は(2)で表されるアルキルアルミニウム化合物である、[9]〜[11]のいずれか1項に記載の溶液。
【化5】
(式中、R
1はメチル基、エチル基を、R
2は、水素、ハロゲン、メチル基、エチル基を表す。)
【化6】
(式中、R
3はイソブチル基を、R
4は、水素、ハロゲン、イソブチル基を表す。)
[13]
前記トリアルキルアルミニウムが下記一般式(3)で表されるアルキルアルミニウム化合物である、[9]〜[11]のいずれか1項に記載の溶液。
【化7】
(式中、R
5はメチル基、エチル基、イソブチル基を表す。)
[14]
前記環状アミド化合物以外の溶媒をさらに含む、[9]〜[13]のいずれか1項に記載の溶液。
[15]
[9]〜[14]のいずれか1項に記載のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液を基板に塗布して酸化アルミニウム薄膜を得ることを含む、酸化アルミニウム薄膜の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自然発火性が無く空気に安定で取扱いが容易であり、嵩体積が小さく輸送等の移動が経済的に有利な高濃度のアルキルアルミニウム溶液を提供することができる。さらに本発明によれば、空気中で安定であり、そのため取扱いが容易であり、空気中で酸化アルミニウム薄膜を形成しうるアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[アルキルアルミニウム含有溶液]
本発明の第一の態様は、ジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物(但し、アルキル基は炭素数1〜6であり、同一又は異なってもよい)及び溶媒を含有する、アルキルアルミニウム含有溶液である。前記溶媒は、沸点が160℃以上であり、下記一般式(4)で示すアミド構造を有し、かつ、環状構造を有する有機化合物(環状アミド化合物)である。
【0016】
本発明のアルキルアルミニウム化合物含有溶液は、溶媒として前記環状アミド化合物を含有することで、ジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物であるアルキルアルミニウム化合物を化学的に安定化させることができる。前記溶媒として前記環状アミド化合物が好ましい理由は定かではないが、高沸点で揮発しにくい、アミド構造中の酸素、窒素の非共有電子対のアルミニウムへの配位結合、環状構造による嵩高さの減少、環状構造によるリジッド性の増加により空気に対する安定性が大きく向上すると推定される。通常、アミド構造を有する化合物は、アルキルアルミニウム化合物と反応する。そのため、事前の予想では、前記環状アミド化合物と混合することでアルキルアルミニウム化合物は化学変化を起こすと推察していた。しかし、予想外にアルキルアルミニウム化合物と環状アミド化合物は反応せず、アルキルアルミニウム化合物の状態を保持することを見出した。
【0017】
本発明の溶液における前記アルキルアルミニウム化合物と前記環状アミド化合物との比率は、アルキルアルミニウム化合物を化学的に安定に保つという観点からは、アルキルアルミニウム化合物に対してモル比で1以上の環状アミド化合物を含有することが好ましい。アルキルアルミニウム化合物に対してモル比で2.6を超える量の環状アミド化合物を含有することで、溶液の自然発火などの化学変化を抑制することができる。
【0018】
環状アミド化合物は、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、又は1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、又はそれらの混合物であることができ、安価に入手可能であることから特にN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0019】
前記ジアルキルアルミニウム及び/又はトリアルキルアルミニウムは、例えば、下記一般式(1)又は(2)で表されるアルキルアルミニウム化合物であることができる。
【0020】
【化9】
(式中、R
1はメチル基、エチル基を、R
2は、ハロゲン、メチル基、又はエチル基を表す。)
【化10】
(式中、R
3はイソブチル基を、R
4は、ハロゲン、又はイソブチル基を表す。)
【0021】
一般式(1)で表される化合物の例としては、例えば、トリメチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロライド、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド等を挙げることができる。一般式(1)で表されるアルキルアルミニウム化合物は、特に、トリエチルアルミニウム又はトリメチルアルミニウムであることができる。
【0022】
一般式(2)で表される化合物の例としては、例えば、トリイソブチルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムクロライド等を挙げることができる。一般式(2)で表されるアルキルアルミニウム化合物は、特に、トリイソブチルアルミニウムであることができる。
【0023】
本発明のアルキルアルミニウム含有溶液中のアルキルアルミニウム化合物の含有量は、特に制限はないが、アルキルアルミニウム含有溶液中のアルキルアルミニウム化合物の含有量が高いほど、輸送効率は高くなることから、輸送効率の観点からは、例えば、15質量%以上であることができる。但し、所定の量の環状アミド化合物との混合物であり、化学的に安定な状態を維持している限り、15質量%以上に限定される意図はない。
【0024】
前記アルキルアルミニウム化合物の濃度は、一般式(1)のR
1がエチル基の場合、高濃度の溶液を提供するという観点からは15質量%以上であることが好ましく、空気に対する安定性を考慮すると21質量%以下であることが好ましい。R
1がメチル基の場合、高濃度の溶液を提供するという観点からは15質量%以上であることが好ましく、空気に対する安定性を考慮すると21質量%以下であることが好ましい。
【0025】
一般式(2)で表されるアルキルアルミニウム化合物の濃度は、30質量%以上含有することが、輸送効率(高濃度溶液の提供)の観点から好ましい。一方、空気に対する安定性を考慮すると40質量%以下であることが好ましい。
【0026】
本発明のアルキルアルミニウム含有溶液は、環状アミド化合物以外の溶媒をさらに含むことができる。環状アミド化合物以外の溶媒を添加することで、極性、粘度、沸点、経済性等を調整することができる。環状アミド化合物以外の溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、オクタン、n−デカン、等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、等の芳香族炭化水素;ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、ケロシン、石油エーテル、等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジn−ブチルエーテル、ジアルキルエチレングリコール、ジアルキルジエチレングリコール、ジアリキルトリエチレングリコール、等のエーテル、グライム、ジグライム、トリグライム系溶媒、等を挙げることができる。環状アミド化合物以外の溶媒の添加量は、環状アミド化合物の効果を妨げない範囲であれば制限はなく、例えば、環状アミド化合物100質量部に対して100質量部以下とすることができる。但し、アルキルアルミニウム化合物の種類、環状アミド化合物及び環状アミド化合物以外の溶媒の種類により添加可能な範囲は変化する。
【0027】
前記環状アミド化合物、及び所望により、環状アミド化合物以外の溶媒と、アルキルアルミニウム化合物の混合は不活性ガス雰囲気下の反応容器で行うことができ、それぞれあらゆる慣用の方法に従って導入することができる。アルキルアルミニウム化合物は、環状アミド化合物以外の有機溶媒との混合物としても反応容器に導入することができる。
【0028】
混合容器への導入順序は、アルキルアルミニウム化合物、環状アミド化合物、及び所望により、環状アミド化合物以外の溶媒の順、又は環状アミド化合物、及び所望により、環状アミド化合物以外の溶媒、アルキルアルミニウムの順、又は全て同時に導入の、どれでもよい。
【0029】
混合容器への導入時間は、混合する原料の種類や容量等により適宜設定できるが、例えば、1分から10時間の間で行うことができる。導入時の温度は−15〜150℃の間の任意の温度を選択できる。但し、導入時に引火する危険性排除等の安全性を考慮すると−15〜80℃の範囲であることが好ましい。
【0030】
混合容器への原料の導入時、導入後の攪拌工程は、回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよい。
【0031】
本発明のアルキルアルミニウム含有溶液は、例えば、下記用途において空気中でも使用できる材料として有用である。
・有機合成におけるメチル化、エチル化等のアルキル化剤、
・特殊ポリマーの触媒、助触媒、
・有機合成におけるジイソブチルアルミニウムヒドリドを用いた還元剤
【0032】
[アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液]
本発明の第二の態様は、ジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム又はそれらの混合物からなるアルキルアルミニウム化合物(但し、アルキル基は炭素数1〜6であり、同一又は異なってもよい)の部分加水分解物及び溶媒を含有する、アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液である。前記溶媒は、沸点が160℃以上であり、下記一般式(4)で示すアミド構造を有し、かつ、環状構造を有する有機化合物(環状アミド化合物)である。さらに、前記部分加水分解物は、前記アルキルアルミニウム化合物中のアルミニウムに対して、モル比が0.5〜1.3の範囲の水で加水分解したものである。
【0034】
環状アミド化合物は、本発明の第一の態様で説明した化合物と同様であり、N−メチル−2−ピロリドン、又は1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、又はそれらの混合物であることができる。
【0035】
前記ジアルキルアルミニウム及び/又はトリアルキルアルミニウムは、前記一般式(1)又は(2)で表されるアルキルアルミニウム化合物であることができる。一般式(1)又は(2)で表されるアルキルアルミニウム化合物も、本発明の第一の態様で説明した化合物と同様である。
【0036】
前記トリアルキルアルミニウムは、下記一般式(3)で表されるアルキルアルミニウム化合物であることが好ましい。
【化12】
(式中、R
5はメチル基、エチル基、イソブチル基を表す。)
【0037】
一般式(3)で表される化合物の例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、等を挙げることができる。単位質量のアルミニウムに対する価格が安価であるという観点から、トリエチルアルミニウムが好ましい。
【0038】
前記環状アミド化合物は、前記アルキルアルミニウム化合物中のアルミニウムに対するモル比で1以上とすることが、化学的に安定な部分加水分解物含有溶液を得るとの観点から好ましい。尚、アルキルアルミニウム化合物を部分加水分解物とすることで、空気に対する化学的安定性は向上するが、依然として安定性に欠けることから、化学的に安定な部分加水分解物含有溶液を得るという観点から、所定量の環状アミド化合物との混合物とすることが好ましい。
【0039】
本発明の部分加水分解物含有溶液は、環状アミド化合物以外の溶媒をさらに含むことができる。環状アミド化合物以外の溶媒の種類や添加量は、本発明の第一の態様での説明と同様である。
【0040】
アルキルアルミニウム化合物の部分加水分解は、前記アルキルアルミニウム化合物に対するモル比が0.5〜1.3の範囲で、水、又は水を含有する溶液を用いて行う。アルキルアルミニウム化合物に対する水のモル比が0.5未満では、溶媒乾燥後も液状になり易く均一な酸化アルミニウム膜を形成することが困難である。均一な酸化アルミニウム膜を形成するという観点からは、アルキルアルミニウム化合物に対する水のモル比が0.8以上であることがより好ましい。一方、アルキルアルミニウム化合物に対する水のモル比が1.3を超えると溶媒に不溶なゲル、固体が析出し、ゲル、固体による均一な酸化アルミニウム膜の形成が困難になる。析出したゲルや固体は、ろ過除去することも可能であるが、アルミニウム分の損失に繋がるので好ましくない。
【0041】
前記部分加水分解反応は、不活性ガス雰囲気下、前記アルキルアルミニウム化合物を前記環状アミド化合物、及び所望により、環状アミド化合物以外の溶媒に溶解した溶液に、水、又は水を含有する溶液を添加して行う。水自身を添加してもよいが、アルキルアルミニウム化合物と水の反応時の発熱制御の点からは水を含有する溶液を添加して行うことが好ましい。
【0042】
水、又は水を含有する溶液を添加する前記アルキルアルミニウム化合物溶液中のアルキルアルミニウム化合物の濃度は、0.1〜50質量%とすることができ、0.1〜30質量%の範囲であることが好ましい。
【0043】
前記アルキルアルミニウム化合物溶液への水、又は水を含有する溶液の添加は、混合する原料の種類や容量等により適宜設定できるが、例えば、1分〜10時間の範囲とすることができる。添加時の温度は−15〜150℃の間の任意の温度を選択できる。但し、安全性等を考慮すると−15〜80℃の範囲であることが好ましい。
【0044】
水、又は水を含有する溶液の添加後に、前記アルキルアルミニウム化合物と水の部分加水分解反応をさらに進行させるために、0.1〜50時間熟成反応させることができる。熟成反応温度は−15〜150℃の間で任意の温度を選択できる。但し、熟成反応時間の短縮等を考慮すると25〜150℃の範囲であることが好ましい。
【0045】
前記環状アミド化合物、及び所望により、環状アミド化合物以外の溶媒、アルキルアルミニウム化合物、水、又は水を含有する溶液は、あらゆる慣用の方法に従って反応容器に導入できる。反応容器の圧力は制限されない。加水分解反応工程は回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく特に制限はないが、回分操作式が好ましい。
【0046】
上記部分加水分解反応により、上記アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液が得られる。アルキルアルミニウム化合物がトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムである場合、部分加水分解組成物についての解析は古くから行われているが、報告により生成物の組成結果が異なり、生成物の組成が明確に特定されていない。また、溶媒、濃度、水の添加モル比、添加温度、反応温度、反応時間、等によっても生成物の組成は変化する。
【0047】
本発明の方法におけるアルキルアルミニウム部分加水分解物は下記一般式(5)で表される構造単位を含む化合物の混合物であると推定される。
【0048】
【化13】
(式中、R
5は一般式(3)におけるR
5と同じであり、mは1〜80の整数である。)
【0049】
上記部分加水分解反応終了後、微量の固体等が析出している場合、ろ過、クロマトグラフィー等の方法により精製することで固体等を除去することができる。
【0050】
上記アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液は、濃縮(溶媒除去)により固形分濃度を調整することができる。また、反応に使用した溶媒、反応に使用したものとは異なる溶媒を添加して、固形分濃度、極性、粘度、沸点、経済性等を適宜調整することもできる。
【0051】
反応に使用したものとは異なる溶媒としては、n−ヘキサン、オクタン、n−デカン、等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、等の芳香族炭化水素;ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、ケロシン、石油エーテル、等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジn−ブチルエーテル、ジアルキルエチレングリコール、ジアルキルジエチレングリコール、ジアリキルトリエチレングリコール、等のエーテル、グライム、ジグライム、トリグライム系溶媒、等を挙げることができる。
【0052】
本発明のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液におけるアルキルアルミニウム部分加水分解物の含有量は、用途に応じて適宜決定できる。含有量は、環状アミド化合物の量及び/又は環状アミド化合物以外の溶媒の量を調整することで調整できる。アルキルアルミニウム部分加水分解物の含有量は、例えば、0.1〜50質量%の範囲で適宜調整できる。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0053】
[酸化アルミニウム薄膜の製造方法]
本発明の酸化アルミニウム薄膜の製造方法は、前記本発明のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液を基材に塗布して酸化アルミニウム薄膜を得る方法である。
【0054】
前記基材への塗布は、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、バーコート法、スリットコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スプレー熱分解法、静電スプレー熱分解法、インクジェット法、ミストCVD法、等の慣用の方法で行うことができる。
【0055】
前記基材への塗布は、不活性雰囲気下でも空気雰囲気下でも行うことができるが、経済性の観点から、空気雰囲気下で行うことが装置も簡便となり好ましい。
【0056】
前記基材への塗布は、加圧下や減圧下でも実施できるが、経済性の点から、大気圧下で行うことが装置も簡便となり好ましい。
【0057】
前記基材は、鉛ガラス、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、等のガラス;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、複合酸化物、等の酸化物;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメチルメタクレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、環状ポリオレフィン(COP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリウレタン、トリアセテート、トリアセチルセルロース(TAC)、セロファン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、等の高分子、等を挙げることができる。
【0058】
前記基材の形状は、粉、フィルム、板、又は三次元形状を有する立体構造物を挙げることができる。
【0059】
前記アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液を塗布した後、基材を所定の温度とし、溶媒を乾燥後、または乾燥と同時に所定の温度で焼成することにより酸化アルミニウム薄膜を形成させる。尚、塗布がスプレー熱分解法、静電スプレー熱分解法、インクジェット法、ミストCVD法による場合、塗布前に基材を所定の温度に加熱できるため、塗布と同時に溶媒を乾燥、または、乾燥と同時に焼成させることができる。
【0060】
前記溶媒を乾燥させるための所定の温度は、例えば、20〜250℃の間で任意の温度を選択できる。前記溶媒を、例えば、0.5〜60分かけて乾燥させることができる。但し、これらの範囲に限定される意図ではない。
【0061】
前記酸化アルミニウムを形成させるための焼成させるための所定の温度は、例えば、50〜550℃の間で任意の温度を選択できる。但し、基材の種類を考慮して、基材がダメージを受けない温度に設定することが適当である。焼成させる所定の温度が、溶媒を乾燥させる所定の温度と同一な場合、溶媒の乾燥と焼成を同時に行うことができる。溶媒乾燥した前駆膜を、例えば、0.5〜300分かけて焼成させることができる。
【0062】
前記のようにして得られる酸化アルミニウム薄膜の膜厚は、例えば、0.005〜3μmであることができる。酸化アルミニウム薄膜の膜厚は、必要に応じ、前記の塗布、乾燥、焼成の工程を複数回繰り返すことにより大きくすることもできる。
【0063】
必要に応じて前記のようにして得られた酸化アルミニウム薄膜を、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、多量に水分が存在する水蒸気雰囲気下、またはアルゴン、窒素、酸素等のプラズマ雰囲気下で、所定の温度で加熱することにより酸化アルミニウムの結晶性、緻密性を向上させることもできる。紫外線等の光照射やマイクロ波処理により得られた酸化アルミニウム薄膜中の残存有機物等を除去することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0065】
本発明のアルキルアルミニウム化合物含有溶液およびアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液の調製は、窒素ガス雰囲気下で行い、溶媒は全て脱水および脱気して使用した。
【0066】
<トリアルキルアルミニウムのモル数>
トリアルキルアルミニウムのモル数は以下の式より算出した。
[トリアルキルアルミニウムのモル数]
=[導入したトリアルキルアルミニウムの質量(g)]/[トリアルキルアルミニウムの分子量(トリエチルアルミニウムの場合114.16)]
【0067】
<物性測定>
本発明のアルキルアルミニウム化合物含有溶液、アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液、およびアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液の溶媒をエバポレーターにより乾燥させたものをC
6D
6に溶解させた後、NMR装置(JEOL RESONANCE社製「JNM−ECA500」)にて1H−NMR測定を実施した。
【0068】
本発明のアルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液の溶媒をエバポレーターにより乾燥させたものを、FT−IR分光装置(日本分光社製「FT/IR−4100」)にて透過法によりIR測定を実施した。
【0069】
本発明のアルキルアルミニウム化合物含有溶液、アルキルアルミニウム部分加水分解物含有溶液の空気に対する安定性は、「危険物確認試験マニュアル」(消防庁危険物規制課監修、新日本法規出版株式会社、1989)中、第3節「第3類の試験方法」、2「自然発火性試験」に基づき試験した。磁性カップ上でも自然発火するものをランク1、磁性カップ上では自然発火しないがろ紙を焦がすものをランク2、自然発火せず、かつろ紙を焦がさないものを「危険性無し」と分類した。
【0070】
本発明の製造方法により作成された酸化アルミニウム薄膜は、FT−IR分光装置(日本分光社製「FT/IR−4100」)にてZnSeプリズムを用いたATR(Attenuated Total Reflection:全反射)法によりATR補正なしで相対的にIR測定を実施した。
【0071】
本来ZnSeプリズムを用いた場合、屈折率が1.7を超える薄膜の測定は難しく、一般的な酸化アルミニウムの屈折率が1.77であることを考えると測定は難しいと想定された。しかし、驚くべきことに測定が可能であった。本発明による酸化アルミニウム薄膜の屈折率は1.7以下であることが推定された。
【0072】
本発明の製造方法により作成された酸化アルミニウム薄膜は、膜の一部をナイフで削り取り、触針式表面形状測定装置(ブルカーナノ社製、DektakXT−S)を用いて膜厚を測定した。
【0073】
[実施例1]
N−メチル−2−ピロリドン(以下NMP)20.0gにトリエチルアルミニウム(東ソー・ファインケム社製)5.31gを25℃で加え、十分攪拌することにより21質量%のトリエチルアルミニウムNMP溶液を得た。NMRスペクトルは、24時間後再測定したところ最初に得られたスペクトルと同じスペクトルが得られた。
【0074】
このようにして得られた21質量%トリエチルアルミニウムNMP溶液を自然発火性試験したところ、「危険性無し」と分類された。
【0075】
[実施例2]
NMP5.00gにトリメチルアルミニウム(東ソー・ファインケム社製)1.32gを25℃で加え、十分攪拌することにより21質量%のトリメチルアルミニウムNMP溶液を得た。このようにして得られた21質量%トリメチルアルミニウムNMP溶液を自然発火性試験したところ、「危険性無し」と分類された。
【0076】
[実施例3]
NMP5.00gにトリイソブチルアルミニウム(東ソー・ファインケム社製)3.48gを25℃で加え、十分攪拌することにより41質量%のトリイソブチルアルミニウムNMP溶液を得た。このようにして得られた41質量%トリイソブチルアルミニウムNMP溶液を自然発火性試験したところ、「危険性無し」と分類された。
【0077】
前記までの自然発火性試験の結果を表1にまとめた。
【0078】
【表1】
【0079】
[実施例4]
NMP8.01gに、混合キシレン0.90g、トリエチルアルミニウム2.10gを25℃で加え、十分攪拌することにより19質量%のトリエチルアルミニウムNMPキシレン混合溶液を得た。このようにして得られた19質量%トリエチルアルミニウムNMPキシレン混合溶液を自然発火性試験したところ、「危険性無し」と分類された。
【0080】
[実施例5]
NMP8.01gに、混合キシレン0.90g、トリメチルアルミニウム(東ソー・ファインケム社製)2.11gを25℃で加え、十分攪拌することにより19質量%のトリメチルアルミニウムNMPキシレン混合溶液を得た。このようにして得られた19質量%トリメチルアルミニウムNMPキシレン混合溶液を自然発火性試験したところ、「危険性無し」と分類された。
【0081】
[実施例6]
NMP20.0gにトリエチルアルミニウム(東ソー・ファインケム社製)8.59gを25℃で加え、十分攪拌した。その後、25℃で20質量%水NMP溶液6.77g([水]/[トリエチルアルミニウム]=1.0)を50分間かけて滴下して加えた。25℃で5時間攪拌を続けることにより熟成反応を行い、トリエチルアルミニウム加水分解組成物NMP溶液を得た。NMR測定したところ
図1のようなスペクトルが得られ、トリエチルアルミニウムに対応するピークの消失が確認された。
【0082】
得られたトリエチルアルミニウム加水分解組成物NMP溶液をエバポレーターを用いて70℃で90分かけて溶媒乾燥させたものを透過法によりIR測定したところ、
図2のようなスペクトルが得られた。400から1500cm
-1付近にブロードなAl−O−Alの振動ピークが確認され、加水分解によるAl−O−Al結合の形成が確認できた。
【0083】
[実施例7]
NMP18.0gに、混合キシレン2.00g、トリエチルアルミニウム(東ソー・ファインケム社製)8.59gを25℃で加え、十分攪拌した。その後、25℃で20質量%水NMP溶液6.77g([水]/[トリエチルアルミニウム]=1.0)を50分間かけて滴下して加えた。25℃で5時間攪拌を続けることにより熟成反応を行い、トリエチルアルミニウム加水分解組成物NMP溶液を得た。NMR測定したところ、実施例6と同様にトリエチルアルミニウムに対応するピークの消失が確認された。
【0084】
[実施例8]
実施例6で得られたトリエチルアルミニウム加水分解組成物NMP溶液を、空気雰囲気下、18mm角のガラス基板(コーニング社製、EagleXG)上に50μl滴下し、スピンコーターにより2000rpm、20秒間スピンして塗布した。25℃で1分乾燥させた後、90℃で5分加熱することで薄膜を形成させた。
【0085】
図3のような透明な薄膜が得られ、ATR法によるIR測定したところ、
図4のようなスペクトルが得られた。550から1500cm
-1付近にブロードなAl−O−Alの振動ピーク、2500から4000cm
-1付近にブロードなAl−OHの振動ピークが確認され、Al−O−Al、Al−OH結合の形成が確認できた。したがって、酸化アルミニウム薄膜の形成が確認された。3000cm
-1付近の有機物の振動ピークがないため、残存有機物が無いことが確認できた。ガラス基板自体のATR法によるIRスペクトルは
図5であり明らかに
図4と異なる。膜厚は638nmであった。