特許第6669501号(P6669501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イェール ユニバーシティーの特許一覧

特許6669501皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法
<>
  • 特許6669501-皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法 図000006
  • 特許6669501-皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法 図000007
  • 特許6669501-皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法 図000008
  • 特許6669501-皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法 図000009
  • 特許6669501-皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法 図000010
  • 特許6669501-皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法 図000011
  • 特許6669501-皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法 図000012
  • 特許6669501-皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法 図000013
  • 特許6669501-皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法 図000014
  • 特許6669501-皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法 図000015
  • 特許6669501-皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法 図000016
  • 特許6669501-皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6669501
(24)【登録日】2020年3月2日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7068 20060101AFI20200309BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20200309BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200309BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20200309BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20200309BHJP
   A61K 38/00 20060101ALN20200309BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALN20200309BHJP
   A61K 31/713 20060101ALN20200309BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALN20200309BHJP
   A61K 45/06 20060101ALN20200309BHJP
   A61K 8/64 20060101ALN20200309BHJP
【FI】
   A61K31/7068
   A61P17/00
   A61P43/00 111
   A61P43/00 105
   A61K8/60
   A61Q19/02
   !A61K38/00
   !A61K31/7088
   !A61K31/713
   !A61K31/7105
   !A61K45/06
   !A61K8/64
【請求項の数】8
【全頁数】60
(21)【出願番号】特願2015-561711(P2015-561711)
(86)(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公表番号】特表2016-510760(P2016-510760A)
(43)【公表日】2016年4月11日
(86)【国際出願番号】US2014021738
(87)【国際公開番号】WO2014138578
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2017年2月16日
(31)【優先権主張番号】61/775,188
(32)【優先日】2013年3月8日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593152720
【氏名又は名称】イェール ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】Yale University
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ジョン メーソン ポーレック
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−370986(JP,A)
【文献】 特表2002−521421(JP,A)
【文献】 特開平01−163112(JP,A)
【文献】 国際公開第03/084485(WO,A1)
【文献】 英国特許出願公告第01422642(GB,A)
【文献】 国際公開第2011/138687(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/082525(WO,A1)
【文献】 特開2007−106765(JP,A)
【文献】 特表2001−521901(JP,A)
【文献】 化学と生物,2012年,Vol. 50, No. 7,pp. 498-509
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33−33/44
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 38/00−38/58
A61K 41/00−45/08
A61K 48/00
WPI
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の色素沈着(pigmentation)を減少するための医薬組成物であって、1%〜10%のシチジンを含有する医薬組成物。
【請求項2】
2%のシチジンを含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
3%のシチジンを含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
4%のシチジンを含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
皮膚の色素沈着を減少する非医療的方法に用いる、1%〜10%のシチジンを含有する、組成物。
【請求項6】
2%のシチジンを含有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
3%のシチジンを含有する、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
4%のシチジンを含有する、請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2013年3月8日に出願された米国仮出願No. 61/775,188の優先権を主張し、当該出願の内容は全て、本願において参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
人間は社会的存在であり、顔面又は身体の他の部分の斑の又は非対称の色素沈着は、自尊心の低下、憂鬱、社会的地位に関する問題、及び職場での生産性の低下を引き起こし得る(Balkrishnan et al., 2006, Int J Dermatol 45:111−5)。皮膚の色素過剰は、多くの人々が矯正治療を模索しているありふれた症状である。これは皮膚のメラニンの増大の結果であり、時には非対称的に斑点となり、又は皮膚の特定の領域を覆い;あるいは左右相称を有する。これは、メラニン合成及びケラチノサイトへの移動の増大;メラノサイトの増大;及び場合によっては食作用を経てメラニンを蓄積したメラニン含有マクロファージのメラノファージにより引き起こされる。色素過剰の領域は褐色あるいは青灰色である。色素過剰には多くの原因があり、最も多いのは黒皮症、炎症後色素過剰(PIH)及び日光黒子(肝斑)である。
【0003】
メラノサイトは皮膚の色素を生産する細胞である。主要な色素であるメラニンは、メラノサイトの細胞質内のメラノソームとして知られる細胞小器官内に存在する一群の酵素によって合成される。メラノサイトは、メラニンを供給するケラチノサイトと近接して上皮の基底層に位置する。通常、ヒトは、民族的背景に拘らず皮膚のmm2あたり概ね同数のメラノサイトを有する。各メラノサイトは、「上皮−メラニン単位」中で約36個のケラチノサイトと関連している。メラニンの合成及びそのケラチノサイトへの移動を含む、我々の皮膚の色及び強度を決定する要素は、通常は、メラノサイトの数ではなくメラノサイトの活性である。メラニンを積載するメラノソームはメラノサイトから、皮膚の最も豊富な細胞である周囲のケラチノサイトに移動させ、皮膚に色及び日光からの保護をもたらす(図1)。
【0004】
メラノソームのケラチノサイトへの移動は、1つの細胞から他の細胞へのオルガネラの受け渡しを含む特異な生物学的プロセスであり、皮膚の色素沈着に重要なステップである。このプロセスに障害のある個体は、皮膚のメラニン含有量の顕著な低下が見られる。当該プロセスは、メラノサイトとケラチノサイトの接続;メラノソームのケラチノサイトへの移動;及び皮膚内で、ケラチノサイトの核上領域への輸送を含む。細胞生物学、サイトカイン及びホルモンシグナル経路、及びペプチド及びタンパク質の役割に関して、メラノサイト−ケラチノサイト輸送の情報が蓄積している(Scott et al., 2007, Exp Cell Res 313:3840−50; Scott et al., 2008, J Invest Dermatol 128:151−61; Scott, 2012, J Invest Dermatol 132(4):1073−4; Singh et al., 2012, J Cell Sci 125(Pt 18):4306−19)。しかしながら、色素過剰の治療及び防止の方法及び組成物についての当該技術分野における需要が存在し続けている。本発明は、この満たされていない需要を充たすものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、皮膚の色素沈着を減少する組成物を提供する。当該組成物は、シアリルトランスフェラーゼの阻害剤、オリゴ糖形成の阻害剤、又はオリゴ糖活性の阻害剤を含有する。一つの態様において、シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤は、β−ガラクトシドα2,6’−シアリルトランスフェラーゼI (ST6Gal.I)活性の阻害剤を含む。一つの態様において、当該阻害剤は、細胞内のST6Gal.Iの発現を減少する。一つの態様において、当該阻害剤は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有オリゴ糖の形成を減少する。一つの態様において、当該阻害剤は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有オリゴ糖の活性の阻害剤である。
【0006】
一つの態様において、当該阻害剤は、核酸、siRNA、アンチセンス核酸、リボザイム、ペプチド、低分子、アンタゴニスト、アプタマー、及びペプチド模倣物の1つ以上である。一つの態様において、当該阻害剤は、表1に列挙される阻害剤から選択される。一つの態様において、当該阻害剤は、表2に列挙される阻害剤から選択される。
【0007】
一つの態様において、前記阻害剤は、シチジン、シチジンモノリン酸N−アセチルノイラミン酸, 6’−シアリルガラクトース, 6’−シアリルN−アセチルガラクトサミン, 6’−シアリルラクトース, 3’−シアリルラクトース、又は N−アシル−ノイラミニルの1つ以上である。一つの態様において、当該阻害剤はシチジン又はその類似体である。
【0008】
一つの態様において、前記阻害剤は、6’−シアリルラクトースである。一つの態様において、前記阻害剤は3’−シアリルラクトースである。
【0009】
一つの態様において、前記組成物は2つ以上の阻害剤を含有する。一つの態様において、当該組成物は6’−シアリルラクトース及びシチジン又はその類似体を含有する。一つの態様において、当該組成物は3’−シアリルラクトース及びシチジン又はその類似体を含有する。一つの態様において、当該組成物は6’−シアリルラクトース及び3’−シアリルラクトースを含有する。一つの態様において、当該組成物は6’−シアリルラクトース、3’−シアリルラクトース及びシチジン又はその類似体を含有する。一つの態様において、当該2つ以上の阻害剤の効果は相乗的である。
【0010】
本発明は、シチジン又はその類似体を含有する皮膚の色素沈着を減少する組成物を提供する。一つの態様において、当該組成物は、更に6’−シアリルラクトースを含有する、一つの態様において、当該組成物は、更に3’−シアリルラクトースを含有する。
【0011】
本発明は、有効量の、シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、オリゴ糖形成の阻害剤、又はオリゴ糖活性の阻害剤から成る群から選択される阻害剤を対象に投与することを含む、皮膚の色素沈着を減少する方法を提供する。
【0012】
一つの態様において、前記シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤は、β−ガラクトシドα2,6’−シアリルトランスフェラーゼI (ST6Gal.I)活性の阻害剤を含む。一つの態様において、当該阻害剤は細胞内のST6Gal.Iの発現を減少する。一つの態様において、当該阻害剤は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有オリゴ糖の形成を減少する。一つの態様において、当該阻害剤は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有オリゴ糖活性の阻害剤である。
【0013】
一つの態様において、前記阻害剤は、核酸、siRNA、アンチセンス核酸、リボザイム、ペプチド、低分子、アンタゴニスト、アプタマー、及びペプチド模倣物(peptidomimetic)の1つ以上である。一つの態様において、前記阻害剤は、表1に列挙された阻害剤から選択される。一つの態様において、前記阻害剤は、表2に列挙された阻害剤から選択される。
【0014】
一つの態様において、前記阻害剤は、シチジン、シチジン一リン酸N−アセチルノイラミン酸, 6’−シアリルガラクトース, 6’−シアリルN−アセチルガラクトサミン, 6’−シアリルラクトース, 3’−シアリルラクトース, 及びN−アシル−ノイラミニルの一つ以上である。一つの態様において、前記阻害剤は、シチジン又はその類似体である。
【0015】
一つの態様において、前記阻害剤が6’−シアリルラクトースである。一つの態様において、前記阻害剤が3’−シアリルラクトースである。
【0016】
一つの態様において、前記方法は、2つ以上の阻害剤を含有する組成物を投与することを含む。一つの態様において、当該化合物は、6’−シアリルラクトース及びシチジン、又はその類似体を含有する。一つの態様において、当該組成物は、3’−シアリルラクトース及びシチジン又はその類似体を含有する。一つの態様において、当該組成物は、6’−シアリルラクトース及び3’−シアリルラクトースを含有する。一つの態様において、前記組成物は、6’−シアリルラクトース、3’−シアリルラクトース及びシチジン又はその類似体を含有する。一つの態様において、前記2つ以上の阻害剤の効果は相乗的である。
【0017】
一つの態様において、前記方法は、シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、オリゴ糖形成の阻害剤、及びオリゴ糖活性の阻害剤から成る群から選択される第一の阻害剤を含有する第一の組成物を対象に投与すること;及びシアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、オリゴ糖形成の阻害剤、及びオリゴ糖活性の阻害剤から成る群から選択される阻害剤を含有する第二の組成物を対象に投与すること;を含む。一つの態様において、前記第一の組成物は、シチジン, シチジン一リン酸N−アセチルノイラミン酸, 6’−シアリルガラクトース, 6’−シアリルN−アセチルガラクトサミン, 6’−シアリルラクトース, 3’−シアリルラクトース,及び N−アシル−ノイラミニルから成る群から選択される第一の阻害剤を含有する。一つの態様において、前記第二の阻害剤は、シチジン, シチジン一リン酸N−アセチルノイラミン酸, 6’−シアリルガラクトース, 6’−シアリルN−アセチルガラクトサミン, 6’−シアリルラクトース, 3’−シアリルラクトース,及びN−アシル−ノイラミニルから成る群から選択される第二の阻害剤を含有する。
【0018】
一つの態様において、前記方法は、対象の皮膚に前記組成物を投与することを含む。一つの態様において、当該対象が、皮膚の少なくとも一部の領域における色素過剰を有する。一つの態様において、当該方法は、メラニン生産を阻害する。一つの態様において、当該方法は、対象のメラノサイトから対象のケラチノサイトへのメラノソームの移動を阻害する。一つの態様において、当該対象はヒトである。
【0019】
本発明は、皮膚の色素沈着を減少する方法であって、有効量のシチジン又はその類似体を対象に投与することを含む。一つの態様において、前記方法は、更に、有効量の6’−シアリルラクトースを対象に投与することを含む。一つの態様において、前記方法は、更に、有効量の3’−シアリルラクトースを対象に投与することを含む。
【0020】
本発明は、皮膚の色素沈着を減少するためのキットを提供する。当該キットは、教材(instructional material)と、シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、オリゴ糖形成の阻害剤、及びオリゴ糖活性の阻害剤から成る群から選択される阻害剤を含有する皮膚の色素沈着を減少するための組成物とを含む。
【0021】
一つの態様において、前記シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤が、阻害剤が、β−ガラクトシドα2,6’−シアリルトランスフェラーゼI (ST6Gal.I)活性の阻害剤を含有する。一つの態様において、前記阻害剤が、細胞内のST6Gal.Iの発現を減少する。一つの態様において、前記阻害剤は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有オリゴ糖の形成を減少する。一つの態様において、前記阻害剤は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有オリゴ糖の活性の阻害剤である。
【0022】
一つの態様において、前記阻害剤は、核酸、siRNA、アンチセンス核酸、リボザイム、ペプチド、低分子、アンタゴニスト、アプタマー、及びペプチド模倣物(peptidomimetic)の一つ以上である。一つの態様において、前記阻害剤は、表1に列挙された阻害剤から選択される。一つの態様において、前記阻害剤は、表2に列挙された阻害剤から選択される。
【0023】
一つの態様において、前記阻害剤は、シチジン, シチジン一リン酸N−アセチルノイラミン酸, 6’−シアリルガラクトース, 6’−シアリルN−アセチルガラクトサミン, 6’−シアリルラクトース, 3’−シアリルラクトース,又はN−アシル−ノイラミニルの1つ以上である。一つの態様において、前記阻害剤は、シチジン又はその類似体である。
【0024】
一つの態様において、前記阻害剤は、6’−シアリルラクトースである。一つの態様において、前記阻害剤は、3’−シアリルラクトースである。
【0025】
一つの態様において、前記組成物は、2つ以上の阻害剤を含有する。一つの態様において、当該組成物は、6’−シアリルラクトース及びシチジン、又はその類似体を含有する。一つの態様において、当該組成物は、3’−シアリルラクトース及びシチジン又はその類似体を含有する。一つの態様において、当該組成物は、6’−シアリルラクトース及び3’−シアリルラクトースを含有する。一つの態様において、当該組成物は、6’−シアリルラクトース、3’−シアリルラクトース及びシチジン又はその類似体を含有する。一つの態様において、当該2つ以上の阻害剤の効果が相乗的である。
【0026】
一つの態様において、前記キットは、シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、オリゴ糖形成の阻害剤、及びオリゴ糖活性の阻害剤から成る群から選択される第一の阻害剤を含有する第一の組成物;及びシアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、オリゴ糖形成の阻害剤、及びオリゴ糖活性の阻害剤から成る群から選択される第二の阻害剤を含有する第二の組成物;を含む。一つの態様において、前記第一の組成物は、シチジン、シチジン一リン酸N−アセチルノイラミン酸, 6’−シアリルガラクトース, 6’−シアリルN−アセチルガラクトサミン, 6’−シアリルラクトース, 3’−シアリルラクトース, 及びN−アシル−ノイラミニルから成る群から選択される第一の阻害剤を含有する。一つの態様において、前記第二の組成物は、シチジン、シチジン一リン酸N−アセチルノイラミン酸, 6’−シアリルガラクトース, 6’−シアリルN−アセチルガラクトサミン, 6’−シアリルラクトース, 3’−シアリルラクトース, 及びN−アシル−ノイラミニルから成る群から選択される第二の阻害剤を含有する。
【0027】
下記の本発明の好ましい態様の詳細な説明は、添付の図面と併せて読んだときより良く理解され得る。本発明の例示目的で、図面中で、現在好ましい態様を示している。しかしながら、本発明は、図面中で示す態様そのものの構成及び設備に限定されないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、ヒト皮膚の色素沈着系の模式図である。1つのメラノサイト及びメラノソームが供給される周囲のケラチノサイトのドメインを示している。メラノソームは、メラノサイト樹状突起を通じて移動する。これを上皮メラニン単位と呼ぶ。
【0029】
図2図2は、エルダーベリーバークレクチン(EBL/SNA)をマーカーとして使用した4人の異なる個人からのメラノサイトの組織染色を示す実験の結果を描写する画像のセットである。断面が、褐色の色素を使用する標準的なイムノペルオキシダーゼ法を通じて染色された。対比染色は、ヘマトキシリンを用いてなされた。パネルは、多くのケラチノサイトに囲まれた1つのメラノサイトを示す。
【0030】
図3図3図3A及び3Bを含み、同一の皮膚生検の連続した切片からのメラノサイトの組織化学染色を示す実験の結果を示す画像のセットである。切片は、褐色の色素を使用する標準的なイムノペルオキシダーゼ法を通じて染色された。対比染色は、ヘマトキシリンを用いてなされた。図3Aは、メラノサイトの染色を示すEBL/SNAレクチンで染色した切片を示す。図3Bは、MAAII レクチンで染色した連続切片を示す。白い星印はメラノサイト核を示す。
【0031】
図4図4は、図4A及び4Bを含み、共培養したケラチノサイトと接触したメラノサイトを示す実験の結果を示す画像のセットである。培養物は、赤色の色素を使用して標準的な免疫科学技術によりEBL/SNAで染色され、Zeiss光学顕微鏡で撮像された。図4Aは、メラノサイト細胞膜のEBL/SNA染色を示す低パワー画像である。図4Bは、フィラポディアの接触点(星印)の高パワー画像である。
【0032】
図5図5は、図5A及び5Bを含み、ヒトメラノサイト−ケラチノサイトの共培養のEBL染色及びメラニン含量に対するL−シチジン(25マイクロモラー)の効果を示す実験の結果を示す画像のセットである。標準的なIHC手順に従い、培養物はL−シチジン(25マイクロモラー)で72時間インキュベートし、BSSですすぎ、パラホルムアルデヒドで固定し、BSSでもう一度洗浄し、EBL(赤色の色素)で染色した。対比染色はヘマトキシリンを用いて行った。Sport Flexデジタルカメラを取り付けたZeiss Axioskop 40光学顕微鏡を用いてランダムな視野を撮影した。フォトショップツールを使用して、本明細書中の処理群に樹状突起をカットアンドペーストした。そして合成画像を自動コントラスト及びブライトニングツールと共に促進した。図5Aは未処理対照;図5BはEBL染色L−シチジン処理試料を示す。
【0033】
図6図6は、ヒトメラノサイト−ケラチノサイト共培養のメラニン含量に対するL−シチジン(Cyt, 50マイクロモラー), 6’−シアリルラクトース (6’−SL, 50マイクロモラー) and 3’−シアリルラクトース (3’−SL, 50マイクロモラー)の効果を未処理対照(UT)と比較した物を示す実験の結果を示す画像のセットである。培養物を各薬剤で72時間インキュベートし、遠心してペレットとし、分光光度計による定量のため、メラニンを可溶化した。元の画像はSport Flexデジタルカメラを取り付けたZeiss Axioskop 40光学顕微鏡を用いて生産された。全ての画像は、自動コントラスト及びブライトニングツールと共に促進された。
【0034】
図7図7は、図7A〜7Dを含み、メラノサイト−ケラチノサイト共培養のメラニン含量に対するシチジン, 6’−SL及び3’−SLの効果を示す実験の結果を示す。細胞は阻害剤で72時間インキュベートし、パラホルムアルデヒドで固定し、メラニン可視化のため、Fontana−Masson銀染色でメラニンを染色した(Kwon−Chung et al., 1981, J Clin Microbiol, 13:383-387)。ランダムな視野を撮像し、フォトショップツールを使用して処理群に配置した。全ての画像は、自動コントラスト及びブライトニングツールと共に促進された。図7Aは、無処理対照(50マイクロモラー)を示し;図7Bはシチジン処理細胞(50マイクロモラー)を示し、図7Cは6’−SL処理細胞(50マイクロモラー)を示し;図7Dは3’−SL処理細胞(50マイクロモラー)を示す。
【0035】
図8図8は、図8A及び図8Bを含み、メラノサイト−ケラチノサイト共培養におけるメラニン含量(図8A)及びチロシナーゼ活性(図8B)を測定した実験の結果を示すグラフのセットである。点線は、実験開始時のtレベルを示す。メラニン含量がBliss Additivityにおいて予想されたよりも顕著に大きい場合、(*) (p = 0.06); (**) (p = 0.01)で示した。
【0036】
図9図9図9A及び9Bを含み、メラノサイト−ケラチノサイト相互作用及びメラノソーム移動に対する3’−SLと組み合わせたシチジンの効果を示す実験の結果を示す画像のセットである。細胞はで27時間インキュベートし、パラホルムアルデヒドで固定し、Fontana−Masson銀染色でメラニンを染色した(Kwon−Chung et al., 1981, J Clin Microbiol, 13:383-387)。画像は撮像されフォトショップツールを用いて処理群内に配置された。画像は自動コントラスト及びブライトニングツールと同一の層内いに促進された。図9Aは、未処理対照を示す。図9Bは、シチジン(15マイクロモラー) + 3’−SL (15マイクロモラー)で処理した細胞を示す。
【0037】
図10図10は、ST6 siRNA、及びより少ない程度のST3 siRNAが、melan−Aマウス細胞におけるEBL結合を減少することを示す実験の結果を示す画像のセットである(UT=未処理対照)。
【0038】
図11図11は、図11A及び11Bを含み、培養ヒトメラノサイトにおけるメラニン生産(図11A)及びチロシナーゼ活性(図11B)に対するST6及びST3におけるsiRNAsの効果を示す実験の結果を示すグラフのセットであり、ST6 siRNA、及びより少ない程度のST3 siRNAが、メラニン生産を減少することを示す(UT=未処理対照)。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、一般に、皮膚の色素沈着を減少する方法及び組成物に関する。本発明は、例えば、過剰な色素沈着又はまだらな色素沈着を治療及び予防するために使用される。幾つかの態様において、本発明は、色素過剰を治療及び/又は予防する。
【0040】
一つの態様において、本発明は対象の皮膚の色素沈着を減少する組成物を提供する。幾つかの態様において、当該組成物はシアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有オリゴ糖の活性の阻害剤、又はそれらの組み合わせを含有する。
【0041】
一つの態様において、本発明は、皮膚の色素沈着を減少する方法を提供する。一つの態様において、当該方法は、シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有オリゴ糖の活性の阻害剤、又はそれらの組み合わせを含有する有効量の組成物を対象に投与することを含む。幾つかの態様において、当該方法は、対象のメラノサイトに前記組成物を投与することを含む。
【0042】
定義
他に定義の無い限り、本明細書中で使用される技術及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。本明細書中に記載のものと類似又は同等の方法及び材料は、本発明の実施又は試験において使用されてもよく、好ましい方法及び材料は記載されている。
【0043】
一般に、本明細書中で使用される命名、並びに細胞培養、分子遺伝学、化学、及び核酸化学及びハイブリダイゼーションにおける実験の手順は、当該技術分野で周知の、かつ一般に採用されるものである。
【0044】
核酸及びペプチド合成に、標準的な技術が使用される。これらの技術及び手順は一般に当該技術分野で周知の方法及び様々な一般的文献(例えばSambrook and Russell, 2012, Molecular Cloning, A Laboratory Approach, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY, and Ausubel et al., 2002, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY)に従って実施され、それらは本文献全体に提供される。
【0045】
本明細書中で使用される命名及び下記分析化学及び有機合成は、当該技術分野で周知で一般に採用されるものである。化学合成及び化学分析に、標準的な技術又はその改変が使用される。
【0046】
本明細書中、下記各用語は、この項においてそれらに関連する意味を有する。
【0047】
「一つの」は、本明細書中、その文字の文法上の目的語が1つ又は2つ以上(即ち1つ以上)であることを意味する。例えば、「一つの要素」は、1つの要素又は1つ以上の要素を意味する。
【0048】
本明細書中、「約」は、量や温度範囲等の測定可能な数値が、特定の数値からの±20%又は±10%、好ましくは±5%尚もより好ましくは±1%そして尚もより好ましくは±0.1%の変動を含み、そのような変動が、開示される方法の実施に適していることを意味する。
【0049】
「アンチセンス」は、特に、タンパク質をコードする二本鎖DNA分子の非コード鎖の核酸配列、非コード鎖と実質的に同一の配列を意味する。本明細書中、アンチセンス配列は、タンパク質をコードする二本鎖DNA分子の配列と相補的なアンチセンス配列を意味する。アンチセンス配列が完全に単独でDNA分子のコード鎖のコードタンパク質に相補的であるとは限らない。アンチセンス配列は、タンパク質をコードするDNA分子のコード鎖上に特定される、コード配列の発現を制御する制御配列に相補的であってもよい。
【0050】
本明細書中、「アプタマー」は、他の分子と特異的に結合できる低分子を意味する。アプタマーは典型的にはポリヌクレオチド又はペプチドの何れかを基礎とする分子である。ポリヌクレオチドアプタマーはDNA又はRNA分子で、通常はペプチド、タンパク質、薬物、ビタミン、他の有機又は無機分子等の特定の標的分子に特異的な結合親和性を有するように設計された高度に特異的な三次元的立体構造を有する複数本の鎖の核酸を含有する。そのようなポリヌクレオチドアプタマーは、飛躍的な強化によるリガンドの組織的な進化の使用を通じてランダムな配列の集団から選択できる。ペプチドアプタマーは、典型的には、特定のリガンドに結合するタンパク質足場に結合する約10〜20個のアミノ酸のループである。ペプチドアプタマーは、酵母ツーハイブリッド系等の方法を使用して、組み合わせライブラリーから単離され同定され得る。
【0051】
「相補的」は、本明細書中、2つの核酸、例えば2つのDNA分子の間で相補的なサブユニット配列の広い概念を意味する。両分子のヌクレオチド位置が互いに対となり得るヌクレオチドに占められている場合、それらの核酸は、この位置において互いに相補的とみなされる。従って、各ヌクレオチド中の対応する位置の少なくとも約50%以上、好ましくは約60%以上、より好ましくは約80%以上が通常互いに対となる(A:T及びG:Cヌクレオチド対)ヌクレオチドに占められる場合、2つの核酸は互いに実質的に相補的である。
【0052】
「疾患」は、動物が恒常性を維持できない動物の健康状態であり、疾患が改善しない場合動物の健康は悪化し続ける。一方、「障害」は、動物が恒常性を維持できる健康状態であるが、動物の健康状態は、その障害の存在しない場合よりも望ましくない。治療をしなくても障害は必ずしも動物の健康状態の更なる悪化を引き起こさない。
【0053】
疾患又は障害の症状の重症度が減少し、あるいはそのような症状を患者が経験する頻度が減少した場合、疾患又は障害が「軽減」したという。
【0054】
「有効量」及び「治療有効量」という用語は、所望の生物学的結果を提供するための薬剤の非毒性であるが十分な量を意味する。この結果は、疾患又は障害の兆候、症状又は原因の改善及び/又は減少、又は生物系の他の所望の変化を意味する。任意の個人の場合における適切な有効量は、ありふれた実験を使用して当業者によって決定され得る。
【0055】
本明細書中、「内部的」は、生物、細胞、組織又は系の内部に由来する、又は生産される任意の材料を指す。
【0056】
本明細書中、「外部的」は、生物、細胞、組織又は系の外部に由来する、又は生産される任意の材料を指す。
【0057】
本明細書中、「発現」は、そのプロモーターに駆動される特定のヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳と定義される。
【0058】
本明細書中、「発現ベクター」は、転写可能な遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含有するベクターを意味する。幾つかの場合、RNA分子は、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドに翻訳される。他の場合、これらの配列は、例えばアンチセンス分子、siRNA、リボザイム等の生産において、翻訳されない。発現ベクターは、特定のホスト生物中で操作可能に連結されたコード配列の転写及び翻訳をするのに必要な核酸配列を意味する様々な調整配列を含み得る。転写及び翻訳を制御する調整配列に加えて、ベクター及び発現ベクターは、他の機能を有する核酸配列を含んでもよい。
【0059】
「融合ポリペプチド」という用語は、異種配列(例えば非ルシフェラーゼアミノ酸又はタンパク質)と連結した昆虫のタンパク質(例えばルシフェラーゼ)を含有するキメラタンパク質を意味する。
【0060】
「類似性」は、相補性の程度を指す。部分的な類似性又は完全な類似性(即ち同一性)があってもよい。類似性は、しばしば配列解析ソフトウエアを使用して測定される(例えばSequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group. University of Wisconsin Biotechnology Center. 1710 University Avenue. Madison, Wis. 53705)。そのようなソフトウエアは、様々な置換、欠失、挿入及び他の改変に対する類似性の程度を評価することにより類似の配列をマッチさせる。典型的には、保存的置換は、以下の群:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;ロイシン、アルギニン;及びフェニルアラニン、チロシン;内の置換を含む。
【0061】
核酸に関して用いられる「単離」という用語は(例えば「単離オリゴヌクレオチド」又は「単離ポリヌクレオチド)は、天然源では通常会合している少なくとも1つの混入物質から分離された核酸配列を指す。したがって、単離核酸は自然界で見られるものとは異なる形態又は状態で存在する。対照的に、非単離核酸は、自然界で存在する状態で見られるDNA及びRNA等の核酸である。例えば、所与のDNA配列(例えば遺伝子)は周辺の遺伝子と近接して宿主細胞の染色体上に見られ、特定のタンパク質をコードしている特定のmRNA配列等のRNA配列は多くのタンパク質をコードしている多数の他のmRNAとの混合物として細胞内に見られる。しかしながら、所与のタンパク質をコードしている単離核酸としては、一例として、核酸が天然細胞とは異なる染色体上の位置に存在する、又はさもなければ自然界で見られるものとは異なる核酸配列に隣接する場合、所与のタンパク質を通常発現する細胞内のかかる核酸が挙げられる。単離核酸、オリゴヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖形態で存在してもよい。単離核酸、オリゴヌクレオチドを利用してタンパク質を発現させるとき、オリゴヌクレオチドは最低限センス鎖又はコード鎖を含む(例えばオリゴヌクレオチドは一本鎖であってもよい)が、センス鎖及びアンチセンス鎖の両方を含んでいてもよい(例えばオリゴヌクレオチドは二本鎖であってもよい)。
【0062】
「単離タンパク質」又は「単離ポリペプチド」等のポリペプチドと関連して使用される「単離」という用語は、天然源では通常会合している少なくとも1つの混入物質から分離及び同定されたポリペプチドを指す。したがって、単離ポリペプチドは自然界で見られるものとは異なる形態又は状態で存在する。対照的に、非単離ポリペプチド(例えばタンパク質及び酵素は、自然界で存在する状態で見られるものである。
【0063】
「天然に存在する」とは、対象が天然に見られるものであるという事実を意味する。例えば、天然の供給源から単離でき、人間によって意図的に改変されていない生物(ウイルスを含む)中に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチドは、天然に存在するものである。
【0064】
「核酸」は、デオキシリボヌクレオシド又はリボヌクレオシドのいずれかで構成され、ホスホジエステル結合、又は改変された結合、例えばホスホトリエステル、ホスホールアミデート、シロキサン、炭酸塩、カルボキシメチルエステル、アセトアミデート、カルバメート、チオエーテル、架橋ホスホールアミデート、架橋メチレンホスホネート、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオエート、架橋ホスホロチオエート、又はスルホン結合等の改変された結合、又はそれらの組み合わせから成る任意の核酸を意味する。核酸という用語は、生物学的に生成される5つの塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシン、及びウラシル)以外の塩基からなる核酸も特に含む。典型的には、「核酸」は、巨大なポリヌクレオチドを意味する。
【0065】
本明細書中でポリヌクレオチドを記載するために確立された表記が用いられ、一本鎖ポリヌクレオチド配列の左側の末端が5’−末端であり;二本鎖ポリヌクレオチド配列の左側の方向を、5’−方向という。
【0066】
新生RNA転写物への5‘から3’への付加の方向は、転写方向という。mRNAと同じ配列を有するDNA鎖を、「コード鎖」と呼び;DNA上の参照ポイントに対して5‘側に位置するDNA鎖を、「上流配列」と呼び;DNA上の参照ポイントに対して3‘側に位置するDNA鎖を、「上流配列」と呼ぶ。
【0067】
「発現カセット」は、コード配列の転写及び任意で翻訳に必要なプロモーター/制御配列と操作可能に連結したコード配列を含有する核酸分子を意味する。
【0068】
本明細書中「操作可能に連結した」とは、所定の遺伝子の転写及び/又は所望のタンパク質分子の合成が可能な核酸分子が作製されるように核酸配列が連結されることを意味する。当該用語は、機能的(例えば酵素的に活性、結合パートナーとの結合が可能、阻害が可能等)タンパク質又はポリペプチドが生産されるようにアミノ酸をコードする配列が連結されることを意味する。
【0069】
本明細書中、「プロモーター/制御配列」は、プロモーター/制御配列と操作可能に連結した遺伝子の発現に必要な核酸配列を意味する。幾つかの例において、この配列は、コアプロモーター配列であってもよく、他の例において、この配列は、遺伝子産物の発現に必要なエンハンサー配列及び他の制御エレメントを含んでもよい。プロモーター/制御配列は、例えば、誘導可能に遺伝子産物を発現するものであってもよい。
【0070】
「誘導可能な」プロモーターは、遺伝子産物をコード又は特定するポリヌクレオチドと操作可能に連結しているとき、実質的にプロモーターに対応するインデューサーが存在するときにのみ、生産すべき遺伝子産物の生産を引き起こす、核酸配列である。
【0071】
「構成的」プロモーターは、遺伝子産物をコード又は特定するポリヌクレオチドと操作可能に連結しているときに、細胞の殆ど又は全ての生理的条件下で細胞内で生産されるべき遺伝子産物の転写を引き起こすヌクレオチド配列である。
【0072】
「ポリペプチド」は、アミノ酸残基で構成されるペプチド結合で連結したポリマー、関連する天然に存在する構造的変異体、及びその天然に存在しない合成の類似体を指す。合成ペプチドは、例えば自動ポリペプチド合成装置を使用して合成され得る。
【0073】
「タンパク質」は、典型的には大きいポリペプチドを指す。
【0074】
「ペプチド」は、典型的には短いポリペプチドを指す。
【0075】
ポリペプチド配列を描写するために、本明細書中では、公知の表記が使用される。ポリペプチド配列の左端がアミノ末端で、ポリペプチド配列の右端がカルボキシ末端である。
【0076】
本明細書中、「ペプチド模倣物」は、元のペプチドの生物作用を模倣できる非ペプチド構造要素を含有する化合物である。ペプチド模倣物は、ペプチド結合を含み、又は含まなくてもよい。
【0077】
「ポリヌクレオチド」は、核酸の単一の鎖、又は平行及び反平行鎖を意味する。従って、ポリヌクレオチドは、二本鎖核酸又は一本鎖核酸のいずれであってもよい。本発明において、核酸塩基に通常使用される略称が使用される。Aはアデノシン、Cはシチジン、Gはグアノシン、Tはチミジン、及びUはウリジンを指す。
【0078】
「オリゴヌクレオチド」は、典型的には、一般に約60ヌクレオチド以下短いポリヌクレオチドを指す。ヌクレオチド配列がDNA配列(即ちA,T,G,C)により表現される場合、これは、RNA配列(即ちA,U,G,C)も含み、ここでUはTを置き換える。
【0079】
「組換えポリヌクレオチド」は、天然に共存しない配列を有するポリペプチドを指す。増幅又は組み立てられた組換えポリヌクレオチドは、適切なベクター中に含まれてもよく、当該ベクターは、適切な宿主細胞を形質転換するのに使用され得る。
【0080】
組換えポリヌクレオチドは、非コード機能領域(例えばプロモーター、複製起点、リボソーム結合部位等)を含んでもよい。
【0081】
本明細書中、「組換えポリペプチド」は、組換えDNA法を使用して生産されたポリペプチドと定義される。組換えポリヌクレオチドを含む宿主細胞は「組換え宿主細胞」と呼ばれる。組換え宿主細胞中である遺伝子が発現しており、当該遺伝子が組み換えポリヌクレオチドを含む場合、生産されているのは「組換えポリペプチド」である。
【0082】
本明細書中、「組換え細胞」は、組換えポリヌクレオチドを含有する宿主細胞である。
【0083】
本明細書中「リボザイム」は、DNA制限エンドヌクレアーゼと同様な方法で、他の一本鎖RNAを特異的に切断する能力を持つRNA分子である。これらのRNAをコードするヌクレオチド配列を修飾することによって、RNA分子中の特異的なヌクレオチド配列を認識し、切断するように分子を操作できる(Cech (1988) J. Amer. Med. Assn. 260:3030)。リボザイムには、テトラヒメナ型(Hasselhoff (1988) Nature 334:585)および「ハンマーヘッド」型の、2つの基本的なタイプがある。テトラヒメナ型リボザイムは、長さが4塩基の配列を認識するが、「ハンマーヘッド」型リボザイムは、長さが11〜18塩基の塩基配列を認識する。配列が長ければ長いほど、その配列が標的mRNA種のみに見られる可能性が高くなる。したがって、特定のmRNA種を不活化するためには、テトラヒメナ型リボザイムよりもハンマーヘッド型リボザイムの方が好ましく、無関係なmRNA分子中に無作為に発生し得る短い認識配列よりも、18塩基の認識配列のほうが好ましい。リボザイム及びそれらの遺伝子発現阻害のための使用も公知である(例えばCech et al., 1992, J. Biol. Chem. 267:17479−17482; Hampel et al., 1989, Biochemistry 28:4929−4933; Eckstein et al., International Publication No. WO 92/07065; Altman et al., U.S. Patent No. 5,168,053を参照されたい)。
【0084】
「特異的に結合する」とは、分子、例えば抗体が、試料中の特定の分子又は特徴を認識し結合するが、それ以外の分子又は特徴を実質的に認識又は結合しないことを指す。
【0085】
本明細書中、「トランスドミナントネガティブ変異遺伝子」は、変異していない(即ち野生型配列を有する)同一の遺伝子又は遺伝子産物の他のコピーの機能的特性を阻害する(例えば野生型タンパク質の機能を阻害することにより)ポリペプチド又はタンパク質産物をコードする遺伝子を指す。トランスドミナントネガティブ変異遺伝子の産物は、「ドミナントネガティブ」又は「DN」と称する(例えばドミナントネガティブタンパク質又はDNタンパク質)。
【0086】
本明細書中「阻害する」とは、分子、反応、相互作用、遺伝子、mRNA、及び/又はタンパク質の発現、安定性、機能又は活性を測定可能な量減少させること、又はそれらを完全に妨げることを意味する。阻害剤は、例えば、結合することによって、部分的又は完全に、タンパク質、遺伝子及びmRNAの安定性、機能及び活性を、刺激、減少、防止、遅延、活性化、不活性化、鈍化、又は下方制御する化合物であり、例えばアンタゴニストである。
【0087】
本明細著中「シアリルトランスフェラーゼ阻害剤」は、当業者に既知の任意の方法を使用して、直接又は間接的に、シアリルトランスフェラーゼ活性を阻害する組成物又は化合物を意味する。シアリルトランスフェラーゼ阻害剤は、限定されないが、核酸、ペプチド、低分子、アンタゴニスト、アプタマー又はペプチド模倣物を含む、任意の種類の化合物であってもよい。シアリルトランスフェラーゼ阻害剤は、限定されないが、β−ガラクトシドα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST3Gal)ファミリー、β−ガラクトシドα2,6−シアリルトランスフェラーゼ(ST6Gal)ファミリー、GalNAc α2,6−シアリルトランスフェラーゼ(ST6GalNAc) ファミリー及びα2,8−シアリルトランスフェラーゼ(ST8Sia)ファミリーを含むシアリルトランスフェラーゼファミリーの1つ以上のメンバーを阻害し得る。
【0088】
「Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤」は、本明細書中、当業者に既知の任意の方法を使用して、直接又は間接的に、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc活性を阻害する組成物又は化合物を意味する。Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤は、限定されないが、核酸、ペプチド、低分子、アンタゴニスト、アプタマー又はペプチド模倣物を含む、任意の種類の化合物であってもよい。本明細書中、「Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤」又は「Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの阻害剤」は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有オリゴ糖、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有複合糖質、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有糖脂質、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有糖タンパク質を含む、を含有するコンジュゲートの阻害剤も包含する。
【0089】
本明細書中、「マーカー遺伝子」又は「レポーター遺伝子」は、遺伝子を発現する細胞に判別可能な形質を付与する遺伝子であり、その遺伝子を有する細胞が、その遺伝子を有しない細胞から区別されることを可能とする。そのような遺伝子は、選択可能な、又はスクリーニング可能なマーカーをコードしており、そのマーカーが化学的手段、即ち選択剤(例えば除草剤、抗生物質等)によって選択できる特徴をもたらすものであるか、又は観察又は試験、即ちスクリーニングによって同定可能な単純な「レポーター」の特徴であるかに依存する。本開示の要素は、特定のマーカー遺伝子の使用を通じて詳細に例示される。もちろん当該技術分野において多くの適切なマーカー遺伝子又はレポーター遺伝子の例が知られており、本発明の実施においてそれらが採用され得る。従って、以下の議論が限定的でなく例示であることを理解されたい。本明細書中に開示の技術、及び当該技術分野で周知の一般的な組換え技術を参照して、本発明は、任意の遺伝子の改変を可能とする。
【0090】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、当該単離された核酸を細胞の内部に送達するのに使用される構造体である。当該技術分野で多くのベクターが公知であり、限定されないが、直線ポリヌクレオチド、イオン性又は両親媒性化合物と関連したポリヌクレオチド、プラスミド、及びウイルスを含む。従って、「ベクター」は、プラスミド又はウイルスの自己複製を含む。当該用語は、細胞内への核酸の移動を促進する非ウイルス化合物及び非プラスミド化合物、例えばポリリシン化合物、リポソーム等を含むと想定され得る。ウイルスベクターの例は、限定されないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター等を含む。
【0091】
「教材」は、キット中の、本発明の組成物及び/又は化合物の有用性を伝えるのに使用され得る、印刷物、記録、ダイアグラム、又は他の表現の媒体を含む。当該キットの教材は、例えば、本発明の化合物及び/又は組成物を入れた容器に同封され、又は本発明の化合物及び/又は組成物を入れた容器と一緒に送達される。あるいは、当該教材は、需要者が教材と化合物を一緒に使用することを想定して、容器とは別個に送達され得る。例えば教材の送達は、当該キットの有用性を伝える印刷物又は他の表現の媒体の物理的送達、又はコンピューター等による電子的送達、例えば電子メール又はウェブサイトからのダウンロードにより達成されてもよい。
【0092】
範囲
本開示全体において、本発明の様々な側面が範囲型で表現され得る。範囲型の記載は便宜又は簡潔のために過ぎず、本発明の範囲の硬直的な限定と解釈されないと理解されたい。従って、範囲の記載は、可能な下位範囲の全て及びその範囲内の個別の数値を特に開示していると考慮されるべきである。例えば、1〜6の範囲は、特に下位範囲、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6等、あるいは当該範囲内の個別の数値、例えば1,2,2.7、3、4、5、5.3、及び6等を開示していると解釈されるべきである。範囲の幅に拘らずこのような解釈が適用される。
【0093】
説明
本発明は、一般に、皮膚の色素沈着を減少する組成物及び方法に関する。例えば本発明は、過剰な色素沈着や不均等な色素沈着を治療及び/又は予防するために使用される。幾つかの態様において、本発明は、色素過剰を治療及び/又は予防する。色素過剰は多くの原因があり、限定されないが、黒皮症、炎症後色素過剰(PIH)及び日光黒子(肝斑)が挙げられる。
【0094】
本発明は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc、特にNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有オリゴ糖の、メラニン形成及びメラノソーム移動における役割の発見に部分的に基づく。Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcは、幾つかの膜結合複合糖質の末端配列であるシアリル化オリゴ糖配列である。本明細書中で示すように、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcは、メラノサイトの樹状突起で見られ、メラノサイトからケラチノサイトへのメラノソームの移動に機能する。従って、本発明は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc及びNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有オリゴ糖の活性、及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc及びNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有オリゴ糖の形成を阻害して、皮膚の色素沈着を減少させることを含む。Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc及びNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有オリゴ糖は、β−ガラクトシドα2,6’−シアリルトランスフェラーゼI (ST6Gal.I)の活性により媒介され、故に本発明は、ST6Gal.Iの活性を阻害して、皮膚の色素沈着を減少させることを含む。
【0095】
更に、シアリルトランスフェラーゼ、例えばST3Gal及びST6Galの発現の阻害は、皮膚の色素沈着を減少する。従って、本発明は、皮膚の色素沈着を減少するために、シアリルトランスフェラーゼの発現、活性又は両方の阻害を包含する。
【0096】
一つの態様において、本発明は、対象の皮膚の色素沈着を減少する組成物を提供し、当該組成物はオリゴ糖形成の阻害剤を含有する。一つの態様において、本発明は対象の皮膚の色素沈着を減少する組成物を提供し、当該組成物はオリゴ糖活性の阻害剤を含有する。一つの態様において、本発明は、グリコシル化オリゴ糖の形成及び/又は機能を阻害する。本明細書中、メラノサイトの樹状突起で観察される幾つかのオリゴ糖は、メラニン生産及びメラノソーム移動に関与することが見出される。
【0097】
一つの態様において、本発明は、本発明は対象の皮膚の色素沈着を減少する組成物を提供する。一つの態様において、当該組成物は、シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有オリゴ糖活性の阻害剤、又はその組み合わせを含有する。
【0098】
本明細書中、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcは、幾つかの例において、複合糖質上で見られる末端シアリル化オリゴ糖配列である。本明細書中、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc活性の阻害剤は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcを含有する、オリゴ糖、複合糖質、糖タンパク質、膜結合糖タンパク質等の活性の阻害剤を包含する。一つの態様において、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc活性の阻害剤は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc配列を直接阻害する。他の態様において、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc活性の阻害剤は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcが結合した実体(例えば複合糖質、糖タンパク質等)を阻害する。
【0099】
一つの態様において、前記組成物は、シアリルトランスフェラーゼ発現の阻害剤を含有する。例えば、一つの態様において、当該組成物は、細胞内のシアリルトランスフェラーゼ発現の発現レベルを減少する単離された核酸(例えばsiRNA、リボザイム、アンチセンスRNA等)を含有する。
【0100】
一つの態様において、前記組成物は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc発現の阻害剤を含有する。例えば、一つの態様において、当該組成物は、細胞内のNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc発現の発現レベルを減少する単離された核酸(例えばsiRNA、リボザイム、アンチセンスRNA等)を含有する。
【0101】
一つの態様において、前記組成物は、シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤を含有する。例えば、一つの態様において、当該組成物は、シアリルトランスフェラーゼの活性を減少する、核酸、ペプチド、低分子、アンタゴニスト、アプタマー、又はペプチド模倣物を含有する。一つの態様において、当該組成物は、シアリルトランスフェラーゼ阻害剤、シチジン、又はその類似体を含有する。
【0102】
一つの態様において、前記組成物は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの活性の阻害剤を含有する。例えば、一つの態様において、当該組成物は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの活性を減少する、核酸、ペプチド、低分子、アンタゴニスト、アプタマー、又はペプチド模倣物を含有する。一つの態様において、当該組成物は、一つの態様において、前記組成物は、6’−シアリルラクトース (6’−SL)又はそのアナログを含有する。一つの態様において、前記組成物は、3’−シアリルラクトース (3’−SL)又はそのアナログを含有する。
【0103】
幾つかの態様において、前記組成物は、本明細書中に記載の阻害剤の組み合わせを含有する。例えば、一つの態様において、当該組成物は、シチジン, 6’−SL、及び3’−SLの2つ以上の組み合わせを含有する。一つの態様において、前記組成物は、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの阻害剤を含有する植物抽出物を含有する。
【0104】
一つの態様において、前記組成物は、医薬として許容される担体を含有する。幾つかの態様において、当該組成物は、本明細書中の阻害剤の送達のためのビヒクルを含有する。一つの態様において、当該医薬として許容される担体は、皮膚科学的に許容されるビヒクルを含有する。
【0105】
一つの態様において、本発明は、色素過剰を治療又は予防する方法を提供する。幾つかの態様において、当該方法は、黒皮症、炎症後色素過剰(PIH)及び日光黒子(肝斑)により起こる色素過剰を治療又は予防する。一つの態様において、当該方法は、対象に、治療有効量のシアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc活性の阻害剤、又はそれらの組み合わせを含有する組成物を投与することを含む。幾つかの態様において、当該方法は、対象のメラノサイトに当該組成物を投与することを含む。
【0106】
一つの態様において、本発明は、皮膚の色素沈着を減少する方法を提供する。一つの態様において、当該方法は、対象に、治療有効量のシアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc活性の阻害剤、又はそれらの組み合わせを含有する組成物を投与することを含む。幾つかの態様において、当該方法は、対象のメラノサイトに当該組成物を投与することを含む。
【0107】
一つの態様において、本発明は、メラニンの生産を阻害する方法を提供する。一つの態様において、当該方法は、対象に、治療有効量のシアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc活性の阻害剤、又はそれらの組み合わせを含有する組成物を投与することを含む。幾つかの態様において、当該方法は、対象のメラノサイトに当該組成物を投与することを含む。
【0108】
一つの態様において、本発明は、メラノソームのメラノサイトからケラチノサイトへの移動を阻害する方法を提供する。一つの態様において、当該方法は、対象に、治療有効量のシアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤、又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc活性の阻害剤、又はそれらの組み合わせを含有する組成物を投与することを含む。幾つかの態様において、当該方法は、対象のメラノサイトに当該組成物を投与することを含む。
【0109】
阻害剤
一つの態様において、本発明は、対象の皮膚の色素沈着を減少する組成物を提供し、当該組成物は、オリゴ糖形成の阻害剤を含有する。一つの態様において、本発明は、対象の皮膚の色素沈着を減少する組成物を提供し、当該組成物は、オリゴ糖活性の阻害剤を含有する。一つの態様において、当該組成物は、グリコシル化オリゴ糖の形成及び/又は機能を阻害する。
【0110】
一つの態様において、本発明の組成物は、シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤を含有する。一つの態様において、シアリルトランスフェラーゼ阻害剤は、シアリルトランスフェラーゼファミリー、限定されないが、β−ガラクトシドα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST3Gal) ファミリー、β−ガラクトシドα2,6−シアリルトランスフェラーゼ(ST6Gal)ファミリー、GalNAc α2,6−シアリルトランスフェラーゼ(ST6GalNAc) ファミリー、及びα2,8−シアリルトランスフェラーゼ(ST8Sia)ファミリーのメンバーの1つ以上の阻害剤である。一つの態様において、シアリルトランスフェラーゼ阻害剤は、ST3Gal阻害剤である。一つの態様において、シアリルトランスフェラーゼ阻害剤は、ST6Gal.I阻害剤である。一つの態様において、シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有コンジュゲート(例えばオリゴ糖、糖タンパク質等)の機能を減少、阻害又は防止する、任意の化合物、分子又は薬剤である。一つの態様において、シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤は、核酸、ペプチド、低分子、アンタゴニスト、アプタマー、又はペプチド模倣物、又はそれらの組み合わせを含有する。
【0111】
一つの態様において、本発明の組成物は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの阻害剤である。eu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc活性の阻害剤は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有コンジュゲート(例えばオリゴ糖、糖タンパク質等)の機能を減少、阻害又は防止する、任意の化合物、分子又は薬剤である。一つの態様において、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの阻害剤は、メラニンの形成を減少、阻害又は防止する、任意の化合物、分子又は薬剤である。一つの態様において、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの阻害剤は、メラノソームのメラノサイトからケラチノサイトへの移動を減少、阻害又は防止する、任意の化合物、分子又は薬剤である。一つの態様において、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc活性の阻害剤は、核酸、ペプチド、低分子、siRNA、リボザイム、アンチセンス、アンタゴニスト、アプタマー、又はペプチド模倣物、又はそれらの組み合わせである。
【0112】
低分子
前記阻害剤が低分子である場合、低分子は当業者に既知の標準的方法を使用して取得され得る。そのような方法は、化学有機合成又は生物学的手段を含む。生物学的手段は、当業者に周知の方法を使用しての、生物資源からの精製、組換え合成及びインビトロ転写系を含む。一つの態様において、本発明の低分子阻害剤は、有機分子、無機分子、生体分子、合成分子等を含む。
【0113】
様々な疾患及び症状の治療に有用な可能性がある分子的に多様な化学的化合物のコンビナトリアルライブラリー、及び斯かるライブラリーの作製方法として、当業者に周知である。当該方法は、固相合成、溶液法、単一化合物の並行合成、化学混合物の合成、リジッドコア構造、フレキシブルリニア配列、デコンボリューションストラテジー、タギングテクノロジー、及びリードディスカバリーのための無偏の分子的景観対リード開発のための偏った構造の製造を含む、当業者に周知の様々な技術を使用し得る。
【0114】
小さなライブラリー合成の一般的な方法において、活性化したコア分子を多くの構築ブロックと重合させて、共有結合した、コア構築ブロックの集合体のコンビナトリアルライブラリーをもたらす。コアの構造及び剛性は、形状空間における構築ブロックの方向を決定する。当該ライブラリーは、特定の生物学的構造を標的とするためにコア、結合又は構築ブロックを変更することにより偏られ(「収束ライブラリー」)、又は柔軟なコアを使用して構造的偏を少なくして合成される。
【0115】
ヒトにおいて20個以上のシアリルトランスフェラーゼが存在し(Harduin−Lepers et al., 2001, Biochimie 83:727−37)、多くのシアリルトランスフェラーゼ阻害剤が報告されている (Lin et al., 2005, Biochem Biophys Res Commun, 331: 953−957; Izumi et al., 2005, J Org Chem, 70: 8817−8824; Chang et al., 2006, Chem Commun, 14: 629−931; Chang et al., 2006, Biochem Biophys Res Commun, 341: 614−619; Hsu et al., 2005, 96: 415−422; Kleineidam et al., 1997, Glycoconj J, 14: 57−66; Xia et al., 2006, J Org Chem, 71: 3696−3706; Lee et al., 2002, J Biol Chem, 277: 49341−49351; Gouyer et al., 2001, Front Biosci, 6: D1235−1244; Azuma et al., 2000, Glycoconj J, 17: 301−306; Delannoy et al., Glycoconj J. 1996, 13: 717−726; Kajihara et al., 1993, Carbohydr Res, 247: 179−193; Cambron and Leskawa, 1993, Biochem Biophys Res Commun, 193: 585−590; Kilton and Maca, 1977, J Natl Cancer Inst., 58: 1479−1481; Kijima−Suda et al., 1988, Cancer Res, 48: 3728−3732; Hindenburg et al., 1985, Cancer Res, 45: 3048−3052; Guette et al., 1983, Biochimie, 563−567; Shibuya et al., 1987, 262: 1596−1601; Wang et al., 2003, Bioorg Med Chem, 11: 4217−4224)。一つの態様において、シアリルトランスフェラーゼ阻害剤は、ST6Gal.Iの阻害剤である。ST6Gal.Iは、幾つかのN−及びO−連結オリゴ糖及び糖脂質(ガングリオシド)のNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc末端の形成を触媒する。シアリルトランスフェラーゼ阻害剤の例は、限定されないが、表1に列挙した阻害剤を含む。一つの態様において、前記組成物は、これらのシアリルトランスフェラーゼ阻害剤、又は本明細書(表1)に列挙していない追加のそのような阻害剤を1つ以上含有する。
【0116】
【表1】
【0117】
一つの態様において、前記組成物はシチジンを含有する。本明細書中に記載のように、シチジンは、メラニンの形成を減少し、またメラノサイトからケラチノサイトへのメラノソームの移動を防止することが見出されている。従って、一つの態様において、本発明の組成物は、皮膚の色素沈着を減少するために、シチジン又はその類似体を含有する。シチジン類似体の例としては、限定されないが、ゲムシタビン、デオキシシチジン, 5−アザ−2’−デオキシシチジン(デシタビン又は5−アザ−CdR), 1−β−D−アラビノフラノシルシトシン(シタラビン又はアラ−C), シュードイソシチジン(psi ICR); 5−フルオロ−2’−デオキシシチジン(FCdR), 5−アザ−2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロシチジン; 5−アザ−2’−デオキシ−2’−フルオロシチジン, 1−β−D−リボフラノシル−2(1H)−ピリミジノン(ゼブラリン), 2’,3’−ジデオキシ−5−フルオロ−3’−チアシチジン(エムトリバ), 2’−シクロシチジン(アンシタビン), 1−β−D−アラビノフラノシル−5−アザシトシン(ファザラビン又はアラ−AC), 6−アザシチジン(6−アザ−CR), 5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン(dH−アザ−CR), N−ペンチルオキシカルボニル−5’−デオキシ−5−フルオロシチジン(カペシタビン), N−オクタデシル−シタラビン, 及びエライジン酸シタラビンが挙げられる。
【0118】
一つの態様において、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの阻害剤は、オリゴ糖阻害剤を含有する。従来の研究は、高度にシアリル化した糖タンパク質のグリコフォリンのEBL誘導性の沈殿の阻害を示す、多くの低分子のオリゴ糖を報告し、EBLレクチンが、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc配列を有するオリゴ糖に対して強力な親和性を示したことを推定した(Shibuya et al, 1987, J Biol Chem, 262(4): 1596−1601)。そのような阻害剤の非限定的な例を表2に示す。一つの態様において、本発明の組成物は、表2に列挙した阻害剤、又はその類似体、又は当該表に記載されていない類似の構造の1つ以上を含有する。
【表2】
【0119】
一つの態様において、前記組成物は、6’−シアリルラクトース (6’−SL) (Neu5Ac(α2,6)Gal(β1−4)Glc)を含有する。他の態様において、前記組成物は、3’−シアリルラクトース (3’−SL) (Neu5Ac(α2,3)Gal(β1−4)Glc)を含有する。本明細書中に記載されているように、6’−SL及び3’−SLのいずれも、メラニン形成を減少すること、及びメラノサイトからケラチノサイトへのメラノソームの移動を阻害することが見出されている。本明細書中に記載されているように、3’−SLは、EBL/SMAによるNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの染色を阻害しないことが見出されていたため、3’−SLがNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの阻害剤となるという発見は、特に驚異的であった。従って、一つの態様において、本発明の組成物は、皮膚の色素沈着を減少するために、6’−SL又はその類似体、及び3’−SL又はその類似体の1つ以上を含有する。
【0120】
一つの態様において、本発明の低分子阻害剤は、表1に列挙した阻害剤の1つ以上、又は表2に列挙した阻害剤の1つ以上、又は1つ以上のシチジン, シチジン一リン酸N−アセチルノイラミン酸, 6’−シアリルガラクトース, 6’−シアリルN−アセチルガラクトサミン, 6’−シアリルラクトース, 3’−シアリルラクトース,又はN−アシル−ノイラミニルを含有する。一つの態様において、本発明の低分子阻害剤は、本明細書中に記載の阻害剤の類似体又は誘導体を含有する。
【0121】
本明細書中に記載の低分子及び低分子化合物は、そのように描写されていない場合でも塩として存在し得て、当業者が良く理解するように、本発明が、ここで描写された阻害剤の全ての塩及び溶媒和物、あるいは当該阻害剤の非塩及び非溶媒和物を包含することを理解されたい。幾つかの態様において、本発明の阻害剤の塩は、医薬として許容される塩である。
【0122】
本明細書中に記載の阻害剤のいずれかにおいて互変異性体が存在し得る場合、明示されているのが1つ又は幾つかの互変異性体だけであったとしても、各、及び全ての互変異性体が、本発明に含まれることを想定する。例えば2−ヒドロキシピリジル部分が記載されている場合、対応する2−ピリドン互変異性体も想定される。
【0123】
本発明は、記載されている阻害剤の、任意のエナンチオマー又はジアステレオマー形態を含む、いずれかの又は全ての立体化学形態も含む。本明細書中の構造又は名称の記載は、描写される阻害剤の全ての可能な立体異性体を包含すると想定される。阻害剤の全ての形態、例えば阻害剤の結晶または非結晶形態等も包含される。本発明の阻害剤を含有する組成物、例えば特定の立体化学形態を含有する実質的に純粋な阻害剤の組成物、又は2つ又は3つの立体化学形態を任意の比率で含有する本発明の阻害剤の混合物、例えばラセミ又は非ラセミ混合物を含有する組成物も想定される。
【0124】
一つの態様において、本明細書中に記載の低分子は、誘導体化のための候補である。例えば、幾つかの態様において、本明細書中の低分子の、改変された強度、選択性、及び溶解性を有する類似体が含まれ、薬物の探索及び薬物の開発において有効な手段を提供する。幾つかの例において、最適化の過程で、新しい類似体が、薬物送達、代謝、新規性及び安全性の問題を考慮して設計される。
【0125】
幾つかの例において、本明細書中の低分子阻害剤は、組み合わせ化学及び医化学の分野で周知であるように、誘導体化/類似体化される。当該誘導体又は類似体は、様々な部位において官能基を付加及び/又は置換することにより調製できる。従って、本願低分子は、周知の化学合成手順を使用して、誘導体/類似体に変換できる。例えば、全ての水素原子又は置換基は、選択的に改変されて、新しい類似体が生産される。また、連結している原子又は基は、炭素骨格又はヘテロ原子を有するより長い又は短いリンカーに改変され得る。また、環状基は、環の中の原子の数が異なるもの及び/又はヘテロ原子を有するものに変換され得る。更に、芳香族が環式環に変換され得て、その逆もあり得る。例えば、環は5〜7原子であってもよく、ホモ環又はヘテロ環であってもよい。
Also, the ring groups can be changed so as to have a different number of atoms in the ring 及び/又はto include hetero atoms. Moreover, aromatics can be converted to cyclic rings, and vice versa. For example, the rings may be from 5−7 atoms, and may be homocycles or heterocycles.
【0126】
本明細書中、「類似体」、又は「誘導体」は、1つ以上の化学反応により、元の化合物又は分子から生成した、化合物又は分子を指す。従って、類似体は、本明細書中の低分子阻害剤と類似の構造を有してもよく、又は本明細書中の低分子阻害剤の足場に基づいてもよいが、何らかの成分又は構造において相違が存在し、当該相違は、代謝的に類似又は反対の作用を有し得る。本発明の低分子阻害剤のいずれかの類似体又は誘導体は、皮膚の色素沈着の減少に使用され得る。
【0127】
一つの態様において、本明細書中の低分子阻害剤は、水素原子を互いに独立して他の置換基に改変することにより、誘導体化/類似体化できる。各分子上の各分子は、同一の分子上の他の分子に関して独立して改変され得る。誘導体/類似体を生成する任意の古典的な改変が使用され得る。例えば、原子及び置換基は、独立して、水素、アルキル、脂肪族、直鎖脂肪族、ヘテロ原子を有する脂肪族、分岐脂肪族、置換された脂肪族、環式脂肪族、1つ以上のヘテロ原子を有するヘテロ環式脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族、ポリ芳香族、ポリアミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、それらの組み合わせ、ハロゲン、ハロ置換脂肪族等から独立してなる。加えて、化合物上の環式基は、環のサイズを増大又は減少させるように、あるいは骨格原子を炭素原子又はヘテロ原子に変更するように、誘導体化され得る。
【0128】
核酸
他の関連する側面において、本発明は、阻害剤をコードする単離された核酸を含む。幾つかの例において、当該阻害剤はsiRNA又はアンチセンスRNAで、それらは、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcを阻害する。一つの態様において、当該核酸は、核酸の発現に好ましいように、プロモーター/制御配列を含む。従って、本発明は、外来DNAの細胞内での発現を伴って、外来DNAを細胞内に導入するための、発現ベクター及び方法を包含し、それらは、Sambrook et al. (2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)、及びAusubel et al. (1997, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York)、及び本明細書中の記載等に例示される。本発明の他の態様において、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcは、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcを不活性化及び/又は封鎖することによって阻害され得る。シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの活性の阻害は、トランスドミナントネガティブ変異体を使用して達成され得る。
【0129】
一つの態様において、siRNAは、シアリルトランスフェラーゼタンパク質のレベルを低下させるため、又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc配列を含むタンパク質のレベルを低下させるために使用される。RNA干渉(RNAi)は、様々な生物及び細胞種への二重鎖RNA(dsRNA)の導入が、相補的mRNAの分解を引き起こす現象である。細胞内で長いdsRNAが、ダイサーとして知られるリボヌクレアーゼによって、短い21〜25ヌクレオチドの小干渉RNA(siRNA)に開裂する。続いてsiRNAはRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に組み込まれる。活性化したRISCは、siRNAアンチセンス鎖とmRNAとの間の塩基対相互作用によって、相補的な転写産物に結合する。結合されたmRNAは開裂し、mRNAの配列特異的分解が遺伝子サイレンシングをもたらす。例えば、U.S. Patent No. 6,506,559; Fire et al., 1998, Nature 391(19):306−311; Timmons et al., 1998, Nature 395:854; Montgomery et al., 1998, TIG 14 (7):255−258; David R. Engelke, Ed., RNA Interference (RNAi) Nuts & Bolts of RNAi Technology, DNA Press, Eagleville, PA (2003);及び Gregory J. Hannon, Ed., RNAi A Guide to Gene Silencing, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (2003)を参照されたい。Soutschek et al. (2004, Nature 432:173−178)は、siRNAの静脈内全身送達を促進する化学修飾を報告している。siRNAの最適化は、全体のG/C構成、末端のC/T構成、Tm及び3’オーバーハングにおけるヌクレオチド構成の考慮を含む。例えばSchwartz et al., 2003, Cell, 115:199−208 and Khvorova et al., 2003, Cell 115:209−216を参照されたい。従って、本発明は、RNAi技術を使用して、シアリルトランスフェラーゼタンパク質及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質のレベルを低下させる方法も含む。
【0130】
他の側面において、本発明は、siRNA又はアンチセンスポリヌクレオチドを含有するベクターを含む。好ましくは、当該siRNA又はアンチセンスポリヌクレオチドは、標的ポリペプチドの発現を阻害することが可能で、標的ポリペプチドは、シアリルトランスフェラーゼ及びNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有ペプチドから成る群から選択される。所望のポリヌクレオチドをベクターに組み込むこと、及びベクターの選択は、当業者に周知であり、例えば、Sambrook et al., supra,及びAusubel et al., supra及び本明細書に記載されている。
【0131】
前記siRNA又はアンチセンスポリヌクレオチドは、本明細書中に記載の多くの種類のベクター内にクローン化できる。siRNA又はアンチセンスポリヌクレオチドの発現のために、各プロモーター中の1つ以上のモジュールが、RNA合成の開始部位を配置するように機能する。
【0132】
siRNA又はアンチセンスポリヌクレオチドの発現を評価するため、細胞内に導入される発現ベクターは、トランスフェクションされた、又はウイルスに感染したと見られる細胞の集団から発現細胞を同定及び選択することを促進するために、選択可能なマーカー遺伝子又はレポーター遺伝子又はそれらの両方を含有し得る。他の態様において、当該選択可能なマーカーは、別個のDNAのピースに担持され、共トランスフェクション手順に使用され得る。選択可能なマーカー及びレポーター遺伝子は、宿主細胞中で発現が可能なように、適切な制御配列を伴う。有用な選択マーカーは当業者に周知であり、例えば、抗生物質耐性遺伝子、例えばネオマイシン耐性遺伝子等を含む。
【0133】
従って、他の側面において、本発明は、本発明のヌクレオチド配列又は本発明の構築物を含有するベクターに関する。ベクターの選択は、その後にそれが導入される宿主細胞に依存し得る。特定の態様において、本発明のベクターは発現ベクターである。適切な宿主細胞は、様々な原核細胞及び真核細胞の宿主細胞を含む。特定の態様において、発現ベクターは、ウイルスベクター、細菌ベクター及び哺乳類細胞ベクターから成る群から選択される。原核及び/又は真核ベクターベースの系は、ポリヌクレオチド、又はそれらの同源のポリペプチドを生産するために、本発明と共に使用するために採用され得る。そのような系の多くは、市販されており、広く入手可能である。
【0134】
更に、発現ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に提供されてもよい。ウイルスベクター技術は当業者に周知であり、例えばSambrook et al. (2001)、及びAusubel et al. (1997)等、並びに他のウイルス学及び分子生物学の文献に記載されている。ベクターとして使用できるウイルスは、限定されないが、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス及びレンチウイルスを含む。一般に、適切なベクターは、1つ以上の生物において機能的な複製起点、プロモーター配列、適切な制限酵素部位、及び1つ以上の選択マーカーを含む(例えばWO 01/96584; WO 01/29058;及びU.S. Pat. No. 6,326,193)。
【0135】
ポリヌクレオチドの挿入に適したベクターは、pUC18、pU19、Bluescriptおよびこれらの誘導体、mp18、mp19、pBR322、pMB9、ColE1、pCR1、RP4、ファージなどの原核生物における発現ベクター、並びに、pSA3およびpAT28などの「シャトル」ベクター、2ミクロン系プラスミド型のベクター、統合プラスミド、YEPベクター、セントロメアプラスミドおよび類似したものなどの酵母における発現ベクター、pAC系列およびpVL系列のベクターなどの昆虫細胞における発現ベクター、pIBI、pEarleyGate、pAVA、pCAMBIA、pGSA、pGWB、pMDC、pMY、pORE系列由来のベクターおよび類似するものなどの植物における発現ベクター、ウイルスベクターに基づく高等真核生物細胞における発現ベクター(アデノウイルス、アデノウイルス随伴ウイルス並びにレトロウイルスおよびレンチウイルス)、並びに、pSilencer4.1−CMV(Ambion)、pcDNA3、pcDNA3.1/hyg、pHCMV/Zeo、pCR3.1、pEF1/His、pIND/GS、pRc/HCMV2、pSV40/Zeo2、pTRACER−HCMV、pUB6/V5−His、pVAX1、pZeoSV2、pCI、pSVLおよびpKSV−10、pBPV−1、pML2dおよびpTDT1などの非ウイルスベクターが挙げられる。
【0136】
例えば、核酸が導入されるベクターは、それが細胞内に導入されたときに宿主細胞のゲノムの中に組み込まれ、又は組み込まれなくてもよい。例えば、本発明のヌクレオチド配列又は構築物が挿入され得るベクターの非限定的な例は、真核細胞内で発現するためのtet−on誘導ベクターを含む。
【0137】
前記ベクターは、当業者に周知の方法により取得され得る(Sambrook et al., “Molecular cloning, a Laboratory Manual”, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, N.Y., 1989 Vol 1−3)。特定の態様において、当該ベクターは、動物細胞の形質転換に有用なベクターである。
【0138】
一つの態様において、前記組換え発現ベクターは、本明細書中に記載の本発明のペプチド又はペプチド模倣阻害剤をコードする核酸分子を含有してもよい。
【0139】
追加のプロモーター要素、即ちエンハンサーは、転写開始の頻度を制御する。典型的には、これらは、開始部位の上流30〜110bpの領域に位置するが、開始部位の下流に機能的要素を有する多くのプロモーターも近年報告されている。プロモーター要素間の間隔はしばしば柔軟で、プロモーター機能は、当該要素がプロモーターに対して転倒(invert)又は移動しているときに保存される。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターにおいて、プロモーター要素間の間隔は、活性が低下し始める前に50bpに上り得る。プロモーターに依存して、個々の要素は、協調して、又は独立して、転写を活性化するように機能するように見える。
【0140】
プロモーターは遺伝子又はポリヌクレオチド配列に天然に関与するものであってもよく、その場合、コード断片及び/又はエキソンの上流に位置する5´非コード配列を単離して取得され得る。そのようなプロモーターは、「内在性」と呼ばれ得る。同様に、エンハンサーが、ポリヌクレオチド配列の上流又は下流に位置する、ポリヌクレオチド配列に天然に関与するものであってもよい。あるいは、コーディングポリヌクレオチド断片を組換え又は異種性プロモーター(天然の環境において通常ポリヌクレオチド配列に関与しないプロモーター)の制御下に配置することにより、何らかの利益が得られてもよい。組換え又は異種性エンハンサーも、天然の環境において通常ポリヌクレオチド配列に関与しないエンハンサーを意味する。そのようなプロモーター又はエンハンサーは、他の遺伝子のプロモーター又はエンハンサー、他の原核細胞、ウイルス又は真核細胞から単離したプロモーター又はエンハンサー、及び「天然に存在しない」、即ち異なる転写制御領域の異なる要素及び/又は発現を変化させる変異を含む、プロモーター又はエンハンサーを含んでもよい。プロモーター及びエンハンサーの配列の合成的な作製に加えて、本明細書中の組成物と関連して、配列は、組換えクローニング及び/又はPCR(商標)を含む核酸増幅技術を使用して生産されてもよい(U.S. Patent 4,683,202, U.S. Patent 5,928,906)。更に、ミトコンドリア、葉緑体等の非核オルガネラ内の配列の転写及び/又は発現をもたらす制御配列が採用され得ることが想定される。
【0141】
天然には、発現に選択された細胞型、オルガネラ、及び生物中でのDNA断片の発現を効果的にもたらすプロモーター及び/又はエンハンサーを採用することが重要である。分子生物学の当業者は、タンパク質発現のための、プロモーター、エンハンサー、及び細胞型の組み合わせの使用方法を一般的に理解している。例えばSambrook et al. (2001)を参照されたい。採用されるプロモーターは、構成的、組織特異的、又は誘導プロモーターであってもよく、及び/又は導入されたDNA断片の高レベルの発現をもたらすのに適した条件下で有用な、例えば組換えタンパク質及び/又はペプチドの大スケールの生産に有利なプロモーターであってもよい。当該プロモーターは、異種性又は内在性であってもよい。
【0142】
本明細書中の実施例で例示するプロモーター配列は、最初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列である。このプロモーター配列は、それに機能的に結合された任意のポリヌクレオチド配列の高レベルの発現を駆動することのできる強力な構成的プロモーター配列である。しかしながら、他の構成的プロモーターも又、用いることができ、それは、サルウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)ロングターミナルリピート(LTR)プロモーター、モロニーウイルスプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン−バーウイルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、並びにヒトの遺伝子のプロモーター(例えば、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター及び筋クレアチンプロモーター)を含むが、これらに限られない。更に、この発明は、構成的プロモーターの利用に限られるべきでない。誘導性プロモーターも又、この発明の部分として企図される。この発明における誘導性プロモーターの利用は、それに機能的に結合されたポリヌクレオチド配列の発現をかかる発現が望まれるときにスイッチをオンにすることができ、又は発現が望まれない場合にはスイッチをオフにすることのできる分子スイッチを与える。誘導性プロモーターの例には、メタロチオネインプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、及びテトラサイクリンプロモーターが含まれるが、これらに限られない。更に、この発明は、組織特異的プロモーターの利用を含み、該プロモーターは、所望の組織(例えば皮膚)でのみ活性である。組織特異的プロモーターは、当分野で周知であり、例えば、ケラチン14プロモーターはファシン(fascin)プロモーター配列が含まれるが、これらに限られない。
【0143】
特定の態様において、核酸の発現は外部的に制御される。より具体的な耐容において、当該発現は、ドキシサイクリンTet−On系を使用して制御される。
【0144】
組換え発現ベクターは、形質転換又は感染した宿主細胞の選択を促進する選択可能なマーカー遺伝子も含有する。適切な選択可能なマーカー遺伝子は、G418やハイグロマイシン等の所定の薬物に耐性を付与するタンパク質をコードする遺伝子、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ、又は免疫グロブリン、若しくはその一部、例えば免疫グロブリンのFc部分、好ましくはIgGをコードする。選択可能なマーカーは、所望の核酸と別個のベクターで導入されてもよい。
【0145】
レポーター遺伝子は、潜在的にトランスフェクトされた細胞を同定するため及び調節用配列の機能性を評価するために利用される。容易にアッセイできるタンパク質をコードするレポーター遺伝子は、当分野で周知である。一般に、レポーター遺伝子は、レシピエントの生物体又は組織中に存在してそれにより発現され、容易に検出されうる特性例えば酵素活性により明示される遺伝子である。レポーター遺伝子の発現は、DNAをレシピエント細胞に導入した後、適当な時点でアッセイされる。
【0146】
適当なレポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌されるアルカリホスファターゼ、又はグリーン蛍光タンパク質遺伝子をコードする遺伝子を含むことができる(例えば、Ui−Tei等、2000 FEBS Lett. 479:79−82参照)。適当な発現系は、周知であり、周知の技術を用いて調製することができ又は購入することができる。内的欠失構築物は、特有の内部制限部位を使用して、又は非特異的制限部位の部分的消化により作製され得る。そして、構築物は、高レベルのsiRNAポリヌクレオチド及び/又はポリペプチド発現を表示する細胞内にトランスフェクションされ得る。一般に、レポーター遺伝子の最高レベルの発現を示す最小5’隣接領域を有する構築物は、プロモーターとして同定される。かかるプロモーター領域は、レポーター遺伝子に結合させて、プロモーターに駆動された転写を調節する能力につき薬剤を評価するために利用することができる。
【0147】
組換え発現ベクターは、宿主細胞に導入され、組換え細胞を作成し得る。当該細胞は、原核細胞又は真核細胞であってもよい。本発明のベクターは、酵母細胞、サッカロマイケス・セレウィシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、又は哺乳類細胞、例えば腎臓上皮293細胞又はU2OS細胞等の真核細胞、又は細菌、エスケリキア・コリ(Escherichia coli)、又はバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)等の原核細胞を形質転換するのに使用され得る。核酸は、リン酸カルシウム又は塩化カルシウム共沈殿、DEAE−デキストラン−誘導トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション又はマイクロインジェクション等の公知の技術を使用して細胞内に導入され得る。宿主細胞を形質転換及びトランスフェクションする適切な方法は、Sambrook et al. (Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press (1989))、及び他の実験教科書に見られる。
【0148】
siRNAポリヌクレオチドの作製の後、当業者は、当該siRNAポリヌクレオチドが、治療用化合物としてsiRNAを改善するように改変され得る幾つかの特性を有し得ることを理解し得る。従って、siRNAポリヌクレオチドは、更に、それがホスホロチオエート、又は他の連結、メチルホスホネート、スルホン、スルフェート、ケチル、ホスホロジチオエート、ホスホラミデート、ホスフェートエステル等を含むように改変することにより分解に耐えるように設計され得る(例えばAgrwal et al., 1987 Tetrahedron Lett. 28:3539−3542; Stec et al., 1985 Tetrahedron Lett. 26:2191−2194; Moody et al., 1989 Nucleic Acids Res. 12:4769−4782; Eckstein, 1989 Trends Biol. Sci. 14:97−100; Stein, In: Oligodeoxynucleotides. Antisense Inhibitors of Gene Expression, Cohen, ed., Macmillan Press, London, pp. 97−117 (1989))。
【0149】
インビボでの安定性を増大させるため、ポリヌクレオチドが更に改変され得る。可能な改変として、限定されないが、5´及び/又は3´末端への隣接配列の付加;骨格にけるホスホジエステル結合ではなくホスホロチオエート又は2´O−メチルの使用;及び/又はイノシン、ケオシン、及びワイブトシン等の非放射性塩基、アデニン、シチジン、グアニン、チミン、及びウラシルの、アセチル−、メチル−、チオ−及び他の改変フォームの含有が挙げられる。
【0150】
本発明の一つの態様において、プラスミドベクターにより発現されるアンチセンス核酸配列は、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有タンパク質発現を阻害するために使用される。アンチセンス発現ベクターは、哺乳類細胞又は哺乳類自体をトランスフェクションするのに使用され、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有タンパク質の内在的発現の減少を引き起こす。
【0151】
アンチセンス分子又はそれらの遺伝子発現阻害のための使用は当業者に周知である(例えばCohen, 1989, In: Oligodeoxyribonucleotides, Antisense Inhibitors of Gene Expression, CRC Press)。アンチセンス核酸は、特定のmRNA分子の少なくとも一部に相補的なDNA又はRNA分子である(Weintraub, 1990, Scientific American 262:40)。細胞内で、アンチセンス核酸は対応するmRNAとハイブリダイズして二重鎖分子を形成して、遺伝子の翻訳を阻害する。
【0152】
遺伝子の翻訳を阻害するアンチセンス法の使用は当業者に周知であり、例えばMarcus−Sakura (1988, Anal. Biochem. 172:289)に記載されている。そのようなアンチセンス分子は、Inoue, 1993, U.S. Patent No. 5,190,931に教示されるように、アンチセンス分子をコードするDNAを使用する遺伝子発現により細胞に提供され得る。
【0153】
あるいは、本発明のアンチセンス分子は、合成的に作製されて、細胞に提供されてもよい。アンチセンスオリゴマーは、容易に合成が可能で標的細胞に導入できるように、約10〜30、より好ましくは15塩基のヌクレオチドが好ましい。本発明が想定する合成アンチセンス分子は、未改変のオリゴヌクレオチドと比較して改善した生物活性を有する当業者に公知のオリゴヌクレオチド誘導体を含む(例えばU.S. Patent No. 5,023,243)。
【0154】
アンチセンス核酸の合成及び発現のための組成物及び方法は、本明細書中に記載されている。
【0155】
リボザイムおよび遺伝子発現の抑制のためのその使用もまた当該分野で公知である(例えば、Cech et al., 1992, J. Biol. Chem. 267:17479−17482; Hampel et al., 1989, Biochemistry 28:4929−4933; Eckstein et al., International Publication No. WO 92/07065; Altman et al., U.S. Patent No. 5,168,053)。リボザイムは、DNA制限エンドヌクレアーゼと同様に他の一本鎖RNAを特異的に切断する能力を有するRNA分子である。これらのRNAをコードするヌクレオチド配列を修飾することにより、RNA分子内の特定のヌクレオチド配列を認識し、それを切断するように分子を操作することができる(Cech, 1988, J. Amer. Med. Assn. 260:3030)。このアプローチの主な利点は、リボザイムが配列特異的であるという事実である。
【0156】
リボザイムには2つの基本型がある。すなわち、テトラヒメナ型(Hasselhoff, 1988, Nature 334:585) およびハンマーヘッド型である。テトラヒメナ型リボザイムは長さ4塩基の配列を認識するのに対し、ハンマーヘッド型リボザイムは長さ11〜18塩基の塩基配列を認識する。配列が長ければ長いほど、その配列が標的mRNA種のみに存在する可能性は高まる。その結果として、特定のmRNA種の不活性化にはテトラヒメナ型リボザイムよりもハンマーヘッド型リボザイムが好ましく、種々の非血縁mRNA分子内に無作為に存在しうるより短い認識配列よりも18塩基認識配列が好ましい。
【0157】
本発明の一つの態様において、リボザイムは、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有タンパク質の発現を阻害するために使用され得る。標的分子の発現阻害に有用なリボザイムは、例えば基本的なリボザイム構造に、本発明のシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有タンパク質のmRNA配列に相補的な標的配列を組み込むことにより設計され得る。シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−含有タンパク質を標的とするリボザイムは、市販の薬剤(Applied Biosystems, Inc., Foster City, CA)を用いて合成されてもよく、又はそれらをコードするDNAから遺伝的に発現されてもよい。
【0158】
ポリペプチド
他の関連する側面において、本発明は、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの活性を阻害する単離されたペプチド阻害剤を含む。例えば、一つの態様において、本発明のペプチド阻害剤は、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcに結合してシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの通常の機能的活性を阻害することにより、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの活性を直接阻害する。他の態様において、本発明のペプチド阻害剤は、内在的シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcと競合することにより、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの活性を阻害する。尚も他の態様において、本発明のペプチド阻害剤は、トランスドミナントネガティブ変異体として作用することにより、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの活性を阻害する。
【0159】
本発明のポリペプチドのバリアントは、以下、
(i)1つ以上のアミノ酸残基が、保存的又は非保存的アミノ酸残基(好ましくは保存的アミノ酸残基)によって置換され、そのような置換アミノ酸残基は、遺伝子コードによりコードされ、又はされないものであってもよい、
(ii)1つ以上の改変アミノ酸が存在し、例えば置換基の結合により改変される、
(iii)ポリペプチドが、本発明のポリペプチドの選択的スプライスバリアントである、
(iv)ポリペプチドの断片である、及び/又は
(v)ポリペプチドが、他のポリペプチド、例えばリーダー又は分泌配列、又は精製(例えばHis−タグ)又は検出(例えばSv5エピトープタグ)のために採用される配列等の他のポリペプチドと融合している、
ものであってもよい。当該断片は、元の配列のタンパク質分解的開裂(多部位タンパク質分解)を経て生産されたポリペプチドを含む。バリアントの改変は、転写後であっても、又は化学的にされてもよい。そのようなバリアントは、本明細書の教示の範囲内であると当業者に理解される。
【0160】
当該技術分野で知られるように、2つのポリペプチド間の「類似性」は、アミノ酸配列及びその保存されたアミノ酸置換基と、第二のポリペプチドの配列とを比較することにより決定される。バリアントは、元の配列と異なる、好ましくは関心のある断片あたり40%未満において元の配列と異なる、より好ましくは関心のある断片あたり25%未満において元の配列と異なる、より好ましくは関心のある断片あたり10%未満において元の配列と異なる、最も好ましくは関心のある断片あたりほんの数残基において元の配列と異なる、ポリペプチド配列を含み、同時に、元の配列に対する十分な同一性を有しており、元の配列の機能性、及び/又はユビキチン又はユビキチン化タンパク質に対する結合能力を保持しているものである。本発明は、元のアミノ酸配列に対して、60%、65%、70%、72%、74%、76%、78%、80%、90%又は95%類似又は同一であるアミノ酸配列を含む。2つのポリペプチド間の同一性の度合いは、当業者に周知のコンピューターアルゴリズム及び方法を使用して決定される。2つのアミノ酸配列間の同一性は、好ましくは、BLASTPアルゴリズムを使用して決定される(BLAST Manual, Altschul, S., et al., NCBI NLM NIH Bethesda, Md. 20894, Altschul, S., et al., J. Mol. Biol. 215: 403−410 (1990))。
【0161】
本発明のポリペプチドは、転写後に改変され得る。例えば、本発明の範囲内の転写後改変は、シグナルペプチド開裂、グリコシル化、アセチル化、イソプレニル化、タンパク質分解、ミリストイル化、タンパク質フォールディング及びタンパク質分解性プロセシング等を含む。幾つかの改変又はプロセシングイベントは、追加の生物学的機構の導入を要する。例えば、シグナルペプチド開裂及びコアグリコシル化等のプロセシングイベントは、標準的な翻訳反応に、イヌミクロソーム膜又はゼノパス卵抽出物(U.S. Pat. No. 6,103,489)を添加して試験される。
【0162】
本発明のポリペプチドは、転写後改変又は転写中の非天然アミノ酸の導入により形成される非天然アミノ酸を含み得る。タンパク質翻訳の過程で非天然アミノ酸を導入するために、様々な方法が利用可能である。例えば、特別なtRNA、例えばサプレッサー性能を有するtRNA、サプレッサーtRNAは、指向的非天然アミノ酸置換(SNAAR)のプロセスにおいて使用されている。SNAARにおいて、mRNA及びサプレッサーtRNA上に特有のコドンを要し、タンパク質合成の過程で特有の部位を非天然アミノ酸に置換するように動作する(WO90/05785)。しかしながら、サプレッサーtRNAは、タンパク質転写系に存在するアミノアシルtRNAシンセターゼによって認識されてはならない。幾つかの場合、天然のアミノ酸を特異的に改変し、アミノアシル化tRNAの機能的活性を顕著に変化させない化学反応を使用してtRNA分子がアミノアシル化された後、非天然アミノ酸が形成され得る。これらの反応は、ポストアミノアシル化改変と呼ばれる。例えば、同種tRNA(tRNALYS)と連結したリシンのイプシロンアミノ基は、アミン特異的な光親和性ラベルを用いて改変され得る。
【0163】
本発明のペプチド阻害剤は、タンパク質等の他の分子とコンジュゲートして融合タンパク質を形成し得る。これは、例えば、N末端又はC末端融合タンパク質の合成により達成され得るが、得られた融合タンパク質は、ペプチド阻害剤の機能性を保持している。
【0164】
本発明のペプチドの環式誘導体又はキメラタンパク質も、本発明の一部である。環式化は、ペプチド又はキメラタンパク質が、他の分子と結び付くのにより適した立体構造をとることを可能とし得る。環式化は、当業者に周知の方法を使用して達成され得る。例えば、ジスルフィド結合が、遊離スルフヒドリル基を有する適切に離れた2つの成分の間で形成され、又は、アミド結合が、1つの成分のアミノ基と、もう一つの成分のカルボキシ基との間で形成され得る。環式化は、Ulysse, L., et al., J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 8466−8467に記載されるように、アゾベンゼン含有アミノ酸を使用しても達成され得る。斯かる結合を形成する成分は、アミノ酸の側鎖、非アミノ酸成分、又はそれら2つの組み合わせであってもよい。本発明の一つの態様において、環式ペプチドは、右側にベータターンを含み得る。ベータターンは、右側にアミノ酸Pro−Glyを加えることにより、本発明のペプチドに導入され得る。
【0165】
上記のペプチド結合連結を含む環式ペプチドよりも柔軟な環式ペプチドを生成するのが望ましい。より柔軟なペプチドは、ペプチドの右側及び左側にシステインを導入してそれら2つのシステイン間にジスルフィド架橋を形成することにより調製され得る。2つのシステインは、ベータシート及びターンを崩さないように配置される。ペプチドは、ジスルフィド結合の長さによって、またベータシート部分の水素結合の数が少ない程、より柔軟になる。環式ペプチドの相対的な柔軟性は、分子ダイナミクスシミュレーションにより決定され得る。
【0166】
(a)タグ
本発明の特定の態様において、本発明のポリペプチドは、更に、タグのアミノ酸配列を含む。当該タグは、限定されないが:ポリヒスチジンタグ(His−タグ)(例えばHおよびH10)又はIMAC系、えば、Ni+2親和性カラムに使用される他のタグ、GST融合体、MBP融合体、ストレプ−タグ、細菌酵素BirAのBSPビオチン化標的配列、および抗体により標的化されるエピトープタグ(例えばc−mycタグ、flag−タグなど)が挙げられる。当業者に周知なように、当該タグペプチドは、本発明の融合タンパク質の、精製、検査、選択及び/又は可視化に使用され得る。本発明の特定の態様において、当該タグは、検出タグ及び/又は精製タグである。当該タグの配列は、本発明のタンパク質の機能に干渉しないのが望ましい。
【0167】
(b)リーダー及び分泌配列
従って、本発明のポリペプチドは、他のポリペプチド又はタグ、例えばリーダー又は分泌配列、又は精製若しくは検出に採用される配列と融合され得る。特定の態様において、本発明のポリペプチドは、本発明のポリペプチドの迅速な高親和性の精製の基礎を提供する、グルタチオン−S−トランスフェラーゼタンパク質タグを含む。実際に、このGST−融合タンパク質は、グルタチオンに対する高親和性によって細胞から精製される。アガロースビーズは、グルタチオンと会合し、そのようなグルタチオン−アガロースビーズは、GST−タンパク質と結合する。従って、本発明の特定の態様において、本発明のポリペプチドは、固体支持体と結合している。好ましい態様において、本発明のポリペプチドがGST部分を有する場合、当該ポリペプチドは、グルタチオン−修飾支持体と会合する。特定の場合、グルタチオン修飾支持体は、グルタチオン−アガロースビーズである。加えて、プロテアーゼ開裂部位をコードする配列は、ポリペプチド配列と親和性タグとの間に有り、この特定の酵素とインキュベーションした後に結合タグを除去することが可能で、関心のある対応するタンパク質の精製を促進する。
【0168】
(c)標的化配列
本発明は、本明細書中に記載のペプチドが標的化ドメインと融合したキメラペプチドにも関し、当該ドメインは、キメラペプチドを、所望の細胞成分又は細胞種又は組織に向かわせる。キメラペプチドは、追加のアミノ酸配列又はドメインを含んでもよい。キメラペプチドは、様々な成分が異なる供給源由来のものであるという意味で組換え体であり、天然で一緒に見られないもの(即ち異種)である。
【0169】
前記標的化ドメインは、膜貫通ドメイン、膜結合ドメイン又は小胞又は核等とペプチドとを結び付ける配列であってもよい。当該標的化ドメインは、ペプチド阻害剤を特定の細胞種又は組織に向かわせる。例えば、標的化ドメインは、細胞表面リガンド、又は標的組織(例えば皮膚又はメラノサイト)の細胞表面抗原に対する抗体であってもよい。標的化ドメインは、ペプチド阻害剤を細胞成分に向かわせ得る。
【0170】
(d)細胞内標的化
幾つかの製剤と組み合わせて、そのようなペプチドは、効果的な細胞内薬剤であり得る。しかしながら、そのようなペプチドの効率を増大させるために、ペプチド阻害剤は、「トランスサイトーシス」、例えば上皮細胞によるペプチドの摂取を促進する第二のペプチドを有する融合又はキメラペプチドとして提供されてもよい。例えば、本発明のペプチド阻害剤は、トランスサイトーシスを促進する、例えばTatの1〜72残基又はより小さいその断片等の、HIVタンパク質TATのN−末端ドメインの全部又は断片と、ポリペプチドとを融合したものとして提供され得る。他の態様において、ペプチド阻害剤は、アンテノペディアIIIタンパク質の全部又は一部との融合ポリペプチドとして提供され得る。
【0171】
更なる例として、ペプチド阻害剤は、細胞外形態のペプチド阻害剤の移動を駆動し、膜を通過させて当該ペプチド阻害剤の細胞内への局在を促進する、異種ペプチド配列(「内在化ペプチド」)を含む、キメラペプチドとして提供され得る。ここで、治療的ペプチド阻害剤は、活発に細胞内に移行するものである。内在化ペプチドは、相対的に高い速度でトランスサイトーシスを行うことにより、細胞膜を通過することが出来る。内在化ペプチドは、例えば融合タンパク質として、ペプチド阻害剤とコンジュゲートしている。得られるキメラペプチドは、アクチベーターポリペプチド単独と比較して高い速度で細胞内に移動し、それが適用される細胞内へのその導入を促進する手段を提供する。
【0172】
ある実施態様では、内在化ペプチドをドゥロソフィラ・アンテペネペディア(Drosophila antepennepedia)タンパク質又はその類似体から得る。該ホメオタンパク質アンテペネペディアの60個のアミノ酸ホメオドメインは、生体膜を透過して転位することが実証されており、それが結合する相手である異種ポリペプチドの転位を促すことができる。例えば Derossi et al. (1994) J Biol Chem 269:10444−10450; and Perez et al. (1992) J Cell Sci 102:717−722を参照されたい。最近、このタンパク質のうちで16個という少ない数のアミノ酸から成る断片があれば内在化を誘導するには充分であることが実証された。Derossi et al. (1996) J Biol Chem 271:18188−18193を参照されたい。
【0173】
本発明は、本明細書中のペプチド阻害剤、及びキメラタンパク質の膜透過移動を、ペプチド阻害剤と比較して、統計的に有意な量増大させるのに充分な、少なくとも一部のアンテナペディアタンパク質(又はその類似体)を想定する。
【0174】
内在化ペプチドの別の例はHIVトランスアクチベーター(TAT)タンパク質である。このタンパク質は四つのドメインに分けられると思われる(Kuppuswamy et al. (1989) Nucl. Acids Res. 17:3551〜3561)。精製TATタンパク質は組織培養中の細胞に取り込まれ(FrankelおよびPabo, (1989) Cell 55:1189〜1193)、TATの残基37〜62に相当するフラグメント等のペプチドはインビトロで細胞に迅速に取り込まれる(GreenおよびLoewenstein, (1989) Cell 55:1179〜1188)。高度に塩基性の領域は内在化および内在化部分の核への標的化を仲介する(Ruben et al., (1989) J. Virol. 63:1〜8)。
【0175】
別の例示的な細胞透過ポリペプチドは、キメラタンパク質の膜貫通輸送を増加させるマストパラン(mastoparan)の十分な領域を含むように生成され得る(T. Higashijima et al., (1990) J. Biol. Chem. 265:14176)。
【0176】
任意の特定の理論に縛られることを望まないが、レセプター仲介トランスサイトーシスによって膜を通過し得る輸送可能なペプチドにポリペプチドをカップリングまたはコンジュゲートすることにより、親水性ポリペプチドも膜障壁を通って生理学的に輸送され得ることに注意されたい。この型の適切な内在化ペプチドは、例えばヒストン、インスリン、トランスフェリン、塩基性アルブミン、プロラクチンおよびインスリン様成長因子I(IGF−I)、インスリン様成長因子II(IGF−II)または他の成長因子の全てまたは一部を用いることで生成され得る。例えば、毛細管細胞上のインスリンレセプターに親和性を示し、血糖減少においてインスリンよりも効果が低いインスリンフラグメントがレセプター仲介トランスサイトーシスによって膜貫通輸送を行い得、目的の細胞透過ペプチドおよびペプチド模倣物のために内在化ペプチドとして作用し得ることが見出されている。
【0177】
トランスロケーション化/内在化ペプチドの別の部類は、pH依存性膜結合を示す。酸性pHでヘリックス型コンホメーションをとる内在化ペプチドに関して、内在化ペプチドは両親媒性の特性を必要とし、例えば疎水性界面および親水性界面の両方を有する。より具体的に、およそ5.0〜5.5のpH範囲内で内在化ペプチドは、標的膜への部分の挿入を容易にするαヘリックス、両親媒性構造を形成する。αヘリックスを誘導する酸性pH環境は、例えば細胞エンドソーム内にある低pH環境中に見出され得る。かかる内在化ペプチドを用いて、エンドサイトーシス機構によりエンドソーム区画から細胞質に取り込まれる目的のポリペプチドおよびペプチド模倣物の輸送を容易にし得る。
【0178】
好ましいpH依存性膜結合内在化ペプチドは、高い割合で、グルタミン酸、メチオニン、アラニンおよびロイシン等のヘリックス形成残基を含む。さらに、好ましい内在化ペプチド配列は、pH5〜7の範囲内でpKaを有するイオン化可能残基を含むので、十分に電荷を帯びていない膜結合ドメインがpH5でペプチド内に存在して標的細胞膜への挿入を可能とする。
【0179】
さらに他の好ましい内在化ペプチドとしては、アポリポタンパク質A−1およびBのペプチド;メリチン、ボンボリチン(bombolittin)、Δ溶血素およびパルダキシン(pardaxin)等のペプチド毒素;アラメチシン等の抗生物質ペプチド;カルシトニン、コルチコトロピン放出因子、βエンドルフィン、グルカゴン、副甲状腺ホルモン、膵臓ポリペプチド等のペプチドホルモン;ならびに無数の分泌タンパク質のシグナル配列に相当するペプチドが挙げられる。さらに、例示的な内在化ペプチドは、酸性pHで内在化ペプチドのαヘリックス特性を増強する置換基の付加によって改変され得る。
【0180】
本発明の使用に適している内在化ペプチドのさらに別の部類は、生理的pHでは「隠される」が、標的細胞エンドソームの低pH環境下では曝露される疎水性ドメインを含む。疎水性ドメインのpH誘導性アンフォールディングおよび曝露の際に、該部分は脂質二重層に結合し、共有結合したポリペプチドの細胞質内へのトランスロケーションに影響を及ぼす。かかる内在化ペプチドは、例えばシュードモナス外毒素A、クラスリン、またはジフテリア毒素において配列同定後にモデル化され得る。
【0181】
孔形成タンパク質またはペプチドはまた、本明細書で内在化ペプチドとして作用し得る。孔形成タンパク質またはペプチドは、例えばC9補体タンパク質、細胞溶解性T細胞分子またはNK細胞分子から得ることができるか、またはそれらに由来し得る。これらの部分は膜において環状構造を形成し得、それにより結合したポリペプチドの膜から細胞内への輸送が可能になる。
【0182】
目的のポリペプチドまたはペプチド模倣物の細胞膜を通過するトランスロケーションには内在化ペプチドの単なる膜挿入で十分であり得る。しかし、トランスロケーションは内在化ペプチドを細胞内酵素の基質(すなわち「付属(accessory)ペプチド」)と結合させることによって改良され得る。付属ペプチドが、細胞膜を通って細胞質表面に突き出る内在化ペプチドの一部と結合することが好ましい。付属ペプチドは、トランスロケーション化/内在化部分またはアンカーペプチドの一つの末端に有利に結合され得る。本発明の付属部分は一つ以上のアミノ酸残基を含有し得る。一態様において、付属部分は細胞内リン酸化の基質を提供し得る(例えば、付属ペプチドはチロシン残基を含有し得る)。
【0183】
上記のように、内在化及び付属ペプチドは、それぞれ独立して、化学架橋により、又は融合タンパク質の形態で、ペプチド阻害剤に付加され得る。融合タンパク質の例において、各ペプチド部分の間に非構造化(unstructured)ポリペプチドリンカーが含まれ得る。
【0184】
一般に、内在化ペプチドは、ポリペプチドの輸送を指向するのにも十分であり得る。しかしながら、RGD配列等の付属ペプチドが提供される場合、宿主細胞からの融合タンパク質の輸送を指向する分泌シグナル配列を含むことを要する場合がある。好ましい態様において、分泌シグナル配列は、N末端の端部に位置し、(任意で)当該分泌シグナルと残りの融合タンパク質との間において、タンパク質分解部位が隣接する。
【0185】
幾つかの例において、ペプチド阻害剤の部分として、核局在化シグナルを含むのも望ましい。
【0186】
目的のペプチド阻害剤を含む融合ポリペプチドの作製において、様々なペプチドドメインの好ましいフォールディングを保証するために、非構造化リンカーを含むことを要する場合がある。多くの合成及び天然のリンカーが当業者に公知であり、例えば(GlySer)リンカー等、本発明における使用に適している。
【0187】
(e)ペプチド阻害剤模倣物
他の態様では、対象とするペプチド阻害剤治療薬は、ペプチド阻害剤のペプチド模倣物である。ペプチド模倣物は、ペプチド又はタンパク質に基づく化合物であるか、ペプチド又はタンパク質に由来する化合物である。本発明のペプチド模倣物は、典型的には、天然に存在しないアミノ酸を用いた既知のペプチド阻害剤配列の構造改変、コンホメーションの拘束、等電子置換などによって得ることができる。対象とするペプチド模倣物は、ペプチドと非ペプチド合成構造の間に構造空間の連続体を構成する。従ってペプチド模倣物は、ファーマコフォアの描写と、ペプチドを親ペプチド阻害剤の活性を持つ非ペプチド化合物に変換するのに役立つ可能性がある。
【0188】
更に、本明細書から明らかなように、対象とするペプチド阻害剤のミメトープを提供することができる。そのようなペプチド模倣物は、加水分解不能(例えば、プロテアーゼや、対応するペプチドを分解する他の生理学的条件に対する増大した安定性)、増大した特異性及び/又は力価、そのペプチド模倣物が細胞内に局在するための増大した細胞透過性といった属性を持つことができる。例示が目的だが、本発明のペプチド類似体は、例えば、ベンゾジアゼピン(例えばFreidinger et al. in Peptides: Chemistry and Biology, G. R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988を参照されたい)、置換されたγラクタム環(Garvey et al. in Peptides: Chemistry and Biology, G. R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988, p123)、C−7模倣物(Huffman et al. in Peptides: Chemistry and Biologyy, G. R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988, p. 105)、ケト−メチレン擬ペプチド(Ewenson et al. (1986) J Med Chem 29:295と、Ewenson et al. in Peptides: Structure and Function (Proceedings of the 9th American Peptide Symposium) Pierce Chemical Co. Rockland, Ill., 1985)、βターンジペプチドコア(Nagai et al. (1985) Tetrahedron Lett 26:647と、Sato et al. (1986) J Chem Soc Perkin Trans 1:1231)、β−アミノアルコール(Gordon et al. (1985) Biochem Biophys Res Commun 126:419と、Dann et al. (1986) Biochem Biophys Res Commun 134:71)、ジアミノケトン(Natarajan et al. (1984) Biochem Biophys Res Commun 124:141)、メチレンアミノ修飾(Roark et al. in Peptides: Chemistry and Biology, G. R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988, p134)を利用して生成させることができる。一般には、Session III: Analytic and synthetic methods, in in Peptides: Chemistry and Biology, G. R. Marshall ed., ESCOM Publisher: Leiden, Netherlands, 1988も参照されたい。
【0189】
本発明では、ペプチド模倣物を生成させるために実施できる様々な側鎖置換に加え、特に、ペプチド二次構造のコンホメーション拘束模倣物を利用することを考える。ペプチドのアミド結合の代替物が多数開発されている。頻繁に開発されているアミド結合代替物として、以下のグループ、即ち(i)トランス−オレフィン、(ii)フルオロアルケン、(iii)メチレンアミノ、(iv)ホスホンアミド、(v)スルホンアミドが挙げられる。
【0190】
更に、ミメトープの他の例として、タンパク質に基づく化合物、炭水化物に基づく化合物、脂質に基づく化合物、核酸に基づく化合物、天然有機化合物、合成由来の有機化合物、抗イディオタイプ抗体及び/又は触媒性抗体、又はそのフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。ミメトープは、例えば、天然化合物と合成化合物のライブラリーをスクリーニングしてペプチド阻害剤に結合できる化合物を探すことによって得られる。ミメトープは、例えば、天然化合物と合成化合物のライブラリーから、特に化学ライブラリー又はコンビナトリアルライブラリー(即ち配列又はサイズが異なるが、同じ構築ブロックを有する化合物のライブラリー)から得ることもできる。ミメトープは、例えば、合理的な薬剤設計によって得ることもできる。合理的な薬剤設計の一つの手順では、本発明による化合物の三次元構造を例えば核磁気共鳴(NMR)又はX線結晶学によって分析することができる。次にその三次元構造を用い、例えばコンピューターモデリングによって潜在的なミメトープの構造を予測し、次にその予測されたミメトープの構造を、例えば化学合成や組換えDNA技術によって、又は天然供給源(例えば植物、動物、細菌、真菌)からミメトープを単離することによって生成させることができる。
【0191】
本発明のペプチド阻害剤又はキメラタンパク質は、従来からの技術によって合成することができる。例えば、そのペプチド阻害剤又はキメラタンパク質は、固相ペプチド合成を利用して化学合成によって合成することができる。これらの方法では、固相又は溶液相の合成法を利用している(例えば、固相合成技術に関しては、J. M. Stewart, and J. D. Young, Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd Ed., Pierce Chemical Co., Rockford Ill. (1984)と、G. Barany and R. B. Merrifield, The Peptides: Analysis Synthesis, Biology editors E. Gross and J. Meienhofer Vol. 2 Academic Press, New York, 1980, pp. 3−254を、古典的溶液合成に関しては、M Bodansky, Principles of Peptide Synthesis, Springer−Verlag, Berlin 1984と、E. Gross and J. Meienhofer, Eds., The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, suprs, Vol 1を参照されたい)。
【0192】
他の分子と接合した本発明のペプチド阻害剤又はキメラタンパク質を含むN末端融合タンパク質又はC末端融合タンパク質は、組換え技術を通じ、ペプチド阻害剤又はキメラタンパク質のN末端又はC末端と、望ましい生物学的機能を有する選択されたタンパク質又は選択可能なマーカーの配列とを融合させることによって調製できる。得られた融合タンパク質は、本明細書に記載してあるように、その選択したタンパク質又はマーカータンパク質に融合したペプチド阻害剤又はキメラタンパク質を含んでいる。融合タンパク質の調製に使用できるタンパク質の例として、免疫グロブリン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、ヘマグルチニン(HA)、切頭mycが挙げられる。
【0193】
本発明のペプチドは、生物発現系を利用して開発することができる。これらの系を利用すると、ランダムなペプチド配列の大きなライブラリーを生成させ、これらライブラリーをスクリーニングして特定のタンパク質に結合するペプチド配列を探すことが可能になる。ライブラリーは、ランダムなペプチド配列をコードしている合成DNAを適切な発現ベクター内にクローン化することによって生成させることができる。(Christian et al 1992, J. Mol. Biol. 227:711; Devlin et al, 1990 Science 249:404; Cwirla et al 1990, Proc. Natl. Acad, Sci. USA, 87:6378を参照されたい)。ライブラリーは、重複したペプチドの同時合成によって構成することもできる(米国特許第4,708,871号を参照されたい)。
【0194】
本発明のペプチドとキメラタンパク質は、無機酸(例えば、塩酸、硫酸、臭化水素酸、リン酸)又は有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸)と反応させることによって医薬塩に変換できる。
【0195】
抗体
本発明では、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcに対して特異的な抗体又は抗体フラグメントを含有するシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの阻害剤も考慮する。その抗体として、完全なモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、免疫学的に活性なフラグメント(例えばFabフラグメント又は(Fab)フラグメント)、抗体重鎖、抗体軽鎖、ヒト化抗体、遺伝子改変された単鎖F.sub.V分子(Lander et al、米国特許第4,946,778号)、又はキメラ抗体(例えば、マウス抗体の結合特異性を有する部分を含むが、残部はヒト起源である抗体)が可能である。モノクローナル抗体とポリクローナル抗体、フラグメントとキメラを含む抗体は、当業者に知られている方法を利用して調製することができる。
【0196】
抗体は、関心のある免疫化抗原を含む完全なポリペプチド又はフラグメントを用いて調製することができる。動物の免疫化に用いられるポリペプチド又はオリゴペプチドは、RNAの翻訳から得ること、又は化学的に合成することができ、望むのであれば担体タンパク質に接合させることができる。ペプチドに化学的にカップルさせることのできる適切な担体には、ウシ血清のアルブミンとチログロブリン、スカシガイのヘモシアニンが含まれる。次に、カップルされたポリペプチドを用いて動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ)を免疫化することができる。
【0197】
ペプチドは、阻害剤として使用する前に精製して汚染物を除去する。この点に関し、適切な規制機関が設定した基準に合致するようペプチドを精製するとよかろう。多数ある従来からの精製手順の任意の1つ、例えばアルカリ化されたシリカカラム(C−シリカ、C−シリカ、C18−シリカなど)を用いた逆相高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を利用して、必要なレベルの精製度を達成することができる。有機物の含量が増えていく勾配移動相、例えば、通常は少量のトリフルオロ酢酸を含む水性緩衝液中のアセトニトリルを一般に使用して、精製を実現する。イオン交換クロマトグラフィーを利用し、ポリペプチドをその電荷に基づいて分離することもできる。アフィニティクロマトグラフィーも、精製手続きにおいて有用である。
【0198】
抗体とペプチドは、分子生物学の一般的な技術を利用して修飾することにより、タンパク質分解に対する抵抗力を改善すること、又は溶解特性を最適化すること、又は治療薬としてより適したものにすることができる。そのようなポリペプチドの類似体として、天然に存在するL−アミノ酸以外の残基(例えばD−アミノ酸、又は天然に存在しない合成アミノ酸)を含むものが挙げられる。本発明で有用なポリペプチドは更に、応用上有用な非アミノ酸部分と接合させることができる。特に、ペプチドの安定性、生物学的半減期、水溶性、免疫学的性質を改善する部分が有用である。そのような部分の非限定的な一例は、ポリエチレングリコール(PEG)である。
【0199】
組み合わせ
一つの態様では、本発明の組成物は、本明細書に記載したシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤を含んでいる。例えば一つの態様では、当該組成物は、シアリルトランスフェラーゼ阻害剤とNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤を含んでいる。幾つかの態様では、本明細書に記載した阻害剤の組み合わせを含む組成物は相加効果を持っており、その組み合わせの全効果は、個々の阻害剤の効果の和にほぼ等しい。別の態様では、本明細書に記載した阻害剤の組み合わせを含む組成物は相乗効果を持っており、その組み合わせの全効果は、個々の阻害剤の効果の和よりも大きい。
【0200】
阻害剤の組み合わせを含む組成物は、個々の阻害剤を適切な任意の比で含んでいる。例えば一つの態様では、組成物は、2種類の個別の阻害剤を1:1の比で含んでいる。別の一つの態様では、組成物は、3種類の個別の阻害剤を1:1:1の比で含んでいる。しかし組み合わせが任意の特定の比に限定されることはない。そうではなく、有効であることがわかった任意の比が包含される。
【0201】
一つの態様では、本発明の組成物は、シチジンと6’−SLを含んでいる。別の一つの態様では、本発明の組成物は、シチジンと3’−SLを含んでいる。別の一つの態様では、本発明の組成物は、6’−SLと3’−SLを含んでいる。別の一つの態様では、本発明の組成物は、シチジンと6’−SLと3’−SLを含んでいる。幾つかの態様では、シチジンと6’−SLと3’−SLのうちの少なくとも2つを含む組成物は相乗効果を示す。
【0202】
医薬組成物
本明細書に記載した医薬組成物の製剤は、公知の任意の方法、又は薬理学の分野で今後開発される任意の方法によって調製することができる。一般に、そのような調製法には、活性成分を担体又は1つ以上の他の装飾成分と会合させ、次いで、必要な場合又は望ましい場合には、生成物を望む一回用量ユニット又は多数回用量ユニットに成形又は包装するステップが含まれる。一つの態様では、担体は、皮膚学的に許容可能なビヒクルを含んでいる。
【0203】
皮膚学的に許容可能なビヒクルの例は当該技術分野で周知であり、例えば、水、ブチレングリコール、トリエタノールアミン、メチルパラベン、グリセリン、二酸化チタン、ポリアクリルアミド、加水分解されたジョジョバエステル、プロピレングリコール、ラウレス−7、エチルヘキサン酸セテアリール、シリカ、ステアリン酸グリセリル、ベタイン、シクロペンタシロキサン、ジメチコン、シクロヘキサシロキサン、アクリロイルジメチルタウリン酸アンモニウム、ジメチルイソソルバイド、PEG−8ジメチコン、マルトデキストリン、キサンタンゴム、コシルイセチオン酸ナトリウム、ステアリン酸、セチルアルコール、ココイルタウリン酸ナトリウムメチル、ポリソルベート60、ビオサッカリドガム、PPG−5−セテス−20、C12−C15安息香酸アルキル、亜鉛酸化物、オクチノキセート、トリベヘニン、オゾケライト、シクロメチコン、メチコン、イソステアリン酸ポリグリセリル−4、又はこれらの組み合わせを含むことができる(米国出願公開第2010/0260695号)。しかし本発明の皮膚学的に許容可能なビヒクルは、特定の成分又は製剤に限定されない。そうではなく、当該組成物は、当該技術分野で公知の、又は将来発見される適切な任意の皮膚学的に許容可能なビヒクルを含んでいる。
【0204】
本明細書で提供する医薬組成物の記述は主に、倫理的にヒトへの投与に適した医薬組成物に向けられているが、当業者は、そのような組成物が一般にあらゆる種類の動物への投与に適していることを理解するであろう。ヒトへの投与に適した医薬組成物を様々な動物への投与に適したものにするための改変はよく理解されており、当業者は、必要ならば単に通常の実験でそのような改変を設計して実行することができる。本発明の医薬組成物を投与することが考えられる対象として、ヒトとそれ以外の霊長類、哺乳動物(例えば、非ヒト霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、イヌなどの市販されている重要な哺乳動物)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0205】
本発明の方法で有用な医薬組成物は、眼内投与、経口投与、直腸投与、膣投与、非経口投与、局所投与、肺投与、鼻腔内投与、口腔投与や、他の投与経路に適した製剤にして調製すること、又は包装すること、又は販売することができる。考えられる他の製剤として、突起を有するナノ粒子、リポソーム調製物、活性成分を含む再密封されたエリスロマイシン、免疫学に基づく製剤が挙げられる。
【0206】
本発明の医薬組成物は、バルクの状態で、一回ユニット用量として、又は複数の一回ユニット用量として調製すること、又は包装すること、又は販売することができる。本明細書では、「ユニット用量」は、所定量の活性成分を含む離散量の医薬組成物である。活性成分の量は、一般に、対象に投与することが考えられる活性成分の用量、又はそのような用量の適切な一部(例えばそのような用量の半分又は1/3)に等しい。
【0207】
本発明の医薬組成物に含まれる活性成分と、薬理学的に許容可能な基剤と、任意の追加成分の相対量は、治療する対象の正体、サイズ、状態に応じて、更にはその組成物を投与する経路に応じて変化するであろう。例えば組成物は、0.1%〜100%(w/w)の活性成分を含むことができる。
【0208】
本発明の医薬組成物は、活性成分に加え、1種類以上の追加の薬理学的活性成分を更に含むことができる。線維症の治療に役立つ他の活性剤として、抗炎症剤(コルチコステロイドが含まれる)、免疫抑制剤が挙げられる。
【0209】
本発明による医薬組成物の制御放出製剤又は持続放出製剤は、従来技術を利用して製造することができる。
【0210】
本明細書では、医薬組成物の「非経口投与」に、対象の組織の物理的漂白を特徴とする任意の投与経路と、組織内での漂白を通じた医薬組成物の投与が含まれる。従って非経口投与には、医薬組成物の注射によるその組成物の投与、外科的切開を通じた組成物の付着による投与、組織に侵入する非外科的傷を通じた組成物の付着による投与などが含まれるが、それらに限定されない。非経口投与には、特に、眼内注射、硝子体内注射、皮下注射、筋肉内注射、胸骨内注射、腫瘍内注射、腎臓透析輸液技術が含まれるが、それらに限定されない。
【0211】
非経口投与に適した医薬組成物の製剤は、医薬として許容可能な基剤(減菌水、減菌等張生理食塩水など)と組み合わせた活性成分を含んでいる。そのような製剤は、ボーラス投与や連続投与に適した製剤の形態で調製すること、又は包装すること、又は販売することができる。注射可能な製剤は、ユニット用量の形態で(例えば、保存剤を含むアンプル又は多数回用量の容器に入れて)調製すること、又は包装すること、又は販売することができる。非経口投与のための製剤として、懸濁液、溶液、油性ビヒクル又は水性ビヒクル中のエマルジョン、ペースト、埋め込み可能な徐放性製剤又は生物分解性製剤が挙げられるが、それらに限定されない。そのような製剤は更に、一種類以上の追加成分(例えば懸濁剤、安定剤、分散剤だが、それらに限定されない)を含んでいてもよい。非経口投与のための製剤の一つの態様では、活性成分は、適切なビヒクル(例えば発熱物質を含まない減菌水)を用いて再構成するため乾燥(即ち粉末又は顆粒)形態で提供され、組成物を再構成した後に非経口投与する。
【0212】
医薬組成物は、減菌した注射可能な水性又は油性の懸濁液又は溶液の形態で調製すること、又は包装すること、又は販売することができる。この懸濁液又は溶液は、公知の技術に従って製剤化することができ、活性成分に加え、追加の成分(例えば本明細書に記載した分散剤、湿潤剤、懸濁剤)を含むことができる。そのような注射可能な減菌製剤は、非経口投与で許容される非毒性の希釈剤又は溶媒(例えば水や1,3−ブタンジオールだが、それらに限定されない)を用いて調製することができる。他の許容可能な希釈剤と溶媒として、リンゲル液、等張塩化ナトリウム溶液、不揮発性油(例えば、合成モノグリセリド、合成ジグリセリド)が挙げられるが、それらに限定されない。非経口投与で許容される他の有用な製剤として、微結晶の形態になった活性成分、リポソーム調製物中の活性成分、生物分解性ポリマー系の一成分としての活性成分を含むものが挙げられる。持続放出又は埋め込みのための組成物は、医薬として許容可能なポリマー材料又は疎水性材料(例えば、エマルジョン、イオン交換樹脂、ほとんど溶けないポリマー、ほとんど溶けない塩)を含むことができる。
【0213】
本発明の医薬組成物は、口腔を通じて肺に投与するのに適した製剤の形態で調製すること、又は包装すること、又は販売することができる。そのような製剤は、活性成分を含んでいて直径が約0.5〜約7ナノメートル、好ましくは約1〜約6ナノメートルの乾燥粒子を含むことができる。そのような組成物は、噴射剤流を向けて粉末を分散させる乾燥粉末用容器を備える装置を用いて、又は自己推進性溶媒/粉末分散溶液(例えば、密封した容器内の低沸点の噴射剤に分散又は懸濁させた活性成分を含む装置)を用いて投与するため、乾燥粉末の形態にしてあると便利である。そのような粉末は、粒子の重量の少なくとも98%が直径0.5ナノメートル超であり、且つ粒子数の少なくとも95%が直径7ナノメートル未満である粒子を含んでいることが好ましい。より好ましいのは、粒子の重量の少なくとも95%が直径1ナノメートル超であり、且つ粒子数の少なくとも90%が直径6ナノメートル未満であることである。乾燥粉末組成物は、固体微粉末希釈剤(例えば糖)を含んでいることが好ましく、ユニット用量の形態で提供されると都合がよい。
【0214】
低沸点の噴射剤は、一般に、大気圧で沸点が65°F未満の液体噴射剤を含んでいる。一般に、噴射剤は、組成物の50〜99.9%(w/w)を構成することができ、活性成分は、組成物の0.1〜20%(w/w)を構成することができる。噴射剤は、液体非イオン性界面活性剤又は固体アニオン性界面活性剤や、固体希釈剤(活性成分を含む粒子と同程度の粒径を持つことが好ましい)などの追加成分を更に含むことができる。
【0215】
非経口投与に適した医薬組成物の製剤は、医薬として許容可能な基剤(減菌水、減菌等張生理食塩水など)と組み合わせた活性成分を含んでいる。そのような製剤は、ボーラス投与又は連続投与に適した形態で調製すること、又は包装すること、又は販売することができる。注射可能な製剤は、ユニット用量の形態(例えば、保存剤を含むアンプル又は多数回用量の容器に入れて)で調製すること、又は包装すること、又は販売することができる。非経口投与のための製剤として、懸濁液、溶液、油性ビヒクル又は水性ビヒクル中のエマルジョン、ペースト、埋め込み可能な徐放性製剤又は生物分解性製剤が挙げられるが、それらに限定されない。そのような製剤は更に、一種類以上の追加成分(例えば懸濁剤、安定剤、分散剤だが、それらに限定されない)を含んでいてもよい。非経口投与のための製剤の一つの態様では、活性成分は、適切なビヒクル(例えば発熱物質を含まない減菌水)を用いて再構成するため乾燥(即ち粉末又は顆粒)形態で提供され、組成物を再構成した後に非経口投与する。
【0216】
医薬組成物は、減菌した注射可能な水性又は油性の懸濁液又は溶液の形態で調製すること、又は包装すること、又は販売することができる。この懸濁液又は溶液は、公知の技術に従って製剤化することができ、活性成分に加え、追加の成分(例えば本明細書に記載した分散剤、湿潤剤、懸濁剤)を含むことができる。そのような注射可能な減菌製剤は、非経口投与で許容される非毒性の希釈剤又は溶媒(例えば水や1,3−ブタンジオールだが、それらに限定されない)を用いて調製することができる。他の許容可能な希釈剤と溶媒として、リンゲル液、等張塩化ナトリウム溶液、不揮発性油(合成モノグリセリド、合成ジグリセリドなど)が挙げられるが、それらに限定されない。非経口投与で許容される他の有用な製剤として、微結晶の形態になった活性成分、リポソーム調製物中の活性成分、生物分解性ポリマー系の一成分としての活性成分を含むもの挙げられる。持続放出又は埋め込みのための組成物は、医薬として許容可能なポリマー材料又は疎水性材料(例えば、エマルジョン、イオン交換樹脂、ほとんど溶けないポリマー、ほとんど溶けない塩)を含むことができる。
【0217】
医薬組成物の局所投与する際の一つの障害は、上皮の角質層である。角質層は、タンパク質、コレステロール、スフィンゴリピド、遊離脂肪酸と、他の様々な脂質からなる抵抗の大きな層であり、角質化した細胞と生きた細胞を含んでいる。角質層を通過する化合物の浸透率(流量)を制限する因子の一つは、皮膚表面に装填又は付着させることのできる活性物質の量である。皮膚の単位面積に付着させる活性物質の量がより多くなると、皮膚表面と皮膚のより下層の間の濃度勾配がより大きくなり、すると活性物質が皮膚を通過する拡散力がより大きくなる。従って濃度のより大きな活性物質を含む製剤は、活性物質が皮膚を通過する可能性がより大きくなり、しかもそれに加えて、他の全ての条件が同じだとすると、濃度がより小さな製剤よりも一定の速度で通過する。
【0218】
局所投与に適した製剤として、液体又は半液体の調製物(リニメント剤、ローション、水中油エマルジョン又は油中水エマルジョン(クリーム、軟膏、ペーストなど)、溶液、懸濁液など)が挙げられるが、それらに限定されない。局所投与が可能な製剤は、例えば約1%〜約10%(w/w)の活性成分を含んでいるが、活性成分の濃度は、溶媒中の活性成分の溶解限界にできるだけ近くすることができる。局所投与用の製剤は、本明細書に記載した一種類以上の追加成分を更に含むことができる。
【0219】
透過の促進剤を使用することができる。これらの材料は、皮膚を横断する薬剤の透過率を大きくする。当該技術分野の典型的な促進剤として、エタノール、モノラウリン酸グリセロール、PGML(モノラウリン酸ポリエチレングリコール)、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。他の促進剤として、オレイン酸、オレイルアルコール、エトキシジグリコール、ラウロカプラム、アルカンカルボン酸、ジメチルスルホキシド、極性脂質、N−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。
【0220】
本発明の組成物の幾つかを局所投与する際に許容可能な1つのビヒクルは、リポソームを含むことができる。リポソームの組成物とその利用は当該技術分野で知られている(例えば米国特許第6,326,219号を参照されたい)。
【0221】
別の態様では、局所的な活性医薬組成物は、場合によっては他の成分(アジュバント、抗酸化剤、キレート剤、界面活性剤、発泡剤、湿潤剤、乳化剤、増粘剤、緩衝剤、保存剤など)と組み合わせることができる。別の一つの態様では、透過促進剤又は浸透促進剤が組成物に含まれており、透過促進剤なしの組成物と比べて角質層への活性成分の経皮浸透を改善するのに有効である。様々な透過促進剤(例えば、オレイン酸、オレイルアルコール、エトキシジグリコール、ラウロカプラム、アルカンカルボン酸、ジメチルスルホキシド、極性脂質、N−メチル−2−ピロリドン)が当業者に知られている。別の一つの側面では、組成物は、角質の構造中の乱雑さを増大させる機能を持つヒドロトロピー剤を更に含むことができるため、角質を横断する輸送を増やすことが可能になる。様々なヒドロトロピー剤(イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、キシレンスルホン酸ナトリウムなど)が当業者に知られている。
【0222】
局所的に活性な医薬組成物は、望む変化を起こすのに有効な量で塗布すべきである。本明細書では、「有効な量」は、皮膚表面で変化させることが望ましい領域をカバーするのに十分な量を意味する。活性化合物は、組成物の重量体積で約0.0001%〜約15%の量が存在すべきである。更に好ましくは、活性化合物は、組成物の約0.0005%〜約5%の量で存在すべきである。最も好ましくは、活性化合物は、組成物の約0.001%〜約1%の量で存在すべきである。そのような化合物として、合成由来又は天然由来のものが可能である。
【0223】
本明細書では、「追加成分」として、賦形剤;界面活性剤;光沢剤;甘味剤;風味剤;着色剤;保存剤;生理学的に分解可能な組成物(ゼラチンなど);水性ビヒクルと溶媒;油性ビヒクルと溶媒;懸濁剤;分散剤又は湿潤剤;乳化剤、緩和剤;緩衝液;塩;増粘剤;充填剤;乳化剤;抗酸化剤;抗生剤;抗真菌剤;安定剤;医薬として許容可能なポリマー材料又は疎水性材料のうちの一つ以上が挙げられるが、それらに限定されない。本発明の医薬組成物に含めることのできる他の「追加成分」は当該技術分野で知られており、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences (1985, Genaro, ed., Mack Publishing Co., Easton, PA)に記載されている。なおその内容は、本願において参照により援用される。
【0224】
阻害する方法
シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc活性は、当業者に知られている任意の方法を利用して阻害することができる。シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc活性を阻害する方法の例として、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質をコードしている内在遺伝子の発現の阻害、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質をコードしているmRNAの発現の低下、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの機能、又は活性、又は安定性の阻害が挙げられるが、それらに限定されない。従ってシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの阻害剤として、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質をコードしている遺伝子の発現を低下させる化合物、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質をコードしているmRNAのmRNA半減期、又は安定性、又は発現を低下させる化合物、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの機能、又は活性、又は安定性を阻害する化合物が可能である。シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcとして任意のタイプの化合物が可能であり、その中には、ペプチド、核酸、アプタマー、ペプチド模倣物、低分子や、これらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。
【0225】
シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害は、直接又は間接に実現することができる。例えば、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcは、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcと直接相互作用する化合物又は組成物(抗体など)によって直接的に阻害することができる。あるいはシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcは、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの発現を上方調節するシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの下流エフェクター又は上流レギュレーターを阻害する化合物又は組成物によって間接的に阻害することができる。
【0226】
内在遺伝子の発現の低下には、遺伝子発現の特異的阻害剤を提供することが含まれる。mRNA又はタンパク質の発現の低下には、mRNAの半減期又は安定性の低下、又はmRNAの発現低下が含まれる。シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質の発現を低下させる方法として、siRNA、マイクロRNA、アンチセンス核酸、リボザイム、トランスドミナントネガティブ突然変異体をコードしている発現ベクター、ペプチド、低分子と、これらの組み合わせを用いた方法が挙げられるが、それらに限定されない。
【0227】
候補阻害剤を同定して試験するためのアッセイ
シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤は、試験化合物を、細胞内での遺伝子発現、mRNAの発現、タンパク質の活性、タンパク質の機能、タンパク質の安定性を低下させるか妨げる能力に関してスクリーニングすることによって同定できる。
【0228】
シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの発現は、タンパク質又は核酸のレベルで検出することができる。本発明が本明細書で引用したタンパク質検出法又は核酸検出法の任意の一つの方法に限定されてはならず、当該技術分野で知られている既知の方法と、今後知られることになる現在は未知の方法が全て包含されるべきである。
【0229】
一つの態様では、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質に特異的な抗体を用いてサンプル中のタンパク質の発現を検出する。そのサンプルとして、細胞、培養溶液、身体サンプルが可能である。この方法は、サンプルを、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質に対する少なくとも一つの抗体と接触させ、サンプル中のシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質が発現するかどうかを調べることを含んでいる。このタンパク質の発現レベルは、当該技術分野で周知の技術(密度測定などが挙げられるが、それに限定されない)を利用して定量することができる。当業者は、本明細書の以下に記載するイムノサイトケミストリー法が、手作業で、又は自動化したやり方で実施されることを認識するであろう。
【0230】
抗体の結合を検出する技術は当該技術分野で周知である。タンパク質への抗体の結合は、抗体の結合レベルに対応しているためにタンパク質の発現レベルに対応する検出可能な信号を発生させる化学試薬を用いて検出できる。本発明の好ましいイムノサイトケミストリー法の一つでは、抗体の結合は、標識したポリマーに接合させた二次抗体を利用して検出される。標識したポリマーの例として、ポリマー−酵素コンジュゲートが挙げられるが、それに限定されない。典型的には、これら複合体に含まれる酵素を触媒として用いて抗原−抗体結合部位に色素原を堆積させることにより、タンパク質の発現レベルに対応する細胞染色を得る。特に興味深い酵素として、西洋ワサビのペルオキシダーゼ(HRP)とアルカリホスファターゼ(AP)が挙げられる。市販の抗体検出系、例えばDako Envision+系(Dako North America、カルピンテリア、カリフォルニア州)、Mach 3系(Biocare Medical、ウォルナット・クリーク、カリフォルニア州)を用いて本発明を実施することができる。
【0231】
抗体の結合の検出は、検出可能な物質に抗体をカップリングさせることによって容易にすることができる。検出可能な物質の例として、様々な酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生物発光材料、放射性材料が挙げられる。適切な酵素の例としては、西洋ワサビのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼが挙げられ、適切な補欠分子族の例としては、ストレプトアビジン/ビオチン、アビジン/ビオチンが挙げられ、適切な蛍光材料の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、イソチオシアン酸フルオレセイン、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、フィコエリトリンが挙げられ、発光材料の一例はルミノールであり、生物発光材料の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、アクアポリンが挙げられ、適切な放射性材料の例としては、125I、131I、35S、Hが挙げられる。
【0232】
イムノアッセイは、最も単純かつ最も直接的な意味では結合アッセイである。幾つかの好ましいイムノアッセイが当該技術分野で知られており、それは、様々なタイプの酵素が連結した免疫吸着アッセイ(ELISA)と、ラジオイムノアッセイ(RIA)である。組織切片を用いた免疫組織化学的検出も特に有用である。しかし検出がそのような技術に限定されないことは容易に理解されよう。ウエスタンブロッティング、ドットブロッティング、FACS分析なども利用できる。
【0233】
ELISAの一例では、タンパク質に結合する抗体は、タンパク質親和性を示す選択された表面(ポリスチレン微量滴定プレートの中のウエルなど)に固定化される。次に、試験サンプルをウエルに添加する。結合させ、洗浄して非特異的に結合した免疫複合体を除去した後、結合した抗体を検出することができる。検出は、一般に、検出可能な標識に連結されたタンパク質に特異的な二次抗体の添加によって実現できる。このタイプのELISAは、単純な「サンドイッチELISA」である。検出は、二次抗体を添加した後、二次抗体に対する結合親和性を有する三次抗体を添加することによっても実現できる。なお三次抗体は、検出可能な標識に連結されている。
【0234】
ELISAの別の一例では、タンパク質抗原を含むことが疑われるサンプルをウエルの表面に固定化し、次いで本発明の抗体と接触させる。結合させ、洗浄して非特異的に結合した免疫複合体を除去した後、結合した抗原を検出する。最初の抗体が検出可能な標識に連結されている場合に免疫複合体を直接検出することができる。ここでも、免疫複合体は、一次抗体に対する結合親和性を有する二次抗体を用いて検出することができる。なお二次抗体は、検出可能な標識に連結されている。
【0235】
タンパク質を固定化する別のELISAには、検出時に抗体の結合を利用することが含まれる。このELISAでは、標識した抗体がウエルに添加されてタンパク質に結合することが可能になるため、抗体はその標識によって検出される。次に、未知サンプルを、被覆したウエルとともにインキュベートする前、又はインキュベートしている間に、標識した抗体と混合することにより、そのサンプル中のマーカー抗原の量を求める。サンプル中にタンパク質抗原が存在していると、ウエルへの結合に利用できる抗体の量が減少するため、最終的な信号が減少する。
【0236】
ELISAは、利用する形式とは無関係に、被覆、インキュベーション、結合、非特異的に結合した種を除去するための洗浄、結合した免疫複合体の検出など、共通する特徴を幾つか有する。これらは以下のように記述される。
【0237】
プレートを抗原又は抗体で被覆するとき、一晩又は指定した数時間の期間にわたってプレートのウエルを抗原又は抗体の溶液とともにインキュベートする。次にプレートのウエルを洗浄して吸着が不完全な材料を除去する。次に、ウエルの残っている利用可能なあらゆる表面を、試験抗血清に関して抗原的に中立な非特異的タンパク質で「被覆」する。非特異的タンパク質として、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、粉末乳の溶液が挙げられる。固定化する表面上の非特異的吸着部位を被覆することにより、表面への抗血清の非特異的結合によって生じるバックグラウンドが減少する。
【0238】
ELISAでは、おそらく、直接的な手順というよりは、二次的検出手段又は三次的検出手段を利用するほうがより一般的である。例えば、タンパク質又は抗体をウエルに結合させ、バックグラウンドを減らすため非反応性材料で被覆し、洗浄して結合していない材料を除去した後、固定化する表面を、免疫複合体(抗原/抗体)の形成を可能にする有効な条件下で、対照及び/又は試験する生物サンプルと接触させる。次に、免疫複合体の検出には、標識した二次結合リガンド又は抗体が必要となるか、標識した三次抗体又は三次結合リガンドと組み合わせた二次結合リガンド又は抗体が必要となる。
【0239】
「免疫複合体(抗原/抗体)の形成を可能にするのに有効な条件下」は、抗原と抗体の溶液(例えば、BSA、ウシγグロブリン(BGG)、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)/トゥイーンだが、それらに限定されない)での希釈を含むことが好ましい条件を意味する。添加するこれらの薬剤も、非特異的なバックグラウンドを減らすのを助ける傾向がある。
【0240】
「適切な」条件も、インキュベーションが、有効な結合を可能にするのに十分な温度と期間でなされることを意味する。インキュベーション工程は、典型的には、好ましくは25℃〜27℃の程度の温度にて約1〜2〜4時間だが、約4℃にて一晩でもよい。
【0241】
ELISAにおける全てのインキュベーション工程の後、接触した表面を洗浄して複合化していない材料を除去する。好ましい洗浄手順には、PBS/トゥイーンやホウ酸塩緩衝液などの溶液を用いた洗浄が含まれる。試験サンプルと元々結合していた材料の間に特別な免疫複合体が形成された後に洗浄すると、わずかな量の免疫複合体の生成でさえ検出することができる。
【0242】
検出手段を提供するには、二次抗体又は三次抗体は、検出を可能にする関連した標識を持つことになる。この標識は、適切な発色性基質又は他の基質とともにインキュベートしたときに色又はそれ以外の検出可能な信号を発生する酵素であることが好ましい。従って、例えば第一又は第二の免疫複合体は、さらなる免疫複合体の形成が進展するのを促進する条件下で、ある期間にわたり(例えば、PBS含有溶液(PBS−トゥイーンなど)の中で室温にて2時間のインキュベーション)、ウレアーゼ、グルコース、オキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、水素ペルオキシダーゼの何れかと接合させた抗体を用いて検出することができる。
【0243】
標識した抗体とともにインキュベートし、それに続けて洗浄により結合していない材料を除去した後、酵素標識としてのペルオキシダーゼの場合には、例えば発色性基質(尿素とブロモクレゾールパープル、又は2,2‘−アジド−ジ−(3−エチル−ベンズチアゾリン−6−スルホン酸)[ABTS]とHなど)とともにインキュベートすることによって標識の量を定量する。次に、例えば可視スペクトル分光測光器を用いて色発生の程度を測定することによって定量を実現する。
【0244】
別の態様では、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質を核酸レベルで検出する。発現を評価するための核酸に基づく技術は当該技術分野では周知であり、例えば、身体サンプル中でmRNAのレベルを求めることが含まれる。多くの発現検出法では、単離したRNAを用いる。身体サンプルからのRNAの精製には、mRNAの単離に反する選択をしない任意のRNA単離技術を利用することができる(例えばAusubel, ed., 1999, Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley & Sons, New Yorkを参照されたい)。それに加え、当業者に周知の技術(例えばChomczynskiの単一工程RNA単離法、1989年、米国特許第4,843,155号)を利用して多数の組織サンプルを容易に処理することができる。
【0245】
「プローブ」という用語は、特別に想定した標的生物分子(例えばヌクレオチド転写体又はタンパク質)に選択的に結合できる任意の分子を意味する。プローブは、当業者が合成すること、又は適切な生物調製物から導出することが可能である。プローブは、検出可能な標識を付けられるように特別に設計することができる。プローブとして使用できる分子の例として、RNA、DNA、タンパク質、抗体、有機分子が挙げられるが、それらに限定されない。
【0246】
単離したRNAは、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅アッセイで検出することができる。そうしたアッセイとして、サザン分析又はノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応分析、プローブアレイが挙げられるが、それらに限定されない。mRNAレベルで検出する一つの方法には、単離したmRNAを、検出しようとする遺伝子によってコードされたmRNAにハイブリダイズできる核酸分子(プローブ)と接触させることが含まれる。核酸プローブは、例えば、完全長cDNA又はその一部(例えば、少なくとも7、15、30、50、100、250、500個のヌクレオチドの長さがあり、厳しい条件下で、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質をコードしているmRNA又はゲノムDNAに特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド)が可能である。mRNAとプローブのハイブリダイゼーションは、問題にしている標的が発現していることを示す。
【0247】
一つの態様では、mRNAを固体表面に固定化し、例えば単離したmRNAをアガロースゲルの上を走らせ、そのmRNAをゲルから膜(例えばニトロセルロース)に移すことによってプローブと接触させる。別の一つの態様では、プローブを固体表面に固定化し、例えばアフィメトリクス遺伝子チップアレイ(サンタ・クララ、カリフォルニア州)の中でmRNAをプローブと接触させる。当業者は、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質をコードしているmRNAのレベルを検出するのに利用できるよう、既知のmRNA検出法を容易に適合させることができる。
【0248】
サンプル中の標的mRNAのレベルを求める別の方法には、例えば、RT−PCR(Mullis、1987年、米国特許第4,683,202号に記載されている実験態様)、リガーゼ連鎖反応(Barany, 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:189 193)、自家持続配列複製(Guatelli, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:1874 1878)、転写増幅系(Kwoh, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:1173 1177)、Q−ベータレプリカーゼ(Lizardi, 1988, Bio/Technology, 6:1197)、ローリングサークル複製(Lizardi、米国特許第5,854,033号)や、他の任意の核酸増幅法による核酸増幅のプロセスの後、当業者に周知の技術を利用して増幅した分子を検出することが含まれる。これらの検出スキームは、存在している核酸分子が非常に少ない場合に、その核酸分子の検出に特に有用である。本発明の特別な側面では、発現を定量蛍光発生RT−PCR(即ちTaqMan(登録商標)System)によって評価する。このような方法では、典型的には、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc含有タンパク質に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーのペアを利用する。既知の配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを設計する方法は、当該技術分野では周知である。
【0249】
RNAの発現レベルは、膜ブロット(例えば、ノーザン分析、サザン分析、ドット分析などのハイブリダイゼーション分析)を用いるか、マイクロウエル、サンプル試験管、ゲル、ビーズ、ファイバー(又は、結合した核酸を含む任意の固体支持体)の何れかを用いてモニタすることができる。米国特許第5,770,722号、第5,874,219号、第5,744,305号、第5,677,195号、第5,445,934号を参照されたい。なおその内容は、本願において参照により援用される。発現の検出は、溶液中で核酸プローブを用いることを含んでいてもよい。
【0250】
本発明の別の一つの態様では、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcに対する潜在的な阻害剤の結合親和性と解離反応速度を求めるのにインビトロ結合アッセイを利用する。インビトロ結合アッセイの例は、当該技術分野では周知である。新たな薬剤又は化合物を試験するとき、又は本願に記載した様々なパラメータを測定するときには、基準を利用することができる。それに加え、あるパラメータを測定するとき、基準の測定には、対象を試験化合物で治療する前に、その対象から取得した組織中又は体液中のシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの濃度などのパラメータを測定することを含めることができ、その試験化合物で治療した後に同じパラメータを測定することができる。本発明の別の一つの側面では、特にサンプルを幾つかの工程又は手順を通じて処理し、関心のあるマーカーの回収量を各工程で求めねばならない場合には、基準として、外部から添加した基準が可能であり、それは、サンプルに添加されて内部対照として有用な薬剤又は化合物である。外部から添加したそのような内部基準は、標識された形態で、即ち放射性同位体として添加されることがしばしばある。
【0251】
そのようなスクリーニング法で用いるための試験化合物として、低分子、アプタマーを含む核酸、ペプチド、ペプチド模倣物や、他の薬が可能である。シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc結合パートナーに対するシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの結合を競合的に阻害できるためにシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの活性を阻害するシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcのフラグメントが考えられる。
【0252】
本発明の試験化合物は、当該技術分野で知られているコンビナトリアルライブラリー法に含まれる多数の方法のうちの任意のものを利用して得ることができる。そうした方法として、空間的に近づくことが可能な平行固相ライブラリー又は溶液相ライブラリー、解析を必要とする合成ライブラリー法、「一ビーズ、一化合物」ライブラリー法、アフィニティクロマトグラフィー選択を利用した合成ライブラリー法が挙げられる。生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つの方法は、化合物のペプチドライブラリー、非ペプチドオリゴマーライブラリー、低分子ライブラリーに適用することができる(Lam, 1997, Anticancer Drug Des. 12:145)。シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの阻害剤は、治療の用途に役立つ可能性、又は治療薬の開発におけるリード薬として役立つ可能性がある。合成技術を利用して化合物を製造することができる(例えば、本発明の方法を実施する上で有用な低分子、ペプチド、核酸、抗体や、他の治療用組成物の化学的製造と酵素による産生)。本明細書には記載していないが当業者に知られている他の技術を利用することができる。
【0253】
本発明の一つの側面では、低分子(その中にはアプタマー、ペプチド模倣物、フラグメント、ペプチド模倣物が含まれるが、それらに限定されない)のライブラリーでシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc結合パートナーへの競合的結合を調べることができる。
【0254】
本発明で有用な阻害剤は、当業者に知られている標準的な方法を利用して得ることができる。そのような方法として、化学的有機合成又は生物学的手段が挙げられる。生物学的手段には、当該技術分野で周知の方法を利用した生物源からの精製、組換え合成、インビトロ翻訳系が含まれる。
【0255】
本発明では、本発明のこの方法を利用して同定された薬剤(例えば、モチーフ、そのモチーフを含むペプチド、そのペプチド模倣物)も考慮する。これらの薬剤(例えば、モチーフ、そのモチーフを含むペプチド、そのペプチド模倣物)を用いると、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcを変化させることと、これらの薬剤を中に導入した細胞の細胞プロセスを変化させることができる。従って、これらの薬剤(例えば、モチーフ、そのモチーフを含むペプチド、そのペプチド模倣物)を製剤化し、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcに関係する疾患、障害、症状に苦しんでいる個人に投与するための組成物にすることができる。
【0256】
治療方法
本発明により、皮膚の色素沈着を減少させる方法として、オリゴ糖形成の阻害剤を含む有効量の組成物を投与することを含む方法が提供される。一つの態様では、本発明により、皮膚の色素沈着を減少させる方法として、シアリルトランスフェラーゼ活性の阻害剤を含む有効量の組成物を投与することを含む方法が提供される。一つの態様では、本発明により、皮膚の色素沈着を減少させる方法として、オリゴ糖活性の阻害剤を含む有効量の組成物を投与することを含む方法が提供される。一つの態様では、その組成物は、グリコシル化されたオリゴ糖の形成及び/又は機能を阻害する。
【0257】
本発明には、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcに関係する障害を治療するための方法が含まれる。本明細書では、「シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcに関係する障害」という用語は、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの活性によって起こるか、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの活性を特徴とする任意の疾患、障害、症状を意味する。一つの態様では、本発明に、色素過剰を治療する方法が含まれる。別の一つの態様では、本発明に、過剰な色素沈着を治療する方法が含まれる。別の一つの態様では、本発明に、不均一な色素沈着を治療する方法が含まれる。別の一つの態様では、本発明に、皮膚の色素沈着を減少させる方法が含まれる。
【0258】
ある治療法におけるシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤の投与は、当該技術分野で知られた方法を利用して、異なった多数のやり方で実現することができる。例えば幾つかの態様では、この方法は、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤を対象の皮膚に局所投与することを含んでいる。幾つかの態様では、この方法は、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤の非経口投与を含んでいる。
【0259】
本発明の治療方法と予防方法は、それを必要とする任意の対象における皮膚の色素沈着を減少させるのに用いることができる。例えば幾つかの態様では、対象として、ヒトとそれ以外の霊長類、哺乳動物(例えば、非ヒト霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、イヌなどの市販されている重要な哺乳動物)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0260】
本発明のシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤は、単独で、又は別の治療薬と組み合わせて対象に投与できることがわかるであろう。
【0261】
一つの態様では、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤を対象に投与する。その阻害剤は、例えば標的細胞への送達を容易にしたり効率を高めたりすることを目的として、ハイブリッド組成物又は融合組成物にすることもできる。一つの態様では、ハイブリッド組成物は、組織特異的標的配列を含むことができる。例えば一つの態様では、阻害剤は、メラノサイト、又はメラノサイトの樹状突起部を標的とする。
【0262】
従って本発明の治療方法と予防方法には、本発明の方法を実践するため、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤を含む医薬組成物を利用することが含まれる。本発明を実践する上で有用な医薬組成物は、1ng/kg/日〜100mg/kg/日の用量が送達されるように投与することができる。一つの態様では、本発明は、哺乳動物の体内における本発明の化合物が1μM〜10μMの濃度になる用量で投与することを想定している。
【0263】
典型的には、本発明の方法で哺乳動物(ヒトが好ましい)に投与できる用量は、その哺乳動物の体重1キログラムにつき0.5μg〜約50mgの量の範囲だが、投与する正確な用量は、多数の因子によって異なるであろう。その因子として、哺乳動物のタイプ、治療する疾患状態のタイプ、哺乳動物の年齢、投与経路が挙げられるが、それらに限定されない。化合物の用量は、哺乳動物の体重1キログラムにつき約1μg〜約10mgの範囲で変化することが好ましい。より好ましいのは、用量が、哺乳動物の体重1キログラムにつき約3μg〜約1mgの範囲で変化することである。
【0264】
化合物は、一日に数回の頻度で哺乳動物に投与すること、又は頻度をより少なくして例えば一日に一回、一週間に一回、二週間に一回、一ヶ月に一回にすること、更に頻度を少なくして、例えば数ヶ月に一回、一年に一回、又はそれよりも少なくすることができる。投与の頻度は当業者には明らかであろうし、多数の因子(例えば、治療する疾患のタイプと重篤度、哺乳動物のタイプと年齢など)に依存するであろう。
【0265】
好ましい一つの態様では、本発明に、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの活性を阻害することによって色素過剰を治療する方法が含まれる。一つの側面では、シアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの活性は、メラニンの産生又はメラノソームの移動を阻害するためシアリルトランスフェラーゼ及び/又はNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc阻害剤を対象に投与することによって阻害される。
【0266】
一つの態様では、本発明に、本明細書に記載した阻害剤の組み合わせを投与することを含む方法が含まれる。幾つかの態様では、この方法は相加効果を有しており、阻害剤の組み合わせを投与することの全体効果は、個々の阻害剤を投与する効果の和にほぼ等しい。他の態様では、この方法は相乗効果を有しており、阻害剤の組み合わせを投与することの全体効果は、個々の阻害剤を投与する効果の和よりも大きい。
【0267】
この方法は、阻害剤の組み合わせを適切な任意の比で投与することを含んでいる。例えば一つの態様では、この方法は、2種類の個別の阻害剤を1:1の比で投与することを含んでいる。別の一つの態様では、この方法は、3種類の個別の阻害剤を1:1:1の比で投与することを含んでいる。しかしこの方法がある特定の比に限定されることはない。むしろ有効であることがわかった任意の比が含まれる。
【0268】
一つの態様では、この方法は、シチジンと6’−SLを投与することを含んでいる。別の一つの態様では、この方法は、シチジンと3’−SLを投与することを含んでいる。別の一つの態様では、この方法は、6’−SLと3’−SLを投与することを含んでいる。別の一つの態様では、この方法は、シチジンと6’−SLと3’−SLを投与することを含んでいる。幾つかの態様では、方法は、シチジンと6’−SLと3’−SLのうちの少なくとも2つを投与することを含んでいて、相乗効果を示す。
【0269】
幾つかの態様では、この方法は、阻害剤の組み合わせを含む組成物を投与することを含んでいる。例えば一つの態様では、この方法は、シチジンと6’−SLを含む組成物を投与することを含んでいる。一つの態様では、この方法は、シチジンと3’−SLを含む組成物を投与することを含んでいる。別の一つの態様では、この方法は、6’−SLと3’−SLを含む組成物を投与することを含んでいる。別の一つの態様では、この方法は、シチジンと6’−SLと3’−SLを含む組成物を投与することを含んでいる。
【0270】
幾つかの態様では、この方法は、一種類以上の組成物を投与することを含んでおり、各組成物は、一種類以上の阻害剤を含んでいる。例えば一つの態様では、この方法は、シチジンを含む第一の組成物と、6’−SLを含む第二の組成物を投与することを含んでいる。一つの態様では、この方法は、シチジンを含む第一の組成物と、3’−SLを含む第二の組成物を投与することを含んでいる。一つの態様では、この方法は、6’−SLを含む第一の組成物と、3’−SLを含む第二の組成物を投与することを含んでいる。一つの態様では、この方法は、シチジンを含む第一の組成物と、6’−SLを含む第二の組成物と、3’−SLを含む第三の組成物を投与することを含んでいる。異なる組成物を任意の順番且つ適切な任意の間隔で対象に投与することができる。例えば幾つかの態様では、その一種類以上の組成物を同時に、又はほぼ同時に投与する。幾つかの態様では、この方法は、時期を変えてその一種類以上の組成物を投与することを含んでおり、第一の組成物が投与され、第二の組成物がそれからしばらくして投与される。望む治療効果を生み出す適切な任意の間隔を利用することができる。
【0271】
対象への本発明の核酸阻害剤又はペプチド阻害剤の投与は、遺伝子治療を利用して実現することができる。遺伝子治療は、生体外技術又は生体内技術によって治療遺伝子を細胞に挿入することに基づいている。適切なベクターと方法がインビトロ又は生体内の遺伝子治療に関してこれまでに記載されており、この問題に関する専門的手段として知られている。例えば、Giordano, Nature Medicine 2 (1996), 534−539; Schaper, Circ. Res 79 (1996), 911−919; Anderson, Science 256 (1992), 808−813; Isner, Lancet 348 (1996), 370−374; Muhlhauser, Circ. Res 77 (1995), 1077−1086; Wang, Nature Medicine 2 (1996), 714−716; WO94/29469; WO97/00957; Schaper, Current Opinion in Biotechnology 7 (1996), 635−640と、これらの中で引用されている参考文献を参照されたい。本発明のポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドは、細胞に直接挿入するもの、又はリポソームかウイルスベクター(例えばアデノウイルスベクター又はレトロウイルスベクター)を通じて挿入するものを設計することができる。細胞は、生殖系の細胞、胚性細胞、卵細胞、卵細胞に由来する細胞の何れかであることが好ましく、より好ましいのは、細胞がコア細胞であることである。本発明で使用できる適切な遺伝子分布系として、特に、リポソーム、受容体によって媒介される分布系、裸のDNA、ウイルスベクター(ヘルペスウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなど)を挙げることができる。遺伝子治療のために身体の特定の部位に核酸を分布させることは、Williams(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88 (1991), 2726−2729)が記載しているような遺伝子銃分布系を用いて実現できる。細胞に組換えDNAをトランスフェクトする標準的な方法は、分子生物学の問題に関する専門家には周知である。例えばWO94/29469を参照されたい。また上掲文献も参照されたい。遺伝子治療は、本発明の組換えDNA分子又はベクターを患者に直接投与することによって、又は生体外で細胞に本発明のポリペプチド又はベクターをトランスフェクトした後、トランスフェクトされたその細胞をその患者に投与することによって実施できる。
【0272】
本発明のキット
一つの態様では、本発明は、組成物と、それを使用するための教材を含むキットである。一つの態様では、組成物は、本明細書の他の箇所に記載した一種類以上の阻害剤を含んでいる。一つの態様では、キットは複数の組成物を含んでおり、その複数の組成物の一種類以上は、一種類以上の阻害剤を含んでいる。幾つかの態様では、キットはアプリケータを含んでいる。キットに含まれる教材は、阻害剤組成物を利用するための指示を含んでいる。様々な態様では、教材は、その全体又は一部に、組成物に含まれる阻害剤のタイプ、その阻害剤組成物の使用量、その投与頻度、その阻害剤組成物によって実現される結果のほか、その阻害剤組成物を使用するための他のパラメータを記載している。
【実施例】
【0273】
実験の実施例
以下の実験の実施例を参照して本発明を更に詳細に説明する。これらの実施例は、説明だけを目的として提示したものであり、特に断わらない限り限定的であることを意図していない。従って本発明が以下の実施例に限定されるとは決して考えてはならず、むしろ本発明は、本明細書で提示した教示の結果として明らかになるあらゆるバリエーションを包含すると考えるべきである。
【0274】
当業者は、追加の説明がなくても、上記の記述と以下の例示的な実施例を利用して、本発明の化合物を利用し、請求項の方法を実践できると考えられる。従って以下のうまくいく実施例は、本発明の好ましい態様を特に指摘するものであり、決して本開示の残部を限定すると考えてはならない。
【0275】
実施例1:メラニン含量とメラノソーム移動に対するNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcの役割
【0276】
人間であるわれわれは社会的存在であるため、顔面や身体の他の部分の斑になった色素沈着又は非対称な色素沈着は、自尊心の低下、鬱病、社会的地位に関する問題、職場での生産性低下を引き起こす可能性がある(Balkrishnan et al., 2006, Int J Dermatol 45:111−5)。皮膚の色素過剰は、多くの人々が矯正治療を模索しているありふれた症状である。これは皮膚のメラニンが増加した結果であり、時には非対称的に斑点となったり皮膚の特定の領域を覆ったりし;別の場合には左右相称を有する。これは、メラニンの合成が増えてケラチノサイトに移動することによって;メラノサイトの数がより多くなることによって;そして場合によってはメラノファージ、即ち食作用を通じてメラニンを蓄積するメラニン含有マクロファージによって起こる可能性がある。色素過剰の領域は、褐色から青灰色までの色を呈する。色素過剰には多くの原因があり、最も一般的なものを幾つか挙げると、黒皮症、炎症後色素過剰(PIH)及び日光黒子(肝斑)である。そこで本発明では、過剰かつ不均一な皮膚の色素沈着を減少させる新規な組成物群と、それらの組み合わせに焦点を当てる。これら化合物は、メラニン形成と、メラノサイトからケラチノサイトへとメラノソームが移動するための特別なグリコシル化経路を標的とする。
【0277】
本明細書では、グリコシル化が、メラニン/メラノソームの合成と細胞−細胞移動においてある役割を有することを明らかにした。過剰な、又は不均一な皮膚の色素沈着は、症状を有する個人に深刻な不安と鬱を引き起こす可能性がある。色素過剰を減らすための局所的治療法を幾つか利用できるが、そのどれも、まだ十分に満足のゆくものであることは証明されていない。本発明は、色素系を調節しているオリゴ糖の合成と機能を阻害することを通じて皮膚の色素沈着を減少させる化合物と方法に関する。メラノサイト樹状突起部によって発現されるオリゴ糖を本明細書で同定した。そのためそのオリゴ糖は、皮膚の色素沈着における速度制限ステップであるメラノソームからケラチノサイトへの移動と密接に関係している。そこで本明細書に記載したメラニン移動の阻害剤は、黒皮症、炎症後色素過剰、日光黒子(「肝斑」)などのように色素過剰になった領域における皮膚の色素沈着を減少させることと、一般に、皮膚のより一様な色調を実現することに役立つ可能性があると考えられる。
【0278】
これらの実験で用いる材料と方法を説明する。
【0279】
細胞培養
新生児の正常な初代ヒトケラチノサイト(NHK)(Invitrogen, Life Technologies, Grand Island, NY)を、4ウエルのコラーゲン被覆チェンバースライド(Fisher Scientific, Waltham, MA)に5×10細胞/ウエルの密度で播種した。細胞を1mlの無血清ケラチノサイト増殖培地(KGM)(Keratinocyte−SFM, Invitrogen)の中に維持し、5%COインキュベーターの中で48時間インキュベートした。KGMシングルクオーツ(Lonza)を添加することによって完全なKGMを調製した。暗い色のヒト新生児上皮メラノサイト(HEM−DP)(Invitrogen)をケラチノサイトの上に2.5×10細胞/ウエルで播種し、37℃で24時間インキュベートした。KGMを1mlのメラノサイト増殖培地(MGM)(Invitrogen)で置換し、共培養物を更に48時間インキュベートした。その共培養物を、3通り、最終体積が20マイクロリットル/ウエルで指示された濃度の阻害剤で72時間処理した。細胞を1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で軽く洗浄し、室温で20分間かけて4%パラホルムアルデヒド(PFA)の中に固定した。
【0280】
レクチン組織化学
4%PFAの中に固定した細胞を1×PBSの中で洗浄し、二重酵素ブロック溶液(Dako, Glostrop, デンマーク国)の中で室温にて10分間インキュベートした後、1×PBSで洗浄し、次いでタンパク質ブロック溶液とともに室温で10分間インキュベートした。次に細胞を、ビオチニル化したニワトコ樹皮レクチン(1:800)(Vector Labs、バーリンゲーム、カリフォルニア州)とともに室温で30分間インキュベートした。細胞を1×PBSの中で洗浄した後、ベクタステインABC−AP(Vector Labs)複合体とともに室温で30分間インキュベートした。ABC−AP複合体は、ベクタステインABC−APキットに提供されている教材に従って新たに調製した。細胞を1×PBSの中で洗浄してABC−AP複合体を除去し、ファーストレッド色素原染色溶液(Dako)とともに室温で10分間インキュベートした。細胞を水の中ですすぎ、無ギルヘマトキシリンとともに5分間インキュベートした。スライドをHOの中ですすいだ後、0.5%水酸化アンモニウムで軽く洗浄した。スライドを大気中で乾燥させ、カバースリップの上に取り付け、蛍光顕微鏡(Nikon)を用いて画像をtiff形式で取得し、分析した。
【0281】
メラニンのためのフォンタナ−マッソン銀染色
メラニンのための銀染色を、フォンタナ−マッソン染色キット(American MasterTech、ロディ、カリフォルニア州)とともに提供された教材に従って実施した。コラーゲン被覆チェンバースライドの中で増殖した細胞を4%PFAの中に固定し、水で5分間すすいでPBSの痕跡を除去した。次にスライドをアンモニア性銀溶液の中に入れた後、0.1%塩化金溶液と5%チオ硫酸ナトリウム溶液の中でインキュベートし、流し放しの水道水の中ですすいで染色溶液を除去し、新鮮な無水アルコールを3回交換して脱水した。清浄になったスライドを、新鮮なキシレンを3回交換してすすぎ、取り付け媒体を用いてカバースリップを取り付けた。
【0282】
阻害剤を用いた処理
細胞を24ウエルのプレートに2×10細胞/ウエルで播種し、様々な阻害剤で処理したものを3通り用意した。24時間ごとに、培地を、新鮮な阻害剤を含む培地と交換した。72時間後、プロテアーゼ阻害剤カクテルとPMSF(フェニルメチルスルホニルフルオリド)を含む細胞溶解緩衝液(Invitrogen)を用いて細胞を溶解させ、氷の上で20分間インキュベートした。細胞溶解緩衝液とともにインキュベートした後、溶解した細胞を10,000rpmで10分間遠心分離した。ドーパオキシダーゼ活性を測定するため同じサンプルから上清を採取し、ペレットでメラニン含量を評価した。
【0283】
ドーパオキシダーゼアッセイ
反応混合物は、ライセート上清20μlと10mMのL−ドーパ20μlを50mMのリン酸ナトリウム緩衝液160μl(0.1M、pH6.8)の中に含んでいた。3通り用意したサンプルを96ウエルのプレートに移し、その直後、M5マイクロプレート読み取り機(ThermoScientific、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いて1分間隔で30分間にわたって475nmで吸光度を読み取ることによってドーパクロムの形成を評価した。反応速度論から導出される勾配を用い、無処理の対照に対する処理したウエルでの%ドーパオキシダーゼ/チロシナーゼ活性を計算した。
【0284】
メラニンアッセイ
以前に記載されている手順(Ni−Komatsu, et al., 2005, Pigment Cell Res 18(6), 447−453)に従ってメラニンを抽出した。簡単に述べると、増殖培地を除去し、細胞を上記のようにして溶解させた。溶解した細胞を遠心分離し、ペレットをエタノール:エーテル(1:1)溶液で洗浄し、次いで2NのNaOHの中の100μlの20%DMSOの中に溶解させた。メラニン抽出液(100μl)を96ウエルのプレートに移し、M5 Spectramaxプレート読み取り機(490nm)を用いて全メラニン含量を定量した。
【0285】
写真と画像処理
Spot Flexデジタルカメラを取り付けたZeiss Axioskop 40光学顕微鏡を用い、培養した細胞の代表的な視野を撮影した。フォトショップツールを用い、関心のある領域を本明細書の処理群にカット&ペーストした。所与の図面に関し、どの複合画像も、自動コントラストツールと自動ブライトニングツールを用いて単一のレイヤー内で共に画質を向上させた。
【0286】
統計
ブリス相加性と相乗性に関し、記載されている(Fitzgerald et al., 2006, Nat Chem Biol 2:458−466; Ritz, C. & Streibig, J. C. (2005) Bioassay Analysis using R. J. Statist. Software, Vol 12, Issue 5)ようにして用量−応答曲線を評価した。処理培養物と無処理培養物でメラニン含量とチロシナーゼ/ドーパオキシダーゼ活性を比較するため、P値をウェルチの2標本t検定によって求めた。
【0287】
ST6とST3のノックダウン
24ウエルのプレートにマウスmelan−A細胞を8×10細胞/ウエルで播種し、37℃で24時間インキュベートした。次に、RNAiFectトランスフェクション・ハンドブック(Qiagen)に従ってその細胞にST6 siRNAとST3 siRNAをトランスフェクトした。簡単に述べると、それぞれsiRNA ST6とsiRNA ST3を1μg、RNAiFectトランスフェクト試薬に1:3と1:6の希釈率で添加し、培地100μl中の3μlと6μlのRNAiFectを用いて複合体にし;melan−A細胞とともに室温で10〜15分間インキュベートし、次いで37℃で更に24時間インキュベートした。培養物をすすぎ、新鮮な培地を添加し、細胞を37℃で更に24時間インキュベートした後、固定し、EBLを用いて染色した(Ni−Komatsu et al., 2005, Pigment Cell Res, 18: 447−53)。
【0288】
これら実験の結果をこれから説明する。
【0289】
皮膚生検におけるレクチンの結合の研究
特殊なグリコシル化構造のためのマーカーとして20個のビオチニル化したレクチンの集団を構成し、レクチン組織化学を利用して、正常な上皮メラノサイトとケラチノサイトを有する皮膚生検におけるその染色パターンを分析した。調べた20個のレクチンの大半で特殊な染色のメラノサイトは見られなかったが、ニワトコ樹皮レクチン(EBL/SNA)が目立った。なぜならそれは、上皮内の正常なメラノサイトを他の細胞よりも染色し、樹状突起部の顕著な標識を有していたからである。EBL/SNAは、幾つかのグリカン上の末端Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc配列を認識する。図2に、EBLと褐色色素原で染色した生検の光学顕微鏡写真を示す。4つの集団のそれぞれは、異なる個人からのものである。染色から、上皮の基底層にあるメラノサイトが、細胞体から出る目立つメラノサイト樹状突起部を有することが明らかである(図2)。(矢印で示した)メラノサイトの核は、周囲のケラチノサイトと同様、ヘマトキシリン対比染色から青色に染色される。多彩な人種的背景と皮膚の色を持つ個人からの生検で同じ染色パターンが見られた。
【0290】
第2の研究では、一個人からの皮膚生検の組織学的切片を、EBLで染色するとともに、上述の20個のレクチン調査でメラノサイトをほとんど、又はまったく染色しなかった対照としてのMAAIIレクチン(マアキア・アムレンシスL.)で染色した(図3A図3B)。MAAIIは、Neu5Ac(α2,3)Gal/GalNAc配列を認識する。図2におけるように、EBL染色は、細胞体から出る目立つメラノサイト樹状突起部を示した(図3A)。それとは対照的にMAAIIレクチン(マアキア・アムレンシスL.)は、メラノサイトを染色しなかった(図3B)。MAAIIは、Neu5Ac(α2,3)Gal/GalNAc配列を認識する。これらの知見は、メラノサイトに対するEBLレクチンとNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc配列の特異性を強調するのに役立つ。
【0291】
メラノサイト−ケラチノサイト共培養物の中でのEBL/SNA結合
次に、ヒトのメラノサイトとケラチノサイトの共培養物でEBL/SNA染色を調べた。EBL/SNA染色は、赤色色素原を用いて可視化した。図4Aは、ケラチノサイトと接触しているメラノサイトを示している。メラノサイトの細胞膜は、樹状突起部を含め、EBL/SNAで強く染色される。メラノサイト樹状突起部は、ケラチノサイトとの接触点において、やはりEBL/SNAで染色される多数の糸状偽足(星印)を延ばしている。より高倍率の画像を図4Bに示す。
【0292】
EBL/SNAによって認識される特異的オリゴ糖配列
EBL/SNAによって認識されるシアリル化されたオリゴ糖配列Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcは、様々な生物系における幾つかの膜関連糖コンジュゲートの末端配列である(Schauer, 2009, Curr Opin Struct Biol 19:507−514)。EBLは、立体障害が理由で、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc配列と、それに関連したNeu5Ac(α2,3)Gal/GalNAc配列を識別するため、結合は非常に特異的である(Shibuya et al, 1987, J Biol Chem, 262(4): 1596−1601; Kaku et al, 2007, J Biochem, 142: 3)。本明細書に提示した結果は、EBL/SNAレクチンによって認識されるNeu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc配列はメラノサイト樹状突起部上のグリカンの末端にあって、その場所においてメラノサイト樹状突起部がケラチノサイトへのメラノソームの移動に関与しているらしいことを初めて明らかにしたものである。これは、色素沈着経路において以前は認識されていなかった工程を示していると考えられる。それと整合するように、末端にノイラミニン/シアル酸を有するN結合型オリゴ糖とO結合型オリゴ糖は、細胞−細胞の認識と付着を含め、生物学的認識系において機能する(Schauer, 2009, Curr Opin Struct Biol 19:507−514)。ケラチノサイトへのメラノソームの移動は、皮膚色素沈着における速度制限ステップであるため、これは、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−オリゴ糖の合成及び/又は機能の崩壊がメラノソームの移動を阻害し、従って皮膚色素沈着を減少させる方法を提供することを示唆している。そこでこれらのプロセスの潜在的阻害剤を試験し、それらが共培養物の中でメラノサイトとケラチノサイトにどのように影響を与えることができるかを調べた。
【0293】
メラノサイト−ケラチノサイト共培養物の中でのEBL結合に対するL−シチジンの効果
メラノサイト−ケラチノサイト共培養物の中で、シチジン、即ちST6Gal.I阻害剤(Kleineidam et al., 1997, Glycoconj J, 14: 57−66)がEBL/SNA染色に与える効果を調べるために実験を実施した(図5)。無処理の培養物は、ケラチノサイトと接触している糸状偽足を含め、メラノサイト樹状突起部の顕著なEBL染色を示した。この密な関連は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAcを末端に有するオリゴ糖がメラノソームの輸送において機能を果たしていることを示していた(図5A)。シチジンを用いた処理は、EBL染色を顕著に減少させた(図5B)。これらの結果は、Neu5Ac(α2,6)Gal/GalNAc−オリゴ糖の形成にST6Gal.Iが必要であることと、シチジンがこのプロセスの有効な阻害剤であることを示している。
【0294】
メラノサイト−ケラチノサイト共培養物の中のメラニン含量に対するL−シチジン、6‘−シアリルラクトース、3‘−シアリルラクトースの効果
そこで、ヒトのメラノサイト−ケラチノサイト共培養物中のメラニン含量に対するシチジンの効果を調べた。EBL/SNA認識配列のオリゴ糖ホモログであるとともに、高度にシアリル化した糖タンパク質のグリコフォリンのEBL誘導性沈殿の強力な阻害剤(Shibuya et al, 1987, J Biol Chem, 262(4): 1596−1601; Kaku et al, 2007, J Biochem, 142: 3)である6‘−シアリルラクトース(Neu5Ac(α2,6)Gal(β1−4)Glc;6’−SL)も調べた。対照として、培養物を、立体障害が原因でEBL/SNA結合部位と相互作用せず、その帰結としてグリコフォリンのEBL誘導性沈殿の貧弱な阻害剤(Shibuya et al, 1987, J Biol Chem, 262(4): 1596−1601; Kaku et al, 2007, J Biochem, 142: 3)である3‘−シアリルラクトース(Neu5Ac(α2,6)Gal(β1−4)Glc;3’−SL)とともにインキュベートした。培養物を各薬剤とともに72時間インキュベートし、細胞を遠心分離によってペレット化し、メラニンを可溶化し、分光測光法で定量した。3種類の薬剤全てが、個別に、無処理の培養物と比べてメラニン含量を減少させた(図6)。予想に反し、これは3’−SLを含んでいて、それが3種類の中で最も大きく減少させた。これは驚くべきことである。なぜなら3’−SLは、議論されている(Shibuya et al, 1987, J Biol Chem, 262(4): 1596−1601; Kaku et al, 2007, J Biochem, 142: 3)ように、EBLの結合に関する貧弱な競合物だからである。
【0295】
同様に、メラノサイト−ケラチノサイト共培養物をメラニンに関してフォンタナ−マッソン銀染色手順(Kwon−Chung et al., 1981, J Clin Microbiol, 13:383−387)で染色したとき、シチジン、6’−SL、3’−SLは、それぞれ、メラノサイト−ケラチノサイト共培養物の中のメラニン含量を減少させた(図7)。これは、メラノサイトの中でのメラニン形成と、ケラチノサイトへのメラノソームの移動が、これらの薬剤によってそれぞれ阻害されたことを示していた。
【0296】
シチジンと組み合わせた6‘−SLと3’−SLのメラニン形成に対する効果
メラニン含量とチロシナーゼ活性に対する6’−SL、3’−SL、シチジンの阻害活性を比較するため、単独の薬剤として、また薬剤の組み合わせとして、メラノサイト−ケラチノサイト共培養物で用量−応答研究を実施した。あらゆる処理カテゴリーで、試験した全ての濃度(5〜40マイクロモラー)においてメラニン含量の非常に有意な減少が引き起こされた(図8A;表3)。幾つかの濃度処理では、72時間実験の間は新たなメラニンの合成が、即ち実験当初のtレベル(点線)を超えるメラニンが阻止された。他のケースでは、新たなメラニンの合成が阻止されただけでなく、予想に反し、メラニン含量が、72時間実験の間にtレベル(図8A、点線)で見られたレベルよりも低下した。これは、これらの処理によってメラニンの分解が引き起こされるか、メラニンが培地に放出されたことを意味する。各濃度における阻害率を、ブリス相加性、即ち単独の2種類の薬剤の和に実質的に等しいことに関して比較し、分析した(Fitzgerald et al., 2006, Nat Chem Biol 2:458−466; Ritz, C. & Streibig, J. C., 2005, Bioassay Analysis using R. J. Statist. Software, Vol 12, Issue 5)。処理濃度の多くが実際にブリス相加性を示したが、他のものは、相乗性、即ちブリス相加性での予想を超える有意な阻害を示した。相乗性は、3’−SL+6’−SLの組み合わせ(5+5マイクロモラー、10+10マイクロモラー、15+15マイクロモラー);3’−SL+シチジンの組み合わせ(15+15マイクロモラー);6’−SL+シチジンの組み合わせ(15+15マイクロモラー)で見られ、P値は、p=≦0.01〜p=≦0.06の範囲であった(図8A、星印)。同じサンプルで、どの薬剤もチロシナーゼ活性を有意に低下させることはなかった(図8B)。これらの結果は、合わせると、これら阻害剤が、チロシナーゼ後経路を標的とすることにより、おそらくグリコシル化プロセスに干渉することを通じてメラニン含量を減少させたことを示している。
【0297】
【表3】
【0298】
それぞれの処理カテゴリーについて、メラニン含量の阻害が80%超となる最小用量を求めた。6’−SL+3’−SLの組み合わせが最も有効であり、5マイクロモラー+5マイクロモラーという組み合わせ濃度でメラニン含量の阻害が約85%になった。これは、他のどのカテゴリーと比べても3倍活性が大きい(図8A、表4)。
【0299】
【表4】
【0300】
メラニンの移動に対するシチジン、3’−SL、6’−SLの効果
シチジン、3’−SL、6’−SLを単独で用いた処理と組み合わせて用いた処理の後に、メラノサイト−ケラチノサイトのメラノソーム移動に対する効果を評価した。図9Aは、幾つかのケラチノサイトによって取り囲まれた高度にメラニン化されたメラノサイトがある、無処理の共培養物からの代表的な視野を示している。メラノサイトにはメラノソームが詰め込まれ、細胞膜の大部分で近隣のケラチノサイトと密に接触している。メラノサイトと直接に接触しているケラチノサイト(白い星印を付けた核)は、メラノサイトから移動した多数の細胞質メラニン顆粒を含んでいる。メラノサイトと接触していないケラチノサイト(黒い星印を付けた核)は、顕著により少ないメラノソームを含んでいた。それとは対照的に、3’−SL+シチジンの組み合わせで処理した共培養物からの代表的な視野は、両方のタイプの細胞で、メラノサイト−ケラチノサイト接触の顕著な減少と、メラノソームの減少を示している(図9B)。あらゆる処理カテゴリーでこれらの効果が見られたが、移動はダイナミックなプロセスであるため、本明細書で調べた静的に固定された培養物でそれを定量化することはできなかった。上記の結果は、合わせると、シチジン、3’−SL、6’−SL(及び/又はこれらの化合物を含む植物エキス)は、単独で、又は組み合わせで、皮膚の色素沈着を減少させるのに有効であると考えられる。
【0301】
ST6 siRNAとST3 siRNAのトランスフェクション
ST6 siRNAとST3 siRNAをマウスmelan−A細胞にトランスフェクトしたところ、メラニンの産生(図11)は、ST6 siRNAによって強く阻害され、ST3 siRNAによってある程度阻害された。これらの知見は、合わせると、シアリル(α2,6)galを末端に有するグリカンが、メラニンの合成と、ケラチノサイトへのメラノソームの移動に重要な役割を果たしていることを明らかにしている。
【0302】
本明細書で引用したあらゆる特許、特許出願、刊行物のそれぞれの開示内容は全て、本明細書において参照により援用される。本発明を具体的な態様を参照して開示してきたが、当業者であれば、本発明の真の精神と範囲を逸脱することなく、本発明の他の態様とバリエーションを考案できることは明らかである。添付の請求項には、そのような態様並びに同等なバリエーションが全て含まれるものとする。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11