特許第6669532号(P6669532)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許6669532-電力変換装置 図000003
  • 特許6669532-電力変換装置 図000004
  • 特許6669532-電力変換装置 図000005
  • 特許6669532-電力変換装置 図000006
  • 特許6669532-電力変換装置 図000007
  • 特許6669532-電力変換装置 図000008
  • 特許6669532-電力変換装置 図000009
  • 特許6669532-電力変換装置 図000010
  • 特許6669532-電力変換装置 図000011
  • 特許6669532-電力変換装置 図000012
  • 特許6669532-電力変換装置 図000013
  • 特許6669532-電力変換装置 図000014
  • 特許6669532-電力変換装置 図000015
  • 特許6669532-電力変換装置 図000016
  • 特許6669532-電力変換装置 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6669532
(24)【登録日】2020年3月2日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20200309BHJP
   H02P 25/22 20060101ALI20200309BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20200309BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
   H02M7/48 E
   H02P25/22
   H02P27/06
   H02P27/08
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-37241(P2016-37241)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-158233(P2017-158233A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 芳光
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 満孝
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 剛
【審査官】 小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−139340(JP,A)
【文献】 特開2014−027792(JP,A)
【文献】 特開2015−035874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 25/22
H02P 27/06
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線(11、12、13)を有する回転電機(10)の電力を変換する電力変換装置であって、
第1スイッチング素子(21〜26)を有し、前記巻線の一端(111、121、131)および第1電圧源(41)と接続される第1インバータ(20)と、
第2スイッチング素子(31〜36)を有し、前記巻線の他端(112、122、132)および第2電圧源(42)と接続される第2インバータ(30)と、
前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子のオンオフ作動を制御する制御部(65)と、
を備え、
前記第1電圧源により印加可能な電圧である第1電源電圧と、前記第2電圧源により印加可能な電圧である第2電源電圧とは異なっており、
前記制御部は、
前記回転電機の駆動要求が前記第1電圧源または前記第2電圧源の一方の入出力にて駆動可能な領域の一部である差電圧領域である場合、前記巻線の印加電圧が前記第1電源電圧と前記第2電源電圧との差に応じた電圧となる差電圧制御にて前記第1インバータおよび前記第2インバータを制御し、
前記第1電源電圧は、前記第2電源電圧より大きく、かつ、前記第1電源電圧と前記第2電源電圧との差が前記第2電源電圧より小さい場合、
前記制御部は、前記第2電圧源の入出力で前記回転電機を駆動可能な領域の中間領域を前記差電圧領域とする電力変換装置。
【請求項2】
巻線(11、12、13)を有する回転電機(10)の電力を変換する電力変換装置であって、
第1スイッチング素子(21〜26)を有し、前記巻線の一端(111、121、131)および第1電圧源(41)と接続される第1インバータ(20)と、
第2スイッチング素子(31〜36)を有し、前記巻線の他端(112、122、132)および第2電圧源(42)と接続される第2インバータ(30)と、
前記第1スイッチング素子および前記第2スイッチング素子のオンオフ作動を制御する制御部(65)と、
を備え、
前記第1電圧源により印加可能な電圧である第1電源電圧と、前記第2電圧源により印加可能な電圧である第2電源電圧とは異なっており、
前記制御部は、
前記回転電機の駆動要求が前記第1電圧源または前記第2電圧源の一方の入出力にて駆動可能な領域の一部である差電圧領域である場合、前記巻線の印加電圧が前記第1電源電圧と前記第2電源電圧との差に応じた電圧となる差電圧制御にて前記第1インバータおよび前記第2インバータを制御し、
前記第1電源電圧は、前記第2電源電圧より大きく、かつ、前記第1電源電圧と前記第2電源電圧との差が前記第2電源電圧より大きい場合、
前記制御部は、
前記第2電圧源の入出力で前記回転電機を駆動可能な低電圧側上限値と、前記第1電圧源の入出力で前記回転電機を駆動可能な高電圧側上限値との間の領域の中間領域を、前記差電圧領域とする電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記差電圧制御を行う場合、前記第1インバータおよび前記第2インバータを、同位相の基本波に基づいて制御する請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記差電圧領域は、前記第1インバータおよび前記第2インバータを同位相にて矩形波制御することで出力可能な同位相矩形出力値を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記差電圧制御を行うとき、
前記第1インバータを矩形波制御または過変調PWM制御により、前記第1スイッチング素子を制御し、
前記第2インバータを矩形波制御または過変調PWM制御により、前記第2スイッチング素子を制御する請求項1〜のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1電源電圧を検出する第1電圧検出部(46)および前記第2電源電圧を検出する第2電圧検出部(47)の少なくとも一方から検出値を取得し、取得された前記検出値に基づき、前記差電圧領域を変更する請求項1〜のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つのインバータによりモータの電力を変換するインバータ駆動システムが知られている。例えば特許文献1では、第1のインバータシステムと第2のインバータシステムのパルス幅変調信号(以下、パルス幅変調を「PWM」という。)の基本波成分の位相を180[°]ずらすことで2つの電源が電気的に直列接続され、2つの電源電圧の和によりモータを駆動する。また、一方のインバータにおいて上下アームのいずれか3相を同時オンし、他方のインバータにおいてパルス幅変調駆動を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−238686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、片側電源電圧で駆動する全ての駆動領域にてPWM制御を行う場合、インバータにおけるスイッチング損失およびモータにおける鉄損が大きくなる虞がある。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、損失を低減可能な電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電力変換装置は、巻線(11、12、13)を有する回転電機(10)の電力を変換するものであって、第1インバータ(20)、第2インバータ(30)、および、制御部(65)を備える。
第1インバータは、第1スイッチング素子(21〜26)を有し、巻線の一端(111、121、131)および第1電圧源(41)と接続される。
第2インバータは、第2スイッチング素子(31〜36)を有し、巻線の他端(112、122、132)および第2電圧源(42)と接続される。
制御部は、第1スイッチング素子および第2スイッチング素子のオンオフ作動を制御する。
【0006】
第1電圧源により印加可能な電圧である第1電源電圧と第2電圧源により印加可能な電圧である第2電源電圧とは、異なっている。
制御部は、回転電機の駆動要求が第1電圧源または第2電圧源の一方の入出力にて駆動可能な領域の一部である差電圧領域である場合、巻線の印加電圧が第1電源電圧と第2電源電圧との差に応じた電圧となる差電圧制御にて、第1インバータおよび第2インバータを制御する。
第1態様では、第1電源電圧は、第2電源電圧より大きく、かつ、第1電源電圧と第2電源電圧との差が第2電源電圧より小さい場合、制御部は、第2電圧源の入出力で回転電機を駆動可能な領域の中間領域を差電圧領域とする。
第2態様では、第1電源電圧は、第2電源電圧より大きく、かつ、第1電源電圧と前記第2電源電圧との差が第2電源電圧より大きい場合、制御部は、第2電圧源の入出力で回転電機を駆動可能な低電圧側上限値と、第1電圧源の入出力で回転電機を駆動可能な高電圧側上限値との間の領域の中間領域を、差電圧領域とする。
差電圧制御を行うことで、巻線に印加される電圧を低くすることができ、損失を低減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の第1実施形態による電力変換装置を示す概略構成図である。
図2】本発明の第1実施形態による相電流、相電圧および線間電圧を説明する説明図である。
図3】本発明の第1実施形態による片側制御を説明する説明図である。
図4】本発明の第1実施形態による和電圧制御および差電圧制御を説明する説明図である。
図5】本発明の第1実施形態による基本波を説明する説明図である。
図6】本発明の第1実施形態による駆動領域を説明する説明図である。
図7】本発明の第1実施形態による回転電機システムの損失を説明する説明図である。
図8】本発明の第1実施形態にて、第1インバータおよび第2インバータを矩形波制御する場合のスイッチングパターンを説明する説明図である。
図9】本発明の第1実施形態にて、第1インバータおよび第2インバータを矩形波制御する場合の電圧および電流を示すタイムチャートである。
図10】本発明の第1実施形態にて、第1インバータを過変調PWM制御し、第2インバータを矩形波制御する場合の電圧および電流を示すタイムチャートである。
図11】本発明の第1実施形態にて、第1インバータを矩形波制御し、第2インバータを過変調PWM制御する場合の電圧および電流を示すタイムチャートである。
図12】本発明の第2実施形態による駆動領域を説明する説明図である。
図13】本発明の第3実施形態による電力変換装置を示す概略構成図である。
図14】参考例による駆動領域を説明する説明図である。
図15】第1インバータおよび第2インバータを正弦波PWM制御する場合の電圧および電流を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明による電力変換装置を図面に基づいて説明する。以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による電力変換装置を図1図11に示す。
図1に示すように、回転電機駆動システム1は、回転電機としてのモータジェネレータ10、および、電力変換装置15を備える。
【0009】
モータジェネレータ10は、例えば電気自動車やハイブリッド車両等の電動自動車に適用され、図示しない駆動輪を駆動するためのトルクを発生する、所謂「主機モータ」である。モータジェネレータ10は、駆動輪を駆動するための電動機としての機能、および、図示しないエンジンや駆動輪から伝わる運動エネルギによって駆動されて発電する発電機としての機能を有する。本実施形態では、モータジェネレータ10が電動機として機能する場合を中心に説明する。
【0010】
モータジェネレータ10は、3相交流の回転機であって、U相コイル11、V相コイル12、および、W相コイル13を有する。U相コイル11、V相コイル12およびW相コイル13が「巻線」に対応し、以下適宜、U相コイル11、V相コイル12およびW相コイル13を「コイル11〜13」という。
本実施形態では、U相コイル11に流れる電流をU相電流Iu、V相コイル12に流れる電流をV相電流Iv、W相コイル13に流れる電流をW相電流Iwとする。
【0011】
電力変換装置15は、モータジェネレータ10の電力を変換するものであって、第1インバータ20、第2インバータ30、および、制御部65等を備える。
第1インバータ20は、コイル11〜13の通電を切り替える3相インバータであり、スイッチング素子21〜26を有する。第2インバータ30は、コイル11〜13の通電を切り替えるスイッチング素子31〜36を有する。
スイッチング素子21は、素子部211および還流ダイオード221を有する。他のスイッチング素子22〜26、31〜36も同様、それぞれ、素子部212〜216、311〜316、および、還流ダイオード222〜226、321〜326を有する。
【0012】
素子部211〜216、311〜316は、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)であって、制御部65によってオンオフ作動が制御される。素子部211〜216、311〜316は、オンされたときに高電位側から低電位側への通電が許容され、オフされたときに通電が遮断される。素子部211〜216、311〜316は、IGBTに限らず、MOSFET等であってもよい。
【0013】
還流ダイオード221〜226、321〜326は、素子部211〜216、311〜316のそれぞれと並列に接続され、低電位側から高電位側への通電を許容する。例えば、還流ダイオード221〜226、321〜326は、例えば、MOSFETの寄生ダイオード等のように、素子部211〜216、311〜316に内蔵されていてもよいし、外付けされたものであってもよい。
【0014】
第1インバータ20において、高電位側にスイッチング素子21〜23が接続され、低電位側にスイッチング素子24〜26が接続される。また、スイッチング素子21〜23の高電位側を接続する第1高電位側配線27が第1バッテリ41の正極と接続され、スイッチング素子24〜26の低電位側を接続する第1低電位側配線28が第1バッテリ41の負極と接続される。
【0015】
U相のスイッチング素子21、24の接続点にはU相コイル11の一端111が接続され、V相のスイッチング素子22、25の接続点にはV相コイル12の一端121が接続され、W相のスイッチング素子23、26の接続点にはW相コイル13の一端131が接続される。すなわち、第1インバータ20は、コイル11、12、13と第1バッテリ41との間に接続される。
【0016】
第2インバータ30において、高電位側にスイッチング素子31〜33が接続され、低電位側にスイッチング素子34〜36が接続される。また、スイッチング素子31〜33の高電位側を接続する第2高電位側配線37が第2バッテリ42の正極と接続され、スイッチング素子34〜36の低電位側を接続する第2低電位側配線38が第2バッテリ42の負極と接続される。
【0017】
U相のスイッチング素子31、34の接続点にはU相コイル11の他端112が接続され、V相のスイッチング素子32、35の接続点にはV相コイル12の他端122が接続され、W相のスイッチング素子33、36の接続点にはW相コイル13の他端132が接続される。すなわち、第2インバータ30は、コイル11、12、13と第2バッテリ42との間に接続される。
以下適宜、高電位側に接続されるスイッチング素子21〜23、31〜33を「上アーム素子」、低電位側に接続されるスイッチング素子24〜26、34〜36を「下アーム素子」という。
【0018】
リチウムイオン電池等の充放電可能な直流電源である第1電圧源としての第1バッテリ41は、第1インバータ20と接続され、第1インバータ20を経由してモータジェネレータ10と電力を授受可能に設けられる。
リチウムイオン電池等の充放電可能な直流電源である第2電圧源としての第2バッテリ42は、第2インバータ30と接続され、第2インバータ30を経由してモータジェネレータ10と電力を授受可能に設けられる。
【0019】
本実施形態では、第1バッテリ41の第1電圧をV1、第2バッテリ42の電圧を第2電源電圧V2とし、第2電源電圧V2は、第1電源電圧V1より小さいものとする。すなわち、V1>V2である。また、第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との差電圧が、第2電源電圧V2より小さいものとする。すなわち、(V1−V2)<V2である。
【0020】
第1コンデンサ43は、第1高電位側配線27と第1低電位側配線28とに接続される。第1コンデンサ43は、第1バッテリ41から第1インバータ20側への電流、または、第1インバータ20から第1バッテリ41側への電流を平滑化する平滑コンデンサである。
第2コンデンサ44は、第2高電位側配線37と第2低電位側配線38とに接続される。第2コンデンサ44は、第2バッテリ42から第2インバータ30側への電流、または、第2インバータ30側から第2バッテリ42側への電流を平滑化する平滑コンデンサである。
【0021】
制御信号生成部60は、第1ドライバ回路61、第2ドライバ回路62、および、制御部65を有する。
制御部65は、マイコンを主体として構成され、各種演算処理を行う。制御部65における各処理は、予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
制御部65は、第1インバータ20および第2インバータ30を制御する。具体的には、トルク指令値trq*や電流指令値Iu*、Iv*、Iw*等のモータジェネレータ10の駆動に係る指令値に基づき、スイッチング素子21〜26、31〜36の素子部211〜216、311〜316のオンオフ作動を制御する制御信号を生成し、ドライバ回路61、62に出力する。
【0022】
第1ドライバ回路61は、制御部65からの制御信号に応じ、素子部211〜216のオンオフ作動を制御するゲート信号を生成して出力する。第2ドライバ回路62は、制御部65からの制御信号に応じ、素子部311〜316のオンオフ作動を制御するゲート信号を生成して出力する。素子部211〜216、311〜316が制御信号に応じてオンオフされることで、バッテリ41、42の直流電力が交流電力に変換され、モータジェネレータ10へ供給される。これにより、モータジェネレータ10の駆動は、第1インバータ20および第2インバータ30を介して、制御部65に制御される。以下適宜、スイッチング素子21〜26、31〜36の素子部211〜216、311〜316のオンオフ作動を制御することを、単にスイッチング素子21〜26、31〜36のオンオフ作動を制御する、という。
【0023】
本実施形態における相電流、相電圧および線間電圧を図2に示す。図2では、コンデンサ43、44および制御部65等を適宜省略している。図3図4および図8も同様である。
図2に示すように、U相電流Iuは、第1インバータ20側から第2インバータ30側に流れる場合を正、第2インバータ30から第1インバータ20側に流れる場合を負とする。また、U相電圧Vuは、U相コイル11の第2インバータ30側を基準とした第1インバータ20側の電圧である。V相、W相も同様である。
また、第1インバータ20側におけるV相基準のU相電圧を線間電圧Vuv1、第2インバータ30側におけるV相基準のU相電圧を線間電圧Vuv2とする。
【0024】
モータジェネレータ10の制御を図3図5に基づいて説明する。
本実施形態の回転電機駆動システム1における制御には、第1バッテリ41または第2バッテリ42の電力を用いる「片側制御」、および、第1バッテリ41および第2バッテリの電力を用いる「和電圧制御」に加え、第1バッテリ41と第2バッテリ42との差電圧を用いる「差電圧制御」が含まれる。また、第1バッテリ41の電力を用いる片側制御を、「高電圧片側制御」、第2バッテリ42の電力を用いる片側制御を「低電圧片側制御」とする。
【0025】
高電圧片側制御では、第2インバータ30の上アーム素子31〜33の全相、または、下アーム素子34〜36の全相の一方をオン、他方をオフし、第2インバータ30を中性点化する。上アーム素子31〜33をオンするか、下アーム素子34〜36をオンするかは、熱損失等に応じ、適宜、切り替え可能である。第1インバータ20を中性点化する場合も同様である。
【0026】
また、高電圧片側制御では、第1基本波F1に応じてスイッチング素子21〜26をスイッチングする。第1基本波F1に応じた制御は、基本波F1の振幅がキャリア波の振幅以下である、すなわち変調率が1以下である正弦波PWM制御とする。または、基本波の振幅がキャリア波の振幅より大きい、すなわち変調率が1より大きい過変調PWM制御であってもよい。さらにまた、振幅を無限大とみなし、基本波F1の半周期ごとに各素子のオンオフが切り替えられる矩形波制御としてもよい。矩形波制御は、電気角の180°ごとに各素子のオンオフを切り替える180°通電制御と捉えることもできる。また、矩形波制御において、例えば120°通電等、通電位相は180°以外であってもよい。
低電圧片側制御、和電圧制御、差電圧制御についても同様である。
【0027】
例えば、図3(a)に示すように、第2インバータ30が中性点化され、第1インバータ20において、U相の上アーム素子21、および、V相、W相の下アーム素子25、26がオンされているとき、矢印Y1のように電流が流れ、モータジェネレータ10は第1バッテリ41の電力を用いて駆動される。
【0028】
低電圧片側制御では、上アーム素子21〜23の全相、または、下アーム素子24〜26の全相の一方をオン、他方をオフし、第1インバータ20を中性点化する。
また、低電圧片側制御では、第2基本波F2に応じてスイッチング素子31〜36をスイッチングする。
【0029】
例えば、図3(b)に示すように、第1インバータ20が中性点化され、第2インバータ30において、U相の上アーム素子31、および、V相、W相の下アーム素子35、36がオンされているとき、矢印Y2のように電流が流れ、モータジェネレータ10は第2バッテリ42の電力を用いて駆動される。
低電圧片側制御にて駆動要求を満たせる場合、高電圧側である第1インバータ20を中性点化し、低電圧側である第2インバータ30をスイッチングした方が、高電圧片側制御と比較し、スイッチング損失を低減可能である。
【0030】
和電圧制御では、図5(a)に示すように、第1インバータ20の制御に係る第1基本波F1の位相と、第2インバータ30の制御に係る第2基本波F2の位相とが反転される。換言すると、第1基本波F1と第2基本波F2とは、位相が略180[°]ずれている。第1基本波F1と第2基本波F2の位相を反転し、第1基本波F1に基づいて第1インバータ20を制御し、第2基本波F2に基づいて第2インバータ30を制御することで、第1バッテリ41と第2バッテリ42とが電気的に直列接続されている状態とみなすことができ、第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との和に相当する電圧(すなわち、V1+V2)をモータジェネレータ10に印加可能である。
【0031】
なお、第1基本波F1と第2基本波F2との位相差は、180[°]とするが、第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との和に応じた電圧をモータジェネレータ10に印加可能な程度のずれは許容されるものとする。
第1基本波F1の振幅と、第2基本波F2の振幅とは、等しくてもよいし、異なっていてもよい。図5では、1相分の基本波F1、F2について、振幅が等しいものとして記載した。また、図5においては、キャリア波の記載を省略している。差電圧制御についても同様である。
【0032】
例えば、第1基本波F1と第2基本波F2の振幅および波形が等しい場合、図4(a)に示すように、第1インバータ20において、U相の上アーム素子21、および、V相、W相の下アーム素子25、26がオン、第2インバータ30において、U相の下アーム素子34、および、V相、W相の上アーム素子32、33がオンされているとき、矢印Y3のように電流が流れ、モータジェネレータ10は第1バッテリ41および第2バッテリ42の電力を用いて駆動される。
【0033】
差電圧制御では、図5(b)に示すように、第1基本波F1および第2基本波F2が同位相である。換言すると、第1基本波F1と第2基本波F2の位相差は略0[°]である。第1基本波F1に基づいて第1インバータ20を制御し、第1基本波F1と同位相の第2基本波F2に基づいて第2インバータ30を制御する。これにより、第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との差(すなわち、V1−V2)に応じた電圧をモータジェネレータ10に印加可能である。
なお、第1基本波F1と第2基本波F2との位相差は、0[°]とするが、第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との差に応じた電圧をモータジェネレータ10に印加可能な程度のずれは許容されるものとする。「同位相」についても同様、差電圧を印加可能な程度のずれは許容されるものとする。
【0034】
例えば、第1基本波F1と第2基本波F2の振幅および波形が等しい場合、図4(b)に示すように、第1インバータ20において、U相の上アーム素子21、および、V相、W相の下アーム素子25、26がオン、第2インバータ30において、U相の上アーム素子31、および、V相、W相の下アーム素子35、36がオンされているとき、矢印Y4のように電流が流れ、モータジェネレータ10は第1バッテリ41の電力を用いて駆動される。また、第2バッテリ42が第1バッテリ41の電力により充電される。
【0035】
モータジェネレータ10の駆動領域について、図6に基づいて説明する。図中、回転数を「N」、トルクを「T」と記載する。ここで、第1電源電圧V1にて出力可能なモータジェネレータ10の回転数およびトルクの上限値を高電圧側上限値BH、第2電源電圧V2にて出力可能なモータジェネレータ10の回転数およびトルクの上限値を低電圧側上限値BLとする。また、第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との和電圧にて出力可能なモータジェネレータ10の回転数およびトルクの上限値を和電圧上限値BTとする。
各上限値BL、BH、BTは、電源電圧V1、V2に応じた値である。
【0036】
本実施形態では、モータジェネレータ10の駆動要求(すなわち回転数およびトルク)が、高電圧側上限値BH、または、低電圧側上限値BLである場合、中性点化しない側のインバータ20、30を矩形波制御する。また、モータジェネレータ10の駆動要求が、和電圧上限値BTである場合、インバータ20、30を矩形波制御する。
【0037】
図14は、差電圧制御を行わない場合の参考例である。モータジェネレータ10の駆動要求が、低電圧側上限値BLより小さい場合、低電圧片側制御とする。モータジェネレータ10の駆動要求が、低電圧側上限値BLより大きく、高電圧側上限値BHより小さい場合、高電圧片側制御とする。モータジェネレータ10の駆動要求が、高電圧側上限値BHより大きく、和電圧上限値BTより小さい場合、和電圧制御とする。以下、低電圧側上限値BLより低出力側を低電圧片側領域RL、低電圧側上限値BLと高電圧側上限値BHとの間を高電圧片側領域RH、高電圧側上限値BHより高出力側を和電圧領域RTとする。
図14では、駆動領域を低出力側から、領域RL、RH、RTの3領域に分けて制御を切り替える。
【0038】
ここで、低電圧片側領域RLまたは高電圧片側領域RHの一部において、片側制御に替えて差電圧制御とすることで、モータジェネレータ10の印加電圧を下げ、スイッチング回数を低減することで、回転電機駆動システム1全体としての損失を低減可能である。
本実施形態では、第2電源電圧V2と第1電源電圧V1との差電圧が、第1電源電圧V1より小さいので、図6に示すように、低電圧片側領域RLの一部を差電圧領域RDとする。
【0039】
差電圧領域RDは、同位相矩形出力値BD0を含む領域であって、低出力側の閾値を下側閾値BD1、高出力側の閾値を上側閾値BD2とする。駆動要求が差電圧領域RDの場合、制御部65は、第1インバータ20および第2インバータ30を差電圧制御する。
本実施形態では、駆動要求が下側閾値BD1より低出力側の第1領域RL1、または、上側閾値BD2と低電圧側上限値BLとの間の第2領域RL2の場合、制御部65は、第1インバータ20および第2インバータ30を低電圧片側制御とする。すなわち、本実施形態の差電圧領域RDは、低電圧片側領域RLの中間領域である、といえる。
また本実施形態では、駆動領域を低出力側から領域RL1、RD、RL2、RH、RTの5領域に分けており、低出力側から、低電圧片側制御、差電圧制御、低電圧片側制御、高電圧片側制御、和電圧制御の順に制御を切り替える。
【0040】
差電圧領域RDには、同位相矩形出力値BD0より低出力側であって、下側閾値BD1との間の領域である下側領域RD1と、同位相矩形出力値BD0より高出力側であって、上側閾値BD2との間の領域である上側領域RD2が含まれる。
駆動要求が同位相矩形出力値BD0の場合、第1インバータ20および第2インバータ30を共に矩形波制御する。駆動要求が下側領域RD1の場合、低電圧側である第1インバータ20を矩形波制御または過変調PWM制御とし、高電圧側である第2インバータ30を過変調PWM制御とする。また、駆動要求が上側領域RD2の場合、第1インバータ20を過変調PWM制御とし、第2インバータ30を矩形波制御または過変調PWM制御とする。
【0041】
第1インバータ20または第2インバータを過変調PWM制御とする場合の変調率は、コイル11〜13に差電圧を印加可能な範囲で適宜設定される。第1インバータ20および第2インバータ30を共に過変調PWM制御する場合、変調率は等しくてもよいし、差電圧を印加可能な範囲内で異なっていてもよい。
なお、理論的には、高電圧側上限値BH以下の全領域を差電圧制御にて出力可能である。
【0042】
下側閾値BD1および上側閾値BD2は、差電圧制御での損失および片側制御での損失に応じて決定される。
ここで、差電圧領域RDの決定に係る回転電機駆動システム1の損失を図7に基づいて説明する。図7は、トルク一定で駆動した場合の各損失を示すものであって、横軸がモータジェネレータ10の回転数であり、(a)が電池内部損失、(b)がインバータ20、30におけるスイッチング損失、(c)がモータジェネレータ10の鉄損(以下、「MG鉄損」と記す。)、(d)が回転電機駆動システム1全体の損失合計である。図7では、同位相矩形出力値BD0、下側閾値BD1および上側閾値BD2に対応する回転数を、それぞれ、同位相矩形回転数ND0、下側回転数閾値ND1および上側回転数閾値ND2とする。また、回転数Nmaxは、低電圧片側制御にて出力可能な最大回転数である。
図7では、差電圧制御での値には、添え字「_D」を付し、実線で表す。低電圧片側制御での値には、添え字「_L」を付し、破線で表す。
【0043】
図7(a)に示すように、第1バッテリ41および第2バッテリ42の2つを用いる差電圧制御での電池内部損失Lb_Dは、第2バッテリ42の1つを用いる低電圧片側制御での電池内部損失Lb_Lよりも大きい。
ここで、電池内部損失について説明する。電池内部損失Lbは、電池出力電流をIb、電池抵抗をRbとすると、式(1)で表される。
Lb=(Ib)2×Rb ・・・(1)
また、電池内部損失Lb_L、Lb_Dは、式(2)、(3)で表される。式中のWは、電池出力であり、Rは第1バッテリ41と第2バッテリ42とを直列接続したときの内部抵抗である。
式(3)に示すように、差電圧制御の場合、第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との差が大きいほど、電池内部損失Lb_Dは小さくなる。
【0044】
【数1】
【0045】
図7(b)に示すスイッチング損失Lsw_L、Lsw_Dは、スイッチング回数と略比例し、スイッチング回数が多いほど大きくなる。正弦波PWM制御が行われている場合、スイッチング回数は、キャリア波の周波数に応じた回数となる。また、過変調PWM制御または矩形波制御が行われている場合、スイッチング回数は、正弦波PWM制御と比較して少なくなる。
低電圧片側制御では第1インバータ20がスイッチングされ、第2インバータ30が中性点化されるのに対し、差電圧制御では、第1インバータ20および第2インバータ30が共にスイッチングされる。そのため、第1インバータ20および第2インバータ30を共に正弦波PWM制御する場合、差電圧制御でのスイッチング損失Lsw_Dは、低電圧片側制御でのスイッチング損失Lsw_Lより大きい。
【0046】
一方、モータジェネレータ10の回転数を同位相矩形回転数ND0とする場合、低電圧片側制御では、第1インバータ20をPWM制御するのに対し、差電圧制御では、第1インバータ20および第2インバータ30を共に矩形波制御する。このとき、低電圧片側制御と比較し、差電圧制御の方が、第1インバータ20および第2インバータ30の合計でのスイッチング回数が少ない。そのため、モータジェネレータ10の回転数を同位相矩形回転数ND0とする場合、低電圧片側制御に替えて差電圧制御とすることで、スイッチング損失を低減可能である。
【0047】
また、同位相矩形回転数ND0に近い回転数を出力する場合、低電圧片側制御に替えて、矩形波制御または過変調PWM制御での差電圧制御とすることでスイッチング損失を低減可能である。
そこで本実施形態では、差電圧制御の方が片側制御よりスイッチング損失が小さくなる回転数範囲の低出力側の閾値を下側回転数閾値ND1とし、高出力側の閾値を上側回転数閾値ND2とする。
【0048】
図7(c)には、モータ鉄損Lm_L、Lm_Dを示す。インバータ20、30を正弦波PWM制御すると、相電流Iu、Iv、Iwにキャリア波周波数に応じた高調波成分が含まれるので、MG鉄損が大きい。そのため、矩形波制御または過変調PWM制御での差電圧制御としてスイッチング回数を減らすことで、MG鉄損を低減可能である。
【0049】
図7(d)に示すように、回転電機駆動システム1全体での損失は、電池内部損失、インバータ20、30でのスイッチング損失、モータジェネレータ10での鉄損、および、その他損失の合計である。回転数が下側回転数閾値ND1より大きく、上側回転数閾値ND2より小さい場合、差電圧制御での損失合計Lt_Dは、低電圧片側制御での損失合計Lt_Lより小さい。ここで、下側回転数閾値ND1および上側回転数閾値ND2を下側閾値BD1および上側閾値BD2に読み替えると、駆動要求が下側閾値BD1より大きく上側閾値BD2より小さい領域では、高電圧片側制御に替えて差電圧制御とする方が、システム全体としての損失が小さい。そこで本実施形態では、損失に基づいて下側閾値BD1および上側閾値BD2を決定し、片側制御に替えて差電圧制御とすることで損失が低減される領域を、差電圧制御とする。
【0050】
なお、図7では、説明の簡略化のため、スイッチング損失の大小が入れ替わる回転数と、損失合計の大小が入れ替わる回転数とが同じであるものとしたが、各損失に応じて異なっていてもよい。本実施形態では、下側閾値BD1および上側閾値BD2を損失合計に基づいて決定するが、スイッチング損失等、一部の損失に基づいて決定してもよい。
【0051】
差電圧制御の詳細を図8図11に示す。図8図11は、各駆動領域にて、モータジェネレータ10を一定回転させるものとする。
図8および図9は、同位相矩形出力値BD0を出力すべく、第1インバータ20および第2インバータ30を共に矩形波制御にて差電圧制御を行う例である。図9では、(a)が線間電圧Vuv1、(b)が線間電圧Vuv2、(c)がU相電圧Vu、(d)がU相電流Iuである。図10図11および図15も同様である。
【0052】
図8および図9に示すように、差電圧制御では、第1インバータ20と第2インバータ30とが同位相でスイッチングされる。ここで、U相電圧Vuが負から正に切り替わるタイミングを電気角0°とする。
電気角0°から60°である期間P1において、図8(a)に示すように、U相およびW相の上アーム素子21、23、31、33、ならびに、V相の下アーム素子25、35がオンされる。
電気角60°から120°である期間P2において、図8(b)に示すように、U相の上アーム素子21、31、ならびに、V相およびW相の下アーム素子25、26、35、36がオンされる。
電気角120°から180°である期間P3において、図8(c)に示すように、U相およびV相の上アーム素子21、22、31、32、ならびに、W相の下アーム素子26、36がオンされる。
【0053】
電気角180°から240°である期間P4において、図8(d)に示すように、V相の上アーム素子22、32、ならびに、U相およびW相の下アーム素子24、26、34、36がオンされる。
電気角240°から300°である期間P5において、図8(e)に示すように、V相およびW相の上アーム素子22、23、32、33、ならびに、U相の下アーム素子24、34がオンされる。
電気角300°から360°である期間P6において、図8(f)に示すように、W相の上アーム素子23、33、ならびに、U相およびV相の下アーム素子24、25、34、35がオンされる。
【0054】
図9(a)に示すように、第1インバータ20側におけるUV間の線間電圧Vuv1は、期間P1、P2においてV1、期間P3、P6において0、期間P4、P5において−V1となる。
図9(b)に示すように、第2インバータ30側におけるUV間の線間電圧Vuv2は、期間P1、P2においてV2、期間P3、P6において0、期間P4、P5において−V2となる。
図9(c)に示すように、第1インバータ20および第2インバータ30を同位相にて矩形波制御することで、U相電圧Vuは、差電圧(V2−V1)に応じた電圧となる。詳細には、期間P1、P3において(1/3)×(V2−V1)、期間P2において(2/3)×(V2−V1)、期間P4、P6において−(1/3)×(V2−V1)、期間P5において−(2/3)×(V2−V1)となる。
また、U相電流Iuは、スイッチング状態に応じ、図9(d)に示す如くとなる。
【0055】
図10は、領域RD1の駆動要求を満たすべく、第1インバータ20を過変調PWM制御し、第2インバータ30を矩形波制御する例である。また、図11は、領域RD2の駆動要求を満たすべく、第1インバータ20を矩形波制御し、第2インバータ30を過変調PWM制御する例である。また、図15は、第1インバータ20を中性点化し、第2インバータ30を正弦波PWM制御する低電圧片側制御する場合の例である。
【0056】
図9図11に示すように、差電圧制御とすることで、コイル11〜13には、第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との差電圧に応じた電圧が印加される。すなわち、差電圧制御とすることで、モータジェネレータ10の印加電圧を下げることができる。また、差電圧領域RDにおいて、矩形波制御または過変調PWM制御により差電圧制御することで、図15に示す正弦波PWM制御により片側制御する例と比較し、システム全体としてのスイッチング回数を低減することができ、スイッチング損失を低減可能である。また、図9(c)、図10(c)および図11(c)に示すように、相電流Iu、Iv、Iwの高周波成分を低減可能であるので、モータジェネレータ10の鉄損を低減することができる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の電力変換装置15は、コイル11〜13を有するモータジェネレータ10の電力を変換するものであって、第1インバータ20と、第2インバータ30と、制御部65と、を備える。
第1インバータ20は、第1スイッチング素子21〜26を有し、コイル11、12、13の一端111、121、131、および、第1バッテリ41と接続される。
第2インバータ30は、第2スイッチング素子31〜36を有し、コイル11、12、13の他端112、122、132、および、第2バッテリ42と接続される。
制御部65は、第1スイッチング素子21〜26および第2スイッチング素子31〜36のオンオフ作動を制御する。
【0058】
第1バッテリ41により印加可能な電圧である第1電源電圧V1と、第2バッテリ42により印加可能な電圧である第2電源電圧V2とは異なっている。
制御部65は、モータジェネレータ10の駆動要求が第1バッテリ41または第2バッテリ42の一方の入出力にて駆動可能な領域の一部である差電圧領域RDである場合、コイル11〜13の印加電圧が第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との差に応じた電圧となる差電圧制御にて、第1インバータ20および第2インバータ30を制御する。上記では、モータジェネレータ10を電動機として駆動する場合を中心に説明したが、モータジェネレータ10が発電機として駆動している場合も含むものとする。
【0059】
差電圧制御を行うことで、コイル11〜13に印加される電圧を低くすることができ、損失を低減可能である。また、電圧および電流のリプルを低減することができる。特に、例えば過変調PWM制御や矩形波制御にて出力可能な領域を差電圧領域RDとすることで、スイッチング回数が低減され、スイッチング損失を低減可能である。また、スイッチング回数を低減することで、相電流Iu、Iv、Iwの高周波成分が低減されるので、モータジェネレータ10の鉄損を低減することができる。
【0060】
制御部65は、差電圧制御を行う場合、第1インバータ20および第2インバータ30を、同位相の基本波F1、F2に基づいて制御する。これにより、第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との差に応じた電圧を、コイル11〜13に適切に印加することができる。
差電圧領域RDは、第1インバータ20および第2インバータ30を同位相にて矩形波制御することで出力可能な同位相矩形出力値BD0を含む。これにより、矩形波制御や過変調PWM制御等、スイッチング回数が少ない制御にて出力可能な領域を差電圧領域RDとして適切に設定可能である。
【0061】
本実施形態では、第1電源電圧V1は、第2電源電圧V2より大きく、かつ、第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との差が第2電源電圧V2より小さい。すなわち、V1>V2であって、(V1−V2)<V2である。
制御部65は、第2バッテリ42の入出力でモータジェネレータ10を駆動可能な領域である低電圧片側領域RLの中間領域を、差電圧領域RDとする。
これにより、電源電圧V1、V2に応じ、差電圧領域RDを適切に設定することができる。
【0062】
制御部65は、差電圧制御を行うとき、第1インバータ20を矩形波制御または過変調PWM制御により、第1スイッチング素子21〜26を制御する。また制御部65は、差電圧制御を行うとき、第2インバータ30を矩形波制御または過変調PWM制御により、第2スイッチング素子31〜36を制御する。
これにより、正弦波PWM制御とする場合と比較してスイッチング回数が低減され、スイッチング損失を低減することができる。また、矩形波制御または過変調PWM制御とすることで、相電流Iu、Iv、Iwに含まれるキャリア波周波数の高調波成分を低減可能であり、モータジェネレータ10の鉄損を低減可能である。
【0063】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を図12に示す。
本実施形態では、上記実施形態と同様、第1電源電圧V1は、第2電源電圧V2より大きい。また、本実施形態では、上記実施形態と異なり、第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との差電圧は、第2電源電圧V2より大きいものとする。すなわち、(V1−V2)>V2である。その他の構成は、上記実施形態と同様である。
【0064】
本実施形態では、差電圧が第2電源電圧V2より大きいので、図12に示すように、高電圧片側領域RHの一部を差電圧領域RDとする。駆動要求が差電圧領域RDの場合、制御部65は、第1インバータ20および第2インバータ30を差電圧制御する。
【0065】
本実施形態では、駆動要求が下側閾値BD1と低電圧側上限値BLとの間の第1領域RH1、または、上側閾値BD2と高電圧側上限値BHとの間の第2領域RH2の場合、制御部65は、第1インバータ20および第2インバータ30を高電圧片側制御とする。すなわち、本実施形態の差電圧領域RDは、高電圧片側領域RHの中間領域である、といえる。
また本実施形態では、駆動領域を低出力側から領域RL、RH1、RD、RH2、RTの5領域に分けており、低出力側から、低電圧片側制御、高電圧片側制御、差電圧制御、高電圧片側制御、両側駆動の順に制御を切り替える。
差電圧領域RDは、同位相矩形出力値BD0を含み、下側閾値BD1と上側閾値BD2との間の領域であって、上記実施形態と同様、損失に応じて決定される。
【0066】
本実施形態では、第1電源電圧V1は、第2電源電圧V2より大きく、かつ、第1電源電圧V1と第2電源電圧V2との差が第2電源電圧V2より大きい。すなわち、V1>V2であって、(V1−V2)>V2である。
制御部65は、第2バッテリ42の入出力でモータジェネレータ10を駆動可能な低電圧側上限値BLと、第1バッテリ41の入出力でモータジェネレータ10を駆動可能な高電圧側上限値BHとの間の領域である高電圧片側領域RHの中間領域を差電圧領域RDとする。
これにより、電源電圧V1、V2に応じ、差電圧領域RDを適切に設定することができる。
また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0067】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態を図13に示す。
本実施形態では、図13に示すように、第1電源電圧V1を検出する第1電圧検出部46、および、第2電源電圧V2を検出する第2電圧検出部47が設けられる。第1電圧検出部46および第2電圧検出部47の検出値は、制御部65に出力される。
制御部65は、第1電圧検出部46および第2電圧検出部47の検出値を取得可能である。制御部65は、第1電圧検出部46および第2電圧検出部47の検出値に基づいて第1電源電圧V1および第2電源電圧V2を演算し、演算された電圧値に応じて領域RL、RH、RT、RDを変更する。
具体的には、図6または図12に示す上限値BL、BH、BT、同位相矩形出力値BD0、下側閾値BD1および上側閾値BD2の少なくとも一部を電源電圧V1、V2に応じて可変にする。
【0068】
制御部65は、第1電源電圧V1を検出する第1電圧検出部46および第2電源電圧V2を検出する第2電圧検出部47の少なくとも一方から検出値を取得し、検出された検出値に基づき、差電圧領域RDを変更する。
これにより、実際の電源電圧V1、V2に応じ、差電圧領域RDをより適切に設定することができる。特に、第1電圧源または第2電圧源として、電圧変動が比較的大きいもの(例えば電気二重層キャパシタ等)を用いる場合、本実施形態のように、電圧検出部46、47を設けることが好ましい。また、電源電圧V1、V2の変動が大きい場合、差電圧領域RDは、第1実施形態のように低電圧片側領域RLの中間領域である状態と、第2実施形態のように高電圧片側領域RHの中間領域である状態とが、電源電圧V1、V2に応じて、切り替わるようにしてもよい。
また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0069】
(他の実施形態)
(イ)第1電圧源、第2電圧源
上記実施形態では、第1電圧源および第2電圧源として、リチウムイオン電池等を例示した。他の実施形態では、第1電圧源および第2電圧源は、リチウムイオン電池以外の鉛蓄電池、燃料電池等であってもよい。また、第1電圧源と第2電圧源とで、同一の種類、特性のものを用いてもよいし、異なる種類、特性のものを用いてもよい。また、第1電圧源または第2電圧源の一方を電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタとしてもよい。また、第1電圧源または第2電圧源の一方を、エンジン等の駆動源により駆動されて発電する発電機等としてもよい。
【0070】
第3実施形態では、第1電圧検出部および第2電圧検出部を設ける。他の実施形態では、第1電圧検出部または第2電圧検出部の一方を省略してもよい。例えば、第1電圧源または第2電圧源の一方がバッテリであり、他方がキャパシタの場合、例えばバッテリ側にの電圧検出部を省略し、キャパシタ側に電圧検出部を設け、キャパシタの電圧検出値に応じ、差電圧領域を変更するようにしてもよい。
【0071】
(ウ)回転電機
上記実施形態では、回転電機はモータジェネレータである。他の実施形態では、回転電機は、発電機の機能を持たない電動機であってもよいし、電動機の機能を持たない発電機であってもよい。また、上記実施形態の回転電機は3相である。他の実施形態では、回転電機は、4相以上としてもよい。
また、上記実施形態では、回転電機が電動車両の主機モータである。他の実施形態では、回転電機は、主機モータに限らず、例えばスタータ機能とオルタネータ機能とを併せ持つ、所謂ISG(Integrated Starter Generator)や、補機モータであってもよい。また、電力変換装置を車両以外の装置に適用してもよい。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0072】
1・・・回転電機駆動システム
10・・・モータジェネレータ(回転電機)
11〜13・・・コイル(巻線)
15・・・電力変換装置
20・・・第1インバータ 21〜26・・・第1スイッチング素子
30・・・第2インバータ 31〜36・・・第2スイッチング素子
41・・・第1バッテリ(第1電圧源)
42・・・第2バッテリ(第2電圧源)
65・・・制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15