(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6669554
(24)【登録日】2020年3月2日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】オイルポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/10 20060101AFI20200309BHJP
F04C 15/06 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
F04C2/10 341E
F04C2/10 321B
F04C15/06 C
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-66353(P2016-66353)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-180208(P2017-180208A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】草田 享
(72)【発明者】
【氏名】松田 三起夫
(72)【発明者】
【氏名】海老名 季治
【審査官】
田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−138893(JP,A)
【文献】
特開平07−102928(JP,A)
【文献】
特開平09−296716(JP,A)
【文献】
特開平07−253083(JP,A)
【文献】
特開2004−092637(JP,A)
【文献】
特開2015−086849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F04C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルを吸入するための吸入チャンバ、およびオイルを吐出するための吐出チャンバが設けられたハウジングと、
前記ハウジングに収納され、複数の内歯を有するアウターロータと、
複数の外歯を有し、前記アウターロータに対して偏心した状態で前記アウターロータと噛み合うインナーロータと、を具備し、
前記吸入チャンバおよび前記吐出チャンバは、前記インナーロータに対して、前記インナーロータの回転軸の方向に設けられ、
前記複数の外歯のうち第1の外歯には、前記インナーロータの回転軸の方向において前記吐出チャンバと同じ側に、第1の溝が設けられ、
前記複数の外歯のうち前記第1の外歯とは別の第2の外歯には、前記インナーロータの回転軸の方向において前記吐出チャンバと同じ側に、前記第1の溝よりも長い第2の溝が設けられ、
前記第1の溝および前記第2の溝は前記インナーロータの回転方向の前方側には開口せず、前記回転方向の後方側に開口し、
前記第2の溝の前記回転方向の前方側の端部は、前記第1の溝の前記回転方向の前方側の端部よりも、前記回転方向の前方側に位置するオイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
オイルポンプとして、インナーロータとアウターロータとを備えるトロコイドポンプが知られている(例えば特許文献1)。インナーロータの外歯とアウターロータの内歯とで歯間空間(ポンプ室)が形成される。吸入チャンバに吸入されたオイルは、ポンプ室に閉じ込められる。ハウジングに収容されたアウターロータおよびインナーロータが回転することでポンプ室の容量が変化し、オイルが吐出チャンバに搬送され、ポンプの外に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−296716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吐出チャンバとポンプ室とが連通するとき、圧力の高い吐出チャンバから、圧力の低いポンプ室へとオイルが逆流し、ポンプ室の圧力が上昇する。この結果、ポンプ室内の圧力が吐出チャンバ内の圧力より高くなり、騒音(ポンプノイズ)が発生することがある。特にインナーロータとアウターロータとの噛み合い次数、およびその高調波成分のポンプノイズが発生する。
【0005】
そこで、ポンプノイズの低減が可能なオイルポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、オイルを吸入するための吸入チャンバ、およびオイルを吐出するための吐出チャンバが設けられたハウジングと、前記ハウジングに収納され、複数の内歯を有するアウターロータと、複数の外歯を有し、前記アウターロータに対して偏心した状態で前記アウターロータと噛み合うインナーロータと、を具備し、前記吸入チャンバおよび前記吐出チャンバは、前記インナーロータに対して、前記インナーロータの回転軸の方向に設けられ、前記複数の外歯のうち
第1の外歯には、前記インナーロータの回転軸の方向において前記吐出チャンバと同じ側に、第1の溝が設けられ、前記複数の外歯のうち
前記第1の外歯とは別の第2の外歯には、前記インナーロータの回転軸の方向において前記吐出チャンバと同じ側に、前記第1の溝よりも長い第2の溝が設けられ、前記第1の溝および前記第2の溝は前記インナーロータの回転方向の前方側には開口せず、前記回転方向の後方側に開口し、
前記第2の溝の前記回転方向の前方側の端部は、前記第1の溝の前記回転方向の前方側の端部よりも、前記回転方向の前方側に位置するオイルポンプによって達成できる。
【発明の効果】
【0007】
ポンプノイズの低減が可能なオイルポンプを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1はオイルポンプを例示する正面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)はオイルポンプを例示する正面図である。
【
図3】
図3(a)は圧力と回転角との関係を示す図である。
図3(b)は圧力と周波数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本実施例のオイルポンプ100について説明する。
図1から
図2(b)はオイルポンプ100を例示する正面図である。
【0010】
図1から
図2(b)に示すオイルポンプ100は、トロコイドポンプであり、トランスミッションの変速部、トルクコンバータおよび潤滑部などにオイルを供給する。オイルポンプ100は、ハウジング10、アウターロータ20およびインナーロータ30を備える。ハウジング10には吸入チャンバ12および吐出チャンバ14が形成されている。吸入チャンバ12および吐出チャンバ14は、インナーロータ30の回転軸の方向(X方向)において、例えば紙面の手前側(+X側)に設けられている。
【0011】
アウターロータ20およびインナーロータ30はハウジング10内に収納されている。インナーロータ30は、アウターロータ20の内側に位置し、アウターロータ20に対して偏心している。アウターロータ20は内周に10個の内歯22を有する。インナーロータ30は外周に9個の外歯32を有する。なお、内歯22の数および外歯32の数は変更してもよい。アウターロータ20およびインナーロータ30は、X方向を軸方向とし、YZ平面において、図中の矢印A1の方向に回転する。複数の内歯22の一部と複数の外歯32の一部とは噛み合い、また内歯22と外歯32とで囲まれる歯間空間(ポンプ室40)が形成される。
【0012】
オイルは、ハウジング10の外部から吸入チャンバ12に吸入され、
図1に斜線で示すようにポンプ室40に閉じ込められる。アウターロータ20およびインナーロータ30の回転に伴いポンプ室40が移動し、ポンプ室40と吐出チャンバ14とが連通する。このとき、オイルはポンプ室40から吐出チャンバ14に流出し、吐出チャンバ14から外部に供給される。
【0013】
インナーロータ30の複数の外歯32のうち一部(外歯32a)には溝34(第1の溝)が形成されており、別の一部(外歯32b)には溝36(第2の溝)が形成されている。溝34および36は、外歯32の+X側の表面に設けられた溝である。溝34および36の延伸する方向は、インナーロータ30の回転方向に沿っている。溝34の長さL1は例えば10mm、溝36の長さL2は例えば11mmである。溝34および36の幅Wは例えば1mmである。外歯32aと外歯32bとは、回転方向において外歯32aが外歯32bより先行するように隣り合っている。
【0014】
溝34および36は、回転方向の前方側には開口せず、後方側においてポンプ室40に開口している。このため、内歯22と外歯32との間からオイルが流出する前に、溝34および36を通じて、圧力の高い吐出チャンバ14から圧力の低いポンプ室40へと、オイルが逆流する。
図2(a)に示すように、溝34と吐出チャンバ14とが連通すると、矢印A2で示すように、溝34を通じてオイルが逆流する。また
図2(b)に矢印A3で示すように、溝36と吐出チャンバ14とが連通すると、溝36を通じて吐出チャンバ14からポンプ室40へとオイルが逆流する。このように、溝34および36を通じてオイルが逆流するため、溝がない場合と比較して、ポンプ室40の圧力上昇のタイミングが変化する。この結果、噛み合い次数の高調波のポンプノイズが低減する。
図3(a)および
図3(b)を参照して圧力の変化についてより詳しく説明する。
【0015】
図3(a)は圧力と回転角との関係を示す図である。横軸はオイルポンプ100の回転角、縦軸はポンプ室40の圧力である。
図3(b)は圧力と周波数との関係を示す図である。横軸は周波数、縦軸はポンプ室40の圧力である。
図3(a)および
図3(b)において、点線は比較例、実線は実施例の圧力を表す。比較例は、外歯に溝の設けられていないオイルポンプの例である。
【0016】
図3(a)に示すように、比較例に比べ、実施例では圧力の脈動のタイミングが変化する。例えば40°付近において、実施例の圧力のピークは比較例より2.5°進角する。
図2(a)に示したように、溝34を通じてオイルが流出するためである。80°付近において、実施例の圧力のピークは比較例より5°進角する。
図2(b)に示したように、溝36を通じてオイルが流出するためである。溝36は溝34より長いため、溝34に比べて速いタイミングで吐出チャンバ14と連通する。このため進角量が大きくなる。
【0017】
図3(b)のピークP1は噛み合い次数1次の成分、ピークP2は2次の成分、ピークP3は3次の成分である。実施例によれば、比較例と比べ、高調波成分(2次のピークP2および3次のピークP3)において圧力が低くなっている。
【0018】
以上のように、本実施例によれば、外歯32に設けられた溝34および36が、吐出チャンバ14と連通する。内歯22と外歯32との間からオイルが流出する前に、溝34および36を通じて、吐出チャンバ14からポンプ室40へとオイルが流出する。このため、
図3(a)に示すように圧力の脈動のタイミングが変化する。この結果、
図3(b)に示すように、圧力が複数の周波数に分散し、噛み合い次数の高調波成分(2次高調波成分および3次高調波成分)の圧力が低下する。したがって、ポンプノイズが低減する。
【0019】
溝34および36の長さは変更してもよい。ただし溝34の長さと溝36の長さとが異なることが好ましい。
図3(a)に示したように、圧力脈動のタイミングを分散させることができる。
【0020】
溝34および36は、X方向において、吐出チャンバ14と同じ側に設けられている。これにより、溝34および36を通じて吐出チャンバ14からオイルが流出する。吸入チャンバ12および吐出チャンバ14は、±X側のいずれに設けられてもよい。例えば吸入チャンバ12および吐出チャンバ14は、±X側の同じ側に設けられてもよい。また、吸入チャンバ12が±X側の一方、吐出チャンバ14が±X側の他方に設けられてもよい。さらに、吸入チャンバ12および吐出チャンバ14は±X側の両方に設けられてもよい。溝34および36は、吐出チャンバ14と同じ側に設けられ、吐出チャンバ14と連通すればよい。
【0021】
溝34および36は回転方向に沿った形状としたが、例えば直線状など他の形状でもよい。溝34および36は、回転方向の前方に開口せず、後方に開口していればよい。
【0022】
アウターロータ20の内歯22の数およびインナーロータ30の外歯32の数は変更してもよく、それぞれ複数であればよい。外歯32の数が内歯22の数より一つ少なく、かつインナーロータ30がアウターロータ20に対して偏心していることで、オイルポンプ100がトロコイドポンプとして機能する。
【0023】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0024】
10 ハウジング
12 吸入チャンバ
14 吐出チャンバ
20 アウターロータ
22 内歯
30 インナーロータ
32、32a、32b 外歯
34、36 溝
40 ポンプ室
100 オイルポンプ