(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
<ガスセンサの概略構成>
本実施の形態に係るガスセンサ100の概略構成について説明する。
図1は、ガスセンサ100の主たる構成要素であるセンサ素子101の長手方向に沿った垂直断面図を含む、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0019】
センサ素子101の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0020】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0021】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位をガス流通部とも称する。
【0022】
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には基準ガスとして大気が導入される。
【0023】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスたる大気が導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0024】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0025】
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0026】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0027】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0028】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0029】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0030】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0031】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0032】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0033】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO
2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0034】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に可変電源24によって所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0035】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0036】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。
【0037】
さらに、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保たれるようになっている。
【0038】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0039】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の特定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の特定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定用ポンプセル41が動作することによりなされる。
【0040】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度の特定が可能となる。
【0041】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0042】
補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。
【0043】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0044】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0045】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0046】
この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの検出に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0047】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0048】
測定用ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOxの検出を担う。測定用ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられたNOx測定電極(以下、単に測定電極)44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0049】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
【0050】
第4拡散律速部45は、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護膜(測定電極保護層)としても機能する。
【0051】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0052】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0053】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N
2+O
2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された制御電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出できることとなる。
【0054】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0055】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0056】
以上において説明した、センサ素子101のうち、素子長手方向においてガス導入口10から第2内部空所40に至る部分、および当該部分に備わる電極、ポンプセルおよびセンサセル等は、主としてNOx濃度の測定に関係する部位であることから、本実施の形態においてはこれらの部位を、センサ素子101のNOxセンサ部とも称する。
【0057】
さらに、センサ素子101は、第2固体電解質層6の上面にNH
3検知電極(以下、単に検知電極)60を備えている。検知電極60は、Auを所定の比率で含むPt、つまりはPt−Au合金と、ジルコニアとの多孔質サーメット電極として形成されてなる。センサ素子101においては、係る検知電極60と、基準電極42と、両電極の間に存在する固体電解質層とによって、混成電位セル61が構成されてなる。すなわち、混成電位の原理に基づいて両電極近傍におけるNH
3の濃度の相違に起因して電位差が生じることを利用して、被測定ガス中のNH
3の濃度を求めるようになっている。なお、本実施の形態においては、センサ素子101のうち、混成電位セル61を構成する部分を、NH
3ガスセンサ部とも称する。また、基準電極42は、係るNH
3ガスセンサ部のみならず、上述したようにNOxセンサ部においても用いられることから、共通基準電極とも称される。
【0058】
具体的には、検知電極60は、その構成材料たるPt−Au合金の組成を好適に定めることによって、所定の濃度範囲について、NH
3ガスに対する触媒活性が不能化されてなる。つまりは、検知電極60でのNH
3ガスの分解反応を抑制させられてなる。これにより、ガスセンサ100においては、検知電極60の電位が、当該濃度範囲のNH
3ガスに対して選択的に、その濃度に応じて変動する(相関を有する)ようになっている。換言すれば、検知電極60は、当該濃度範囲のNH
3ガスに対しては、電位の濃度依存性が高い一方で、他の被測定ガスの成分に対しては電位の濃度依存性が小さいという特性を有するように、設けられてなる。
【0059】
より詳細には、センサ素子101においては、検知電極60を構成するPt−Au合金粒子の表面におけるAu存在比を好適に定めることで、0ppm〜500ppmという濃度範囲において、少なくとも、0ppm〜100ppmという濃度範囲において、検知電極60の電位のNH
3ガス濃度に対する依存性が顕著であるように、検知電極60が設けられてなる。
【0060】
なお、本明細書において、Au存在比とは、検知電極60を構成する貴金属粒子の表面のうち、Ptが露出している部分に対する、Auが被覆している部分の面積比率を意味している。本明細書においては、貴金属粒子の表面に対しAES(オージェ電子分光法)分析を行うことでより得られるオージェスペクトルにおけるAuとPtとについての検出値を用い、
Au存在比=Au検出値/Pt検出値・・・(1)
なる式にてAu存在比を算出する。Ptが露出している部分の面積と、Auによって被覆されてなる部分の面積が等しいときに、Au存在比は1となる。
【0061】
具体的には、検知電極60のAu存在比が0.25以上であれば、検知電極60の電位は0ppm〜500ppmという濃度範囲においてNH
3ガス濃度に対して顕著な依存性を示し、特に、検知電極60のAu存在比が0.40以上であれば、検知電極60の電位は少なくとも0ppm〜100ppmという濃度範囲において、NH
3ガス濃度に対して顕著な依存性を示す。なお、Au存在比の上限には特段の制限はなく、それゆえ、検知電極60を構成する貴金属粒子の表面が全てAuとなっていてもよい。あるいは、Auのみにて検知電極60を構成する態様であってもよい。ただし、Pt−Au合金からなる検知電極60を、後述するようにスクリーン印刷と、その後の固体電解質層と電極との一体焼成(共焼成)とによって形成する場合、Au存在比は2.30以下とするのが好ましい。Auの融点(1064℃)が焼成温度よりも低いために、Au存在比が過度に大きいと、検知電極10が融解してしまい、好ましくないからである。これは、検知電極60をAuのみにて形成する場合も同様である。
【0062】
なお、Au存在比は、貴金属粒子の表面に対しXPS(X線光電子分光法)分析を行うことにより得られるAuとPtとについての検出ピークのピーク強度から、相対感度係数法を用いてを算出することも可能である。係る手法に得られるAu存在比の値と、AES分析の結果に基づいて算出されるAu存在比の値とは、実質的に同じとみなせる。
【0063】
また、(1)式で表されるAu存在比は、検知電極60以外の電極においても観念することが可能である。特に、内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51は、Au存在比が0.01以上0.3以下となるように設けられるのが好ましい。係る場合、内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51においては酸素以外に対する触媒活性が低減され、酸素に対する選択的分解能が高められる。より好ましくは、0.1以上0.25以下とされ、さらに好ましくは、0.2以上0.25以下とされる。
【0064】
一方、基準電極42は、上述したように、その周囲を基準ガス導入空間43につながる大気導入層48にて覆われているので、ガスセンサ100が使用される際には基準電極42の周囲は絶えず大気(酸素)で満たされるようになっている。それゆえ、ガスセンサ100の使用時、基準電極42は、常に一定の電位を有してなる。
【0065】
これにより、ガスセンサ100の使用時、混成電位セル61においては、検知電極60と基準電極42との間に、被測定ガス中のNH
3ガスの濃度に応じた電位差EMFが、少なくとも0ppm〜500ppmというNH
3ガスの濃度範囲について、生じるようになっている。
【0066】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74、圧力放散孔75とを備えている。ヒータ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0067】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0068】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0069】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0070】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0071】
ガスセンサ100においては、NOxの濃度を求める際、ヒータ72が発熱することによって、センサ素子101の各部が動作に適した温度に加熱、保温されるようになっている。それゆえ、各ポンプセルおよびセンサセルと混成電位セル61の配置箇所についても、それぞれが好適に動作する温度に加熱される。ただし、それぞれが好適に動作する温度範囲は異なっている。具体的には、NOxセンサ部が(より詳細には、内側ポンプ電極22および外側ポンプ電極23を含む主ポンプセル21などが備わる、第3拡散律速部30よりも先端部側(
図1において図面視左側)が)、600℃以上900℃以下の所定温度(第1の温度)に加熱され、NH
3ガスセンサ部が(より詳細には、混成電位セル61およびその付近が)、400℃以上650℃以下であって第1の温度よりも低い所定温度(第2の温度)に加熱される。
【0072】
ガスセンサ100においては、これらの温度条件が好適に実現されるように、各セルの配置位置やヒータの存在範囲、さらにはヒータ72による加熱態様が、定められる。
【0073】
なお、
図1においては、検知電極60が図面視においてセンサ素子101の上面(第2固体電解質層6の上面)であってかつ基準電極42および測定電極44の上方に配置されているが、これは必須ではなく、上述した第2の温度に加熱されるのであれば、センサ素子101の上面の他の位置に設けられていてもよい。
【0074】
さらに、センサ素子101は、第2固体電解質層6の上面に、外側ポンプ電極23と検知電極60とを被覆する態様にて設けられた表面保護層90を備える。表面保護層90は、被測定ガス中に含まれる被毒物質が外側ポンプ電極23と検知電極60に付着することを防止する目的で設けられてなる。係る表面保護層90は、多孔質のアルミナにて形成されるのが好適な一例である。ただし、表面保護層90は、外側ポンプ電極23と検知電極60のそれぞれと素子外部との間におけるガスの流通を律速することのない気孔径および気孔サイズを有するように設けられる。
【0075】
ガスセンサ100の各部の動作、例えば、可変電源によるポンプセルへの電圧の印加や、ヒータ72による加熱などは、各部と電気的に接続されたコントローラ(制御手段)110によって制御される。加えて、コントローラ110は、センサ素子101の混成電位セル61に生じる電位差EMFと、測定用ポンプセル41を流れるポンプ電流Ip2とに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を特定する。また、係るNOx濃度算出の過程でNH
3濃度の特定を行うこともできる。すなわち、コントローラ110は、NOx濃度さらにはNH
3濃度を特定する濃度特定手段としても機能する。なお、
図1においては電位差EMFとポンプ電流Ip2のみがコントローラ110と矢印にて結ばれているが、これはあくまで図示の都合であり、他の電位差値やポンプ電流値などもコントローラ110に供されることは言うまでもない。コントローラ110には、汎用のパーソナルコンピュータが適用可能である。
【0076】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、
図1に例示するセンサ素子101を製造するプロセスについて説明する。概略的にいえば、
図1に例示するセンサ素子101は、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含むグリーンシートからなる積層体を形成し、該積層体を切断・焼成することによって作製される。酸素イオン伝導性固体電解質としては、例えば、ジルコニアに3mol%以上の比率でイットリアが内添加されたイットリウム部分安定化ジルコニア(YSZ)などが例示される。
【0077】
図2は、センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。センサ素子101を作製する場合、まず、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示せず)を用意する(ステップS1)。具体的には第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1固体電解質層4、スペーサ層5、および第2固体電解質層6に対応する6枚のブランクシートが用意される。ブランクシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、対応する層が内部空間を構成するグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、センサ素子101の各層に対応するそれぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はない。
【0078】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対して種々のパターンを形成するパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、各ポンプ電極や検知電極60などの電極パターンや、ヒータ72のパターンや、大気導入層48や、図示を省略している内部配線などが形成される。さらには、表面保護層90のパターンが印刷されてもよい。なお、第1基板層1に対しては、後工程において積層体を切断するときに切断位置の基準とされるカットマークも印刷される。
【0079】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0080】
パターン印刷が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0081】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。なお、係る態様にて得られた積層体に対して表面保護層90が形成される態様であってもよい。
【0082】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断してセンサ素子101の個々の単位(素子体と称する)に切り出す(ステップS5)。切り出された素子体を、所定の条件下で焼成することにより、上述のようなセンサ素子101が生成される(ステップS6)。すなわち、センサ素子101は、固体電解質層と電極との一体焼成(共焼成)によって生成されるものである。その際の焼成温度は、1200℃以上1500℃以下(例えば1400℃)が好適である。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、センサ素子101においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。これはセンサ素子101の耐久性の向上に資するものである。
【0083】
このようにして得られたセンサ素子101は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0084】
<NH
3ガス混在下でのNOx濃度の特定>
上述のような構成を有するガスセンサ100を使用して被測定ガス中のNOx濃度を求める際には、センサ素子101の一方端部側であるガス導入口10から少なくとも検知電極60を含む所定の範囲が、被測定ガス雰囲気中に配置され、他方端部側は被測定ガス雰囲気と接触しないように配置される。そして、ヒータ72による加熱のもと、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とが作動することによって、酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが、測定用ポンプセル41に与えられる。そして、測定電極44におけるNOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2が、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例することに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0085】
ただし、例えば特許文献1ないし特許文献5においても同様の言及があるように、被測定ガス中にNH
3ガスが混在する場合、ポンプ電流Ip2の値は、NH
3ガスの濃度によって変動する。
【0086】
図3は、NH
3ガスとNOxとが共存する場合の、ポンプ電流Ip2のガス濃度依存性を例示する図である。具体的には、
図3は、
図1に示す構成のガスセンサ100によって、以下に示す条件でNH
3ガス濃度とNOガス濃度とをそれぞれ6水準に違えた全36種類のモデルガスを対象とするポンプ電流Ip2の測定を行い、得られた値を、NH
3ガス濃度に対してプロットした図である。なお、検知電極60のAu存在比は0.36とし、外側ポンプ電極23も同じとした。これに対し、内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51のAu存在比は0.22とした。
【0087】
[モデルガス条件]
流量:5L/min;
ガス温度:120℃;
ガス組成:
NH
3=0ppm、100ppm、200ppm、300ppm、400ppm、または500ppm;
NO=0ppm、100ppm、200ppm、300ppm、400ppm、または500ppm;
O
2=10%;
H
2O=5%;
N
2=残余。
【0088】
図3からは、NO濃度が一定であってもポンプ電流Ip2はNH
3ガス濃度によって変動すること、および、NO濃度が一定である場合のポンプ電流Ip2のNH
3ガス濃度に対する変動は線型的であることがわかる。例えば、ポンプ電流Ip2が1.5μAである場合についてみれば、NH
3ガス濃度が100ppmである場合にはNO濃度はおよそ500ppmであるのに対し、NH
3ガス濃度が400ppmである場合にはNO濃度はおよそ100ppmとなっている。
【0089】
このことは、被測定ガス中にNOxとNH
3ガスとが共存する場合、単にポンプ電流Ip2を測定し、得られた測定値をポンプ電流Ip2とNOx濃度との関係を表す関数関係に当てはめるのみでは、NOx濃度を精度良く特定できないことを意味する。
【0090】
本実施の形態におけるガスセンサ100においては、係る不具合を、混成電位セル61において検知電極60と基準電極42との間に生じる電位差を用いることにより解消している。
【0091】
図4は、
図3に示したポンプ電流Ip2を測定した際に同時に測定した、混成電位セル61における電位差EMFの値を、NH
3ガス濃度に対してプロットした図である。換言すれば、
図4は、NH
3ガスとNOxとが共存する場合の、電位差EMFのガス濃度依存性を例示する図である。
【0092】
図4からわかるように、電位差EMFのNH
3ガス濃度に対する依存性には、NO濃度による相違は全くみられなかった。このことは、混成電位セル61において得られる電位差EMFの値は、NOx濃度の干渉を受けないということ、換言すれば、電位差EMFが得られればその値に基づいて被測定ガス中のNH
3ガスの濃度を特定できることを意味している。
【0093】
本実施の形態に係るガスセンサ100においては、これらの知見を踏まえ、被測定ガスにおけるNOx濃度の特定に、ポンプ電流値Ip2のみならず電位差EMFに基づいて特定されるNH
3ガス濃度をも用いるようになっている。
【0094】
例えば、以下のような手順で処理がなされる。これにより、被測定ガス中にNH
3ガスが共存していたとしても、NOx濃度を精度よく求めることができる。
【0095】
(1)あらかじめ、上述した例のように、NOx濃度とNH
3ガス濃度とを種々に違えた複数種類の濃度既知のモデルガスを用いて、NH
3ガス濃度とNOx濃度とポンプ電流Ip2との関係を示すNOx濃度マップ(
図3がその一例である)と、混成電位セル61における電位差EMFとNH
3ガス濃度との関係を表すNH
3濃度マップ(
図4がその一例である)とを作成し、濃度特定手段たるコントローラ110に記憶しておく。
【0096】
(2)ガスセンサ100の実使用時には、混成電位セル61に生じる電位差EMFの値と測定用ポンプセル41を流れるポンプ電流Ip2の値とが適宜のタイミングでコントローラ110に取得される。
【0097】
(3)コントローラ110においては、取得した電位差EMFの値がNH
3濃度マップと照合されることにより、NH
3ガス濃度が特定される。
【0098】
(4)続いて、ポンプ電流Ip2の値と先に特定されたNH
3ガス濃度とがNOx濃度マップと照合されることにより、NOx濃度が特定される。
【0099】
(5)継続的にNOx濃度を求める場合には、(2)〜(4)を繰り返す。
【0100】
以上の手順はNOx濃度の精度向上を意図したものであるが、その途中においては必ず、NH
3濃度マップを用いることによるNH
3ガス濃度の特定がなされ、しかも、上述したように、NH
3ガス濃度はNOxの干渉を受けない。それゆえ、本実施の形態に係るガスセンサ100は、被測定ガス中のNOxとNH
3ガスの精度を同時かつ並行して、精度よく求めることできるものであるともいえる。
【0101】
また、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、ポンプ電流Ip2が流れる測定用ポンプセル41と電位差EMFが生じる混成電位セル61とが、大気導入層48内に位置されており常に酸素濃度一定の大気と接触している基準電極42を共有している。それゆえ、酸素ポンプ電流Ip2と電位差EMFとがともに安定的に得られるようになっている。このことも、NOx濃度とNH
3ガス濃度の特定精度の向上に、資するものとなっている。
【0102】
しかも、測定用ポンプセル41と混成電位セル61とが基準電極42を共有することで、それぞれのセルが個別に基準電極を有する従来のマルチガスセンサに比して、センサ素子101内部構造が単純化され、かつ、省スペース化も実現されている。
【0103】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、被測定ガス中にNOxとNH
3ガスとが共存する場合であっても、NOx濃度を安定的にかつ優れた精度で求めることができるとともに、NH
3ガスの濃度についても同時並行的に優れた精度でかつ安定的に求めることができるガスセンサが実現される。しかも、係るガスセンサは、従来のマルチガスセンサに比して構成の単純化が実現されたものとなっている。
【0104】
<変形例>
上述の実施の形態においては、NH
3ガス濃度とNOx濃度とポンプ電流Ip2との関係を示すNOx濃度マップと、混成電位セル61における電位差EMFとNH
3ガス濃度との関係を表すNH
3濃度マップとを作成し、後者に基づいて特定されるNH
3ガス濃度を前者に適用することで、NOx濃度を特定しているが、NOx濃度の特定に際し、NH
3ガス濃度の算出は必須ではない。
【0105】
例えば、NOx濃度マップを、混成電位セル61における電位差EMFとNOx濃度とポンプ電流Ip2との関係を示すものとして作成しておき、コントローラ110が、混成電位セル61に生じる電位差EMFの値と測定用ポンプセル41を流れるポンプ電流Ip2の値とを係るNOx濃度マップと照合し、NOx濃度を特定する態様であってもよい。もちろん、この場合においても、NH
3濃度マップにおいてNH
3ガス濃度を特定する態様であってもよい。
【0106】
また、上述の実施の形態においては、センサ素子101が第1内部空所20と第2内部空所40の2つの内部空所を備えているが、これは必須の態様ではない。例えば、第2内部空所40に連通する第3内部空所が備わっており、測定電極44が第2内部空所40に代えて係る第3内部空所に設けられる態様であってもよい。係る場合においては、第2内部空所40と第3内部空所の連通部分が拡散律速部とされることで、測定電極44を被覆する第4拡散律速部45が省略される態様であってもよい。
【0107】
上述したように、Pt−Au合金からなる検知電極60をスクリーン印刷と共焼成によって形成する場合、Auの融点との兼ね合いから、Au存在比は2.30以下とするのが好ましいが、他の手法により形成する場合は、Pt−Au合金からなりかつAu存在比が2.30を上回る検知電極60の形成、もしくは、Auからなる検知電極60の形成も可能である。具体的には、検知電極の形成を除いた積層体さらには焼成体の作製を行った後、かかる焼成体に対して検知電極60を形成する態様が考えられる。例えば、検知電極のパターンをスクリーン印刷によって形成し、再び焼成を行う、いわゆる2次焼成の手法が採用されてもよいし、めっきによって形成される態様であってもよい。