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特許6669635透明な自己修復性オムニフォビック・コーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6669635
(24)【登録日】2020年3月2日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】透明な自己修復性オムニフォビック・コーティング
(51)【国際特許分類】
   B05D 5/00 20060101AFI20200309BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20200309BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20200309BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
   B05D5/00 H
   B05D3/06 Z
   B05D7/24 302L
   B05D7/24 302Y
   C03C17/30 B
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-223152(P2016-223152)
(22)【出願日】2016年11月16日
(65)【公開番号】特開2017-131877(P2017-131877A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2019年1月31日
(31)【優先権主張番号】62/255,776
(32)【優先日】2015年11月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516344753
【氏名又は名称】エヌビーディー ナノテクノロジーズ, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NBD NANOTECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(74)【代理人】
【識別番号】100179202
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100188411
【弁理士】
【氏名又は名称】阪下 典子
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ジューン, ボン
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−522264(JP,A)
【文献】 特開2007−216615(JP,A)
【文献】 特開2006−47504(JP,A)
【文献】 特開2009−197071(JP,A)
【文献】 米国特許第7193015(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0072609(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
C03C 15/00−23/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C09D 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にオムニフォビック・コーティングをえる方法であって、
a.基材をガスのプラズマと接触させることによって前記基材を活性化する工程、および、
b.少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン、および少なくとも1つのフッ化化合物を含むオムニフォビック・コーティングの第一の層を形成する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン(F@F−POSS)は構造式[1]:
【化19】
(式中、Rは(R8−rまたは(Rであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;qは0〜約5の整数であり;かつrは1〜8の整数である)の化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのフッ化化合物はフルオロアルキルホスホン酸(FAPA)、フルオロアルキルホスホネート(FAPN)、フルオロアルキルシラン(FAS)、フルオロアルキルハライド(FAH)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのフッ化化合物は式
C(CFm1(CHn1P(O)(Y)2−p1(OH)p1
(式中、m1は0〜15の整数であり;n1は0〜5の整数であり;p1は0、1または2であり;かつYは加水分解性基、例えば、ハライド基またはアルコキシ基である)の化合物;式
C−(CFm2−(CHn2−Si(Z)3−t(R)
(式中、m2は0〜15の整数であり;n2は0〜5の整数であり;tは0〜3の整数であり;Rはアルキル基または水素原子であり;かつZは加水分解性基である)の化合物;および式
C−(CHm3−X
(式中、m3は0〜15の整数であり;かつXはハロゲンである)の化合物からなる群より選択される化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記形成する工程は少なくとも1つの極性溶媒と酸性水溶液または塩基性水溶液の混合物の存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
式[1]:
【化20】
(式中、Rは(R8−rまたは(Rであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;qは0〜約5の整数であり;かつrは1〜8の整数である)のフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン。
【請求項7】
式[1a]
【化21】
(式中、Rは(R8−rまたは(Rであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;qは0〜約5の整数であり;かつrは1〜8の整数である)の機能性フッ化かご型シルセスキオキサン。
【請求項8】
式[1]:
【化22】
(式中、Rは(R8−rまたは(Rであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;qは0〜約5の整数であり;かつrは1〜8の整数である)の少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン、および少なくとも1つのフッ化化合物を含む第一のコーティング層を含む基材。
【請求項9】
a.基材をガスのプラズマと接触させることによって前記基材を活性化する工程、および、
b.少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン、および少なくとも1つのフッ化化合物を含むオムニフォビック・コーティングの第一の層を形成する工程、
を含む方法によって作られた層を含む基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例示的な実施形態において、基材上に疎油性でかつ疎水性のコーティングを製造する方法に関する。より具体的には、本開示は基材、例えば、ガラス、セラミック(ス)、ガラスセラミックなどのオムニフォビック表面処理に関する。
【背景技術】
【0002】
しばしば汚れを含んでいる、液体の存在は、ガラスタイプの透明基材、特に輸送に使用される透明基材に関して、安全上とりわけ深刻である。基材の非濡れ性はオムニフォビックに分類することができる。オムニフォビック基材とは、油(有機液体を含む)と水を撥く基材を意味する。通常、オムニフォビック表面の接触角は、平坦な表面の場合、少なくとも、ヘキサデカンについては70°より大きく、水の場合には90°より大きい。前記液体は玉のようになり、単純に前記基材を傾けると重力によって、または輸送手段の運転中の空気力または機械的動作(振動および揺動)の影響下で、前記基材から容易に流れ去る傾向がある。
【0003】
このタイプの製品に関して、基材、特にガラス基材上に本発明のオムニフォビック・コーティングを取り入れる利点は二つある。第一に、前記コーティングにより、特に空気力または機械的動作の影響下で、例えば、移動する輸送手段の場合に、水滴を垂直または傾斜した表面から滑り落とすことが可能となる。第二に、前記基材から滑り落ちるこれらの液滴は、汚れを取り込むことによって前記表面を清浄し、そしてこれを運び去る。特に、フロントガラス用洗浄液を施しまたは洗浄装置フロントガラス用ワイパーによって、ガラス基材の視認性をある程度向上させることができる。
【0004】
オムニフォビック・コーティングの分野において最大の注目度で生じる問題の1つは、前記オムニフォビック・コーティングの機械的摩耗の問題である。特に透明基材を通して良好な視界を回復させるために、定期的に必要とされる、基材洗浄操作の間にこの磨耗は多かれ少なかれ生じる。したがって、前述のタイプのオムニフォビック・コーティングの段階的な剥離を最小限に抑えることが長年求められてきており、これは自動車、飛行機、ボート/船のフロントガラスの場合に、フロントガラス用ワイパーの作用で特に生じる。このような剥離は紫外線による分解からさらにかつ追加的に生じる可能性がある。
【0005】
上記に概説された問題のために、改良されたオムニフォビック・コーティングが必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
特定のフルオロアルキルホスホン酸(FAPA)、フルオロアルキルホスホネート(FAPN)、フルオロアルキルシラン(FAS)、フルオロアルキルハライド(FAH)、およびフッ化物イオン封入フッ化オリゴマー性シルセスキオキサン(F@F−POSS、F@F−POSSとも呼ぶ)を、改良された特性を有するオムニフォビック・コーティングとして基材に適用できることが見出されている。また、オムニフォビック・コーティングを製造する方法も記載されている。
【0007】
1つの態様において、本開示は基材上にオムニフォビック・コーティングをえる方法であって、以下の工程を含む方法の例示的な実施形態を提供する:
【0008】
a.基材をガスのプラズマと接触させることによって前記基材を活性化する工程と、
【0009】
b.少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン(fluoride ion-encapsulated functionalized fluoropolyhedral oligomeric silsesquioxane)、および少なくとも1つのフッ化化合物を含むオムニフォビック・コーティングの第一の層を形成する(depositing)工程。
【0010】
特定の実施形態において、前記少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン(F@F−POSS)は構造式[1]:
【化1】
【0011】
(式中、Rは(R8−rまたは(Rであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;qは0〜約5の整数であり;かつrは1〜8の整数である)の化合物である。
【0012】
特定の実施形態において、前記少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン(F@F−POSS)は構造式[2]:
【化2】
【0013】
(式中、RはC〜Cアルキル、C〜CアルケニルまたはC〜Cアルキニルであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;かつqは0〜約5の整数である)の化合物である。
【0014】
特定の実施形態において、前記少なくとも1つのフッ化化合物はフルオロアルキルホスホン酸(FAPA)、フルオロアルキルホスホネート(FAPN)、フルオロアルキルシラン(FAS)、フルオロアルキルハライド(FAH)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0015】
特定の実施形態において、前記少なくとも1つのフッ化化合物は式
C(CFm1(CHn1P(O)(Y)2−p1(OH)p1
【0016】
(式中、m1は0〜15の整数であり;n1は0〜5の整数であり;p1は0、1または2であり;かつYは加水分解性基、例えば、ハライド基またはアルコキシ基である)の化合物;式
C−(CFm2−(CHn2−Si(Z)3−t(R)
【0017】
(式中、m2は0〜15の整数であり;n2は0〜5の整数であり;tは0〜3の整数であり;Rはアルキル基または水素原子であり;かつZは加水分解性基である)の化合物;および式
C−(CHm3−X
【0018】
(式中、m3は0〜15の整数であり;かつXはハロゲンである)の化合物からなる群より選択される化合物である。
【0019】
特定の実施形態において、前記形成する工程は少なくとも1つの極性溶媒と酸性水溶液または塩基性水溶液の混合物の存在下で行われる。
【0020】
別の態様において、本開示は式[1]:
【化3】
【0021】
(式中、Rは(R8−rまたは(Rであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;qは0〜約5の整数であり;かつrは1〜8の整数である)のフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンを提供する。
【0022】
別の態様において、本開示は式[1a]
【化4】
【0023】
(式中、Rは(R8−rまたは(Rであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;qは0〜約5の整数であり;かつrは1〜8の整数である)の機能性フッ化かご型シルセスキオキサンを提供する。
【0024】
別の態様において、本開示は式[2]:
【化5】
【0025】
(式中、RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;かつqは0〜約5の整数である)のフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンを提供する。
【0026】
別の態様において、本開示は式[2]:
【化6】
【0027】
(式中、RはC〜Cアルキル、C〜CアルケニルまたはC〜Cアルキニルであり;RはC〜Cアルキル、C〜CアルケニルまたはC〜Cアルキニルであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;かつqは0〜約5の整数である)のフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンを提供する。
【0028】
別の態様において、本開示は式[1]:
【化7】
【0029】
(式中、Rは(R8−rまたは(Rであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;qは0〜約5の整数であり;かつrは1〜8の整数である)の少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン、および少なくとも1つのフッ化化合物を含む第一のコーティング層を含む基材を提供する。特定の実施形態において、前記基材はガラスまたはセラミックである。
【0030】
別の態様において、本開示は式[2]
【化8】
【0031】
(式中、RはC〜Cアルキル、C〜CアルケニルまたはC〜Cアルキニルであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;かつqは0〜約5の整数である)の少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンを含む第一のコーティング層を含む基材を提供する。
【0032】
別の態様において、本開示は以下の工程を含む方法によって作られた層を含む基材を提供する:
【0033】
a.基材をガスのプラズマと接触させることによって前記基材を活性化する工程、および、
【0034】
b.少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン、および少なくとも1つのフッ化化合物を含むオムニフォビック・コーティングの第一の層を形成する工程。
【0035】
別の態様において、本開示は式[1]:
【化9】
【0036】
(式中、Rは(R8−rまたは(Rであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;qは0〜約5の整数であり;かつrは1〜8の整数である)の少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン、および少なくとも1つのフッ化化合物を含む層を含むオムニフォビック・グレーズ基材を提供する。
【0037】
別の態様において、本開示は式[2]
【化10】
【0038】
(式中、RはC〜Cアルキル、C〜CアルケニルまたはC〜Cアルキニルであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;かつqは0〜約5の整数である)の少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンを含む層を含むオムニフォビック・グレーズ基材を提供する。
【0039】
別の態様において、本開示はフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンと少なくとも1つのフッ化化合物とを含むオムニフォビック・コーティングを提供する。特定の実施形態において、前記フッ化化合物はフルオロアルキルホスホン酸(FAPA)、フルオロアルキルホスホネート(FAPN)、フルオロアルキルシラン(FAS)、およびフルオロアルキルハライド(FAH)またはそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図面は例示的な実施形態を開示し、その中で図面全体を通して同じ参照符号は同一または類似部分を示す。
【0041】
図1図1は本開示のオムニフォビック・コーティングの静止接触角の測定値を示す。図1aは水の前記接触角を示す。図1bはヘキサデカンの前記接触角を示す。
【0042】
図2図2は本開示のオムニフォビック・コーティングの機械摩擦(テーバー試験、ASTM D4060)試験のグラフである。点線は90°のカットオフ限界を示す。
【0043】
図3図3は化学的試験後の本開示のオムニフォビック・コーティングの接触角の測定値のチャートである:(a)水;(b)ヘキサデカン。
【0044】
図4図4は酸(pH2)および塩基(pH11)溶液における本開示のオムニフォビック・コーティングの耐薬品性試験のグラフである:(■)酸(pH=2);(○)塩基(pH=11)。
【0045】
図5図5は本開示のオムニフォビック・コーティングの耐UV試験(SAE J2527)のグラフである。点線は80°のカットオフ限界を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本開示は、例示的な実施形態において、少なくとも1つのフッ化化合物を用いた、基材、特に、ガラス材料、セラミック、ガラスセラミックのオムニフォビック表面処理に関する。前記開示に関連して用いる基材は、例えば、航空、鉄道または自動車分野における、例えば、リアビューカメラレンズ、フロントガラス、およびサイドウインドウ用のガラス部分であってもよい。特定の実施形態において、本開示に関連して用いる基材はそれらの表面にヒドロキシル基を含まないことになる。特定の実施形態において、本開示に関連して用いる基材は表面にヒドロキシル基を含まないガラスまたは酸化物表面であってもよい。本明細書に開示される前記オムニフォビック表面処理は、他の分野、例えば、建築分野において、またはインテリアデザイン分野において、例えば、装飾パネルとして、家具用に、家庭用電気器具(例えば、冷蔵庫のドア、オーブンのドア、および展示ケース)用などにも用いうることが理解される。
【0047】
本明細書で使用される場合、「アルキル」は1〜20個の炭素原子(例えば、C〜C20)、好ましくは1〜12個の炭素原子(例えば、C〜C12)、より好ましくは1〜8個の炭素原子(例えば、C〜C)、または1〜6個の炭素原子(例えば、C〜C)、または1〜4個の炭素原子(例えば、C〜C)の直鎖および分枝鎖基を含む飽和脂肪族炭化水素基を指す。「低級アルキル」は、具体的には、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を指す。アルキル基の例には、メチル、エチル、プロピル、2−プロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチルなどが含まれる。アルキルは置換されていても置換されていなくてもよい。標準的な置換基には、当該技術分野で従来から知られている置換基、例えば、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、ハロ、カルボニル、チオカルボニル、O−カルバミル、N−カルバミル、O−チオカルバミル、N−チオカルバミル、C−アミド、N−アミド、C−カルボキシ、O−カルボキシ、ニトロ、シリル、アミノおよび−NR(式中、RおよびRは独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、カルボニル、アセチル、スルホニル、トリフルオロメタンスルホニルおよび、組み合わされて5員または6員のヘテロ脂環式環からなる群より選択される)が含まれる。置換基はまた、アルキルに関連して本開示の他の箇所に記載される置換基を含む。
【0048】
本明細書で使用される場合、「アルケニル」は、少なくとも2個の炭素原子および少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を含むことによってさらに定義される、本明細書で定義されるアルキル基を指す。「アルケニル」は2〜8個の炭素原子および少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を有する基(例えば、「C〜Cアルケニル」)を含む。代表的な例としては、エテニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−、2−または3−ブテニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。アルケニルは、アルキルについて上記のように置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。置換基はまた、アルケニルに関連して本開示の他の箇所に記載されているものを含む。
【0049】
本明細書で使用される場合、「アルキニル」は、少なくとも2個の炭素原子および少なくとも1個の炭素−炭素三重結合を含むことによってさらに定義される、本明細書で定義されるアルキル基を指す。「アルキニル」は2〜8個の炭素原子および少なくとも1個の炭素−炭素三重結合を有する基(例えば、「C〜Cアルキニル」)を含む。代表的な例としては、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−、2−または3−ブチニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。アルキニルは、アルキルについて上記のように置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。置換基はまた、アルキニルに関連して本開示の他の箇所に記載されている置換基を含む。
【0050】
本明細書で使用される場合、「オムニフォビック基材」という用語は、油(有機液体を含む)と水をはじく基材を意味する。当該技術分野で従来から知られているように、平坦な表面上のオムニフォビック表面の前記接触角は、ヘキサデカンについては通常少なくとも70°より大きく、水の場合は通常少なくとも90°より大きい。オムニフォビック表面上では、液体は玉のようになり、例えば、基材が傾斜状態にあると重力によって;または、例えば、輸送手段の運転中に、前記基材が動いていると空気力または機械的動作(振動および揺動)の影響下で、容易に前記基材から流れ去る傾向がある。
【0051】
表面にオムニフォビック特性を付与するのに有用でありかつ基剤上にコーティング層を形成するのに用いることができる薬剤には、フルオロアルキルホスホン酸(FAPA)、フルオロアルキルホスホネート(FAPN)、フルオロアルキルシラン(FAS)、アルキルシラン(AS)、フルオロアルキルハライド(FAH)またはフッ化物イオン封入フッ化かご型シルセスキオキサン(F@F−POSS)、例えば、酸性またはアルカリ性溶液中の、参考として本明細書に援用される米国特許公開番号US2002/0221262に記載された薬剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
本教示に関連して有用なFAPAおよびFAPN剤の例には、例えば、式
C(CF)m(CH)nP(O)(Y)2−p1(OH)p1
【0053】
(式中、m1は0〜15の整数であり;n1は0〜5の整数であり;p1は0、1または2であり;Yは加水分解性基、例えば、ハライド基またはアルコキシ基である)の化合物が含まれる。
【0054】
本教示に関連して有用なFAS剤の例には、例えば、そのアルキル基が少なくとも1つの過フッ素化末端基、具体的にはFC−(CF)n−基(式中、nはゼロまたは正の整数である)を有するアルキルシランが含まれる。本教示に関連して有用なFAS剤の例には、式
C−(CF)m−(CHn2−Si(Z)3−t(R)
【0055】
(式中、m2は0〜15の整数であり;n2は0〜5の整数であり;tは0〜3の整数であり;Rはアルキル基または水素原子であり、Zは加水分解性基、例えば、ハライド基またはアルコキシ基である)のFAS剤が含まれる。特定の実施形態では、m2は約3〜約7の整数である。特定の実施形態では、n2は約2の整数である。特定の実施形態では、tは0または1である。特定の実施形態では、tは0である。
【0056】
本教示に関連して有用なFAH剤の例には、式
C−(CHm3−X
【0057】
(式中、m3は0〜15の整数であり;かつXはハロゲンである)のFAH剤が含まれる。
【0058】
本教示に関連して有用なAS剤の例には、式
C−(CHm4−Si(X)3−p2(R)p2
【0059】
(式中、m4は0〜15の整数であり;p2は0、1または2であり;Rはアルキル基または水素原子であり;かつXは加水分解性基、例えば、ハライド基またはアルコキシ基である)のAS剤が含まれる。特定の実施形態では、m4は約3〜約5の整数である。特定の実施形態では、p2は0または1である。特定の実施形態では、p2は0である。
【0060】
本明細書で使用される場合、「加水分解性基」とは、水で加水分解できる有機シラン化合物中の基であることが当該技術分野で既知の任意の基を意味する。このような基としては、ハライド基、アルコキシ基、アシルオキシ基が挙げられるが、これらに限定されない。加水分解性基の例としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、アセトキシなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
ポリヘドラル・シルセスキオキサンは、最も一般的には立方体、六角形プリズム、八角形プリズム、十角形プリズム、または十二角プリズムである、かご様構造を有する。例示的な実施形態では、様々な可能性のあるF−POSSかご分子構造のうち、立方体様(「T8」)かご構造が形成される。例示的な実施形態では、本開示は原料用材料のブレンドから製造されたF−POSS組成物を提供する。例示的な一実施形態では、第一の原料は第一のフッ素化トリエトキシシランを含み、第二の原料は第二のフッ素化トリエトキシシランを含む。各フッ素化トリエトキシシランは、異なる炭素鎖長Cを有する。例示的な実施形態では、Cは4〜10の範囲内にある。例示的な実施形態では、Cは6〜8の範囲内にある。例示的な実施形態では、Cは4、6、8または10である。例示的な実施形態では、第一の原料はC6フルオロアルキル分子であってもよく、第二の原料はC8フルオロアルキル分子であってもよい。例示的な実施形態において、第一の原料は1H,1H,2H,2Hノナフルオロヘキシルトリエトキシシランであってもよい。例示的な実施形態では、第二の原料は1H,1H,2H,2Hパーフルオロオクチルトリエトキシシラン(別名トリエチル(1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチル)シランであってもよい。
【0062】
例として、6/2 F−POSS [3]および4/2 F−POSS [4]分子の式を以下に示す。
【化11】
【化12】
【0063】
本開示に関連して有用なF@F−POSS分子には、式[5]:
【化13】
【0064】
(式中、Rfは、FC−(CF−(CH−(その中で、mは0〜15の整数であり、nは0〜5の整数である)の分子が含まれる。特定の実施形態では、mは約3〜約5の整数である。特定の実施形態では、nは約2の整数である。
【0065】
本明細書に記載されるのは、構造式[1]:
【化14】
【0066】
(式中、Rは(R8−rまたは(Rであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;qは0〜約5の整数であり;かつrは1〜8の整数である)のフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン(F@F−POSS)化合物である。
【0067】
特定の実施形態では、pは0である(そのような場合、前記機能性フッ化かご型シルセスキオキサンはF@FPOSSEPNと記載することができる)。特定の実施形態では、pは2である(このような場合、前記機能性フッ化かご型シルセスキオキサンはF@FPOSSEPAと記載することができる)。特定の実施形態では、mは3〜5の整数である。特定の実施形態では、mは3である。特定の実施形態では、mは4である。特定の実施形態では、mは5である。特定の実施形態では、nは1〜3の整数である。特定の実施形態では、nは2である。特定の実施形態では、nは3である。特定の実施形態では、qは1〜3の整数である。特定の実施形態では、qは2である。特定の実施形態では、qは3である。特定の実施形態では、rは1である。特定の実施形態では、rは2である。特定の実施形態では、rは3である。特定の実施形態では、rは4である。特定の実施形態では、rは5である。特定の実施形態では、rは6である。特定の実施形態では、rは7である。特定の実施形態では、rは8である。特定の実施形態では、前記加水分解性基はアルコキシ基またはアシルオキシ基である。特定の実施形態では、前記加水分解性基はアルコキシ基である。特定の実施形態では、前記加水分解性基はアシルオキシ基である。特定の実施形態では、前記加水分解性基は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシおよびn−ブトキシからなる群より選択されるアルコキシ基である。特定の実施形態では、前記加水分解性基はアセトキシである。
【0068】
本明細書に記載されるのは、構造式[1a]:
【化15】
【0069】
(式中、Rは(R8−rまたは(Rであり;RはFC(CF(CH−であり;Rは(HO)(Y)2−pP(O)(CH−であり;Yは加水分解性基であり;mは0〜約15の整数であり;nは0〜約5の整数であり;pは0、1または2であり;qは0〜約5の整数であり;かつrは1〜8の整数である)の機能性フッ化かご型シルセスキオキサン化合物である。
【0070】
特定の実施形態では、pは0である(そのような場合の前記機能性フッ化かご型シルセスキオキサンはF@FPOSSEPNと記載することができる)。特定の実施形態では、pは2である(このような場合、前記機能性フッ化かご型シルセスキオキサンはF@FPOSSEPAと記載することができる)。特定の実施形態では、mは3〜5の整数である。特定の実施形態では、mは3である。特定の実施形態では、mは4である。特定の実施形態では、mは5である。特定の実施形態では、nは1〜3の整数である。特定の実施形態では、nは2である。特定の実施形態では、nは3である。特定の実施形態では、qは1〜3の整数である。特定の実施形態では、qは2である。特定の実施形態では、qは3である。特定の実施形態では、rは1である。特定の実施形態では、rは2である。特定の実施形態では、rは3である。特定の実施形態では、rは4である。特定の実施形態では、rは5である。特定の実施形態では、rは6である。特定の実施形態では、rは7である。特定の実施形態では、rは8である。特定の実施形態では、前記加水分解性基はアルコキシ基またはアシルオキシ基である。特定の実施形態では、前記加水分解性基はアルコキシ基である。特定の実施形態では、前記加水分解性基はアシルオキシ基である。特定の実施形態では、前記加水分解性基は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシおよびn−ブトキシからなる群より選択されるアルコキシ基である。特定の実施形態では、前記加水分解性基はアセトキシである。
【0071】
特性
【0072】
特定の実施形態では、オムニフォビック特性を有する本明細書に記載の基材の1つの目的は、基材に光学的に透明で、非濡れ性かつ機械的に耐久性のある特質を付与することである。「濡れ性」という用語は、極性または非極性の液体が基材に付着し、望ましくない被膜を作り、さらに基材があらゆる種類の塵や汚れ、指紋、昆虫などを保持する傾向も示す特性を意味する。
【0073】
特定の実施形態では、本開示の他の目的はオムニフォビック・コーティングで被覆された基材およびその方法であり、前記基材の特性が改良される。より詳細には、本明細書に記載のオムニフォビック基材は、所望の濡れ性の特徴を有するコーティングだけでなく、現時点で知られているコーティングの性能に関して未だ観察されていない改良された耐摩耗性能および/または自己修復性も付与する。さらに、本開示の別の態様によれば、本明細書に記載のオムニフォビック基材は、特に高い耐加水分解性を有しうる。
【0074】
このような性能により、通常、例えば、自動車または航空産業において、例えば、耐摩耗性、耐UV性、および耐塩腐食性の観点から現在において課せられている仕様をより効果的に満たすオムニフォビック基材が提供される。
【0075】
生成物
本明細書に記載の例示的な方法によってえられるオムニフォビック・グレーズ基材の例示的な実施形態は、光学的に透明であり、機械的に耐性があり、自己修復性がある。本開示はまた、本明細書に記載される基材を含むかまたは前記基材によって形成されるオムニフォビック・グレーズ材に関する。そのようなグレーズ材は多数の分野、例えば、車両または建物におけるグレーズ材として有用である。
【0076】
本開示はまた、本明細書に記載される実施形態の1つに従った方法を実施することによってえることができるオムニフォビック・コーティングを備えたガラス、セラミックまたはガラスセラミック基材に関する。前記コーティングは、塩基性水溶液または酸性水溶液中におけるフッ化化合物および少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンのオムニフォビック層を含む。特定の実施形態では、その表面が5nmより大きいRMS表面粗さを有し、好ましくは前記表面粗さを改変しないかまたは実質的に改変しない条件下で、ArまたはHeタイプの希ガス、とNまたはOガスから選択されるガスのプラズマを用いるか、またはこれらのガスの少なくとも2つの混合物のプラズマを用いる処理によって活性化されている。特定の実施形態では、少なくとも1つのフッ化化合物および少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンを含むオムニフォビック・コーティングの形成は、前記基材に結合される塩基性水溶液または酸性水溶液によって促進される。
【0077】
特定の実施形態では、前記基材は、HOと、Ar、HeまたはNから選択される少なくとも1つのガスとを含むガス混合物のプラズマによって活性化される活性化工程を実施することによってえられる。特定の実施形態では、約10nm〜約500nmの間の厚さを有するオムニフォビック層がえられる。特定の実施形態では、前記厚さは約20nm〜約200nmである。特定の実施形態では、前記オムニフォビック層のRMS粗さは約10nm未満である。特定の実施形態では、前記オムニフォビック層のRMS粗さは5nm〜10nmである。
【0078】
方法
構造式[1a]:
【化16】
【0079】
(式中、Rは本明細書で定義される通りである)の前記機能性フッ化かご型シルセスキオキサン化合物は、機能性F−POSS化合物の製造のための当該技術分野で既知の任意の方法によって製造することができることが理解される。
【0080】
第一の態様において、構造式[1a]の機能性フッ化かご型シルセスキオキサン化合物は、国際特許出願第PCT/US2015/054367号に記載の方法、および同様の方法に従って製造することができる。例えば、特定の実施形態では、少なくとも1つのフッ素化トリアルコキシシラン、例えば、トリエトキシ(1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチル)シラン、および少なくとも1つのトリエトキシシリルホスホネート、例えば、ジエチル[2−(トリエトキシシリル)−エチル]ホスホネートを含む原料を、極性有機溶媒、例えば、エタノールまたはメタノールを含む有機溶媒中で混合し、室温で攪拌して所望のF−POSSホスホネートを提供することができる。
【0081】
第二の態様において、式[1a]のF−POSSリン酸は、式[1a]のF−POSSホスホネートを濃酸と混合することによって製造することができる。特定の実施形態では、前記混合物を一定期間加熱すること、例えば、140℃で6時間加熱することが有利でありええる。加熱後、えられた酸性混合物を水で洗浄することにより中和し、減圧下で乾燥して所望のF−POSSリン酸を提供することができる。
【0082】
第三の態様では、構造式[1]のフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン(F@F−POSS)化合物は、式[1a]のF−POSSホスホネートまたはF−POSSリン酸のいずれかをフッ化物イオンを提供することができるフッ化物試薬、例えば、テトラメチルアンモニウムフルオライドと、有機溶媒、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル(EtO)、ジクロロメタン(DCM)などにおいて混合し、所望の生成物を提供することができる。
【0083】
構造式[2a]:
【化17】
【0084】
(式中、R、RおよびRは本明細書に記載の通りである)の機能性フッ化かご型シルセスキオキサン化合物は、機能性F−POSS化合物の製造のための当該技術分野で既知の任意の方法によって製造することができることが理解される。
【0085】
第四の態様では、構造式[2a]の機能性フッ化かご型シルセスキオキサン化合物は、米国仮特許出願第62/118220号に記載の方法、および同様の方法に従って製造することができる。例えば、特定の実施形態では、式[5a]のF−POSS化合物を、
【化18】
【0086】
水性塩基触媒、例えば、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドの存在下で、式RSi(OR(式中、Rは、C〜Cアルキル、C〜CアルケニルおよびC〜Cアルキニルからなる群より選択され;Rは本明細書で定義される通りであり;RはC−Cアルキルである)の化合物と接触させ、式[2a]の化合物を提供することができる。本開示に関連して使用するのに適した式RSi(ORの化合物の例は、ジエチル[2−(ジエトキシメチルシリル)エチル]ホスホネートである。あるいは、構造式[2a]の機能性フッ化かご型シルセスキオキサン化合物は、Ramirez, S. M; Diaz, Y. J.; Campos, R.;Stone, R. L.; Haddad, T. S.; Mabry, J. M. J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 20084-20087に記載された方法に従って製造することができる。
【0087】
第五の態様では、式[2a]のF−POSSリン酸は、式[2a]のF−POSSホスホネートを濃酸と混合することによって製造することができる。特定の実施形態では、えられた混合物を一定期間加熱すること、例えば、前記混合物を140℃で6時間加熱することが有利でありえる。加熱後、えられた酸性混合物を水で洗浄することにより中和し、減圧下で乾燥して所望のF−POSSリン酸を提供することができる。
【0088】
第六の態様では、構造式[2]のフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサン(F@F−POSS)化合物は、前記式[2a]のF−POSSホスホネートおよびF−POSSリン酸のいずれかを、フッ化物イオンを提供することができるフッ化物試薬、例えば、テトラメチルアンモニウムフルオライドと、有機溶媒、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル(EtO)、ジクロロメタン(DCM)などにおいて混合することによって製造することができる。
【0089】
基材上の層は、水性または非水性の酸性または塩基性の溶媒中で少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンおよび少なくとも1つのフッ化化合物を含む溶液を基材の表面に適用することによって製造することができる。
【0090】
第一の態様によれば、本開示は以下の工程を含む基材上にオムニフォビック・コーティングをえる方法を提供する、
【0091】
(a)基材をガスのプラズマと接触させることによって前記基材を活性化する工程;および
【0092】
(b)本明細書に記載の少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンを含むオムニフォビック・コーティングを形成する工程。
【0093】
特定の実施形態では、前記基材はガラス材料、セラミックまたはガラスセラミックである。特定の実施形態では、前記ガスは、ArまたはHeなどの不活性ガス、N、O、またはHO蒸気などのガス、またはそのようなガスの混合物である。特定の実施形態では、活性化はHOを含むガス混合物のプラズマによって行うことができる。特定の実施形態では、前記少なくとも1つのフッ化化合物は、プロトン性または非プロトン性溶媒、および前記少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンとの混合物中に堆積する。特定の実施形態において、前記少なくとも1つのフッ化化合物は、塩基性水溶液または酸性水溶液を含有するプロトン性または非プロトン性溶媒、および前記少なくとも1つのフッ素イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンとの混合物中に堆積する。
【0094】
特定の実施形態では、前記形成する工程は、5〜100nmのRMS表面粗さをえることができる条件下で、浸漬、噴霧、または熱化学気相成長(CVD)によって実施される。特定の実施形態では、前記形成する工程により、5〜10nmのRMS表面粗さがもたらされる。
【0095】
特定の実施形態では、前記オムニフォビック・コーティングを形成する工程は、フッ化化合物、本明細書に記載のフッ化物イオン封入フッ化かご型シルセスキオキサン、および酸性水溶液または塩基性水溶液の混合物からえられた溶液を用いて行う。
【0096】
特定の実施形態において、酸性水溶液または塩基性水溶液は前記フッ化化合物の求核反応を促進するために必要とされる。特定の実施形態において、前記酸はアスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、酢酸、塩酸、シュウ酸、リン酸または硫酸でありうる。特定の実施形態において、前記塩基は水酸化アンモニウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウムでありうる。
【0097】
活性化プラズマ条件:前記基材をプラズマの形態の活性化ガスによって処理することができる。この工程は、様々な真空チャンバまたは大気圧チャンバ内で行うことができる。例えば、平行平板RFリアクタを使用することが可能である。前記処理により、前記基材が化学修飾されるが、形態学などの物理的変化は生じない。使用される前記ガスは、Ar、He、N、またはOまたはこれらのガスの混合物から選択される。使用圧力は50〜500mtorr、出力は10〜200Wであり、活性化時間は、好ましくは約1分〜約5分、通常は1分以内である。
【0098】
オムニフォビック層の形成条件:特定の実施形態では、少なくとも1つのフッ化化合物および少なくとも1つのフッ化物イオン封入機能性フッ化かご型シルセスキオキサンを含む前記オムニフォビック層は、当該技術分野で知られている任意の技術によって形成されうる。特に、前記オムニフォビック層は、表面コーティングの分野で周知の浸漬、噴霧、および拭き取り技術によって形成されうるが、これらに限定されることはない。
【0099】
以下の実施例を説明の目的のためにのみ記載する。前記実施例に記載される部およびパーセンテージは、別段の規定がない限り重量部および重量パーセントである。
【実施例】
【0100】
実施例1−プラズマ活性化を伴うガラス基材の製造
前記基材を低圧PECVD(プラズマ化学気相成長)反応器のチャンバ内に配置した。活性化ガスを導入する前に、まず前記チャンバ内の残留真空を少なくとも5mPa(5・10−5mbar)とした。シリコンオキシカーバイドまたはシリカの表面処理に使用される前記ガスまたはガス混合物を、前記反応器内の全圧力が9.99〜26.66Pa(75〜200mTorr)に設定されるまで、流量を20sccm〜200sccmの間で変化させて前記チャンバに導入した。
【0101】
平衡状態で、導入された前記ガスのプラズマを、室温で1〜5分間の範囲の時間、200Wの平均無線周波数(13.56MHz)の電力でガス拡散を電気的に偏向させることによって着火させた。
【0102】
実施例2−フッ化物イオン封入フッ化かご型シルセスキオキサン・エチルホスホン酸(F@F−POSSEPA)またはフッ化かご型シルセスキオキサン・エチルホスホネート(F@F−POSSEPN)の製造
工程A:F−POSSEPNの製造
【0103】
二成分、トリエトキシ(1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチル)シラン(6g、11.75mmol、7当量、C13(CHSi(OEt)、シグマ アルドリッチ(Sigma−Aldrich)から入手可能)およびジエチル[2−(トリエトキシシリル)−エチル]ホスホネート(0.55g、1.67mmol、1当量、(EtO)P(O)(CHSi(OEt)、フルオロケム(Fluorochem)から入手可能)の混合物を10mLのエタノールに溶解し、50mL丸底フラスコ中12時間室温で撹拌した。エタノール中で白色沈殿した固体を濾過し、乾燥させて4.2gのF−POSSEPNを白色固体としてえた。
【0104】
H NMR(アセトン−D)δ1.05ppm(t、3H)、1.13ppm(m、16H)、2.33ppm(m、16H)、4.08ppm(q、2H)。
【0105】
13C NMR(アセトン−D)δ28、64、93、95、108、110、113、114、117、119、122。
【0106】
工程B:F−POSSEPAの製造
【0107】
工程AでえたF−POSSEPN10gを50mL丸底フラスコ中で濃塩酸10mLと6時間混合した。えられた混合物を140℃で6時間加熱した後、その酸性混合物を50mLの水で2回洗浄することにより中和し、減圧下で乾燥させてF−POSSEPAを白色固体として100%の収率でえた。
【0108】
H NMR(アセトン−D)δ1.06ppm(br、16H)、2.33ppm(br、16H)、3.79ppm(br、1H)。
【0109】
工程C:F@F−POSSEPAまたはF@F−POSSEPNの製造
【0110】
F−POSSEPN(2g、0.66mmol)またはF−POSSEPAのいずれかを、10mLのテトラヒドロフラン(THF)中で0.07gのテトラメチルアンモニウムフルオライド(0.79mmol、1.2当量)と共に、50mL丸底フラスコ中一晩室温で撹拌した。えられた溶液をCelite濾過剤で濾過した。濾液を減圧下で乾燥させた。固体生成物(F@F−POSSEPAまたはF@F−POSSEPN)は約20%の収率でえられた。
【0111】
@POSSEPN H NMR(アセトン−D)δ0.13ppm(s、12H)、1.05ppm(t、3H)、1.13ppm(m、16H)、2.33ppm(m、16H)、4.08ppm(q、2H)。
【0112】
実施例3−オムニフォビック・コーティング溶液の適用
オムニフォビック・コーティング溶液を以下の方法で製造した(パーセンテージは重量パーセントである):90%エタノールと10%5M NHOHの水中混合物をえた。上記二成分に対して、5%の割合の、1H,1H,2H,2H−パーフルオロ−n−デシルホスホン酸(式C17(CHPO(OH)を有し、Dojindo Molecular technologies,Inc.から入手可能)およびF@F−POSSEPAまたはF@F−POSSEPNのいずれか(実施例3で製造したもの)をエタノール/水酸化アンモニウム溶液に添加した。えられた混合物を30分間超音波処理した。
【0113】
浸漬することによりプラズマで活性化した基材上に前記オムニフォビック・コーティング溶液を堆積させた。試験片を60℃のオーブン中で5時間乾燥させた。
【0114】
実施例4−初期接触角測定
初期接触角測定は水およびヘキサデカンを用いて行ったが、これによりグラフト化された基材のオムニフォビシティの参照表示がもたらされる。試験片に従って製造した試験片についてえられた結果を表1および図1に示す。
【表1】
【0115】
実施例5−機械的摩耗試験
えられたオムニフォビック基材の耐磨耗性をASTM D4060により測定した。前記試験は、試験片に対して、CS10硬度の研磨ディスクを用いて、1.5cmの面積に250gの荷重下で、50サイクル/分の平行移動速度および6rpmの回転速度で実施された。1500サイクル後に前記接触角が80°より大きく維持される場合、試験片を前記試験で満足のいくものであると判断した。試験結果により、前記試験片の耐磨耗特性が十分であり、水接触角の劣化が観察されなかったことが示された(図2参照)。
【0116】
実施例6−耐薬品性試験
化学的試験の範囲は、種々の化学薬品に関して前記オムニフォビック・コーティングを備えた前記基材の耐薬品特性を測定することであった。試験対象物を、化学薬品を染み込ませたベンコット(Bemcot)クロスでこすった後、実施例4に記載の接触角試験を行った。試験結果により、図3において水およびヘキサデカンに対する前記オムニフォビック・コーティングの接触角が減少しなかったことが示された。
【0117】
実施例7−耐薬品性試験(酸および塩基)
概して、シラン系疎水性コーティングは加水分解に対して脆弱であり、強い酸および塩基の条件下で被覆破損が起こりやすい。この試験の目的は本開示による前記オムニフォビック・コーティングを備えた前記基材の耐薬品特性を測定することであった。前記試験は、25℃の室温で塩酸水溶液(pH2)または水酸化ナトリウム水溶液(pH11)に試験片を浸漬することから構成された。最も厳格な基準では、現在、前記試験の24時間後に水接触角が90°を超えることが必要とされる。試験結果により、酸性溶液および塩基性溶液における前記オムニフォビック・コーティングの水接触角はそれぞれ118度および111度であることが示される。前記オムニフォビック・コーティングは、要件(8時間後で>90°)を満たす。48時間の延長した試験期間であっても、酸性溶液および塩基性溶液における前記オムニフォビック・コーティングの水接触角は、それぞれ117度および108度である。この試験により、極度の酸性および塩基性の環境においても、前記オムニフォビック・コーティングは化学的に安定であることが実証される。
【0118】
実施例8−耐UV試験(酸)
前記試験を上記の方法に従って製造した基材上で実施し、UV暴露の前後に測定した接触角を比較した。UV線を放出するキセノンランプ(その照射強度は300nm〜400nmの間に統合される)で連続的に試験片を照射する試験において測定された、UV−A線耐性は60W/mである。前記接触角が2000時間の曝露後に80°を超えたままである場合、試験片を前記試験で満足のいくものであると判断した。試験の結果により、本明細書で提供される前記オムニフォビック・コーティングがSAE J2527 UV光曝露基準に合格することが示される。結果を図5に示す。
【0119】
特に明記しない限り、本明細書に記載した任意の方法は、その工程が特定の順序で実施されることを必要とするものと解釈されることを意図するものではない。したがって、方法の請求項はその工程の後に続くべき順序を実際に列挙していない場合、または請求項もしくは説明にそれらの工程が特定の順序に限定されるべきであることが別途明記されていない場合は、いかなる点でも、順序が推測されることを意図するものではない。
【0120】
前記明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」および「前記(the)」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0121】
範囲は、本明細書では、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値と表現されうる。そのような範囲が表されるとき、別の実施形態では、1つの特定の値から、および/または他の特定の値を含む。同様に、先行する「約」を使用することで、値が近似値として表現される場合、特定の値が別の実施形態を形成することが理解される。さらに、範囲の各々の終点は、他方の終点に関して、および他方の終点とは無関係の両方で意味があることがさらに理解される。
【0122】
「任意の」または「任意に」は、後に記載される事象または状況が起こっても起こらなくてもよいこと、および前記説明は前記事象または状況が起こる場合および起こらない場合を含むことを意味する。
【0123】
本明細書の説明および特許請求の範囲を通して、「含む」という単語および「含んでいる」および「含み」などの単語の変形は、「含むがこれ(ら)に限定されない」ことを意味し、例えば、他の添加剤、構成要素、整数または工程を排除することを意図しない。「例示的」または「説明的」という単語は「の一例」を意味し、好ましいまたは理想的な実施形態の指示を伝えることを意図するものではない。「例えば、(などの)」は制限的な意味ではなく、解説のために使用している。
【0124】
開示された方法、装置およびシステムを実行するために使用できる構成要素が開示される。これらおよびその他の構成要素は本明細書に開示されており、これらの構成要素の組み合わせ、サブセット、相互作用、グループなどが開示されているが、これらの各々の様々な個別のおよび集合的な組み合わせおよび順列の特定の参照は明示的に開示されない可能性があるが、各々は全ての方法、装置およびシステムについて、具体的に考慮され、本明細書に記載されている。これは、開示された方法における工程を含むが、これらに限定されない、本出願の全ての態様に適用される。したがって、実行可能な追加の工程が多岐に渡る場合、これらの追加の工程の各々は、開示された方法の任意の特定の実施形態または実施形態の組み合わせで実行できることが理解される。
【0125】
本明細書で言及される全ての特許、出願および刊行物は、その全体が参照により援用される。

図1
図2
図3
図4
図5