(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1又は複数の未受精の魚卵、水で活性化する前の1又は複数の受精魚卵、あるいは1又は複数の受精魚卵内に、生殖腺の発達に不可欠な遺伝子の発現を抑制するアンチセンスモルホリノオリゴマーを送達し、そこから産生される魚を生殖不能にするための方法であって、前記アンチセンスモルホリノオリゴマーを含む浸漬培地中で前記1又は複数の魚卵を浸漬することを含み、前記アンチセンスモルホリノオリゴマーが、前記1又は複数の魚卵が1又は複数の受精魚卵である場合に、トリアジンコアを有するオリゴグアニジンデンドリマーである分子輸送体化合物と結合している、方法。
前記アンチセンスモルホリノオリゴマーが、dead end、nanos、vasa、gnrh、またはfshレセプター遺伝子の発現を抑制する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
前記分子輸送体化合物が、2−[(4−ニトロフェニル)オキシカルボニルヘキサメチレンカルボニルピペラジニル]−4,6−ビス{ジ[ジ(トリフルオロ−アセトアミドヘキシル)−アミノカルボニルオキシエチル]アミノ}トリアジンである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態による浸漬方法のフローチャート図である。
【
図2】
図2は、本開示の他の実施形態に従って得られる生殖不能な魚の作出のフローチャート図である。
【
図3】
図3は、dnd−MOと結合した分子輸送体Vivoの浸漬浴におけるゼブラフィッシュ胚の浸漬の結果を示す顕微鏡写真である。
図3Aにおいて、20μMのzfdnd−MO−Vivoに3時間浸漬した後、魚胚に特徴付けられていない凝集体が認められた。
図3Bにおいて、5時間の浸漬後、より多くの凝集体が出現した。
図3C及び
図3Dにおいて、20μMのzfdnd−MOに(3C)3時間及び(3D)5時間浸漬した胚には凝集体は認められなかった(Vivo不使用)。
【
図4】
図4は、魚胚に、Dead end(Dnd)タンパク質の翻訳を効果的にブロックするアンチセンスモルホリノオリゴマー(MO)と結合した分子輸送体を投与した結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図4Aは、対照魚において、生殖細胞が、生殖巣に移動し、それらの形態を維持したことを示す。
図4Bは、zfdnd−MO−Vivoの処理が、生殖細胞の誤移動を引き起こし、最終的には他の細胞型に分化したことを示す。
【
図5A】
図5は、ゼブラフィッシュdnd−MO−Vivoで処理した胚が雄様成魚に成長したことを示す写真及びグラフ表示である。
図5Aは、処理した成魚と野生型の雄との間に観察された外観または全体的なサイズに差が認められないことを示す。
図5Bは、zfdnd−MO−Vivoで処理した魚と未処理の野生型雄との間で、3月齢魚(ランダムなサンプル抽出によりn=12)の体重に有意な差が認められないことを示す。
【
図5B】
図5は、ゼブラフィッシュdnd−MO−Vivoで処理した胚が雄様成魚に成長したことを示す写真及びグラフ表示である。
図5Aは、処理した成魚と野生型の雄との間に観察された外観または全体的なサイズに差が認められないことを示す。
図5Bは、zfdnd−MO−Vivoで処理した魚と未処理の野生型雄との間で、3月齢魚(ランダムなサンプル抽出によりn=12)の体重に有意な差が認められないことを示す。
【
図6】
図6は、zfdnd−MO−Vivoで誘発したゼブラフィッシュにおける不妊を示す顕微鏡写真である。生殖腺組織の検査は、(
図6A)未処理の雄魚の十分に発達した精巣、(
図6B)未処理の雌魚の十分に発達した卵巣、(
図6C)細いフィラメント状組織に発達したzfdnd−MO−Vivoで処理した魚の生殖腺を示す。顕微鏡写真(6D〜6F)は、(
図6D)未処理の雄魚の精巣における活発な精子形成、(
図6E)異なる発達段階にある卵母細胞を有する未処理の雌魚の十分に発達した卵巣、(
図6F)進化した生殖腺構造または生殖細胞がなく、発達の遅れた、大量の脂肪細胞で囲まれているように見える処理魚の生殖腺を示す。
【
図7A】
図7は、ゼブラフィッシュdnd−MO−Vivoで処理した胚が生殖能力のない成魚に成長したことのグラフ表示である。
図7Aの24時間及び
図7Bの5〜6時間浸漬の両方において、60または40μMのzfdnd−MO−Vivoに最初に浸漬した全ての胚が生殖能力のない魚に成長した。
【
図7B】
図7は、ゼブラフィッシュdnd−MO−Vivoで処理した胚が生殖能力のない成魚に成長したことのグラフ表示である。
図7Aの24時間及び
図7Bの5〜6時間浸漬の両方において、60または40μMのzfdnd−MO−Vivoに最初に浸漬した全ての胚が生殖能力のない魚に成長した。
【
図8】
図8は、ゼブラフィッシュdnd−MO−Vivoで処理した胚が生殖能力のない成魚に成長したことのグラフ表示である。いくつかの最適化条件において、浸漬を受精直後に開始し、24時間(または始原−5段階)及び5〜6時間(または50%−被包段階)の両方まで継続した場合、60または40μMのzfdnd−MO−Vivoに最初に浸漬した全ての胚が生殖能力のない魚に成長した。
【
図9】
図9は、卵は水活性化前により透過性が高いことを示す顕微鏡写真である。
図9Aに示される40μMのzfdnd−MO−Fluによる5時間浸漬において、未受精卵は、水で活性化する前の卵である
図9Bに示されるよりも多くのzfdnd−MO−Fluを取り込む(より強い緑色蛍光)。
【
図10】
図10は、RNA抽出に用いられた魚の一部と、得られた結果を示す。サケ科(マス)の卵を、サケ科のdnd−MOに、A:対照、B:10μMのSsdnd−MO、C:10μMのSsdnd−MO+1μMのSsdnd−MO−Vivo、D:10μMのSsdnd−MO+2μMのSsdnd−MO−Vivoで受精前に48時間浸漬した。10μMのSsdnd−MO+1μMのSsdnd−MO−Vivoまたは10μMのSsdnd−MO+2μMのSsdnd−MO−Vivoで卵を処理した時、生殖細胞特異的マーカー遺伝子vasaの発現の欠如によって示唆されるように生殖細胞が除去された。
【0015】
発明の詳細な説明
本開示は、一態様において、受精または水活性化の前に卵を化合物と接触させることによる、魚または他の卵生水生動物の卵への有益な化合物の送達に関する。魚または他の卵生水生動物への有益な化合物の送達は、給餌、注入、または対象となる化合物中への胚もしくは個体の浸漬によって従来達成されてきた。しかしながら、ストックの注入は、大規模な商業用の水産養殖活動において実用的ではない。さらに、主としてタンパク質及び糖タンパク質からなる、卵外被としても知られる厚い無細胞の多層被膜である卵の卵膜の透過性が低いため、受精卵及び水で活性化した卵の浸漬処理の使用は限定されてきた。典型的には、魚または他の卵生水生動物胚の浸漬処理において、大分子化合物は、卵膜を横切って胚に到達することができない。
【0016】
排卵/産卵後、かつ受精及び水活性化前に、卵は、細孔または卵の卵膜の小さな管である卵門を通して未受精卵内への水及び物質の進入を可能にする透過性の穴のあいた卵膜(または最外層)を有し、受精のために卵に精子を貫通させる。受精及び水活性化後、卵膜が封入され、卵が不透過性となり、周囲からの物質または水のさらなる取り込みを防止する。
【0017】
発見されているように、排卵/産卵と受精/水活性化との間の時間枠において、卵は透過性であり、浸漬培地から卵内への化合物の取り込みは効率的である。短期間の浸漬後、卵は受精し、水で活性化され、その時点でそれらは不透過性になり、胚発生を開始する。
【0018】
本開示は、いくつかの態様において、卵が環境物質に対して透過性である時間枠の間に、すなわち、排卵/産卵後かつ受精前、または受精後かつ水活性化前に、卵を対象となる化合物と接触させることによって化合物を卵生水生動物の卵内に効率的に送達するための方法について記載する。種々の実施形態において、接触させることは、1つ以上の対象となる化合物(複数可)を含有する浸漬培地における卵の浸漬を含む。
【0019】
したがって、種々の態様において、本開示は、未受精卵または水活性化前の受精卵を浸漬培地中で化合物と接触させることに関する。浸漬培地中に用いられる化合物は、卵生水生動物の不妊化に寄与し得、特定の環境にある浸漬培地は、追加の化合物または浸漬培地と接触させられる卵から孵化した卵生水生動物に有益な他の材料、例えば、DNA/RNA、ホルモン、成長促進物質、感染防御抗原、栄養素等の材料を含んでもよい。
【0020】
よって本開示は、卵を、浸漬培地中で、生殖不能な個体をもたらす選択された化合物と接触させることに関与する、生殖不能な卵生水生動物を作出する方法を企図する。不妊化方法は、胚における生殖腺発達の妨害を含む。本開示はまた、飼育、非天然、及び遺伝子組み換えの養殖された魚/他の卵生水生動物とそれらの野生株との間の異種交配、ならびにそのような水産養殖された魚及び他の卵生水生動物の野生における確立を防止する方法に関する。さらに、開示される方法は、養殖された魚及び他の卵生水生動物による野生集団の遺伝子汚染の予防を可能にするために用いられ得る。
【0021】
本開示の方法は、卵生水生動物に適用される。本明細書で用いられる場合、卵生水生動物は、甲殻類及び/または軟体類等の全ての魚種及び他の卵生水生動物を含む水棲動物の産卵種を含む。
【0022】
したがって、卵生水生動物は、限定されないが、サケ、タイセイヨウサケ、ギンザケ、マスノスケ、シロザケ、ベニザケ、カラフトマス、サクラマス、マス、ニジマス、カワマス、チャマス、カワヒメマス、ホッキョクカワヒメマス、ホッキョクイワナ、バス、ハイブリッドバス、ストライプドバス、ホワイトバス、ストライプドバス−ホワイトバスのハイブリッド、イエローバス、パーチ、ホワイトパーチ、イエローパーチ、ヨーロピアンパーチ、バス−パーチのハイブリッド、ナイルティラピア、ブルーティラピア、ブルーティラピア−ナイルティラピアのハイブリッド、モザンビークティラピア、ゼブラフィッシュ、コイ種、ブリーム、シーブリーム、ポーギー、ナマズ種、及びタラを含む全ての魚種を含む。
【0023】
本開示の方法は、付加的に、甲殻類及び/または軟体類等の卵生水生動物にも適用される。そのような卵生水生動物は、限定されないが、小エビ、エビ、ロブスター、ザリガニ、カニ、カキ、イカ、タコ等を含んでもよい。
【0024】
本明細書に定義される場合、卵生水生動物を「不妊化する」ことは、個体を有性生殖不能にすることを意味すると理解されたい。生殖不能な卵生水生動物は、成熟期に達することができない、または成熟期の年齢に達したときに繁殖することができない個体として定義される。
【0025】
生殖不能な魚及び他の卵生水生動物を作出する方法は、胚の生殖腺におけるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)細胞の発生及び/または始原生殖細胞(PGC)の発生、移動、ならびにコロニー形成を妨害するための、受精または水活性化前のそれらの卵への化合物の投与を含み、その結果として、生殖腺の発達不全及び/または細胞もしくは組織レベルでの完全かつ適切な生殖腺機能の不全、そして最終的には不妊の魚及び他の卵生水生動物の産生がもたらされる。
【0026】
GnRHは、脊椎動物における生殖腺の発達及び繁殖周期の維持に必要である。具体的には、黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH)としても知られるGnRHは、ゴナドトロピン、具体的には、生殖腺の発達に不可欠な卵胞刺激ホルモン(FSH)及び黄体ホルモン(LH)の合成及び分泌を刺激するため、GnRHの合成及び分泌の妨害は、不妊を誘発するための強力な方法である。
【0027】
PGCは、成魚及び他の卵生水生動物の配偶子の前駆体である魚胚中の細胞の集団である。PGCは、胚発生の非常に初期の段階に産生される。胚発生の後期段階に、PGCは、それらの元の位置から生殖腺前駆体の領域まで胚を通って移動する。それらの移動終了時に、PGCは、発達中の生殖腺に進入し、組織をコロニー形成し、配偶子形成のプロセスを開始し、成魚及び他の卵生水生動物に成熟した生殖腺をもたらす。
【0028】
本開示の方法は、生殖不能な(不妊の)卵生水生動物の産生を可能にする。不妊化ストラテジーは、いずれか他の特性に有害な影響を与えることなく、個体における生殖腺発達を特異的に妨害し、その結果として、完全に正常であるが生殖不能な卵生水生動物の作出をもたらす。
【0029】
図1は、本開示の実施形態による浸漬方法の図である。図示されるように、未受精卵(もしくは水で活性化する前の卵)または受精卵を浸漬培地中の対象となる化合物に浸漬することによって化合物が卵に送達される。典型的には、種及び浸漬温度に依存して、約2〜約96時間またはそれ以上卵を化合物に浸漬する。化合物の投与は、好ましくは、卵の卵膜が透過性である間に行われる。対象となる化合物を用いた処理は、GnRHの発生またはPGCの発生が妨害された初期胚を生じさせる。浸漬プロセスによって卵を処理した場合、結果として生じる成魚及び他の卵生水生動物は、生殖能力がないかまたは不妊であり、典型的には生殖能力のある生殖腺の発達が見られない。
【0030】
よって、種々の実施形態において、本開示は、受精または水活性化前に卵を化合物と接触させることによって胚内に化合物を効率的に投与する方法を提供する。選択された化合物は、多数の胚においてGnRH細胞及び/もしくはPGCの発生、移動、及び/または生存を妨害し、その結果として、生殖不能な成魚及び他の卵生水生動物の大規模生産をもたらす。本開示の方法はまた、生殖不能な成魚及び他の卵生水生動物のより小規模な生産において単一の胚にも適用される。
【0031】
本開示の方法に使用される化合物は、受精前または水で活性化する前の卵の卵膜に進入することが可能な、GnRH細胞及び/もしくはPGCの発生、移動、及び/または生存を妨害することが分かっている化合物を含んでもよい。一態様において、そのような化合物は、GnRH細胞及び/またはPGCの発生の妨害が可能であり、卵の卵膜を横切ることが可能なアンチセンスモルホリノオリゴマーであってもよい。よって、本開示の方法において有用なアンチセンスモルホリノオリゴマーは、卵(複数可)をトランスフェクトし、そこから産生される個体(複数可)を生殖不能にするのに有効なアンチセンスモルホリノオリゴマーである。
【0032】
アンチセンスモルホリノオリゴマーは、mRNAを産生するために不可欠な段階である翻訳またはRNAスプライシングのいずれかをブロックすることによって、遺伝子発現を一過性に停止するために使用される。特異的なアンチセンスモルホリノオリゴマーは、限定されないが、deadend、nanos、vasa、gnrh、またはfshレセプターを含む胚性生殖細胞の発生に不可欠な遺伝子の発現を一過性にブロックまたは抑制するために特定することができ、その結果として、生殖腺の発達不全が引き起こされ、最終的には不妊の魚及び他の卵生水生動物が産生される。
【0033】
よって、本開示の一態様において、生殖不能な卵生水生動物を作出するための方法であって、未受精卵(複数可)または水で活性化する前の受精卵を、卵(複数可)をトランスフェクトし、そこから産生される個体(複数可)を生殖不能にするのに有効なアンチセンスモルホリノオリゴマーと接触させることを含む方法が提供される。接触させることは、卵(複数可)の卵膜のトランスフェクションを含む。
【0034】
そのような態様において、本開示は、始原生殖細胞(PGC)の発生、及び胚の生殖腺への移動、及び胚の生殖腺におけるコロニー形成を妨害するために、有効なモルホリノオリゴマーを卵に投与し、その結果として、生殖腺の発達、及び/または細胞もしくは組織レベルでの完全かつ適切な生殖腺機能の不全、そして最終的には不妊魚の産生をもたらされることによって生殖不能な卵生水生動物を作出する方法に関する。
【0035】
Dead end(dnd)は、特定の魚の生殖細胞の発生に不可欠な、脊椎動物に特異的な生殖質及び生殖細胞顆粒の構成要素である。dnd遺伝子は、生殖質及び始原生殖細胞において特異的に発現される。Dndは、PGCの正常な移動及び生存に不可欠であると考えられるため、このタンパク質を欠いた胚は、成長して不妊の成魚になる。
【0036】
開示される方法は、水産養殖、水族館同士の生物交換、及び侵入種の規制のための、生殖不能な魚及び他の卵生水生動物の作出に有用である。一態様において、本方法は、生殖腺の発達に不可欠なdead endのmRNA(dnd−MO)、または限定されないが、nanos、vasa、gnrh、もしくはfshレセプターを含む他の遺伝子に対するアンチセンスモルホリノオリゴマーの、受精前または水で活性化する前の卵(複数可)への投与による生殖腺発達の妨害を含む。生殖腺の発達に不可欠な遺伝子に対するdnd−MOまたは他のアンチセンスモルホリノオリゴマーの作用は、生殖能力のある生殖腺の発達不全及び不妊の成魚をもたらす。
【0037】
実施形態において、dnd−MOは、胚性生殖細胞の発生に不可欠なdead endタンパク質の発現を一過性に抑制することが可能である。
【0038】
本開示はまた、魚のdead end遺伝子の発現を抑制するための方法に用いられる特異的なモルホリノオリゴマー配列にも関する。
【0039】
図2は、始原生殖細胞(PGC)の発生を妨害するために、サケ科、モロネ科、カワスズメ科のdead endのmRNAに対して特異的なモルホリノオリゴマーを投与し、その結果として、生殖腺の発達不全、そして最終的には不妊魚の産生がもたらされることによる生殖不能な魚の作出のフローチャートである。モルホリノオリゴマーで卵を処理しない場合、それらは生殖能力のある種親になり得る。
【0040】
図2に示すように、サケ科、モロネ科、もしくはカワスズメ科、または他の魚種の卵を、関連する魚種のdead end遺伝子に対するモルホリノオリゴマーと接触させてもよい。
図2は、サケ科、モロネ科、またはカワスズメのdead end遺伝子に対して特異的なモルホリノオリゴマーの投与を示す。代替として、卵は処理しなくてもよい。図示されるように、未受精卵をモルホリノオリゴマーと接触させると、オリゴマーがDead endタンパク質の翻訳の抑制またはブロッキングを引き起こし、その結果としてPCGの発生を妨害する。サケ科、モロネ科、またはカワスズメ科の成魚は、生殖能力のある生殖腺の発達が起こらないため、結果的に生殖能力を持たない。正常なPCGの発生が可能である場合、魚は正常な生殖能力のある生殖腺の発達を経験し、その魚は種親として用いられ得る。
【0041】
よって、実施形態において、アンチセンスモルホリノオリゴマーは、サケ科dead end遺伝子、モロネ科dead end遺伝子、またはカワスズメ科dead end 遺伝子のうちの少なくとも1つの発現を効果的に抑制することが可能である。
【0042】
別の態様において、本開示は、生殖細胞の発生に不可欠な特異的遺伝子の発現を一過性に抑制するために使用することができるモルホリノオリゴマーの特異的配列の同定に関する。別の態様において、本開示は、生殖細胞の生存に不可欠なタンパク質であるDead endの翻訳を一過性にかつ効果的に抑制すること、及び生殖腺の発達を特異的に妨害することが可能であり、その結果として、生殖能力のない魚、例えば、サケ科(サケ及びマス)、モロネ科(バス)、及びカワスズメ科(ティラピラ及び鑑賞用カワスズメ科)の作出をもたらす、特異的なアンチセンスモルホリノオリゴマーに関する。
【0043】
別の態様において、本開示は、生殖腺の発達不全及び/または完全かつ適切な生殖腺機能の不全、そして最終的には不妊のサケ科の産生をもたらす、サケ科dead end遺伝子の発現を一過性かつ効果的に抑制する特異的なモルホリノオリゴマー、5´−CTGACTTGAACGCTCCTCCATTATC−3´(配列番号1)及びその変異体、例えば、5´−ACTTGAACGCTCCTCCAT−3´(配列番号2)に関する。したがって、本開示の方法は、限定されないが、とりわけ、サケ、タイセイヨウサケ、ギンザケ、マスノスケ、シロザケ、ベニザケ及びサクラマス、ニジマス、カワマス及びチャマス、カワヒメマス及びホッキョクカワヒメマス、ならびにホッキョクイワナを含む全てのサケ科に適用される。
【0044】
別の態様において、本開示は、生殖腺の発達、及び/または完全かつ適切な生殖腺機能の不全、そして最終的には不妊のモロネ科をもたらす、モロネ科dead end遺伝子の発現を一過性かつ効果的に抑制する特異的なモルホリノオリゴマー、5´−GGCTCTGCTTGCTCTCCATCATCTC−3´(配列番号3)及びその変異体に関する。したがって、本開示の方法は、限定されないが、とりわけ、ストライプドバス、ホワイトバス、ストライプドバス−ホワイトバスのハイブリッド、イエローバス、ホワイトパーチ、イエローパーチ、ヨーロピアンパーチ、及びバス−パーチのハイブリッドを含む全てのモロネ科に適用される。
【0045】
別の態様において、本開示は、生殖腺の発達不全及び/または完全かつ適切な生殖腺機能の不全、そして最終的には不妊のカワスズメ科をもたらす、カワスズメ科dead end遺伝子の発現を一過性かつ効果的に抑制する、特定のモルホリノオリゴマー、5´−CTGGCTTTGCGTGTTTTCCATCGTC−3´(配列番号4)及びその変異体に関する。したがって、本開示の方法は、限定されないが、ナイルティラピア、ブルーティラピア、ブルーティラピア−ナイルティラピアのハイブリッド、モザンビークティラピア、ならびに他の食用及び鑑賞用カワスズメ科種とそれらのハイブリッドを含む全てのカワスズメ科及びティラピア種に適用される。
【0046】
モルホリノオリゴマーは、列挙した配列の変異体であってもよい。これらの変異体は、限定されないが、上に列挙した配列の全部または一部分を網羅する他の修飾核酸及び他のモルホリノオリゴマーを含んでもよい。配列番号1、3、及び4のうちの1つ以上を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらかなるアンチセンスオリゴマーが特に含まれる。配列番号1、3、及び4のうちのいずれか1つに対して80%、85%、90%、95%、97%、98%、もしくは99%(間の全ての整数を含む)の配列同一性もしくは配列相同性を有する変異体オリゴマー、ならびに/またはこれらの配列と約1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10ヌクレオチドだけ異なる変異体、好ましくは、魚卵(複数可)と接触して魚を生殖不能にするのに有効な変異体を含む、これらのアンチセンスオリゴマーの変異体もまた含まれる。配列番号2は、配列番号1の好ましい変異体である。
【0047】
そのような文脈で使用される場合、魚卵(複数可)と接触して魚を生殖不能にするのに有効な変異体は、本明細書に開示される方法における変異体の使用が、生殖不能な魚をもたらすことを意味する。実施形態において、変異体は、対象となるdead end遺伝子の発現を効果的に抑制する。
【0048】
本開示の方法の実施形態によれば、未受精の魚卵(複数可)(1つ以上の卵)が、対象となる魚のdead end遺伝子の発現を効果的に抑制することが可能なアンチセンスモルホリノオリゴマーを含む浸漬培地中に浸漬される。浴中のアンチセンスモルホリノオリゴマーの濃度は、アンチセンスモルホリノオリゴマーが、魚卵(複数可)の卵膜を横切って、卵(複数可)を効果的にトランスフェクトするのを可能にするのに十分であるべきである。実施形態において、そのような濃度は、典型的には、約1〜約20、より好ましくは約3〜約15μM、なおもより好ましくは5〜約10μMである。
【0049】
浸漬培地は、塩、Tris(pH7〜9)、グリシン、ならびに/またはアプロチニンまたはロイペプチン等の0〜30%の血清及びプロテアーゼ阻害剤を含有する、魚の卵巣液または受精希釈液をさらに含み得る水性培地である。
【0050】
魚及び他の卵生水生動物の満足のいく不妊化をもたらすために未受精卵または水で活性化する前の受精卵の浸漬に必要な時間は、魚及び他の卵生水生動物の種に依存するが、典型的には、魚卵または他の卵は、約2〜約96時間、より好ましくは約4〜約72時間、さらにより好ましくは約5〜約48時間、モルホリノオリゴマーを含有する浸漬培地中に浸漬される。
【0051】
本開示はさらに、水産養殖、水族館同士の生物交換、及び侵入種の規制のために、生殖不能な魚及び他の卵生水生動物を作出するための方法に関し、該方法は、分子輸送体と結合した化合物の卵または胚への投与による生殖腺発達の妨害を含み、それによって化合物は、卵(複数可)をトランスフェクトすること、すなわち、未受精卵または胚のいずれかに到達して進入することが可能となる。卵または胚の内部における化合物の作用は、生殖能力のある生殖腺の発達不全、そして最終的には不妊の成魚及び他の卵生水生動物の作出を導く。分子輸送体は、それと結合した化合物を微小のチャネル及び細孔を通して効果的に輸送することが可能であり、それによって化学物質、薬物、ペプチド等が、卵膜を通過して卵または胚に進入し、標的組織に到達することができる。よって、これらの方法を介して、未受精卵または受精卵のいずれかである卵を、モルホリノオリゴマー(または他の生物学的に有益な化合物)と効果的に接触させて生殖不能な魚及び他の卵生水生動物を作出することができる。
【0052】
一態様において、本開示は、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)細胞の発生及び/または始原生殖細胞(PGC)の発生、ならびに胚の生殖腺への移動、ならびに胚の生殖腺におけるコロニー形成を妨害するために、分子輸送体と結合した化合物を未受精の魚卵または胚のいずれかに投与し、その結果として、生殖腺の発達不全及び/または細胞もしくは組織レベルでの完全かつ適切な生殖腺機能の不全、そして最終的には不妊の魚及び他の卵生水生動物の産生がもたらされることによって生殖不能な魚及び他の卵生水生動物を作出する方法に関する。
【0053】
分子輸送実体は、モルホリノオリゴマーを卵または胚に送達するためにモルホリノオリゴマーと結合することが可能な任意の化合物であり得る。
【0054】
一態様において、本開示は、例えば、米国特許第7,935,816号に記載される種類の、トリアジンコアを有するデンドリマー性オリゴグアニジンを含む分子輸送体に関する。そのような分子輸送体は、当該技術分野において「Vivo」としても知られる、トリアジンコアを有するオクタグアニジンデンドリマーであってもよい。米国特許第7,935,816号の開示は、参照により、それぞれの内容が本明細書に組み込まれる。
【0055】
代表的な生理活性物質としてモルホリノを有する例示的なオクタグアニジンデンドリマー輸送体化合物を以下のコンジュゲート中に示す。
【化1】
【0056】
本開示のモルホリノオリゴマーとともに有用な特定の前駆体輸送体化合物は、2−[(4−ニトロフェニル)オキシカルボニルヘキサメチレンカルボニルピペラジニル]−4,6−ビス{ジ[ジ(トリフルオロアセトアミドヘキシル)アミノカルボニルオキシエチル]アミノ}トリアジンである。
【0057】
本開示はさらに、大きな生理活性分子または生物学的に有益な化合物による卵の卵膜の横断を可能にするための分子輸送体としてトリアジンコアを有するオクタグアニジンデンドリマーの使用に関する。そのような分子輸送体は、分子輸送体化合物とモルホリノオリゴマーとのコンジュゲートの卵膜輸送に有効である。
【0058】
本開示の別の態様において、未受精卵または水で活性化する前の卵(複数可)を少なくとも1つの生物学的に有益な化合物と接触させることを含む、卵生水生動物の卵(複数可)内に化合物を送達するための方法が提供される。これらの方法によれば、未受精卵または水で活性化する前の卵(複数可)は、少なくとも1つの生物学的に有益な化合物を効果的に取り込むのに十分透過性である。本明細書で使用される「効果的に取り込む」は、生物学的に有益な化合物が、その使用によって意図される有益な影響に効果的であることを意味する。生物学的に有益な化合物は、抗体、タンパク質、ペプチド、RNA、及びDNAからなる群から選択されてもよい。
【0059】
実施形態において、生物学的に有益な化合物は、生物学的に有益な化合物と、トリアジンコア部分を含むオクタグアニジンデンドリマーを含む分子輸送体化合物とのコンジュゲートとして提供される。これらの実施形態において、分子輸送体化合物は、生物学的に有益な化合物の卵膜輸送に有効であるため、接触させることが卵(複数可)の卵膜トランスフェクションを含む。生物学的に有益な化合物は、化合物をコンジュゲート形態で提供する実施形態において、トリアジンコア部分を含むオクタグアニジンデンドリマーを含む分子輸送体化合物とコンジュゲートを形成することができる化合物である。生物学的に有益な化合物は、抗体、タンパク質、ペプチド、RNA、及びDNAからなる群から選択されてもよい。
【0060】
別の態様において、本開示は、生殖不能な卵生水生動物を作出するための方法を提供し、前記方法は、未受精卵(複数可)または水で活性化する前の受精卵を、卵(複数可)をトランスフェクトし、そこから産生される個体(複数可)を生殖不能にするのに有効なアンチセンスモルホリノオリゴマーと接触させることを含み、アンチセンスモルホリノオリゴマーは、コンジュゲートの卵膜輸送に有効な分子輸送体化合物と結合している。
【0061】
別の態様において、本開示は、生殖不能な卵生水生動物を作出するための方法を企図し、前記方法は、受精卵(複数可)(または胚)を、卵(複数可)をトランスフェクトし、そこから産生される個体(複数可)を生殖不能にするのに有効な分子輸送体化合物に結合したアンチセンスモルホリノオリゴマーと接触させることを含む。
【0062】
選択されたオリゴマーは、多数の胚においてGnRH細胞及び/またはPGCの発生、移動、及び/または生存を妨害し、その果として、生殖不能な成魚及び他の卵生水生動物の大規模生産をもたらす。本開示の方法はまた、生殖不能な成魚及び他の卵生水生動物のより小規模な生産において単一の胚にも適用される。
【0063】
実施形態において、本発明は、魚種及び他の卵生水生動物においてdnd、nanos、またはvasaの発現を効果的に抑制することが可能なアンチセンスモルホリノオリゴマーに結合した分子輸送体の調製及び使用を含む。他の実施形態において、アンチセンスモルホリノオリゴマーは、サケ科dead end遺伝子、モロネ科dead end遺伝子、またはカワスズメ科dead end遺伝子のうちの少なくとも1つの発現を効果的に抑制することが可能である。さらなる実施形態において、アンチセンスモルホリノオリゴマーは、魚種のdead endの発現を効果的に抑制することが可能な、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、またはその変異体である。
【0064】
一実施形態において、生殖不能な卵生水生動物を作出するための方法であって、分子輸送体化合物と、魚及び他の卵生水生動物における生殖腺の発達に不可欠なdead end遺伝子またはnanos、vasa、gnrh、またはfshレセプター等の他の遺伝子の発現を効果的に抑制することが可能なアンチセンスモルホリノオリゴマーとのコンジュゲートを含む浸漬培地中に未受精卵または受精卵(複数可)を浸漬することを含む方法が提供される。好ましくは、分子輸送体は、トリアジンコアを有するオクタグアニジンデンドリマーである。
【0065】
本開示の方法の特定の態様によれば、未受精卵(複数可)または水で活性化する前の卵(複数可)(1つ以上)は、魚及び他の卵生水生動物における生殖腺の発達に不可欠なdead end遺伝子または他の遺伝子の発現を効果的に抑制することが可能なアンチセンスモルホリノオリゴマーまたはアンチセンスモルホリノオリゴマー−輸送体コンジュゲートを含む水性培地中に浸漬される。浴中のアンチセンスモルホリノオリゴマーの濃度は、アンチセンスモルホリノオリゴマー−輸送体コンジュゲートが卵(複数可)の卵膜を横切るのを可能にするのに十分であるべきである。実施形態において、そのような濃度は、典型的には、約1〜約20μM、より好ましくは約3〜約15μM、なおもより好ましくは5〜約10μMである。
【0066】
代替として、本開示は、生殖不能な卵生水生動物を作出するための方法を企図し、前記方法は、受精卵(複数可)を、受精卵(複数可)をトランスフェクトし、そこから産生される個体(複数可)を生殖不能にするのに有効な分子輸送体化合物に結合したアンチセンスモルホリノオリゴマーと接触させることを含む。
【0067】
本発明の実施形態において、受精卵(胚)は、対象となる魚及び他の卵生水生動物における生殖腺の発達に不可欠なdead end遺伝子または他の遺伝子の発現を効果的に抑制することが可能なアンチセンスモルホリノオリゴマー−輸送体コンジュゲートを含む浸漬培地中における浸漬によって処理される。浴中のアンチセンスモルホリノオリゴマーの濃度は、アンチセンスモルホリノオリゴマー−輸送体コンジュゲートが受精卵(複数可)の卵膜を横切るのを可能にするのに十分であるべきである。受精及び水活性化後、卵の卵膜は不透過性になり、卵内への横断を妨害するため、そのような濃度は、未受精の魚卵(複数可)の浸漬に必要な量よりも高くなる。典型的には、胚を浸漬するための該浴の濃度は、約20〜約80μM、好ましくは約40〜約60μMである。
【0068】
受精卵の処理の実施形態において、アンチセンスモルホリノオリゴマーは、サケ科dead end遺伝子、モロネ科dead end遺伝子、またはカワスズメ科dead end遺伝子のうちの少なくとも1つの発現を効果的に抑制することが可能である。さらなる実施形態において、アンチセンスモルホリノオリゴマーは、魚種及び他の卵生水生動物におけるdead endの発現を効果的に抑制することができる配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、またはその変異体である。
【0069】
本開示の別の態様において、魚のdead end遺伝子の発現を効果的に抑制することが可能な配列番号1、配列番号3、及び配列番号4、またはその変異体(配列番号2等)から選択されるアンチセンスモルホリノオリゴマーを含む、魚における始原生殖細胞の移動の妨害に効果的な組成物が提供される。そのような態様において、魚卵(複数可)を処理して、そこから産生される魚を生殖不能にするための組成物であって、魚卵(複数可)に接触して魚を生殖不能にするのに有効な配列番号1〜4のオリゴマー及びその変異体からなる群から選択されるオリゴマーを含むアンチセンスモルホリノオリゴマーを含む組成物が提供される。このモルホリノオリゴマー組成物は、好ましくは、未受精の魚卵(複数可)の処理に用いられる。
【0070】
本開示はさらに、生殖腺の発達を特異的に妨害することが可能であり、その結果として生殖能力のない魚の作出をもたらす新規化合物実体に関する。新規化合物実体は、生殖細胞の生存に不可欠なタンパク質であるdead endのmRNAの翻訳を効果的に抑制するモルホリノアンチセンスオリゴマーに結合したオクタグアニジンデンドリマー分子輸送体を含む。そのようなコンジュゲートは、未受精卵または水で活性化する前の卵を処理するため、または受精卵を処理するために使用され得る。
【0071】
そのような結合化合物は、不妊の魚及び他の卵生水生動物の作出のために使用され得る。モルホリノオリゴマー化合物は、卵膜を効果的に横切って胚に進入するように分子輸送体と結合させることができる。そのため、化合物は、生殖腺の発達を特異的に妨害することが可能であり、その結果として生殖能力のない魚及び他の卵生水生動物の産生をもたらす。好ましくは、分子輸送体は、トリアジンコアを有するオクタグアニジンデンドリマーを含み、オリゴマーは、魚卵(複数可)に接触して魚を生殖不能にするのに有効な、配列番号1、配列番号3、及び配列番号4、または配列番号2等の種々の変異体のいずれかから選択されるアンチセンスモルホリノオリゴマーを含む。
【0072】
卵及び/または胚を、本開示の化合物、コンジュゲート、及び組成物と接触させることは、例えば、浸漬による接触を含むか、または代替として浸漬を含まない接触による、任意の好適な様式で行われてもよいことを理解されたいが、浸漬による接触は、生殖不能な魚及び水生動物の作出のための大規模生産に適した効率的かつ効果的な接触技術を提供することを理解されたい。本開示の広範囲の実施に利用され得る浸漬以外の接触技術は、限定されないが、接触のためのスプレーもしくはドリップ法、生殖不能な魚の作出に有効な本開示の化合物、コンジュゲート、及び組成物のいずれかでコーティングされているかもしくは別様にそれを支持する担体または表面と卵を接触させる乾式導入技術、または卵及び/もしくは胚を開示の化合物、コンジュゲート、及び/もしくは組成物と接触させる他の技術を含む。接触は、好ましくは、注入以外の接触を含む。
【0073】
本開示の利点及び特徴は、以下の実施例を参照することによってさらに例示されるが、決して本開示の範囲を限定するものであると見なされるべきではなく、むしろ本開示の特定の用途における特定の実施形態の例示として見なされるべきである。
【0074】
実施例1
【0075】
世代時間が短いため、また、交配ごとに多数の胚が発生し、それが毎日または毎週容易に得られるため、本開示の方法の最初の例証のためにゼブラフィッシュが選択された。さらに、ゼブラフィッシュの胚は、透明であるため目視観測の容易さを提供し、また丈夫である。胚内におけるGnRH細胞、PGC、及び生殖腺の正常な発達は、全ての魚に見られる進化的に保存された機構である。したがって、本開示の方法は、限定されないが、ゼブラフィッシュ、コイ種、マス種、サケ種、ブリーム(シーブリーム及びポーギーを含む)、バス(海水及び淡水シーバスならびにハイブリッドバスなどを含む)、パーチ(イエローパーチ、ホワイトパーチ等)、ナマズ種、タラ、ならびに捕獲養殖の候補である他の主要なクラスを含む全ての魚種に適用される。
【0076】
Vivo及びdnd−MO
【0077】
Vivoとしても知られるトリアジンコアを有するデンドリマー性オクタグアニジンである分子輸送体を、ゼブラフィッシュdnd−MO、5´−GCTGGGCATCCATGTCTCCGACCAT−3´(配列番号5)(zfdnd−MO−Vivo)と結合させ、水中におけるゼブラフィッシュ胚との浸漬による接触に用いた。20μMのzfdnd−MO−Vivoに3時間浸漬した後、卵膜の内側部分または胚の胚盤の表面に、特徴付けられていない凝集体が認められた(
図3A)。5時間の浸漬後、より多くの凝集体が出現した(
図3B)。20μMのzfdnd−MOに3時間(
図3C)または5時間(
図3D)浸漬した非結合対照群には、これらの凝集体は認められなかった。この結果は、アンチセンスモルホリノオリゴマーとVivoとの結合が、卵膜に作用して凝集体を引き起こす結合化合物の能力を提供したことを示していた。
【0078】
受精の2日後、蛍光顕微鏡検査により、40または60μMのzfdnd−MO−Vivoに浸漬した胚内の生殖細胞が誤移動し、他の細胞型に分化したことが明らかになった(
図4A、
図4B)。図示されるように、ゼブラフィッシュdnd−MO−Vivoは、ゼブラフィッシュにおける生殖細胞の発生を妨害した。
図4Aは、対照魚において、生殖細胞が、生殖巣に移動し、それらの形態を維持したことを示す(円形状の細胞)。
図4Bは、zfdnd−MO−Vivoの処理が、生殖細胞の誤移動を引き起こし、最終的には他の細胞型に分化したことを示す。
【0079】
実施例2
【0080】
実施例1で処理したゼブラフィッシュを、成魚に成長した後で調べた。40または60μMのzfdnd−MO−vivoを用いたゼブラフィッシュ胚の浴浸漬は、
図8に示す最適な条件下で処理した個体において、魚のいずれか他の生理学的特徴に影響を及ぼすことなく100%の不妊を効率的に誘発することが可能であった(
図5)。
図5に示すように、ゼブラフィッシュdnd−MO−Vivoで処理した胚は、生殖能力のない雄様成魚に成長した。
図5Aは、処理した成魚と野生型の雄との間に観察された外観または全体的なサイズに差が認められないことを示す。
図5Bは、zfdnd−MO−Vivoで処理した魚と未処理の野生型雄との間で、3月齢魚(ランダムなサンプル抽出によりn=12)の体重に有意な差が認められないことを示す。
【0081】
追加実験において、本開示の方法をゼブラフィッシュに良好に適用し、不妊の効率に影響を与えることなく、浸漬の期間を5〜6時間に削減した(
図6、
図7、及び
図8)。
図6に、ゼブラフィッシュにおいてzfdnd−MO−Vivoで誘発した不妊が示される。生殖腺組織の検査は、(A)未処理の雄魚の十分に発達した精巣、(B)未処理の雌魚の十分に発達した卵巣、(C)細いフィラメント状組織に発達したzfdnd−MO−Vivoで処理した魚の生殖腺を示す。顕微鏡写真(D〜F)は、(D)未処理の雄魚の精巣における活発な精子形成、(E)異なる発達段階にある卵母細胞を有する未処理の雌魚の十分に発達した卵巣、(F)進化した生殖腺構造または生殖細胞がなく、発達の遅れた、大量の脂肪細胞で囲まれているように見える処理魚の生殖腺を示す。
【0082】
図7及び
図8に示すように、ゼブラフィッシュdnd−MO−Vivoで処理した胚は生殖能力のない成魚に成長した。A)24時間及びB)5〜6時間浸漬の両方において、60または40μMのzfdnd−MO−Vivoに最初に浸漬した全ての胚が生殖能力のない魚に成長した。
【0083】
実施例3
【0084】
技術を継続的に最適化するために、卵膜の透過性は受精及び水活性化後に徐々に低下するため、未受精卵を使用して浴浸漬を行った。我々の結果は、卵を40μMの蛍光標識zfdnd−MO(dnd−MO−Flu)に浸漬したとき、未受精卵が、浸漬の前に1時間水で活性化した卵よりも多くのdnd−MO−Fluを取り込んだことを示している(
図9)。
図9に示すように、卵は水活性化前により透過性が高い。40μMのzfdnd−MO−Fluによる5時間浸漬において、A)未受精卵は、B)水で活性化する前の卵よりも多くのzfdnd−MO−Fluを取り込んだ(より強い緑色蛍光)。
【0085】
実施例4
【0086】
受精前のサケ科(マス)の卵をサケ科のdnd−MO+dnd−MO−Vivo(Ssdnd−MO+Ssdnd−MO−Vivo)に浸漬したとき、生殖細胞特異的マーカー遺伝子vasaの発現の欠如によって示唆されるように、生殖細胞が除去された(
図10)。
図10に示すように、サケ科(マス)の卵を、サケ科のdnd−MOに、A:対照、B:10μMのSsdnd−MO、C:10μMのSsdnd−MO+1μMのSsdnd−MO−Vivo、D:10μMのSsdnd−MO+2μMのSsdnd−MO−Vivoで受精前に48時間浸漬した。孵化直後に、体の中央部を切断し、vasaの発現を検出するためにRNA抽出及びRT−PCRに用いた。C群からの1匹の魚及びD群からの1匹の魚が、非常に低いvasa発現を示すと考えられ、生殖細胞の存在量を減少させる潜在的な影響が示唆される。RT:逆転写。
【0087】
本明細書に記載されるように、不妊の養殖種の作出が望ましいため、本方法は、養殖された魚及び水生卵生動物に一般的に適用される。したがって、本発明の方法は、魚及び水生卵生動物の任意の養殖種のいずれか、特に、商業的に重要な養殖種に適用される。
【0088】
本開示は、特定の態様、特徴、及び例示的実施形態を参照して本明細書に記載されてきたが、本開示の有用性は、そのように限定されるのではなく、むしろ、本明細書の記載に基づいて本開示の技術分野の当業者に想起されるように、多数の他の変形例、修正例、及び代替の実施形態まで拡張し、それらを包含することを理解されたい。それに応じて、これ以降に請求される本発明は、その主旨及び範囲内で、そのような全ての変形例、修正例、及び代替の実施形態を含むように広義にみなされ、または解釈されることが意図される。