【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は特許請求の範囲の記載の発明によって解決された。
【0011】
機能性VL/VH対合は別のヒトVLフレームワークによって達成することが可能であることが判った。驚くべきことに、λ鎖のマウスVLフレームワークが
K鎖のヒトVLフレームワーク(ヒトVL
K_39)へ変化することによって、二重特異性タンデムダイアボディによって誘導された、より優れたCD結合親和性、発現性、標的細胞溶解における細胞毒性効力を示す結合タンパク質が得られた。しかしながら、これらの細胞は安定性とその他の生物物理学特性においては弱いものであった。更なる工程において、位置VH111とVL49のアミノ酸(前記モデルによれば、これらは互いに直接接触する)が、例えば、二重特異性抗体分子、特に、例えば、ダイアボディ又はタンデムダイアボディ等の多量体抗原結合タンパク質、におけるこのCD3結合部位の結合及び安定特性にとって重要であることが判った。VH111のY又はHへの突然変異と、それに加えて、VL49のGからAへの突然変異とによって、驚くべきことに、元の結合親和性及び/又は細胞毒性は保持されたままで、安定性が改善された結合ドメインが作り出される。これらのタンパク質において、特に、それらが二量体タンデムダイアボディとして発現される場合、40℃での7日間安定性の改善を観察することができる。更に、前記クローンは、正しく二量体化されたタンデムダイアボディの割合の増加と回収の改善を示す。
【0012】
それ故、一態様において、本発明は、少なくとも一つのCD3結合部位を有する抗原結合タンパク質を提供し、ここで前記CD3結合部位は以下を有する、
(a)配列識別番号6、7、8又は9に示される可変重鎖ドメイン(VH)から選択される可変重鎖ドメイン(VH)と、配列識別番号1、2、3又は4に示される可変軽鎖ドメイン(VL)から選択される可変軽鎖ドメイン(VL)、もしくは、
(b)位置111のアミノ酸残基がY又はHで、配列識別番号8に示される可変重鎖ドメイン(VH)との比較で少なくとも95%の配列同一性を有する可変重鎖ドメイン(VH)と、位置49のアミノ酸残基がG又はAで、配列識別番号3に示される可変軽鎖ドメイン(VL)との比較で少なくとも95%の配列同一性を有する可変軽鎖ドメイン(VL)、もしくは、
(c)位置111のアミノ酸残基がY又はHで、配列識別番号8に示される可変重鎖ドメイン(VH)との比較で1〜5の保存アミノ酸置換を有する可変重鎖ドメイン(VH)と、位置49のアミノ酸残基がG又はAで、配列識別番号3に示される可変軽鎖ドメイン(VL)との比較で1〜5の保存アミノ酸置換を有する可変軽鎖ドメイン(VL)。
【0013】
いくつかの実施例において、上に定義した少なくとも一つのCD3結合部位を有する抗原結合タンパク質は、ヒトCD33とヒトCD3とに特異的に結合する二重特異性結合タンパク質ではなく、前記CD3結合部位は、ヒトCD3に対する抗原結合部位を形成する、少なくとも一つの抗体可変重鎖ドメインと少なくとも一つの可変軽鎖ドメインとを有し、前記抗-CD3可変軽鎖ドメインは、配列識別番号1〜3から成るグループから選択され、前記抗-CD3可変重鎖ドメインは、配列識別番号6〜8から成るグループから選択される。特定の実施例において、前記抗原結合タンパク質は、CD33とCD3とに結合する二重特異性タンデムダイアボディではなく、前記抗-CD3可変軽鎖ドメインは、配列識別番号1〜3から成るグループから選択され、前記抗-CD3可変重鎖ドメインは、配列識別番号6〜8から成るグループから選択される。これらの二重特異性CD33及びCD3結合タンパク質は、2014年7月1日出願の米国特許出願第62/019,795号及び2015年2月3日出願の米国特許出願第62/111,470号との優先権を主張する、2015年6月30日出願のPCT/US2015/038666号と2015年3月9日出願の米国特許出願第 14/642,497号とに開示されている。本発明の更なる実施例において、上に定義された少なくとも一つのCD3結合部位を有する前記抗原結合タンパク質は、ヒトCD33とヒトCD3とに特異的に結合する二重特異性結合タンパク質ではない。
【0014】
ここで、用語「抗原結合タンパク質」とは、抗原結合特性を備える免疫グロブリン誘導体、即ち、免疫グロブリンポリペプチド又は抗原結合部位を含むそのフラグメント、を指す。前記結合タンパク質は、抗体又はそのフラグメントの可変ドメインを含む。各抗原結合部位は、抗体、即ち、免疫グロブリン、同じエピトープに結合する可変重鎖ドメイン(VH)と抗体可変軽鎖ドメイン(VL)とによって形成され、ここで、前記可変重鎖ドメイン(VH)は、三つの重鎖相補性決定領域(CDR)、 CDR1、CDR2及びCDR3を含み、前記可変軽鎖ドメイン(VL)は、三つの軽鎖相補性決定領域(CDR)、CDR1、CDR2及びCDR3を含む。いくつかのケースにおいて、ここに記載のいくつかの実施例による前記結合タンパク質は、免疫グロブリン定常ドメインを持たない。いくつかのケースにおいて、前記抗原結合部位を形成する前記可変軽鎖及び重鎖ドメインは、例えば、ペプチドリンカーによって、互いに共有結合して、また、他のケースにおいては、前記軽鎖及び重鎖ドメインは、互いに非共有結合して、前記抗原結合部位を形成する。前記用語「抗原結合タンパク質」は、また、クラスIgA、IgD、IgE、IgG又はIgMのモノクローナル抗体、そして、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)
2、Fvフラグメント、一本鎖Fv、タンデム一本鎖Fv((scFv)
2、ダイアボディ、フレキシボディ(flexibody)(WO03/025018)とタンデムダイアボディ(TandAb(登録商標))(Kipriynanov et al., 1999, J. Mol. Biol, 293:41-56、Cochlovius et al., 2000, Cancer Res., 60:4336-4341、Reusch et al., 2004, Int. J. Cancer, 112:509-518、Kipriyanov, 2009, Methods Mol Biol, 562, 177-93、McAleese and Eser, 2012, Future Oncol. 8:687-95)を含む抗体フラグメント又は抗体誘導体を指す。”TandAb”は、タンデムダイアボディを示すために使用されるAffirmed Therapeuticsの商標である。本発明の文脈において、”TandAb”と「タンデムダイアボディ」とは同義語として使用される。
【0015】
いくつかの実施例において、前記CD3結合部位は、VHフレームワークがヒトVH3_72フレームワーク由来であるVHと、VLフレームワークがヒトVκ1_39フレームワーク由来であるVLとを有する。一実施例において、前記CD3結合部位は、配列識別番号8又は9に示されるVHから選択されるVHと配列識別番号3又は4に示されるVLから選択されるVLとを有する。いくつかのケースにおいて、前記CD3結合部位は、(i)配列識別番号8に示されるVHと配列識別番号3に示されるVL、もしくは、(ii)配列識別番号9に示されるVHと配列識別番号4に示されるVLを有する。別の実施例において、前記重鎖及び軽鎖ドメインは、ここに記載されCD3に特異的に結合する、前記配列の相同体又はバリアントを含む。従って、いくつかの実施例では、CD3に対するVL又はVH配列は配列識別番号3又は8に示すアミノ酸配列に類似しているが同一ではなく、ここで(i)位置VH111のアミノ酸残基はF、Y又はHであり、もしくは、(ii)位置VH111のアミノ酸残基はF、Y又はHであり、かつ、位置VL49のアミノ酸残基はG又はAである。いくつかの実施例において、VH又はVLバリアント配列は、配列識別番号3又は8に示す配列に対して、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、又は80%の配列同一性を有し、かつCD3に対して特異的に結合し、ここで、(i)位置VH111のアミノ酸残基はF、Y又はHであり、もしくは(ii) 位置VH111のアミノ酸残基はF、Y又はHであり、かつ、位置VL49のアミノ酸残基はG又はAである。
【0016】
別実施例において、VH及び/又はVLバリアントは、1、2、3、4、5、6、7、又は、8の保存アミノ酸置換を含む。保存置換は、脂肪族アミノ酸間で、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンの交換、ヒドロキシ残基セリンとトレオニンの交換、酸性残基アスパラギン酸塩とグルタミン酸の交換、アミド残基アスパラギンとグルタミンとの置換、塩基性残基リシンとアルギニンの交換、芳香族残基間で、フェニールアラニンとチロシンとの間の置換、を含む。いくつかのケースにおいて、VH及び/又はVLバリアントは、1、2、3、4、5、6、7の保存アミノ酸置換を含み、ここで但し、(i)位置VH111のアミノ酸残基はF、Y又はHであり、もしくは、(ii)位置VH111のアミノ酸残基はF、Y又はHであり、かつ、位置VL49のアミノ酸残基はG又はAである。いくつかの実施例において、そのような置換はCDR内ではない。
【0017】
更に別の実施例において、VH又はVLバリアントは、安定性、発現、回収、CD3に対する結合親和性及び/又は細胞毒性効力等のCDRの特性を増大させる置換を含む。
【0018】
更に、いくつかの実施例において、前記抗原結合タンパク質は多価である、即ち、それはCD3に対する二つ、三つ、又は、それ以上の結合部位を有する。
【0019】
いくつかの実施例において、本発明による前記抗原結合タンパク質は、多機能である。ここでの使用において用語、多機能は、本発明の結合タンパク質が、二つ、三つ、又は、それ以上の異なる生物的機能を示し、その内の一つの機能がCD3に対する結合である。例えば、前記異なる生物的機能は、異なる抗原に対する異なる特異性である。いくつかの実施例において、前記多機能抗原結合タンパク質は、多重特異性であり、即ち、それは、CD3と、一つ、二つ、又は、それ以上の他の抗原、とに対する結合特異性を有する。このような多重特異性抗原結合タンパク質としては、例えば、多重特異性F(ab’)
2、Fvフラグメント、一本鎖Fv、タンデム一本鎖Fv((scFv)
2)、ダイアボディ、フレキシボディ(flexibody)(WO03/025018)とタンデムダイアボディがある。
【0020】
いくつかの実施例において、前記抗原結合タンパク質は、少なくとも一つのCD3結合部位と、少なくとも一つの、バクテリア性物質、ウイルス性タンパク質、自己免疫マーカー、又は、B細胞、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、骨髄性細胞、食細胞、又は腫瘍細胞の細胞表面タンパク質等の特定の細胞表面上に存在する抗原に対して特異的な抗原結合部位、とを有する。これらの抗原結合分子は、二つの細胞を架橋することができ、T細胞を特定の標的に対して向けることができる。
【0021】
そのような標的の具体例は、腫瘍細胞、もしくは、ウィルス性又はバクテリア性病原体等、例えば、デング熱ウイルス、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、HIV、等の感染因子、もしくはIL-2、自己免疫マーカー又は自己免疫抗原等の自己免疫標的を有する細胞とすることができる。
【0022】
いくつかの実施例において、前記少なくとも一つの別の抗原結合部位は、腫瘍細胞の抗原に対して特異的である。腫瘍細胞に対する抗原は、例えば、各腫瘍細胞上の腫瘍抗原又は細胞表面抗原、例えば、特異的腫瘍マーカー等とすることができる。これらの多重特異性抗原結合タンパク質は、前記腫瘍細胞とT細胞上のCD3との両方に結合し、それによって、前記T細胞によって誘導される細胞毒性応答を誘発する。ここで使用される用語「腫瘍抗原」は、腫瘍関連抗原(TAA)、及び腫瘍特異性抗原(TSA)を含む。ここで使用される用語「腫瘍関連抗原」(TAA)は、腫瘍細胞上と、胎児期中に正常細胞上に存在し(かつて胎児性であった抗原(once-fetal antigens))、出生後には選択された器官に、但し、腫瘍細胞においてよりも遥かに低い濃度で、存在するタンパク質を指す。TAAは、腫瘍細胞の近傍においてストロマにも存在する可能性があるが、但し、体内の他の箇所においてよりもストロマでは低い量発現される。これに対して、用語「腫瘍特異性抗原」(TSA)は、腫瘍細胞によって発現されるタンパク質を指す。用語「細胞表面抗原」は、細胞の表面上の抗体によって認識されることが可能な任意の抗原又はそのフラグメントを指す。
【0023】
腫瘍細胞の抗原の具体例は、当該技術に記載されているように、非限定的に以下を含む、CD19、CD20、CD30、ラミニンレセプタ前駆体タンパク質、EGFR1、EGFR2、EGFR3、EGFRvIII、Ep-CAM、PLAP、Thomsen-Fridenreich (TF)抗原、MUC-1(ムチン)、IGFR、CD5、IL4-Rアルファ、IL13-R, FcεR1及びIgE。
【0024】
別の実施例において、前記抗原結合タンパク質は、少なくとも一つのCD3結合部位と、以下から成るグループから選択される分子に対して特異的な少なくとも一つの別の抗原結合部位とを有する。即ち、薬剤、毒素、放射性核種、酵素、アルブミン、例えば、血清アルブミン、リポタンパク質、サイトカインやケモカイン等の自然発生リガンド、から成るグループから選択される。もしも前記標的分子がアルブミンであるならば、アルブミン又は血清アルブミンを、ヒト、ウシ、ウサギ、イヌ、マウスから成る由来グループから選択することができる。
【0025】
いくつかの実施例において、前記結合タンパク質は、CD3に対する第1特異性と、CD19、CD30、EGFRvII又はHSAに対する第2特異性とを備える多重特異性である。一つの具体的実施例において、CD3に対する第1特異性を備える前記多重特異性結合タンパク質は、CD33に対する第2特異性を持たない。
【0026】
別の態様において、本発明による抗原結合タンパク質は多量体であり、即ち、それは、CD3に対する少なくとも一つの抗原結合部位を形成する二つ、三つ又はそれ以上のポリペプチドを有する。ここでの使用において、「多量体」とは、二つ以上のポリペプチドの複合体を指す。いくつかの実施例において、多量体の前記ポリペプチドは、特に、それらポリペプチド間に共有結合が存在しないという条件で、互いに非共有的に連結されている。いくつかの実施例において、前記多量体は、ホモメトリック(homomeric)であり、即ち、それは複数の同じポリペプチドを有する。前記用語「ポリペプチド」は、アミド結合によって連結されたアミノ酸残基のポリマーを指す。前記ポリペプチドは、いくつかの実施例では、分岐を持たない、一本鎖融合タンパク質である。前記ポリペプチドにおいて、前記可変抗体ドメインは互いに連結されている。前記ポリペプチドは、別の実施例では、前記可変ドメインN末端及び/又はC末端残基の他に、隣接するアミノ酸残基を備えることができる。例えば、そのような隣接アミノ酸残基は、ポリペプチドの精製と検出とに有用なものと考えられている、いくつかの実施例では、C末端にTag配列を含むことができる。いくつかの実施例において、前記多量体は二量体であり、即ち、二つのポリペプチドを有する。本発明に含まれる多量体の具体例は、ダイアボディ、タンデムダイアボディ及びフレキシボディ(flexibody)である。
【0027】
いくつかの実施例において、前記多量体は、タンデムダイアボディの形式での抗原結合タンパク質である。そのようなタンデムダイアボディは、四つの抗体可変結合ドメイン、例えば、二つのVHと二つのVL、を単一の遺伝子構築物において結合し、それによって非共役二量体化を可能にする。そのようなタンデムダイアボディにおいて、リンカー長は、それによって、前記可変ドメインの分子内対合が防止されて、分子が自己で、折り返して一本鎖ダイアボディを形成することができず、もう一つの鎖の相補的ドメインと対合することを強要されるように、構成される。前記ドメインは、対応するVHドメインとVLドメインとがこの二量体化中に対合するようにも構成される。遺伝子構築物からの発現後、二本のポリペプチド鎖がhead-to-tailに折りたたんで、約105kDaの機能性非共有結合二量体を形成する(Kipriyanov Meth, Mol. Biol. (2009) 562, 177-193、McAleese and Eser, 2012, Future Oncol. 8:687-95)。分子間共有結合が存在しないにも拘らず、前記二量体は、一旦形成された後は安定性が高く、そのままの状態を保ち、単量体形態に戻ることがない。
【0028】
タンデムダイアボディは、従来のモノクローナル抗体や他のより小さなFv分子に対して利点を提供する多くの特性を有している。タンデムダイアボディ、抗体可変ドメインのみを含むので、前記Fc成分に関連する副作用が何も無い。タンデムダイアボディは多価であり、CD3に対する二価結合を許容するので、その結合活性はIgGの結合活性と同じである。タンデムダイアボディのサイズ、いくつかの実施例では約105kDaは、IgGのサイズよりも小さく、それによって、より高度な腫瘍侵入を可能にする。但し、このサイズは第1通過クリアランスの腎閾値よりも遥かに大きく、これは、抗体結合部位又は非抗体足場に基づくもっと小さな抗体フォーマットと比較して薬物動態上の利点を提供するものである。タンデムダイアボディは、宿主細胞、例えば、哺乳動物CHO細胞中にて良好に発現される。タンデムダイアボディの対しては、堅固な(robust)上流側及び下流側製造処理が利用可能であると考えられる(例えば、Kipriyanov, Meth. Mol. Biol. (2009)562, 177-193)。
【0029】
いくつかのケースにおいて、ここに記載した前記多重特異性抗原結合タンパク質、例えば、タンデムダイアボディは、細胞傷害性T細胞を動員することによる腫瘍細胞の特異的標的化を可能にするように構成される。これによって、従来の抗体と比較してADCC(抗体依存細胞媒介性細胞毒性)が改善される。抗体は直接には細胞傷害性T細胞を動員することができない。これに対して、これらの細胞上で特異的に発現されるCD3分子を利用することによって、前記多重特異性抗原結合タンパク質、例えば、タンデムダイアボディは、細胞傷害性T細胞を腫瘍細胞と、高い特異性で架橋結合(crosslink)することができ、これによって、そのような分子の細胞毒性能力が大幅に増大される。
【0030】
一態様において、前記多量体は、二重特異性タンデムダイアボディであり、この二重特異性タンデムダイアボディの各ポリペプチドは、四つの可変ドメイン、即ち、CD3のVLとVHとCD3と異なる第2の特異性を有する、を含む。いくつかの実施例において、四つの可変ドメインは、ペプチドリンカーL1、L2及びL3によって連結され、いくつかのケースでは、N末端からC末端にかけて以下のように配置されている、
(i)VL(CD3)- L1 - VH(第2抗原結合部位)- L2 - VL(第2抗原結合部位)- L3 - VH(CD3)、又は、
(ii)VH(CD3)- L1 - VL(第2抗原結合部位)- L2 - VH(第2抗原結合部位)- L3 -VL(CD3)、又は、
(iii)VL(第2抗原結合部位)- L1 - VH(CD3)-L2 - VL(CD3)- L3 - VH(第2抗原結合部位)、又は、
(iv )VH(第2抗原結合部位)- L1 - VL(CD3)- L2 - VH(CD3)- L3 - VL(第2抗原結合部位)。
【0031】
いくつかの実施例において、前記「もう一つの抗原結合部位」は、腫瘍抗原、例えば、CD19、CD30又はEGFRvIIIに対して特異的である。一の特定の実施例において、前記腫瘍抗原はCD33ではない。
【0032】
前記リンカーの長さはタンデムダイアボディのフレキシビリティに影響する。従って、いくつかの実施例において、前記ペプチドリンカーL1、L2及びL3の長さは、一つのポリペプチドのドメインが、もう一つのポリペプチドのドメインと分子間会合(associate)して、前記二量体抗原結合タンデムダイアボディを形成することが可能なように構成される。いくつかの実施例において、それらのリンカーは「短い」、即ち、それらは0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12のアミノ酸残基から成る。従って、いくつかのケースにおいて、前記リンカーは約12以下のアミノ酸残基から成る。0アミノ酸残基の場合、前記リンカーはペプチド結合である。そのような短いリンカーは、異なるポリペプチドの抗体可変軽鎖ドメインと抗体可変重鎖ドメインとの間の正しい抗原結合部位を結合し形成することによる二つのポリペプチドの分子間二量体化に有利である。リンカーを約12以下のアミノ酸残基にまで短くすることによって、一般に、同じポリペプチド鎖の隣接するドメインが互いに分子間相互作用することが阻害される。いくつかの実施例において、これらのリンカーは、約3〜約12、特に、約3〜約10、例えば、4、5、6、7、8又は9の隣接するアミノ酸残基から成る。
【0033】
前記リンカーのアミノ酸組成に関して、ペプチドは、それらが前記二つのポリペプチドの二量体化に干渉しないものが選択される。例えば、グリシンとセリン残基を含むリンカーは一般にプロテアーゼ耐性を与える。前記リンカーのアミノ酸配列は、例えば、抗原結合と抗原結合ポリペプチド二量体の生産収率を改善するためにファージディスプレイ法によって最適化することができる。本発明のタンデムダイアボディ用に適したペプチドリンカーの具体例は、GGSGGS(配列識別番号16)、GGSG(配列識別番号17)、又はGGSGG(配列識別番号18)である。
【0034】
ここに記載の多量体抗原結合タンパク質は、いくつかの実施例において、もう一つの同一のポリペプチドと会合して前記抗原結合タンデムダイアボディを形成する前記タンデムダイアボディのポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを発現することによって作製される。従って、別の態様は、ここに記載の多量体抗原結合タンパク質、例えば、タンデムダイアボディのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、例えば、DNA又はRNAである。
【0035】
前記ポリヌクレオチドは、ペプチドリンカーによって分離された、もしくは、他の実施例では、ペプチド結合によって直接、適当なプロモーターに作動連結された、そして、場合によっては、適当な転写ターミネーターへと直接に連結された単一の遺伝子構築物へ、前記抗原可変ドメインをコードする遺伝子を組み合わせること、そして、それを、細菌や適当な発現システム、例えば、CHO細胞等で発現させる、等の公知の方法によって構築される。利用されるベクターシステムと宿主に応じて、構成及び誘導可能プロモーターを含む、任意の数の適当な転写及び翻訳因子を使用することができる。前記プロモーターは、それによって各宿主細胞において前記ポリヌクレオチドの発現が駆動されるように選択される。
【0036】
いくつかの実施例において、前記ポリヌクレオチドは、本発明の別実施例を表す、ベクター、好ましくは、発現ベクターに挿入される。この組み換えベクターは、公知の方法によって構築することができる。
【0037】
例えば、ここに記載のタンデムダイアボディ等の前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んで発現するために、様々な発現ベクター/宿主システムを利用することができる。E.coliでの発現のための発現ベクターの具体例は、pSKK(Le Gall et al., J. Immunol Methods (2004) 285(1), 111-27)又は哺乳動物細胞での発現用のpcDNA5(Invitrogen)である。
【0038】
従って、ここに記載の抗原結合タンデムダイアボディは、いくつかの実施例においては、上述したポリペプチドをコードするベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞を、前記ポリペプチド鎖が発現される条件下で培養することによって作製され、それを単離し、また場合によっては、更に精製することができる。前記ポリペプチドの単離と精製のために、Taq類は不要であり、そのことはイン・ヴィヴォ投与において利点となる。
【0039】
他の態様において、ここには、本発明による前記抗原結合タンデムダイアボディ、例えば、タンデムダイアボディ、前記抗原結合タンデムダイアボディの前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクター、又は、このベクターによってトランスフォームされた宿主細胞、そして少なくとも一つの薬学的に許容可能なキャリアとを含む薬用組成物が提供される。ここで、前記用語「薬学的に許容可能なキャリア」は、非限定的に、前記成分の生物活性の有効性をなんら阻害せず、かつ、それが投与される患者に対して毒性を持たない、任意のキャリアを含む。適当な薬学的に許容可能なキャリアの具体例は当該技術において周知であり、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水エマルジョン等のエマルジョン、種々の湿潤剤、無菌液、等を含む。これらのキャリアは、従来の方法によって作製することができ、対象体に対して適当な投与量で投与することができる。好ましくは、前記組成物は無菌である。これらの組成物は、保存剤、エマルジョン化剤、分散剤等のアジュバントをも含むことができる。種々の抗菌や抗真菌剤等を含ませることによって微生物の活動の阻止を確保することができる。前記適当な組成物の投与は、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所的、又は皮内、投与、等による様々な方法で行うことができ。投与の経路は、勿論、治療の種類、前記薬用組成物に含まれる化合物の種類によって異なる。投与計画は、担当医、又は、他の臨床要素によって決められるであろう。医学においてよく知られているように、任意の一人の患者に対する投与量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、性別、投与される特定の化合物、投与の時間と経路、治療の種類、一般的健康状態及び同時に投与される他の薬剤等を含む多くの要素に依存する。
【0040】
本発明は、更に、上述した抗原結合タンパク質が、例えば、移植等における免疫抑制治療、自己免疫性疾患、炎症性疾患、感染性疾患、アレルギー、又は癌(例えば、非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ球性白血病、ホジキン白血病、乳癌、子宮癌、直腸癌、腎臓の癌、又は、胆管の癌等で発生するもの等の固形腫瘍、微小残存病変、例えば、肺、骨、肝臓又は脳等で転移するもの等の転移性腫瘍)の治療において対象体、例えば患者に有効量が投与される、医療用途又は方法を提供する。前記抗原結合タンパク質は、予防的又は治療的な状況で、単体で、もしくは、現在の治療法との併用で、使用することができる。
【0041】
本発明の前記多重特異性抗原結合タンパク質を使用して治療可能な癌は、非限定的に、原発及び転移性副腎皮質癌、肛門癌、再生不良性貧血、胆管癌、膀胱癌、骨癌、骨転移、CNS腫瘍、末梢CNS癌、乳癌、キャッスルマン病、子宮頸癌、小児期非ホジキンリンパ腫、結腸及び直腸癌、子宮体癌、食道癌、ユーイングファミリー肉腫(例えば、ユーイング肉腫)、眼癌、胆嚢癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質性腫瘍、妊娠性絨毛性疾患、有毛細胞白血病、ホジキン疾患、カポジ肉腫、腎臓癌、咽頭及び下咽頭癌、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、小児白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、肝臓癌、肺癌、肺カルチノイド腫瘍、非ホジキンリンパ腫、男性乳癌、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性疾患、鼻腔と副鼻腔癌、鼻腔頭癌、神経芽細胞種、口腔と口咽頭癌、骨肉腫、子宮癌、膵臓癌、陰茎癌、下垂体腫瘍、前立腺癌、網膜芽腫、横紋筋肉腫、唾液腺癌、肉腫(成人軟組織癌)、メラノーマ皮膚癌、非メラノーマ皮膚癌、胃癌、精巣癌、胸腺癌、甲状腺癌、子宮癌(例えば、子宮肉腫)、膣癌、外陰癌、ヴァルデンストレームカクログロブリン血症、を含む。
【0042】
ここで「有効投与量」とは、前記疾患のコースと重症度とに影響を与え、そのような病理の減少と寛解とをもたらすのに十分な前記活性成分の量を指す。これらの疾患又は障害の治療及び/又は防止のために有用な「有効投与量」は、当業者に知られている方法を使用して決定することができる(例えば、Fingl et al., The Pharmacological Basis of Therapeutics, Goddamm and Gilman, eds. Macmillan Publishing Co., New York, pp.1-46(1975)を参照)。
【0043】
本発明の別の態様において、上述した抗原結合タンパク質は、免疫抑制剤、又は、自己免疫性疾患、炎症性疾患、感染性疾患、アレルギー又は癌(例えば、非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ球性白血病、ホジキン白血病、乳癌、子宮癌、直腸癌、腎臓の癌、又は、胆管の癌等で発生するもの等の固形腫瘍、微小残存病変、例えば、肺、骨、肝臓又は脳等で転移するもの等の転移性腫瘍)の治療のための薬剤の製造に使用される。特に銘記される場合、所定の疾患の治療に特に有用性を有する上述した多重特異性結合タンパク質は、その特定の疾患用の薬剤の製造にも使用することが可能である。
【0044】
薬用組成物、即ち、薬剤を調製するための前記方法、及び、例えば癌等の疾患の予防及び/又は治療における抗原結合タンパク質の臨床的利用は当業者に知られている。
【0045】
本発明の一つの特定の態様において、前記抗原結合タンパク質は多重特異性であって、癌治療に使用される。なぜならば、そのような多重特異性抗原結合タンパク質は、腫瘍細胞に対して細胞毒性エフェクター細胞を再標的化することができるからである。この治療コンセプトは周知である。例えば、臨床研究によって、抗-CD3x抗腫瘍二重特異性抗体によって治療された患者(例えば、Canevari, S. et al., J. Natl. Cancer Inst., 87, 1463-1469, 1996)、又は、抗-CD16x抗腫瘍二重特異性抗体によって治療された患者(例えば、Hartmann et al. Clin Cancer Res., 2001, 7(7), 1873-81)において腫瘍の退縮が示されたからである。可変ドメイン(Fv)のみを有する種々の組み換え二重特異性抗体分子に関する概念実証も示され(Cochlovius et al.; Cancer Research, 2000, 60:4336-4341)、或いは、最近では、前記BiTE(登録商標)-formatの単量体一本鎖Fv抗体分子での臨床研究でも示されている(互いに連結された異なる特異性の二つの一本鎖抗体(two single-chain antibodies of different specificities linked together), Amgen, ドイツ、Bargou R. et al., Science, 2008, 321 (5891), 974-977、Baeurele PA and Reinhardt C., Cancer Res. 2009, 69 (12), 4941-4944)。ここに記載した前記二量体抗原結合タンパク質は、それらは、例えば、同じ組み合わせの抗体特異性を使用して、治療、例えば、細胞毒性の機序を変えることができるので、二重特異性抗体と同様にして、薬剤、治療方法に適用することが可能である。更に、Muromonab-CD3等のCD3に対して単一特異的な免疫抑制抗体が、腎移植(自家移植)、肝移植及び心臓移植の移植拒絶、急性拒絶の処置用として知られている。従って、アルブミンとCD3とに対して特異的な抗原結合タンパク質を、公知の単一特異性抗-CD3抗体と同じ治療方法で使用することができる。
【0046】
前記抗原結合タンパク質とその前記組成物とは、経口、静脈内、腹腔内、皮下、又は、その他の薬学的に許容可能な投与形態で使用することができる。いくつかの実施例において、前記組成物は、経口投与され、その投与形態は、錠剤、カプセル、カプレット、又は、その他の経口利用可能な形態である。いくつかの実施例において、前記組成物は、非経口、例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、又は、皮下投与用であって、前記抗原結合分子を含む溶液として投与される。
【0047】
当業者は、ここに記載の抗原結合タンパク質を、当該技術において知られている確立された技法と標準的方法を利用することによって過度の負担無く容易に構築し入手することができるであろう。例えば、以下を参照、Sambrook, Molecular Cloning A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1989) N. Y.; The Protein Protocols Handbook, edited by John M. Walker, Humana Press Inc. (2002); 又はAntibody engineering; methods and protocols/edited by Benny K.C. Lo; Benny K.C. II Series: Methods in molecular biology (Totowa, N.J.))。