特許第6669722号(P6669722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6669722
(24)【登録日】2020年3月2日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】CD3結合ドメイン
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20200309BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20200309BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20200309BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20200309BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20200309BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200309BHJP
   A61K 48/00 20060101ALN20200309BHJP
   A61K 35/74 20150101ALN20200309BHJP
【FI】
   C12N15/13ZNA
   C07K16/28
   C07K16/46
   C12P21/08
   A61K39/395 D
   A61K39/395 N
   A61K39/395 E
   A61K39/395 T
   A61P35/00
   !A61K48/00
   !A61K35/74 Z
【請求項の数】16
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-506890(P2017-506890)
(86)(22)【出願日】2015年8月5日
(65)【公表番号】特表2017-529067(P2017-529067A)
(43)【公表日】2017年10月5日
(86)【国際出願番号】EP2015068070
(87)【国際公開番号】WO2016020444
(87)【国際公開日】20160211
【審査請求日】2018年7月31日
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2014/002177
(32)【優先日】2014年8月7日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】15154772.6
(32)【優先日】2015年2月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516040682
【氏名又は名称】アッフィメッド・ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】AFFIMED GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ズコフスキー,オイゲネ
(72)【発明者】
【氏名】リトル,メルヴィン
(72)【発明者】
【氏名】クナックムス,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ロイシュ,ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】エルヴァンガー,クリスチナ
(72)【発明者】
【氏名】フセック,イヴィカ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイヒェル,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】エーザー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ムカレーゼ‐エーザー,フィオンヌアラ
【審査官】 金田 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−517844(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/106015(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのCD3結合部位を含む抗原結合タンパク質であって、ここで前記CD3結合部位は以下を有する、
(a)配列識別番号8に示す可変重鎖ドメイン(VH)と配列識別番号3に示す可変軽鎖ドメイン(VL)、もしくは、
(b)配列識別番号9に示す可変重鎖ドメイン(VH)と配列識別番号4に示す可変軽鎖ドメイン(VL)、もしくは、
(c)配列識別番号8に示す前記VHに対して少なくとも95%の配列同一性を有する可変重鎖ドメイン(VH)、ここで、位置111のアミノ酸残基はY又はHである、そして、配列識別番号3に示す前記VLに対して少なくとも95%の配列同一性を有する可変軽鎖ドメイン(VL)、ここで、位置49のアミノ酸残基はG又はAである、もしくは、
)配列識別番号8に示す前記VHに対して1〜5の保存アミノ酸置換を含む可変重鎖ドメイン(VH)、ここで、位置111のアミノ酸残基はY又はHである、そして、配列識別番号3に示す前記VLに対して1〜5の保存アミノ酸置換を含む可変軽鎖ドメイン(VL)、ここで、位置49のアミノ酸残基はG又はAである、そして
(a)、(b)、(c)、(d)の前記抗原結合タンパク質は、CD3結合部位として配列識別番号1〜3から成るグループから選択される抗-CD3可変軽鎖メインと配列識別番号6〜8から成るグループから選択される抗-CD3可変重鎖ドメインとを含んだ抗原結合タンパク質のうちヒトCD33とヒトCD3とに特異的に結合する二重特異性結合タンパク質ではない、抗原結合タンパク質。
【請求項2】
前記抗原結合タンパク質は、CD33とCD3とに結合する二重特異性タンデムダイアボディ(tandem diabody)ではない請求項1に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項3】
前記抗原結合タンパク質は、少なくとも一つの別の機能ドメインを有する請求項1又は2に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項4】
前記少なくとも一つの別の機能ドメインは、別の抗原結合部位である請求項3に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項5】
前記別の抗原結合部位は、腫瘍細胞に対して特異的である請求項4に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項6】
前記別の抗原結合部位は、CD33に対して特異的ではない請求項5に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項7】
前記抗原結合タンパク質は、多価である請求項1〜6の何れか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項8】
前記抗原結合タンパク質は、多重特異性である請求項7に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項9】
前記抗原結合タンパク質は、多量体である請求項8に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項10】
前記抗原結合タンパク質は、二量体であり、第1ポリペプチドと第2ポリペプチドとを有し、これらポリペプチドのそれぞれは、互いに連結された少なくとも四つの可変鎖ドメインを有し、前記抗原結合タンパク質は、請求項1に記載の少なくとも一つのCD3結合部位と、第2の抗原に対して特異的な少なくとも一つの別の抗原結合部位とを有する請求項9に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項11】
各ポリペプチドは、以下の順序でペプチドリンカーL1、L2及びL3によって互いに融合された少なくとも四つの可変ドメインを有する請求項10に記載の抗原結合タンパク質。
(i)VL(CD3)- L1 - VH(第2抗原)- L2 - VL(第2抗原)- L3 - VH(CD3)、
(ii)VH(CD3)- L1 - VL(第2抗原)- L2 - VH(第2抗原)- L3 - VL(CD3)、
(iii)VL(第2抗原)- L1 - VH(CD3)- L2 - VL(CD3)-L3 - VH(第2抗原)、もしくは、
(iv)VH(第2抗原)- L1 - VL(CD3)- L2 - VH(CD3)- L3 - VL(第2抗原)
【請求項12】
前記ペプチドリンカーL1、L2及びL3は、約12以下のアミノ酸残基から成る請求項10に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか一項に記載の抗原結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項14】
(i)請求項1〜12の何れか一項に記載の抗原結合タンパク質、請求項13に記載のポリヌクレオチド、或いは、請求項13に記載のポリヌクレオチドを含むベクター、及び、(ii)薬学的に許容可能なキャリア、を有する医薬組成物。
【請求項15】
(i)宿主細胞に、請求項13に記載のポリヌクレオチドを導入する工程、
(ii)前記宿主細胞を、前記抗原結合タンパク質が発現される条件下で培養する工程、及び、
(iii)前記発現された抗原結合タンパク質を精製する工程、を有する請求項1〜12の何れか一項に記載の抗原結合タンパク質の製造方法。
【請求項16】
医薬として使用するための請求項1〜12の何れか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なCD3結合部位を有する抗原結合タンパク質に関する。具体的には、本発明は、多重特異性抗原結合タンパク質に関する。前記新規なCD3結合部位は、ヒト化VH及びVLドメインを含む。
【背景技術】
【0002】
CD3抗原は、T細胞上のT細胞レセプタ複合体に関連付けられている。CD3と標的細胞の抗原とに対する特異性を有する多重特異性抗原結合タンパク質は、標的細胞上でT細胞の細胞毒性活性を誘因する(trigger)ことができる。即ち、前記抗原結合タンパク質のCD3と、標的細胞、例えば、腫瘍細胞、とに対する多重特異性結合によって、標的細胞の細胞溶解を誘発させることができる。CD3結合部位を備える抗原結合タンパク質とそれらの製造方法は、当該技術分野で(そして、例えば、非特許文献1:Kipriyanov et al., 1999, Journal of Molecular Biology 293, 41-56、非特許文献2:Le Gall et al, 2004, Protein Engineering, Design and Selection, 17/4:357-366に記載されているように)知られている。
【0003】
クアドローマ由来抗原に加えて、様々な形態の多重特異性組み換え抗体フラグメントが設計されている。特定形態の多価で、場合によっては多重特異性でもある抗体フラグメントは「タンデムダイアボディ(tandem diabodies)」(TandAb(登録商標))と命名されているが、これは、それらの設計がダイアボディに関して記載(非特許文献3:Holliger et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 6444-6448)されているような二つの異なるポリペプチドのVHとVL可変ドメインの分子間対合に基づくものであるからである。上述の抗体は、腫瘍抗原とCD3とに対して二重特異性である。二価scFv-scFv(scFv)2タンデムと異なり、前記タンデムダイアボディ二は四価である。なぜなら、それらは四つの抗原結合部位を有するからである。前記タンデムダイアボディは、免疫グロブリン定常部位が欠如している。前記タンデムダイアボディは、高い親和性、より高い結合活性、低いクリアランス速度等の利点を有し、好適なイン・ヴィヴォとイン・ヴィトロ効率を示すと報告されている(非特許文献1:Kipriyanov et al. J. Mol. Biol. (1999) 293, 41-56、及び、非特許文献4:Kipriyanov Meth, Mol. Biol. (2009) 562,177-193)。
【0004】
そのような二重特異性タンデムダイアボディは、ヒトの免疫システムにおいて腫瘍細胞(例えば、B-CLL細胞)とCD3+T細胞との間の架け橋を作り出すことができ、それによってその腫瘍細胞を殺すことが可能となる。腫瘍細胞とT細胞との強固な結合によって、腫瘍細胞の破壊が起こる。このようなタンデムダイアボディは治療用途、例えば、腫瘍の処置のための治療コンセプトのために好適であることが示されているが、更に改善された抗原結合分子が未だ求められている。
【0005】
臨床前開発中に非ヒト霊長類(NHP)においてT細胞動員多重特異性抗体フラグメントの毒性評価を容易にするためには、交差反応性CD3結合ドメインが望ましい。
【0006】
ヒト及びカニクイザルCD3εに結合するマウスIgGクローンSP34(非特許文献5:EMBO J., 1985, 4(2), 337-344、非特許文献6:J. Immunol., 1986, 137(4), 1097-100、非特許文献7:J. Exp. Med. 1991, 174, 319-326、非特許文献8:J. Immunol., 1991, 147(9), 3047-52)がヒト化のために選択された。
【0007】
前記マウスVH CDRsを最も相同性の高いヒトVHフレームワーク(ヒトVH3_72)にグラフトすることによるヒト化によって分子保持機能が得られたのに対して、前記マウスVH CDRsを最も相同性の高いヒトVLフレームワーク(ヒトvλ7_7a)にグラフトすることによっては、驚くべきことに、発現不良タンデムダイボディ又はCD3を認識できないタンデムダイアボディが得られた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kipriyanov et al., 1999, Journal of Molecular Biology 293:41-56
【非特許文献2】Le Gall et al, 2004, Protein Engineering, Design and Selection, 17/4:357-366
【非特許文献3】Holliger et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448
【非特許文献4】Kipriyanov Meth, Mol. Biol. (2009) 562,177-193
【非特許文献5】EMBO J., 1985, 4(2), 337-344
【非特許文献6】J. Immunol., 1986, 137(4), 1097-100
【非特許文献7】J. Exp. Med. 1991, 174, 319-326
【非特許文献8】J. Immunol., 1991, 147(9), 3047-52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、CD3結合ドメインに、機能性VL/VH対合、良好な安定性、良好な発現及びその他の生物物理学的特性を与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は特許請求の範囲の記載の発明によって解決された。
【0011】
機能性VL/VH対合は別のヒトVLフレームワークによって達成することが可能であることが判った。驚くべきことに、λ鎖のマウスVLフレームワークがK鎖のヒトVLフレームワーク(ヒトVLK_39)へ変化することによって、二重特異性タンデムダイアボディによって誘導された、より優れたCD結合親和性、発現性、標的細胞溶解における細胞毒性効力を示す結合タンパク質が得られた。しかしながら、これらの細胞は安定性とその他の生物物理学特性においては弱いものであった。更なる工程において、位置VH111とVL49のアミノ酸(前記モデルによれば、これらは互いに直接接触する)が、例えば、二重特異性抗体分子、特に、例えば、ダイアボディ又はタンデムダイアボディ等の多量体抗原結合タンパク質、におけるこのCD3結合部位の結合及び安定特性にとって重要であることが判った。VH111のY又はHへの突然変異と、それに加えて、VL49のGからAへの突然変異とによって、驚くべきことに、元の結合親和性及び/又は細胞毒性は保持されたままで、安定性が改善された結合ドメインが作り出される。これらのタンパク質において、特に、それらが二量体タンデムダイアボディとして発現される場合、40℃での7日間安定性の改善を観察することができる。更に、前記クローンは、正しく二量体化されたタンデムダイアボディの割合の増加と回収の改善を示す。
【0012】
それ故、一態様において、本発明は、少なくとも一つのCD3結合部位を有する抗原結合タンパク質を提供し、ここで前記CD3結合部位は以下を有する、
(a)配列識別番号6、7、8又は9に示される可変重鎖ドメイン(VH)から選択される可変重鎖ドメイン(VH)と、配列識別番号1、2、3又は4に示される可変軽鎖ドメイン(VL)から選択される可変軽鎖ドメイン(VL)、もしくは、
(b)位置111のアミノ酸残基がY又はHで、配列識別番号8に示される可変重鎖ドメイン(VH)との比較で少なくとも95%の配列同一性を有する可変重鎖ドメイン(VH)と、位置49のアミノ酸残基がG又はAで、配列識別番号3に示される可変軽鎖ドメイン(VL)との比較で少なくとも95%の配列同一性を有する可変軽鎖ドメイン(VL)、もしくは、
(c)位置111のアミノ酸残基がY又はHで、配列識別番号8に示される可変重鎖ドメイン(VH)との比較で1〜5の保存アミノ酸置換を有する可変重鎖ドメイン(VH)と、位置49のアミノ酸残基がG又はAで、配列識別番号3に示される可変軽鎖ドメイン(VL)との比較で1〜5の保存アミノ酸置換を有する可変軽鎖ドメイン(VL)。
【0013】
いくつかの実施例において、上に定義した少なくとも一つのCD3結合部位を有する抗原結合タンパク質は、ヒトCD33とヒトCD3とに特異的に結合する二重特異性結合タンパク質ではなく、前記CD3結合部位は、ヒトCD3に対する抗原結合部位を形成する、少なくとも一つの抗体可変重鎖ドメインと少なくとも一つの可変軽鎖ドメインとを有し、前記抗-CD3可変軽鎖ドメインは、配列識別番号1〜3から成るグループから選択され、前記抗-CD3可変重鎖ドメインは、配列識別番号6〜8から成るグループから選択される。特定の実施例において、前記抗原結合タンパク質は、CD33とCD3とに結合する二重特異性タンデムダイアボディではなく、前記抗-CD3可変軽鎖ドメインは、配列識別番号1〜3から成るグループから選択され、前記抗-CD3可変重鎖ドメインは、配列識別番号6〜8から成るグループから選択される。これらの二重特異性CD33及びCD3結合タンパク質は、2014年7月1日出願の米国特許出願第62/019,795号及び2015年2月3日出願の米国特許出願第62/111,470号との優先権を主張する、2015年6月30日出願のPCT/US2015/038666号と2015年3月9日出願の米国特許出願第 14/642,497号とに開示されている。本発明の更なる実施例において、上に定義された少なくとも一つのCD3結合部位を有する前記抗原結合タンパク質は、ヒトCD33とヒトCD3とに特異的に結合する二重特異性結合タンパク質ではない。
【0014】
ここで、用語「抗原結合タンパク質」とは、抗原結合特性を備える免疫グロブリン誘導体、即ち、免疫グロブリンポリペプチド又は抗原結合部位を含むそのフラグメント、を指す。前記結合タンパク質は、抗体又はそのフラグメントの可変ドメインを含む。各抗原結合部位は、抗体、即ち、免疫グロブリン、同じエピトープに結合する可変重鎖ドメイン(VH)と抗体可変軽鎖ドメイン(VL)とによって形成され、ここで、前記可変重鎖ドメイン(VH)は、三つの重鎖相補性決定領域(CDR)、 CDR1、CDR2及びCDR3を含み、前記可変軽鎖ドメイン(VL)は、三つの軽鎖相補性決定領域(CDR)、CDR1、CDR2及びCDR3を含む。いくつかのケースにおいて、ここに記載のいくつかの実施例による前記結合タンパク質は、免疫グロブリン定常ドメインを持たない。いくつかのケースにおいて、前記抗原結合部位を形成する前記可変軽鎖及び重鎖ドメインは、例えば、ペプチドリンカーによって、互いに共有結合して、また、他のケースにおいては、前記軽鎖及び重鎖ドメインは、互いに非共有結合して、前記抗原結合部位を形成する。前記用語「抗原結合タンパク質」は、また、クラスIgA、IgD、IgE、IgG又はIgMのモノクローナル抗体、そして、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvフラグメント、一本鎖Fv、タンデム一本鎖Fv((scFv)2、ダイアボディ、フレキシボディ(flexibody)(WO03/025018)とタンデムダイアボディ(TandAb(登録商標))(Kipriynanov et al., 1999, J. Mol. Biol, 293:41-56、Cochlovius et al., 2000, Cancer Res., 60:4336-4341、Reusch et al., 2004, Int. J. Cancer, 112:509-518、Kipriyanov, 2009, Methods Mol Biol, 562, 177-93、McAleese and Eser, 2012, Future Oncol. 8:687-95)を含む抗体フラグメント又は抗体誘導体を指す。”TandAb”は、タンデムダイアボディを示すために使用されるAffirmed Therapeuticsの商標である。本発明の文脈において、”TandAb”と「タンデムダイアボディ」とは同義語として使用される。
【0015】
いくつかの実施例において、前記CD3結合部位は、VHフレームワークがヒトVH3_72フレームワーク由来であるVHと、VLフレームワークがヒトVκ1_39フレームワーク由来であるVLとを有する。一実施例において、前記CD3結合部位は、配列識別番号8又は9に示されるVHから選択されるVHと配列識別番号3又は4に示されるVLから選択されるVLとを有する。いくつかのケースにおいて、前記CD3結合部位は、(i)配列識別番号8に示されるVHと配列識別番号3に示されるVL、もしくは、(ii)配列識別番号9に示されるVHと配列識別番号4に示されるVLを有する。別の実施例において、前記重鎖及び軽鎖ドメインは、ここに記載されCD3に特異的に結合する、前記配列の相同体又はバリアントを含む。従って、いくつかの実施例では、CD3に対するVL又はVH配列は配列識別番号3又は8に示すアミノ酸配列に類似しているが同一ではなく、ここで(i)位置VH111のアミノ酸残基はF、Y又はHであり、もしくは、(ii)位置VH111のアミノ酸残基はF、Y又はHであり、かつ、位置VL49のアミノ酸残基はG又はAである。いくつかの実施例において、VH又はVLバリアント配列は、配列識別番号3又は8に示す配列に対して、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、又は80%の配列同一性を有し、かつCD3に対して特異的に結合し、ここで、(i)位置VH111のアミノ酸残基はF、Y又はHであり、もしくは(ii) 位置VH111のアミノ酸残基はF、Y又はHであり、かつ、位置VL49のアミノ酸残基はG又はAである。
【0016】
別実施例において、VH及び/又はVLバリアントは、1、2、3、4、5、6、7、又は、8の保存アミノ酸置換を含む。保存置換は、脂肪族アミノ酸間で、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンの交換、ヒドロキシ残基セリンとトレオニンの交換、酸性残基アスパラギン酸塩とグルタミン酸の交換、アミド残基アスパラギンとグルタミンとの置換、塩基性残基リシンとアルギニンの交換、芳香族残基間で、フェニールアラニンとチロシンとの間の置換、を含む。いくつかのケースにおいて、VH及び/又はVLバリアントは、1、2、3、4、5、6、7の保存アミノ酸置換を含み、ここで但し、(i)位置VH111のアミノ酸残基はF、Y又はHであり、もしくは、(ii)位置VH111のアミノ酸残基はF、Y又はHであり、かつ、位置VL49のアミノ酸残基はG又はAである。いくつかの実施例において、そのような置換はCDR内ではない。
【0017】
更に別の実施例において、VH又はVLバリアントは、安定性、発現、回収、CD3に対する結合親和性及び/又は細胞毒性効力等のCDRの特性を増大させる置換を含む。
【0018】
更に、いくつかの実施例において、前記抗原結合タンパク質は多価である、即ち、それはCD3に対する二つ、三つ、又は、それ以上の結合部位を有する。
【0019】
いくつかの実施例において、本発明による前記抗原結合タンパク質は、多機能である。ここでの使用において用語、多機能は、本発明の結合タンパク質が、二つ、三つ、又は、それ以上の異なる生物的機能を示し、その内の一つの機能がCD3に対する結合である。例えば、前記異なる生物的機能は、異なる抗原に対する異なる特異性である。いくつかの実施例において、前記多機能抗原結合タンパク質は、多重特異性であり、即ち、それは、CD3と、一つ、二つ、又は、それ以上の他の抗原、とに対する結合特異性を有する。このような多重特異性抗原結合タンパク質としては、例えば、多重特異性F(ab’)2、Fvフラグメント、一本鎖Fv、タンデム一本鎖Fv((scFv)2)、ダイアボディ、フレキシボディ(flexibody)(WO03/025018)とタンデムダイアボディがある。
【0020】
いくつかの実施例において、前記抗原結合タンパク質は、少なくとも一つのCD3結合部位と、少なくとも一つの、バクテリア性物質、ウイルス性タンパク質、自己免疫マーカー、又は、B細胞、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、骨髄性細胞、食細胞、又は腫瘍細胞の細胞表面タンパク質等の特定の細胞表面上に存在する抗原に対して特異的な抗原結合部位、とを有する。これらの抗原結合分子は、二つの細胞を架橋することができ、T細胞を特定の標的に対して向けることができる。
【0021】
そのような標的の具体例は、腫瘍細胞、もしくは、ウィルス性又はバクテリア性病原体等、例えば、デング熱ウイルス、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、HIV、等の感染因子、もしくはIL-2、自己免疫マーカー又は自己免疫抗原等の自己免疫標的を有する細胞とすることができる。
【0022】
いくつかの実施例において、前記少なくとも一つの別の抗原結合部位は、腫瘍細胞の抗原に対して特異的である。腫瘍細胞に対する抗原は、例えば、各腫瘍細胞上の腫瘍抗原又は細胞表面抗原、例えば、特異的腫瘍マーカー等とすることができる。これらの多重特異性抗原結合タンパク質は、前記腫瘍細胞とT細胞上のCD3との両方に結合し、それによって、前記T細胞によって誘導される細胞毒性応答を誘発する。ここで使用される用語「腫瘍抗原」は、腫瘍関連抗原(TAA)、及び腫瘍特異性抗原(TSA)を含む。ここで使用される用語「腫瘍関連抗原」(TAA)は、腫瘍細胞上と、胎児期中に正常細胞上に存在し(かつて胎児性であった抗原(once-fetal antigens))、出生後には選択された器官に、但し、腫瘍細胞においてよりも遥かに低い濃度で、存在するタンパク質を指す。TAAは、腫瘍細胞の近傍においてストロマにも存在する可能性があるが、但し、体内の他の箇所においてよりもストロマでは低い量発現される。これに対して、用語「腫瘍特異性抗原」(TSA)は、腫瘍細胞によって発現されるタンパク質を指す。用語「細胞表面抗原」は、細胞の表面上の抗体によって認識されることが可能な任意の抗原又はそのフラグメントを指す。
【0023】
腫瘍細胞の抗原の具体例は、当該技術に記載されているように、非限定的に以下を含む、CD19、CD20、CD30、ラミニンレセプタ前駆体タンパク質、EGFR1、EGFR2、EGFR3、EGFRvIII、Ep-CAM、PLAP、Thomsen-Fridenreich (TF)抗原、MUC-1(ムチン)、IGFR、CD5、IL4-Rアルファ、IL13-R, FcεR1及びIgE。
【0024】
別の実施例において、前記抗原結合タンパク質は、少なくとも一つのCD3結合部位と、以下から成るグループから選択される分子に対して特異的な少なくとも一つの別の抗原結合部位とを有する。即ち、薬剤、毒素、放射性核種、酵素、アルブミン、例えば、血清アルブミン、リポタンパク質、サイトカインやケモカイン等の自然発生リガンド、から成るグループから選択される。もしも前記標的分子がアルブミンであるならば、アルブミン又は血清アルブミンを、ヒト、ウシ、ウサギ、イヌ、マウスから成る由来グループから選択することができる。
【0025】
いくつかの実施例において、前記結合タンパク質は、CD3に対する第1特異性と、CD19、CD30、EGFRvII又はHSAに対する第2特異性とを備える多重特異性である。一つの具体的実施例において、CD3に対する第1特異性を備える前記多重特異性結合タンパク質は、CD33に対する第2特異性を持たない。
【0026】
別の態様において、本発明による抗原結合タンパク質は多量体であり、即ち、それは、CD3に対する少なくとも一つの抗原結合部位を形成する二つ、三つ又はそれ以上のポリペプチドを有する。ここでの使用において、「多量体」とは、二つ以上のポリペプチドの複合体を指す。いくつかの実施例において、多量体の前記ポリペプチドは、特に、それらポリペプチド間に共有結合が存在しないという条件で、互いに非共有的に連結されている。いくつかの実施例において、前記多量体は、ホモメトリック(homomeric)であり、即ち、それは複数の同じポリペプチドを有する。前記用語「ポリペプチド」は、アミド結合によって連結されたアミノ酸残基のポリマーを指す。前記ポリペプチドは、いくつかの実施例では、分岐を持たない、一本鎖融合タンパク質である。前記ポリペプチドにおいて、前記可変抗体ドメインは互いに連結されている。前記ポリペプチドは、別の実施例では、前記可変ドメインN末端及び/又はC末端残基の他に、隣接するアミノ酸残基を備えることができる。例えば、そのような隣接アミノ酸残基は、ポリペプチドの精製と検出とに有用なものと考えられている、いくつかの実施例では、C末端にTag配列を含むことができる。いくつかの実施例において、前記多量体は二量体であり、即ち、二つのポリペプチドを有する。本発明に含まれる多量体の具体例は、ダイアボディ、タンデムダイアボディ及びフレキシボディ(flexibody)である。
【0027】
いくつかの実施例において、前記多量体は、タンデムダイアボディの形式での抗原結合タンパク質である。そのようなタンデムダイアボディは、四つの抗体可変結合ドメイン、例えば、二つのVHと二つのVL、を単一の遺伝子構築物において結合し、それによって非共役二量体化を可能にする。そのようなタンデムダイアボディにおいて、リンカー長は、それによって、前記可変ドメインの分子内対合が防止されて、分子が自己で、折り返して一本鎖ダイアボディを形成することができず、もう一つの鎖の相補的ドメインと対合することを強要されるように、構成される。前記ドメインは、対応するVHドメインとVLドメインとがこの二量体化中に対合するようにも構成される。遺伝子構築物からの発現後、二本のポリペプチド鎖がhead-to-tailに折りたたんで、約105kDaの機能性非共有結合二量体を形成する(Kipriyanov Meth, Mol. Biol. (2009) 562, 177-193、McAleese and Eser, 2012, Future Oncol. 8:687-95)。分子間共有結合が存在しないにも拘らず、前記二量体は、一旦形成された後は安定性が高く、そのままの状態を保ち、単量体形態に戻ることがない。
【0028】
タンデムダイアボディは、従来のモノクローナル抗体や他のより小さなFv分子に対して利点を提供する多くの特性を有している。タンデムダイアボディ、抗体可変ドメインのみを含むので、前記Fc成分に関連する副作用が何も無い。タンデムダイアボディは多価であり、CD3に対する二価結合を許容するので、その結合活性はIgGの結合活性と同じである。タンデムダイアボディのサイズ、いくつかの実施例では約105kDaは、IgGのサイズよりも小さく、それによって、より高度な腫瘍侵入を可能にする。但し、このサイズは第1通過クリアランスの腎閾値よりも遥かに大きく、これは、抗体結合部位又は非抗体足場に基づくもっと小さな抗体フォーマットと比較して薬物動態上の利点を提供するものである。タンデムダイアボディは、宿主細胞、例えば、哺乳動物CHO細胞中にて良好に発現される。タンデムダイアボディの対しては、堅固な(robust)上流側及び下流側製造処理が利用可能であると考えられる(例えば、Kipriyanov, Meth. Mol. Biol. (2009)562, 177-193)。
【0029】
いくつかのケースにおいて、ここに記載した前記多重特異性抗原結合タンパク質、例えば、タンデムダイアボディは、細胞傷害性T細胞を動員することによる腫瘍細胞の特異的標的化を可能にするように構成される。これによって、従来の抗体と比較してADCC(抗体依存細胞媒介性細胞毒性)が改善される。抗体は直接には細胞傷害性T細胞を動員することができない。これに対して、これらの細胞上で特異的に発現されるCD3分子を利用することによって、前記多重特異性抗原結合タンパク質、例えば、タンデムダイアボディは、細胞傷害性T細胞を腫瘍細胞と、高い特異性で架橋結合(crosslink)することができ、これによって、そのような分子の細胞毒性能力が大幅に増大される。
【0030】
一態様において、前記多量体は、二重特異性タンデムダイアボディであり、この二重特異性タンデムダイアボディの各ポリペプチドは、四つの可変ドメイン、即ち、CD3のVLとVHとCD3と異なる第2の特異性を有する、を含む。いくつかの実施例において、四つの可変ドメインは、ペプチドリンカーL1、L2及びL3によって連結され、いくつかのケースでは、N末端からC末端にかけて以下のように配置されている、
(i)VL(CD3)- L1 - VH(第2抗原結合部位)- L2 - VL(第2抗原結合部位)- L3 - VH(CD3)、又は、
(ii)VH(CD3)- L1 - VL(第2抗原結合部位)- L2 - VH(第2抗原結合部位)- L3 -VL(CD3)、又は、
(iii)VL(第2抗原結合部位)- L1 - VH(CD3)-L2 - VL(CD3)- L3 - VH(第2抗原結合部位)、又は、
(iv )VH(第2抗原結合部位)- L1 - VL(CD3)- L2 - VH(CD3)- L3 - VL(第2抗原結合部位)。
【0031】
いくつかの実施例において、前記「もう一つの抗原結合部位」は、腫瘍抗原、例えば、CD19、CD30又はEGFRvIIIに対して特異的である。一の特定の実施例において、前記腫瘍抗原はCD33ではない。
【0032】
前記リンカーの長さはタンデムダイアボディのフレキシビリティに影響する。従って、いくつかの実施例において、前記ペプチドリンカーL1、L2及びL3の長さは、一つのポリペプチドのドメインが、もう一つのポリペプチドのドメインと分子間会合(associate)して、前記二量体抗原結合タンデムダイアボディを形成することが可能なように構成される。いくつかの実施例において、それらのリンカーは「短い」、即ち、それらは0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12のアミノ酸残基から成る。従って、いくつかのケースにおいて、前記リンカーは約12以下のアミノ酸残基から成る。0アミノ酸残基の場合、前記リンカーはペプチド結合である。そのような短いリンカーは、異なるポリペプチドの抗体可変軽鎖ドメインと抗体可変重鎖ドメインとの間の正しい抗原結合部位を結合し形成することによる二つのポリペプチドの分子間二量体化に有利である。リンカーを約12以下のアミノ酸残基にまで短くすることによって、一般に、同じポリペプチド鎖の隣接するドメインが互いに分子間相互作用することが阻害される。いくつかの実施例において、これらのリンカーは、約3〜約12、特に、約3〜約10、例えば、4、5、6、7、8又は9の隣接するアミノ酸残基から成る。
【0033】
前記リンカーのアミノ酸組成に関して、ペプチドは、それらが前記二つのポリペプチドの二量体化に干渉しないものが選択される。例えば、グリシンとセリン残基を含むリンカーは一般にプロテアーゼ耐性を与える。前記リンカーのアミノ酸配列は、例えば、抗原結合と抗原結合ポリペプチド二量体の生産収率を改善するためにファージディスプレイ法によって最適化することができる。本発明のタンデムダイアボディ用に適したペプチドリンカーの具体例は、GGSGGS(配列識別番号16)、GGSG(配列識別番号17)、又はGGSGG(配列識別番号18)である。
【0034】
ここに記載の多量体抗原結合タンパク質は、いくつかの実施例において、もう一つの同一のポリペプチドと会合して前記抗原結合タンデムダイアボディを形成する前記タンデムダイアボディのポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを発現することによって作製される。従って、別の態様は、ここに記載の多量体抗原結合タンパク質、例えば、タンデムダイアボディのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、例えば、DNA又はRNAである。
【0035】
前記ポリヌクレオチドは、ペプチドリンカーによって分離された、もしくは、他の実施例では、ペプチド結合によって直接、適当なプロモーターに作動連結された、そして、場合によっては、適当な転写ターミネーターへと直接に連結された単一の遺伝子構築物へ、前記抗原可変ドメインをコードする遺伝子を組み合わせること、そして、それを、細菌や適当な発現システム、例えば、CHO細胞等で発現させる、等の公知の方法によって構築される。利用されるベクターシステムと宿主に応じて、構成及び誘導可能プロモーターを含む、任意の数の適当な転写及び翻訳因子を使用することができる。前記プロモーターは、それによって各宿主細胞において前記ポリヌクレオチドの発現が駆動されるように選択される。
【0036】
いくつかの実施例において、前記ポリヌクレオチドは、本発明の別実施例を表す、ベクター、好ましくは、発現ベクターに挿入される。この組み換えベクターは、公知の方法によって構築することができる。
【0037】
例えば、ここに記載のタンデムダイアボディ等の前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んで発現するために、様々な発現ベクター/宿主システムを利用することができる。E.coliでの発現のための発現ベクターの具体例は、pSKK(Le Gall et al., J. Immunol Methods (2004) 285(1), 111-27)又は哺乳動物細胞での発現用のpcDNA5(Invitrogen)である。
【0038】
従って、ここに記載の抗原結合タンデムダイアボディは、いくつかの実施例においては、上述したポリペプチドをコードするベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞を、前記ポリペプチド鎖が発現される条件下で培養することによって作製され、それを単離し、また場合によっては、更に精製することができる。前記ポリペプチドの単離と精製のために、Taq類は不要であり、そのことはイン・ヴィヴォ投与において利点となる。
【0039】
他の態様において、ここには、本発明による前記抗原結合タンデムダイアボディ、例えば、タンデムダイアボディ、前記抗原結合タンデムダイアボディの前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクター、又は、このベクターによってトランスフォームされた宿主細胞、そして少なくとも一つの薬学的に許容可能なキャリアとを含む薬用組成物が提供される。ここで、前記用語「薬学的に許容可能なキャリア」は、非限定的に、前記成分の生物活性の有効性をなんら阻害せず、かつ、それが投与される患者に対して毒性を持たない、任意のキャリアを含む。適当な薬学的に許容可能なキャリアの具体例は当該技術において周知であり、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水エマルジョン等のエマルジョン、種々の湿潤剤、無菌液、等を含む。これらのキャリアは、従来の方法によって作製することができ、対象体に対して適当な投与量で投与することができる。好ましくは、前記組成物は無菌である。これらの組成物は、保存剤、エマルジョン化剤、分散剤等のアジュバントをも含むことができる。種々の抗菌や抗真菌剤等を含ませることによって微生物の活動の阻止を確保することができる。前記適当な組成物の投与は、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所的、又は皮内、投与、等による様々な方法で行うことができ。投与の経路は、勿論、治療の種類、前記薬用組成物に含まれる化合物の種類によって異なる。投与計画は、担当医、又は、他の臨床要素によって決められるであろう。医学においてよく知られているように、任意の一人の患者に対する投与量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、性別、投与される特定の化合物、投与の時間と経路、治療の種類、一般的健康状態及び同時に投与される他の薬剤等を含む多くの要素に依存する。
【0040】
本発明は、更に、上述した抗原結合タンパク質が、例えば、移植等における免疫抑制治療、自己免疫性疾患、炎症性疾患、感染性疾患、アレルギー、又は癌(例えば、非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ球性白血病、ホジキン白血病、乳癌、子宮癌、直腸癌、腎臓の癌、又は、胆管の癌等で発生するもの等の固形腫瘍、微小残存病変、例えば、肺、骨、肝臓又は脳等で転移するもの等の転移性腫瘍)の治療において対象体、例えば患者に有効量が投与される、医療用途又は方法を提供する。前記抗原結合タンパク質は、予防的又は治療的な状況で、単体で、もしくは、現在の治療法との併用で、使用することができる。
【0041】
本発明の前記多重特異性抗原結合タンパク質を使用して治療可能な癌は、非限定的に、原発及び転移性副腎皮質癌、肛門癌、再生不良性貧血、胆管癌、膀胱癌、骨癌、骨転移、CNS腫瘍、末梢CNS癌、乳癌、キャッスルマン病、子宮頸癌、小児期非ホジキンリンパ腫、結腸及び直腸癌、子宮体癌、食道癌、ユーイングファミリー肉腫(例えば、ユーイング肉腫)、眼癌、胆嚢癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質性腫瘍、妊娠性絨毛性疾患、有毛細胞白血病、ホジキン疾患、カポジ肉腫、腎臓癌、咽頭及び下咽頭癌、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、小児白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、肝臓癌、肺癌、肺カルチノイド腫瘍、非ホジキンリンパ腫、男性乳癌、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性疾患、鼻腔と副鼻腔癌、鼻腔頭癌、神経芽細胞種、口腔と口咽頭癌、骨肉腫、子宮癌、膵臓癌、陰茎癌、下垂体腫瘍、前立腺癌、網膜芽腫、横紋筋肉腫、唾液腺癌、肉腫(成人軟組織癌)、メラノーマ皮膚癌、非メラノーマ皮膚癌、胃癌、精巣癌、胸腺癌、甲状腺癌、子宮癌(例えば、子宮肉腫)、膣癌、外陰癌、ヴァルデンストレームカクログロブリン血症、を含む。
【0042】
ここで「有効投与量」とは、前記疾患のコースと重症度とに影響を与え、そのような病理の減少と寛解とをもたらすのに十分な前記活性成分の量を指す。これらの疾患又は障害の治療及び/又は防止のために有用な「有効投与量」は、当業者に知られている方法を使用して決定することができる(例えば、Fingl et al., The Pharmacological Basis of Therapeutics, Goddamm and Gilman, eds. Macmillan Publishing Co., New York, pp.1-46(1975)を参照)。
【0043】
本発明の別の態様において、上述した抗原結合タンパク質は、免疫抑制剤、又は、自己免疫性疾患、炎症性疾患、感染性疾患、アレルギー又は癌(例えば、非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ球性白血病、ホジキン白血病、乳癌、子宮癌、直腸癌、腎臓の癌、又は、胆管の癌等で発生するもの等の固形腫瘍、微小残存病変、例えば、肺、骨、肝臓又は脳等で転移するもの等の転移性腫瘍)の治療のための薬剤の製造に使用される。特に銘記される場合、所定の疾患の治療に特に有用性を有する上述した多重特異性結合タンパク質は、その特定の疾患用の薬剤の製造にも使用することが可能である。
【0044】
薬用組成物、即ち、薬剤を調製するための前記方法、及び、例えば癌等の疾患の予防及び/又は治療における抗原結合タンパク質の臨床的利用は当業者に知られている。
【0045】
本発明の一つの特定の態様において、前記抗原結合タンパク質は多重特異性であって、癌治療に使用される。なぜならば、そのような多重特異性抗原結合タンパク質は、腫瘍細胞に対して細胞毒性エフェクター細胞を再標的化することができるからである。この治療コンセプトは周知である。例えば、臨床研究によって、抗-CD3x抗腫瘍二重特異性抗体によって治療された患者(例えば、Canevari, S. et al., J. Natl. Cancer Inst., 87, 1463-1469, 1996)、又は、抗-CD16x抗腫瘍二重特異性抗体によって治療された患者(例えば、Hartmann et al. Clin Cancer Res., 2001, 7(7), 1873-81)において腫瘍の退縮が示されたからである。可変ドメイン(Fv)のみを有する種々の組み換え二重特異性抗体分子に関する概念実証も示され(Cochlovius et al.; Cancer Research, 2000, 60:4336-4341)、或いは、最近では、前記BiTE(登録商標)-formatの単量体一本鎖Fv抗体分子での臨床研究でも示されている(互いに連結された異なる特異性の二つの一本鎖抗体(two single-chain antibodies of different specificities linked together), Amgen, ドイツ、Bargou R. et al., Science, 2008, 321 (5891), 974-977、Baeurele PA and Reinhardt C., Cancer Res. 2009, 69 (12), 4941-4944)。ここに記載した前記二量体抗原結合タンパク質は、それらは、例えば、同じ組み合わせの抗体特異性を使用して、治療、例えば、細胞毒性の機序を変えることができるので、二重特異性抗体と同様にして、薬剤、治療方法に適用することが可能である。更に、Muromonab-CD3等のCD3に対して単一特異的な免疫抑制抗体が、腎移植(自家移植)、肝移植及び心臓移植の移植拒絶、急性拒絶の処置用として知られている。従って、アルブミンとCD3とに対して特異的な抗原結合タンパク質を、公知の単一特異性抗-CD3抗体と同じ治療方法で使用することができる。
【0046】
前記抗原結合タンパク質とその前記組成物とは、経口、静脈内、腹腔内、皮下、又は、その他の薬学的に許容可能な投与形態で使用することができる。いくつかの実施例において、前記組成物は、経口投与され、その投与形態は、錠剤、カプセル、カプレット、又は、その他の経口利用可能な形態である。いくつかの実施例において、前記組成物は、非経口、例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、又は、皮下投与用であって、前記抗原結合分子を含む溶液として投与される。
【0047】
当業者は、ここに記載の抗原結合タンパク質を、当該技術において知られている確立された技法と標準的方法を利用することによって過度の負担無く容易に構築し入手することができるであろう。例えば、以下を参照、Sambrook, Molecular Cloning A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1989) N. Y.; The Protein Protocols Handbook, edited by John M. Walker, Humana Press Inc. (2002); 又はAntibody engineering; methods and protocols/edited by Benny K.C. Lo; Benny K.C. II Series: Methods in molecular biology (Totowa, N.J.))。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1A】異なる抗-CD3ドメインを含むタンデムダイアボディの結合と細胞毒性活性。ヒトCD19+Raji細胞、ヒトCD3+Jurkat細胞、カニクイザルCD3 HSC-F細胞を、CD19-結合ドメインとの併用で、前記CD3-結合ドメインvar_w(配列識別番号1及び6)を含む10μg/mLのタンデムダイアボディTandAb Bで氷上で染色した。細胞表面結合タンデムダイアボディを、抗-His mAbによって検出し、その後、FITC-コンジュゲート ヤギ抗-マウスIgGによって検出した。フローサイトメトリー分析によって測定した平均蛍光強度は、KDを計算するために非線型回帰によってシグモイド投与-応答としてモデル化した。
図1B】異なる抗-CD3ドメインを含むタンデムダイアボディの結合と細胞毒性活性。標的細胞としてのカルセイン標識化EGFRvIII+F98とエフェクター細胞としてのPBMCとを50:1のE:T比で4時間のインキュベーション時間での細胞毒性分析でEC50値を測定した。EC50は、シグモイド曲線としてモデル化されたデータの非線形回帰によって計算された。
図2A】サイズ排除HPLCによって分析された生物物理的安定性。 TandAb G(配列識別番号14)、TandAb D(配列識別番号11)及びTandAb E(配列識別番号12)を、最大(7)日間、40℃でインキュベートした。(図2A)ホモ二量体タンデムダイアボディ含有量。(図2B)%回収。
図2B】サイズ排除HPLCによって分析された生物物理的安定性。 TandAb G(配列識別番号14)、TandAb D(配列識別番号11)及びTandAb E(配列識別番号12)を、最大(7)日間、40℃でインキュベートした。(図2A)ホモ二量体タンデムダイアボディ含有量、(図2B)%回収。
図3A】ヒト化抗-CD3ドメインとのEGFRvIII/CD3タンデムダイアボディの結合親和性と交叉反応性。ヒトCD3+Jurkat細胞(図3A)、カニクイザルCD3 HSC-F細胞(図3B)を、増大する濃度のTandAb D(配列識別番号11)(JurkatでのKD=1,822nM、HSC-FでのKD=3,4nM)及びTandAb E(配列識別番号12)(JurkatでのKD=27,74nM、HSC-FでのKD=24,3nM)で染色した。細胞表面結合したタンデムダイアボディを、抗-His mAbによって検出し、その後、FITC-コンジュゲート ヤギ抗-マウスIgGによって検出した。フローサイトメトリー分析によって測定した平均蛍光強度を、KDを計算するために、非線型回帰によってシグモイド投与-応答としてモデル化した。
図3B】ヒト化抗-CD3ドメインとのEGFRvIII/CD3タンデムダイアボディの結合親和性と交叉反応性。ヒトCD3+Jurkat細胞(図3A)、カニクイザルCD3 HSC-F細胞(図3B)を、増大する濃度のTandAb D(配列識別番号11)(JurkatでのKD=1,822nM、HSC-FでのKD=3,4nM)及びTandAb E(配列識別番号12)(JurkatでのKD=27,74nM、HSC-FでのKD=24,3nM)で染色した。細胞表面結合したタンデムダイアボディを、抗-His mAbによって検出し、その後、FITC-コンジュゲート ヤギ抗-マウスIgGによって検出した。フローサイトメトリー分析によって測定した平均蛍光強度を、KDを計算するために、非線型回帰によってシグモイド投与-応答としてモデル化した。
図4】ヒト化抗-CD3ドメインを有するEGFRvIII/CD3タンデムダイアボディの細胞毒性活性。標的細胞としてのカルセイン標識化EGFRvIII+ employing F98とエフェクター細胞としてのPBMCとを50:1のE:T比での4時間の細胞毒性分析でEC50値を測定した。EC50は、シグモイド曲線としてモデル化されたデータの非線形回帰によって計算された。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明の抗原結合タンパク質のCD3結合部位によって構成される特定のVLとVHを産生するための具体例を以下に記載する。
【0050】
第1の工程において、SP34のマウスVH CDR(BD Bioscience, J. Immunol. Methods, 1994, 178:195)をIgG1の最も相同性の高いヒトフレームワーク(ヒトVH3_72)上にグラフトし、新たにヒト化されたVHと親のマウスVLλ鎖とから成るキメラ結合ドメインを得た。結合データは、前記キメラ分子が機能を保持していることを示した。従って、前記ヒト化VH鎖は、VL鎖に対するその後のヒト化工程中において変化しなかった。
【0051】
前記マウスSP34 VL配列のヒト化のために、マウスCDRを親マウスフレームワークに対して最も高い相同性を有するヒトVLフレームワーク(ヒトVλ7_7a)上にグラフトした。この密接に関連したλ鎖を含む構築物を、復帰突然変異を導入することによって産生し、これらをCD19結合ドメインとの組み合わせで、タンデムダイアボディフォーマットで分析した。前記復帰突然変異は、元のマウスSP34と前記Vλ7_7aフレームワークを含むヒト化バリアントとのモデルの比較に基づいて選択された。即ち、それらは、前記受容側のヒトフレームワーク上にグラフトされた時に、立体障害を低減し、ドナー側のマウス抗体CDRの立体配座を保持するように選択された。但し、これらのλ鎖含有タンデムダイアボディはすべて、十分に発現されなかったか、もしくは、抗原を認識できなかった。
【0052】
従って、前記VL鎖をヒト化するために代替の方法を選択した。この第2の戦略においては、重鎖と軽鎖との最適対合に関して重鎖と軽鎖のデータを分析した。前記マウスCDRの固定されたヒトフレームワーク(ヒトVκ1_39)へのグラフトを追及した。従って、前記λ鎖を、κ鎖によって置換した。軽鎖のVκ1_39フレームワークは、重鎖のヒト化(上述)に使用されたVH3_72フレームワークと互換性があることが判った。その後、前記VH3_72フレームワークとの組み合わせでVκ1_39フレームワークを使用することによって、VL/VH対合が改善されたFvが得られ、良好な安定性、発現及びその他の生物物理的特性を有するヒト化ドメインが得られるかどうかをテストした。
【0053】
少数セットの個々の突然変異又はそれらの組み合わせを含む複数のタンデムダイアボディが産生された。前記復帰突然変異は、前記受容側のヒトフレームワーク上にグラフトされた時に、立体障害を低減し、ドナー側のマウス抗体CDRの立体配座を保持するように選択された。非常に驚くべきことに、前記κ鎖含有抗原結合タンパク質は、許容可能な発現とヒト及びカニクイザルCD3とに対する結合を含むより優れた特性を示した。それらの生物物理学的及び機能的特性と、更に、それらのそれぞれの発現収率とに基づいて、前記Vκ結合ドメイン var_wが最も有望な候補であることが判ったので、これを更なる開発用に選択した。var_wの初期安定性は、下記の突然変異によって大幅に改善された。即ち、VL、D72→T72、K73→D73及びA74→F74、これらによって候補var_xが得られた。
【0054】
前記CD3結合ドメインのヒト化の連続の工程中、var_wとvar_xとを、抗-CD19以外の抗原結合部位、即ち、抗-EGFRvIII, 抗-EpCAM及び抗-CD30と組み合わせて、これらの二つのバリアントの様々な抗腫瘍抗原部位と対合する能力を分析した。var_wとvar_xとこれらの腫瘍標的結合部位との組み合わせによって、標的結合とT細胞介在細胞毒性との両方を示す発現良好で安定したタンデムダイアボディが産生された。図1Aは、フローサイトメトリー測定による、CD19-結合ドメインとの組み合わせでのTandAb B、CD3-結合ドメインvar_wを含む抗体の結合活性を示している。CD19-発現ヒト細胞ラインRaji、CD3+ヒトT細胞ライン(Jurkat)とカニクイザルCD3-発現細胞ライン(HSC-F)に対するTandAb Bの結合親和性(KD)が図示されている。カニクイザル及びヒトCD3に対する結合(KD)において実質的な差が無く、交叉反応性が観察された。図1Bにおいて、細胞毒性分析が示されており、ここでは、タンデムダイアボディは、EGFRvIII結合ドメインとの組み合わせで、前記CD-3結合ドメインvar_w又はvar_x、を含んでいる。前記EGFRvIII発現細胞ラインF98は、エフェクター細胞としてヒトPBMCを使用した4時間の細胞毒性分析(カルセイン標識化)において効率的に溶解された(lysed)。前記var_w含有TandAb G(配列識別番号14)によるタンデムダイアボディ媒介標的細胞溶解(lysis)を、SP34の親マウスCD3-結合ドメインを含む対照Tand Ab F(配列識別番号13)のそれと比較した。
【0055】
クローンvar_w及びvar_xの配列及びモデリング分析によって、タンデムダイアボディにおけるこれらバリアントの結合及び安定特性に対する位置VH111及びVL49(これらは前記モデルにおいて互いに直接接触する)のアミノ酸の重要な役割が発見された。複数の異なる突然変異をこれらの位置に導入し、それらのそれぞれを、又は、EGFRvIII結合ドメインとの組み合わせのタンデムダイアボディにおいて分析した。位置VH111では、前記突然変異は、WからT、Q、N、S、F、Y、R又はHへの突然変異であり、位置VL49では、前記突然変異はGからA、V、S、T又はNへの突然変異であった。すべてのタンデムダイアボディは、結合特性、細胞毒性及び安定性が分析された。
【0056】
VH111のWからY、そしてVL49のGからAへの突然変異によってCD3結合ドメインvar_yが作り出され、VH111のWからHへの単一突然変異によってドメインvar_zが作り出され、これらの結合ドメインはタンデムダイアボディTandAb D(var_y)(配列識別番号11)とTand Ab E(var_z)(配列識別番号12)を作り出したが、これらは親var_wに対して改善された安定性を示した。VH111は、Shiraiの法則(Kuroda et al.、2008、Proteins、73、608)により、CDRH3によってとられる立体配座が延長されるか或いは屈曲されるかを決定するCDRH3における特別な位置を占める。これは、この位置でのWの許容可能な置換がF、Y又はH等の大きな芳香環を含まなければならず、さもなければ、結合の損失が予想されるという実験から得られたものである。更に、VH111の近傍での骨格との前記VL49のモデル化された直接接触も、許容可能な残基の性質に対して大きな制約をもたらす。ホモ二量体タンデムダイアボディ含有量をモニターするためのサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)を使用して、これらのタンパク質において40℃での7日間安定性の改善が観察された。両方のクローンは、親var_wを含有するTandAb G(配列識別番号14)に対して、望ましいタンデムダイアボディホモ二量体含有量の増大と、回収の改善とを示した。図2Aと2Bは、TandAb D(配列識別番号11)、TandAb E(配列識別番号12)、及びTandAb G(配列識別番号14)の40℃での7日間にわたる安定性を示している。
【0057】
驚くべきことに、機能性分析によって、これらのタンデムダイアボディの結合活性と細胞毒性とが保持されていることが示された。図3A及び3Bは、フローサイトメトリー分析によって測定された、var_yを含むTandAb Dとvar_zを含むTand Ab E(配列識別番号12)の滴定されたタンデムダイアボディのCD3+ヒトT細胞ライン(Jurkat)とCD3+カニクイザル細胞ライン(HSC-F)への結合を示している。KD値を非線形回帰によって算出し、そして下記の表に要約する。ヒトとカニクイザルCD3とに関して同等の結合親和性が観察され、これはCD-3結合ドメインに対する交叉反応性を示している。TandAb D(配列識別番号11)は、TandAb E(配列識別番号12)(KD=27.7nM)に対してよりもヒトCD3に対して(KD=1.8nM)>10倍以上高い親和性を示した。
【0058】
var_yを含むTandAb D(配列識別番号11)と、var_wを含むその前駆体TandAb G(配列識別番号14)とを、標的細胞としてEGFRvIII-発現細胞ラインF98を使用し、エフェクター細胞としてヒトPBMCを使用して4時間のカルセイン遊離細胞毒性分析で直接比較した。両方の抗体によって誘導された標的細胞溶解が、濃度依存的に観察され、これらは同等の強度(Tand Ab G EC50=129 pM、Tand Ab D EC50=122pM)を示した。滴定曲線が図4に示されている。
【0059】
要約すると、前記マウスクローンSP34から開始して、前記VH及びVL鎖に、CDR-グラフティングによる段階的ヒト化を行った。フレームワーク残基の点突然変異と、結合活性と細胞毒性とを保持する置換の選択によって、タンデムダイアボディにおいて前記ヒト化分子の安定性が更に増大した。前記二つの最適化CD3結合ドメイン、var_yとvar_zは、カニクイザルCD3に対する非常に良好な交叉反応性を示した。前記最適化ドメインの標的親和性は、約10倍の差があったので、それによって、T細胞動員に対して親和性の異なるタンデムダイアボディを作り出すことが可能であった。前記CD-3結合ドメイン(var_yとvar_z)、前記二つの中間物(var_wとvar_x)、そして前記親マウスクローン(SP34)のアラインメントされたVH及びVLアミノ酸配列を表1に示している。
【0060】
【表1】
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]