(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素皮膜は、添加元素として、N、F、Al、Si、Cr、Ag、Ti、Cu、Ni、W、Ta、Mo、Zr、B、Fe、Pt、P、S、I、Mg、Zn及びGeからなる群から選択される一以上の元素を含む請求項1又は請求項2に記載の静電気保護被膜。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、LSI等の集積回路の低電圧化設計が進み、例えば、動作電圧が約0.4Vの超低電圧LSI等と称される超低電圧デバイスの開発も進み、従来よりも一層ESD対策が重要になってきている。上記特許文献1に開示の静電気除去部材は体積固有抵抗値が10
5Ω・cm以下と導電率の高い導電層を備えるため、静電気放電が生じた際に耐電圧や許容電流を超えるサージ電圧やサージ電流の発生を抑制することはできなかった。また、電子機器等の製造工程では、二つの物体を電気的に隔離しつつ、静電気の発生、或いは、電荷の蓄積を抑制したい場合がある。また、電子機器等の使用時においても、電子機器等と他の物体とを電気的に隔離した状態で、且つ、静電気の発生、或いは電荷の蓄積を抑制したい場合がある。しかしながら、特許文献1の静電気除去部材は導電層を備えるため、このような場合に用いることはできなかった。
【0008】
従って、導電層を備えた静電気除去部材では、静電気放電を完全に抑制することは困難であり、静電気放電が生じたときに電子機器等を誤動作や損傷から完全に保護することは困難であった。
【0009】
また、上記ゴム製品等に導電性フィラーを添加すると、ゴム製品等の弾性率、引っ張り強さ、硬度の低下を招く。ピックアップノズルは吸引孔を有し、当該吸引孔を介して真空引きすることにより、先端に半導体デバイスを吸着する。ゴム製吸着パッドの弾性率が低下すると、真空引きしたときに、ゴム製吸着パッドが半導体デバイスの表面に強く圧接されて、半導体デバイスの表面にゴム製吸着パッドの圧接痕が残る場合がある。また、ゴム製吸着パッドの弾性率や硬度等の低下に伴い、ゴム製吸着パッドが劣化しやすくなると、搬送効率が低下する。さらに、ゴム製吸着パッドの劣化により半導体デバイス吸着時にゴム製吸着パッドから摩耗粉が生じる恐れがある。半導体デバイスの製造工程はクリーンルームで行われる。ゴム製吸着パッドから生じた摩耗粉によってクリーンルーム内で塵埃が発生すると、半導体集積回路を製造する際の回路パターン露光時において、塵埃に起因する回路パターンの露光不良等を発生して歩留りが低下するおそれがある。これらの生産効率の低下を防止するには、ゴム製吸着パッドの交換頻度を高くする必要が生じる。これらのことから、ゴム製吸着パッド等のゴム製品に対しては材料の機械特性等を変化させることなく、ESD対策を行うことが求められる。
【0010】
そこで、本件発明の課題は、静電気が発生しにくく、静電気放電が生じた際にも保護対象物を静電気放電から保護することのできる静電気保護被膜、物品ハンドリング装置及び静電気保護部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本件発明に係る静電気保護被膜は、基材の表面に設けられ、静電気放電から保護対象物を保護するための静電気保護被膜であって、表面抵抗が3×10
4Ωより大きく1×10
12Ω以下であり、且つ、表面電荷の半減期が10ナノ秒以上60秒以下の炭素皮膜からなることを特徴とする。
【0012】
本件発明に係る静電気保護被膜において、前記炭素皮膜は水素を含み、sp2構造の炭素とsp3構造の炭素とを含む非晶質構造を有する硬質炭素皮膜であることが好ましい。
【0013】
本件発明に係る静電気保護被膜において、前記炭素皮膜は、添加元素として、N、F、Al、Si、Cr、Ag、Ti、Cu、Ni、W、Ta、Mo、Zr、B、Fe、Pt、P、S、I、Mg、Zn及びGeからなる群から選択される一以上の元素を含むことが好ましい。
【0014】
本件発明に係る静電気保護被膜において、前記炭素皮膜の絶縁耐圧特性が20kV/mm以上であることが好ましい。
【0015】
本件発明に係る静電気保護被膜において、前記炭素皮膜の硬度が5Gpa以上であることが好ましい。
【0016】
本件発明に係る静電気保護被膜において、前記炭素皮膜の摩擦係数が0.5以下であることが好ましい。
【0017】
本件発明に係る静電気保護被膜において、前記炭素皮膜の膜厚が1nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0018】
本件発明に係る静電気保護被膜において、前記基材は、静電気放電から保護するための保護対象物と近接又は接触する他の物品であることが好ましい。
【0019】
本件発明に係る静電気保護被膜において、前記基材は、静電気放電から保護するための保護対象物であってもよい。
【0020】
本件発明に係る静電気保護被膜において、前記基材は絶縁体材料からなるものであってもよい。
【0021】
本件発明に係る静電気保護被膜において、前記基材が絶縁体材料である場合、当該絶縁体材料はセラミックス、樹脂又はゴムであることも好ましい。
【0022】
上記課題を解決するため、本件発明に係る物品ハンドリング装置は、物品を治具で保持し、当該物品を所定の位置に保持又は搬送する物品ハンドリング装置であって、前記治具の前記物品との接触面に、表面抵抗が3×10
4Ωより大きく1×10
12Ω以下であり、且つ、表面電荷の半減期が10ナノ秒以上60秒以下の炭素皮膜からなる静電気保護被膜が設けられたことを特徴とする。
【0023】
本件発明に係る物品ハンドリング装置において、前記接触面と前記静電気保護被膜との間に密着層が設けられることが好ましい。
【0024】
本件発明に係る物品ハンドリング装置において、前記治具の前記物品との接触面は絶縁体材料からなり、当該絶縁体材料上に前記静電気保護被膜が設けられることが好ましい。
【0025】
本件発明に係る物品ハンドリング装置において、上記絶縁体材料は、セラミックス、樹脂又はゴムであることも好ましい。
【0026】
本件発明に係る物品ハンドリング装置において、前記物品は半導体製品であることが好ましい。
【0027】
本件発明に係る静電気保護部材は、物品の表面に設けられる静電気保護部材であって、上記記載の静電気保護被膜を備えることを特徴とする。
【0028】
本件発明に係る静電気保護部材において、前記静電気保護被膜を前記物品の表面に密着するための密着層を備えることが好ましい。
【0029】
本件発明に係る静電気保護部材において、前記物品は半導体を保持又は搬送するための治具であり、前記物品の表面はセラミックス、樹脂又はゴムからなることも好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本件発明に係る静電気保護被膜を採用することで、静電気を発生させにくく、静電気を帯びた場合も静電気を緩やかに放電させることで、半導体、電子部品、これらを用いて構成された各種電子機器等の保護対象物にサージ電圧等が印加等されることを防止し、静電気放電に伴う保護対象物の誤動作や損傷を防止することができる。すなわち、本件発明によれば、保護対象物を静電気放電から保護するための優れた静電気保護被膜、物品ハンドリング装置及び静電気保護部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る静電気保護被膜、物品ハンドリング装置、及び静電気保護部材の実施の形態を説明する。以下では、静電気保護被膜、静電気保護部材、物品ハンドリング装置の順に説明する。
【0033】
1.静電気保護被膜
まず、本件発明に係る静電気保護被膜について説明する。本件発明に係る静電気保護被膜は、静電気放電から保護対象物を保護するために用いられる。本件発明において、静電気放電からの保護対象とする保護対象物は、主に、半導体、半導体集積回路等の電子部品、これらを用いて構成された各種電子機器等である。しかしながら、本件発明において、当該静電気保護被膜の保護対象物はこれらに限定されるものではない。例えば、人体等を静電気放電に伴う衝撃等から保護するために、当該静電気保護被膜を用いてもよい。
【0034】
当該静電気保護被膜は、上記保護対象物に設けられてもよいし、当該保護対象物の製造時、搬送時、或いは、使用時等に、当該保護対象物と接触、摩擦、剥離等する他の物品に設けられてもよい。そのような他の物品として、例えば、半導体製造工程において半導体デバイスを治具で保持し、半導体デバイスを所定の位置で保持又は次の工程に搬送する半導体ハンドリング装置等の物品ハンドリング装置等が挙げられる。なお、物品ハンドリング装置(物品保持装置、物品搬送装置)等については後述する。
【0035】
当該静電気保護被膜が設けられる保護対象物又は他の物品を以下では基材と称する。当該静電気保護被膜が設けられる基材は、絶縁体であってもよいし、導電体であってもよく、基材の材質は特に限定されるものではない。また、当該保護被膜が設けられる基材の形状も特に限定されるものではない。基材が絶縁体であっても導電体であっても、基材の表面に本件発明に係る静電気保護被膜を設けることにより、本件発明に係る効果を得ることができる。
【0036】
当該静電気保護被膜は、表面抵抗が3×10
4Ωより大きく1×10
12Ω以下であり、且つ、表面電荷の半減期が10ナノ秒以上60秒以下の炭素皮膜からなることを特徴とする。以下では、上記静電気保護被膜を構成する炭素皮膜の物性や構成等について説明した後、当該炭素皮膜の製造方法について説明する。
【0037】
1−1.炭素皮膜の物性及び構成等
(1)炭素皮膜の物性
まず、当該炭素皮膜の物性について説明する。本件発明に係る静電気保護被膜は、以下の電気特性(表面抵抗、表面電荷の半減期等)を備えると共に、以下の機械特性(硬度、摩擦係数等)を有することが好ましい。
【0038】
a)表面抵抗
当該静電気保護被膜の抵抗値を体積固有抵抗値ではなく、表面抵抗値で規定したのは、次の理由による。まず、体積固有抵抗値に比べて、表面抵抗値は通常1桁以上小さい値を示す。また、静電気は物体の表面に帯電し、これが放電される際、電荷は主に物体の表面を流れる。そのため、当該静電気保護被膜の機能に鑑みて、ここでは抵抗値を表面抵抗値で規定した。なお、表面抵抗が3×10
4Ωより大きい場合、その材料の体積固有抵抗は概ね1×10
5Ωより大きくなる。
【0039】
当該静電気保護被膜は、表面抵抗が3×10
4Ω(3×10
4Ω/sq)より大きく1×10
12Ω(10
12Ω/sq)以下の炭素皮膜からなる。例えば、絶縁体の表面抵抗は1×10
13Ω(10
13Ω/sq)以上であり、絶縁体が他の物体に対して摺動すると、摩擦により静電気が発生し、絶縁体が帯電し、表面に正又は負の電荷が表れる。当該静電気保護被膜は、表面抵抗が1×10
12Ω(1×10
12Ω/sq)以下の炭素皮膜からなるため、当該静電気保護被膜が他の物体に対して摺動したときに静電気が発生するのを抑制することができる。一方、導電体の表面抵抗は1×10
3Ω(1×10
3Ω/sq)以下である。静電気を帯びた物体が導電体に接触等すると、物体表面の電荷は2〜3ナノ秒レベルで急峻に逸散する。つまり、急峻に静電気放電が生じる。その際、耐電圧を超えたサージ電圧が保護対象物に印加すると、絶縁破壊が生じ、許容電流を超えたサージ電流が電子機器等に流れて熱断線等の不具合が生じ場合がある。
【0040】
一方、静電気保護被膜を絶縁体により構成した場合、静電気を帯びたときに表面の電荷が散逸されず、表面に電荷が蓄積されていく。そのため、静電気放電が生じた場合に、耐電圧や許容電流を超えたサージ電圧やサージ電流によって保護対象物の誤動作や損傷を招く場合がある。これに対して、当該静電気保護被膜は、表面抵抗が10
12Ω(10
12Ω/sq)以下の炭素皮膜からなり、表面の電荷を緩やかに散逸させることで、表面に電荷が蓄積され過ぎないようにすることができる。そのため、静電気を帯びた物体が当該静電気保護被膜に接触等したときに、静電気放電により耐電圧を超えたサージ電圧等が保護対象物に印加されるのを抑制して、保護対象物を静電気放電から保護することができる。すなわち、当該静電気保護被膜を保護対象物又は、当該保護対象物と接触等する他の物品に設けることにより、静電気の発生を抑制すると共に、保護対象物等が静電気を帯びたときもその電荷を緩やかに散逸させて電荷の蓄積を抑制し、或いは、静電気放電時の最大電圧値や最大電流値を下げることで、静電気放電に伴う保護対象物の誤動作や損傷を防止することができる。
【0041】
ここで、当該静電気保護被膜は、静電気を帯びた際に、静電気放電に伴う保護対象物の誤動作や損傷等を生じさせない程度に電荷の散逸を速やかにするという観点から、表面抵抗が10
11Ω(10
11Ω/sq)以下の炭素皮膜からなることが好ましく、10
10Ω(10
10Ω/sq)以下の炭素皮膜からなることがより好ましく、10
9Ω(10
9Ω/sq)以下の炭素皮膜からなることがさらに好ましい。また、当該静電気保護被膜は、サージ電圧(電流)の最大値を低減するという観点から、表面抵抗が10
5Ω(10
5Ω/sq)以上の炭素皮膜からなることが好ましい。
【0042】
但し、当該表面抵抗は、JISK6911−1995に準拠して、JIS C 1302に準拠する絶縁抵抗計(例えば、Agilent Technologies社製の絶縁抵抗計4339B)を用いて測定した表面抵抗値とする。
【0043】
b)半減期
まず、半減期は次のものをいう。基材の表面に当該静電気保護被膜を設けた試験片を作製し、この試験片にコロナ放電場(10kV)で帯電させた後、帯電圧或いはサージ電圧(又はサージ電流)の最大値(ピーク値)が1/2に減衰するまでの時間を半減期という。
【0044】
当該静電気保護被膜は、表面電荷の半減期が10ナノ秒以上60秒以下の炭素皮膜からなる。但し、当該静電気保護被膜の電荷の半減期は、基材が絶縁体であるか、導電体であるかによって異なる値を示す。基材が絶縁体である場合、当該静電気保護被膜の表面電荷の半減期は、概ね1ミリ秒以上60秒以下の値を示す。また、基材が導電体である場合、当該静電気保護被膜の表面電荷の半減期は、概ね10ナノ秒以上1ミリ秒未満の値を示す。
【0045】
当該静電気保護被膜の表面電荷の半減期が上記範囲内であると、基材の種類によらず、当該静電気保護被膜の表面が静電気を帯びたときに、電荷の蓄積を抑制すると共に表面の電荷を緩やかに散逸することで、静電気放電時の最大電圧値、最大電流値が高くなり過ぎるのを抑制することができる。より具体的には、基材の表面に当該静電気保護被膜が設けられていない場合、絶縁性基材の場合は表面電荷を散逸することができない。また、導電性基材の場合は、基材の表面に当該静電気保護被膜が設けられていない場合と比較すると半減期を2倍以上の長さにすることができる他、静電気放電時のサージ電圧(サージ電流)の最大値を1/2以下にする効果が得られる。すなわち、保護対象物の耐電圧値や許容電流値に応じて、当該静電気保護被膜の電荷の半減期を適宜調整することにより、静電気放電が生じた場合も、耐電圧値や許容電流値を超えた電圧や電流が保護対象物に印加等するのを抑制し、絶縁破壊等が生じるのを抑制することができる。また、電荷の半減期を上記範囲内とすることにより、静電放電時に電流を緩やかに流すことができ、電磁波の発生を抑制し、保護対象物の誤動作を抑制することができる。
【0046】
当該静電気保護被膜の用途及び基材の材質等に応じて、当該半減期は適宜調整することが好ましい。なお、半減期をどのようにして調整するかについては後述する。
例えば、当該静電気保護被膜を電子機器等の製造工程におけるESD対策として用いる場合、タクトタイムに応じて適宜調整することが好ましい。半導体ハンドリング装置等の物品ハンドリング装置等についても同様である。タクトタイムとは、1日当たりの製造ラインの稼働時間を1日当たりの電子機器等の生産数量で除した値をいう。このタクトタイムに対して当該静電気保護被膜の表面電荷の半減期が長くなると、ある工程から次の工程までの間に表面に蓄積した電荷を十分に散逸させることができず、電子機器等の製造時に電子機器等に静電気の電荷が蓄積していく。そのため、静電気放電に伴う保護対象物の誤動作や損傷を十分に抑制することができない場合があるため好ましくない。当該観点から、表面電荷の半減期は50秒以下であることが好ましく、40秒以下であることがより好ましい。
【0047】
一方、表面電荷の半減期が短くなりすぎると、当該静電気放電被膜の半減期が導体の半減期に近づく。なお、導体の半減期は2〜3ナノ秒である。表面電荷の半減期が3ナノ秒未満になると、既述のとおり、静電気放電時の最大電圧値や最大電流値が高くなる。静電気放電時の最大電圧値(サージ電圧の最大電圧値)や最大電流値(サージ電流の最大電流値)を低くするという観点からは表面電荷の半減期は上記範囲において遅い方が好ましい。当該観点から、表面電荷の半減期は10ナノ秒以上であることが好ましく、50ナノ秒以上であることがより好ましい。
【0048】
上記半減期は次のように測定した値とする。基材が絶縁体である場合、基材の表面に当該静電気保護被膜を設けた試験片を帯電電荷減衰測定器(例えば、シシド静電気株式会社製帯電電荷減衰測定器(ネオストメータ H0110−C))を用い、JIS L1094に準拠して測定した値とする。但し、印加電圧10kV、放電時間30秒、放電距離15mm、電荷測定距離20mm、試験片大きさ50mm×50mmの条件で炭素皮膜の表面を帯電させ、帯電圧が1/2に減衰するまでの時間を半減期とする。
【0049】
一方、基材が導電体である場合、当該静電気保護被膜の半減期は基材が絶縁体である場合と比較すると短く、上記方法で半減期を測定することは困難である。そのため、基材が導電体である場合は、基材の表面に当該静電気保護被膜を設けた試験片に対してコロナ放電場(10kV)で空中放電し帯電させた後、試験片からアースに流れ落ちる電圧の変化を高速のオシロスコープ(Mixed Signal Osilloscope;アジレント MSO9404A 4GHz)で測定した値とする。
【0050】
なお、当該静電気保護被膜は、基材表面に設けられて使用される。上述したとおり、本件発明に係る静電気保護被膜が設けられる基材の材質等は特に限定されるものではなく、例えば、絶縁体として、セラミックス(アルミナ、炭化ケイ素等)、樹脂(PEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)、PC(ポリカーボネート樹脂)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン樹脂等)等)、繊維(天然繊維(綿、ウール)、半合成繊維(アセテート等)、合成繊維(ナイロン、ポリエステル等)又は布製品、紙類等が挙げられる。
【0051】
上記セラミックスは、金属元素及び非金属元素の各種の酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物などの無機化合物を意味するものとし、例えば、アルミニウム製の半導体デバイスの保持アーム又は搬送アームの表面にアルマイト処理を施すことにより表面に形成されたアルミナ皮膜などの表面処理皮膜も含まれる。
【0052】
さらに、絶縁体はゴムでもよい。具体的には、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロブレンゴム(CR)、アクリルニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Si)、フッ素ゴム(FKM)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等、天然及び人工ゴム等であってもよい。
【0053】
また、導電体として、金属(アルミニウム、鉄、銅等)、グラファイト等が挙げられる。さらに、例えば、絶縁性基板上に回路パターンが形成された回路基板等、当該静電気保護被膜が設けられる基材は、絶縁体と導電体とを共に含むものであってもよい。
【0054】
c)絶縁耐圧特性
当該炭素皮膜の絶縁耐圧特性は20kV/mm以上であることが好ましい。例えば、静電気放電が生じたときに、当該炭素皮膜の絶縁耐圧特性が20kV/mm以上であると、静電気放電が生じた際に、当該炭素皮膜からなる静電気保護被膜を保護対象物に設けることにより、当該炭素皮膜が薄くても保護対象物を静電気放電に伴う損傷や誤動作から保護することができる。
【0055】
d)硬度
当該炭素皮膜の硬度が5Gpa以上であることが好ましい。硬度がこのように高い炭素皮膜を用いて静電気保護被膜を構成することにより、耐摩耗性が高く、他の物体と接触、摺動、剥離等したときに摩耗しにくく、摩耗粉を発生しにくくすることができる。そのため、例えば、半導体製造装置等のクリーンルーム内に設置され、他の物品と摺動する部位に設ける静電気保護被膜として好適である。
【0056】
e)摩擦係数
当該炭素皮膜の摩擦係数が0.5以下であることが好ましい。摩擦係数がこのように小さい炭素皮膜を用いて静電気保護被膜を構成することにより、他の物体と接触、摩擦、剥離等したときに静電気を発生しにくくすることができる。
【0057】
(2)炭素皮膜の構成
当該炭素皮膜の表面抵抗と表面電荷の半減期が上記範囲内である限り、当該炭素皮膜における炭素原子の格子構造は特に限定されるものではない。また、当該炭素皮膜は、炭素をベースにする被膜であるが、炭素以外の元素を添加物として含んでいてもよい。表面抵抗と表面電荷の半減期が上記範囲内である炭素皮膜として、例えば、炭素原子の格子構造に、グラファイトに代表されるsp2構造の炭素とダイアモンドに代表されるsp3構造の炭素とを含む非晶質構造の炭素皮膜が挙げられる。当該静電気保護被膜は、この非晶質構造の炭素皮膜からなることが好ましい。特に、水素を含み、sp2構造の炭素とsp3構造の炭素とを含む非晶質構造の炭素皮膜であることが好ましい。以下、当該炭素皮膜の好ましい構成について説明する。
【0058】
a)sp3構造の炭素含有割合
上記電気特性を発現させる上で、下記式(1)で表すsp3構造の炭素の含有割合が20(%)以上90(%)以下であることが好ましく、30(%)以上80(%)以下であることがより好ましく、35(%)以上75(%)以下であることがさらに好ましい。なお、上記電気特性とは、表面抵抗が3×10
4Ωより大きく1×10
12Ω以下であり、且つ、表面電荷の半減期が10ナノ秒以上60秒以下であることを指す。
【0059】
sp3/(sp2+sp3)×100・・(1)
但し、
上記式(1)においてsp3及びsp2は、X線光電子分光法(XPS法)により当該炭素皮膜表面の元素分析を行ったときの、sp3構造の炭素原子数及びsp2構造の炭素原子数に相当する。
【0060】
非晶質構造の炭素皮膜において、sp2構造の炭素含有量とsp3構造の炭素含有量との含有比が変化すると、バンドギャップ幅が変化し、表面抵抗が変化する。sp2構造の炭素含有量が増加すると、バンドギャップ幅が小さくなり、当該炭素皮膜の表面抵抗が小さくなる。一方、sp3構造の炭素含有量が増加すると、バンドギャップ幅が大きくなり、当該炭素皮膜の表面抵抗が高くなる。式(1)で表すsp3構造の炭素の含有割合が20(%)以上90(%)以下であれば、表面抵抗を3×10
4Ωより大きく1×10
12Ω以下の範囲内にすることができる。そして、当該範囲内で、sp2構造の炭素含有量とsp3構造の炭素含有量との含有比を変化させることで、バンドギャップ幅を変化させることで、表面抵抗を上記範囲内で調整することができる。また、表面電荷の半減期についても同様に、上記式(1)で表すsp3構造の炭素の含有割合を調整することにより調整することができる。
【0061】
b)水素含有量
当該炭素皮膜は、水素を0atm%以上50atm%以下含むことが好ましい。バンドギャップ間の電荷伝導挙動は、バンドギャップ内に生じた局在準位(不純物準位)における電子のホッピング現象によって決まる。局在準位は、炭素のダングリングボンド或いは添加元素(水素等)等の不純物の存在によって生じる。従って、当該炭素皮膜の電気特性は、上記sp2構造の炭素含有量とsp3構造の炭素含有量との含有割合だけでなく、当該炭素皮膜における水素含有量等の炭素以外の元素の含有量によっても変化する。水素は炭素のダングリングボンドと結合する。そのため、水素含有量を上記範囲内で調整することにより、バンドギャップ内の局在準位を変化させ、当該炭素皮膜の電気特性を上述の範囲内で調整することができる。
【0062】
また、当該炭素皮膜における水素含有量を調整することで、硬度や摩擦係数等の機械特性を調整することができる。当該炭素皮膜における水素含有量が多くなるほど、当該炭素皮膜の摩擦係数が小さくなり、硬度が低下する傾向にある。
【0063】
当該炭素皮膜の電気特性及び機械特性をより好ましいものとする上で、当該炭素皮膜における水素含有量は、3atm%以上40atm%以下であることがより好ましく、5atm%以上30atm%以下であることがさらに好ましい。
【0064】
c)添加元素
当該炭素皮膜は、水素に加えて、N、F、Al、Si、Cr、Ag、Ti、Cu、Ni、W、Ta、Mo、Zr、B、Fe、Pt、P、S、I、Mg、Zn及びGeからなる群から選択される一以上の元素を添加元素として含むことが好ましい。
【0065】
水素に加えて、上記列挙した元素からなる群から選択される一以上の元素を添加元素として含むことにより、上記局在準位を変化させることができ、表面抵抗、表面電荷の半減期等の電気特性や、摩擦係数や硬度等の機械特性を変化させることができる。
【0066】
d)膜厚
当該炭素皮膜の膜厚は1nm以上10μm以下であることが好ましい。上記電気特性及び機械特性を有すれば、当該炭素皮膜の膜厚が薄くとも、静電気の発生を抑制すると共に、静電気放電時に電荷を緩やかに散逸させて、静電気放電に伴う電気機器等の損傷や誤動作を抑制することができる。当該炭素皮膜の膜厚は用途に応じて適宜調整することができる。例えば、静電気対策だけではなく、耐摩耗性等が要求される用途については、当該炭素皮膜の膜厚が厚い方が好ましい。また、より高い絶縁耐圧が要求される場合にも膜厚が厚い方が好ましい。絶縁耐圧特性(kV/mm)が同じ場合、膜厚が厚い方が使用時における絶縁耐圧(kV)が高くなるためである。従って、耐摩耗性や高い絶縁耐圧等が要求される用途については、当該炭素皮膜の膜厚は10nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。一方、電気特性、機械特性、膜厚等の均一な炭素皮膜を得る上での生産効率やコスト的な観点から、当該炭素皮膜の膜厚は5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。但し、上記耐摩耗性等が要求される用途等において、コスト的な制限がなければ当該炭素皮膜の膜厚は特に限定されるものではない。
【0067】
1−2.炭素皮膜の成膜方法
上記電気特性等を有する炭素皮膜を成膜する方法は、上記電気特性等を有する炭素皮膜が得られる限り、特に限定されるものではないが、例えば、次に説明する方法で成膜することが好ましい。
【0068】
(1)水素含有炭素皮膜
水素を含む炭素皮膜は、CVD法(化学気相堆積法)、PVD法(物理気相堆積法)により成膜することができる。当該炭素皮膜を成膜する際に、炭化水素ガスをチャンバー内に導入することで、水素を含む炭素皮膜を成膜することができる。炭化水素ガスとして、鎖状型炭化水素であるメタン、プロパン、エチレン、アセチレン、芳香型炭化水素であるベンゼン、トルエン、スチレン等を用いることができる。特に、メタン、アセチレン等を用いることが好ましい。また、黒鉛等からなる炭素固体ターゲットを用いる場合は、チャンバー内に水素ガスを導入すればよい。
【0069】
CVD法としては、熱CVD法及びプラズマCVD法を採用することが好ましい。プラズマCVD法には、プラズマ発生方法によって高周波放電法、イオンビーム法等の種々の方法が存在するが、目的とする炭素皮膜を成膜することができる限り、プラズマ発生方法は特に限定されるものではない。
【0070】
(2)水素非含有炭素皮膜
水素を含まない炭素皮膜は、炭素固体ターゲットを用いたPVD法により成膜される。具体的には、スパッタリング法、イオンプレーティング法、ホロカソード法、カソードアーク法、レーザーアブレーション法等により、イオン化されたアルゴン原子を炭素固体ターゲットに衝突させて炭素イオンをたたき出し(スパッタ)、或いはアーク放電、レーザー照射により炭素を昇華、イオン化し、負に印加された基材上に成膜する。水素を添加したい場合は上記のように黒鉛等の炭素固体ターゲットを用い、真空容器内に水素を導入して水素プラズマを発生させ、カーボンイオン及び水素イオンを共に基材の表面に堆積させることにより基材上に水素を含む炭素皮膜を成膜することができる。
【0071】
(3)添加元素含有炭素皮膜
水素以外の添加元素を含有する炭素皮膜を成膜するには、上記各種CVD法、PVD法のいずれの方法も採用することができる。真空容器内に、N、F、Al、Si、Cr、Ag、Ti、Cu、Ni、W、Ta、Mo、Zr、B、Fe、Pt、P、S、I、Mg、Zn及びGeからなる群から選択される一以上の元素を含むガス、或いはターゲット材を用いることにより、これらの添加元素を含む、炭素皮膜或いは炭化水素皮膜を得ることができる。
【0072】
2.静電気保護部材
次に、本件発明に係る静電気保護部材の実施の形態を説明する。本件発明に係る静電気保護部材は、本件発明に係る上記静電気保護被膜を備え、物品の表面に設けられる。当該静電気保護部材が設けられる物品は、上記した保護対象物であってもよいし、当該保護対象物の製造時、搬送時、或いは、使用時等に、当該保護対象物と接触、摩擦、剥離等する他の物品であってもよい。静電気保護膜は、上述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。また、以下においても、当該静電気保護部材が設けられる物品(保護対象物又は他の物品)を基材と称する。当該基材について以下で述べない事項は上述したとおりである。
【0073】
当該静電気保護部材は、前記静電気保護被膜を基材の表面に密着するための密着層を備えることが好ましい。但し、当該静電気保護部材は、上記静電気保護被膜(炭素皮膜)のみから構成されていてもよい。
【0074】
例えば、基材表面がセラミックス等の無機化合物からなる場合、セラミックスと上記静電気保護被膜との密着性が低い場合がある。そのようなときに、密着層を設け、物品の表面と静電気保護被膜との密着性を向上することが好ましい。なお、基材表面がセラミックスである場合に限らず、導体、或いは、樹脂やゴムの場合であっても、基材表面と静電気保護被膜との密着性を向上するために当該密着層を設けてもよい。
【0075】
密着層としては、例えば、Cr,Fe,Ni等の金属元素或いは金属化合物をスパッタリング法等により物品の表面に成膜した金属薄膜或いは金属化合物膜を用いることができる。また、HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)等の有機ケイ素化合物ガスを用いてプラズマCVD法により物品の表面にケイ素化合物膜を形成し、これを密着層としてもよい。
【0076】
当該密着層の厚みは1nm〜3μm程度であることが好ましく、密着層の厚みは適宜調整することができる。また、基材の表面に密着層を複数層設けてもよい。基材の材質に応じて、例えば、金属薄膜と、ケイ素化合物膜とを積層し、複数の膜を積層した積層構造の密着層とすることも好ましい。
【0077】
当該密着層は、基材と炭素皮膜との密着性を向上させる機能を有するが、当該静電気保護部材の電気特性や機械特性を調整するための機能も有する。当該静電気保護部材の電気特性及び機械特性は、上記炭素皮膜からなる静電気保護被膜の電気特性及び機械特性と同等である。しかしながら、密着層を設けることにより、基材と静電気保護被膜との密着性が向上する結果、摩擦・摩耗特性の機械特性が向上する。また、基材と静電気保護被膜との間に当該密着層を介在させることで、膜の深さ方向における電荷の流れがこの密着層によって流れやすくなる、或いは、阻害されるなどの影響があるため、当該静電気保護部材の電気特性を、基材に要求される目的に応じて、調整することができる。
【0078】
静電気保護部材を保護対象物又は上記他の物品に設けることで、静電気を発生させにくく、静電気を帯びた場合も静電気を緩やかに放電させることで、保護対象物にサージ電圧等が印加等されることを防止し、静電気放電に伴う保護対象物の誤動作や損傷を防止することができる。
【0079】
3.物品ハンドリング装置
次に、本件発明に係る物品ハンドリング装置の実施の形態を説明する。本件発明に係る物品ハンドリング装置は、物品を治具で保持し、当該物品を所定の位置に保持又は搬送する物品ハンドリング装置であって、前記治具の物品との接触面に、本件発明に係る上記静電気保護被膜が設けられたことを特徴とする。物品ハンドリング装置により保持又は搬送される物品は、上記した保護対象物に相当する。静電気保護被膜は、上述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0080】
物品ハンドリング装置として、当該実施の形態では、半導体ハンドリング装置を例に挙げて説明する。ここで、半導体デバイスは半導体ウェハ、半導体集積回路等の電子部品を意味するものとする。半導体製造工程では、上述したように保持アーム、搬送アームやピックアップノズル等により半導体デバイスを所定の位置で保持したり、これらを保持した状態で次の工程等の所定の位置に搬送する半導体ハンドリング装置が用いられている。また、半導体製造工程では、ピックアップノズルを備えたダイボンディング装置等の半導体デバイスをピックアップノズル等で吸着保持して所定の位置で固定保持又は半導体デバイスを所定の位置に搬送又は配置する各種の付随設備も用いられる。
【0081】
さらに、半導体デバイスを治具で保持した状態で行う工程として、例えば回路露光工程、レジスト塗布工程、イオン注入などの工程が挙げられる。これらの工程は半導体デバイス搬送工程間に設けられるプロセスであり、半導体製造時には各種の工程で半導体デバイスをアームやピックアップノズル等の各種治具により所定の位置に保持した状態で行われる工程がある。なお、このような工程で半導体デバイスを保持する治具は例えばワークホルダーと称されることもある。
【0082】
これらの治具(アーム、ピックアップノズル、ワークホルダー等)と半導体デバイスとの接触面に、上記静電気保護被膜が設けられる。これらの治具は導電体(金属製(超硬合金製含む))製のもの、絶縁体(セラミックス、樹脂又はゴム)製のもの等、各種の材質からなる。また、当該治具の把持面等に上記ゴム製吸着パッド等の絶縁体を備える場合もある。いずれの場合であっても、すなわち、治具の表面がどのような材質であっても上記静電気保護被膜を設けることができる。なお、ここでは搬送アームやピックアップノズル等の治具を備え、当該治具により半導体デバイスを所定の位置で保持又は搬送する各種装置を半導体ハンドリング装置等と称するものとする。
【0083】
また、当該治具の半導体デバイスとの接触面と静電気保護被膜との間に密着層が設けられていてもよい。密着層は上記と同様のものを設けることができるため、ここでは説明を省略する。
【0084】
半導体ハンドリング装置等において、治具等の半導体との接触面に本件発明に係る静電気保護被膜が設けることで、次のような効果が得られる。まず、当該静電気保護被膜の表面抵抗は上記したとおりであり、摩擦係数も低いため、半導体デバイスと治具の接触面とが接触、摺動、接触状態の解除等されたときに、静電気が発生するのを抑制することができる。また、当該静電気保護被膜は、硬度が高く、摩擦・摩耗特性に優れている。そのため、治具と半導体デバイスとが摺動したときも、摩耗粉の発生を防止し、半導体集積回路を製造する際の回路パターン露光時において、塵埃に起因する回路パターンの露光不良等を抑制することができる。特に、治具の表面がゴム等の摩耗しやすい材料からなる場合、当該静電気保護被膜を設けることで、治具の表面の摩耗を抑制することができる。また、半導体デバイス又は治具が静電気を帯びたときも、静電気保護被膜により静電気の電荷を緩やかに散逸することができるため、静電気放電に伴いサージ電圧が生じるのを抑制し、静電気放電に伴う半導体の損傷を抑制することができる。また、静電気放電に伴う電磁波の発生を抑制し、半導体製造装置等の誤動作を防止することができる。これらのことから、半導体製造時における歩留まりを向上することができる。また、タクトタイムに応じて、上記sp3構造の炭素含有割合、水素含有量、添加元素の種類、添加量、中間層等を適宜調整することで、静電気保護被膜の表面電荷の半減期を調整することにより、次工程に半導体が搬送されるまでの間に静電気を緩やかに放電させつつ、半導体に静電気の電荷が蓄積されないようにすることができる。
【0085】
従来、ゴム製品のESD対策として、カーボンブラック等の導電性フィラーをゴム製品に添加してゴム製品に導電性を付与することが行われてきた。しかしながら、このような方法では、上述したように、ゴム製品の機械特性(例えば、弾性率、引っ張り強さ、硬度等)を劣化させる。これらのゴム製品に対しても本件発明に係る静電気保護被膜を好適に設けることができ、ゴム製品に当該静電気保護被膜を設けることでゴム製品の機械特性を変化させることなく上述の効果を得ることができる。すなわち、ゴム製品のESD対策を行うと共に、ゴム製品の表面に、半導体デバイスを把持した際に静電気を発生しにくくすることができ、静電気放電が生じた際にも半導体デバイスを保護することができる。さらに、摩耗粉の発生を抑制することができるため、摩耗粉に起因する上記不具合が生じるのを抑制することができる。
【0086】
また、例えば、導電性フィラーが添加されていないEPDM、NBRの引張強度はそれぞれ23MPa,28MPaである。これに対して導電性フィラーを添加することで導電性が付与されたEPDM、NBRの引張強度は、それぞれ11MPa、13MPaと低下する。一方、表面に当該静電気保護被膜を設けてもEPDM、NBRの引張強度は、それぞれ23MPa,28MPaであり、引張強度の低下は観察されなかった。なお、当該引張強度は、JIS K 6251:2017に規定される加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方に準拠して測定した値とする。このように本件発明に係る静電気保護被膜を設けた場合は、ゴム等の弾性を有する絶縁体についても材料自体の機械的強度が維持されることが確認された。
【0087】
なお、このピックアップ用ノズル、すなわち吸着パッド又は吸着コレットはゴム製のものの他、セラミック製、樹脂製、或いは金属製のものもある。これらゴム以外の材料から構成されたピックアップ用ノズルに対しても、その表面に本発明に係る静電気保護被膜を設けることによって、それらの材質に応じた上記効果が得られ、ESD対策及び耐摩耗性向上による製品の耐久性向上が可能となる。
【0088】
以下、本件発明に係る静電気保護被膜、及び、静電気保護部材について、実施例を挙げて説明するが、本件発明に係る静電気保護被膜、及び、静電気保護部材は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0089】
(1)静電気保護被膜の製造
実施例1では、水素とフッ素を含む炭素皮膜からなる静電気保護被膜をプラズマCVD法によりアルミナ製基材上に成膜した。具体的な手順は次のとおりである。まず、50mm×50mmの厚みが5mmの研磨されたアルミナ製基材(絶縁体)を用意し、アセトンとエタノールを用いてそれぞれ5分間超音波洗浄を行い、表面の脱脂及び洗浄を行った。このアルミナ製基材を高周波プラズマ蒸着装置のチャンバー内の所定の位置にセットした。そして、ターボモレキュラー真空ポンプでチャンバー内が4×10−
4paに到達するまで真空引きした。次いで、アルゴンガスをチャンバー内に60sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)導入し、高周波電圧を印加し、900W、20分間の条件でアルゴンボンバードを行い、アルミナ製基材の表面をドライ洗浄した。アルゴンボンバード後、チャンバー内にアセチレンを10sccm及びCF
4を3sccm導入し、高周波電圧を印加し、500W、30分間の条件でアルミナ製基材上に水素とフッ素を含み、膜厚が約120nmの炭素皮膜を成膜した。成膜中の基材温度は50℃であった。
【0090】
(2)sp3構造の炭素含有量
XPS法(X−ray Photoelectron Spectroscopy, EOL JPS−9010TR)により、真空度 10
−6Pa中、0.1eVの分解能でC1sのピーク付近(282〜289 eV)をナロースキャンし、sp3構造の炭素含有割合(sp3/(sp3+sp2))を測定した。その結果、当該炭素皮膜のsp3構造の炭素含有割合は約70%だった。また、ラマン分光法(Reinshaw inVia Reflex)によりレーザー波長532nmで、当該炭素皮膜におけるsp2構造の炭素を示すGバンド(Ig)と、格子欠陥等に由来するDバンド(Id)の比(Id/Ig)比を測定した。当該炭素皮膜におけるsp2構造の炭素を示すGバンド(Ig)と、格子欠陥等に由来するDバンド(Id)の比(Id/Ig)比は約1であった。
【0091】
(3)添加元素含有量
ERDA(Elastic Recoil Detection Analysis:弾性反跳粒子検出SSDH−2(加速器),RBS−400(測定器))により測定したところ、水素含有量は24atm%であった。また、EPMA (Electron Probe Micro Analyzer 波長分散型X線分析JXA−8100)により測定したところ、フッ素含有量は5atm%であった。
【0092】
(4)物性
i)電気特性
当該炭素皮膜の表面抵抗をJISK6911−1995に準拠して、JIS C 1302に準拠する絶縁抵抗計(Agilent Technologies社製の絶縁抵抗計4339B)を用いて測定したところ約10
11Ωであった。
【0093】
また、当該炭素皮膜の表面電荷の半減期を電荷減衰測定器(シシド静電気株式会社製帯電電荷減衰測定器ネオストメータH−0110−C)を用いて、コロナ帯電電圧10kV、放電時間30秒、放電距離15mm、電荷測定距離20mmの条件で炭素皮膜の表面を帯電させ、表面電位の変化を測定して、当該炭素皮膜の表面電荷の半減期は10.5秒であった(
図1参照)。
【0094】
さらに、アルミナ製基材に変えてアルミニウム製基材を用いたことを除いては上記と同様にして成膜した炭素皮膜を用い、当該炭素皮膜を電極で膜厚方向に挟み電圧を印加して電圧計で測定したところ、当該炭素皮膜の絶縁耐圧特性は50kV/mmであった。
【0095】
ii)機械特性
当該炭素皮膜の硬度をナノインデンター(Swiss CSM Instruments)により測定したところ、約25Gpaであった。
【0096】
当該炭素皮膜の摩擦係数を、アルミナボールを相手材とし、ボールオンディスク法により荷重9.8N、線速度100mm/secで測定したところ、0.22であった。
【実施例2】
【0097】
(1)静電気保護被膜の製造
実施例2では、実施例1と同じアルミナ製基材を用い、プラズマCVD法により、当該アルミナ製基材上に密着層を成膜した後、水素を含む炭素皮膜からなる静電気保護被膜を成膜した。具体的な手順は次のとおりである。
【0098】
まず、実施例1と同様にして、アルミナ製基材の脱脂、洗浄、ドライ洗浄を行った。アルゴンボンバードによりアルミナ製基材をドライ洗浄した後、当該アルミナ製基材上に静電気保護被膜を成膜する前に、チャンバー内にHMDSOガスを50sccm導入し、高周波電圧を印加し、900W、10分間の条件で、有機ケイ素化合物膜からなる密着層を約0.3μmの厚さで成膜した。その後、アセチレンを10sccm、チャンバー内に導入し、高周波電圧を印加し、500W、10分間の条件でアルミナ製基材上に密着層を介して約50nmの厚さの炭素皮膜を成膜した。成膜中の基材温度は40℃であった。
【0099】
(2)sp3構造の炭素含有量
実施例1と同様にして、XPS法により、当該炭素皮膜の炭素含有割合(sp3/(sp3+sp2))を測定したところ、当該炭素皮膜のsp3構造の炭素含有割合は約50%だった。また、実施例1と同様にして、ラマン分光法により、当該炭素皮膜におけるsp2構造の炭素を示すGバンド(Ig)と、格子欠陥等に由来するDバンド(Id)の比(Id/Ig)比は約1.4であった。
【0100】
(3)添加元素含有量
実施例1と同様にして測定したところ、水素含有量は29atm%であった。
【0101】
(4)物性
i)電気特性
実施例1と同様にして当該炭素皮膜の表面抵抗を測定したところ、当該炭素皮膜の表面抵抗は約10
8Ωであった。また、実施例1と同様にして、当該炭素皮膜の表面電荷の半減期を測定したところ、1.5秒であった(
図1参照)。さらに、実施例1と同様にアルミニウム製基材上に当該炭素皮膜を成膜して、絶縁耐圧を測定したところ、当該炭素皮膜の絶縁耐圧特性は33kV/mmであった。
【0102】
ii)機械特性
実施例1と同様に当該炭素皮膜の硬度を測定したところ、当該炭素皮膜の硬度は約19Gpaであった。また、実施例1と同様に当該炭素皮膜の摩擦係数を測定したところ、当該炭素皮膜の摩擦係数は0.16であった。
【実施例3】
【0103】
(1)静電気保護被膜の製造
実施例3では、実施例1と同じアルミナ製基材を用い、当該アルミナ製基材上に、イオンビーム法により、水素と、アルミニウムとを含む炭素皮膜からなる静電気保護被膜を成膜した。具体的な手順は次のとおりである。
【0104】
まず、実施例1と同様にして、アルミナ製基材の脱脂、洗浄、ドライ洗浄を行った。アルゴンボンバードによりアルミナ製基材をドライ洗浄した後、イオン化ビームガン内にベンゼン10sccmを導入し、ベンゼンをイオン化ガスにした後、アルミナ製基材にバイアス電圧を200V、90分間印加し、当該アルミナ製基材上に炭素皮膜を成膜した。その際、アルミニウムターゲットのガスボンバードを行い、炭素皮膜にアルミニウム元素を添加した。当該炭素皮膜の膜厚は約2μmであり、成膜中の基材温度は80℃であった。
【0105】
(2)sp3構造の炭素含有量
実施例1と同様にして、XPS法により、当該炭素皮膜の炭素含有割合(sp3/(sp3+sp2))を測定したところ、当該炭素皮膜のsp3構造の炭素含有割合は約40%だった。また、実施例1と同様にして、ラマン分光法により、当該炭素皮膜におけるsp2構造の炭素を示すGバンド(Ig)と、格子欠陥等に由来するDバンド(Id)の比(Id/Ig)比は約2であった。
【0106】
(3)添加元素含有量
実施例1と同様にして測定したところ、水素含有量は32atm%であった。また、アルミニウム含有量は7atm%であった。
【0107】
(4)物性
i)電気特性
実施例1と同様にして当該炭素皮膜の表面抵抗を測定したところ、当該炭素皮膜の表面抵抗は約10
7Ωであった。また、実施例1と同様にして、当該炭素皮膜の表面電荷の半減期を測定したところ、0.2秒であった(
図1参照)。さらに、実施例1と同様にアルミニウム製基材上に当該炭素皮膜を成膜して、絶縁耐圧を測定したところ、当該炭素皮膜の絶縁耐圧特性は25kV/mmであった。
【0108】
ii)機械特性
実施例1と同様に当該炭素皮膜の硬度を測定したところ、当該炭素皮膜の硬度は約15Gpaであった。また、実施例1と同様に当該炭素皮膜の摩擦係数を測定したところ、当該炭素皮膜の摩擦係数は0.12であった。
【実施例4】
【0109】
(1)静電気保護被膜の製造
実施例4では、SUS304製基材(50mm×50mm×5mm)上にプラズマCVD法により、水素を含む炭素皮膜からなる静電気保護被膜を成膜した。具体的な手順は次のとおりである。
【0110】
まず、実施例1と同様にして、SUS304製基材の脱脂、洗浄、ドライ洗浄を行った。アルゴンボンバードによりSUS304製基材をドライ洗浄した後、アセチレンを10sccm、チャンバー内に導入し、高周波電圧を印加し、500W、40分間の条件でSUS304製基材上に密着層を介して約200nmの厚さの炭素皮膜を成膜した。成膜中の基材温度は50℃であった。
【0111】
(2)sp3構造の炭素含有量
実施例1と同様にして、XPS法により、当該炭素皮膜の炭素含有割合(sp3/(sp3+sp2))を測定したところ、当該炭素皮膜のsp3構造の炭素含有割合は約45%だった。また、実施例1と同様にして、ラマン分光法により、当該炭素皮膜におけるsp2構造の炭素を示すGバンド(Ig)と、格子欠陥等に由来するDバンド(Id)の比(Id/Ig)比は約1.7であった。
【0112】
(3)添加元素含有量
実施例1と同様にして測定したところ、水素含有量は28atm%であった。
【0113】
(4)物性
i)電気特性
実施例1と同様にして当該炭素皮膜の表面抵抗を測定したところ、当該炭素皮膜の表面抵抗は約10
8Ωであった。導電体製の基材表面に設けた当該炭素皮膜の半減期は短いため、実施例1〜実施例3と同じ方法で半減期を測定することは困難である。そのため、実施例4では、コロナ放電ガン(10kV)を試験片に対して炭素皮膜側から放射し、空中放電させた後、基材からアースに流れる電圧を高速オシロスコープで測定した(
図2(b)参照)。その結果、当該炭素皮膜の半減期は、10ナノ秒であった。また、このときのサージ電圧(ピーク値)は約400Vであった。さらに、SUS304製基板を用いたことを除いては、実施例1と同様にして絶縁耐圧を測定したところ、当該炭素皮膜の絶縁耐圧特性は31kV/mmであった。
【0114】
ii)機械特性
実施例1と同様に当該炭素皮膜の硬度を測定したところ、当該炭素皮膜の硬度は約17Gpaであった。また、実施例1と同様に当該炭素皮膜の摩擦係数を測定したところ、当該炭素皮膜の摩擦係数は0.15であった。
【0115】
[その他]
上記実施例3と同様にして、添加元素をAlではなく、Si、N、Ag、Ti、Cu、Ni、W、Ta、Mo、Zr、B、Fe、Ptに代えたことを除いては、実施例3と同様にして各添加元素を含む炭素皮膜を絶縁性基材(アルミナ製基材)上に成膜した。各炭素皮膜の物性を表1〜表3に示す。なお、表1〜表3において、耐圧(kV/mm)は絶縁耐圧特性を表し、抵抗は表面抵抗を表す。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
【0119】
[比較例1]
当該静電気保護被膜を絶縁体からなる基材表面に設けたことによる効果を検証するため、比較例1として、アルミナ製基材自体の表面抵抗及び表面電荷の半減期を測定した。アルミナ製基材は実施例1等で用いたアルミナ製基材と同じものとした。
【0120】
実施例1と同様にして、当該アルミナ製基材の表面抵抗を測定したところ、当該アルミナ製基材の表面抵抗は10
13Ωであった。また、ネオストメータを用いて、当該アルミナ製基材の表面電荷の半減期を測定したが、アルミナ製基材の帯電圧は変化しなかった(
図1参照)。つまり、絶縁体が静電気を帯びた場合、表面電荷は散逸せず、他の物体と接触等しない限り、表面に電荷が蓄積された状態が継続する。従って、当該比較例1と、上記実施例1〜実施例3とを対比すると、絶縁体からなる基材の表面に本件発明に係る静電気保護被膜を設けることにより、例えば、上記タクトタイム内に電荷を緩やかに散逸させることができ、その間に他の物体等と接触した場合も静電気放電時の最大電圧値や最大電流値を小さくすることができる。
【0121】
[比較例2]
当該静電気保護被膜を導電体からなる基材表面に設けたことによる効果を検証するため、比較例2として、SUS304製基材自体の表面抵抗及び表面電荷の半減期を測定した。SUS304製基材は実施例4で用いたSUS304製基材と同じものとした。
【0122】
実施例1と同様にして、当該SUS304製基材の表面抵抗を測定したところ、当該SUS304製基材の表面抵抗は7×10
−7Ωであった。また、実施例4と同様にして、当該SUS304製基材の半減期を測定したところ、当該SUS304製基材の半減期は2.5ナノ秒であった(
図2(a)参照)。
【0123】
図2(a)、(b)を参照すると、導電体からなる基材表面に本件発明に係る静電気保護被膜を設けることにより、半減期が2.5ナノ秒から10ナノ秒に変化し、静電気保護被膜がない場合と比較すると半減期が約4倍の長さになることが確認された。また、静電気保護被膜がない場合と比較すると、導電体からなる基材表面に本件発明に係る静電気保護被膜を設けることにより、サージ電圧の最大値を約1040Vから約400Vと1/2以下に低減することができることが確認された。従って、導電帯からなる基材の表面に本件発明に係る静電気保護被膜を設けることにより、静電気放電時の最大電圧値や最大電流値を小さくすることができ、静電気放電に伴う電子機器等の誤動作や損傷を抑制することができる。
【0124】
[比較例3]
当該静電気保護被膜を導電体からなる基材表面に設けたことによる効果を検証するため、比較例3として導電体からなる基材表面に、本件発明に係る静電気保護被膜に代えて、グラファイト被膜を設け、表面抵抗及び表面電荷の半減期を測定した。ここで、SUS304製基材は実施例4及び比較例2で用いたSUS304製基材と同じものとした。また、グラファイト被膜は、表面抵抗が3×10
3Ω、体積固有抵抗が1×10
5Ω・cmであり、sp3/(sp3+sp2)が20%以下のものを用いた。
【0125】
実施例4と同様にして、当該SUS304製基材上のグラファイト被膜の半減期を測定したところ、当該グラファイト被膜の半減期は3ナノ秒であった(
図3参照)。また、サージ電圧の最大値は約950Vであった。
【0126】
導電体からなる基材(SUS304製基材)表面に、本件発明に係る静電気保護被膜よりも表面抵抗が小さい導電性の炭素皮膜を設けても半減期は3ナノ秒と、当該基材表面に炭素皮膜がない場合(比較例2、
図2(a)参照)の半減期(2.5ナノ秒)とほとんど変化せず、半減期を長くする効果は得られないことが確認された。また、導電体からなる基材(SUS304製基材)表面に、本件発明に係る静電気保護被膜よりも表面抵抗が小さい導電性の炭素皮膜を設けてもサージ電圧の最大値は約950Vであり、当該基材表面に炭素皮膜がない場合(比較例2、
図2(a)参照)の値(約1040V)を9/10程度にしか低減できず、グラファイト被膜ではサージ電圧の最大値を低減させる効果は小さいことが確認された。
【実施例5】
【0127】
実施例5では、ダイボンディング装置のピックアップノズルに装着されるNBR製のダイアタッチ用ゴムコレット(非導電性、カーボンフィラー等の導電性フィラー無含有)を基材とし、その表面に実施例2と同様にして水素を含む炭素皮膜からなる厚さが500nmの静電気保護被膜を成膜した。当該静電気保護被膜を成膜したダイアタッチ用ゴムコレットをピックアップノズルに装着し、30000回運転を行ったが、静電気放電等はみられず、静電気放電に伴う半導体デバイスの損傷は一切起こらなかった。また、半導体デバイスの表面に吸着時の圧接痕も生じなかった。
【0128】
ダイボンディング装置のピックアップノズルに通常装着されているNBR製のダイアタッチ用ゴムコレットは、導電性フィラー添加による導電性処理が施されている。そのようなNBR製のダイアタッチ用ゴムコレット(例えば、RSEMICON Technology製RRタイプ)を用いて運転を行った場合、装着箇所1カ所につき1回/月程度の交換頻度でダイアタッチ用ゴムコレットを交換する必要がある。一方、本件発明に係る静電気保護被膜を備えたダイアタッチ用ゴムコレットを用いた場合、同じ条件でダイボンディング装置を運転させたとき装着箇所1カ所につき4倍〜5倍長く用いることができ、交換頻度を大きく低減することができた。
【課題】本件発明の課題は静電気が発生しにくく、静電気放電が生じた際にも保護対象物を静電気放電から保護することのできる静電気保護被膜、物品ハンドリング装置及び静電気保護部材を提供することにある。
Ω以下であり、且つ、表面電荷の半減期が10ナノ秒以上60秒以下の炭素皮膜により構成する。また、当該炭素皮膜からなる静電気保護被膜を備えた物品ハンドリング装置及び静電気保護部材とする。