【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を踏まえて鋭意検討した結果、式[2]:
【0010】
【化1】
【0011】
[式中、Phはフェニル基を表す。]
で表されるルテニウム錯体(以下、本明細書で「Ru−SNS」と書くことがある。)が、一般式[1]:
【0012】
【化2】
【0013】
[式中、R
1はアルキル基または置換アルキル基を表す。]
で表されるα,α−ジフルオロ酢酸エステル類の還元において、高い変換率のみならず、該エステル類の過剰還元によるβ,β−ジフルオロエタノール(詳細は後述する)の副生を抑制した高い選択率をも可能にし、極めて無駄の少ない工業的製造方法を提供できる非常に有効な水素化触媒または前駆体になる事を見出した。
【0014】
本発明と特許文献1に記載の方法との明確な違いは、反応変換率と選択率の両方を良好な結果で得られる事にある。特許文献1に記載の方法では、α,α−ジフルオロアセトアルデヒド(詳細は後述する)とβ,β−ジフルオロエタノールの選択率が92:8の場合、反応変換率は28%であり、α,α−ジフルオロアセトアルデヒドとβ,β-ジフルオロエタノールの選択率が66:34の場合、反応変換率は94%であった。α,α−ジフルオロアセトアルデヒドを得る事が出来るが、20〜60%程度の収率であった(比較例1、比較例4)。
【0015】
これに対して、本発明では、特定の反応条件(特に触媒、塩基、反応温度および水素圧力等)を採用することにより、変換率が80%以上であって、α,α−ジフルオロアセトアルデヒドと副生するβ,β−ジフルオロエタノールの選択率がそれぞれ90%以上、10%以下(条件により変換率が100%で、α,α−ジフルオロアセトアルデヒドの選択率が100%となる)という、極めて良好な条件で目的物であるα,α−ジフルオロアセトアルデヒドを製造出来る知見を得、本発明を完成した。
【0016】
本発明の製造方法は、工業的な実施が困難なヒドリド還元方法の代替になり得るものであり、また、本発明の水素化反応は、基質/触媒比が高く、また、反応後は主として蒸留操作により簡便に目的生成物を得ることができる。
さらに、反応の変換率と選択率が共に高いため、出発原料の回収や副生するβ,β−ジフルオロエタノールの分離といった精製の負荷を軽減することも可能である。
従来技術の課題を解決できるα,α−ジフルオロアセトアルデヒドの工業的な製造方法を提供することができる点で、本発明の優位性は非常に高いものである。
【0017】
すなわち本発明は[発明1]〜[発明5]を含む、α,α−ジフルオロアセトアルデヒド類の製造方法を提供する。
[発明1]
式[1]で表されるα,α−ジフルオロ酢酸エステル類を、式[2]で表されるルテニウム錯体および塩基の存在下、水素(H
2)と反応させ、式[3]:
【0018】
【化3】
【0019】
で表されるα,α−ジフルオロアセトアルデヒド、または一般式[4]:
【0020】
【化4】
【0021】
[式中、R
2は一般式[1]のR
1と同じ。]
で表されるα,α−ジフルオロアセトアルデヒドアルキルヘミアセタールを製造する方法において、
塩基としてアルカリ金属アルコキシドを用い、該アルカリ金属アルコキシドの使用量をα,α−ジフルオロ酢酸エステル類1モルに対して0.001モル以上、
水素圧を1.0MPa〜10MPa(絶対圧)とし、
該反応におけるα,α−ジフルオロ酢酸エステル類の変換率を80%以上で、
かつ、
α,α−ジフルオロ酢酸エステル類から生成するα,α−ジフルオロアセトアルデヒドまたはα,α−ジフルオロアセトアルデヒドアルキルヘミアセタールと、
副生するβ,β−ジフルオロエタノールとの選択率が、α,α−ジフルオロアセトアルデヒドまたはα,α−ジフルオロアセトアルデヒドアルキルヘミアセタール:β,β−ジフルオロエタノール=90%以上:10%以下となるように反応させることを特徴とする、α,α−ジフルオロアセトアルデヒドまたはα,α−ジフルオロアセトアルデヒドアルキルヘミアセタールの製造方法。
[発明2]
アルカリ金属アルコキシドが、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、リチウムイソプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、リチウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシドまたはカリウムtert−ブトキシドである、発明1に記載の製造方法。
[発明3]
アルカリ金属アルコキシドが、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシドまたはカリウムエトキシドである、発明1または2に記載の製造方法。
【0022】
[発明4]
α,α−ジフルオロ酢酸エチルを、式[2]で表されるルテニウム錯体および塩基の存在下、水素(H
2)と反応させ、α,α−ジフルオロアセトアルデヒドまたはα,α−ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールを製造する方法において、
塩基としてナトリウムエトキシドを用い、該エトキシドの使用量をα,α−ジフルオロ酢酸エチル1モルに対して0.01〜5.0モル、
水素圧を2.0MPa〜6.0MPa(絶対圧)とし、
該反応におけるα,α−ジフルオロ酢酸エチルの変換率を90%以上で、
かつ、
α,α−ジフルオロ酢酸エチルから生成するα,α−ジフルオロアセトアルデヒドまたはα,α−ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールと、
副生するβ,β−ジフルオロエタノールとの選択率を、α,α−ジフルオロアセトアルデヒドまたはα,α−ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタール:β,β−ジフルオロエタノール=93%以上:7%以下となるように反応させることを特徴とする、α,α−ジフルオロアセトアルデヒドまたはα,α−ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールの製造方法。
[発明5]
反応を、アルコール類の溶媒を用い、かつ、反応温度を30℃以下で行うことを特徴とする、発明1乃至4の何れかに記載の製造方法。