(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について、
図1および
図1のA−A’線矢視断面図である
図2を用いて説明する。生体用電極10は、人間、動物等の生物(被測定者)における生体電位に関する電気信号(生体電位信号)の測定に使用する電極であり、例えば、心電計、脳波測定装置、または筋電位測定装置といった生体電位信号測定装置(外部信号処理装置)に使用される。そして、この生体用電極10は、粘着シート11、検知電極12、取出端子[取出部]13、および補強シート14を含む。
【0011】
被測定者に貼り付けるため粘着シート11は、被測定者側の外表面(例えば皮膚)に貼り付く貼付面(外側面)11Tと、その面の反対面である内側面11Nとを有する。そして、検知電極12は、粘着シート11の内側面11Nに配置される。すなわち、検知電極12は、皮膚に直接接触しない。
【0012】
[粘着シート]
このような粘着シート11と検知電極12との積層順は、粘着シート11が30以上80以下の比誘電率、好ましくは40以上60以下の比誘電率を有することに起因する。この数値範囲の比誘電率を有する粘着シート11は、例えば、人間の外表面である皮膚、詳説すると、表皮または真皮の比誘電率(比誘電率50程度)に近い値を有する。そのため、この粘着シート11が、生体電位信号の測定上、擬似的に皮膚と同じように取り扱える。
【0013】
そのため、検知電極12は、皮膚に直接接しなくてもよく、その結果、検知電極12と皮膚との直接接触に起因する、皮膚かぶれ等が抑止される。また、粘着シート11は、ゲル状物と違って、厚みのあるシートであることから、高い耐久性を有する。そのため、この生体用電極10は、数時間から数日間にわたる長時間な連続的な使用にも問題はない。
【0014】
ここで、粘着シート11について説明する。粘着シート11の比誘電率は、誘電率材料を添加することで調整される。このような誘電率材料としては、例えば、水、特に生理的食塩水(0.9重量%塩化ナトリウム水溶液;比誘電率約80)が挙げられる。このような生理的食塩水は、人間の体液とほぼ等張であるため、粘着シート11の比誘電率を皮膚の比誘電率に容易に近づけられる。
【0015】
なお、生理的食塩水等の液状の誘電率材料の粘着シート11への添加の仕方は、特に限定されるものではないが、例えば浸漬が挙げられる。例えば、粘着シート11の構成材料の1つに熱硬化性樹脂が含まれていると、構成材料がシート状に至るまでの製造過程で、熱を加えられる工程(例えば、熱硬化工程)が含まれる。この場合、構成材料がシート状に形成された後、そのシートが生理的食塩水に浸される。
【0016】
このような浸漬を用いた製造であれば、熱を加えられる工程において、生理的食塩水の蒸発が抑制される。また、粘着シート11の構成材料を熱硬化させるような場合、熱硬化工程にて、生理的食塩水がその構成材料に含まれないので、生理的食塩水に起因する硬化阻害または気泡発生が起きない。したがって、適切に生理的食塩水を含んで所望の比誘電率に調整された上、粘着シート11の剥離特性等の物理的特性を高品質に維持した生体用電極10が製造される。
【0017】
また、誘電率材料の別例としては、単体としての固有の比誘電率で50以上を有する固体材料、例えば、ルチル型酸化チタン(比誘電率約86)、ニオブ酸リチウム(比誘電率約82)、ペロブスカイト型化合物(比誘電率約60以上)、または、リン酸化合物(比誘電率約50以上)が挙げられる。
【0018】
このような固体材料の添加剤であると、生体用電極10が長時間使用されたとしても、添加剤が揮発しないため、生体用電極10の比誘電率の低下は起きず、長時間にわたって連続的に使用できる。また、これら誘電率材料は、50以上の比誘電率を有するので、これらが添加されると、容易に、表皮または真皮の比誘電率50程度を有する粘着シート11が製造される。
【0019】
なお、固体材料の誘電率材料の粘着シート11への添加の仕方は、特に限定されるものではない。例えば、シート状になった粘着シート11に対して添加してもよいし、シート状になる前段階の構成材料に対して、固体材料を添加させて混練させてもよい。
【0020】
ただし、固体材料の粒径は、粘着シート11の厚み以下であると好ましい。粒径が粘着シート11の厚みを超えると、粘着シート11の面に固体材料が露出しやすくなり、それによって、粘着シート11の粘着力の低下、または、粘着シート11の加工性の低下が起きやすい。しかしながら、粒径が粘着シート11の厚み以下であれば、このような不具合は防止される。
【0021】
なお、粘着シート11の厚みは、20μm以上250μm以下であると好ましく、25μm以上180μm以下であるとより好ましく、30μm以上100μm以下であるとさらにより好ましい。
【0022】
粘着シート11の厚みが20μm未満であると、薄すぎることにより、その粘着シート11の取り扱いが困難になる。一方で、粘着シート11の厚みが250μmを超えると、厚すぎることにより、粘着シート11を擬似的に皮膚と同じように取り扱えなくなる。すなわち、生体電位信号を検知電極12で検知したい生体電位信号が粘着シート11により遮断される。そのため、前記範囲の厚みを有する粘着シート11であると、生体用電極補は、取り扱い容易で、検知精度も高くなる。
【0023】
また、粘着シート11は、1,000g/m
2/day以上の水蒸気透過率を有すると好ましく、1,500g/m
2/day以上がさらに好ましい。粘着シート11は、皮膚に直接密着するものである。そのため、前記範囲の水蒸気透過率を有する粘着シート11であると、生体用電極10が長時間皮膚に密着したとしても、被測定者の皮膚は蒸れない。
【0024】
また、粘着シート11は、皮膚への刺激および角質損傷を抑えられ、良好な皮膚への接着性を有するとともに、被測定者の動きに対して追従性を有するとよい。なぜなら、被測定者の日常運動の中でも測定されることがあるためである。また、数時間から数日間にわたる連続測定もあり得ることから、入浴等の大量の水に対する材料の耐久性、または、粘着性の維持も担保されるとよい。
【0025】
そのような粘着シート11の一例としては、シリコーン変成ポリエーテルを主成分として形成される粘着シート11が挙げられる(なお、主成分とは、粘着シート11の材料比のうち50%以上の成分をいう)。以下、この粘着シート11について詳説する。
【0026】
このような粘着シート11は、重合体(A)、化合物(B)、および、触媒(C)を含有する粘着剤組成物を硬化して形成される。
【0027】
重合体(A)は、末端に少なくとも1個のアルケニル基を有するポリエーテル系重合体である。アルケニル基とは、ヒドロシリル化反応に対して活性のある炭素−炭素二重結合を含む基であれば特に制限されるものではない。アルケニル基としては、炭素数が好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜4個の脂肪族不飽和炭化水素基(例:ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等)、炭素数が好ましくは3〜20個、より好ましくは3〜6個の環式不飽和炭化水素基(例:シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等)、メタクリル基等が挙げられる。
【0028】
合成反応上、容易に行える点から、好ましいアルケニル基には、以下の(1)、(2)が挙げられる。下記式において、R1は水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であり、好ましくは水素原子またはメチル基である。
(1)H
2C=C(R
1)−
(2)HC(R
1)=CH−
【0029】
重合体(A)は、1分子中に平均して少なくとも1個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個のアルケニル基を有する。重合体(A)1分子中のアルケニル基の数が平均して1個未満では硬化性が不十分になり、また1分子中に含まれるアルケニル基の数が多すぎると網目構造が密になるため、粘着特性が低下する傾向にある。
【0030】
重合体(A)の基本骨格たるポリエーテル系重合体の典型例としては、一般式(−R
2−O−)で表される繰り返し単位からなるポリオキシアルキレン系重合体が挙げられる。ここで、−R
2−は、2価のアルキレン基である。入手上、作業性の点から、好ましい重合体(A)の主鎖はポリオキシプロピレンである(すなわち、前記−R
2−が−CH
2CH(CH
3)−である)。前記ポリエーテル系重合体は、1種類の繰り返し単位からなるものであっても、複数の繰り返し単位からなるものであってもよい。前記ポリエーテル系重合体は、直鎖状の重合体であってもよいし、分岐を有する重合体であってもよい。
【0031】
重合体(A)のアルケニル基以外の部分はすべてポリエーテル骨格からなることが好ましいが、それ以外の構造単位を含んでいてもよい。その場合、重合体(A)に占めるポリエーテル骨格の総和は好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。
【0032】
また、室温での作業性がよく、良好な粘着特性が得られる点から、重合体(A)の分子量は、数平均で3000〜50000が好ましく、6000〜50000がより好ましく、10000〜30000が特に好ましい。数平均分子量が3000未満のものでは、得られる硬化物が脆くなる傾向があり、逆に数平均分子量が50000を超えると、高粘度になって作業性が低下する傾向にある。なお、前記分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーで測定されるポリスチレン換算数平均分子量である。
【0033】
また、アルケニル基のポリエーテル系重合体への結合様式は特に限定はなく、アルケニル基の直接結合、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、ウレア結合等が例示される。
【0034】
また、重合体(A)の製造方法は特に限定なく、例えば、ポリエーテル系重合体を得た後にアルケニル基を導入する方法が例示される。この場合、ポリエーテル系重合体は種々の公知の製造法を適用することができ、さらに市販のポリエーテル系重合体を用いてもよい。
【0035】
また、ポリエーテル系重合体にアルケニル基を導入する方法もまた公知である。例えば、アルケニル基を有するモノマー(例:アリルグリシジルエーテル)とポリエーテル系重合体を合成するためのモノマーとを共重合させる方法、または、官能基(例:水酸基、アルコキシド基)を所望の部分(主鎖の末端等)に予め導入しておいたポリエーテル系重合体に、当該官能基に対して反応性を有する官能基とアルケニル基とを両方有する化合物(例:アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、アクリル酸クロライド等)を反応させる方法等が挙げられる。
【0036】
次に、化合物(B)について説明する。化合物(B)は、分子中に1〜10個のヒドロシリル基を有する化合物である。ヒドロシリル基とはSi−H結合を有する基を意味する。本明細書においては、同一ケイ素原子(Si)に水素原子(H)が2個結合している場合は、ヒドロシリル基2個と計算する。化合物(B)の、ヒドロシリル基以外の化学構造は特に限定はない。滴定によって得られるSiH基価から算出される化合物(B)の数平均分子量は、好ましくは400〜3000であり、より好ましくは500〜1000である。数平均分子量が低すぎると加熱硬化時に揮発し易く、十分な硬化物が得られ難い傾向にあり、高すぎると硬化速度が遅くなる傾向にあるためである。
【0037】
化合物(B)一分子に含まれるヒドロシリル基の個数は、1〜10個であり、好ましくは2〜8個である。ヒドロシリル基が2個以上であれば、硬化の際に複数の重合体(A)分子を架橋することができ、粘着シート11として好ましい凝集力を発現し、皮膚へ貼付して剥離した時に糊残り等が起こり難くなる。
【0038】
ただし、ヒドロシリル基の数が多すぎると、架橋が密になりすぎて、粘着シート11として皮膚粘着力、タック感等の粘着物性が低下しやすく、さらには化合物(B)の安定性が悪くなり、そのうえ硬化後も多量のヒドロシリル基が硬化物中に残存し、皮膚刺激またはボイドの原因となりやすい。
【0039】
なお、架橋の粗密は、重合体(A)の主鎖たるポリエーテル部同士間の粗密に影響し、さらには粘着シート11全体の透湿性にも影響を及ぼす。よって、粘着特性とのバランスを考慮して化合物(B)のヒドロシリル基の数を選択すべきである。なお、化合物(B)は単独で用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。また、化合物(B)は、重合体(A)と良好に相溶するものが好ましい。
【0040】
原材料の入手のし易さ、または、重合体(A)への相溶性の面から、好適な化合物(B)として、有機基で変性されたオルガノハイドロジェンシロキサンが例示される。オルガノハイドロジェンシロキサンの典型例は、下記(3)で表される化合物である。
【0042】
前記(3)のaの値が分子中のヒドロシリル基の数の数と一致する。a+bの値は特に限定はないが好ましくは2〜50である。Rは主鎖の炭素数が2〜20の炭化水素基である。
【0043】
前記(3)の化合物は、未変性のメチルハイドロジェンシリコーンを変性してRを導入することにより得ることができる。未変性のメチルハイドロジェンシリコーンとは、前記(3)においてRが全てHである化合物に相当し、株式会社シーエムシー発行(1990.1.31)の「シリコーンの市場展望−メーカー戦略と応用展開−」にも記載されているように、各種変性シリコーンの原料として用いられている。Rの導入のための有機化合物としては、α−オレフィン、スチレン、α−メチルスチレン、アリルアルキルエーテル、アリルアルキルエステル、アリルフェニルエーテル、アリルフェニルエステル等が挙げられる。変性のために加える上述の有機化合物の量によって、変性後の分子中のヒドロシリル基の数を調節することができる。
【0044】
なお、粘着シート11を形成するための粘着剤組成物における重合体(A)と化合物(B)との量の比は、重合体(A)に由来するアルケニル基の総量に対する、化合物(B)に由来するヒドロシリル基の総量によって表現される。粘着剤組成物中のアルケニル基の総量1モルあたりのヒドロシリル基の総量の大小によって、硬化後の架橋密度の高低がきまる。適度な粘着性付与と糊残りの減少等とのバランスを考慮すると、アルケニル基の総量1モルあたりのヒドロシリル基の総量は、好ましくは0.3〜0.8モルであり、より好ましくは0.4〜0.7モルである。
【0045】
次に、触媒(C)について説明する。触媒(C)であるヒドロシリル化触媒としては特に限定されず、ヒドロシリル化反応を促進するものであれば任意のものを使用できる。具体的には、塩化白金酸、白金−ビニルシロキサン錯体{例えば、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3,−テトラメチルジシロキサン錯体や白金−1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン錯体)、白金−オレフィン錯体(例えば、Pt
x(ViMe
2SiOSiMe
2Vi)
y、Pt[(MeViSiO)
4]
z (但し、x、y、zは正の整数を示す))等が例示される。
【0046】
これらのうちでも、触媒の活性の点からは、強酸の共役塩基を配位子として含まない白金錯体触媒が好ましく、白金−ビニルシロキサン錯体がより好ましく、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3,−テトラメチルジシロキサン錯体または白金−1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン錯体が特に好ましい。
【0047】
触媒(C)の量は特に制限はないが、重合体(A)によるアルケニル基の総量1モルに対して、好ましくは10
−8〜10
−1モルであり、より好ましくは10
−6〜10
−3モルである。前記範囲内であれば、適切な硬化速度、安定な硬化性、必要なポットライフの確保等が達成し易くなる。
【0048】
なお、粘着シート11の形成のための粘着剤組成物には、前記(A)〜(C)の以外の成分を含んでいてもよい。それらの成分としては、粘着付与剤、接着付与剤、化合物(B)のための貯蔵安定剤、さらにその他の成分が挙げられる。
【0049】
[検知電極]
検知電極12は、被測定者からの生体電位信号を検知する。生体電位信号は微弱な電気信号であるため、検知電極12は、高い導電性を要し、主成分として、金属または金属ペーストを用いる。なお、金属としては、金、銀、銅、または、アルミニウム等が挙げられ、金属ペーストとしては、銀ペーストまたは銅ペースト等が挙げられる。
【0050】
また、検知電極12の形状は、特に限定されるものではなく、検知した生体電位信号を取出端子13に対して電気的に伝達できる形状であればよく、例えば、金属膜、または、メッシュ状若しくはストライプ状等の金属細線の集合パターン(例えば、金属層で形成されるパターン)が挙げられる。
【0051】
また、検知電極12の形成方法も特に限定されるものではない。例えば、材料が金属の場合、金属箔の貼合(例えば、金属膜の転写)またはスパッタリング・蒸着等の真空堆積が挙げられ、材料が金属ペーストの場合、スクリーン印刷またはインクジェット・ディスペンサーによる描画(すなわち、金属ペーストの吐出付着)等のプリンテッドエレクトロニクス技術によって、30以上80以下の比誘電率を有する、粘着シートに対して、検知電極12が形成されても構わない。
【0052】
[取出端子]
取出端子13は、検知電極12によって検知された生体電位信号を、生体電位信号測定装置(不図示)に対して電気的に送信させる。すなわち、取出端子13は、生体用電極10と生体電位信号測定装置との間を電気的に接続する電子部品である。
【0053】
取出端子13は、形状または電送方式等は特に限定されない。例えば、
図1および
図2に示される取出端子13は、帯状で、生体電位信号測定装置に物理的にも電気的にも接続されている。そして、この取出端子13は、帯状の表裏面のうちの一方面である裏面13Nを、粘着シート11における検知電極12の配置面に覆わせることで、検知電極12と電気的に接続し、その検知電極12の検知した生体電位信号を生体電位信号測定装置に送信する(なお、取出端子13において、検知電極12に電気的に接続する面である裏面13Nを電気的接続面13Nと称する)。
【0054】
このような生体用電極10であると、生体電位信号測定装置に対して、確実に生体電位信号を送信する。
【0055】
また、別例としては、
図3および
図4(
図3のB−B’線矢視断面図)に示される取出端子13は、円状の板(円盤状、タブレット状)で、生体電位信号測定装置に物理的には接続されないものの、無線を通じて電気的に接続されている。そして、この取出端子13は、板状の表裏面のうちの一方面である裏面(電気的接続面)13Nを、粘着シートにおける検知電極12の配置面に覆わせることで、検知電極12と電気的に接続し、その検知電極の検知した生体電位信号を生体電位信号測定装置に送信する。
【0056】
このような生体用電極10は、小型化するだけでなく、いわゆるテレメトリー式になるため、生体電位信号測定装置に対して物理的なつながりを有さず、容易に取り扱える。
【0057】
[補強シート]
補強シート14は、粘着シート11上の検知電極12を保護するとともに、柔軟で撓みやすい粘着シート11を補強する。そのために、補強シート14は、一定以上の強度を有する材料で形成され、粘着シート11の検知電極12の配置面を覆う。その上、補強シート14は、検知電極12を覆うとともに、取出端子13の表出面の一部を覆う。
【0058】
例えば、
図1および
図2の生体用電極10の場合、補強シート14は、粘着シート11の検知電極12の配置面(内側面)11Nを覆うとともに、その配置面11N上における帯状取出端子13の電気的接続面13Nの反対面(表面)13Tを覆う。このようになっていると、補強シート14は、粘着シート11上の検知電極12を保護するとともに、粘着シート11で取出端子13の両面13N・13Tを挟み込む。そのため、取出端子13が生体用電極10から脱落しにくくなる。
【0059】
また、
図3および
図4の生体用電極10の場合、補強シート14は、粘着シート11の検知電極12の配置面11Nを覆うとともに、その配置面11N上における円盤状取出端子13の電気的接続面13Nに対して立ち上がる側面13Sを覆う。このようになっていると、補強シート14は、粘着シート11上の検知電極12を保護するとともに、取出端子13の外周面(側面13S)を挟み込む。そのため、取出端子13が生体用電極10から脱落しにくくなる。
【0060】
なお、補強シート14の材料は、特に限定されるものではなく、粘着シート11上の検知電極12を保護するとともに、粘着シート11の強度を補強できればよい。したがって、補強シート14は、布類または紙類のような高い柔軟性を有しつつ、皮膚を傷つけないような材料であってもよいし、軽量で成型容易な樹脂材料、例えば、硬質樹脂材料であってもよいし、被測定者の形に対してフィットし易い軟質樹脂材料であってもよい。
【0061】
例えば、硬質樹脂材料の場合、硬質プラスチックが挙げられる。また、軟質樹脂材料の場合、ポリエステル、ポリシクロオレフィン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、または、ポリウレタン、アクリル等の高分子化合物が挙げられる。
【0062】
なお、生体用電極10は、人間または動物等の生物である被測定者に対して使用されることから、通気性等を担保させるべく、補強シート14は、軟質な発泡体でもよい。このような発泡体の材料としては、ポリウレタンまたはアクリルポリマーが好適に使用される。なお、発泡体の構造は、連続気泡構造体であっても、単独気泡構造体であってもよい。
【0063】
なお、補強シート14の厚みは、生体電位信号の測定上、障害になるものではないので、電気的な測定の観点からも厚みの制約はないが、検知電極12を保護し、粘着シート11の柔軟性を補強する観点から、20μm以上500μm以下であると好ましい。また、例えば、
図3および
図4のように、取出端子13が、補強シート14の開孔周囲で挟み込まれるような場合、取出端子13に対する接触面積を増やして補強シート14への密着性を高める観点から、補強シート14の厚みは、150μm以上500μm以下であると好ましい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例(下記表1を参照)により具体的に説明するが、これらにより限定されるものではない。
[粘着シート用の樹脂組成物の作製方法]
以下の(A)〜(C)を混合し、減圧(10mmHg以下、10分間)脱泡し、組成物(以下、組成物Dと称する)を作製した。
【0065】
(A)アリル末端ポリオキシプロピレン:500g
(商品名カネカサイリルACS003、カネカ製)
(B)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン:33g
(商品名CR100、カネカ製)
(C)ビス(1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン)白金錯 体触媒(白金含有率3wt%、キシレン溶液):0.30g
【0066】
[生体用電極の製造]
<◆実施例1〜3>
剥離紙の上に、組成物Dを表1の厚みとなるようにバーコーターで塗工させ、120℃60分間熱処理させて、粘着シートを形成した。これにエポキシ樹脂をバインダーとする無溶剤型銀ペースト(株式会社スリーボンド製、商品名:TB3301)を、検知電極として、塗工させた。なお、塗工は、ディスペンサー(武蔵エンジニアリング製、機器名:ML−5000X)を用いており、検知電極の形状は、線幅50μm/厚み40μm/線間隔450μmとするメッシュ状とした。
【0067】
さらに、導電性粘着材を塗工されたアルミ箔(3M製、商品名:AL−25BT)を5×20mmの短冊状にして形成した取出端子を、検知電極に接触させるようにして、粘着シートに貼り合わせた。ただし、アルミ箔の全長方向における5mm分が粘着シートからはみ出すようにした。
【0068】
そして、アルミ箔を貼り付けられた粘着シートの検知電極配置面に、PETフィルム(東レ製、商品名:S10−125μm)を貼り合わせた後、剥離紙を剥がし、それを、生理食塩水(大塚製薬工場製、商品名:大塚生食注)に1分間浸漬させ、生体用電極を製造した。
【0069】
<◆実施例4>
組成物Dに、ルチル型酸化チタン粒子(石原産業製、商品名:TTO−55(A))を組成物D中の(A)に対して100重量部添加し、十分に撹拌および脱泡したものを用いた。その後、生理食塩水に浸漬する以外は実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
【0070】
<◆実施例5>
組成物Dに、ニオブ酸リチウム粒子(和光純薬製試薬)を、1次粒径が5μm以下となるように粉砕した後に、組成物D中の(A)に対して100重量部添加し、十分に撹拌および脱泡したものを用いた。その後、生理食塩水に浸漬する以外は実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
【0071】
<◇比較例1>
生理食塩水に浸漬しない点以外は、実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
【0072】
<◇比較例2>
粘着シートの厚みを500μmとした以外は、実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
【0073】
<◇比較例3>
組成物Dに炭酸カルシウム粒子(日東粉化工業製、商品名:NITOREX#23P)を、組成物D中の(A)に対して100重量部添加し、十分に撹拌および脱泡したものを用いた。その後、生理食塩水に浸漬する以外は実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
【0074】
<◇比較例4>
組成物Dにアルミニウム粒子(東洋アルミ製、商品名:TFS−A05P)を、組成物D中の(A)に対して100重量部添加し、十分に撹拌および脱泡したものを用いた。その後、生理食塩水に浸漬する以外は実施例1と同様にして、生体用電極を製造した。
【0075】
[生体電位信号検出電極の評価方法]
誘電率は、組成物Dを硬化・成形した後の状態で検知電極を付着させる前に測定した。測定はHP製インピーダンスアナライザー4192AにKeysight製誘電体測定用電極16451Bを取り付けて、1MHzの周波数で行った。
【0076】
[生体電位信号検出可否の評価]
評価は心電測定を採用した。心電測定用チップ(Analog Devices製、商品名:AD8232)を用いて、両腕・右足の3点測定を行った。実施例毎・比較例毎で、生体用電極を3つ使用した。信号は有線で取り出し、オシロスコープで波形を確認し、心電信号を表示したものについて○とし、それ以外を×とした。
【0077】
[耐久性の評価]
実施例に関しては、生体用電極を60℃/90%RHの環境試験機に100時間放置し、取り出した後に上記と同様の評価を行った。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1と比較例1とから、粘着シートの誘電率が、30以上80以下の比誘電率の範囲における所定値としていると、生体用電極として機能することがわかった。さらに、実施例1〜3と比較例2とから、比誘電率の範囲が前記の範囲であっても、粘着シートの厚みが20μm以上250μm以下の範囲外で厚くなってしまうと、誘電性よりも絶縁性の影響が大きくなり、生体用電極として機能しなくなることがわかった。
【0080】
また、実施例1と、実施例4および5と、比較例3とから、生理食塩水のような液体材料以外の固体材料の誘電体材料であっても、単体としての固有の比誘電率で50以上を有する固体材であれば、粘着シートの誘電率制御を行え、生体用電極を製造できた。すなわち、単体としての固有の比誘電率が、低い誘電率材料を添加しただけでは、比較例3のように、生体用電極としての機能は発揮しなかった。
【0081】
また、比較例4におけるアルミニウム粒子は高い導電性を有する。そのため、粘着シート単体としての厚み方向の電気抵抗率が4500Ωcmから0.2Ωcmにまで低下するものの、アルミニウムは、粒子状のため、広い表面積を有することになり、それに起因して、粘着シートを形成する樹脂の吸水量の影響で酸化する。そのため、比較例4の生体用電極は、生体電位信号を検出できなかった。