特許第6670112号(P6670112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670112
(24)【登録日】2020年3月3日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】引張材定着用定着板及びその製作方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/18 20060101AFI20200309BHJP
   E04C 5/08 20060101ALI20200309BHJP
   B29C 43/36 20060101ALI20200309BHJP
   B29C 70/46 20060101ALI20200309BHJP
   B29C 70/12 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
   B29C43/18
   E04C5/08
   B29C43/36
   B29C70/46
   B29C70/12
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-8437(P2016-8437)
(22)【出願日】2016年1月20日
(65)【公開番号】特開2017-128018(P2017-128018A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2019年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(73)【特許権者】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】竹家 宏治
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 春佳
(72)【発明者】
【氏名】林 豊
(72)【発明者】
【氏名】中山 武俊
(72)【発明者】
【氏名】高柳 美里
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−156067(JP,A)
【文献】 特開平04−125328(JP,A)
【文献】 特開平02−229013(JP,A)
【文献】 特開昭58−074321(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/149615(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00−43/58
B29C 70/00−70/88
E04C 5/00− 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紐状の強化繊維束に接着性のある合成樹脂を含浸させて成形された紐状の繊維強化複合材から一定範囲内の長さを持って線状に形成された多数の繊維強化複合材片が厚さ方向に圧密化されており、且つ板状、平面上の中央部に厚さ方向に貫通する挿通孔が形成されていることを特徴とする引張材定着用定着板。
【請求項2】
厚さ方向の片面に強化繊維シートが貼着されていることを特徴とする請求項1に記載の引張材定着用定着板。
【請求項3】
紐状の強化繊維束に接着性のある合成樹脂を含浸させて成形された紐状の繊維強化複合材から一定範囲内の長さを持った線状の多数の繊維強化複合材片を形成し、この多数の繊維強化複合材片を、加熱を伴いながら厚さ方向に加圧して圧密させ、平面上の中央部に厚さ方向に貫通する挿通孔が形成された板状の引張材定着用定着板を成形することを特徴とする引張材定着用定着板の製作方法。
【請求項4】
紐状の強化繊維束に接着性のある合成樹脂を含浸させて成形された紐状の繊維強化複合材を長さ方向に一定範囲内の長さに切断し、多数の繊維強化複合材片を形成する工程と、
互いに組み合わせられたときに中央部に孔を有する板状の空間を形成可能で、対向する方向に相対移動可能な下型と上型との間に前記繊維強化複合材片を充填する工程と、
前記下型と前記上型内の前記繊維強化複合材片を、前記合成樹脂が溶融し得る、もしくは流動化し得る、または軟化して粘着性を有し得る温度への加熱を伴いながら、前記下型と前記上型を互いに対向する方向に、前記下型と前記上型内に存在する前記全繊維強化複合材片の体積が減少し得る圧力で加圧する工程を含み、
前記下型と前記上型内に中央部に挿通孔を有する板状の、厚さ方向に圧縮力を負担可能な請求項1、もしくは請求項2に記載の定着板を製作することを特徴とする引張材定着用定着板の製作方法。
【請求項5】
紐状の強化繊維束に接着性のある合成樹脂を含浸させて成形された紐状の繊維強化複合材を長さ方向に一定範囲内の長さに切断し、多数の繊維強化複合材片を形成する工程と、
互いに組み合わせられたときに板状の空間を形成可能で、対向する方向に相対移動可能な下型と上型との間に前記繊維強化複合材片を充填する工程と、
前記下型と前記上型内の前記繊維強化複合材片を、前記合成樹脂が溶融し得る、もしくは流動化し得る、または軟化して粘着性を有し得る温度への加熱を伴いながら、前記下型と前記上型を互いに対向する方向に、前記下型と前記上型内に存在する前記全繊維強化複合材片の体積が減少し得る圧力で加圧して板状体を成形する工程と、
前記板状体の中央部に挿通孔を形成する工程を含み、
厚さ方向に圧縮力を負担可能な請求項1、もしくは請求項2に記載の定着板を製作することを特徴とする引張材定着用定着板の製作方法。
【請求項6】
前記下型と前記上型との間に前記繊維強化複合材片を充填する工程において、前記下型の上に前記繊維強化複合材片の充填前に強化繊維シートを配置し、または前記下型の上に充填された前記繊維強化複合片の上に強化繊維シートを配置し、そのまま前記下型と前記上型を加圧し、厚さ方向の少なくともいずれか一方の片面に前記強化繊維シートが貼着された請求項に記載の定着板を製作することを特徴とする請求項4、もしくは請求項5に記載の引張材定着用定着板の製作方法。
【請求項7】
前記繊維強化複合材片を加圧する工程において、前記繊維強化複合材片の加熱を複数回、繰り返すことを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれかに記載の引張材定着用定着板の製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紐状の繊維強化複合材を原料とした繊維強化複合材片を用い、引張材(緊張材)の定着側端部の定着用に使用可能な引張材定着用定着板、及びそれを製作する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材(繊維強化プラスチック)は炭素繊維その他の強化繊維自体が軽量でありながら、高い引張強度を発揮する特性から、PC鋼材に代わる張力負担材料としての用途が拡大しつつある(特許文献1〜3参照)。特許文献1〜3はいずれも繊維強化複合材を緊張材(引張材)として利用する例を示している。
【0003】
繊維強化複合材はコンクリート部材の表面に引張抵抗力を付与する目的で使用されることもある(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−97462号公報(段落0035〜0046、図1
【特許文献2】特開2010−159562号公報(段落0010、図3図5
【特許文献3】特開2011−236688号公報(段落0012、図1
【特許文献4】特開2011−99206号公報(段落0002〜0004、0015〜0019、図2図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように繊維強化複合材は繊維方向に高い引張強度を有することを特徴にしているため、この材料を利用した上記いずれの例の製品も材料本来の特徴を生かした用途に限られており、例えばPC鋼材や地盤アンカー等、引張材の端部を定着するための、圧縮力を負担する目的で使用される板等としての使用例は存在しない。
【0006】
本発明は上記背景より、繊維強化複合材を用いた、厚さ方向に圧縮力を負担する引張材定着用定着板、及びそれを製作する方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明の引張材定着用定着板は、紐状の強化繊維束に接着性のある合成樹脂を含浸させて成形された紐状の繊維強化複合材から一定範囲内の長さを持って線状に形成された多数の繊維強化複合材片が厚さ方向に圧密化されており、且つ板状、平面上の中央部に厚さ方向に貫通する挿通孔が形成されていることを構成要件とする。
【0008】
「接着性のある合成樹脂」とは、加熱され、溶融したときに、もしくは流動化したときに、または軟化したときに接着性を発揮する合成樹脂であることを言う。合成樹脂は加熱されたときに溶融するか、流動性を帯びた状態になるか、あるいは軟化して粘着性を帯びた状態になることができればよいため、熱可塑性であるか熱硬化性であるかを問わない。但し、合成樹脂は強化繊維束1に含浸させられるときには溶融しているか、流動性を帯びた、または軟化した状態にある必要がある。
【0009】
「合成樹脂の接着性」の性能は、強化繊維束1への合成樹脂の含浸によって成形された紐状の繊維強化複合材3が適度の長さに切断され、繊維強化複合材片4になった後に生かされる。すなわち、繊維強化複合材片4が定着板7を成形するための、対になる下型8と上型9内で積み重ねられ、加熱されながら加圧されたときに(請求項4)、繊維強化複合材片4、4同士の接着による一体化のために接着性が機能を発揮する。
【0010】
紐状の繊維強化複合材3が切断されて形成された多数の繊維強化複合材片4は、互いに組み合わせられたときに中央部に孔を有する板状の空間を形成可能で、対向する方向に相対移動可能な下型8と上型9との間に充填される(請求項4)。
【0011】
繊維強化複合材片4は下型8と上型9間に充填された状態で合成樹脂が溶融し得る、もしくは流動化し得る、または軟化して粘着性を有し得る温度への加熱を伴いながら、下型8と上型9を互いに対向する方向に、全繊維強化複合材片の体積が減少し得る圧力で加圧されることにより、基本的には下型8と上型9内に中央部に挿通孔7aを有する板状の、厚さ方向に圧縮力を負担可能な引張材定着用定着板7(以下、定着板7)として完成する(請求項4)。
【0012】
繊維強化複合材3が切断される「一定範囲内の長さ」とは、図3−(b)に示すように切断後の繊維強化複合材片4の単体が下型8と上型9との間に入り込める程度の長さを言い、下型8と上型9の形状と内周の寸法によって決まる。なお、繊維強化複合材片4が加熱されたときに軟化して粘着性を有し得る場合、繊維強化複合材片4は加圧により変形し、合成樹脂が流動性を発揮する性質を有すればよい。「粘着性を有し得る温度」とは、粘着性を発揮可能な程度の温度を言う。
【0013】
板状の定着板7である板状体の中央部の挿通孔7aは繊維強化複合材片4に対する加熱と加圧により板状体を形成した後の穿設(穿孔(くり抜き))により形成されることもある(請求項5)。その場合、下型8と上型9は互いに組み合わせられたときに中央部に孔を有する板状の空間を形成可能である必要はなく、互いに組み合わせられたときに板状の空間を形成可能であればよい(請求項5)。この場合、下型8と上型9との間への繊維強化複合材片4の充填と、繊維強化複合材片4への加熱・加圧により板状体を成形した後、この板状体の中央部に挿通孔7aを形成することにより定着板7が製作される(請求項5)。板状体形成後の挿通孔7aの形成手段は問われない。「板状体」とは「板(定着板)」のことであるが、「定着板7」としての完成前の状態であることから、「板状体」と呼称している。
【0014】
この場合も、繊維強化複合材片4への加熱時には、繊維強化複合材片4に含浸している合成樹脂が溶融し得る、もしくは流動化し得る、または軟化して粘着性を有し得る温度に繊維強化複合材片4が加熱される。下型8と上型9との間の繊維強化複合材片4が加熱されながら、全繊維強化複合材片の体積が減少し得る圧力で加圧されることで、挿通孔7aのない板状体が成形される。成形後の板状体にはドリル、パンチングその他の手段により挿通孔7aが穿設される。
【0015】
定着板7の形状を特定する「板状」とは、表裏面(上下面)が実質的に、あるいはほぼ平坦な板状(平板状)であることを言い、外形は方形状であるか、円形状、または多角形状等であるかを問わない。「実質的に平坦」とは、表裏面が凹曲面、または凸曲面をなしていることを含む趣旨であり、完全な平坦面を含む。「平面上の中央部」は定着板7を厚さ方向に見たときの中央部であり、「孔」はPC鋼材等の引張材(緊張材)が挿通するための挿通孔7aであり、孔の形状は円形状と多角形状等がある。請求項5で言う「平板状」は上記のように挿通孔7aの形成前の板状の定着板7を言い、その形状は「板状(平板状)」である。
【0016】
強化繊維束1は炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の強化繊維の糸を数千本〜数百万本、束ねて形成された繊維の束である。この強化繊維束1中に流動性のある合成樹脂が含浸させられることにより繊維強化複合材3が構成される。ここで、強化繊維の糸からなる強化繊維束1内には強化繊維の糸間の一体性を高めるために、集束剤が付与されていることもある。
【0017】
合成樹脂の接着性に起因する多数の繊維強化複合材片4、4同士の一体化の程度、あるいは一体化した状態は強化繊維束1への合成樹脂の含浸量に依存すると考えられる。
【0018】
また多数の繊維強化複合材片4の集合と一体化により成形される定着板7の表面、すなわち使用状態での上面に厚さ方向の部分的な集中荷重、あるいは分布荷重が作用したときに、その部分の反対側の面である下面(背面)が強度上の弱点になり易く、引張力により損傷を受ける可能性が想定され得る。このような場合には、特に定着板7の裏面(下面)に繊維強化複合材片4を集中させる、すなわち定着板7の裏面(下面)における繊維強化複合材片4の密度を高めることで、定着板7の裏面(下面)を集中荷重等に対して補強することが可能である。
【0019】
この場合、多数の繊維強化複合材片4から成形される定着板7の裏面(下面)側に占める強化繊維の比率が高まることで、強化繊維の密度が上がり、相対的に合成樹脂の密度が下がるため、定着板7の表面(上面)が受ける集中荷重等による裏面(下面)の損傷に対する安全性が向上する。
【0020】
定着板7の裏面(下面)側部分の多くを合成樹脂が占め、繊維の密度が低い状態では、集中荷重(圧力)により合成樹脂が流動し易い状態にあるため、定着板7が変形し易いと考えられる。これに対し、定着板7の裏面側に繊維が密に存在することで、互いに接着し、引張力に対する抵抗要素である繊維が合成樹脂の流動を拘束するように働く結果、繊維の密度が低い場合との対比では合成樹脂の流動が生じにくくなると考えられる。結果として定着板7に変形が生じにくくなり、定着板7の表面が受ける集中荷重等による裏面の損傷に対する安全性が向上することになる。
【0021】
定着板7の引張力を受ける側の面である裏面(下面(背面))を集中荷重等に対して補強することは、定着板7の厚さ方向の片面に強化繊維シート71を貼着することによっても可能である(請求項、6)。定着板7の厚さ方向の片面は原則として定着板7への厚さ方向の荷重に対し、引張力を受ける側の面である使用状態での裏面(下面)を指す。「貼着」は接着、または圧縮、もしくは圧縮と熱を伴う接着(圧着)等により定着板7本体に一体化することを意味する。強化繊維シート71としては主に炭素繊維シート、アラミド繊維シート等が使用される。強化繊維シート71はこの他、織物、編物、不織布、あるいはこれらと合成樹脂との複合体も含み、この場合の合成樹脂は繊維強化複合材4と同様な接着性を有することが適切である。
【0022】
定着板7は接着性のある合成樹脂を含浸させた繊維強化複合材3を切断して形成された繊維強化複合材片4への加熱を伴う加圧により成形されるため(請求項、4)、繊維強化複合材片4への加圧時に、定着板7となる繊維強化複合材片4の少なくともいずれか一方の片面側に強化繊維シート71を配置して両者を同時に加圧することで、圧縮を伴う接着により強化繊維シート71を定着板7本体に一体化させ、強化繊維シート71が貼着された定着板7を製作することになる(請求項6)。請求項4、5における「合成樹脂が溶融等し得る温度への加熱を伴いながら」とは、「加熱を継続しながら加圧すること」と「加熱温度が一定温度に到達後には加熱操作を中止して加圧すること」を含む趣旨である。加熱温度が一定温度に達した後には加熱を止めてもその温度は持続し、「加熱状態での加圧」は実現されるからである。
【0023】
この場合、請求項4、もしくは請求項5の製作方法における下型8と上型9との間に繊維強化複合材片4を充填する工程において、下型8の上に繊維強化複合材片4の充填前に強化繊維シート71を配置し、または下型8の上に充填された繊維強化複合片4の上に強化繊維シート71を配置し、そのまま下型8と上型9を加圧することにより厚さ方向の少なくともいずれか一方の片面に強化繊維シート71が貼着された定着板7が製作される(請求項6)。
【0024】
定着板7に強化繊維シート71が貼着された場合(請求項、6)、引張力に対する抵抗要素となる強化繊維シート71が引張力を負担することで、定着板7本体の引張力に対する負担が軽減されるため、定着板7の集中荷重に対する安定性が向上し、定着板7が厚さ方向の荷重を受けて損傷する可能性が低下する。
【0025】
繊維強化複合材3は元の素材である紐状の強化繊維束1の形状のまま(請求項4)、図1に示すように強化繊維束1等への合成樹脂の含浸によって形成されるため、強化繊維束1への合成樹脂の含浸時には例えば軸方向に線状に連続した形状、または螺旋状に撚り込まれた形状になっている。図1に示すように強化繊維束1への合成樹脂の含浸後、合成樹脂が乾燥させられ、硬化してから繊維強化複合材3が一定範囲内の長さの繊維強化複合材片4に切断された後、この切断によって生じる繊維強化複合材片4が図3−(b)に示すように下型8と上型9との間に充填される(請求項4)。「一定範囲内の長さ」は前記のように繊維強化複合材片4の単体が下型8と上型9間に収納される程度の大きさを言う。
【0026】
下型8と上型9の形状は互いに組み合わせられたときに両者間に形成される空間が円板状、多角形板状等の板状になる形状であればよい。下型8と上型9との間に形成される空間の形状が、この空間内に充填され、圧縮されて形成される定着板7の形状になる。定着板7は使用される部位に応じ、全体が一様な厚さの場合と、全体的に、または部分的に厚さが変化する場合がある。「板状」とは、上下面(表裏面)が完全に平坦な板(平板)と、この形状の板に近い立体形状を含む形状を意味する。
【0027】
下型8と上型9間への繊維強化複合材片4の充填後の加熱と加圧により挿通孔7aを有する定着板7を成形する場合(請求項4)、下型8と上型9との間には、図3−(a)に示すように厚さ方向の加圧により成形される定着板7の平面上の中央部に形成される、引張材が挿通する挿通孔7aを形成するための中間の型となる図2−(c)に示す凸部81が配置、もしくは形成される。定着板7に挿通孔7aを形成するための凸部81は下型8の底板8aに対向する上型9の上板9aに形成等されることもある。定着板7の挿通孔7aは基本的には1箇所、形成されるが、平面上の中央部の複数箇所に分散して複数個、形成されることもある。
【0028】
下型8と上型9間への繊維強化複合材片4の充填後の加熱と加圧により板状体を成形した後、この板状体に挿通孔7aを形成(穿設)する場合(請求項5)には、下型8と上型9との間に凸部81が配置、もしくは形成される必要はなく、下型8と上型9は互いに組み合わせられたときに板状の空間を形成可能であればよい(請求項5)。ここで言う「板状体」は前記のように上下面が完全に平坦な板である必要はなく、挿通孔7a形成前の板(平板)を指す。
【0029】
図3は下型8と上型9とは別体の円柱状の凸部81を下型8の底板8a上に設置し、上型9に凸部81が挿通可能な挿通孔9bを形成した場合の例を示すが、下型8の底面に凸部81を形成する場合にも、上型9には凸部81が挿通可能な挿通孔9b、または凸部81が嵌合可能な凹部が形成される。製作すべき定着板7の厚さを小さく設定する場合には、下型8の底面上に繊維強化複合材片4の充填量を低減するための、図2−(e)に示す調整板10が載置される。調整板10にも凸部81が挿通可能な挿通孔10aが形成される。
【0030】
請求項4における「中央部に孔を有する板状の空間」とは、定着板7製作用の型としての下型8と上型9と凸部81が形成する、両型8、9と凸部81を除いた空間のことであり、「板状の空間」は下型8と上型9の対向する面間に形成される、両型8、9に挟まれた空間を言い、「中央部に孔を有する空間」は凸部81の周囲に形成される空間を言う。この下型8と上型9と凸部81が形成する「中央部に孔を有する板状の空間」内に多数の繊維強化複合材片4が収納され、加熱を伴いながら圧縮されることによりその空間の形状通りの形状の定着板7が成形される。
【0031】
繊維強化複合材片4は下型8と上型9との間に充填された後、合成樹脂が溶融し得る、もしくは流動化し得る、または軟化して粘着性を有し得る温度への加熱を伴いながら、下型8と上型9内の全繊維強化複合材片の体積が減少し得る圧力で加圧されることで、下型8と上型9が互いに対向する方向に圧縮された板状の定着板7が製作される(請求項4)。なお、下型8と上型9内の全繊維強化複合材片の体積とは、下型8と上型9内に充填された加圧前の繊維強化複合材片4が重なり合い、それぞれの繊維強化複合材片4間に空間を有する見かけ上の体積のことを言い、定着板7の成形時に、繊維強化複合材片4が加熱されながら加圧されることでそれ自体の体積が減少することも減少しないこともある。
【0032】
繊維強化複合材片4を加圧する工程においては、定着板7の厚さ方向に積層される繊維強化複合材片4を厚さ方向に圧密させ、1枚の定着板7を構成する繊維強化複合材片4の密度を増し、定着板7としての圧縮強度と引張強度を高める目的で、繊維強化複合材片4の加熱を、または加熱と加圧を複数回、繰り返すこともある(請求項7)。この場合、定着板7の厚さ方向に圧密され、積層化する繊維強化複合材片4の層内での密度のむらが低減される意味もある。
【0033】
「合成樹脂が溶融し得る、もしくは流動化し得る、または軟化して粘着性を有し得る」とは、合成樹脂が液体化し、強化繊維束1等中に含浸する状態になること、あるいは合成樹脂が軟化して粘着性を発揮する状態、好ましくは更に流動性を有し、変形することが可能な状態になることを言う。「全繊維強化複合材片の体積が減少し得る圧力」とは、圧力を除去した後に繊維強化複合材片4が弾性によって復元せず(塑性化し)、あるいは加圧される前の繊維強化複合材片4が原形を留めず、全繊維強化複合材片を例えば隙間なく集めたときの体積が加圧後に減少し得る程度の圧力を言う。「減少し得る」とは、全繊維強化複合材片の体積が必ずしも加圧後に減少しているとは限らない意味である。
【0034】
下型8と上型9内での加圧と加熱の結果、融合した繊維強化複合材片4は繊維強化複合材3の原料である多量の強化繊維が他の原料である合成樹脂内に混入した状態で硬化し、強化繊維は定着板7の面内方向に複数の方向を向き、厚さ方向に密に配置された状態になる。このときの加圧は下型8と上型9が対向する方向であるため、繊維の方向は主に厚さ方向に直交する方向(定着板7の面内方向)を向く。「下型8と上型9の対向する方向」は定着板7の厚さ方向である。
【0035】
ここで、多数の繊維強化複合材片4に対する加熱と加圧の結果、中央部に孔(挿通孔7a)を有し、一定寸法に成形された定着板7の試験体に条件を変えて厚さ方向に圧縮力を加えたときの条件(CASE)を図7−(a)〜(d)に、条件毎の荷重と変位の関係を図8−(a)〜(d)に示す。加圧時の詳しい条件は以下の表1に示す。
【0036】
試験体(定着板7)に圧縮力を加えている載荷試験の状況を示す図6−(a)のように載荷試験は試験体が実際の定着板7としての使用状況を想定し、PC鋼材や地盤アンカー等の引張材の端部を受ける状態を再現する形で行われた。図6−(b)は挿通孔7aの周囲に、試験体(定着板7)に作用する荷重と歪みを測定する歪みゲージ16を接続した試験体の背面(裏面)の様子を、(c)は試験体の使用状態での背面(下面)、または表面(上面)となる片面に強化繊維シート71を貼着した様子を示している。(d)はベースプレート14を、(e)はナット15を示している。
【0037】
ここでは強化繊維シート71に接着性のある合成樹脂を含浸させ、試験体(定着板7)の本体との一体性を高めている。この場合、強化繊維シート71は図4−(a)、(b)に示す要領で繊維強化複合材片4と共に加熱・加圧されることで、成形された定着板7(試験体)の片面に貼着される。ここで使用した強化繊維シート71の厚さは合成樹脂を含浸させた状態では1.1mm程度であったが、加熱と加圧を受けることで、0.59mm(約54%)にまで圧縮されている。
【0038】
図6−(a)では加圧装置17の反力を受ける反力台としての載荷台18の上に載置された、引張材が挿通するための開口を有するベースプレート14の上に試験体(定着板7)を載置し、引張材をナット定着する場合を想定して試験体の上にナット15を配置し、このナット15の上に加圧装置17を設置し、ナット15と加圧装置17の間に荷重計19を介在させている。ベースプレート14は定着板7を直接、受けるベースプレート、またはコンクリート造の構造体を想定した受け材である。試験体は上面の挿通孔の周辺に載置されるナット15から圧縮力を受け、下面の周辺部分で支持されたベースプレート14から反力を受ける状態にある。
【0039】
各条件の説明と結果を以下の表1に示す。各条件の試験体として複数のサンプルを用意し、結果としての最大荷重と最大歪みには平均値を記載してある。試験体の寸法は約縦200mm×横200mm×厚さ23mm程度である。
【0040】
【表1】







【0041】
表1中のCASE4は本発明の定着板7と対比されるべき、地盤アンカー等の引張材の端部を定着させるための定着板(アンカープレート)として使用される一般構造用鋼材(SS400)から成形された孔あきの定着板(プレート)の加圧条件と結果を示している。本発明の定着板7の載荷試験はこのCASE4(定着板)の結果と比較する目的で実施された。
【0042】
CASE1〜3の試験体(定着板7)を構成する繊維強化複合材3の元になる強化繊維としては炭素繊維を用い、(接着性のある)合成樹脂にはエポキシ樹脂(熱可塑性エポキシ樹脂)を使用している。CASE1〜3の試験体の2方向の長さは200mm、厚さは約23mmで、平面上の中央部に厚さ方向に貫通する径46mmの挿通孔7aを有し、質量は1.35kgである。
【0043】
試験体としての定着板は寸法から約261kNの引張強度(降伏点荷重:約222kN)を有する引張材を支持する能力を有するプレート(鋼板)を想定している。ナットサイズを説明する表1中の「対辺」は図6−(e)に示すように六角ナットの対向する2面間距離dを言う。CASE4(鋼材)の試験体(定着板)の寸法はCASE1〜3の試験体とほぼ同一であり、質量は7.5kgである。
【0044】
CASE1とCASE2では試験体の片面に引張抵抗材としての強化繊維シート71を貼着した場合の効果の有無を確認する目的で、それぞれ強化繊維シート71を試験体のベースプレート14(下面)側と、試験体のナット15(上面)側に貼着している。表1中では強化繊維シート71をシートと略している。試験体の底面には前記のように歪みゲージ16が接続されている。試験では強化繊維シート71として厚さ0.59mmの炭素繊維シートを使用している。
【0045】
CASE1とCASE2の結果(図8−(a)、(b))の対比から、CASE1では荷重の増加に伴う歪みの増加が平坦で、変形性状が安定しているのに対し、CASE2では歪みに揺らぎがあり、変形が安定していないものの、歪みが平均でCASE1の5分の1程度に留まっていることが分かる。また試験体を構成する多数の繊維強化複合材片4の方向は放射方向に均等に分散しているとは限らず、サンプル毎にばらつきがあるため、CASE3の結果のようにサンプル毎に歪みにもばらつきが生じ易い。強化繊維シート71を貼着していないCASE3との対比でCASE1とCASE2を見れば、CASE1とCASE2とでは強化繊維シート71の貼着面が相違するものの、強化繊維シート71はこの繊維強化複合材片4のばらつきに起因する歪みのばらつきを抑制する作用があると考えられる。
【0046】
CASE1とCASE2とでは最大荷重に明確な差が表れていないが、強化繊維シート71を載荷面の反対側に貼着したCASE1ではCASE2より変形性状が安定していることから、強化繊維シート71は試験体の引張面に貼着されることで、試験体の変形性状を安定させる働きがあると考えられる。またCASE1とCASE2との対比では、最大荷重に明確な差はないものの、強化繊維シート71を試験体の引張面に貼着したCASE1の最大荷重約130kNはCASE2の最大荷重約120kNより約8%程度、大きいことから、強化繊維シート71は引張抵抗材としての機能も発揮していると言える。
【0047】
板状(平板状)の試験体が下面(裏面)側の周辺で支持された状態で上面(表面)側から集中荷重等を受けたとき、下面(裏面)側が引張力を負担し、上面(表面)側が圧縮力を負担する関係から、上記「引張面」は試験体への載荷面の反対側の面である下面を指す。強化繊維シート71は引張抵抗材であるから、試験体が引張力を負担する下面(裏面)側に貼着されることが力学的にも合理的と言える。
【0048】
CASE1及びCASE2とCASE3との違いは、後者(CASE3)では強化繊維シート71の貼着がない点の他、ナット15の寸法(対辺)が大きいことにあり、CASE3のナット15の対辺72mmはCASE1、2のナット15の対辺55mmの約1.3倍程度、大きい。この違いに主に起因し、CASE3はCASE1の強度(最大荷重)の1.53倍、CASE2の強度の1.67倍に相当する約200kNの強度を達成している。この数値はCASE1、2と同一のナット15を使用した場合のCASE4の強度の0.87倍程度の大きさである。
【0049】
前記のように強化繊維シート71の貼着の有無の違いが試験体の明確な、あるいは極端な強度の違いに表れていないことを踏まえれば、ナット15の対辺の大きさがCASE3の強度の増加に影響している可能性が高いと言える。CASE3ではナット15の対辺がCASE1、2の場合より大きいことで、荷重を受ける試験体の面積が大きくなり、圧縮荷重が広範囲に分散して作用する結果として、CASE1、2より強度が増したと考えられる。
【0050】
CASE3(複合材片)とCASE4(鋼材)とではナット15の寸法に差があるものの、CASE3の最大荷重がCASE4の最大荷重の0.87倍の約200kNを達成していることから、CASE3の試験体とナット15の組み合わせによりCASE4の場合と遜色ない程度の圧縮力負担能力を発揮できると言える。特にCASE3の定着板7の質量は1.35kgであるのに対し、CASE4の鋼材の質量は7.5kgであるから、質量を対比すれば、CASE3の定着板7は1.35/7.5よりCASE4の鋼材を用いた定着板の約18%の質量でありながら、鋼材に劣らない圧縮強度を発揮していると言える。従ってCASE3の定着板7は鋼材の定着板に代わる役割を発揮しながらも、鋼材との対比では取り扱い作業性が格段に向上する効果を有すると言える。
【発明の効果】
【0051】
多数の繊維強化複合材片の集合と一体化により形成される定着板は同一寸法の鋼材(プレート)との上記対比から、鋼材の1/5より小さい質量でありながらも、鋼材の圧縮強度と遜色ない程度の圧縮力負担能力を発揮できる。この結果、鋼材の定着板に代わる役割を発揮しながらも、鋼材との対比では取り扱い作業性が格段に向上する効果を有するため、鋼材(プレート)に代わる圧縮力負担材料としての用途を確立することができる。また鋼材のような発錆の心配もない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】ドラムに巻き取られた状態の強化繊維束を合成樹脂溶液中に浸漬させる工程と、合成樹脂が含浸した強化繊維束を乾燥させる工程と、乾燥した強化繊維束を長さ方向に切断して繊維強化複合材片を形成する工程を連続的に示した概要図である。
図2】(a)は図1に示す多数の繊維強化複合材片を無作為に重ねた様子を示した斜視図、(b)は(a)の繊維強化複合材片を用いて定着板を成形するための下型を示した斜視図、(c)は下型上に配置される凸部を示した斜視図、(d)は下型に対向して配置される上型の底面を示した斜視図、(e)は定着板の厚さを調整するために下型と上型間に配置される調整板を示した斜視図である。
図3】(a)は下型上に凸部を配置した様子を示した斜視図、(b)は下型の内部に図2−(a)に示す繊維強化複合材片を重ねて充填した様子を示した斜視図、(c)は下型上に上型を落とし込み、下型と上型を加熱しながら上型に下型と対向する方向に加圧するときの様子を示した斜視図、(d)は(c)での加熱・加圧の結果、成形された定着板を示した斜視図である。
図4図6−(c)に示す強化繊維シートが貼着された試験体(定着板)を製作する場合に、下型の底板上に強化繊維シートを配置した様子を示した斜視図、(b)は(a)の強化繊維シート上に繊維強化複合材片を充填した様子を示した斜視図である。
図5】(a)〜(f)は繊維強化複合材片を加圧する工程で繊維強化複合材片の加熱を複数回、繰り返す場合の作業手順を示した斜視図である。
図6】(a)は載荷試験の状況を示した斜視図、(b)は試験体に歪みゲージを接続した様子を示した斜視図、(c)は片面に強化繊維シートが貼着された試験体(定着板)を示した斜視図、(d)は載荷試験で使用したベースプレートを示した斜視図、(e)は載荷試験で使用したナットを示した斜視図である。
図7】(a)〜(d)は表1のCASE1〜CASE4の各載荷状況を示した立面図である。
図8】(a)〜(d)は表1のCASE1〜CASE4の各載荷時の試験体に生じた歪みと荷重の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1は炭素繊維、ガラス繊維等の強化繊維の束からなる強化繊維束1をドラム20に巻き取った状態から、接着性のある合成樹脂の溶液を満たした合成樹脂溶液槽21中に浸漬させ、強化繊維束1や芯材2に合成樹脂を含浸させて紐状の繊維強化複合材3を成形した後、そのまま繊維強化複合材3を乾燥箱22を通過させて合成樹脂を乾燥させ、連続切断機23内で繊維強化複合材3を切断して繊維強化複合材片4を形成するまでの作業手順例を示す。
【0054】
図1は手順例であり、強化繊維束1へは強化繊維束1をドラム20に巻き取った状態で合成樹脂を含浸させる必要はなく、強化繊維束1の生成時に直線状態で合成樹脂を含浸させる等、強化繊維束1に合成樹脂を含浸させるときの強化繊維束1の状態は問われない。他の作業工程も図1に示す通りである必要はない。
【0055】
1本の強化繊維束1は前記のように数千本〜数百万本の強化繊維の糸が束ねられることにより形成される。強化繊維束1の直径は1〜100mm程度であり、強化繊維束1の長さは数10cm〜数10m程度である。
【0056】
強化繊維束1は合成樹脂の含浸により繊維強化複合材3に成形された後に、長さ方向に交差する方向の切断面で切断されることにより繊維強化複合材片4となる。繊維強化複合材片4は下型8と上型9内で圧縮されるため、強化繊維束1の断面形状は問われず、必ずしも円形状、もしくは正多角形状に近い形状である必要はない。
【0057】
強化繊維束1中に、溶融状態を含め、流動性のある状態の合成樹脂が含浸させられることにより繊維強化複合材3を構成する。接着性のある合成樹脂としては例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂等がある。
【0058】
図3−(a)〜(d)は乾燥した紐状の繊維強化複合材3を長さ方向に一定範囲の長さに切断して多数の繊維強化複合材片(チップ)4を形成し、この多数の繊維強化複合材片4を、互いに組み合わせられたときに板状の空間を形成可能な下型8と上型9との間に充填し、加熱と加圧により板状の、厚さ方向に圧縮力を負担し得る定着板7を製作するまでの手順を示す。
【0059】
繊維強化複合材片4は単体で下型8と上型9との間に充填可能な大きさ(長さ)に切断される。紐状の繊維強化複合材3は例えば円形、もしくは楕円形、または多角形の、あるいは偏平形状等、これらに近似した断面形状に形成されるため、繊維強化複合材片4はこれらの断面形状を持つ立体形状に形成される。切断面は軸方向に直交する方向とそれ以外の方向がある。下型8と上型9間に充填されたときの繊維強化複合材片4の安定性(転がりにくさ)とそれによる下型8と上型9間の空間内での繊維強化複合材片4の分散性の面からは、繊維強化複合材片4は偏平な断面形状の短冊状が好ましい。
【0060】
下型8は内部に充填される繊維強化複合材片4を充填状態で拘束するために、図2−(b)に示すように底板8aとその周囲から起立する側壁8bを有する箱状に形成され、底板8a上に定着板7の挿通孔7aを形成する凸部81が載置されるか、形成される。上型9は少なくとも下型8の底板8aに対向する上板9aを有する形状をし、上板9aに、下型8と上型9の加圧時に凸部81が挿通する挿通孔9b、または嵌合する凹部が形成される。上板9aは下型8の周回する側壁8bの内側に納まるか、内接し得る程度の形状と平面積を有する。
【0061】
下型8と上型9を対向する方向に加圧するときの繊維強化複合材片4の加熱温度は合成樹脂が溶融し得る、もしくは流動化し得る、または軟化して粘着性を有し得る温度であり、繊維強化複合材片4自体が変形し得る温度である。加圧時には少なくとも下型8と上型9内に存在する、加圧前の全繊維強化複合材片の体積が減少し得る大きさの圧力が与えられる。
【0062】
下型8と上型9は図3−(c)に示すように両者を対向する方向に挟持する上下の加圧板11、12から加熱されながら、あるいは加熱された後、加圧される。維強化複合材片4は加圧板11、12から下型8と上型9を介して間接的に加熱されるため、上下の加圧板11、12には多数の繊維強化複合材片4を一体化させる働きをする接着性のある合成樹脂が溶融し得る、もしくは流動化し得る、または軟化して粘着性を有する温度として例えば合成樹脂の融点や軟化点、またはガラス転移点より高い温度が与えられる。具体的には合成樹脂の融点は100〜150℃前後程度であるが、合成樹脂としてエポキシ樹脂を使用した表1に示す実施例では合成樹脂の融点(軟化点、ガラス転移点含む)である150℃程度の2倍前後程度の240〜280℃程度まで加熱している。
【0063】
下型8と上型9を互いに対向する方向に加圧する上下の加圧板11、12は少なくともいずれか一方が下型8と上型9の対向する方向に移動する状態にあればよく、両加圧板11、12が共に移動することもある。いずれの形態でも下型8と上型9間に存在する繊維強化複合片4は加圧方向に圧縮される。加圧板11、12の内部には加圧板11、12自体を加熱することで、下型8と上型9を加熱するためのヒータ11a、12aと温度センサ11b、12bが配置されている。
【0064】
加圧板11、12による下型8と上型9の加圧は加圧板11、12が設定温度(240〜280℃)まで上昇させながら、あるいは設定温度に到達した後から、多数の繊維強化複合材片4から製作される定着板7の目標厚さに必要とされる圧力が一定時間、保持(付与)される。表1の実施例は加圧板11、12が設定温度に到達した後から加圧板11、12に対向する方向に4MPaの圧力を30分程度、与えた場合の結果を示すが、加圧圧力と加圧時間は設計される繊維強化複合材片4の量(質量)と定着板7の厚さに応じて変動する。
【0065】
加熱と加圧により各繊維強化複合材片4は単独で存在する状態ではなくなり、各繊維強化複合材片4を構成している強化繊維束1、もしくはその構成要素である強化繊維が、各繊維強化複合材片4を構成している接着性のある合成樹脂で互いに接着し、また強化繊維束が交差し合いながら圧密された結果、図3−(d)に示す成形品としての定着板7になる。
【0066】
図6−(c)に示すように定着板7の片面に強化繊維シート71を貼着する場合には、図4−(a)、(b)に示すように例えば下型8内への繊維強化複合材片4の投入前に底板8a上に強化繊維シート71が敷設される。強化繊維シート71は下型8内への繊維強化複合材片4の投入後に、底板8a上に充填された繊維強化複合片4の上に被せられるように載置されることもある。また定着板7の両面に強化繊維シート7を貼着する場合には、下型8内への繊維強化複合材片4の投入前に底板8a上に強化繊維シート71を敷設し、強化繊維シート71上に繊維強化複合材片4を投入した後、充填された繊維強化複合片4の上に強化繊維シート71が被せられるように載置される。
【0067】
図5−(a)〜(f)は繊維強化複合材片4を加圧する工程において、繊維強化複合材片4の加熱を複数回、繰り返す場合の作業手順を示す。繊維強化複合材片4は図3−(a)、(b)に示すように下型8の底板8a上の中央部に配置された円柱状の凸部81の周囲に充填される。図5に示す例では図3−(b)に示すように繊維強化複合材片4を下型8内(上)に密実に充填し、そのまま、すなわち下型8上に上型9を載置せず、繊維強化複合材片4を加圧することなく、繊維強化複合材片4を下型8内で加熱することにより下型8内の繊維強化複合材片4の体積を減少させる場合の手順を示している。
【0068】
繊維強化複合材片4を下型8内で加熱する際には、下型8上に上型9を載置して繊維強化複合材片4を両型8、9で挟持し、下型8と上型9を加熱しながら、対向する方向に加圧することもある。
【0069】
図5に示す例の場合、繊維強化複合材片4が充填された下型8は図5−(a)に示すように上型9が載置されることなく加熱・加圧器13内に挿入され、一定時間、加熱される。下型8内に充填された繊維強化複合材片4が加熱されることで、合成樹脂が溶融し、下型8内の繊維強化複合材片4全体の体積が減少するため、一定時間の加熱後、図5−(b)に示すように下型8が加熱・加圧器13から取り出され、(c)に示すように下型8内に繊維強化複合材片4が追加される。
【0070】
その後、再度、繊維強化複合材片4が追加された下型8が加熱・加圧器13内に挿入され、一定時間、加熱される。繊維強化複合材片4の加熱と追加は3回以上、繰り返されることもある。図面では加熱・加圧器13が加熱器と加圧器を兼ねているが、加熱器と加圧器は別の場合もある。
【0071】
下型8内に投入される繊維強化複合材片4の合計量は最終的に成形される定着板7の質量、例えば前記した1350gから予め決められており、この決められた量の繊維強化複合材片4が下型8内に入りきるまで、加熱と追加が繰り返される。
【0072】
予め決められた量の繊維強化複合材片4が下型8内に投入されきった後、図5−(d)に示すように下型8上に上型9が載置されて下型8が加熱・加圧器13内に挿入され、図3−(c)に示すように下型8と上型9が対向する方向に加圧される。加圧は前記のように加圧板11、12が予め設定された温度、例えば240℃程度に到達した後から加圧板11、12に継続して与えられる。表1の実施例では前記のように加圧板10、11に4MPaの圧力が30分程度、与えられる。また前記のように加圧板11、12を予め設定された温度になるまで上昇させながら、加圧することもある。
【0073】
加圧板11、12の加圧後、図5−(e)に示すように例えば加熱・加圧器13内に冷却装置24から冷風を送り込むことにより下型8と上型9を冷却し、繊維強化複合材片4の成形品である定着板7を冷却することが行われる。
【0074】
定着板7の冷却は上型9を外した状態で、あるいは定着板7を下型8からも離脱させた状態で行われることもある。成形品である定着板7の冷却後、縁のバリの除去により図5−(f)に示すように定着板7が完成する。
【0075】
ここで、図5−(a)、図7に示す載荷試験に使用した表1の実施例中、CASE1〜3の、200mm×200mm×23mmの試験体(定着板7)の製作に要する繊維強化複合材片4の量を計算する。1本の繊維強化複合材片4の平均的な単位体積当たりの質量が0.3g/cmであるとすれば、前記のように試験体(板状体7)の質量が1350gであるから、加圧前の全繊維強化複合材片の体積は1350/0.3=4500cmになる。加圧後の試験体の体積は(20cm×20cm−π・2.3)×2.3cm=881.78cmであるから、加圧の結果、全繊維強化複合材片の体積は約1/5(約19〜20数%)程度に圧縮されることになる。
【0076】
定着板7は後述のPC鋼材の緊張側の定着部等、厚さ方向に圧縮力を負担する部位に、鋼材からなるプレートに代わる部材として使用されるため、形態的には主に中央部に挿通孔を有するベースプレート、アンカープレート等と同等の形状に形成される。この関係で、定着板7は基本的には上面と下面の両全面が一様な厚さを持つ平坦な板状に形成されるが、例えば厚さ方向の片面である下面(裏面)が設置面の形状に応じ、平坦な面、もしくは曲面状、あるいは多角形状をなし、他方の面である上面(表面)が自由な面をなした形状に形成される。この他方の面は複数段の段差のある形状に形成されることもある。
【0077】
定着板7に厚さ方向の圧縮力を作用させるPC鋼材、アンカー(地盤アンカーを含む)、鉄筋等の引張材(緊張材)が挿通するための挿通孔7aは図3−(d)に示すように主に中央部に1個、形成されるが、挿通孔7aは複数個、分散して形成されることもある。挿通孔7aは前記のように例えば図3−(a)に示すように下型8の底板8a上に凸部81を配置するか、凸部81を形成することにより形成されるが、凸部81は上型9の上板9aに、下型8側へ向かって形成されることもある。凸部81が配置されるか、形成される側の反対側の型の板に凸部81が挿通する挿通孔9b、または嵌合する凹部が形成される。
【符号の説明】
【0078】
1……強化繊維束、
3……繊維強化複合材、4……繊維強化複合材片、
7……定着板、7a……挿通孔、71……強化繊維シート、
8……下型、8a……底板、8b……側壁、81……凸部、
9……上型、9a……上板、9b……挿通孔、
10……調整板、10a……挿通孔、
11……加圧板(上)、11a……ヒータ、11b……温度センサ、
12……加圧板(下)、12a……ヒータ、12b……温度センサ、
13……加熱・加圧器、
14……ベースプレート、15……ナット、
16……歪みゲージ、17……加圧装置、18……載荷台、19……荷重計、
20……ドラム、21……合成樹脂溶液槽、22……乾燥箱、23……連続切断機、
24……冷却装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8