【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明の引張材定着用定着板は、紐状の強化繊維束に接着性のある合成樹脂を含浸させて成形された紐状の繊維強化複合材から一定範囲内の長さを持って線状に形成された多数の繊維強化複合材片
が厚さ方向に圧密化されており、且つ板状
で、平面上の中央部に厚さ方向に貫通する挿通孔が形成されていることを構成要件とする。
【0008】
「接着性のある合成樹脂」とは、加熱され、溶融したときに、もしくは流動化したときに、または軟化したときに接着性を発揮する合成樹脂であることを言う。合成樹脂は加熱されたときに溶融するか、流動性を帯びた状態になるか、あるいは軟化して粘着性を帯びた状態になることができればよいため、熱可塑性であるか熱硬化性であるかを問わない。但し、合成樹脂は強化繊維束1に含浸させられるときには溶融しているか、流動性を帯びた、または軟化した状態にある必要がある。
【0009】
「合成樹脂の接着性」の性能は、強化繊維束1への合成樹脂の含浸によって成形された紐状の繊維強化複合材3が適度の長さに切断され、繊維強化複合材片4になった後に生かされる。すなわち、繊維強化複合材片4が定着板7を成形するための、対になる下型8と上型9内で積み重ねられ、加熱されながら加圧されたときに(請求項4)、繊維強化複合材片4、4同士の接着による一体化のために接着性が機能を発揮する。
【0010】
紐状の繊維強化複合材3が切断されて形成された多数の繊維強化複合材片4は、互いに組み合わせられたときに中央部に孔を有する板状の空間を形成可能で、対向する方向に相対移動可能な下型8と上型9との間に充填される(請求項4)。
【0011】
繊維強化複合材片4は下型8と上型9間に充填された状態で合成樹脂が溶融し得る、もしくは流動化し得る、または軟化して粘着性を有し得る温度への加熱を伴いながら、下型8と上型9を互いに対向する方向に、全繊維強化複合材片の体積が減少し得る圧力で加圧されることにより、基本的には下型8と上型9内に中央部に挿通孔7aを有する板状の、厚さ方向に圧縮力を負担可能な引張材定着用定着板7(以下、定着板7)として完成する(請求項4)。
【0012】
繊維強化複合材3が切断される「一定範囲内の長さ」とは、
図3−(b)に示すように切断後の繊維強化複合材片4の単体が下型8と上型9との間に入り込める程度の長さを言い、下型8と上型9の形状と内周の寸法によって決まる。なお、繊維強化複合材片4が加熱されたときに軟化して粘着性を有し得る場合、繊維強化複合材片4は加圧により変形し、合成樹脂が流動性を発揮する性質を有すればよい。「粘着性を有し得る温度」とは、粘着性を発揮可能な程度の温度を言う。
【0013】
板状の定着板7である板状体の中央部の挿通孔7aは繊維強化複合材片4に対する加熱と加圧により板状体を形成した後の穿設(穿孔(くり抜き))により形成されることもある(請求項5)。その場合、下型8と上型9は互いに組み合わせられたときに中央部に孔を有する板状の空間を形成可能である必要はなく、互いに組み合わせられたときに板状の空間を形成可能であればよい(請求項5)。この場合、下型8と上型9との間への繊維強化複合材片4の充填と、繊維強化複合材片4への加熱・加圧により板状体を成形した後、この板状体の中央部に挿通孔7aを形成することにより定着板7が製作される(請求項5)。板状体形成後の挿通孔7aの形成手段は問われない。「板状体」とは「板(定着板)」のことであるが、「定着板7」としての完成前の状態であることから、「板状体」と呼称している。
【0014】
この場合も、繊維強化複合材片4への加熱時には、繊維強化複合材片4に含浸している合成樹脂が溶融し得る、もしくは流動化し得る、または軟化して粘着性を有し得る温度に繊維強化複合材片4が加熱される。下型8と上型9との間の繊維強化複合材片4が加熱されながら、全繊維強化複合材片の体積が減少し得る圧力で加圧されることで、挿通孔7aのない板状体が成形される。成形後の板状体にはドリル、パンチングその他の手段により挿通孔7aが穿設される。
【0015】
定着板7の形状を特定する「板状」とは、表裏面(上下面)が実質的に、あるいはほぼ平坦な板状(平板状)であることを言い、外形は方形状であるか、円形状、または多角形状等であるかを問わない。「実質的に平坦」とは、表裏面が凹曲面、または凸曲面をなしていることを含む趣旨であり、完全な平坦面を含む。「平面上の中央部」は定着板7を厚さ方向に見たときの中央部であり、「孔」はPC鋼材等の引張材(緊張材)が挿通するための挿通孔7aであり、孔の形状は円形状と多角形状等がある。請求項5で言う「平板状」は上記のように挿通孔7aの形成前の板状の定着板7を言い、その形状は「板状(平板状)」である。
【0016】
強化繊維束1は炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の強化繊維の糸を数千本〜数百万本、束ねて形成された繊維の束である。この強化繊維束1中に流動性のある合成樹脂が含浸させられることにより繊維強化複合材3が構成される。ここで、強化繊維の糸からなる強化繊維束1内には強化繊維の糸間の一体性を高めるために、集束剤が付与されていることもある。
【0017】
合成樹脂の接着性に起因する多数の繊維強化複合材片4、4同士の一体化の程度、あるいは一体化した状態は強化繊維束1への合成樹脂の含浸量に依存すると考えられる。
【0018】
また多数の繊維強化複合材片4の集合と一体化により成形される定着板7の表面、すなわち使用状態での上面に厚さ方向の部分的な集中荷重、あるいは分布荷重が作用したときに、その部分の反対側の面である下面(背面)が強度上の弱点になり易く、引張力により損傷を受ける可能性が想定され得る。このような場合には、特に定着板7の裏面(下面)に繊維強化複合材片4を集中させる、すなわち定着板7の裏面(下面)における繊維強化複合材片4の密度を高めることで、定着板7の裏面(下面)を集中荷重等に対して補強することが可能である。
【0019】
この場合、多数の繊維強化複合材片4から成形される定着板7の裏面(下面)側に占める強化繊維の比率が高まることで、強化繊維の密度が上がり、相対的に合成樹脂の密度が下がるため、定着板7の表面(上面)が受ける集中荷重等による裏面(下面)の損傷に対する安全性が向上する。
【0020】
定着板7の裏面(下面)側部分の多くを合成樹脂が占め、繊維の密度が低い状態では、集中荷重(圧力)により合成樹脂が流動し易い状態にあるため、定着板7が変形し易いと考えられる。これに対し、定着板7の裏面側に繊維が密に存在することで、互いに接着し、引張力に対する抵抗要素である繊維が合成樹脂の流動を拘束するように働く結果、繊維の密度が低い場合との対比では合成樹脂の流動が生じにくくなると考えられる。結果として定着板7に変形が生じにくくなり、定着板7の表面が受ける集中荷重等による裏面の損傷に対する安全性が向上することになる。
【0021】
定着板7の引張力を受ける側の面である裏面(下面(背面))を集中荷重等に対して補強することは、定着板7の厚さ方向の片面に強化繊維シート71を貼着することによっても可能である(請求項
2、6)。定着板7の厚さ方向の片面は原則として定着板7への厚さ方向の荷重に対し、引張力を受ける側の面である使用状態での裏面(下面)を指す。「貼着」は接着、または圧縮、もしくは圧縮と熱を伴う接着(圧着)等により定着板7本体に一体化することを意味する。強化繊維シート71としては主に炭素繊維シート、アラミド繊維シート等が使用される。強化繊維シート71はこの他、織物、編物、不織布、あるいはこれらと合成樹脂との複合体も含み、この場合の合成樹脂は繊維強化複合材4と同様な接着性を有することが適切である。
【0022】
定着板7は接着性のある合成樹脂を含浸させた繊維強化複合材3を切断して形成された繊維強化複合材片4への加熱を伴う加圧により成形されるため(請求項
3、4)、繊維強化複合材片4への加圧時に、定着板7となる繊維強化複合材片4の少なくともいずれか一方の片面側に強化繊維シート71を配置して両者を同時に加圧することで、圧縮を伴う接着により強化繊維シート71を定着板7本体に一体化させ、強化繊維シート71が貼着された定着板7を製作することになる(請求項6)。請求項4、5における「合成樹脂が溶融等し得る温度への加熱を伴いながら」とは、「加熱を継続しながら加圧すること」と「加熱温度が一定温度に到達後には加熱操作を中止して加圧すること」を含む趣旨である。加熱温度が一定温度に達した後には加熱を止めてもその温度は持続し、「加熱状態での加圧」は実現されるからである。
【0023】
この場合、請求項4、もしくは請求項5の製作方法における下型8と上型9との間に繊維強化複合材片4を充填する工程において、下型8の上に繊維強化複合材片4の充填前に強化繊維シート71を配置し、または下型8の上に充填された繊維強化複合片4の上に強化繊維シート71を配置し、そのまま下型8と上型9を加圧することにより厚さ方向の少なくともいずれか一方の片面に強化繊維シート71が貼着された定着板7が製作される(請求項6)。
【0024】
定着板7に強化繊維シート71が貼着された場合(請求項
2、6)、引張力に対する抵抗要素となる強化繊維シート71が引張力を負担することで、定着板7本体の引張力に対する負担が軽減されるため、定着板7の集中荷重に対する安定性が向上し、定着板7が厚さ方向の荷重を受けて損傷する可能性が低下する。
【0025】
繊維強化複合材3は元の素材である紐状の強化繊維束1の形状のまま(請求項4)、
図1に示すように強化繊維束1等への合成樹脂の含浸によって形成されるため、強化繊維束1への合成樹脂の含浸時には例えば軸方向に線状に連続した形状、または螺旋状に撚り込まれた形状になっている。
図1に示すように強化繊維束1への合成樹脂の含浸後、合成樹脂が乾燥させられ、硬化してから繊維強化複合材3が一定範囲内の長さの繊維強化複合材片4に切断された後、この切断によって生じる繊維強化複合材片4が
図3−(b)に示すように下型8と上型9との間に充填される(請求項4)。「一定範囲内の長さ」は前記のように繊維強化複合材片4の単体が下型8と上型9間に収納される程度の大きさを言う。
【0026】
下型8と上型9の形状は互いに組み合わせられたときに両者間に形成される空間が円板状、多角形板状等の板状になる形状であればよい。下型8と上型9との間に形成される空間の形状が、この空間内に充填され、圧縮されて形成される定着板7の形状になる。定着板7は使用される部位に応じ、全体が一様な厚さの場合と、全体的に、または部分的に厚さが変化する場合がある。「板状」とは、上下面(表裏面)が完全に平坦な板(平板)と、この形状の板に近い立体形状を含む形状を意味する。
【0027】
下型8と上型9間への繊維強化複合材片4の充填後の加熱と加圧により挿通孔7aを有する定着板7を成形する場合(請求項4)、下型8と上型9との間には、
図3−(a)に示すように厚さ方向の加圧により成形される定着板7の平面上の中央部に形成される、引張材が挿通する挿通孔7aを形成するための中間の型となる
図2−(c)に示す凸部81が配置、もしくは形成される。定着板7に挿通孔7aを形成するための凸部81は下型8の底板8aに対向する上型9の上板9aに形成等されることもある。定着板7の挿通孔7aは基本的には1箇所、形成されるが、平面上の中央部の複数箇所に分散して複数個、形成されることもある。
【0028】
下型8と上型9間への繊維強化複合材片4の充填後の加熱と加圧により板状体を成形した後、この板状体に挿通孔7aを形成(穿設)する場合(請求項5)には、下型8と上型9との間に凸部81が配置、もしくは形成される必要はなく、下型8と上型9は互いに組み合わせられたときに板状の空間を形成可能であればよい(請求項5)。ここで言う「板状体」は前記のように上下面が完全に平坦な板である必要はなく、挿通孔7a形成前の板(平板)を指す。
【0029】
図3は下型8と上型9とは別体の円柱状の凸部81を下型8の底板8a上に設置し、上型9に凸部81が挿通可能な挿通孔9bを形成した場合の例を示すが、下型8の底面に凸部81を形成する場合にも、上型9には凸部81が挿通可能な挿通孔9b、または凸部81が嵌合可能な凹部が形成される。製作すべき定着板7の厚さを小さく設定する場合には、下型8の底面上に繊維強化複合材片4の充填量を低減するための、
図2−(e)に示す調整板10が載置される。調整板10にも凸部81が挿通可能な挿通孔10aが形成される。
【0030】
請求項4における「中央部に孔を有する板状の空間」とは、定着板7製作用の型としての下型8と上型9と凸部81が形成する、両型8、9と凸部81を除いた空間のことであり、「板状の空間」は下型8と上型9の対向する面間に形成される、両型8、9に挟まれた空間を言い、「中央部に孔を有する空間」は凸部81の周囲に形成される空間を言う。この下型8と上型9と凸部81が形成する「中央部に孔を有する板状の空間」内に多数の繊維強化複合材片4が収納され、加熱を伴いながら圧縮されることによりその空間の形状通りの形状の定着板7が成形される。
【0031】
繊維強化複合材片4は下型8と上型9との間に充填された後、合成樹脂が溶融し得る、もしくは流動化し得る、または軟化して粘着性を有し得る温度への加熱を伴いながら、下型8と上型9内の全繊維強化複合材片の体積が減少し得る圧力で加圧されることで、下型8と上型9が互いに対向する方向に圧縮された板状の定着板7が製作される(請求項4)。なお、下型8と上型9内の全繊維強化複合材片の体積とは、下型8と上型9内に充填された加圧前の繊維強化複合材片4が重なり合い、それぞれの繊維強化複合材片4間に空間を有する見かけ上の体積のことを言い、定着板7の成形時に、繊維強化複合材片4が加熱されながら加圧されることでそれ自体の体積が減少することも減少しないこともある。
【0032】
繊維強化複合材片4を加圧する工程においては、定着板7の厚さ方向に積層される繊維強化複合材片4を厚さ方向に圧密させ、1枚の定着板7を構成する繊維強化複合材片4の密度を増し、定着板7としての圧縮強度と引張強度を高める目的で、繊維強化複合材片4の加熱を、または加熱と加圧を複数回、繰り返すこともある(請求項7)。この場合、定着板7の厚さ方向に圧密され、積層化する繊維強化複合材片4の層内での密度のむらが低減される意味もある。
【0033】
「合成樹脂が溶融し得る、もしくは流動化し得る、または軟化して粘着性を有し得る」とは、合成樹脂が液体化し、強化繊維束1等中に含浸する状態になること、あるいは合成樹脂が軟化して粘着性を発揮する状態、好ましくは更に流動性を有し、変形することが可能な状態になることを言う。「全繊維強化複合材片の体積が減少し得る圧力」とは、圧力を除去した後に繊維強化複合材片4が弾性によって復元せず(塑性化し)、あるいは加圧される前の繊維強化複合材片4が原形を留めず、全繊維強化複合材片を例えば隙間なく集めたときの体積が加圧後に減少し得る程度の圧力を言う。「減少し得る」とは、全繊維強化複合材片の体積が必ずしも加圧後に減少しているとは限らない意味である。
【0034】
下型8と上型9内での加圧と加熱の結果、融合した繊維強化複合材片4は繊維強化複合材3の原料である多量の強化繊維が他の原料である合成樹脂内に混入した状態で硬化し、強化繊維は定着板7の面内方向に複数の方向を向き、厚さ方向に密に配置された状態になる。このときの加圧は下型8と上型9が対向する方向であるため、繊維の方向は主に厚さ方向に直交する方向(定着板7の面内方向)を向く。「下型8と上型9の対向する方向」は定着板7の厚さ方向である。
【0035】
ここで、多数の繊維強化複合材片4に対する加熱と加圧の結果、中央部に孔(挿通孔7a)を有し、一定寸法に成形された定着板7の試験体に条件を変えて厚さ方向に圧縮力を加えたときの条件(CASE)を
図7−(a)〜(d)に、条件毎の荷重と変位の関係を
図8−(a)〜(d)に示す。加圧時の詳しい条件は以下の表1に示す。
【0036】
試験体(定着板7)に圧縮力を加えている載荷試験の状況を示す
図6−(a)のように載荷試験は試験体が実際の定着板7としての使用状況を想定し、PC鋼材や地盤アンカー等の引張材の端部を受ける状態を再現する形で行われた。
図6−(b)は挿通孔7aの周囲に、試験体(定着板7)に作用する荷重と歪みを測定する歪みゲージ16を接続した試験体の背面(裏面)の様子を、(c)は試験体の使用状態での背面(下面)、または表面(上面)となる片面に強化繊維シート71を貼着した様子を示している。(d)はベースプレート14を、(e)はナット15を示している。
【0037】
ここでは強化繊維シート71に接着性のある合成樹脂を含浸させ、試験体(定着板7)の本体との一体性を高めている。この場合、強化繊維シート71は
図4−(a)、(b)に示す要領で繊維強化複合材片4と共に加熱・加圧されることで、成形された定着板7(試験体)の片面に貼着される。ここで使用した強化繊維シート71の厚さは合成樹脂を含浸させた状態では1.1mm程度であったが、加熱と加圧を受けることで、0.59mm(約54%)にまで圧縮されている。
【0038】
図6−(a)では加圧装置17の反力を受ける反力台としての載荷台18の上に載置された、引張材が挿通するための開口を有するベースプレート14の上に試験体(定着板7)を載置し、引張材をナット定着する場合を想定して試験体の上にナット15を配置し、このナット15の上に加圧装置17を設置し、ナット15と加圧装置17の間に荷重計19を介在させている。ベースプレート14は定着板7を直接、受けるベースプレート、またはコンクリート造の構造体を想定した受け材である。試験体は上面の挿通孔の周辺に載置されるナット15から圧縮力を受け、下面の周辺部分で支持されたベースプレート14から反力を受ける状態にある。
【0039】
各条件の説明と結果を以下の表1に示す。各条件の試験体として複数のサンプルを用意し、結果としての最大荷重と最大歪みには平均値を記載してある。試験体の寸法は約縦200mm×横200mm×厚さ23mm程度である。
【0040】
【表1】
【0041】
表1中のCASE4は本発明の定着板7と対比されるべき、地盤アンカー等の引張材の端部を定着させるための定着板(アンカープレート)として使用される一般構造用鋼材(SS400)から成形された孔あきの定着板(プレート)の加圧条件と結果を示している。本発明の定着板7の載荷試験はこのCASE4(定着板)の結果と比較する目的で実施された。
【0042】
CASE1〜3の試験体(定着板7)を構成する繊維強化複合材3の元になる強化繊維としては炭素繊維を用い、(接着性のある)合成樹脂にはエポキシ樹脂(熱可塑性エポキシ樹脂)を使用している。CASE1〜3の試験体の2方向の長さは200mm、厚さは約23mmで、平面上の中央部に厚さ方向に貫通する径46mmの挿通孔7aを有し、質量は1.35kgである。
【0043】
試験体としての定着板は寸法から約261kNの引張強度(降伏点荷重:約222kN)を有する引張材を支持する能力を有するプレート(鋼板)を想定している。ナットサイズを説明する表1中の「対辺」は
図6−(e)に示すように六角ナットの対向する2面間距離dを言う。CASE4(鋼材)の試験体(定着板)の寸法はCASE1〜3の試験体とほぼ同一であり、質量は7.5kgである。
【0044】
CASE1とCASE2では試験体の片面に引張抵抗材としての強化繊維シート71を貼着した場合の効果の有無を確認する目的で、それぞれ強化繊維シート71を試験体のベースプレート14(下面)側と、試験体のナット15(上面)側に貼着している。表1中では強化繊維シート71をシートと略している。試験体の底面には前記のように歪みゲージ16が接続されている。試験では強化繊維シート71として厚さ0.59mmの炭素繊維シートを使用している。
【0045】
CASE1とCASE2の結果(
図8−(a)、(b))の対比から、CASE1では荷重の増加に伴う歪みの増加が平坦で、変形性状が安定しているのに対し、CASE2では歪みに揺らぎがあり、変形が安定していないものの、歪みが平均でCASE1の5分の1程度に留まっていることが分かる。また試験体を構成する多数の繊維強化複合材片4の方向は放射方向に均等に分散しているとは限らず、サンプル毎にばらつきがあるため、CASE3の結果のようにサンプル毎に歪みにもばらつきが生じ易い。強化繊維シート71を貼着していないCASE3との対比でCASE1とCASE2を見れば、CASE1とCASE2とでは強化繊維シート71の貼着面が相違するものの、強化繊維シート71はこの繊維強化複合材片4のばらつきに起因する歪みのばらつきを抑制する作用があると考えられる。
【0046】
CASE1とCASE2とでは最大荷重に明確な差が表れていないが、強化繊維シート71を載荷面の反対側に貼着したCASE1ではCASE2より変形性状が安定していることから、強化繊維シート71は試験体の引張面に貼着されることで、試験体の変形性状を安定させる働きがあると考えられる。またCASE1とCASE2との対比では、最大荷重に明確な差はないものの、強化繊維シート71を試験体の引張面に貼着したCASE1の最大荷重約130kNはCASE2の最大荷重約120kNより約8%程度、大きいことから、強化繊維シート71は引張抵抗材としての機能も発揮していると言える。
【0047】
板状(平板状)の試験体が下面(裏面)側の周辺で支持された状態で上面(表面)側から集中荷重等を受けたとき、下面(裏面)側が引張力を負担し、上面(表面)側が圧縮力を負担する関係から、上記「引張面」は試験体への載荷面の反対側の面である下面を指す。強化繊維シート71は引張抵抗材であるから、試験体が引張力を負担する下面(裏面)側に貼着されることが力学的にも合理的と言える。
【0048】
CASE1及びCASE2とCASE3との違いは、後者(CASE3)では強化繊維シート71の貼着がない点の他、ナット15の寸法(対辺)が大きいことにあり、CASE3のナット15の対辺72mmはCASE1、2のナット15の対辺55mmの約1.3倍程度、大きい。この違いに主に起因し、CASE3はCASE1の強度(最大荷重)の1.53倍、CASE2の強度の1.67倍に相当する約200kNの強度を達成している。この数値はCASE1、2と同一のナット15を使用した場合のCASE4の強度の0.87倍程度の大きさである。
【0049】
前記のように強化繊維シート71の貼着の有無の違いが試験体の明確な、あるいは極端な強度の違いに表れていないことを踏まえれば、ナット15の対辺の大きさがCASE3の強度の増加に影響している可能性が高いと言える。CASE3ではナット15の対辺がCASE1、2の場合より大きいことで、荷重を受ける試験体の面積が大きくなり、圧縮荷重が広範囲に分散して作用する結果として、CASE1、2より強度が増したと考えられる。
【0050】
CASE3(複合材片)とCASE4(鋼材)とではナット15の寸法に差があるものの、CASE3の最大荷重がCASE4の最大荷重の0.87倍の約200kNを達成していることから、CASE3の試験体とナット15の組み合わせによりCASE4の場合と遜色ない程度の圧縮力負担能力を発揮できると言える。特にCASE3の定着板7の質量は1.35kgであるのに対し、CASE4の鋼材の質量は7.5kgであるから、質量を対比すれば、CASE3の定着板7は1.35/7.5よりCASE4の鋼材を用いた定着板の約18%の質量でありながら、鋼材に劣らない圧縮強度を発揮していると言える。従ってCASE3の定着板7は鋼材の定着板に代わる役割を発揮しながらも、鋼材との対比では取り扱い作業性が格段に向上する効果を有すると言える。