特許第6670153号(P6670153)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670153
(24)【登録日】2020年3月3日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】蓄熱部材
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20200309BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20200309BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20200309BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
   F28D20/00 G
   F28D20/00 A
   C09D1/00
   C04B41/87 M
   C04B41/85 C
   C04B41/85 H
【請求項の数】18
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-73486(P2016-73486)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-181009(P2017-181009A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年10月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237868
【氏名又は名称】エヌジーケイ・アドレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(72)【発明者】
【氏名】三輪 真一
(72)【発明者】
【氏名】木下 寿治
(72)【発明者】
【氏名】樋本 伊織
【審査官】 山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−089091(JP,A)
【文献】 特開2013−124823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC焼結体を主成分とする基材と、
前記基材の表面に配設された、コート層と、
前記コート層の表面に配設された、反応媒体との可逆的な化学反応によって蓄熱、放熱する蓄熱材、または物理的吸着・脱離によって蓄熱、放熱する蓄熱材と、を備え、
前記コート層の軟化点が、1000℃以下であり、
前記コート層が、当該コート層中に分散した、平均粒子径5nm〜100μmの微粒子を含む、蓄熱部材。
【請求項2】
前記コート層が主成分としてPを含有し、Pの含有率が、20〜45質量%である、請求項1に記載の蓄熱部材。
【請求項3】
前記コート層が主成分としてBを含有し、Bの含有率が、20〜45質量%である、請求項1に記載の蓄熱部材。
【請求項4】
前記コート層が主成分としてBiを含有し、Biの含有率が、65〜85質量%である、請求項1に記載の蓄熱部材。
【請求項5】
前記コート層が副成分としてAl、SiO、ZnO、V、PbO、SnO、BまたはBiのうちいずれか一種以上を含有する、請求項2に記載の蓄熱部材。
【請求項6】
前記コート層が副成分としてAl、SiO、ZnO、V、PbO、SnO、PまたはBiのうちいずれか一種以上を含有する、請求項3に記載の蓄熱部材。
【請求項7】
前記コート層が副成分としてAl、SiO、ZnO、V、PbO、SnO、PまたはBのうちいずれか一種以上を含有する、請求項4に記載の蓄熱部材。
【請求項8】
前記コート層が副成分としてROで表わされるCaO、BaO、SrO、またはROで表わされるLiO、NaO、KOうちいずれか一種以上を含有する、請求項2〜7のいずれか一項に記載の蓄熱部材。
【請求項9】
前記コート層が副成分としてTeO、TiOのうちいずれか一種以上を含有する、請求項2〜8のいずれか一項に記載の蓄熱部材。
【請求項10】
前記基材は、原料が不可避的に含有する不純成分を除き、骨格におけるSiCの含有比率が、40〜99.7質量%である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の蓄熱部材。
【請求項11】
前記基材が多孔質材料であり、
前記コート層が、前記基材における空隙の少なくとも表面の一部に配設されている、請求項1〜10のいずれか一項に記載の蓄熱部材。
【請求項12】
前記基材が、水銀圧入法によって測定された気孔率が1%以下の骨格で構成され、連続した前記骨格により形成される複数の空隙が連通し、前記骨格の理論密度及びかさ密度より下記式(1)にて算出される空隙率が30〜95%となる三次元網目状構造を有し、
前記コート層が、前記基材の前記三次元網目状構造における前記空隙の少なくとも表面の一部に配設されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の蓄熱部材。
式(1):空隙率={(理論密度−かさ密度)/理論密度}×100
【請求項13】
前記骨格が、Si−SiC焼結体で構成され、前記骨格における金属Siの含有比率が5〜60質量%である、請求項12に記載の蓄熱部材。
【請求項14】
前記コート層の表面に、凹凸差が0.5〜100μmの突起を有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の蓄熱部材。
【請求項15】
前記コート層の表面積に対する、前記突起の密度が1〜1000000個/10000μmである、請求項14に記載の蓄熱部材。
【請求項16】
前記微粒子が、SiC粒子、金属Si粒子、Si−SiC粒子、及びC粒子のうちの少なくとも1種である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の蓄熱部材。
【請求項17】
前記蓄熱材が、Mg,Ca,Sr,Baの酸化物、Mg,Ca,Sr,Baの水酸化物、Mg,Ca,Sr,Baの炭酸化物、Mg,Ca,Sr,Baの塩化物、Mg,Ca,Sr,Baの硫酸化物、及び、ゼオライトから構成された群より選択される少なくとも一種を含有する、請求項1〜16のいずれか一項に記載の蓄熱部材。
【請求項18】
前記蓄熱材が、平均粒子径が5nm〜100μmの粒子状である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の蓄熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱部材に関する。更に詳しくは、蓄熱材と反応媒体との化学反応または物理的吸着・脱離により、応答性に優れた放熱及び吸熱を実現するとともに、耐久性に優れた蓄熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、蓄熱材を利用して自動車等の排熱を回収・貯蔵し、回収・貯蔵した熱を、次回のエンジン始動時における触媒(排ガス処理触媒)の活性化に利用する技術が提案されている(特許文献1〜3参照)。このような技術によれば、蓄熱材が回収・貯蔵した熱を放熱することで、排ガス処理触媒を早期に加熱し、触媒活性の時間短縮を図ることができる。例えば、特許文献1に記載された蓄熱装置では、蓄熱材として、反応媒体との可逆的な化学反応によって蓄熱、放熱する化学蓄熱材が用いられている。
【0003】
ここで、化学蓄熱材とは、化学反応を利用して、熱の吸収、放出を行うことができる物質のことをいう。以下、本明細書において、「化学蓄熱」とは、化学反応を利用した熱の吸収、放出のことをいう。化学蓄熱材を用いた化学蓄熱は、熱を比較的に高密度に、且つ長期間に亘り貯蔵、再利用できるという利点がある。
【0004】
一方、一般に、ゼオライトへの水の物理的吸着・脱離を利用したヒートポンプの可能性が示されており、実用化に向けた研究・開発が進められているが、実用化においてゼオライトの低熱伝導性により効率が低下する問題がある。また、塩化マグネシウム(MgCl)へのNHの物理的吸着・脱離を利用したヒートポンプの可能性が示されているが、塩化マグネシウムの低熱伝導性により効率が低下する。
【0005】
特許文献1に記載された蓄熱装置においては、蓄熱材として、酸化カルシウム(CaO)等が用いられている。酸化カルシウムに、水を加えると、水酸化カルシウム(Ca(OH))が生成され、その際に、反応熱が放出される。すなわち、この反応は、発熱反応である。一方で、水酸化カルシウムに熱を加えると、水酸化カルシウムが脱水反応を起こし、酸化カルシウム(CaO)と水(HO)とが生成される。この反応は、吸熱反応である。上述した酸化カルシウム(別言すれば、水酸化カルシウム)における化学反応は、可逆的なものであり、上述した吸熱反応を、排熱を回収に利用し、上述した発熱反応を、化学蓄熱材からの放熱に利用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−27311号公報
【特許文献2】特開2013−112706号公報
【特許文献3】特開2015−40646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、化学蓄熱は、熱を比較的に高密度に、且つ長期間に亘り貯蔵、再利用できるという利点がある。しかしながら、化学蓄熱材を利用した化学蓄熱装置は、発熱、及び吸熱の応答性が低いという問題があった。特に、化学蓄熱装置を、エンジン始動時における触媒の加熱に利用するためには、触媒活性温度までの迅速な発熱が望まれており、従来の化学蓄熱装置においては、このような迅速な発熱の実現が困難であった。
【0008】
上述した迅速な発熱の実現が困難な理由として、化学蓄熱材の熱伝導率が低いことが挙げられる。すなわち、化学蓄熱材の発熱反応は、当該化学蓄熱材が、反応媒体と接触することにより進行する。ただし、化学蓄熱材は熱伝導率が低いため、発熱した熱が放熱されるまでに時間が掛かり、発熱した熱が未反応部分の化学蓄熱材に伝達し、未反応部分の化学蓄熱材の反応性(発熱反応の反応性)が低下してしまう。例えば、化学蓄熱材が、粒子状の形状を呈するものであると、粒子状の化学蓄熱材の表面近傍にて、発熱反応が飽和し、十分で且つ迅速な発熱が困難となる。
【0009】
また、化学蓄熱材の発熱、吸熱の応答性が低いことも理由として挙げられる。例えば、化学蓄熱材として酸化カルシウムを用いた場合、酸化カルシウムの発熱反応は、以下のように進行する。酸化カルシウムに、水を反応させる発熱反応において、固体状の酸化カルシウムの表面では、酸化カルシウムと水とが素早く接触し、発熱反応が比較的に迅速に進行する。一方で、固体状の酸化カルシウムの内部においては、酸化カルシウムの表面に付着した水が、酸化カルシウムの内部まで拡散し、当該拡散した水と酸化カルシウムとが反応する。このため、固体状の酸化カルシウムの内部では、発熱反応が開始するまでに所望の時間を要することがあり、このことが、化学蓄熱材の発熱、吸熱の応答性の低下の要因となっていることが推察される。
【0010】
また、従来、化学蓄熱材を、セラミック等からなる担体に担持した化学蓄熱部材も提案されている。このような化学蓄熱部材においては、化学蓄熱材の蓄熱、放熱が繰り返し行われることによって、化学蓄熱材の凝集が生じ、担体から化学蓄熱材が剥離脱落してしまうという問題があった。このため、担体から化学蓄熱材が剥離脱落し難い、耐久性に優れた化学蓄熱部材の開発が要望されている。
【0011】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものである。本発明によれば、蓄熱材と反応媒体との化学反応または物理的吸着・脱離により、応答性に優れた放熱及び吸熱を実現するとともに、耐久性に優れた蓄熱部材が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、以下に示す、蓄熱部材が提供される。
【0013】
[1] SiC焼結体を主成分とする基材と、前記基材の表面に配設された、コート層と、前記コート層の表面に配設された、反応媒体との可逆的な化学反応によって蓄熱、放熱する蓄熱材、または物理的吸着・脱離によって蓄熱、放熱する蓄熱材と、を備え、前記コート層の軟化点が、1000℃以下であり、前記コート層が、当該コート層中に分散した、平均粒子径5nm〜100μmの微粒子を含む、蓄熱部材。
【0014】
[2] 前記コート層が主成分としてPを含有し、Pの含有率が、20〜45質量%である、前記[1]に記載の蓄熱部材。
【0015】
[3] 前記コート層が主成分としてBを含有し、Bの含有率が、20〜45質量%である、前記[1]に記載の蓄熱部材。
【0016】
[4] 前記コート層が主成分としてBiを含有し、Biの含有率が、65〜85質量%である、前記[1]に記載の蓄熱部材。
【0017】
[5] 前記コート層が副成分としてAl、SiO、ZnO、V、PbO、SnO、BまたはBiのうちいずれか一種以上を含有する、前記[2]に記載の蓄熱部材。
【0018】
[6] 前記コート層が副成分としてAl、SiO、ZnO、V、PbO、SnO、PまたはBiのうちいずれか一種以上を含有する、前記[3]に記載の蓄熱部材。
【0019】
[7] 前記コート層が副成分としてAl、SiO、ZnO、V、PbO、SnO、PまたはBのうちいずれか一種以上を含有する、前記[4]に記載の蓄熱部材。
【0020】
[8] 前記コート層が副成分としてROで表わされるCaO、BaO、SrO、またはROで表わされるLiO、NaO、KOうちいずれか一種以上を含有する、前記[2]〜[7]のいずれかに記載の蓄熱部材。
【0021】
[9] 前記コート層が副成分としてTeO、TiOのうちいずれか一種以上を含有する、前記[2]〜[8]のいずれかに記載の蓄熱部材。
【0022】
[10] 前記基材は、原料が不可避的に含有する不純成分を除き、骨格におけるSiCの含有比率が、40〜99.7質量%である、[1]〜[9]のいずれかに記載の蓄熱部材。
【0023】
[11] 前記基材が多孔質材料であり、前記コート層が、前記基材における空隙の少なくとも表面の一部に配設されている、前記[1]〜[10]のいずれかに記載の蓄熱部材。
【0024】
[12] 前記基材が、水銀圧入法によって測定された気孔率1%以下の骨格で構成され、連続した前記骨格により形成される複数の空隙が連通し、前記骨格の理論密度及びかさ密度より下記式(1)にて算出される空隙率が30〜95%となる三次元網目状構造を有し、前記コート層が、前記基材の前記三次元網目状構造における前記空隙の少なくとも表面の一部に配設されている、前記[1]〜[11]のいずれかに記載の蓄熱部材。
式(1):空隙率={(理論密度−かさ密度)/理論密度}×100
【0025】
[13] 前記骨格が、Si−SiC焼結体で構成され、前記骨格における金属Siの含有比率が5〜60質量%である、前[12]に記載の蓄熱部材。
【0026】
[14] 前記コート層の表面に、凹凸差が0.5〜100μmの突起を有する、前記[1]〜[13]のいずれかに記載の蓄熱部材。
【0027】
[15] 前記コート層の表面積に対する、前記突起の密度が1〜1000000個/10000μmである、前記[14]に記載の蓄熱部材。
【0029】
16] 前記微粒子が、SiC粒子、金属Si粒子、Si−SiC粒子、及びC粒子のうちの少なくとも1種である、前記[1]〜[15]のいずれかに記載の蓄熱部材。
【0030】
17] 前記蓄熱材が、Mg,Ca,Sr,Baの酸化物、Mg,Ca,Sr,Baの水酸化物、Mg,Ca,Sr,Baの炭酸化物、Mg,Ca,Sr,Baの塩化物、Mg,Ca,Sr,Baの硫酸化物、及び、ゼオライトから構成された群より選択される少なくとも一種を含有する、前記[1]〜[16]のいずれかに記載の蓄熱部材。
【0031】
18] 前記蓄熱材が、平均粒子径が5nm〜100μmの粒子状である、前記[1]〜[17]のいずれかに記載の蓄熱部材。
【発明の効果】
【0032】
本発明の蓄熱部材は、SiC焼結体を主成分とする基材と、基材の表面に配設された、コート層と、コート層の表面に配設された、蓄熱材を備えたものである。蓄熱材は、反応媒体との可逆的な化学反応によって蓄熱、放熱する蓄熱材、または物理的吸着・脱離によって蓄熱、放熱する蓄熱材である。そして、本発明の蓄熱部材においては、当該コート層の軟化点が、1000℃以下である。本発明の蓄熱部材によれば、蓄熱材と反応媒体との化学反応または物理的吸着・脱離によって、応答性に優れた放熱及び吸熱を実現することができる。また、本発明の蓄熱部材は、基材に配設されたコート層からの蓄熱材の剥離脱落を有効に抑制することができる。したがって、本発明の蓄熱部材によれば、蓄熱と放熱とが交互に繰り返される使用に際し、高い耐久性(別言すれば、蓄熱材の耐剥離性)を実現することができる。
【0033】
また、本発明の蓄熱部材は、蓄熱材を分散担持させる担体として、熱伝導性に優れた「SiC焼結体を主成分とする基材」が用いられている。このため、蓄熱材の発熱反応によって生じた熱を、被膜状のコート層を介して、基材に素早く伝達させる(別言すれば、発熱反応によって生じた熱を、基材に逃がす)ことができる。したがって、蓄熱材の高温状態が維持され難く、蓄熱材の発熱反応を良好に進行させることができる。吸熱反応時においても、蓄熱材と基材との熱伝達を、被膜状のコート層を介して、良好に行うことで、蓄熱材の吸熱反応を良好に進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の蓄熱部材の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示す蓄熱部材の、第一の端面から第二の端面に向かう方向に直交する断面を模式的に示す断面図である。
図3図2に示す蓄熱部材のAに示される範囲を拡大した、拡大模式図である。
図4図3に示す範囲の一部を更に拡大した、拡大模式図である。
図5】本発明の蓄熱部材の他の実施形態における、図4に示される範囲と同様の範囲を拡大した、拡大模式図である。
図6】本発明の蓄熱部材の一の実施形態に用いられる基材の製造工程を説明するフロー図である。
図7】本発明の蓄熱部材の一の実施形態に用いられる基材の製造工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0036】
(1)蓄熱部材:
本発明の蓄熱部材の一の実施形態は、図1図4に示すような蓄熱部材100である。本実施形態の蓄熱部材100は、SiC焼結体10aを主成分とする基材10と、基材10の表面に配設された、コート層51と、コート層51の表面に配設された、蓄熱材50と、を備えたものである。蓄熱材50は、反応媒体との可逆的な化学反応によって蓄熱、放熱する蓄熱材50、または物理的吸着・脱離によって蓄熱、放熱する蓄熱材50である。本実施形態の蓄熱部材100においては、コート層51の軟化点が、1000℃以下である。図1及び図2においては、基材10が、第一の端面11及び第二の端面12を有する円柱である場合の例を示している。
【0037】
本実施形態の蓄熱部材100によれば、蓄熱材50と反応媒体との化学反応または物理的吸着・脱離により、応答性に優れた放熱及び吸熱を実現することができる。また、本実施形態の蓄熱部材100は、基材10に配設されたコート層51からの蓄熱材50の剥離脱落を有効に抑制することができる。したがって、本実施形態の蓄熱部材100によれば、蓄熱と放熱とが交互に繰り返される使用に際し、高い耐久性(別言すれば、蓄熱材50の耐剥離性)を実現することができる。
【0038】
蓄熱材として、例えば、Ca(OH)を使用する場合、Ca(OH)を500〜600℃に加熱することによって、CaOとなる。また、蓄熱材として、例えば、CaCOを使用した場合、CaCOを800〜900℃に加熱することによってCaOとCOに分解することができる。すなわち、蓄熱部材の使用において、基材およびコート層は、常温から900℃程度の加熱・冷却サイクルに晒される。コート層51の軟化点が、1000℃より高いと、コート層が十分軟化せず、蓄熱材の担持性が著しく低下するため、蓄熱材が剥離脱落しやすくなる点で好ましくない。
【0039】
すなわち、コート層が主成分としてPを含有し、Pの含有率が、20質量%未満であると、コート層の軟化点が、著しく高いため、常温から900℃程度の加熱・冷却サイクルにおいて、コート層が十分軟化せず、蓄熱材が剥離脱落しやすくなる点で好ましくない。また、Pの含有率が、45質量%を超えると、コート層に含まれるPと、基材に含まれるSiCとの反応によって基材が溶融しやすくなる点で好ましくない。
【0040】
すなわち、コート層が主成分としてBを含有し、Bの含有率が、20質量%未満であると、コート層の軟化点が、著しく高いため、常温から900℃程度の加熱・冷却サイクルにおいて、コート層が十分軟化せず、蓄熱材が剥離脱落しやすくなる点で好ましくない。また、Bの含有率が、45質量%を超えると、コート層に含まれるBと、基材に含まれるSiCとの反応によって基材が溶融しやすくなる点で好ましくない。
【0041】
すなわち、コート層が主成分としてBiを含有し、Biの含有率が、65質量%未満であると、コート層の軟化点が、著しく高いため、常温から900℃程度の加熱・冷却サイクルにおいて、コート層が十分軟化せず、蓄熱材が剥離脱落しやすくなる点で好ましくない。また、Biの含有率が、85質量%を超えると、コート層に含まれるBiと、基材に含まれるSiCとの反応によって基材が溶融しやすくなる点で好ましくない。
【0042】
更に、本実施形態の蓄熱部材100は、蓄熱材50を分散担持させる担体として、熱伝導性に優れた「SiC焼結体10aを主成分とする基材10」が用いられている。このため、蓄熱材50の発熱反応によって生じた熱を、被膜状のコート層51を介して、基材10に素早く伝達させる(別言すれば、発熱反応によって生じた熱を、基材10に逃がす)ことができる。したがって、蓄熱材50の高温状態が維持され難く、蓄熱材50の発熱反応を良好に進行させることができる。吸熱反応時においても、蓄熱材50と基材10との熱伝達を、被膜状のコート層51を介して、良好に行うことで、蓄熱材50の吸熱反応を良好に進行させることができる。
【0043】
ここで、図1は、本発明の蓄熱部材の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示す蓄熱部材の、第一の端面から第二の端面に向かう方向に直交する断面を模式的に示す断面図である。図3は、図2に示す蓄熱部材のAに示される範囲を拡大した、拡大模式図である。図4は、図3に示す範囲の一部を更に拡大した、拡大模式図である。
【0044】
本実施形態の蓄熱部材100においては、基材10が、SiC焼結体10aを主成分とする基材10によって、反応媒体の流路となる空隙15を有するものであってもよい。図3に示すように、本実施形態の蓄熱部材100においては、空隙15を形成する基材10の表面に、コート層51が被膜状に配設され、このコート層51の表面に、蓄熱材50が配設されている。このような基材10を採用することで、蓄熱材50を配設するための基材10の表面積を大きくすることができ、蓄熱材50と反応媒体との接触面積を十分に確保することができる。これにより、蓄熱材50の発熱反応及び吸熱反応の反応性が高く、応答性に優れた放熱及び吸熱を実現することができる。また、基材10は、反応媒体の流路となる空隙を有する多孔質材料であれば良く、図1図3に示すような三次元網目状構造14であってもよい。
【0045】
また、図5に示すように、コート層51が、このコート層51中に分散した、微粒子52を含むものであってもよい。このような微粒子52を含むことにより、コート層51の比表面積が増大し、基材10の蓄熱材50の担持量(配設量)を増大させることができる。ここで、図5は、本発明の蓄熱部材の他の実施形態における、図4に示される範囲と同様の範囲を拡大した、拡大模式図である。図5において、図4に示す各構成要素と同様に構成されてものについては、同一の符号を付し、その説明を省略することがある。
【0046】
以下、本実施形態の蓄熱部材の各構成要素について、より詳細に説明する。
【0047】
(1−1)基材:
本実施形態の蓄熱部材に用いられる基材は、蓄熱材を分散担持させるための担体である。図1図3に示すように、基材10は、SiC焼結体10aを主成分とするものである。基材10は、空隙を有する多孔質材料であってもよく、例えば、図1図3に示す基材10のように、骨格13を三次元網目状とした構造からなるものであってもよい。本明細書において、骨格13を三次元網目状とした構造のことを、「三次元網目状構造14」という。
【0048】
本実施形態の蓄熱部材は、自動車等の排熱を回収・貯蔵し、回収・貯蔵した熱を、必要に応じて放熱することで、回収・貯蔵した熱を再利用することに用いられる。本実施形態の蓄熱部材に用いられる基材は、SiC焼結体を主成分とすることにより、耐熱性が高く、且つ高い機械的強度を有している。また、上述したように、熱伝導性に優れているため、蓄熱材と基材との熱伝達を、被膜状のコート層を介して良好に行うことで、蓄熱材の発熱反応及び吸熱反応を良好に進行させることができる。
【0049】
基材の形状については特に制限はない。例えば、基材の形状は、第一の端面及び第二の端面を有する柱状であってもよい。柱状の基材の、第一の端面から第二の端面に向かう方向に直交する断面形状は、例えば、四角形等の多角形、円形、楕円形、オーバル形状、或いは、その他の定形外であってもよい。また、基材の形状は、第一の端面及び第二の端面を有する板状であってもよく、第一の端面及び第二の端面を有しない球状であってもよい。
【0050】
次に、図1図3に示すような、三次元網目状構造14を有する基材10の好適例について説明する。
【0051】
三次元網目状構造14を有する基材10は、気孔率1%以下の骨格で構成された三次元網目状構造とすることが好ましい。三次元網目状構造とすることによって、基材の内部の空間では乱流が生じる。すなわち、基材におけるガス流路(入口、出口)に方向性の制約が無いため、設計の自由度が向上する。このように構成することによって、自動車等から排出される排ガスを流通させた際の「排熱の回収効率」を高めることができる。また、例えば、エンジン始動時などの排ガスの温度が低い場合には、蓄熱材を発熱させた状態で、当該排ガスを基材に流通させることにより、排ガスの温度を素早く上昇させることができる。また、上述したように、蓄熱材と反応媒体との接触面積を大きくすることができる。
【0052】
三次元網目状構造を構成する骨格の気孔率は、JIS R 1655(ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔径分布試験方法)に準拠して測定することができる。骨格の気孔率は、1%以下であれば、その下限値については特に制限はない。例えば、三次元網目状構造を構成する骨格は、実質的に気孔を有していない密実なものであってもよい。
【0053】
基材の多孔質材料の空隙率または三次元網目状構造の空隙率が、30〜95%であることが好ましい。ここで、基材の三次元網目状構造の空隙率は、以下のように測定することができる。まず、基材の化学成分を分析し、基材の理論密度(見掛け比重)を測定する。例えば、炭素及び炭化けい素質の基材であれば、基材の化学成分は、JIS R 2011(炭素及び炭化けい素含有耐火物の化学分析方法)に準拠して測定することができる。次に、基材の寸法および質量を測定し、基材のかさ密度を算出する。これらの値を用いて、基材の空隙率は、下記式(1)によって算出することができる。基材の空隙率が30%未満であると、蓄熱材の担持量が低下するとともに通気性が低下する点で好ましくない。一方、基材の空隙率が95%を超えると、基材の強度が著しく低下する点で好ましくない。
式(1):[空隙率={(理論密度−かさ密度)/理論密度}×100]
【0054】
また、基材の多孔質材料の空隙率または三次元網目状構造の空隙率は、30〜95%であることが好ましく、35〜90%であることが更に好ましく、40〜85%であることが特に好ましい。
【0055】
基材を構成する骨格におけるSiCの含有比率または金属Siの含有比率が、以下のように調整されていることが好ましい。以下、特に断りのない限り、「SiCの含有比率」及び「金属Siの含有比率」は、「骨格におけるSiCの含有比率」及び「骨格における金属Siの含有比率」のことを意味する。SiCの含有比率が、原料が不可避的に含有する不純成分を除き、40〜99.7質量%であることが好ましい。例えば、本発明で基材を構成する骨格におけるSiCは不可避的に0.3%以下の不純成分を含有していてもよい。SiCの含有比率が40質量%より少ない場合、基材の熱伝導率が低下することによって、蓄熱材により発生した熱の基材への伝達、及び吸熱反応における基材からの蓄熱材への熱の伝達が十分に行われず、蓄熱材の発熱反応及び吸熱反応の反応性が低下することがある。
【0056】
Si−SiC焼結体を含む基材は、骨格におけるSiCの含有比率及び金属Siの含有比率が、以下の数値範囲となるように構成されていることが好ましい。骨格におけるSiCの含有比率が40〜99.7質量%であるか、または金属Siの含有比率が5〜60質量%であることが好ましい。例えば、基材を構成する骨格におけるSiCは、不可避的に0.3%以下の不純成分を含有していてもよい。SiCの含有比率が40質量%より少ない場合、基材の熱伝導率が低下することによって、蓄熱材により発生した熱の基材への伝達、及び吸熱反応における基材からの蓄熱材への熱の伝達が十分に行われず、蓄熱材の発熱反応及び吸熱反応の反応性が低下することがある。また、金属Siの含有比率が60質量%より多い場合、骨格の熱伝導率が低下することがある。金属Siの含有比率が5質量%より少ない場合、骨格における金属Siの分布が不均一になりやすく、骨格の熱伝導率が不均一になることがある。
【0057】
Si−SiC焼結体を含む基材は、骨格におけるSiCの含有比率が45〜99.7質量%であるか、または金属Siの含有比率が5〜55質量%であることが好ましい。ここで、SiCは、比較的に弾性率が高く(例えば、弾性率が400GPa程度)、金属Siは、比較的に弾性率が低い(例えば、弾性率が100GPa程度)。このため、骨格におけるSiCの含有比率及び金属Siの含有比率を上記数値範囲とすることで、Si−SiC焼結体の弾性率の低下を図ることができる。骨格におけるSiCの含有比率が50〜99.7質量%であるか、金属Siの含有比率が5〜50質量%であることが更に好ましい。Si−SiC焼結体の弾性率の低減は、耐熱衝撃性の向上につながるため、このように構成することによって、基材の耐熱衝撃性が向上し、基材の長寿命化を実現することができる。
【0058】
基材を構成する骨格におけるSiCの含有比率及びSiの含有比率は、JIS R 2011(炭素及び炭化けい素含有耐火物の化学分析方法)に準拠して測定することができる。
【0059】
ここで、すでに蓄熱材が担持された「蓄熱部材」におけるSiCの含有比率及びSiの含有比率の測定において、事前に、蓄熱材を取り除いた後、測定することができる。
【0060】
また、すでにコート層が配設された「基材」におけるSiCの含有比率及びSiの含有比率の測定において、事前に、ふっ酸などの酸に基材を浸漬し、コート層を取り除いた後、測定することができる。
【0061】
基材を構成する骨格の常温における熱伝導率は、30〜250(W/m・K)であることが好ましく、40〜250(W/m・K)であることが更に好ましく、50〜250(W/m・K)であることが特に好ましい。このように構成することによって、基材と蓄熱材との熱の交換をより良好に行うことが可能となり、蓄熱材の発熱・吸熱反応を良好に進行させることができる。基材の熱伝導率が上記数値範囲未満であると、蓄熱材により発生した熱の基材への伝達、及び吸熱反応における基材からの蓄熱材への熱の伝達が十分に行われず、蓄熱材の発熱反応及び吸熱反応の反応性が低下することがある。
【0062】
三次元網目状構造を構成する骨格が、当該骨格の表面に突起を有するものであってもよい。ここで、骨格の表面の突起とは、骨格の表面に、平均高さ0.5〜100μmの凹凸を有することを意味する。骨格の表面に突起を形成する方法としては、例えば、平均粒子径0.5〜100μmの微粒子を、骨格の表面に付着させて、焼結させることによって形成することができる。微粒子としては、例えば、SiCの粉末、Siの粉末、Si−SiCの粉末およびCの粉末等を用いることができる。骨格の表面には、1〜1000000個/10000μmの密度で、上記微粒子によって構成された突起が形成されていることが好ましい。突起の密度は、10〜100000個/10000μmであることが更に好ましく、100〜10000個/10000μmであることが特に好ましい。骨格の表面の突起の高さ及び密度は、以下の方法によって測定することができる。骨格の表面の突起の高さ及び密度は光学顕微鏡または電子顕微鏡を用いて基材を観察することにより、5視野で測定した平均値を突起の高さ及び密度とすることができる。骨格の表面に突起を形成することにより、基材の表面積が増大すると、基材と蓄熱材との物理的な接触面積が増大し、基材と蓄熱材との熱の交換をより良好に行うことが可能となり、蓄熱材の発熱・吸熱反応を良好に進行させることができる。
【0063】
(1−2)コート層:
本実施形態の蓄熱部材において、基材の表面にコート層が配設されている。基材の表面とは、空隙を有する多孔質材料においては、空隙を形成する多孔質材料の表面のことをいい、三次元網目状構造を有する基材においては、三次元網目状構造を構成する骨格の表面のことをいう。そして、基材の表面に配設されたコート層の表面に、蓄熱材が分散担持されている。すなわち、蓄熱材は、コート層との接点において、当該コート層と化学的に融着している。これにより、コート層と蓄熱材の密着性を向上させることができる。コート層は、事前に、コート層を構成する化学成分となるように調整した粉末を、基材の表面に塗工した後、加熱処理によって該粉末を軟化させることによって基材の表面に被膜状に形成することができる。
【0064】
本実施形態の蓄熱部材においては、コート層の軟化点が、1000℃以下である。このようなコート層は、基材の表面にコート層を配設するための焼き付け工程、および、蓄熱部材の使用時での、基材およびコート層への常温から900℃程度の加熱・冷却サイクルにおいて、コート層が十分軟化し、蓄熱材の担持性が向上する。このため、蓄熱部材からの蓄熱材の剥離脱落を有効に防止することができる。
【0065】
コート層の線膨張係数は、20×10−6/℃以下であってもよく、10×10−6/℃以下であってもよい。コート層は、その線膨張係数を10×10−6/℃以下とすることによって、SiC焼結体を含む基材と、両者の線膨張係数が近くなり、基材からのコート層の剥離脱落についても有効に防止することができる。なお、本明細書において、線膨張係数とは、50〜300℃における線膨張係数のことをいう。コート層の線膨張係数は、JIS R 3102(ガラスの平均線膨張係数の試験方法)によって測定した値である。また、当業者には、下記の方法により組成から線膨張係数を計算する方法が知られている。ガラスの低温域の線膨張係数は加成律が成立するものとみなすことができ、25〜325℃においてはDanzinの線膨張係数因子の値と、組成の質量%から、計算によって線膨張係数を求めることができる。
【0066】
上述したように、コート層に含まれる好適な組成は、以下の通りである。
【0067】
コート層が主成分としてPを含有し、Pの含有率が、20〜45質量%であることが好ましく、25〜40質量%であることが更に好ましく、30〜35質量%であることが特に好ましい。
【0068】
コート層が主成分としてBを含有し、Bの含有率が、20〜45質量%であることが好ましく、25〜40質量%であることが更に好ましく、30〜35質量%であることが特に好ましい。
【0069】
コート層が主成分としてBiを含有し、Biの含有率が、65〜85質量%であることが好ましく、67〜83質量%であることが更に好ましく、70〜80質量%であることが特に好ましい。
【0070】
コート層が副成分としてAl、SiO、ZnO、V、PbO、SnO、P、BまたはBiのうちいずれか一種以上を含有することが好ましい。
【0071】
コート層が副成分としてROで表わされるCaO、BaO、またはROで表わされるLiO、NaO、KOうちいずれか一種以上を含有することが好ましい。
【0072】
コート層が副成分としてTeO、TiOのうちいずれか一種以上を含有することが好ましい。
【0073】
ROの含有率の合計は、50%以下であることが好ましく、45%以下であることが更に好ましく、40%以下であることが特に好ましい。また、RO含有率の合計が、50%以下であることが好ましく、45%以下であることが更に好ましく、35%以下であることが特に好ましい。ここで、ROの含有率の合計が50%を超えると、コート層に含まれるROと、基材に含まれるSiCとの反応によって基材が溶融しやすくなる点で好ましくない。また、ROの含有率の合計が50%を超えると、コート層に含まれるROと、基材に含まれるSiCとの反応によって基材が溶融しやすくなる点で好ましくない。
【0074】
コート層に含まれる各成分の含有率は、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)によって測定することができる。エネルギー分散型X線分析装置(EDS)としては、日本電子社(JEOL)製の走査型電子顕微鏡(型番:JSM−5600)を用いることができる。ここで、すでに蓄熱材が担持された「蓄熱部材」におけるコート層に含まれる各成分の含有率は、事前に、蓄熱材を取り除いた後、測定することができる。また、元素ごとの明度差を利用した組成像によれば、基材の成分とコート層の成分とを明確に表示することができる。このため、すでにコート層が配設された「基材」におけるコート層に含まれる各成分の含有率は、EDSによってコート層が配設された基材の断面の組成像を得ることによって、コート層部分のみを選択的に測定することができる。
【0075】
コート層の線膨張係数は、基材の線膨張係数の1〜5倍であることが好ましく、1〜4倍であることが更に好ましく、1〜3倍であることが特に好ましい。
【0076】
コート層の軟化点が、1000℃以下であり、950℃以下であることが好ましく、900℃以下であることが更に好ましい。コート層の軟化点が、1000℃を超えると、使用温度域においてコート層が十分軟化せず、蓄熱材との担持性が著しく低下する点で好ましくない。コート層の軟化点は、JIS R 3103−1:2001(ガラスの粘性及び粘性定点−第1部:軟化点の測定方法)に準拠して測定することができる。軟化点は粘度が4.5×10ポイズ(Logη=13.4)となる温度と定義されている。また、コート層の軟化点は、示差熱分析(DTA)により測定することができる。DTAにおいて、軟化点は第4変曲点となる温度と定義されている。
【0077】
当該コート層の表面に凹凸差が0.5〜100μmの突起を有するものであってもよい。このような突起を有することにより、コート層の単位体積当たりの表面積が増大し、コート層と蓄熱材との物理的な接触面積が増大する。このため、蓄熱材の担持量(配設量)を増大させることができる。また、基材と蓄熱材との物理的な接触面積が増大し、基材と蓄熱材との熱の交換をより良好に行うことが可能となり、蓄熱材の発熱・吸熱反応を良好に進行させることができる。また、このような突起を有する場合には、コート層の表面積に対する、突起の存在率が1〜1000000個/10000μmであることが好ましく、10〜1000000個/10000μmであることが更に好ましく、100〜1000000個/10000μmであることが特に好ましい。突起の凹凸差、及びその存在率は、以下の方法によって測定することができる。コート層の表面の突起の高さ及び密度は光学顕微鏡または電子顕微鏡を用いて基材を観察することにより、5視野で測定した平均値を突起の高さ及び密度とすることができる。
【0078】
コート層が、当該コート層中に分散した、高熱伝導性を有する平均粒子径5nm〜100μmの微粒子を含んでいてもよい。このような微粒子が含まれたコート層は、コート層の熱伝導率を向上させることができる。コート層中に分散した微粒子の平均粒子径は、以下の方法によって測定することができる。まず、コート層を施した基材をフェノール樹脂等に埋設し、その基材を切断した断面を研磨して、測定用試料を作製する。次に、走査型電子顕微鏡を使用して試料断面の観察像を得る。次いで、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)によって試料断面の組成像を得る。走査型電子顕微鏡およびエネルギー分散型X線分析装置(EDS)としては、日本電子社(JEOL)製の走査型電子顕微鏡(型番:JSM−5600)を用いることができる。元素ごとの明度差を利用した組成像によれば、コート層の成分とコート層中に分散した微粒子とを明確に表示することができる。コート層中に分散した微粒子の平均粒子径は、得られた組成像を観察することにより、5視野で測定した平均値を平均粒子径とすることができる。
【0079】
コート層に含まれる微粒子が、SiC粒子、Si粒子、C粒子、及びSi−SiC粒子のうちの少なくとも1種であることが好ましい。SiC粒子、Si粒子、C粒子及びSi−SiC粒子は、該コート層の成分に比して熱伝導率が高いため、コート層の熱伝導率を向上させることができる。したがって、蓄熱材の発熱反応によって生じた熱を、コート層を介して、基材に素早く伝達させることができ、蓄熱材の発熱反応を良好に進行させることができる。吸熱反応時においても、蓄熱材と基材との熱伝達を、被膜状のコート層を介して、良好に行うことで、蓄熱材の吸熱反応を良好に進行させることができる。
【0080】
コート層の厚さは、100μm以下であることが好ましく、50μmであることが更に好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。コート層の厚さが100μmを超えると、コート層が厚すぎて、基材への熱伝達が、コート層によって阻害されることがある。
【0081】
(1−3)蓄熱材:
本実施形態の蓄熱部材に用いられる蓄熱材は、反応媒体との可逆的な化学反応によって蓄熱、放熱する、所謂、蓄熱材または物理的吸着・脱離によって蓄熱、放熱する蓄熱材である。蓄熱材としては、可逆的な化学反応によって蓄熱、放熱するものでは、その材質については特に制限はない。例えば、蓄熱材が、Mg,Ca,Sr,Baの酸化物、Mg,Ca,Sr,Baの水酸化物、Mg,Ca,Sr,Baの炭酸化物、Mg,Ca,Sr,Baの塩化物、Mg,Ca,Sr,Baの硫酸化物、及び、ゼオライトから構成された群より選択される少なくとも一種を含有するものを挙げることができる。
【0082】
本実施形態の蓄熱部材においては、粉末状(粒子状)の蓄熱材が、基材の空隙の表面に付着することによって配設されていることが好ましい。粉末状の蓄熱材においては、蓄熱材の平均粒子径が5nm〜100μmであることが好ましく、10nm〜50μmであることが更に好ましく、0.1〜10μmであることが特に好ましい。蓄熱材の平均粒子径が5nm未満であると、蓄熱材の凝集により均一に基材に配設しにくくなる点で好ましくない。蓄熱材の平均粒子径が100μm超であると、蓄熱材粒子の中心部の反応性が低下し、蓄熱・放熱応答性が低下する点で好ましくない。蓄熱材の平均粒子径は、以下のようにして測定することができる。光学顕微鏡または電子顕微鏡を用いて基材を観察することにより、基材に付着した蓄熱材の粒子径を測定する。5視野で測定した蓄熱材の粒子径の平均値を、蓄熱材の平均粒子径とすることができる。
【0083】
蓄熱部材における蓄熱材の配設量(担持量)については特に制限はなく、蓄熱部材の使用用途に応じて、適宜設定することができる。
【0084】
本実施形態の蓄熱部材は、空隙を有することが好ましい。ここで、「蓄熱部材の空隙率」とは、蓄熱材を配設(担持)した状態の基材の空隙率のことを意味する。蓄熱部材の空隙率は、以下のように測定することができる。基材の三次元網目状構造の空隙率を求める方法と同様に、まず、蓄熱部材の化学成分を分析し、蓄熱部材の理論密度(見掛け比重)を測定する。例えば、炭素及び炭化けい素質の基材であれば、基材の化学成分はJIS R 2011(炭素及び炭化けい素含有耐火物の化学分析方法)に準拠して測定することができる。また、例えば、蓄熱材が酸化マグネシウム質の場合はJIS R 2212−4(耐火物製品の化学分析方法 第4部:マグネシア及びドロマイト質耐火物)に準拠して測定することができる。次に、蓄熱部材の寸法および質量を測定し、蓄熱部材のかさ密度を算出する。これらの値を用いて基材の空隙率は次式[空隙率={(理論密度−かさ密度)/理論密度}×100]によって算出することができる。
【0085】
蓄熱材は、粉末であることが好ましい。蓄熱材の平均粒子径が5nm〜100μmであることが好ましく、基材に直接接している一次粒子が多いほど好ましい。このような形態であれば蓄熱材からの放熱が基材に伝わりやすい点で好ましい。一方、基材に接する蓄熱材粒子の表層に、さらに蓄熱材粒子が直接基材に接することなく積層した形態であれば、蓄熱材からの放熱が基材に伝わりにくいことがある。蓄熱材の形態は、以下のようにして測定することができる。蓄熱材の形態は、光学顕微鏡または電子顕微鏡を用いて基材を観察することにより、基材に付着した蓄熱材の状態を観測し、その形態を測定することができる。
【0086】
(2)蓄熱部材の製造方法:
以下、本発明の蓄熱部材の製造方法について、図1図3に示す蓄熱部材100の製造方法を例に説明する。
【0087】
(2−1)基材の作製:
まず、蓄熱部材に用いられる、SiC焼結体を主成分とする基材は、例えば、スリップキャスト法、ゲルキャスト法、押出し製法、またはプレス法など一般的な粉末成形法で作製することができる。空隙を有する多孔質の基材または三次元網目状構造を有する基材は、例えば、レプリカ法またはダイレクトフォーミング法など公知の製法で作製することができる。Si−SiC基材は、例えば、以下に示す、ゲルキャスト法とレプリカ法の組み合わせによって作製することができる。
【0088】
ゲルキャスト法により、図6に示す各ステップ(ST1)〜(ST7)により作製することができる。ゲルキャスト法とは、粉体成形方法の一種である。例えば、ゲルキャスト法においては、まず、セラミック、ガラス、及び金属からなる群より選択された一種以上の粉体を、分散剤を用いて分散媒に分散させて、上記粉を含むスラリーを作製する。次に、得られたスラリーに、ゲル化能を有する物質(ゲル化剤)を添加し、上記スラリーを硬化させて、任意形状の成形体を得る。図6は、本発明の蓄熱部材の一の実施形態に用いられる基材の製造工程を説明するフロー図である。以下、図6に示す各ステップ(ST1)〜(ST7)について更に詳細に説明する。
【0089】
(2−1a)ST1:
蓄熱部材に用いられる基材は、ゲルキャスト法により作製することができるため、まず、成形用スラリー(SiCスラリー)を作製する。成形用スラリーは、有機溶剤にSiC粉末を分散させスラリーとした後、ゲル化剤を添加することにより作製することができる。また、成形用スラリーは、有機溶剤に、SiC粉末及びゲル化剤を同時に添加して分散することにより作製することもできる。
【0090】
SiC粉末の他、カーボン、炭化硼素等の粉体を適宜混合して使用することもできる。なお、各種の粉体の粒子径は、成形用スラリーを作製することが可能であるかぎりにおいては、特に限定されるものではなく、適宜選択することができる。
【0091】
分散媒として用いる有機溶剤は、多価アルコール、多塩基酸、エステル類を挙げることができる。多価アルコールとしては、エチレングリコール等のジオール類やグリセリン等のトリオール類等を挙げることができる。多塩基酸としては、ジカルボン酸等を挙げることができる。エステル類としては、多塩基酸エステル、多価アルコールのエステル等を挙げることができる。なお、多塩基酸エステルとしては、グルタル酸ジメチル、マロン酸ジメチル等を挙げることができる。多価アルコールのエステル等としては、トリアセチン等を挙げることができる。
【0092】
ゲル化剤は、成形用スラリーを硬化させる、反応性官能基を有する有機化合物であればよい。このような有機化合物としては、架橋剤の介在により三次元的に架橋するプレポリマー等、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。ゲル化剤は、分散媒中の有機化合物との反応性を考慮して、好適な反応性官能基を有するものを選定することが好ましい。例えば、有機溶剤として比較的反応性が低いエステル類を使用する場合には、ゲル化剤を構成する反応性官能基を有する有機化合物として、反応性が高いイソシアネート基(−N=C=O)および/またはイソチオシアネート基(−N=C=S)を有する有機化合物を選択することが好ましい。
【0093】
成形用スラリーは、作業性を考慮すれば、20℃におけるスラリー粘性が50dPa・s以下であることが好ましく、更に、20℃におけるスラリー粘性が20dPa・s以下であることが、より好ましい。スラリー粘性は、市販のB型粘度計(リオン株式会社製、ビスコテスタVT−04F(商品名))によって測定した値である。
【0094】
このように、成形用スラリーの作製工程(ST1)では、まず、セラミック粉体、分散媒及び分散剤の調合を行い、混合する。その後、ゲル化剤及び触媒等を添加してスラリーの最終的な調合を行う。得られた成形用スラリーを、三次元網目状構造を有するウレタンフォームへの含浸成形に先立って脱泡することが好ましい。図7では三次元網目状構造を有するSi−SiC基材の製法について二次元の模式図を用いて説明する。図7(a)は三次元網目状構造を有するウレタンフォームの断面を模式的に二次元で表わした図である。
【0095】
成形用スラリーの混合は、ポットミルやボールミル等で行い、ナイロン製の玉石を使用して温度15℃〜35℃で12時間以上行うことが好ましく、72時間以上行うことが更に好ましい。また、スラリーの脱泡は、スラリーを、真空度−0.090MPa以下の真空雰囲気で撹拌して行うことが好ましい。脱泡時における真空度は、−0.095MPa以下であることが好ましい。撹拌速度は、100rpm〜500rpmであることが好ましい。攪拌時間は、5分〜30分であることが好ましい。
【0096】
(2−1b)(ST2)〜(ST4):
(ST1)で作製した成形用スラリーを、三次元網目状構造を有するウレタンフォームに含浸させた後、成形用スラリーがウレタンフォームの気孔を塞がない程度に絞って余剰スラリーを除去する。その後、固定用治具の上に載置して、常温〜40℃で数時間〜数十時間放置する。これにより、成形用スラリーは、ゲル化して硬化することによって成形体となる。
【0097】
図7の(a)に示すように、三次元網目状構造を有するウレタンフォームは、骨格部4と空隙部5から構成されており、(ST2)では、図7の(b)に示すように、空隙部5に面してSiCスラリー成形体9が形成される。ここで、SiCスラリー成形体9とは、(ST1)にて得られた成形用スラリーからなる成形体のことである。図7において、符号7は、金属Siを示す。また、符号1は、金属Siを含浸した骨格の芯部を示し、符号3は、骨格の表層部を示し、符号15は、三次元網目状構造における空隙を示す。
【0098】
(2−1c)(ST5):
次に、40℃〜100℃で3〜12時間乾燥を行い、更に、100℃〜200℃で3〜12時間乾燥を行う。
【0099】
(2−1d)(ST6)〜(ST7):
図7(c)に示すように、乾燥させたSiCスラリー成形体9の上面に金属Si7を載置して、不活性ガス雰囲気で1400℃〜1500℃で1〜3時間加熱を行う。ウレタンフォームの骨格部4は、500℃付近で焼失するが、図7(d)に示すように、骨格部4が焼失して形成される空間に金属Si7が含浸することによって、三次元網目状構造からなる緻密なSi−SiC骨格を有する基材が得られる。この方法によれば、金属Si7を、SiCスラリー成形体9で構成される骨格を伝って含浸させることができるため、金属Si7を空隙部5に目詰まりさせることなく、均一な含浸を行うことができる。例えば、このような方法で作製された基材は、空隙率が30〜95%となる。ここで、図7は、本発明の蓄熱部材の一の実施形態に用いられる基材の製造工程を説明する模式図である。
【0100】
(2−2)コート層の形成:
次に、これまでに作製した基材の表面に、コート層を形成する。具体的には、三次元網目状構造を構成する骨格の表面に、コート層を形成する。コート層を形成する際には、まず、所望の成分となるように調整したコート層原料粉末を用意する。コート層原料粉末は、平均粒子径が5nm〜100μmであることが好ましく、10nm〜50μmであることが更に好ましく、0.1〜10μmであることが特に好ましい。コート層原料粉末の平均粒子径は、以下のようにして測定することができる。光学顕微鏡または電子顕微鏡を用いてコート層原料粉末を観察することにより、コート層原料粉末の粒子径を測定する。5視野で測定したコート層原料粉末の平均値を、コート層原料粉末の平均粒子径とすることができる。
【0101】
コート層原料粉末は、コート層の説明において好適な組成として挙げた組成を有するものであることが好ましい。
【0102】
次に、このようなコート層原料粉末を、水または有機溶剤に分散させたコート層原料スラリーを作製し、基材の表面に塗工後、乾燥、焼成することにより塗膜状のコート層を形成することができる。コート層原料スラリーの塗工方法は、特に限定されず、例えば、ディッピング(浸漬)、またはスプレーコート法等、適宜最適な手法を採用することができる。塗工後、100〜200℃で乾燥後、300〜1000℃の大気雰囲気中で焼成することにより、軟化したコート層原料粉末が基材と融着する。以上のようにして、塗膜状のコート層を形成することができる。
【0103】
(2−3)蓄熱材の作製:
次に、蓄熱部材に用いられる蓄熱材を作製する。蓄熱材の作製方法については特に制限はなく、従来公知の方法によって蓄熱材を得ることができる。例えば、市販の炭酸カルシウム粉末、水酸化カルシウム粉末または酸化カルシウム粉末を使用することができる。該粉末は所定の平均粒子径となるように市販のポットミルおよび篩を用いて適宜粉砕し、分級して使用することができる。該粉末の平均粒子径は市販のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。
【0104】
(2−4)コート層への蓄熱材の配設(担持):
次に、得られた蓄熱材を、水または有機溶剤に分散させて、蓄熱材スラリーを作製する。次に、作製した蓄熱材スラリーを、基材の表面に形成されたコート層の表面に塗工後、乾燥、焼成することにより、コート層へ蓄熱材を配設(担持)することができる。蓄熱材スラリーの塗工方法は、特に限定されず、例えば、ディッピング(浸漬)、またはスプレーコート法等、適宜最適な手法を採用することができる。塗工後、100〜200℃で乾燥後、300〜1000℃の大気雰囲気中で焼成することにより、蓄熱材がコート層と融着する。以上のようにして、コート層へ蓄熱材を配設(担持)することができる。
【0105】
以上のようにして、本実施形態の蓄熱部材を製造することができる。ただし、蓄熱部材の製造方法については、これまでに説明した製造方法に限定されない。
【0106】
(3)蓄熱部材の使用方法:
本実施形態の蓄熱部材は、環境温度が蓄熱操作温度以上となった段階で、蓄熱材の吸熱反応(例えば、脱水反応)が起こり、蓄熱材の組成が変化する。そして、この吸熱反応により、蓄熱材は、熱を回収・貯蔵した蓄熱状態となる。その後、蓄熱状態の蓄熱材に、反応媒体(例えば、水)が接触すると、蓄熱状態の蓄熱材の発熱反応(水和反応)が起こり、熱が放出される。蓄熱状態の蓄熱材は、反応媒体との接触がない限り、環境温度が蓄熱操作温度より低下しても、そのままの形態(即ち、蓄熱状態)を維持することから、潜熱蓄熱体では必要であった断熱構造を設ける必要がない。
【0107】
例えば、本実施形態の蓄熱部材は、自動車の排熱を回収・貯蔵し、回収・貯蔵した熱を、エンジン始動時における触媒(排ガス処理触媒)の活性化に利用することができる。また、自動車のキャビン(室内)の暖房に利用することができる。例えば、蓄熱材として、水酸化カルシウム(Ca(OH))を用いた化学蓄熱部材は、自動車の排気系の、排ガス処理触媒の搭載箇所よりも上流側に配置して用いることができる。自動車の排気系の化学蓄熱部材の配置箇所よりも更に上流側には、水蒸気発生装置の反応媒体発生装置を配設することが好ましい。自動車の排気系に配置された化学蓄熱部材に対して、自動車から排出された高温の排ガスが流入すると、蓄熱材である水酸化カルシウムは吸熱反応(脱水反応)を起こす。すなわち、吸熱反応(脱水反応)により、蓄熱材から水分子(HO)が脱離し、蓄熱材が酸化カルシウム(CaO)となる。酸化カルシウムへと組成が変化した蓄熱材は、排ガスの熱を回収・貯蔵した蓄熱状態となっている。そして、エンジン始動時においては、反応媒体発生装置から水蒸気を発生させて、発生させた水蒸気(HO)と、蓄熱材である酸化カルシウム(CaO)とを反応させる。この反応は、発熱反応(水和反応)であり、蓄熱材からの放熱が生じる。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0109】
(実施例1)
まず、SiC粉末を99.7質量部と、金属Si粉末0.3質量部とを混合して、混合粉末を得た。この混合粉末に、バインダ、造孔材、及び水を添加して、成形用坏土を調製した。SiC粉末として平均粒子径100μmの粉末を用いた。Si粉末として平均粒子径10μmの粉末を用いた。
【0110】
次に、調製した成形用坏土を押出成形して、空隙を有するSi−SiC成形体を得た。
【0111】
次に、得られたSi−SiC成形体を、1440℃で5時間焼成して、空隙を有する多孔質のSi−SiC基材を作製した。得られた基材は、第一の端面及び第二の端面の半径が50mmの円柱形状であり、軸方向の長さが100mmであった。
【0112】
得られた基材について、以下の方法で、「基材におけるSiCの含有比率およびSiの含有比率」を測定した。また、以下の方法で、基材の「空隙率」を測定した。測定結果を、表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
(基材におけるSiCの含有比率及びSiの含有比率)
JIS R 2011(炭素及び炭化けい素含有耐火物の化学分析方法)に準拠して測定した。
【0115】
(基材の空隙率)
基材の空隙率は、基材の理論密度(見掛け比重)、及び基材のかさ密度を測定し、上記した式(1)に基づいて算出した。
【0116】
得られた基材に、以下の方法で、コート層を形成した。まず、コート層原料粉末を、その組成が、Pの含有量が24%、Alの含有量が18%、ROで表わされるCaOの含有量が1%となるように調した。次に、調したコート層原料粉末を、水に分散させてガラス粉末スラリーを作製した。次に、作製したガラス粉末スラリーを、ディッピング(浸漬)により基材の表面に塗工した。その後、100℃で4時間乾燥後、800℃で1時間、大気雰囲気中で焼成した。このようにして、コート層原料粉末を基材と融着させて、コート層を形成した。
【0117】
次に、得られた基材に配設するための蓄熱材を作製した。蓄熱材は、市販の炭酸カルシウム粉末(和光純薬工業社製)を使用した。該粉末をポットミルおよび篩を用いて平均粒子径が1μmとなるように粉砕し、分級した。平均粒子径は堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA−950)を用いて測定したメジアン径である。
【0118】
次に、作製した蓄熱材を、水に分散させて蓄熱材スラリーを作製した。次に、作製した蓄熱材スラリーを、ディッピング(浸漬)により、基材の表面に形成されたガラスコート層の表面に塗工後、100℃で4時間乾燥後、800℃の大気雰囲気中で焼成した。このようにして、蓄熱材をコート層と融着させて、コート層へ蓄熱材を配設(担持)した。
【0119】
得られた蓄熱部材について、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて、これまでに説明した方法で、コート層の組成を測定した。結果を、表1に示す。
【0120】
また、得られた蓄熱部材について、以下の方法で、コート層の軟化点を測定した。また、以下の方法で、コート層の線膨張係数を測定した。コート層の軟化点は、蓄熱部材から蓄熱材を除去した後、「コート層を配設した基材」の示差熱分析(DTA)を行うことにより測定した。軟化点は413℃であった。コート層の線膨張係数は、蓄熱部材から蓄熱材を除去した後、「コート層を配設した基材」を、JIS R 3102(ガラスの平均線膨張係数の試験方法)に準拠して測定した。50〜300℃における線膨張係数は15×10−6であった。結果を、表1に示す。
【0121】
また、得られた蓄熱部材について、以下の方法で、基材の「溶融の有無」、「昇温速度」、「耐熱衝撃性」、および蓄熱材の「耐剥離性」の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0122】
(基材の溶融の有無)
基材の溶融の有無は、以下の方法で評価した。蓄熱材を配設した蓄熱部材について、光学顕微鏡を用いて基材を5視野で観察することにより、基材の溶融の有無を評価した。
【0123】
(昇温速度)
市販の示差熱天秤分析(TG−DTA)を用いて昇温速度を評価した。蓄熱部材に反応媒体(水蒸気)の添加を開始した時点から、蓄熱部材から流出する気体がピーク温度に達するまでの時間を計測した。
【0124】
(基材の耐熱衝撃性評価)
基材の耐熱衝撃性評価は、以下の方法により行った。まず、ガスバーナーを用いて、基材を600℃/minで急加熱した。その後、基材を大気中に静置し、自然冷却した。上記したガスバーナーによる急加熱と、自然冷却を繰り返した後、評価対象の基材の状態を確認した。基材の耐熱衝撃性評価では、基材に破損が生じるまでの回数を測定した。
【0125】
(蓄熱材の耐剥離性評価)
蓄熱部材に反応媒体(水蒸気)を添加することにより、蓄熱部材を昇温させ、その後冷却することによる昇温・冷却を繰り返した場合の蓄熱材の状態を確認した。蓄熱材の耐剥離性評価では、蓄熱材が剥離するまでの回数を測定した。各評価の基準を表2に示す。表2の基準において、「A」の評価が最も優れ、次に、「B」の評価が優れている。そして、「C」の評価が最も劣っている。
【0126】
【表2】
【0127】
(実施例2〜10)
コート層を、コート層原料粉末の組成を変更して形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、蓄熱部材を作製した。実施例2〜10におけるコート層の組成および軟化点は、表2に示すようなものであった。作製した蓄熱部材の評価結果を表1に示す。以下、実施例1〜10を参考例1〜10とする。
【0128】
(実施例11〜14)
コート層を、凹凸差が0.5〜100μmの突起を有するように形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、蓄熱部材を作製した。実施例11〜14におけるコート層は、当該ガラスコート層中に、SiC粒子、金属Si粒子、Si−SiC粒子、及びC粒子のうちの少なくとも1種を含むものであった。実施例11〜14の蓄熱部材のように、コート層中に微粒子を含むものについて、表3の「微粒子の有無」の欄に、「有り」と記す。一方、実施例1の蓄熱部材のように、コート層中に微粒子を含まないものについては、表1の「微粒子の有無」の欄に、「無し」と記す。また、コート層中に分散した微粒子の平均粒子径を、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて組成像を観察することによって測定した。作製した蓄熱部材の評価結果を表3に示す。
【0129】
(実施例15〜19)
蓄熱材として、市販の水酸化マグネシウム(和光純薬工業社製)、塩化マグネシウム(和光純薬工業社製)、炭酸ストロンチウム(和光純薬工業社製)、硫酸バリウム(和光純薬工業社製)、およびゼオライト(東ソー製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、蓄熱部材を作製した。作製した蓄熱部材の評価結果を表4に示す。
【0130】
(実施例20〜23)
蓄熱材の平均粒子径が異なること以外は、実施例1および実施例15〜19と同様の方法で、蓄熱部材を作製した。作製した蓄熱部材の評価結果を表5に示す。
【0131】
(実施例24)
実施例24においては、以下の方法で、三次元網目状構造を有する基材を作製した。まず、有機溶剤に、SiC粉末を分散させ、ゲル化剤としてウレタン樹脂(イソシアネート及び触媒)を混合したSiCスラリーを作製した。有機溶剤としては、エステルを用いた。SiCの平均粒子径は、0.7μmであった。SiCの平均粒子径は、堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA−950)を用いて測定したメジアン径である。
【0132】
次に、第一の端面及び第二の端面の半径が50mmの円形であり、軸方向の長さが100mmのウレタンフォームを用意した。ウレタンフォームとしては、セル数が8(個/25mm)のものを用いた。そして、先に作製したSiCスラリーに、このウレタンフォームを浸漬し、余剰のSiCスラリーを除去した。その後、SiCスラリーを硬化させることにより、ウレタンフォームの骨格表面上に、SiC層を形成した成形体を得た。次に、得られた成形体を、120℃で4時間乾燥して、SiC成形体を得た。
【0133】
次に、得られたSiC成形体を、円柱の側面が鉛直上方を向くように配置し、そのSiC成形体の上面に、金属Siを載置した。金属Siの量は、SiC成形体の質量を100質量部とした場合に、金属Siの質量が110質量部となる量とした。次に、金属Siを載置したSiC成形体を、アルゴン雰囲気中で、1時間、1500℃で焼成し、三次元網目状構造を有するSi−SiC焼結体からなる基材を作製した。
【0134】
得られた基材は、第一の端面及び第二の端面の半径が50mmの円形であり、軸方向の長さが100mの円柱形状であった。また、得られた基材は、ウレタンフォームに由来する骨格で構成された三次元網目状構造を有するものであった。骨格の気孔率は、0.8%であった。基材の空隙率は、92%であった。骨格のSiCの含有比率は、58%であり、骨格のSiの含有比率は、40%であった。
【0135】
このようにして作製した三次元網目状構造を有する基材を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、蓄熱部材を作製した。作製した蓄熱部材の評価結果を表6に示す。
【0136】
(実施例25〜26)
SiC成形体の質量を100質量部とした場合に、金属Siの質量が10質量部、および、140質量部となる量に変更したこと以外は、実施例18と同様の方法で、蓄熱部材を作製した。作製した蓄熱部材の評価結果を表6に示す。
【0137】
(比較例1〜6)
比較例1〜6においては、コート層原料粉末の組成を変更してコート層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、蓄熱部材を作製した。作製した蓄熱部材の評価結果を表7に示す。
【0138】
(比較例7〜12)
比較例7〜12においては、ガラス粉末の組成を変更してガラスコート層を形成したこと以外は、実施例24と同様の方法で、蓄熱部材を作製した。作製した蓄熱部材の評価結果を表8に示す。
【0139】
(比較例13〜17)
比較例13〜17においては、三次元網目状構造を有する基材の骨格の組成が表9に記載の組成とした以外は実施例1と同様の方法で、蓄熱部材を作製した。作製した蓄熱部材の評価結果を表9に示す。
【0140】
【表3】
【0141】
【表4】
【0142】
【表5】
【0143】
【表6】
【0144】
【表7】
【0145】
【表8】
【0146】
【表9】
【0147】
実施例2〜26、及び比較例1〜17の蓄熱部材について、基材の「空隙率」、「SiCの含有比率」及び「Siの含有比率」の値等を、表1、表3〜表9に示す。
【0148】
(結果)
実施例1〜26の蓄熱部材は、基材の溶融の有無の評価において、全て良好な結果を得ることができた。実施例11〜26の蓄熱部材は、特に、昇温速度の評価において優れた結果を示すものであった。一方、比較例1〜12、14の蓄熱部材は、基材の溶融の有無の評価において、Cの評価であった。また、比較例13、15〜17の蓄熱部材は、昇温速度の評価において、Cの評価であった。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の蓄熱部材は、熱を回収・貯蔵し、回収・貯蔵した熱を再利用することに用いることができる。例えば、自動車等のエンジン始動時における、排ガス処理触媒の加熱補助に利用することができる。また、自動車のキャビン(室内)の暖房に利用することができる。
【符号の説明】
【0150】
1:芯部(骨格の芯部)、3:表層部(骨格の表層部)、4:骨格部(ウレタンフォームの骨格部)、5:空隙部(ウレタンフォームの空隙部)、7:金属Si、9:SiCスラリー成形体、10:基材、10a:SiC焼結体、11:第一の端面、12:第二の端面、13:骨格、14:三次元網目状構造、15:空隙(三次元網目状構造における空隙)、50:蓄熱材、51:コート層、52:微粒子、100:蓄熱部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7