(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、水素燃焼装置11の概略構成図を示す。この水素燃焼装置11は、たとえば
図2に示したような演出装置11aに使用されて、たとえば各種イベントや式典、店舗営業、神社仏閣、庭園などで用いられる聖火や炬火、かがり火などを灯したりするほか、図示しない調理装置など各種の装置に使用されて火炎を放出する。
【0014】
図2に示した演出装置11aについてごく簡単に説明すると、演出装置11aは火炎を見せる火炎放出部12と、水素の供給とその流動制御を行う制御操作部13を有し、火炎放出部12は制御操作部13から所定の距離はなれた位置に設置される。
【0015】
まず水素燃焼装置11について説明してから演出装置11aについて説明する。
【0016】
水素燃焼装置11は、
図1に示したように、水素を供給する供給路14の末端に水素を燃焼して水素炎Fを発生させるバーナ15を備えており、供給路14の上流側部位に、供給する気体の流動制御のための制御用部材を有する制御操作部13を備えている。
【0017】
供給路14は、水素を供給する主ライン14aと窒素を供給するパージライン14bで構成する。パージライン14bは末端が主ライン14aの途中に接続されている。供給路14を構成する管体には、用途に応じて適宜の口径の管体が使用される。
【0018】
バーナ15は濃度100vol%で供給された水素を拡散燃焼させるものであり、円筒状に形成されており、円形の炎口15aを有している。バーナ15は、
図1の例では1つである場合を描いたが、複数備えてもよい。
図1中、16はパイロットバーナである。
【0019】
制御操作部13は、主ライン14aの上流側部位とパージライン14bから構成され、ボンベをはじめ、減圧弁などの各種弁、流量計、消炎素子などを備えている。具体的には、主ライン14aには、上流側から順に前述の制御用部材として、水素を貯蔵する水素ボンベ17、流量を動的に制御する減圧弁18、内部圧力が異常に上昇した場合に自動的に圧力を逃がす安全弁19、流量計21、圧力計22、減圧弁23、圧力計24、流量調整や開閉を行うボールバルブ25、消炎素子26、圧力計27を有している。
【0020】
消炎素子26は、消炎直径よりも小さな穴(図示せず)を集合させた公知構成であり、水素は通過させるものの火炎を細分化し通過させない機能を有する。消炎素子26は管体に接続される接続部を有した筐体28内に備えられ、前述のように消炎素子26は制御操作部13における末端側に配置されることになる。主ライン14a中の水素の流れを阻害しないように、消炎素子26は圧力損失の小さいものが好ましい。圧力損失を抑えることで、燃焼速度以上の流速で水素を安定的に供給することができるとともに、水素の流速が燃焼速度以下になるリスクを極力低減することができる。消炎素子26としては、例えば市販されているクリンプトメタルで構成された、エンドオブライン・デフラグレーション用が利用できる。
【0021】
主ライン14aにおける安全弁19と流量計21との間に、パージライン14bが接続されている。パージライン14bは、上流側から順に前述の制御用部材として、窒素ボンベ31と、減圧弁32と、逆止弁33と、手動弁34を備えている。パージライン14bは、燃焼開始時や燃焼終了時に、主ライン14aにおけるパージイラン接続部14cより先の部分に入っている水素を不活性な窒素ガスに置換するときに使用する。
【0022】
主ライン14aとパージイラン14bにおける減圧弁18,23,32と流量計21と圧力計22,24,27は図示しない制御部と接続され、駆動制御される。制御部は、水素ボンベ17から供給する水素を、水素の燃焼速度以上の速度で供給する制御を行う。水素の燃焼速度は約90m/sであるので、水素はそれ以上の、例えば約165m/sで供給される。
【0023】
主ライン14aにおける制御操作部13とバーナ15との間の部位は、バーナ15を制御操作部13から離す離間部14dである。離間部14dは、主として管体のみで構成されており、バーナ15の炎口15aと消炎素子26との間の距離LをDDT距離未満の長さとするものであり、DDT距離未満の長さとする範囲内で必要に応じた長さに設定される。つまりバーナ15で逆火が生じたとした場合でも、爆燃から爆轟に転移する前の段階で消炎素子26が作用するように構成されている。
【0024】
具体例をあげると、供給路14がJIS規格でいう呼び径50Aの管体で構成された場合、離間部14dの長さは、管体の呼び径に対して100〜300倍、つまり5m〜15mの範囲から選択できる。
【0025】
このような構成の水素燃焼装置11を用いた演出装置11aの火炎放出部12は、バーナ15を外装体41で囲むとともに、バーナ15の火炎を出す方向に着色手段としての着色部42を備えて構成する。着色部42は透明の水素炎Fを可視化するためのものである。
【0026】
外装体41は、火炎を出す方向、図示例では上方に開口41aを有し、内部に収容空間41bを有する。外装体41の形状は、使用目的に応じて適宜設定される。図示例の外装体41は、上端の開口41aが最も大径となる平面視円形の筒状である。
【0027】
バーナ15は、水素炎Fを発する炎口15aを上に向けて複数配設されている。これらバーナ15の配設形状は、相互間に間隔をあけた全体として平面視円形の面を形成するものである。複数のバーナ15によって形成される円形の面の大きさは、外装体41の収容空間41bの上部に収まる大きさである。
【0028】
すべてのバーナ15は炎口15aの高さを同じにして支持台43に支持され、外装体41の収容空間41b内に保持される。
【0029】
着色部42は、バーナ15の炎口15aより水素炎Fが発せられる方向の先、つまり上方に備えられる。着色部42は発色部材45と、水素炎Fを通す貫通部46で構成されている。発色部材46は、炎色反応を呈する発色材(図示せず)を多孔質体(図示せず)に担持させたものである。発色材を担持する多孔質体は、耐熱性があるものであれば適宜使用できるが、既存のものでは、たとえば溶岩を用いる。溶岩のなかでも、鹿児島県産の桜島の溶岩(大隅降下軽石)は、白色である上に非常に多孔質であり、温度変化があっても割れない性質を有するので、好適に使用できる。
【0030】
発色材には、着色する色に応じて適宜の金属塩を使用する。例えば黄色に着色する場合には塩化ナトリウムを、緑色に着色する場合には塩化銅(I)を、赤色に着色する場合には塩化ストロンチウムを使用する。これらのような発色材を水に溶かして水溶液とし、これを多孔質体に含浸させて乾燥させる。含浸と乾燥を複数回繰り返し、多くの発色材を多孔質体に担持させる。
【0031】
図2に例示した着色部42は、発色部材45を複数設け、水素炎Fを通す貫通部46を、複数の発色部材45を並べたときに発色部材45間におのずとできる空間で構成した例である。複数の発色部材45はそれぞれ異なる形の塊状である。好ましくは、発色部材45の形状は、並べたときにバラエティに富んだ形状の隙間ができるように多様な形状であるとよい。
【0032】
発色部材45の大きさは適宜設定されるが、バーナ15の炎口15aの大きさやバーナ15の配設間隔を考慮して設定するとよい。すなわち、たとえば発色部材45の大きさがバーナ15の炎口15aの径、つまり水素炎Fの横断面の大きさに比べて大きすぎると、貫通部46を通過する水素炎Fが得にくいか、得られても火炎形状がシャープなものとなってしまう。逆に、発色部材45の大きさがバーナ15の炎口15aの径に比して小さすぎると、発色部材45の必要数が多くなって扱いが煩雑になるほか、貫通部46が小さくなって貫通部46を通過する水素炎Fが細くなってしまう。このため、
図2に示した例のように発色部材45を複数設け、水素炎Fを通す貫通部46を、複数の発色部材45を並べたときに発色部材45間にできる空間で構成する場合には、発色部材45の平面視の大きさはバーナ15の炎口15aの径に対応する程度から、それよりも数倍くらいまでの大きさであるのが好ましい。
【0033】
このような発色部材45は、相互間に貫通部46ができるように、また複数のバーナ15ですべての発色部材45の全体が水素炎Fにさらされるように、金属網47の上に適宜並べて構成される。金属網47は平板状であり、バーナ15の上方に支持される保持筒48内に水平に、換言すればバーナ15の炎口15aが形成する面と平行に保持される。
【0034】
保持筒45は上下両端に開口を有した短円筒状であり、外装体41の収容空間41bに保持される。保持筒45の内周面に載置段部45aが形成され、金属網47はその外周部を載置段部45aにのせて保持される。
【0035】
このような着色部42はバーナ15の炎口15aとの間に所定の距離を隔てて設置される。所定の距離とは、着色部42に触れる水素炎Fの温度が、おおよそ特定の範囲になる距離である。つまり、水素炎Fの温度が、発色部材45における発色材の融点以上で沸点より低い温度となるようにする。水素炎Fの温度は、金属網47とバーナ15の炎口15aとの間の距離のほか、エアの巻き込み具合やバーナ15の形状、水素の流量によっても調節できる。
【0036】
発色材のうち、たとえば塩化ナトリウムの融点は800℃、沸点は1413℃、塩化銅(I)の融点は430℃、沸点は1490℃であるので、水素炎Fのうち着色部42に触れる部分の温度は950℃〜1000℃くらい、高くても1250℃くらいまでにするとよい。これは火炎の温度には幅があるためである。着色部42に触れる水素炎Fの温度は高くても発色材の沸点より50度以上は低い方が好ましい。
【0037】
火炎放出部12に離間部14dを介して接続されている制御操作部13は、火炎放出部12を設置した位置とは別に、例えば地下に備えるなど、必要に応じて外部から見えないようにするなどして適宜設置される。
【0038】
以上のように構成された演出装置11aはつぎのように使用される。
【0039】
まず、演出装置11aの保持筒48に金属網47をセットして、その上に発色部材45を並べて、貫通部46を形成する。発色部材45は複数有するが並べるだけで貫通部46も形成できるので、着色部42の形成は容易である。しかも、発色部材45は溶岩からなる多孔質体で構成されており、すべての発色部材45がそれぞれ異なる形であるので、適宜並べるだけで多様な形状の貫通部46が得られる。
【0040】
このようにして準備した後、制御操作部13を操作してバーナ15に水素を供給して燃焼させる。バーナ15を有する火炎放出部12と制御操作部13は、離間部14dによって必要な距離はなされているので、消炎素子26を有する部分を含む制御操作部13が演出効果の邪魔になったり、消炎素子26を有する部分を支えるための構造が必要になったりすることを回避できる。DDT距離が長くなるように供給路14の口径などの条件を設定することで、バーナ15を離す距離を長くとることが可能である。
【0041】
水素の供給に際して、水素は水素の燃焼速度よりも速い一定の速度で供給される。水素を燃焼させると本来、
図1に仮想線で示したようにシャープな火炎形状の水素炎Fが発生する。この水素炎Fは透明であり色を認識することはできない。
【0042】
しかし、その水素炎Fのうち、温度が発色材の融点以上で沸点未満の温度になる位置に、着色部42が位置して、着色部42の全体が水素炎Fにさらされ、着色部42を構成する複数の発色部材45が加熱されるとともに、発色部材45間の貫通部46を水素炎Fが通過して上昇する。
【0043】
発色部材45が熱せられることによって、担持されている発色材は加熱されて一部が気化、励起して、水素炎Fにのって炎色反応を示して所定の色の光を発する。この光は発色部材45間の貫通部46を通って上昇する火炎Fa全体を着色する。つまり、間隔をあけて配設された複数のバーナ15から発せられる透明の水素炎Fは、着色部42の全体に接して、全体が着色された大きな火炎Faとなる。
【0044】
発色材を担持している多孔質体は白色の溶岩であるので、火炎Faを発色部材45が見える角度から見た場合でも、火炎Faの色を良好に視認できる。
【0045】
そのうえ、発色材を担持しているのは多孔質体であり、より多くの発色材を含浸させ保持することができるので、長期間にわたって着色作用を得られる。また水素炎F全体が複数の発色部材45の全体にまんべんなく接触することは、担持された発色材を無駄なく有効に使用することであり、これによっても着色作用の長期継続をはかることができる。
【0046】
水素炎Fにおける着色部42に接する部分の温度は、発色材の融点以上沸点未満の特定の温度であるので、発色材は水素炎Fの熱で溶けるものの、気化により飛散する発色材の量を抑えることができる。この点からも、発色材が蒸発する場合と比べて着色作用を長く持続させることができる。
【0047】
このように、構造面のほか温度面からも着色作用の長寿命化をはかれる。
【0048】
そして、着色された火炎Faは、水素炎Fが発色部材45で上昇を部分的に遮られ、発色部材45の表面をなめるように伝わって貫通部46を通って上方へのぼる過程で得られるので、火炎Faは速度がゆっくりで、全体として大きな、ゆらめく火炎Faとなる。
【0049】
以上のように水素炎Fを着色して得られた火炎Faは、高輝度で、全体が着色された大きな火炎Faであるので、演出に好適に使用できる。担持させる発色材を変えれば火炎Faの色を変化させることもできるので、この点でも演出に好適である。また、燃料が水素であるので、燃焼させても一酸化炭素や炭酸ガスを発生させることはなく、この点で安全で環境にもよい。
【0050】
水素燃焼装置11の安全性を確認するため、
図3に示したような試験装置51で逆火を発生させて、消炎性能評価を行った。悪条件での試験とするため、可燃ガスには空気と水素を混合し、当該混合したガス中の水素と酸素の容積比が2:1となるようにしたものを用いた。また配管は水平にして水平伝播とした。これは、消炎能力は火炎速度が速いほど阻止しにくくなり、火炎速度は火炎伝播方向の影響を受け、下方伝播、水平伝播、上方伝播の順に速くなることが知られているからであって、下方伝播が起こり得る環境を想定した場合、水平伝播の方が下方伝播よりも過酷な条件であるためである。
【0051】
試験装置51は、JIS規格呼び径50Aで、全長13500mmのステンレス配管を用い、長手方向の一方の端部である点火側終端部52から12500mmの位置に消炎素子を内蔵するものとして市販のフレームアレスタ53を組み込んだ。配管のうち、フレームアレスタ53よりも点火側を「点火側」、逆方向を「保護側」とする。フレームアレスタ53には金子産業株式会社製の水素/空気混合ガス用フレームアレスタ(エンドオブライン・デフラグレーション用)「FRA−50−Cシリーズ」を用いた。
【0052】
点火側終端部52側の端には点火時に取り外される閉止フランジ54が設けられ、これより内側の位置に点火ポート55が設けられている。点火ポート55からフレームアレスタ53にかけて2個ずつ3組のフォトトランジスタ61,62,63,64,65,66を備えている。フォトトランジスタ61,62,63,64,65,66は配管内の火炎を検出するためのものである。
【0053】
これらフォトトランジスタ61,62,63,64,65,66の配置は次のとおりである。点火側終端部から500mmの位置からフレームアレスタ53側に200mmの位置に第1フォトトランジスタ61を、その隣のフレームアレスタ53側に150mmの位置に第2フォトトランジスタ62を備え、点火側終端部から4500mmの位置からフレームアレスタ53側に200mmの位置に第3フォトトランジスタ63を、その隣のフレームアレスタ53側に150mmの位置に第4フォトトランジスタ64を備える。また、フレームアレスタ53の点火側の端より点火側に350mmの位置に第5フォトトランジスタ65を、それよりフレームアレスタ53側に150mmの位置に第6フォトトランジスタ66を備えている。
【0054】
さらに、保護側におけるフレームアレスタ53から200mmの位置にもフォトトランジスタ(第7フォトトランジスタ67)を備えた。
【0055】
この第7フォトトランジスタ67よりも保護側には、順に、予混合ガスを供給する混合ガス導入管56と、真空引きするための真空ポンプ用配管57を備えている。
【0056】
このほか、閉止フランジ54は点火直前に開放するため、発生する爆発音を抑えることを目的として点火側終端部52全体を消音器58で覆った。
【0058】
まず真空ポンプ用配管57から真空ポンプを用いて配管内を真空(−0.1MPaG)まで減圧しそのままで10分間真空に引き続けた。
【0059】
つぎに、予め水素/空気混合ガス(H
229.5%)を分圧法により十分に混合されるまで充填・静置したタンクから試験ガスを混合ガス導入管56から配管内に緩やかに流し込み、配管内の圧力がプラスの圧力になるまで充填した。
【0060】
配管内に試験ガスが充填されたことを確認後、閉止フランジ54を外し、点火側終端部52側を開放状態にして点火装置(図示せず)を作動させて、点火ポート55で混合ガスを着火させる。このときフォトトランジスタ61,62,63,64,65,66,67により火炎速度を計測し、火炎伝播が爆燃現象か爆轟現象なのかを判定する。また、フレームアレスタ53保護側の第7フォトトランジスタ67により、火炎逸走の有無を確認した。
【0061】
測定回数は、EN/ISO16852に記載されている爆燃の試験規定に準じて6回行い、火炎の阻止を確認した。
【0062】
火炎速度の測定及び火炎阻止の確認は、フォトトランジスタ61,62,63,64,65,66,67からの信号を回路によりオシロスコープ(図示せず)に取り込み、火炎が通過した時間をそれぞれ測定して算出した。また、フレームアレスタ53より保護側に取り付けた第7フォトトランジスタ67に信号が確認されないときを、火炎は阻止されたと判断した。
【0063】
その結果、下記表1のような結果が得られた。表1において「第1−第2間」は第1フォトトランジスタ61−第2フォトトランジスタ62間の意味であり、同様に「第3−第4間」、「第5−第6間」は、第3フォトトランジスタ63−第4フォトトランジスタ64間、第5フォトトランジスタ65−第6フォトトランジスタ66間の意味である。
【0064】
【表1】
表1に示したように6回とも、第1フォトトランジスタ61−第2フォトトランジスタ62間、第3フォトトランジスタ63−第4フォトトランジスタ64間、第5フォトトランジスタ65−第6フォトトランジスタ66間と、順に火炎伝播速度が上がるものの、音速には到底至らない爆燃であることが判る。つまり6回とも爆轟は確認されなかった。
【0065】
また、保護側には火炎は、6回とも検出されなかった。火炎逸走もなく、消炎されたことが確認できた。
【0066】
さらに、測定終了後のフレームアレスタ53の消炎素子を目視により確認したが、何ら損傷等の痕跡は認められなかった。
【0067】
以上より、開放端着火、水平火炎伝播条件において、フレームアレスタ53による消炎性能に問題がないことを確認できた。
【0068】
前述の構成はこの発明を実施するための一形態の構成であり、その他の構成を採用することもできる。
【0069】
たとえば、消炎素子26にはデトネーション用のものなど、前述以外の装置を使用してもよい。