(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670290
(24)【登録日】2020年3月3日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】GTPアーゼKRasタンパク質(KRas)のためのSRM/MRMアッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20200316BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N33/68
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-501251(P2017-501251)
(86)(22)【出願日】2015年7月13日
(65)【公表番号】特表2017-521663(P2017-521663A)
(43)【公表日】2017年8月3日
(86)【国際出願番号】US2015040208
(87)【国際公開番号】WO2016007963
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2018年7月6日
(31)【優先権主張番号】62/023,683
(32)【優先日】2014年7月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505343745
【氏名又は名称】エクスプレッション、パソロジー、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】EXPRESSION PATHOLOGY, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100104617
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 伸美
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド、ビー.クリズマン
(72)【発明者】
【氏名】トッド、ヘンブロー
(72)【発明者】
【氏名】シーノ、ティパランビル
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ−リ、リャオ
【審査官】
吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−197258(JP,A)
【文献】
特表2014−505251(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/085826(WO,A2)
【文献】
国際公開第2014/033136(WO,A1)
【文献】
特開2011−010649(JP,A)
【文献】
特表2014−507640(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0011748(US,A1)
【文献】
国際公開第2012/099881(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60−70、92
G01N 33/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルマリン固定組織の生体試料中のGTPアーゼKRasタンパク質(KRas)のレベルを測定する方法であって、質量分析法を用いて前記生体試料から調製したタンパク質消化物中のKRasフラグメントペプチドを検出し、及びその量を定量化すること、及び前記試料中のKRasタンパク質の前記レベルを計算することを含み、ここで、前記KRasフラグメントペプチドは配列番号1のペプチドであり、
前記レベルが相対的レベルまたは絶対的レベルであり、
使用される質量分析法のモードが、選択反応モニタリング(SRM)、多重反応モニタリング(MRM)、及び/または多重選択反応モニタリング(mSRM)である、前記方法。
【請求項2】
前記KRasフラグメントペプチドを検出し及び定量化する前に、前記タンパク質消化物を分画するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分画ステップが、液体クロマトグラフィ、ナノ逆相液体クロマトグラフィ、高性能液体クロマトグラフィまたは、逆相高性能液体クロマトグラフィからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質消化物が、プロテアーゼ消化物を含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質消化物が、トリプシン消化物を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記質量分析法が、タンデム質量分析法、イオントラップ質量分析法、三連四重極質量分析法、MALDI−TOF質量分析法、MALDI質量分析法、及び/または飛行時間形質量分析法を含む、請求項1〜3および5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記組織がパラフィン包埋組織である、請求項1〜3および5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記組織が腫瘍から得られる、請求項1〜3および5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記KRasフラグメントペプチドを定量化することが、1つの生体試料中のKRasフラグメントペプチドの量と、異なる別個の生体試料中の同じKRasフラグメントペプチドの量とを比較することを含む、請求項1〜3および5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記KRasフラグメントペプチドを定量化することが、公知の量の追加された内部標準ペプチドとの比較によって生体試料中の前記KRasフラグメントペプチドの前記量を決定することを含み、前記生体試料中のKRasフラグメントペプチドが、同じアミノ酸配列を有する内部標準ペプチドと比較される、請求項1〜3および5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記内部標準ペプチドが、同位体標識したペプチドである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記同位体標識した内部標準ペプチドが、18O、17O、34S、15N、13C、2Hまたはそれらの組合せから選択された1つ以上の安定した重同位体を含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その内容全体が参照により本明細書に援用されている、2014年7月11日出願の仮特許出願第62/023,683号に対する優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
GTPアーゼKRasタンパク質(K−Ras−2、Ki−Ras及びc−K−Rasとも呼ばれ、本明細書中では「KRas」と呼ぶ)の部分配列から誘導された特異的ペプチドが提供される。各ペプチドについてのペプチド配列及びフラグメンテーション/遷移イオンは多重反応モニタリング(MRM)アッセイと呼ぶこともでき、かつ本明細書中ではSRM/MRMと呼ばれる質量分析法に基づく選択反応モニタリング(SRM)アッセイにおいて特に有用である。KRasタンパク質のSRM/MRM定量分析のためのペプチドの使用について記述される。
【0003】
このSRM/MRMアッセイは、KRasタンパク質由来の特異的ペプチドの1つ以上の相対的または絶対的定量レベルを測定するために使用可能であり、したがって、生体試料から得た所与のタンパク質調製物中のKRasタンパク質の量を測定する質量分析方法を提供する。
【0004】
より具体的には、SRM/MRMアッセイは、ホルマリン固定された癌患者の組織などの患者の組織試料から入手した細胞から調製された複合タンパク質溶解物試料中で直接これらのペプチドを測定することができる。内容全体が参照として本明細書に援用されている米国特許第7,473,532号に、ホルマリン固定組織からタンパク質試料を調製する方法が記載されている。米国特許第7,473,532号に記載の方法は、Expression Pathology Inc.(Rockville,MD)から入手可能なLiquid Tissue試薬及びプロトコルを用いて適切に実施され得る。
【0005】
癌患者組織由来の最も広く有利に利用可能な組織形態は、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織である。外科的に取出された組織のホルムアルデヒド/ホルマリン固定は、世界中で群を抜いて最も一般的な癌組織試料保存方法であり、標準的な病理学実践のための一般に認められた慣習である。ホルムアルデヒド水溶液がホルマリンと呼ばれる。「100%」ホルマリンは、酸化及び重合度を制限するため通常はメタノールである少量の安定剤を伴う水中のホルムアルデヒド飽和溶液(約40体積%または37質量%)からなる。組織を保存する最も一般的な方法は、一般的に10%中性緩衝ホルマリンとも呼ばれるホルムアルデヒド水溶液中に長時間(8時間ないし48時間)にわたり全組織を浸漬させ、その後固定した全組織を室温で長時間保管するためにパラフィンろう内に包埋することである。したがって、ホルマリン固定された癌組織を分析するための分子分析方法が、癌患者の組織分析のための最も一般に認められ頻繁に利用されている方法である。
【0006】
SRM/MRMアッセイに由来する結果を用いて、組織(生体試料)が採取され保存された患者または被験者の特定組織試料(例えば癌組織)試料内部のKRasタンパク質の正確かつ厳密な定量的レベルを相関することができる。これにより、癌についての診断及び予後情報が得られるばかりでなく、医師または他の医療専門家も、患者のための適切な療法をより正確に決定することができるようになる。罹患組織または他の患者試料中のタンパク質発現レベルに関する診断上、予後上及び治療上重要な情報を提供するこのようなアッセイは、コンパニオン診断アッセイと呼ばれる。例えば、このようなアッセイは、癌の病期または程度を診断し、患者が応答する確率が最も高い治療薬を決定するために設計され得る。
【発明の概要】
【0007】
本明細書中に記載のアッセイは、KRasタンパク質由来の特異的未修飾ペプチドの相対的または絶対的レベルを測定し、同様に、KRasタンパク質由来の特異的修飾ペプチドの絶対的または相対的レベルも測定することができる。修飾の例としては、ペプチド上に存在し得るリン酸化アミノ酸残基及びグリコシル化アミノ酸残基が含まれる。
【0008】
KRasタンパク質の相対的定量レベルは、例えば、異なる試料中の個別のKRasペプチドのSRM/MRMシグネチャーピーク面積(例えばシグネチャーピーク面積または累積フラグメントイオン強度)を比較することによって、SRM/MRM方法により決定可能である。代替的には、多重KRasシグネチャーペプチドのための多数のSRM/MRMシグネチャーピーク面積を比較して(ここで各ペプチドは独自の特異的SRM/MRMシグネチャーピークを有する)、1つの生体試料中の相対的KRasタンパク質含有量を決定し、それを1つ以上の追加のまたは異なる生体試料中のKRasタンパク質含有量と比較することが可能である。このようにして、KRasタンパク質由来の特定のペプチド(単複)の量、ひいてはKRasタンパク質の量が、同じ実験条件下で、2つ以上の生体試料にわたり、同じKRasペプチド(単複)との関係において決定される。さらに、SRM/MRM方法によりそのペプチドについてのシグネチャーピーク面積と、生体試料からの同じタンパク質調製物の内部の異なるタンパク質(単複)に由来する別の異なるペプチド(単複)についてのシグネチャーピーク面積とを比較することによって、単一の試料内部のKRasタンパク質からの所与のペプチド(単複)について、相対的定量を決定することができる。このようにして、KRasタンパク質由来の特定のペプチドの量、ひいては、KRasタンパク質の量が、同じ試料の内部で互いとの関係において決定される。これらのアプローチは、試料間及び試料内部で別のペプチド(単複)の量に対するKRasタンパク質由来の個別のペプチド(単複)の定量を可能にし、ここでシグネチャーピーク面積によって決定される量は、生体試料からのタンパク質調製物中のKRasペプチドの絶対的重量対体積または重量対重量の量の如何に関わらず、互いに相対的である。異なる試料間の個別のシグネチャーピーク面積についての相対的な定量データは、1試料あたりの分析されたタンパク質の量に対して正規化され得る。単一の試料中及び/または多くの試料にわたって、多数のタンパク質及びKRasタンパク質からの多くのペプチドにわたり、同時に相対的定量を行なって、他のペプチド/タンパク質との関係における1つのペプチド/タンパク質の相対的タンパク質量への見識を得ることができる。
【0009】
KRasタンパク質の絶対的定量レベルは、例えば、SRM/MRM方法により決定可能であり、これによって、1つの生体試料中のKRasタンパク質由来の個別のペプチドのSRM/MRMシグネチャーピーク面積が、スパイクされた内部標準のSRM/MRMシグネチャーピークと比較される。一実施形態において、内部標準は、1つ以上の重同位体で標識された1つ以上のアミノ酸残基を含む全く同一のKRasペプチドの合成版である。このような同位体標識内部標準は、質量分析法によって分析された場合に、天然KRasペプチドシグネチャーピークとは異なり別個でありしたがってコンパレータピークとして使用可能である予測可能で一貫したSRM/MRMシグネチャーピークを生成するような形で合成可能である。こうして、内部標準が公知の量で生体試料由来のタンパク質調製物中にスパイクされ質量分析法によって分析された場合、天然ペプチドのSRM/MRMシグネチャーピーク面積は、内部標準ペプチドのSRM/MRMシグネチャーピーク面積と比較され、この数値的比較は、生体試料由来の原初のタンパク質調製物中に存在する天然ペプチドの絶対モル濃度及び/または絶対重量のいずれかを標示する。フラグメントペプチドについての絶対的定量データが、1試料あたりの分析されたタンパク質量に応じて表示される。絶対的定量を、単一の試料中で同時に多くのペプチドひいてはタンパク質にわたり及び/または多くの標本にわたり行って、個別の生体試料中及び個別の試料中のコホート全体の中の絶対的タンパク質量への見識を得ることができる。
【0010】
SRM/MRMアッセイ方法は、例えばホルマリン固定した組織などの患者由来組織内で直接癌の病期診断及び/または患者診断を補助するため、ならびにその患者を治療する上で使用するためにどの治療薬が最も有利と考えられるかを決定するのを補助するために使用可能である。例えば部分的腫瘍または全腫瘍の治療的摘出のための外科手術を通してか、または疑わしい疾病の有無を決定するために行なわれる生検方法を通して患者から摘出された癌組織は、その患者組織内に特異的タンパク質(単複)が存在するか否か、及びどのタンパク質形態が存在するかを決定するために分析される。その上、1つのタンパク質または多数のタンパク質の発現レベルを決定し、健常組織内に見出される「正常」または基準レベルと比較することができる。健常組織内に見出されるタンパク質の正常または基準レベルは、例えば、癌を有していない1つ以上の個体の関連組織から誘導され得る。代替的には、癌を有する個体のための正常または基準レベルは、癌を患っていない関連組織の分析によって得ることができる。
【0011】
タンパク質レベル(例えばKRasレベル)のアッセイは同様に、癌の病期を診断するためにも使用可能であり、KRasレベルを利用することによって、癌の診断を受けた患者または被験者についての予後情報を提供できる。個別のKRasペプチドのレベルは、分析されたタンパク質溶解物の総量あたりのSRM/MRMアッセイにより決定されたペプチドのモル量として定義される。したがって、KRasタンパク質(またはKRasタンパク質のフラグメントペプチド)のレベルを正常組織内で観察したレベルと相関することによって、癌の病期または悪性度及び/または患者の予後を決定するのを補助するためにKRasに関する情報を使用することができる。癌の病期及び/または悪性度及び/またはKRasタンパク質発現特性がひとたび決定された時点で、その情報を、アッセイされたタンパク質(単複)(例えばKRas)の異常な発現によって特徴づけられる癌組織を特異的に治療するために開発された治療薬(化学的及び生物学的)のリストに整合させることができる。KRasタンパク質アッセイからの情報を、例えばKRasタンパク質またはこのタンパク質を発現する細胞/組織を特異的に標的にする治療薬のリストに整合させることで、疾病の治療に対する個別化医療と呼ばれているものが定義される。本明細書中に記載のアッセイ方法は、診断及び治療上の決定の源として患者自身の組織由来のタンパク質の分析を使用することによる個別化医療のアプローチの根拠を成すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】部分A〜Cは、三連四重極質量分析計上で行ったKRasペプチドの定量を伴う、ホルマリン固定生体試料由来のLiquid Tissue溶解物上で行なわれたKRasタンパク質由来の単一ペプチドのSRM/MRMアッセイの一実施例を示す。ホルマリン中で固定された生体試料中のこのペプチドをどのように測定するかについての特定的特性が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
原則として、例えば公知の特異性をもつプロテアーゼ(例えばトリプシン)で消化することにより調製されたKRasタンパク質に由来する予測されたあらゆるペプチドを代理レポータして用いて、質量分析法ベースのSRM/MRMアッセイを使用して試料中のKRasタンパク質の存在量を決定することができる。同様にして、KRasタンパク質内で潜在的に修飾されるものとして公知である部位においてアミノ酸残基を含むあらゆる予測ペプチド配列も同様に、試料中のKRasタンパク質の修飾の程度をアッセイするために使用可能であると考えられる。
【0014】
KRasフラグメントペプチドは、米国特許第7,473,532号中で提供されているLiquid Tissueプロトコルを使用することを含む、さまざまな方法によって生成され得る。Liquid Tissueプロトコル及び試薬は、組織/生体試料中のタンパク質のタンパク質分解消化により、ホルマリン固定パラフィン包埋組織から、質量分析法による分析に好適なペプチド試料を生成することができる。Liquid Tissueプロトコルにおいて、組織/生体試料は、タンパク質架橋を逆転または解除するために、長時間にわたり(例えば約10分から約4時間、約80℃から約100℃まで)緩衝液中で加熱される。利用される緩衝液は、中性緩衝液(例えばトリス系緩衝液、または洗浄剤を含む緩衝液)である。熱処理の後、組織/生体試料は、生体試料の組織及び細胞構造を分断させ試料を液化するのに充分な時間(例えば、37℃〜65℃の温度で30分から24時間の期間)、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン及びエンドプロテイナーゼLys‐Cを含む(ただしこれらに限定されない)1つ以上のプロテアーゼで処理される。加熱及びタンパク質分解の結果は、液体で可溶かつ低濃度の生体分子溶解物である。
【0015】
意外にも、KRasタンパク質由来の多くの潜在的ペプチド配列が、直ちに明らかでない理由のために、質量分析法に基づくSRM/MRMアッセイにおける使用にとって好適でないかまたは有効でないことが発見されている。このことは特に、ホルマリン固定組織由来のペプチドについて言えることである。MRM/SRMアッセイのために最も好適なペプチドを予測することは不可能であったことから、KRasタンパク質用の信頼性の高い正確なSRM/MRMアッセイを開発するためには、実際のLiquid Tissue溶解物中の修飾または未修飾ペプチドを実験的に同定することが必要であった。いかなる理論による束縛も望まないものの、一部のペプチドは、例えば、他のタンパク質と別個でないフラグメントを充分にイオン化または産生しないことから質量分析法による検出が困難であり得る、と考えられている。ペプチドは同様に、分離中(例えば液体クロマトグラフィ)に充分分割できない場合もあり、あるいはガラスまたはプラスチックウェアに接着する場合もある。
【0016】
本開示のさまざまな実施形態(例えば表1及び2)に見られるKRasペプチドは、ホルマリン固定された癌組織から入手した細胞から調製された複合Liquid Tissue溶解物の内部の全てのタンパク質のプロテアーゼ消化により、KRasタンパク質から誘導されたものである。別段の指摘の無いかぎり、各実施例において、プロテアーゼはトリプシンであった。Liquid Tissue溶解物は、このとき、質量分析法により検出され分析されるKRasタンパク質由来のペプチドを決定するために、質量分析法によって分析された。質量分析法による分析のための特定の好ましいペプチドサブセットの同定は、1)1つのタンパク質由来のどのペプチド(単複)がLiquid Tissue溶解物の質量分析法による分析においてイオン化するかの実験に基づく決定、及び2)Liquid Tissue溶解物を調製する上で使用されるプロトコル及び実験条件に生き延びるペプチドの能力、に基づくものである。この後者の特性は、ペプチドのアミノ酸配列のみならず、試料調製中に修飾形態で生き延びるペプチド内部の修飾アミノ酸残基の能力にも広がっている。
【0017】
ホルマリン(ホルムアルデヒド)固定組織から直接入手した細胞からのタンパク質溶解物は、組織の顕微解剖を介して試料管内に細胞を採取することとそれに続いて長時間にわたりLiquid Tissue緩衝液内で細胞を加熱することを必要とするLiquid Tissue試薬及びプロトコルを使用して、調製された。ホルマリンで誘発された架橋にひとたびマイナスの影響が及んだならば、組織/細胞は次に、例えばトリプシンなどのプロテアーゼを用いて、予測可能な形で完全に消化されるが、他のプロテアーゼを使用することもできる。各タンパク質溶解物は、プロテアーゼを用いた無欠のポリペプチドの消化によってペプチド収集物へと変化する。各々のLiquid Tissue溶解物は、ペプチドの多数の包括的プロテオーム調査を行なうために(例えばイオントラップ質量分析法により)分析され、ここで、データは、各々のタンパク質溶解物中に存在する全ての細胞タンパク質から質量分析法により同定され得るかぎりの数のペプチドの同定として提示された。
【0018】
単一の複合タンパク質/ペプチド溶解物からの可能なかぎり多くのペプチドの同定のために包括的プロファイリングを行なうことのできるイオントラップ質量分析計または別の形態の質量分析計が利用される。しかしながら、ペプチドの包括的プロファイリングを行なうには、イオントラップ質量分析計を使用することが有利であり得る。MALDI、イオントラップまたは三連四重極を含めた任意のタイプの質量分析計上でSRM/MRMアッセイを開発し実施することができるものの、SRM/MRMアッセイのためには三連四重極型計器プラットフォームを使用することが有利である。このタイプの質量分析計は、1つの細胞内に含まれている全てのタンパク質由来の数十万ないし数百万もの個別のペプチドで構成され得る非常に複合度の高いタンパク質溶解物の内部で単一の単離された標的ペプチドを分析するための好適な計器である。
【0019】
利用された条件下の単一の溶解物の単一のMS分析内でひとたび可能なかぎり多くのペプチドが同定されたならば、次にペプチドリストが照合され、その溶解物中で検出されたタンパク質を決定するために使用された。そのプロセスは、多数のLiquid Tissue溶解物について反復され、非常に大きなペプチドリストが単一のデータセットの形に照合された。このタイプのデータセットは、(プロテアーゼ消化の後に)分析された生体試料タイプの中、具体的には生体試料のLiquid Tissue溶解物中で検出され得るペプチドを代表するものとみなされることができ、こうして、例えばKRasタンパク質などの特定のタンパク質のためのペプチドを含む。
【0020】
一実施形態において、絶対量または相対量のKRasタンパク質の投与において有用であるものとして同定されたKRasトリプシンペプチドは、各々が表1に列挙されている、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号7のペプチドを1つ以上、2つ以上、3つ以上または4つ以上含む。これらのペプチドの各々は、ホルマリン固定、パラフィン包埋組織から調製されたLiquid Tissue溶解物中で質量分析法により検出された。したがって、各ペプチドは、直接内部にホルマリン固定患者組織を含む、ヒト生体試料中のKRasタンパク質についての定量SRM/MRMアッセイを開発する上で使用するための一候補である。
【0022】
表1に列挙されているKRasトリプシンペプチドは、前立腺、結腸及び胸部を含めた異なる人体臓器の多数の異なるホルマリン固定組織の多数のLiquid Tissue溶解物から検出されたものを含む。これらのペプチドの各々は、ホルマリン固定組織内のKRasタンパク質の定量SRM/MRMアッセイにとって有用であるとみなされている。これらの実験のさらなるデータ分析は、いずれの特定の臓器部位に由来するいずれの特異的ペプチドについても、選好性は全くないことを示した。したがって、これらのペプチドは、任意の生体試料由来または体内の任意の臓器部位由来の任意のホルマリン固定組織からのLiquid Tissue溶解物についてKRasタンパク質のSRM/MRMアッセイを行なうために使用され得る。
【0023】
KRasタンパク質由来の各ペプチドについてSRM/MRMアッセイを最も効率良く実施するためには、分析においてペプチド配列に加えて情報を利用することが望ましい。この追加情報は、アッセイを有効に行なうことができるように、特定の標的ペプチド(単複)の適正な集中分析を行なうように質量分析計(例えば三連四重極質量分析計)を管理指示する上で使用し得る。
【0024】
標的ペプチド全般及び特定のKRasペプチドについての追加情報は、ペプチドのモノアイソトピック質量、その前駆体荷電状態、前駆体m/z値、m/z遷移イオン及び各遷移イオンのイオンタイプを含み得る。表2は、表1内のリストからのKRasペプチドのうちの1つについてのKRasタンパク質のためのSRM/MRMアッセイを開発するのに使用され得る追加のペプチド情報を示す。表2内の例により示された1つのKRasペプチドについて説明された類似の追加情報を作製し、獲得しかつ表1に含まれている他のペプチドに適用することができる。
【0026】
以下で説明する方法は、1)KRasタンパク質についての質量分析法を用いたSRM/MRMアッセイのために使用可能であるKRasタンパク質からの候補ペプチドを同定するため、2)相関する目的でKRasタンパク質由来の標的ペプチドについて個別のSRM/MRMアッセイ(単複)を開発するため、及び3)癌診断及び/または最適な療法の選択に対し、定量アッセイを適用するために使用された。
【0027】
アッセイ方法
1. KRasタンパク質のためのSRM/MRM候補フラグメントペプチドの同定
a. タンパク質を消化するため、(トリプシンを含んでいても含まなくともよい)プロテアーゼ(単複)を用いて、ホルマリン固定生体試料からLiquid Tissue溶解物を調製する。
b. イオントラップタンデム質量分析計上でLiquid Tissue溶解物中の全てのタンパク質フラグメントを分析し、個別のフラグメントペプチドがリン酸化反応またはグリコシル化などのいかなるペプチド修飾も含んでいないKRasタンパク質由来の全てのフラグメントペプチドを同定する。
c. イオントラップタンデム質量分析計上でLiquid Tissue溶解物中の全てのタンパク質フラグメントを分析し、例えばリン酸化またはグリコシル化残基などのペプチド修飾を担持するKRasタンパク質由来の全てのフラグメントペプチドを同定する。
d. 完全長KRasタンパク質全体から特定の消化方法によって生成された全てのペプチドは潜在的に測定可能であるが、SRM/MRMアッセイの開発のために使用される好ましいペプチドは、ホルマリン固定生体試料から調製された複合Liquid Tissueタンパク質溶解物中で直接質量分析法によって同定されるものである。
e. 患者組織内の特異的に修飾され(リン酸化、グリコシル化など)、ホルマリン固定生体試料からのLiquid Tissue溶解物を分析する場合に質量分析計中でイオン化し、ひいては検出されるペプチドは、KRasタンパク質のペプチド修飾をアッセイするための候補ペプチドとして同定される。
【0028】
2. KRasタンパク質由来のフラグメントペプチドのための質量分析法アッセイ
a. Liquid Tissue溶解物中で同定された個別のフラグメントペプチドのための三連四重極質量分析計上でのSRM/MRMアッセイが、KRasタンパク質由来のペプチドに適用される。
i. ゲル電気泳動法、液体クロマトグラフィ、キャピラリー電気泳動法、ナノ逆相液体クロマトグラフィ、高性能液体クロマトグラフィ、または逆相高性能液体クロマトグラフィを含む(ただしこれらに限定されない)最適なクロマトグラフィ条件のための、フラグメントペプチドの最適保持時間を決定する。
ii. 各ペプチドのためのSRM/MRMアッセイを開発する目的で、ペプチドのモノアイソトピック質量、各ペプチドについての前駆体荷電状態、各ペプチドについての前駆体m/z、各ペプチドについてのm/z遷移イオン、及び各フラグメントペプチドについての各遷移イオンのイオンタイプを決定する。
iii. 次に、(i)及び(ii)に由来する情報を用いて、三連四重極質量分析計上でSRM/MRMアッセイを行なうことができるが、各ペプチドは三連四重極質量分析計上で行なわれる通りの固有のSRM/MRMアッセイを厳密に定義する1つの特徴的な固有のSRM/MRMシグネチャーピークを有している。
b. SRM/MRM質量分析法による分析からの固有のSRM/MRMシグネチャーピーク面積の一関数として検出されているKRasタンパク質のフラグメントペプチドの量が、特定のタンパク質溶解物中のタンパク質の相対量及び絶対量の両方を表わすことができるような形で、SRM/MRM分析を行なう。
i. 相対的定量は、以下のことによって達成し得る:
1. 1つのホルマリン固定生体試料由来のLiquid Tissue溶解物中で検出された所与のKRasペプチドからのSRM/MRMシグネチャーピーク面積と、少なくとも第2、第3、第4またはそれ以上のホルマリン固定生体試料由来の少なくとも第2、第3、第4またはそれ以上のLiquid Tissue溶解物中の同じKRasフラグメントペプチドの同じSRM/MRMシグネチャーピーク面積とを比較することによって、KRasタンパク質の存在の増加または減少を決定する。
2. 1つのホルマリン固定生体試料由来のLiquid Tissue溶解物中で検出された所与のKRasペプチドからのSRM/MRMシグネチャーピーク面積と、異なる別個の生体供給源から誘導された他の試料中の他のタンパク質由来のフラグメントペプチドから開発されたSRM/MRMシグネチャーピーク面積とを比較することにより、KRasタンパク質の存在の増加または減少を決定する。ここで1つのペプチドフラグメントについての2つの試料の間のSRM/MRMシグネチャーピーク面積の比較は、各試料中で分析されたタンパク質の量に対して正規化される。
3. さまざまな細胞条件下でその発現レベルを変化させない他のタンパク質のレベルに対しKRasタンパク質の変化するレベルを正規化するために、所与のKRasペプチドについてのSRM/MRMシグネチャーピーク面積と、ホルマリン固定生体試料由来の同じLiquid Tissue溶解物中の異なるタンパク質から誘導された他のフラグメントペプチドからのSRM/MRMシグネチャーピーク面積とを比較することによって、KRasタンパク質の存在の増加または減少を決定する。
4. これらのアッセイは、KRasタンパク質の未修飾フラグメントペプチド及び修飾フラグメントペプチドの両方に適用でき、ここで修飾には、非限定的に、リン酸化反応及び/またはグリコシル化が含まれ、ここで修飾ペプチドの相対的レベルは、未修飾ペプチドの相対量を決定する場合と同じ形で決定される。
ii. 所与のペプチドの絶対的定量は、個別の生体試料中のKRasタンパク質由来の所与のフラグメントペプチドについてのSRM/MRMシグネチャーピーク面積と、生体試料からタンパク質溶解物中にスパイクされた内部フラグメントペプチド標準のSRM/MRMシグネチャーピーク面積とを比較することにより達成され得る。
1. 内部標準は、調査中のKRasタンパク質由来のフラグメントペプチドの標識された合成版である。この標準は、公知の量で試料中にスパイクされ、SRM/MRMシグネチャーピーク面積は、生体試料中の天然フラグメントペプチドと内部フラグメントペプチド標準の両方について別個に決定されて、それに続いて両方のピーク面積が比較され得る。
2. これは、未修飾フラグメントペプチドと修飾フラグメントペプチドに対して適用され得、ここで修飾には、非限定的に、リン酸化反応及び/またはグリコシル化が含まれ、ここで、修飾ペプチドの絶対レベルは、未修飾ペプチドの絶対レベルの決定と同じ形で決定可能である。
【0029】
3. 癌診断及び治療に対してフラグメントペプチドの定量を応用する
a. KRasタンパク質のフラグメントペプチドレベルの相対的及び/または絶対的定量を行ない、癌の分野では充分に理解されている通り、患者の腫瘍組織内の癌の病期/悪性度/状態に対するKRasタンパク質発現の予め決定された関連性が確認されることを実証する。
b. KRasタンパク質のフラグメントペプチドレベルの相対的及び/または絶対的定量を行ない、異なる処理戦略からの臨床的成果との相関関係を実証する。ここで、この相関関係は、該分野においてすでに実証されたものであるか、または患者コホートにわたる相関研究を通して将来実証され得るものである。以前に、立証された相関関係または将来に誘導される相関関係のいずれかがひとたびこのアッセイによって確認された時点で、最適な治療戦略を決定するために、このアッセイ方法を使用することができる。
【0030】
図1は、ホルマリン固定生体試料由来のLiquid Tissue溶解物について行なわれた単一のSRM/MRMアッセイの一例を示す。SRM/MRMアッセイは、三連四重極質量分析計上でのKRasタンパク質の定量を目的とする単一のペプチド用として開発された。このKRasペプチド(配列SFEDIHHYR)についての特異的かつ固有の特性は、イオントラップ及び三連四重極質量分析計の両方の上での全てのKRasペプチドの分析によって開発されたものであり、
図1A中に示されている。この情報には、ペプチドのモノアイソトピック質量、その前駆体荷電状態前駆体m/z値、前駆体の遷移m/z値及び同定された遷移の各々のイオンタイプが含まれる。この情報は、ホルマリン固定された試料/タンパク質由来のLiquid Tissue溶解物中で直接、各々全ての候補SRM/MRMペプチドについて実験により決定されなければならない。これは、興味深いことに、KRasタンパク質由来の全てのペプチドを、本明細書中に記載の通りのSRM/MRMを用いてこのような溶解物中で検出できるわけではないことが理由であり、このことは、検出されなかったKRasペプチドを、ホルマリン固定試料/タンパク質由来のLiquid Tissue溶解物中で直接ペプチド/タンパク質を定量する上で使用するためのSRM/MRMアッセイを開発する目的の候補ペプチドとみなすことはできない、ということを表わしている。
【0031】
図1Bに示されている通り、この特定のSRM/MRMアッセイを、三連四重極質量分析計上で行なった。この実験における実験用試料は、組織代用として作用するようにホルマリン固定されパラフィン包埋された細胞系統から調製されたLiquid Tissueタンパク質であった。このアッセイからのデータは、ホルマリン固定試料中のこのKRasペプチドのための固有のSRM/MRMシグネチャーピークの存在を標示する。
【0032】
図1Cは、ホルマリン固定された生体試料中の上述のペプチドを定量的に測定するためにこのペプチドのための特異的遷移イオン特性が使用されることを示している。これらのデータは、分析されたタンパク質溶解物1マイクログラムあたりのペプチドのモル量の一関数としてこのKRasペプチドの絶対量を標示する。ホルマリン固定された患者由来のタンパク質の分析に基づいたタンパク質内のKRasタンパク質レベルの査定は、各々の特定の患者についての診断、予後及び治療関連情報を提供することができる。一実施形態において、本開示は、生体試料中のGTPアーゼKRasタンパク質のレベルを測定する方法において、質量分析法を用いて該生体試料から調製したタンパク質消化物中の1つ以上の修飾または未修飾KRasフラグメントペプチドを検出しその量を定量化すること、及び該試料中の修飾または未修飾KRasタンパク質のレベルを計算することを含む方法であって、ここでレベルが相対的レベルまたは絶対的レベルである、方法について説明している。関連する実施形態においては、1つ以上のKRasフラグメントペプチドを定量化することが、公知の量の追加された内部標準ペプチドとの比較によって生体試料中のKRasフラグメントペプチドの各々の量を決定することを含み、生体試料中のKRasフラグメントペプチドの各々が、同じアミノ酸配列を有する内部標準ペプチドと比較される。一部の実施形態において、同位体標識した内部標準ペプチドが、
18O、
17O、
34S、
15N、
13C、
2Hまたはそれらの組合せから選択された1つ以上の安定した重同位体を含む。
【0033】
本明細書中に記載された生体試料中のKRasタンパク質(またはその代用物としてのフラグメントペプチド)のレベルを測定する方法は、患者または被験者の体内の癌の診断及び/または予後の指標として使用され得る。一実施形態において、KRasタンパク質のレベルの測定からの結果は、タンパク質内で見出されたKRasタンパク質のレベルと、正常な及び/または癌状態または前癌状態のタンパク質とを相関(例えば比較)することによって、癌の診断病期/悪性度/状態及び/または予後状態を決定するために利用され得る。
【0034】
核酸及びタンパク質の両方共が同じLiquid Tissue(商標)生体分子調製物から分析可能であることから、タンパク質が分析されたものと同じ試料中の核酸から疾病診断及び薬剤治療の決定についての追加情報を生成することが可能である。例えば、一部の細胞によりKRasタンパク質が増大したレベルで発現される場合、SRMによりアッセイされた時点でデータは、細胞の状態についての情報を提供することができ、これらの細胞の無制御な成長の可能性、薬剤耐性の可能性及び癌の発達を得ることができる。同時に、KRas遺伝子及び/またはそれらがコードする核酸及びタンパク質の状態(例えば、mRNA分子及びそれらの発現レベルまたはスプライス変異)についての情報を、同じLiquid Tissue(商標)生体分子調製物中に存在する核酸から得ることができ、これをKRasタンパク質のSRM分析と同時に査定することができる。KRas由来でなく同じ生体分子調製物中に存在するあらゆる遺伝子及び/または核酸を、KRasタンパク質のSRM分析と同時に査定することができる。一実施形態において、KRasタンパク質及び/または1つ、2つ、3つ、4つまたはそれ以上の追加のタンパク質に関する情報は、これらのタンパク質をコードする核酸を検査することによって査定され得る。これらの核酸は、例えば、シークエンシング方法、ポリメラーゼ連鎖反応方法、制限酵素断片長多型分析、欠失、挿入の同定、及び/または非限定的に単一塩基対多型、遷移、トランス版またはそれらの組合せを含む変異の決定のうちの1つ以上、2つ以上または3つ以上により検査可能である。
【0035】
本発明の1つの態様によれば、以下が提供される。
(1)生体試料中のGTPアーゼKRasタンパク質(KRas)のレベルを測定する方法であって、質量分析法を用いて前記生体試料から調製したタンパク質消化物中の1つ以上の修飾または未修飾KRasフラグメントペプチドを検出し、および/またはその量を定量化すること、及び前記試料中の修飾または未修飾KRasタンパク質の前記レベルを計算することを含み、
前記レベルが相対的レベルまたは絶対的レベルである、前記方法。
(2)1つ以上の修飾または未修飾KRasフラグメントペプチドを検出し及び/または定量化する前に、前記タンパク質消化物を分画するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
(3)前記分画ステップが、ゲル電気泳動、液体クロマトグラフィ、キャピラリー電気泳動法、ナノ逆相液体クロマトグラフィ、高性能液体クロマトグラフィまたは、逆相高性能液体クロマトグラフィからなる群から選択される、(2)に記載の方法。
(4)前記生体試料の前記タンパク質消化物が、Liquid Tissueプロトコルによって調製される、(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記タンパク質消化物が、プロテアーゼ消化物を含む、(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(6)前記タンパク質消化物が、トリプシン消化物を含む、(5)に記載の方法。
(7)前記質量分析法が、タンデム質量分析法、イオントラップ質量分析法、三連四重極質量分析法、MALDI−TOF質量分析法、MALDI質量分析法、及び/または飛行時間形質量分析法を含む、(1)ないし(6)のいずれかに記載の方法。
(8)使用される質量分析法のモードが、選択反応モニタリング(SRM)、多重反応モニタリング(MRM)、及び/または多重選択反応モニタリング(mSRM)である、(7)に記載の方法。
(9)前記KRasフラグメントが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6及び配列番号7として明記されたアミノ酸配列を含む、(1)ないし(8)のいずれかに記載の方法。
(10)前記生体試料が、血液試料、尿試料、血清試料、腹水試料、喀痰試料、リンパ液、唾液試料、細胞または固体組織である、(1)ないし(9)のいずれかに記載の方法。
(11)前記組織がホルマリン固定組織である、(10)に記載の方法。
(12)前記組織がパラフィン包埋組織である、(10)または(11)に記載の方法。
(13)前記組織が腫瘍から得られる、(10)に記載の方法。
(14)前記腫瘍が原発性腫瘍である、(13)に記載の方法。
(15)前記腫瘍が続発性腫瘍である、(13)に記載の方法。
(16)修飾または未修飾KRasフラグメントペプチドを定量化することをさらに含む、(1)ないし(15)のいずれかに記載の方法。
(17)前記KRasフラグメントペプチドを定量化することが、1つの生体試料中で配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6及び配列番号7に示されている通りのKRasの約8個ないし約45個のアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む1つ以上のKRasフラグメントペプチドの量と、異なる別個の生体試料中の同じKRasフラグメントペプチドの量とを比較することを含む、(16)に記載の方法。
(18)1つ以上のKRasフラグメントペプチドを定量化することが、公知の量の追加された内部標準ペプチドとの比較によって生体試料中の前記KRasフラグメントペプチドの各々の前記量を決定することを含み、前記生体試料中のKRasフラグメントペプチドの各々が、同じアミノ酸配列を有する内部標準ペプチドと比較される、(17)に記載の方法。
(19)前記内部標準ペプチドが、同位体標識したペプチドである、(18)に記載の方法。
(20)前記同位体標識した内部標準ペプチドが、
18O、
17O、
34S、
15N、
13C、
2Hまたはそれらの組合せから選択された1つ以上の安定した重同位体を含む、(19)に記載の方法。
(21)前記タンパク質消化物中の1つ以上の修飾または未修飾KRasフラグメントペプチドを検出し及び/または定量化することが、修飾または未修飾KRasタンパク質の存在及び被験者の癌との関連性を標示する、(1)ないし(20)のいずれかに記載の方法。
(22)前記1つ以上の修飾または未修飾KRasフラグメントペプチドを検出及び/または定量化することの結果、または前記KRasタンパク質のレベルを、前記癌の診断病期/悪性度/状態と相関することをさらに含む、(21)に記載の方法。
(23)前記1つ以上の修飾または未修飾KRasフラグメントペプチドを検出及び/または定量化することの結果、または前記KRasタンパク質のレベルを、前記癌の診断病期/悪性度/状態と相関させることが、多重フォーマットで他のタンパク質または他のタンパク質由来のペプチドを検出及び/または定量化して前記癌の診断病期/悪性度/状態についての追加情報を提供することと組合わされる、(22)に記載の方法。
(24)前記生体試料が得られた被験者のために、1つ以上のKRasフラグメントペプチドの存在、不在または量、またはKRasタンパク質のレベルに基づいて、1つの治療を選択することをさらに含む、(1)ないし(23)のいずれかに記載の方法。
(25)前記生体試料が得られた被験者に対して治療上有効な量の治療薬を投与することをさらに含み、前記治療薬及び/または投与される前記治療薬の量が、1つ以上の修飾または未修飾KRasフラグメントペプチドの量またはKRasタンパク質のレベルに基づくものである、(1)ないし(24)のいずれかに記載の方法。
(26)治療薬が前記KRasタンパク質を結合させ及び/またはその生体活性を阻害する、24)又は(25)に記載の方法。
(27)前記治療薬が、KRas発現癌細胞を特異的に標的とするレオリシンまたは他の薬剤から選択される、26)26)に記載の方法。
(28)前記生体試料が、Liquid Tissueプロトコル及び試薬を用いて1つ以上の修飾または未修飾KRasフラグメントペプチドの前記量を定量化するために処理されたホルマリン固定腫瘍組織である、(1)ないし(27)のいずれかに記載の方法。
(29)前記KRasフラグメントペプチドが、配列番号1として記載の前記アミノ酸配列を有する、(9)に記載の方法。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]