(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変速機は、駆動源からの出力により回転可能なプライマリプーリと、前記油圧装置として回転可能なセカンダリプーリと、前記プライマリプーリの回転を前記セカンダリプーリに伝達して前記セカンダリプーリを回転させる動力伝達部材とを有する
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(センサ異常検出時に、他のセンサを代用するようにした無段変速機の制御装置の例)
2.変形例
【0012】
<1.実施の形態>
[車両1の概略構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る無段変速機3を内蔵する車両1の概略構成例を、模式的に表したものである。
図2は、
図1に示した無段変速機3およびその制御部4の詳細構成例を表す模式図である。
図3は、
図2に示した無段変速部30および変速油圧系5の詳細構成例を表す模式図である。
【0013】
車両1は、例えば4つの駆動輪DW(後出)を有する自動車である。
図1に示したように、車両1は、駆動輪DWのほか、車体100内に、例えば動力源としてのエンジン2と、そのエンジン2からの駆動力を駆動輪DWに伝達する無段変速機3と、制御部4と、変速油圧系5と、異常検出部6を備えている。車両1は、車体100内に、ブレーキ油圧系16、バルブユニット17およびブレーキ18L,18Rなどをさらに備えている。
なお、無段変速機3、制御部4、変速油圧系5および異常検出部6が、本開示の「変速機」、「制御部」、「油圧回路」および「異常検出部」にそれぞれ対応する一具体例である。
【0014】
[エンジン2の構成]
エンジン2は、例えばガソリンなどの燃料を燃焼させることで機械的エネルギ、すなわち駆動力を出力する内燃機関であり、例えばシリンダ内をピストンが往復運動するピストン往復動機関である。エンジン2は、燃料噴射装置、点火装置、およびスロットル弁装置などを備えており、制御部4のうちのエンジン制御ユニット(E/G−ECU)4Aにより制御される。エンジン2により生成される駆動力は出力軸2J(
図2)から出力され、エンジン2に連設される無段変速機3に入力されるようになっている。
【0015】
[無段変速機3の構成]
無段変速機3は、
図2に示したように、例えばトルクコンバータ10と、前後進切替機構20と、無段変速部30と、減速部50と、差動装置60とを備えている。
【0016】
(トルクコンバータ10)
トルクコンバータ10は、エンジン2からの駆動力を、自動変速機用フルード(ATF:Automatic transmission fluid)などの作動油を介して下流の前後進切替機構20へ伝達すると共にその駆動力のトルクを増大させる機能を有する流体伝動装置である。
図2に示したように、トルクコンバータ10は、入力軸11と、ポンプインペラ12、ステータ13およびタービンランナ14の3種類の羽根車と、ロックアップクラッチ15とを有する。
【0017】
ポンプインペラ12、ステータ13およびタービンランナ14は、いずれも、入力軸11を回転中心として同軸回転可能である。入力軸11は、トルクコンバータ10のうちのエンジン2と対向する位置に設けられ、エンジン2の出力軸2Jと連結されて出力軸2Jと一体に回転するようになっている。ポンプインペラ12は、入力軸11と結合されており、入力軸11と一体に回転するようになっている。 一方、タービンランナ14は、
図2に示したように、前後進切替機構20の入力軸21(後出)に結合されている。さらに、ステータ13は、無段変速機3を構成する部材のうち静止している部材、例えば無段変速機3のハウジングなどに係合可能に設けられている。また、作動油は、ポンプインペラ12とタービンランナ14との間に封止されている。
【0018】
トルクコンバータ10では、ポンプインペラ12に伝達されるエンジン2からの駆動力を、作動油を介してそのトルクを増大させつつタービンランナ14に伝達することができる。ポンプインペラ12の回転により、作動油はポンプインペラ12からタービンランナ14に移動したのち、再度ポンプインペラ12へ戻ることとなる。その際、すなわち、タービンランナ14に移動した作動油がタービンランナ14からポンプインペラ12へ戻る際、その作動油はステータ13により流動方向をポンプインペラ12およびタービンランナ14の回転方向に沿った方向に変更される。このため、トルクコンバータ10では、ポンプインペラ12からタービンランナ14に伝達されるトルクを増幅させることができる。
【0019】
ロックアップクラッチ15は、ポンプインペラ12とタービンランナ14とを連結させることが可能なクラッチである。具体的には、ロックアップクラッチ15は、入力軸11と連結された回転部材151と、前後進切替機構20の入力軸21と連結された回転部材152とを有している。回転部材151と回転部材152とは対向配置されている。ロックアップクラッチ15が連結状態にある場合、例えば回転部材151と回転部材152との間の油室153に封止された作動油の油圧の印加により、回転部材151と回転部材152とが所定のクラッチ圧で付勢されて当接しつつ、同期回転可能となっている。この場合、ポンプインペラ12とタービンランナ14とは直結状態となり、エンジン2からの駆動力は、直接的にタービンランナ14から前後進切替機構20に伝達されることとなる。E/G−ECU4Aは、ロックアップクラッチ15が連結状態にある場合、後述する故障時においても、出力軸2Jにおける出力トルクを、回転部材151と回転部材152との当接面におけるスリップが発生しない程度に維持する。
【0020】
タービンランナ14の回転数、すなわちタービン回転数は、タービン回転数センサS1(
図3)により検出される。このタービン回転数センサS1により検出されたタービン回転数は、後述の変速機制御ユニット(T/M−ECU)4Bに出力される。
【0021】
(前後進切替機構20)
前後進切替機構20は、例えばダブルピニオン式またはデュアルプラネタリー式の遊星歯車を有し、例えば、入力軸21、サンギア24、内側プラネタリピニオン25、外側プラネタリピニオン26、プラネタリキャリア28、およびリングギア29を有している。入力軸21は、トルクコンバータ10のタービンランナ14と結合されている。サンギア24は入力軸21に結合されると共に内側プラネタリピニオン25と噛み合うようになっている。内側プラネタリピニオン25には、外側プラネタリピニオン26も噛み合うようになっている。プラネタリキャリア28は、内側プラネタリピニオン25と外側プラネタリピニオン26とを回転可能に支持する。リングギア29は外側プラネタリピニオン26と噛み合うようになっている。プラネタリキャリア28は、後述する無段変速部30の入力軸(以下、変速部入力軸と記す)31Jに結合されている。
【0022】
前後進切替機構20は、さらに、サンギア24とプラネタリキャリア28とを連結可能なクラッチである前進クラッチ22と、リングギア29の回転を制動可能なブレーキである後進ブレーキ23とを有している。前後進切替機構20は、前進クラッチ22が連結状態に操作されると共に後進ブレーキ23が解放状態に操作されることにより、サンギア24とプラネタリキャリア28とリングギア29とが一体に回転する。これにより、前後進切替機構20は、入力軸21で受けたエンジン2からの駆動力を、その回転方向および回転速度を変化させることなく、変速部入力軸31Jに伝達することが可能となっている。一方、前進クラッチ22が解放状態に操作されると共に後進ブレーキ23が停止状態に操作されることにより、プラネタリキャリア28は、サンギア24の回転方向とは逆向きに回転する。これにより、前後進切替機構20は、入力軸21で受けたエンジン2からの駆動力を、その回転方向を逆転させて、変速部入力軸31Jに伝達することが可能となっている。また、前進クラッチ22および後進ブレーキ23がいずれも解放状態となることにより、サンギア24とプラネタリキャリア28との間における駆動力の伝達が遮断される。なお、前進クラッチ22の連結状態および解放状態と、後進ブレーキ23の停止状態および非作動状態は、制御部4により協調して制御される。
【0023】
(無段変速部30)
無段変速部30は、変速比を連続的に変化させることが可能な連速可変変速機(いわゆるCVT)である。無段変速部30は、変速部入力軸31Jと、プライマリプーリ31と、変速部出力軸32Jと、セカンダリプーリ32と、チェーン33とを有している。変速部入力軸31Jは、プラネタリキャリア28と連結され、出力軸2Jからの駆動力を、前後進切替機構20を介して受けるものである。プライマリプーリ31は、変速部入力軸31Jと同軸に設けられ、エンジン2からの駆動力により変速部入力軸31Jと同期回転する。変速部出力軸32Jは、変速部入力軸31Jに対して所定の間隔をあけて平行に設けられ、減速部50に対し駆動力を出力する。セカンダリプーリ32は、変速部出力軸32Jと同軸に設けられ、変速部出力軸32Jと同期回転する。チェーン33は、プライマリプーリ31およびセカンダリプーリ32の双方に巻き掛けられて、変速部入力軸31Jからの駆動力を変速部出力軸32Jに伝達する動力伝達部材である。なお、チェーン33の代わりに、金属製のベルトなどを動力伝達部材として用いてもよい。
【0024】
無段変速部30は、変速油圧系5から油圧の供給を受けて作動し、プライマリプーリ31のプーリ幅を変化させることで、そのプライマリプーリ31に巻き掛けられたチェーン33がなす巻き掛け径を変化させることが可能となっている。さらに、無段変速部30は、セカンダリプーリ32のプーリ幅を変化させることで、そのセカンダリプーリ32に巻き掛けられたチェーン33がなす巻き掛け径を変化させることが可能に構成されている。このような無段変速部30は、T/M−ECU4Bにより制御されて、プライマリプーリ31のプーリ幅とセカンダリプーリ32のプーリ幅とをそれぞれ変化させることで、プライマリプーリ31でのチェーン33の巻き掛け径と、セカンダリプーリ32でのチェーン33の巻き掛け径とを変化させる。セカンダリプーリ32におけるチェーン33の巻き掛け径Roとプライマリプーリ31におけるチェーン33の巻き掛け径Riとの比率(Ro/Ri)が、変速部入力軸31Jの回転速度Niと変速部出力軸32Jの回転速度Noの比率である変速比(Ni/No)となる。無段変速部30は、プライマリプーリ31のプーリ幅およびセカンダリプーリ32のプーリ幅の少なくとも一方を連続的に変化させることにより、変速比(Ni/No)を連続的に変化させることが可能となっている。
【0025】
無段変速部30は、変速部入力軸31Jで受けた駆動力を、プライマリプーリ31とセカンダリプーリ32との間で回転速度を変化させて、すなわちトルクを変化させて変速部出力軸32Jから減速部50に伝達する。プライマリプーリ31の回転数、すなわちプライマリプーリ回転数は、プライマリプーリ回転数センサS2(
図3)により検出される。セカンダリプーリ32の回転数、すなわちセカンダリプーリ回転数は、セカンダリプーリ回転数センサS3(
図3)により検出される。プライマリプーリ回転数センサS2およびセカンダリプーリ回転数センサS3により検出されたプライマリプーリ回転数およびセカンダリプーリ回転数は、いずれも変速機制御ユニット(T/M−ECU)4Bに対し出力される。
【0026】
ここで、
図3を参照して、無段変速部30における、プライマリプーリ31の構成よびセカンダリプーリ32の構成について、より詳細に説明する。
【0027】
図3に示したように、プライマリプーリ31は、変速部入力軸31Jに固定されたプライマリ軸311Jと一体に形成された固定シーブ311と、その固定シーブ311に対してプライマリ軸311Jの延在方向に沿って移動可能に設けられた可動シーブ312とを有している。固定シーブ311のプライマリ軸311Jにはプランジャ314が結合されており、可動シーブ312には、プランジャ314の外周面に摺接するシリンダ313が結合されている。プランジャ314とシリンダ313との間には、可動シーブ312を油圧によりプライマリ軸311Jの軸方向に駆動するための油室315が形成されている。
【0028】
同様に、セカンダリプーリ32は、変速部出力軸32Jに固定されたセカンダリ軸321Jと一体に形成された固定シーブ321と、その固定シーブ321に対してセカンダリ軸321Jの延在方向に沿って移動可能に設けられた可動シーブ322とを有している。固定シーブ321のセカンダリ軸321Jにはプランジャ324が結合されており、可動シーブ322には、プランジャ324の外周面に摺接するシリンダ323が結合されている。プランジャ324とシリンダ323との間には、可動シーブ322を油圧によりセカンダリ軸321Jの軸方向に駆動するための油室325が形成されている。
【0029】
プライマリプーリ31の油室315と、セカンダリプーリ32の油室325は、変速油圧系5から油圧の供給を受ける。プライマリプーリ31の溝幅、およびセカンダリプーリ32の溝幅は、油室315に供給される油圧(以下、プライマリ圧と記す)と、油室325に供給される油圧(以下、セカンダリ圧と記す)とによりそれぞれ決定される。変速油圧系5は、油室315に供給される油圧であるプライマリ圧と、油室325に供給される油圧であるセカンダリ圧とをそれぞれ調整可能である。すなわち、無段変速部30における油圧装置としてのプライマリプーリ31に供給される供給油圧がプライマリ圧であり、同じく無段変速部30における油圧装置としてのセカンダリプーリ32に供給される供給油圧がセカンダリ圧である。変速油圧系5が調整し各油圧装置に供給される供給油圧、すなわちプライマリ圧およびセカンダリ圧などは、車両1の運転状態(特に変速比)に応じて、制御部4により制御される。
【0030】
(減速部50)
減速部50は、変速部出力軸32Jに結合されたドライブギア51と、そのドライブギア51とかみ合うドリブンギア52と、そのドリブンギア52に結合されたディファレンシャルドライブギア53とを有している。ディファレンシャルドライブギア53は、差動装置60の差動ケース62(後出)に固定されたリングギア63とかみ合っている。減速部50は、変速部出力軸32Jからの駆動力を、減速し、トルクを増大させて差動装置60に伝達する。
【0031】
(差動装置60)
差動装置60は、減速部50からの駆動力を、左右の駆動軸61に分配して伝達する。左右の駆動軸61には、駆動輪DWがそれぞれ結合されている。エンジン2の出力軸2Jから出力された駆動力は、無段変速機3を介して駆動輪DWに伝達される。駆動輪DWに伝達された駆動力により、駆動輪DWと、車両1が走行している路面との間には摩擦力が生じ、その結果、車両1を走行させる推進力が生じる。
【0032】
[変速油圧系5の構成]
変速油圧系5は、
図3に示したように、油圧供給源であるオイルポンプPから供給される作動油の元圧であるライン圧を調整するライン圧ソレノイドバルブ(SV)41と、そのライン圧SV41と各々並列に接続されたセカンダリ圧SV42、シフトアップSV43およびシフトダウンSV44とを有している。変速油圧系5は後述のソレノイドバルブ制御部4B2(
図3)により制御され、ライン圧SV41、セカンダリ圧SV42、シフトアップSV43およびシフトダウンSV44が開閉動作を行うことで、無段変速部30における変速動作を行うための作動油圧を調整する。
なお、ライン圧SV41およびセカンダリ圧SV42が、本開示の「ライン圧調整弁」および「制御圧調整弁」にそれぞれ対応する一具体例である。
【0033】
セカンダリ圧SV42は、ライン圧SV41とセカンダリプーリ32とを繋ぐ油路に設けられている。また、セカンダリ圧SV42からセカンダリプーリ32へ至る油路には、プライマリプーリ31へ至る油路が接続されている。すなわち、セカンダリ圧SV42は、配管によりプライマリプーリ31の油室315およびセカンダリプーリ32の油室325に接続されている。したがって、ライン圧SV41を流出した作動油は、セカンダリ圧SV42を経由してプライマリプーリ31の油室315およびセカンダリプーリ32の油室325の双方に供給される。油室325の供給油圧、すなわちセカンダリ圧はセカンダリ圧SV42によって調整される。ライン圧SV41とセカンダリ圧SV42とを結ぶ油路、すなわち配管にはライン圧センサ41PGが設けられ、ライン圧を検出するようになっている。また、セカンダリ圧SV42からセカンダリプーリ32へ向かう配管にはセカンダリ圧センサ42PGが設けられ、セカンダリ圧を検出するようになっている。ライン圧およびセカンダリ圧の検出値は、ライン圧センサ41PGおよびセカンダリ圧センサ42PGから変速機制御ユニット(T/M−ECU)4Bへ出力される。ここで変速油圧系5では、セカンダリ圧SV42の開度が一定である場合に、ライン圧とセカンダリ圧とは一定の相関関係を有する。すなわち、セカンダリ圧SV42の開度が一定である場合に、例えばセカンダリ圧はライン圧の関数で表される。
なお、ライン圧センサ41PGが本開示の「ライン圧センサ」に対応する一具体例であり、セカンダリ圧センサ42PGが本開示の「制御圧センサ」に対応する一具体例である。
【0034】
シフトアップSV43およびシフトダウンSV44は、それぞれ、配管によりプライマリプーリ31の油室315と接続されている。したがって、シフトダウンSV44を閉じた状態でライン圧SV41およびシフトアップSV43をそれぞれ開くことにより、作動油が油室315へ供給される。その場合、プライマリ圧が上昇して固定シーブ311に対して可動シーブ312が接近するので、プライマリプーリ31の溝幅は狭くなる。一方、シフトアップSV43を閉じた状態でライン圧SV41およびシフトダウンSV44をそれぞれ開くことによりプライマリ圧が低下し、作動油が油室315から排出される。その場合、固定シーブ311に対して可動シーブ312が離れる方向へ移動するので、プライマリプーリ31の溝幅は広くなる。
【0035】
[制御部4の構成]
制御部4は、
図1に示したように、エンジン制御ユニット(E/G−ECU)4Aと、変速機制御ユニット(T/M−ECU)4Bと、ブレーキ制御ユニット(BRK−ECU)4Cとを有している。これらのE/G−ECU4A、T/M−ECU4BおよびBRK−ECU4Cは、例えば、通信ネットワークとしてISOの標準プロトコルの一つであるCAN(Controller Area Network)の通信バス19を介して相互通信可能に接続されており、これらによって車両1の制御システムが構成されている。なお、E/G−ECU4A、T/M−ECU4BおよびBRK−ECU4Cの接続は、通信バス19を用いて接続する構成に限定されるものでなく、例えば、無線LAN等を用いたものでもよい。
【0036】
E/G−ECU4A、T/M−ECU4BおよびBRK−ECU4Cは、それぞれ、マイクロコントローラ(マイクロプロセッサ)、ROM、RAM、バックアップRAM、および入出力I/F等を有して構成されている。マイクロコントローラは各種演算を行い、ROMは、マイクロコントローラに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶する。RAMは、演算結果などの各種データを記憶する。バックアップRAMは、例えば12Vバッテリによってその記憶内容が保持される。
【0037】
この制御部4では、E/G−ECU4A、T/M−ECU4BおよびBRK−ECU4Cに対し各種スイッチおよび各種センサから入力される検出信号等の各情報が通信バス19を介して共有される。そして、例えば、E/G−ECU4Aは、エンジン2のスロットル機構や燃料噴射機構、点火機構等に対し制御信号を出力し、エンジン出力トルク等を制御することで、エンジン2の出力制御を行う。なお、エンジン2には、通常、使用してもよい出力軸2Jの回転速度の上限値である使用上限値、いわゆるレブリミットが予め設定されている。エンジン2における出力軸2Jの回転速度が所定のレブリミットに達すると、E/G−ECU4Aがエンジン2の燃焼室への燃料供給を停止するよう制御する。E/G−ECU4Aは、エンジン回転数センサにより、エンジン2における制御変数としての出力軸2Jの回転速度を取得している。
【0038】
T/M−ECU4Bは、変速油圧系5に対して制御信号を出力することで、変速油圧系5における作動油圧を調圧して無段変速機3の変速制御を行う。また、T/M−ECU4Bは、E/G−ECU4Aに対しエンジン出力トルクの減少、すなわちトルクダウンを要求することもできる。さらに、T/M−ECU4Bには、各種センサ等、例えばタービン回転数センサS1、プライマリプーリ回転数センサS2、およびセカンダリプーリ回転数センサS3などからの各種情報が入力されるようになっている。T/M−ECU4Bは、マイクロコントローラ上で機能する目標変速比設定部4B1と、ソレノイドバルブ制御部4B2とをさらに有しており、目標変速比設定部4B1において、無段変速部30の目標変速比を設定するようになっている。目標変速比は、例えばE/G−ECU4Aから送信されるアクセルペダルの開度や、セカンダリプーリ回転数センサS3から送信されるセカンダリプーリ回転数などの車両1の運転情報に基づいて設定される。T/M−ECU4Bは、無段変速部30における実際の変速比を、目標変速比設定部4B1において設定した目標変速比に近づけるように変速制御を行う。具体的には、ソレノイドバルブ制御部4B2の制御に基づき、変速油圧系5におけるライン圧、プライマリ圧およびセカンダリ圧などの調整を行うことにより、無段変速部30における実際の変速比を、目標変速比設定部4B1において設定した目標変速比に近づけるようにする。
【0039】
T/M−ECU4Bは、異常検出部6がライン圧センサ41PGの異常を検出した際、ライン圧の値としてセカンダリ圧センサ42PGにより検出されるセカンダリ圧の値に基づく値を用いて無段変速機3の変速動作の制御を行う。一方、異常検出部6がセカンダリ圧センサ42PGの異常を検出した際、T/M−ECU4Bは、セカンダリ圧の値としてライン圧センサ41PGにより検出されるライン圧の値に基づく値を用いて無段変速機3の変速動作の制御を行う。その際、T/M−ECU4Bは、ライン圧センサ41PGの異常が検出された際およびセカンダリ圧センサ42PGの異常が検出された際のいずれにおいても、セカンダリ圧SV42を全開(100%の開度)に固定し、あるいは所定の開度、例えば70%の開度に固定するとよい。先に述べたように、変速油圧系5では、セカンダリ圧SV42の開度が一定である場合に、ライン圧とセカンダリ圧とは一定の相関関係を有する。また、T/M−ECU4Bは、ライン圧センサ41PGの異常およびセカンダリ圧センサ42PGの異常の双方が検出された際には、無段変速機3における変速動作を停止するように機能する。
【0040】
さらに、BRK−ECU4Cは、ブレーキ油圧系16に設けられるバルブユニット17に対して制御信号を出力することでブレーキ油圧を調圧する。BRK−ECU4Cは、ブレーキ油圧の調圧により、例えば、制動時におけるタイヤロック、および加速時または旋回時におけるタイヤスリップを回避するように、各ブレーキ18L,18Rの制動力を制御する。
【0041】
[異常検出部6の構成]
異常検出部6は、ライン圧センサ41PGの異常およびセカンダリ圧センサ42PGの異常を検出するものである。異常検出部6には、ライン圧センサ41PGによるライン圧の検出値およびセカンダリ圧センサ42PGによるセカンダリ圧の検出値が入力されるようになっている。異常検出部6による、ライン圧センサ41PGの異常およびセカンダリ圧センサ42PGの異常の検出は、例えばT/M−ECU4Bからのライン圧の指令値およびセカンダリ圧の指令値と、ライン圧センサ41PGによるライン圧の検出値およびセカンダリ圧センサ42PGによるセカンダリ圧の検出値との差分に基づいて行われる。その際、車両1の速度、目標変速比および実際の変速比などを考慮して総合的にライン圧の検出値およびセカンダリ圧の検出値の合理性を判断する。あるいは、運転状態にあるにも関わらず、ライン圧センサ41PGによるライン圧の値やセカンダリ圧センサ42PGによるセカンダリ圧の値がミニマム値で変化しない状態が一定時間継続するなどの場合は、ライン圧センサ41PGの異常、またはセカンダリ圧センサ42PGの異常と判断される。
【0042】
[無段変速機3および制御部4の動作]
次に、
図4を参照して、無段変速機3および制御部4の動作、特に異常検出に関連する動作について説明する。
図4は、無段変速機3および制御部4における異常検出に関連する動作のフローを表す流れ図である。
図4に示した一連の処理は、無段変速機3および制御部4において所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0043】
まず、異常検出部6により、ライン圧センサ41PGの異常の有無について判断する(ステップS101)。ここでは、T/M−ECU4Bからの指令値とライン圧センサ41PGによるライン圧の検出値との差分に基づいて、ライン圧センサ41PGの異常の有無の判断が行われる。その際、T/M−ECU4Bに入力される各種情報を考慮して総合的にライン圧の検出値の合理性を判断する。
【0044】
ステップS101において異常が認められなかった場合(ステップS101N)、異常検出部6により、セカンダリ圧センサ42PGの異常の有無について判断する(ステップS102)。ここでは、T/M−ECU4Bからの指令値とセカンダリ圧センサ42PGによるセカンダリ圧の検出値との差分に基づいて、セカンダリ圧センサ42PGの異常の有無の判断が行われる。その際、T/M−ECU4Bに入力される各種情報を考慮して総合的にセカンダリ圧の検出値の合理性を判断する。
【0045】
ステップS102において異常が認められなかった場合(ステップS102N)、ソレノイドバルブ制御部4B2の制御に基づき、変速油圧系5による無段変速部30に対する通常の変速制御が実行され(ステップS103)、一連の動作が終了する(エンド)。
【0046】
一方、ステップS101において異常が認められた場合(ステップS101Y)、ステップS102と同様にして、異常検出部6により、セカンダリ圧センサ42PGの異常の有無について判断する(ステップS104)。そこでセカンダリ圧センサ42PGの異常が認められなかった場合(ステップS104N)、セカンダリ圧SV42を、ライン圧とセカンダリ圧とが相関関係を有するように制御する。すなわち、セカンダリ圧SV42を例えば全開に(100%の開度で固定)したり、例えば70%の開度で固定したりする。そのうえで、ライン圧センサ41PGに代えてセカンダリ圧センサ42PGを用いる。すなわち、ライン圧の値として、セカンダリ圧センサ42PGにより検出されたセカンダリ圧の値に基づいて算出される値を用いて、無段変速機3の変速動作の制御を行い(ステップS105)、一連の動作を終了する(エンド)。これに対し、セカンダリ圧センサ42PGにも異常が認められた場合(ステップS104Y)、無段変速機3の変速動作を停止し(ステップS106)、一連の動作を終了する(エンド)。
【0047】
また、ステップS102において異常が認められた場合(ステップS102Y)、セカンダリ圧SV42を、ライン圧とセカンダリ圧とが相関関係を有するように制御する。すなわち、セカンダリ圧SV42を例えば全開に(100%の開度で固定)したり、例えば70%の開度で固定したりする。そのうえで、セカンダリ圧センサ42PGに代えてライン圧センサ41PGを用いる。すなわち、セカンダリ圧の値として、ライン圧センサ41PGにより検出されたライン圧の値に基づいて算出される値を用いて、無段変速機3の変速動作の制御を行い(ステップS107)、一連の動作を終了する(エンド)。
【0048】
[作用・効果]
このように本実施の形態では、制御部4は、ライン圧センサ41PGの異常が検出された際にはセカンダリ圧センサ42PGを代用して無段変速機3の変速動作の制御を行い、セカンダリ圧センサ42PGの異常が検出された際にはライン圧センサ41PGを代用して無段変速機3の変速動作の制御を行うようにした。すなわち、異常検出時には、ライン圧の制御とセカンダリ圧の制御とを互いに独立して行わず、1つの圧力センサを共用するようにした。これにより、ライン圧センサ41PGおよびセカンダリ圧センサ42PGのいずれか一方が故障した場合であっても、油圧装置であるセカンダリプーリ32に対するセカンダリ圧の制御を継続することができる。したがって、無段変速機3における変速動作を、ライン圧センサ41PGまたはセカンダリ圧センサ42PGの故障以前と同様に実施でき、車両1の円滑な運転が可能となる。すなわち、本実施の形態の無段変速機3の制御装置および無段変速機3の制御方法によれば、異常時であってもユーザの安全を確保しつつ、ユーザの利便性を担保できる。
【0049】
また、本実施の形態によれば、制御部4は、ライン圧センサ41PGの異常およびセカンダリ圧センサ42PGの異常の双方が検出された際には、無段変速機3における変速動作を停止するようにした。このため、ライン圧センサ41PGやセカンダリ圧センサ42PGからの合理性を欠くライン圧の検出値およびセカンダリ圧の検出値に基づく、意図しない急激な変速動作を回避できる。よって、無段変速機3の動作安全性がより向上する。
【0050】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本開示を説明したが、本開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0051】
例えば上記実施の形態では、チェーン33やベルトを用いたチェーン式またはベルト式の無段変速機(CVT)に適用したが、本開示はこれに限定されない。例えばトロイダル式の無段変速機等にも本開示は適用可能である。
【0052】
また、上記実施の形態におけるE/G−ECU4AおよびT/M−ECU4Bは各々個別のハードウェアで構成してもよいし、一体のハードウェアで構成するようにしてもよい。
【0053】
また、上記実施の形態における変速油圧系5では制御圧センサとしてセカンダリ圧センサ42PGを例示し、制御圧としてセカンダリ圧を例示したが、本開示の油圧回路はこれに限定されるものではない。例えば
図5に示した変形例としての変速油圧系5Aのように複数の油圧装置を含む場合、ライン圧センサの異常が検出された際、それら複数の油圧装置の各々に供給される作動油の複数の制御圧のうちのいずれかをライン圧として代用してもよい。但し、複数の制御圧の値は正常である、すなわち合理性を有するものとする。また、複数の制御圧は、ライン圧と相関関係にあるものとする。
【0054】
具体的には、
図5の変速油圧系5Aは、ライン圧SV41およびライン圧センサ41PGのほか、ライン圧SV41に対して並列に接続されたプライマリプーリ31、セカンダリプーリ32およびクラッチ回路34を複数の油圧装置として含んでいる。変速油圧系5Aは、さらに、プライマリ圧SV45と、セカンダリ圧SV42と、クラッチ圧SV46とを含んでいる。プライマリ圧SV45はライン圧SV41とプライマリプーリ31との間に位置し、セカンダリ圧SV42はライン圧SV41とセカンダリプーリ32との間に位置し、クラッチ圧SV46はライン圧SV41とクラッチ回路34との間に位置している。変速油圧系5Aは、さらに、プライマリ圧センサ45PGと、セカンダリ圧センサ42PGと、クラッチ圧センサ46PGとを含んでいる。プライマリ圧センサ45PGはプライマリ圧SV45とプライマリプーリ31との間に位置し、セカンダリ圧センサ42PGはセカンダリ圧SV42とセカンダリプーリ32との間に位置し、クラッチ圧センサ46PGはクラッチ圧SV46とクラッチ回路34との間に位置している。異常検出部6には、ライン圧センサ41PGによるライン圧の検出値およびセカンダリ圧センサ42PGによるセカンダリ圧の検出値に加え、プライマリ圧センサ45PGによるプライマリ圧の検出値およびクラッチ圧センサ46PGによるクラッチ圧の検出値が入力されるようになっている。
【0055】
ここで車両1が上記変速油圧系5Aを有する場合、異常検出部6は、ライン圧センサ41PGの異常に加え、プライマリ圧センサ45PG、セカンダリ圧センサ42PG、およびクラッチ圧センサ46PGの異常についてもそれぞれ検出可能である。車両1が変速油圧系5Aを有する場合にライン圧センサ41PGの異常が検出された際、制御部4は、プライマリ圧センサ45PGにより検出されたプライマリ圧の値、セカンダリ圧センサ42PGにより検出されたセカンダリ圧の値、およびクラッチ圧センサ46PGにより検出されたクラッチ圧の値のうち、異常が検出されなかったものをライン圧の値として代用できる。その際、例えばプライマリ圧の値、セカンダリ圧の値、およびクラッチ圧の値のうち最大のものをライン圧の値として用いて無段変速機3の変速動作の制御を行うようにする。あるいは、プライマリ圧の値、セカンダリ圧の値、およびクラッチ圧の値はそれぞれライン圧の値と相関関係を有するので、プライマリ圧の値、セカンダリ圧の値、およびクラッチ圧の値のうち最大でないものに、その相関関係に基づく係数を乗ずるなどしてライン圧の値として用いてもよい。
【0056】
また、上記実施の形態および変形例では、いくつかのソレノイドバルブを用いるようにしたが、本開示の油圧回路では、ソレノイドバルブに代えてステッピングモータ等を用いてもよい。さらに、本開示の油圧回路の油路系統は、
図3に示した変速油圧系5や
図5に示した変速油圧系5Aにおける油路系統に限定されるものではなく、他の油路系統であってもよい。例えば変速油圧系5では、セカンダリ圧SV42を経由した作動油がプライマリプーリ31の油室315およびセカンダリプーリ32の油室325の双方に供給されるようにした。しかし、本開示の油圧回路では、セカンダリ圧SV42を経由した作動油をプライマリプーリ31の油室315には供給せず、セカンダリプーリ32の油室325のみに供給するようにしてもよい。
【0057】
また、上記実施の形態および変形例では、無段変速部における油圧装置としてプライマリプーリ31およびセカンダリプーリ32を例示したが、本開示の油圧装置はこれに限定されるものではなく、例えば、トロイダルCVTのようなトラクションドライブ変速装置における、パワーローラおよび入出力ディスクなども含まれる概念である。
【0058】
また、上記実施の形態では無段変速機3を例示したが、本開示の変速機はこれに限定されるものではなく、例えばプラネタリーギヤ式変速機構や平行軸歯車式変速機構を有する多段式の変速機をも含む概念である。
【0059】
また、上記実施の形態および変形例で説明した一連の処理は、ハードウェア(回路)で行われるようにしてもよいし、ソフトウェア(プログラム)で行われるようにしてもよい。ソフトウェアで行われるようにした場合、そのソフトウェアは、各機能をコンピュータにより実行させるためのプログラム群で構成される。各プログラムは、例えば、上記コンピュータに予め組み込まれて用いられてもよいし、ネットワークや記録媒体から上記コンピュータにインストールして用いられてもよい。
【0060】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。