特許第6670368号(P6670368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670368
(24)【登録日】2020年3月3日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】多層薄膜
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20200309BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20200309BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20200309BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20200309BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20200309BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20200309BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
   G06F3/041 490
   G06F3/041 660
   G06F3/041 495
   G06F3/044 122
   B32B15/08 P
   C23C14/06 N
   C23C14/08 J
   C23C14/08 D
   C23C14/14 D
   H01B5/14 A
   H01B5/14 B
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-228037(P2018-228037)
(22)【出願日】2018年12月5日
(62)【分割の表示】特願2014-164338(P2014-164338)の分割
【原出願日】2014年8月12日
(65)【公開番号】特開2019-83020(P2019-83020A)
(43)【公開日】2019年5月30日
【審査請求日】2018年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106666
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100102875
【弁理士】
【氏名又は名称】石島 茂男
(72)【発明者】
【氏名】若生 仁志
【審査官】 円子 英紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−206062(JP,A)
【文献】 特開2008−147356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G06F 3/044
B32B 15/08
C23C 14/06
C23C 14/08
C23C 14/14
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に導電層が設けられた多層薄膜であって、
前記導電層は、前記透明基材上に形成された銅層と、当該銅層上にスパッタリング法によって形成され、銅に対して0.38以上0.54以下の組成比で酸素を含有し、厚さが20nm以上30nm以下である酸化銅層と、当該酸化銅層上に形成され、波長550nmにおける屈折率が1.6以上2.2以下の透明材料層とを有し、波長370〜790nmの範囲における最大反射率が10%以下である多層薄膜。
【請求項2】
前記透明材料層の厚さが、20nm以上45nm以下である請求項1記載の多層薄膜。
【請求項3】
前記酸化銅層が、前記銅層の表面に密着して形成されている請求項1又は2のいずれか1項記載の多層薄膜。
【請求項4】
透明基材上に導電層が設けられた多層薄膜であって、
前記導電層は、前記透明基材上に形成された銅層と、当該銅層上にスパッタリング法によって形成された酸化銅層と、当該酸化銅層上に形成された透明材料層とを有し、
少なくとも前記銅層及び前記酸化銅層に、細線状のパターンが設けられ、波長370〜790nmの範囲における最大反射率が10%以下であり、
前記酸化銅層は、銅に対して0.38以上0.54以下の組成比で酸素を含有し、厚さが20nm以上30nm以下であり、前記透明材料層は、波長550nmにおける屈折率が1.6以上2.2以下である多層薄膜。
【請求項5】
前記透明材料層の厚さが、20nm以上45nm以下である請求項記載の多層薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばタッチパネルの電極に用いられる多層薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スマートフォンなどに用いられるタッチパネルには透明導電膜が使用されている。
タッチパネルに使われている透明導電膜はパターニングされており、その際、透明導電膜の有無で光学特性が異なると画面上でパターンが見えてしまい、画面表示上問題である。
そのため、現在、各社より透明導電膜の視認性を下げるための検討が行われている。
【0003】
現在の主流としては、透明導電膜としてインジウム・錫複合酸化物(ITO)を用い、ITO膜の下層に光学調整層を加えITO膜との光学差を小さくしたものが各社より提案されている。
【0004】
タッチパネルは最近、大画面化する傾向があり、大画面化のためには表面抵抗を下げる必要がある。
表面抵抗を下げるためには透明導電膜の抵抗率を下げるか厚さを増す必要がある。
【0005】
ITO膜の抵抗率を下げる検討はさまざまに行われているが、大きな改善はなされていない。また膜の厚さが増すと光学差を光学調整層だけでは補正しきれずパターンが見えてしまうという課題もある。
【0006】
そこで、近年、ITO膜ではなく、導電性が非常に高い銅などの金属の膜を成膜した後、格子状に金属細線(10μm以下)を残してその他の大部分をエッチングすることで金属細線のメッシュを形成して、透明性と導電性の両立を目指した導電膜の検討が盛んになされている。
【0007】
このメッシュ膜は大部分がエッチングされるため透明であるが、金属細線部分は金属光沢を有するため、目視するとぎらついて見えてしまう。
そこで、従来、金属細線部分の表面を黒化処理と呼ばれる化成処理して反射率を下げてぎらつきを抑えることが行われている(例えば特許文献1参照)。
【0008】
この黒化処理は、具体的には銅の一部を亜酸化銅の針状結晶にすることで反射率を低下させるものである。
しかし、亜酸化銅の針状結晶は脆く、ダメージを受けやすい。また元々の導電層として形成した銅の一部を消費するために抵抗率も上昇する。
【0009】
そのため表面抵抗を維持するためには非常に厚い銅層を形成する必要がある。また、黒化処理は溶液による化成処理であるため洗浄・乾燥などの工程を複数回繰り返す必要があり、それに用いる薬液の種類も多く、また一般に強酸・強アルカリなどの薬品を使用するため基板材料への影響もある。
【0010】
特に可撓性を特徴とするフィルムに黒化処理を適用する場合、耐薬品性などの点において使用可能な材料の選択の幅がきわめて狭く、また廃液などの環境負荷の観点からも黒化処理に代わる方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013−129183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、黒化処理を施すことなく銅細線膜の金属光沢によるぎらつきを抑制可能な多層薄膜の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、細線パターンを形成する銅層上にスパッタリングによる特定厚さの酸化銅層を形成するとともに、当該酸化銅層上に特定屈折率の透明材料層を形成することで、黒化処理を施すことなく銅細線膜の金属光沢によるぎらつきを抑制することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
かかる知見に基づいてなされた本発明は、透明基材上に導電層が設けられた多層薄膜であって、前記導電層は、前記透明基材上に形成された銅層と、当該銅層上にスパッタリング法によって形成され、銅に対して0.38以上0.54以下の組成比で酸素を含有し、厚さが20nm以上30nm以下である酸化銅層と、当該酸化銅層上に形成され、波長550nmにおける屈折率が1.6以上2.2以下の透明材料層とを有し、波長370〜790nmの範囲における最大反射率が10%以下であるものである。
本発明では、前記透明材料層の厚さが、20nm以上45nm以下である場合にも効果的である。
本発明では、前記酸化銅層が、前記銅層の表面に密着して形成されている場合にも効果的である。
また、本発明は、透明基材上に導電層が設けられた多層薄膜であって、前記導電層は、前記透明基材上に形成された銅層と、当該銅層上にスパッタリング法によって形成された酸化銅層と、当該酸化銅層上に形成された透明材料層とを有し、少なくとも前記銅層及び前記酸化銅層に、細線状のパターンが設けられ、波長370〜790nmの範囲における最大反射率が10%以下であるものであり、前記酸化銅層は、銅に対して0.38以上0.54以下の組成比で酸素を含有し、厚さが20nm以上30nm以下であり、前記透明材料層は、波長550nmにおける屈折率が1.6以上2.2以下であるものである。
本発明では、前記透明材料層の厚さが、20nm以上45nm以下である場合にも効果的である。
【発明の効果】
【0015】
発明においては、銅層によって反射された光と、スパッタリング法によって形成された酸化銅層によって反射された光と、透明材料層によって反射された光の相互干渉によって可視光領域(波長370〜790nm)の範囲における最大反射率を10%以下に低下させるようにしたものである。
【0016】
この場合、酸化銅層において、銅に対して0.38以上0.54以下の組成比で酸素を含有させること、酸化銅層の厚さを20nm以上30nm以下にすること、透明材料層の波長550nmにおける屈折率を1.6以上2.2以下にすること、透明材料層の厚さを20nm以上45nm以下にすることにより、上述した各反射光の相互干渉を最適のものとすることができ、可視光領域の範囲における反射率を大幅に低下させることができる。
【0017】
その結果、本発明によれば、銅細線膜の金属光沢によるぎらつきを抑制して透明な多層薄膜を提供することができ、これにより黒化処理による不都合のない例えばタッチパネル用の多層薄膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】タッチパネル用メッシュタイプの多層薄膜の構成を模式的に示す断面図
図2】本発明に係る多層薄膜の構成を模式的に示す断面図
図3】細線パターンを形成した本発明に係る多層薄膜の構成を模式的に示す断面図(その1)
図4】細線パターンを形成した本発明に係る多層薄膜の構成を模式的に示す断面図(その2)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、タッチパネル用メッシュタイプの多層薄膜の構成を模式的に示す断面図である。
【0020】
図1に示すように、従来の多層薄膜101は、透明基材102上に銅層103が形成されている。
そして、この銅層103の表層部分を上述した黒化処理を行うことにより、金属光沢を抑えた亜鉛化銅からなる黒化処理部104が形成されている。
【0021】
ここで、黒化処理部104は、銅層103の表層部分を変質させたものであり、銅層103と一体的に構成されている。
【0022】
図2は、本発明に係る多層薄膜の構成を模式的に示す断面図である。
【0023】
本発明に係る多層薄膜1は、透明基材2上に導電層10が設けられており、この導電層10は、透明基材2上に形成された銅層3と、銅層3上にスパッタリング法によって形成された酸化銅層4と、酸化銅層4上に形成された透明材料層5とを有している。
【0024】
<透明基材>
本発明の透明基材2としては、ガラス板、樹脂フィルムのいずれからなるものを用いることができる。
【0025】
透明基材2として樹脂フィルムからなるものを用いる場合には、ロールツーロール法によって製造することができるので、生産効率を向上させることができる。
このような樹脂フィルムの材料としては、特に限定されることはないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアラミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリシクロオレフィン(COC,COP)等を用いることができる。
【0026】
透明基材2の厚さは、特に限定されることはないが、樹脂フィルムの場合、製造時の取り扱いの容易さと部材の薄型化を考慮し、20μm以上200μm以下とすることが好ましい。
【0027】
本発明の場合、透明基材2の好ましい光透過率は、88%以上である。
なお、透明基材2の耐擦過性を向上させる観点からは、透明基材2の両面に例えばアクリル系樹脂による薄膜を例えば溶液塗布により形成することもできる。
【0028】
<銅層>
透明基材2上に形成された銅層3は、銅(Cu)又は銅合金からなる層である。
【0029】
本発明の場合、銅層3の厚さは、特に限定されることはないが、10nm以上30μm以下とすることが好ましい。
銅層3の厚さが10nmより薄い場合、銅による膜が連続的に形成されず導電性が損なわれる場合があり、30μmより厚い場合には、生産性が損なわれる場合がある。
【0030】
本発明の場合、銅層3の形成方法は特に限定されることはないが、生産効率を向上させる観点、また膜厚分布を均一化させる観点からは、スパッタリング法を用いることが好ましい。
この場合、スパッタリングターゲットとしては、銅からなるターゲットを用い、真空槽内にスパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスを導入して所定の圧力でスパッタリングを行う。
【0031】
なお、銅層3の厚さを調整するには、例えば予め銅層3の成膜速度を算出しておき、ロールツーロールによるスパッタリングを行う際に、透明基材2の搬送速度を調整することにより、所望の膜厚の銅層3を形成することができる。
【0032】
一方、銅層3の材料としては、銅に他の金属を添加した銅合金を用いることもできる。
この場合、銅に添加する金属元素としては、例えば、耐食性を向上させる目的でニッケル(Ni)やクロム(Cr)があげられる。
銅に添加する金属の量は、特に限定されることはないが、電気伝導性を維持する観点からは、50%以下とすることが好ましい。
【0033】
<酸化銅層>
酸化銅層4は、スパッタリング法によって形成された酸化銅(CuOx)からなる層であり、銅層3の表面に密着して形成されている。
【0034】
本発明の場合、酸化銅における銅に対する酸素の組成比は、0.38以上0.54以下(0.38≦x≦0.54)にすることが好ましく、より好ましくは、0.41以上0.54以下(0.41≦x≦0.54)である。
【0035】
酸化銅における銅に対する酸素の組成比が0.38より小さいと、多層薄膜1としての反射率が、ぎらつきを抑えた実用可能な値より大きくなる傾向があり、0.54より大きいと、当該反射率が更に大きくなる傾向がある。
【0036】
本発明においては、スパッタリングターゲットとして、銅からなるターゲットを用い、真空槽内にスパッタガスとしてアルゴンガスに加えて所定量の酸素(O2)ガスを導入して反応性スパッタリングを行うことにより、所望の組成比の酸素を含有する酸化銅層4を形成することができる。
【0037】
この場合、酸素ガスの導入量は、例えば予め酸素導入量を変えた複数の単層膜を作成して、オージェ電子分光法でCuとOの強度比から組成比を決定し、酸素導入量と組成比との関係を明らかにした上で、組成比の異なる酸化銅層4を形成する方法を用いることができる。
【0038】
本発明の場合、酸化銅層4の厚さは、20nm以上30nm以下とすることが好ましい。
酸化銅層4の厚さが20nmより薄いと、多層薄膜1としての反射率が、ぎらつきを抑えた実用可能な値より大きくなる傾向があり、30nmより厚いと、当該反射率が更に大きくなる傾向がある。
【0039】
本発明の場合、酸化銅層4の厚さを調整するには、例えば予め酸化銅層4の成膜速度を算出しておき、ロールツーロールによるスパッタリングを行う際に、透明基材2の搬送速度を調整することにより、所望の膜厚の酸化銅層4を形成することができる。
【0040】
<透明材料層>
透明材料層5は、酸化銅層4上に形成されるものである。
本発明における透明材料層5は、波長550nmにおける屈折率が1.6以上2.2以下のものを用いることが好ましい。
この理由については、後述する。
【0041】
透明材料層5の材料である、波長550nmにおける屈折率が1.6以上2.2以下の透明材料としては、例えば、インジウム・錫複合酸化物(ITO)、アルミニウム・亜鉛複合酸化物(AZO)、二酸化すず(SnO2)等の導電性酸化物材料を用いることができる。
【0042】
また、例えば酸化イットリウム(Y25)等の絶縁材料を用いることもできる。
これらのうちでも、インジウム・錫複合酸化物(ITO)は、反射率をより小さくすることができる観点から特に好ましいものである。
【0043】
本発明の場合、透明材料層5の厚さは、20nm以上45nm以下とすることが好ましい。
透明材料層5の厚さが20nmより薄い場合、多層薄膜1としての反射率が、ぎらつきの少ない実用可能な値より大きくなる傾向があり、45nmより厚いと、反射率が更に大きくなる傾向がある。
【0044】
本発明の場合、透明材料層5の形成方法は特に限定されることはないが、生産効率を向上させる観点、また膜厚及び膜質の均一性の観点からは、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0045】
この場合、スパッタリングターゲットとして、ITO等からなるターゲットを用い、真空槽内にスパッタガスとしてアルゴンガスに加えて所定量の酸素(O2)ガスを導入して反応性スパッタリングを行うことにより、所望の割合の酸素を含有する透明材料層5を形成することができる。
【0046】
また、本発明の場合、特に限定されることはないが、生産効率を向上させる観点からは、透明材料層5を構成する材料は、酸もしくはアルカリに可溶であることがより好ましい。
【0047】
すなわち、透明材料層5を構成する材料が酸もしくはアルカリに可溶であれば、上述した構成の多層薄膜1を形成した後、透明材料層5に対してパターンニングをすることが可能になる。
【0048】
特に、銅のエッチング液で可溶な材料を用いれば、1度のエッチングによって銅層3、酸化銅層4及び透明材料層5に対してパターンを形成することが可能になる。
【0049】
なお、上述した銅層3、酸化銅層4、透明材料層5は、例えば特開2014−34701号公報に記載された薄膜形成装置を用いて形成することができる。
【0050】
すなわち、この薄膜形成装置は、ロールツーロール法によってフィルム基材上にスパッタリングによる成膜を行うもので、複数のスパッタリングターゲットを設置することができ、しかも、一旦ロールをセットすると真空雰囲気を維持したまま異なる複数種類の材料を成膜することが可能なものである。
【0051】
さらに、この薄膜形成装置では、スパッタリング時にスパッタガスであるアルゴンガスの他に酸素ガスをプラズマ中に導入することができ、それによりターゲット材料の酸化物をフィルム基材上に形成することができる。
【0052】
図3及び図4は、細線パターンを形成した本発明に係る多層薄膜の構成を模式的に示す断面図である。
【0053】
図3に示す多層薄膜1Aでは、銅層3及び酸化銅層4に、細線パターン3a、4a(例えば格子状若しくはメッシュ状、又はストライプ状)が形成されている。
この多層薄膜1Aは、例えば銅層3及び酸化銅層4に対して銅のエッチング液を用いて所定のパターンを形成した後、酸化銅層4上に透明材料層5を形成することにより作成できる。
【0054】
図4に示す多層薄膜1Bでは、銅層3、酸化銅層4及び透明材料層5に、細線パターン3a、4a、5a(例えば格子状若しくはメッシュ状、又はストライプ状)が形成されている。
【0055】
この多層薄膜1Bでは、透明材料層5を構成する材料として銅のエッチング液で可溶な材料を用いることにより、1度のエッチングによって銅層3、酸化銅層4及び透明材料層5に対してパターンを形成することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
【表1】
【0058】
<実施例1>
特開2014−34701号公報記載の薄膜形成装置を用い、透明基材上に銅層、酸化銅層及び透明材料層を形成した。
この場合、透明基材としては、厚さ100μmのPETフィルムの両面にアクリル系樹脂を10μm以下の厚さで塗布したものを用いた。
【0059】
そして、この薄膜形成装置の真空槽内を1×10-2Pa以下の圧力に真空排気した後、アルゴンガスを200sccmの流量となるようにマスフローコントローラーにて調整しながら真空槽内に導入し、真空槽内に設けた銅ターゲットに3kWの電力を印加して放電させ、スパッタリングによる成膜を行った。
【0060】
この場合、予め銅の成膜速度を算出しておき、透明基材の搬送速度を調整して銅の膜厚が120nmとなるようにした。
その後、一度放電を停止した後、アルゴンガス200sccmと酸素ガス35sccmを導入して再度放電を行い、透明基材の搬送速度を調整することにより、上記銅層の表面に膜厚が22nmの酸化銅層をスパッタリングによって形成した。
【0061】
この酸化銅層の銅に対する酸素の組成比は、0.47であった。
なお、本実施例並びに以下に説明する実施例及び比較例の場合、酸化銅層を形成する際の酸素導入量は、予め酸素導入量を変えた単層膜を作成して、オージェ電子分光法でCuとOの強度比から組成比を決定し、酸素導入量と組成比との関係を明らかにした上で、組成比の異なるサンプルを作成した。
【0062】
さらに、ITOターゲットを用い、アルゴンガス及び酸素ガスの導入量を調整して放電を行い、透明基材の搬送速度を調整することにより、上記酸化銅層の表面に、導電性を持たせたITOからなる透明材料層を35nmの膜厚になるようにスパッタ成膜を行った。
これにより、実施例1の多層薄膜のサンプルを得た。
【0063】
<実施例2>
ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0064】
<実施例3>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.41となるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0065】
<実施例4>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.41となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0066】
<実施例5>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.54となるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0067】
<実施例6>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.54となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0068】
<実施例7>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0069】
<実施例8>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0070】
<実施例9>
ITOからなる透明材料層の厚さが25nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0071】
<実施例10>
ITOからなる透明材料層の厚さが40nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0072】
<実施例11>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.54となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが40nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0073】
<実施例12>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが40nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0074】
<実施例13>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが25nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0075】
<実施例14>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように調整し、かつ、屈折率が1.97のAZOを用いて厚さ30nmの透明材料層を形成した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0076】
<実施例15>
酸化銅層の厚さが25nmとなるように調整し、かつ、屈折率が1.87のSnO2を用いて厚さ35nmの透明材料層を形成した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0077】
<実施例16>
酸化銅層の厚さが25nmとなるように調整し、かつ、屈折率が1.75のY25を用いて厚さ35nmの透明材料層を形成した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0078】
<実施例17>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.38で、かつ、酸化銅層の厚さが30nmとなるように調整するとともに、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0079】
<実施例18>
酸化銅層の厚さが20nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0080】
<実施例19>
酸化銅層の厚さが30nmとなるように調整し、かつ、屈折率が1.62のMgOを用いて厚さ45nmの透明材料層を形成した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0081】
<実施例20>
酸化銅層の厚さが30nmとなるように調整し、かつ、屈折率が2.13のNb25を用いて厚さ25nmの透明材料層を形成した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0082】
<比較例1>
特開2014−34701号公報記載の薄膜形成装置を用い、透明基材上に厚さ360nmの銅層を形成した。
その後、この銅層に対し、黒化処理液(メック社製 BO−7770V)により、亜酸化銅の針状結晶が300nmの粗さで形成されるように黒化処理を施した。
【0083】
<比較例2>
特開2014−34701号公報記載の薄膜形成装置を用い、透明基材上に厚さ1000nmの銅層を形成した。
その後、この銅層に対し、黒化処理液(メック社製 BO−7770V)により、亜酸化銅の針状結晶が600nmの粗さで形成されるように黒化処理を施した。
【0084】
<比較例3>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.30となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが40nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0085】
<比較例4>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.35となるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0086】
<比較例5>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.35となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0087】
<比較例6>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.73となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが40nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0088】
<比較例7>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.73となるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0089】
<比較例8>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.73となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0090】
<比較例9>
酸化銅層の厚さが18nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが40nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0091】
<比較例10>
酸化銅層の厚さが18nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0092】
<比較例11>
酸化銅層の厚さが18nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0093】
<比較例12>
酸化銅層の厚さが18nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが25nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0094】
<比較例13>
酸化銅層の厚さが31nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが45nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0095】
<比較例14>
酸化銅層の厚さが31nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが25nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0096】
<比較例15>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが15nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0097】
<比較例16>
酸化銅層の厚さが22nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが15nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0098】
<比較例17>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが50nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0099】
<比較例18>
酸化銅層の厚さが22nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが50nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0100】
<比較例19>
酸化銅層の厚さが30nmとなるように調整し、屈折率が1.46のSiO2からなる厚さ45nmの透明材料層を形成した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0101】
[評価結果]
実施例及び比較例によって作成した多層薄膜のサンプルを切り出し、分光装置によって入射角12°の条件で分光測定を行った。その結果を表1に示す。
本発明者の知見によれば、メッシュ形状を作成した時のぎらつきの程度との相関は、可視光領域(370〜790nm)の範囲における最大反射率が10%以下であれば、ぎらつきを感じることがないことが分かった。
【0102】
<実施例1〜20>
表1から明らかなように、実施例1〜実施例20の多層薄膜は、可視光領域の範囲における最大反射率が全て10%以下であり、この条件を満たしている。
これは銅層に対して黒化処理を施した比較例1、2の多層薄膜と同等の反射率である。
【0103】
上述したように、実施例1〜実施例20の多層薄膜の場合、酸化銅層は、銅に対して0.38以上0.54以下の組成比で酸素を含有し、厚さが20nm以上30nm以下の条件を満たしている。
また、実施例1〜実施例20の多層薄膜の透明材料層は、波長550nmにおける屈折率が1.6以上2.2以下で、厚さが20nm以上45nm以下の条件を満たしている。
【0104】
<比較例3〜5>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.38より小さくした比較例3〜5の多層薄膜は、酸化銅層の厚さが22nmで、ITOからなる透明材料層の厚さが30〜40nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が全て10%より大きくなった。
【0105】
<比較例6〜8>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.65以上と大きくした比較例6〜8の多層薄膜は、酸化銅層の厚さが22nmで、ITOからなる透明材料層の厚さが30〜40nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が全て50%より大きくなった。
【0106】
<比較例9〜12>
酸化銅層の厚さを18nmと薄くした比較例9〜12の多層薄膜は、酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.47で、ITOからなる透明材料層の厚さが25〜40nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が全て10%より大きくなった。
【0107】
<比較例13、14>
酸化銅層の厚さを31nmと厚くした比較例13、14の多層薄膜は、酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.47で、ITOからなる透明材料層の厚さが25〜45nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が全て10%より大きくなった。
【0108】
<比較例15、16>
ITOからなる透明材料層の厚さを15nmと薄くした比較例15、16の多層薄膜は、酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.47で、その厚さが22〜27nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が全て10%より大きくなった。
【0109】
<比較例17、18>
ITOからなる透明材料層の厚さを50nmと厚くした比較例17、18の多層薄膜は、酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.47で、その厚さが22〜27nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が全て20%より大きくなった。
【0110】
<比較例19>
低屈折率材料(屈折率=1.46)であるSiO2からなる透明材料層を形成した比較例19は、酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.47で、透明材料層の厚さが45nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が10%より大きくなった。
【0111】
以上説明したように、実施例及び比較例の結果から本発明の効果を実証することができた。
ここで、透明材料層の好ましい屈折率の範囲(1.6〜2.2)について説明を加えておく。
すなわち、酸化銅層単体の屈折率を分光エリプソメトリー法にて測定したところ、550nm付近における屈折率は2.4程度であった。
【0112】
本発明では銅層から反射された光の光干渉により反射率を低減させるようにしているため、原理的に透明材料層の屈折率は酸化銅層の屈折率よりも低い必要がある。
したがって、透明材料層において十分に反射率を低減させるためには、透明材料層の屈折率は2.2以下とする必要があり、透明材料層としてそのような材料を選択している(表1参照、屈折率:1.62〜2.13)。
【0113】
その一方、透明材料層の材料として、実施例1〜20のうち屈折率が最も小さい実施例19(屈折率1.62)より屈折率が小さいSiO2(屈折率1.46)を用いた比較例19にあっては、上述したように、十分な反射率の低減効果は得られなかった。
この結果と、光学シミュレーションの結果に基づいて、本発明における透明材料層の好ましい屈折率の範囲の下限が1.6であることが判明したものである。
【符号の説明】
【0114】
1……多層薄膜
2……透明基材
3……銅層
4……酸化銅層
5……透明材料層
10……導電層
図1
図2
図3
図4