【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
【表1】
【0058】
<実施例1>
特開2014−34701号公報記載の薄膜形成装置を用い、透明基材上に銅層、酸化銅層及び透明材料層を形成した。
この場合、透明基材としては、厚さ100μmのPETフィルムの両面にアクリル系樹脂を10μm以下の厚さで塗布したものを用いた。
【0059】
そして、この薄膜形成装置の真空槽内を1×10
-2Pa以下の圧力に真空排気した後、アルゴンガスを200sccmの流量となるようにマスフローコントローラーにて調整しながら真空槽内に導入し、真空槽内に設けた銅ターゲットに3kWの電力を印加して放電させ、スパッタリングによる成膜を行った。
【0060】
この場合、予め銅の成膜速度を算出しておき、透明基材の搬送速度を調整して銅の膜厚が120nmとなるようにした。
その後、一度放電を停止した後、アルゴンガス200sccmと酸素ガス35sccmを導入して再度放電を行い、透明基材の搬送速度を調整することにより、上記銅層の表面に膜厚が22nmの酸化銅層をスパッタリングによって形成した。
【0061】
この酸化銅層の銅に対する酸素の組成比は、0.47であった。
なお、本実施例並びに以下に説明する実施例及び比較例の場合、酸化銅層を形成する際の酸素導入量は、予め酸素導入量を変えた単層膜を作成して、オージェ電子分光法でCuとOの強度比から組成比を決定し、酸素導入量と組成比との関係を明らかにした上で、組成比の異なるサンプルを作成した。
【0062】
さらに、ITOターゲットを用い、アルゴンガス及び酸素ガスの導入量を調整して放電を行い、透明基材の搬送速度を調整することにより、上記酸化銅層の表面に、導電性を持たせたITOからなる透明材料層を35nmの膜厚になるようにスパッタ成膜を行った。
これにより、実施例1の多層薄膜のサンプルを得た。
【0063】
<実施例2>
ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0064】
<実施例3>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.41となるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0065】
<実施例4>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.41となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0066】
<実施例5>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.54となるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0067】
<実施例6>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.54となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0068】
<実施例7>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0069】
<実施例8>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0070】
<実施例9>
ITOからなる透明材料層の厚さが25nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0071】
<実施例10>
ITOからなる透明材料層の厚さが40nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0072】
<実施例11>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.54となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが40nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0073】
<実施例12>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが40nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0074】
<実施例13>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが25nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0075】
<実施例14>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように調整し、かつ、屈折率が1.97のAZOを用いて厚さ30nmの透明材料層を形成した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0076】
<実施例15>
酸化銅層の厚さが25nmとなるように調整し、かつ、屈折率が1.87のSnO
2を用いて厚さ35nmの透明材料層を形成した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0077】
<実施例16>
酸化銅層の厚さが25nmとなるように調整し、かつ、屈折率が1.75のY
2O
5を用いて厚さ35nmの透明材料層を形成した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0078】
<実施例17>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.38で、かつ、酸化銅層の厚さが30nmとなるように調整するとともに、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0079】
<実施例18>
酸化銅層の厚さが20nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0080】
<実施例19>
酸化銅層の厚さが30nmとなるように調整し、かつ、屈折率が1.62のMgOを用いて厚さ45nmの透明材料層を形成した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0081】
<実施例20>
酸化銅層の厚さが30nmとなるように調整し、かつ、屈折率が2.13のNb
2O
5を用いて厚さ25nmの透明材料層を形成した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0082】
<比較例1>
特開2014−34701号公報記載の薄膜形成装置を用い、透明基材上に厚さ360nmの銅層を形成した。
その後、この銅層に対し、黒化処理液(メック社製 BO−7770V)により、亜酸化銅の針状結晶が300nmの粗さで形成されるように黒化処理を施した。
【0083】
<比較例2>
特開2014−34701号公報記載の薄膜形成装置を用い、透明基材上に厚さ1000nmの銅層を形成した。
その後、この銅層に対し、黒化処理液(メック社製 BO−7770V)により、亜酸化銅の針状結晶が600nmの粗さで形成されるように黒化処理を施した。
【0084】
<比較例3>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.30となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが40nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0085】
<比較例4>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.35となるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0086】
<比較例5>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.35となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0087】
<比較例6>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.73となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが40nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0088】
<比較例7>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.73となるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0089】
<比較例8>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.73となるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0090】
<比較例9>
酸化銅層の厚さが18nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが40nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0091】
<比較例10>
酸化銅層の厚さが18nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0092】
<比較例11>
酸化銅層の厚さが18nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが30nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0093】
<比較例12>
酸化銅層の厚さが18nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが25nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0094】
<比較例13>
酸化銅層の厚さが31nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが45nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0095】
<比較例14>
酸化銅層の厚さが31nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが25nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0096】
<比較例15>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが15nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0097】
<比較例16>
酸化銅層の厚さが22nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが15nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0098】
<比較例17>
酸化銅層の厚さが27nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが50nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0099】
<比較例18>
酸化銅層の厚さが22nmとなるように、かつ、ITOからなる透明材料層の厚さが50nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0100】
<比較例19>
酸化銅層の厚さが30nmとなるように調整し、屈折率が1.46のSiO
2からなる厚さ45nmの透明材料層を形成した以外は実施例1と同一の条件で多層薄膜のサンプルを作成した。
【0101】
[評価結果]
実施例及び比較例によって作成した多層薄膜のサンプルを切り出し、分光装置によって入射角12°の条件で分光測定を行った。その結果を表1に示す。
本発明者の知見によれば、メッシュ形状を作成した時のぎらつきの程度との相関は、可視光領域(370〜790nm)の範囲における最大反射率が10%以下であれば、ぎらつきを感じることがないことが分かった。
【0102】
<実施例1〜20>
表1から明らかなように、実施例1〜実施例20の多層薄膜は、可視光領域の範囲における最大反射率が全て10%以下であり、この条件を満たしている。
これは銅層に対して黒化処理を施した比較例1、2の多層薄膜と同等の反射率である。
【0103】
上述したように、実施例1〜実施例20の多層薄膜の場合、酸化銅層は、銅に対して0.38以上0.54以下の組成比で酸素を含有し、厚さが20nm以上30nm以下の条件を満たしている。
また、実施例1〜実施例20の多層薄膜の透明材料層は、波長550nmにおける屈折率が1.6以上2.2以下で、厚さが20nm以上45nm以下の条件を満たしている。
【0104】
<比較例3〜5>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.38より小さくした比較例3〜5の多層薄膜は、酸化銅層の厚さが22nmで、ITOからなる透明材料層の厚さが30〜40nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が全て10%より大きくなった。
【0105】
<比較例6〜8>
酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.65以上と大きくした比較例6〜8の多層薄膜は、酸化銅層の厚さが22nmで、ITOからなる透明材料層の厚さが30〜40nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が全て50%より大きくなった。
【0106】
<比較例9〜12>
酸化銅層の厚さを18nmと薄くした比較例9〜12の多層薄膜は、酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.47で、ITOからなる透明材料層の厚さが25〜40nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が全て10%より大きくなった。
【0107】
<比較例13、14>
酸化銅層の厚さを31nmと厚くした比較例13、14の多層薄膜は、酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.47で、ITOからなる透明材料層の厚さが25〜45nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が全て10%より大きくなった。
【0108】
<比較例15、16>
ITOからなる透明材料層の厚さを15nmと薄くした比較例15、16の多層薄膜は、酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.47で、その厚さが22〜27nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が全て10%より大きくなった。
【0109】
<比較例17、18>
ITOからなる透明材料層の厚さを50nmと厚くした比較例17、18の多層薄膜は、酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.47で、その厚さが22〜27nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が全て20%より大きくなった。
【0110】
<比較例19>
低屈折率材料(屈折率=1.46)であるSiO
2からなる透明材料層を形成した比較例19は、酸化銅層の銅に対する酸素の組成比が0.47で、透明材料層の厚さが45nmであっても、可視光領域の範囲における最大反射率が10%より大きくなった。
【0111】
以上説明したように、実施例及び比較例の結果から本発明の効果を実証することができた。
ここで、透明材料層の好ましい屈折率の範囲(1.6〜2.2)について説明を加えておく。
すなわち、酸化銅層単体の屈折率を分光エリプソメトリー法にて測定したところ、550nm付近における屈折率は2.4程度であった。
【0112】
本発明では銅層から反射された光の光干渉により反射率を低減させるようにしているため、原理的に透明材料層の屈折率は酸化銅層の屈折率よりも低い必要がある。
したがって、透明材料層において十分に反射率を低減させるためには、透明材料層の屈折率は2.2以下とする必要があり、透明材料層としてそのような材料を選択している(表1参照、屈折率:1.62〜2.13)。
【0113】
その一方、透明材料層の材料として、実施例1〜20のうち屈折率が最も小さい実施例19(屈折率1.62)より屈折率が小さいSiO
2(屈折率1.46)を用いた比較例19にあっては、上述したように、十分な反射率の低減効果は得られなかった。
この結果と、光学シミュレーションの結果に基づいて、本発明における透明材料層の好ましい屈折率の範囲の下限が1.6であることが判明したものである。