特許第6670372号(P6670372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6670372半導体装置製造用粘着性フィルムおよび半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670372
(24)【登録日】2020年3月3日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】半導体装置製造用粘着性フィルムおよび半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20200309BHJP
   C09J 7/22 20180101ALI20200309BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20200309BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20200309BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20200309BHJP
   C09J 125/04 20060101ALI20200309BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20200309BHJP
   C09J 123/00 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
   H01L21/78 M
   C09J7/22
   C09J7/38
   C09J183/04
   C09J175/04
   C09J125/04
   C09J133/00
   C09J123/00
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-508015(P2018-508015)
(86)(22)【出願日】2017年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2017012476
(87)【国際公開番号】WO2017170449
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2018年7月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-70392(P2016-70392)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】三井化学東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】林下 英司
【審査官】 中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−203882(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/042869(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/192630(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/132852(WO,A1)
【文献】 特開2015−010116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
C09J 7/22
C09J 7/38
C09J 123/00
C09J 125/04
C09J 133/00
C09J 175/04
C09J 183/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回路パターンを含む第1回路面および前記第1回路面の反対側の第2回路パターンを含む第2回路面を有する半導体ウェハと、前記半導体ウェハの前記第1回路面側に接着剤層を介して設けられたサポート部材と、前記半導体ウェハの前記第2回路面側に貼り合わされた粘着性フィルムと、を備える構造体を準備する工程と、
前記構造体から前記サポート部材を除去する工程と、
前記半導体ウェハの前記第1回路面側の前記接着剤層の残渣を溶剤により除去する工程と、を少なくとも備える半導体装置の製造方法における前記粘着性フィルムであって、
耐溶剤性樹脂層と、凹凸吸収性樹脂層と、粘着性樹脂層と、をこの順番に有し、
前記粘着性樹脂層が前記半導体ウェハの前記第2回路面側になるように用いられ、
前記粘着性樹脂層を構成する粘着剤が(メタ)アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、オレフィン系粘着剤、およびスチレン系粘着剤から選択される一種または二種以上であり、
前記耐溶剤性樹脂層を構成する耐溶剤性樹脂がポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、およびポリ酢酸ビニル系樹脂からなる群から選択される一種または二種以上である半導体装置製造用粘着性フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
前記耐溶剤性樹脂層は溶解度パラメータが9.0以上である樹脂を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
前記耐溶剤性樹脂層は25℃の条件での引張弾性率(E')が300MPa以下である樹脂を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
前記溶剤の溶解度パラメータが9.0未満である半導体装置製造用粘着性フィルム。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
前記溶剤が炭化水素系溶剤を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
前記耐溶剤性樹脂層と、前記凹凸吸収性樹脂層との間に接着層をさらに有する半導体装置製造用粘着性フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
前記接着層が(メタ)アクリル系接着剤およびポリオレフィン系接着剤から選択される少なくとも一種を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
【請求項8】
請求項1乃至いずれか一項に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
前記凹凸吸収性樹脂層がポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、および(メタ)アクリル系樹脂からなる群から選択される一種または二種以上を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
【請求項9】
請求項に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
前記凹凸吸収性樹脂層がエチレン・α−オレフィン共重合体およびエチレン・酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも一種を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
【請求項10】
第1回路パターンを含む第1回路面および前記第1回路面の反対側の第2回路パターンを含む第2回路面を有する半導体ウェハと、前記半導体ウェハの前記第1回路面側に接着剤層を介して設けられたサポート部材と、前記半導体ウェハの前記第2回路面側に貼り合わされた粘着性フィルムと、を備える構造体を準備する工程と、
前記構造体から前記サポート部材を除去する工程と、
前記半導体ウェハの前記第1回路面側の前記接着剤層の残渣を溶剤により除去する工程と、を少なくとも備える半導体装置の製造方法であって、
前記粘着性フィルムとして、請求項1乃至いずれか一項に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムを用いる半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置製造用粘着性フィルムおよび半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に回路パターンが形成された半導体ウェハの裏面を回路加工する際に、半導体ウェハのハンドリング性を向上させる観点から、回路パターンが形成された面にガラス基板やセラミック基板、金属基板等のサポート部材を接着剤により貼り合わせる場合がある。
【0003】
このようなサポート部材を用いた半導体装置の製造方法では、一般的に、半導体ウェハからサポート部材を剥離する工程と、接着剤の残渣を除去する工程が必要となる。
ここで、サポート部材から剥離された半導体ウェハは、その後、ダイシング工程に移され、個々の半導体チップに分断される。このとき、半導体ウェハのハンドリング性を良好に保つ観点から、半導体ウェハの裏面の回路パターン形成後に、半導体ウェハの回路パターンにダイシングテープが貼り合わされ、その後に、半導体ウェハからサポート部材が剥離される。サポート部材を剥離した後に回路パターンに残存する接着剤残渣は、溶剤により洗浄される。
ここで、溶剤による接着剤残渣の洗浄は、半導体ウェハがダイシングテープに貼られた状態で行われるため、ダイシングテープには高い耐溶剤性が求められる。
【0004】
このようなサポート部材を使用した半導体装置の製造方法に関する技術としては、例えば、特許文献1(特開2013−239595号公報)に記載のものが挙げられる。
【0005】
特許文献1には、(a)半導体ウェハの回路面側に接着剤を介してサポート部材を貼り合わせる工程、(b)該半導体ウェハの回路面とは反対側の裏面を薄型加工する工程、(c)該半導体ウェハの回路面とは反対側の裏面上に、少なくとも紫外線硬化型粘着剤層を有するダイシングテープを貼り合わせる工程、(d)該半導体ウェハを、該接着剤層およびサポート部材から剥離する工程、(e)該半導体ウェハ上の該接着剤の残渣を、有機溶剤を用いて洗浄する工程、および、(f)該半導体ウェハを切断してチップ化する工程を含む半導体ウェハのダイシング方法であって、上記(e)の工程の前に、上記ダイシングテープにおける、上記半導体ウェハが貼着されていない領域の粘着剤層が、紫外線照射によって硬化されていることを特徴とする半導体ウェハのダイシング方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−239595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、サポート部材を使用した半導体装置の製造方法に使用される、従来の粘着性フィルムに関し、以下のような課題を見出した。
まず、両面に回路パターンが形成された半導体ウェハに使用される粘着性フィルムには、回路面との密着性を良好にする観点から、回路面の凹凸に追従する特性が求められる。そのため、このような粘着性フィルムには凹凸追従性に優れる樹脂層が使用されていた。
しかし、本発明者の検討によれば、凹凸追従性に優れる樹脂層は耐溶剤性に劣ることを知見した。
さらに、本発明者の検討によれば、耐溶剤性に優れる粘着性フィルムを使用すると、今度は凹凸追従性が悪化することが明らかになった。凹凸追従性が悪いと、溶剤が粘着性フィルムと回路面の隙間に入ってきてしまい、粘着性フィルムが剥れる等の問題が生じてしまう。
つまり、本発明者の検討によれば、サポート部材を使用した半導体装置の製造方法に使用される、従来の粘着性フィルムには、回路パターンへの追従性と耐溶剤性との間には、トレードオフの関係が存在することが明らかになった。すなわち、本発明者は、従来の粘着性フィルムには、回路パターンへの追従性および耐溶剤性をバランスよく向上させるという観点において、改善の余地があることを見出した。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、回路パターンへの追従性と耐溶剤性とを両立した半導体装置製造用粘着性フィルムおよびそれを用いた半導体装置の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、耐溶剤性樹脂層と、凹凸吸収性樹脂層と、粘着性樹脂層と、をこの順番に有する粘着性フィルムを使用し、かつ、粘着性樹脂層が半導体ウェハの回路面側になるようにこの粘着性フィルムを用いることにより、回路パターンへの追従性と耐溶剤性とを両立できることを見出して、本発明を完成させた。
【0010】
本発明によれば、以下に示す半導体装置製造用粘着性フィルムおよび半導体装置の製造方法が提供される。
【0011】
[1]
第1回路パターンを含む第1回路面および上記第1回路面の反対側の第2回路パターンを含む第2回路面を有する半導体ウェハと、上記半導体ウェハの上記第1回路面側に接着剤層を介して設けられたサポート部材と、上記半導体ウェハの上記第2回路面側に貼り合わされた粘着性フィルムと、を備える構造体を準備する工程と、
上記構造体から上記サポート部材を除去する工程と、
上記半導体ウェハの上記第1回路面側の上記接着剤層の残渣を溶剤により除去する工程と、を少なくとも備える半導体装置の製造方法における上記粘着性フィルムであって、
耐溶剤性樹脂層と、凹凸吸収性樹脂層と、粘着性樹脂層と、をこの順番に有し、
上記粘着性樹脂層が上記半導体ウェハの上記第2回路面側になるように用いられる半導体装置製造用粘着性フィルム。
[2]
上記[1]に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
上記耐溶剤性樹脂層は溶解度パラメータが9.0以上である樹脂を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
[3]
上記[1]または[2]に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
上記耐溶剤性樹脂層は25℃の条件での引張弾性率(E')が300MPa以下である樹脂を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
[4]
上記[1]乃至[3]いずれか一つに記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
上記溶剤の溶解度パラメータが9.0未満である半導体装置製造用粘着性フィルム。
[5]
上記[1]乃至[4]いずれか一つに記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
上記溶剤が炭化水素系溶剤を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
[6]
上記[1]乃至[5]いずれか一つに記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
上記耐溶剤性樹脂層と、上記凹凸吸収性樹脂層との間に接着層をさらに有する半導体装置製造用粘着性フィルム。
[7]
上記[6]に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
上記接着層が(メタ)アクリル系接着剤およびポリオレフィン系接着剤から選択される少なくとも一種を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
[8]
上記[1]乃至[7]いずれか一つに記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
上記耐溶剤性樹脂層がポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル、ポリイミド、およびポリアミドからなる群から選択される一種または二種以上を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
[9]
上記[1]乃至[8]いずれか一つに記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
上記凹凸吸収性樹脂層がポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、および(メタ)アクリル系樹脂からなる群から選択される一種または二種以上を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
[10]
上記[9]に記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
上記凹凸吸収性樹脂層がエチレン・α−オレフィン共重合体およびエチレン・酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも一種を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
[11]
上記[1]乃至[10]いずれか一つに記載の半導体装置製造用粘着性フィルムにおいて、
上記粘着性樹脂層を構成する粘着剤が(メタ)アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、オレフィン系粘着剤、およびスチレン系粘着剤から選択される一種または二種以上を含む半導体装置製造用粘着性フィルム。
[12]
第1回路パターンを含む第1回路面および上記第1回路面の反対側の第2回路パターンを含む第2回路面を有する半導体ウェハと、上記半導体ウェハの上記第1回路面側に接着剤層を介して設けられたサポート部材と、上記半導体ウェハの上記第2回路面側に貼り合わされた粘着性フィルムと、を備える構造体を準備する工程と、
上記構造体から上記サポート部材を除去する工程と、
上記半導体ウェハの上記第1回路面側の上記接着剤層の残渣を溶剤により除去する工程と、を少なくとも備える半導体装置の製造方法であって、
上記粘着性フィルムとして、上記[1]乃至[11]いずれか一つに記載の半導体装置製造用粘着性フィルムを用いる半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、回路パターンへの追従性と耐溶剤性とを両立した半導体装置製造用粘着性フィルムおよびそれを用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0014】
図1】本発明に係る実施形態の粘着性フィルムの構造の一例を模式的に示した断面図である。
図2】本発明に係る実施形態の半導体装置の製造方法の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。なお、数値範囲の「A〜B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。また、本実施形態において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル、メタクリルまたはアクリルおよびメタクリルの両方を意味する。
【0016】
図1は、本発明に係る実施形態の粘着性フィルム50の構造の一例を模式的に示した断面図である。図2は、本発明に係る実施形態の半導体装置の製造方法の一例を模式的に示した断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る半導体装置製造用粘着性フィルム50(以下、「粘着性フィルム50」とも示す。)は以下の工程(A)〜(C)を少なくとも備える半導体装置の製造方法における粘着性フィルムであって、耐溶剤性樹脂層10と、凹凸吸収性樹脂層20と、粘着性樹脂層30と、をこの順番に有し、粘着性樹脂層30が半導体ウェハ60の第2回路面65B側になるように用いられるものである。
(A)第1回路パターン63Aを含む第1回路面65Aおよび第1回路面65Aの反対側の第2回路パターン63Bを含む第2回路面65Bを有する半導体ウェハ60と、半導体ウェハ60の第1回路面65A側に接着剤層70を介して設けられたサポート部材80と、半導体ウェハ60の第2回路面65B側に貼り合わされた粘着性フィルム50と、を備える構造体100を準備する工程
(B)構造体100からサポート部材80を除去する工程
(C)半導体ウェハ60の第1回路面65A側の接着剤層70の残渣を溶剤により除去する工程
【0017】
上述したように、本発明者は、サポート部材を使用した半導体装置の製造方法に使用される、従来の粘着性フィルムに関し、以下のような課題を見出した。
まず、両面に回路パターンが形成された半導体ウェハに使用される粘着性フィルムには、回路面との密着性を良好にする観点から、回路面の凹凸に追従する特性が求められる。そのため、このような粘着性フィルムには凹凸追従性に優れる樹脂層が使用されていた。
しかし、本発明者の検討によれば、凹凸追従性に優れる樹脂層は耐溶剤性に劣ることを知見した。
【0018】
さらに、本発明者の検討によれば、耐溶剤性に優れる粘着性フィルムを使用すると、今度は凹凸追従性が悪化することが明らかになった。凹凸追従性が悪いと、溶剤が粘着性フィルムと回路面の隙間に入ってきてしまい、粘着性フィルムが剥れる等の問題が生じてしまう。
つまり、本発明者の検討によれば、サポート部材を使用した半導体装置の製造方法に使用される、従来の粘着性フィルムには、回路パターンへの追従性と耐溶剤性との間には、トレードオフの関係が存在することが明らかになった。すなわち、本発明者は、従来の粘着性フィルムには、回路パターンへの追従性および耐溶剤性をバランスよく向上させるという観点において、改善の余地があることを見出した。
【0019】
本発明者は、サポート部材を使用した半導体装置の製造方法に使用される、従来の粘着性フィルムに関する上述した知見を踏まえ、回路パターンへの追従性および耐溶剤性をバランスよく向上できる半導体装置製造用粘着性フィルムを実現するために、鋭意検討を重ねた。その結果、耐溶剤性樹脂層10と、凹凸吸収性樹脂層20と、粘着性樹脂層30と、をこの順番に有する粘着性フィルム50を使用し、かつ、この粘着性フィルム50を粘着性樹脂層30が半導体ウェハ60の第2回路面65B側になるように用いることにより、回路パターンへの追従性と耐溶剤性とを両立できることを見出した。
粘着性フィルム50が耐溶剤性樹脂層10を備えることにより、粘着性フィルム50が溶剤に浸されても粘着性フィルム50全体の膨潤や変形を抑制することができ、粘着性フィルム50の耐溶剤性を良好にすることができる。また、粘着性フィルム50が凹凸吸収性樹脂層20を備えることにより、回路パターンの凹凸の吸収性が良好になり、粘着性フィルム50の回路パターンへの追従性を向上させることができる。
以上から、本実施形態に係る粘着性フィルム50によれば、回路パターンへの追従性と耐溶剤性とを両立することができる。
【0020】
1.粘着性フィルム
以下、本実施形態に係る半導体装置の製造方法で用いる粘着性フィルム50について説明する。
【0021】
<耐溶剤性樹脂層>
耐溶剤性樹脂層10は、粘着性フィルム50の耐溶剤性や取り扱い性、機械的特性等の特性をより良好にすることを目的として設けられる層である。
耐溶剤性樹脂層10は、接着剤層70の残渣を除去する際に使用する溶剤に対し、膨潤や変形等が起きない程度の耐溶剤性があれば特に限定されないが、例えば、耐溶剤性樹脂により構成された樹脂フィルムが挙げられる。
【0022】
耐溶剤性樹脂層10を構成する耐溶剤性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−66、ポリメタキシレンアジパミド等のポリアミド;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;変性ポリフェニレンエーテル;ポリアセタール;ポリアリレート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;フッ素系樹脂;液晶ポリマー;ポリベンゾイミダゾール;ポリベンゾオキサゾール等から選択される一種または二種以上を挙げることができる。
【0023】
これらの中でも、耐溶剤性や機械的強度、透明性、価格等のバランスに優れる観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル、ポリイミド、およびポリアミドからなる群から選択される一種または二種以上が好ましく、耐溶剤性および柔軟性のバランスに優れる観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、およびポリ酢酸ビニル系樹脂からなる群から選択される一種または二種以上がより好ましく、ポリ塩化ビニル系樹脂およびポリ酢酸ビニル系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種がさらに好ましく、軟質ポリ塩化ビニル系樹脂が特に好ましい。
【0024】
耐溶剤性樹脂層10を構成する耐溶剤性樹脂の溶解度パラメータは9.0以上であることが好ましい。
このような耐溶剤性樹脂を用いると、接着剤層70の残渣を除去する際の粘着性フィルム50の膨潤や変形等をより一層抑制することができる。
本実施形態において、溶解度パラメータはヒルデブラント(Hildebrand)によって導入された正則溶液論により定義された値である。
耐溶剤性樹脂層10を構成する耐溶剤性樹脂の溶解度パラメータの上限は特に限定されないが、例えば30.0以下であり、好ましくは20.0以下であり、より好ましくは15.0以下である。
【0025】
耐溶剤性樹脂層10を構成する耐溶剤性樹脂の25℃の条件での引張弾性率(E')は300MPa以下であることが好ましい。引張弾性率(E')の下限は特に限定されないが、例えば1MPa以上であり、好ましくは10MPa以上であり、より好ましくは50MPa以上である。
このような耐溶剤性樹脂を用いると、粘着性フィルム50の伸縮性や柔軟性が向上し、半導体チップ90をピックアップする工程において粘着性フィルム50を面内方向に拡張し易くなる。
こうすることにより、隣接する半導体チップ90間の間隔が拡大し易くなるため、粘着性フィルム50から半導体チップ90をピックアップし易くなる。さらに、粘着性フィルム50の面内方向の拡張によって生じる、半導体チップ90と粘着性樹脂層30とのずり応力により、半導体チップ90と粘着性樹脂層30との粘着力が低下し易くなるため、粘着性フィルム50から半導体チップ90をピックアップし易くなる。
さらに、引張弾性率(E')が上記上限値以下である耐溶剤性樹脂を用いると、粘着性フィルム50の全体の凹凸吸収性がより一層向上し、半導体ウェハ60の回路パターンを含む回路面の凹凸に追従し、半導体ウェハ60の回路面と粘着性フィルム50との密着性をより一層向上させることができる。
引張弾性率(E')はJIS K7161に従って測定することができる。
【0026】
耐溶剤性樹脂層10は、単層であっても、二種以上の層であってもよい。
また、耐溶剤性樹脂層10を形成するために使用する樹脂フィルムの形態としては、延伸フィルムであってもよいし、一軸方向または二軸方向に延伸したフィルムであってもよいが、耐溶剤性樹脂層10の耐溶剤性および機械的強度を向上させる観点から、一軸方向または二軸方向に延伸したフィルムであることが好ましい。
【0027】
耐溶剤性樹脂層10の厚さは、良好なフィルム特性を得る観点から、好ましくは10μm以上1000μm以下、より好ましくは10μm以上500μm以下、さらに好ましくは20μm以上300μm以下である。
耐溶剤性樹脂層10は他の層との接着性を改良するために、表面処理を行ってもよい。具体的には、コロナ処理、プラズマ処理、アンダーコート処理、プライマーコート処理等を行ってもよい。
【0028】
<凹凸吸収性樹脂層>
凹凸吸収性樹脂層20は、粘着性フィルム50の回路パターンへの追従性を良好にし、回路面との粘着性フィルム50の密着性を良好にすることを目的として設けられる層である。
凹凸吸収性樹脂層20を備えることで、粘着性フィルム50全体の凹凸吸収性が向上し、半導体ウェハ60の回路パターンを含む回路面の凹凸に追従し、半導体ウェハ60の回路面と粘着性フィルム50との密着性を向上させることができる。さらに半導体ウェハ60を加工する際に加わる外力等によって半導体ウェハ60の表面に形成された回路パターンが割れることを抑制することができる。
【0029】
凹凸吸収性樹脂層20を構成する樹脂は、凹凸吸収性を示すものであれば特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、および(メタ)アクリル系樹脂からなる群から選択される一種または二種以上が挙げられる。
【0030】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン;ポリプロピレン;エチレンおよび炭素数3〜12のα−オレフィンとを含むエチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレンおよび炭素数4〜12のα−オレフィンとを含むプロピレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・環状オレフィン共重合体、エチレン・α−オレフィン・環状オレフィン共重合体等のエチレン系共重合体;エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸プロピル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸ブチル共重合体等のエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・プロピオン酸ビニル共重合体、エチレン・酪酸ビニル共重合体、エチレン・ステアリン酸ビニル共重合体等のエチレン・ビニルエステル共重合体等が挙げられる。
【0031】
エチレン・α−オレフィン共重合体における炭素原子数3〜12のα−オレフィンは、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられ、好ましくはプロピレン、1−ブテン等である。
これらの中でも、凹凸吸収性により優れる点で、低密度ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・炭素原子数4〜12のα−オレフィンの三元共重合体等のエチレン・α−オレフィン共重合体;プロピレン・1−ブテン・炭素原子数5〜12のα−オレフィンの三元共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体等が好ましく、エチレン・α−オレフィン共重合体およびエチレン・酢酸ビニル共重合体がより好ましい。
【0032】
ポリスチレン系樹脂としては、例えば、スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、他のスチレン・ジエン系ブロック共重合体またはその水素添加物などのポリスチレン系エラストマー等が挙げられる。
(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを成分とする(メタ)アクリル系重合体等が挙げられる。
【0033】
凹凸吸収性樹脂層20の厚さは、半導体ウェハの回路パターンを含む回路面の凹凸を埋め込むことができる厚さであれば、特に制限されないが、例えば、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上400μm以下であることがより好ましく、30μm以上300μm以下であることがさらに好ましく、50μm以上250μm以下であることが特に好ましい。
【0034】
<粘着性樹脂層>
粘着性樹脂層30は、凹凸吸収性樹脂層20の一方の面側に設けられる層であり、粘着性フィルム50を半導体ウェハ60に貼り付ける際に、半導体ウェハ60の第2回路面65Bに接触して粘着する層である。
【0035】
粘着性樹脂層30を構成する粘着剤は、(メタ)アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、オレフィン系粘着剤、スチレン系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、接着力の調整を容易にできる点等から、(メタ)アクリル系重合体をベースポリマーとする(メタ)アクリル系粘着剤が好ましい。
【0036】
粘着性樹脂層30を構成する粘着剤としては、放射線により粘着力を低下させる放射線架橋型粘着剤を用いることができる。放射線架橋型粘着剤により構成された粘着性樹脂層30は、放射線の照射により架橋して粘着力が著しく減少するため、半導体チップ90のピックアップ工程において、粘着性樹脂層30から半導体チップ90をピックアップし易くなる。放射線としては、紫外線、電子線、赤外線等が挙げられる。
放射線架橋型粘着剤としては、紫外線架橋型粘着剤が好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル系粘着剤に含まれる(メタ)アクリル系重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル化合物の単独重合体、(メタ)アクリル酸エステル化合物とコモノマーとの共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステル化合物は一種単独で用いてもよく、二種以上を併用して用いてもよい。
また、(メタ)アクリル系共重合体を構成するコモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、(メタ)アクリルニトリル、(メタ)アクリルアミド、スチレン、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、メチロール(メタ)アクリルアミド、無水マレイン酸等が挙げられる。これらのコモノマーは一種単独で用いてもよく、二種以上を併用して用いてもよい。
【0038】
放射線架橋型粘着剤は、例えば、上記(メタ)アクリル系粘着剤等の粘着剤と、架橋性化合物(炭素−炭素二重結合を有する成分)と、光重合開始剤または熱重合開始剤と、を含む。
【0039】
架橋性化合物としては、例えば、分子中に炭素−炭素二重結合を有し、ラジカル重合により架橋可能なモノマー、オリゴマーまたはポリマー等が挙げられる。このような架橋性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールとのエステル;エステル(メタ)アクリレートオリゴマー;2−プロペニルジ−3−ブテニルシアヌレート、2−ヒドロキシエチルビス(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート等のイソシアヌレートまたはイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
なお、粘着剤が、ポリマーの側鎖に炭素−炭素二重結合を有する放射線架橋型ポリマーである場合は、架橋性化合物を加えなくてもよい。
【0040】
架橋性化合物の含有量は、粘着剤100質量部に対して5〜900質量部が好ましく、5〜100質量部がより好ましく、10〜50質量部がさらに好ましい。架橋性化合物の含有量が上記範囲内であることにより、上記範囲内よりも少ない場合に比べて粘着力の調整がし易くなり、上記範囲内よりも多い場合に比べて、熱や光に対する感度が高すぎることによる保存安定性の低下が起こりにくい。
【0041】
光重合開始剤としては、放射線を照射することにより開裂しラジカルを生成する化合物であればよく、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類;ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等の芳香族ケトン類;ベンジルジメチルケタール等の芳香族ケタール類;ポリビニルベンゾフェノン;クロロチオキサントン、ドデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン等のチオキサントン類等が挙げられる。
【0042】
熱重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物誘導体やアゾ系重合開始剤等が挙げられる。加熱時に窒素が発生しない点から、好ましくは有機過酸化物誘導体である。熱重合開始剤としては、例えば、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステルおよびパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0043】
粘着剤には架橋剤を添加してもよい。架橋剤としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリストールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物;テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、N,N'−ジフェニルメタン−4,4'−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、N,N'−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)等のアジリジン系化合物;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリイソシアネート等のイソシアネート系化合物等が挙げられる。
架橋剤の含有量は、粘着性樹脂層30の耐熱性や密着力とのバランスを向上させる観点から、(メタ)アクリル系重合体100質量部に対し、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0044】
粘着性樹脂層30の厚さは特に制限されないが、例えば、1μm以上100μm以下であることが好ましく、3μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0045】
粘着性樹脂層30は、例えば、凹凸吸収性樹脂層20上に粘着剤塗布液を塗布することにより形成することができる。
粘着剤塗布液を塗布する方法としては、従来公知の塗布方法、例えば、ロールコーター法、リバースロールコーター法、グラビアロール法、バーコート法、コンマコーター法、ダイコーター法等が採用できる。塗布された粘着剤の乾燥条件には特に制限はないが、一般的には、80〜200℃の温度範囲において、10秒〜10分間乾燥することが好ましい。更に好ましくは、80〜170℃において、15秒〜5分間乾燥する。架橋剤と粘着剤との架橋反応を十分に促進させるために、粘着剤塗布液の乾燥が終了した後、40〜80℃において5〜300時間程度加熱してもよい。
【0046】
本実施形態に係る粘着性フィルム50の全光線透過率は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上である。こうすることで、粘着性フィルム50に透明性を付与することができる。そして、粘着性フィルム50の全光線透過率を上記下限値以上とすることにより、本実施形態に係る粘着性フィルム50において耐溶剤性樹脂層10側から放射線を照射する際に、粘着性樹脂層30へより効果的に放射線を照射することができ、放射線照射効率を向上させることができる。なお、粘着性フィルム50の全光線透過率は、JIS K7105(1981)に準じて測定することが可能である。
【0047】
次に、本実施形態に係る粘着性フィルム50の製造方法の一例について説明する。
まず、耐溶剤性樹脂層10の一方の面に凹凸吸収性樹脂層20を押出しラミネート法によって形成する。次いで、凹凸吸収性樹脂層20上に粘着剤塗布液を塗布し乾燥させることによって、粘着性樹脂層30を形成し、粘着性フィルム50が得られる。
また、耐溶剤性樹脂層10と凹凸吸収性樹脂層20とは共押出成形によって形成してもよいし、フィルム状の耐溶剤性樹脂層10とフィルム状の凹凸吸収性樹脂層20とをラミネート(積層)して形成してもよい。
【0048】
<接着層>
本実施形態に係る粘着性フィルム50は、耐溶剤性樹脂層10と、凹凸吸収性樹脂層20との間に接着層(図示せず)をさらに有することが好ましい。これにより、耐溶剤性樹脂層10と凹凸吸収性樹脂層20との密着性を向上させることができる。
上記接着層は、例えば、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを成分とする(メタ)アクリル系重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・不飽和カルボン酸三元共重合体等の(メタ)アクリル系接着剤;変性ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン系接着剤等が挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル系接着剤が好ましい。
【0049】
<離型層>
本実施形態に係る粘着性フィルム50は、粘着性樹脂層30上に離型フィルム等の離型層をさらに積層させてもよい。離型層としては、例えば、離型処理が施されたポリエステルフィルム等が挙げられる。なお、離型層は、粘着性フィルム50を半導体ウェハ60の第2回路面65Bに貼り付ける前に粘着性樹脂層30から取り除かれる。
【0050】
2.半導体装置の製造方法
次に、本実施形態に係る半導体装置の製造方法について説明する。
本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、以下の3つの工程を少なくとも備えている。
(A)第1回路パターン63Aを含む第1回路面65Aおよび第1回路面65Aの反対側の第2回路パターン63Bを含む第2回路面65Bを有する半導体ウェハ60と、半導体ウェハ60の第1回路面65A側に接着剤層70を介して設けられたサポート部材80と、半導体ウェハ60の第2回路面65B側に貼り合わされた粘着性フィルムと、を備える構造体100を準備する工程
(B)構造体100からサポート部材80を除去する工程
(C)半導体ウェハ60の第1回路面65A側の接着剤層70の残渣を溶剤により除去する工程
そして、本実施形態に係る半導体装置の製造方法では、上記粘着性フィルムとして、前述した本実施形態に係る半導体装置製造用粘着性フィルム50を用いる。
【0051】
以下、本実施形態に係る半導体装置の製造方法の各工程について説明する。
【0052】
(工程(A))
はじめに、第1回路パターン63Aを含む第1回路面65Aおよび第1回路面65Aの反対側の第2回路パターン63Bを含む第2回路面65Bを有する半導体ウェハ60と、半導体ウェハ60の第1回路面65A側に接着剤層70を介して設けられたサポート部材80と、半導体ウェハ60の第2回路面65B側に貼り合わされた粘着性フィルム50と、を備える構造体100を準備する。
【0053】
このような構造体は、例えば、以下の手順で作製することができる。
まず、第1回路パターン63Aを含む第1回路面65Aを有する半導体ウェハ60の第1回路面65A上に接着剤層70を介してサポート部材80を貼り合わせる。次いで、半導体ウェハの第1回路面65Aとは反対側の裏面側を回路加工し、第2回路パターン63Bを含む第2回路面65Bを形成する。
次いで、第2回路面65B側が粘着性樹脂層30と対向するように半導体ウェハ60を粘着性フィルム50に貼り付けることにより構造体100を作製することができる。
【0054】
半導体ウェハ60としては特に限定されないが、例えば、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム−ヒ素、ガリウム−リン、ガリウム−ヒ素−アルミニウム等の半導体ウェハが挙げられる。
【0055】
サポート部材80としては特に限定されないが、例えば、ガラス基板やセラミック基板、金属基板等を用いることができる。
半導体ウェハ60の第1回路面65A上にサポート部材80を貼り合わせる方法としては、例えば、半導体ウェハ60の第1回路面65A上に接着剤を塗布した後、塗布した接着剤を乾燥させて接着剤層70を形成し、次いで、接着剤層70上にサポート部材80を貼り合わせる方法が挙げられる。
【0056】
接着剤層70に使用する接着剤としては特に限定されず、公知の接着剤を用いることができ、例えば、(メタ)アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤、オレフィン系接着剤、スチレン系接着剤等が挙げられる。これらの中でもオレフィン系接着剤が好ましい。
【0057】
粘着性フィルム50の半導体ウェハ60への貼り付けは、人の手で行なってもよいが、通常、ロール状の表面保護フィルムを取り付けた自動貼り機によって行なう。
貼り付け時の粘着性フィルム50および半導体ウェハ60の温度には特に制限はないが、25℃〜80℃が好ましい。
また、貼り付け時の粘着性フィルム50と半導体ウェハ60との圧力については特に制限はないが、0.3MPa〜0.5MPaが好ましい。
【0058】
(工程(B))
次いで、構造体100からサポート部材80を除去する。
サポート部材80の剥離は手により行われる場合もあるが、一般には自動剥がし機と称される装置によって行うことができる。
【0059】
(工程(C))
次いで、半導体ウェハ60の第1回路面65A側の接着剤層70の残渣を溶剤により除去する。
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテートあるいはこれらのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテルまたはモノフェニルエーテル等の多価アルコール系溶剤;ジオキサン等の環式エーテル系溶剤;乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル系溶剤;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、テトラメチルベンゼン、トルエン、キシレン、リモネン、ミルセン、メンタン、n−ノナン、n−デカン、1−デセン、イソノナン、イソデカン、イソウンデカン、イソドデカン、テルピネン、インデン等の炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の一価アルコール系溶剤;γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶剤;γ−ブチロラクタム等のラクタム系溶剤;ジエチルエーテルやアニソール等のエーテル系溶剤;ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアルデヒド等のアルデヒド類系溶剤等が挙げられる。
【0060】
これらの中でも、接着剤層70の残渣の除去性能や価格等のバランスに優れる観点から、炭化水素系溶剤が好ましい。
【0061】
上記溶剤の溶解度パラメータは9.0未満であることが好ましい。
このような溶剤を用いると、接着剤層70の残渣をより効率的に除去しつつ、粘着性フィルム50の膨潤や変形等をより一層抑制することができる。
上記溶剤の溶解度パラメータはヒルデブラント(Hildebrand)によって導入された正則溶液論により定義された値である。
【0062】
(工程(D))
本実施形態に係る半導体装置の製造方法において、工程(C)の後に半導体ウェハ60をダイシングし、複数の半導体チップ90を得る工程(D)をさらに備えることが好ましい。
半導体チップ90のダイシングは、公知の方法で行うことができる。
【0063】
ここでいう「ダイシング」には、
(a)半導体ウェハ60に対してこの半導体ウェハ60の厚さと同じ深さの切れ込みを設けることによって半導体ウェハ60を分断し、複数の分断された半導体チップ90を得る操作(以下、「フルカットダイシング」ともいう)、および、
(b)レーザー光を照射することにより、半導体ウェハ60に対し、半導体ウェハ60の切断までには至らない変質領域を設け、複数の半導体チップ90を得る操作(以下、「ステルスダイシング」ともいう)が含まれる。
上記ダイシングは、ダイシングブレード(ダイシングソー)、レーザー光等を用いて行うことができる。
【0064】
ダイシングがフルカットダイシングである場合には、ダイシングによって半導体ウェハ60が複数の半導体チップ90に分断される。
一方、ダイシングがステルスダイシングである場合には、ダイシングのみによっては半導体ウェハ60が複数の半導体チップ90に分断されるまでには至らず、ダイシング後の粘着性フィルム50の拡張によって半導体ウェハ60が分断されて複数の分断された半導体チップ90が得られる。
【0065】
(工程(E))
本実施形態に係る半導体装置の製造方法において、工程(D)の後に粘着性樹脂層30から半導体チップ90をピックアップする工程(E)をさらにおこなってもよい。
このピックアップにより、粘着性フィルム50から半導体チップ90を剥離することができる。
半導体チップ90のピックアップは、公知の方法で行うことができる。
【0066】
工程(E)では、粘着性樹脂層30における半導体チップ90が貼り付けられた領域をフィルムの面内方向に拡張させて、隣接する半導体チップ90間の間隔を拡大させた状態で、粘着性樹脂層30から半導体チップ90をピックアップすることが好ましい。
こうすることにより、隣接する半導体チップ90間の間隔が拡大するため、粘着性フィルム50から半導体チップ90をピックアップし易くなる。さらに、粘着性フィルム50の面内方向の拡張によって生じる、半導体チップ90と粘着性樹脂層30とのずり応力により、半導体チップ90と粘着性樹脂層30との粘着力が低下するため、粘着性フィルム50から半導体チップ90をピックアップし易くなる。
【0067】
(工程(F))
本実施形態に係る半導体装置の製造方法において、工程(E)の前に粘着性フィルム50に対して放射線を照射し、粘着性樹脂層30を架橋させることで、半導体チップ90に対する粘着性樹脂層30の粘着力を低下させる工程(F)をさらに備えることが好ましい。
工程(F)をおこなうことで、粘着性樹脂層30から半導体チップ90をより一層容易にピックアップすることができる。また、粘着性樹脂層30を構成する粘着成分により半導体チップ90の表面が汚染されることをより一層抑制することができる。
放射線は、例えば、粘着性フィルム50の耐溶剤性樹脂層10側から照射される。
放射線として紫外線を用いる場合、粘着性フィルム50に対して照射する紫外線の線量は、100mJ/cm以上が好ましく、350mJ/cm以上がより好ましい。
紫外線の線量が上記下限値以上であると、粘着性樹脂層30の粘着力を十分に低下させることができ、その結果、半導体チップ90表面に糊残りが発生することをより抑制することができる。
また、粘着性フィルム50に対して照射する紫外線の線量の上限は特に限定されないが、生産性の観点から、例えば、1500mJ/cm以下であり、好ましくは1200mJ/cm以下である。
紫外線照射は、例えば、高圧水銀ランプやLEDを用いておこなうことができる。
工程(F)は工程(D)の前におこなってもよいし、工程(D)の後におこなってもよいが、工程(D)の後におこなうことが好ましい。
【0068】
(その他の工程)
本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、上記以外のその他の工程を有していてもよい。その他の工程としては、半導体装置の製造方法において公知の工程を用いることができる。
【0069】
例えば、工程(E)を行った後、得られた半導体チップ90を回路基板に実装する工程や、ワイヤボンディング工程、封止工程等の電子部品の製造工程において一般的におこなわれている任意の工程等をさらに行ってもよい。
【0070】
また、例えば、半導体ウェハ60の回路形成面に通常用いられる方法で電極形成および非回路面に保護膜形成を行う工程をさらに有してもよい。この電極形成および樹脂封止を行う工程が設けられた製造方法は、WLP(Wafer Level Package)とも呼ばれている。
また、半導体ウェハ60の回路面に再配線層を形成する工程をさらに有してもよい。半導体チップ面積を超える広い領域に再配線層を形成することにより得られる半導体装置は、ファンアウトパッケージ(Fan−out Package)とも呼ばれている。
【0071】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0072】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0074】
粘着性フィルムおよび構造体の作製に用いた材料の詳細は以下の通りである。
【0075】
<耐溶剤性樹脂層形成用の樹脂>
耐溶剤性樹脂1:軟質ポリ塩化ビニル(溶解度パラメータ:9.8、25℃の条件での引張弾性率(E'):150MPa(JIS K7161に準じて測定))
【0076】
<凹凸吸収性樹脂層形成用の樹脂>
凹凸吸収性樹脂1:エチレン・α−オレフィン共重合体(三井化学社製、商品名:タフマー(登録商標))
凹凸吸収性樹脂2:エチレン・酢酸ビニル共重合体(三井デュポンポリケミカル社製、商品名:エバフレックス(登録商標))
【0077】
<粘着性樹脂層形成用の粘着剤>
粘着剤1:アクリル系粘着剤(総研化学社製、商品名:SKダイン(登録商標))
【0078】
<接着剤層形成用の接着剤>
接着剤1:オレフィン系接着樹脂(三井化学社製、商品名:アペル(登録商標))
【0079】
[実施例1]
耐溶剤性樹脂1により構成された軟質ポリ塩化ビニルフィルム(厚さ:70μm)上に、アクリル系接着剤(東亞合成社製、商品名:アロンタック)を厚さ10μmで塗布した。次いでアクリル系接着層上に、凹凸吸収性樹脂層となる凹凸吸収性樹脂1により構成されたフィルム(厚さ:100μm)を積層した。
次いで、得られたフィルムの凹凸吸収性樹脂層上に、粘着剤1の塗布液を塗布した後、乾燥させて、厚さ20μmの粘着性樹脂層を形成し、粘着性フィルムを得た。
得られた粘着性フィルムについて以下の評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0080】
[実施例2]
凹凸吸収性樹脂1により構成されたフィルムの代わりに凹凸吸収性樹脂2により構成されたフィルム(厚さ:100μm)を使用する以外は実施例1と同様にして粘着性フィルムを得る。
実施例2で得られる粘着性フィルムについて以下の評価をおこなった場合、得られる結果を表1に示す。
【0081】
[比較例1]
凹凸吸収性樹脂層となる凹凸吸収性樹脂1により構成されたフィルム(厚さ:200μm)上に、粘着剤1の塗布液を塗布した後、乾燥させて、厚さ20μmの粘着性樹脂層を形成し、粘着性フィルムを得た。
得られた粘着性フィルムについて以下の評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0082】
[比較例2]
耐溶剤性樹脂1により構成された軟質ポリ塩化ビニルフィルム(厚さ:70μm)上に、粘着剤1の塗布液を塗布した後、乾燥させて、厚さ20μmの粘着性樹脂層を形成し、粘着性フィルムを得た。
得られた粘着性フィルムについて以下の評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0083】
<評価>
(1)回路パターンへの追従性の評価
実施例・比較例で得られた粘着性フィルムを使用して図2に示す構造体100からサポート部材80を除いた構造体Aを作製した。ここで、接着剤層70を形成するための接着剤としては接着剤1を用いた。次いで、得られた構造体Aをリモネン(溶解度パラメータ:7.8)に25℃で10分間浸漬し、接着剤層70を除去した。
次いで、下記の基準で粘着性フィルムの回路パターンへの追従性を評価した。
〇:半導体ウェハと粘着性フィルムの剥離が観察されず、半導体ウェハの回路面と粘着性フィルムとの密着性が良好であった。
×:半導体ウェハと粘着性フィルムの剥離が観察され、半導体ウェハの回路面と粘着性フィルムとの密着性が劣っていた。
【0084】
(2)耐溶剤性の評価
得られた粘着性フィルムをリモネン(溶解度パラメータ:7.8)に25℃で10分間浸漬した。次いで、下記の基準で粘着性フィルムの耐溶剤性を評価した。
〇:目視により、粘着性フィルムの膨潤や変形が観察されなかった
×:目視により、粘着性フィルムの膨潤や変形が観察された
【0085】
【表1】
【0086】
実施例1の粘着性フィルムは回路パターンへの追従性および耐溶剤性に優れていた。また、実施例2に記載の粘着性フィルムも実施例1の粘着性フィルムと同様に凹凸吸収性樹脂層および耐溶剤性樹脂層を有するため、実施例1の粘着性フィルムと同様の結果が得られることが理解できる。すなわち、本実施形態に係る粘着性フィルム50によれば、回路パターンへの追従性と耐溶剤性とを両立できることが理解できる。
これに対し、耐溶剤性樹脂層を有さない比較例1の粘着性フィルムは回路パターンへの追従性および耐溶剤性が劣っていた。また、凹凸吸収性樹脂層を有さない比較例2の粘着性フィルムは回路パターンへの追従性が劣っていた。
すなわち、比較例1および2の粘着性フィルムでは、回路パターンへの追従性と耐溶剤性とを両立できないことが理解できる。
【0087】
この出願は、2016年3月31日に出願された日本出願特願2016−070392号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2