(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基端側で連結され、互いに接近する方向及び離間する方向に弾性変形可能な1対の脚部を有する1対の鑷子部と、前記1対の鑷子部の先端に取り付けられた樹脂製の先端ユニットと、を備え、
前記先端ユニットは、
前記1対の鑷子部の先端に着脱可能に取り付けられる取付部と、
前記1対の鑷子部のそれぞれの先端から前記1対の鑷子部の長手方向に対し傾斜して前方に伸長する1対の傾斜部と、
前記1対の傾斜部の先端から前記1対の鑷子部の長手方向と実質的に平行に伸長し、生体管の開口部に挿入し、該開口部を拡張させるための1対の拡張部と、
前記1対の拡張部を互いに連結する変形可能な連結部材と、を備えると共に、一対の前記取付部、一対の前記傾斜部、一対の前記拡張部及び前記連結部材が樹脂材料により一体に形成され、
前記1対の拡張部は、未使用時には閉じた位置にあり、
前記先端ユニットは、前記1対の脚部が互いに接近する方向に変形したときに、前記1対の拡張部が離間するように構成されている、外科器具。
前記1対の鑷子部は、前記1対の脚部同士が接近する方向に変形したときに、その先端同士の間隔の最大値が前記生体管の開口径の1.5倍以上になるように構成されており、
前記先端ユニットは、前記1対の脚部が互いに接近する方向に変形したときに、前記生体管の拡張に対する抗力よりも大きい拡張力を有するように構成されている請求項1〜3のいずれかに記載の外科器具。
前記1対の鑷子部は、前記1対の脚部同士が接近する方向に変形したときに、その先端同士の間隔の最大値が前記生体管の開口径の1.5倍以上になるように構成されており、
前記樹脂製交換ユニットは、前記1対の脚部が互いに接近する方向に変形したときに、前記生体管の拡張に対する抗力よりも大きい拡張力を有するように構成されている請求項5に記載の交換ユニット。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照し、本発明の様々な実施形態について説明する。
図1ないし
図5に、本発明の一実施形態における吻合補助用の外科器具1を示す。この外科器具1は、管腔臓器と他の臓器とを繋ぎ合わせる吻合術において使用することができる。例えば、外科器具1は、膵臓の主膵管と腸管の側壁とを吻合する際に、縫合糸を膵臓の所望の位置に配置するために用いられる。
【0012】
この外科器具1は、鑷子部10と、先端ユニット20と、を備える。鑷子部10は、例えば、ステンレス等の金属により一体に形成される。先端ユニット20は、例えば、ポリプロピレン等の樹脂材料により一体に形成される。先端ユニット20は、鑷子部10の先端に着脱可能に装着される。すなわち、外科器具1の使用時には、
図1に示すように、先端ユニット20が鑷子部10の先端に装着される。例えば使用後には、
図2に示すように、摂氏部10から先端ユニット20が取り外される。取り外された先端ユニット20は廃棄されてもよい。つまり先端ユニット20は、交換ユニットとして用いることができる。既述したように、鑷子部10に樹脂製の先端ユニット20を装着することにより、膵管内面に金属製の鑷子先端が接触することに生じる挫滅や、鑷子先端に作用する急激な拡張力による膵管損傷を防止できる。鑷子部10に作用した上記拡張力を、先端ユニット20を仲介させることで、樹脂特有の弾性により、緩衝して鑷子先端部に伝達できるためである。一実施形態において、外科器具1は、基端部側の端部(基端部110の後端)から先端側の端部(先端ユニット20の先端)までの長さが約160mmとなるよう形成される。
【0013】
鑷子部10は、基端部110で連結された1対の鑷子本体112、114を備える。本実施形態では、鑷子本体112、114それぞれの基端部は、溶接されて連結される。
図1に示すように、鑷子本体112は、基端部110から外科器具1の長手方向Aに対して外側(鑷子本体114と反対の方向)に傾斜して延伸する脚部112aと、この脚部112aの先端から長手方向Aに対して内側(鑷子本体114に向かう方向)に傾斜して延伸する交差部112bと、鑷子本体112の先端にあって先端ユニット20を支持する取付部112dと、この交差部112bの先端と取付部(鑷子側取付部)112dの基端とを接続する連結部112cと、を備える。連結部112cは、長手方向Aに沿って延伸する。
鑷子本体114は、鑷子本体112と長手方向Aを基準として対称に形成されている。すなわち、鑷子本体114は、基端部110から外科器具1の長手方向Aに対して外側(鑷子本体112と反対の方向)に傾斜して延伸する脚部114aと、この脚部114aの先端から長手方向Aに対して内側(鑷子本体112に向かう方向)に傾斜して延伸する交差部114bと、鑷子本体114の先端にある取付部(鑷子側取付部)114dと、この交差部114bの先端と取付部114dの基端とを接続する連結部114cと、を備える。連結部114cは、長手方向Aに沿って延伸する。
【0014】
言い換えれば、鑷子部10は、基端側が接合されると共に先端側に向かうに従って離間するように延びる一対の脚部112a、114aと、これら一対の脚部112a、114aの先端に配置され互いに近づく方向に延びて交差する一対の交差部112b、114bと、一対の交差部112b、114bの先端に配置され鑷子部10の長手方向Aに沿って延びる一対の連結部112c、114cと、一対の連結部112c、114cの先端に配置され先端ユニット20の取付部が取り付けられる一対の鑷子側取付部112d、114dと、を備える。
本明細書において、外科器具1の各部材の長手方向に対する角度に関して説明する場合には、特に説明の無い限り、外科器具1が
図1(又は
図5)に示した姿勢を取っている場合(すなわち、外科器具1が使用者によって操作されていない場合)の角度を意味する。
【0015】
脚部112a及び脚部114aは、幅が約10mmの板状に形成されている。脚部112aの外側の表面には、その中央付近から先端にかけて把持部112eが形成されている。また、脚部114aの外側の表面には、その中央付近から先端にかけて把持部114eが形成されている。脚部112a及び脚部114aの厚さは、把持部112e及び把持部114eが形成されている位置では約2mmであり、把持部112e及び把持部114eが形成されていない位置(基端部110付近)では、約0.3mm〜1.0mmとされる。把持部112e及び把持部114eには、図示のように、滑り止めのための浅溝が形成されていてもよい。
【0016】
交差部112bは、脚部112aの先端の上部と連結されている。交差部112bは、この脚部112aとの連結位置から、若干下方に傾斜して延伸している。交差部114bは、脚部114aの先端の下部と連結されている。交差部114bは、この脚部114aとの連結位置から、若干上方に傾斜して延伸している。交差部112b及び交差部114bの傾斜角度は、交差部112bと交差部114bとが干渉しない角度とされる。交差部112b及び交差部114bは、幅が約4.5mm及び厚さが約1.5mmの板状に形成される。
【0017】
より詳細には、交差部112b、114bの幅は、脚部112a、114aの幅の半分程度の幅に形成される。また、
図3に示すように、交差部112bは、脚部112aの幅方向の一方(
図3においては上側)に偏って配置され、交差部114bは、脚部114aの他方(
図3においては下側)に偏って配置される。これにより、交差部112b、114bは、互いに干渉することなく交差可能とされている。後述するように、上記交差部112b、114bを設けることにより、鑷子先端(例えば、拡張部212c、214c)の最大拡張幅を所定の範囲内に設定することが容易となる。膵管吻合において、本願発明の鑷子の最大拡張幅の設定は重要であり、これが大き過ぎると、膵管を拡張する際に損傷してしまう。既述した特許文献1、2に開示された鑷子では、自然状態(押圧しない状態)で先端部が互いに離れており、この最大拡張幅を所定の範囲に制御しようとするのは、かなり難しい。特に鑷子を押圧する弾性(腰の強さ)を、前記の最大拡張幅と共に調整するのは、(素材選定、形状・寸法の設定、クセ付け等)かなりの技術と経験が必要で、施術者が望むようなものを再現性良く作製するのは困難であった。
【0018】
連結部112cは、厚さが約2.0mmの板状に形成される。連結部112cは、交差部112bの先端から長手方向Aに沿って延伸する。連結部112cは、その基端側端部の上端において交差部112bと接続される。連結部114cは、厚さが約2.0mmの板状に形成される。連結部114cは、交差部114bの先端から長手方向Aに沿って延伸する。連結部114cは、その基端側端部の下端において交差部114bと接続される。図示のように、連結部112c及び連結部114cは、基端から先端に向かうにつれて幅狭となるように形成されてもよい。
【0019】
取付部(鑷子側取付部)112dは、幅が約3.0mm、厚さが約1.0mmの板状に形成される。取付部112dは、連結部112cの先端から外科器具1の長手方向Aに沿って延伸する。取付部(鑷子側取付部)114dは、幅が約3.0mm、厚さが約1.0mmの板状に形成される。取付部114dは、連結部114cの先端から外科器具1の長手方向Aに沿って延伸する。取付部112d及び取付部114dは、図示のように、その先端側端部が先細となるように形成されてもよい。
【0020】
鑷子部10の取付部(鑷子側取付部)112d、114dには、先端ユニット20が取り付けられる。この先端ユニット20は、取付部(鑷子側取付部)112d及び取付部(鑷子側取付部)114dの先端にそれぞれ外装される1対の取付部212a、214aと、この1対の取付部212a、214aの対応する先端から長手方向Aに対し所定角度上方に傾斜して前方に(先端側に)延伸する1対の傾斜部212b、214bと、対応する傾斜部212b、214bのそれぞれの先端から、長手方向Aに対して平行に前方に(先端側に)延伸する拡張部212c、214cと、この1対の拡張部212c、214cを互いに連結する可撓性の連結部材240を備える。本発明の一実施形態において、先端ユニット20の取付部212a、214aは、鑷子部10の先端にしっかりと嵌合する必要があるため、鑷子部10の長手方向と取付部212a、214aの接合方向とが同じとなるように構成される。
【0021】
先端ユニット20又は外科器具1全体を直線状に形成すると、術野が外科器具の保持位置と同軸上となるため、術野確保の妨げとなる。また、術野が限られていると、縫合糸を通す等の施術が困難となる。このため、傾斜部212b、214bを設けて、拡張部212c、214c及び連結部材の視認性を向上させている。傾斜部212b、214bの長手方向Aに対する角度が大きくなるほど視野は確保しやすくなるが、角度が大きくなるほど、脚部112a及び脚部114aを閉じたときに拡張部212c、214cを拡張させるための拡張力を拡張部212c、214cに対して伝達しづらくなる。そこで、本発明の一実施形態においては、傾斜部212b、214bの長手方向Aに対する傾斜角度は、例えば、20度から60度の範囲の任意の角度とすることができる。
図1には、この傾斜角度が約45度の例が示されている。また、傾斜部212b、214bの長さを長くするほど、外科器具1の先端付近における視野を確保しやすくなるが、やはり拡張部212c、214cに対して拡張力の伝達性が悪化する。そこで、本発明の一実施形態においては、傾斜部212b、214bの長さを10〜25mmとする。傾斜部212b、214bは、基端部側から先端部側に向かうに従って幅狭になるよう形成されてもよい。
【0022】
一実施形態において、拡張部212c、214cは、管腔臓器の管腔への挿入を容易にするために、基端側から先端側に向かうに従って幅狭になるように形成される。一実施形態において、拡張部212c、214cは、吻合対象の臓器の管(例えば、主膵管)に挿入するために適した寸法及び形状に形成される。また、拡張部212c、214cの寸法(長さ)が長くするほど、外科器具1の先端付近における視野を確保しやすくなるが、やはり拡張部212c、214cに対する拡張力の伝達性が悪化する。そこで、本発明の一実施形態においては、拡張部212c、214cの先端から傾斜部212b、214bとの連結部分までの長さ(つまり、拡張部212c、214cの先端から基端までの長さ)は、約10〜30mmとする。拡張部212c、214cの先端から基端側に向かって5.0mm以内の部分は、主膵管への挿入に支障がないようにその幅及び厚みがともに1.0mm以下となるよう形成することができる。
【0023】
連結部材240は、長さが約10mm、直径が約0.3mmから1.0mmの紐状の部材であり、その両端が拡張部212c、214cにそれぞれ取り付けられている。連結部材240は、鑷子本体112、114、傾斜部212b、214b、及び拡張部212c、214cと比較して、これらのいずれの部材よりも、より少ない圧力で変形するように形成される。これにより、連結部材240は、鑷子本体112、114への操作に応じて、
図4に示す閉じた姿勢、及び、
図5に示す開いた姿勢を選択的にとることができる。連結部材240の長さは、脚部112a及び脚部114aの操作により拡張部212c、214cが最も拡張された場合における拡張部212c、214cの先端同士の距離である最大拡張幅を考慮して定められる。最大拡張幅に対して連結部材240の長さが短すぎると、施術時に生体管を十分に拡張できないおそれがあり、また、連結部材が破断するおそれもある。一方、最大拡張幅に対して連結部材240の長さが長すぎると、連結部材240が絡みやすくなり、また、施術時に縫合糸を通すことが難しくなる等施術性に対して悪影響がある。そこで、本発明の一実施形態においては、連結部材240の長さ/最大拡張幅の値を1.5〜2.5の範囲とする。
【0024】
図3に示すように、外科器具1は、その重心Gが、外科器具1の先端とその基端との中点Cよりも基端側にあるように構成される。図示のように、把持部112e及び把持部114eは、長手方向Aにおいて、重心Gに対応する位置に設けられる。外科器具1は長手方向Aに長く延びているが、使用者は、重心G付近を把持することにより、使用時に安定的に外科器具1を保持することができる。
【0025】
脚部112a、114aは、把持部112e、114eが内側に押されると、基端部110を支点にして互いに接近する方向に弾性変形する。
図4に示すように、外部から力が加えられていない場合には、鑷子部10は、鑷子本体112、114の弾性により、脚部112a及び脚部114aが互いから離間されると共に、取付部112dと取付部114dとは互いの内面同士が接近(当接)した姿勢に保持される。この姿勢にある鑷子部10に対して、脚部112a及び脚部114aのそれぞれの外面側から内面側に向かって力を作用させることにより鑷子部10は弾性変形する。この弾性変形により、脚部112aと脚部114aとは互いに接近し、また、取付部112dと取付部114dとは互いから離間する。
図5は、脚部112aの内面と脚部114aの内面とが接触するまで鑷子部10を弾性変形させたときの外科器具1を示している。この状態で、鑷子先端部(
図5で示す取付部112d、114d、
図5で明示されていないが、拡張部212c、214c)同士の離間長さが最大拡張幅となり、これ以上拡がるおそれはない。このように鑷子を交差部形状とすることにより、鑷子先端部の最大拡張幅を比較的容易に調整することが可能となる。例えば、交差部112b、114bの傾斜角度や長さ、連結部112c、114cの傾斜角度や長さ等を設定することで、最大拡張幅を望み通りのものとすることが容易となる。
【0026】
続いて、
図6ないし
図9を参照し、一実施形態における外科器具1を用いて膵臓Pの主膵管Tを他の臓器と吻合する手順について説明する。まず、使用者(主に外科医)は、把持部112e、114eを把持して外科器具1をその先端が閉じた姿勢(例えば、
図5に示す姿勢)に保ち、この姿勢のまま連結部材240及び拡張部212c、214cを所定の深さまで主膵管Tに挿入する。本発明の一実施形態による外科器具1においては、脚部112a及び脚部114aの剛性により、当該外科器具1を使用していないとき(把持部112e、114eが閉じる方向に押圧されていないとき)には、拡張部212c、214cが閉じた位置(
図1の位置)にある。本発明の一実施形態による外科器具1は、把持部112e、114eを閉じる方向に押圧しなくとも連結部材240及び拡張部212c、214cが閉じた位置にあるため、連結部材240及び拡張部212c、214cを主膵管Tに挿入する際に把持部112e、114eを閉じる方向に押圧する必要がない。よって、使用者の手指に疲れが生じにくい。すなわち、本実施形態の外科器具1では、吻合手術の各工程において、膵管Tに挿入された連結部材240及び拡張部212c、214cを拡張するときにのみ一対の脚部112a、114a(把持部112e、114e)を閉じる方向に押圧すればよいため、使用者の手指にかかる負担を大幅に軽減でき、その結果より正確な手術を行える。連結部材240の先端は、後述する曲針Nの運針を容易にするために、膵臓Pの接合面Sから曲針Nの長さと同程度の深さまで主膵管Tに挿入される。曲針Nは、膵臓のサイズ等を考慮して直径が0.1mm、周方向に沿った長さが10mmから20mmの強弯針を用いることができる。外科器具1が所定の深さまで主膵管T内に挿入されたことが確認されたならば、把持部112e、114eを内側へ押し、脚部112a及び脚部114aを互いと近づく方向へ弾性変形させる。脚部112aと脚部114aとが互いと接近すると、取付部112d及び取付部114dは互いから離間する方向に変形する。このとき、拡張部212c、214cも、取付部112d及び取付部114dの変形に伴って、互いから離間する方向に変形する。このとき、拡張部212c、214cが外側に(互いから離間する方向に)変形する力によって、
図6(b)に示すように、主膵管Tが押し広げられる。これにより、後述するように、曲針Nを接合面Sから膵臓Pの内部に侵入させ、更に主膵管T内に突出させる操作を容易に行うことができる。
【0027】
また、鑷子部10を、基端側で連結され先端側が離間した一対の脚部112a、114aと、一対の脚部112a、114aの先端に配置されて交差する一対の交差部112b、114bと、を含んで構成した。これにより、一対の脚部112a、114aを互いに近づく方向に弾性変形させることで、先端ユニット20(拡張部212c、214c)を容易に拡張させられる。よって、鑷子部10を、交差部分においてネジ止め等することなく構成できるので、外科器具1をより簡易な構成により製造できる。また、一対の脚部112a、114aを弾性変形させて先端ユニット20を拡張させられるので、一対の脚部112a、114aを操作する外科器具1の使用者の指先の感覚をより正確に先端ユニット20に伝達させられ、外科器具1の操作性をより向上させられる。
特に、本実施形態では、使用者の2本の指で一対の脚部112a、114aを挟むように持ち一対の脚部112a、114aが互いに近づく方向に力を加えつつ、先端ユニット20の拡張幅を調整できる。このように、使用者の2本の指が互いに近づく方向に力を加えながら先端ユニット20の拡張幅を調整できるので、先端ユニット20の拡張幅をより所望の幅に正確に調整できる。
【0028】
本発明者らの研究によれば、主膵管を吻合のために必要な5mm程度の幅まで拡張させるためには、拡張部212c及び拡張部214cから主膵管の内壁に対して、当該拡張部212c及び拡張部214cの先端から20mmの位置において、拡張しようとする外力に対し、膵管に生じる抗力を超えるのに十分な力を加える必要がある。また、膵臓の硬さには個人差があり、膵臓が硬い場合には、主膵管を5mm程度の幅まで拡張させるために必要な力は、当該拡張部212c及び拡張部214cの先端から20mmの位置において1.3N程度となる。先端ユニット20は、樹脂製であり、ステンレス製の鑷子部10と比較して剛性が低いため、主膵管内壁からの抵抗力により、鑷子部10(具体的には、取付部112d及び取付部114d)の変形に追従して変形できない可能性がある。そこで、先端ユニット20は、脚部112a及び脚部114aが互いに接近する方向に変形したときに、拡張部212c及び拡張部214cが外側に向かう0.6N(片側の押圧力として)以上の力を例えば主膵管の内壁に作用させることができるように形成される。よって、当該実施形態の外科器具1の操作に応じて、主膵管を拡張させることができる。また、このとき、1対の鑷子部10の先端同士の間隔の最大値が、主膵管の開口径の1.5倍以上となり、更に後述するように、先端ユニット20によって、鑷子部10先端の拡張力を拡張部212c及び拡張部214cに伝えることができ、縫い針が通過する幅を十分に確保できると共に、主膵管(又はそれ以外の生体の管)が当該1対の拡張部212c、214cからの力によって裂けることを抑制できる。
【0029】
先端ユニット20の取付部212a、214aは、鑷子部10の先端にしっかりと嵌合する必要があるため、外科器具1の長手方向と樹脂製の先端ユニット20の取付部212a、214aの接合方向が同じであり、また所定の長さを有することが望ましい。鑷子部10の取付部112d、114dは、先端ユニット20の取付部212a、214aの先端付近(傾斜部212b、214bとの境界付近)まで延伸していることが望ましい。これにより、脚部112a及び脚部114aを閉じたときに拡張部212c、214cへ効率よく拡張力を伝達することができる。
【0030】
先端ユニット20の剛性を高めることにより、拡張部212c及び拡張部214cが外側に向かって加えることができる力を増加させることができる。傾斜部212b、214b及び/又は拡張部212c、214cの長手方向Aの長さを短くすること、及び/又は、傾斜部212b、214b及び/又は拡張部212c、214cの厚みを厚くすることにより、先端ユニット20の剛性を高めることができる。よって、所望の剛性を得るために、傾斜部212b、214b及び/又は拡張部212c、214cの長手方向Aの長さ及び/又は傾斜部212b、214b及び/又は拡張部212c、214cの厚みが適切な値に設定される。また、曲針Nが通過する幅を十分に確保するため、先端ユニット20は、脚部112a及び脚部114aが互いと接触する位置まで変形したときに、鑷子本体112の先端と鑷子本体114の先端との間隔(つまり、取付部112dの先端と取付部114dの先端との間隔)が15mm以上となるように構成される。一方、鑷子本体112の先端と鑷子本体114の先端との間隔が拡がりすぎると、連結部材が損傷したり、先端ユニット20が挿入された生体管(例えば、主膵管)が損傷するおそれがある。そこで、先端ユニット20は、鑷子本体112の先端と鑷子本体114の先端との間隔が30mm以下となるように構成される。
【0031】
続いて、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、外科医は、縫合糸Yを付けた強弯の曲針Nを持針器Gで把持し、曲針Nを接合面Sから膵臓Pの内部に侵入させる。曲針Nは、外科医の手技に応じて、その曲率に従って主膵管T内を前進し、主膵管Tの内壁から主膵管T内に突出する。そして、曲針Nは、主膵管T内に配置された連結部材240の内側(連結部材240の両辺の間)を通過し、主膵管Tの反対側の内壁から再び膵臓P内へ侵入する。曲針Nは、
図7(c)に示すように、膵臓P内をその曲率に従って前進し、
図7(d)に示すように、膵臓Pの切断面Sから突出する。曲針Nは、切断面Sにおいて、主膵管Tの開口を基準にして侵入位置と反対側の位置から突出する。
【0032】
続いて、
図8(a)及び
図8(b)に示すように、連結部材240及び拡張部212c、214cを主膵管Tから引き出す。このとき、連結部材240の間を通過した縫合糸Yは、連結部材240の先端に係止され主膵管Tの外へ引き出される。引き出された縫合糸Yは、
図8(c)に示すように、連結部材240の先端付近で切断され、切断後に、曲針Nが縫合糸Yから取り外される。以上により、切断された縫合糸Y1及びY2は、その一端が主膵管Tの開口付近に位置し、他端が主膵管Tの内壁を経由して接合面Sから突出するように、それぞれ配置される。なお、連結部材240に代えて糸等の変形可能な部材を用いて拡張部212c、214cを連結する場合には、この変形可能な部材は縫合糸を引き出す際に切断されない程度の強度を有することが必要となる。
【0033】
上述した縫合糸Yの配置手法によれば、曲針Nをその曲率に従って自然に進行させることができるため、膵臓Pへの損傷を抑制することができる。外科器具1と同種の補助器具を用いない場合には、膵臓Pの接合面Sから侵入させた曲針Nを主膵管Tの開口から突出させる必要があるため、径の大きな曲針を用いるとその曲率から外れた進路を進むことになり、膵臓Pへの損傷が避けられない。従来の手技においても、径の小さな曲針を用いることにより、接合面Sから侵入させた曲針をその曲率に従った運針により主膵管Tの開口から突出させることができるが、この場合、大きな径の曲針を用いた場合と比べて、膵臓Pの深さ方向への侵入が不足し、これが吻合部の破綻等の吻合不全の原因となることがある。このような従来の手技と比較し、外科器具1を用いることで、比較的大きな径の曲針を用いた場合であっても、膵臓Pへの損傷を軽微にとどめつつ、所望の位置に縫合糸を配置することができる。以上説明した
図6ないし
図8の手順を複数回繰り返して、複数の縫合糸をY1及びY2と同様に配置することができる。
【0034】
続いて、縫合糸Yの切断端E1、E2に、図示しない別の曲針をそれぞれ取り付け、主膵管Tの開口と吻合対象の臓器に形成された小孔とを位置合わせして、膵臓Pと当該吻合対象の臓器との吻合術を開始する。この吻合術については、公知であるため、その詳細な説明を省略する。このような吻合術は、例えば、特開2011−183091号公報において
図10を参照して説明されている。
【0035】
図7及び
図8に示した手順において、外科医は、外科器具1の基端側から、主膵管Tの開口付近に術野を確保する。このとき、本発明の一態様における外科器具1によれば、主膵管Tに挿入される拡張部212c、214c及び連結部材240側が、鑷子本体112、114の軸方向から離れた位置に配置されているので、
図9に模式的に示すように、吻合位置近くに術野を容易に確保することができる。また、外科器具1はその長手方向Aの先端と基端との中点Cよりも後方の位置で把持されるので、外科医の手によって視界が遮られることを防止できる。
【0036】
本発明に係る外科器具は、本明細書において明示的に示されたものに限られず、様々な変更を加えることができる。
例えば、本明細書においては、膵臓の主膵管と腸管との吻合術に用いられる外科器具1を例示したが、必要な変更を施すことにより、外科器具1は、あらゆる種類の実質臓器をあらゆる種類の管腔臓器に吻合するためや、管腔臓器同士を吻合するために用いることができる。吻合対象となる管腔臓器には、咽頭、食道、胃、十二指腸、空腸、結腸、直腸等の消化管が含まれる。また、気管、血管、尿管、卵管等の吻合に用いることも可能である。
外科器具1への必要な変更には、応用対象に応じて、各部の剛性、弾性、材料、サイズ、形状の変更が含まれる。曲針Nは、強弯針に限られず、弱弯針を用いることができる。ここに明示的に述べた以外にも、当業者に明らかなように、外科器具1に対して様々な変更を行うことができる。
【0037】
また、本明細書に示した寸法は、一つの実施態様を例示的に示したものであり、使用目的、材質、生産方法等に応じて異なる寸法を採用することができる。