特許第6670422号(P6670422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6670422
(24)【登録日】2020年3月3日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】リーマ
(51)【国際特許分類】
   B23D 77/02 20060101AFI20200309BHJP
【FI】
   B23D77/02
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-551412(P2019-551412)
(86)(22)【出願日】2019年4月3日
(86)【国際出願番号】JP2019014773
【審査請求日】2019年9月17日
(31)【優先権主張番号】特願2018-123496(P2018-123496)
(32)【優先日】2018年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 作弥
(72)【発明者】
【氏名】澤 孝治
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 中国実用新案第202344044(CN,U)
【文献】 特開2005−193349(JP,A)
【文献】 特開2017−087373(JP,A)
【文献】 特開2010−125532(JP,A)
【文献】 特開2017−052081(JP,A)
【文献】 特開2005−022064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 77/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金の台金と、前記台金の外周に設けられた超硬質工具材料の複数の外周切れ刃と、前記複数の外周切れ刃の回転方向後側に設けられたマージンとを備えたリーマであって、
回転軸から前記リーマの重心位置までの距離が0.01mmを超え0.5mm以下であり、
前記マージンの回転方向の幅が0.05mm以上0.5mm未満であり、かつ前記マージンの表面粗さがRaで0.01μm以上0.3μm未満であり、
前記複数の外周切れ刃の数は3以上5以下であり、
外径が8mm以上43mm以下である、リーマ。
【請求項2】
複数の前記外周切れ刃間の角度が異なり、その差は20°を超える、請求項1に記載のリーマ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リーマに関する。本出願は、2018年6月28日に出願した日本特許出願である特願2018−123496号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、リーマは、特許文献1(特開2006−88242号公報)、特許文献2(特開2011−62790号公報)、特許文献3(特開2016−32863号公報)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−88242号公報
【特許文献2】特開2011−62790号公報
【特許文献3】特開2016−32863号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明の一態様に係るリーマは、台金と、台金の外周に設けられた超硬質工具材料の複数の外周切れ刃と、複数の外周切れ刃の回転方向後側に設けられたマージンとを備えたリーマであって、回転軸から前記リーマの重心位置までの距離が0.01mmを超え0.5mm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、実施の形態に従ったリーマの正面図である。
図2図2は、図1中のIIで囲んだ部分を拡大して示す図である。
図3図3は、図1中の矢印IIIで示す方向から見たリーマの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
従来のリーマでは、被削材の面粗さを小さくすることができないという問題があった。
【0007】
そこでこの発明は上記の問題点を解決するためになされたものであり、被削材の面粗さを小さくすることが可能なリーマを提供することを目的とするものである。
[本開示の効果]
この発明によれば、被削材の面粗さを小さくすることが可能なリーマを提供することができる。
【0008】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0009】
本発明の一態様に係るリーマは、台金と、台金の外周に設けられた超硬質工具材料の複数の外周切れ刃と、複数の外周切れ刃の回転方向後側に設けられたマージンとを備えたリーマであって、回転軸からリーマの重心位置までの距離が0.01mmを超え0.5mm以下である。
【0010】
通常、工具は回転バランスが良い、すなわち、偏心量(回転軸からリーマの重心位置までの距離)が小さい方が良いと考えられている。これに対して、本発明者は被削材の表面粗さに着目した結果、偏心量を大きくすることで被削材の表面粗さを小さくできることを見出した。偏心量を大きくするとなぜ被削材の表面粗さが小さくなるかの理論については必ずしも定かではないが以下のように推定される。
【0011】
偏心量が0.01mmを超えることにより、マージンによるバニッシュ効果が大きくなり、被削材の表面の面粗さが小さくなる。すなわち、偏心量が0.01mm以下ではマージンによるバニッシュ効果が小さい。偏心量が0.5mmを超えると遠心力のばらつきが大きくなりすぎ、被削材の面粗さが大きくなりすぎる。
【0012】
好ましくは、マージンの回転方向の幅が0.05mm以上0.5mm未満であり、かつマージンの表面粗さRa(JIS B 0601−2001)で0.05μm以上0.4μm未満である。この場合に、マージンによるバニッシュ効果が最も大きくなり、被削材の面粗さが小さくなる。
【0013】
好ましくは、複数の外周切れ刃間の角度が異なり、その差は20°を超える。複数の外周切れ刃間の角度が異なる場合には、複数の切れ刃が不均等に円周上に配置される。その角度の差が20°を超えるとバニッシュ効果がさらに高まる。
【0014】
図1は、実施の形態に従ったリーマの正面図である。図2は、図1中のIIで囲んだ部分を拡大して示す図である。図3は、図1中の矢印IIIで示す方向から見たリーマの側面図である。
【0015】
図1から図3で示すように、実施の形態に従った回転切削工具としてのリーマ1は、台金10を有する。
【0016】
台金10は長手方向に延在している。台金10の先端部にはチップ100が設けられている。台金10にはフルート11が長手方向に延びるように設けられている。フルート11内にチップ100が配置される。
【0017】
台金10は、たとえば超硬合金により構成される。台金10にロウ付けによりチップ100が固定されている。なお、この実施例では台金10にチップ100が直接固定されているが、チップ100がロウ付けにより台座に固定され、台座がロウ付けまたはボルトにより台金10に固定されていてもよい。
【0018】
チップ100は、たとえばCVD(chemical vapor deposition)で合成された単結晶ダイヤモンドからなる超硬質工具チップ110と、超硬質工具チップ110を保持するベースとしての台座120とで構成される。超硬質工具チップ110は、単結晶ダイヤモンドに限られず、多結晶ダイヤモンド、立方晶窒化硼素(CBN)などの超硬質工具材料によって構成される。
【0019】
台金10には切削油通路が設けられている。切削油通路は、台金10の長手方向に沿って台金10の内部を延びており、切削油を超硬質工具チップ110と被削材との接触界面に供給するための孔13に繋がっている。
【0020】
この実施の形態では、図示しない複数のチップ100が台金10に設けられている。複数のチップ100は同一の円周軌道に設けられる。また、台金10の軸方向に複数段にわたり、複数のチップ100が台金10に設けられてもよい。
【0021】
チップ100は、外周切れ刃115と、その外周切れ刃115に連なる前切れ刃113とを有する。外周切れ刃115と前切れ刃113との間に切れ刃角部が形成されている。外周切れ刃115および前切れ刃113で囲まれた部分がすくい面111である。
【0022】
この実施の形態では、前切れ刃113は外周切れ刃115に対して略直交するように延びている。しかしながら、前切れ刃113は外周切れ刃115に対して傾斜角を有していてもよい。傾斜角は半径方向に対して前切れ刃113がなす角度である。
【0023】
超硬質工具チップ110が単結晶ダイヤモンドにより構成される場合は、CVDにより合成された単結晶ダイヤモンドまたは高温高圧条件を用いた直接合成による単結晶ダイヤモンドにより構成される。超硬質工具チップ110は、超硬合金からなる台座120の上に固定されている。
【0024】
外周切れ刃115に沿って延びるように、マージン116および外周逃げ面112が形成されている。マージン116は、回転切削において被削材と接触する部分、外周逃げ面112は、回転切削において被削材と接触しない部分である。この図2では、マージン116は超硬質工具チップ110のみで構成されている。しかしながら、マージン116が超硬質工具チップ110および台座120で構成されていてもよい。この場合には、マージン116の回転方向に沿った幅は、超硬質工具チップ110の回転方向に沿った幅よりも大きい。前切れ刃113に沿って前逃げ面114が形成されている。外周逃げ面112は超硬質工具チップ110だけでなく超硬合金の台座120にも形成される。
【0025】
リーマ1は、台金10と、台金10の外周に設けられた超硬質工具チップ110とを備え、超硬質工具チップ110は、外周切れ刃115と、外周切れ刃115の回転方向後側に設けられたマージン116とを有する。
【0026】
マージン116は曲面形状である。外周切れ刃115と前切れ刃113の交点である切れ刃角部からマージン116に沿って外周切れ刃115および前切れ刃113と異なる方向に延びるように稜116aが形成されている。
【0027】
前切れ刃113は、台金10の先端10aから突出している。なお、前切れ刃113は先端10aから突出していなくてもよい。刃物角(すくい面111と外周逃げ面112,前逃げ面114のなす角度)は70°以上であれば前切れ刃113および外周切れ刃115の強度が大きくなるため好ましい。
【0028】
偏心量は、以下のように測定する。まず高精度ツールバランサにリーマを取り付ける。高精度ツールバランサとして、HAIMER社製ツールダイナミックTDコンフォート等がある。
【0029】
リーマを回転させると、アンバランスの数字が表示される。たとえば14.3gmmと表示される。リーマの質量を測定する。たとえばリーマの質量を200gとする。アンバランス量を工具の質量で割ることで偏心量を得ることができる。上記の例では偏心量は14.3gmm/200g=0.0715mmとなる。
【0030】
マージンの回転方向の幅の測定方法
図2で示すように、マージン116は外周切れ刃115と外周逃げ面112との間の曲面部分であるから、外周切れ刃115から曲率ゼロの平面(非曲面)である外周逃げ面112までの回転方向の距離を測定する。
【0031】
マージン116の表面粗さの測定
マージン116の表面粗さRaは、JIS B 0601:2001に従って、株式会社ミツトヨ製サーフテストSV−3200等で行う。
【0032】
実施例1
台金10を超硬合金、超硬質工具チップ110を多結晶ダイヤモンド(PCD)で構成して表1に記載のリーマを作製した。なお、リーマの偏心量は、下記の方法で調整した。各切れ刃を有する超硬質工具チップ110が台金10に固定されたリーマを高精度ツールバランサに取り付け、上記のように偏心量を算出した。算出された偏心量と、偏心量の設定値との間に差がある場合、台金10において、台金10の先端10aとは反対側の末端から台金10の先端10aとは反対側に位置するフルート11の末端までの間に位置する部分を、除去することにより偏心量を調整した。このようにした台金10の一部分の除去とリーマの偏心量の算出とを交互に繰り返すことによって、偏心量を設定値にしたリーマを作製した。このように作製したリーマを用いて下記の条件で切削評価を行った。
【0033】
切削条件
被削材:アルミニウム合金 ADC12
回転数:工具直径φ8mmでは8000rpm、φ15mmでは5300rpm、φ43mmでは2200rpm
送り速度:0.3mm/rev
リーマ代:0.6mm
加工深さ:12mm
クーラント:水溶性
【0034】
【表1】
【0035】
表1より、偏心量が0.01mm以下のサンプル、および偏心量が0.5mmを超えるサンプルについては加工後の被削材の面粗さRz(JIS 〜B 0601:2001)が大きいため、評価がBとなっている。
【0036】
実施例2
台金10を超硬合金、超硬質工具チップ110を多結晶ダイヤモンド(PCD)で構成して表2に記載のリーマを作製した。下記の条件で切削評価を行った。
【0037】
切削条件
被削材:アルミニウム合金AC4B
回転数:工具直径φ11mmでは6000rpm、φ20mmでは3000rpm
送り速度:0.25mm/rev
リーマ代:0.5mm
加工深さ:15mm
クーラント:水溶性
【0038】
【表2】
【0039】
上記の表2からは、マージンの幅は0.05mm以上0.5mm未満では面圧が適度に高くなり、バニッシュ効果が高くなる。
【0040】
マージンの面粗さはRa0.01μm以上0.3μm未満では適度な摩擦力が働き、バニッシュ効果が高く、優れた面粗さが得られる。
【0041】
実施例3
台金10を超硬合金、超硬質工具チップ110を多結晶ダイヤモンド(PCD)で構成して表3に記載のリーマを作製した。下記の条件で切削評価を行った。
【0042】
切削条件
被削材:アルミニウム合金AC4C
回転数:工具直径φ14mmでは4500rpm、φ30mmでは2800rpm
送り速度:0.28mm/rev
リーマ代:0.8mm
加工深さ:14mm
クーラント:水溶性
【0043】
【表3】
【0044】
表3で示されるように、切れ刃が不等分割の場合、振動抑制効果が働き、面粗さが良くなる。特に位相差がひとつでも20°以上の場合、振動抑制効果が高くなる。
【0045】
実施例4
台金10を超硬合金、超硬質工具チップ110を多結晶CBN焼結体(PcBN)で構成して表4に記載のリーマを作製した。下記の条件で切削評価を行った。
【0046】
切削条件
被削材:ねずみ鋳鉄 FC250
回転数:工具直径φ9mmでは7000rpm、φ18mmでは3600rpm、φ41mmでは1600rpm
送り速度:0.28mm/rev
リーマ代:0.5mm
加工深さ:18mm
クーラント:水溶性
【0047】
【表4】
【0048】
表4より、偏心量が0.01mm以下のサンプル、および偏心量が0.5mmを超えるサンプルについては加工後の被削材の面粗さRzが大きいため、評価がBとなっている。
【0049】
実施例5
台金10を超硬合金、超硬質工具チップ110を多結晶CBN(PcBN)で構成して表5に記載のリーマを作製した。下記の条件で切削評価を行った。
【0050】
切削条件
被削材:焼結合金 F−08C2(ISO5755材質規格記号)
回転数:工具直径φ13mmでは5000rpm、φ23mmでは3000rpm
送り速度:0.26mm/rev
リーマ代:0.5mm
加工深さ:20mm
クーラント:水溶性
【0051】
【表5】
【0052】
上記の表5からは、マージンの幅は0.05mm以上0.5mm未満では面圧が適度に高くなり、バニッシュ効果が高くなる。
【0053】
マージンの面粗さはRa0.01μm以上0.3μm未満では適度な摩擦力が働き、バニッシュ効果が高く、優れた面粗さが得られる。
【0054】
実施例6
台金10を超硬合金、超硬質工具チップ110を多結晶CBN(PcBN)で構成して表6に記載のリーマを作製した。下記の条件で切削評価を行った。
【0055】
切削条件
被削材:ダクタイル鋳鉄 FCD450
回転数:工具直径φ15mmでは4000rpm、φ32mmでは2000rpm
送り速度:0.30mm/rev
リーマ代:0.7mm
加工深さ:18mm
クーラント:水溶性
【0056】
【表6】
【0057】
表6で示されるように、切れ刃が不等分割の場合、振動抑制効果が働き、面粗さが良くなる。特に位相差がひとつでも20°以上の場合、振動抑制効果が高くなる。
【0058】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1 リーマ、10 台金、10a 先端、11 フルート、13 孔、100 チップ、110 超硬質工具チップ、111 すくい面、112 外周逃げ面、113 前切れ刃、114 前逃げ面、115 外周切れ刃、116 マージン、116a 稜、120 台座。
【要約】
リーマは、台金と、台金の外周に設けられた超硬質工具材料の複数の外周切れ刃と、複数の外周切れ刃の回転方向後側に設けられたマージンとを備える。回転軸からリーマの重心位置までの距離が0.01mmを超え0.5mm以下である。
図1
図2
図3