(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記減速機の中空部を貫通して前記ベース部の内部に導入され、前記回転軸心に対し当該回転軸心に垂直な方向における一方側に向けて引き回されるケーブルをさらに有し、
前記空気室は、
前記ベース部の内部において前記回転軸心に対し当該回転軸心に垂直な方向における他方側に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のロボット。
前記回転軸心方向における一方側に前記減速機が固定され、他方側に前記ベース部が固定される、前記回転軸心を中心とする径方向の寸法が前記減速機より大きなフランジ部材をさらに有し、
前記空気室は、
前記フランジ部材の前記他方側の面に設けられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のロボット。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下において、ロボット等の構成の説明の便宜上、上下左右前後等の方向を適宜使用する場合があるが、ロボット等の各構成の位置関係を限定するものではない。
【0011】
<1.ロボットシステムの全体構成>
図1を参照しつつ、本実施形態に係るロボットシステム1の全体構成の一例について説明する。本実施形態の例のロボットシステム1は、塗装作業に使用される塗装ロボットシステムである。
【0012】
図1に示すように、ロボットシステム1は、塗装ブース2(作業ブースの一例)と、この塗装ブース2に配置されたロボット10とを有する。ロボット10には、電力を供給する給電ケーブル4が接続されている。塗装ブース2は、床面FLに設置された箱状の防護壁3により囲まれており、防護壁3は、床面FLに立設された複数の側壁3aと、側壁3aの上端に設けられた天井壁3bとを備える。
【0013】
ロボット10は、ベース部6と、6つの可動部を備えたアーム部7とを有しており、この例では6軸垂直多関節型の単腕ロボットとして構成されている。図示する例では、ベース部6が天井壁3b(天井面の一例)に固定されたいわゆる天吊り状態で当該ロボット10が設置されている。なお、ベース部6は、天井壁3b以外の例えば塗装ブース2の床面FL又は側壁3a(壁面の一例)等に設置されてもよいし(後述の
図8、
図10参照)、防護壁3とは異なる別の架台等に設置されてもよい。
【0014】
アーム部7は、ベース部6に対し鉛直方向の軸であるS軸AxS(回転軸心の一例)周りに旋回可能に連結されている。なお、本明細書では、アーム部7の各可動部におけるベース部6側の端を当該可動部の「基端」、ベース部6とは反対側の端を当該可動部の「先端」と定義する。アーム部7は、旋回ヘッド16と、下腕部9と、上腕部11と、3つの可動部を備えた手首部12とを有する。
【0015】
旋回ヘッド16は、ベース部6に、上記S軸AxS周りに旋回可能に支持されている。旋回ヘッド16は、ベース部6との関節部近傍に設けられたS軸モータ24(後述の
図2参照)の駆動力が、上記関節部に配置された減速機5を介して伝達されることにより、ベース部6に対しS軸AxS周りに旋回する。
【0016】
下腕部9は、旋回ヘッド16の先端部に、S軸AxSに直交する回転軸であるL軸AxL周りに回転可能に支持されている。下腕部9は、旋回ヘッド16との間の関節部近傍に設けられたL軸モータ28(後述の
図2参照)の駆動により、旋回ヘッド16の先端部に対しL軸AxL周りに回転する。
【0017】
上腕部11は、下腕部9の先端部に、L軸AxLに平行な回転軸であるU軸AxU周りに回転可能に支持されている。上腕部11は、下腕部9との間の関節部近傍に設けられたモータ(図示せず)の駆動により、下腕部9の先端部に対しU軸AxU周りに回転する。
【0018】
手首部12は、上腕部11の先端部に連結されている。手首部12は、第1手首可動部13と、第2手首可動部14と、第3手首可動部15とを有する。
【0019】
第1手首可動部13は、上腕部11の先端部に、U軸AxUに直交する回転軸であるR軸AxR周りに回転可能に支持されている。第1手首可動部13は、上腕部11との間の関節部近傍に配置されたモータ(図示せず)の駆動により、上腕部11の先端部に対しR軸AxR周りに回転可能である。
【0020】
第2手首可動部14は、第1手首可動部13の先端部に、R軸AxRに直交する回転軸であるB軸AxB周りに回転可能に支持されている。第2手首可動部14は、第1手首可動部13に配置されたモータ(図示せず)の駆動により、第1手首可動部13の先端部に対しB軸AxB周りに回転する。
【0021】
第3手首可動部15は、第2手首可動部14の先端部に、B軸AxBに直交する回転軸であるT軸AxT周りに回転可能に支持されている。第3手首可動部15は、上記第1手首可動部13に配置されたモータ(図示せず)の駆動により、第2手首可動部14の先端部に対しT軸AxT周りに回転する。第3手首可動部15の先端には、エンドエフェクタ(図示せず)が取り付けられる。
【0022】
ロボット10は、手首部12に取り付けられるエンドエフェクタの種類によって、例えば、塗装、ハンドリング、溶接等、多種多様な用途に使用することが可能である。本実施形態では、手首部12の先端にエンドエフェクタとして図示しない塗装ガンが取り付けられ、ロボット10は塗装用途に使用される。塗装対象は、例えば自動車のボディ等の大きな物でもよいし、例えば携帯電話の筐体等の小さな物でもよい。
【0023】
ベース部6は全体が略直方体状に形成され、減速機5はベース部6に固定されて全体が略円筒状に形成されている。給電ケーブル4は、塗装ブース2の外側に配置された図示しないロボットコントローラ等とベース部6とを接続している。なお、本実施形態の例においては、ベース部6から給電ケーブル4が延びて配設されている側を後方側(
図1中の左側)とし、その逆側を前方側(
図1中の右側)とし、紙面手前側を右側とし、紙面奥側を左側として説明する。
【0024】
また、上記で説明したロボット10の構成は一例であり、上記以外の構成であってもよい。例えば、アーム部7の各可動部の回転軸方向は、上記方向に限定されるものではなく、他の方向であってもよい。また、手首部12及びアーム部7の可動部の数は、それぞれ3つ及び6つに限定されるものではなく、他の数であってもよい。また、ロボット10は、アーム部7を1つのみ有する単腕ロボットに限定されるものではなく、アーム部7を複数有する複腕ロボットであってもよい。また、ロボット10は、垂直多関節型のロボットに限定されるものではなく、水平多関節型等の他のタイプのロボットであってもよい。
【0025】
<2.ベース部及び減速機の内部構成>
図2は、ベース部6及び減速機5の周辺の内部構造の一例を上記S軸AxSの軸方向に沿った断面で示している。なお、旋回ヘッド16の図示は省略している。この
図2において、ベース部6と減速機5の外殻はベース部ケーシング6aと、フランジ部材8と、減速機ケーシング5aとで形成されている。
【0026】
ベース部ケーシング6aは、中空の略直方体状に形成されており、この場合の設置面である天井壁3bと逆側(
図2中の下側;以下、軸方向一方側という)が略円形に開口している。フランジ部材8は、略円板状に形成されており、上記ベース部ケーシング6aの円形の開口部を軸方向一方側(
図2中の下側)から覆うように固定されている。減速機ケーシング5aは、上記フランジ部材8より小径で中空の略円筒径状に形成されており、その軸方向他方側(
図2中の上側)の端部の円形の開口部が、フランジ部材8の軸方向一方側(
図2中の下側)の面に同軸的な配置で固定されている。
【0027】
減速機ケーシング5aとフランジ部材8の中心には、中空部21aを備えた減速機5の出力軸21が貫通している。出力軸21は、減速機ケーシング5a内部の軸受22を介してS軸AxS周りに回転可能に支持されている。出力軸21の軸方向一方側(
図2中の下側)は、旋回ヘッド16の外殻である旋回ヘッドケーシング(図示省略)に固定されている。また、出力軸21に対する減速機ケーシング5aとフランジ部材8の摺接箇所には、それぞれオイルシール23が設けられている。S軸モータ24は、旋回ヘッド16の内部において減速機ケーシング5aの軸方向一方側(
図2中の下側)に設けられている。S軸モータ24の出力軸24aの回転出力が減速機ケーシング5a内に収容された適宜の歯車機構25を介して減速され、減速機5の出力軸21に伝達される。
【0028】
上記構成である減速機5において、フランジ部材8で密閉された減速機ケーシング5aの内部空間が潤滑室26を形成している。グリースやオイル等の潤滑剤27(
図2中の網掛け部参照)が上記潤滑室26に封入されることで、上記の歯車機構25が潤滑剤27に浸漬した状態となる。なお、潤滑室26における潤滑剤27の注油、排油の構成については後の
図3で詳述する。
【0029】
また、全体が略円柱形状で内部が中空構造である空気室8aが、フランジ部材8に一体に形成されてベース部ケーシング6a内部に配置されており、当該空気室8aの内部はフランジ部材8を貫通する連通孔8bを介して上記潤滑室26に連通している。
【0030】
給電ケーブル4は、上記アーム部7から出力軸21の中空部21aを貫通してベース部6の内部に導入され、S軸AxSに対し当該S軸AxSに垂直な方向(
図2中の水平方向)における一方側(
図2中の後側)に向けてベース部6の外部へ導出するように引き回されている。一方、上記空気室8aは、ベース部6の内部においてS軸AxSに対し当該S軸AxSに垂直な方向における他方側(
図2中の前側)に配置されている。上記のS軸モータ24には、給電ケーブル4に含まれる対応する給電ケーブル4aが接続されている。また、図示しない他の関節軸モータやエンドエフェクタにも、給電ケーブル4に含まれる対応する給電ケーブルが接続されている。
【0031】
なお、上記で説明した減速機5における歯車機構25や出力軸21等の構成は一例であり、上記以外の構成であってもよい。また、ベース部ケーシング6aやアーム部7を構成する各可動部のケーシング(旋回ヘッドケーシング等)が各請求項に記載の筐体に相当する。
【0032】
<3.潤滑室の注排油構成>
図3は、潤滑室26における潤滑剤27の注油、排油の構成の一例をS軸AxSの軸方向に沿った断面で示している。
図3に示す例では、潤滑室26に1つの注油ポート31(注入口の一例)と、2つの排油ポート32,33(排出口の一例)が設けられている(上記
図2では図示省略)。注油ポート31は、外部から潤滑室26の内部(減速機ケーシング5aの内部)へ潤滑剤27を注油可能に設けられた弁である。
図3に示す例では、減速機ケーシング5aの円周側面においてS軸AxSの軸方向におけるフランジ部材8側(軸方向他方側)であって、S軸AxSの直交方向(図中の水平方向)における空気室8a側に位置している。
【0033】
排油ポート32,33は、潤滑室26の内部(減速機ケーシング5aの内部)から外部へ潤滑剤27を排油可能に設けられた弁である。
図3に示す例では、側面排油ポート32と端面排油ポート33が設けられている。側面排油ポート32は、減速機ケーシング5aの円周側面においてS軸AxSの軸方向におけるアーム部7側(軸方向一方側)であって、S軸AxSの直交方向(図中の水平方向)における注油ポート31と逆側に位置している。端面排油ポート33は、フランジ部材8に形成されており、ベース部ケーシング6aの外部へ連通している。
【0034】
注油ポート31は潤滑剤27の注油機能に特化した弁であり、各排油ポートは潤滑剤27の排油機能に特化した弁であり、相互に互換性はない。また各ポート31,32,33は注排油可能状態と密封閉止状態とに切り換えられる。
【0035】
上記
図1に示したように、ロボット10が天吊り状態で設置されている場合には、
図3に示すような注排油工程が行われる。すなわち、側面排油ポート32を密封閉止状態とし、注油ポート31から潤滑剤27を注油する。このとき、天吊り状態で下方に位置する側面排油ポート32から排油されずに潤滑室26内で次第に潤滑剤27が貯留され、水位が上昇して上方のフランジ部材8に到達した後には端面排油ポート33を介して余剰分の潤滑剤27が排油される。ここで最高水位よりも上方に位置している空気室8a内には潤滑剤27がほとんど侵入しない。これにより、注油前状態で潤滑室26内にどれだけの潤滑剤27が残留しているか不明である場合でも、端面排油ポート33から排油されるまで注油し続けることで潤滑室26内を潤滑剤27で満たすことができ、かつ潤滑室26に連通する空気室8a内に空気層を確保できる。この状態で注油ポート31及び端面排油ポート33を密封閉止状態にすることで、注油作業が完了する。なお、この場合の空気室8aの内部容積は、当該空気室8a、連通孔8b、及び潤滑室26を併せた全体の内部容積に対し、例えば約12%以上の容積の空気層を確保可能であることが好適である。
【0036】
<4.ベース部と減速機の組み立て構成>
上記
図2に示した本実施形態のベース部6と減速機5の構造は、上述した注排油機能とはまた別に、さらにベース部6及び減速機5を合わせた全体構成のS軸AxS方向の短縮化や組み立て容易性の観点でも好適である。以下、この点について詳細に説明する。
【0037】
図4は、ベース部ケーシング6aとフランジ部材8と減速機ケーシング5aの分解状態の一例をS軸AxSの軸方向に沿った断面で示しており、
図5は、フランジ部材8の外観の一例を斜視図で示している。なお、ロボット10の組み立て作業時には、当該ロボット10を床面FLに設置する場合の配置、つまり床面FLにベース部6を載置してその上側にフランジ部材8と減速機5を重ねる配置状態で組み立てるため、
図4、
図5においてもその配置状態に対応して示している。
【0038】
この
図4において、減速機ケーシング5aの開口部には、当該減速機ケーシング5aの内径よりも小径である開口縁部5bが形成されている。減速機ケーシング5aとフランジ部材8は、互いに接触した状態で、フランジ部材8の軸方向一方側(
図4中の下側)から貫通孔8cを介して開口縁部5bのネジ穴5dにボルト41がねじ込まれることで相互に固定される。また一方、ベース部ケーシング6aの開口部にも当該ベース部ケーシング6aの内径よりも小径(減速機ケーシング5aの外径よりも大径)である開口縁部6bが形成されている。ベース部ケーシング6aとフランジ部材8は、互いに接触した状態で、フランジ部材8の軸方向他方側(
図4中の上側)から貫通孔8dを介して開口縁部6bのネジ穴6dにボルト41がねじ込まれることで相互に固定される。
【0039】
以上の組み立て工程によって、減速機ケーシング5aとベース部ケーシング6aはフランジ部材8を間に挟んだ状態で強固に連結固定される。なお、
図5に示す例のフランジ部材8では、空気室8aが略扇型の柱状形状となってフランジ部材8の本体と一体に成形(例えば鋳造成形)されており、空気室8aの内部空間がフランジ部材8の
図5中紙面奥側の面に開口した連通孔8bに連通している(特に図示せず)。なお、空気室8aとフランジ部材8とを別部品とし、ボルト等により連結してもよい。また、空気室8a全体の形状は上記に限られず、他にも上述した略円筒形状や略矩形形状等で成形してもよい。
【0040】
以上のようにフランジ部材8を備えた本実施形態の組み立て構成に対し、比較例としてフランジ部材8を備えない場合のベース部6Aと減速機5Aの組み立て工程について
図6を参照しつつ以下に説明する。
【0041】
この
図6において、比較例の場合には、減速機ケーシング5aが底面5cを有する一方、ベース部ケーシング6aが上面6cを有しており(
図6(a)参照)、これら底面5cと上面6cを接触させた状態でボルト41をねじ込むことで相互に固定させる(
図6(b)参照)。このとき、ボルト41は、ベース部ケーシング6aの内部から上方に向けて挿入されて締結操作される。このため、ベース部ケーシング6aの内部空間においては、大きな工具を用いたボルト41の締結操作が可能なように広い作業空間を確保しなければならず、それだけベース部ケーシング6aの内部空間におけるS軸AxS方向寸法Hcの短縮化が困難になるとともに、また組み立て作業も煩雑となっていた。
【0042】
これに対して本実施形態の場合には、
図7(a)に示すように、先にフランジ部材8を減速機ケーシング5aの開口部に接触させた状態でそれらの間をボルト41で締結する。このとき、フランジ部材8の外側端面から減速機ケーシング5aの開口縁部5bに向けてボルト41を挿入し締結するが、その周囲には何ら干渉する部材や作業操作を制約する部材がないため組み立て作業が容易となる。
【0043】
次に、
図7(b)に示すように、減速機5が固定されたフランジ部材8をベース部ケーシング6aの開口部に接触させた状態でそれらの間をボルト41で締結する。このとき、フランジ部材8の外側端面(減速機ケーシング5aの外周側)からベース部ケーシング6aの開口縁部6bに向けてボルト41を挿入し締結できる。この場合、上方から締結作業を行うことができると共に、その周囲には減速機ケーシング5a以外に干渉部材や作業操作を制約する部材がないため組み立て作業が比較的容易となる。そして、ベース部ケーシング6a内部での作業が不要となるため作業空間を確保する必要が無くなり、当該ベース部ケーシング6aのS軸AxS方向寸法Hsの短縮化が可能となる。
【0044】
以上により、上記
図4に示した本実施形態のベース部6とフランジ部材8と減速機5の組み立て構成は、ベース部6及び減速機5を合わせた全体構成のS軸AxS方向の短縮化や組み立て容易性の観点で好適である。
【0045】
<5.実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態のロボット10は、複数の関節部を備えた筐体と、ベース部6と旋回ヘッド16との間の関節部に配置され、S軸モータ24の出力を減速して伝達するための歯車機構25が収容されると共に潤滑剤27が封入された潤滑室26を備えた減速機5と、ベース部ケーシング6aの内部に配置され、潤滑室26に連通された空気室8aとを有する。
【0046】
ここで、ロボット10の運転により減速機5の潤滑室26内部の温度が上昇すると、熱膨張により潤滑剤27の体積が増加する。このとき、潤滑室26内に適切な体積の空気層がない場合には、潤滑室26の内部圧力の上昇によりオイルシール23から潤滑剤27の漏れが生じる可能性がある。
【0047】
本実施形態によれば、潤滑室26に空気室8aが連通されているので、潤滑室26に適切な体積の空気層を確保することができる。これにより、熱膨張により潤滑剤27の体積が増加しても、空気室8aが緩衝室となり潤滑室26の内部圧力の上昇を緩和できるので、潤滑剤27の漏れを防止できる。このとき、空気室8aがベース部ケーシング6aの内部に配置されるので、ロボット10の外部の物体の接触や衝突にかかわらず、減速機5の潤滑剤27の漏れを防止することができる。
【0048】
また、本実施形態では特に、ロボット10は、ベース部6と、ベース部6に対して減速機5の回転軸心であるS軸AxS周りに旋回するアーム部7と、をさらに有し、減速機5は、ベース部6とアーム部7との間の関節部に配置され、空気室8aは、ベース部6の内部に配置される。
【0049】
ここで、ベース部6とアーム部7の間に配置される減速機5は、ロボット10が床面FLに配置された場合に、S軸AxSが鉛直方向となる。一方、それ以外の減速機(図示省略)、すなわちアーム部7の各可動部の間に配置される減速機は、ロボット10が床面FLに配置された場合に、回転軸心(L軸AxL、U軸AxU、R軸AxR、B軸AxB、T軸AxT等)が水平方向となりうる。このため、S軸AxS以外の減速機では、ロボット10を床面FL、側壁3a及び天井壁3bのいずれに設置する場合でも、回転軸心周りの周方向における適切な位置に潤滑剤27の注油ポート及び排油ポートを設けることにより、潤滑室の内部空間に適切な体積の空気層を形成することが可能である。一方、S軸AxSの減速機5では、ロボット10を床面FL又は側壁3aに設置する場合には、注油ポート31及び排油ポート32,33によって適切な体積の空気層を形成することが可能となるものの(後述の
図9及び
図11参照)、潤滑室26が下方側においてベース部ケーシング6aに固定されるため、ロボット10を天井壁3bに設置した場合、注油ポート31及び排油ポート32,33によって適切な体積の空気層を形成できない可能性がある。
【0050】
本実施形態では、減速機5の潤滑室26に連通した空気室8aを、ベース部ケーシング6aの内部に配置する。これにより、ロボット10を天井壁3bに設置した場合でも、潤滑室26に適切な体積の空気層を確保することができる。したがって、ロボット10を天井壁3bに設置して運転する場合にも、減速機5の潤滑剤27の漏れを防止することができる。
【0051】
また、本実施形態では特に、ロボット10は、減速機5の中空部21aを貫通してベース部ケーシング6aの内部に導入され、水平方向における後側に向けて引き回される給電ケーブル4をさらに有し、空気室8aは、ベース部ケーシング6aの内部において水平方向における前側に配置される。
【0052】
本実施形態においては、ベース部ケーシング6aの内部において、給電ケーブル4がS軸AxSに対し後側に向けて引き回されると共に、空気室8aは給電ケーブル4の引き回し方向とは反対の前側に配置される。これにより、ベース部6の内部空間を有効活用できる。
【0053】
また、本実施形態では特に、ロボット10は、下側に減速機5が固定され、上側にベース部ケーシング6aが固定される、S軸AxSを中心とする径方向の寸法が減速機5より大きなフランジ部材8をさらに有し、空気室8aは、フランジ部材8の上側の面に設けられている。
【0054】
例えば減速機5が直接ベース部ケーシング6aに固定される場合、上記
図6の比較例で示したようにベース部ケーシング6aの内側から減速機5に向けてボルト41が挿入されて固定される。このため、ベース部ケーシング6aの内部においてボルト41の締結作業を行うこととなるため作業性が低下すると共に、ベース部ケーシング6aの内部に作業空間を確保する必要があることからベース部6全体の薄型化が制限される。
【0055】
本実施形態では、減速機5がフランジ部材8を介してベース部ケーシング6aに固定される。減速機5を予めフランジ部材8に取り付けておくことにより、フランジ部材8の減速機5から突出した部分に上方からボルト41を挿入してベース部ケーシング6aに固定することができる。これにより、フランジ部材8の上方からボルト41の締結作業を行えばよいので作業性を大幅に向上できると共に、ベース部ケーシング6aの内部に作業空間を確保する必要がなくなるのでベース部6を薄型化できる。
【0056】
また、本実施形態では特に、空気室8aは、フランジ部材8と一体に成形されている。これにより、フランジ部材8と空気室8aとを別々の部品として製造する場合に比べて、部品点数を削減できると共に、製造時に両部品の組み立ても不要となり製造工数も削減できるので、コストを削減できる。
【0057】
また、本実施形態では特に、ロボットシステム1が、ロボット10と、ロボット10が所定の作業を行うための作業ブースである塗装ブース2とを有する。
【0058】
本実施形態によれば、ロボット10を塗装ブース2の床面FLや側壁3aだけでなく天井壁3bに設置して運転することが可能となるので、塗装ブース2内のスペースを有効活用できる。したがって、例えば防爆領域である塗装ブース2内で塗装作業を行うロボットシステム等、所定の限定された領域内で作業を行うロボットシステムに好適である。
【0059】
<6.ロボットの他の設置例>
上記実施形態のロボットシステム1では、ロボット10を天井壁3bに設置していたが、ロボット10の設置場所は天井壁3b以外でもよい。
【0060】
(6−1.ロボットを床面に設置する場合)
例えば、
図8に示すロボットシステム1Aのように、ロボット10を床面FLに設置してもよく、このような姿勢で設置した場合でも、上記
図3に示した減速機5の注排油構成により注油作業を行うことにより潤滑室26内に適切な容積の空気層を確保できる。
【0061】
すなわちこの設置姿勢では、
図9に示すように、注油ポート31が端面排油ポート33より高い位置で、かつ、側面排油ポート32より低い位置に配置される。この配置状態で端面排油ポート33を密封閉止状態とし、注油ポート31から潤滑剤27を注油する。これにより、注油前状態で潤滑室26内にどれだけの潤滑剤27が残留しているか不明である場合でも、側面排油ポート32から排油されるまで注油し続けることで潤滑室26内を潤滑剤27で満たすことができ、かつ側面排油ポート32から上方の潤滑室26の内部空間に空気層を確保できる。なお、この場合には連通孔8b及び空気室8aの内部に潤滑剤27が満たされることになるか、あるいは、空気室8a内に存在する空気により潤滑剤27が進入しない場合も考えられる。この状態で、注油ポート31と側面排油ポート32を密封閉止状態にすることで、注油作業が完了する。そして、側面排油ポート32のS軸AxS方向の位置が適切に設定されていることで、適切な容積(例えば空気室8a、連通孔8b、及び潤滑室26を併せた全体の内部容積における約12%以上)の空気層を確保できる。
【0062】
(6−2.ロボットを側壁に設置する場合)
また、
図10に示すロボットシステム1Bのようにロボット10を側壁3aに設置してもよく、このような姿勢で設置した場合でも、上記
図3に示した減速機5の注排油構成により注油作業を行うことにより潤滑室26内に適切な容積の空気層を確保できる。
【0063】
すなわち、
図11に示すように、注油ポート31が側面排油ポート32より低い位置に配置される姿勢で減速機5が設置され、端面排油ポート33を密封閉止状態として、注油ポート31から潤滑剤27を注油する。この場合でも、側面排油ポート32から排油されるまで注油し続けることで潤滑室26内を潤滑剤27で満たすことができ、かつ側面排油ポート32から上方の潤滑室26の内部空間に空気層を確保できる。なお、この場合にも連通孔8b及び空気室8aの内部に潤滑剤27が満たされることになるか、あるいは、空気室8a内に存在する空気により潤滑剤27が進入しない場合も考えられる。そして、側面排油ポート32の位置が適切に設定されていることで、適切な容積(例えば空気室8a、連通孔8b、及び潤滑室26を併せた全体の内部容積における約12%以上)の空気層を確保できる。
【0064】
以上説明したように、各変形例のロボットシステム1が備えるロボット10は、潤滑室26において、ロボット10が床面FL及び側壁3aの少なくとも一方に設置された場合に、潤滑室26の内部空間の上部に所定の容積の空気層が形成されるように、潤滑剤27の注油ポート31及び排油ポート32,33が設けられている。
【0065】
これにより、ロボット10を床面FL、側壁3a、天井壁3bのいずれに設置する場合でも、それぞれの姿勢に対応させて潤滑室26に適切な体積の空気層を確保することが可能となり、減速機5の潤滑剤27の漏れを防止することができる。
【0066】
なお、ロボット10の設置姿勢は、基本的に使用する排油ポート32,33が注油ポート31より上方に位置する姿勢で設置していればよく、当該排油ポート32,33の潤滑室26内における高さ位置で形成される空気層の容積が決まる。
【0067】
また、例えば防爆領域である塗装ブース2で塗装作業を行うロボット等、所定の限定された領域(作業ブース)で作業を行うロボット10において、床面FL、側壁3a、天井壁3bのいずれに設置しても運転することが可能となるので、作業ブース内のスペースを有効活用できる。
【0068】
なお、以上の説明において、「垂直」「直交」「平行」「平面」等の記載がある場合には、当該記載は厳密な意味ではない。すなわち、それら「垂直」「直交」「平行」「平面」とは、設計上、製造上の公差、誤差が許容され、「実質的に垂直」「実質的に直交」「実質的に平行」「実質的に平面」という意味である。
【0069】
また、以上の説明において、外観上の寸法や大きさ、形状、位置等が「同一」「同じ」「等しい」「異なる」等の記載がある場合は、当該記載は厳密な意味ではない。すなわち、それら「同一」「同じ」「等しい」「異なる」とは、設計上、製造上の公差、誤差が許容され、「実質的に同一」「実質的に同じ」「実質的に等しい」「実質的に異なる」という意味である。
【0070】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。その他、一々例示はしないが、上記実施形態や各変形例は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。