(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670489
(24)【登録日】2020年3月4日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】ブドウおよびブドウの栽培方法、栽培したブドウを用いたワイン
(51)【国際特許分類】
A01G 17/02 20060101AFI20200316BHJP
C12G 1/00 20190101ALI20200316BHJP
【FI】
A01G17/02
C12G1/00
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-21472(P2016-21472)
(22)【出願日】2016年2月8日
(65)【公開番号】特開2016-146827(P2016-146827A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2019年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2015-22823(P2015-22823)
(32)【優先日】2015年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(72)【発明者】
【氏名】岸本 宗和
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕之
(72)【発明者】
【氏名】安部 正彦
(72)【発明者】
【氏名】柳田 藤寿
(72)【発明者】
【氏名】乙黒 美彩
【審査官】
田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第103975820(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第102334438(CN,A)
【文献】
特開昭61−128881(JP,A)
【文献】
松井鋳一郎、中村三夫、鳥潟博高,ブドウ(品種巨峰)の一番果および二番果の着果と発育におよぼす摘心時期の影響,園芸学会雑誌,日本,一般社団法人園芸学会,1978年,vol.47 no.1,p.16-26
【文献】
宇都宮直樹、杉浦明、苫名孝,ブドウの副しょう上での花房分化およびその発達に及ぼすCCCと摘心処理の影響,園芸学会雑誌,日本,一般社団法人園芸学会,1978年,vol.47 no.2,p.151-157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 17/00−17/02,22/00
C12G 1/00− 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウ樹の結果母枝から伸長した新梢を節で切除するとともに、該新梢に着生する1番果の花穂を切除してブドウ栽培することを特徴とするブドウの栽培方法。
【請求項2】
前記節が結果母枝から2節目ないし15節目のいずれかの節であることを特徴とする請求項1に記載のブドウの栽培方法。
【請求項3】
前記節が結果母枝から3節目ないし10節目のいずれかの節であることを特徴とする請求項1に記載のブドウの栽培方法。
【請求項4】
前記ブドウ樹がVitis属のいずれか、あるいはVitis属の種間交配種であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のブドウの栽培方法。
【請求項5】
前記ブドウ樹は、Vitis vinifera、V. labrusca、V. amurensisのいずれかの種、あるいはVitis vinifera、V. labrusca、V. amurensisのいずれか1つの種との種間交配種であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のブドウの栽培方法。
【請求項6】
前記ブドウ樹がカベルネ・ソーヴィニヨンであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載のブドウの栽培方法。
【請求項7】
前記ブドウ樹がマスカット・ベーリーAであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載のブドウの栽培方法。
【請求項8】
前記ブドウ樹がピオーネであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のブドウの栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウの栽培方法、および栽培したブドウを用いたワインに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化による気象変動は農作物にとっての栽培環境を著しく変化させ、ブドウにおいても今後著しく品質を低下させる大きな要因として懸念されている。近年、ピオーネをはじめとする生食用ブドウ、あるいはマスカット・ベーリーA種等のワイン醸造用の黒色果皮のブドウにおいては、成熟期間中の高温による着色不良、糖度の低下、酸味の低下などが大きな課題の一つになっている。また、成熟期の高温により、収穫時期も早まり、豪雨が頻発する秋雨の時期に収穫期が重なることによって、カビによる病害発生が増加し、ブドウ栽培農家は収穫直前に農薬を散布できずに対応策がなく、著しく収穫量を低下させる被害も発生している。
【0003】
ワインの醸造においては、原料となるブドウが温暖化の影響によって着色不良、酸味低下、糖度不足が生じ、成製されるワインもアントシアニンが少ない淡い色調になるだけでなく、果実の凝縮感や品種特徴香が乏しいなどの課題がみられている。また、温暖化に伴ってそれぞれのブドウ品種の収穫時期が早くなるとともに、ブドウ品種間で異なっていた収穫タイミングの間隔が狭くなってきている。このことは、限られた発酵タンクで醸造を行う場合に、発酵タンク繰りが優先されて十分な発酵期間が確保されることを困難にし、ワインの品質低下を招く原因になり、ワイナリーによっては発酵タンクなどの設備投資を余儀なくされる場合も想定される。
【0004】
ワイン醸造においては、色調が濃く果実の香味が凝縮されたワインを醸造するために、果汁に対する皮種の相対比率が高くなる小粒なブドウが一般的には良いとされる。原料ブドウの着色が不足し、果肉・果汁が多い場合には、仕込み工程において醪部分から果汁の一部を抜き取るセニエ法によって果皮・種の相対比率を高めて、色調が濃く、凝縮感の高いワインを得る工夫がなされている。当該方法は品質向上に一定の効果が認められるものの、着色が不足している並質の原料ブドウから色調が濃い高品質ワインを醸造することは極めて困難である。ワインの香味品質を高める他の方法には、ブドウの収穫時期を遅らせた遅摘収穫ブドウを用いる方法がある。しかし、遅摘収穫ブドウは、通常時期の収穫に比べて着色の促進や糖度の上昇が期待できるものの、過熟、酸味の著しい低下、カビなどの病害発生による品質劣化などから、収穫時期を20日程度遅らせるのが限界であり、著しく収穫時期を遅らせた場合には、過熟による香り不足、酸味不足などの点から、製成されるワインの品質は逆に低下し、必ずしも品質向上にはつながらない場合がある。非特許文献1では巨峰の1番果および2番果の着果と発育におよぼす摘心時期の影響を調べ、摘心の時期が副梢の発生と2番果花穂の着生に大きく影響することを明らかにし、1番果の収穫に続いて2番果の栽培、即ち、二期作栽培が可能となる可能性を示している。しかし、当該技術はブドウ二期作栽培を考慮して1番果と2番果の双方を着生させるものであり、2番果が1番果に比して糖度と酸度が高くなるものの、糖度の差異は2%程度であり、効果はそれ程大きいものではなかった。
【0005】
上記課題を解決し、糖度が高く、かつ、着色および香味、食味に優れるブドウの栽培方法を提供し、およびそのブドウを原料として得られる高品質ワインが求められているところである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】松井鋳一郎(1978) ブドウ(品種巨峰)の一番果および二番果の着果と発育におよぼす摘心時期の影響,園芸学会誌, 47, 16-26.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、ブドウ栽培において、糖度が高く、着色向上と香味、食味向上、あるいは果粒の小粒化を同時に達成する栽培方法を提供すること、および、当該方法によって栽培されたブドウを原料としたワインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のブドウの栽培方法は、ブドウ(ブドウ樹)の萌芽・展葉期に続く、新梢の伸長から開花、結実期、果粒肥大期において、新梢を前記新梢の結果母枝から2節目から15節目のいずれかで切除するとともに、前記新梢に着生する1番果の花穂を切除(摘房)することを特徴とする。
【0009】
また本発明のブドウはVitis vinifera、V. labrusca,V. amurensisなどのVitis属のいずれか、あるいはVitis属の種間交配種である。
【0010】
本発明の栽培方法により栽培されるブドウは1番果(新梢に着生する果房)よりも糖度が高く、かつアントシアニンの含有量が多い、品種特徴香の含有量が多い、食味が良好、果粒が小粒である2番果(新梢の切除により発生した副梢に着生する果房)である。
【0011】
さらに本発明は、本発明の栽培方法より得られる2番果を原料ブドウとして醸造されるワインである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ブドウの萌芽、展葉に続く新梢の伸長から開花、結実期、果粒肥大期に花穂を切除し、新梢を適当な部分で切除することによって、副梢の花穂形成を早期に誘導し、糖度が高く、かつ、着色および香味、食味に優れるブドウを栽培することができる。
【0013】
また、本発明によるブドウは、小粒化によって、ブドウ重量単位に対する種の比率と果皮面積の増加が同時に同時に達成することができる。
【0014】
さらに、本発明によるブドウを原料としてワイン醸造に供することで、アントシアニン、ポリフェノール、品種特徴香を高含有する高品質なワインを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】新梢の切除と花穂の切除部位を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態であるブドウの栽培方法については、ブドウの萌芽から展葉期に続く、新梢の伸長から開花、結実期、果粒肥大期において、前記新梢を結果母枝から2節目から15節目のいずれかの節の間で切除するとともに、前記新梢に着生する1番果の花穂を切除する。また、より重量の大きな果房を得るためには、新梢の切除(摘心)は、展葉期から結実期が好ましく、さらに好ましくは、展葉期から開花期にかけてであり、3節目から10節目の間であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明によるブドウ栽培方法は、ブドウの萌芽から展葉期に続く、新梢の伸長から開花、結実期、果粒肥大期において摘心と花穂の切除の双方を行うことによって、副梢の発生と副梢の花穂形成を早期に誘導させることができる。
【0018】
ブドウはVitis vinifera(例えばカベルネソーヴィニヨン)、V. labrusca(例えばコンコード)、V. amurensis(例えばアムレンシス)などのVitis属のいずれか、あるいはVitis属の種間交配種(例えばマスカットベーリーA、ピオーネ)であればよい。
【0019】
垣根栽培、棚栽培に適したつる性落葉低木であるブドウのVitis属であれば、新梢が伸長し、本発明の栽培方法に適している。
【0020】
また、本発明によるブドウは、糖度が高く、かつ、着色改善と香味、食味向上あるいは小果粒化が同時に達成することを特徴としている。
【0021】
また、本発明によるワインは、本発明によるブドウ栽培方法により得られるブドウを原料としてワイン醸造を行うことにより、色調、香味品質ともに優れるワインが得られることを特徴としている。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0023】
山梨県において棚栽培されているマスカット・ベーリーA種ブドウを対象に試験を行った。
図1は切除の概要を示したものである。(a)は、新梢と1番果の切除を行わず、通常の栽培方法により栽培を行った例であり、(b)は、結果母枝から伸長した新梢を3節目で切除した例であり、(c)は、摘房および摘心を行った例をそれぞれ図示している。本実施例は
図1と同様に新梢の伸長期である5月に結果母枝から第3節で切除するとともに、新梢に着生する花穂(以下、1番果)のすべてを切除した区域(以下、摘心摘房処理区)でブドウを栽培した。新梢と1番果の切除を行わず、通常の栽培区域(以下、無処理区)で栽培したものを比較対照とした。防除などの栽培管理は、通常の栽培管理方法により、双方の試験区において異ならないように行った。
【0024】
収穫は、無処理区では9月に、摘心摘房処理区では11月に行った。なお、無処理区の一部のブドウについては、摘心摘房処理区の収穫時期である11月まで収穫せずに置き、ブドウ果粒の硬さを比較した。両試験区における開花時期、ベレーゾン時期、収穫時点の果房重量、果粒径及び重量、果実の糖度および果皮のアントシアニン含有量を比較した結果を表1に示している。無処理区のブドウの開花は6月でベレーゾン期は8月であった。一方、摘心摘房処理区の開花日は7月で、ベレーゾンは9月と、開花、ベレーゾンともに摘心摘房処理区が約1ヶ月遅くなった。果房、果粒ともに摘心摘房処理区は無処理区と比較してやや小さくなった。収穫時の糖度は6°Brix(ブリックス値)高く、果皮のアントシアニン量も2.5倍多い色の濃いブドウとなった。
【0025】
【表1】
【0026】
また、無処理区のブドウを摘心摘房処理区のブドウの一部を9月に収穫せずに木にならせたままの状態で、摘心摘房処理区に合わせて11月に収穫した時の果粒の硬さ(果肉の硬さ)をプッシュスケール(株式会社イマダ)により比較した結果を表2に示している。無処理区のブドウは1番果であり、摘心摘房処理区の2番果に比較して約1/2の力で果粒がつぶれ、過度に熟して果肉が軟化した。摘心摘房処理区の果粒は、果肉に弾力があり、よい食味であった。
【0027】
【表2】
【0028】
山梨県において棚栽培されているピオーネを対象にして、前述のマスカット・ベーリーA種と同様に、新梢の伸長期である5月に結果母枝から第3節で切除するとともに、新梢に着生する1番果のすべてを切除した。新梢と1番果の切除を行わず、通常の栽培を行ったものを比較対照とした。防除などの栽培管理は、通常の栽培管理方法により、双方の試験において異ならないように行った。
【0029】
収穫は、無処理区では9月に、摘心摘房処理区では10月に行った。両試験区における開花時期、ベレーゾン時期、収穫時点果粒径及び重量、果実の糖度を比較した結果を表3に示している。無処理区のブドウの開花は6月でベレーゾン期は7月であった。一方、摘心摘房処理区の開花日は7月で、ベレーゾンは8月と、開花、ベレーゾンともに摘心摘房処理区が約1ヶ月遅くなった。果粒は摘心摘房処理区が無処理区と比較してやや小さく、収穫時の糖度は5°Brix高くなった。
【0030】
【表3】
【0031】
マスカット・ベーリーA種の無処理区から9月(1番果)、10月(1番果遅摘み)に収穫したそれぞれの10 Kgおよび摘心摘房処理区から11月に収穫した10 Kgのブドウを用いて、収穫後ただちに赤ワインの醸造を行った。9月および10月収穫のブドウは糖分が不足していたため、ワインの仕込み時において糖度が22度になるように上白糖にて補糖した。除梗破砕時に亜硫酸を50ppm添加し、酵母はEC1118を用いて発酵温度25℃で8〜10日間発酵を行った。仕込み時の果汁分析と成製ワインの分析結果を表4に示している。
【0032】
【表4】
【0033】
仕込み時の果汁は無処理区では、9月収穫、10月収穫の双方において転化糖分が不足しており、ワインの仕込み時に補糖が必要であった。一方、摘心摘房処理区の11月収穫では、十分な転化糖分が含まれ、補糖を必要としなかった。また、マスカット・ベーリーA種の特徴的な香気成分であるフラネオールは、摘心摘房処理区において、無処理区の果汁に比較して著しく多く含有された。
【0034】
製成ワインの分析において、摘心摘房処理区の11月収穫のブドウから醸造したワインは、果汁に十分な転化糖分が含まれていたことから、高いアルコールの含有量であり、収穫時期が最も遅いものの、無処理区の10月収穫(遅摘み)のブドウから醸造したワインに比較して、総酸が高い値を示し、酸も十分に残ったワインであった。また、摘心摘房処理区の11月収穫のブドウから醸造したワインは、無処理区双方のワインと比較して総ポリフェノールが著しく多く含まれ、総アントシアニン、OD520nm、色素パラメーターの分析値が示すように、色が濃いワインであった。さらに、当該ワインは、マスカット・ベーリーA種の特徴的な香気成分であるフラネオールを2〜4倍多く含有し、官能評価コメントにも示すように高い品質であることが認められた。
【0035】
山梨県において垣根栽培されているカベルネ・ソービニヨン種ブドウを対象に前述のマスカット・ベーリーA種と同様に、新梢の伸長期の5月に結果母枝から5節で切除するとともに、新梢に着生する1番果のすべてを切除した。新梢と1番果の切除を行わず、通常の栽培を行ったものを比較対象とした。防除などの栽培管理は、通常の栽培管理方法により、双方の試験において異ならないように行った。
収穫は、無処理区では9月に、摘心摘房処理区では11月に行った。両試験区におけるブドウ果粒の評価および試験ブドウを用いて醸造したワインの成分分析の結果を表5に示している。
【0036】
【表5】
【0037】
摘心摘房処理区のブドウ果粒は無処理区に比較して重量、横径ともに小さくなり、果粒1粒あたりの平均の種の数も摘心摘房処理区においてわずかに少なくなった。しかし、果粒重量あたりの種の重量の比率は、摘房摘心処理区が無処理区に比較して1.4%程度高くなった。さらに、果粒1粒あたりの果皮表面積は摘心摘房処理区が小さいものの、1粒あたりの重量が小さいことから、果粒100gあたりでは逆に摘心摘房処理区が大きくなり、同じ重量のブドウを原料とした場合には、摘心摘房処理区が種、果皮の比率が高くなることが示された。なお、当該実施例における種、果皮表面積の差異は、セニエの割合として20%程度に相当するものである。表5から見て取れるように、果粒重量あたりの種の重量比率は摘心・摘花処理した方が5%を超えて高くなることは明らかとなっている。また、摘心摘房処理区のブドウを原料として醸造したワインは、無処理区のそれに比較して総ポリフェノール、総アントシアニンの含有量が著しく高く、色調も濃くなった。
【0038】
山梨県において棚栽培されているマスカット・ベーリーAブドウを対象に前述のマスカット・ベーリーA種と同様に、新梢の伸長期の5月に結果母枝から5節で切除するとともに、新梢に着生する1番果のすべてを切除した。新梢と1番果の切除を行わず、通常の栽培を行ったものを比較対象とした。防除などの栽培管理は、通常の栽培管理方法により、双方の試験において異ならないように行った。
収穫は、無処理区では9月に、摘心摘房処理区では10月に行った。両試験区におけるブドウ果粒の評価および試験ブドウを用いて醸造したワインの成分分析の結果を表6に示している。
【0039】
【表6】
【0040】
摘心摘房処理区のブドウ果粒は無処理区に比較して重量、横径ともに小さくなり、果粒1粒あたりの平均の種の数も摘心摘房処理区においてわずかに少なくなった。しかし、果粒重量あたりの種の重量の比率は、摘房摘心処理区が無処理区に比較して1.4%程度高くなった。さらに、果粒1粒あたりの果皮表面積は摘心摘房処理区が小さいものの、1粒あたりの重量が小さいことから、果粒100gあたりでは逆に摘心摘房処理区が大きくなり、同じ重量のブドウを原料とした場合には、摘心摘房処理区が種、果皮の比率が高くなることが示された。なお、当該実施例における種、果皮表面積の差異は、セニエの割合として20%程度に相当するものである。表6から見て取れるように、果粒重量あたりの種の重量比率は摘心・摘花処理した方が4%を超えて高くなることは明らかとなっている。また、摘心摘房処理区のブドウを原料として醸造したワインは、無処理区のそれに比較して総ポリフェノール、総アントシアニンの含有量が著しく高く、色調も濃くなった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、ブドウの萌芽から展葉期に続く、新梢の伸長から開花、結実期、果粒肥大期において摘心と花穂(1番果)の切除の双方を行うことによって、副梢の発生と副梢の花穂(2番果)形成を早期に誘導し、糖度が高く、かつ、着色改善と香味、食味向上あるいは小果粒化が同時に達成されたブドウを提供することができ、本発明によるブドウを原料としてワイン醸造を行うことにより、色調、香味品質ともに優れるワインを提供することができる。
【0042】
また、収穫時期が通常の収穫期よりも遅くなることから、栽培管理作業をずらして実施でき、労力の分散が図れ、収穫時期をずらして出荷を可能にし、市場における価格の安定化を図れる。
【0043】
さらには、ワインの仕込み時期におけるブドウの一次的な集中を分散し、安定的な仕込みと計画的な製造が可能になる。