特許第6670507号(P6670507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ベックスの特許一覧

特許6670507気泡噴出チップ、局所アブレーション装置及び局所アブレーション方法、並びにインジェクション装置及びインジェクション方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670507
(24)【登録日】2020年3月4日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】気泡噴出チップ、局所アブレーション装置及び局所アブレーション方法、並びにインジェクション装置及びインジェクション方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20200316BHJP
   C12N 15/89 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C12M1/00 A
   C12N15/89 Z
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-546540(P2017-546540)
(86)(22)【出願日】2016年10月17日
(86)【国際出願番号】JP2016080692
(87)【国際公開番号】WO2017069085
(87)【国際公開日】20170427
【審査請求日】2018年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-205948(P2015-205948)
(32)【優先日】2015年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502251061
【氏名又は名称】株式会社ベックス
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】山西 陽子
(72)【発明者】
【氏名】神林 卓也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和基
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/129657(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/039783(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/052511(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/072408(WO,A1)
【文献】 神林卓也、外2名,"Two-dimensional reagent-laden bubble injection by arrayed electrodes.",日本機械学会第6回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集,2014年10月20日,ROMBUNNO.21PM3-PM006
【文献】 神林卓也、外2名,「マイクロアレイ電極による多筒式インジェクション」,ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集,2015年 5月17日,Vol.2015,2A2-Q08(p.1-4)
【文献】 濱野洋平、外2名,「多層界面を有する気泡生成デバイス」,化学とマイクロ・ナノシステム,2015年 3月,Vol.14, No.1,pp.35-36,ISSN 1881-364X
【文献】 山西陽子,「微細気泡の気液界面による薬剤・細胞輸送」,芝浦工業大学2013年度特別教育・研究報告集,2014年 6月30日,pp.59-62
【文献】 「山西研究室 微細機能性流体工学研究室」,[online], インターネット,2015年 3月18日,[検索日:平成28年12月20日],URL,http://web.archive.org/web/20150318054404/http://www.sic.shibaura-it.ac.jp/~yoko/researches.html
【文献】 神林卓也、外2名,「3次元マイクロアレイ電極誘起気泡によるインジェクションデバイス」,日本機械学会第7回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集,2015年10月21日,ROMBUNNO.29pm3-PN-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12Q 1/00−3/00
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、通電部、気泡噴出部を少なくとも含み、
前記通電部は、前記基板上に形成され、
前記気泡噴出部は、導電材料で形成された電極、絶縁性の感光性樹脂で形成された外郭部及び外郭部から延伸した延伸部を含み、前記外郭部は前記電極の周囲を覆い且つ前記延伸部は前記電極の先端より延伸し、更に、前記気泡噴出部は前記延伸部及び前記電極の先端との間に形成された空隙を含み、
前記気泡噴出部の電極は前記通電部上に形成され、
前記気泡噴出部の空隙には、前記電極と反対側に気泡噴出口が形成され、
前記気泡噴出口が、前記基板からみて前記通電部を積層した方向に形成され、
前記気泡噴出部が2以上形成されている(但し、2以上の気泡噴出部の高さが全て同じになることを除く。)、
気泡噴出チップ。
【請求項2】
前記感光性樹脂が、ネガティブ型フォトレジストである請求項1に記載の気泡噴出チップ。
【請求項3】
前記気泡噴出部の電極とで電極対を構成する対向電極が、前記基板上に形成されている請求項1又は2に記載の気泡噴出チップ。
【請求項4】
前記気泡噴出部の周りに形成された外側外郭部を更に含み、前記気泡噴出部と前記外側外郭部との空間にインジェクション物質を含む溶液を貯めることができる請求項1〜の何れか一項に記載の気泡噴出チップ。
【請求項5】
前記空間にインジェクション物質を含む溶液及び/又はアシスト流を形成するための溶液を送液するための流路が形成されている請求項に記載の気泡噴出チップ。
【請求項6】
請求項1〜の何れか一項に記載の気泡噴出チップを含む局所アブレーション装置。
【請求項7】
請求項1〜の何れか一項に記載された気泡噴出チップを含むインジェクション装置。
【請求項8】
請求項に記載の局所アブレーション装置の気泡噴出チップの少なくとも空隙を溶液で満たし、
前記局所アブレーション装置の電極と対向電極とで構成される電極対に高周波パルスを印加することで、気泡噴出部の先端から気泡を放出させ、
該気泡で加工対象物を加工する局所アブレーション方法。
【請求項9】
前記高周波パルスを印加した際に、前記電極から放電する請求項に記載の局所アブレーション方法。
【請求項10】
請求項に記載のインジェクション装置の気泡噴出チップの少なくとも空隙を、インジェクション物質を含む溶液で満たし、
前記インジェクション装置の電極と対向電極とで構成される電極対に高周波パルスを印加することで、前記インジェクション物質を含む溶液が吸着した気泡を放出し、
該気泡で加工対象物を局所アブレーションしながら、加工対象物にインジェクション物質を導入するインジェクション方法。
【請求項11】
前記高周波パルスを印加した際に、前記電極から放電する請求項10に記載のインジェクション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、気泡噴出チップ、局所アブレーション装置及び局所アブレーション方法、並びにインジェクション装置及びインジェクション方法に関する。特に、基板上に形成した通電部に電極が接続するように気泡噴出部を基板平面に対して上方に向けて形成することで、気泡噴出チップを置いた際に気泡噴出口が上方を向き、気泡を上方に噴出できる気泡噴出チップ、及び該気泡噴出チップを含む局所アブレーション装置及び局所アブレーション方法、並びにインジェクション装置及びインジェクション方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のバイオテクノロジーの発展に伴い、細胞の膜や壁に孔をあけ、細胞から核を除去又はDNA等の核酸物質の細胞への導入等、細胞等の局所加工の要求が高まっている。局所加工技術(以下、「局所アブレーション法」と記載することがある。)としては、電気メス等のプローブを用いた接触加工技術や、レーザー等を用いた非接触アブレーション技術などを用いた方法が広く知られている。特に、電気メスの接触加工技術は最近数マイクロメートルオーダーの焼結面に抑えることによって、熱侵襲領域を抑えて分解能を向上させた技術が考案されている(非特許文献1参照)。
【0003】
また、レーザー加工においてはフェムト秒レーザーの躍進が目覚ましく、最近では細胞加工を行う技術(非特許文献2参照)や液相中で気泡発生を抑えたレーザー加工技術が考案されている。
【0004】
しかしながら、従来の電気メス等のプローブを用いた接触加工技術においては、連続高周波によって発生させたジュール熱により対象物を焼き切る性質があるため、切断面の粗さと熱による周辺組織への熱侵襲の影響が大きいという問題があった。また、フェムト秒レーザー等のレーザーによる非接触加工技術においても、高密度エネルギーが局所的に当たることで切断面周囲組織の熱侵襲の影響の問題があった。
【0005】
一方、細胞等への核酸物質等を導入するための局所的な物理的インジェクション技術(以下、「インジェクション方法」と記載することがある。)としては、電気穿孔法、超音波を用いたソノポレーション技術及びパーティクルガン法等が広く知られている。
【0006】
しかしながら、従来の電気穿孔法技術においては、電界強度により細胞膜の透過性を向上させるのに限界があり、柔軟な脂質2重膜ではなくて硬い細胞膜や細胞壁を有する対象物へインジェクションが困難であり、電極の配置などの制限により局所的な狙った場所へのインジェクションが困難であった。また、超音波を利用したソノポレーション技術においては超音波の集束が困難であり、局所的な気泡のキャビテーションを発生させ解像度を上げることが困難であった。また、パーティクルガン法によるインジェクション方法においても、粒子表面に付着させた物質が粒子を打ち込む際に表面から離脱してしまい導入効率が低いという問題があった。また、電気穿孔法、ソノポレーション法及びパーティクルガン法においては、インジェクションする物質の消費量が多く、貴重な物質をインジェクションすることが困難であるという問題もあった。
【0007】
上記従来の局所アブレーション方法、インジェクション方法の問題を解決するため、本発明者らは、導電材料で形成された芯材と、絶縁材料で形成され、前記芯材を覆い、かつ前記芯材の先端から延伸した部分を含む外郭部、及び前記外郭部の延伸した部分及び前記芯材の先端との間に形成された空隙を含む気泡噴出部材を作製し、該気泡噴出部材を溶液に浸漬させ、溶液中で高周波電圧を印加することで気泡を発生し、該気泡を加工対象物に連続的に放出することで加工対象物を切削(局所アブレーション)できることを見出して、特許出願している(特許文献1参照)。
【0008】
また、前記気泡噴出部材の外郭部の外側に、外郭部と空間を有するように外側外郭部を設け、前記空間にインジェクション物質を溶解及び/又は分散した溶液を導入することで、インジェクション物質が溶解及び/又は分散した溶液が界面に吸着した気泡を発生することができ、該気泡を加工対象物に連続的に放出することで加工対象物を切削するとともに、気泡を覆う溶液に含まれるインジェクション物質を加工対象物にインジェクションできることを見出し、特許出願している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5526345号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】D. Palanker et al.、J. Cataract. Surgery、 38、 127−132、 (2010)
【非特許文献2】T. Kaji et al.、 Applied Physics Letters、 91、 023904、 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、図1(1)に示すように、基板上に積層した感光性樹脂と感光性樹脂の間に電極を設けることで気泡噴出部を形成し、更に漏電防止のため、気泡噴出チップの上面をPDMSでパッケージした気泡噴出チップ(以下、「多筒式チップ1’」と記載することがある。)を本発明者らは開発している(山西陽子等、“マイクロアレイ電極による多筒式インジェクション”、No.15−2 Proceedings of the 2015 JSME Conference on Robotics and Mechatronics, Kyoto, Japan, May 17−19, 2015、以下「非特許文献3」と記載する。)。図1(1)に示す気泡噴出部は、基板と平行に形成されている。そのため、図1(1)に示す多筒式チップ1’をシャーレ等に入れた溶液に浸漬して使用する時には、多筒式チップ1’の薄板状の基板の為、図1(2)に示すように、多筒式チップ1’は鉛直方向ではなく、水平又は斜め方向からシャーレ等に浸漬する使用方法が一般的である。無論、多筒式チップ1’を鉛直方向に浸漬することは可能であるが、その場合、シャーレ等の深さを多筒式チップ1’の大きさより深くする必要がある。
【0012】
また、上記非特許文献3には、図2に示すように、加工対象物を把持する箇所を気泡噴出部の前方に形成することも記載されているが、図2に示す加工対象物を把持する箇所は、気泡を水平方向に噴出することを意図した構成である。
【0013】
本願は、上記問題点を解決するためになされた発明であり、鋭意研究を行ったところ、
(1)フォトリソグラフィ技術を用いて基板上に通電部を形成し、基板上に形成した通電部に電極が接続するように気泡噴出部を上方に向けて形成することで、気泡噴出チップをシャーレ等に置いた際に気泡噴出口が上方を向き、気泡を基板平面に対して略垂直方向に噴出できること、
(2)気泡噴出部を構成する感光性樹脂を、基板に対して上方から筒状にエッチングして形成することで、気泡噴出部を任意の個数及び任意の位置に配置した気泡噴出チップを作製できること、
を新たに見出した
【0014】
すなわち、本願の目的は、気泡噴出チップ、局所アブレーション装置及び局所アブレーション方法、並びにインジェクション装置及びインジェクション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願は、以下に示す、気泡噴出チップ、局所アブレーション装置及び局所アブレーション方法、並びにインジェクション装置及びインジェクション方法に関する。
【0016】
(1)基板、通電部、気泡噴出部を少なくとも含み、
前記通電部は、前記基板上に形成され、
前記気泡噴出部は、導電材料で形成された電極、絶縁性の感光性樹脂で形成された外郭部及び外郭部から延伸した延伸部を含み、前記外郭部は前記電極の周囲を覆い且つ前記延伸部は前記電極の先端より延伸し、更に、前記気泡噴出部は前記延伸部及び前記電極の先端との間に形成された空隙を含み、
前記気泡噴出部の電極は前記通電部上に形成されている、
気泡噴出チップ。
(2)前記気泡噴出部が2以上形成されている上記(1)に記載の気泡噴出チップ。
(3)前記気泡噴出部の高さが異なる上記(2)に記載の気泡噴出チップ。
(4)前記感光性樹脂が、ネガティブ型フォトレジストである上記(1)〜(3)の何れか一に記載の気泡噴出チップ。
(5)前記気泡噴出部の電極とで電極対を構成する対向電極が、前記基板上に形成されている上記(1)〜(4)の何れか一に記載の気泡噴出チップ。
(6)前記気泡噴出部の周りに形成された外側外郭部を更に含み、前記気泡噴出部と前記外側外郭部との空間にインジェクション物質を含む溶液を貯めることができる上記(1)〜(5)の何れか一に記載の気泡噴出チップ。
(7)前記空間にインジェクション物質を含む溶液及び/又はアシスト流を形成するための溶液を送液するための流路が形成されている上記(6)に記載の気泡噴出チップ。
(8)上記(1)〜(7)の何れか一に記載の気泡噴出チップを含む局所アブレーション装置。
(9)上記(1)〜(7)の何れか一に記載された気泡噴出チップを含むインジェクション装置。
(10)上記(8)に記載の局所アブレーション装置の気泡噴出チップの少なくとも空隙を溶液で満たし、
前記局所アブレーション装置の電極と対向電極とで構成される電極対に高周波パルスを印加することで、気泡噴出部の先端から気泡を放出させ、
該気泡で加工対象物を加工する局所アブレーション方法。
(11)前記高周波パルスを印加した際に、前記電極から放電する上記(10)に記載の局所アブレーション方法。
(12)上記(9)に記載のインジェクション装置の気泡噴出チップの少なくとも空隙を、インジェクション物質を含む溶液で満たし、
前記インジェクション装置の電極と対向電極とで構成される電極対に高周波パルスを印加することで、前記インジェクション物質を含む溶液が吸着した気泡を放出し、
該気泡で加工対象物を局所アブレーションしながら、加工対象物にインジェクション物質を導入するインジェクション方法。
(13)前記高周波パルスを印加した際に、前記電極から放電する上記(12)に記載のインジェクション方法。
【発明の効果】
【0017】
本願の気泡噴出チップは、気泡噴出口が基板の上方に開口するように気泡噴出部を形成している。そのため、溶液中で気泡を上方に向かって噴出できるので、溶液中で気泡が進む際に、浮力による進行方向の変化が少なくなる。また、気泡噴出チップ1を構成する部材等に気泡が付着することも無い。更に、気泡噴出チップをシャーレ等の容器の底部に配置すると、気泡噴出部が上方を向くことから、加工対象物を下方向から局所アブレーション又は局所インジェクションを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(1)及び(2)は、多筒式チップ1’の概略を示す図である。
図2図2は、多筒式チップ1’の概略を示す図である。
図3図3は、気泡噴出チップ1の実施形態の一例の概略を示す図である。
図4図4(1)〜(4)は気泡噴出チップ1の他の実施形態を示す図である。
図5-1】図5−1は、気泡噴出チップ1の製造工程の一例を示す図である。
図5-2】図5−2は、気泡噴出チップ1の製造工程の一例を示す図である。
図5-3】図5−3は、気泡噴出チップ1の製造工程の一例を示す図である。
図6図6(1)〜(4)は、気泡噴出チップ1の他の実施形態を示す図である。
図7図7は、気泡噴出チップ1を用いた局所アブレーション装置6の実施形態の一例の全体構成を示す図である。
図8図8は、インジェクション装置により適した気泡噴出チップ1の実施形態の一例の概略を示す図である。
図9図9は、図8のA−A’断面図である。
図10図10(1)〜(6)は、気泡噴出チップ1を針なし注射として用いる場合の実施形態の一例を説明する図である。
図11図11(1)は、図面代用写真で、実施例1で作製した気泡噴出チップ1の写真、図11(2)は、図面代用写真で、気泡噴出部3付近を拡大した写真である。図11(3)は作製した気泡噴出部3付近の寸法を表すための図である。図11(4)は、図面代用写真で、気泡噴出部3と少なくとも対向電極5の一部を枠体41内に配置した写真である。
図12図12は、図面代用写真で、ハイスピードカメラで気泡36の発生を撮影した写真である。
図13図13は、図面代用写真で、実施例3で気泡の噴出に加え、電極31から放電していることを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、気泡噴出チップ、局所アブレーション装置及び局所アブレーション方法、並びにインジェクション装置及びインジェクション方法について図面を参照しながら詳しく説明する。
【0020】
図3は、気泡噴出チップ1の実施形態の一例の概略を示す図である。気泡噴出チップ1は、基板2、気泡噴出部3、及び通電部4を少なくとも含んでいる。通電部4は、基板2上に形成されている。また、気泡噴出部3は、導電性材料で形成された電極31、外郭部32、延伸部33、及び空隙34を含んでいる。より具体的には、外郭部32は電極31の周囲を覆い、延伸部33は電極31の先端より更に外郭部32から延伸している。空隙34は、延伸部33及び電極31の先端との間に形成されており、電極31と反対側には、気泡噴出口35が形成されている。図3に示すように、空隙34は、気泡噴出口35以外は電極31及び延伸部33で覆われている。つまり、電極31と外郭部32の間には液体等を送るための空間(チャネル)は形成されておらず、空隙34は気泡噴出口35のみを介して外部と連通する。図3には図示していない対向電極5と電極31とに電圧を印加することで、気泡36を連続的に噴出することができる。なお、後述するとおり、電極31に印加する電圧を大きくすることで、気泡36の噴出に加え電極31から放電することもできる。また、後述するとおり、対向電極5は、基板2上に形成してもよいし、気泡噴出チップ1とは別体としてもよい。
【0021】
基板2を形成する材料としては、通電部4を積層できるものであれば特に制限は無く、例えば、ガラス、石英、PMMA、シリコン等が挙げられる。
【0022】
電極31を形成する材料としては、通電することができ、且つ、電気メッキ、無電解メッキ等の方法により通電部4上に堆積できる材料であれば特に制限は無く、例えば、ニッケル、金、白金、銀、銅、スズ、マグネシウム、クロム、タングステン等の金属、又はそれらの合金が挙げられる。
【0023】
気泡噴出チップ1は、外郭部32及び延伸部33はフォトリソグラフィ技術を用いて作製する。したがって、外郭部32及び延伸部33を形成する材料は、絶縁性の感光性樹脂であれば特に制限は無い。例えば、市販されているTSMR V50、PMER等のポジティブ型フォトレジスト、SU−8、KMPR等のネガティブ型フォトレジストが挙げられる。電極31と対向電極5に通電することで気泡36を噴出することから、特に高電圧を印加した場合、微細な部分である気泡噴出口35に負荷がかかり易い。SU−8、KMPR等のネガティブ型フォトレジストは、ポジティブ型フォトレジストより硬度が高いため、気泡噴出部3に高電圧をかける場合は、感光性樹脂としてネガティブ型フォトレジストを用いることが好ましい。
【0024】
通電部4及び対向電極5は、外部電源の電気を電極31に流すことができれば特に制限は無く、上記電極31と同様の材料を用いることができる。対向電極5を別体とする場合は、電極31と通電できればよいので、棒状、板状等、形状等に特に制限は無い。対向電極5を基板2上に形成する場合は、通電部4と同様に基板2上に積層すればよい。
【0025】
電極31及び対向電極5に電気を出力すると、空隙34で形成された気泡が引き千切られるように気泡噴出口35から噴出するので、気泡噴出部3に外部から気体を供給する必要は無い。
【0026】
また、空隙34内で気泡36が形成される際には、気泡噴出口35の内径(以下、「直径D」又は「D」と記載することがある。)に近い大きさの気泡が生成される。したがって、空隙34の深さ(電極31の先端から気泡噴出口35までの長さ。以下、「L」と記載することがある。)は、少なくとも空隙34内で気泡が生成できる大きさである必要があり、L/Dは少なくとも1以上であることが好ましい。一方、L/Dの上限は、気泡36が連続的に噴出できる大きさであれば特に制限はない。L/Dは、積層する感光性樹脂の厚さ、及び堆積する電極31の高さで調整することができる。噴出する気泡36の大きさは、気泡噴出口35の直径Dを変えることで調整することができ、製造の際にフォトマスクの形状で調整すればよい。
【0027】
図3に示す気泡噴出チップ1の実施形態は、説明の関係上、複数の気泡噴出部3を形成した例を示しているが、気泡噴出部3は一つであってもよい。また、後述する製造方法に示すとおり、気泡噴出チップ1は、気泡噴出部3を構成する外郭部32及び延伸部33を、基板2に対して上方から筒状にエッチングして形成することで、気泡噴出部3を任意の個数及び任意の位置に配置した気泡噴出チップを作製することができる。
【0028】
図4は気泡噴出チップ1の他の実施形態を示す図で、例えば、図4(1)に示す等間隔、図4(2)に示す円形、図4(3)に示す×状等、気泡噴出部3を任意の個数及び配置に形成できる。また、感光性樹脂を積層する厚さ及びフォトマスクの形状を変えた露光・エッチングを繰り返すことで、任意の個数及び任意の位置に配置することに加え、例えば、図4(4)に示すように、気泡噴出部3の高さを変えることもできる。加工対象物にインジェクションを行う際に、一か所ではなく、ライン状又は面状等、加工対象物に対して複数箇所を一度にインジェクションする場合がある。多筒式チップ1’を用いた場合、ライン状のインジェクションに加え、多筒式チップ1’を複数個積層することで面状にインジェクションすることはできる。しかしながら、多筒式チップ1’を複数個積層した場合、気泡噴出口を面状に形成することはできるが、例えば、円形状、×状等、気泡噴出口の配置を任意に設定することは難しい。一方、本願の気泡噴出チップ1は、任意の個数及び任意の位置に気泡噴出部を配置することができる。更に、図4(4)に示すように、気泡噴出部3の高さを変えた場合、加工対象物が立体形状であっても、気泡噴出口と加工対象物の距離を一定にすることができる。
【0029】
図5−1〜図5−3は、本願の気泡噴出チップ1の製造工程の一例を示す図である。なお、図5−1〜図5−3は図示の関係上、気泡噴出部3が一つの例が記載されているが、気泡噴出部3を複数形成する場合は、フォトマスクの形状を変えればよい。
(1)通電部4を形成する材料をスパッタリングにより基板2上に積層する。
(2)フォトレジスト8を塗布し、最終的に通電部4を形成する部分にフォトレジスト8が残るように、マスクを用いて露光・現像する。
(3)ウェットエッチング等の方法により、通電部4を形成する部分以外の材料を除去する。
(4)フォトレジスト8を除去することで、通電部4を形成する。なお、図示していないが、対向電極5を基板2上に形成する場合は、フォトマスクの形状を変えることで、通電部4と同時に対向電極5を形成すればよい。
(5)フォトレジストを塗布し、通電部4の不要部分(気泡噴出部3を形成しない部分)の上にフォトレジストが残るようにマスクを用いて露光・現像する。露光・現像によりフォトレジストは硬化することから、以下の工程で除去されず絶縁層37を形成する。
(6)フォトレジストを塗布し外郭部32及び延伸部33が残るような形状に設計したフォトマスクを用いて露光・現像する。露光・現像により硬化したフォトレジストが外郭部32及び延伸部33となる。気泡噴出部3の電極31の大きさは、フォトマスクの大きさを調整すればよい。
(7)通電部4の上に、電気めっきにより電極31を成長させることで、実施形態に示す気泡噴出チップ1を作製することができる。(6)及び(7)に示すように、電極31の周囲の全てが筒状の感光性樹脂(外郭部32、延伸部33)で覆われている点で、図1及び図2に示す多筒式チップ1’と異なる。そして、通電部4上で電極31を成長させることで、基板2の上方に気泡噴出口35を向かせることができる。なお、「基板の上方」とは、通電部4を形成した基板2の平面に対し略鉛直方向、または、基板2からみて通電部4を積層した方向を意味する。両者は、表現は異なるが同じ意味である。したがって、気泡噴出チップ1の気泡噴出部3を形成していない面を下側にしてシャーレ等に浸漬することで、気泡噴出口35をシャーレ等内で上方に向けて配置でき、気泡36を上方に噴出することができる。そのため、溶液中で気泡36が進む際に、浮力による進行方向の変化が少なくなると同時に、気泡36の噴出方向と進行方向が同じであるため、気泡噴出口35の周囲で気泡が滞留することがない。なお、気泡噴出チップ1は、対向電極5と電極31が導通すればよいので、例えば、気泡噴出部3及び少なくとも対向電極5の一部を含む枠体を気泡噴出チップ1上に形成し、当該枠体の中に導電性の溶液を満たしてもよい。
【0030】
なお、フォトレジストの塗布を露光・現像を繰り返すことで、気泡噴出チップ1を様々な形態に作製してもよい。例えば、
(7−1)上記(7)の手順に代え、電極31を外郭部32と同じ高さまで成長させる。
(8)フォトレジストを塗布し、延伸部33が残るような形状に設計したフォトマスクを用いて露光・現像する。(8)において、電極31が露出すると漏電のおそれがある。そのため、延伸部33は、外郭部32と電極31にまたがるように形成すればよい。なお、延伸部33の外径を電極31の外径より小さくする場合は、延伸部33を形成した後に、露出している電極31をフォトレジストやPDMS等でマスクをすればよい。また、上記の手順はフォトリソグラフィにより延伸部33を作製しているが、三次元造形・加工技術で別途延伸部33を作製し、接着剤等で接着してもよい。別途作製する延伸部33としては、(8−1)、(8−2)に示すテーパー形状が挙げられるがその他の形状であってもよい。上記のとおり、延伸部33を外郭部32より小さくすることで、気泡の大きさ、速度、侵襲性、指向性等を調整することができる。
(9)なお、必要に応じて、上記(8)の手順に後に、電気めっきにより上段電極31を成長させてもよい。(9)の場合、電極の高さを調整することで気泡の大きさ、速度、侵襲性、指向性等を調整することができる。
【0031】
上記の製造方法では、筒状の感光性樹脂の厚み及び内径を任意に設定できることから印加電圧を大きくしても延伸部33が破損し難くなる。そのため、電極を大きくすることができ、その結果、電極に印加する電圧を上げることで気泡の噴出に加え、電極から放電することもできる。したがって、気泡による局所アブレーション又はインジェクションに加え、加工対象物を放電加工することができるので、癌等の治療装置として利用することができる。また、植物細胞等の生体材料、金属、ポリマー等の多岐にわたる硬い材料に穴を開け、更に、必要に応じて遺伝子や試薬等を導入することもできる。
【0032】
図5−1〜図5−3に示す手順では、気泡噴出部3の高さは全て同じになる。図4(4)に示すように、気泡噴出部3の高さを変える場合は、上記(6)の手順の後、手順(6)を繰り返せばよく、その際に、塗布するフォトレジストの高さを、(6)に示す外郭部32の高さとは異なるようにすればよい。
【0033】
図6は、気泡噴出チップ1の実施形態の他の例を示す図である。気泡噴出部3を複数設ける場合、単一の通電部4の上に全ての気泡噴出部3を形成してもよいが、通電部4を複数に分割して形成してもよい。図6(1)は通電部4をブロック単位、図6(2)は通電部4をライン単位、図6(3)は通電部4を内側部分、外側部分に分割した例を示しているが、分割単位は特に制限はない。通電部4を分割することで、局所アブレーション、局所インジェクションする際に、気泡噴出部3に印加する電圧を分割した単位毎に変化することができる。例えば、図6(3)に示す気泡噴出チップ1を用いて球状の加工対象物を局所アブレーション、局所インジェクションする場合、気泡噴出口と加工対象物との距離が離れている外側部分の電圧を内側部分の電圧より高くすることで、加工対象物に当接する気泡の強さのバラツキを抑えることができる。また、通電部4をブロック単位に分割せずに、図6(4)に示すように、気泡噴出部3毎に通電部4を設けてもよい。図6(4)に示す形態の場合、細胞パターニング等に用いることができる。なお、一つの通電部4上に設けた複数の気泡噴出部3に一度に電圧を印加する場合、通電部4に大きな電圧を印加する必要がある。一方、図6(4)の実施形態の場合、個々の気泡噴出部3に電圧を印加すればよいので、電気出力手段を小型化できる。
【0034】
上記工程で用いるレジスト、エッチャント、スパッタリング装置等は、微細加工技術の分野で用いられている公知の試薬、装置を用いればよい。
【0035】
図7は、気泡噴出チップ1を用いた局所アブレーション装置6の実施形態の一例の全体構成を示す図である。図7に示す局所アブレーション装置6は、電気出力手段を含んでおり、電気出力手段は、一般商用交流電源装置61、並びに気泡噴出チップ1の電極31と対向電極5とで回路を形成するための電線62、を少なくとも含み、必要に応じて、無誘導抵抗63、電圧増幅回路64、図示しないDIO(Digital Input Output)ポート等を設けてもよい。電気出力手段は、従来の電気メス用電気回路に無誘導抵抗63やDIOポート等を組み込み、微小対象用の出力構成にセッティングすることで簡単に作成することができる。
【0036】
電極31及び対向電極5に出力する電気の電流、電圧及び周波数は、気泡を噴出することができ、また、必要に応じで電極31から放電することができ、且つ気泡噴出部3を損傷しない範囲であれば特に制限は無い。例えば、電流は、10mA〜10Aが好ましく、25mA〜800mAがより好ましい。電流が10mAより小さいと気泡36をうまく生成できないことがあり、10Aより大きいと電極摩耗を生じることとなり好ましくない。電圧は、100V〜100kVが好ましく、200V〜8.0kVがより好ましい。電圧が100Vより小さいと気泡36の生成が困難となり、100kVより大きいと電極31の摩耗や延伸部33が破損する恐れがあり好ましくない。周波数は、1kHz〜1GHzが好ましく、5kHz〜1MHzがより好ましく、10kHz〜60kHzが特に好ましい。周波数が1kHzより小さいと、延伸部33が破損する恐れがあり、1GHzより大きいと気泡36が生成できなくなる恐れがあり好ましくない。なお、上記の数値は、目安の数値であって、電極31の大きさにより変更可能である。
【0037】
局所アブレーション方法は、先ず、局所アブレーション装置6の気泡噴出チップ1と対向電極5を導電性の溶液に浸漬する。そして、気泡噴出チップ1の気泡噴出部3の上方に加工対象物を配置し、気泡噴出部3から噴出した気泡36を加工対象物に衝突させることで、加工対象物を局所的にアブレーションすることができる。
【0038】
加工対象物としては、気泡によりアブレーションできるものであれば特に制限は無く、例えば、細胞やタンパク質が挙げられる。細胞としては、ヒトまたは非ヒト動物の組織から単離した幹細胞、皮膚細胞、粘膜細胞、肝細胞、膵島細胞、神経細胞、軟骨細胞、内皮細胞、上皮細胞、骨細胞、筋細胞、卵細胞等の動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、大腸菌、酵母、カビなどの微生物細胞などの細胞を挙げることができる。また、電極31から放電する場合、気泡による加工に加え、放電加工の効果も得られるので、より固い加工対象物であってもよい。例えば、米や植物細胞等の比較的固い生体試料、樹脂類、金属等が挙げられる。なお、本願における「加工」とは、加工対象物に気泡を噴出する、更に必要に応じて放電により、対象物に孔を開けたり、対象物の一部を切削することを意味する。
【0039】
特許文献1において、本発明者らは、気泡噴出部材から噴出する気泡がインジェクション物質を吸着できることを明らかにしている。芯材に通電することで発生した気泡は電気を帯びており、電気によりインジェクション物質が気泡に吸着すると考えられる。したがって、図3又は図4に示す気泡噴出チップ1を用いて局所アブレーションを行う際に、気泡噴出チップ1を浸漬する導電性溶液にインジェクション物質を含ませると、インジェクション物質が周りに吸着した気泡36を噴出することができる。そのため、加工対象物を局所アブレーションしながらインジェクション物質を導入することができる。
【0040】
図8は、インジェクション装置により適した気泡噴出チップ1(以下、「インジェクション用気泡噴出チップ」と記載することがある。)の実施形態の一例の概略を示す図である。また、図9図8のA−A’断面図である。図8及び図9に示す気泡噴出チップ1は、気泡噴出部3の外周にインジェクション物質を含む溶液を満たすことができる外側外郭部7を形成している。外側外郭部7と気泡噴出部3の間に第1インジェクション物質を含む溶液を満たすことで、気泡噴出口35から噴出した気泡36の周囲に第1インジェクション物質を吸着することができる。外側外郭部7は、気泡噴出チップ1とは別体として形成し、気泡噴出部3の周りに配置すればよい。
【0041】
また、必要に応じて導電性の溶液を送液するための流路71を外側外郭部7に接続するように形成してもよい。流路71を通して、第1インジェクション物質を含む溶液を外側外郭部7と気泡噴出部3の間に送液することができる。
【0042】
なお、流路71を形成する場合、第1インジェクション物質を含まない導電性の液体を送液し続けてもよい。その場合、導電性の液体は図8の白色矢印に示すように、気泡噴出部3の延長線方向に液体流を形成する。この液体流がアシスト流として、気泡36の移動のアシストをすることで、加工対象物に当接する気泡36の力を高めることができる。
【0043】
外側外郭部7、流路71は、フォトリソグラフィ、ナノインプリント、エッチング技術、三次元造形、三次元加工技術、紫外線硬化技術、光造形技術、2光子吸収光造形等により作製することができる。また、外側外郭部7及び流路71を作製する材料は絶縁性の材料が好ましく、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、パリレン、エポキシ樹脂、ポリミド、ポリエチレン、ガラス、石英、PMMA、シリコン等の周知の絶縁性材料を用いればよい。
【0044】
上記の局所アブレーション装置6の気泡噴出部チップ1に換え、インジェクション用気泡噴出部チップ1を用いることで、インジェクション装置を作製することができる。インジェクション物質を含む溶液を外側外郭部7と気泡噴出部3の間に満たす以外は、局所アブレーション方法と同様の手順で、加工対象物を局所アブレーションしながら、インジェクション物質を導入することができる。
【0045】
インジェクション物質は、気体、固体、液体を問わず、液体に溶解及び/又は分散できるものであれば特に制限は無く、気体としては空気、窒素、ヘリウム、二酸化炭素、一酸化炭素、アルゴン、酸素等が挙げられ、固体としてはDNA、RNA、タンパク質、アミノ酸、無機物等が挙げられ、液体としては薬剤溶液、アミノ酸溶液等が挙げられる。インジェクション物質を溶解及び/又は分散させる溶液としては、生理食塩水、培地等が挙げられる。
【0046】
図8及び図9に示す外側外郭部7を気泡噴出部3の周囲に配置した場合、気泡噴出部3及び外側外郭部7の間に満たした溶液は表面張力により保持することができる。したがって、図8及び図9に示したインジェクション用気泡噴出部チップ1は、空気中で局所アブレーション又はインジェクションを行う、つまり、針なし注射として利用することができる。針なし注射として使用する場合、図8及び図9に示す気泡噴出チップ1を空気中で直接加工対象物に当接すればよい。
【0047】
図10(1)〜(6)は、針なし注射として使用する場合の実施形態の一例を説明する図である。気泡噴出部3及び外側外郭部7の間に溶液50(以下、「充填溶液」と記載することがある。)を上方から満たした状態で針なし注射を保持する場合、充填溶液50の乾燥防止が必要である。図10(1)は気泡噴出チップ1の周囲にキャップ51を設けた例を示している。また、加工対象物へ気泡噴出チップ1を当接し易くするために、気泡噴出チップ1の基板2に支持体52を取付けてもよい。支持体52は、中実形状に作製してもよいが、中空形状とし、内部に通電部4及び対向電極5に電圧を印加するための電線を通してもよい。また、中空形状にした場合は内部に流路を形成し、図8に示す流路71と接続することで、充填溶液を連続的に供給できるようにしてもよい。その場合、キャップ51は無くてもよい。以下の実施形態においても同様である。
【0048】
図10(2)及び(3)は、針なし注射の他の実施形態を説明するための図である。針なし注射を用いる際には、気泡噴出口と加工対象物の距離が微調整できる構造であることが好ましい。図10(2)及び(3)は、距離の微調整をし易くした実施形態を示している。本実施形態では、気泡噴出チップ1に対して摺動自在な可動枠53を気泡噴出チップ1の周囲に設け、支持体52を可動枠53に形成した孔に摺動可能に挿通し、そして支持体52を気泡噴出チップ1に固定している。また、気泡噴出チップ1の基板2と可動枠53の間には、バネ等の付勢手段54を設け、可動枠53が気泡噴出チップ1より突出するようになっている。本実施形態の針なし注射を使用する場合は、キャップ51を外し、可動枠53の先端を加工対象物10に当接し、バネの付勢力とは反対方向に支持体52を押し込むことで、気泡噴出口と加工対象物10の距離を微調整できる。
【0049】
図10(4)及び(5)は、針なし注射の他の実施形態を説明するための図である。図10(4)及び(5)に示す実施形態では、可動枠53に変え、シリコン等の柔軟性のある材料で気泡噴出チップ1の周りに可変枠56を形成している。図10(4)に示すように、使用前は可変枠56の先端が気泡噴出チップ1より突出するようになっている。本実施形態の針なし注射を使用する場合はキャップを外し、可変枠56の先端を加工対象物10に当接して押し込むことで、可変枠56が変形し、気泡噴出口と加工対象物10の距離を微調整できる。
【0050】
なお、上記図10(1)〜(5)に示す形態は針なし注射として用いる場合の単なる例示であって、その他の実施形態でも良い。また、図10(1)〜(5)は針なし注射を加工対象物の下方から使用した例を示しているが、充填溶液50は表面張力を有することから、図10(6)に示すとおり、気泡噴出口を下に向けて使用してもよい。
【0051】
以下に実施例を掲げ、実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に本願の実施形態の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0052】
<実施例1>
〔気泡噴出チップ1の作製〕
(1)ガラス基板上にスパッタリング装置((株)真空デバイスMSP−30T)を用いて、Auをプラズマ電流値(80mA)、1分間成膜した。
(2)ガラス基板上にOFPR−800 LB(200CP)を2000rpmで30秒間、及び7000rpmで2秒間スピンコートし、オーブン内で90℃で30分間プリベイクした。次いで、クロムマスクを用いて露光後、NMD−3を用いて現像した。現像後は、超純水を用いてリンスをし、スピンドライヤー等で水分を飛ばし乾燥させた。
(3)パターニングされたOFPR以外の領域にAuエッチャント(AURUM−302、関東化学(株)を浸漬させてAuをエッチングし、超純水でリンスした。
(4)ガラス基板をアセトンにつけて残りのOFPR膜を除去して、Au電極部のパターニング、及び対向電極5を完成した。
(5)ガラス基板にSU−8 3005を2000rpmで30秒間スピンコートし、ホットプレート上で95℃で3分間、プリベイクした。その後クロムマスクを用いて露光を行い、ホットプレートの上で95℃で3分間、ポストエクスポージャベイクを行った。最後にPGMEA(2−Methoxy−1−methylethyl acetate;CAS Number:142300−82−1)を用いて現像し、スピンドライヤーで水分をとばし乾燥させSU−8の絶縁層を作製した。
(6)ガラス基板にSU−8 3050を1000rpmで30秒間及び4000rpmで2秒間スピンコートし、ホットプレート上で95℃で50分間、プリベイクした。その後クロムマスクを用いて露光を行い、ホットプレートの上で95℃で5分間、ポストエクスポージャベイクを行った。最後にPGMEA(2−Methoxy−1−methylethyl acetate; CAS Number:142300−82−1)を用いて現像し、スピンドライヤーで水分をとばし乾燥させSU−8の筒状構造物である外郭部32を作製した。
(7)Auパターニング部に電極を接続し、SU−8の外郭部32の内側に沿ってNiめっきをSU−8パターンの高さ(100μm)まで成長させた。
(8)ガラス基板にSU−8 3050を800rpmで30秒間及び4000rpmで2秒間スピンコートし、ホットプレート上で95℃で50分間、プリベイクした。その後クロムマスクを用いて露光を行い、ホットプレートの上で95℃で5分間、ポストエクスポージャベイクを行った。最後にPGMEA(2−Methoxy−1−methylethyl acetate;CAS Number:142300−82−1)を用いて現像し、スピンドライヤー等で水分をとばし乾燥させ、(6)で作製した外郭部32の上にSU−8の筒状構造物(外郭部32及び延伸部33)を作製した。
(9)Auパターニング部に電極を接続し、SU−8の筒状構造物の内側に沿ってNiめっきをSU−8の筒状構造物の上から30μmまで成長させた。
【0053】
図11(1)は実施例1で作製した気泡噴出チップ1の写真で、図11(2)は気泡噴出部3付近を拡大した写真である。また、図11(3)は作製した気泡噴出部3付近の寸法を表すための図である。下段の外郭部32の厚さは約65μm、電極31の直径は約50μm、気泡噴出部3の高さは約150μm、気泡噴出口の直径は約40μmであった。
【0054】
<実施例2>
〔局所アブレーション装置及びインジェクション装置の作製及び気泡噴出実験〕
医療用電気メス(ConMed社製、Hyfrecator2000)のメスに換え、実施例1で作製した気泡噴出チップ1を組み込み、更に、無誘導抵抗及びDIOポートを電気出力手段に組み込み、局所アブレーション装置及びインジェクション装置を作製した。
次に、図11(4)に示すように、気泡噴出部3と少なくとも対向電極5の一部を枠内に配置できる大きさの枠体41をPDMSで作製し、気泡噴出チップ1に貼り付けた。枠体41の枠内には、2.5MのNaCl溶液42を満たした。そして、電流27.7mA、電圧309V、アウトプット周波数は450kHz、インピーダンスマッチングのためのサンプリング周波数は450kHz、3.5kHzでフィードバックを行い、電極31と対向電極5に電気を出力した。気泡の形成は、ハイスピードカメラ(VW−9000,Keyence社製)を用いて、枠体41の側面から撮影を行った。
【0055】
図12は、ハイスピードカメラで気泡36の発生を撮影した写真である。写真から明らかなように、実施例1で作製した気泡噴出チップ1を用いることで、気泡噴出口35から気泡36を上方に向け噴出できることが確認できた。また、気泡噴出口の周囲に気泡の滞留は見られなかった。これは、気泡噴出口が上方を向いており、気泡の噴出力に加え、浮力により上方にスムーズに移動したためと考えられる。
【0056】
<実施例3>
〔プラズマを含む気泡の噴出〕
実施例2で作製した局所アブレーション装置及びインジェクション装置の溶液を0.15MのNaCl溶液とし、電気出力条件を電流5.0A、電圧6.2kV、アウトプット周波数は450kHz、インピーダンスマッチングのためのサンプリング周波数は450kHz、3.5kHzでフィードバックした以外は、実施例2と同様に気泡を噴出した。噴出した気泡を、VW600M(KEYENCE社製)を用い、フレームレート:230,000fpsで撮影した。図13は撮影した写真である。図13から明らかなように、実施例3では、気泡の噴出に加え、電極31から放電していることが確認できた。また、放電が確認できたことから、原理的に気泡にはプラズマが含まれていると考えられる。
【符号の説明】
【0057】
1、1’…気泡噴出チップ、2…基板、3…気泡噴出部、4…通電部、5…対向電極、6…局所アブレーション装置、7…外側外郭部、8…フォトレジスト、10…加工対象物、31…電極、32…外郭部、33…延伸部、34…空隙、35…気泡噴出口、36…気泡、37…絶縁層、41…枠体、42…溶液、51…キャップ、52…支持体、53…可動枠、54…付勢手段、56…可変枠、61…一般商用交流電源装置、62…電線、63…無誘導抵抗、64…電圧増幅回路、71…流路
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13