(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670556
(24)【登録日】2020年3月4日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】非アルコール性脂肪肝炎モデル動物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20200316BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
A01K67/027
C12N15/09 Z
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-122913(P2015-122913)
(22)【出願日】2015年6月18日
(65)【公開番号】特開2017-6022(P2017-6022A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年4月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究事業「細胞間相互作用と臓器代謝ネットワークの破綻により発症する組織線維化の分子機構と医学応用に関する研究」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅波 孝祥
(72)【発明者】
【氏名】小川 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 美智子
【審査官】
飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−209849(JP,A)
【文献】
American Journal of Pathology,2011年,179 (5),2454-2463
【文献】
J. Hepatol.,2013年,58 (4),778-784
【文献】
PLOS ONE,2013年,8 (12),e82163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非アルコール性脂肪肝炎モデルマウスを製造するための方法であって、下記工程(1)及び(2)を含む方法
(1)メラノコルチン4型受容体の発現を抑制したマウスに、高脂肪食を摂取させる工程、
(2)前記高脂肪食を4週間摂取させたマウスに、四塩化炭素を単回投与する工程。
【請求項2】
非アルコール性脂肪肝炎モデルマウスを製造するための方法であって、下記工程(1)及び(2)を含む方法
(1)メラノコルチン4型受容体の発現を抑制したマウスに、高脂肪食を摂取させる工程、
(2)前記高脂肪食を少なくとも15日間かつ4週間以下の期間で摂取させたマウスに、0.1mL/kgを超え、かつ0.4mL/kg以下となる量の四塩化炭素を単回投与する工程。
【請求項3】
非アルコール性脂肪肝炎を抑制する活性を有する化合物をスクリーニングするための方法であって、下記工程(1)〜(6)を含む方法
(1)メラノコルチン4型受容体の発現を抑制したマウスに、高脂肪食を摂取させる工程、
(2)前記高脂肪食を4週間摂取させたマウスに、四塩化炭素を単回投与する工程、
(3)前記四塩化炭素を投与したマウスに、被験物質を接触させる工程、
(4)前記被験物質を接触させたマウスにおいて、非アルコール性脂肪肝炎の程度を検出する工程、
(5)工程(2)において前記四塩化炭素を投与したマウスに、前記被験物質を接触させずに、非アルコール性脂肪肝炎の程度を検出する工程、
(6)工程(4)及び工程(5)において検出した非アルコール性脂肪肝炎の程度を比較し、工程(4)において検出した非アルコール性脂肪肝炎の程度が、工程(5)において検出した非アルコール性脂肪肝炎の程度よりも低い場合に、前記被験物質は非アルコール性脂肪肝炎を抑制する活性を有する化合物であると判定する工程。
【請求項4】
非アルコール性脂肪肝炎を抑制する活性を有する化合物をスクリーニングするための方法であって、下記工程(1)〜(6)を含む方法
(1)メラノコルチン4型受容体の発現を抑制したマウスに、高脂肪食を摂取させる工程、
(2)前記高脂肪食を少なくとも15日間かつ4週間以下の期間で摂取させたマウスに、0.1mL/kgを超え、かつ0.4mL/kg以下となる量の四塩化炭素を単回投与する工程、
(3)前記四塩化炭素を投与したマウスに、被験物質を接触させる工程、
(4)前記被験物質を接触させたマウスにおいて、非アルコール性脂肪肝炎の程度を検出する工程、
(5)工程(2)において前記四塩化炭素を投与したマウスに、前記被験物質を接触させずに、非アルコール性脂肪肝炎の程度を検出する工程、
(6)工程(4)及び工程(5)において検出した非アルコール性脂肪肝炎の程度を比較し、工程(4)において検出した非アルコール性脂肪肝炎の程度が、工程(5)において検出した非アルコール性脂肪肝炎の程度よりも低い場合に、前記被験物質は非アルコール性脂肪肝炎を抑制する活性を有する化合物であると判定する工程。
【請求項5】
前記四塩化炭素の単回投与量が0.05〜0.4mL/kgである、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記高脂肪食が、脂肪をエネルギー比率にて40%以上含む組成物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非アルコール性脂肪肝炎モデル動物の製造方法に関する。また本発明は、当該製造方法を利用する、非アルコール性脂肪肝炎を抑制する活性を有する化合物をスクリーニングするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲酒習慣がないにも関わらず、メタボリックシンドロームに合併して発症し、肝硬変症や肝細胞癌にしばしば進行する、非アルコール性脂肪肝炎(non−alcoholic steatohepatitis、以下「NASH」とも称する)が注目されている。日本においてもNASH症例は100万人を超えると推定されており、また欧米では既に、肝硬変症や肝細胞癌の大部分はNASHに由来しているのが現状である。
【0003】
このように、その患者数は近年急速に増加しており、さらに肝硬変症や肝細胞癌になるリスクも高いため、NASHは、有効な治療・予防方法の開発が強く望まれているアンメット・メディカルニーズの極めて高い疾患である。また、現状では、NASHの確定診断や重症度判定には肝生検が必須であることから、侵襲性の低い診断方法の開発も切望されている。しかしながら、NASHの詳細な病態は未だ不明な点が多いこともあり、有効な治療方法、予防方法及び診断方法のいずれも開発されていないのが現状である。
【0004】
また通常、このような治療方法等の開発には、病態モデルが有用であり、NASHに関しても、多々そのモデル動物についての報告がされている。例えば、マウス又はラットに、高脂肪食を摂取させ、四塩化炭素(CCl
4)等の肝障害剤を投与することにより脂肪肝と肝障害とを惹起した例が、NASHモデル動物として報告されている(特許文献1、非特許文献1〜6)。
【0005】
しかしながら、このようにして調製されたマウス等においては、ヒトNASHの特徴である後述のhCLSが認められない等、ヒトNASHの表現型を反映しているとは評価し難いものであった。さらに、これらのマウス等においては、脂肪肝等の病変の発症に至るまでに、四塩化炭素等を複数回投与する必要があるため、当該マウスを用いた薬効評価や病態発症メカニズムを解析する上で、当該薬剤による直接的な影響との区別がつきにくく、このような解析を行う上での障害となることが著しく懸念されている。また、病変の発症に至るまでに必要な高脂肪食の負荷期間は6〜12週間であり、モデル動物の調製に多大な時間を要するものであった。
【0006】
そこで、かかる状況を鑑みた本発明者らによって、中枢性のエネルギー代謝調節に働くメラノコルチン4型受容体(MC4R:melanocortin 4 receptor)を欠損するMC4Rノックアウトマウスに、高脂肪食を負荷させることにより、脂肪肝からヒトNASHに特徴的な肝組織像を示すNASHモデル動物が確立されている(非特許文献7)。特に、本発明者らは、このマウスを用いて、肝線維化の起点となる、NASH特徴的な組織学的構造(hepatic crown−like structure:hCLS)を同定することに成功している。さらに、hCLSが実際にヒトNASHにおいて認められ、またその病変とも著しく相関するものであることも明らかにしている(非特許文献8)。このように、高脂肪食を負荷させたMC4Rノックアウトマウスは、上述のマウス等と比較して、ヒトNASHの病態に忠実である。しかしながら、その一方で、病変の発症に20週をも要するため、NASHを対象とする薬効評価やメカニズム解析等を迅速かつ効率良く行うという点において、依然妨げとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−209849号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kubota N.ら、Clin Exp Pharmacol Physiol.、2013年7月、40巻、7号、422〜430ページ
【非特許文献2】Wang X.ら、Lipids Health Dis.、2011年12月14日、10:234
【非特許文献3】Chatterjee S.ら、J Hepatol.、2013年4月、58巻、4号、778〜784ページ
【非特許文献4】Chheda TK.ら、BMC Gastroenterol.、2014年5月10日、14:89
【非特許文献5】Song HY.ら、J Tradit Chin Med.、2011年12月、31巻、4号、327〜333ページ
【非特許文献6】Zhang Q.ら、World J Gastroenterol.、2005年3月7日、11巻、9号、1392〜1395ページ
【非特許文献7】Itoh M.ら、Am J Pathol.、2011年11月、179巻、5号、2454〜2463ページ
【非特許文献8】Itoh M.ら、PLoS One.、2013年12月11日、8(12):e82163
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ヒトの非アルコール性脂肪肝炎の表現型を忠実に反映したモデル動物を、短期間にて製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、メラノコルチン4型受容体を欠損するMC4Rノックアウトマウスに、高脂肪食を少なくとも15日間摂取させた上で、四塩化炭素を単回投与することによって、ヒトNASHに特徴的な肝組織像を示すNASHモデル動物を作製できることを見出した。しかも、ヒトNASHの表現型を示すように至るまでには僅か5週間程度しか要さないため、20週間程度を要する従前の方法に比べて、飛躍的にNASHモデル動物の調製時間を短くすることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、NASHモデル動物の製造方法に関し、また当該製造方法を利用する、NASHを抑制する活性を有する化合物をスクリーニングするための方法に関するものであり、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
<1> 非アルコール性脂肪肝炎モデルマウスを製造するための方法であって、下記工程(1)及び(2)を含む方法
(1)メラノコルチン4型受容体の発現を抑制したマウスに、高脂肪食を摂取させる工程、
(2)前記高脂肪食を少なくとも15日間摂取させたマウスに、四塩化炭素を単回投与する工程。
<2> 非アルコール性脂肪肝炎を抑制する活性を有する化合物をスクリーニングするための方法であって、下記工程(1)〜(6)を含む方法
(1)メラノコルチン4型受容体の発現を抑制したマウスに、高脂肪食を摂取させる工程、
(2)前記高脂肪食を少なくとも15日間摂取させたマウスに、四塩化炭素を単回投与する工程、
(3)前記四塩化炭素を投与したマウスに、被験物質を接触させる工程、
(4)前記被験物質を接触させたマウスにおいて、非アルコール性脂肪肝炎の程度を検出する工程、
(5)工程(2)において前記四塩化炭素を投与したマウスに、前記被験物質を接触させずに、非アルコール性脂肪肝炎の程度を検出する工程、
(6)工程(4)及び工程(5)において検出した非アルコール性脂肪肝炎の程度を比較し、工程(4)において検出した非アルコール性脂肪肝炎の程度が、工程(5)において検出した非アルコール性脂肪肝炎の程度よりも低い場合に、前記被験物質は非アルコール性脂肪肝炎を抑制する活性を有する化合物であると判定する工程。
<3> 前記高脂肪食が、脂肪をエネルギー比率にて40%以上含む組成物である、<1>又は<2>に記載の方法。
<4> 前記四塩化炭素の単回投与量が0.05〜0.4mL/kgである、<1>〜<3>のいずれか一に記載の方法。
<5> メラノコルチン4型受容体の発現が抑制されており、高脂肪食を少なくとも15日間摂取させ、かつ四塩化炭素を単回投与することにより、非アルコール性脂肪肝炎が誘導されたマウス。
<6> 前記高脂肪食が、脂肪をエネルギー比率にて40%以上含む組成物である、<5>に記載のマウス。
<7> 前記四塩化炭素の単回投与量が0.05〜0.4mL/kgである、<5>又は<6>に記載のマウス。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヒトの非アルコール性脂肪肝炎の表現型を忠実に反映したモデル動物を、短期間にて製造することが可能となる。さらに、NASHを抑制する活性を有する化合物を、迅速かつ効率良くスクリーニングすることが可能となる。特に、本発明の方法においては、従前の方法とは異なり、NASHの表現型を発症・維持するために、四塩化炭素を複数回投与し続けることを要しないため、この薬剤による直接的な影響を受けることなく、前記スクリーニング等を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】高脂肪食を4週間摂取させたMC4Rノックアウトマウスに、0.1mL/kgの四塩化炭素を単回投与し、その投与2日後の肝臓をHE染色し、顕微鏡にて観察した結果を示す写真である。図中、右側のパネルは、当該四塩化炭素投与2日後の結果を示し、左側のパネルは、四塩化炭素の代わりに溶媒を投与して2日後の結果を示す。また、図中「CV」は中心静脈を示し、「PV」は門脈を示し、矢印で指し示している風船様の構造は、バルーニング変性している肝細胞である。
【
図2】高脂肪食を4週間摂取させたMC4Rノックアウトマウスに、0.1mL/kgの四塩化炭素を単回投与し、その投与4日後の肝臓をTUNEL染色し、顕微鏡にて観察した結果を示す写真である。図中、右側のパネルは、当該四塩化炭素投与4日後の結果を示し、左側のパネルは、四塩化炭素の代わりに溶媒を投与して4日後の結果を示す。また、図中「CV」は中心静脈を示し、「PV」は門脈を示し、黒塗りの三角で示している細胞は、TUNEL染色にて検出されたアポトーシス細胞である。さらに、図中矢印で指し示している箇所は、炎症細胞が浸潤しているところを示す。
【
図3】高脂肪食を4週間摂取させたMC4Rノックアウトマウスに、0.1mL/kgの四塩化炭素又は溶媒を単回投与し、その投与2、4、7及び10日後の肝臓をTUNEL染色した。そして、各肝臓の切片全面積中のTUNEL陽性細胞数を測定し、1mm
2あたりの平均細胞数を算出した結果を示すグラフである。解析した数は各群4個体である。なお、群間差は分散分析により検定した。図中のアスタリスクは溶媒投与群に対してP値が0.05以下であることを示す。また、溶媒を投与した結果については、その投与7日後のみを示すが、投与2〜10日後の間にて変化が生じていないことは確認してある(溶媒投与群の結果に関しては、下記
図5及び9においても同様である)。
【
図4】高脂肪食を4週間摂取させたMC4Rノックアウトマウスに、0.1mL/kgの四塩化炭素を単回投与し、その投与7日後の肝臓にF4/80に対する免疫染色を施し、顕微鏡にて観察した結果を示す写真である。図中、右側のパネルは、当該四塩化炭素投与7日後の結果を示し、左側のパネルは、四塩化炭素の代わりに溶媒を投与して7日後の結果を示す。また、図中「CV」は中心静脈を示し、「PV」は門脈を示し、矢印で指し示している箇所は、F4/80陽性マクロファージが脂肪変性した肝細胞を取り囲み貪食・処理している組織像(hCLS)を示す。
【
図5】高脂肪食を4週間摂取させたMC4Rノックアウトマウスに、0.1mL/kgの四塩化炭素又は溶媒を単回投与し、その投与2、4、7及び10日後の肝臓にF4/80に対する免疫染色を施した。そして、各肝臓の切片における全面積中のhCLS(肝臓王冠様構造)数を測定し、1mm
2あたりの平均数を算出した結果を示すグラフである。解析した数は各群4個体である。
【
図6】高脂肪食を4週間摂取させたMC4Rノックアウトマウスに、0.1mL/kgの四塩化炭素を単回投与し、その投与7日後の肝臓にF4/80及びCD11cに対する免疫染色を施し、顕微鏡にて観察した結果を示す写真である。図中、左側は、F4/80陽性細胞を検出した結果を示し、右側は、CD11c陽性細胞を検出した結果を示す。なお、上部2パネルと、下部2パネルとは、肝臓切片中において検出した部位(細胞)が異なる。
【
図7】高脂肪食を4週間摂取させたMC4Rノックアウトマウスに、0.1mL/kgの四塩化炭素を単回投与し、その投与10日後の肝臓にF4/80及びCD11cに対する免疫染色を施し、顕微鏡にて観察した結果を示す写真である。図中、左側は、F4/80陽性細胞を検出した結果を示し、右側は、CD11c陽性細胞を検出した結果を示す。なお、上部2パネルと、下部2パネルとは、肝臓切片中において検出した部位(細胞)が異なる。
【
図8】高脂肪食を4週間摂取させたMC4Rノックアウトマウスに、0.1mL/kgの四塩化炭素を単回投与し、その投与7日後の肝臓をシリウスレッド染色し、顕微鏡にて観察した結果を示す写真である。図中、右側のパネルは、当該四塩化炭素投与7日後の結果を示し、左側のパネルは、四塩化炭素の代わりに溶媒を投与して7日後の結果を示す。また、図中「CV」は中心静脈を示し、「PV」は門脈を示す。
【
図9】高脂肪食を4週間摂取させたMC4Rノックアウトマウスに、0.1mL/kgの四塩化炭素又は溶媒を単回投与し、その投与2、4、7及び10日後の肝臓をシリウスレッド染色した。そして、各肝臓の切片における全面積中のシリウスレッド陽性面積(線維化面積)を測定し、その割合を算出した結果を示すグラフである。解析した数は各群4個体である。
【
図10】高脂肪食を2週間摂取させたMC4Rノックアウトマウスに、0.1mL/kgの四塩化炭素を単回投与し、その投与7日後の肝臓にF4/80に対する免疫染色を施し、またはシリウスレッド染色を施し、顕微鏡にて観察した結果を示す写真である。図中、右側のパネルは、当該四塩化炭素投与7日後の結果を示し、左側のパネルは、四塩化炭素の代わりに溶媒を投与して7日後の結果を示す。また、上側のパネルが、F4/80に対する免疫染色の結果を示し、下側のパネルが、シリウスレッド染色の結果を示す。図中「CV」は中心静脈を示し、「PV」は門脈を示す。
【
図11】通常食又は高脂肪食を4週間摂取させた野生型マウスに、0.1mL/kgの四塩化炭素を単回投与し、その投与7日後の肝臓にF4/80に対する免疫染色を施し、またはシリウスレッド染色を施し、顕微鏡にて観察した結果を示す写真である。図中、左側のパネルは、通常食を摂取させた野生型マウスにおける結果を示し、右側のパネルは、高脂肪食を摂取させた野生型マウスにおける結果を示す。また、上側のパネルが、F4/80に対する免疫染色の結果を示し、下側のパネルが、シリウスレッド染色の結果を示す。図中「CV」は中心静脈を示し、「PV」は門脈を示す。
【
図12】高脂肪食を4週間摂取させたMC4Rノックアウトマウスに、0.05、0.1、0.2、0.4mL/kgの四塩化炭素又は溶媒を単回投与し、その投与1及び7日後に採取した血清に関し、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)の濃度を測定した結果を示すグラフである。解析した数は各群5個体である。図中各群の結果において、左側のバーが投与1日後の結果を示し、右側のバーが投与7日後の結果を示す。
【
図13】高脂肪食を4週間摂取させたMC4Rノックアウトマウスに、0.05、0.1、0.2、0.4mL/kgの四塩化炭素又は溶媒を単回投与し、その投与7日後の肝臓をシリウスレッド染色した。そして、各肝臓の切片における全面積中のシリウスレッド陽性面積(線維化面積)を測定し、その割合を算出した結果を示すグラフである。解析した数は各群5個体である(但し、四塩化炭素0.4mL/kg投与群に関しては、その投与2、3日後に2匹が死亡したため、解析した数は3個体である)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<NASHモデルマウスの製造方法>
本発明の非アルコール性脂肪肝炎モデルマウスの製造するための方法は、下記工程(1)及び(2)を含む
(1)メラノコルチン4型受容体の発現を抑制したマウスに、高脂肪食を摂取させる工程、
(2)前記高脂肪食を少なくとも15日間摂取させたマウスに、四塩化炭素を単回投与する工程。
【0015】
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)とは、肝細胞における脂肪蓄積、肝細胞風船様変性(バルーニング変性)、アポトーシスの増加、肝臓の中心静脈領域への炎症性細胞の浸潤、脂肪変性した肝細胞をマクロファージが取り囲み貪食・処理する現象(hCLS)、肝臓における過剰な細胞外基質の沈着を伴う肝臓の疾患を意味し、このような症状の進行後に至る肝硬変又は肝細胞癌も、本発明のNASHに含まれ得る。また、かかる組織学的な変化のみならず、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)、遊離脂肪酸及び中性脂肪のうちの少なくとも1のマーカーの血清中の濃度が高い状態にあることも、本発明のNASHに含まれ得る。
【0016】
本発明において「メラノコルチン4型受容体」とは、視床下部や脳幹部にて高発現し,エネルギー代謝調節等に関与するタンパク質(MC4R)を意味し、マウス由来の典型的には、NCBI RefSeqアクセッション番号:NP_058673で特定されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI RefSeqアクセッション番号:NM_016977で特定されるヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列からなるタンパク質)が挙げられる。なお当然のことながら、上記典型例として挙げているアミノ酸配列からなるタンパク質自体に、本発明に係るMC4Rは限定されず、自然界において生じ得るその変異体も含まれる。
【0017】
本発明において「抑制」には、完全な抑制(阻害)及び部分的な抑制が含まれる。また、MC4Rの発現の抑制は、MC4R遺伝子の転写レベル、翻訳レベル、あるいは機能レベルのいずれかによって達成され、より具体的には、MC4R遺伝子の少なくとも一部を含むターゲティングベクターが相同組み換えによって導入されたES細胞等を用いる遺伝子ノックアウト、MC4R遺伝子に対するshRNA、アンチセンス、リボザイム等を用いる遺伝子ノックダウン、受容体拮抗剤(アンタゴニスト)投与、放射線照射、化学変異原投与、トランスポゾン導入等によってMC4R遺伝子にその発現を抑制する、遺伝子変異導入によって達成され得る。遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックダウン、遺伝子変異導入に用いられる、ターゲッティングベクターの構築、shRNA、アンチセンス、リボザイム等の設計及び合成、マウスのES細胞、未受精卵、受精卵、始原生殖細胞等へのDNAの導入方法、受容体拮抗剤投与、放射線照射、化学変異原投与、トランスポゾン導入等は、当業者であれば従来公知の方法を適用して行うことができる。また、このようにしてMC4Rの発現が抑制される「マウス」の種類としては特に制限はなく、系統種であってもよく、雑種であってもよい。また、系統種としては、例えば、C57BL/6、C3H、ICR、BALB/cが挙げられるが、好ましくはC57BL/6である。
【0018】
本発明において用いられる「MC4Rの発現を抑制したマウス」としては、前述の通り、MC4R遺伝子ノックアウトマウス、MC4R遺伝子ノックダウンマウス、MC4R遺伝子変異導入マウス等が挙げられるが、好ましくは、MC4R遺伝子ノックアウトマウスであり、より好ましくは、MC4R遺伝子ノックアウトC57BL/6マウスである。
【0019】
本発明において前述のマウスに摂取させる「高脂肪食」としては、脂肪をエネルギー比率にて20%以上含む食餌であり、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上(例えば、50以上、60%以上)含む食餌である。また、このような食餌のエネルギー量として、400kcal/100g以上(例えば、500kcal/100g以上)であることが好ましい。また、本発明に係る食餌に含まれる脂肪としては、特に制限されることなく、動物性脂肪、植物性脂肪を問わず、例えば、乳脂肪、牛脂、豚脂、コーン油、大豆油、菜種油が挙げられるが、本発明に係る食餌には、動物性脂肪(乳脂肪、牛脂、豚脂等)が含まれていることが好ましい。さらに、本発明に係る高脂肪食の脂肪以外の成分は、通常の食餌成分であればよく、タンパク質、炭水化物、ミネラル等を含んでいてもよく、より具体的には、スクロース、コレステロール等を含んでいてもよい。
【0020】
また、このような高脂肪食の前記マウスへの摂取開始時期としては、特に制限はなく、通常5週齢からであり、好ましくは8週齢からである。さらに、摂取させるマウスの性としても特に制限はないが、好ましくは雄である。また、高脂肪食の前記マウスへの摂取方法としても、特に制限はないが、通常、水と共に不断に自由摂食させることで行われる。
【0021】
そして、本発明においては、このようにして高脂肪食を少なくとも15日間摂取させたマウスに、四塩化炭素が単回投与される。四塩化炭素の投与時期としては、前記高脂肪食を少なくとも15日間摂取させた後であればよいが、好ましくは3週間の摂取後、より好ましくは4週間の摂取後である。また、四塩化炭素の投与量としては、高脂肪食を摂取させた前記マウスにおいて、hCLS形成等のNASH病変を生じさせる量であればよいが、通常0.05mL/kg以上であり、好ましくは0.05〜0.4mL/kgであり、より好ましくは、0.1〜0.2mL/kgである。投与量が前記下限未満であれば前記マウスにおいてNASH病変を生じさせにくい傾向にあり、前記上限を超えると投与されたマウスが死亡し易くなる傾向にある。四塩化炭素のマウスへの投与方法としては、特に制限はなく、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、経口投与等が挙げられるが、好ましくは腹腔内投与である。また、投与される四塩化炭素は、その投与方法にもよるが、溶媒にて希釈されていてもよい。かかる溶媒としては特に制限はなく、例えば、植物油(例えば、オリーブ油、コーン油)等のオイルが好適に用いられる。
【0022】
また、このようにして四塩化炭素が単回投与された後のマウスに摂取させ続ける食餌としては、特に制限はないが、本発明において、前述の高脂肪食を四塩化炭素投与後もマウスに摂取させ続けることが好ましい。
【0023】
<NASHを抑制する活性を有する化合物のスクリーニング方法>
本発明においては、上述のNASHモデルマウスの製造方法を利用した、NASHを抑制する活性を有する化合物のスクリーニング方法をも提供し得る。すなわち、本発明は、下記工程(1)〜(6)を含む、NASHを抑制する活性を有する化合物をスクリーニングするための方法も提供し得る。
(1)メラノコルチン4型受容体の発現を抑制したマウスに、高脂肪食を摂取させる工程、
(2)前記高脂肪食を少なくとも15日間摂取させたマウスに、四塩化炭素を単回投与する工程、
(3)前記四塩化炭素を投与したマウスに、被験物質を接触させる工程、
(4)前記被験物質を接触させたマウスにおいて、非アルコール性脂肪肝炎の程度を検出する工程、
(5)工程(2)において前記四塩化炭素を投与したマウスに、前記被験物質を接触させずに、非アルコール性脂肪肝炎の程度を検出する工程、
(6)工程(4)及び工程(5)において検出した非アルコール性脂肪肝炎の程度を比較し、工程(4)において検出した非アルコール性脂肪肝炎の程度が、工程(5)において検出した非アルコール性脂肪肝炎の程度よりも低い場合に、前記被験物質は非アルコール性脂肪肝炎を抑制する活性を有する化合物であると判定する工程。
【0024】
工程(1)及び(2)については、上述の通りである。そして、本発明のスクリーニング方法においては、このような工程を経て調製されたNASHモデルマウスに、被験物質を接触させる。
【0025】
被験物質のマウスへの接触開始時期としては、四塩化炭素の単回投与と同時に、または当該投与後であればよいが、四塩化炭素による直接的な影響がスクリーニングの結果に及ぼしにくいという観点から、好ましくは四塩化炭素の投与後である。例えば、NASH病変において、特にhCLS形成を抑制する活性を有する化合物をスクリーニングするという観点から、好ましくは四塩化炭素の投与1日後以降に、被験物質を接触させることが好ましく、hCLSを起点として形成される肝線維化を抑制する活性を有する化合物をスクリーニングするという観点から、好ましくは四塩化炭素の投与2日後以降(例えば、3〜6日後)に、被験物質を接触させることが好ましい。
【0026】
接触させる被験物質としては、特に制限はなく、例えば、合成低分子化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、ペプチドライブラリー、抗体、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)の抽出液及び培養上清、精製又は部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物又は動物由来の抽出物、土壌、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリーが挙げられる。
【0027】
マウスへの被験化合物の「接触」は、通常、マウスに被験化合物を摂取させることによって行うが、この方法に限定されない。また、摂取は、経口投与又は非経口投与、より具体的には、腹腔内投与、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、皮内投与、気道内投与、直腸投与及び筋肉内投与、輸液による投与が挙げられる。接触させる被験化合物の濃度、回数及び期間としては、特に制限はなく、その種類や性質(溶解度、毒性等)によって適宜調整され得る。
【0028】
前記被験物質を接触させたマウスにおける、「非アルコール性脂肪肝炎の程度の検出」としては、例えば、後述の実施例において示すように、当該マウスから採取した肝臓を対象とし、肝細胞における脂肪蓄積、肝細胞風船様変性(バルーニング変性)、アポトーシス細胞の増加、炎症性細胞の浸潤、脂肪変性した肝細胞をマクロファージが取り囲み貪食・処理する現象(hCLS)、過剰な細胞外基質の沈着の程度を、組織学的に観察することにより行うことができる。また、後述の実施例において示すように、ALT、AST、遊離脂肪酸及び中性脂肪のうちの少なくとも1のマーカーの血清中の濃度を測定することによっても行うことができる。
【0029】
そして、このようにして検出された非アルコール性脂肪肝炎の程度を、被験物質を接触させていない本発明に係るNASHモデルマウスのそれと比較し、低くなっている場合には、前記被験物質は非アルコール性脂肪肝炎を抑制する活性を有する化合物であると判定することができる。
【0030】
以上、本発明のNASHモデルマウスの製造方法、NASHを抑制する活性を有する化合物のスクリーニング方法の好適な実施形態について説明したが、本発明に係るNASHモデルマウスは、NASHのバイオマーカーのスクリーニングにも好適に用いられ得る。すなわち、本発明は、下記工程(1)〜(3)を含む、非アルコール性脂肪肝炎のバイオマーカーをスクリーニングするための方法も提供し得る。
(1)メラノコルチン4型受容体の発現を抑制したマウスに、高脂肪食を摂取させる工程、
(2)前記高脂肪食を少なくとも15日間摂取させたマウスに、四塩化炭素を単回投与する工程、
(3)前記四塩化炭素を投与したマウスから試料を採取し、該試料における遺伝子転写産物、遺伝子翻訳産物、遺伝子修飾、タンパク質修飾又は代謝産物を検出し、対照におけるそれと比較し、変動する物質を同定する工程。
【0031】
工程(1)及び(2)については、上述の通りである。そして、このような工程を経て調製されたNASHモデルマウスから採取される試料としては特に制限はなく、例えば、肝臓の組織及び細胞、並びに血液、血漿、血清、尿等の体液が挙げられる。また、このような試料から調製される遺伝子転写産物、遺伝子翻訳産物、遺伝子修飾、タンパク質修飾及び代謝産物としても特に制限はなく、例えば、mRNA、cDNA、miRNA等の遺伝子転写産物、タンパク質、その部分ペプチド等の遺伝子翻訳産物、DNAメチル化、ヒストンアセチル化、ヒストンメチル化等の遺伝子修飾、リン酸化、SUMO化、糖鎖修飾等のタンパク質修飾、糖、脂質、脂肪酸等の代謝産物が挙げられる。
【0032】
また、このような物質の検出方法としても特に制限はなく、検出される物質の種類に合わせた公知の方法によって達成され得るが、網羅的な検出方法が好ましい。遺伝子転写産物や遺伝子修飾を対象とした網羅的な解析(トランスクリプトーム解析、エピゲノム解析等)は、例えば、市販されているDNAマイクロアレイ、メチル化アレイ等を用いて行うことができる。遺伝子翻訳産物やタンパク質修飾を対象とした網羅的な解析(プロテオーム解析等)は、例えば、二次元ゲル電気泳動法とTOF−MSを組み合わせた方法等を用いて行うことができる。また、例えば、代謝産物を対象とした網羅的な解析(メタボローム解析)は、NMRやキャピラリー電気泳動、LC−MS等を用いて行うことができる。
【0033】
このようにして得られた検出結果を比較する「対照」としては特に制限はなく、例えば、野生型マウス、通常食を摂取させたメラノコルチン4型受容体発現抑制マウス、高脂肪食を少なくとも15日間摂取させたマウス(四塩化炭素を単回投与する前のマウス)が挙げられる。
【0034】
そして、NASHに関連して発現が変動する物質が同定されれば、NASHのバイオマーカーとして、侵襲性の少ないNASHの診断法、NASHの早期診断法、NASHの確定診断法等において有用である。
【0035】
また、以上の通り、本発明に係るNASHモデルマウスは、NASHの治療方法、予防方法、診断方法の開発に大きく貢献し得る。したがって、本発明は当該マウスも提供するものである。すなわち、メラノコルチン4型受容体の発現が抑制されており、高脂肪食を少なくとも15日間摂取させ、かつ四塩化炭素を単回投与することにより、非アルコール性脂肪肝炎が誘導されたマウスをも、本発明は提供する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
(マウス)
メラノコルチン4型受容体を欠損させたマウス(以下、「MC4Rノックアウトマウス」とも称する。遺伝的バックグランド:C57BL/6J)は、テキサス大学メディカルセンター Joel K.Elmquistより提供したものを使用した(Balthasar N.ら、Cell、2005年11月4日発行、123巻、3号、493〜505ページ 参照)。また、対照群として、C57BL/6J野生型マウスを、日本クレア株式会社より購入して用意した。
【0038】
これらのマウスは、特に断りがない限り、温度、湿度及び照明時間(12時間明暗サイクル)が制御された環境下、水及び標準食(日本クレア株式会社製、げっ歯類飼育繁殖用飼料:CE−2、343.1kcal/100g、脂肪をエネルギー比率にて12.6%含む、)を不断に自由摂取させ、維持した。
【0039】
(組織学的解析)
前記マウスから採取した肝臓は、中性緩衝ホルマリン溶液に浸漬して固定化し、パラフィン包埋に供し、切片を調製した。
【0040】
そして、前記切片を用い、Sakaida I.ら、Hepatology、2004年、40巻、1304〜1311ページ、及び、Tanaka M.ら、Endocr J、2010年、57巻、61〜72ページに記載の方法に沿って、HE及びシリウスレッドにて染色した。さらに、各切片における全面積中のシリウスレッド陽性面積、すなわち線維化面積を測定し、その割合を算出した。
【0041】
また、前記切片を用い、肝臓におけるアポトーシス細胞を、ApopTagプラスペルオキシダーゼインサイチュアポトーシス検出キット(Millipore社製)を用いて、TUNEL法により検出した。さらに、各切片における全面積中のTUNEL陽性細胞数を測定し、1mm
2あたりの平均細胞数を算出した。
【0042】
また、前記切片を用い、F4/80陽性マクロファージを、Kitagawa K.ら、Am J Pathol、2004年、165巻、237〜246ページに記載の方法に沿って、ラット由来の抗マウスF4/80抗体を用いた免疫染色により検出した。さらに、各切片における全面積中のhCLS(肝臓王冠様構造)の数を測定し、1mm
2あたりの平均数を算出した。
【0043】
また、前記マウスから採取した肝臓から、凍結切片を調製し、前記抗F4/80抗体及びアメリカンハムスター由来の抗マウスCD11c抗体(eBioscience社製、カタログ番号:14−0114)による抗原抗体反応に供した後、蛍光色素にて標識した前記一次抗体を認識する二次抗体と反応させ、蛍光免疫染色法により、F4/80及びCD11c陽性マクロファージを検出した。
【0044】
(血液分析)
前記マウスから採取した血液に関し、Itoh M.ら、Am J Pathol、2011年、179巻、2454〜2463ページに記載の方法に沿って、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)の濃度を測定した。
【0045】
(実施例1)
MC4Rノックアウトマウス(雄、8週齢)に、高脂肪食(Research Diets社製、高脂肪飼料:D12079B、468kcal/100g、脂肪をエネルギー比率にて41%含む、スクロースを34.0%含む、コレステロールを0.2%含む)を4週間摂取させた。次いで、0.1mL/kgの四塩化炭素を腹腔内に単回投与した。なお、投与に際しては、四塩化炭素を溶媒(オリーブ油)にて40倍に希釈したものを用いた。また、対照群として、溶媒のみを投与したマウスも用意した。そして、当該投与2、4、7又は10日後に肝臓を採取し、上記の通り、パラフィン切片を調製し、HE染色、シリウスレッド染色、TUNEL染色、F4/80染色に供した。得られた結果を、HE染色に関しては
図1に示し、TUNEL染色に関しては
図2及び3に示し、F4/80染色に関しては
図4及び5に示し、シリウスレッド染色に関しては
図8及び9に示す。また、四塩化炭素投与7及び10日後に採取した肝臓については、凍結切片も調製し、上記の通り、F4/80及びCD11cの二重染色に供した。得られた結果を
図6及び7に示す。
【0046】
図1に示した結果から明らかな通り、四塩化炭素投与2日後には、NASH特異的な病変の一つであるバルーニング変性が、肝臓の中心静脈域に検出された。さらに、
図2〜4に示した結果から明らかな通り、四塩化炭素投与4日後にはアポトーシス細胞の増加が認められ、また中心静脈域への炎症性細胞の浸潤も検出された。さらに、投与7日後以降には、hCLS形成と肝細胞周囲性の線維化が検出された。なお、本実施例において検出されたhCLSは、本発明者らによって従前作製されたNASHモデルマウスと同様に、CD11c陽性マクロファージにて構成されており、肝臓に散在するマクロファージとは異なることが確認された(
図6及び7参照のこと)。
【0047】
(比較例1)
高脂肪食の摂取期間を4週間から2週間に短縮した以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法にてマウスを調製し、四塩化炭素投与7日後に肝臓を採取し、パラフィン切片を調製し、シリウスレッド染色及びF4/80染色に供した。得られた結果を、
図10に示す。
【0048】
図10に示した結果から明らかな通り、2週間の高脂肪食負荷では、実施例1において検出されたようなNASH病変が認められなかった。
【0049】
(比較例2)
MC4Rノックアウトマウスを野生型マウスとした以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法にてマウスを調製し、四塩化炭素投与7日後に肝臓を採取し、パラフィン切片を調製し、シリウスレッド染色及びF4/80染色に供した。得られた結果を、
図11に示す。
【0050】
図11に示した結果から明らかな通り、野生型マウスでは、4週間の高脂肪食負荷を与え、四塩化炭素を単回投与しても
、実施例1において検出されたようなNASH病変を検出することはできなかった。
【0051】
(実施例2〜4)
四塩化炭素の単回投与量を0.05mL/kg、0.2mL/kg又は0.4mL/kg(実施例2〜4)とした以外は、実施例1同様にマウスを調製した。また、併せて投与量を0.1mL/kgとするマウス(実施例1)も調製した。
【0052】
そして、四塩化炭素投与してから1日後又は7日後に、尾静脈採血を行い、血清を調製し、ALT測定を行った。また、四塩化炭素投与7日後に肝臓を採取し、パラフィン切片を調製し、シリウスレッド染色に供した。得られた結果を
図12及び13に示す。
【0053】
図12及び13に示した結果から明らかな通り、四塩化炭素投与1日後のALT濃度、及び、当該投与7日後の肝線維化面積は、四塩化炭素の投与量依存的に増加した。なお、四塩化炭素 0.4mL/kg投与群においては、5例中2例が投与してから2及び3日後に死亡した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明によれば、肝臓の中心静脈領域におけるバルーニング変性、肝臓におけるアポトーシス細胞の増加、肝臓の中心静脈領域への炎症性細胞の浸潤、脂肪変性した肝細胞をマクロファージが取り囲み貪食・処理する現象(hCLS)、肝臓における過剰な細胞外基質の沈着といった、ヒトNASHにおける病変を忠実に反映したモデルマウスを、たった5週間程度で製造することが可能となる。さらに、当該製造方法を利用することで、NASHを抑制する活性を有する化合物、並びにNASHのバイオマーカーを、迅速かつ効率良くスクリーニングすることが可能となる。
【0055】
したがって、本発明は、NASHの治療方法、予防方法及び診断方法の開発において、極めて有用である。