(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、微小物品に貫通穴が形成されている場合に、貫通穴の内側面をカメラで直接撮像することができず、異物付着や加工時のバリ残りなどの欠点を検査する適当な方法がなかった。
【0006】
本発明は、上記を考慮してなされたものであり、貫通穴が形成された微小物品に対して、その貫通穴内側面の検査方法を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような検査方法を実施可能な検査装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題に対して、本発明の物品検査方法は、磁力式の保持装置で物品を保持し、貫通穴開口周辺をローアングル照明で照らして検査を行う。
【0008】
具体的には、本発明の物品検査方法は、貫通穴が形成された物品の該貫通穴の内側面を検査する方法であって、磁力式の保持装置によって前記物品を保持する工程と、ローアングル照明およびカメラ前方の撮像位置に、前記貫通穴の開口を含む開口面を該ローアングル照明および該カメラに向けて、前記物品を移動する移動工程と、前記開口面を前記ローアングル照明で照らして前記カメラで撮像する撮像工程と、前記撮像工程で得られた前記開口面の画像から前記貫通穴の内側面の欠点を検出する工程とを有する。
【0009】
ここで、ローアングル照明とは、検査する表面に対して低い角度から光を照射する照明である。この方法により、貫通穴内側面の、異物付着や加工時のバリ残りなどの欠点を検出することができる。
【0010】
好ましくは、前記保持装置は多関節ロボットアームの先端に固定され、前記移動工程が前記多関節ロボットアームの動作により行われる。これにより、ローアングル照明、カメラ、撮像位置などの配置の自由度が大きくなる。また、同じ設備を用いて、物品の姿勢を変えながら、物品表面を複数の方向から検査することができる。
【0011】
好ましくは、前記保持装置は、非磁性材からなるスリーブと、前記スリーブの軸方向に直線運動する可動ロッドが該スリーブ内に挿入されたリニアアクチュエーターと、前記可動ロッドに直接または間接に固定され、前記スリーブ内に収容された磁石ユニットとを有する。そして、前記磁石ユニットは、1個の永久磁石または少なくとも1個の永久磁石を含む複数の磁性部材の組み合わせによって構成され、前方の端面が第1磁極であり、後方の端面が第2磁極である
【0012】
ここで、前方とは保持装置から見て保持する物品のある方向をいい、後方とはその反対方向をいう。また、磁性部材とは磁性材からなる部材であり、磁性材とは永久磁石と軟質磁性材を含む概念である。第1磁極はN極またはS極であり、第2磁極は第1磁極と逆のS極またはN極である。このような保持装置は、微小な物品を吸着・移動させるのに適しており、また、サイズを小さくできるので、本発明の検査方法に特に適している。
【0013】
より好ましくは、前記磁石ユニットを構成する部材のうち最も前方にある部材が、前記スリーブの軸方向に貫通する穴が形成された環状または筒状である。これにより、保持装置が貫通穴の開口を塞ぐように物品を保持する場合に、物品の位置および姿勢を安定させて保持することができる。
【0014】
好ましくは、前記撮像工程において、前記開口面がハイアングル照明によってさらに照らされる。ここでハイアングル照明とは、検査する表面に対して高い角度から光を照射する照明である。ローアングル照明とハイアングル照明を合わせて用いることにより、検査すべき領域が明確になり、欠点の有無の判定がさらに容易になる。
【0015】
好ましくは、前記撮像工程で得られた前記開口面の画像から該開口面内の欠点を検出する工程をさらに有する。これにより、1回の撮像で貫通穴内側面および開口面の両方を検査できるので、検査時間が短縮できる。
【0016】
本発明の他の物品検査方法は、保持装置が貫通穴の一方の開口を塞ぐように物品を保持した場合に、貫通穴の他方の開口から上記検査方法と同様に検査した後、他方の開口を塞ぐように別の保持装置で物品を保持し直して、前記一方の開口から再び上記検査方法と同様に検査を行う。
【0017】
具体的には、本発明の他の物品検査方法は、貫通穴が形成された物品の該貫通穴の内側面を検査する方法であって、第1多関節ロボットアームの先端に固定された第1保持装置によって、前記貫通穴の一方の開口を塞ぐように前記物品を保持する第1保持工程と、第1多関節ロボットを動作させて、第1ローアングル照明および第1カメラ前方の第1撮像位置に、前記貫通穴の他方の開口を含む開口面を該第1ローアングル照明および該第1カメラに向けて、前記物品を移動する第1移動工程と、前記他方の開口を含む開口面を前記第1ローアングル照明で照らして前記第1カメラで撮像する第1撮像工程と、前記第1撮像工程で得られた前記他方の開口を含む開口面の画像から前記貫通穴の内側面の欠点を検出する第1検出工程と、第2多関節ロボットアームの先端に固定された第2保持装置を前記第1保持装置と反対側から前記物品に吸着させ、前記第1保持装置を前記物品から離脱させる受け渡し工程と、前記第2多関節ロボットアームを動作させて、第2ローアングル照明および第2カメラ前方の第2撮像位置に、前記一方の開口を含む開口面を該第2ローアングル照明および該第2カメラに向けた姿勢で、前記物品を移動する第2移動工程と、前記一方の開口を含む開口面を前記第2ローアングル照明で照らして、前記第2カメラで撮像する第2撮像工程と、前記第2撮像工程で得られた前記一方の開口を含む開口面の画像から前記貫通穴の内側面の欠点を検出する第2検出工程とを有する。そして、前記第1保持装置および第2保持装置はいずれも、非磁性材からなるスリーブと、前記スリーブの軸方向に直線運動する可動ロッドが該スリーブ内に挿入されたリニアアクチュエーターと、前記可動ロッドに直接または間接に固定されて前記スリーブ内に収容され、1個の永久磁石または少なくとも1個の永久磁石を含む複数の磁性部材の組み合わせによって構成された磁石ユニットとを有する。そして、前記第1保持装置の磁石ユニットの前方端面と前記第2保持装置の磁石ユニットの前方端面が同種の第1磁極である。
【0018】
この方法により、保持装置が貫通穴の一方の開口を塞ぐ場合にも、貫通穴の両側から貫通穴内側面の欠点検査を行うことができる。さらに、物品を第1保持装置から第2保持装置に直接受け渡すことにより、検査時間が短縮できる。
【0019】
この第1および第2保持装置を用いる物品検査方法において、前記第1撮像位置と前記第2撮像位置が同一の位置であり、前記第1ローアングル照明と前記第2ローアングル照明が同一の照明であり、前記第1カメラと前記第2カメラが同一のカメラであってもよい。2つの撮像部を共用することにより、装置の製造コストを抑え、装置の設置面積を小さくすることができる。
【0020】
本発明の物品検査装置は、貫通穴が形成された物品の該貫通穴の内側面を検査するための装置であって、前記物品を保持する磁力式の保持装置と、前記保持装置により保持された前記物品に投光するローアングル照明およびハイアングル照明と、前記ローアングル照明およびハイアングル照明に投光された前記物品を撮像するカメラとを有する。
【0021】
この構成により、貫通穴内側面の、異物付着や加工時のバリ残りなどの欠点を検査することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の物品検査方法または装置によれば、貫通穴が形成された物品に対して、カメラで直接撮像することが難しい貫通穴内側面の欠点を検査することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の物品検査方法および装置の一実施形態を以下に説明する。まず本実施形態の検査装置の構成を
図1〜4に基づいて説明する。
【0025】
図1において、本実施形態の外観検査装置70は、物品の保持装置11、多関節ロボットアーム71、ローアングルリング照明72、ハイアングルリング照明73とカメラ74を有する。物品90を保持装置で保持し、多関節ロボットアームの動作により物品の姿勢および位置を調整して、カメラにより物品の貫通穴の開口を撮像することにより検査が行われる。
【0026】
図2に検査対象である物品の一例を示す。物品90は片状で主面91、92を有し、その厚み方向に貫通穴97が形成されている。主面とは物品の外表面を構成する面のうちで面積の大きい面をいう。物品を安定に保持するには、主面のうちの一つを保持面として保持するのが好ましい。
図2に示した物品では、結果として、保持装置が貫通穴の一方の開口を塞ぐように物品を保持するのが好ましい。なお、物品90はあくまで検査可能な物品の一例を示すものであって、本発明が対象とする物品を限定するものではない。
【0027】
図3において、本実施形態の保持装置11は、スリーブ30、エアシリンダー35と磁石ユニット41を有する。スリーブは、前方(
図3の下側)の端に開口32を有する。エアシリンダーは、本体36がフランジ38を介してスリーブに固定されており、可動ロッド37がスリーブ内に収容されている。磁石ユニットはエアシリンダーの可動ロッドの先端に固定されている。エアシリンダーが伸びると、磁石ユニットが前進して、開口部で物品を吸着することができる。保持装置の詳細は後述する。
【0028】
図1において、多関節ロボットアーム71は複数の回転軸を有することにより、人間の腕に似た複雑な動きが可能である。ロボットアームは、保持装置11の先端に吸着・保持した物品90を、所要の姿勢で撮像位置に移動させる。
【0029】
図4において、撮像部は、照明手段としてのローアングルリング照明72およびハイアングルリング照明73と、カメラ74とによって構成されている。
【0030】
ローアングルリング照明72はリング型のローアングル照明である。ローアングル照明は、検査対象である物品表面に対して、低い角度から光を投光する。これによって、物品表面のキズ等が目立ちやすく、欠点の発見が容易となる。また、開口のエッジを目立たせることができる。ここで、低い角度とは、検査面からの角度が小さいという意味であって、検査面への入射角θi、すなわち物品の表面に立てた法線からの角度は大きい。入射角θiは大きいほど欠点を明瞭に浮かび上がらせることができるので、45度以上であることが好ましく、60度以上であることがさらに好ましく、70度以上であることが特に好ましい。ローアングルリング照明で物品の表面をムラなく照明するためには、照明と物品との距離を充分近づける必要がある。ローアングルリング照明と物品との距離は20mm以下であることが好ましい。
【0031】
ハイアングルリング照明73は、リング型のハイアングル照明である。ハイアングル照明は、検査対象である物品表面に対して、高い角度から光を投光する。ハイアングル照明は、検査する表面に対して略垂直に光を照射する照明を含み、落射照明を含む概念である。本実施形態のハイアングル照明は、物品の撮像しようとする面に略垂直に光を照射する。ハイアングルリング照明は好ましくは拡散型の照明である。光線の指向性を弱めることによって照射面の輝度むらを抑えることができるからである。また、ハイアングルリング照明として、カメラと同軸に光を照射する落射照明を用いてもよい。ハイアングルリング照明は必須ではないが、ローアングルリング照明と組み合わせて用いることが好ましい。検査領域が明確になるからである。
【0032】
カメラ74は、2つの照明72、73に投光された物品表面を、2つのリング照明の穴を通して撮像する。カメラの種類は特に限定されず、市販の各種検査用カメラを用いることができる。好ましくは、オートフォーカス機能を備えたカメラを用いる。
【0033】
ハイアングルリング照明73を用いる場合、ローアングルリング照明72とハイアングルリング照明に波長範囲の重ならない異なる色の照明を用い、カラーカメラを用いることが好ましい。例えば、ローアングルリング照明を赤色、ハイアングルリング照明を青色として、カラーカメラで撮像することができる。
【0034】
次に、本実施形態の物品検査方法を説明する。
図5に検査の工程図を示す。
【0035】
物品は多くの場合パレット等にばらばらに積み付けられて供給されるので、まず保持装置により物品を保持して、パレット等から物品を取り上げる。より具体的には、多関節ロボットアームの目となるカメラで物品の位置を確認しながら、ロボットアームを動作させて、保持装置を物品の一つの主面に正対させ、保持装置を物品に近づけてスリーブの開口端(
図3の31)を当該主面に当接させ、エアシリンダーを伸ばして磁石ユニットを前進させ、物品に吸着させる。物品を、保持装置に吸着させて保持したまま、パレット等から取り上げる。
図2に示した物品では、開口を含む開口面の一つを保持することになる。
【0036】
次いで、多関節ロボットアームを動作させて、開口を含む開口面をカメラに向けて、物品を撮像位置に移動させる(移動工程)。そして、当該開口面をローアングルリング照明およびハイアングルリング照明で照らして撮像する(撮像工程)。
図4はこの状態を示している。
【0037】
本実施形態では、ローアングルリング照明を赤色、ハイアングルリング照明を青色として、カラーカメラで撮像する。得られた画像では、開口面内と貫通穴の向こう側にある保持装置の磁石ユニットはハイアングルリング照明からの光の反射によって青く写り、物品の輪郭や開口のエッジはローアングルリング照明からの反射によって赤く写る。このとき、貫通穴の内側面に異物等の欠点があると、本来青くあるべきところに赤く写るので、欠点を容易に検出することができる。
【0038】
図6に、得られる画像を模式的に示す。図中に斜線で示した領域が青く写る部分で、物品90の開口面92、貫通穴97の向こう側にある保持装置の磁石ユニットの前方端面47である。図中に実線で示したところが赤く写る部分で、物品の輪郭99、開口のエッジ96である。図中に点線で示したところは、磁石ユニット前方端面の穴のエッジで、ローアングル照明からの光が届く場合は赤く写る。さらに、貫通穴内側面に異物95がある場合には、不規則な形状に赤く写ることになる。
【0039】
前記撮像工程で得られた画像から、貫通穴内側面と同時に、開口面92の検査を行ってもよい。また、撮像工程に続いて、物品の姿勢を変えて、物品を他の角度から検査してもよい。
【0040】
次いで、すべての検査が終了した後、多関節ロボットアームを動作させて、物品をパレット等の上に解放して、積み付ける。
【0041】
ところで、貫通穴内側面の異物等欠点を検出するためには、当該場所にローアングルリング照明からの光が届く必要がある。
図7に示すように、貫通穴97の径をD、ローアングル照明の入射角度をθiとすると、内側面に光が届くのは、開口端からS=D/tanθiの範囲である。したがって、貫通穴の長さLが光の侵入深さSよりも大きい場合は、貫通穴の一方の開口からの検査では内側面のすべての範囲を確認することができない。
【0042】
一方の開口から内側面のすべての範囲を検査できない場合は、他方の開口からも検査を行うことができる。保持装置が開口を塞がずに物品を保持できる場合は、一方の開口から検査を行った後に、物品をカメラに対して反転させて、他方の開口から検査を行うことができる。しかし、実用的な物品では、
図2のように、物品の主面が開口面である場合が多く、保持装置が一方の開口を塞ぐように保持することになる。その場合は、例えば、物品を一旦台の上に置いて、反転させて、再度保持装置で他方の開口面を保持して取り上げればよい。あるいは、後述する第2の実施形態の方法を用いることができる。
【0043】
貫通穴がさらに長い場合は、両方の開口から検査しても、内側面の全体を検査することはできない。このことから、本実施形態の物品検査方法に適した物品の形状が導かれる。ローアングル照明の入射角θiは、前述のとおり、45度以上であることが好ましく、60度以上であることがさらに好ましく、70度以上であることが特に好ましい。したがって、両方の開口からの検査で内側面全体を検査できる値として、貫通穴の径Dと長さLの比D/L(≧tanθi/2)は、好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.9以上、特に好ましくは1.4以上である。また、片方の開口からの検査で内側面全体を検査できる値として、比D/L(≧tanθi)は、好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.7以上、特に好ましくは2.7以上である。
【0044】
次に、上記実施形態の保持装置について、
図3および
図8〜11に基づいて詳細に説明する。
【0045】
図3において、スリーブ30は、非磁性材からなる。非磁性材としては、プラスチック、銅、アルミニウム等を用いることができる。なかでも、プラスチックを用いることが好ましい。スリーブの開口端31が物品に当接するときに、物品を傷つけにくいからである。
【0046】
また、スリーブ開口端31には、物品のずれを抑制するためにすべり止め部を設けてもよい。すべり止め部は、例えば、厚さ0.1mm〜0.3mm程度のゴムや樹脂製の弾性体シートを開口端31に貼着して形成することができる。
【0047】
スリーブ30の形状は特に限定されないが、円筒形であることが好ましい。吸着した物品の向きによらず、物品の輪郭からはみ出しにくく、撮像時に邪魔になりにくいからである。撮像工程においてスリーブの向きがカメラの軸と略垂直になった場合に、スリーブが物品の輪郭からはみ出していると、検査すべき側面に照明の影ができるので、好ましくない。
図11において、スリーブ30の断面が円形の場合は、その直径が物品90の輪郭の最大内接円98より小さいことが好ましい。多くの種類の物品に対して利用可能であるために、保持装置のスリーブの径は、好ましくは50mm以下であり、より好ましくは30mm以下であり、特に好ましくは20mm以下である。
【0048】
また、撮像工程においてスリーブの向きがカメラの軸と略垂直になった場合に、フランジやエアシリンダー本体が照明の邪魔にならないためには、スリーブ30の長さは、ローアングルリング照明72の半径より長いことが好ましい。一般的なローアングルリング照明の半径が50〜100mm程度であることを考慮すると、スリーブの長さは、好ましくは50mm以上であり、より好ましくは75mm以上であり、特に好ましくは100mm以上である。
【0049】
エアシリンダー35は、本体36がフランジ38を介してスリーブ30に固定されている。エアシリンダーをフランジに固定する方法およびスリーブを固定する方法は、ねじ留め等公知の方法を用いることができる。また、フランジを用いず、エアシリンダー本体を直接スリーブに固定してもよい。本体36がスリーブに固定されていることによって、エアシリンダーが伸縮すると、スリーブ内に収容された可動ロッド37がスリーブに対して相対的に、その軸方向に直線運動することができる。
【0050】
エアシリンダー35はリニアアクチュエーターの一種である。リニアアクチュエーターは、種々のエネルギーを直線運動に変換する装置である。リニアアクチュエーターとしては、エアシリンダーの他に、油圧シリンダー、電動シリンダー、リニアモーターを用いたもの、モーターの回転運動を運動変換機構により直線運動に変換するものを用いることができる。なかでも、小型化が可能で、精確な制御が容易であることから、エアシリンダーを用いるのが好ましい。
【0051】
磁石ユニット41は、可動ロッド37の先端に固定されている。これにより、エアシリンダー35が伸縮すると、可動ロッドの直線運動に伴って、磁石ユニットがスリーブ30内面に案内されてスリーブの軸方向に直線運動する。
【0052】
磁石ユニット41は、1個の永久磁石、または少なくとも1個の永久磁石を含む複数の磁性部材の組み合わせによって構成されている。磁石ユニットの前方端面47が第1磁極(例えばN極)であり、反対側の後方端面48が第2磁極(例えばS極)である。このように開口32に面して磁極を形成することにより、磁石ユニットの前方端面から出る磁束密度が大きくなり、強い吸着力が得られる。
【0053】
磁石ユニット41は、本実施形態では2つの部材からなる。前方の部材は永久磁石51である。後方の磁性部材61は、永久磁石であっても軟質磁性材からなる軟質磁性部材であってもよい。軟質磁性材としては、透磁率の高い、鉄などの各種公知の材料を用いることができる。好ましくは、磁石ユニットの最も前方にある部材は永久磁石である。これにより、より強い吸着力が得られるからである。
【0054】
なお、磁石ユニットの構成は、
図3のものに限られない。例えば、
図8Aに示すように、磁石ユニット42が単一の永久磁石52からなるものであってもよい。また、例えば、
図8Bに示すように、磁石ユニット43は、前方に軟質磁性部材63を配置し、後方に永久磁石53を配置してもよい。
【0055】
永久磁石51としては、磁力の強いものを用いることが好ましい。これにより、より多種の材質からなる物品を吸着できるからである。永久磁石は、好ましくはNd−Fe−B系の磁石(ネオジム磁石)である。あるいは、永久磁石の種類に関わらず、磁石ユニット41の前方端面47における磁束密度が、好ましくは300mT以上であり、より好ましくは400mT以上であり、特に好ましくは500mT以上である。これにより、一般的な磁石に吸着されないオーステナイト系のステンレス鋼からなる物品や、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、マンガンなどを成分として含む多くの合金からなる物品を吸着することができる。また、強い磁力で強力に保持することで、微小な物品を高速に搬送できる。なお、入手の容易さの点からは、永久磁石の磁束密度は700mT以下であることが好ましい。
【0056】
磁石ユニット41をエアシリンダーの可動ロッド37の先端に固定する方法は特に限定されず、接着剤を用いて接着する方法や、ねじ等を用いた機械的な方法などを用いることができる。
【0057】
磁石ユニット41を構成する部材同士の接合方法も特に限定されない。
図3では、前方にある永久磁石51は、後方に隣接する磁性部材61に、磁力により吸着されて結合している。この構造を採用するためには、磁石ユニットと物品との吸着力に比べて、永久磁石と磁性部材との吸着力が格段に大きい必要がある。例えば、永久磁石がNe−Fe−B系磁石で、物品が一般的な磁石に着かないものなら、永久磁石と磁性部材の吸着力が格段に大きいので、この構造を採用することができる。この構造により、永久磁石51の交換を極めて容易に行うことができる。
【0058】
永久磁石51の大きさは、強い磁力が得られるという点からは、大きい方が好ましい。一方、微小な物品を対象とする本実施形態の保持装置では、保持装置自体も小型であることが望ましく、スリーブの軸に垂直な断面における外径は、好ましくは40mm以下であり、より好ましくは20mm以下である。実際には、物品の種類やハンドリングの内容に応じて、所要の吸着力を得るための磁石の種類・サイズ等を決め、磁石の外形に合わせてスリーブを選択することになろう。永久磁石のスリーブ軸方向への長さは特に限定されない。磁石が長いほど磁力が強くなるので、必要に応じて適当な長さのものを選択することができる。
【0059】
本実施形態では、永久磁石51は環状である。物品の吸着面に穴が存在する場合、磁石ユニットの最も前方にある部材が環状または筒状であると、この形状が、物品の磁気的な位置決め手段として作用する。以下に説明する。
【0060】
物品を磁石に吸着させる場合、磁石からでる磁力線がなるべく物品内を通るように、物品が位置や向きを変えようとする力が働く。微小な部品には固定のために穴が形成されているものが多い。そして、吸着時に位置や向きを変えようとする傾向は、物品の吸着面に物品を貫通する穴が形成されていると、特に顕著になる。
【0061】
図9Aに穴97が形成された物品90の平面図を示す。このような物品を、穴のない磁石、例えば円柱状の磁石50に吸着させる場合、吸着の瞬間に物品が動いて、位置がずれたり向きが変化しやすい(
図9Bから
図9Cへの変化)。また、一旦吸着しても、搬送中に物品が動きやすく、物品を解放する瞬間にも物品が動きやすい。この現象は、穴57のある環状や筒状の磁石51を用いた場合にも起こり得る(
図9Dから
図9Eへの変化)。しかし、磁石の穴57を物品の穴97と同心にして、吸着面に垂直に磁石を近づけて、一旦吸着がされると、物品の位置および向きが安定する(
図9F)。本実施形態の保持装置では、永久磁石51の穴と物品の穴が同心になるように物品をスリーブで押さえながら、磁石ユニット41を近づけて吸着することができるので、以後は、搬送中にも物品が動きにくい。高速搬送による物品のずれを抑制するには、前述のとおり、スリーブ開口端31にすべり止め部を設けることが好ましい。
【0062】
次に、本実施形態の保持装置の動作を
図10に基づいて説明する。
【0063】
図10Aにおいて、永久磁石51の穴57と物品90の穴97が同心になるように、保持装置11を物品の一つの主面91に正対させる。このとき、磁石ユニットは、スリーブ内に後退した位置にある。
【0064】
次いで、
図10Bにおいて、保持装置を物品に近づけて、スリーブの開口端31を物品に当接させる。保持装置をロボットアーム等によって操作する場合は、ロボットの目となるカメラで物品の位置を確認ながら保持装置の姿勢・位置を調整することにより、正確な動作が可能である。
【0065】
次いで、
図10Cにおいて、エアシリンダーを伸ばし、可動ロッド37と磁石ユニット41を前進させて物品90に吸着させる。このとき、スリーブ開口端で物品を押さえたまま、磁石ユニットを近づけていくので、吸着の瞬間に物品が動くことがない。また、点ではなく、開口端の円周全体で物品押さえるので、吸着の瞬間に物品が回転することもない。なお、磁力が強い場合は、磁石ユニットの前方端面47がスリーブの開口端31よりわずかに引っ込んだ位置で、十分な吸着力が得られる。その場合は、磁石ユニットの前方端面が物品90に接触する直前で止めてもよい。エアシリンダーによって精確な位置送りができるため、このような制御も可能である。
【0066】
次いで、
図10Dにおいて、物品を保持した状態で、保持装置を移動させることができる。このときも、スリーブ開口端31が物品に接触した状態を保つことが好ましい。ロボットアームなどを用いて保持装置を移動させる場合には、物品に大きな力が作用することがある。スリーブ開口端を物品に当接した状態を保つことにより、搬送中の物品の位置ずれ、向きの変化(軸に垂直な面内での回転)を防止することができる。特に、本実施形態の検査で保持装置を用いる場合、タクトタイムを短縮するために可能な限りの高速搬送が求められる。そのため、実際のロボットアームの移動速度は2500mm/秒、加速度は2.5Gに達することがある。このような場合でも、本実施形態の保持装置を用いることで安定した物品のハンドリングが可能となる。
【0067】
保持装置11が物品を解放する動作は、上記吸着動作と反対である。まず、物品を所要の位置に置く(
図10C)。次いで、物品にスリーブ開口端を当接させたまま、磁石ユニットを後退させる(
図10B)。このとき、スリーブ開口端で物品を押さえたまま磁石ユニットを後退させるので、磁石ユニットを離す瞬間に物品が動くことが起こりにくい。次いで、磁石ユニットを完全に後退させた後、保持装置を物品から離して、物品を解放する(
図10A)。
【0068】
本実施形態の保持装置が本実施形態の検査方法に適する理由を改めて説明する。
【0069】
微小物品の保持装置としては、磁力式以外の保持装置も考えられる。しかし、例えば、貫通穴を内径保持するコレットチャックは、内側面を隠してしまうので、本実施形態の検査方法には使用できない。また、例えば、真空吸着による保持装置は、貫通穴の開口を塞ぐように物品を保持することができない。また、例えば、特許文献1に記載された物品を外側から挟持するものでは、多様な形状の物品への対応や小型化が難しいし、貫通穴内側面に加えて物品の表面全体を検査する場合に表面の多くの部分が隠れてしまう。本実施形態の磁力式保持装置であれば、物品の外表面の一つの面を保持面として、物品を保持することができる。
【0070】
また、本実施形態の保持装置によれば、スリーブを物品に当接させて、物品を押さえながら、磁石を吸着させるので、吸着時に物品が動いて位置がずれたり向きが変化することが起こりにくい。このとき、円形のスリーブ開口端で物品を押さえるので、ピンなどにより1点で押さえる場合よりも、物品が回転しにくい。物品が磁石ユニットに吸着した後も、スリーブ開口端を物品に接触した状態を維持することにより、搬送中にも物品がずれたり、回転したりしにくい。物品を解放するときは、スリーブで物品を押さえながら磁石を離脱させるので、離脱の瞬間に物品が動くことが起こりにくい。その結果、正確な位置に物品を解放することができる。
【0071】
さらに、本実施形態の保持装置では、磁石ユニットの前方端面に環状の永久磁石51が配置されているので、穴が形成された物品に対して、位置決め効果が得られる。すなわち、スリーブで物品を押さえながら磁石を吸着させるので吸着の瞬間に物品が動くことがなく、永久磁石51の穴と物品の穴を同心にして、磁石ユニットを吸着させることができる。そして、2つの穴が同心になって吸着が完了すると、以後は、搬送中に物品の位置がずれたり、向きが変わったりすることが起こりにくい。物品の解放時にも、物品が動きにくい。
【0072】
次に、本発明の物品検査方法および装置の第2の実施形態を
図12〜16に基づいて説明する。本実施形態は、
図2に示したような物品に対して、保持装置が貫通穴の一方の開口を塞ぐように物品を保持する場合を想定している。
【0073】
図12において、本実施形態の物品検査装置80は、2組の装置群からなる。検査装置80は、第1保持装置11、第1多関節ロボットアーム71、第1ローアングルリング照明72、第1ハイアングルリング照明73、第1カメラ74、第2保持装置21、第2多関節ロボットアーム81、第2ローアングルリング照明82、第2ハイアングルリング照明83と第2カメラ84を有する。そして、第1ロボットアームによって物品を移動可能な範囲と、第2ロボットアームによって物品を移動可能な範囲が一部で重なっており、その重なった領域で、第1保持装置から第2保持装置に物品90が受け渡される。なお、以下において多関節ロボットアームを単にロボットアームと、ローアングルリング照明を単にローアングル照明と、ハイアングルリング照明を単にハイアングル照明ということがある。
【0074】
第1および第2保持装置、第1および第2ロボットアーム、第1および第2ローアングル照明、第1および第2ハイアングル照明、第1および第2カメラは、それぞれ対応する第1の実施形態の機器と同じものである。ここで、重要なことは、第1および第2保持装置の磁石ユニットの前方端面が同種の磁極であることである。
【0075】
次に、本実施形態の物品検査方法を説明する。
図13に検査の工程図を示す。個々の工程は、第1の実施形態の対応する工程と同様に行われる。
【0076】
検査対象である物品90を、貫通穴の一方の開口を塞ぐように、第1保持装置11で吸着してパレット等から取り上げる(第1保持工程)。次いで、第1ロボットアームを動作させて、他方の開口を含む開口面を第1カメラに向けて、物品を第1撮像位置76に移動させる(第1移動工程)。そして、当該開口面をローアングルリング照明およびハイアングルリング照明で照らして撮像する(第1撮像工程)。このとき、第1の実施形態と同様に、当該開口面の検査を同時に行ってもよいし、また、続いて物品を他の角度から検査してもよい。
【0077】
次いで、第1保持装置11から第2保持装置21に物品90を受け渡す(受け渡し工程)。
【0078】
次いで、第2ロボットアームを動作させて、一方の開口(第1保持装置が塞いでいた開口)を含む開口面を第2カメラに向けて、物品を第2撮像位置86に移動させる(第2移動工程)。次いで、当該開口面を第2ローアングル照明および第2ハイアングル照明で照らして撮像する(第2撮像工程)。このとき、第1の実施形態と同様に、当該開口面の検査を同時に行ってもよい。すべての検査が終了したら、第2ロボットアームは、物品をパレット等に積み付ける。
【0079】
次に、第1保持装置から第2保持装置への物品の受け渡し方法を
図14〜16に基づいて説明する。
図14〜16では、磁石ユニットの穴は省略した。また、第2保持装置の構成部材は、第1保持装置の対応する部材を示す番号の末尾に「a」を付して示した。
【0080】
図14において、左側にある第1保持装置11に保持された物品90を、右側にある第2保持装置21に受け渡す。
図14では、例として、第1および第2保持装置の前方端面の第1磁極がいずれもN極である場合を示した。
【0081】
まず、
図14Aにおいて、物品が第1保持装置11に保持された状態で、第2保持装置21を反対側から近づける。このとき、第2保持装置の磁石ユニットは、スリーブ内に後退した位置にある。
【0082】
次いで、
図14Bにおいて、第2保持装置のスリーブ開口端を物品に当接させる。
【0083】
次いで、
図14Cにおいて、第2保持装置のエアシリンダーを伸ばし、磁石ユニット41aを前進させて、物品に当接させて、吸着させる。このとき、物品は、第1保持装置のスリーブの開口端31と第2保持装置のスリーブ開口端31aに挟まれている。
【0084】
次いで、
図14Dにおいて、第1保持装置のエアシリンダーを縮めて、磁石ユニット41を後退させて、物品から離脱させる。
【0085】
次いで、
図14Eにおいて、第1保持装置の全体を、物品から離脱させる。以上により、物品90が第1保持装置から第2保持装置に受け渡された。
【0086】
ここで、重要なことは、第1および第2保持装置の磁石ユニットの前方端面47、47aが、ともに同種の磁極(
図14ではN極)であることである。比較のために、第1および第2保持装置の対向する前方端面が逆の磁極、例えばN極とS極である場合を
図15に基づいて説明する。
【0087】
図15において、第1保持装置11の磁石ユニット41の前方端面がN極であるのに対して、第2保持装置29の磁石ユニット49aの前方端面がS極である。この場合は、
図15Dにおいて、第1保持装置の磁石ユニット41を後退させて、物品から離脱させたときに、物品90の第1保持装置側の表面がS極となる。そのため、
図15Eにおいて、第1保持装置の全体を物品から離脱させる際に、物品が第1保持装置に引き付けられて、第2保持装置から離れてしまう。この現象は、第1保持装置の磁石ユニットを、磁力の影響がなくなる程度まで遠くに後退させてから、第1保持装置全体を引き離すことによって、理論的には防止できる。しかし、それでは受け渡し操作に時間がかかるため、現実的ではない。
【0088】
参考のために、
図16Aに
図14Dの状態での磁力線、
図16Bに
図15Dの状態での磁力線を示す。第1および第2保持装置の対向する磁極が同種である場合は(
図16A)、第1保持装置と物品が反発するので、この後に第1保持装置を引き離しても、物品は第2保持装置に貼り付いたまま、離れることがない。
【0089】
本実施形態において、物品検査装置80は、2つの撮像部を有する。これにより、第1撮像工程と第2撮像工程を並行して実施することができるので、全体として検査時間が短縮できる。一方、撮像部を1つにして共用することもできる。その場合は、装置の製造コストを抑え、設置面積を小さくすることができる。
【0090】
本発明の物品検査方法および装置は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で様々な変形が可能である。
【0091】
例えば、上記実施形態では、ローアングル照明とハイアングル照明に異なる色を用いたが、その代わりに、ローアングル照明とハイアングル照明の色に関係なく、ローアングル照明とハイアングル照明を順次点灯させて、1台のカメラで2枚の画像を順次撮像することもできる。この場合でも、2枚の画像を重ね合わせることにより、ローアングル照明とハイアングル照明に異なる色の照明を用いた場合と同様の効果が得られる。さらに、2枚の画像を順次撮像する場合は、カメラとしてモノクロカメラを用いることができ、カラーカメラよりも高解像度の画像を得ることができる。