(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る、かつら用ストッパ及びかつらについて、図面を参照しながら説明する。
図1A及び
図1Bは、本発明の一実施の形態に係るかつら用ストッパ1の地毛挟持状態を示す正面図及び背面図である。
【0014】
図2A〜
図2Dは、かつら用ストッパの地毛開放状態を示す斜視図である。
図3は、かつら用ストッパ1の各部の寸法を示す分解正面図である。
図4は、本実施の形態におけるベース部11及び複数本の櫛歯20を示す背面側斜視図である。
【0015】
かつら用ストッパ1は、本体部10と、複数本(一例として9本)の櫛歯20と、を備える。詳しくは後述するが、本体部10及び複数本の櫛歯20は、非金属材料、例えば合成樹脂材料が主成分である。
【0016】
本体部10は、U字板状を呈するベース部11と、このベース部11の開口部分を挟んだ両端を互いに引き寄せた状態で連結することで、本体部10を反転可能にする連結アーム12と、を有する。
【0017】
このようにベース部11の両端が互いに引き寄せられた状態で連結アーム12によって連結されることで、ベース部11には歪みが生じる。そのため、かつら装着者が、
図1A、
図1B、及び
図3に示すかつら用ストッパ1の平面視における長手方向(以下、「かつら用ストッパ1の平面視における長手方向」を「ストッパ長手方向」と記す。)D1において、本体部10の両端を保持した状態で、本体部10の中央部分を押圧することによって、本体部10は、複数本の櫛歯20との間で地毛を挟持する位置(P1:
図1A及び
図1B参照)と挟持した地毛を開放する位置(P2:
図2A〜
図2D参照)とに反転する。なお、後述するが、複数本の櫛歯20は、ベース部11に一体に設けられているため、複数本の櫛歯20も、本体部10と同様に反転する。
【0018】
ベース部11は、1辺が開口する矩形枠状を呈することで、ストッパ長手方向D1に長い横長のU字板状を呈する。このベース部11の開口する1辺を挟んだ両端の間に、ストッパ長手方向D1に平行に連結アーム12が配置される。ベース部11には、例えば縫着によってかつら用ストッパ1を
図5に示すかつら100のかつらベース101に取付けるための取付け孔11a,11bが設けられている。
【0019】
また、
図4(他では
図1B及び
図2D)に示すように、ベース部11には、連結アーム12を固定するための突起11c,11dが設けられている。
連結アーム12は、例えば、ストッパ長手方向D1に長い板状を呈する。連結アーム12には、ベース部11と同様に、例えば縫着によってかつら用ストッパ1をかつらベース101に取付けるための取付け孔12a,12bが設けられている。
【0020】
また、
図3に示すように、連結アーム12には、ベース部11の突起11c,11dが挿入される挿入孔12c,12dが設けられている。ここで、2つの挿入孔12c,12dの間隔(中心間の間隔)を「1」とした場合の2つの突起11c,11dの間隔(中心間の間隔)は、0.85〜0.87であることが、かつら用ストッパ1の挟持力の観点から望ましい。
【0021】
なお、ベース部11の突起11c,11dは、挿入孔12c,12dを貫通した先端を押しつぶされることで、連結アーム12がベース部11から抜け落ちるのが防止される。また、ベース部11と連結アーム12とは、リベットなどの他の手段によって互いに固定されていてもよい。
【0022】
連結アーム12は、複数本の櫛歯20との間に挟持されるかつら装着者の地毛を傷つけない観点では、筒形状を呈する弾性体30により少なくとも一部が覆われていることが望ましい。この弾性体30の材料は、例えばミラブル型シリコーンゴムである。
【0023】
なお、
図1A、
図1B、
図2A、及び
図2Cにおいて、連結アーム12の一方の取付け孔12bの一部又は全部が弾性体30によって覆われているが、実際にかつら用ストッパ1がかつらベース101に取付けられるときには、弾性体30は、例えばかつら装着者によって、取付け孔12a,12bを覆わない位置に移動される。
【0024】
複数本の櫛歯20は、ベース部11に一体に設けられている。複数本の櫛歯20は、ストッパ長手方向D1に沿って配列され、
図1A、
図1B、及び
図3に示すかつら用ストッパ1の平面視における短手方向(以下、「かつら用ストッパ1の平面視における短手方向」を「ストッパ短手方向」と記す。)D2に延びる。なお、櫛歯20のストッパ短手方向D2に直交する断面形状は、例えばストッパ長手方向D1に長い長方形状であるが、他の形状であってもよい。
【0025】
特に
図2Bに示すように、櫛歯20は、ベース部11と固定端部20aとの間、固定端部20aと中央部20bとの間、及び、中央部20bと自由端部20cとの間、のそれぞれで屈曲する(これらの屈曲部を挟んだ領域を、便宜上、固定端部20a、中央部20b、及び自由端部20cの計3つの領域としている)。
【0026】
図2A〜
図2Dに示すように本体部10が地毛を開放する位置P2にあるとき、固定端部20a、中央部20b、及び自由端部20cのうちベース部11となす角度(立ち上がり角度)が最も大きいのは固定端部20aであり、次に大きいのは中央部20bである。このように、櫛歯20が少なくとも1つの屈曲部を有することで、地毛を挟持しやすくなる。特に、櫛歯部20が、この櫛歯部20の長手方向であるストッパ短手方向D2における中心よりも固定端側に位置する屈曲部(例えば、固定端部20aと中央部20bとの間の屈曲部)を有することで、より一層、地毛を挟持しやすくなる。なお、櫛歯20の自由端部20cは、自由端に近づくほど、ストッパ長手方向D1における幅がテーパ状に狭くなっている。
【0027】
なお、本実施の形態では、かつら用ストッパ1の本体部10が別体のベース部11及び連結アーム12から形成される例について説明しているが、本体部10は、単一の部材から形成されていてもよい。
【0028】
また、本実施の形態では、複数本の櫛歯20がベース部11(本体部10)に一体に設けられる例について説明したが、複数本の櫛歯20は、ベース部11(本体部10)とは別体の部材であってもよい。その場合、複数本の櫛歯20が一体で且つこの一体の複数本の櫛歯20がベース部11(本体部10)に固定されるとよい。
【0029】
図3に示すように、分解状態において、ベース部11全体のストッパ長手方向D1における幅L1は、例えば36mmである。複数本の櫛歯20のストッパ短手方向D2における幅L2は、例えば15mmである。ベース部11のうち複数本の櫛歯20が設けられる部分のストッパ短手方向D2における幅L3は、例えば5mmである。なお、幅L1は、幅L2+L3よりも大きい。
【0030】
複数本の櫛歯20全体のストッパ長手方向D1における幅L4は、例えば20mmである。ベース部11のうち複数本の櫛歯20を挟んだ両側の部分それぞれの幅L5は、例えば4mmである。
【0031】
連結アーム12のストッパ長手方向D1における幅L6は、例えば34mmである。連結アーム12のストッパ短手方向D2における幅L7は、例えば5mmである。
図示しないが、ベース部11の厚さは、例えば1mmであり、連結アーム12の厚さは、例えば0.8mmである。
【0032】
なお、かつら用ストッパ1の寸法としては、ストッパ長手方向D1における幅が10mm〜100mm、ストッパ短手方向D2における幅が5mm〜50mm、厚さが0.1〜10mmの範囲にあれば、後述する本体部10の材料の物性値による効果を得ることができる。
【0033】
図5は、本実施の形態に係るかつら100を示す底面図である。
かつら100は、毛髪(例えば、人工毛髪又は人毛)102が植毛されたかつらベース101を有する。
【0034】
上述のかつら用ストッパ1は、かつらベース101の内側の面において、例えば前後左右の周縁に4つ固定されるとよい。なお、かつら用ストッパ1をかつらベース101に固定する数は、1つ以上であればいくつでもよい。
【0035】
かつら用ストッパ1は、例えば、複数本の櫛歯20の自由端がかつらベース101の中心に向くように、例えば、かつら100を装着するかつら装着者の地毛の毛流れと反対方向に向くように、配置されているとよい。
【0036】
図6は、本体部10(かつら用ストッパ1)の材料の物性値を示す表である。
以下、本体部10の材料の物性値について説明するが、本実施の形態では、かつら用ストッパ1の全体が単一の材料から形成されているため、かつら用ストッパ1の材料の物性値と捉えても同じである。
【0037】
本実施の形態における曲げ強度(曲げ強さ)は、ISO178に基づくものであり、試験片寸法が厚さ4[mm]、幅10[mm]、長さ80[mm]で、支点間距離64[mm]、試験速度2[mm/min]における値[MPa]である。
【0038】
本実施の形態における曲げ弾性率は、ISO 178に基づくものであり、曲げ強度と同様に、試験片寸法が厚さ4[mm]、幅10[mm]、長さ80[mm]で、支点間距離64[mm]、試験速度2[mm/min]における値[MPa]である。
【0039】
本実施の形態における荷重たわみ温度は、ASTM D−648に基づくものであり、試験片寸法が厚さ12.7[mm]、幅6.4[mm]、長さ127[mm]で、試験応力1.82[Mpa]、加熱速度120[℃/hr]、たわみ量0.254[mm]における値[℃]である。
【0040】
また、本実施の形態で挙げる材料は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルフォン(PSU)、ポリアリレート(PAR)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアセタール(POM:ポリオキシメチレン)、及びポリブチレンテレフタレート(PBT)である。
【0041】
かつら用ストッパ1の特に耐久性に寄与する曲げ強度が、84[MPa]のポリアリレート(PAR)、70[MPa]のポリフェニレンエーテル(PPE)、96[MPa]のポリアセタール(POM)、及び90[MPa]のポリブチレンテレフタレート(PBT)は、かつら用ストッパ1が反転を繰り返した場合の耐久性の面で十分とは言えなかった。
【0042】
一方、曲げ強度が107[MPa]のポリサルフォン(PSU)は、かつら用ストッパ1が反転を繰り返した場合に耐久性の面で許容できる最低限の材料であった。その他の材料は、曲げ強度が107[MPa]を超えるため、十分な耐久性を得られた。なお、曲げ強度が235[MPa]を超える材料については、必要以上の曲げ強度を有することになり、また、判定していないため、除外している。曲げ強度については、ポリエーテルサルフォン(PES)の129[MPa]以上あることがより望ましいこともわかった。
【0043】
かつら用ストッパ1の特に挟持力に寄与する曲げ弾性率は、2550[MPa]のポリエーテルサルフォン(PES)が挟持力を発揮する上で許容できる最低限の曲げ弾性特性を発揮することがわかった。しかし、曲げ弾性率が2100[MPa]のポリアリレート(PAR)、2350[MPa]のポリフェニレンエーテル(PPE)、及び2540[MPa]のポリブチレンテレフタレート(PBT)は、曲げ弾性特性が不十分であった。
【0044】
なお、曲げ弾性率が2550[MPa]以上のその他の材料は、十分な曲げ弾性特性を発揮した。また、曲げ弾性率が4900[MPa]を超える材料については、必要以上の曲げ弾性率を有することになり、判定していないため、除外している。曲げ弾性率については、ポリサルフォン(PSU)の2690[MPa]以上で且つポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の3620[MPa]以下であることがより望ましいこともわかった。また、使い勝手を含めた挟持力の観点では、添加物を加えて3300[MPa](より望ましくは3000[MPa])よりも曲げ弾性率を低くしたポリエーテルイミド(PEI)が特に優れていることがわかった。
【0045】
かつら用ストッパ1の耐久性及び挟持力に寄与する荷重たわみ温度は、156[℃]のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)について許容できる最低限の温度耐性を発揮したが、156[℃]を超えるとよいことがわかった。156[℃]以下の場合、耐久性を悪化させる場合があり、更に、永久変形などによって挟持力を悪化させることがわかった。そのため、荷重たわみ温度が156[℃]のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、108[℃]のポリフェニレンサルファイド(PPS)、110[℃]のポリアセタール(POM)、及び78[℃]のポリブチレンテレフタレート(PBT)については不十分といえる。
【0046】
一方、荷重たわみ温度が360[℃]を超える材料、例えば金属材料については本実施の形態では、重い、硬いなどの性質を有するという問題、かつら装着者が金属アレルギーの場合には使用できないという問題、空港等の金属探知機に反応するおそれあるという問題、金属は少量取引が困難なため高コストになる傾向があるという問題などを考慮し、また、判定していないため、除外している。
【0047】
上述の曲げ強度(107〜235[MPa])の条件、曲げ弾性率の条件(2550〜4900[MPa])、及び荷重たわみ温度の条件(156[℃]より高く且つ360[℃]以下)の全ての条件を満たす材料は、挟持力及び耐久性ともに良好であったため、
図6の「結果」の欄を「○」とし、その他を不可である「×」として
図6に記すことにした。
【0048】
他の観点では、強度、剛性、及び安定性に優れる非晶性プラスチック材料が、かつら用ストッパ1として利用するのに適していることがわかった。
以上説明した本実施の形態では、かつら用ストッパ1は、複数本の櫛歯20と、曲げ強度(ISO 178)が107〜235[MPa]の材料から形成され、複数本の櫛歯20との間で地毛を挟持する位置(P1)と挟持した地毛を開放する位置(P1)とに反転する本体部10と、を備え、非金属材料から形成される。また、本体部10の材料の曲げ弾性率(ISO 178)は、2550〜4900[MPa]であり、本体部10の材料の荷重たわみ温度(ASTM D−648)は、試験応力1.82[MPa]において156[℃]より高く且つ360[℃]以下である。
【0049】
そのため、主に曲げ強度及び荷重たわみ温度の条件に起因してかつら用ストッパ1の耐久性を高めることができる。また、主に曲げ弾性率及び荷重たわみ温度の条件に起因してかつら用ストッパ1の挟持力を高めることができる。
【0050】
よって、本実施の形態によれば、非金属材料から形成されるかつら用ストッパ1の挟持力及び耐久性を高めることができる。
また、本実施の形態では、本体部10の材料は、非晶性プラスチック材料が主成分である。そのため、強度、剛性、及び安定性に優れるため、かつら用ストッパ1の挟持力及び耐久性をより高めることができる。
【0051】
また、本実施の形態では、本体部10は、U字板状を呈するベース部11と、このベース部11の開口部分を挟んだ両端を互いに引き寄せた状態で連結することで、本体部10を反転可能にする連結アーム12と、を有し、複数本の櫛歯20は、ベース部11に一体に設けられている。これにより、上述の本体部10の材料を用いた場合に、より確実に、かつら用ストッパ1の挟持力及び耐久性を高めることができることがわかった。