(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の椅子が設置された施設(建物)では、施設の刷新を行う場合に、施設の躯体構造の刷新を行うことなく、椅子だけが交換される場合がある。躯体の床面(設置面)は、施工誤差や経年使用によって椅子の設置位置ごとに細かな寸法の差が生じることが避けられない。床面の寸法が異なると、椅子の設置時に、椅子間で背凭れの傾きがわずかに異なり、椅子の背凭れの上端部の前後方向の位置が、左右方向に並べられた複数の椅子間でずれてしまうという問題がある。
椅子の背凭れの位置がずれると、施設内で並べられた複数の椅子の外観が損なわれる。
【0006】
特許文献3に記載された椅子は、背凭れに背凭れ送り金具を設けている。肘掛けに固定された中板には、支軸ボルトが取付けられている。背凭れ送り金具の上部に支軸ボルトを挿通するボルト孔を設け、背凭れ送り金具を摺動可能に支持している。
背凭れ送り金具には、支軸ボルトを中心とする円弧長孔が設けられている。中板に設けた孔部と円弧長孔とにボルトを挿通しナット掛けにより、背凭れ送り金具はこの円弧長孔の長さを限度として、揺動することができる。
【0007】
着座しない状態では内部の引きバネによる弾性力で座席と背凭れはそれぞれ縮寸状態の現姿勢を維持している。子供等が座席に着座し背凭れに寄り掛かると、背凭れは背凭れ送り金具における支軸ボルトを中心とする揺動により、後方に傾く。これにより、椅子全体が前後方向に拡寸する。
したがって、椅子の不使用時おける前後の座席間における横方向の通路スペースが充分に確保されて、異常事態発生時の歩行困難による二次災害が未然に防止できる。
【0008】
この特許文献3に開示された椅子の円弧長孔、孔部、ボルト、及びナットの構成を応用して、脚部材に対して背凭れを回転可能な構造とすることにより、前述の背凭れの位置ずれの問題を解決することが考えられる。すなわち、脚部材に円弧長孔を形成し、背凭れに孔部を形成する。円弧長孔及び孔部を挿通したボルトと、このボルトに螺合するナットで脚部材及び背凭れを挟み込むことにより、脚部材に背凭れを固定する。
このように構成された椅子では、ボルト及びナットの螺合を緩め、背凭れの傾きを調節して、背凭れの上端部の前後方向の位置を調節する。ボルト及びナットをきつく締めて、脚部材に背凭れを固定する。
【0009】
しかしながら、このように構成された椅子では、一対の脚部材に対して背凭れが回転する回転方向に平行な面を有するボルト及びナットで脚部材及び背凭れを挟んでいる。このため、ボルト及びナットの螺合が緩くなったときに、ボルト及びナットと脚部材、背凭れとの間に作用する摩擦力が低下する。ボルト及びナットに対して脚部材、背凭れが滑り、背凭れの前後方向の位置がずれる恐れがあり、背凭れの正確な調節が困難になる。
背凭れの調節作業を行うときに、片手で背凭れを保持し、片手でボルトをナットに締め込むという体勢を採らざるを得ない。このため、作業中に背凭れの位置がずれることによって、背凭れの正確な位置出しが困難になると考えられる。
【0010】
また、特に劇場等の観覧施設においては、観覧施設内の領域別に配置されている椅子の背凭れの角度を変えることが望ましい場合がある。例えば、観覧施設が、前方にステージがある劇場である場合、前方の領域に配置された椅子の背凭れが倒れていても、椅子に着座する着座者のステージの視認性に問題はない。しかし、後方の領域に配置された椅子の背凭れは、起き気味になっていた方がステージを視認しやすくなる。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、脚部に対する背凭れの上端部の前後方向の位置を正確に調節可能な椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
発明本の椅子は、設置面に立設された脚部と、前記脚部に第一の軸線周りに回転可能に支持された背凭れと、を備えた椅子であって、前記脚部及び前記背凭れの
うち一方
部材に設けられ、前記第一の軸線周りの回転方向
のうち前後方向に沿う方向に対して交差する被支持面と、前記脚部及び前記背凭れの
うち他方
部材に
前記第一の軸線に平行な第二の軸線周りに回転可能に支持され、前記第二の軸線から側面までの距離が前記第二の軸線周りの周方向の位置により連続的に変化するカムと、を備え
、前記カムの前記側面は、前記被支持面に接触して、前記被支持面を介して前記他方部材を支持する支持面を構成し、前記カムは、前記第二の軸線周りの回転により前記側面における前記第二の軸線から最も離間した最遠面の位置が、前後方向に連続的に変化することで、前記脚部に対する前記背凭れの前記第一の軸線周りの位置を調節可能であることを特徴としている。
この発明によれば、脚部及び背凭れの一方には回転方向に交差する被支持面が形成され、脚部及び背凭れの他方に支持された調節部の支持面が被支持面に接触することにより、被支持面を支持している。このため、支持面と被支持面との間に作用する摩擦力の大きさに関わらず、支持面により被支持面が回転方向に確実に支持される。
したがって、背凭れに荷重を入力することによって、背凭れにおける第一の軸線周りに回動可能に支持された部位から離間した部位が、回転方向に変位しようとするのを抑え、脚部に対する背凭れの位置を安定させることができる。
【0013】
調節部は、被支持面に交差する方向に連続的に支持面の位置を調節可能であるため、被支持面の回転方向の位置を調節して、脚部に対する背凭れの上端部の前後方向の位置を調節すると、支持面により被支持面の回転方向の位置が確実に支持される。したがって、脚部に対する背凭れの上端部の前後方向の位置を正確に調節することができる。
すなわち、背凭れにおける軸支された部位から離間した部位の回転方向の位置を調整する構成でありながら、位置調整と同時に、位置の固定も行うことができる構成である。したがって、作業中の脚部と背凭れとの回転方向における位置ずれの可能性を低減することができる。
カムを第二の軸線周りに回転させることで、カムの側面における被支持面を支持する支持面の位置が連続的に回転方向に変化する。したがって、カムという簡単な構成で、脚部に対する背凭れの前後方向の位置を正確に調節することができる。
また、上記の椅子において、前記一方部材には、内面の一部が前記被支持面である貫通孔が形成され、前記貫通孔内に配置された前記カムの前記側面が、前記貫通孔の前記被支持面に接触してもよい。
この発明によれば、カムが貫通孔内に配置されていることで、回転方向の両側からカムの側面に対して貫通孔の内面が接触する。したがって、脚部に対する背凭れの前後方向の位置をより安定させることができる。
本発明の椅子は、設置面に立設された脚部と、前記脚部に第一の軸線周りに回転可能に支持された背凭れと、を備えた椅子であって、前記脚部及び前記背凭れのうち一方部材に設けられ、前記第一の軸線周りの回転方向のうち前後方向に対して交差する被支持面と、前記脚部及び前記背凭れのうち他方部材に設けられた支持ネジと、前記支持ネジの雌ネジ部に螺合される雄ネジ部を有し、前記支持ネジに対して前後方向に移動可能に支持されたネジ部材と、を備え、前記ネジ部材の先端面は、前記被支持面に接触して、前記被支持面を介して前記一方部材を支持する支持面を構成し、前記ネジ部材は、前記支持ネジに対する前記先端面の位置が前後方向に連続的に変化することで、前記脚部に対する前記背凭れの前記第一の軸線周りの位置を調節可能であることを特徴としている。
【0014】
また、上記の椅子において、前記支持面は、前記第一の軸線よりも下方に配置されていてもよい。
この発明によれば、着座者が支持面を視認しにくくすることができる。また、被支持面をより下方で安定的に支持面で支持することができる。
【0017】
また、上記の椅子において、前記脚部
に対する前記背凭
れの前記第一の軸線周りの位置を固定するとともに、この固定を解除可能な固定部を備えてもよい。
この発明によれば、脚部に対する背凭れの上端部の前後方向の位置を調節した後で、固定部により脚部と背凭れとの第一の軸線周りの位置を固定することができるので、背凭れに荷重が入力された場合に、調節部に第一の軸線周りの回転方向のモーメントが作用するのを防止することができる。したがって、背凭れの脚部に対する位置をより安定化することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の椅子によれば、脚部に対する背凭れの上端部の前後方向の位置を正確に調節することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る椅子の第1実施形態を、
図1から10を参照しながら説明する。
本実施形態に係る椅子は、劇場や講堂、待合室等において連結して設置される互いに連結可能な椅子である。なお、以下の説明において、前後、左右、上下の各呼称は、座に正規姿勢で着座した着座者を基準とした向きである。また、以下の説明では、正規姿勢で着座した着座者の「前方」を図中矢印FRで示し、「上方」を図中矢印UPで示し、「左方」を図中矢印LHで示す。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の椅子1は、施設の床面(設置面)Fに固定されている。
図1及び2に示す例では、椅子1は左右方向に複数並んだ状態で連結されている。椅子1は、床面Fに立設され左右方向に複数並べて配置された脚部10と、左右方向に隣り合う一対の脚部10の間に配置された座25と、脚部10に第一の軸線C1周りに回転可能に支持された背凭れ35と、を備えている。
以下では、複数並べられた椅子1のうち左右方向のそれぞれの端部に配置されたものを椅子1Aと称し、一対の椅子1Aの間に配置されたものを椅子1Bと称する。また、椅子1A及び椅子1Bを区別なく椅子1と総称することがある。
【0022】
左右方向に隣り合う椅子1は、脚部10を共有している。
脚部10は、床面Fに配置された脚本体12と、脚本体12の上部に取り付けられた肘掛け部13とを有している。
脚本体12は、鉄板等で形成されている。肘掛け部13は、樹脂や木等で形成されている。
脚本体12には、
図2から5に示す挿通孔12a、12b、貫通孔12c、12dが上方から下方に向かって順に形成されている。貫通孔12c、12dは、挿通孔12aよりも前方に形成されている。
挿通孔12a、12bは、例えば円柱状に形成されている。
【0023】
図8に示すように、貫通孔12cは、脚本体12の厚さ方向(左右方向)に見たときに、例えば中心角が180°の円弧14a、14bの端部を線分14c、14dで接続したいわゆる長円形状に形成されている。線分14c、14dは互いに平行であり、線分14c、14d間の距離は、円弧14a、14bの直径に等しい。貫通孔12cは、脚本体12を第一の軸線C1に沿って延びるように貫通している。
挿通孔12aの中心軸線と貫通孔12cの中心軸線とを結ぶ方向と、貫通孔12cの長軸とが平行になるように、貫通孔12cが形成されている。
貫通孔12cの内面のうち、第一の軸線C1周りの回転方向Xに対して直交(交差)する面が、第一の被支持面(被支持面)12c1、第二の被支持面(被支持面)12c2である。第一の被支持面12c1は、貫通孔12cの内面のうち前方に形成されたものであり、第二の被支持面12c2は、貫通孔12cの内面のうち後方に形成されたものである。
【0024】
なお、貫通孔12cは、背凭れ35とこの背凭れ35の左方に配置された脚部10との間で背凭れ35の位置を調節するためのものである。貫通孔12dは、背凭れ35とこの背凭れ35の右方に配置された脚部10との間で背凭れ35の位置を調節するためのものである。
貫通孔12dは、貫通孔12cと同一の形状に形成されている。
【0025】
左右方向に複数並べられた脚部10のうち、座25に対向する脚本体12の側面には、
図6に示す回転支持部15が図示しないネジ等の固定手段によりそれぞれ固定されている。なお、これらの回転支持部15は、左右方向に直交する仮想面に対して面対称に形成されている。
一方で、左右方向のそれぞれの端部に配置された脚部10には、左方及び右方の側面のうち座25が配置された側の側面にだけ、回転支持部15が固定されている。
【0026】
回転支持部15は、前後方向に延びる支持壁15aと、支持壁15aの後方の端部から上方に向かって折曲された後部壁15bと、後部壁15bの上方の端部から前方に向かって折曲された上部壁15cと、支持壁15aの前方の端部から上方に向かって折曲された前部壁15dと、を有している。上部壁15cは、前方から後方に向かうにしたがってしだいに支持壁15aに近接するように形成されている。上部壁15cの前方の端部と前部壁15dの上方の端部との間は、前方に開口する開口15eとされている。
【0027】
回転支持部15内には、規制部材17が配置されている。
規制部材17は、左右方向に見たときに、前方から後方に向かうにしたがい上下方向における幅寸法がしだいに縮幅するくさび形のブロック状に形成されている。規制部材17は、開口15eを前方から後方に向かって挿通されている。規制部材17は、上部壁15cの下面と、後述する支持軸29の上面と、に当接した状態で、ボルト等の締結部材18により後部壁15bに対して締結固定されている。これにより、支持軸29の回転支持部15からの脱落を規制している。
【0028】
図1及び2に示すように、座25は、着座面26aを形成する座クッション26と、座クッション26を支持する不図示の座フレームと、座フレームにおける着座面26aとは反対側の裏面を覆う裏面パネル27と、を有する。座クッション26は、クッション材26bを表皮26cで覆った構成を有する。
【0029】
座25には、支持軸29が取り付けられている。支持軸29は、例えば金属材料により、角筒状に形成されている。支持軸29は、左右方向に沿うように配置され、座25を左右方向に貫通している。支持軸29は、使用状態の座25(
図2における実線で示す状態。)の後側にある座25の基端部25aにおいて、座フレームに対して回動軸C2周りに回動可能となるように、座フレームを支持している。回動軸C2は、支持軸29の中心軸と一致している。
支持軸29の周囲には、支持軸29に対して座フレームを所定方向に付勢することで、座25を不使用状態の位置(
図2における二点鎖線で示す位置P1)へ跳ね上げるように回動させる不図示の座付勢機構が設けられる。支持軸29の両端部は、座25を挟むように配置された一対の脚部10に設けられた回転支持部15に固定されている。
【0030】
図1及び2に示すように、背凭れ35は、座25の後方の端部の上方に起立する背凭れ面36aを形成する背クッション36と、背クッション36を後方から支持する背ベース板37と、背ベース板37の左右方向のそれぞれの端部であって背ベース板37よりも後方に設けられた補強板38(一方の補強板38は不図示)と、を備える。
なお、補強板38は背ベース板37よりも前方に設けられていてもよい。また、背凭れ35が補強板38を備えず、背ベース板37に後述するカム45等が取付けられていてもよい。
背クッション36は、クッション材36bを表皮36cで覆った構成を有する。
背凭れ面36aは、下方の部分を除くと、上方に向かうにしたがって後方に傾く傾斜面となっている。
【0031】
図3に示すように、脚部10を共有する左右方向に隣り合う例えば椅子1A、1Bの一方の背凭れ35の補強板38(例えば、椅子1Bの補強板38)には、支持ナット41が埋め込まれ、他方の背凭れ35の補強板38(例えば、椅子1Aの補強板38)には、挿通孔38aが形成されている。
椅子1Aの補強板38と椅子1Bの補強板38とは、共有する脚部10の脚本体12を挟むように配置されている。支持ナット41は、椅子1Bの補強板38の上下方向の中間部に埋め込まれている。挿通孔38aは、椅子1Aの補強板38の上下方向の中間部に形成されている。
【0032】
なお、椅子1Bの補強板38に挿通孔38aが形成され、椅子1Aの補強板38に支持ナット41が埋め込まれるように構成してもよい。
また、脚部10の脚本体12に、第一の軸線C1上に第一の軸線C1に沿って位置をずらして2つの支持ナット41が埋め込まれていてもよい。この場合、脚本体12に埋め込まれた2つの支持ナット41のうち、一方の支持ナット41と支持ネジ42とを用いて、脚部10に対して椅子1Aの背凭れ35を回転可能に支持する。同様に、他方の支持ナット41と支持ネジ42とを用いて、脚部10に対して椅子1Bの背凭れ35を回転可能に支持する。
【0033】
支持ネジ42の軸部42aを補強板38に挿通孔38a及び脚部10の挿通孔12aに挿通させるとともに、軸部42aの外周面に形成された雄ネジ部42bを支持ナット41の雌ネジ部41aに螺合させる。支持ナット41と支持ネジ42の頭部42cとで脚本体12及び椅子1Aの補強板38をきつく締め付けないことで、共有する脚部10に対して椅子1A、1Bの背凭れ35は第一の軸線C1周りに回転することができる。
なお、支持ナット41と支持ネジ42とが緩まないように、公知の緩み止め機構を設けることが好ましい。また、脚部10に背凭れ35を第一の軸線C1周りに回転可能に支持する構成はこれに限定されず、ボールベアリング構造等、所望のものを適宜選択して用いることができる。
【0034】
図7に示すように、複数の椅子1で共有されない脚部10については、例えば、椅子1Aの補強板38に支持ナット41が埋め込まれている。支持ネジ42の軸部42aを脚部10の挿通孔12aに挿通させるとともに、軸部42aの雄ネジ部42bを支持ナット41の雌ネジ部41aに螺合させる。支持ナット41と支持ネジ42の頭部42cとで脚本体12をきつく締め付けないことで、脚部10に対して椅子1Aの背凭れ35は第一の軸線C1周りに回転することができる。
【0035】
図5に示すように、椅子1の補強板38における支持ナット41が埋め込まれている部分よりも下方の部分には、支持ナット44が埋め込まれている。支持ナット44の軸線が、第二の軸線C3となる。第二の軸線C3は、前述の第一の軸線C1に平行である。脚本体12の貫通孔12c内には、
図5及び8に示すカム(調節部)45が配置されている。この例では、カム45は、カム45の厚さ方向に見たときに円形となる板状に形成されている。カム45は、鉄板等で形成されている。カム45に適宜ワッシャ等を重ね、カム45及びワッシャの全体としての厚さと脚本体12の厚さとがほぼ等しくなるようにしてもよい。
カム45には、すり鉢状の挿通孔45aと、円柱状の一対の挿通孔45bとが形成されている。円形であるカム45の中心軸線C6と、挿通孔45aの中心軸線C7とはずれている。カム45の外径は、カム45の周方向の位置によらず貫通孔12cの円弧14aの直径にほぼ等しい。
一対の挿通孔45bは、挿通孔45aを挟むように形成されている。
【0036】
支持ネジ46の軸部46aをカム45の挿通孔45aに挿通させるとともに、軸部46aの雄ネジ部46bを支持ナット44の雌ネジ部44aに螺合させる。このとき、支持ナット44と支持ネジ46の頭部46cとでカム45をきつく締め付けておく。第二の軸線C3とカム45の中心軸線C7とが一致する。
【0037】
ただし、例えば治具D等を用いることで、カム45を背凭れ35に対して第二の軸線C3周り回転させることができる。この治具Dには、一対の突起D1が形成されている。カム45の各挿通孔45bに治具Dの突起D1を挿通し、治具Dを第二の軸線C3周り回転させることで、カム45を第二の軸線C3周り回転させることができる。
このように、カム45は通常は摩擦力により背凭れ35に固定されているが、治具Dを用いることで、背凭れ35に対してカム45を第二の軸線C3周りに回転移動させることができる。すなわち、カム45は、背凭れ35に第二の軸線C3周りに回転移動可能に支持されている。なお、本明細書で言う移動には、回転移動及び平行移動が含まれる。
第二の軸線C3からカム45の側面(支持面)45cまでの距離は、カム45の周方向の位置により連続的に変化する。
図8に示すカム45の基準位置では、カム45の側面45cにおける第二の軸線C3からの距離が最も離間した最遠面45c1は、カム45の中心軸線C7対して第一の軸線C1とは反対側に配置されている。カム45の側面45cは、第一の軸線C1よりも下方に配置されている。
【0038】
カム45の外径はカム45の周方向の位置によらず一定であるため、カム45の側面45cは、貫通孔12cの第一の被支持面12c1及び第二の被支持面12c2に接触する。すなわち、回転方向Xの両側からカム45の側面45cに対して貫通孔12cの被支持面12c1、12c2が接触する。
この回転方向Xは、カム45の側面45cに交差する方向となる。
【0039】
基準位置にあるカム45を、第二の軸線C3周りに時計回りに90°回転させると、
図9に示すように最遠面45c1が前方にくることで、第一の軸線C1を回転の中心としてカム45が設けられた背凭れ35が後方に移動し、背凭れ35が
図2に示す位置P3に配置される。すなわち、背凭れ35の上端部が前方に移動する。このとき、最遠面45c1が第一の被支持面12c1に接触する。
なお、カム45を時計回りに回転させる角度を0°よりも大きく90°未満にすることで、背凭れ35の上端部が前方に移動する位置を連続的に調節することができる。
位置P3までの背凭れ35の回転角度は、貫通孔12cの大きさ及びカム45の大きさを変更することで適宜設定可能である。
【0040】
一方で、基準位置にあるカム45を、第二の軸線C3周りに反時計回りに90°回転させると、
図10に示すように最遠面45c1が後方にくることで、第一の軸線C1を回転の中心としてカム45が設けられた背凭れ35が前方に移動し、背凭れ35が
図2に示す位置P4に配置される。すなわち、背凭れ35の上端部が後方に移動する。このとき、最遠面45c1が第二の被支持面12c2に接触する。
なお、カム45を反時計回りに回転させる角度を0°よりも大きく90°未満にすることで、背凭れ35の上端部が後方に移動する位置を連続的に調節することができる。
位置P4までの背凭れ35の回転角度は、貫通孔12cの大きさ及びカム45の大きさを変更することで適宜設定可能である。
【0041】
このように、カム45は、第二の軸線C3周りに回転することで、回転方向Xに連続的に側面45cの位置を調節可能である。
脚部10の貫通孔12c内のカム45により、背凭れ35とこの背凭れ35の左方に配置された脚部10との間で背凭れ35の位置が調節される。
図示はしないが、貫通孔12d内にもカム45が配置され、このカム45により、背凭れ35とこの背凭れ35の右方に配置された脚部10との間で背凭れ35の位置が調節される。
【0042】
図4に示すように、椅子1の補強板38における支持ナット41が埋め込まれている部分と支持ナット44が埋め込まれている部分との間には、支持ナット48が埋め込まれている。支持ネジ49の軸部49aを脚部10の挿通孔12bに挿通させるとともに、軸部49aの雄ネジ部49bを支持ナット48の雌ネジ部48aに螺合させる。支持ナット48及び支持ネジ49で、固定部50を構成する。
背凭れ35の上端部の前後方向の位置を調節するときには、支持ナット48と支持ネジ49との螺合を緩め、脚部10と背凭れ35との固定を解除しておく。背凭れ35の位置を調節し終えたら、支持ナット48に支持ネジ49をきつく締め付け、脚部10と背凭れ35との第一の軸線C1周りの位置を固定する。
なお、椅子1に挿通孔12bが形成されず、椅子1が支持ナット48及び支持ネジ49を備えなくてもよい。
背凭れ35は、左右方向のそれぞれの端部が脚部10の支持ネジ42、カム45等により支持されている。
【0043】
次に、以上のように構成された椅子1の作用について説明する。
椅子1の通常の使用においては、カム45の側面45cは、第一の軸線C1よりも下方に配置されているため、側面45cが第一の軸線C1よりも上方に配置されている場合に比べて、椅子1に着座する着座者がカム45の側面45cを視認しにくくなる。カム45が目立たないので、カム45が不用意に操作されるのが防止される。
【0044】
椅子1を調節するときには、左右方向に複数並んだ椅子1の背凭れ35の上端部の前後方向の位置を確認し、背凭れ35の位置を調節すべき椅子1を特定する。
必要に応じて、特定した椅子1の脚部10の回転支持部15から規制部材17及び支持軸29を取外し、椅子1から座25を取り外して作業をしやすくする。
特定した椅子1の固定部50である支持ナット48と支持ネジ49との螺合を緩める。
脚部10には、回転方向Xに直交する被支持面12c1、12c2が形成されている。そして、背凭れ35に支持されたカム45の側面45cが被支持面12c1、12c2に接触することにより、被支持面12c1、12c2を支持している。このため、カム45の側面45cと被支持面12c1、12c2との間に作用する摩擦力の大きさに関わらず、側面45cにより被支持面12c1、12c2が回転方向Xに確実に支持される。
カム45の側面45cは、第一の軸線C1よりも下方に配置されているため、脚部10がより下方で安定的に側面45cにより支持される。
【0045】
特定した椅子1のカム45に治具Dを取付ける。治具Dを操作してカム45を第二の軸線C3周りに回転させ、複数の椅子1の背凭れ35の上端部の前後方向の位置が揃うように調節する。
【0046】
カム45を第二の軸線C3周りに回転させることで、カム45の側面45cにおける脚部10を支持する側面45cの位置が連続的に回転方向Xに変化する。カム45が貫通孔12c内に配置されていることで、回転方向Xの両側からカム45の側面45cに対して貫通孔12cの被支持面12c1、12c2が接触する。
背凭れ35の位置の調節が終わったら、特定した椅子1の支持ナット48と支持ネジ49とをきつく締め付け、脚部10に対する背凭れ35の位置を固定する。
なお、カム45により、脚部10と背凭れ35との第一の軸線C1周りの位置を固定するとともに、この固定を解除可能となるように構成してもよい。すなわち、カム45が固定部を兼ねてもよい。
【0047】
以上説明したように本実施形態の椅子1によれば、脚部10には回転方向Xに交差する第一の被支持面12c1が形成され、背凭れ35に支持されたカム45の側面45cが第一の被支持面12c1に接触することにより、第一の被支持面12c1を支持している。このため、側面45cと第一の被支持面12c1との間に作用する摩擦力の大きさに関わらず、側面45cにより第一の被支持面12c1が回転方向Xに確実に支持される。
カム45は、回転方向Xに連続的に側面45cの位置を調節可能であるため、第一の被支持面12c1の回転方向Xの位置を調節して、脚部10に対する背凭れ35の上端部の前後方向の位置を調節すると、側面45cにより第一の被支持面12c1の回転方向Xの位置が確実に支持される。したがって、脚部10に対する背凭れ35の上端部の前後方向の位置を正確に調節することができる。
【0048】
カム45の側面45cは第一の軸線C1よりも下方に配置されているため、着座者が側面45cを視認しにくくすることができる。また、第一の被支持面12c1をより下方で安定的にカム45の側面45cで支持することができる。
背凭れ35の位置の調節作業は、着座者が背凭れ35の上端部ではなく、背凭れ35の下端部を第一の軸線C1周りに回すという作業になる。したがって、着座者及び施工作業者の両者に対して、安全性を高めることができる。
【0049】
調節部はカム45であるため、カムという簡単な構成で、脚部10に対する背凭れ35の前後方向の位置を正確に調節することができる。
脚部10に形成された貫通孔12c内にカム45が配置されていることで、回転方向の両側からカム45の側面45cに対して貫通孔12cの内面が接触する。したがって、脚部10に対する背凭れ35の前後方向の位置をより安定させることができる。
脚部10に対する背凭れ35の上端部の前後方向の位置を調節した後で、固定部50により脚部10と背凭れ35との第一の軸線C1周りの位置を固定することができる。
【0050】
なお、本実施形態では、第一の被支持面12c1が設けられる脚部及び背凭れの一方が脚部10であり、カム45が支持される脚部及び背凭れの他方が背凭れ35であるとした。しかし、脚部及び背凭れの一方が背凭れ35であり、脚部及び背凭れの他方が脚部10であるとしてもよい。この場合、脚部10にカム45が設けられ、背凭れ35に貫通孔12c等が形成される。この貫通孔12c等は、背凭れ35の補強板38に形成してもよいが、背凭れ35が補強板38を備えない場合には、背ベース板37を厚くして背ベース板37に形成してもよい。
カム45は厚さ方向に見たときに円形に形成されているとしたが、カムの形状はこれに限定されず、略円形、楕円形、及び、ルーローの多角形(正奇数角形)の形状であってもよい。
カム45は脚本体12の貫通孔12c内に配置されず、脚本体12の側面に接触することで脚部10を支持するように構成してもよい。
【0051】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図11を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図11に示すように、本実施形態の椅子2は、第1実施形態の貫通孔12c、12d、支持ナット44、カム45、及び支持ネジ46に代えて、ネジ部材(調節部)55及び支持ネジ56を備えている。
【0052】
支持ネジ56は、支持ネジ56の中心軸線C10が回転方向Xに略平行になるように、脚部10の脚本体12に取付けられている。ネジ部材55の操作が容易になるように、脚本体12に切欠き12f等が形成されていることが好ましい。
ネジ部材55は、軸部55aの外周面に雄ネジ部55bが形成されている。この軸部55aの先端面55cが、支持面となる。
ネジ部材55の雄ネジ部55bは、支持ネジ56に形成された雌ネジ部56aに螺合する。ネジ部材55の先端面55cは、回転方向Xに略直交する位置に配置される。雌ネジ部56aに螺合する雄ネジ部55bの位置が変わることで、支持ネジ56は脚部10に対して回転方向Xに連続的に先端面55cの位置を調節することができる。すなわち、ネジ部材55は、脚部10に回転方向Xに移動可能に支持されている。
【0053】
ネジ部材55の先端面55cは、背凭れ35の補強板38に設けられた突部38b等に形成された被支持面38cに接触する。ネジ部材55を回転方向Xに移動させたときに、ネジ部材55の先端面55cは、背凭れ35の被支持面38cを支持した状態で、背凭れ35の回転方向Xの位置を連続的に調節可能である。
【0054】
以上説明したように、本実施形態の椅子2によれば、脚部10に対する背凭れ35の上端部の前後方向の位置を正確に調節することができる。
また、脚部10の支持ネジ56に螺合するネジ部材55の回転方向Xの位置を調節することで、軸部55aの先端面55cの回転方向Xの位置が連続的に変化する。ネジ部材55という簡単な構成で、脚部10に対する背凭れ35の前後方向の位置を正確に調節することができる。
【0055】
以上、本発明の第1実施形態及び第2実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
例えば、前記第1実施形態及び第2実施形態では、左右方向に隣り合う椅子が脚部10を共有しなくてもよい。この場合、いずれの椅子においても、脚部10に背凭れ35が第一の軸線C1周りに回転可能に支持される構造は、
図7のようになる。
【0056】
また、椅子が、特開2015−000182号公報に記載されているように、一対の補強板38同士を連結するとともに、背ベース板37よりも後方に位置する背面板を備えてもよい。さらに、一対の補強板38、背ベース板37、及び背面板により形成された収納箱体に、第一の軸線C1と略平行をなす軸線回りに回動することによって、使用状態へ移行するテーブルが収納されているとする。
この場合は、収納箱体に対するテーブルの相対位置が調節可能であるだけでなく、脚部10に対する背凭れ35の相対位置が調節可能である。したがって、椅子におけるテーブルの位置をより大きな範囲で調節できる。