(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1に示す軌道1は、車両2が走行する通路(線路)である。軌道1は、例えば、道床とまくらぎとが一体化したスラブ軌道である。軌道1は、車両2の車輪2bを支持して案内する左右一対のレール1aと、これらのレール1aを支持する矩形平板状のプレキャストのコンクリート版からなる軌道スラブ(スラブ版)1bなどを備えている。
図1に示す軌道1は、例えば、二本の本線で構成された複線であり、上り線1Aと下り線1Bとから構成されている。
【0016】
車両2は、軌道1に沿って走行する移動体である。車両2は、電車、機関車、客車又は貨車などの鉄道車両であり、高架橋4上を走行している。
図1に示す車両2は、例えば、高速で走行する新幹線(登録商標)又は在来線の鉄道車両である。車両2は、乗客又は貨物を積載し輸送するための構造物である車体2aと、この車体2aを搭載してレール1a上を転動する台車の車輪2bと、架線のトロリ線と摺動してこのトロリ線から電力を車両2に導くための集電装置(パンタグラフ)2cなどを備えている。
【0017】
防音壁3は、音源から伝搬する音の強さを減衰させる固定構造物である。防音壁3は、音源(軌道1側)と受音点(沿線側)との間に設置されており、音源側の表面を吸音処理することより、この音源から伝搬する音の減衰効果を向上させている。
図1に示す防音壁3は、音の減衰効果を増すように音源側が吸音処理されており、高架橋4の床版4a上に軌道1に対して垂直に敷設されている。
【0018】
高架橋4は、軌道1を連続的に高架にするための固定構造物である。
図1に示す高架橋4は、例えば、コンクリートが主要材料であり、鉄筋コンクリート構造(RC構造)を主体とするラーメン高架橋などのコンクリート橋(コンクリート高架橋)である。高架橋4は、軌道1の下部に空間を確保するととともに、軌道1を支持する路盤(基盤)としても機能する。高架橋4は、例えば、都市部などで路面交通などと立体化を図るために、鉄道の一定区間を橋梁構造にした構造物であり、都市鉄道又は新幹線などで多用されている。高架橋4は、床版(桁)4aと、橋脚(柱(ピア))4bと、フーチング4cなどを備えている。
【0019】
床版4aは、高架橋4の床を形成する部分である。床版4aは、高架橋4上を通過する車両2を直接支持するための平面状の構造物であり、場所打ちコンクリートによって施工されて水平方向に配置されるPC桁などである。橋脚4bは、床版4aを支持する部分である。橋脚4bは、床版4aの長さ方向に所定の間隔をあけて場所打ちコンクリートによって施工されており、鉛直方向に配置される鉄筋コンクリート柱などである。フーチング4cは、橋脚4bから荷重を受ける部分である。フーチング4cは、場所打ちコンクリートによって施工された版状の構造物である。フーチング4cは、杭基礎5の杭頭部に連結されており橋脚4bからの荷重を杭基礎5に伝達する。
【0020】
杭基礎5は、高架橋4を支持するための基礎部分である。杭基礎5は、高架橋4の基礎を支える地盤にフーチング4cからの荷重を伝達する。杭基礎5は、例えば、掘削機械によって掘削された所定の深さの穴の中に、鉄筋かごを挿入しコンクリートを打ち込んで構築された場所打ちコンクリート杭である。
【0021】
電車線路支持物6は、車両2に電力を供給するために軌道1に沿って設けられた電車線路の構成物を支持する構造物である。電車線路支持物6は、線路上空に架設される架線(架空電車線)を支持点間の距離(径間)が所定の長さになるように、所定の間隔をあけてこの支持点で支持する。電車線路支持物6は、トロリ線支持装置7と、可動ブラケット8と、電柱9などを備えている。
【0022】
トロリ線支持装置7は、車両2の集電装置2cのすり板と摺動してこの車両2に電力を供給する架線のトロリ線を支持する装置である。トロリ線支持装置7は、可動ブラケット8に着脱自在に支持されている。可動ブラケット8は、架線を長さ方向に移動自在に支持する部材である。可動ブラケット8は、温度変化による電車線の移動に対応可能なように、支持点を中心に水平回転が可能であり、架線の長さ方向(線路方向)への移動を許容し、上下方向の移動調整も僅かに可能である。可動ブラケット8は、電柱バンドによって電柱9に取り付けられている。
【0023】
電柱9は、電車線路の構成物を軌道1に沿って支持する柱状構造物である。電柱9は、可動ブラケット8を支持しており電気車が走行する線路に沿って基礎部分が固定されている。電柱9は、例えば、予め引張をかけた鉄筋とコンクリートとによって構成されたプレストレスコンクリート柱のような安価でメンテナンスが容易なコンクリート柱である。
図1に示す電柱9は、
図3に示すように、断面が略円形状の電車線用の電化柱である。電柱9は、
図2に示すように、電柱基礎10に支持される底部9aと、支持部12に支持される側部9bなどを備えている。
【0024】
図2及び
図3に示す電柱基礎10は、電柱9の底部9aを支持する構造物である。電柱基礎10は、電柱9を固定するために地中に設けられたコンクリート構造物である。電柱基礎10は、
図2に示すように、電柱9の自重、電車線及び腕金などの重量、張力及び風圧などによる荷重を支えるために、高架橋4の床版4aに深さ1000mm程度の所定の深さで形成されている凹状の穴部である。電柱基礎10は、この電柱基礎10の内周面と電柱9の外周面との間に幅が25mm又は50mm程度の間隙部を形成している。電柱基礎10は、この電柱基礎10の底面に電柱9の下端面が接触しており電柱9を垂直方向で支持している。
【0025】
図2、
図4及び
図5に示す支持構造11は、電柱9を支持する構造である。支持構造11は、通常時には電柱9の側部9bを機械的構造によって支持しているが、異常時にはこの機械的構造が破損することによって電柱9の側部9bを解放し、電柱9の底部9aを電柱基礎10に支持させる。支持構造11は、
図2に示すように、電柱基礎10の上面で電柱9の側部9bを支持している。支持構造11は、従来の現場打ちのモルタルヒューズのようなモルタル構造とは異なり現場組立が容易な機械的構造であり、特別な技能を必要とせずに作業員によって組立及び分解可能であり、破損時には機械的構造を構成する構成部品の交換が容易であり、電柱9の側部9bに着脱自在である。支持構造11は、
図2、
図4及び
図5に示す支持部12と、
図2及び
図3に示す復元力作用部16などを備えている。支持構造11は、
図2に示すように、電柱9と電柱基礎10とを支持部12を介して接合することによって電柱9の側部9bを支持部12によって支持する。
【0026】
図2、
図4及び
図5に示す支持部12は、電柱9とこの電柱9の底部9aを支持する電柱基礎10とに着脱自在に装着されて、この電柱9の側部9bを機械的構造によって支持する手段である。支持部12は、
図2に示すように、通常時には電柱9を水平方向で支持しているが、異常時には破損することが予定されている。支持部12は、電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに、機械的構造が破断する。支持部12は、通常時には電柱9の振動及び傾きを防止するために、電柱9を所定の位置に保持可能な程度の強度を備えている。支持部12は、電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに破損するように予め強度が調整されている。支持部12は、
図2、
図4及び
図5に示す接合部材13A,13Bと、
図4及び
図5に示す締結部材14と、
図2、
図4及び
図5に示す固定部材15などを備えている。支持部12は、接合部材13A,13Bを締結部材14によって締結し、地震時に締結部材14を破損させる構造である。支持部12は、
図4及び
図5に示すように、2つの接合部材13A,13Bを締結部材14によって締結しており、
図4に示す締結部材14の締結方向が
図1に示す軌道1と直交する方向D
2である。
【0027】
図2、
図4及び
図5に示す接合部材13A,13Bは、電柱9の外周面を挟み込むようにこの電柱9の外周面と接合する部材である。接合部材13A,13Bは、
図4及び
図5に示すように、電柱9の外周面に着脱自在に装着されるバンドである。接合部材13A,13Bは、電柱9の外周面と接触しているが電柱9の外周面には固定されていない。接合部材13A,13Bは、分解組立時に接合及び分離可能な分割構造を有し、互いに対向して接合可能な2つで1組の部材を構成している。接合部材13A,13Bは、金属製の半円環状の部材であり、機械加工又は成型加工によって製造される。接合部材13A,13Bは、
図5(A)に示すように、平面形状が略U字状であり、
図5(D)(E)に示すように断面形状が略L字状である。接合部材13A,13Bは、いずれも同一構造であり、以下では一方の接合部材13Aを中心に説明し、他方の接合部材13Bについては接合部材13Aと対応する部分に同一の番号を付して詳細な説明を省略する。接合部材13A,13Bは、
図2、
図4及び
図5(A)(E)に示す接合面13aと、
図4及び
図5(A)(C)(D)に示す接合面13bと、
図2、
図4及び
図5(B)〜(E)に示す接合面13cと、
図4及び
図5(A)〜(D)に示す取付面13dと、
図4及び
図5に示す取付面13eと、
図5(D)に示す貫通孔13fと、
図5(D)(E)に示す貫通孔13gなどを備えている。
【0028】
図2、
図4及び
図5(A)(E)に示す接合面13aは、電柱9の外周面と接合する部分である。接合面13aは、電柱9の外周面と密着するように、この電柱9の外周面に沿って形成されており、中心角が180°の円弧状の湾曲面である。
図4及び
図5(A)(C)(D)に示す接合面13bは、接合部材13Aと接合部材13Bとが接合する部分である。接合面13bは、接合部材13Aと接合部材13Bとが密着するように、接合部材13A,13Bの両端部に形成された平坦面である。接合面13a,13bは、
図5(D)(E)に示すように、接合部材13A,13Bのフランジ部とこのフランジ部から上側に突出する筒部とに形成されている。
図2、
図4及び
図5(B)〜(E)に示す接合面13cは、電柱基礎10の上面と接合する部分である。接合面13cは、
図5(D)(E)に示すように、接合部材13A,13Bのフランジ部に形成されており、接合面13a,13bに対し直角に形成された平坦面である。
【0029】
図4及び
図5(A)〜(D)に示す取付面13dは、締結部材14を取り付ける部分である。取付面13dは、
図5(A)に示すように、接合面13bと平行に形成された平坦面であり、接合部材13A,13Bの側面に形成されている。
図4及び
図5に示す取付面13eは、固定部材15を取り付ける部分である。取付面13eは、
図5(D)(E)に示すように、接合面13cと平行に形成された平坦面であり、接合部材13A,13Bのフランジ部の上面に形成されている。
図5(D)に示す貫通孔13fは、締結部材14の締結用ボルト14aを挿入する部分である。貫通孔13fは、接合部材13A,13Bの両端部の壁部を貫通して形成されている。貫通孔13fは、接合部材13A,13Bの設置位置を微調整可能なように、締結用ボルト14aのボルト径よりも大きく形成されている。
図5(D)(E)に示す貫通孔13gは、固定部材15の固定用ボルト15aを挿入する部分である。貫通孔13gは、接合部材13A,13Bのフランジ部を貫通して形成されている。貫通孔13gは、接合部材13A,13Bの設置位置を微調整可能なように、固定用ボルト15aのボルト径よりも大きく形成されている。
【0030】
図4及び
図5に示す締結部材14は、接合部材13A,13Bを締結する部材である。締結部材14は、電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに破損し、電柱9に発生する振動が所定値未満であるときには破損しない。締結部材14は、電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに破損するように、引張強度及びせん断強度などの機械的性質が予め調整されている。締結部材14は、
図5(D)に示す貫通孔13fに挿入される締結用ボルト14aと、この締結用ボルト14aに締結される締結用ナット14bと、締結用ボルト14aの座面と取付面13dとの間に挟み込まれる座金14cと、締結用ナット14bの座面と取付面13dとの間に挟み込まれる座金14dなどを備えている。締結部材14は、
図1に示す軌道1の長さ方向(
図4に示す方向D
1)と
図4に示す締結用ボルト14aの長さ方向(締結方向)とが直交し、軌道1の長さ方向D
1と直交する方向D
2と締結用ボルト14aの長さ方向とが一致するように、接合部材13A,13Bを締結する。
【0031】
図2、
図4及び
図5に示す固定部材15は、接合部材13A,13Bを電柱基礎10に固定する部分である。固定部材15は、例えば、地震によって電柱9に発生する振動が所定値を超えて締結部材14が破損した場合であっても、この固定部材15が破損しないように、引張強度及びせん断強度などの機械的性質が予め調整されている。固定部材15は、
図5(D)(E)に示すように、貫通孔13gに挿入されて電柱基礎10に埋め込まれて定着される固定用ボルト(アンカーボルト)15aと、この固定用ボルト15aに締結される固定用ナット15bと、固定用ナット15bの座面と取付面13eとの間に挟み込まれる座金15cと、電柱基礎10に所定の深さで形成され固定用ボルト15aが挿入される穴部15dと、固定用ボルト15aと穴部15dとの間の隙間に充填される接着剤15eなどを備えている。
【0032】
図2及び
図3に示す復元力作用部16は、電柱9と電柱基礎10との間でこの電柱9の振動を抑制するように、この電柱9に復元力を作用させる手段である。復元力作用部16は、地震発生時に電柱9が大きく振動して、この電柱9に微小な復元力を作用させながらこの復元力作用部16自体の形状が元に戻る。復元力作用部16は、電柱9に発生する振動が所定値を超えて支持部12が破損した後に、電柱9に復元力を作用させる。復元力作用部16は、支持部12が損傷した後に本来の免振機能を発揮する。復元力作用部16は、電柱9と電柱基礎10との間に充填される砂又はシリコンゴムなどの復元材料である。このような復元材料としては、砂と比較して剛性が小さく、かつ、形状は復元するが復元時に電柱9に作用する反力が小さい微小復元力の低反発部材であるシリコンゴムが好ましい。復元力作用部16は、地震発生時に免振機能を発揮するような最適な弾性率(ヤング率)に設定されている。復元力作用部16は、例えば、弾性率が5kPaを下回ると電柱9に作用する復元力が小さ過ぎて電柱9が電柱基礎10に衝突して電柱9が損傷する問題点があり、弾性率が11kPaを超えると電柱9に作用する復元力が大き過ぎて振動を抑制する効果が低下する問題点があるため、弾性率を5〜11kPaの範囲内に設定することが好ましい。
【0033】
次に、この発明の第1実施形態に係る柱状構造物の支持構造の施工方法を説明する。
新設時には
図1に示す高架橋4の構築時に予め施工されている電柱基礎10に電柱9を建て込み、
図2及び
図3に示す電柱9の外周面と電柱基礎10の内周面との間の間隙部に、シリコンゴム又は砂をこの間隙部に充填し復元力作用部16を形成する。次に、
図2及び
図5(D)(E)に示す固定用ボルト15aのボルト径よりも大きい孔径の穴部15dをドリルによって所定の深さで電柱基礎10に削孔し、固定用ボルト15aを穴部15dに挿入し、固定用ボルト15aと穴部15dとの間の隙間に接着剤15eを充填し、電柱基礎10に固定用ボルト15aを埋め込み、電柱基礎10に固定用ボルト15aを定着させる。次に、固定用ボルト15aを接合部材13A,13Bの貫通孔13gに挿入して、
図2に示すように接合部材13A,13Bの接合面13cと電柱基礎10とを接合させる。このとき、
図2及び
図4に示すように、接合部材13A側の接合面13aと接合部材13B側の接合面13aとの間に電柱9の外周面が挟み込まれるとともに、
図4に示すように接合部材13A側の接合面13bと接合部材13B側の接合面13bとが密着する。その結果、
図2に示すように、復元力作用部16の上面を覆うように接合部材13A,13Bが電柱基礎10の上面に設置され、
図5(D)(E)に示すように固定用ボルト15aに固定用ナット15bを所定のトルクに達するまで締結して、電柱基礎10の上面に接合部材13A,13Bが取り付けられて固定される。次に、
図5(D)に示すように、接合部材13A,13Bの貫通孔13fに締結用ボルト14aを挿入し、締結用ボルト14aに締結用ナット14bを所定のトルクに達するまで締結すると、
図2及び
図4に示すように電柱9と電柱基礎10とが支持部12を介して接合されて、支持部12によって電柱9の側部9bが支持される。改修時には既存のモルタルヒューズを除去し、新設時と同様の施工方法によって、電柱9と電柱基礎10とが支持部12を介して接合されて、支持部12によって電柱9の側部9bが支持される。
【0034】
次に、この発明の第1実施形態に係る柱状構造物の支持構造の作用を説明する。
地上に電柱9を設置した場合には、地震の周期と電柱9の周期とが離れているため、電柱9が共振して大きく振動することが少ない。一方、
図1に示すように、高架橋4上に電柱9を設置したときには、高架橋4の固有振動数と電柱9の固有振動数とが比較的近いと、地震によって高架橋4が振動すると電柱9が共振して大きく振動することがある。通常時には、
図1に示す車両2の走行や小規模な地震によって電柱9に発生する振動が比較的小さく所定値未満であるため、支持部12が電柱9の振動及び移動などを抑え、支持部12が電柱9や電線などの重量を受け持って電柱9の底部9aを電柱基礎10が支持している。一方、異常時には、大規模な地震によって電柱9に発生する振動が比較的大きく所定値を超えるため、締結部材14の締結用ボルト14aに許容値を超える引張応力が作用してこの締結用ボルト14aが破断して破損する。このとき、
図1に示す高架橋4が地震によって振動すると、軌道1の長さ方向D
1と直交する
図4に示す方向D
2に架線が振動するため、電柱9も方向D
2に振動する。地震発生時に電柱9が揺れやすい方向D
2と締結部材14の長さ方向とが一致しているため、電柱9に発生する振動が所定値を超えるような異常時には締結用ボルト14aに引張応力が作用して締結用ボルト14aが破断する。
図4、
図5(A)(C)(D)に示す接合部材13A側の接合面13bと接合部材13B側の接合面13bとの間には、支持部12を取り付けるときに僅かに隙間(がた)が形成されることがある。また、
図5(D)(E)に示すように、固定用ボルト15aと貫通孔13gとの間には隙間(がた)が形成されている。このため、電柱9に発生する振動が所定値を超えて固定用ボルト15aと固定用ナット15bとが緩むと、接合部材13A,13Bが電柱基礎10に対して移動可能になり、接合部材13A,13Bが電柱9の側部9bから離れる。その結果、
図2に示す支持部12から電柱9の側部9bが解放されて、復元力作用部16が電柱9や電線などの重量を受け持ってこれらを支持する。電柱9が振動すると復元力作用部16が復元力を電柱9に作用させて、電柱9の振動を抑え電柱9の損傷が防止される。このとき、復元力作用部16が弾性変形するが復元力作用部16の形状が元に戻るため、復元力作用部16が電柱9に大きな復元力を作用させて電柱9が振動してしまうのを防ぐ。
【0035】
この発明の第1実施形態に係る柱状構造物の支持構造には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、電柱9とこの電柱9の底部9aを支持する電柱基礎10とに支持部12が着脱自在に装着されており、この電柱9の側部9bを機械的構造によって支持部12が支持する。また、この第1実施形態では、電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに、支持部12の機械的構造が破損する。このため、従来のモルタルヒューズのような作業員の知識、技術、経験などに基づいて現場打ちで施工する必要がなく、誰でも支持部12を簡単に組み立てて電柱9に短時間で取り付けることができる。また、従来のモルタルヒューズのような異常時に破損するように厚さを調整して施工する必要がなく、異常時に支持部12が破損するタイミングにばらつきがなく、所定のタイミングで支持部12を確実に破損させることができる。また、従来のモルタルヒューズのようなモルタル構造ではなく、支持部12が機械的構造であるため、支持部12を機械的に確実に破損させることができ、誰でも同じ性能を発揮するように容易に組み立てることができる。さらに、従来のモルタルヒューズのような破損後に再施工する必要がなく、構成部品が破損したときに支持部12を容易に交換することができるとともに組立分解時に容易に着脱することができる。
【0036】
(2) この第1実施形態では、電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに支持部12の機械的構造が破断する。このため、支持部12の機械的性質を予め調整しておくことによって、地震によって電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに、支持部12を確実に破断させることができる。
【0037】
(3) この第1実施形態では、電柱9の外周面を挟み込むようにこの電柱9の外周面と複数の接合部材13A,13Bが接合し、この複数の接合部材13A,13Bを電柱基礎10に固定部材15が固定し、この複数の接合部材13A,13Bを締結部材14が締結する。また、この第1実施形態では、電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに締結部材14が破損する。このため、接合部材13A,13Bによって電柱9を挟み込むだけで電柱9に支持部12を装着することができ、支持部12の取付作業を短時間で完了することができる。また、従来のモルタルヒューズのような現場打ちによる手間のかかる作業が不要になり、特別な技能を必要としない締結作業のような簡単な組立作業によって短時間に施工することができる。
【0038】
(4) この第1実施形態では、電車線路の構成物を軌道1に沿って電柱9が支持し、締結部材14によって2つの接合部材13A,13Bを締結しており、この締結部材14の締結方向が軌道1と直交する方向D
2である。このため、地震発生時に揺れやすい軌道1の長さ方向D
1と直交する方向D
2と締結部材14の長さ方向とを一致させることによって、電柱9に発生する振動が所定値を超えるような異常時に締結部材14を確実に破断させることができる。その結果、異常時には電柱9に過大な力が作用するのを防ぐことができ、電柱9が軌道1側に倒れるのを防ぐことができる。
【0039】
(5) この第1実施形態では、電柱9と電柱基礎10との間でこの電柱9に発生する振動を抑制するように、復元力作用部16がこの電柱9に復元力を作用させ、電柱9に発生する振動が所定値を超えて支持部12が破損した後に、復元力作用部16が電柱9に復元力を作用させる。このため、地震などの異常時には復元力作用部16が電柱9や電線などの重量を受け持つようになって、地震などの振動を抑制し電柱9の損傷を防止することができる。
【0040】
(第2実施形態)
以下では、
図1〜
図5に示す部分と同一の部分については、同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図6〜
図8に示す支持構造11は、
図2、
図4及び
図5に示す支持構造11とは異なり、
図6及び
図7に示すように電柱基礎10の上面から高さ300mm程度の所定の高さで電柱9の側部9bを支持部12が支持している。
図6〜
図8に示す支持部12は、接合部材13A,13Bを支持部材17によって支持し、地震時にこの支持部材17を電柱基礎10に取り付ける締結部材18を破損させる構造である。支持部12は、
図6〜
図8に示す接合部材13A,13Bと、
図7及び
図8に示す締結部材14と、
図6〜
図8に示す支持部材17と、締結部材18などを備えている。
【0041】
図6〜
図8に示す接合部材13Aは、
図6、
図7及び
図8(A)(B)に示す接合面13a,13bと、
図7及び
図8(A)〜(C)に示す取付面13dと、
図8(C)に示す貫通孔13fと、
図6、
図7及び
図8(B)に示す支持面13hなどを備えている。
図6、
図7及び
図8(A)(B)に示す接合面13bは、接合部材13Aと接合部材13Bとが密着するように、接合部材13A,13Bの両端部に形成された平坦面であり、
図7及び
図8(A)に示すように接合部材13A,13Bの外周部から外側に突出するフランジ部に形成されている。
図6、
図7及び
図8(B)に示す支持面13hは、支持部材17によって支持される部分である。支持面13hは、接合面13a,13bと直交して形成された平坦面であり、接合部材13A,13Bの底部に形成されている。
【0042】
図7及び
図8(A)〜(C)に示す締結部材14は、地震によって電柱9に発生する振動が所定値を超えて締結部材18が破損した場合であっても、この締結部材18が破損せずに接合部材13A,13Bと電柱9とを接合状態に維持する。締結部材14は、電柱9に発生する振動が所定値を超えても破損しないように、引張強度及びせん断強度などの機械的性質が予め調整されている。
【0043】
図6〜
図8に示す支持部材17は、接合部材13A,13Bを支持する部分である。支持部材17は、接合部材13A,13Bを支持し補強するリブであり、接合部材13A,13Bと電柱基礎10とを接続する。支持部材17は、
図8(A)に示すように、接合部材13A,13Bの円周方向に等間隔に複数本(例えば6本)配置されており、
図7及び
図8(B)に示すように電柱9の外周面と間隔をあけてこの電柱9を囲むように配置されている。支持部材17は、
図6、
図7及び
図8(B)(D)に示す支柱17aと、
図6、
図7、及び
図8(A)(B)(D)に示す接続部17bと、
図8(D)に示す接合面17cと、取付面17dと、貫通孔17eなどを備えている。
【0044】
図6、
図7及び
図8(B)(D)に示す支柱17aは、接合部材13A,13Bと接続部17bとを連結する部分である。支柱17aは、上端部が接合部材13A,13Bの底面に固定されており、下端部が接続部17bの上面に固定されている。支柱17aは、金属製の鉄筋又は鉄骨のような棒状部材である。
図6、
図7及び
図8(A)(B)(D)に示す接続部17bは、電柱基礎10の上面と接続する部分である。接続部17bは、金属製の板状部材であり、支柱17aの下端部に溶接などによって固定されている。
図8(D)に示す接合面17cは、電柱基礎10と接合する部分である。接合面17cは、接続部17bの下面に形成されており、電柱基礎10の上面と密着するように平坦面に形成されている。取付面17dは、締結部材18を取り付ける部分である。取付面17dは、接続部17bの上面に形成されており、接合面17cと平行に形成された平坦面である。貫通孔17eは、締結部材18の締結用ボルト18aを挿入する部分である。貫通孔17eは、接続部17bを貫通して形成されている。貫通孔17eは、支持部材17の設置位置を微調整可能なように、締結用ボルト18aのボルト径よりも大きく形成されている。
【0045】
図6〜
図8に示す締結部材18は、支持部材17を電柱基礎10に締結する部分である。締結部材18は、電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに破損し、電柱9に発生する振動が所定値未満であるときには破損しない。締結部材18は、電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに切断又は引き抜かれるように、引張強度及びせん断強度などの機械的性質が予め調整されている。締結部材18は、
図8(D)に示すように、貫通孔17eに挿入されて電柱基礎10に埋め込まれて定着される締結用ボルト(アンカーボルト)18aと、この締結用ボルト18aに締結される締結用ナット18bと、締結用ボルト18aの座面と取付面17dとの間に挟み込まれる座金18cと、電柱基礎10に所定の深さで形成され締結用ボルト18aが挿入される穴部18dと、締結用ボルト18aと穴部18dとの間の隙間に充填される接着剤18eなどを備えている。
【0046】
次に、この発明の第2実施形態に係る柱状構造物の支持構造の施工方法を説明する。
新設時には、
図6に示す電柱基礎10に電柱9を建て込み、電柱9の外周面と電柱基礎10の内周面との間の間隙部に、シリコンゴム又は砂を充填し復元力作用部16を形成する。次に、締結用ボルト18aのボルト径よりも大きい孔径の穴部18dをドリルによって所定の深さで電柱基礎10に削孔し、締結用ボルト18aを穴部18dに挿入し、締結用ボルト18aと穴部18dとの間の隙間に接着剤18eを充填し、電柱基礎10に締結用ボルト18aを埋め込み、電柱基礎10に締結用ボルト18aを定着させる。次に、
図8(D)に示す接続部17bの貫通孔17eに締結用ボルト18aを挿入して、締結用ボルト18aに締結用ナット18bを所定のトルクに達するまで締結し、支持部材17の接合面17cと電柱基礎10とを接合させる。その結果、
図6及び
図7に示すように、接合部材13A側の接合面13aと接合部材13B側の接合面13aとの間に電柱9の外周面が挟み込まれるとともに、接合部材13A側の接合面13bと接合部材13B側の接合面13bとが密着する。次に、
図8(C)に示すように、接合部材13A,13Bの貫通孔13fに締結用ボルト14aを挿入し、締結用ボルト14aに締結用ナット14bを所定のトルクに達するまで締結する。その結果、
図6及び
図7に示すように、電柱基礎10の上面から所定の高さに接合部材13A,13Bが設置されて、電柱基礎10の上方に接合部材13A,13Bが取り付けられて固定される。
図6に示すように、電柱9と電柱基礎10とが支持部12を介して接合されるため、支持部12によって電柱9の側部9bが支持される。改修時には既存のモルタルヒューズを除去し、新設時と同様の施工方法によって、電柱9と電柱基礎10とが支持部12を介して接合されて、支持部12によって電柱9が支持される。
【0047】
次に、この発明の第2実施形態に係る柱状構造物の支持構造の作用を説明する。
通常時には、
図1に示す車両2の走行や小規模な地震によって電柱9に発生する振動が比較的小さく所定値未満であるため、
図6〜
図8に示す支持部12が電柱9の振動や移動を抑え、支持部12が電柱9や電線などの重量を受け持って電柱9の底部9aを電柱基礎10が支持している。一方、異常時には、大規模な地震によって電柱9に発生する振動が比較的大きく所定値を超えるため、
図8(B)(D)に示す締結部材18の締結用ボルト18aに許容値を超えるせん断応力又は引張応力が作用し、締結用ボルト18aが切断又は引き抜かれて破損する。大規模な地震によって電柱9が振動すると、電柱基礎10の上方ほど電柱9の振動が大きくなる。
図6及び
図7に示すように、電柱9の振動が大きくなる電柱基礎10の上方に接合部材13A,13Bが装着されているため、締結部材18に作用する外力が大きくなって締結部材18が容易に破損する。支持部12が破損すると電柱9の側部9bが支持部12から解放されて、
図6に示す復元力作用部16が電柱9や電線などの重量を受け持ってこれらを支持する。電柱9が振動すると復元力作用部16が復元力を電柱9に作用させて、電柱9の振動を抑え電柱9の損傷が防止される。
【0048】
この発明の第2実施形態に係る柱状構造物の支持構造には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第2実施形態では、電柱9の外周面を挟み込むようにこの電柱9の外周面と複数の接合部材13A,13Bが接合し、この複数の接合部材13A,13Bを複数の支持部材17が支持し、この複数の支持部材17を電柱基礎10に複数の締結部材18が締結する。また、この第2実施形態では、電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに複数の締結部材18が破損する。このため、接合部材13A,13Bによって電柱9を挟み込むだけで電柱9に支持部12を装着することができ、支持部12の取付作業を短時間で完了することができる。また、従来のモルタルヒューズのような現場打ちによる手間のかかる作業が不要になり、特別な技能を必要としない締結作業のような簡単な組立作業によって短時間に施工することができる。
【0049】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、高架橋4上を鉄道車両が走行する場合を例に挙げて説明したが、自動車などの他の車両が走行する高架橋についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、高架橋4がコンクリート高架橋である場合を例に挙げて説明したが、鋼材を主材料とする鉄桁橋などの鋼橋や、鋼桁と鉄筋コンクリート床版とを結合した合成桁橋などの高架橋についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、柱状構造物として電柱9の振動を抑制する場合を例に挙げて説明したが、電柱9以外の柱体の振動を抑制する場合についてもこの発明を適用することができる。
【0050】
(2) この実施形態では、電柱9が電車線用である場合を例に挙げて説明したが、配電線用又は通信線用の電柱についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、可動ブラケット8を支持する電柱9を例に挙げて説明したが、き電線、保護線、配電線又は通信線などを支持する電柱や、これらの電線をちょう架するために張り出した腕金を支持する電柱などについてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、高架橋4上の電柱基礎10に設置されている電柱9を例に挙げて説明したが、地上に埋設された電柱基礎枠などの電柱基礎に設置されている電柱9についてもこの発明を適用することができる。
【0051】
(3) この実施形態では、固定部材15及び締結部材18が接着系アンカーである場合を例に挙げて説明したが、先端の拡張部を開かせるくさび作用によって電柱基礎10に固定用ボルト15a及び締結用ボルト18aを定着させる金属系アンカーである場合についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、2つの接合部材13A,13Bによって電柱9の外周面を挟み込む場合を例に挙げて説明したが、円環状の1つの接合部材を電柱9に嵌め込む場合又は3つ以上の接合部材によって電柱9の外周面を挟み込む場合についてもこの発明を適用することができる。
【0052】
(4) この第1実施形態では、電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに締結部材14を破断させているが、締結部材14が破断するのと略同時に固定部材15も破断するように、この固定部材15の機械的性質を予め調整しておくこともできる。また、この第1実施形態では、電柱9に発生する振動が所定値を超えたときに締結部材14を破断させているが、締結部材14を破断させずに固定部材15が破断するように、この固定部材15の機械的性質を予め調整しておくこともできる。さらに、この第2実施形態では、異常時に締結部材18が破断する場合を例に挙げて説明したが、支持部材17の支柱17aと接続部17bとを締結部材18と同様の締結部材によって締結し、異常時にこの締結部材を破断させることもできる。