(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670772
(24)【登録日】2020年3月4日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】混紡紡績糸及びこれを用いた織物と衣料用繊維製品
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20200316BHJP
D03D 15/00 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
D02G3/04
D03D15/00 D
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-13470(P2017-13470)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2018-119249(P2018-119249A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】馬場 武一郎
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 真理子
(72)【発明者】
【氏名】辻生 悠
(72)【発明者】
【氏名】高田 卓也
【審査官】
春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−165539(JP,A)
【文献】
特開昭63−190039(JP,A)
【文献】
特表平11−508969(JP,A)
【文献】
特開昭63−165540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00−3/48
D02J1/00−13/00
D01D1/00−13/02
D01F1/00−6/96
9/00−9/04
D03D1/00−27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、
前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2〜4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、
前記通常繊度のポリエステル短繊維はレギュラータイプのポリエステル短繊維であり、
前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率は、P1>W≧P2であることを特徴とする混紡紡績糸。
【請求項2】
前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10〜70:20〜80:10〜30である請求項1に記載の混紡紡績糸。
【請求項3】
前記細繊度のポリエステル短繊維は、抗ピル性ポリエステル短繊維である請求項1又は2に記載の混紡紡績糸。
【請求項4】
前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維の平均繊維長は、50mmを超え150mm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の混紡紡績糸。
【請求項5】
前記獣毛繊維は、ウール、カシミヤ、モヘヤ及びキャメルから選ばれる少なくとも一つである請求項1〜4のいずれかに記載の混紡紡績糸。
【請求項6】
前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である請求項1〜5のいずれかに記載の混紡紡績糸。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の混紡紡績糸を含む織物。
【請求項8】
請求項7に記載の織物を含む衣料用繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣毛繊維とポリエステル短繊維を混紡した紡績糸及びこれを用いた織物と衣料用繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からウール等の獣毛繊維と合成繊維の短繊維を混紡した紡績糸はよく知られている。特許文献1には、織物の緯糸にマルチフィラメント糸と、シリコーンで表面処理したポリアミド繊維とウールとを混紡した紡績糸からなる長短複合紡績糸を使用することが提案されている。特許文献2には平均繊度0.1〜1.4デニールのポリエステル短繊維と、平均繊度0.1〜1.5デニールの再生繊維とを混紡した紡績糸が提案されている。特許文献3には繊度1.2デニールのポリエステル短繊維と、繊度1.6デニール以下のコットン繊維とを混紡した紡績糸が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−108204号公報
【特許文献2】特開平5−209335号公報
【特許文献3】特開平3−269128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の長短複合紡績糸は汎用性がいまひとつであり、ウールとポリエステル短繊維の混紡紡績糸は風合い、抗ピル性、摩耗変色及び染色性に問題があった。すなわち、ウール等の獣毛繊維は温かみがあり風合いもよく高級な繊維素材であり、ポリエステル短繊維は一般的に強度が高くしわになりにくい性質を有するが、両者を混紡するとポリエステル短繊維が通常繊度の場合は風合いが粗硬となり、ポリエステル短繊維が細繊度の場合は抗ピル性が悪くなり、かつ染色物は摩耗によるフィブリル化で白化しやすいのと濃色が出にくい問題があった。
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、風合い、抗ピル性、摩耗変色及び染色性を改善した混紡紡績糸及びこれを用いた織物と衣料用繊維製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の混紡紡績糸は、獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2〜4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、
前記通常繊度のポリエステル短繊維はレギュラータイプのポリエステル短繊維であり、前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高
く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率は、P1>W≧P2であることを特徴とする。
【0007】
本発明の織物は、前記の混紡紡績糸を含む。また、本発明の衣料用繊維製品は、前記の織物を衣料用繊維製品としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の混紡紡績糸は、獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であり、前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2〜4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高いことにより、風合い、摩耗変色及び染色性を改善した混紡紡績糸及びこれを用いた織物と衣料用繊維製品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の混紡紡績糸は、獣毛繊維とポリエステル短繊維を含む混紡紡績糸であり、フィラメント繊維を複合してもよい。前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維である。前記少なくとも2種類の短繊維は、単繊維繊度が2〜4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維である。そして、前記通常繊度のポリエステル短繊維(P1)のほうが細繊度のポリエステル短繊維(P2)より混率が高い。これにより、風合い、摩耗変色及び染色性を改善できる。
【0010】
前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10〜70:20〜80:10〜30が好ましい。さらに好ましくは、W:P1:P2=15〜65:25〜75:10〜30である。これにより、さらに風合い、摩耗変色及び染色性を改善できる。また、同様な理由によりP1>W≧P2が好ましい。
【0011】
前記細繊度のポリエステル短繊維は、抗ピル性ポリエステル短繊維が好ましい。抗ピル性ポリエステル短繊維は、ポリエステルの分子量が通常のポリエステル(PET)の数平均分子量(約20,000)より数平均分子量を小さくすることにより得られる。抗ピル性ポリエステル短繊維は、この名称で一般的に流通している。
【0012】
前記獣毛繊維は、ウール、カシミヤ、モヘヤ及びキャメルから選ばれる少なくとも一つが好ましい。この中でも汎用性があるウール(羊毛)が好ましい。
【0013】
前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維が好ましい。PET短繊維は、強度と初期弾性率が高く、しわになりにくい性質を有する。PET短繊維の単繊維断面は汎用性のある丸断面が好ましい。
【0014】
前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維の平均繊維長は、50mmを超え150mm以下であるのが好ましい。いわゆる長紡紡績糸である。この紡績糸は、仏式梳毛紡績によって得られる。本発明の獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の3成分繊維は、仏式梳毛紡績における、例えば混毛インターセクティング ギル ボックス(intersecting gill box)で混紡するのが好ましい。すなわち、前記WとP1とP2の各短繊維の各々が100質量%組成である繊維束(スライバー)を作成しておき、前記混毛インターセクティング ギル ボックスに前記3成分の繊維束(スライバー)を供給して通し、後工程のコーマー工程や前紡工程におけるダブリング及びドラフティング作用によって、平行かつ均整化して均一に混紡する。以下この方法を「スライバー混紡」という。この方法は歩留りが良く、多品種少量生産に好適である。加えて、繊度や捲縮性の異なる短繊維であっても効率よく混紡できる。
【0015】
本発明の混紡紡績糸は単糸でもよいし、双糸にしてもよい。単糸の撚り方向・撚り係数K
1に対して、双糸の撚り方向をSとするかZとするか、またその場合の撚り係数K
2は、どのような織物にするかによって設定される。毛織物を例に取れば、ジョーゼットやボイルのようにシボ感やシャリ感を得たい場合は、単糸Z撚りに対し、双糸もZ撚りとしてK
2を大きめに設定したいわゆる強撚糸とする。逆にサキソニーやフラノのように織物表面に毛羽をたくさん出してソフトでふくらみやぬめり感を持たせたい場合は、縮絨や起毛が促進されるよう単糸Z撚りに対し、双糸はS撚りとしてK
2を小さめに設定したいわゆる甘撚とする。
【0016】
前記紡績糸の単糸を番手表示する場合は、1/28〜1/80の範囲が好ましく、単糸の撚り係数Kc
1は60〜130の範囲であり、かつ双糸の撚り係数Kc
2は70〜220の範囲とするのが好ましい。前記において、例えば1/28は、メートル番手28番の単糸を示す。単糸の撚り係数Kc
1、双糸の撚り係数Kc
2は、次に示す数式によって計算する。
Kc
1=T
1/√C
1
Kc
2=T
2/√C
2
ここにおいてT
1は単糸の撚り数(回/m)、T
2は双糸の撚り数(回/m)、C
1は単糸番手(m/g) 、C
2は双糸番手(m/g)を表す。
撚り係数が前記の範囲であると、撚構造が安定し、糸包合性も高く、さらに目風がきれいでソフトな風合いの織物とすることができる。撚り方向は任意とすることができる。
【0017】
得られた双糸は、撚り止めし、経糸と緯糸に使用して織物とする。織物組織は、平織(plain weave)、斜文織(twill weave、綾織ともいう)、又は朱子織(satin weave)組織、その他の変化織組織等を使用できる。編物にする場合は、横編、丸編、経編のいずれでも適用できる。編組織はどのようなものであっても良い。編物内に空気を含ませる場合は、二重接結パイル布帛に編成する。この中でもとくにユニホームやスーツなどに使用する織物が好ましい。
【0018】
本発明の織物の単位あたりの質量(目付)は100〜340g/m
2の範囲が好ましい。前記範囲であれば、さらに軽くて着心地の良い衣服とすることができる。さらに好ましくは140〜320g/m
2の範囲、とくに好ましくは180〜300g/m
2の範囲である。
【0019】
本発明においてウォッシャブル性とは、家庭洗濯できることを言う。具体的にはJIS L0217(105法)に規定されている方法で水洗い洗濯20回した後、タテ、ヨコとも寸法変化が2.0%以下である。
【0020】
本発明は、ウールと、通常繊度のポリエステル短繊維と、細繊度のポリエステル短繊維の3成分繊維を均一混紡しているので、風合いはウールと細繊度のポリエステル短繊維で良好に保ち、抗ピル性はウールと通常繊度のポリエステル短繊維で良好に保ち、染色性が良好であるのはウールと通常繊度のポリエステル短繊維で発揮する。染色性についてさらに詳しく説明すると、細繊度のポリエステル短繊維が多いと染色物は白化しやすいのと濃色が出にくい問題があるが、本発明では少ない量を混紡するのでこの問題は発生しにくい。染色は、綿(わた)、糸、布帛(織物、編み物)等いかなる段階で行ってもよい。染色方法は特開2005−307372号公報などに記載されている常法を採用できる。例えば布帛で染色する場合の染色方法の一例は、精練した後、加圧下、100℃以上120℃以下の温度範囲で、キャリアーを使用せず、分散染料と吸水剤と濃染剤を含む染色液によりポリエステル短繊維を染色し、次に酸性還元処理した後、アルカリ性物質で中和し、その後、酸性下において、反応性染料を含む染色液によりウールを染色し、次に中和した後、水洗する。
【0021】
本発明の衣料製品は前記織物を縫製して衣料用繊維製品とする。衣料用繊維製品としては、一例としてスーツ、ユニホーム、学生服、作業着、スポーツ用衣類、シャツ、インナーウエア、靴下などがある。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0023】
(実施例1)
(1)混紡紡績糸の製造
<使用原料繊維>
・ウールはオーストラリア産、メリノ種の非改質ウール(平均繊維長:75mm、平均直径:22.5μm)を使用した。
・通常繊度のポリエステル短繊維は市販のレギュラータイプのPET短繊維(平均直径:17.5μm、平均繊度:3.3decitex、繊維長:76〜102mmのバイアスカット)を使用し、分散染料を用いて常法により黒色に染色した。
・細繊度のポリエステル短繊維は市販の抗ピルタイプのPET短繊維(平均直径:11.7μm、平均繊度:1.5decitex、平均繊維長:75mm)を使用し、分散染料を用いて常法により黒色に染色した。表1に原料繊維をまとめて示す。
【0024】
【表1】
<混紡紡績>
仏式梳毛紡績における、混毛インターセクティング ギル ボックス(intersecting gill box)を使用して、前記「スライバー混紡」により混紡した。混紡率はウール30質量%、通常繊度のポリエステル短繊維50質量%、細繊度のポリエステル短繊維20質量%とした。混紡した後のスライバーは粗糸とし、リング紡績法により紡績糸とした。この紡績糸の撚り方向はZ、撚り数は580回/m、メートル番手48番(繊度208.3decitex)、撚り係数(Kc
1)は84であった。この紡績糸(単糸)を2本撚り合わせて双糸とした。この双糸の撚り方向はS、撚り数は690回/m、メートル番手2/48番(繊度416.7decitex)、撚り係数(Kc
2)は141であった。得られた双糸の物性は表2にまとめて示す。
<織物製造>
前記双糸を経糸と緯糸にそれぞれ使用し、2/2綾組織で仕上げた。
<織物染色>
織物の染色は常法を使用した。前記織物をまず80℃の熱水温度で20分間精練し、室温の水で水洗した。その後、ポリエステル短繊維の染色液として、分散染料を水に分散させ、加圧槽を用いて、染色液の温度を105〜115℃の範囲に上げ、40分間の染色処理をした。その後染色液を抜き出し、酸性還元処理し、アルカリ中和処理した。次にウールの染色液として、反応性染料を使用し、染色液の温度を98℃で40分間の染色処理をした。その後染色液を抜き出し、水洗し、中和処理した。染色後の織物の物性は表2にまとめて示す。
【0025】
(比較例1)
細繊度のポリエステル短繊維(P2)を使用せず、その分通常繊維のポリエステル短繊維(P1)とした以外は実施例1と同様に実験した。得られた織物の物性は表1にまとめて示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表
2から明らかなとおり、実施例1の織物はピリング性及び摩耗変色は若干低いが実用的に合格であり、風合いは良好で耐洗濯性も良好であった。
【0028】
次に上記で得られた実施例1の織物を使用して上下の紳士用スーツを縫製し、着心地及び着用感を調べた。この結果、ウール100%品と変わらないかやや劣る程度の評価が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の混紡紡績糸を用いた織物は、家庭洗濯を含めたウォッシャブル性があり、強度、耐久性、寸法安定性などに優れ、学生服、ユニホーム、スーツ、作業着、スポーツ用衣類、シャツ、肌着などに好適である。