特許第6670779号(P6670779)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670779
(24)【登録日】2020年3月4日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】球状黒鉛鋳鉄及び排気系部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 37/04 20060101AFI20200316BHJP
   C22C 37/10 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C22C37/04 E
   C22C37/10 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-51253(P2017-51253)
(22)【出願日】2017年3月16日
(65)【公開番号】特開2018-154863(P2018-154863A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2018年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】519196405
【氏名又は名称】株式会社IJTT
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】那須 秀策
(72)【発明者】
【氏名】藤田 敏
(72)【発明者】
【氏名】古里 憲明
(72)【発明者】
【氏名】山田 聡
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−185758(JP,A)
【文献】 特開平03−146637(JP,A)
【文献】 特開平03−146638(JP,A)
【文献】 特開平05−125480(JP,A)
【文献】 特開2011−012313(JP,A)
【文献】 特開昭59−193242(JP,A)
【文献】 特開2010−196147(JP,A)
【文献】 特開2004−169135(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101736191(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 37/00−37/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量比で、C:2.8〜3.8%、Si:4.78〜5.5%、Mn:1.0%以下、P:0.03〜0.12%、Cr:0.10〜1.5%を含有し、残部がFe及び不可避の不純物から構成される球状黒鉛鋳鉄。
【請求項2】
質量比でV:0.6%以下を更に含有する請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄。
【請求項3】
含有するCrが質量比で0.60〜1.5%である請求項1又は2に記載の球状黒鉛鋳鉄。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の球状黒鉛鋳鉄で形成された排気系部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は球状黒鉛鋳鉄に関し、特に高温強度と耐酸化性に優れた球状黒鉛鋳鉄及びその球状黒鉛鋳鉄で形成された排気系部品に関する。
【背景技術】
【0002】
球状黒鉛鋳鉄は、高温強度や耐酸化性に優れるという特性を有するため、乗用車やトラック、産業機械などのタービンハウジングやエキゾーストマニホールドといった排気系部品の材料として使用されている。近年、環境への影響に配慮した燃費向上が強く求められており、エンジンの排気ガス温度が上昇する傾向にある。排気系部品は、排気ガスにより繰り返し高温に曝されるなど、急激な温度変化を受ける条件で使用されるため、より高いレベルの高温強度と耐酸化性が要求される。
【0003】
従来、エキゾーストマニホールド用材料としては高SiMo球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)が一般的に使用されている。このような高SiMo球状黒鉛鋳鉄の使用限界温度は800℃以下とされているが、近年は、900℃前後の排気ガスに曝されることにより、排気系部品が800℃を大幅に超える温度にまで昇温する状況が想定されるため、使用温度が800℃を超える排気系部品に用いる材料が求められている。
【0004】
高SiMo球状黒鉛鋳鉄に替わる高温強度及び耐酸化性に優れた排気系部品材料としては、ニレジスト鋳鉄やステンレス鋳鋼が知られている。しかし、これらの材料は多量のNi(ニッケル)を含むため、原材料コストが高くなってしまうという問題点があった。
【0005】
そのような問題点を解消すべく、球状黒鉛鋳鉄を合金設計により改良する様々な研究開発が行われており、例えば、特許文献1には、高SiMo鋳鉄にV(バナジウム)を添加したフェライト系球状黒鉛鋳鉄が開示されている。また、特許文献2には、高SiMo鋳鉄にV、Nb(ニオブ)、W(タングステン)を添加したフェライト系球状黒鉛鋳鉄が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3936849号公報
【特許文献2】特許第5232620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1や特許文献2に開示された球状黒鉛鋳鉄は、800℃を超える温度での高温強度を向上させることはできるものの、エキゾーストマニホールド等の排気系部品の使用環境である排気ガスにより繰り返し高温に曝され、急激な温度変化を受ける条件では、その耐熱特性が不十分であるという問題があった。すなわち、高温強度だけ確保されていても、800℃以上の温度領域から100℃程度まで冷却される過程において部品に亀裂が生じてしまうことがあり、中温域での延性に優れた材料が求められている。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、従来の高SiMo球状黒鉛鋳鉄よりも高温強度や耐酸化性を向上させ、かつ中温域での延性に優れた球状黒鉛鋳鉄を提供することを目的とする。また、そのような球状黒鉛鋳鉄で形成された排気系部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第一に本発明は、質量比で、C:2.8〜3.8%、Si:4.0〜5.5%、Mn:1.0%以下、P:0.03〜0.12%、Cr:0.1〜1.5%を含有し、残部がFe及び不可避の不純物から構成される球状黒鉛鋳鉄を提供する(発明1)。
【0010】
上記発明(発明1)によれば、リン(P)含有量を最適化することにより高い中温域延性を有し、クロム(Cr)を含有することによって高い耐酸化性も有する、従来の高SiMo球状黒鉛鋳鉄よりも高温強度や耐酸化性を向上させ、かつ中温域での延性に優れた球状黒鉛鋳鉄を得ることができる。
【0011】
上記発明(発明1)においては、質量比でV:0.6%以下を更に含有することが好ましい(発明2)。
【0012】
また、上記発明(発明1,2)においては、質量比でMo:0.8%以下を更に含有することが好ましい(発明3)。
【0013】
第二に本発明は、発明1〜3のいずれかに記載の球状黒鉛鋳鉄で形成された排気系部品を提供する(発明4)。
【発明の効果】
【0014】
本発明の球状黒鉛鋳鉄は、質量比で、C:2.8〜3.8%、Si:4.0〜5.5%、Mn:1.0%以下、P:0.03〜0.12%、Cr:0.1〜1.5%を含有し、残部がFe及び不可避の不純物から構成されるものとすることにより、従来の高SiMo球状黒鉛鋳鉄よりも高温強度や耐酸化性を向上させており、かつ中温域での延性に優れている。また、当該球状黒鉛鋳鉄で形成される排気系部品は、800℃を超える温度でも使用することができ、800℃以上の温度領域から100℃程度まで冷却される過程において亀裂が生じてしまうこともない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例及び比較例の耐酸化性性能評価(酸化減量の測定結果)を示すグラフである。
図2】同実施例及び比較例の高温強度性能評価(変態点温度の測定結果)を示すグラフである。
図3】同実施例及び比較例の高温強度性能評価(拘束率30%における熱疲労寿命の測定結果)を示すグラフである。
図4】同実施例及び比較例の高温強度性能評価(400℃における伸びの測定結果)を示すグラフである。
図5】同実施例及び比較例の高温強度性能評価(800℃における0.2%引張耐力測定結果)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄と、当該球状黒鉛鋳鉄で形成された排気系部品について説明する。
【0017】
まず、本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄は、質量比で、炭素(C):2.8〜3.8%、ケイ素(Si):4.0〜5.5%、マンガン(Mn):1.0%以下、リン(P):0.03〜0.12%、クロム(Cr):0.1〜1.5%、マグネシウム(Mg):0.02〜0.06%を含有し、残部が鉄(Fe)及び不可避の不純物から構成されるものである。このように構成を最適化することにより、従来の高SiMo球状黒鉛鋳鉄よりも高温強度や耐酸化性を向上させ、かつ中温域での延性に優れた球状黒鉛鋳鉄とすることができる。
【0018】
また、本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄は、原材料に多量のニッケルを含むニレジスト鋳鉄やステンレス鋳鋼に比べ低価格で製造できるという副次的な効果もある。
【0019】
続いて、本発明者らが本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄の設計を行うにあたって考慮した点について説明する。
【0020】
一つ目はA1変態点を向上させることである。フェライト系球状黒鉛鋳鉄の耐熱性を向上させるためには、A1変態点を高めることが必要である。A1変態点とは、フェライトとパーライトとが混合した基地組織が昇温によってオーステナイト相に変態する温度であり、A1変態点を上昇させれば、基地組織がオーステナイト相になりにくく、耐熱性を向上させることができる。
【0021】
A1変態点は、ケイ素添加量を増加させるに従って上昇するため、従来の鋳鉄材よりケイ素を実用上可能な限り多く添加し、ケイ素添加量の下限値を4.0質量%とした。一方、ケイ素を過剰に添加すると球状黒鉛鋳鉄に著しい伸び低下が生じるため、上限値を5.5質量%とした。
【0022】
これにより、従来の鋳鉄ではA1変態点が約840℃であったのに対し、当該A1変態点を900℃以上にまで上昇させることができる。通常、850〜900℃の高温排気ガスに曝された排気系部品の温度は、780〜830℃近傍まで昇温する。本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄を排気系部品に適用すれば、エンジン稼働時でもA1変態点を超えることがないため、相変態に伴う大きな変態ひずみの発生が抑制され、熱疲労寿命を大幅に向上させることができる。
【0023】
二つ目は耐酸化性を向上させることである。球状黒鉛鋳鉄の耐酸化性はケイ素含有量に依存するため、高Si球状黒鉛鋳鉄材は通常の鋳鉄材と比較して耐酸化性に優れる。球状黒鉛鋳鉄を用いた排気系部品等の表面に生成される酸化膜の量はケイ素含有量が多いほど少なくなり、その結果、酸化膜の亀裂に起因する貫通亀裂の発生が抑制され、寿命向上に寄与するからである。したがって、A1変態点の向上のために決定した範囲内でケイ素添加量を決定していけば、耐酸化性の向上という観点においても十分な効果が得られることになる。
【0024】
また、クロムも耐酸化性を向上させる元素であるため、クロムを0.1〜1.5質量%の範囲で添加することで、前述のケイ素添加による効果に加えて、耐酸化性をより向上させることができる。
【0025】
三つ目は耐熱疲労性を向上させることである。従来技術においては、耐熱疲労性を高めるために、球状黒鉛鋳鉄に特有の室温から高温に至るまでの引張強さや耐力を向上させる方法が用いられてきた。しかし、本発明者らは400℃付近で発生する伸びの低下を解消するというアプローチをとっている。すなわち、本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄の合金設計は、400℃付近での伸びを高めることによって、加熱・冷却サイクル内で発生する引張歪に対して塑性変形することを抑制し、初期クラック発生までの寿命を増大させることを狙っている。
【0026】
400℃付近での伸びはリンの添加量を0.03質量%以上にする事で10%以上の高い値を示し、高温から冷却する際に発生する引張歪みに対し有利な効果が得られた。一方、過度なリンの添加は球状黒鉛鋳鉄中に非常に硬質なステダイトを形成し、硬さの上昇や室温での靱性を低下させるため、上限は0.12質量%とした。
【0027】
以下に、各成分の含有量の限定理由を説明する。
【0028】
<炭素(C):2.8〜3.8質量%>
炭素の含有量は、後述するケイ素の含有量を高めに設定するために2.8〜3.8質量%であることを要する。炭素の含有量が2.8質量%未満となると炭化物が生成し易く、炭素の含有量が3.8質量%を超えると異常黒鉛が晶出し、強度及び靭性が低下してしまう。特に、3.0〜3.4質量%であることが好ましい。良好な鋳造性を確保するためにはCE値(炭素当量、C+Si/3)を4.5〜4.9程度に設定する必要があるため、炭素の含有量を3.0質量%以上、3.4質量%以下とすることにより、CE値を適正に制御することができる。
【0029】
<ケイ素(Si):4.0〜5.5質量%>
ケイ素は炭素の黒鉛化及び基地のフェライト化を促進する効果があり、一般的な球状黒鉛鋳鉄におけるケイ素含有量は2.5質量%程度である。本実施形態においては、A1変態温度を上昇させるとともに耐酸化性を向上させるため、ケイ素の含有量を4.0質量%以上とし、その一方でケイ素含有量が多くなると鋳鉄の靭性が低下するため、上限を5.5質量%とする。特に、4.3〜5.1質量%であることが好ましい。ケイ素の含有量を4.3質量%以上とすることにより耐酸化性を更に向上させることができ、ケイ素の含有量を5.1質量%以下とすることにより、鋳鉄の延性が低下し、CE値(黒鉛量)が大きくなりすぎて鋳造性が低下することを防ぐことができる。
【0030】
<マンガン(Mn):1.0質量%以下>
マンガンは、材料の不可避的不純物であり、基地のパーライト組織形成元素であるため、マンガン含有量の上限を1.0質量%とする必要がある。
【0031】
<リン(P):0.03〜0.12質量%>
リン含有量を0.03〜0.12質量%と最適化することにより、高い中温域延性を確保することができる。リンの含有量が0.03質量%未満となると400℃付近における伸びが低下してしまい、リンの含有量が0.12質量%を超えると鉄とリン、炭素の化合物が晶出して機械的性質が低下してしまう。特に、0.04〜0.06質量%であることが好ましい。リンの含有量を0.04質量%以上とすることにより、400℃付近における伸びが低下せず、かつ高温領域から冷却されていく際の引張歪みにも耐えることができ、リンの含有量を0.06質量%以下とすることにより、ステダイト(リン化鉄)形成による硬度上昇を避けることができる。
【0032】
<クロム(Cr):0.1〜1.5質量%>
クロムは高温における耐酸化性を向上させる元素であり、本実施形態においてはクロムを0.1質量%以上添加するが、クロム含有量が多くなると鋳鉄の延性を損なうため、上限を1.5質量%とする。特に、0.3〜0.8質量%であることが好ましい。クロムの含有量を0.3質量%以上とすることにより耐酸化性を更に向上させることができる。一方でクロムは炭化物生成傾向が強く、炭素の球状化を妨げる元素であるため、基地中の炭化物サイズが粗大になることを考慮して、クロムの含有量を0.8質量%以下とすることが好ましい。
【0033】
<マグネシウム(Mg):0.02〜0.06質量%>
マグネシウムは、黒鉛の球状化処理を目的として、0.02質量%以上添加する。一方、マグネシウムの含有量が多くなると炭化物の発生やドロス(酸化物の巻きこみ)欠陥が発生するため、含有量の上限は0.06質量%とする。なお、黒鉛の球状化はこの他の公知の方法で行われてもよく、例えばマグネシウムに代えて、セリウム(Ce)、ランタン(La)等の希土類元素やカルシウム(Ca)を添加して黒鉛の球状化処理を行なってもよい。
【0034】
また、本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄は、上記の構成に加えて、バナジウム(V)を0.6質量%以下で更に含有することが好ましい。
【0035】
さらに、本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄は、上記の構成に加えて、モリブデン(Mo)を0.8質量%以下で更に含有することが好ましい。
【0036】
耐熱変形性を向上させるという観点を考慮すると、伸び又は縮みが拘束された状態で加熱又は冷却によって発生する熱変形を抑えるために、高温強度、特に高温耐力又は高温比例限を向上させることが有効である。したがって、高温時のフェライト系球状黒鉛鋳鉄の強度を向上させるには、バナジウム及び/又はモリブデンの添加が有効である。一方で、バナジウムやモリブデンは過度な添加により耐酸化性の悪化も同時にもたらす元素である。よって、バナジウム添加量の上限は0.6質量%、モリブデン添加量の上限は0.8質量%とすることが好ましい。
【0037】
本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄において、バナジウム及びモリブデンは、上記の含有量の範囲においてその両方が含有されていてもよい。
【0038】
続いて、本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄で形成された排気系部品について説明する。本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄は、従来の高SiMo球状黒鉛鋳鉄よりも高温強度や耐酸化性を向上させ、かつ中温域での延性に優れたものであるため、タービンハウジング、エキゾーストマニホールド、タービンハウジング一体型エキゾーストマニホールド、その他の乗用車やトラック、産業機械などのエンジンに用いられる排気系部品に適用することが好ましい。この球状黒鉛鋳鉄で形成された排気系部品は800℃を超える温度でも十分な高温強度を有すると共に、800℃以上の温度領域から100℃程度まで冷却される過程において亀裂が生じてしまうこともない。また、本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄は、原材料に多量のニッケルを含むニレジスト鋳鉄やステンレス鋳鋼に比べ低価格で製造できるため、排気系部品の製造コストを低減することができる。
【0039】
なお、本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄を適用して形成される部品は、タービンハウジング、エキゾーストマニホールド、タービンハウジング一体型エキゾーストマニホールド、その他の排気系部品に限られるものではなく、例えば、高温環境下で使用される構造部材等に本実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄を適用することもできる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0041】
<供試材の作製>
表1に実施例1〜15及び比較例1〜7の球状黒鉛鋳鉄供試材の成分組成を示す。各供試材は、表1の成分組成となるように原料を調合して溶融した後、JIS G 5502に準じたY形B号の形状になるように鋳込み、作製した。
【0042】
【表1】
【0043】
<耐酸化性性能評価>
各供試材の耐酸化性は酸化減量で評価した。具体的には、電気炉内に供試材を入れ、大気雰囲気中にて900℃に加熱し、100時間保持した。その後、供試材表面の酸化物を除去した。加熱前の供試材の質量と酸化物除去後の供試材の質量とをそれぞれ測定し、以下の式(1)により酸化減量を算出した。得られた測定結果を表2及び図1に示す。
Wd=(Wo−Ws)/Ao ・・・ (1)
(Wdは酸化減量(mg/cm)、Wsは試験後の質量(mg)、Woは試験前の質量(mg)、Aoは試験前の供試材の表面積(cm)を表す。)
【0044】
【表2】
【0045】
<高温強度性能評価>
各供試材の高温強度は変態点温度、熱疲労強度、伸び、耐力で評価した。
【0046】
変態点温度による評価について、具体的には、熱機械分析装置を用い、供試材に徐々に熱を加えて昇温速度0.1℃/秒で昇温させ、変態を開始する変態点温度を測定した。得られた測定結果を表2及び図2に示す。
【0047】
続いて、熱疲労強度による評価について、具体的には、サーボパルサ型熱疲労試験装置(高周波誘導加熱方式)を用い、供試材を大気中で拘束率を30%とし、(A)5℃/秒で100℃から800℃まで昇温、(B)800℃で180秒保持、(C)5℃/秒で800℃から450℃まで降温、(D)2℃/秒で450℃から100℃まで降温、を一つのサイクルとするパターンを繰り返し、熱疲労寿命の評価を行った。なお、供試材の初期応力から25%応力が低下したときを破壊とみなし、この破壊に至るまでの上記パターンの繰り返し数を熱疲労寿命と定義した。得られた測定結果を表2及び図3に示す。
【0048】
伸びによる評価について、具体的には、引張試験機を用いて400℃における供試材の伸びを測定した。測定結果を表2及び図4に示す。
【0049】
耐力による評価について、具体的には、引張試験機を用いて800℃における供試材の0.2%耐力を測定した。測定結果を表2及び図5に示す。
【0050】
<評価結果の分析>
上記の耐酸化性性能評価及び高温強度性能評価の結果によれば、表2及び図1に示されているように、本発明の実施例1〜15は、比較例1〜7と比較して全般的に酸化減量が少なくなっており、耐酸化性性能が向上していることがわかる。実施例15は酸化減量が大きくなっているが、これはバナジウムの添加量が0.6質量%を超えていることに起因するものと考えられる。
【0051】
表2及び図2に示されているように、本発明の実施例1〜15は、比較例1〜7と比較して全般的に変態点温度が高くなっており、高温領域における強度性能が向上していることがわかる。
【0052】
表2及び図3に示されているように、本発明の実施例1〜15は、比較例1〜7と比較して全般的に熱疲労寿命が長くなっており、熱疲労に対する強度性能が向上していることがわかる。
【0053】
表2及び図4に示されているように、本発明の実施例1〜15は、比較例1〜3と比較して400℃での延性に優れており、強度性能が向上していることがわかる。比較例4〜7については、リンの添加量を適正な範囲に制御したことにより実施例1〜15と同等又はそれ以上に優れた400℃での延性を有しているが、ケイ素やクロムの添加量が適正な範囲に制御されていなかったため、実施例1〜15よりも熱疲労寿命が短くなっており、熱疲労に対する強度性能は向上していないことがわかる。
【0054】
以上のことから、本発明の実施例1〜15は、優れた耐酸化性性能と高温強度性能を有していることがわかる。特に、実施例1〜3は、耐酸化性性能に極めて優れており、かつ850℃以上の変態点温度を示したということを考慮すれば、実施例1〜3の組成が自動車用部品(排気系部品)の材料として好適であろう。
【0055】
以上説明した本発明の実施形態及び実施例は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態及び実施例に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
図1
図2
図3
図4
図5