特許第6670850号(P6670850)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6670850ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子および型内発泡成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670850
(24)【登録日】2020年3月4日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子および型内発泡成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/18 20060101AFI20200316BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20200316BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C08J9/18CES
   C08L23/10
   C08L23/04
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-552347(P2017-552347)
(86)(22)【出願日】2016年11月9日
(86)【国際出願番号】JP2016083280
(87)【国際公開番号】WO2017090432
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2018年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-230292(P2015-230292)
(32)【優先日】2015年11月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭志
(72)【発明者】
【氏名】福澤 淳
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/047998(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/136933(WO,A1)
【文献】 特開2008−255286(JP,A)
【文献】 特開2010−265449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂(X)100重量部に対し、密度0.945g/cm3以上0.980g/cm3未満のポリエチレン系樹脂(Y)を1重量部以上10重量部以下混合して得られる、146℃以上160℃以下の高温側結晶融解ピーク温度を有するポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を、耐圧容器内で水系分散媒に分散させ、該耐圧容器内に発泡剤を導入し、加熱、加圧条件下でポリプロピレン系樹脂(Z)粒子に発泡剤を含浸させる工程と、
前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を前記耐圧容器の内圧よりも低い圧力領域へ放出することにより、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を発泡させてポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を得る工程と、を含み、
前記ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子は、発泡倍率が20倍以上40倍以下、独立気泡率が90%以上、且つ皺収縮率が5%以下であり、
前記ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を、1回の発泡工程で製造し、
前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子は、前記ポリプロピレン系樹脂(X)および前記ポリエチレン系樹脂(Y)を押出機で溶融混練し、押出機先端から大気中にストランド状に押出した後、カッティングすることにより得られることを特徴とする、ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【請求項2】
炭酸ガスを含む発泡剤を用いることを特徴とする請求項1記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を、90℃以上、105℃以下の発泡雰囲気温度とした発泡雰囲気へ放出することにより発泡させることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂(Z)がポリプロピレン系樹脂(X)よりも高い結晶化温度を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【請求項5】
前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子が、吸水剤を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【請求項6】
前記吸水剤がポリエチレングリコールおよび/またはグリセリンである、請求項5に記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【請求項7】
前記吸水剤の含有量が、ポリプロピレン系樹脂(X)100重量部に対して、0.01重量部以上10重量部以下である、請求項5または6に記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【請求項8】
ポリプロピレン系樹脂(X)100重量部に対し、密度0.945g/cm以上0.980g/cm未満のポリエチレン系樹脂(Y)を1重量部以上10重量部以下混合して得られる、146℃以上160℃以下の高温側結晶融解ピーク温度を有するポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を、発泡倍率が20倍以上40倍以下、独立気泡率が90%以上、且つ皺収縮率が5%以下に発泡させたポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子からなる型内発泡成形体であって、
当該型内発泡成形体密度および圧縮強度を測定し、前記型内発泡成形体密度を横軸、前記圧縮強度を縦軸とする座標平面上にプロットしたとき、下記(1)〜(3)の手順によって決定される合否判定線以上にプロットされる、型内発泡成形体。
(1)ポリプロピレン系樹脂(X)100重量部に対し、密度0.945g/cm以上0.980g/cm未満のポリエチレン系樹脂(Y)を1重量部以上10重量部以下混合して得られる、146℃以上160℃以下の高温側結晶融解ピーク温度を有するポリプロピレン系樹脂(Z)を基材樹脂とし、発泡倍率が10倍以上20倍未満であるポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子からなる型内発泡成形体のサンプルを用意する。
(2)該サンプルの型内発泡成形体密度および圧縮強度を計測した値を、前記座標平面上に2点以上プロットする。
(3)(2)においてプロットされた点に基づき、前記座標平面の原点を通る一次近似線を基準線とし、該基準線に対して圧縮強度が3.0%低い線を合否判定線とする。
【請求項9】
型内発泡成形体密度が15g/L以上30g/L以下であることを特徴とする、請求項8記載の型内発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法に関する。更に詳しくは軽量で高強度な型内発泡成形体を提供するポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法に関する。また、本発明はポリプロピレン系樹脂発泡粒子および型内発泡成形体にも関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を金型内に充填し、蒸気により加熱融着させて得られるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、発泡体としての特徴である軽量性および緩衝性を有する事と、任意の形状に自由に成形加工できる事とから、通い箱および緩衝マットなど種々の用途に使用されている。また、ポリスチレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂の型内発泡成形体と比較して、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は耐熱性に優れる事から、高温条件でも形状および物性の変化が小さく、厳しい条件下で高度な物性および品質が要求される自動車部材にも積極的に利用されている。近年、自動車部材などの用途では、原料コスト削減および燃費向上などを主な目的として、更なる軽量化が求められている。それぞれの部材には一定の強度が要求されており、その強度目標を満足する必要がある。即ち、部材の軽量化の為には、樹脂の高発泡化技術だけでなく、型内発泡成形体の強度を向上させる技術も必要とされる。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の強度は、一般的に、圧縮強度として評価される。即ち、型内発泡成形体に応力を加えて圧縮したとき、変形が小さい型内発泡成形体ほど強度が高いと表現される。型内発泡成形体の圧縮強度は、通常、同じ密度の型内発泡成形体で比較した場合、基材とするポリプロピレン系樹脂の強度に比例する。即ち、ポリプロピレン系樹脂(A)に対してポリプロピレン系樹脂(B)の強度が高い場合、ポリプロピレン系樹脂(B)からなる同じ密度の型内発泡成形体(B´)の圧縮強度は、ポリプロピレン系樹脂(A)からなる型内発泡成形体(A´)よりも高くなる。ポリプロピレン系樹脂の強度は、一般的に曲げ弾性率が指標となる。よって、型内発泡成形体の強度を向上させるには曲げ弾性率の高いポリプロピレン系樹脂を使用する。
【0004】
一方、本発明者らは、発泡剤として炭酸ガス等の無機系発泡剤を用いた除圧発泡プロセスを基本として、型内発泡成形体の高発泡化(軽量化)および高強度化を検討してきた。炭酸ガスは、ブタンおよびフロン類などの有機系揮発性発泡剤と比較して環境負荷が小さく、極めて安全性が高いことから選択されてきた背景がある。しかしながら、炭酸ガスによる発泡プロセスは、ブタンおよびフロン類などの有機系揮発性発泡剤を用いた場合と比較して発泡力が劣るため高発泡化が難しい。炭酸ガスによる発泡プロセスで軽量化を達成する上で、これまでに種々の高発泡化技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ポリプロピレン系樹脂粒子を耐圧容器内で分散媒に分散させ、ポリプロピレン系樹脂粒子が軟化する温度以上に加熱し、加圧した後、耐圧容器の一端を開放してポリプロピレン系樹脂粒子を耐圧容器内よりも低圧の雰囲気中に放出して(以下、この工程を「一段発泡」と称する)得られる、最初の発泡粒子(以下、「一段発泡粒子」と称する)に、再度空気などの発泡剤を含浸させ発泡力を付与した後、蒸気等により加熱しさらに発泡させ(以下、この工程を「二段発泡」と称する)、もとの発泡粒子より高発泡倍率であるポリプロピレン系樹脂発泡粒子(以下、「二段発泡粒子」と称する)を得る方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、前記一段発泡工程において、耐圧容器内で炭酸ガスを含浸させたポリプロピレン系樹脂粒子を80〜100℃の高温雰囲気下に放出して発泡させることで、高発泡倍率な一段発泡粒子が得られる事が開示されている。
【0007】
一方、型内発泡成形体の改質技術として、ポリプロピレン系樹脂に対するポリエチレン系樹脂の添加技術がある。
【0008】
例えば、特許文献3には、ポリプロピレン系樹脂と、溶融張力向上剤として特定のポリエチレン系樹脂とを多量に添加したポリプロピレン系樹脂組成物を用いることによって、気泡が巨大で均一な発泡粒子および型内発泡成形体が得られることが開示されている。
【0009】
特許文献4には、特許文献3と同様にプロピレン重合体樹脂に特定のエチレン重合体樹脂を添加したプロピレン重合体樹脂組成物を用いた発泡体が開示されている。
【0010】
また、特許文献5には、ポリプロピレン系樹脂に特定のポリエチレン系樹脂を添加することによって、型内発泡成形での融着性を改善した発泡粒子が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2009−256410号(2009年11月5日公開)」
【特許文献2】国際公開公報「WO2014/136933号(2014年9月12日公開)」
【特許文献3】日本国公開特許公報「特開2010−275499号(2010年12月9日公開)」
【特許文献4】日本国公開特許公報「特開2010−265449号(2010年11月25日公開)」
【特許文献5】国際公開公報「WO2009/047998号(2009年4月16日公開)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、高発泡倍率のポリプロピレン系樹脂発泡粒子であっても、型内発泡成形時の融着性および表面性などの物性および品質を失うことなく、基材樹脂本来の強度を活かした型内発泡成形体を提供するポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法を提供する事を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリプロピレン系樹脂に、特定のポリエチレン系樹脂を混合したポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂粒子を用いて皺の少ない一段発泡粒子を作製することにより、軽量化された型内発泡成形体であっても圧縮強度が高い型内発泡成形体が得られることを見出した。即ち、本発明は、以下の構成よりなる。
【0014】
〔1〕ポリプロピレン系樹脂(X)100重量部に対し、密度0.945g/cm以上0.980g/cm未満のポリエチレン系樹脂(Y)を1重量部以上10重量部以下混合して得られる、146℃以上160℃以下の高温側結晶融解ピーク温度を有するポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を、耐圧容器内で水系分散媒に分散させ、該耐圧容器内に発泡剤を導入し、加熱、加圧条件下でポリプロピレン系樹脂(Z)粒子に発泡剤を含浸させる工程と、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を前記耐圧容器の内圧よりも低い圧力領域へ放出することにより、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を発泡させてポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を得る工程と、を含み、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子は、発泡倍率が20倍以上40倍以下、独立気泡率が90%以上、且つ皺収縮率が5%以下であり、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を、1回の発泡工程で製造することを特徴とする、ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【0015】
〔2〕型内発泡成形体密度および圧縮強度を測定し、前記型内発泡成形体密度を横軸、前記圧縮強度を縦軸とする座標平面上にプロットしたとき、下記(1)〜(3)の手順によって決定される合否判定線以上にプロットされる、型内発泡成形体。(1)ポリプロピレン系樹脂(X)100重量部に対し、密度0.945g/cm以上0.980g/cm未満のポリエチレン系樹脂(Y)を1重量部以上10重量部以下混合して得られる、146℃以上160℃以下の高温側結晶融解ピーク温度を有するポリプロピレン系樹脂(Z)を基材樹脂とし、発泡倍率が10倍以上20倍未満であるポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子からなる型内発泡成形体のサンプルを用意する。(2)該サンプルの型内発泡成形体密度および圧縮強度を計測した値を、前記座標平面上に2点以上プロットする。(3)(2)においてプロットされた点に基づき、前記座標平面の原点を通る一次近似線を基準線とし、該基準線に対して圧縮強度が3.0%低い線を合否判定線とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高発泡倍率のポリプロピレン系樹脂発泡粒子であっても、型内発泡成形時の融着性および表面性などの物性および品質を失うことなく、基材樹脂本来の強度を活かした型内発泡成形体を提供するポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法を提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】DSC曲線における本発明実施例1のTmhを示す図である。
図2】DSC曲線における本発明実施例1のTcを示す図である。
図3】型内発泡成形体の密度と、型内発泡成形体の50%圧縮時の圧縮応力との関係(型内発泡成形体の強度を評価する際に用いられる)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法は、ポリプロピレン系樹脂(X)100重量部に対し、密度0.945g/cm以上0.980g/cm未満のポリエチレン系樹脂(Y)を1重量部以上10重量部以下混合して得られる、146℃以上160℃以下の高温側結晶融解ピーク温度を有するポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を、耐圧容器内で水系分散媒に分散させ、該耐圧容器内に発泡剤を導入し、加熱、加圧条件下でポリプロピレン系樹脂(Z)粒子に発泡剤を含浸させる工程と、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を前記耐圧容器の内圧よりも低い圧力領域へ放出することにより、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を発泡させてポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を得る工程と、を含み、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子は、発泡倍率が20倍以上40倍以下、独立気泡率が90%以上、且つ皺収縮率が5%以下であり、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を、1回の発泡工程で製造することを特徴とする。
【0019】
本発明の一実施形態では、ポリプロピレン系樹脂に、特定のポリエチレン系樹脂を混合したポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂粒子を用いて20倍以上の高発泡倍率であっても、皺収縮率を5%以下に抑制した一段発泡粒子を用いる事により、軽量でも圧縮強度の高い型内発泡成形体を得ることができる。
【0020】
これに対し、特許文献1および2の場合、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体が高発泡倍率の領域、例えば型内発泡成形体密度30g/L以下の領域において、ポリプロピレン系樹脂そのものの強度を型内発泡成形体の強度として「最大限に」活かせない場合があった。即ち、型内発泡成形体が低発泡倍率の領域では樹脂そのものの強度が型内発泡成形体強度に相関するのに対して、高発泡倍率領域では相関関係から期待される強度より低い値となることがあった。
【0021】
特許文献3の場合、発泡粒子はブタンなどの有機系揮発性発泡剤を使用したものであり、炭酸ガス等の無機系発泡剤に関しては一切記載がない。また本件の課題の一つである型内発泡成形体の圧縮強度に関する記載もない。また圧縮強度に関係する発泡粒子の独立気泡率に関する記載はない。
【0022】
特許文献4の場合、実施例記載の独立気泡率は70%前後である。一般的に、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体における強度は独立気泡率にも依存する。独立気泡率が90%に満たない場合、気泡膜の多くは破れている為、型内発泡成形体は強度が低くなる。
【0023】
特許文献5の場合、高発泡倍率領域の型内発泡成形体の強度が、原料となるポリプロピレン系樹脂の強度から期待される値よりも低くなることがある課題については明らかにされていなかった。
【0024】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(X)としては、特に制限は無く、ポリプロピレンホモポリマー、エチレン/プロピレンランダム共重合体、ブテン−1/プロピレンランダム共重合体、エチレン/ブテン−1/プロピレンランダム共重合体、エチレン/プロピレンブロック共重合体、ブテン−1/プロピレンブロック共重体、プロピレン−塩素化ビニル共重合体およびプロピレン/無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらのなかでも、エチレン/プロピレンランダム共重合体、ブテン−1/プロピレンランダム共重合体またはエチレン/ブテン−1/プロピレンランダム共重合体が良好な発泡性を有し、良好な成形性を有する点から好適である。
【0025】
エチレン/プロピレンランダム共重合体、ブテン−1/プロピレンランダム共重合体またはエチレン/ブテン−1/プロピレンランダム共重合体は、プロピレン以外の重合成分であるコモノマー含有率が、各共重合体100重量%中、0.2重量%以上10重量%以下のものが好適に用いられる。
【0026】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(X)を合成する際の重合触媒としては特に制限は無く、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒などを用いることができる。
【0027】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(X)の融点は、後述するポリプロピレン系樹脂(Z)の高温側結晶融解ピーク温度Tmhを考慮すると、145℃以上160℃以下が好ましく、146℃以上155℃以下がより好ましい。融点の求め方は後述するTmhの求め方と同じである。
【0028】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(X)の強度としては特に制限はないが、曲げ弾性率が1400Mpa以上であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂(X)の強度が十分であるならば、ポリプロピレン系樹脂(Z)も十分な強度を有する傾向にあり、高発泡倍率領域でも発泡粒子の皺収縮を抑制し易い。
【0029】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(X)のメルトインデックス(以降、「MI」と称する)は特に制限されないが、5g/10min以上、15g/10min以下の場合、高発泡倍率で独立気泡率の高い発泡粒子および型内発泡成形体を得やすくなる。ここで、MI値は、JIS K7210に準拠し、荷重2160g、230±0.2℃の条件下で測定した値である。
【0030】
本発明の一実施形態で用いられるポリエチレン系樹脂(Y)は所定の密度であれば、エチレン以外に、エチレンと共重合可能なコモノマーを含んでいてもよい。
【0031】
前記エチレンと共重合可能なコモノマーとしては、炭素数3以上18以下のα−オレフィンを用いることができる。前記炭素数3以上18以下のα−オレフィンとしては、例えば、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−オクテンなどが挙げられ、これらは単独でも、2種以上を併用しても良い。
【0032】
本発明の一実施形態におけるポリエチレン系樹脂(Y)の密度は、0.945g/cm以上0.980g/cm未満であり、好ましくは0.960g/cm以上0.980g/cm未満である。
【0033】
ポリエチレン系樹脂(Y)の密度が0.945g/cm未満の場合には、発泡粒子の皺収縮抑制効果が十分に発揮されない。また、ポリエチレン系樹脂(Y)の密度が0.980g/cm以上である場合には、ポリプロピレン系樹脂(Z)が脆くなるため型内発泡成形体の衝撃強度が低下する懸念がある上、ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子が伸びにくくなり、型内発泡成形性が低下することがある。
【0034】
本発明の一実施形態で用いられるポリエチレン系樹脂(Y)の融点は特に制限はないが、125℃以上140℃以下のものが好適に用いられる。
【0035】
本発明の一実施形態で用いられるポリエチレン系樹脂(Y)のMIは特に制限されないが、ポリプロピレン系樹脂(X)と同程度のものが好ましい。
【0036】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(Z)におけるポリプロピレン系樹脂(X)とポリエチレン系樹脂(Y)との混合比は、ポリプロピレン系樹脂(X)100重量部に対して、ポリエチレン系樹脂(Y)1重量部以上10重量部以下であり、2重量部以上8重量部以下が好ましい。
【0037】
ポリエチレン系樹脂(Y)の混合比が1重量部未満では、発泡粒子の皺収縮を抑制する効果が十分に発揮されない。一方、ポリエチレン系樹脂(Y)の混合比が10重量部を超えると、型内成形時の発泡粒子の伸びが悪化したり、型内発泡成形体の独立気泡率が低下したりする場合がある。
【0038】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(Z)の高温側結晶融解ピーク温度Tmhは、146℃以上、160℃以下であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂(Z)の高温側結晶融解ピーク温度Tmhが146℃未満の場合、高発泡倍率領域で発泡粒子の皺収縮が発生する場合がある。高温側結晶融解ピーク温度Tmhが160℃を超える場合、型内発泡成形性が悪化する場合がある。
【0039】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(Z)の結晶化温度Tcは、ポリプロピレン系樹脂(X)の結晶化温度Tcxよりも高温であることが好ましい。結晶化温度TcがTcxよりも高温の場合、発泡粒子の皺収縮を抑制する効果が得られやすい。
【0040】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(Z)の強度としては特に制限はないが、曲げ弾性率が1400Mpa以上であることが好ましい。
【0041】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(Z)のMIは、特に制限されないが、5g/10min以上、15g/10min以下の場合、高発泡倍率で独立気泡率の高い発泡粒子および型内発泡成形体を得やすくなる。
【0042】
本発明の一実施形態のポリプロピレン系樹脂(Z)においては、本願発明の効果を損ねない範囲で、種々の添加剤を添加することができ、添加剤としては、例えば、吸水剤、気泡核剤、酸化防止剤、耐光性改良剤および難燃剤等を挙げることができる。
【0043】
前記吸水剤としては、ポリエチレングリコール、グリセリン[化学名1,2,3−プロパントリオール]およびメラミン[化学名1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン]などが例示されるが、これらに限定されるものではない。特に好ましい吸水剤としてはポリエチレングリコールおよびグリセリンが挙げられる。
【0044】
前記吸水剤の添加量は、好ましくはポリプロピレン系樹脂(X)100重量部に対して0.01重量部以上10重量部以下である。0.01重量部以上の場合は吸水剤の添加による効果が表れ易く、10重量部以下の場合は発泡粒子に皺収縮が発生しにくい。
【0045】
前記気泡核剤としては、タルク、カオリン、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛および二酸化珪素等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
前記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
前記耐光性改良剤としては、ヒンダードアミン系耐光性改良剤等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
前記難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤およびヒンダードアミン系難燃剤等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
本発明の一実施形態において、ポリプロピレン系樹脂(Z)は、通常、発泡に利用されやすいように予め押出機、ニーダー、バンバリミキサーまたはロール等を用いて溶融混練し、円柱状、楕円状、球状、立方体状、直方体状または筒状(ストロー状)等のような所望の粒子形状に成形加工し、ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子とすることが好ましい。なお、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子の形状がそのままポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の形状になるとは限らない。例えば発泡工程においてポリプロピレン系樹脂(Z)粒子が縮む場合があり、このような場合は円柱状または楕円状のポリプロピレン系樹脂(Z)粒子から、球状のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子が得られる場合がある。
【0050】
ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子の製造方法の中でも、生産性の観点からは、押出機で溶融混練し、押出機先端からストランド状に押出した後、カッティングすることによりポリプロピレン系樹脂(Z)粒子とすることがより好ましい。
【0051】
本発明の一実施形態におけるポリプロピレン系樹脂(Z)粒子の一粒あたりの重量は0.1mg以上100mg以下が好ましく、0.3mg以上10mg以下がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子の一粒あたりの重量が0.1mg以上の場合、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を発泡する際に十分な発泡倍率を得られる傾向がある。一方、100mg以下の場合には、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子から得られるポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を型内発泡成形する際、厚みが薄い部分へも十分な充填性を与えられる傾向がある。ここで、ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子の一粒あたりの重量は、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子をランダムに選んだ100粒から得られる平均樹脂粒子重量である。
【0052】
また、ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子の一粒あたりの重量は、発泡工程を経てもほとんど変化することは無く、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子の一粒あたりの重量をポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の一粒あたりの重量としても問題は無い。
【0053】
このようにして得た発泡用のポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を用いて、本発明の一実施形態に係るポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を製造することができる。
【0054】
本発明の一実施形態に係るポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子は、次のようにして製造することができる。
【0055】
例えば、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子、水性媒体、無機系分散剤および発泡剤等を耐圧容器中に収容し、攪拌条件下に分散させると共に、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子の軟化点温度以上に昇温、および該温度における飽和水蒸気圧力以上に加圧した状態とし、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子に発泡剤を含浸させる。その後、必要に応じて昇温後の温度で0分を超え120分以下保持し、その後、耐圧容器の内圧よりも低い圧力領域に耐圧容器中の分散液を放出して、ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を製造することができる。耐圧容器の内圧よりも低い圧力領域としては、大気圧であることが好ましい。なお、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子へ前記発泡剤を含浸させた後、前記分散液を加圧状態からより低い圧力領域へ放出するまでの一回の発泡工程を「一段発泡工程」と呼び、得られたポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を「一段発泡粒子」と呼ぶ。また、分散液とは、ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子、水性媒体、無機系分散剤および発泡剤等を耐圧容器中に収容し、攪拌条件下に分散させた混合液体のことである。
【0056】
本発明の一実施形態において、ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子製造時に使用する耐圧容器には特に制限はなく、容器内圧力および容器内温度に耐えられるものであればよく、例えば、オートクレーブ型の耐圧容器が挙げられる。
【0057】
ここで、耐圧容器内の温度を軟化点温度以上に昇温する際、温度としては、ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子の高温側結晶融解ピーク温度−20℃以上、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子の高温側結晶融解ピーク温度+10℃以下の範囲の温度に昇温することが、発泡性を確保する上で好ましい。本発明の一実施形態において昇温温度は、126℃以上、170℃以下の範囲が好適に用いられるが、原料となるポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂の種類、発泡剤の種類、並びに目的の発泡倍率等により適宜決定されるものである。
【0058】
本発明の一実施形態で用いられる水性媒体としては、例えば、水、アルコール、エチレングリコールおよび/またはグリセリン等を単独あるいは併用して用いることができるが、発泡性、作業性あるいは安全性等からは水を用いることが好ましく、水を単独で用いることが最も好ましい。なお、本明細書において、水性媒体を「水系分散媒」とも称する。
【0059】
水性媒体の量は、ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子100重量部に対して50重量部以上500重量部以下として用いることができ、好ましくは、100重量部以上350重量部以下である。50重量部以上の場合、耐圧容器中で複数のポリプロピレン系樹脂(Z)粒子同士の合着を防止でき、500重量部以下の場合は生産性の低下を防止できるため、製造上の観点から好ましい。
【0060】
本発明の一実施形態で用いられる無機系分散剤としては、例えば、第三リン酸カルシウム、第三リン酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、塩基性炭酸亜鉛、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、アルミノ珪酸塩、カオリンおよび硫酸バリウム等が挙げられ、これらを単独あるいは併用して用いることができる。分散液の安定性の観点からは、第三リン酸カルシウム、カオリン、あるいは硫酸バリウムが好ましい。分散液の安定性を保つことにより、耐圧容器中で複数のポリプロピレン系樹脂(Z)粒子同士が合着または塊となることを防げる。このため、合着したポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子が得られる、耐圧容器中にポリプロピレン系樹脂(Z)粒子の塊が残存してポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子が製造できない、ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の生産性が低下するなどの事態を防止できる。
【0061】
本発明の一実施形態においては、耐圧容器内での分散液の安定性を高めるために、更に分散助剤を用いることが好ましい。分散助剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤が挙げられ、具体的には例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムおよびα−オレフィンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。アルキルスルホン酸ナトリウムの具体例としては、ノルマルパラフィンスルホン酸ソーダが挙げられる。
【0062】
無機系分散剤および/または分散助剤の使用量は、その種類、並びに、用いるポリプロピレン系樹脂(Z)粒子の種類および使用量によって異なるが、通常、水性媒体100重量部に対して、無機系分散剤は0.1重量部以上5重量部以下であることが好ましく、分散助剤は0.001重量部以上0.3重量部以下であることが好ましい。無機系分散剤および/または分散助剤の使用量が適切である場合、耐圧容器中での複数のポリプロピレン系樹脂(Z)粒子同士の合着を阻害できる。更に、ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の表面に残存する分散剤が多くなり、後述する成形においてポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子同士の融着を阻害する原因となることが防止できるため、好ましい。
【0063】
本発明の一実施形態で用いられる発泡剤としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロペンタンおよびシクロブタン等の有機系発泡剤、並びに、炭酸ガス、水、空気および窒素等の無機系発泡剤が挙げられる。これらの発泡剤は単独で用いてもよく、また、2種類以上併用してもよい。
【0064】
これらの発泡剤の中でも、発泡倍率を向上させやすい観点からは、イソブタンまたはノルマルブタンが優れているが、これらの発泡剤は可燃性であり、使用する設備を防爆構造とする必要があるなどの注意点がある。安全性の観点からは、炭酸ガス、水、空気または窒素等の無機系発泡剤を用いることが好ましく、炭酸ガスを含む発泡剤を用いることが最も好ましい。
【0065】
本発明の一実施形態において、発泡剤の使用量に限定はなく、ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の所望の発泡倍率に応じて適宣使用すれば良いが、通常は、ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子100重量部に対して、2重量部以上60重量部以下であることが好ましい。
【0066】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の発泡倍率は20倍以上40倍以下、好ましくは25倍以上40倍以下である。発泡倍率が20倍未満の場合、本発明の課題が発生しにくく、40倍を超えると、本発明による皺収縮率を抑制した一段発泡粒子を得る事が難しい場合がある。
【0067】
ところで、一段発泡工程において発泡倍率が20倍以上40倍以下の発泡倍率の高いポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を得る方法として以下の方法が知られている。例えば、有機系発泡剤、無機系発泡剤、またはそれらの混合発泡剤を多量に使用するという方法がある。なかでも安全性の高い方法として、炭酸ガスおよび水の発泡力を利用した複合発泡によって高発泡倍率のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を得る事ができる。その際、ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子への水の含浸を促進するために、ポリプロピレン系樹脂(Z)に前記吸水剤を添加することができる。
【0068】
また、別の方法として例えば、一段発泡工程において、分散液を放出する低い圧力領域(以下、「発泡雰囲気」と称す。)の温度(以下、「発泡雰囲気温度」と称す。)を高温に保持する事によっても発泡倍率の高いポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を得る事ができる。発泡雰囲気温度としては、90℃以上105℃以下が好ましく、95℃以上105℃以下がより好ましい。発泡雰囲気温度が90℃以上ならば、発泡粒子の倍率を向上させる効果が十分に得られ、105℃以下ならば、発泡粒子同士の塊化を抑制できる。ここで、塊化とは、表面の樹脂が溶融した状態の発泡粒子同士が付着して集合状態となる現象を指す。
【0069】
一段発泡工程において発泡倍率が20倍以上40倍以下の発泡倍率の高いポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を得る方法としては、前記発泡剤および前記添加剤、並びに前記発泡雰囲気温度を適宜組み合わせればよい。
【0070】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の独立気泡率は90%以上である。独立気泡率が90%に満たない場合、気泡膜の多くは破れている為、型内発泡成形体の強度が低くなる場合がある。
【0071】
本発明の一実施形態で用いられるポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の皺収縮率は5%以下である。皺収縮率とは、後述の実施例に記載のように、見かけ上同じ表面積を有する発泡粒子において、最大体積(v´)に対して皺により体積が減少した体積(v)の比率である。皺収縮率が5%以下である場合、型内発泡成形体の強度が、原料となるポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率から期待される強度と同程度となり易い。
【0072】
ここで、発泡粒子の皺収縮とは、一段発泡、つまり加熱したポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を耐圧容器内よりも低圧の雰囲気中に放出した直後、独立気泡率の高い発泡粒子が軟化状態から固化する際に、発泡粒子内の水分の凝縮および気体の体積変化に起因する内圧の減少によって収縮し、発泡粒子に皺が入る現象をいう。発泡粒子の皺は、発泡粒子を構成する樹脂膜が座屈したことを示している。ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の発泡倍率が20倍以上になると本発明を用いない場合、樹脂膜が座屈しやすくなる。
【0073】
本発明は、発泡粒子を構成する樹脂膜に座屈した履歴があると、型内発泡成形体の強度が原料となるポリプロピレン系樹脂から期待される強度よりも低下する事を明らかにし、その座屈履歴である皺収縮を抑制することにより、高発泡倍率であっても強度低下のない型内発泡成形体を提供する事ができる。
【0074】
ところで、発泡倍率の高いポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を得るために、一段発泡工程で得たポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子(一段発泡粒子)を、再度発泡させることで発泡倍率を高くすることが可能である。
【0075】
例えば、除圧発泡により一段発泡粒子を製造し、該一段発泡粒子を耐圧容器内に入れ、窒素、空気または炭酸ガス等で0.1MPa(ゲージ圧)以上0.6MPa(ゲージ圧)以下で加圧処理することにより一段発泡粒子内の圧力を常圧よりも高くした状態で、一段発泡粒子をスチーム等で加熱して更に発泡させ、発泡倍率を高めることが可能である。このような一段発泡粒子を、別の工程にて更に発泡させ、発泡倍率を高める工程を「二段発泡工程」と呼び、得られたポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を「二段発泡粒子」と呼ぶ。
【0076】
ただし、この二段発泡工程は、一段発泡工程と比較して低温(100〜120℃程度、蒸気圧0.10MPa(ゲージ圧)以下)で一段発泡粒子を発泡延伸させる工程であり、樹脂の流動性が低い状態で延伸させるため、二段発泡粒子の樹脂膜には局所的な薄膜化や歪みが生じる傾向にある。これらの理由から、一般的に、二段発泡粒子は、特に高発泡倍率になると、同倍率の一段発泡粒子と比較して、所望の圧縮強度等の物性を得られないことがある。一方、本発明の一実施形態に係るポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子は、一段発泡工程により得られた一段発泡粒子であるため、所望の圧縮強度等の物性を得易い。
【0077】
本発明の一実施形態に係るポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子は、一般的な型内発泡成形をすることによってポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体となる。
【0078】
前記ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を型内発泡成形に用いる場合には、イ)そのまま用いる方法、ロ)予め発泡粒子中に空気等の無機ガスを圧入し、発泡能(内圧)を付与する方法、ハ)発泡粒子を圧縮状態で金型内に充填し成形する方法など、従来既知の方法を使用し得る。
【0079】
本発明の一実施形態において、ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子からポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を製造する方法としては、たとえば閉鎖し得るが密閉し得ない成形金型内に前記ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を充填し、水蒸気などを加熱媒体として0.05MPa(ゲージ圧)以上、0.5MPa(ゲージ圧)以下程度の加熱水蒸気圧で3秒以上、30秒以下程度加熱することでポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子同士を融着させる。このあと成形金型を水冷し、型内発泡成形体取り出し後の型内発泡成形体の変形を抑制できる程度まで冷却した後、金型を開き、型内発泡成形体とする方法などが挙げられる。
【0080】
上述した方法などにより製造された型内発泡成形体は、型内発泡成形体密度(見掛けの密度とも称する)が15g/L以上30g/L以下であることが好ましい。型内発泡成形体密度が15g/L以上ならば、一般に変形・収縮の少ない良好な型内発泡成形体が得やすい。型内発泡成形体密度が30g/L以下ならば、型内発泡成形体の強度の低下を抑制する効果が、より顕著に表れる。型内発泡成形体密度は、15g/L以上25g/L未満であってもよい。
【0081】
なお、型内発泡成形体密度とは、型内発泡成形体の重量を、該型内発泡成形体の体積によって除した値である。型内発泡成形体の体積は、該型内発泡成形体の形状が単純な直方体形状などである場合は、外寸より計算される。該型内発泡成形体の形状が複雑形状である場合は、水没体積(該型内発泡成形体を水中に沈めた際に浮力として得られる荷重÷(水の密度×重力加速度)として得られる)などとして測定される。
【0082】
本発明の一実施形態に係る型内発泡成形体の型内発泡成形体密度および圧縮強度は、図3に示した合否判定線以上にあることが好ましい。前記合否判定線は、以下の手順によって決定される。
【0083】
(1)評価しようとする型内発泡成形体の原料と同じ組成のポリプロピレン系樹脂(Z)を基材樹脂に用いて、発泡倍率が10倍以上20倍未満であるポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を作製する。次に該ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子からなる型内発泡成形体のサンプルを作製する。ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子および型内発泡成形体の作成方法は、上述した通りである。
【0084】
(2)(1)で作成したサンプルの型内発泡成形体密度および圧縮強度を測定する。測定された値を、型内発泡成形体密度を横軸、圧縮強度を縦軸とする座標平面上に2点以上プロットする。このとき、前記座標平面上にプロットする2点は、同じ発泡倍率のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子からなる型内発泡成形体サンプルから測定してもよいし、異なる発泡倍率のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子からなる型内発泡成形体サンプルを使用して測定してもよい。(3)において近似線が引きやすいという観点からは、発泡倍率の互いに異なるポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子からなる型内発泡成形体サンプルを2種類以上用意し、型内発泡成形体密度および圧縮強度を測定することが好ましい。
【0085】
なお、型内発泡成形体密度の測定方法は、上述した通りである。圧縮強度としては、例えば50%圧縮応力を指標とすることができるが、公知の指標であるならば限定されない。
【0086】
(3)(2)においてプロットされた点に基づき、前記座標平面の原点を通る一次近似線を引く(図3の破線)。一次近似線は、公知の回帰直線の導出方法(最小二乗法など)によって、決定することができる。次に、前記一次近似線よりも圧縮強度が3.0%低い直線を、合否判定線とする(図3の実線)。すなわち、前記一次近似線がy=axで表される場合、合否判定線はy=0.97axで表される。
【0087】
本発明の一実施形態に係る型内発泡成形体の型内発泡成形体密度および圧縮強度を測定し、前記座標平面上にプロットした点が、以上の手順により決定された合否判定線以上にある場合、発泡倍率を高くすることによる圧縮強度の過度の低下が発生していないことになるため、好ましい。なお、「合否判定線以上にある」とは、前記プロットした点が合否判定線上にある場合、および合否判定線よりも上側にある場合(図3の○の領域)を意味する。
【0088】
なお、本発明は以下の構成であってもよい。
【0089】
〔1〕ポリプロピレン系樹脂(X)100重量部に対し、密度0.945g/cm以上0.980g/cm未満のポリエチレン系樹脂(Y)を1重量部以上10重量部以下混合して得られる、146℃以上160℃以下の高温側結晶融解ピーク温度を有するポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を、耐圧容器内で水系分散媒に分散させ、該耐圧容器内に発泡剤を導入し、加熱、加圧条件下でポリプロピレン系樹脂(Z)粒子に発泡剤を含浸させる工程と、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を前記耐圧容器の内圧よりも低い圧力領域へ放出することにより、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を発泡させてポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を得る工程と、を含み、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子は、発泡倍率が20倍以上40倍以下、独立気泡率が90%以上、且つ皺収縮率が5%以下であり、前記ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を、1回の発泡工程で製造することを特徴とする、ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【0090】
〔2〕炭酸ガスを含む発泡剤を用いることを特徴とする前記〔1〕記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【0091】
〔3〕前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子を、90℃以上、105℃以下の発泡雰囲気温度とした発泡雰囲気へ放出することにより発泡させることを特徴とする、前記〔1〕または〔2〕に記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【0092】
〔4〕前記ポリプロピレン系樹脂(Z)がポリプロピレン系樹脂(X)よりも高い結晶化温度を有する前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【0093】
〔5〕前記ポリプロピレン系樹脂(Z)粒子が、吸水剤を含有することを特徴とする、前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【0094】
〔6〕前記吸水剤がポリエチレングリコールおよび/またはグリセリンである、前記〔5〕に記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【0095】
〔7〕前記吸水剤の含有量が、ポリプロピレン系樹脂(X)100重量部に対して0.01重量部以上10重量部以下である、前記〔5〕または〔6〕に記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の製造方法。
【0096】
〔8〕前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法により製造されるポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子。
【0097】
〔9〕前記〔8〕に記載のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を用いた型内発泡成形体。
【0098】
〔10〕前記〔9〕に記載の型内発泡成形体であって、型内発泡成形体密度が15g/L以上30g/L以下であることを特徴とする型内発泡成形体。
【0099】
〔11〕型内発泡成形体密度および圧縮強度を測定し、前記型内発泡成形体密度を横軸、前記圧縮強度を縦軸とする座標平面上にプロットしたとき、下記(1)〜(3)の手順によって決定される合否判定線以上にプロットされる、型内発泡成形体。(1)ポリプロピレン系樹脂(X)100重量部に対し、密度0.945g/cm以上0.980g/cm未満のポリエチレン系樹脂(Y)を1重量部以上10重量部以下混合して得られる、146℃以上160℃以下の高温側結晶融解ピーク温度を有するポリプロピレン系樹脂(Z)を基材樹脂とし、発泡倍率が10倍以上20倍未満であるポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子からなる型内発泡成形体のサンプルを用意する。(2)該サンプルの型内発泡成形体密度および圧縮強度を計測した値を、前記座標平面上に2点以上プロットする。(3)(2)においてプロットされた点に基づき、前記座標平面の原点を通る一次近似線を基準線とし、該基準線に対して圧縮強度が3.0%低い線を合否判定線とする。
【0100】
〔12〕前記〔11〕に記載の型内発泡成形体であって、型内発泡成形体密度が15g/L以上30g/L以下である型内発泡成形体。
【実施例】
【0101】
次に本実験を実施例および比較例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0102】
また、実施例および比較例における評価は下記の方法で行った。
【0103】
(結晶化温度Tcと高温側結晶融解ピーク温度Tmh)
DSC6200型(セイコーインスツルメンツ(株)製)を用いた分析法により、樹脂4mg以上6mg以下を10℃/minの昇温速度で40℃から220℃まで昇温して融解させた後、以下の工程で測定を実施した。
【0104】
(i)まず、10℃/minの降温速度で220℃から40℃まで降温して結晶化させた。このとき得られる結晶化ピーク温度をTcとした。
【0105】
(ii)次いで、再度10℃/minの昇温速度で40℃から220℃まで昇温した際に得られるDSC曲線の最も高温側に現れるピークを、高温側結晶融解ピーク温度Tmhとした。
【0106】
なお、実施例1に係るポリプロピレン系樹脂(Z)のDSC曲線から決定される、Tmhを図1に、Tcを図2に示した。
【0107】
図1に示されているように、上記(ii)の工程で得られたDSC曲線では、主にポリエチレン系樹脂(Y)由来と推測される低温側結晶融解ピーク温度と、主にポリプロピレン系樹脂(X)由来と推測される高温側結晶融解ピーク温度Tmhとの2つの結晶融解ピーク温度が得られた。
【0108】
また、図2に示されているように、上記(i)の工程で得られたDSC曲線は、ポリプロピレン系樹脂(X)にポリエチレン系樹脂(Y)を添加しているものの、結晶化ピーク温度Tcは、単一のピークのみを有した。
【0109】
(発泡粒子の発泡倍率)
嵩体積約50cmの発泡粒子の重量w(g)およびエタノール水没体積v(cm)を求め、発泡前の樹脂粒子の密度d=0.9(g/cm)から次式により発泡粒子の発泡倍率を求めた。
【0110】
発泡粒子の発泡倍率(倍)=d×v/w。
【0111】
(発泡粒子の独立気泡率)
ASTM D2856−87の手順C(PROSEDURE C)に記載の方法に従って得られる発泡粒子の体積をVc(cm)とし、下記式に従って独立気泡率(%)を求めた。
【0112】
発泡粒子の独立気泡率(%)=(1−(Va−Vc)/Va)×100
なお、Vcは、東京サイエンス株式会社製空気比較式比重計モデル1000を用いて測定した。また、体積Va(cm)は、前記空気比較式比重計にてVcを測定した後の発泡粒子の全量をエタノールの入ったメスシリンダー内に沈め、メスシリンダーの液面上昇分(水没法)から求めた、発泡粒子の見かけ上の体積である。
【0113】
(発泡粒子の皺収縮率)
嵩体積約100cmの発泡粒子のエタノール水没体積v(cm)を求めた。次に、該発泡粒子をすべて回収して常温で乾燥し、完全にエタノールを揮発させた。その後、密閉式の耐圧容器内に入れ、0.1MPa/60min以下の速度で容器内圧力0.30MPa(ゲージ圧)まで加圧して0.20MPa(絶対圧)の内圧を付与した該発泡粒子を耐圧容器から取り出し、エタノール水没体積v´を同様に測定し、次式により皺収縮率を算出した。
【0114】
発泡粒子の皺収縮率(%)=100×(1−v/v´)。
【0115】
(型内発泡成形体密度)
得られた型内発泡成形体(直方体形状)の長軸、短軸、厚みの3辺の寸法をノギスで測定し、これを乗じて寸法体積を計算した。前記寸法体積および別途測定した重量により、以下の式を用いて、型内発泡成形体密度を算出した。
【0116】
型内発泡成形体密度=(重量)/(長軸寸法×短軸寸法×厚み寸法)。
【0117】
(型内発泡成形体の圧縮強度)
得られた型内発泡成形体から、縦50mm×横50mm×厚み25mmの各4つのテストピースを切り出し、NDS−Z0504に準拠し、それぞれ10mm/分の速度で圧縮した際の50%圧縮時の圧縮応力(MPa)(以下、「圧縮強度」と称す。)を測定した。型内発泡成形体の圧縮強度については以下の基準により評価した。
○:すべてのテストピースの圧縮強度が合否判定線以上である。
×:圧縮強度が合否判定線未満のテストピースが存在する。
【0118】
図3に型内発泡成形体の密度と圧縮強度との関係を示した。基準線および合否判定線は、発泡倍率20倍未満の発泡粒子からなる型内発泡成形体について、型内発泡成形体密度に対する圧縮強度をプロットすることにより決定した。具体的には、表1および表2に記載のそれぞれのポリプロピレン系樹脂(Z)に対して、表に記載の発泡条件のうち発泡圧力のみを適宜調整し、発泡倍率が約12倍、約14倍および約16倍である、3種類のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子を作製した。次に、前記3種類のポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子から、型内発泡成形体密度がそれぞれ約45g/L、約40g/Lおよび約35g/Lである、3種類の型内発泡成形体を得た。前記3種類の型内発泡成形体について、図3のように型内発泡成形体密度に対する圧縮強度をそれぞれプロットし、原点(型内発泡成形体密度0g/L、圧縮強度0MPa)を通る一次近似線を引いて基準線とした。該基準線の傾きをaとした。さらに、該基準線に対して圧縮強度が3.0%分だけ低い線を引き、これを合否判定線とした。
【0119】
表1および表2において、圧縮強度が合否判定線以上にあるということは、ポリプロピレン系樹脂(Z)を高発泡倍率の型内発泡成形体に加工した場合でも、発泡倍率を高くしたことによる圧縮強度の過度の低下が見られない(低発泡倍率の型内発泡成形体と比較しても、型内泡成形体密度に対する圧縮強度の比が低下していない)ことを意味している。逆に、圧縮強度が合否判定線未満であるということは、ポリプロピレン系樹脂(Z)を高発泡倍率の型内発泡成形体に成形した場合に、発泡倍率を高くしたことに起因する過度の圧縮強度の低下が発生していることになる。
【0120】
(型内発泡成形体の融着性)
加熱圧0.32MPa(ゲージ圧)での型内発泡成形によって得られる縦400mm×横300mm×厚み50mmの型内発泡成形体の、1つの頂点から縦軸方向に100mmの点Aと、前記頂点から横軸方向に100mmの点Bとを結んだライン上に、アートナイフで深さ10mm程度の切り込みを入れて割り、その破断面の観察を行った。破断面の15mm×15mmの面積内に存在する発泡粒子のうち、全粒子数N(個)に占める粒子界面で割れた粒子の数Ns(個)を計数した。融着性は以下の基準により評価した。
【0121】
型内発泡成形体の融着率(%)=100×(1−Ns/N)
○:融着率が80%以上
△:融着率が60%以上、80%未満
×:融着率が60%未満。
【0122】
(型内発泡成形体の表面伸び)
加熱圧0.32MPa(ゲージ圧)での型内発泡成形により得られた型内発泡成形体において、該型内発泡成形体表面の50mm×50mmの面積内に含まれる粒間数を計数した。表面伸びは、以下の基準により評価した。
○:1mm以上の粒間数が5個未満
△:1mm以上の粒間数が5個以上、10個未満
×:1mm以上の粒間数が10個以上。
【0123】
(実施例で使用した樹脂および吸水剤)
(1)ポリプロピレン系樹脂(X)
・ポリプロピレン系樹脂A
R3410(LG)
融点148℃、曲げ弾性率 1498MPa、MI=7.1g/min
・ポリプロピレン系樹脂B
F227A(プライムポリマー)
融点143℃、曲げ弾性率 1250MPa、MI=6.2g/min
・ポリプロピレン系樹脂C
E228(プライムポリマー)
融点146℃、曲げ弾性率 1300MPa、MI=8.0g/min
・ポリプロピレン系樹脂D
J106G(プライムポリマー)
融点162℃、曲げ弾性率 1600MPa、MI=15.0g/min。
【0124】
(2)ポリエチレン系樹脂(Y)
・ポリエチレン系樹脂A
HI−ZEX 2200J(プライムポリマー)
密度0.964g/cm、融点135℃
・ポリエチレン系樹脂B
NEO−ZEX 2540R(プライムポリマー)
密度0.923g/cm、融点121℃。
【0125】
(3)吸水剤
・グリセリン(花王ケミカルズ):精製グリセリン
・ポリエチレングリコール(ライオン株式会社):PEG#300。
【0126】
(実施例1〜8)
[ポリプロピレン系樹脂粒子の作製]
ポリプロピレン系樹脂(X)、ポリエチレン系樹脂(Y)、吸水剤を表1に示す種類および量にて混合し、50mmφの押出機で混練(樹脂温度210℃)し、押出機先端からストランド状に押出した後、カッティングすることにより造粒し、ポリプロピレン系樹脂(Z)からなる樹脂粒子(1.2mg/粒)を製造した。
【0127】
[ポリプロピレン系樹脂一段発泡粒子の作製]
10L耐圧容器に、水300重量部、得られたポリプロピレン系樹脂(Z)粒子100重量部、分散剤として第三リン酸カルシウム1.0重量部、分散助剤としてノルマルパラフィンスルホン酸ソーダ0.5重量部、および発泡剤として炭酸ガスを6.0重量部仕込み、撹拌下、昇温し、表1に示す発泡温度(容器内温度)および発泡圧力(容器内圧力)で30分間保持した。その後、炭酸ガスで前記発泡圧力に保持しながら耐圧容器の下部に設けた3mmφオリフィスを通して分散液を、表1に示す状態に保持した発泡雰囲気下に放出し、一段発泡粒子を得た。
【0128】
[ポリプロピレン系樹脂一段発泡粒子からの型内発泡成形体の作製]
次に、得られた一段発泡粒子に0.2MPa(絶対圧)の内圧を付与し、長軸400mm×短軸300mm×厚み50mmの直方体状金型に充填し、水蒸気(0.32MPa(ゲージ圧))にて12秒加熱、融着させ、型内発泡成形体を得、金型から取り出した。金型から取り出した型内発泡成形体を75℃の乾燥器中で24時間乾燥、養生した後、型内発泡成形体の品質を確認した。結果を、表1に示す。
【0129】
(実施例9)
[ポリプロピレン系樹脂粒子の作製]
ポリプロピレン系樹脂(X)、ポリエチレン系樹脂(Y)を表1に示す種類および量にて混合し、50mmφの押出機で混練(樹脂温度210℃)し、押出機先端からストランド状に押出した後、カッティングすることにより造粒し、ポリプロピレン系樹脂(Z)からなる樹脂粒子(1.2mg/粒)を製造した。
【0130】
[ポリプロピレン系樹脂一段発泡粒子の作製]
10L耐圧容器に、水300重量部、得られたポリプロピレン系樹脂(Z)粒子100重量部、分散剤として第三リン酸カルシウム1.5重量部、分散助剤としてノルマルパラフィンスルホン酸ソーダ0.05重量部、および発泡剤としてイソブタンを10.0重量部仕込み、撹拌下、昇温し、表1に示す発泡温度(容器内温度)および発泡圧力(容器内圧力)で30分間保持した。その後、炭酸ガスで前記発泡圧力に保持しながら耐圧容器の下部に設けた3mmφオリフィスを通して分散液を、表1に示す状態に保持した発泡雰囲気下に放出し、一段発泡粒子を得た。
【0131】
[ポリプロピレン系樹脂一段発泡粒子からの型内発泡成形体の作製]
次に、得られた一段発泡粒子に0.2MPa(絶対圧)の内圧を付与し、長軸400mm×短軸300mm×厚み50mmの直方体状金型に充填し、水蒸気(0.32MPa(ゲージ圧))にて12秒加熱、融着させ、型内発泡成形体を得、金型から取り出した。金型から取り出した型内発泡成形体を75℃の乾燥器中で24時間乾燥、養生した後、型内発泡成形体の品質を確認した。結果を、表1に示す。
【0132】
なお、表中「PE」はポリエチレン、「CO」は炭酸ガス、「Bu」はイソブタンを表す。
【0133】
【表1】
【0134】
(比較例1〜7)
[ポリプロピレン系樹脂粒子の作製]
ポリプロピレン系樹脂(X)、ポリエチレン系樹脂(Y)、吸水剤を表2に示す種類および量にて混合し、50mmφの押出機で混練(樹脂温度210℃)し、押出機先端からストランド状に押出した後、カッティングすることにより造粒し、ポリプロピレン系樹脂(Z)からなる樹脂粒子(1.2mg/粒)を製造した。
【0135】
[ポリプロピレン系樹脂一段発泡粒子の作製]
10L耐圧容器に、水300重量部、得られたポリプロピレン系樹脂(Z)粒子100重量部、分散剤として第三リン酸カルシウム1.0重量部、分散助剤としてノルマルパラフィンスルホン酸ソーダ0.5重量部、および発泡剤として炭酸ガスを6.0重量部仕込み、撹拌下、昇温し、表2に示す発泡温度(容器内温度)および発泡圧力(容器内圧力)で30分間保持した。その後、炭酸ガスで前記発泡圧力に保持しながら耐圧容器の下部に設けた3mmφオリフィスを通して分散液を、表2に示す状態に保持した発泡雰囲気下に放出し、一段発泡粒子を得た。
【0136】
[ポリプロピレン系樹脂一段発泡粒子からの型内発泡成形体の作製]
次に、得られた一段発泡粒子に0.2MPa(絶対圧)の内圧を付与し、長軸400mm×短軸300mm×厚み50mmの直方体状金型に充填し、水蒸気(0.32MPa(ゲージ圧))にて12秒加熱、融着させ、型内発泡成形体を得、金型から取り出した。
金型から取り出した型内発泡成形体を75℃の乾燥器中で24時間乾燥、養生した後、型内発泡成形体の品質を確認した。結果を、表2に示す。なお、表中「PE」はポリエチレン、「CO」は炭酸ガスを表す。
【0137】
【表2】
【0138】
表1には、実施例1〜について、得られた型内発泡成形体の圧縮強度、融着性および表面伸びを評価した結果が示されている。
【0139】
実施例1〜の結果より、本発明の要件を満たす製法で得られたポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子が、圧縮強度、融着性および表面伸びの品質が良好な型内発泡成形体を提供できることを示している。
【0140】
一方、表2には、比較例1〜7について、得られた型内発泡成形体の圧縮強度、融着性および表面伸びを評価した結果が示されている。
【0141】
比較例1はポリエチレン系樹脂を添加しなかったために、皺収縮が発生し、圧縮強度を満足する型内発泡成形体が得られなかった。
【0142】
比較例2は、ポリエチレン系樹脂Aの添加量が多いために、融着性および表面伸びが悪化し、良好な型内発泡成形体が得られなかった。
【0143】
比較例3は、ポリプロピレン系樹脂Bの融点が低いために、一段発泡粒子の皺収縮が発生し、圧縮強度を満足する型内発泡成形体が得られなかった。
【0144】
比較例4は、添加したポリエチレン系樹脂Bの密度が低いために、Tcが高温にならず、皺収縮が発生し、圧縮強度を満足する型内発泡成形体が得られず、さらに、成形時の融着性にも悪影響を与えた。
【0145】
比較例5は、二段発泡によって皺収縮のない高発泡倍率の二段発泡粒子を作製し、成形性良好な型内発泡成形体が得られたが、圧縮強度は低い結果であった。
【0146】
比較例6は、Tmhが160℃を越える樹脂を用いたために、型内発泡成形での成形性が悪化し、良好な型内発泡成形体を得ることが出来なかった。具体的には発泡粒子間の相互融着が起こらず、加熱後も形状を保持し得なかった。
【0147】
比較例7は、発泡倍率が40倍を超えているために、ポリプロピレン系樹脂(Z)発泡粒子の独立気泡率が低下し、さらに皺収縮も悪化した。その結果、圧縮強度を満足する型内発泡成形体が得られず、さらに型内発泡成形体の外観にも悪影響を与えた。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の一実施形態に係る方法により製造されるポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、軽量かつ高強度な型内発泡成形体の原料となる。該型内発泡成形体は、例えば、自動車産業などに応用され得る。
図1
図2
図3