特許第6670856号(P6670856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6670856燃料油を製造するための、水素化処理工程と、水素化分解工程と、沈殿工程と、沈殿物分離工程とを含む供給原料の転化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670856
(24)【登録日】2020年3月4日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】燃料油を製造するための、水素化処理工程と、水素化分解工程と、沈殿工程と、沈殿物分離工程とを含む供給原料の転化方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 67/02 20060101AFI20200316BHJP
   C10G 45/02 20060101ALI20200316BHJP
   C10G 47/30 20060101ALI20200316BHJP
   C10G 31/09 20060101ALI20200316BHJP
   C10G 31/10 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C10G67/02
   C10G45/02
   C10G47/30
   C10G31/09
   C10G31/10
【請求項の数】14
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-562076(P2017-562076)
(86)(22)【出願日】2016年4月20日
(65)【公表番号】特表2018-521162(P2018-521162A)
(43)【公表日】2018年8月2日
(86)【国際出願番号】EP2016058745
(87)【国際公開番号】WO2016192891
(87)【国際公開日】20161208
【審査請求日】2019年4月15日
(31)【優先権主張番号】1554964
(32)【優先日】2015年6月1日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】ヴェイス ウィルフリード
(72)【発明者】
【氏名】メルドゥリニヤック イザベル
(72)【発明者】
【氏名】バルビエ ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】クルッペ アン
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/096704(WO,A1)
【文献】 特表2014−524483(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/004126(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄含有率最低0.1重量%、初期沸点最低340℃、最終沸点最低440℃を有する少なくとも1種の炭化水素フラクションを含有する炭化水素供給原料の処理方法であって、以下の工程:
a) 固定床水素化処理工程;本工程において、炭化水素供給原料および水素を水素化処理触媒上で接触させる;
b) 水素化処理工程a)から得られた流出物を、燃料ベースを含有する少なくとも1つの軽質炭化水素フラクションと、最低350℃で沸騰する化合物を含有する重質フラクションとに分離する、任意の工程;
c) 工程a)から得られた流出物の少なくとも一部または工程b)から得られた重質フラクションの少なくとも一部を、担持型触媒を含有する少なくとも1基の沸騰床反応器において水素化分解する工程;
d) 工程c)から得られた流出物を分離して、少なくとも1つの気体フラクションと、少なくとも1つの重質液体フラクションとを得る工程;
e) 沈殿物を沈殿させる工程;本工程において、分離工程d)から得られた重質液体フラクションを、蒸留物留分であって、その最低20重量%が100℃以上の沸点を有する蒸留物留分と、500分以下の期間にわたって、25℃〜350℃の範囲内の温度、20MPa以下の圧力で接触させる;
f) 沈殿工程e)から得られた重質液体フラクションからの沈殿物を物理的に分離して、液体炭化水素フラクションを得る工程;
g) ISO 10307−2法により測定される沈殿物含有率:0.1重量%以下を有する液体炭化水素フラクションを回収する工程であって、工程f)から得られた液体炭化水素フラクションを、工程e)の間に導入された蒸留物留分から分離することからなる、工程
を含む、方法。
【請求項2】
蒸留物留分の最低25重量%は、100℃以上の沸点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蒸留物留分の最低5重量%は、最低252℃の沸点を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
蒸留物留分は、12個以上の炭素原子を含有する炭化水素を含む、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
蒸留物留分の一部または全部は、分離工程b)および/またはd)、または別の精製方法、または別の化学的方法を起源とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
工程g)において分離された蒸留物留分の一部は、沈殿工程e)に再循環させられる、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
水素化処理工程a)は、1つ以上の固定床水素化脱金属帯域において行われる水素化脱金属の第1の工程a1)と、その後の、1つ以上の固定床水素化脱硫帯域において行われる水素化脱硫の第2の工程a2)とを含む、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
水素化処理工程a)は、300℃〜500℃の範囲内の温度で、5MPa〜35MPaの範囲内の水素分圧下に行われ、炭化水素供給原料の毎時空間速度は、0.1h−1〜5h−1の範囲内であり、供給原料と混合される水素の量は、100Nm/m〜5000Nm/mの範囲内である、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
水素化分解工程c)は、2.5MPa〜35MPaの範囲内の絶対圧力下に、330℃〜550℃の範囲内の温度で行われ、毎時空間速度は、0.1h−1〜10h−1の範囲内であり、供給原料と混合される水素の量は、50Nm/m〜5000Nm/mである、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
沈殿工程は、不活性ガスおよび/または酸化ガスおよび/または液体酸化剤および/または水素の存在下に行われ、水素は、好ましくは、分離工程b)および/またはc)から得られたものである、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
分離工程f)は、フィルタ、分離膜、有機または無機のタイプのろ過固体の床、電気集塵、遠心分離システム、デカント処理、エンドレススクリュー抜き出しまたは物理的抽出から選択される分離手段を用いて行われる、請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
処理される供給原料は、常圧残渣、直留真空残渣、粗製油、抜頭粗製油、脱アスファルト油、脱アスファルト樹脂、アスファルトまたは脱アスファルトピッチ、転化方法から得られた残渣、潤滑ベースのための製造ラインから得られた芳香族抽出物、瀝青砂またはそれらの誘導体、および頁岩油またはそれらの誘導体から選択され、単独でまたは混合物として用いられる、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
供給原料は、最低1%のC7アスファルテンおよび最低5ppmの金属を含有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程f)または工程g)から得られた液体炭化水素フラクションは、接触分解からのライトサイクルオイル、接触分解からのヘビーサイクルオイル、接触分解残渣、ケロセン、ディーゼル、真空蒸留物および/またはデカンテッドオイルおよび請求項1〜4のいずれか1つによる蒸留物留分によって構成される群から選択される1種以上のフラクシングベースと混合されて、燃料油が得られる、請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重質炭化水素フラクション、とりわけ硫黄含有不純物を含有するものの精製および転化に関する。より特定的には、本発明は、低い沈殿物含有率を有する燃料油ベース、特に、バンカー燃料ベースとしての使用のための重質フラクションの製造のための常圧残渣および/または真空残渣タイプの重質油供給原料の転化方法に関する。本発明の方法は、常圧蒸留物(ナフサ、ケロセンおよびディーゼル)、真空蒸留物および軽質ガス(C1〜C4)を製造するためにも用いられ得る。
【背景技術】
【0002】
舟用燃料についての品質の要件は、ISO規格8217に記載されている。今後の硫黄に関する仕様は、SOxの放出に関連し(国際海事機関(International Maritime Organisation)からのMARPOL協定の添付書類VI)、2020−2025について排出規制海域(Emission Control Areas:ECA)外で0.5重量%以下、ECA内で0.1重量%以下の硫黄含有率の勧告として説明される。別の非常に制限的な勧告は、ISO 10307−2(IP390としても知られている)に従う経時変化後(after aging)の沈殿物含有率であり、0.1%以下でなければならない。経時変化後の沈殿物含有率は、ISO規格10307−2(IP390の名称によっても当業者に知られている)において記載される方法を用いて行われる測定である。それ故に、本明細書の以降において、用語「経時変化後の沈殿物含有率(sediment content after aging)」は、ISO 10307−2法を用いて測定される沈殿物含有率を意味するとして理解されるべきである。IP390への参照により、経時変化後の沈殿物含有率の測定は、ISO 10307−2法に従って行われることも指し示されることになる。
【0003】
ISO 10307−1(IP375としても知られている)に従う沈殿物含有率は、ISO 10307−2(IP390としても知られている)に従う経時変化後の沈殿物含有率とは異なっている。ISO 10307−2に従う経時変化後の沈殿物含有率は、はるかにより制限的な仕様であり、バンカー燃料に適用する仕様に対応する。
【0004】
MARPOL協定の添付書類VIによると、大型船は、それ故に、その大型船が硫黄の酸化物の放出を低減させることを可能にする煙霧を処理するためのシステムを備えている限り硫黄含有燃料油を用いることができるだろう。
【0005】
第1の固定床水素化処理工程と、次の、沸騰床水素化転化工程とを含む重質油供給原料の精製および転化の方法が、特許文献1および2において記載された。特許文献2には、重質油の水素化処理のための方法が記載され、反応器の耐用期間を延長することを目的とする。特許文献1に記載された方法には、低い硫黄含有率を特に有する燃料(ガソリンおよびディーゼル)を得るための方法が記載されている。この方法において処理される供給原料は、アスファルテンを含有しない。
【0006】
海上運送において用いられる燃料油は、一般的に、直留方法または精製方法、特に、水素化処理および転化の方法から得られる常圧蒸留物、真空蒸留物、常圧残渣および真空残渣を含み、これらの留分は、場合により、単独でまたは混合物で用いられる。それらは不純物を飽和した重質供給原料に適していることが知られている一方で、しかしながら、これらの方法は、製品品質、例えば、バンカー燃料のための製品品質を提供するために除去される必要がある触媒微細物および沈殿物を含む炭化水素フラクションを生じさせる。
【0007】
沈殿物は、沈殿させられたアスファルテンであってよい。最初に供給原料において、転化条件、特に、温度は、それらが反応(脱アルキル化、重縮合等)を経て、結果として、それらの沈殿に至るようにされる。方法からの出口における重質留分中に既に存在している沈殿物(IP375としても知られるISO 10307−1に従って測定される)に加えて、転化条件に応じて、物理的、化学的および/または加熱の処理の後にのみ現れる潜在的沈殿物とみなされる沈殿物も存在する。潜在的沈殿物を含む一式の沈殿物は、IP390としても知られているISO 10307−1に従って測定される。これらの現象は、一般的に、高いレベル、例えば、40%以上あるいは50%以上の転化を引き起こす過酷な条件が採用される時に、供給原料の性質に応じて起こる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2764300号明細書(特開平11−12578号公報)
【特許文献2】欧州特許出願公開第0665282号明細書(特開平7−53967号公報)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
その研究の過程の中で、出願人が発見したことは、固定床水素化処理工程および水素化分解工程の下流で沈殿工程と沈殿物を分離する工程とを統合する新しい方法である。驚くべきことに、このタイプの方法は、(ISO 10307−2法を用いて測定される)経時変化後の沈殿物含有率が低い液体炭化水素フラクションを得るために用いられ得ることが発見され、前記フラクションは、有利には、将来の仕様に適合する、すなわち、経時変化後の沈殿物含有率が0.1重量%以下である燃料油としてまたは燃料油ベースとして完全にまたは部分的に用いられる。
【0010】
より正確には、本発明は、最低0.1重量%の硫黄含有率、最低340℃の初期沸点、および最低440℃の最終沸点を有する、少なくとも1種の炭化水素フラクションを含有する炭化水素供給原料の処理のための方法であって、以下の工程:
a) 固定床水素化処理工程:本工程において、炭化水素供給原料および水素を、水素化処理触媒上で接触させる;
b) 水素化処理工程a)から得られた流出物を、燃料ベースを含有する少なくとも1つの軽質炭化水素フラクションと、最低350℃で沸騰する化合物を含有する重質フラクションとに分離する、任意の工程;
c) 工程a)から得られた流出物の少なくとも一部または工程b)から得られた重質フラクションの少なくとも一部を、担持型触媒を含有する少なくとも1基の沸騰床反応器において水素化分解する工程、
d) 工程c)から得られた流出物を分離して、少なくとも1つの気体フラクションと、少なくとも1つの重質液体フラクションとを得る工程、
e) 沈殿工程:本工程において、分離工程d)から得られた重質液体フラクションを、最低20重量%が100℃以上の沸点を有する蒸留物留分と、500分以下の期間にわたって、25℃〜350℃の範囲内の温度、20MPa以下の圧力で接触させる、
f) 沈殿工程e)から得られた重質液体フラクションから沈殿物を物理的に分離して、液体炭化水素フラクションを得る工程、
g) ISO 10307−2方法に従って測定される沈殿物含有率:0.1重量%以下を有する液体炭化水素フラクションを回収する工程であって、工程f)から得られた液体炭化水素フラクションを、工程e)の間に導入された蒸留物留分から分離することからなる、工程
を含む、方法に関する。
【0011】
本発明の目的の一つは、(ISO 10307−2法に従って測定される)経時変化後の低沈殿物含有率:0.1重量%以下を有する、燃料油および燃料油ベース、特に、バンカー燃料およびバンカー燃料ベースの製造のために重質油供給原料を転化する方法を提案することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、同一の方法により、常圧蒸留物(ナフサ、ケロセン、ディーゼル)、真空蒸留物および/または軽質ガス(C1〜C4)を一緒に生じさせることにある。ナフサおよびディーゼルタイプのベースは、自動車のためおよび航空のための燃料、例えば、アンチノック燃料、ジェット燃料およびディーゼルの製造のために精製所において品質向上させられてよい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1の簡単な説明)
図1は、本発明の方法の線図を説明し、本発明の方法は、水素化処理帯域、分離帯域、水素化分解帯域、別の分離帯域、沈殿帯域、沈殿物の物理的分離のための帯域および興味のフラクションを回収するための帯域を特徴とする。
【0014】
(詳細な説明)
(供給原料)
本発明の方法において処理される供給原料は、有利には、最低340℃の初期沸点および最低440℃の最終沸点を有する炭化水素供給原料である。好ましくは、その初期沸点は、最低350℃、好ましくは最低375℃であり、その最終沸点は、最低450℃、好ましくは最低460℃、より好ましくは最低500℃、一層より好ましくは最低600℃である。
【0015】
本発明の炭化水素供給原料は、常圧残渣、直留真空残渣、粗製油(crude oils)、抜頭粗製油、脱アスファルト樹脂、アスファルトまたは脱アスファルトピッチ、転化方法から得られた残渣、潤滑ベースのための製造ラインから得られた常圧抽出物、瀝青砂またはそれらの誘導体、油貢岩またはそれらの誘導体、ソースロックオイルまたはそれらの誘導体から選択されてよく、それらは単独でまたは混合物として用いられる。本発明において、処理される供給原料は、好ましくは、常圧残渣または真空残渣、またはこれらの残渣の混合物である。
【0016】
有利には、供給原料は、最低1%のC7アスファルテンおよび最低5ppmの金属、好ましくは、最低2%のC7アスファルテンおよび最低25ppmの金属を含有し得る。
【0017】
本方法において処理される炭化水素供給原料は、とりわけ硫黄含有不純物を含有してよい。硫黄含有率は、最低0.1重量%、最低0.5重量%、好ましくは最低1重量%、より好ましくは最低4重量%、一層より好ましくは最低5重量%であってよい。
【0018】
これらの供給原料は、有利には、それらそのままで用いられてよい。あるいは、それらは、共供給原料により希釈されてよい。この共供給原料は、炭化水素フラクションまたはより軽質な炭化水素フラクションの混合物であってよく、このより軽質な炭化水素フラクションは、好ましくは、流動床接触分解方法(FCC(Fluid Catalytic Cracking:流動接触分解)から得られた生成物、軽質油留分(LCO(Light Cycle Oil))、重質油留分(HCO(Heavy Cycle Oil)、デカンテッドオイル、FCC残渣、ディーゼルフラクション、特に、常圧蒸留または真空蒸留によって得られたフラクション、例えば、真空ディーゼルから選択されてよく、または実際に、それは、別の精製方法に由来してよい。共供給原料は、有利には、石炭液化方法またはバイオマス、芳香族抽出、または任意の他の炭化水素留分、あるいは非オイル供給原料、例えば、熱分解油から得られる1種以上の留分であってもよい。本発明の重質炭化水素供給原料は、本発明の方法において処理される全炭化水素供給原料の重量で最低50%、好ましくは最低70重量%、より好ましくは最低80重量%、一層より好ましくは最低90重量%を示してよい。
【0019】
本発明の方法の目的は、経時変化後の沈殿物含有率:0.1重量%以下を有する液体炭化水素フラクションの製造にある。
【0020】
本発明の方法は、固定床水素化処理のための第1の工程a)と、水素化処理工程a)から得られた流出物を、軽質フラクションと重質フラクションとに分離するための任意の工程b)と、これに続く、工程a)から得られた流出物の少なくとも一部または工程b)から得られた重質フラクションの少なくとも一部を水素化分解するための沸騰床工程c)と、工程c)から得られた流出物を分離して少なくとも1つの気体フラクションと、少なくとも1つの重質液体フラクションとを得るための工程d)と、工程d)から得られた重質液体フラクションから沈殿物を沈殿させるための工程e)と、工程e)において得られた重質液体フラクションから沈殿物を物理的に分離する工程f)と、最後に、経時変化後の沈殿物含有率:0.1重量%以下を有する液体炭化水素フラクションを回収するための工程g)とを含む。
【0021】
水素化処理の目的は、精製すること、すなわち、金属、硫黄および他の不純物の含有率を実質的に低減させることの一方で、水素対炭素の比(H/C)を改善し、同時に、特に、炭化水素供給原料を多かれ少なかれより軽質の留分に部分的に変換することの両方にある。固定床水素化処理工程a)において得られた流出物は、次いで、沸騰床水素化分解工程c)に、直接的に、または軽質フラクションを分離する工程を経た後のいずれかに送られてよい。工程c)は、供給原料の部分転化を行って、製品品質、例えばバンカー燃料の品質に適合するように除去される必要がある触媒微細物および沈殿物を主として含む流出物を生じさせるために用いられ得る。本発明の方法は、沈殿のための工程e)と、沈殿物の分離の効率を改善し、それ故に、経時変化後の沈殿物含有率:0.1重量%以下を有する燃料油または燃料油ベースを得るために用いられ得る条件下に行われる沈殿物の物理的分離のための工程f)とをそれが含む点で特徴付けられる。
【0022】
固定床水素化処理、次いで、沸騰床水素化分解処理の連結の利点の一つは、沸騰床水素化分解反応器のための供給原料は、すでに、少なくとも部分的に水素化処理されているという事実にある。この方法で、等価な転化で、より良好な品質の炭化水素流出物、特に、より低い硫黄含有率を有するものを得ることが可能である。さらに、沸騰床水素化分解反応器における触媒の消費は、先行する固定床水素化処理のない方法と比べて大きく低減させられる。
【0023】
(水素化処理工程a))
本発明の方法において、本発明のための供給原料は、固定床水素化処理のための工程a)を経る。この工程a)において、供給原料と水素は、水素化処理触媒と接触させられる。
【0024】
用語「水素化処理(hydrotreatment)」は、通常HDTとして知られており、これは、水素の添加により接触処理して炭化水素供給原料を精製することを意味し、すなわち、金属、硫黄および他の不純物の量が実質的に低減させられる一方で、供給原料の水素対炭素の比を改善し、供給原料を多かれ少なかれより軽質な留分に部分的に変換する。水素化処理は、特に、水素化脱硫反応(通常、HDSとして知られている)、水素化脱窒反応(通常HDNとして知られている)、および、水素化脱金属反応(通常HDMとして知られている)を含み、水素化、水素化脱酸素、水素化脱芳香族、水素化異性化、水素化脱アルキル、水素化分解、水素化脱アスファルテンおよびコンラドソン炭素低減反応(Conradson Carbon reduction reaction)を伴う。
【0025】
好ましいバリエーションにおいて、水素化処理工程a)は、1つ以上の固定床水素化脱金属帯域において行われる水素化脱金属(HDM)のための第1の工程a1)と、続く、1つ以上の固定床水素化脱硫帯域において行われる水素化脱硫(HDS)のための第2の工程a2)とを含む。前記第1の水素化脱金属工程a1)の間に、供給原料および水素は、水素化脱金属触媒上で、水素化脱金属条件下に接触させられ、次いで、水素化脱硫のための前記第2の工程a2)の間に、水素化脱金属ための第1の工程a1)からの流出物は、水素化脱硫触媒と、水素化脱硫条件下に接触させられる。この方法は、HYVAHL-F(登録商標)の名称によって知られており、これは、例えば、特許US 5 417 846に記載されている。
【0026】
本発明のバリエーションにおいて、供給原料が100ppm以上、さらには200ppm以上の金属を含有する場合および/または供給原料が不純物、例えば、鉄誘導体を含む場合、特許FR 2 681 871において記載されるような配列を変えることができる反応器(「PRS」技術、すなわち、「Permutable Reactor System」技術)を用いることが有利であってよい。これらの配列を変えることができる反応器は、一般的に、固定床水素化脱金属セクションの上流に位置する固定床反応器である。
【0027】
当業者は、水素化脱金属反応は、水素化脱金属工程において行われるが、同時に、いくつかの他の水素化処理反応、特に、水素化脱硫反応が起こることを容易に認識するだろう。同様に、水素化脱硫反応は水素化脱硫工程において起こるが、同時に、いくつかの他の水素化処理反応、特に、水素化脱金属が起こる。当業者は、水素化脱金属工程が始まるのは、水素化処理工程が始まる場合、すなわち、金属の濃度が最大である場合であることを認識するだろう。当業者は、水素化脱硫工程が終わるのは、水素化処理工程が終わる時、すなわち、硫黄の除去が最も困難である場合であることを認識するだろう。水素化金属工程と、水素化脱硫工程との間に、当業者は、しばしば、水素化処理反応のタイプの全てが起こる過渡的な帯域を画定するだろう。
【0028】
本発明の水素化処理工程a)は、水素化処理条件下に行われる。それは、有利には、300℃〜500℃の範囲内、好ましくは350℃〜420℃の範囲内の温度で、5MPa〜35MPaの範囲内、好ましくは11MPa〜20MPaの範囲内の絶対圧力下に行われてよい。温度は、通常、水素化処理の所望のレベルおよび想定される処理継続期間に応じて調節される。通常、炭化水素供給原料の毎時空間速度は、通常にはHSVとして知られ、供給原料の容積流量を触媒の全容積で除算したものとして定義されるものであり、このものは、0.1h−1〜5h−1の範囲内、好ましくは0.1h−1〜2h−1の範囲内、より好ましくは0.1h−1〜0.45h−1の範囲内であってよい。供給原料と混合される水素の量は、液体供給原料の容積(キュービックメートル(m))当たり100〜5000ノーマルキュービックメートル(Nm)の範囲内、好ましくは200Nm/m〜2000Nm/mの範囲内、より好ましくは300Nm/m〜1500Nm/mの範囲内であってよい。水素化処理工程a)は、1基以上の液体下降流反応器において工業的スケールで行われてよい。
【0029】
用いられる水素化処理触媒は、好適に知られている触媒である。それらは、担体上に、水素化脱水素機能を有する少なくとも1種の金属または金属化合物を含む粒状触媒であってよい。これらの触媒は、有利には、第VIII族からの、一般的にはニッケルおよびコバルトによって構成される群から選択される少なくとも1種の金属および/または第VIB族からの、好ましくはモリブデンおよび/またはタングステンである少なくとも1種の金属を含む触媒であってよい。例として、0.5重量%〜10重量%のニッケル、好ましくは1重量%〜5重量%のニッケル(酸化ニッケル(NiO)として表される)と、1重量%〜30重量%のモリブデン、好ましくは5重量%〜20重量%のモリブデン(酸化モリブデン(MoO)として表される)とを鉱物担体上に含む触媒が用いられてよい。この担体は、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、マグネシア、粘土およびこれらの鉱物の少なくとも2種の混合物によって構成される群から選択されてよい。有利には、この担体は、他のドーピング化合物、特に、酸化ホウ素、ジルコニア、褐簾石、酸化チタン、無水リン酸およびこれらの酸化物の混合物によって構成される群から選択される酸化物を含んでよい。通常には、アルミナ担体が用いられ、より通常には、リンをドープされかつ任意にホウ素をドープされたアルミナ担体である。無水リン酸Pが存在する場合、その濃度は、10重量%以下である。三酸化ホウ素Bが存在する場合、その濃度は、10重量%以下である。用いられるアルミナは、γ(ガンマ)アルミナまたはエータ(η)アルミナであってよい。この触媒は、通常、押出物状の形態にある。第VIB族および第VIII族からの金属の酸化物の全量は、5重量%〜40重量%、一般的には7重量%〜30重量%であってよく、第VIB族からの金属(1種または複数種)と第VIII族からの金属(1種または複数種)との間の金属酸化物として表される重量比は、一般的に20〜1の範囲内、通常には10〜2の範囲内である。
【0030】
水素化脱金属工程(HDM)と、次の水素化脱硫(HDS)工程とを含む水素化処理工程の場合、各工程に適した特定の触媒が好ましくは用いられる。
【0031】
水素化脱金属工程において用いられてよい触媒の例は、特許文献EP 0 113 297、EP 0 113 284、US 5 221 656、US 5 827 421、US 7 119 045、US 5 622 616およびUS 5 089 463において指し示される。好ましくは、HDM触媒は、配列を変えることができる反応器において用いられる。
【0032】
水素化脱硫工程において用いられてよい触媒の例は、特許文献EP 0 113 297、EP 0 113 284、US 6 589 908、US 4 818 743またはUS 6 332 976において指し示されているものである。
【0033】
混合型触媒を用いることも可能であり、この混合型触媒は、特許文献FR 2 940 143において記載されるように水素化脱金属セクションおよび水素化脱硫セクションの両方において水素化脱金属および水素化脱硫に活性である。
【0034】
供給原料の注入に先行して、本発明の方法において用いられる触媒は、好ましくは、現場内(in situ)または現場外(ex situ)の硫化処理を経る。
【0035】
(任意の分離工程b))
水素化処理工程a)から得られた流出物を分離する工程は任意である。
【0036】
水素化処理工程a)から得られた流出物を分離する工程が行われない場合、水素化処理工程a)から得られた流出物の少なくとも一部は、化学組成を変えることなくかつあらゆる有意な圧力の損失なく沸騰床水素化分解工程c)を行うためのセクションに導入される。用語「有意な圧力の損失(significant loss of pressure)」は、バルブまたは減圧タービンによって引き起こされる圧力の損失を意味し、全圧力の10%以上の圧力降下であると推定され得る。当業者は、一般的に、分離工程の間にこれらの圧力降下または脱圧を用いるだろう。
【0037】
水素化処理工程a)から得られた流出物について分離工程が行われる場合、それは、他の補充分離工程によって任意に完了されて、少なくとも1つの軽質フラクションと、少なくとも1つの重質フラクションとが分離される。
【0038】
用語「軽質フラクション(light fraction)」は、化合物の最低90%が350℃以下の沸点を有するフラクションを意味する。
【0039】
用語「重質フラクション(heavy fraction)」は、化合物の最低90%が350℃以上の沸点を有するフラクションを意味する。好ましくは、分離工程b)の間に得られた軽質フラクションは、気相と、少なくとも1つの軽質ナフサ、ケロセンおよび/またはディーゼルタイプの炭化水素フラクションとを含む。重質フラクションは、好ましくは、真空蒸留物フラクションと、真空残渣フラクションおよび/または常圧残渣フラクションとを含む。
【0040】
分離工程b)は、当業者に知られているあらゆる方法を用いて行われてよい。この方法は、高圧または低圧の分離、高圧または低圧の蒸留、高圧または低圧の圧力ストリッピング、および異なる圧力および温度で操作されてよいこれらの種々の方法の組合せから選択されてよい。
【0041】
本発明の第1の実施形態によると、水素化処理工程a)から得られた流出物は、脱圧を伴う分離工程b)を経る。この実施形態において、分離は、好ましくは、分画セクションにおいて行われる。この分画セクションは、最初に高圧高温(high pressure high temperature:HPHT)分離器を含み、高圧低温(high pressure low temperature:HPLT)分離器を任意に含んでよく、常圧蒸留セクションおよび/または真空蒸留セクションが任意にこれに続けられる。工程a)からの流出物は、分画セクションに、一般的には、HPHT分離器に送られてよく、軽質フラクションと、最低350℃で沸騰する化合物を主として含有する重質フラクションとが得られる。一般に、分離は、好ましくは、正確なカットポイントでは行われず、むしろ、それは、瞬間的なフラッシュの分離に似ている。分離のためのカットポイントは、有利には、200℃〜400℃の範囲内である。
【0042】
好ましくは、前記重質フラクションは、次いで、常圧蒸留によって、少なくとも1つの常圧蒸留物フラクションと、常圧残渣フラクションとに分画されてよく、常圧蒸留物フラクションは、好ましくは、少なくとも1つの軽質ナフサ、ケロセンおよび/またはディーゼルタイプの炭化水素フラクションを含有する。常圧残渣フラクションの少なくとも一部は、真空蒸留によって、真空蒸留物フラクションと、真空残渣フラクションとに分画されてもよく、真空蒸留物フラクションは、好ましくは、真空ディーゼルを含有する。真空残渣フラクションおよび/または常圧残渣フラクションの少なくとも一部は、有利には、水素化分解工程c)に送られる。真空残渣フラクションおよび/または常圧残渣フラクションの一部は、直接的に燃料油ベースとして、特に、低い硫黄含有率を有する燃料油ベースとして用いられてもよい。真空残渣フラクションおよび/または常圧残渣フラクションの一部は、別の転化方法、特に、流動床接触分解方法に送られてもよい。
【0043】
第2の実施形態によると、水素化処理工程a)から得られた流出物は、脱圧を伴わない分離工程b)を経る。この実施形態において、水素化処理工程a)からの流出物は、200℃〜450℃の範囲内のカットポイントを有する分画セクション、一般的には、HPHTセクションに送られ、少なくとも1つの軽質フラクションと、少なくとも1つの重質フラクションとが得られる。一般に、分離は、好ましくは、正確なカットポイントを用いて行われず、むしろ、それは、瞬間のフラシュのタイプの分離に似ている。重質フラクションは、次いで、直接的に水素化分解工程c)に送られてよい。
【0044】
軽質フラクションは、次いで、他の分離工程を経る。有利には、それは、常圧蒸留を経てよく、気体フラクションと、ナフサ、ケロセンおよび/またはディーゼルタイプの少なくとも1つの軽質液体炭化水素フラクションと、真空蒸留物フラクションとが得られ、真空蒸留物フラクションは、場合により、少なくとも一部、水素化分解工程c)に送られる。真空蒸留物の別の部分は、燃料油の溶剤(flux)として用いられてよい。真空蒸留物の別の部分は、流動床水素化分解および/または接触分解の工程を経ることによって品質向上させられてよい。
【0045】
減圧を伴わない分離は、熱集中形がより良好であり、エネルギーおよび設備における節約がもたらされることを意味する。さらに、この実施形態は、分離の後のその後の水素化分解工程の前に流れの圧力を高めることが必要ではないことを前提として、技術的経済的な利点を有する。減圧を伴わない中間分画は、減圧を伴う分画より簡単であり、したがって、投資コストも有利には低減させられる。
【0046】
分離工程から得られた気体フラクションは、好ましくは、精製処理を経て、水素が回収され、それは、水素化処理および/または水素化分解の反応器、あるいは、沈殿工程に再循環させられる。水素化処理工程a)と水素化分解工程c)との間の分離工程の存在は、有利には、一方は水素化処理工程に、他方は水素化分解工程に接続される2つの独立した水素回路が利用可能であることを意味し、これらは、要求に応じて、一方または他方に接続されてよい。水素は、水素化処理セクションまたは水素化分解セクションにまたはその両方に加えられてよい。再循環させられた水素は、水素化処理セクションまたは水素化分解セクションに、またはその両方に供給してよい。一つの圧縮機が2つの水素回路に共通であってもよい。2つの水素回路を接続することができるという事実は、水素管理が最適にされ得ることおよび圧縮機および/または気体流出物精製装置に関する設備が制限され得ることを意味する。本発明において用いられてよい水素管理のための種々の実施が特許出願FR 2 957 607において記載されている。
【0047】
分離工程b)の終わりに得られた、ナフサ、ケロセンおよび/またはディーゼルタイプの炭化水素その他、特に、LPGおよび真空ディーゼルを含む軽質フラクションは、当業者に周知である方法を用いて品質向上させられてよい。得られた生成物は、燃料配合(燃料「プール」としても知られている)に統合されてよいか、または、補充精製工程を経てよい。ナフサ、ケロセン、ディーゼルおよび真空ディーゼルのフラクション(1種または複数種)は、1種以上の処理、例えば、水素化処理、水素化分解、アルキル化、異性化、接触改質、接触分解または熱分解を経てよく、それらは、別々にまたは混合物として、硫黄含有率、煙点、オクタン価、セタン価その他に関連してよい要求される仕様に向上させられる。
【0048】
工程b)の終わりに得られた軽質フラクションは、少なくとも一部において、沈殿物の沈殿のための工程e)において用いられる本発明の蒸留物留分を形成するように、または、本発明の前記蒸留物留分と混合するために用いられてよい。
【0049】
分離工程b)から得られた重質フラクションの一部は、沈殿物沈殿工程e)において用いられる本発明の蒸留物留分を形成するように用いられてよい。
【0050】
(沸騰床水素化分解工程c))
本発明の方法によると、水素化処理工程a)から得られた流出物の少なくとも一部または工程b)から得られた重質フラクションの少なくとも一部は、水素化分解工程c)に送られ、この水素化分解工程c)は、少なくとも1種の担持型沸騰床触媒を含有する少なくとも1基の反応器、有利には2基の反応器において行われる。前記反応器は、上昇流の液体および気体の様式で機能してよい。水素化分解処理の主要な目的は、部分的に改質を行いながら重質炭化水素供給原料をより軽質な留分に転化することにある。
【0051】
本発明の一つの実施形態によると、初期の炭化水素供給原料の一部が直接的に沸騰床水素化分解工程c)への入口に、固定床水素化処理工程a)からの流出物または工程b)から得られた重質フラクションとの混合物として注入されてよく、この炭化水素供給原料の一部は、固定床水素化処理セクションにおいて処理されていない。この実施形態は、固定床水素化処理セクションa)の部分的短回路に属してよい。
【0052】
バリエーションによると、共供給原料が、固定床水素化処理セクションa)からの流出物または工程b)から得られた重質フラクションと共に沸騰床水素化分解工程c)への入口に導入されてよい。この共供給原料は、常圧残渣、直留真空残渣、脱アスファルト油、潤滑ベースの製造ラインから得られた芳香族抽出物、流動床接触分解方法から得られた生成物、特に、ライトサイクルオイル(LCO)、ヘビーサイクルオイル(HCO)、デカンテッドオイル、蒸留からの生成物、ガスオイルフラクションからの生成物、特に、常圧蒸留または真空蒸留によって得られたもの、例えば、真空ディーゼルから選択されてよい炭化水素フラクションまたは炭化水素フラクションの混合物から選択されてよい。別のバリエーションによると、水素化分解セクションが複数の沸騰床反応器を有する場合、この共供給原料の一部または全部は、第1の反応器の下流の反応器の一つに注入されてよい。
【0053】
水素化分解反応に必要な水素は、沸騰床水素化分解セクションc)への入口に注入される水素化処理工程a)から得られた流出物中に十分な量で既に存在していてよい。しかしながら、水素の補給添加を水素化分解セクションc)の入口に提供することが好ましい。水素化分解セクションが複数の沸騰床反応器を有する場合、水素は、各反応器への入口に注入されてよい。注入される水素は、補給流れおよび/または再循環流れであってよい。
【0054】
沸騰床技術は、当業者に周知である。主要な操作条件のみがここに記載されることになる。沸騰床技術は、従来通り、一般的には、1ミリメートル以下程度の径を有する押出物状の形態にある担持型触媒を用いる。触媒は、反応器の内側に残留し、触媒活性を維持するために必要な触媒の補給および抜き出しの段階の間を除き生成物と共に排出されない。採用される触媒の量を最小にしながら高い転化率を得るために温度レベルは高くあってよい。触媒活性は、インラインで触媒を置換することによって一定に維持されてよい。それ故に、使用済み触媒を替えるために装置を停止させることも、サイクルの進行に応じて、失活を補うために反応温度を高めることも必要ではない。さらに、一定の操作条件下に作動するという事実は、サイクルを通じて一定である生成物の収率および品質を得るという利点を有する。さらに、触媒が相当な液体再循環によって撹拌されて維持されるために、反応器にわたる圧力降下は、小さくかつ一定に保たれる。反応器中の触媒の摩耗のために、反応器を出る生成物は、触媒の微細粒子を含有するかもしれない。
【0055】
沸騰床水素化分解工程c)のための条件は、炭化水素供給原料の沸騰床水素化分解のための従来通りの条件であってよい。それは、2.5MPa〜35MPaの範囲内、好ましくは5MPa〜25MPaの範囲内、より好ましくは6MPa〜20MPaの範囲内、一層より好ましくは11MPa〜20MPaの範囲内の絶対圧力、330℃〜550℃の範囲内、好ましくは350℃〜500℃の範囲内の温度で操作されてよい。毎時空間速度(HSV)および水素の分圧は、処理されるべき生成物の特徴および望まれる転化率に応じて固定されるパラメータである。HSVは、供給原料の容積流量を反応器の全容積で除算したものとして定義され、このものは、一般的には0.1h−1〜10h−1の範囲内、好ましくは0.1h−1〜5h−1の範囲内、より好ましくは0.1h−1〜1h−1の範囲内である。供給原料と混合される水素の量は、通常には液体供給原料の容積(キュービックメートル(m))当たり50〜5000ノーマルキュービックメートル(Nm)、通常には100Nm/m〜1500Nm/m、好ましくは200Nm/m〜1200Nm/mである。
【0056】
水素化脱水素機能を有する少なくとも1種の金属または金属の化合物を無定形担体上に含む従来の粒状水素化分解触媒を用いることが可能である。この触媒は、第VIII族からの金属、例えばニッケルおよび/またはコバルトを、通常、第VIB族からの少なくとも1種の金属、例えば、モリブデンおよび/またはタングステンと共に含む触媒であってよい。例として、0.5重量%〜10重量%のニッケル、好ましくは1重量%〜5重量%のニッケル(酸化ニッケルNiOとして表される)と、1重量%〜30重量%のモリブデン、好ましくは5重量%〜20重量%のモリブデン(酸化モリブデンMoOとして表される)とを、無定形鉱物担体上に含む触媒を用いることが可能である。この担体は、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、マグネシア、粘土およびこれらの鉱物の少なくとも2種の混合物によって構成される群から選択されてよい。この担体は、他の化合物、例えば、酸化ホウ素、ジルコニア、酸化チタンおよび無水リン酸によって構成される群から選択される酸化物を含んでもよい。通常、アルミナ担体が用いられ、より通常には、リンをドープされかつ任意にホウ素をドープされたアルミナ担体である。無水リン酸Pが存在する場合、その濃度は、通常、20重量%以下、より通常には、10重量%以下である。三酸化ホウ素Bが存在する場合、その濃度は、通常、10重量%以下である。用いられるアルミナは、通常、γ(ガンマ)アルミナまたはη(エータ)アルミナである。この触媒は、押出物状の形態であってよい。第VI族および第VIII族からの金属の酸化物の全量は、5重量%〜40重量%の範囲内、好ましくは7重量%〜30重量%の範囲内であってよく、第VI族からの金属(1種または複数種)と第VIII族からの金属(1種または複数種)との間の金属酸化物として表される重量比は、20〜1の範囲内、好ましくは10〜2の範囲内である。
【0057】
使用済み触媒は、新鮮な触媒と部分的に置換されてよく、これは、一般的には、反応器の底部から抜き出し、規則的な間隔で、すなわち、例えば、一気に、または連続的にまたは準連続的に新鮮なまたは新しい触媒を反応器の頂部に導入することによって行われる。反応器の底部を介して触媒を導入し、頂部を介してそれを抜き出すことも可能である。例として、新鮮な触媒を毎日導入することが可能である。使用済み触媒の新鮮な触媒との置換の割合は、例えば、供給原料の容積(立方メートル)当たり約0.05キログラム〜約10キログラムであってよい。この抜き出しおよび置換は、この水素化分解工程の連続的な操作を可能にするデバイスを活用して行われる。水素化分解反応器は、通常、反応器の頭部から抜き出された液体の少なくとも一部を連続的に再循環させそれを反応器の底部に再注入することによって沸騰床として触媒を維持するための流通ポンプを含む。反応器からの使用済み触媒を再生帯域に送ることも可能であり、この再生帯域において、それが含有する炭素および硫黄は、それを水素化分解工程c)に再注入する前に除去される。
【0058】
本発明の方法の水素化分解工程c)は、H-OIL(登録商標)方法の条件下に行われてよい。この方法は、例えば、特許US 6 270 654に記載されている。
【0059】
沸騰床水素化分解は、単一の反応器または直列に配置された複数の、好ましくは2基の反応器において行われてよい。直列の少なくとも2基の沸騰床反応器を用いるという事実は、より良好な品質の生成物がより良好な収率で得られ得ることを意味する。さらに、2基の反応器における水素化分解は、操作条件および触媒系の柔軟性に関する操作性が改善され得ることを意味する。好ましくは、第2の沸騰床反応器の温度は、第1の沸騰床反応器の温度より最低5℃高い。第2の反応器の圧力は第1の反応器の圧力より0.1MPa〜1MPa低くてよく、第1の工程から得られた流出物の少なくとも一部がポンプにより汲み上げることを要求することなく流れることが可能になる。2基の水素化分解反応器中の温度に関する種々の操作条件が、各反応器において供給原料の所望の生成物への水素化および転化を制御することができるように選択される。
【0060】
直列に配置された2基の反応器において2つのサブ工程c1)およびc2)で水素化分解工程c)が行われる場合、第1のサブ工程c1)の終わりに得られた流出物は、軽質フラクションおよび重質フラクションの分離の工程を経てもよく、前記重質フラクションの少なくとも一部、好ましくは全部が、第2の水素化分解のサブ工程c2)において処理されてよい。この分離は、有利には、中間段分離器、例えば、特許US 6 270 654に記載されたものにおいて行われ、特に、第2の水素化分解反応器における軽質フラクションの過剰分解を回避するために用いられ得る。より低い温度で操作する水素化分解するための第1のサブ工程b1)のための反応器から抜き出された使用済み触媒の全部または一部を、より高い温度で操作する第2のサブ工程b2)のための反応器に直接的に移すこと、または、第2のサブ工程b2)のための反応器から抜き出された使用済み触媒の全部または一部を、第1のサブ工程b1)のための反応器に直接的に移すことも可能である。このカスケード系は、例えば、特許US 4 816 841に記載されている。
【0061】
水素化分解工程は、大容量の場合、並列の複数の(一般的には2基の)反応器により行われてもよい。水素化分解工程は、それ故に、直列の複数の段を含んでよく、中間段分離器によって任意に分離され、各段は、並列の1基以上の反応器によって構成される。
【0062】
(水素化分解流出物を分離するための工程d))
本発明の方法は、少なくとも1つの気体フラクションと、少なくとも1つの重質液体フラクションとを得るための分離工程d)を含んでもよい。
【0063】
水素化分解工程c)の終わりに得られた流出物は、液体フラクションと、気体、特にH、HS、NHおよびC1−C4炭化水素を含有する気体フラクションとを含む。この気体フラクションは、当業者に周知である分離デバイスを活用して、特に、異なる圧力および温度で操作されてよい、場合によって1基以上の分離器ドラムを活用して、水蒸気または水素ストリッピング手段および1基以上の蒸留塔と任意に併せて流出物から分離されてよい。水素化分解工程c)の終わりに得られた流出物は、有利には、少なくとも1基の分離器ドラムにおいて、少なくとも1つの気体フラクションと、少なくとも1つの重質液体フラクションとに分離される。これらの分離器は、例えば、高圧高温(HPHT)分離器および/または高圧低温(HPLT)分離器であってよい。
【0064】
任意の冷却の後、この気体フラクションは、好ましくは、水素精製手段において処理されて、水素化処理および水素化分解の反応の間に消費されなかった水素が回収される。水素精製手段は、アミンスクラバ、膜、PSAタイプの系、または直列のこれらの手段の複数であってよい。精製された水素は、有利には、任意の再圧縮の後に、本発明の方法に再循環させられてよい。水素は、水素化処理工程a)への入口および/または水素化処理工程a)の間の種々の領域および/または水素化分解工程c)への入口および/または水素化分解工程c)の間の種々の領域に、あるいは、沈殿工程に導入されてよい。
【0065】
分離工程d)は、常圧蒸留および/または真空蒸留の工程を含んでもよい。有利には、分離工程d)は、少なくとも1回の常圧蒸留工程も含み、この工程において、分離の後に得られた液体炭化水素フラクション(1個または複数個)が、常圧蒸留によって、少なくとも1つの常圧蒸留物フラクションと、少なくとも1つの常圧残渣フラクションとに分画される。常圧蒸留物フラクションは、燃料ベース(ナフサ、ケロセンおよび/またはディーゼル)を含んでよく、例えば、精製所において自動車および航空の燃料の製造のために商用に品質向上させられ得る。
【0066】
さらに、本発明の方法の分離工程d)は、有利には、少なくとも1回の真空蒸留工程をさらに含んでよく、この工程において、分離の後に得られた液体炭化水素フラクション(1個または複数個)および/または常圧蒸留の後に得られた常圧残渣フラクションが、真空蒸留によって、少なくとも1つの真空蒸留物と、少なくとも1つの真空残渣とに分画される。好ましくは、分離工程d)は、最初に、常圧蒸留と、その後の真空蒸留とを含み、常圧蒸留において、分離の後に得られた液体炭化水素フラクション(1個または複数個)が、常圧蒸留によって、少なくとも1つの常圧蒸留物フラクションと、少なくとも1つの常圧残渣フラクションとに分画され、真空蒸留において、常圧蒸留の後に得られた常圧残渣フラクションは、真空蒸留によって、少なくとも1つの真空蒸留物フラクションと、少なくとも1つの真空残渣フラクションとに分画される。真空蒸留物フラクションは、典型的には、真空ディーゼルタイプのフラクションを含有する。
【0067】
真空残渣フラクションの少なくとも一部は、水素化分解工程c)に再循環させられてよい。
【0068】
分離工程d)から得られた重質液体フラクションの一部は、沈殿物沈殿工程e)において本発明による蒸留物留分を形成するように用いられてよい。
【0069】
(工程e):沈殿物の沈殿)
分離工程d)の終わりに得られた重質液体フラクションは、水素化処理および水素化分解のための条件に由来する有機沈殿物および触媒残渣を含有する。沈殿物の一部は、水素化処理および水素化分解の条件下に沈殿するアスファルテンによって構成され、「既存沈殿物」によって分析される(IP375)。
【0070】
重質液体フラクション中の沈殿物の量は、水素化分解の条件に応じて変動する。分析の観点から、既存沈殿物(IP375)は、潜在的沈殿物を含む、経時変化後の沈殿物(IP390)から区別される。しかしながら、激しい水素化分解条件、すなわち、転化率が例えば40%以上、または50%以上である場合、既存沈殿物および潜在的沈殿物の形成が引き起こされる。
【0071】
(ISO 10307−2法を用いて測定される)経時変化後の沈殿物含有率についての勧告:0.1%以下に適合した燃料油または燃料油ベースを得るために、本発明の方法は、沈殿の工程を含み、この工程は、沈殿物分離効率を改善し、それ故に、安定した、すなわち、経時変化後の沈殿物含有率:0.1重量%以下を有する燃料油または燃料油ベースを得るために用いられ得る。
【0072】
本発明の方法における沈殿工程は、分離工程d)から得られた重質液体フラクションを、蒸留物留分であって、その最低20重量%が100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上の沸点を有するものと接触させることを含む。本発明のバリエーションにおいて、蒸留物留分は、最低25重量%が100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上の沸点を有するものを含む点で特徴付けられる。
【0073】
有利には、本発明の蒸留物留分の最低5重量%、あるいは、最低10重量%は、最低252℃の沸点を有する。
【0074】
より有利には、本発明の蒸留物留分の最低5重量%、あるいは最低10重量%は、最低255℃の沸点を有する。
【0075】
前記蒸留物留分の一部あるいは全部は、本発明の分離工程b)および/またはd)または別の精製方法、または実際に別の化学的方法を起源としてよい。
【0076】
本発明による蒸留物留分を用いることは、多数の高付加価値留分、例えば、石油化学留分、ナフサ留分等を用いることなしで済ますという利点も有する。
【0077】
本発明の蒸留物留分は、有利には、12個以上の炭素原子を含有する炭化水素、好ましくは13個以上の炭素原子を含有する炭化水素、より好ましくは13〜40個の範囲内の炭素原子を含有する炭化水素を含む。
【0078】
蒸留物留分は、ナフサタイプの留分および/または真空ディーゼルタイプの留分および/または真空残渣タイプの留分との混合物として用いられてよい。前記蒸留物留分は、工程b)から得られた軽質フラクション、工程b)から得られた重質フラクション、または工程d)から得られた液体重質フラクションとの混合物として用いられてよく、これらのフラクションは、場合により、単独でまたは混合物として用いられる。本発明の蒸留物留分が別の留分である、軽質フラクションおよび/または重質フラクション、例えば、上記に指し示されたものと混合される場合、その割合は、生じる混合物が本発明の蒸留物留分の特徴を満たすように選択される。
【0079】
本発明の沈殿工程e)は、(潜在的沈殿物を既存沈殿物に転化することによって)既存および潜在的な沈殿物の全部を得るために用いられて、それらが効率的に分離されるようにすることができ、それ故に、(ISO 10307−2法により測定される)経時変化後の沈殿物含有率:最大0.1重量%が達成される。
【0080】
本発明による沈殿工程e)は、有利には、500分以下、好ましくは300分以下、より好ましくは60分以下の滞留時間により、25℃〜350℃の範囲内、好ましくは50℃〜350℃の範囲内、好ましくは65℃〜300℃の範囲内、より好ましくは80℃〜250℃の範囲内の温度で行われる。沈殿工程の圧力は、有利には、20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは3MPa以下、一層より好ましくは1.5MPa以下である。本発明の蒸留物留分と、分離工程d)から得られた重質フラクションとの間の重量比は、0.01〜100の範囲内、好ましくは0.05〜10の範囲内、より好ましくは0.1〜5の範囲内、一層より好ましくは0.1〜2の範囲内である。本発明の蒸留物留分が方法から抜き出される場合、所望の比を得るように開始期間にわたってこの留分を蓄積することが可能である。
【0081】
本発明の蒸留物留分は、一部、液体炭化水素フラクションを回収するための工程f)を起源としてもよい。
【0082】
沈殿工程e)は、種々の設備を活用して行われてよい。静的混合機または撹拌タンクが用いられて、分離工程d)の終わりに得られた重質液体フラクションと、本発明の蒸留物留分との間の効率的な接触が促進されるようにしてもよい。工程d)の終わりに得られた重質液体フラクションと本発明の蒸留物留分とを混合する前後に1基以上の交換器が用いられて、所望の温度を達成するようにしてよい。1つ以上の容器、例えば、水平または垂直のドラムが直列または並列で用いられてよく、最も重質な固体の一部を除去するためにデカント機能を任意に有する。温度を調節するためのジャケットを備えてもよい撹拌タンクが用いられてもよい。このタンクは、最も重質な固体の一部を除去するための底部出口を提供されてよい。
【0083】
有利には、沈殿工程e)は、不活性ガスおよび/または酸化ガスおよび/または液体酸化剤および/または水素の存在下に行われる。この水素は、好ましくは、本発明の方法、特に、分離工程b)および/またはc)から得られたものである。
【0084】
沈殿物沈殿工程e)は、不活性ガス、例えば二窒素の存在下、または、酸化ガス、例えば、二酸素、オゾンまたは窒素の酸化物の存在下、または、不活性ガスおよび酸化ガスを含有する混合物、例えば、空気、窒素減損空気の存在下に行われてよい。酸化ガスを用いる利点は、沈殿方法が加速されることにある。
【0085】
沈殿物沈殿工程e)は、沈殿方法を加速させるために用いられ得る液体酸化剤の存在下に行われてよい。用語「液体酸化剤(liquid oxidizing agent)」は、酸素含有化合物、例えば、過酸化物、例えば、過酸化水素、あるいは、無機酸化剤、例えば、過マンガン酸カリウムの溶液、または無機酸、例えば、硫酸を意味する。このバリエーションによると、液体酸化剤は、それ故に、沈殿物の沈殿のための工程e)を行う時に、分離工程d)から得られた重質液体フラクションおよび本発明の蒸留物留分と混合される。
【0086】
工程e)の終わりに、炭化水素フラクションが得られ、豊富な含有率の既存沈殿物は、少なくとも部分的に、本発明による蒸留物留分と混合される。この混合物は、沈殿物の物理的分離のための工程f)に送られる。
【0087】
(工程f):沈殿物の分離)
本発明の方法は、沈殿物および触媒微細物を物理的に分離して液体炭化水素フラクションを得るための工程f)をさらに含む。
【0088】
沈殿工程e)から得られた重質液体フラクションは、アスファルテンタイプの沈殿させられた有機沈殿物を含有し、これは、本発明の水素化分解条件および沈殿条件の結果である。この重質液体フラクションは、水素化分解反応器の操作の間の押出物タイプの触媒の摩損の結果として得られた触媒微細物を含有するかもしれない。
【0089】
それ故に、沈殿工程e)から得られた重質液体フラクションの少なくとも一部は、フィルタ、分離膜、有機または無機のタイプのろ過固体の床、電気集塵、静電フィルタ、遠心分離システム、デカント処理、遠心分離デカンタ、エンドレススクリュー抽出または物理的抽出から選択される物理的分離手段による沈殿物および触媒残渣の分離を経る。同一のまたは異なるタイプの複数の分離手段の、連続的に機能してよい、直列のおよび/または並列の組み合わせが、沈殿物および触媒残渣の分離のためのこの工程f)の間に用いられてよい。これらの固−液分離技術の一つは、軽質のフラッシングフラクション(light flushing fraction)の定期的な使用を必要としてよい。この軽質のフラッシングフラクションは、例えばフィルタを洗浄しかつ沈殿物を排出するために用いられ得る方法から得られても得られなくてもよい。
【0090】
液体炭化水素フラクションは、沈殿物分離工程f)から得られ(経時変化後の沈殿物含有率は、0.1重量%以下である)、これは、工程e)の間に導入された本発明の蒸留物留分の一部を含む。
【0091】
(工程g):液体炭化水素フラクションの回収)
本発明によると、工程f)から得られた混合物は、有利には、経時変化後の沈殿物含有率:0.1重量%以下を有する液体炭化水素フラクションを回収するための工程g)に導入される。この工程g)は、工程f)において得られた液体炭化水素フラクションを、工程e)の間に導入された蒸留物留分から分離することからなる。工程g)は、分離工程b)およびd)に類似する分離工程である。工程g)は、分離器ドラムおよび/または蒸留塔タイプの設備を用いて行われてよく、一方では、工程e)の間に導入された蒸留物留分の少なくとも一部が、他方では、経時変化後の沈殿物含有率:0.1重量%以下を有する液体炭化水素フラクションが分離される。
【0092】
有利には、工程g)から分離された蒸留物留分の一部は、沈殿工程e)に再循環させられる。
【0093】
前記液体炭化水素フラクションは、有利には、燃料油ベースまたは燃料油として、特に、バンカー燃料ベースまたはバンカー燃料として機能してよく、経時変化後の沈殿物含有率は0.1重量%以下である。有利には、前記液体炭化水素フラクションは、接触分解からのライトサイクルオイル、接触分解からのヘビーサイクルオイル、接触分解残渣、ケロセン、ディーゼル、真空蒸留物および/またはデカンテッドオイル、および本発明による蒸留物留分によって構成される群から選択される1種以上のフラクシングベース(fluxing base)と混合される。
【0094】
特定の実施形態によると、本発明の蒸留物留分の一部は、低減した沈殿物含有率を有する液体炭化水素フラクション中に放置されてよく、混合物の粘度は、直接的に、燃料油の所望の等級の粘度、例えば、50℃で180または380cStになるようにされる。
【0095】
(フラクシング)
本発明による液体炭化水素フラクションは、有利には、少なくとも一部、燃料油ベースまたは燃料油として、特に、バンカー燃料ベースまたはバンカー燃料として用いられてよく、(ISO 10307−2法により測定される)経時変化後の沈殿物含有率は0.1重量%以下である。
【0096】
本発明において用いられる用語「燃料油(fuel oil)」は、燃料として用いられ得る炭化水素フラクションを意味する。本発明において用いられている用語「燃料油ベース(fuel oil base)」は、他のベースと混合された場合に燃料油を構成する炭化水素フラクションを意味する。
【0097】
燃料油を得るために、工程f)またはg)から得られた液体炭化水素フラクションは、接触分解からのライトサイクルオイル、接触分解からのヘビーサイクルオイル、接触分解残渣、ケロセン、ガスオイル、真空蒸留物および/またはデカンテッドオイル、および本発明による蒸留物留分によって構成される群から選択される1種以上のフラクシングベースと混合されてよい。好ましくは、本発明の方法において製造されたケロセン、ガスオイルおよび/または真空蒸留物が用いられる。
【0098】
任意に、フラクシング剤の一部は、本発明による蒸留物留分の一部または全部として導入されてよい。
【0099】
図1の説明)
図1は、本発明の典型的な実施を図表により示すが、本発明の範囲を決して限定するものではない。
【0100】
炭化水素供給原料(1)および水素(2)が、固定床水素化処理帯域において接触させられる(工程a))。水素化処理帯域から得られた流出物(3)は、分離帯域(任意の分離工程b))に送られて、軽質炭化水素フラクション(4)と、最低350℃で沸騰する化合物を含有する重質フラクション(5)とが得られる。水素化処理帯域から得られた、特に、任意の工程b)を欠く、流出物(3)または分離帯域b)から得られた重質フラクション(5)(工程b)が行われる場合)は、沸騰床水素化分解帯域c)に送られる。水素化分解帯域c)から得られた流出物(6)は、分離帯域d)に送られて、少なくとも1つの気体フラクション(7)と、少なくとも1つの重質液体フラクション(8)とが得られる。この液体フラクション(8)は、沈殿工程e)の間に沈殿帯域e)において本発明の蒸留物留分(9)と接触させられる。流出物(10)は、重質フラクションと沈殿物とによって構成され、物理的分離帯域f)において処理されて、沈殿物を含むフラクション(12)が除去され、低減した沈殿物含有率を有する液体炭化水素フラクション(11)が回収される。液体炭化水素フラクション(11)は、次いで、帯域g)において処理されて、一方では経時変化後の沈殿物含有率0.1重量%以下を有する液体炭化水素フラクション(14)が、他方では、工程e)の間に帯域e)に導入された蒸留物留分の少なくとも一部を含有するフラクション(13)が回収される。
【0101】
本説明において指し示される多くのバリエーションが本発明により用いられてよい。いくつかのバリエーションが以下に記載される。一つのバリエーションにおいて、固定床水素化処理帯域a)と沸騰床水素化分解帯域c)との間の分離帯域b)は、減圧を伴って操作される。別のバリエーションにおいて、固定床水素化処理帯域a)と沸騰床水素化分解帯域c)との間の分離帯域b)は、減圧を伴わずに操作される。水素化処理帯域a)から得られた流出物の少なくとも一部を沸騰床水素化分解帯域c)に、化学組成を変えることなくかつ有意な圧力降下なし、すなわち減圧なしで直接的に導入することも可能である。
【0102】
(実施例)
以下の実施例は、本発明を例証するが、決して本発明の範囲を限定するものではない。真空残渣(RSV Oural)が処理された;それは、87.0重量%の、520℃以上の温度で沸騰する化合物を含有し、密度は9.5° APIであり、硫黄含有率は2.72重量%であった。
【0103】
供給原料は、2基の配列を変えることができる反応器を含む水素化処理工程を経た。一連の用いられたアルミナ上3金属NiCoMo触媒は、Axensによって、参照番号HF858(水素化脱金属触媒:HDM)、HM848(遷移触媒)およびHT438(水素化脱硫触媒:HDS)の下に販売されている。操作条件は、表1に示される。
【0104】
【表1】
【0105】
水素化処理流出物は、次いで、分離工程を経て、軽質フラクション(気体)と、350℃以上で沸騰する大部分の化合物を含有する重質フラクション(350℃+フラクション)とが回収された。
【0106】
重質フラクション(350℃+フラクション)は、次いで、2基の連続する沸騰床反応器を含む水素化分解工程において処理された。水素化分解工程のための操作条件は、表2に与えられる。
【0107】
【表2】
【0108】
用いられたアルミナ上NiMo触媒は、Axensによって、参照番号HOC−548の下に販売されている。
【0109】
水素化分解工程からの流出物は、次いで、分離器を用いた分離工程を経て、気体フラクションと、重質液体フラクションとが分離された。重質液体フラクションは、次いで、常圧蒸留塔において蒸留されて、蒸留物と、常圧残渣とが回収された。
【0110】
サンプリング、計量および分析の工程が、固定床水素化処理+沸騰床水素化分解の連結についての全体的な物質収支を確立するために用いられた。
【0111】
全般的な連結を出る流出物において得られた各フラクションについての収率および硫黄含有率は、下記の表3に与えられる。
【0112】
【表3】
【0113】
常圧残渣(atmospheric residue:AR)(350℃+留分、すなわち、真空蒸留物と真空残渣の合計)は、複数のバリエーションによる処理を経た:
A)バリエーションA(本発明に合致しない);ここでは、常圧残渣ARは、商品名Pall(登録商標)を有する金属多孔質フィルタを用いてろ過された。経時変化後の沈殿物含有率は、沈殿物の分離の後に回収された常圧残渣について測定された。
【0114】
B)バリエーションB;ここでは、沈殿工程(本発明に合致する)が、80℃で1分にわたって撹拌しながら、常圧残渣ARと、本発明による蒸留物留分とを、表5に記載される種々の割合で混合することによって行われる:
・ 混合物1:50重量%の常圧残渣(AR)と50重量%の蒸留物留分Xの混合物、
・ 混合物2:50重量%の常圧残渣(AR)と、50重量%の蒸留物留分Yとの混合物、
・ 混合物3:50重量%の常圧残渣(AR)と、50重量%の蒸留物留分Zとの混合物。
【0115】
水素化分解工程からの流出物の350℃+フラクションに対応する常圧残渣は、沈殿物含有率(IP375)0.3% m/mおよび経時変化後の沈殿物含有率(IP390)0.7% m/mによって特徴付けられた。
【0116】
混合物1、2および3における蒸留物留分X、YおよびZについての模擬蒸留曲線は、表4に示される。
【0117】
【表4】
【0118】
種々の混合物は、既存沈殿物(IP375)の出現に導き、次いで、商品名Pall(登録商標)を有する金属多孔質フィルタを用いる沈殿物および触媒残渣の物理的分離の工程を経た。この物理的沈殿物分離工程に続いて、混合物を蒸留して、一方では低減した沈殿物含有率を有する常圧残渣を、他方では蒸留物留分を回収する工程が行われた。
【0119】
【表5】
【0120】
種々の処理のバリエーション(沈殿工程による沈殿物の分離と蒸留物留分の回収(バリエーションB)または沈殿の工程を行わない(バリエーションA))と結び付けられる常圧残渣(AR)の水素化分解工程についての操作条件は、得られた流出物の安定性に影響力を有していた。これは、常圧残渣AR(350℃+留分)において測定された経時変化後の沈殿物含有率によって例証され、沈殿および沈殿物の分離の工程とその後の蒸留物留分の回収の前(0.7% m/m)およびその後(<0.1% m/m)にあった。
【0121】
それ故に、本発明により得られた常圧残渣は、優秀な燃料油ベース、特に、バンカー燃料ベースを構成し、経時変化後の沈殿物含有率(IP390)は、0.1重量%以下である。
【0122】
表5の「混合物3」の場合において処理された常圧残渣ARは、経時変化後の沈殿物含有率0.1%以下、硫黄含有率0.37% m/m、および50℃での粘度590cStを有し、このものは、方法(表3)から得られた、硫黄含有率0.05% m/mおよび50℃での粘度2.5cStを有するディーゼルと、AR/ディーゼルの割合90/10(m/m)で混合された。得られた混合物は、50℃での粘度336cSt、硫黄含有率0.34% m/m、および経時変化後の沈殿物含有率(IP390):0.1重量%以下を有していた。この混合物は、それ故に、等級RMGまたはIFP380で販売され得る高品質のバンカー燃料を構成しており、低い沈殿物含有率および低い硫黄含有率を有していた。それは、例えば、硫黄の酸化物を処分するために煙霧スクラバを有する容器を備える必要なく2020−25についてECA帯域の外側で燃やされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0123】
図1】水素化処理帯域、分離帯域、水素化分解帯域、別の分離帯域、沈殿帯域、沈殿物の物理的分離のための帯域および興味のフラクションを回収するための帯域を特徴とする本発明の方法を説明する線図である。
図1