(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記感温性材料は、前記特定温度としての上限臨界溶液温度を有する高分子とイオン交換樹脂とを共重合したゲルであって、前記上限臨界溶液温度以上でイオン吸着性を発揮して、第1成分のイオンよりも第2成分のイオンを吸着させる
ことを特徴とする請求項6に記載の潜熱蓄熱体。
前記感温性材料は、前記特定温度としての下限臨界溶液温度を有する高分子とイオン交換樹脂とを共重合したゲルであって、前記下限臨界溶液温度未満でイオン吸着性を発揮して、第1成分のイオンよりも第2成分のイオンを吸着させる
ことを特徴とする請求項6に記載の潜熱蓄熱体。
前記感温性材料は、前記膜部材によって仕切られた空間の内外を接続するスリーブと、前記スリーブ内において前記膜部材によって仕切られた空間の内外を隔てるピストンと、前記潜熱蓄熱材料の温度に応じて前記ピストンを前記スリーブ内で移動させることにより前記膜部材によって仕切られた空間の容積を変化させる感温素材と、を備える
ことを特徴とする請求項9に記載の潜熱蓄熱体。
前記感温性材料は、前記潜熱蓄熱材料が収納される空間と特定空間とを隔てるための隔壁と、前記隔壁によって隔てられた前記特定空間内に設けられる前記磁性素材としての永久磁石と、前記隔壁によって隔てられた前記特定空間内に設けられ前記潜熱蓄熱材料の温度に応じて前記永久磁石を前記隔壁に近づけたり離したりする感温素材と、を備える
ことを特徴とする請求項11に記載の潜熱蓄熱体。
前記感温性材料は、前記磁性素材としての永久磁石と、前記潜熱蓄熱材料の温度に応じて前記永久磁石が前記潜熱蓄熱材料に磁力を及ぼす状態と磁力を略及ぼさなくなる状態とで変移する感温性軟磁性体と、を備える
ことを特徴とする請求項11に記載の潜熱蓄熱体。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0011】
図1は、第1実施形態に係る潜熱蓄熱体を示す概略構成図である。
図1に示すように、第1実施形態に係る潜熱蓄熱体1は、容器C内に成分材CMを封入したものである。成分材CMは、容器Cに設けられた封止可能な封入口Eから容器C内に投入される。
【0012】
成分材CMは、潜熱蓄熱材料と、感温性材料と、水とから構成されている。潜熱蓄熱材料は、例えば無機塩水和物(Na
2SO
410H
2OやCaCl
26H
2O)によって構成され、特定温度範囲(例えば21℃付近)に相変化温度(融点及び凝固点)を有するものである。この潜熱蓄熱材料は、溶液濃度に応じて相変化温度が変化するものである。
【0013】
感温性材料は、特定温度以上と特定温度未満とで異なる作用を発揮するものであり、第1実施形態においては上限臨界溶液温度(特定温度)以上で親水性を発揮すると共に、上限臨界溶液温度未満で疎水性を発揮する高分子である。
【0014】
上限臨界溶液温度を持つ高分子としては、側鎖にイミダゾリウム塩を有するビニルエーテル系高分子やウレイド高分子等が挙げられ、好適にはスルホベタインゲルが挙げられる。スルホベタインゲルは、上限臨界溶液温度が室温近辺であり、且つ、上限臨界溶液温度を調整する技術が知られていることから、適切な上限臨界溶液温度を設定し易いからである。
【0015】
次に、第1実施形態に係る潜熱蓄熱体1の作用を説明する。まず、潜熱蓄熱材料の温度(感温性材料の周囲温度)が上限臨界溶液温度以上であるとする。この場合、感温性材料は、親水性を発揮する。このため、感温性材料が周囲の水を保持する。よって、成分材CMは、あたかも水分量が減少したかのように振舞い、潜熱蓄熱材料の溶液濃度が高まったような状態となる。これにより、相変化温度は上昇する。
【0016】
一方、潜熱蓄熱材料の温度が上限臨界溶液温度未満になったとする。この場合、感温性材料は、疎水性を発揮する。このため、感温性材料は保持した水を放出する。よって、成分材CMは、あたかも水分量が増加したかのように振舞い、潜熱蓄熱材料の溶液濃度が低まったような状態となる。これにより、相変化温度は低下する。
【0017】
このように、第1実施形態に係る潜熱蓄熱体1は、周囲温度に応じた感温性材料の作用を利用して相変化温度を変化させており、周囲温度が上限臨界溶液温度未満となったときの感温性材料の作用により相変化温度を低くして低温設定(例えば18℃)とし、周囲温度が上限臨界溶液温度以上となったときの感温性材料の作用により相変化温度を高くして高温設定(例えば26℃)とすることができる。この際、潜熱蓄熱体1の容器Cに手を触れる必要はなく、電気信号や動力等も必要ない。
【0018】
なお、第1実施形態においては、意図した低温設定及び高温設定における相変化温度の近傍では必ず液相があるため液相に分散した高分子は常に水を吸着保持または放出することができる状態にある。また、高温設定での潜熱蓄熱材料は凝固点以下では概ね析出しているが、一部は液相に溶解し平衡状態にある。ここで高分子から水が放出されると平衡状態が崩れて潜熱蓄熱材料が再度溶解して低温設定とされることになる。
【0019】
このようにして、第1実施形態に係る潜熱蓄熱体1によれば、特定温度以上と特定温度未満とで異なる作用を発揮する感温性材料を備え、周囲温度に応じた感温性材料の作用を利用して相変化温度を変化させるため、低温用の潜熱蓄熱材と高温用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる。
【0020】
また、周囲温度に応じて相変化温度を低温設定としたり高温設定としたりするため、例えば夏季の夜間等に冷気を利用して相変化温度を低温設定にして低温用の潜熱蓄熱材料にし、冬季の深夜電力等を利用して温めることで相変化温度を高温設定にして高温用の潜熱蓄熱材料にすることができる。
【0021】
また、潜熱蓄熱材料を含む成分材CMを備え、潜熱蓄熱材料の温度に応じた感温性材料の作用によって、成分材CMの特定の成分(潜熱蓄熱材料)を濃度的に偏在させることで、相変化温度を自己調整することができる。
【0022】
また、感温性材料は、上限臨界溶液温度以上で親水性を発揮すると共に上限臨界溶液温度未満で疎水性を発揮する高分子であるため、上限臨界溶液温度以上で親水性を発揮したときには周囲の水と結びついて潜熱蓄熱材料の溶液濃度が高まったような状態にして相変化温度を高くすることができる。一方、上限臨界溶液温度未満で疎水性を発揮したときには周囲の水と離れて潜熱蓄熱材料の溶液濃度が低まったような状態にして相変化温度を低くすることができる。このように、見かけ上の溶液濃度の調整によって相変化温度を変化させることができる。
【0023】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態に係る潜熱蓄熱体1は第1実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0024】
第2実施形態に係る潜熱蓄熱体1の成分材CMは、潜熱蓄熱材料と、感温性材料と、水と、逆性の凝固点降下剤とを備えている。逆性の凝固点降下剤は、例えば次数が異なる複数の水和度をとる水和塩(例えばZnCl
2)により構成され水分量の増加に応じて相変化温度を低下させることが知られている。具体的には特開昭56−180579号公報の
図1に示すZnCl
2は異なる水和度(ZnCl
2・0.5H
2OやZnCl
2・H
2OやZnCl
2・1.5H
2O等)をとり、次数が高くなるほど凝固点(相変化温度)を低下させるものである。このような、水和塩は、凝固点降下剤と称呼されることもあれば共晶材料と称呼されることもあり、一般の凝固点降下剤が水分量の増加により相変化温度が低下し難くなることから、本実施形態においては逆性の凝固点降下剤と称する。
【0025】
また、第2実施形態において感温性材料は、上限臨界溶液温度(特定温度)以上で親水性を発揮すると共に、上限臨界溶液温度未満で疎水性を発揮する高分子である。
【0026】
このような第2実施形態に係る潜熱蓄熱体1では、まず、潜熱蓄熱材料の温度(感温性材料の周囲温度)が上限臨界溶液温度以上であるとする。この場合、感温性材料は、親水性を発揮する。このため、感温性材料が周囲の水を保持する。よって、成分材CMは、あたかも水分量が減少したかのように振舞い、水分量の増加に応じて相変化温度を低下させる逆性の凝固点降下剤の機能を弱めることとなる。これにより、相変化温度は上昇する。
【0027】
一方、潜熱蓄熱材料の温度が上限臨界溶液温度未満になったとする。この場合、感温性材料は、疎水性を発揮する。このため、感温性材料は保持した水を放出する。よって、成分材CMは、あたかも水分量が増加したかのように振舞い、水分量の増加に応じて相変化温度を低下させる逆性の凝固点降下剤の機能を強めることとなる。これにより、相変化温度は低下する。
【0028】
このようにして、第2実施形態に係る潜熱蓄熱体1によれば、第1実施形態と同様に、低温用の潜熱蓄熱材と高温用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる。また、夏季の夜間等に冷気を利用して相変化温度を低温設定にして低温用の潜熱蓄熱材料にし、冬季の深夜電力等を利用して温めることで相変化温度を高温設定にして高温用の潜熱蓄熱材料にすることができる。
【0029】
加えて、第2実施形態によれば、感温性材料が、特定温度としての上限臨界溶液温度以上で親水性を発揮すると共に上限臨界溶液温度未満で疎水性を発揮する高分子であるため、上限臨界溶液温度以上で親水性を発揮したときには周囲の水と結びついて潜熱蓄熱材料に対する水分量を減少させて相変化温度を高くすることができる。一方、上限臨界溶液温度未満で疎水性を発揮したときには周囲の水と離れて潜熱蓄熱材料に対する水分量を増加させて相変化温度を低くすることができる。このように、潜熱蓄熱材料に対する水分量の調整によって相変化温度を変化させることができる。
【0030】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態に係る潜熱蓄熱体1は第1実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0031】
第3実施形態に係る潜熱蓄熱体1の成分材CMは、潜熱蓄熱材料と、感温性材料と、水と、凝固点降下剤とを備えている。凝固点降下剤は、モル濃度が増加するに従って相変化温度を低下させるものである。
【0032】
また、第3実施形態において感温性材料は、下限臨界溶液温度(特定温度)以上で疎水性を発揮すると共に、下限臨界溶液温度未満で親水性を発揮する高分子である。
【0033】
このような第3実施形態に係る潜熱蓄熱体1では、まず、潜熱蓄熱材料の温度(感温性材料の周囲温度)が下限臨界溶液温度以上であるとする。この場合、感温性材料は、疎水性を発揮する。このため、感温性材料が周囲の水を保持せず放出する。よって、成分材CMは、あたかも水分量が増加したかのように振舞い、凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度は低下することとなる。これにより、相変化温度は上昇する。
【0034】
一方、潜熱蓄熱材料の温度が下限臨界溶液温度未満になったとする。この場合、感温性材料は、親水性を発揮する。このため、感温性材料は周囲の水を保持する。よって、成分材CMは、あたかも水分量が低下したかのように振舞い、凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度は上昇することとなる。これにより、相変化温度は低下する。
【0035】
また、第3実施形態においては、意図した低温設定及び高温設定における相変化温度の近傍では必ず液相があるよう水分量に注意する必要がある。
【0036】
このようにして、第3実施形態に係る潜熱蓄熱体1によれば、第1実施形態と同様に、低温用の潜熱蓄熱材と高温用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる。また、夏季の夜間等に冷気を利用して相変化温度を低温設定にして低温用の潜熱蓄熱材料にし、冬季の深夜電力等を利用して温めることで相変化温度を高温設定にして高温用の潜熱蓄熱材料にすることができる。
【0037】
さらに、第3実施形態によれば、感温性材料が、特定温度としての下限臨界溶液温度以上で疎水性を発揮すると共に、下限臨界溶液温度未満で親水性を発揮する高分子であるため、下限臨界溶液温度以上で疎水性を発揮したときには周囲の水と離れて凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度を低めて相変化温度を高くすることができる。一方、下限臨界溶液温度未満で親水性を発揮したときには周囲の水と結びついて凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度を高めて相変化温度を低くすることができる。このように、凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度の調整によって相変化温度を変化させることができる。
【0038】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。第4実施形態に係る潜熱蓄熱体1は第1実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0039】
第4実施形態に係る潜熱蓄熱体1の成分材CMは、潜熱蓄熱材料と、感温性材料と、凝固点降下剤とを備えている。凝固点降下剤は、モル濃度が増加するに従って相変化温度を低下させるものであって疎水基を持つものである。
【0040】
また、第4実施形態において感温性材料は、下限臨界溶液温度(特定温度)以上で疎水化して疎水基をもつ凝固点降下剤を吸着し、下限臨界溶液温度未満で親水化して疎水基をもつ凝固点降下剤を放出する高分子(例えばpoly(N-isopropylacrylamide)(PNIPAAm))である。
【0041】
このような第4実施形態に係る潜熱蓄熱体1では、まず、潜熱蓄熱材料の温度(感温性材料の周囲温度)が下限臨界溶液温度以上であるとする。この場合、感温性材料は、疎水性を発揮する。このため、感温性材料が周囲の凝固点降下剤を保持する。よって、成分材CMは、あたかも凝固点降下剤が減少したかのように振舞い、凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度は低下することとなる。これにより、相変化温度は上昇する。
【0042】
一方、潜熱蓄熱材料の温度が下限臨界溶液温度未満になったとする。この場合、感温性材料は、親水性を発揮する。このため、感温性材料は保持した凝固点降下剤を放出する。よって、成分材CMは、あたかも凝固点降下剤が増加したかのように振舞い、凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度は上昇することとなる。これにより、相変化温度は低下する。
【0043】
このようにして、第4実施形態に係る潜熱蓄熱体1によれば、第1実施形態と同様に、低温用の潜熱蓄熱材と高温用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる。また、夏季の夜間等に冷気を利用して相変化温度を低温設定にして低温用の潜熱蓄熱材料にし、冬季の深夜電力等を利用して温めることで相変化温度を高温設定にして高温用の潜熱蓄熱材料にすることができる。
【0044】
さらに、第4実施形態によれば、モル濃度が増加するに従って相変化温度を低下させると共に疎水基をもつ凝固点降下剤を有し、感温性材料が、特定温度としての下限臨界溶液温度以上で疎水化して疎水基をもつ凝固点降下剤を吸着し、下限臨界溶液温度未満で親水化して疎水基をもつ凝固点降下剤を放出するため、下限臨界溶液温度以上で疎水化して疎水基をもつ凝固点降下剤を吸着したときには凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度を低めて相変化温度を高くすることができる。一方、下限臨界溶液温度未満で親水化して疎水基をもつ凝固点降下剤を放出したときには凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度を高めて相変化温度を低くすることができる。このように、凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度の調整によって相変化温度を変化させることができる。
【0045】
次に、本発明の第5実施形態を説明する。第5実施形態に係る潜熱蓄熱体1は第1実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0046】
第5実施形態に係る潜熱蓄熱体1の成分材CMは、潜熱蓄熱材料と、感温性材料と、凝固点降下剤とを備えている。凝固点降下剤は、モル濃度が増加するに従って相変化温度を低下させるものであって疎水基を持つ塩である。
【0047】
また、第5実施形態において感温性材料は、上限臨界溶液温度(特定温度)を有する高分子とイオン交換樹脂とを共重合したゲルであって、上限臨界溶液温度以上でイオン吸着性(陰イオン又は陽イオンに対する吸着性)を発揮するものである。イオン交換樹脂は、まずはイオン半径の小さなもの、中でも核電荷の大きなものを優先的に吸着する性質があるので、そのような陰イオンを電離する塩を凝固点降下剤として配合すれば、温度条件成立時に感温性材料に吸着させることができる。潜熱蓄熱材料よりイオン半径が小さいか又は価数の高い陽イオンを電離する塩を凝固点降下剤として配合した場合も同様である。
【0048】
このような第5実施形態に係る潜熱蓄熱体1では、まず、潜熱蓄熱材料の温度(感温性材料の周囲温度)が上限臨界溶液温度未満であるとする。この場合、感温性材料は、イオン吸着性を発揮せず、凝固点降下剤は潜熱蓄熱材料内で分散している。このため、凝固点降下剤が適切に機能して相変化温度は低下する。
【0049】
一方、潜熱蓄熱材料の温度が上限臨界溶液温度以上になったとする。この場合、感温性材料は、イオン吸着性を発揮する。このため、感温性材料は凝固点降下剤のイオンを吸着し、凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度が低下することとなる。これにより、相変化温度は上昇する。
【0050】
このようにして、第5実施形態に係る潜熱蓄熱体1によれば、第1実施形態と同様に、低温用の潜熱蓄熱材と高温用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる。また、夏季の夜間等に冷気を利用して相変化温度を低温設定にして低温用の潜熱蓄熱材料にし、冬季の深夜電力等を利用して温めることで相変化温度を高温設定にして高温用の潜熱蓄熱材料にすることができる。
【0051】
さらに、第5実施形態によれば、感温性材料が、特定温度としての上限臨界溶液温度を有する高分子とイオン交換樹脂とを共重合したゲルであって、上限臨界溶液温度以上でイオン吸着性を発揮する場合、上限臨界溶液温度以上では凝固点降下剤のイオンが吸着されて凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度を下げて相変化温度を高くすることができる。一方、上限臨界溶液温度未満では凝固点降下剤のイオンが吸着されず凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度を上げて相変化温度を低くすることができる。従って、凝固点降下剤の見かけ上のモル濃度の調整によって相変化温度を変化させることができる。
【0052】
次に、本発明の第6実施形態を説明する。第6実施形態に係る潜熱蓄熱体1は第1実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0053】
第6実施形態に係る潜熱蓄熱体1の成分材CMは、潜熱蓄熱材料と、感温性材料とを備えている。第6実施形態において感温性材料は、下限臨界溶液温度(特定温度)以上で潜熱蓄熱材料と分離して別の層を形成すると共に、下限臨界溶液温度未満で親水化して潜熱蓄熱材料内で分散して凝固点降下剤として機能するイオン液体である。
【0054】
イオン液体は、例えばLCST型の相転移を示すものとしてテトラブチルフォスフォニウムトリフルオロアセテート([P4444]CF3COO)等が知られている。これは[]内に示したカチオンの直鎖部の長さや[]外に示したアニオンの親水度等によって相転移温度が異なることが知られており、また他の塩の濃度の影響も受けることから、目的とする潜熱蓄熱材の種類や濃度に応じて適当なものを選ぶことができる。
【0055】
このような第6実施形態に係る潜熱蓄熱体1では、まず、潜熱蓄熱材料の温度(感温性材料の周囲温度)が下限臨界溶液温度以上であるとする。この場合、感温性材料は、潜熱蓄熱材料と分離して別の層を形成するため潜熱蓄熱材料内で分散しない。このため、凝固点降下剤が機能せず相変化温度は上昇する。
【0056】
一方、潜熱蓄熱材料の温度が下限臨界溶液温度未満になったとする。この場合、感温性材料は、親水化して潜熱蓄熱材料内で分散して凝固点降下剤として機能する。このため、凝固点降下剤が適切に機能して相変化温度は低下する。
【0057】
このようにして、第6実施形態に係る潜熱蓄熱体1によれば、第1実施形態と同様に、低温用の潜熱蓄熱材と高温用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる。また、夏季の夜間等に冷気を利用して相変化温度を低温設定にして低温用の潜熱蓄熱材料にし、冬季の深夜電力等を利用して温めることで相変化温度を高温設定にして高温用の潜熱蓄熱材料にすることができる。
【0058】
さらに、第6実施形態によれば、感温性材料が、特定温度としての下限臨界溶液温度以上で潜熱蓄熱材料と分離して別の層を形成すると共に、下限臨界溶液温度未満で親水化して潜熱蓄熱材料内で分散して凝固点降下剤として機能するイオン液体であるため、下限臨界溶液温度以上では層分離により凝固点降下剤として機能せず相変化温度を高くすることができる。一方、下限臨界溶液温度未満では親水化して潜熱蓄熱材料内で分散して凝固点降下剤として機能し相変化温度を低くすることができる。従って、イオン液体によって相変化温度を変化させることができる。
【0059】
次に、本発明の第7実施形態を説明する。第7実施形態に係る潜熱蓄熱体1は第1実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0060】
第7実施形態に係る潜熱蓄熱体1の成分材CMは、潜熱蓄熱材料と、感温性材料とを備えている。第7実施形態において潜熱蓄熱材料は、2つの成分が混合された極小共晶点を持つものである。2つの成分は、例えばCaCl
2−6H
2OとAlCl
3−6H
2Oである。なお、潜熱蓄熱材料は第3以上の成分を含んでいてもよい。
【0061】
感温性材料は、特定温度以上又は特定温度未満でイオン吸着性を発揮して、潜熱蓄熱材料の第1成分又は第2成分のイオンを他方の成分のイオンよりも吸着させるものである。第7実施形態において感温性材料は、上限臨界溶液温度(特定温度)を有する高分子とイオン交換樹脂とを共重合したゲルであって、上限臨界溶液温度以上でイオン吸着性を発揮して、第1成分のイオンよりも第2成分のイオンを吸着させる。
【0062】
このような第7実施形態に係る潜熱蓄熱体1において、潜熱蓄熱材料の温度(感温性材料の周囲温度)が上限臨界溶液温度未満であるとする。この場合、感温性材料は、イオン吸着性を発揮せず、相変化温度は2つの成分の混合比に基づくものとなる。
【0063】
これに対して、潜熱蓄熱材料の温度が上限臨界溶液温度以上になったとすると、感温性材料は、イオン吸着性を発揮して、第1成分のイオンよりも第2成分のイオンを吸着させる。このとき、例えば陽イオン吸着性の高分子を使うことで、2価のCa
2+より3価のAl
3+を吸着させることができる。これにより、潜熱蓄熱材料の成分比率が崩れることとなり、成分比が極小共晶点をとるときの比から離れるようにすることで、相変化温度を上昇させることができる。
【0064】
なお、感温性材料は、下限臨界溶液温度(特定温度)を有する高分子とイオン交換樹脂とを共重合したゲルであって、下限臨界溶液温度未満でイオン吸着性を発揮して、第1成分のイオンよりも第2成分のイオンを吸着させるものであってもよい。この場合、潜熱蓄熱材料の温度が下限臨界溶液温度以上であるときに相変化温度は2つの成分の混合比に基づくものとなる。一方、潜熱蓄熱材料の温度が下限臨界溶液温度未満であるときには、成分比が極小共晶点をとるときの比に近づくようにすることで、相変化温度を低下させることができる。
【0065】
このようにして、第7実施形態に係る潜熱蓄熱体1によれば、第1実施形態と同様に、低温用の潜熱蓄熱材と高温用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる。また、夏季の夜間等に冷気を利用して相変化温度を低温設定にして低温用の潜熱蓄熱材料にし、冬季の深夜電力等を利用して温めることで相変化温度を高温設定にして高温用の潜熱蓄熱材料にすることができる。
【0066】
さらに、第7実施形態によれば、特定温度(上限臨界溶液温度)以上又は特定温度(下限臨界溶液温度)未満でイオン吸着性を発揮して、潜熱蓄熱材料の第1成分又は第2成分のイオンを他方の成分のイオンよりも吸着させるため、2つの成分の混合比を変化させて相変化温度を変化させることができる。
【0067】
次に、本発明の第8実施形態を説明する。第8実施形態に係る潜熱蓄熱体1は第1実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0068】
図2は、第8実施形態に係る潜熱蓄熱体2を示す概略構成図である。
図2に示すように、第8実施形態に係る潜熱蓄熱体2は、第1実施形態と同様に、容器C内に成分材CMを封入したものである。
【0069】
成分材CMは、潜熱蓄熱材料と、場合によって水や凝固点降下剤とを備えている。凝固点降下剤は、モル濃度が増加するに従って相変化温度を低下させるものである。
【0070】
さらに、潜熱蓄熱体2は、膜部材Sと、感温性機構(感温性材料)10とを備えている。膜部材Sは、イオン交換膜、半透膜、及び分子ふるい膜のいずれか1つから構成されている。
【0071】
イオン交換膜は、特定イオンと他のイオンとの透過速度を異ならせるものであって、例えばプラスに帯電した陰イオン交換膜、マイナスに帯電した陽イオン交換膜、マイナス電荷を保持させた陰イオン交換膜、及び、プラス電荷を保持させた陽イオン交換膜等である。プラスに帯電した陰イオン交換膜は、水酸化物イオンに加えて陰イオン、中でも多価の陰イオンを優先的に透過させることで、他のイオンと透過速度を異ならせる。また、マイナスに帯電した陽イオン交換膜は、水素イオンに加えて陽イオン、中でも多価の陽イオンを優先的に透過させることで、他のイオンと透過速度を異ならせる。表面に多少のマイナス電荷を保持させた陰イオン交換膜は多価の陰イオンをはじいて一価の陰イオンを優先的に透過させることで、他のイオンと透過速度を異ならせる。表面に多少のプラス電荷を保持させた陽イオン交換膜は多価の陽イオンをはじいて一価の陽イオンを優先的に透過させることで、他のイオンと透過速度を異ならせる。
【0072】
半透膜は、イオンと溶媒(例えば水)との透過速度を異ならせるものである。分子ふるい膜は、小サイズ側の分子を大サイズ側の分子よりも優先的に透過させるものである。この分子ふるい膜は、分子ふるいとも呼ばれるナノレベルの細孔を持つ膜であって、より小サイズの分子から優先的に透過させるものである。
【0073】
さらに、第8実施形態において膜部材Sは、内部空間を有する袋状に構成されている。加えて、感温性機構10は、特定温度以上と特定温度未満とで膜部材Sの内部空間の容積を変化(増減)させるものである。第8実施形態では、感温性機構10により膜部材Sの内部空間の容積を変化させることで、膜部材Sの外部における成分材CMの成分比を変化させて相変化温度を変化させることとなる。
【0074】
図3は、
図2に示した感温性機構10及び膜部材Sの詳細を示す拡大図である。
図3に示すように、感温性機構10は、第1スリーブ(スリーブ)11と、第2スリーブ12と、連結ピストン(ピストン)13と、浮動ピストン14と、圧縮バネ15と、形状記憶合金バネ(感温素材)16とを備えている。
【0075】
第1スリーブ11は、両端側に開口11a,11bを有すると共に一端側の開口11aが膜部材Sの内部空間に接続され他端側の開口11bが膜部材Sの内部空間外に接続された筒型部材である。この第1スリーブ11は、両端側に開口11a,11bを有することで内部空間の内外を接続している。このような第1スリーブ11は、一端に2つの開口11aを有している。また、第1スリーブ11は、他端に1つの開口11b及び他端近傍の側壁に2つの開口11bを有している。
【0076】
第2スリーブ12は、一端側が閉塞され他端側に開口12aを有すると共に、他端側の開口12aが膜部材Sの内部空間に接続された筒型部材であって、第1スリーブ11の一端側に第1スリーブ11と対向配置されたものである。
【0077】
連結ピストン13は、第1スリーブ11と第2スリーブ12との両者に跨って配置されるピストン部材である。この連結ピストン13は、第1板材13aと、第2板材13bと、連結棒13cとを備えている。
【0078】
第1板材13aは、第1スリーブ11内に密着状態で筒長手方向に摺動可能に設けられた板材であって、第1スリーブ内を一端側と他端側とで隔てるものである。ここで、第1スリーブ11の一端側は内部空間に接続され他端側は内部空間外に接続されている。このため、第1板材13aは、第1スリーブ11内において内部空間内と内部空間外とを隔てる部材として機能することとなる。
【0079】
第2板材13bは、第2スリーブ12内に密着状態で筒長手方向に摺動可能に設けられた板材である。この第2板材13bには、第2板材13bを貫通する貫通孔13b1が形成されている。なお、第2板材13bは、貫通孔13b1を備えることなく、第2スリーブ12の内壁と若干の隙間を有する大きさの板材とされていてもよい。
【0080】
連結棒13cは第1板材13a及び第2板材13bを連結する棒状部材である。この連結棒13cは、第1板材13aの一端側面と第2板材13bの他端側面とを接続している。
【0081】
浮動ピストン14は、第2スリーブ12内に密着状態で筒長手方向に摺動可能に設けられた板材であって、連結棒13cが遊挿される中心開口を有したものである。浮動ピストン14は、連結棒13cが遊挿されることで、連結棒13cに沿って一端側や他端側に移動可能とされたものである。なお、浮動ピストン14の厚みTは、第1スリーブ11と第2スリーブ12との間の隙間SPよりも大きくされているため、第2スリーブ12内から抜け出ないようになっている。このため、第2スリーブ12内は浮動ピストン14によって閉じられた空間となって、液封又は気封された状態となっている。
【0082】
圧縮バネ15は、第1スリーブ11内に配置されて第1板材13aの他端面を押圧して第1板材13aを一端側に付勢するものである。
【0083】
形状記憶合金バネ16は、第2スリーブ12内に配置されて特定温度未満で第2板材13bを他端側に付勢せず、特定温度以上で第2板材13bを圧縮バネ15の付勢力に抗して他端側に付勢するものである。
【0084】
なお、感温性機構10には、温度によって形状を変化させる形状記憶合金バネ16に代えて、特定温度以上で気体となり特定温度未満で液体となる気液相変化材料が封入された袋体を用いてもよい。この場合、袋体の内部には、例えば、二酸化窒素(沸点21℃)、アセトアルデヒド(沸点20℃)、3−メチル−1−ブテン(イソペンテン)(沸点20℃)等と、イソペンタン(沸点28℃)、1−ペンテン(沸点30℃)等とを組み合わせたものを使用するとよい。このとき、2種の気液相変化材料各々に袋体を用意してもよいが配置構造が複雑になるため、混合しても反応せず共沸等しない組み合わせを選び同じ袋体に入れることが好ましい。
【0085】
図4は、特定温度以上の場合における感温性機構10の状態を示す拡大図である。上述の
図3からも明らかなように、形状記憶合金バネ16の周囲温度(潜熱蓄熱材料の温度)が特定温度未満では形状記憶合金バネ16が圧縮状態となる。このため、第1板材13aは、圧縮バネ15によって付勢されて第1スリーブ11内の一端側まで移動する。一方、形状記憶合金バネ16の周囲温度が特定温度以上となると、
図4に示すように形状記憶合金バネ16が伸長状態となる。このため、第2板材13bは第2スリーブ12内の他端側まで移動し、連結棒13cを通じて第1板材13aを第1スリーブ11内の中間付近まで移動させる。この結果、膜部材Sの内部空間の容積(膜部材Sの内側の成分材CMの量)は変化(増加)することとなる。
【0086】
ここで、形状記憶合金バネ16は温度ヒステリシスを有するものであることが好ましい。具体的に形状記憶合金バネ16は、同心円状に配置される2つの形状記憶合金バネ16a,16bによって構成されている。第1形状記憶合金バネ16aは、例えば22℃(第1特定温度)未満で圧縮状態となり22℃(第1特定温度)以上で伸長状態に移行しようとするものである。第2形状記憶合金バネ16bは、例えば26℃(第2特定温度)未満で圧縮状態となり26℃(第2特定温度)以上で伸長状態に移行しようとするものである。
【0087】
ここで、圧縮バネ15と、2つの形状記憶合金バネ16a,16bのうちの1本ずつの圧縮力が釣り合うようになっている。ただし各々の形状記憶合金バネ16a,16bは各々の設定温度(第1特定温度、第2特定温度)以下では柔らかく圧縮力を発揮しない。これにより、例えば22℃未満では
図3に示すように連結ピストン13が一端側に移動し、26℃以上では
図4に示すように連結ピストン13が他端側に移動する。22℃以上26℃未満の間では、連結ピストン13の位置によって若干の力の不均衡があるが、第1板材13a及び第2板材13bとスリーブ11,12との摩擦抵抗(第2板材13bが第2スリーブ12の内壁と若干の隙間を有する場合には、第1板材13aと第1スリーブ11との摩擦抵抗)があるため動かない。
【0088】
このように構成することで、感温性機構10は、少なくとも連結ピストン13の第1板材13aと第1スリーブ11との摩擦力によって、周囲温度が上昇傾向にあるときの特定温度(第2特定温度)と、周囲温度が下降傾向にあるときの特定温度(第1特定温度)が異なった温度ヒステリシスを有したものとすることができる。
【0089】
なお、上記では設定温度が異なる2つの形状記憶合金バネ16a,16bを用いる例を説明したが、実際に形状記憶合金バネ16はある程度の温度幅を経て徐々に硬さが変わるものである。また、形状記憶合金バネ16は温度上昇により圧縮ひずみを開放した後の温度下降時には上昇時より大きな圧縮力を維持するヒステリシスを発現する。このため、適切に設計すれば1つの形状記憶合金バネ16で同様の機能を発揮させることもできる。
【0090】
次に、
図3及び
図4を参照して第8実施形態に係る潜熱蓄熱体2の作用を説明する。なお、以下において潜熱蓄熱材料がNa
2SO
4−10H
2Oであり、NaClが凝固点降下剤として添加されており、膜部材Sとして1価イオン選択透過性陰イオン交換膜であるものとして説明する。
【0091】
まず、初夏において、潜熱蓄熱体2の潜熱蓄熱材料には凝固点降下剤が全量混ぜられて融点が20℃であり凝固点が18℃に調製されているとする。この場合において、潜熱蓄熱材料は、春季の冷熱や補助エアコン等により18℃以下に下げられて全量凝固している。この際、形状記憶合金バネ16は低温であるため柔らかくほとんど圧縮力を発揮していない。よって、連結ピストン13は圧縮バネ15によって一端側に付勢されて
図3に示す状態となっている。
【0092】
夏季の使用中に、潜熱蓄熱材料の外周部は徐々に融解していき、深夜電力等による床下冷房を併用している場合は夜間に再凝固するが、潜熱蓄熱材料の中心部(感温性機構10の周囲)は凝固したままで例えば20℃程度に保たれている。
【0093】
夏季の終わり頃に潜熱蓄熱材料は全量が溶解し、中心部も20℃より上がり始め、22℃になると第1形状記憶合金バネ16aは圧縮力を出し始めるが摩擦抵抗との関係から圧縮バネ15に打ち勝てず、連結ピストン13は動かない。
【0094】
秋季の温熱や補助エアコン等の暖房により潜熱蓄熱材料の中心部が26℃になると、第2形状記憶合金バネ16bも圧縮力を出し始める。この際、双方の形状記憶合金バネ16a,16bが圧縮バネ15に打ち勝ち、
図4に示すように連結ピストン13が他端側に移動する。
【0095】
この際、膜部材Sの内部空間の容積が増加することとなる。よって、1価イオン選択透過性陰イオン交換膜である膜部材Sを通してCl
−と水分とが第1スリーブ11内に引き込まれる。これにより、膜部材Sの外側において潜熱蓄熱材料に対する凝固点降下剤の濃度が下がり、相変化温度が上昇し、例えば融点が26℃に且つ凝固点が24℃に調整される。
【0096】
ここで、Cl
−と水分との第1スリーブ11内への引き込みが終わるとき(すなわち連結ピストン13が最大限に他端側に移動したとき)には連結ピストン13が浮動ピストン14を他端側に押し動かして、第1スリーブ11の一端側の開口11aを塞ぐ。このように、膜部材Sの内部空間の一部成分を第1スリーブ11内という特定空間に閉じ込めて、閉じ込めた成分が拡散の影響を受けることを防止している。すなわち、膜部材Sであるイオン交換膜は特定イオンと他のイオンとの透過速度が異なるに留まるものであるため、長時間経過すると拡散の影響により膜部材Sの内外で成分比率は均一化されてしまう。しかし、第1スリーブ11内に特定イオンを閉じ込めることで、拡散の影響を受けることなく、上昇した相変化温度を維持し易くすることができる。
【0097】
その後、潜熱蓄熱材料の温度が26℃を下回り始めると第2形状記憶合金バネ16bは圧縮力を失うが、第1形状記憶合金バネ16aが摩擦抵抗を利用して圧縮バネ15と釣り合っているため連結ピストン13は動かない。
【0098】
冬季の使用中に、潜熱蓄熱材料の外周部は徐々に凝固していき、深夜電力等による床下暖房を併用している場合は夜間には再溶解するが、潜熱蓄熱材料の中心部は溶解したままで例えば24℃程度に保たれている。
【0099】
冬季の終わり頃に潜熱蓄熱材料は全量が凝固し、中心部も24℃より下がり始める。第1スリーブ11内は凝固点降下剤が多くなっており、又は液相が残るように溶媒量が設定される等している。
【0100】
その後、潜熱蓄熱材料の中心部が22℃に達すると、第1形状記憶合金バネ16aも圧縮力を失い、
図3に示すように圧縮バネ15の圧縮力により連結ピストン13を一端側に移動させる。この際、周囲のシャーベットとなっている潜熱蓄熱材料は、第1スリーブ11の他端側の開口11bから第1スリーブ11内に引き込まれる。
【0101】
また、連結ピストン13が一端側に移動する際には、第1スリーブ11内に閉じ込められていた流体が浮動ピストン14を他端側に押し動かす。これにより、第1スリーブ11内に閉じ込められていたCl
−や水分が第1スリーブ11の開口11aから流出する。Cl
−や水分は、膜部材Sを透過して周囲の潜熱蓄熱材料を徐々に溶解しながら潜熱蓄熱材料の融点を20℃に且つ凝固点を18℃に調整する。なお、この反応は吸熱反応になるため、この温度帯にある程度の時間とどまるか、必要に応じて補助エアコン等で温度を保ちながら調整を完成させる。その際、26℃を上回らなければピストン13,14が逆に動いてしまうことはない。
【0102】
その後、潜熱蓄熱材料は、さらに例えば18℃まで冷えて再度凝固していく。
【0103】
なお、上記では陰イオンの透過だけを説明したが、等価となるカウンターイオンの透過も同時に必要で、この場合Na
+イオンを透過できる陽イオン交換膜も使用される。図示された膜部材Sはその半分が1価イオン選択透過性陰イオン交換膜、残り半分は陽イオン交換膜となる。
【0104】
また、膜部材Sはイオン交換膜に限らず、半透膜や分子ふるい膜であっても、成分材CMを半透膜用や分子ふるい膜に構成することで、上記と同様に動作させることができる。
【0105】
このようにして、第8実施形態に係る潜熱蓄熱体2によれば、第1実施形態と同様に、低温用の潜熱蓄熱材と高温用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる。また、夏季の夜間等に冷気を利用して相変化温度を低温設定にして低温用の潜熱蓄熱材料にし、冬季の深夜電力等を利用して温めることで相変化温度を高温設定にして高温用の潜熱蓄熱材料にすることができる。
【0106】
さらに、第8実施形態によれば、感温性機構10は、特定温度以上である場合と特定温度未満である場合とで、膜部材Sの内部空間の容積を変化させるため、膜部材Sを介して内部空間に進入するイオン等の量を変化させることができ、膜部材S外部の潜熱蓄熱材料の成分等を調整して、相変化温度を変化させることができる。
【0107】
また、第2スリーブ12内に配置されて特定温度未満で第2板材13bを他端側に付勢せず特定温度以上で第2板材13bを圧縮バネ15の付勢力に抗して他端側に付勢する形状記憶合金バネ16等を有する。このため、特定温度以上では第2板材13bを有する連結ピストン13が他端側に付勢され、第1板材13aが第1スリーブ11の他端側へ移動させられる。これにより、第1スリーブ11の一端側の開口11bから膜部材Sを介して成分等を導入することができ、膜部材Sの内部空間の容積を増加させることとなる。一方、特定温度未満では、第2板材13bを有する連結ピストン13が他端側に付勢されず圧縮バネ15によって第1板材13aが第1スリーブ11の一端側へ移動させられる。これにより、第1スリーブ11の他端側から第1スリーブ11内に潜熱蓄熱材料が導入されて、膜部材Sの内部空間の容積を減少させることとなる。以上により、膜部材Sの外部の潜熱蓄熱材料の成分等を調整して、相変化温度を変化させることができる。
【0108】
さらに、感温性機構10は、周囲温度が上昇傾向にあるときの特定温度(第2特定温度)と、周囲温度が下降傾向にあるときの特定温度(第1特定温度)とが異なった温度ヒステリシスを有したものであるため、中間的な温度から或る程度高く又は低くならないと、低温設定と高温設定とが切り替わらず、不用意な切替がない潜熱蓄熱体2を提供することができる。
【0109】
なお、第8実施形態に係る潜熱蓄熱体2は、第1スリーブ11及び第2スリーブ12を有した構造を示しているが、これに限らず、例えば箱型の骨組みの各面に膜部材Sを貼り付け、この内部に気液相変化材料が封入された袋体を備えていてもよい。これによっても、膜部材Sの内部における潜熱蓄熱材料等の量を増減させることができるからである。加えて、膜部材Sは内部空間を有する袋状に構成される場合に限らない。例えば膜部材Sは容器Cの外壁と共に閉じられた空間を形成して、容器Cの内部を仕切るものであってもよい。さらには、容器Cが傾いて使用されることがないものであれば、膜部材Sは各空間の上方が開放状態で容器C内を2つの空間に仕切るもの等であってもよい。
【0110】
次に、本発明の第9実施形態を説明する。第9実施形態に係る潜熱蓄熱体1は第1実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0111】
図5は、第9実施形態に係る潜熱蓄熱体3を示す概略構成図である。
図5に示すように、第9実施形態に係る潜熱蓄熱体3は、第1実施形態と同様に、容器C内に成分材CMを封入したものである。
【0112】
成分材CMは、潜熱蓄熱材料と、凝固点降下剤とを備えている。凝固点降下剤は、モル濃度が増加するに従って相変化温度を低下させるものであって、磁性を有して分散する成分を備えている。このような凝固点降下剤は、例えば特開2007−131608号公報等に記載の、アニオンとしてテトラクロロジスプロサートを持つ水溶性の磁性イオン液体、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロジスプロサートが挙げられる。このような水溶性のイオン液体は水中では電離したイオンとして分散しながらもアニオン(DyCl
4−)、カチオン(BMIM
+)が互いに近傍にある状態を保つと考えられるが、便宜上、以下では磁性を持つDyCl
4−について記述する。
【0113】
さらに、潜熱蓄熱体3は、感温性機構(感温性材料)20を備えている。
図6は、
図5に示した感温性機構20の詳細を示す拡大図である。
図6に示すように感温性機構20は、磁石(磁性素材、永久磁石)21と、台座22と、形状記憶合金バネ(感温素材)23と、圧縮バネ24と、ケース(隔壁)25とを備えている。
【0114】
磁石21は、台座22に搭載されるネオジム磁石等の永久磁石である。台座22は、筒部22aと底壁22bとを有して有底筒状とされた基部22cと、筒部22aのうち底壁22bが設けられていない開放側端部から筒径方向に広がるフランジ部22dとから構成されている。磁石21は、底壁22bに固着状態で搭載されている。
【0115】
形状記憶合金バネ23は、特定温度未満で圧縮力を発揮せず、特定温度以上で圧縮力を発揮して台座22を特定方向に押圧する部材である。より詳細に形状記憶合金バネ23は、筒部22aに内包されるように配置され、特定温度以上となった場合に圧縮を発揮して基部22cの底壁22bを基部22cの開放側から閉塞側に向かって(すなわち特定方向に)押圧する構成となっている。
【0116】
圧縮バネ24は、形状記憶合金バネ23と対抗して設けられて形状記憶合金バネ23と逆方向への圧縮力を発揮して台座22を押圧するものである。より詳細に圧縮バネ24は、筒部22aを内包するように筒部22aの外側に配置され、台座22のフランジ部22dを基部22cの閉塞側から開放側に向かって(すなわち特定方向と逆方向に)押圧する構成となっている。
【0117】
ケース25は、磁石21、台座22、形状記憶合金バネ23、及び圧縮バネ24を密閉収納する箱型部材であって、潜熱蓄熱材料が収納される空間と内部空間(特定空間)とを隔てる隔壁として機能するものである。上記した形状記憶合金バネ23は、ケース25の下壁25aと台座22の底壁22bとの間で圧縮力を発揮可能であり、圧縮バネ24は、ケース25の上壁25bと台座22のフランジ部22dとの間で圧縮力を発揮可能となっている。
【0118】
なお、第9実施形態においても形状記憶合金バネ23に代えて、特定温度以上で気体となり特定温度未満で液体となる気液相変化材料が封入された袋体が用いられてもよい。
【0119】
図7は、特定温度以上の場合における感温性機構20の状態を示す拡大図である。上述の
図6からも明らかなように、形状記憶合金バネ23(感温性機構20)の周囲温度(潜熱蓄熱材料の温度)が特定温度未満では形状記憶合金バネ23が圧縮状態となる。このため、フランジ部22dがケース25の下壁25aに接触状態となり、台座22の底壁22bに搭載される磁石21はケース25の中央付近(ケース25外の成分材CMから少なくとも所定距離以上離間した箇所)に位置する。一方、形状記憶合金バネ23の周囲温度が特定温度以上となると、
図7に示すように形状記憶合金バネ23が伸長状態となる。このため、磁石21はケース25の外壁近傍(上壁25bに接触又は近接)に位置することとなる。
【0120】
ここで、第9実施形態においても第8実施形態と同様に形状記憶合金バネ23は温度ヒステリシスを有するものであることが好ましく、同心円状に配置される2つの形状記憶合金バネ23a,23bによって構成されている。第1形状記憶合金バネ23aは、例えば22℃(第1特定温度)未満で圧縮状態となり22℃(第1特定温度)以上で伸長状態に移行しようとするものであり、第2形状記憶合金バネ23bは、例えば26℃(第2特定温度)未満で圧縮状態となり26℃(第2特定温度)以上で伸長状態に移行しようとするものである。2つの形状記憶合金バネ23a,23bそれぞれの圧縮力は、圧縮バネ24が発揮する圧縮力よりも僅かに弱く設定されている。なお、適切に設計すれば1つの形状記憶合金バネ23で同様の機能を発揮させることもできる点は第8実施形態と同様である。
【0121】
次に、
図6及び
図7を参照して第9実施形態に係る潜熱蓄熱体3の作用を説明する。
【0122】
まず、初夏において、潜熱蓄熱材料は春季の冷熱や補助エアコン等により例えば18℃以下に下げられて全量凝固している。この際、形状記憶合金バネ23は低温であるため柔らかくほとんど圧縮力を発揮していない。よって、台座22は圧縮バネ24によって特定方向反対側に付勢されて
図6に示す状態となっている。
【0123】
夏季の使用中に、潜熱蓄熱材料の外周部は徐々に融解していき、深夜電力等による床下冷房を併用している場合は夜間には再凝固するが、潜熱蓄熱材料の中心部(感温性機構20の周囲)は凝固したままで例えば20℃程度に保たれている。
【0124】
夏季の終わり頃に潜熱蓄熱材料は全量が溶解し、中心部も20℃より上がり始める。22℃になると第1形状記憶合金バネ23aは圧縮力を出し始めるが、第1形状記憶合金バネ23aの圧縮力は圧縮バネ24の圧縮力よりも僅かに小さく、台座22は動かない。
【0125】
秋季の温熱や補助エアコン等の暖房により潜熱蓄熱材料の中心部が26℃になると、第2形状記憶合金バネ23bも圧縮力を出し始める。この際、双方の形状記憶合金バネ23a,23bが圧縮バネ24に打ち勝ち、
図7に示すように台座22が特定方向に移動する。
【0126】
台座22が特定方向に移動すると、磁石21がケース25の外壁近傍に位置することとなる。このため、磁石21の磁力が潜熱蓄熱材料内の磁性を有した成分である四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)に作用する。これにより、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)は磁石21側に吸着された状態となり、潜熱蓄熱材料における磁石21の近傍を除く部分において凝固点降下剤の濃度が低下する。この結果、潜熱蓄熱材料の相変化温度が上昇し、例えば融点が26℃に且つ凝固点が24℃に調整される。
【0127】
その後、潜熱蓄熱材料の温度が26℃を下回り始めると第2形状記憶合金バネ23bは圧縮力を失う。しかし、第1形状記憶合金バネ23aが圧縮力を発揮していると共に、磁石21と四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)とが吸い付いた状態を維持する力も作用することから、台座22は動かない。
【0128】
冬季の使用中に、潜熱蓄熱材料の外周部は徐々に凝固していき、深夜電力等による床下暖房を併用している場合は夜間には再溶解するが、潜熱蓄熱材料の中心部は溶解したままで例えば24℃程度に保たれている。
【0129】
冬季の終わり頃に潜熱蓄熱材料は全量が凝固し、中心部も24℃より下がり始め、その後、潜熱蓄熱材料の中心部が22℃に達すると、第1形状記憶合金バネ23aも圧縮力を失い、
図6に示すように、圧縮バネ24はその圧縮力により台座22を特定方向反対側に移動させる。これにより、磁石21はケース25の中央付近に位置して、磁石21の磁力が四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)に作用し難くなる。よって、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)は潜熱蓄熱材料内において分散状態となり凝固点降下剤が潜熱蓄熱材料に対して適切に作用する。この結果、潜熱蓄熱材料の相変化温度が低下し、例えば融点が20℃に且つ凝固点が18℃に調整される。
【0130】
その後、潜熱蓄熱材料は、さらに例えば18℃まで冷えて再度凝固していく。
【0131】
このようにして、第9実施形態に係る潜熱蓄熱体3によれば、第1実施形態と同様に、低温用の潜熱蓄熱材と高温用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる。また、夏季の夜間等に冷気を利用して相変化温度を低温設定にして低温用の潜熱蓄熱材料にし、冬季の深夜電力等を利用して温めることで相変化温度を高温設定にして高温用の潜熱蓄熱材料にすることができる。
【0132】
さらに、第9実施形態によれば、磁石21を有し磁性を有する成分を吸着する状態と、当該成分を吸着させず潜熱蓄熱材料内で分散させる状態とで変移するため、吸着時と分散時とで感温性機構20の周辺を除く領域での凝固点降下剤の濃度を変化させて、相変化温度を変化させることができる。
【0133】
また、特定温度以上において磁石21がケース25の外壁近傍に位置するため、磁石21の磁力が及び易くなり凝固点降下剤の磁性を有した成分をケース25の外壁に吸着させることができる。一方、特定温度未満においては磁石21をケース25の中央付近に位置させるため、磁石21の磁力が及び難くなり凝固点降下剤の磁性を有した成分をケース25の外壁に吸着させず分散させることができる。これにより、ケース25の外壁の周辺を除く領域での凝固点降下剤の濃度を変化させて、相変化温度を変化させることができる。
【0134】
また、磁石21が磁性を有した成分を吸着したときに両者が磁力によって吸い付いた状態を維持する力を利用して、周囲温度が上昇傾向にあるときの特定温度(第2特定温度)と、周囲温度が下降傾向にあるときの特定温度(第1特定温度)とが異なった温度ヒステリシスを有するため、中間的な温度より或る程度高く又は低くならないと、低温設定と高温設定とが切り替わらず、不用意な切替がない冷暖房により適した潜熱蓄熱体3を提供することができる。
【0135】
次に、本発明の第10実施形態を説明する。第10実施形態に係る潜熱蓄熱体4は第9実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第9実施形態との相違点を説明する。
【0136】
図8は、第10実施形態に係る潜熱蓄熱体4を示す概略構成図である。
図8に示すように、第10実施形態に係る潜熱蓄熱体4は、第9実施形態と同様に、容器C内に成分材CMを封入したものである。成分材CMは、第9実施形態と同様に潜熱蓄熱材料と、磁性を有して分散する成分を有した凝固点降下剤とを備えている。以下では磁性を持つ成分をDyCl
4−として説明する。
【0137】
さらに、潜熱蓄熱体4は、感温性機構(感温性材料)30を備えている。
図9は、
図8に示した感温性機構30の詳細を示す分解透視斜視図である。
図9に示すように感温性機構30は、磁石(磁性素材、永久磁石)31と、感温性軟磁性体スリーブ(感温性軟磁性体)32と、2つの軟鉄板33と、中空容器34とを備えている。
【0138】
磁石31は、ネオジム磁石等の円柱形の永久磁石である。感温性軟磁性体スリーブ32は、キュリー温度(特定温度(例えば24℃))以上で非磁性体となりキュリー温度未満で磁性体となる筒状の感温性軟磁性体である。磁石31は、筒状の感温性軟磁性体スリーブ32内に包囲されるように配置される。なお、感温性軟磁性体としては、NECトーキン社製のMn−Zn系フェライトやサーモライト(登録商標)が挙げられる。また、感温性軟磁性体スリーブ32の飽和磁束は磁石31の磁束以上に設定されている。
【0139】
2つの軟鉄板33は、例えば軟鉄によって構成された磁性板材であって、感温性軟磁性体スリーブ32の両端を閉塞するように配置されるものである。これらの軟鉄板33は、感温性軟磁性体スリーブ32の内壁よりも大径とされ、感温性軟磁性体スリーブ32の筒外側から筒両端を閉塞するように配置される。
【0140】
中空容器34は、樹脂やオーステナイト系ステンレス等の非磁性体によって構成された中空円柱容器であって、内部に磁石31、感温性軟磁性体スリーブ32、及び2つの軟鉄板33が収納されてこれらを覆う構成となっている。
【0141】
次に、
図10を参照して第10実施形態に係る潜熱蓄熱体4の作用を説明する。
図10は、第10実施形態に係る潜熱蓄熱体4の作用を説明する状態図であり、(a)はキュリー温度未満の状態を示し、(b)はキュリー温度以上の状態を示している。
【0142】
まず、初夏において、潜熱蓄熱材料は春季の冷熱や補助エアコン等により例えば18℃以下に下げられて全量凝固しており、感温性軟磁性体スリーブ32は低温であるため磁性体として働く。この場合、磁石31は磁性体となった感温性軟磁性体スリーブ32と軟鉄板33とによって囲まれることとなり、磁力は中空容器34外に作用し難くなる。よって、
図10(a)に示すように、中空容器34には四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)が吸着せず、凝固点降下剤が潜熱蓄熱材料内に分散して、潜熱蓄熱材料の相変化温度が低下した状態となる。この結果、潜熱蓄熱材料は、例えば融点が20℃に且つ凝固点が18℃にされる。
【0143】
夏季の使用中に、潜熱蓄熱材料の外周部は徐々に融解していき、深夜電力等による床下冷房を併用している場合は夜間には再凝固するが、潜熱蓄熱材料の中心部(感温性機構30の周囲)は凝固したままで例えば20℃程度に保たれている。
【0144】
夏季の終わり頃に潜熱蓄熱材料は全量が溶解し、中心部も20℃より上がり始める。その後、秋季の温熱や補助エアコン等の暖房により潜熱蓄熱材料の中心部が24℃以上になると、感温性軟磁性体スリーブ32は非磁性体として働く。このため、磁石31は磁性体によって囲まれることなく、軟鉄板33を通じて磁力が中空容器34外に作用する。これにより、
図10(b)に示すように、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)は中空容器34側に吸着された状態となり、潜熱蓄熱材料における中空容器34の近傍を除く部分において凝固点降下剤の濃度が低下する。この結果、潜熱蓄熱材料の相変化温度が上昇し、例えば融点が26℃に且つ凝固点が24℃に調整される。
【0145】
その後、冬季の使用中に、潜熱蓄熱材料の外周部は徐々に凝固していき、深夜電力等による床下暖房を併用している場合は夜間には再溶解するが、潜熱蓄熱材料の中心部は溶解したままで例えば26℃程度に保たれている。
【0146】
冬季の終わり頃に潜熱蓄熱材料は全量が凝固し、中心部も24℃より下がり始め、感温性軟磁性体スリーブ32は磁性体として働き始める。これにより、磁石31は磁性体となった感温性軟磁性体スリーブ32と軟鉄板33とによって囲まれることとなり、
図10(a)に示すように中空容器34に四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)が吸着せず、凝固点降下剤が潜熱蓄熱材料内に分散して、潜熱蓄熱材料の相変化温度が低下した状態となる。この結果、潜熱蓄熱材料は、例えば融点が20℃に且つ凝固点が18℃に調整される。
【0147】
その後、潜熱蓄熱材料は、さらに例えば18℃まで冷えて再度凝固していく。
【0148】
このようにして、第10実施形態に係る潜熱蓄熱体4によれば、第9実施形態と同様に、低温用の潜熱蓄熱材と高温用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる。また、夏季の夜間等に冷気を利用して相変化温度を低温設定にして低温用の潜熱蓄熱材料にし、冬季の深夜電力等を利用して温めることで相変化温度を高温設定にして高温用の潜熱蓄熱材料にすることができる。また、磁石31を有し磁性を有する成分を吸着する状態と、当該成分を吸着させず潜熱蓄熱材料内で分散させる状態とで変移するため、吸着時と分散時とで感温性機構30の周辺を除く領域での凝固点降下剤の濃度を変化させて、相変化温度を変化させることができる。
【0149】
さらに、第10実施形態によれば、磁石31を包囲すると共にキュリー温度以上で非磁性体となりキュリー温度未満で磁性体となる筒状の感温性軟磁性体である感温性軟磁性体スリーブ32と、感温性軟磁性体スリーブ32の両端を閉塞すると共に感温性軟磁性体スリーブ32の内壁よりも大径な2枚の軟鉄板33を有する。このため、キュリー温度
未満では磁石31が磁性体によって囲まれることから磁力が外に出ずに、凝固点降下剤の磁性を有した成分を中空容器34に吸着させない。一方、キュリー温度
以上では磁石31が磁性体によって囲まれることなく磁力が2枚の軟鉄板33を介して中空容器34の外に出ることとなり、凝固点降下剤の磁性を有した成分を中空容器34に吸着させることとなる。これにより、中空容器34の周辺を除く領域での凝固点降下剤の濃度を変化させて、相変化温度を変化させることができる。
【0150】
次に、本発明の第11実施形態を説明する。第11実施形態に係る潜熱蓄熱体4は第10実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第10実施形態との相違点を説明する。
【0151】
図11は、第11実施形態に係る感温性機構30を示す分解透視斜視図である。
図11に示すように、第11実施形態に係る感温性機構30は、第10実施形態に示した構成に加えて、第2感温性軟磁性体スリーブ(感温性軟磁性体)35を備え、温度ヒステリシスを有する構造となっている。
【0152】
第2感温性軟磁性体スリーブ35は、感温性軟磁性体スリーブ32を包囲すると共に、キュリー温度(特定温度:例えば22℃)よりも高い第2キュリー温度(第2特定温度:例えば26℃)以上で非磁性体となり第2キュリー温度未満で磁性体となる筒状の感温性軟磁性体である。感温性軟磁性体スリーブ32及び第2感温性軟磁性体スリーブ35のそれぞれは、飽和磁束が磁石31の半分程度に設定されている。
【0153】
次に、
図12を参照して第10実施形態に係る潜熱蓄熱体4の作用を説明する。
図12は、第10実施形態に係る潜熱蓄熱体4の作用を説明する状態図であり、(a)はキュリー温度未満の状態を示し、(b)はキュリー温度以上第2キュリー温度未満の状態を示し、(c)は第2キュリー温度以上の状態を示している。
【0154】
まず、初夏において、潜熱蓄熱材料は春季の冷熱や補助エアコン等により例えば18℃以下に下げられて全量凝固しており、感温性軟磁性体スリーブ32及び第2感温性軟磁性体スリーブ35は共に磁性体として働く。この際、磁石31は磁性体となった感温性軟磁性体スリーブ32及び第2感温性軟磁性体スリーブ35と軟鉄板33とによって囲まれることとなり、磁力は中空容器34外に作用し難くなる。よって、
図12(a)に示すように、中空容器34に四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)が吸着せず、凝固点降下剤が潜熱蓄熱材料内に分散して、潜熱蓄熱材料の相変化温度が低下した状態となる。この結果、潜熱蓄熱材料は、例えば融点が20℃に且つ凝固点が18℃にされる。
【0155】
夏季の使用中に、潜熱蓄熱材料の外周部は徐々に融解していき、深夜電力等による床下冷房を併用している場合は夜間には再凝固するが、潜熱蓄熱材料の中心部(感温性機構20の周囲)は凝固したままで例えば20℃程度に保たれている。
【0156】
夏季の終わり頃に潜熱蓄熱材料は全量が溶解し、中心部も20℃より上がり始める。22℃になると感温性軟磁性体スリーブ32は非磁性体として働く。ここで、第2感温性軟磁性体スリーブ35の飽和磁束が磁石31の半分程度に設定されていることから、
図12(b)に示すように磁石31の半分程度の磁束が中空容器34外に作用する。しかし、この際の磁力は周囲から新たに四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)を吸着させるほど大きいものではなく、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)は潜熱蓄熱材料内に分散した状態にある。
【0157】
秋季の温熱や補助エアコン等の暖房により潜熱蓄熱材料の中心部が26℃になると、第2感温性軟磁性体スリーブ35も非磁性体として働く。これにより、磁石31は磁性体によって囲まれることなく、軟鉄板33を通じて磁力が中空容器34外に作用する。これにより、
図12(c)に示すように、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)は中空容器34側に吸着された状態となり、潜熱蓄熱材料における中空容器34の近傍を除く部分において凝固点降下剤の濃度が低下する。この結果、潜熱蓄熱材料の相変化温度が上昇し、例えば融点が26℃に且つ凝固点が24℃に調整される。
【0158】
その後、潜熱蓄熱材料の温度が26℃を下回り始めると第2感温性軟磁性体スリーブ35が磁性体として働く。このため、
図12(b)に示すように磁石31の半分程度の磁束が中空容器34外に作用する。この磁力は周囲から新たに四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)を吸着させるほど大きいものではないが、すでに吸着済みの四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)の位置を維持するには充分である。このため、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)は潜熱蓄熱材料内に分散せず、潜熱蓄熱材料の相変化温度は高いままである。
【0159】
冬季の使用中に、潜熱蓄熱材料の外周部は徐々に凝固していき、深夜電力等による床下暖房を併用している場合は夜間には再溶解するが、潜熱蓄熱材料の中心部は溶解したままで例えば24℃程度に保たれている。
【0160】
冬季の終わり頃に潜熱蓄熱材料は全量が凝固し、中心部も24℃より下がり始め、その後、潜熱蓄熱材料の中心部が22℃に達すると、感温性軟磁性体スリーブ32が磁性体として働き始める。これにより、磁石31は磁性体となった感温性軟磁性体スリーブ32及び第2感温性軟磁性体スリーブ35と軟鉄板33とによって囲まれることとなり、
図12(a)に示すように中空容器34に四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)が吸着せず、凝固点降下剤が潜熱蓄熱材料内に分散して、潜熱蓄熱材料の相変化温度が低下した状態となる。この結果、潜熱蓄熱材料は、例えば融点が20℃に且つ凝固点が18℃に調整される。
【0161】
その後、潜熱蓄熱材料は、さらに例えば18℃まで冷えて再度凝固していく。
【0162】
このようにして、第11実施形態に係る潜熱蓄熱体4によれば、第10実施形態と同様に、低温用の潜熱蓄熱材と高温用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる。また、夏季の夜間等に冷気を利用して相変化温度を低温設定にして低温用の潜熱蓄熱材料にし、冬季の深夜電力等を利用して温めることで相変化温度を高温設定にして高温用の潜熱蓄熱材料にすることができる。また、磁石31を有し磁性を有する成分を吸着する状態と、当該成分を吸着させず潜熱蓄熱材料内で分散させる状態とで変移するため、吸着時と分散時とで感温性機構30(中空容器34)の周辺を除く領域での凝固点降下剤の濃度を変化させて、相変化温度を変化させることができる。
【0163】
さらに、第11実施形態によれば、キュリー温度(特定温度)未満において感温性軟磁性体スリーブ32及び第2感温性軟磁性体スリーブ35の双方が磁性体となって磁性を有した成分を吸着せず、第2キュリー温度(第2特定温度)以上において双方が非磁性体となって磁性を有した成分を吸着させ、キュリー温度(特定温度)以上第2キュリー温度(第2特定温度)未満においては周囲に分散された磁性を有した成分を吸着できないが既に吸着済みの磁性を有した成分については吸着を維持する。このため、周囲温度が上昇傾向にあるときには、第2キュリー温度(第2特定温度)に達すると磁性を有した成分を吸着させ、周囲温度が下降傾向にあるときには、キュリー温度(特定温度)に達すると磁性を有した成分を吸着させず潜熱蓄熱材料内で分散させる。よって、キュリー温度(特定温度)と第2キュリー温度(第2特定温度)とで温度ヒステリシスを有したものとでき、中間的な温度より或る程度高く又は低くならないと低温設定と高温設定とが切り替わらず、不用意な切替がない潜熱蓄熱体4を提供することができる。
【0164】
次に、本発明の第12実施形態を説明する。第12実施形態に係る潜熱蓄熱体5は第1実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0165】
図13は、第12実施形態に係る潜熱蓄熱体5を示す構成図であり、(a)は全体構成図であり、(b)は一部構成図である。
図13(a)に示すように、第12実施形態に係る潜熱蓄熱体5は、複数の容器C内に成分材CMが封入されている。成分材CMは、潜熱蓄熱材料と凝固点降下剤とを備えて構成されている。凝固点降下剤は、第9及び第10実施形態に示したものと同様にモル濃度が増加するに従って相変化温度を低下させるものであって、磁性を有して分散する成分を有したものである。なお、容器C及び成分材CMは透明性材料によって構成されている。
【0166】
さらに、潜熱蓄熱体5は、2枚の板材40と、周端部材50と、感温性機構60(
図13(b)参照)とを備えている。2枚の板材40は、互いに略平行配置される透明性の板材である。これらの板材40は例えばガラス材によって構成されている。周端部材50は、2枚の板材40の周端部において2枚の板材40の間に介在するものである。2枚の板材40の周端部に周端部材50が設けられることによって、2枚の板材40と周端部材50とによって閉じられた内部空間が形成される。複数の容器Cはその内部空間に上下方向に配列されている。
【0167】
以上のような構成により、第12実施形態に係る潜熱蓄熱体5は窓として利用可能となっている。なお、第12実施形態では窓(開閉の可否を問わない)として適用可能な潜熱蓄熱体5を例に説明するが、潜熱蓄熱体5は窓に適用されるものに限らず、窓として機能しない外壁材等であってもよいし、天井や床下等に用いられてもよい。また、以下では第1板材40aが室内側であり第2板材40bが室外側であるとする。
【0168】
感温性機構60は、
図13(a)及び(b)に示すように、上プーリ61aと、下プーリ61bと、ラダーコード(コード)62と、形状記憶合金バネ63と、グリスケース64と、伝熱グリスGと、磁石筒65と、磁石(磁性素材)66とを備えている。
【0169】
上プーリ61aは潜熱蓄熱体5の上部側に設けられた滑車部材であり、下プーリ61bは潜熱蓄熱体5の下部側に設けられた滑車部材である。ラダーコード62は、上プーリ61a及び下プーリ61bに対して掛け回された無端状の紐部材である。
【0170】
形状記憶合金バネ63は、周囲温度(一方の板材40aの温度)に応じて伸縮可能な部材である。この形状記憶合金バネ63は、下端側がラダーコード62に接続されており、グリスケース64内に収納されている。なお、形状記憶合金バネ63の上端側は、例えば周端部材50等の他部材に接続されている。また、グリスケース64の内部は伝熱グリスGが充填されている。グリスケース64は一方の板材40aに接触して設けられている。
【0171】
磁石筒65は、内壁に磁石66が取り付けられた筒体である。この磁石筒65は、その両側(第1板材40a側及び第2板材40b側の双方)がラダーコード62に接続されており、磁石66は磁石筒65を介してラダーコード62に連結された状態となっている。また、磁石筒65は、
図13(a)に示すように、容器C内の上部側に配置されている。さらに、容器Cは、その上部が気相となっている。このため、潜熱蓄熱材料が液相状態である場合に、磁石筒65の下半分は潜熱蓄熱材料に漬かっており上半分は潜熱蓄熱材料に漬かっていない状態となっている。
【0172】
次に、
図13及び
図14を参照して第12実施形態に係る潜熱蓄熱体5の作用を説明する。
図14は、第12実施形態に係る潜熱蓄熱体5の作用を説明する状態図であり、(a)は特定温度未満の状態を示し、(b)は特定温度以上の状態を示している。なお、以下では周囲温度が特定温度以上であるときに高温設定となり周囲温度が特定温度未満であるときに低温設定となる潜熱蓄熱体5を床下に備える場合を例に説明する。なお、本実施形態はこれに限らず、磁石筒65に対する磁石66の位置を
図14に示す例と反対にすることにより、周囲温度が特定温度以上であるときに低温設定となり周囲温度が特定温度未満であるときに高温設定となる潜熱蓄熱体5とすることもできる。
【0173】
まず、室温が特定温度未満であると、形状記憶合金バネ63は弛緩状態(伸びた状態)となる。すなわち、低めの室温が第1板材40a、グリスケース64、及び伝熱グリスGを介して形状記憶合金バネ63に伝わることにより、形状記憶合金バネ63は弛緩状態となる。形状記憶合金バネ63が弛緩状態となると、例えば
図14(a)に示すように、磁石筒65の磁石66が潜熱蓄熱材料の液面LSよりも下方に位置する。この場合、磁石66は潜熱蓄熱材料に近接して、その磁力が潜熱蓄熱材料内の磁性を有した成分である四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)に作用する。このため、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)は磁石66側に吸着した状態となり、潜熱蓄熱材料における磁石66の近傍を除く部分において凝固点降下剤の濃度が低下する。この結果、潜熱蓄熱材料の相変化温度を例えば26℃程度の高めにすることができる。
【0174】
一方、室温が特定温度以上になるとすると、形状記憶合金バネ63は緊張状態(縮んだ状態)となる。すなわち、高めの室温が第1板材40a、グリスケース64、及び伝熱グリスGを介して形状記憶合金バネ63に伝わることにより、形状記憶合金バネ63は緊張状態となる。形状記憶合金バネ63が緊張状態となると、形状記憶合金バネ63がラダーコード62を引っ張ることとなる。この結果、例えば
図14(b)に示すように、磁石筒65の磁石66が潜熱蓄熱材料の液面LSよりも上方に位置する。この場合、磁石66は潜熱蓄熱材料から離間して、その磁力が潜熱蓄熱材料内の磁性を有した成分である四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)に作用し難くなる。このため、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)は磁石66側に偏在することなく潜熱蓄熱材料内で分散した状態となる。これにより、潜熱蓄熱材料において凝固点降下剤が適切に作用して、潜熱蓄熱材料の相変化温度を例えば18℃程度の低めにすることができる。
【0175】
このようにして、第12実施形態に係る潜熱蓄熱体5によれば、第1実施形態と同様に、低温用の潜熱蓄熱材と高温用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる。また、夏季の夜間等に冷気を利用して相変化温度を低温設定にして低温用の潜熱蓄熱材料にし、冬季の深夜電力等を利用して温めることで相変化温度を高温設定にして高温用の潜熱蓄熱材料にすることができる。さらに、例えば冬季になり周囲温度が特定温度未満となったときに高温用の潜熱蓄熱材料にし、夏季になり周囲温度が特定温度以上となったときに低温用の潜熱蓄熱材料にすることもできる。また、磁石66を有し磁性を有する成分を吸着する状態と、当該成分を吸着させず潜熱蓄熱材料内で分散させる状態とで変移するため、吸着時と分散時とで磁石筒65の周辺を除く領域での凝固点降下剤の濃度を変化させて、相変化温度を変化させることができる。
【0176】
さらに、第12実施形態によれば、特定温度未満で弛緩状態となり特定温度以上で緊張状態となる形状記憶合金バネ63を有し、特定温度以上であるか否かに応じてラダーコード62を通じて磁石66を容器C内の潜熱蓄熱材料に近づけた状態と離間させた状態とで動作させるため、近づけた状態においては凝固点降下剤の磁性を有した成分を磁石66に吸着させ、離間させた状態においては凝固点降下剤の磁性を有した成分を磁石66に吸着させずに潜熱蓄熱材料内で分散させる。これにより、潜熱蓄熱材料内で凝固点降下剤を偏在させて、相変化温度を変化させることができる。
【0177】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能な範囲で適宜異なる実施形態同士の技術を組み合わせてもよい。さらに、可能な範囲で公知又は周知の技術を組み合わせてもよい。
【0178】
例えば、上記実施形態では磁性を有した成分の一例として凝固点降下剤の四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl
4−)を示しているが、特に凝固点降下剤に限らず、可能であれば潜熱蓄熱材料を構成する成分が磁性を有するものであってもよい。磁性を有した成分は、潜熱を発生する成分や、融点・凝固点調整剤だけではなく、例えば分散剤や核形成剤等であってもよい。
【0179】
さらに、上記の種々の実施形態において成分材CM内の水とは、潜熱蓄熱材料が水和物であるときの潜熱蓄熱材料の一部としての水和水であってもよいし、潜熱蓄熱材料とは別に存在する水であってもよく、上記の実施形態に示した作用を奏するのであれば、潜熱蓄熱材料の一部であるか否かを問うものではない。