(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第二電気めっき工程における該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に対する前記給電は、第一電気めっき工程で第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき液に最初に接触してから5秒以上経過した後に開始される請求項1に記載の電気めっき方法。
第一電気めっき工程において厚さ0.1μm以上の電気めっき被膜を該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に形成する請求項1又は2に記載の電気めっき方法。
金属製エレメントは亜鉛を含有する金属であり、第一電気めっき工程及び第二電気めっき工程における各めっき液はノンシアン銅めっき液である請求項1〜3の何れか一項に記載の電気めっき方法。
前記ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器(110a)内及び第二の絶縁性容器(110b)内の少なくとも一方を上昇しながら通過する請求項1〜5の何れか一項に記載の電気めっき方法。
前記ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器(110a)内及び第二の絶縁性容器(110b)内の少なくとも一方を鉛直方向に上昇しながら通過する請求項6に記載の電気めっき方法。
第一電気めっき工程においては、該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器(110a)内を通過中に、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第一の絶縁性容器(110a)内の前記複数の導電性媒体(111)に接触させることにより給電し、
第二電気めっき工程においては、該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器(110b)内を通過中に、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第二の絶縁性容器(110b)内の前記複数の導電性媒体(111)に接触することにより給電する請求項1〜7の何れか一項に記載の電気めっき方法。
該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器(110a)内及び第二の絶縁性容器(110b)内を通過する速度がそれぞれ1m/分〜15m/分である請求項1〜10の何れか一項に記載の電気めっき方法。
該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき槽(201)中のめっき液に最初に接触する地点から、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第二の絶縁性容器(110b)内の導電性媒体(111)に最初に接触する入口(114b)側の地点までの、該ファスナーチェーンの通過距離が40〜90cmとなるように構成されている請求項12に記載の電気めっき装置。
該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき槽(201)中のめっき液に最初に接触する地点から、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器(110a)内の導電性媒体(111)に最初に接触する入口(114a)側の地点までの、ファスナーチェーンの通過距離Aと、
該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器(110a)内の導電性媒体(111)に最初に接触する入口(114a)側の地点から、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器(110a)内の導電性媒体(111)に最後に接触する出口側(115a)の地点までのファスナーチェーンの通過距離Bとが、
A/B≦0.5の関係を満たす請求項12又は13に記載の電気めっき装置。
該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器(110a)内の導電性媒体(111)に最初に接触する入口(114a)側の地点から、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器(110a)内の導電性媒体(111)に最後に接触する出口(115a)側の地点までのファスナーチェーンの通過距離Bと、
該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器(110a)内の導電性媒体(111)に最後に接触する出口(115a)側の地点から、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第二の絶縁性容器(110b)内の導電性媒体(111)に最初に接触する入口(114b)側の地点までのファスナーチェーンの通過距離Cとが、
C/B≦1.5の関係を満たす請求項12〜14の何れか一項に記載の電気めっき装置。
第一の絶縁性容器(110a)から出た該ファスナーチェーンの第一の主表面と第二の主表面の位置関係を反転させてから該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器(110b)に入るように構成されている請求項12〜15の何れか一項に記載の電気めっき装置。
第一の絶縁性容器(110a)は、入口(114a)と出口(115a)を繋ぎ、該ファスナーチェーンの走行経路を案内する通路(112)、及び複数の導電性媒体(111)を流動可能に収容する収容部(113)を内部に有し、
該通路(112)は前記ファスナーチェーンの第一の主表面側と対向する側の路面(112a)に前記複数の導電性媒体(111)へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口(117)と、前記ファスナーチェーンの第二の主表面側と対向する側の路面(112b)にめっき液が連通可能な一つ又は二つ以上の開口(116)とを有し、
第二の絶縁性容器(110b)は、入口(114b)と出口(115b)を繋ぎ、該ファスナーチェーンの走行経路を案内する通路(112)、及び複数の導電性媒体(111)を流動可能に収容する収容部(113)を内部に有し、
該通路(112)は前記ファスナーチェーンの第二の主表面側と対向する側の路面(112a)に前記複数の導電性媒体(111)へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口(117)と、前記ファスナーチェーンの第一の主表面側と対向する側の路面(112b)にめっき液が連通可能な一つ又は二つ以上の開口(116)とを有する、
請求項12〜16の何れか一項に記載の電気めっき装置。
第一の絶縁性容器(110a)及び第二の絶縁性容器(110b)はそれぞれ、入口(114a、114b)の上方に出口(115a、115b)を有する請求項17に記載の電気めっき装置。
第一の絶縁性容器(110a)及び第二の絶縁性容器(110b)はそれぞれ、入口(114a、114b)の鉛直上方に出口(115a、115b)を有する請求項18に記載の電気めっき装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
給電ドラム方式では給電ドラムとエレメントの接触が不均一となり易いため、めっき被膜が形成されていないエレメントをなくすために給電ドラムを多数用意して接触を繰り返す必要があった。このため、めっき装置が大がかりとなり、装置価格も高額となる。
【0012】
また、給電ドラムとの接触を多数繰り返すと、めっき被膜の厚みのばらつきが大きくなるという問題が生じていた。めっき被膜の厚みのばらつきが大きくなると、外観上は均一な色調に見えるが、めっきの種類に応じた耐食性、耐磨耗性、耐変色性等の品質がエレメント毎に異なり、めっき被膜の薄いエレメントから順に劣化してしまう。また、めっき被膜の厚みが大きく異なると、スライダーを操作するときの摺動抵抗が一定せず、ユーザに対して違和感を生じさせることになる。このため、エレメント上のめっき被膜の厚みのばらつきの大きい金属ファスナーは高品質の金属ファスナーということはできない。
【0013】
また、バレルめっきの場合、バレル内で多数のエレメントが回転中にエレメント同士が噛み合う危険がある。めっきプロセスの最後まで噛み合っていれば不良として排除できるが、噛み合いが途中で外れた場合は、その噛み合っていた部分の膜厚は薄くなる。このため、設計通りに均一性の高いめっき被膜を形成することは難しい。また、バレルめっきの場合、エレメント全面にめっき被膜が形成されるため、ファスナーテープへ植え付け後には隠れて見えないエレメントの表面部分にもめっきが形成されていることになり、めっき液を無駄に消費することとなる。更には、エレメントをめっきしてからファスナーテープに植え付けると、エレメントの加締め工程でエレメントが変形してめっき皮膜にクラックが入りやすくなる。クラックが入ると外観が悪くなり、そのクラックからの変色も起きやすくなる。
【0014】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、エレメント同士が予め電気的に接続されていなくても、金属ファスナーの個々のエレメントの露出面に対して簡便に均一性及び密着性に優れためっき被膜を形成することができる電気めっき方法を提供することを課題の一つとする。また、本発明はそのような電気めっき方法を実施するのに好適な電気めっき装置を提供することを別の課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明者等が鋭意検討したところ、ファスナーチェーンをめっき液中で走行させている間に、ファスナーチェーンに固定されているそれぞれの金属製エレメントを、流動可能に収容された複数の導電性媒体に接触させ、該導電性媒体を介して通電する手法が有効であることを見出した。そして、金属製エレメントを導電性媒体に接触させる際には、導電性媒体はファスナーチェーンの第一の主表面側に配置しつつ第二の主表面側には導電性媒体を配置せず金属製エレメントとめっき液との接触を確保することで、第二の主表面側のエレメント表面にめっき被膜が高い均一性で成長することを見出した。すなわち、金属製エレメントをファスナーテープを挟んで片面毎にめっきすることで個々のエレメントへの給電を確実に行うことができることを見出した。
【0016】
この方法では、第二の主表面側に露出したエレメントの表面に電気めっき被膜を形成中には、第一の主表面側に露出したエレメントの表面には基本的にめっき被膜は成長しない。しかしながら、めっき液の成分及び金属製エレメントの材質によっては第一の主表面側に露出したエレメントの表面に置換めっきが生じる場合がある。つまり、片面毎にめっきをする場合、第一の主表面側に露出したエレメントはめっき液との接触を開始してから電気めっきを受けるまでに待機時間があるため、この待機時間の間に置換めっきが発生する可能性がある。無電解めっきの一種である置換めっきは電気めっきに比べて密着性が低い。このため、第一の主表面側に露出したエレメントの表面に置換めっきが生じると、その後に第一の主表面側に露出したエレメントの表面に電気めっき被膜を形成しても得られためっき被膜の密着性が低くなってしまう。よって、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出したエレメントの表面を電気めっき中には第一の主表面側に露出したエレメントの表面に置換めっきを生じさせないことが望ましい。
【0017】
本発明者は置換めっきを防止するための手法について検討したところ、第二の主表面側に露出したエレメントの表面への最初の電気めっきを出来る限り速やかに終了して、第一の主表面側に露出したエレメントの表面への最初の電気めっきを開始することが効果的であることを見出した。ひとたび薄い電気めっき皮膜がエレメント表面に形成されれば、置換めっきの問題は解消されることから、その後は片面毎の電気めっき時間を気にする必要はない。一方のエレメント表面がめっき液との接触を開始してから当該表面に対して最初に電気めっきが開始されるまでの待機時間が重要となる。
【0018】
上記知見を基礎として完成した本発明は以下のように例示される。
[1]
金属製エレメントの列を有するファスナーチェーンの電気めっき方法であって、
A.各金属製エレメントがめっき槽中のめっき液に接触した状態で、陰極に電気的に接触した複数の導電性媒体が流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第一の絶縁性容器内を該ファスナーチェーンが通過する工程を含み、
該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内を通過中に、主として該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第一の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させることにより給電し、
第一の陽極を該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で設置する、
第一電気めっき工程と、
B.第一電気めっき工程の後、各金属製エレメントがめっき槽中のめっき液に接触した状態で、陰極に電気的に接触した複数の導電性媒体が流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第二の絶縁性容器内を該ファスナーチェーンが通過する工程を更に含み、
該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器内を通過中に、主として該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第二の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させることにより給電し、
第二の陽極を該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で設置する、
第二電気めっき工程とを含み、
第二電気めっき工程における該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に対する前記給電は、第一電気めっき工程で第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき液に最初に接触してから30秒以内に開始される電気めっき方法。
[2]
第二電気めっき工程における該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に対する前記給電は、第一電気めっき工程で第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき液に最初に接触してから5秒以上経過した後に開始される[1]に記載の電気めっき方法。
[3]
第一電気めっき工程において厚さ0.1μm以上の電気めっき被膜を該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に形成する[1]又は[2]に記載の電気めっき方法。
[4]
金属製エレメントは亜鉛を含有する金属であり、第一電気めっき工程及び第二電気めっき工程における各めっき液はノンシアン銅めっき液である[1]〜[3]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[5]
第一電気めっき工程及び第二電気めっき工程における各めっき液は貴金属めっき液である[1]〜[3]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[6]
前記ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内の少なくとも一方を上昇しながら通過する[1]〜[5]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[7]
前記ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内の少なくとも一方を鉛直方向に上昇しながら通過する[6]に記載の電気めっき方法。
[8]
第一電気めっき工程においては、該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内を通過中に、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第一の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させることにより給電し、
第二電気めっき工程においては、該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器内を通過中に、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第二の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触することにより給電する[1]〜[7]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[9]
導電性媒体が球状である[1]〜[8]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[10]
導電性媒体の直径が2〜10mmである[1]〜[9]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[11]
該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を通過する速度がそれぞれ1m/分〜15m/分である[1]〜[10]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[12]
金属製エレメントの列を有するファスナーチェーンの電気めっき装置であって、
めっき液を収容可能なめっき槽と、
めっき槽中に配置された第一の陽極と、
めっき槽中に配置された第二の陽極と、
めっき槽中に配置され、且つ、複数の導電性媒体が陰極に電気的に接触した状態で流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第一の絶縁性容器と、
めっき槽中に配置され、且つ、複数の導電性媒体が陰極に電気的に接触した状態で流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第二の絶縁性容器と、
を備え、
第一の絶縁性容器は、主として該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第一の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させながら、該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内を入口から出口まで通過することが可能なように構成されており、
第一の陽極は、該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器を通過する際に、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で設置されており、
第二の絶縁性容器は、第一の絶縁性容器の後段に設置されており、主として該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第二の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させながら、該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器内を入口から出口まで通過することが可能なように構成されており、
第二の陽極は、該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器を通過する際に、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で設置されており、
該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき槽中のめっき液に最初に接触する地点から、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第二の絶縁性容器内の導電性媒体に最初に接触する入口側の地点までの、該ファスナーチェーンの通過距離が110cm以内となるように構成されている、
電気めっき装置。
[13]
該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき槽中のめっき液に最初に接触する地点から、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第二の絶縁性容器内の導電性媒体に最初に接触する入口側の地点までの、該ファスナーチェーンの通過距離が40〜90cmとなるように構成されている[12]に記載の電気めっき装置。
[14]
該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき槽中のめっき液に最初に接触する地点から、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器内の導電性媒体に最初に接触する入口側の地点までの、ファスナーチェーンの通過距離Aと、
該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器内の導電性媒体に最初に接触する入口側の地点から、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器内の導電性媒体に最後に接触する出口側の地点までのファスナーチェーンの通過距離Bとが、
A/B≦0.5の関係を満たす[12]又は[13]に記載の電気めっき装置。
[15]
該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器内の導電性媒体に最初に接触する入口側の地点から、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器内の導電性媒体に最後に接触する出口側の地点までのファスナーチェーンの通過距離Bと、
該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器内の導電性媒体に最後に接触する出口側の地点から、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第二の絶縁性容器内の導電性媒体に最初に接触する入口側の地点までのファスナーチェーンの通過距離Cとが、C/B≦1.5の関係を満たす[12]〜[14]の何れか一項に記載の電気めっき装置。
[16]
第一の絶縁性容器から出た該ファスナーチェーンの第一の主表面と第二の主表面の位置関係を反転させてから該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器に入るように構成されている[12]〜[15]の何れか一項に記載の電気めっき装置。
[17]
第一の絶縁性容器は、入口と出口を繋ぎ、該ファスナーチェーンの走行経路を案内する通路、及び複数の導電性媒体を流動可能に収容する収容部を内部に有し、
該通路は前記ファスナーチェーンの第一の主表面側と対向する側の路面に前記複数の導電性媒体へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口と、前記ファスナーチェーンの第二の主表面側と対向する側の路面にめっき液が連通可能な一つ又は二つ以上の開口とを有し、
第二の絶縁性容器は、入口と出口を繋ぎ、該ファスナーチェーンの走行経路を案内する通路、及び複数の導電性媒体を流動可能に収容する収容部を内部に有し、
該通路は前記ファスナーチェーンの第二の主表面側と対向する側の路面に前記複数の導電性媒体へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口と、前記ファスナーチェーンの第一の主表面側と対向する側の路面にめっき液が連通可能な一つ又は二つ以上の開口とを有する、
[12]〜[16]の何れか一項に記載の電気めっき装置。
[18]
第一の絶縁性容器及び第二の絶縁性容器はそれぞれ、入口の上方に出口を有する[17]に記載の電気めっき装置。
[19]
第一の絶縁性容器及び第二の絶縁性容器はそれぞれ、入口の鉛直上方に出口を有する[18]に記載の電気めっき装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、エレメント同士が予め電気的に接続した状態にあるファスナーチェーンでなくても、ファスナーチェーンを電気めっきする際に個々のエレメントがめっき液と十分に接触した状態で確実に給電を受けるようになるため、短時間で均一性の高いめっき被膜を形成することができる。また、本発明によれば置換めっきが抑制されるので、密着性の高いめっき被膜が得られる。見方を変えれば、本発明の金属ファスナー用電気めっき方法は、めっき液の成分及び金属製エレメントの材質によらず薄いめっき被膜をエレメント表面に迅速に形成するという目的に対して汎用性の高い方法であるとも言える。本発明は金属ファスナーのエレメントに対する本めっき前のストライクめっき方法として利用することも可能である。
【0020】
更に、本発明によればめっき装置を小型化することが可能となるので、設置費用や維持費用を抑えることが可能となる。導電性媒体にもめっきが付くことがあるが、導電性媒体は流動可能に収容されており、めっき装置から個別に取り出すことができるため、装置の保全が容易に行えるという利点も得られる。よって、本発明はユーザに対して幅広い色調のファスナー商品を低価格で提案可能とすることに貢献する革新的な発明といえる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
(1.金属ファスナー)
図1に例示的に金属ファスナーの模式的な正面図を示す。
図1に示すように金属ファスナーは、内側縁側に芯部2が形成された一対のファスナーテープ1とファスナーテープ1の芯部2に所定の間隔をおいて加締め固定(装着)された金属製エレメント3の列と、金属製エレメント3の列の上端及び下端でファスナーテープ1の芯部2に加締め固定された上止具4及び下止具5と、対向する一対のエレメント3の列間に配され、一対の金属製エレメント3の噛合及び開離を行うための上下方向に摺動自在なスライダー6を備える。一本のファスナーテープ1の一側縁にエレメント3の列が固定された状態のものをファスナーストリンガーといい、一対のファスナーストリンガーの対向するエレメント3の列が噛み合わされた状態となっているものをファスナーチェーンという。なお、下止具5は、蝶棒、箱棒、箱体からなる開離嵌挿具とし、スライダーの開離操作にて一対のファスナーチェーンを分離できるようにしたものであっても構わない。図示しないその他の実施形態も可能である。
【0024】
図2にはファスナーチェーンの一方(又は他方)の主表面を該主表面に垂直な方向から観察したときの部分的な模式図が示されている。各金属製エレメント3は、ファスナーテープ1を両主表面側から挟持するための一対の脚部10と当該一対の脚部10を連結するとともに噛み合わせのための頭部9とを備える。ここで、脚部10と頭部9の境界は、ファスナーテープ1の長手方向に延びた直線であって、ファスナーテープ1が両脚部10の間に進入可能な最も頭部側の内周部分を通過する直線とする(
図2の点線C参照)。
【0025】
本発明において、ファスナーチェーンの第一(又は第二)の主表面を該主表面に垂直な方向から観察したときに、エレメント3を、ファスナーテープ1の長手方向(
図2中のA方向)に二等分する直線と該長手方向に垂直な方向(
図2中のB方向)に二等分する直線の交点部分Qをファスナーテープ1の第一(又は第二)の主表面側のエレメント中央と呼ぶこととする(
図2参照)。
【0026】
金属製エレメント3の材料には特に制限はないが、銅(純銅)、銅合金(丹銅、真鍮、洋白など)やアルミニウム合金(Al−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Si系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金、Al−Zn−Mg系合金、Al−Zn−Mg−Cu系合金など)、亜鉛、亜鉛合金、鉄、鉄合金等を用いることができる。
【0027】
金属製エレメント3に対して各種の電気めっきを行うことができる。めっきは所望の色調を得るという意匠目的の他、防錆効果、ひび割れ防止効果、摺動抵抗低減効果を狙って行うことができる。めっきの種類に特に制限はなく、単一金属めっき、合金めっき、複合めっきの何れでもよいが、例示的にはSnめっき、Cu−Sn合金めっき、Cu−Sn−Zn合金めっき、Sn−Co合金めっき、貴金属めっき(例:Auめっき、Ruめっき、Rhめっき、Pdめっき)が挙げられる。また、Znめっき(ジンケート処理を含む)、Cuめっき(青化銅めっき、ピロリン酸銅めっき、硫酸銅めっきを含む)、Cu−Zn合金めっき(真鍮めっきを含む)、Niめっき、Ruめっき、Auめっき、Coめっき、Crめっき(クロメート処理を含む)、Cr−Mo合金めっきなども挙げられる。めっきの種類はこれらに限られるものではなく、目的に応じてその他の各種金属めっきを行うことができる。
【0028】
本発明によれば置換めっきが抑制されることから、めっき液の成分及び金属製エレメントの材質に関係なく、均一で密着性の高いめっき被膜の形成が可能となる。このため、金属製エレメントの材質とめっきの材質を自由に組み合わせて多種多様な色調の金属ファスナーを提供可能となる。
【0029】
金属ファスナーは各種の物品に取着することができ、特に開閉具として機能する。スライドファスナーが取着される物品としては、特に制限はないが、例えば衣料品、鞄類、靴類及び雑貨品といった日用品の他、貯水タンク、漁網及び宇宙服といった産業用品が挙げられる。
【0030】
(2.めっき方法)
本発明は一側面において、金属製エレメントの列を有するファスナーチェーンを搬送しながら連続的に電気めっきする方法を提案する。
【0031】
本発明に係る電気めっき方法の一実施形態においては、
A.ファスナーチェーンの一方の主表面側に露出した金属製エレメント列の表面を主としてめっきすることを目的として、各金属製エレメントがめっき槽中のめっき液に接触した状態で、陰極に電気的に接触した複数の導電性媒体が流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第一の絶縁性容器内を該ファスナーチェーンが通過することを含む第一電気めっき工程と、
B.第一電気めっき工程の後、ファスナーチェーンの他方の主表面側に露出した金属製エレメント列の表面を主としてめっきすることを目的として、各金属製エレメントがめっき槽中のめっき液に接触した状態で、陰極に電気的に接触した複数の導電性媒体が流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第二の絶縁性容器内を該ファスナーチェーンが通過することを含む第二電気めっき工程とを含む。
【0032】
これらの両工程を経ることでファスナーチェーンの両主表面側に露出した金属製エレメント列の表面に対してめっきが可能である。また、異なるめっき液を使用して両工程を経ることで、ファスナーチェーンの一方の主表面と他方の主表面に対して異なるめっき被膜を形成することも可能である。
【0033】
また、本発明に係るファスナーストリンガーは一実施形態において、金属製のエレメント列がファスナーテープに固定された後にめっきされていることで各金属製エレメントの表面のうちファスナーテープと接触して隠蔽されている部分にはめっき被膜が形成されていない。このことは、めっき液の節約につながり、製造コストの低減に貢献する。
【0034】
めっき液の組成、温度などの条件は各エレメントに析出させたい金属成分の種類によって当業者が適宜設定すればよく、特に制限されるものではない。亜鉛は両性金属で酸にもアルカリにも溶解しやすく、また、イオン化傾向が卑なため容易に他の金属と置換反応を起こす。このため、亜鉛を含有する金属製エレメントに対してめっきを施す場合には特にめっき被膜の密着性が低下しやすい。亜鉛を含有する金属製エレメントに対して銅めっきを施す場合、青化銅めっき液を使用すれば置換めっきが生じにくいが、金属ファスナーにおいては安全性の観点からノンシアン銅めっき液を使用することが望ましい。しかしながら、ノンシアン銅めっき液を使用すると置換めっきが生じやすいという問題がある。本発明によれば、置換めっきが生じやすいノンシアン銅めっき液を使用しても置換めっきを抑制することができる。
【0035】
導電性媒体の材料としては特に制限はないが、金属が一般的である。金属の中でも、耐腐食性が高い、耐磨耗性が高いという理由により、鉄、ステンレス、銅、真鍮が好ましく、鉄がより好ましい。但し、鉄製の導電性媒体を使用する場合、導電性媒体がめっき液に接触すると密着性の悪い置換めっき被膜が鉄球の表面に形成される。このめっき被膜はファスナーチェーンを電気めっき中に導電性媒体から剥がれて細かな金属片となってめっき液中に浮遊する。金属片がめっき液中に浮遊するとファスナーテープに付着したりするので浮遊は防止することが好ましい。そのため、鉄製の導電性媒体を使用する場合は、置換めっきされるのを防ぐために予め導電性媒体をピロリン酸銅めっき、硫酸銅めっき、ニッケルめっき、又は錫ニッケル合金めっきをしておくことが好ましい。なお、導電性媒体に青化銅めっきを行うことでも置換めっきを防止することはできるが、導電性媒体表面の凹凸が比較的大きくなり導電性媒体の回転が阻害されるため、ピロリン酸銅めっき、硫酸銅めっき、ニッケルめっき、又は錫ニッケル合金めっきが好ましい。
【0036】
第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器の材質としては、耐薬品性、耐磨耗性、耐熱性の観点から、高密度ポリエチレン(HDPE)、耐熱性硬質ポリ塩化ビニル、ポリアセタール(POM)が好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましい。
【0037】
第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内に流動可能に収容された複数の導電性媒体が陰極に電気的に接触していることにより、陰極から各エレメントに導電性媒体を介して給電を行うことができる。陰極の設置場所には特に制限はないが、各絶縁性容器内で各導電性媒体との電気的な接触が途切れない位置に設置することが望まれる。
【0038】
例えば、後述するような固定セル方式の電気めっき装置を使用する場合に、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を水平方向に通過すると、導電性媒体は搬送方向の先頭に移動して集積しやすく、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を鉛直上方に通過すると、導電性媒体は下方集積しやすい。
【0039】
そこで、ファスナーチェーンが水平方向に通過する場合は、絶縁性容器の内面のうち、導電性媒体が集積しやすい搬送方向の先頭側の内面には少なくとも陰極を設置することが好ましく、ファスナーチェーンが鉛直上方に通過する場合は、絶縁性容器の内面のうち、導電性媒体が集積しやすい下方側の内面には少なくとも陰極を設置することが好ましい。陰極の形状に特に制限はないが、例えば板状とすることができる。
【0040】
ファスナーチェーンは水平方向と鉛直方向の中間の斜め方向にも走行し得るが、この場合は傾斜、走行速度、導電性媒体の数や大きさによって導電性媒体の集積しやすい場所が変化するため、実際の条件に応じて陰極を設置する場所を調整すればよい。
【0041】
導電性媒体は各絶縁性容器内で流動可能となっており、ファスナーチェーンの走行に伴って導電性媒体は流動及び/又は回転及び/又は上下運動しながら各エレメントとの接触場所を常時変化させる。これによって電流を通る場所や接点抵抗も常時変化するため、均一性の高いめっき被膜を成長させることが可能となる。導電性媒体は、流動可能な状態で容器内に収容されている限り、その形状に制約はないが、流動性の観点から球状であることが好ましい。
【0042】
各導電性媒体の直径はファスナーチェーンのチェーン幅、エレメントのスライダー摺動方向の幅及びピッチによって最適値が異なるが、後述するような固定セル方式の電気めっき装置を使用する場合、第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内をファスナーチェーンが通過中に、ファスナーチェーンの走行通路内に導電性媒体が進入して走行通路内に導電性媒体が詰まりにくくするにはチェーン厚以上であることが好ましい。また、第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内をファスナーチェーンが通過中に短い通過距離で多数の導電性媒体に接触することで効率的に均一性の高いめっき被膜を成長させるという観点から、各導電性媒体の直径はチェーン厚の3倍以下が好ましく、2.5倍以下がより好ましく、2倍以下が更により好ましい。ここで、導電性媒体の直径は測定対象となる導電性媒体と同一の体積を有する真球の直径と定義する。
【0043】
第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内に収容する導電性媒体の個数については特に制約はないが、ファスナーチェーンの各エレメントに給電を行うことができるという観点、特に、ファスナーチェーンが走行中に導電性媒体が進行方向に移動しても、導電性媒体が第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を通過中の各エレメントと接触を常に保てるだけの数量を確保するという観点から、適宜設定することが望ましい。一方で、ファスナーチェーンの各エレメントには、導電性媒体から適度な押し付け圧力が掛かるほうが電気が流れやすくなり好ましいが、過度な押し付け圧力は搬送抵抗を増大させてファスナーチェーンのスムーズな搬送を妨害する。このため、ファスナーチェーンは過度な搬送抵抗を受けることなくスムーズに第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を通過できることが好ましい。以上の観点から、例示的には、各絶縁性容器内に収容する導電性媒体は、導電性媒体をエレメント上に敷き詰めた場合に3層以上(換言すれば、導電性媒体の直径の3倍以上の積層厚み)形成できる量が望ましく、3〜8層(換言すれば、導電性媒体の直径の3〜8倍の積層厚み)形成できる量とするのが典型的である。
【0044】
後述するような固定セル方式の電気めっき装置を使用する場合に、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を水平に通過すると、導電性媒体は搬送方向の先頭に移動して集積しやすい。すると、先頭部分に集積した分の導電性媒体の重みによってファスナーチェーンが押し付けられるため、ファスナーチェーンに対する搬送抵抗が大きくなる。また、陰極から導電性媒体に電流が流れる際、セルの長さが長くなると電圧降下によってめっき効率が低下する。このため、第一の絶縁性容器及び第二の絶縁性容器をそれぞれ二つ以上直列に連結することで導電性媒体による重みに起因する搬送抵抗を受けにくくすることができ、また、めっき効率を向上させることができる。各絶縁性容器を二つ以上直列に連結する数の増減によってめっき被膜の厚みやファスナーチェーンの走行速度を調整することもできる。
【0045】
搬送抵抗を低減するという観点からは、各絶縁性容器内を通過するファスナーチェーンの走行方向に上向きの角度を設けること、すなわちファスナーチェーンが各絶縁性容器内を上昇しながら通過することが望ましい。これにより、搬送方向に移動しやすい導電性媒体が自重によって搬送方向の後方に落ちてくるため、搬送方向の先頭に導電性媒体が集積しにくくなる。傾斜角度は搬送速度、導電性媒体の大きさ及び個数等によって適宜設定すればよいが、導電性媒体が球形であり、エレメント上に3〜8層形成可能な量とする場合には、ファスナーチェーンが走行中に導電性媒体が進行方向に移動しても、導電性媒体が第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を通過中の各エレメントとの接触を保たれるようにするという観点から、傾斜角度は9°以上が好ましく、典型的には9°以上45°以下である。
【0046】
めっき装置をよりコンパクトに設計するという観点からは、ファスナーチェーンが各絶縁性容器内を鉛直方向に上昇しながら通過する方法もある。当該方法によれば、めっき槽が鉛直方向に長くなる一方で水平方向には短くなるのでめっき装置の設置面積を小さくすることができる。
【0047】
第一電気めっき工程においては、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内を通過中に、主としてファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第一の絶縁性容器内の複数の導電性媒体に接触させることにより給電する。この際、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で第一の陽極を設置することで、陽イオンと電子に規則的な流れが生じ、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面側にめっき被膜を迅速に成長させることができる。導電性媒体にめっきがなされるのを抑制するという観点からは、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係でのみ第一の陽極を設置することが好ましい。
【0048】
第二電気めっき工程においては、ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器内を通過中に、主として該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第二の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させることにより給電する。この際、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で第二の陽極を設置することで、陽イオンと電子に規則的な流れが生じ、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面側にめっき被膜を迅速に成長させることができる。エレメント以外の余計な箇所にめっきがなされるのを抑制するという観点からは、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係でのみ第二の陽極を設置することが好ましい。
【0049】
複数の導電性媒体をファスナーチェーンの両方の主表面にランダムに接触させると導電性媒体上でめっき被膜が成長し、エレメント表面でめっき被膜が成長しないため、できるだけ片方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を優先的に複数の導電性媒体に接触させることが望ましい。よって、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内を通過中に、第一の絶縁性容器内の導電性媒体の全個数のうち60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更により好ましくはすべてをファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に接触可能に構成することが望ましい。第一の絶縁性容器内の導電性媒体のすべてをファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に接触可能に構成するというのは、第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第一の絶縁性容器内の導電性媒体に接触させることを意味する。
【0050】
同様に、ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器内を通過中に、第二の絶縁性容器内の導電性媒体の全個数のうち60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更により好ましくはすべてをファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に接触可能に構成することが望ましい。第二の絶縁性容器内の導電性媒体のすべてをファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に接触可能に構成するというのは、第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第二の絶縁性容器内の導電性媒体に接触させることを意味する。
【0051】
第一電気めっき工程においては、第一の主表面側に露出したエレメントには基本的にめっき被膜は成長しない。しかしながら、第一の主表面側に露出したエレメントはめっき液と接触可能な条件下に置かれているため、置換めっきが発生する可能性がある。先述したように、置換めっきにより形成されためっき被膜は密着力が電気めっきにより形成された被膜に比べて弱いため、置換めっきを可能な限り抑制することが望ましい。第一の主表面側に露出したエレメントの表面に置換めっきが生じると、その後に第一の主表面側に露出したエレメントの表面に電気めっきをしてもめっき被膜の密着性が低くなってしまう。よって、第一電気めっき工程においては第一の主表面側に露出したエレメントの表面に置換めっきを生じさせないことが望ましい。
【0052】
第一の主表面側に露出したエレメントの表面への置換めっきを効果的に予防するためには、第二電気めっき工程におけるファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に対する給電を、第一電気めっき工程で第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき液に最初に接触してから30秒以内に開始することが重要であり、20秒以内に開始することが好ましく、10秒以内に開始することがより好ましい。
【0053】
但し、第二電気めっき工程におけるファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に対する給電開始のタイミングを過度に早くすると、第一電気めっき工程において第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面にめっき被膜が十分に成長しない。このため、第二電気めっき工程におけるファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に対する給電は、めっき液の組成や電流密度等の条件にもよるが、第一電気めっき工程で第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき液に最初に接触してから5秒以上経過した後に開始するのが好ましく、7秒以上経過した後に開始するのがより好ましく、9秒以上経過した後に開始されるのが更により好ましい。
【0054】
めっき被膜に所望の機能を発揮させるという観点から、第一電気めっき工程においては厚さ0.1μm以上のめっき被膜が第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの前記エレメント中央Qに形成されることが好ましい。当該めっき被膜の厚さは0.15μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることが更により好ましい。当該めっき被膜の厚さに特段の上限はないが、上述した30秒以内という制約の中では、印加する電圧の実用範囲を考慮したとしても、20μm程度が上限であり、典型的には0.5μm以下である。
【0055】
第二電気めっき工程も、同様に、厚さ0.1μm以上のめっき被膜が第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの前記エレメント中央Qに形成されることが好ましい。当該めっき被膜の厚さは0.15μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることが更により好ましい。当該めっき被膜の厚さに特段の上限はないが、ファスナーチェーンの両主表面側に露出した金属製エレメントの表面に同程度の厚みのめっき被膜を形成するという観点からは、各金属製エレメントにおいて、第一の主表面側に露出したエレメント中央Qにおけるめっき被膜の厚みをTとすると、第二の主表面側に露出したエレメント中央Qにおけるめっき被膜の厚みは、0.7T〜1.3Tであることが好ましく、0.8T〜1.2Tであることがより好ましく、0.9T〜1.1Tであることが更により好ましい。
【0056】
各エレメントの前記エレメント中央Qにおけるめっき被膜の厚みはそれぞれ、オージェ電子分光法(AES)により元素デプスプロファイルを得て、めっきした金属元素の濃度が最大値に対して半分になる深さをめっき被膜の厚みとする。分析条件は以下とする。
加速電圧:10kV
電流量:3×10
-8A
イオンガン:2kV
測定径:50μm
エッチング:20秒毎に測定
試料傾斜:30°
検出深さは、SiO
2標準物質のエッチング速度8.0nm/minを用いて換算、算出。
なお、めっき皮膜が合金めっき等の複数元素で構成される場合は、エレメントの母材を構成する主成分以外で検出強度が最も高い金属元素を分析対象としてめっき被膜の厚みを評価する。例えば、主成分がCuのエレメント表面に対してCu−Sn合金めっき被膜を形成するときは、Snを基準にめっき被膜の厚みを測定する。また、主成分がCuのエレメントに対してCo−Sn合金めっき被膜を形成するときは、何れか検出強度の高い元素を基準にめっき被膜の厚みを測定する。
【0057】
第一電気めっき工程におけるファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と第一の陽極の最短距離、及び、第二電気めっき工程におけるファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と第二の陽極の最短距離は、それぞれ短い方が各金属製エレメントへ効率的にめっきすることができ、不要な箇所(例えば、導電性媒体)へのめっきを抑制することができる。めっき効率が高まることにより、導電性媒体のメンテナンス費用、薬品代、電気代が節約できる。具体的には各金属製エレメントと陽極の最短距離は10cm以下が好ましく、8cm以下がより好ましく、6cm以下が更により好ましく、4cm以下が更により好ましい。この際、第一の陽極及び第二の陽極はファスナーチェーン搬送方向に平行に延設されることがめっき効率の観点から望ましい。
【0058】
(3.めっき装置)
次に、本発明に係る電気めっき方法を実施するのに好適な電気めっき装置の実施形態について説明する。ただし、電気めっき方法の実施形態の説明の中で述べた構成要素と同一の構成要素に関する説明は、電気めっき装置の実施形態の説明においても該当するため、原則として重複する説明を省略する。
【0059】
本発明に係る電気めっき装置は一実施形態において、
めっき液を収容可能なめっき槽と、
めっき槽中に配置された第一の陽極と、
めっき槽中に配置された第二の陽極と、
めっき槽中に配置され、且つ、複数の導電性媒体が陰極に電気的に接触した状態で流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第一の絶縁性容器と、
めっき槽中に配置され、且つ、複数の導電性媒体が陰極に電気的に接触した状態で流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第二の絶縁性容器と、
を備える。
【0060】
本実施形態において、第一の絶縁性容器は、主としてファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第一の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させながら、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内を通過することが可能なように構成される。また、本実施形態において、第一の陽極は、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器を通過する際に、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向することができる位置関係で設置される。ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器を通過することにより、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出したエレメント列の表面を主としてめっきすることができる。
【0061】
本実施形態において、第二の絶縁性容器は、第一の絶縁性容器の後段に設置されており、主としてファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第二の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させながら、ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器内を通過することが可能なように構成される。また、本実施形態において、第二の陽極は、ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器を通過する際に、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で設置される。ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器を通過することにより、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出したエレメント列の表面を主としてめっきすることができる。
【0062】
本実施形態においては、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき槽中のめっき液に最初に接触する地点から、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第二の絶縁性容器内の導電性媒体に最初に接触する入口側の地点までの、ファスナーチェーンの通過距離が110cm以内となるように構成されている。当該通過距離を110cm以内とすることで、ファスナーチェーンの適度な搬送速度を維持しながら、「第二電気めっき工程におけるファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に対する給電を、第一電気めっき工程で第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき液に最初に接触してから30秒以内に開始する」という条件を容易に達成できる。従って、本実施形態に係るめっき装置は、第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面への置換めっきの予防に好適である。
【0063】
当該通過距離は好ましくは110cm以内であり、より好ましくは90cm以内であり、更により好ましくは80cm以内であり、更により好ましくは60cm以内である。但し、当該通過距離が短すぎると、第一電気めっき工程において第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面にめっき被膜が十分に成長しない。めっき被膜の成長を確保するために搬送速度を遅くすることも可能だが、そうすると今度は生産性が悪化する。このため、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき槽中のめっき液に最初に接触する地点から、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第二の絶縁性容器内の導電性媒体に最初に接触する入口側の地点までの、ファスナーチェーンの当該通過距離は30cm以上であることが好ましく、40cm以上であることがより好ましい。
【0064】
当該通過距離は以下の三つの通過距離A〜Cに分割することができる。
A:ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき槽中のめっき液に最初に接触する地点から、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器内の導電性媒体に最初に接触する入口側の地点までの、ファスナーチェーンの通過距離。
B:ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器内の導電性媒体に最初に接触する入口側の地点から、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器内の導電性媒体に最後に接触する出口側の地点までのファスナーチェーンの通過距離。
C:ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第一の絶縁性容器内の導電性媒体に最後に接触する出口側の地点から、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第二の絶縁性容器内の導電性媒体に最初に接触する入口側の地点までのファスナーチェーンの通過距離。
【0065】
第一電気めっき工程において第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面にめっき被膜を短時間で効率的に成長させるためには、電気めっき被膜が成長する区間である通過距離Bを長くし、電気めっき被膜の成長に関係のない通過距離A及びCを出来る限り短くすることが好ましい。このような観点から、A/B≦0.5であることが好ましく、A/B≦0.4であることがより好ましく、A/B≦0.3であることが更により好ましい。A/Bの下限は特に設定されないが、装置の組み立てやすさの観点から、例えば0.05≦A/Bとすることができ、0.1≦A/Bとすることもできる。同様に、C/B≦1.5であることが好ましく、C/B≦1.3であることがより好ましく、C/B≦1.1であることが更により好ましい。C/Bの下限は特に設定されないが、装置の組み立てやすさの観点から、例えば0.1≦C/Bとすることができ、0.5≦C/Bとすることもできる。
【0066】
一方、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第二の絶縁性容器内の導電性媒体に最初に接触する入口側の地点から、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面が第二の絶縁性容器内の導電性媒体に最後に接触する出口側の地点までのファスナーチェーンの通過距離をDとすると、通過距離Dは置換めっきの予防とは関係がないため適宜設定すればよい。しかしながら、ファスナーチェーンの両主表面側に露出した金属製エレメントの表面に同程度の厚みのめっき被膜を薄く形成するということが可能であるという点では、通過距離Dは通過距離Bと同程度とすることが好ましい。従って、本発明に係る電気めっき装置は一実施形態において、0.8≦D/B≦1.2とすることができ、0.9≦D/B≦1.1とすることができ、0.99≦D/B≦1.01とすることもできる。
【0067】
(4.めっき装置の具体的な構成例)
次に、本発明に係る電気めっき装置の具体的な構成例である固定セル方式の電気めっき装置について説明する。固定セル方式は一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを絶縁性容器内の導電性媒体に接触させることができるという点で有利である。固定セル方式のめっき装置においては、絶縁性容器はめっき装置内で固定されており、回転動作等の動きを伴わない。固定セル方式のめっき装置の一構成例における絶縁性容器(第一及び第二の絶縁性容器の何れにも使用可能である。)の構造を
図3〜
図5に模式的に示す。
図3は、固定セル方式のめっき装置の絶縁性容器をファスナーチェーンの搬送方向と向き合う方向から見たときの模式的な断面図である。
図4は、
図3に示す絶縁製容器の模式的なAA’線断面図である。
図5は、
図3に示す絶縁製容器から導電性媒体及びファスナーチェーンを取り除いたときの模式的なBB’線断面図である。
【0068】
図3及び
図4を参照すると、絶縁性容器110は、入口114と出口115を繋ぎファスナーチェーン7の走行経路を案内する通路112、及び複数の導電性媒体111を流動可能に収容する収容部113を内部に有する。通路112はファスナーチェーンの入口114と、前記ファスナーチェーンの出口115と、ファスナーチェーン7の一方(第一又は第二)の主表面側と対向する側の路面112aに複数の導電性媒体111へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口117と、ファスナーチェーン7の他方(第二又は第一)の主表面側と対向する側の路面112bにめっき液が連通可能で且つ電流が流れることを可能とした複数の開口116とを有する。路面112bにはエレメント3の搬送方向を案内するためのガイド溝120を搬送方向に沿って延設してもよい。
【0069】
複数の導電性媒体111へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口117について、チェーン幅方向の幅をW
2とし、導電性媒体111の直径をDとすると、チェーン幅方向に3個のボール球が部分的に重なるように配列すると、ボール球の移動や回転のためのスペースが確保されつつ、給電が安定しやすいことから、2D<W
2<3Dの関係が成立することが好ましく、2.1D≦W
2≦2.8Dがより好ましい。ここで、チェーン幅とはJIS 3015:2007に規定される通り、噛み合ったエレメントの幅を指す。また、導電性媒体の直径は測定対象となる導電性媒体と同一の体積を有する真球の直径と定義する。
【0070】
入口114から絶縁性容器110内に入ったファスナーチェーン7は、通路112内を矢印の方向に走行し、出口115から出て行く。ファスナーチェーン7が通路112内を通過中、収容部113に保持された複数の導電性媒体111は、開口117を通じてファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各エレメント3の表面に接触可能である。しかし、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各エレメント3の表面に対して導電性媒体111がアクセス可能な開口は存在しない。このため、収容部113に保持された複数の導電性媒体111は、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各エレメント3の表面に接触することはできない。
【0071】
通路112内を走行するファスナーチェーン7に引きずられて、導電性媒体111は搬送方向の先頭に移動して集積しやすくなるが、過度に集積すると導電性媒体111が先頭で詰まり、ファスナーチェーン7が強く押し付けられるため、ファスナーチェーン7の搬送抵抗が大きくなる。このため、
図4に示すように、入口114よりも高いところに出口115を設けることで通路112を上り傾斜させることにより、絶縁性容器110内に収容されている複数の導電性媒体111は重力によって搬送方向の後方に戻すことができるので、搬送抵抗を低下させることができる。入口114の鉛直上方に出口115を設けてファスナーチェーン7の搬送方向を鉛直上方とすることも可能であり、これにより搬送抵抗の制御が容易となり、また、設置スペースも小さくて済むという利点が得られる。
【0072】
図5参照すると、収容部113の内面のうち、搬送方向の先頭側の内側面113aに板状陰極118が設置されている。複数の導電性媒体111は板状陰極118に電気的に接触することが可能である。また、ファスナーチェーン7が通路112内を通過中、複数の導電性媒体111はファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各エレメント3の表面に電気的に接触することが可能である。複数の導電性媒体111のうち少なくとも一部がこれら両方の導電性媒体111に電気的に接触することで電気の経路が生まれると、ファスナーチェーン7が通路112内を通過中、各エレメント3に対して給電が可能となる。
【0073】
典型的な実施形態においては、ファスナーチェーン7はめっき液中に浸漬された状態で電気めっきされる。ファスナーチェーン7が絶縁性容器110の通路112内を通過中、めっき液は開口116を通じて通路112内に浸入することで、各エレメント3に接触可能である。ファスナーチェーン7の他方(第二又は第一)の主表面側と対向する側に陽極119を設置することで、めっき液中の陽イオンは、ファスナーチェーンの他方の主表面側に効率的に到達することができ、当該主表面側に露出した各エレメント3の表面にめっき被膜を迅速に成長させることができる。
【0074】
路面112bに形成する開口116は、通路112内を走行するファスナーチェーン7との引っ掛かりがないように設けることがファスナーチェーン7の円滑な搬送にとって有利である。この観点からは、各開口116は円形状の穴とすることが好ましく、例えば、直径1〜3mmの円形状の穴とすることができる。
【0075】
また、路面112bに形成する開口116は、通路112内を走行するファスナーチェーン7のエレメント3全体に電気が高い均一性で流れるように設けることが均一性の高いめっき皮膜を得る上で好ましい。このような観点から、路面112bの開口116を含む面積に対する開口116の面積の比率(以下、開口率という。)は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。ただし、開口率は強度確保の理由により、60%以下であることが好ましい。また、複数の開口116は、
図5に示すように、ファスナーチェーン7の搬送方向に沿って複数配列することが好ましく(
図5では3列)、エレメント3の露出した面全面に電流が流れてめっきが付きやすくするという観点から、千鳥配列することがより好ましい。
【0076】
ファスナーチェーン7が通路112内を走行中、複数の導電性媒体111はファスナーテープ1に接触しないことが好ましい。複数の導電性媒体111がファスナーテープ1に接触すると、ファスナーチェーンの搬送抵抗を増大させるためである。従って、開口117は複数の導電性媒体111がファスナーテープに接触できない場所に設置することが好ましい。絶縁性容器をファスナーチェーンの搬送方向と向き合う方向から見たとき(
図3参照)、開口117の両側壁からエレメント3の両端までのチェーン幅方向の隙間C1、C2はそれぞれ各導電性媒体111の半径以下であることがより好ましい。ただし、開口117の両側壁間の距離が狭くなると、導電性媒体111とエレメント3の接触頻度が低くなるため、隙間C1、C2は0以上であることが好ましく、0より大きいことがより好ましい。なお、導電性媒体の半径は測定対象となる導電性媒体と同一の体積を有する真球の半径と定義する。
【0077】
通路112内に導電性媒体が入り込まないように、路面112aと路面112bの間の距離は導電性媒体の直径よりも短いことが好ましい。通路112内に導電性媒体が入り込むと搬送抵抗を著しく増大させて、ファスナーチェーン7の搬送が困難に陥る原因となるからである。
【0078】
図6〜
図11には、固定セル方式の電気めっき装置の全体構成例が幾つか示されている。
図6〜
図11に示す実施態様においては、ファスナーチェーン7は、めっき液202の入っためっき槽201中でテンションをかけて矢印の方向にガイドローラー214によって案内されながら搬送される。テンションは0.1N〜0.2Nの加重が好ましい。
【0079】
(4−1 鉛直型の電気めっき装置)
まず、
図6に示す電気めっき装置について説明する。
図6に示す電気めっき装置においては、めっき槽201は入口槽201aと主槽201bを有する。入口槽201a及び主槽201bは共にめっき液202を保持することができ、両者は底部の連結部201cを介してめっき液202が連通可能に連結されている。
図6に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bが主槽201b内のめっき液に浸漬されており、鉛直方向に直列に配置されている。第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bは共に鉛直方向に延びたファスナーチェーンの走行通路を有する。ファスナーチェーン7は、入口槽201aの上部に位置するめっき槽入口204からめっき液202中に入った後、入口槽201aの底部まで鉛直下方に進む。底部に到達後、ファスナーチェーン7は連結部201cを通って主槽201bに入る。ファスナーチェーン7は第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bを順に鉛直上方に通過した後にめっき液202から出て、次いで主槽201bの上面に設置されためっき槽出口205から出て行く。
【0080】
入口槽201aの液面高さを主槽201bの液面高さよりも低くすることで、ファスナーチェーン7の第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき槽中のめっき液に最初に接触する地点Pから、第一の絶縁性容器110aの入口114aまでのファスナーチェーン7の通過距離を短くすることが可能となる。入口槽201aにおけるめっき液の液面高さは例えば主槽201bにおけるめっき液の液面高さに対して0.6倍以下とすることが好ましく、0.5倍以下とすることがより好ましく、0.4倍以下とすることが更により好ましい。但し、入口槽201aにおけるめっき液の液面高さを過度に低くすると液面の高低差が大きくP点より流れる液量が多くなり、ポンプからの供給を多くする必要があることから、入口槽201aにおけるめっき液の液面高さは例えば主槽201bにおけるめっき液の液面高さに対して0.1倍以上とすることが好ましく、0.2倍以上とすることがより好ましく、0.3倍以上とすることが更により好ましい。
【0081】
入口槽201a内のめっき液202は水位の違いによりめっき槽入口204からオーバーフローする。オーバーフローによって流出しためっき液202は貯留槽203に回収された後、循環ポンプ208によって送りパイプ212を通って主槽201bに供給される。貯留槽203内にヒータを設置して内部のめっき液を加温してもよい。オーバーフローするめっき液202の流れを抑制するための流量絞り部材218をめっき槽入口204に設けてもよい。流量絞り部材218を連結部201cに設けることもできる。
【0082】
図6に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。
【0083】
図6に示す電気めっき装置においては、ファスナーチェーン7は第一の絶縁性容器110aを出た後、進路を変えることなく第二の絶縁性容器110bに入る。換言すれば、ファスナーチェーン7は直進しながら第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bを通過するため、第一の絶縁性容器110aの出口115aと第二の絶縁性容器110bの入口114bの間の距離を短くすることができる。
【0084】
図6に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110aと第二の絶縁性容器110bの間に相互に影響を受けないようにするための、電気遮断用の絶縁性の仕切り板121が設けられている。仕切り板121の材質としては絶縁体であれば特に制限はないが、例えば塩化ビニル樹脂等の樹脂製とすることができる。
【0085】
次に、
図7に示す電気めっき装置について説明する。
図7に示す電気めっき装置においても、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bがめっき槽201内のめっき液に浸漬された状態で鉛直方向に直列に配置されている。但し、
図7に示す電気めっき装置においては
図6に示したような入口槽は存在しない。
図7に示す電気めっき装置においては、ファスナーチェーン7は鉛直上方に搬送されながら、めっき槽201の底部に位置するめっき槽入口204からめっき液202中に入る。その後、ファスナーチェーン7は進路を変更することなく第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bを順に鉛直上方に通過した後にめっき液202から出て、次いでめっき槽201の上面に設置されためっき槽出口205から出て行く。
【0086】
このように、
図7に示す電気めっき装置においては、ファスナーチェーン7はめっき槽入口204からめっき液202中に入り、第一の絶縁性容器110aの入口114aに到達するまで進路を変更することなく直進するため、ファスナーチェーン7の第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき槽201中のめっき液に最初に接触する地点Pから、第一の絶縁性容器の入口114aまでのファスナーチェーンの通過距離を短くすることが可能である。また、
図7に示す電気めっき装置においては、ファスナーチェーン7は第一の絶縁性容器110aを出た後、進路を変えることなく第二の絶縁性容器110bに入る。換言すれば、ファスナーチェーン7は直進しながら第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bを通過するため、第一の絶縁性容器110aの出口115aと第二の絶縁性容器110bの入口114bの間の距離を短くすることができる。
【0087】
図7に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。本実施形態によれば、一つのめっき槽で両面めっきが可能であり、設置スペースも少なくて済む。
【0088】
図7に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110aと第二の絶縁性容器110bの間に相互に影響を受けないようにするための、電気遮断用の絶縁性の仕切り板121が設けられている。仕切り板121の材質としては絶縁体であれば特に制限はないが、例えば塩化ビニル樹脂等の樹脂製とすることができる。
【0089】
図7に示す電気めっき装置において、めっき槽201内のめっき液202がオーバーフロー可能となるようにめっき槽201は放出口209を上部に有する。オーバーフローによって流出しためっき液202は貯留槽203に回収された後、循環ポンプ208によって送りパイプ212を通ってめっき槽201に供給される。また、めっき槽201内のめっき液202がめっき槽入口204から漏出する。漏出しためっき液202は貯留槽203に回収された後、循環ポンプ208によって送りパイプ212を通ってめっき槽201に供給される。貯留槽203内にヒータを設置して内部のめっき液を加温してもよい。漏出するめっき液202の流れを抑制するための流量絞り部材218をめっき槽入口204に設けてもよい。
【0090】
(4−2 水平型の電気めっき装置)
次に、
図8に示す電気めっき装置について説明する。
図8に示す実施態様においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bがめっき槽201内のめっき液中に浸漬されている。第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bは共に水平方向に延びたファスナーチェーンの走行通路を有する。第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bは平面視したときにファスナーチェーンの走行方向が互いに平行で逆向きになるように隣り合って配置されている。
【0091】
ファスナーチェーン7は、めっき液面上方からめっき液202中に入った後、第一の絶縁性容器110aを水平方向に直進しながら通過する。第一の絶縁性容器110aを出た後、ファスナーチェーン7は水平方向に延びた軸を有する反転用ガイドローラー216に案内されて、反転用ガイドローラー216の軸方向へ移動しながら反転する。反転後、主表面の上下方向が逆転したファスナーチェーン7は第二の絶縁性容器110bを水平方向に直進しながら通過し、めっき液202から出て行く。
【0092】
図8に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。本実施形態によれば、一つのめっき槽で両面めっきが可能であり、設置スペースも少なくて済む。
【0093】
図8に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーンの走行通路が水平方向に延びていることから、めっき液の深さを浅くすることができる。例えば、めっき液の深さは30cm以下とすることができ、更には25cm以下とすることも可能であり、例えば16〜21cmとすることができる。このため、ファスナーチェーン7をめっき槽201のめっき液面上方から供給したとしても、ファスナーチェーン7の第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき槽201中のめっき液に最初に接触する地点Pから、第一の絶縁性容器の入口114aまでのファスナーチェーン7の通過距離を十分に短くすることが可能である。
【0094】
また、
図8に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bの上面は互いに重なり合っていないため、内部に収容した導電性媒体111に上面側から容易にアクセスでき、導電性媒体111の出し入れが簡単である。この点で、本実施形態はメンテナンス性に優れている。更に、
図8に示す電気めっき装置においては、めっき槽201内のめっき液はオーバーフローにより減少しないため、めっき液をめっき槽に戻すためのポンプやめっき液の貯留槽は必要ない。このため、めっき装置の低コスト化を図ることができる。
【0095】
(4−3 傾斜型の電気めっき装置)
次に、
図9に示す電気めっき装置について説明する。
図9に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bがめっき槽201内のめっき液中に浸漬されている。第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bは共に上方に傾斜したファスナーチェーン7の走行通路を有する。第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bは平面視したときにファスナーチェーンの走行方向が互いに平行で逆向きになるように隣り合って配置されている。
【0096】
ファスナーチェーン7は、めっき液面上方からめっき液202中に入った後、第一の絶縁性容器110aを斜め上方に直進しながら通過する。第一の絶縁性容器110aを出たファスナーチェーン7は、その後、水平方向に延びた軸を有する反転用ガイドローラー216に案内されて、反転用ガイドローラー216の軸方向へ移動しながら反転する。反転後、主表面の上下方向が逆転したファスナーチェーン7は第二の絶縁性容器110bを斜め上方に直進しながら通過し、めっき液202から出て行く。第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bの傾斜角度が小さければめっき液202の深さを浅くすることができるので、ファスナーチェーン7の第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき槽201中のめっき液に最初に接触する地点Pから、第一の絶縁性容器の入口114aまでのファスナーチェーン7の通過距離を十分に短くすることが可能である。
【0097】
図9に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。本実施形態によれば、一つのめっき槽で両面めっきが可能であり、設置スペースも少なくて済む。また、
図9に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bが上方に傾斜しているので内部の導電性媒体111によるファスナーチェーン7の搬送抵抗を小さくすることができる。
【0098】
また、
図9に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bの上面は互いに重なり合っていないため、内部に収容した導電性媒体111に上面側から容易にアクセスでき、導電性媒体111の出し入れが簡単である。この点で、本実施形態はメンテナンス性に優れている。
【0099】
次に、
図10に示す電気めっき装置について説明する。
図10に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bがめっき槽201内のめっき液202中に浸漬されている。第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bは共に上方に傾斜したファスナーチェーン7の走行通路を有する。第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bは平面視したときにファスナーチェーンの走行方向が互いに平行で逆向きになるように上下方向に重ねて配置されている。
【0100】
ファスナーチェーン7は、めっき槽201の側面に設けられためっき槽入口204からめっき液202中に入った後、第一の絶縁性容器110aを斜め上方に直進しながら通過する。第一の絶縁性容器110aを出たファスナーチェーン7は、その後、水平方向に延びた軸を有する反転用ガイドローラー216に案内されて、反転用ガイドローラー216の軸方向へ移動することなく反転する。反転後、主表面の上下方向が逆転したファスナーチェーン7は第一の絶縁性容器110aの上方に設置された第二の絶縁性容器110bを斜め上方に直進しながら通過し、めっき液202から出て行く。
【0101】
図10に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。本実施形態によれば、一つのめっき槽で両面めっきが可能であり、設置スペースも少なくて済む。
【0102】
図10に示す電気めっき装置においては、めっき槽201内のめっき液202がめっき槽入口204から漏出する。漏出しためっき液202は貯留槽203に回収された後、循環ポンプ208によって送りパイプ212を通ってめっき槽201に供給される。貯留槽203内にヒータを設置して内部のめっき液を加温してもよい。
【0103】
また、
図10に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bは上下方向に配列されているため、ファスナーチェーン7は反転の際に反転用ガイドローラー216の軸方向へ移動しない。このため、反転動作が円滑化されるのでファスナーチェーンが反転用ガイドローラー216に引っ掛かって搬送が停止するリスクを軽減できるという利点が得られる。
【0104】
図10に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110aと第二の絶縁性容器110bの間に相互に影響を受けないようにするための、電気遮断用の絶縁性の仕切り板121が設けられている。仕切り板121の材質としては絶縁体であれば特に制限はないが、例えば塩化ビニル樹脂等の樹脂製とすることができる。
【0105】
次に、
図11に示す電気めっき装置について説明する。
図11に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bがめっき槽201内のめっき液中に浸漬されている。第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bは共に上方に傾斜したファスナーチェーン7の走行通路を有する。第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bは平面視したときにファスナーチェーンの走行方向が一直線上になるように前後に配置されている。
【0106】
ファスナーチェーン7は、めっき液面上方からめっき液202中に入った後、第一の絶縁性容器110aを斜め上方に直進しながら通過する。第一の絶縁性容器110aを出たファスナーチェーン7は、その後、表裏が反転した後に、第二の絶縁性容器110bに入る。表裏が反転したファスナーチェーン7は第二の絶縁性容器110bを斜め上方に直進しながら通過し、めっき液202から出て行く。ファスナーチェーン7を反転させる方法は特に制限はないが、長い距離をかけて徐々に反転させたほうが反転に抵抗する力を弱めることができることから、第一の絶縁性容器110aの出口から第二の絶縁性容器110bの入口まで20cm以上を確保することが望ましい。
【0107】
図11に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。本実施形態によれば、一つのめっき槽で両面めっきが可能であり、設置スペースも少なくて済む。また、
図11に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bが上方に傾斜しているので内部の導電性媒体111によるファスナーチェーン7の搬送抵抗を小さくすることができる。
【0108】
また、
図11に示す電気めっき装置においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bの上面は互いに重なり合っていないため、内部に収容した導電性媒体111に上面側から容易にアクセスでき、導電性媒体111の出し入れが簡単である。この点で、本実施形態はメンテナンス性に優れている。
【実施例】
【0109】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明及びその利点をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図しない。
【0110】
(比較例1)
図12に示す電気めっき装置を構築し、搬送中のファスナーチェーンに対して電気めっきを連続的に行った。当該電気めっき装置においては、めっき液202を入れためっき槽201の中に、多数の導電性媒体111を収容した絶縁性容器110が配置されている。絶縁性容器110の内部中央には陰極118が設置されており、導電性媒体111は陰極と電気的に接触している。絶縁性容器110はファスナーチェーン7の走行方向に対して前方及び後方の内側面に陽極119を有する。この例においては、ファスナーチェーン7がめっき液202中を通過する最中、ファスナーチェーン7の両方の主表面側に露出したエレメントに導電性媒体がランダムに接触することで、エレメントの表面にめっき被膜が成長する。
【0111】
めっき試験条件は以下である。
・ファスナーチェーンの仕様:YKK(株)製型式5RGチェーン(チェーン幅:5.75mm、エレメント素材:丹銅)
・めっき液:5L、組成:Sn−Co合金めっき用めっき液
・導電性媒体:ステンレス球、直径4.5mm、2700個
・電流密度:5A/dm
2
電流密度は、整流器の電流値(A)を、ガラス容器内のエレメントの全表面積(両面)及びステンレス球の表面積の合計(dm
2)で除した値とした。ステンレス球の表面積を加味したのはステンレス球にもめっきが付着するためである。
・めっき液中での滞留時間:7.2秒
・搬送速度:2.5m/分
・絶縁性容器:ガラスビーカー
【0112】
(実施例1)
図3〜
図5に示す構造の絶縁性容器を以下の仕様で作製した。
・導電性媒体:3μm程度の厚みのピロリン酸銅めっき被膜を表面に有する鉄球、直径4.5mm、450個、積層数=6個
・絶縁性容器:アクリル樹脂製
・傾斜角度:9°
・開口116:開口率54%、直径2mmの円形状の穴、千鳥状に配列
・隙間C1、C2:2mm
・幅W
2:10mm
【0113】
上記の絶縁性容器を用いて
図9に示す電気めっき装置を構築し、搬送中のファスナーチェーンに対して電気めっきを連続的に行った。
・ファスナーチェーンの仕様:YKK(株)製型式5RGチェーン(チェーン幅:5.75mm、エレメント素材:丹銅)
・めっき液:40L、組成:ノンシアン銅ストライクめっき液
・電圧:5V
・めっき時間:9秒
めっき時間は各エレメントが片方の絶縁性容器を通過するのに要する時間(片面毎のめっき時間)である。
・第一電気めっき工程で第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっき液に最初に接触してから、第二電気めっき工程におけるファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に対する給電が開始されるまでの時間(以下、「第二電気めっきまでの待機時間」という。):30秒
・搬送速度:2m/分
・各エレメントと陽極の間の最短距離:3cm
・通過距離A(定義は先述した通り):10cm
・通過距離B(定義は先述した通り):40cm
・通過距離C(定義は先述した通り):50cm
・通過距離D(定義は先述した通り):40cm
【0114】
(実施例2〜5、比較例2〜3)
通過距離A〜Cが表1に記載の条件となるように電気めっき装置の構造を変化させることでめっき時間を調整した他は実施例1と同様の方法で、搬送中のファスナーチェーンに対して電気めっきを連続的に行った。
【0115】
【表1-1】
【0116】
【表1-2】
【0117】
(めっき均一性)
上記の実施例及び比較例について、得られたファスナーチェーンのエレメントのめっき被膜を目視により観察したときの評価結果を以下に示す。
評価は以下の手順により行った。各エレメントについて表裏の両方にめっきが付着しているか否かを調査する。各エレメントにめっきが付着しているかどうかの評価は目視によりエレメント表面が全体的に銅色に変化しているか否かで行う。エレメント表裏の両方の面にめっきが付着しているときのみ、当該エレメントにめっきが付着していると判断する。当該調査を隣接し合うエレメント200個について行い、表裏にめっきが付着しているエレメントの個数割合(%)を算出する。結果を表2に示す。結果は同様のめっき試験を複数回行ったときの平均値で示した。
【表2】
【0118】
(めっき被膜の厚み)
上記の比較例2〜3及び実施例1〜6について、ファスナーチェーンの両主表面側に露出した各エレメントのエレメント中央Qにおけるめっき被膜の厚みを先述した方法により、任意に20個測定したところ、何れの主表面側に露出した金属製エレメントのエレメント中央Qにおいても厚さが約0.1μmのめっき被膜が形成されていた。
【0119】
(めっき密着性)
上記の実施例1〜5、比較例2〜3について、ファスナーチェーンの両主表面側に露出したエレメント表面におけるめっき被膜の密着性を評価した。評価方法は以下とした。めっき面に縦2本、横2本づつカッターで母材に到達するまで(#の)傷をつける。その上にセロハンテープを貼り、指で押さえてからセロハンテープを引き剥がし、#カット部のめっき膜の剥がれの有無を目視で観察する。100個のエレメントのうち剥がれが見られなかった個数の割合を表3に示す。
【0120】
【表3】
【0121】
<考察>
実施例1〜5ではファスナーチェーンの両主表面側に露出したエレメントの表面に対して密着性の高いめっき被膜を均一に形成可能であった。一方、比較例1では均一性の高いめっき被膜が得られなかった。比較例2及び3ではめっき被膜の均一性は高かったが、実施例1〜5に比べて密着性の高いめっき被膜を得ることができなかった。これは比較例2及び3では第二電気めっきまでの待機時間が長く、第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に密着性の悪い置換めっきが有意に生じたことによると推察される。なお、給電用鉄球は陽極と離れており、かつ樹脂容器で囲まれているので鉄球にはほとんどめっきが付かなかった。
【0122】
(実施例6)
電気めっきの条件を以下のように変更した他は実施例1と同一の条件で、搬送中のファスナーチェーンに対して電気めっきを連続的に行った。
・めっき液:ノンシアン金めっき液
・電圧:3V
【0123】
(めっき均一性)
得られたファスナーチェーンのエレメントのめっき被膜を目視により観察することで各エレメントについて表裏の両方にめっきが付着しているか否かを実施例1と同様の方法で調査した。但し、本実施例ではエレメント表面が全体的に金色に変化しているか否かでめっきの付着有無を判断した。その結果、99%以上のエレメントにめっきが付着していた。
【0124】
(めっき被膜の厚み)
実施例6について、ファスナーチェーンの両主表面側に露出した各エレメントのエレメント中央Qにおけるめっき被膜の厚みを先述した方法により、任意に5個測定したところ、何れの主表面側に露出した金属製エレメントのエレメント中央Qにおいても厚さが約0.05μmのめっき被膜が形成されていた。
【0125】
(めっき密着性)
実施例6ついて、ファスナーチェーンの両主表面側に露出したエレメント表面におけるめっき被膜の密着性を実施例1と同様の方法で評価した。その結果、99%以上のエレメントで密着性が確認された。