(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器(110a)内を通過中に、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第一の絶縁性容器(110a)内の前記複数の導電性媒体(111)に接触させることにより給電する請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気めっき方法。
各金属製エレメントがめっき槽中のめっき液に接触した状態で、陰極(118、317)に電気的に接触した複数の導電性媒体(111、311)が流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第二の絶縁性容器(110b、310b)内を該ファスナーチェーンが通過する工程を更に含み、
該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器(110b、310b)内を通過中に、主として該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第二の絶縁性容器(110b、310b)内であって該ファスナーチェーンの第二の主表面側に配置された前記複数の導電性媒体(111、311)に接触させることにより給電し、
第二の陽極(119、316)を該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で設置する、
請求項1〜4の何れか一項に記載の電気めっき方法。
該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器(110b)内を通過中に、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第二の絶縁性容器(110b)内の前記複数の導電性媒体(111)に接触することにより給電する請求項5に記載の電気めっき方法。
第一の絶縁性容器(110a)は、前記ファスナーチェーンの走行経路を案内する通路(112)、及び複数の導電性媒体(111)を流動可能に収容する収容部(113)を内部に有し、
該通路(112)は前記ファスナーチェーンの入口(114)と、前記ファスナーチェーンの出口(115)と、前記ファスナーチェーンの第一の主表面側と対向する側の路面(112a)に前記複数の導電性媒体(111)へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口(117)と、前記ファスナーチェーンの第二の主表面側と対向する側の路面(112b)にめっき液が連通可能な一つ又は二つ以上の開口(116)とを有し、
前記複数の導電性媒体(111)へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口(117)について、チェーン幅方向の長さをW2とし、導電性媒体(111)の直径をDとすると、2D<W2<6Dの関係が成立する請求項7に記載の電気めっき方法。
第一の絶縁性容器(110a、310a)に用いられる前記陰極(118、317)は、第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面に複数箇所設置される請求項1〜8の何れか一項に記載の電気めっき方法。
前記陰極(118、317)は、第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側の内側面(113a)と、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)の後尾部とに少なくとも一箇所ずつ設置される請求項9に記載の電気めっき方法。
前記陰極(118、317)は、第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)の、ファスナーチェーンの通過方向中央部に少なくとも一箇所設置される請求項10に記載の電気めっき方法。
第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)に設置される前記陰極(118、317)は、当該内側面と面一に設置される請求項11に記載の電気めっき方法。
第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)に設置される前記陰極(118、317)は、当該内側面のファスナーチェーンの通過方向の長さ100%に対して、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側から30〜70%の範囲内に設置される請求項11又は12に記載の電気めっき方法。
第二の絶縁性容器(110b、310b)に用いられる前記陰極(118、317)は、第二の絶縁性容器(110b、310b)の内側面に複数箇所設置される請求項5又は6に従属する請求項9〜16の何れか一項に記載の電気めっき方法。
第一の絶縁性容器(110a)は、前記ファスナーチェーンの走行経路を案内する通路(112)、及び複数の導電性媒体(111)を流動可能に収容する収容部(113)を内部に有し、
該通路(112)は前記ファスナーチェーンの入口(114)と、前記ファスナーチェーンの出口(115)と、前記ファスナーチェーンの第一の主表面側と対向する側の路面(112a)に前記複数の導電性媒体(111)へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口(117)と、前記ファスナーチェーンの第二の主表面側と対向する側の路面(112b)にめっき液が連通可能な一つ又は二つ以上の開口(116)とを有する、
請求項18に記載の電気めっき装置。
第一の絶縁性容器(310a)は、該ファスナーチェーンが第一の主表面を下側に、第二の主表面を上側にして第一の絶縁性容器(310a)内を通過することが可能なように構成されており、
第一の絶縁性容器(310a)は、前記ファスナーチェーンの入口(314a)と、前記ファスナーチェーンの出口(315a)と、前記ファスナーチェーンの走行方向に平行な回転軸(313)とを有する回転バレルであり、
前記複数の導電性媒体(311)は該回転バレル内で、前記ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面よりも、前記ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面へ優先的に接触する高さまで充填されている、
請求項18に記載の電気めっき装置。
第二の絶縁性容器(310b)は、該ファスナーチェーンが第一の主表面を下側に、第二の主表面を上側にして第二の絶縁性容器(310b)内を通過することが可能なように構成されており、
第二の絶縁性容器(310b)は、前記ファスナーチェーンの入口(314b)と、前記ファスナーチェーンの出口(315b)と、前記ファスナーチェーンの走行方向に平行な回転軸(313)とを有する回転バレルであり、
該回転バレル内に収容された前記複数の導電性媒体(311)が、前記ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面よりも、前記ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面へ優先的に接触するように、該回転バレルは回転軸(313)に平行な内側面から内側に向かって突出した少なくとも一つのガイド部材(312)を有する、
請求項22に記載の電気めっき装置。
第一の絶縁性容器(110a、310a)に用いられる前記陰極(118、317)は、第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面に複数箇所設置される請求項18〜24の何れか一項に記載の電気めっき装置。
前記陰極(118、317)は、第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側の内側面(113a)と、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)の後尾部とに少なくとも一箇所ずつ設置される請求項25に記載の電気めっき装置。
前記陰極(118、317)は、第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)の、ファスナーチェーンの通過方向中央部に少なくとも一箇所設置される請求項26に記載の電気めっき装置。
第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)に設置される前記陰極(118、317)は、当該内側面と面一に設置される請求項27に記載の電気めっき装置。
第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)に設置される前記陰極(118、317)は、当該内側面のファスナーチェーンの通過方向の長さ100%に対して、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側から30〜70%の範囲内に設置される請求項27又は28に記載の電気めっき装置。
第二の絶縁性容器(110b、310b)に用いられる前記陰極(118、317)は、第二の絶縁性容器(110b、310b)の内側面に複数箇所設置される請求項22に従属する請求項25〜30の何れか一項に記載の電気めっき装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許第2514760号公報に記載の方法の場合、エレメント列全体を同時に通電し、連続的に電気めっきできるが、導電糸は高価であり、また、金属の導電糸を織り込むためにテープ作製や染色において導電糸の切断や金属の溶解など起こり易く、生産性が悪いという問題がある。導電糸を使用することなく金属ファスナーを電気めっきする方法としては、めっき槽中で円筒形の給電ロール表面に金属ファスナーの個々のエレメントを接触させながら金属ファスナーを搬送する連続めっき法が考えられる。しかしながら、このような方法では給電ロールとエレメントの接触が不均一となり易いため、めっき被膜の均一性を得るためには給電ロールとの接触を多数繰り返す必要がある。よって、めっき装置が大がかりとなり、装置価格も高額となる。
【0009】
そこで、本発明は、エレメント同士が予め電気的に接続されていなくても、金属ファスナーの個々のエレメントに対して簡便に高い均一性でめっきすることができる金属ファスナー用電気めっき方法及び装置を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
金属ファスナーは、一対の長尺ファスナーテープが各ファスナーテープの対向し合う側縁に固定された金属製エレメントの列を噛み合わせてできるファスナーチェーンと呼ばれる中間製品を経て製造されるのが一般的である。このファスナーチェーンを所定の長さで切断し、スライダー、上止め、下止め等の各種部品を取り付けることで金属ファスナーが完成する。
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者等が鋭意検討したところ、ファスナーチェーンをめっき液中で走行させている間に、ファスナーチェーンに固定されているそれぞれの金属製エレメントを流動可能に収容された複数の導電性媒体に接触させ、該導電性媒体を介して通電する手法が有効であることを見出した。そして、金属製エレメントを導電性媒体に接触させる際には、導電性媒体はファスナーチェーンの一方の主表面側に配置しつつ他の主表面側には導電性媒体を配置せず金属製エレメントとめっき液との接触を確保することで、他の主表面側にめっき被膜が効率的に成長することを見出した。すなわち、金属製エレメントはファスナーチェーンの片面毎にめっきすることで個々のエレメントへの給電を確実に行うことができることを見出した。
【0012】
上記知見を基礎として完成した本発明は以下のように例示される。
[1]
金属製エレメントの列を有するファスナーチェーンの電気めっき方法であって、
各金属製エレメントがめっき槽中のめっき液に接触した状態で、陰極(118、317)に電気的に接触した複数の導電性媒体(111、311)が流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第一の絶縁性容器(110a、310a)内を該ファスナーチェーンが通過する工程を含み、
該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器(110a、310a)内を通過中に主として該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第一の絶縁性容器(110a、310a)内の前記複数の導電性媒体(111、311)に接触させることにより給電し、
第一の陽極(119、316)を該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で設置する、
電気めっき方法。
[2]
前記ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器(110a、310a)内を上昇しながら通過する[1]に記載の電気めっき方法。
[3]
前記ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器(110a、310a)内を鉛直方向に上昇しながら通過する[2]に記載の電気めっき方法。
[4]
該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器(110a)内を通過中に、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第一の絶縁性容器(110a)内の前記複数の導電性媒体(111)に接触させることにより給電する[1]〜[3]のいずれか一項に記載の電気めっき方法。
[5]
各金属製エレメントがめっき槽中のめっき液に接触した状態で、陰極(118、317)に電気的に接触した複数の導電性媒体(111、311)が流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第二の絶縁性容器(110b、310b)内を該ファスナーチェーンが通過する工程を更に含み、
該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器(110b、310b)内を通過中に、主として該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第二の絶縁性容器(110b、310b)内の前記複数の導電性媒体(111、311)に接触させることにより給電し、
第二の陽極(119、316)を該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で設置する、
[1]〜[4]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[6]
該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器(110b)内を通過中に、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第二の絶縁性容器(110b)内の前記複数の導電性媒体(111)に接触することにより給電する[5]に記載の電気めっき方法。
[7]
導電性媒体(111、311)が球状である[1]〜[6]のいずれか一項に記載の電気めっき方法。
[8]
第一の絶縁性容器(110a)は、前記ファスナーチェーンの走行経路を案内する通路(112)、及び複数の導電性媒体(111)を流動可能に収容する収容部(113)を内部に有し、
該通路(112)は前記ファスナーチェーンの入口(114)と、前記ファスナーチェーンの出口(115)と、前記ファスナーチェーンの第一の主表面側と対向する側の路面(112a)に前記複数の導電性媒体(111)へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口(117)と、前記ファスナーチェーンの第二の主表面側と対向する側の路面(112b)にめっき液が連通可能な一つ又は二つ以上の開口(116)とを有し、
前記複数の導電性媒体(111)へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口(117)について、チェーン幅方向の長さをW
2とし、導電性媒体(111)の直径をDとすると、2D<W
2<6Dの関係が成立する[7]に記載の電気めっき方法。
[9]
第一の絶縁性容器(110a、310a)に用いられる前記陰極(118、317)は、第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面に複数箇所設置される[1]〜[8]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[10]
前記陰極(118、317)は、第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側の内側面(113a)と、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)の後尾部とに少なくとも一箇所ずつ設置される[9]に記載の電気めっき方法。
[11]
前記陰極(118、317)は、第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)の、ファスナーチェーンの通過方向中央部に少なくとも一箇所設置される[10]に記載の電気めっき方法。
[12]
第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)に設置される前記陰極(118、317)は、当該内側面と面一に設置される[11]に記載の電気めっき方法。
[13]
第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)に設置される前記陰極(118、317)は、当該内側面のファスナーチェーンの通過方向の長さ100%に対して、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側から30〜70%の範囲内に設置される[11]又は[12]に記載の電気めっき方法。
[14]
前記陰極(118、317)は、ファスナーチェーンの通過方向に等間隔に複数設置される[9]〜[13]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[15]
複数設置される前記陰極(118、317)の電位は同一である[9]〜[14]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[16]
第一の絶縁性容器(110a、310a)内を通過中のエレメントのうち、電流密度の最も高いエレメントにおける電流密度をD
max、第一の絶縁性容器(110a、310a)内を通過中のエレメントのうち、電流密度の最も低いエレメントにおける電流密度をD
minとすると、0.8≦D
min/D
maxが成立する[9]〜[15]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[17]
第二の絶縁性容器(110b、310b)に用いられる前記陰極(118、317)は、第二の絶縁性容器(110b、310b)の内側面に複数箇所設置される[5]又は[6]に従属する[9]〜[16]の何れか一項に記載の電気めっき方法。
[18]
金属製エレメントの列を有するファスナーチェーンの電気めっき装置であって、
めっき液を収容可能なめっき槽(201、401)と、
めっき槽(201、401)中に配置された第一の陽極(119、316)と、
めっき槽(201、401)中に配置され、且つ、複数の導電性媒体(111、311)が陰極(118、317)に電気的に接触した状態で流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第一の絶縁性容器(110a、310a)と、
を備え、
第一の絶縁性容器(110a、310a)は、主として該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第一の絶縁性容器(110a、310a)内の前記複数の導電性媒体(111、311)に接触させながら、該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器(110a、310a)内を通過することが可能なように構成されており、
第一の陽極(119、316)は、該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器(110a、310a)を通過する際に、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で設置されている、
電気めっき装置。
[19]
第一の絶縁性容器(110a)は、前記ファスナーチェーンの走行経路を案内する通路(112)、及び複数の導電性媒体(111)を流動可能に収容する収容部(113)を内部に有し、
該通路(112)は前記ファスナーチェーンの入口(114)と、前記ファスナーチェーンの出口(115)と、前記ファスナーチェーンの第一の主表面側と対向する側の路面(112a)に前記複数の導電性媒体(111)へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口(117)と、前記ファスナーチェーンの第二の主表面側と対向する側の路面(112b)にめっき液が連通可能な一つ又は二つ以上の開口(116)とを有する、
[18]に記載の電気めっき装置。
[20]
前記通路(112)は入口(114)の上方に出口(115)を有する[18]又は[19]に記載の電気めっき装置。
[21]
前記通路(112)は入口(114)の鉛直上方に出口(115)を有する[20]に記載の電気めっき装置。
[22]
めっき槽(201、401)中に配置された第二の陽極(119、316)と、
めっき槽(201、401)中に配置され、且つ、複数の導電性媒体(111、311)が陰極(118、317)に電気的に接触した状態で流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第二の絶縁性容器(110b、310b)と、
を更に備え、
第二の絶縁性容器(110b、310b)は、主として該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第二の絶縁性容器(110b、310b)内の前記複数の導電性媒体(111、311)に接触させながら、該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器(110b、310b)内を通過することが可能なように構成されており、
第二の陽極(119、316)は、該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器(110b、310b)を通過する際に、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で設置されている、
[18]〜[21]のいずれか一項に記載の電気めっき装置。
[23]
第一の絶縁性容器(310a)は、該ファスナーチェーンが第一の主表面を下側に、第二の主表面を上側にして第一の絶縁性容器(310a)内を通過することが可能なように構成されており、
第一の絶縁性容器(310a)は、前記ファスナーチェーンの入口(314a)と、前記ファスナーチェーンの出口(315a)と、前記ファスナーチェーンの走行方向に平行な回転軸(313)とを有する回転バレルであり、
前記複数の導電性媒体(311)は該回転バレル内で、前記ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面よりも、前記ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面へ優先的に接触する高さまで充填されている、
[18]に記載の電気めっき装置。
[24]
第二の絶縁性容器(310b)は、該ファスナーチェーンが第一の主表面を下側に、第二の主表面を上側にして第二の絶縁性容器(310b)内を通過することが可能なように構成されており、
第二の絶縁性容器(310b)は、前記ファスナーチェーンの入口(314b)と、前記ファスナーチェーンの出口(315b)と、前記ファスナーチェーンの走行方向に平行な回転軸(313)とを有する回転バレルであり、
該回転バレル内に収容された前記複数の導電性媒体(311)が、前記ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面よりも、前記ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面へ優先的に接触するように、該回転バレルは回転軸(313)に平行な内側面から内側に向かって突出した少なくとも一つのガイド部材(312)を有する、
[22]に記載の電気めっき装置。
[25]
第一の絶縁性容器(110a、310a)に用いられる前記陰極(118、317)は、第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面に複数箇所設置される[18]〜[24]の何れか一項に記載の電気めっき装置。
[26]
前記陰極(118、317)は、第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側の内側面(113a)と、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)の後尾部とに少なくとも一箇所ずつ設置される[25]に記載の電気めっき装置。
[27]
前記陰極(118、317)は、第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)の、ファスナーチェーンの通過方向中央部に少なくとも一箇所設置される[26]に記載の電気めっき装置。
[28]
第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)に設置される前記陰極(118、317)は、当該内側面と面一に設置される[27]に記載の電気めっき装置。
[29]
第一の絶縁性容器(110a、310a)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面(113b)に設置される前記陰極(118、317)は、当該内側面のファスナーチェーンの通過方向の長さ100%に対して、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側から30〜70%の範囲内に設置される[27]又は[28]に記載の電気めっき装置。
[30]
前記陰極(118、317)は、ファスナーチェーンの通過方向に等間隔に複数設置される[25]〜[29]の何れか一項に記載の電気めっき装置。
[31]
第二の絶縁性容器(110b、310b)に用いられる前記陰極(118、317)は、第二の絶縁性容器(110b、310b)の内側面に複数箇所設置される[22]に従属する[25]〜[30]の何れか一項に記載の電気めっき装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エレメント同士が予め電気的に接続した状態にあるファスナーチェーンでなくても、ファスナーチェーンを電気めっきする際に個々のエレメントがめっき液と十分に接触した状態で確実に給電を受けるようになるため、短時間で均一性の高いめっき被膜を形成することができる。また、めっき装置を小型化することが可能となるので、設置費用や維持費用を抑えることが可能となる。導電性媒体にもめっきが付くことがあるが、導電性媒体は流動可能に収容されており、めっき装置から個別に取り出すことができるため、装置の保全が容易に行えるという利点も得られる。よって、本発明はユーザに対して幅広い色調のファスナー商品を低価格で提案可能とすることに貢献する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
(1.金属ファスナー)
図1に例示的に金属ファスナーの模式的な正面図を示す。
図1に示すように金属ファスナーは、内側縁側に芯部2が形成された一対のファスナーテープ1とファスナーテープ1の芯部2に所定の間隔をおいて加締め固定(装着)された金属製エレメント3の列と、金属製エレメント3の列の上端及び下端でファスナーテープ1の芯部2に加締め固定された上止具4及び下止具5と、対向する一対のエレメント3の列間に配され、一対の金属製エレメント3の噛合及び開離を行うための上下方向に摺動自在なスライダー6を備える。一本のファスナーテープ1の芯部2にエレメント3の列が装着された状態のものをファスナーストリンガーといい、一対のファスナーテープ1の芯部2に装着されたエレメント3の列が噛合状態となっているものをファスナーチェーン7という。なお、下止具5は、蝶棒、箱棒、箱体からなる開離嵌挿具とし、スライダーの開離操作にて一対のファスナーチェーンを分離できるようにしたものであっても構わない。図示しないその他の実施形態も可能である。
【0017】
金属製エレメント3の材料には特に制限はないが、銅(純銅)、銅合金(丹銅、真鍮、洋白など)やアルミニウム合金(Al−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Si系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金、Al−Zn−Mg系合金、Al−Zn−Mg−Cu系合金など)、亜鉛、亜鉛合金、鉄、鉄合金等を用いることができる。
【0018】
金属製エレメント3に対して各種の電気めっきを行うことができる。めっきは所望の色調を得るという意匠目的の他、防錆効果、ひび割れ防止効果、摺動抵抗低減効果を狙って行うことができる。めっきの種類に特に制限はなく、単一金属めっき、合金めっき、複合めっきの何れでもよいが、例示的にはSnめっき、Cu−Sn合金めっき、Cu−Sn−Zn合金めっき、Sn−Co合金めっき、Rhめっき、Pdめっきが挙げられる。また、Znめっき(ジンケート処理を含む)、Cuめっき(青化銅めっき、ピロリン酸銅めっき、硫酸銅めっきを含む)、Cu−Zn合金めっき(真鍮めっきを含む)、Niめっき、Ruめっき、Auめっき、Coめっき、Crめっき(クロメート処理を含む)、Cr−Mo合金めっきなども挙げられる。めっきの種類はこれらに限られるものではなく、目的に応じてその他の各種金属めっきを行うことができる。
【0019】
金属ファスナーは各種の物品に取着することができ、特に開閉具として機能する。スライドファスナーが取着される物品としては、特に制限はないが、例えば衣料品、鞄類、靴類及び雑貨品といった日用品の他、貯水タンク、漁網及び宇宙服といった産業用品が挙げられる。
【0020】
(2.めっき方法)
本発明においては、金属ファスナー用めっき方法として、金属製エレメントの列を有するファスナーチェーンを搬送しながら連続的に電気めっきする方法を提案する。
【0021】
本発明に係る電気めっき方法の一実施形態においては、ファスナーチェーンの一方の主表面側に露出したエレメント列の表面を主としてめっきすることを目的として、各金属製エレメントがめっき槽中のめっき液に接触した状態で、陰極に電気的に接触した複数の導電性媒体が流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第一の絶縁性容器内を該ファスナーチェーンが通過する工程を含む。
【0022】
本発明に係る電気めっき方法の別の一実施形態においては、ファスナーチェーンの他方の主表面側に露出したエレメント列の表面を主としてめっきすることを目的として、各金属製エレメントがめっき槽中のめっき液に接触した状態で、陰極に電気的に接触した複数の導電性媒体が流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第二の絶縁性容器内を該ファスナーチェーンが通過する工程を更に含む。
【0023】
これらの両工程を経ることでファスナーチェーンの両主表面側に露出したエレメント列の表面に対してめっきが可能である。また、異なるめっき液を使用して両工程を経ることで、ファスナーチェーンの一方の主表面と他方の主表面に対して異なるめっきが可能である。
【0024】
めっき液の組成、温度などの条件は各エレメントに析出させたい金属成分の種類によって当業者が適宜設定すればよく、特に制限されるものではない。
【0025】
導電性媒体の材料としては特に制限はないが、金属が一般的である。金属の中でも、耐腐食性が高い、耐磨耗性が高いという理由により、鉄、ステンレス、銅、真鍮が好ましく、鉄がより好ましい。但し、鉄製の導電性媒体を使用する場合、導電性媒体がめっき液に接触すると密着性の悪い置換めっき被膜が鉄球の表面に形成される。このめっき被膜はファスナーチェーンを電気めっき中に導電性媒体から剥がれて細かな金属片となってめっき液中に浮遊する。金属片がめっき液中に浮遊するとファスナーテープに付着したりするので浮遊は防止することが好ましい。そのため、鉄製の導電性媒体を使用する場合は、置換めっきされるのを防ぐために予め導電性媒体をピロリン酸銅めっき、硫酸銅めっき、ニッケルめっき、又は錫ニッケル合金めっきをしておくことが好ましい。なお、導電性媒体に青化銅めっきを行うことでも置換めっきを防止することはできるが、導電性媒体表面の凹凸が比較的大きくなり導電性媒体の回転が阻害されるため、ピロリン酸銅めっき、硫酸銅めっき、ニッケルめっき、又は錫ニッケル合金めっきが好ましい。
【0026】
第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器の材質としては、耐薬品性、耐磨耗性、耐熱性の観点から、高密度ポリエチレン(HDPE)、耐熱性硬質ポリ塩化ビニル、ポリアセタール(POM)が好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましい。
【0027】
第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内に流動可能に収容された複数の導電性媒体が陰極に電気的に接触していることにより、陰極から各エレメントに導電性媒体を介して給電を行うことができる。陰極の設置場所には特に制限はないが、各絶縁性容器内で各導電性媒体との電気的な接触が途切れない位置に設置することが望まれる。
【0028】
例えば、後述するような固定セル方式の電気めっき装置を使用する場合に、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を水平方向に通過すると、導電性媒体は搬送方向の先頭に移動して集積しやすく、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を鉛直上方に通過すると、導電性媒体は下方集積しやすい。
【0029】
そこで、ファスナーチェーンが水平方向に通過する場合は、絶縁性容器の内面のうち、導電性媒体が集積しやすい搬送方向の先頭側の内側面には少なくとも陰極を設置することが好ましく、ファスナーチェーンが鉛直上方に通過する場合は、絶縁性容器の内側面のうち、導電性媒体が集積しやすい下方側の内側面には少なくとも陰極を設置することが好ましい。陰極の形状に特に制限はないが、例えば板状とすることができる。
【0030】
ファスナーチェーンは水平方向と鉛直方向の中間の斜め方向にも走行し得るが、この場合は傾斜、走行速度、導電性媒体の数や大きさによって導電性媒体の集積しやすい場所が変化するため、実際の条件に応じて陰極を設置する場所を調整すればよい。
【0031】
第一の絶縁性容器及び第二の絶縁性容器内に収容された複数の導電性媒体を流れる電流の大きさは陰極からの距離が大きくなるほど小さくなる。従って、導電性媒体を介して各エレメントを流れる電流についても、陰極から離れるほど小さくなる。例えば、絶縁性容器の内側面のうち、搬送方向の先頭側の内側面に陰極が一つ設置された場合、
図15に模式的に示すように、先頭側に位置するエレメントの電流が最も大きく、後尾側に向かって電流が小さくなる。本発明者の検討結果によれば、陰極を流れる電流がI
0のときに電流が0となる陰極からの搬送方向の距離(換言すれば、エレメントがめっきされる陰極からの搬送方向の最大距離)をD
0とし、陰極を流れる電流がI
1のときに電流が0となる陰極からの搬送方向の距離をD
1とすると、両者の間には以下の実験式が成立する。
【数1】
【0032】
このように、陰極からの距離が大きくなるとエレメントを流れる電流が小さくなり、低電流部においてはめっき効率が低下する。めっき効率を高くするためには、低電流部をなくすことが望ましい。先頭側の電流をより大きくすることで後尾側の電流を大きくすることも考えられるが、そうすると先頭側の電流が更に大きくなり、焼けめっきが生じるおそれがある。そこで、第一の絶縁性容器(第二の絶縁性容器)に用いられる陰極は、第一の絶縁性容器(第二の絶縁性容器)の内側面に複数箇所設置することで、第一の絶縁性容器(第二の絶縁性容器)内を通過中のエレメントに流れる電流の均一性を高めることが望ましい。エレメントを流れる電流の均一性が高くなると、焼けめっきの生じない最大電流を絶縁性容器を通過中のエレメント全部に流すことも可能となる。めっき効率が向上することで、同じ厚みのめっき被膜を成長させるのに要する時間が短くなるので、ファスナーチェーンの搬送速度を高め、生産効率を向上することが可能となる。陰極を複数設置することによる電流の均一化の効果は、導電率の低いめっき液になるほど顕著に現れる。
【0033】
好ましい実施形態によれば、第一の絶縁性容器(第二の絶縁性容器)内を通過中のエレメントのうち、電流の最も高いエレメントにおける電流密度(エレメントを流れる電流÷エレメントの表面積)をD
max、第一の絶縁性容器内を通過中のエレメントのうち、電流の最も低いエレメントにおける電流密度をD
minとすると、0.8≦D
min/D
max≦1.0が成立する。より好ましくは0.9≦D
min/D
max≦1.0が成立し、更により好ましくは0.95≦D
min/D
max≦1.0が成立する。
【0034】
電流均一化による搬送速度の高速化について考察する。例えば、絶縁性容器の内側面のうち、搬送方向の先頭側の内側面に陰極が一つ設置された場合に、陰極付近のエレメントで10A/dm
2、出口付近のエレメントで3A/dm
2であったとすると、平均電流密度は(10+3)/2=6.5A/dm
2である。これに対して、陰極を複数設置したことにより、平均電流密度が10A/dm
2になると、同じ厚みのめっき被膜を得るのに10/6.5=1.54倍の速度で搬送することが可能となる。
【0035】
好ましい実施形態においては、陰極は、第一の絶縁性容器(第二の絶縁性容器)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側の内側面及び後尾側の内側面に少なくとも一箇所ずつ設置される。これにより、ファスナーチェーンの搬送方向における電流の均一性を高めることができる。例えば、
図16には、絶縁性容器の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側の内側面と、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面の後尾部とに陰極が一箇所ずつ設置される場合のエレメントを流れる電流の搬送方向の変化が模式的に示されている。この場合、各陰極から離れるに従って、各陰極に起因する電流(点線で示す)は小さくなるが、それぞれの電流を合計すると、実線で示すように、絶縁性容器内を通過中のエレメントに流れる電流の均一性が向上する。陰極は、第一の絶縁性容器(第二の絶縁性容器)の後尾側の内側面に設置してもよいが、導電性媒体は先頭側に集まりやすく後尾側の内側面は導電性媒体と接触する可能性が低くなりやすいので、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面の後尾部に設置することが好ましい。この場合、後尾部の陰極は、当該内側面のファスナーチェーンの通過方向の長さ100%に対して、ファスナーチェーンの通過方向の後尾側から0〜30%の範囲内に設置されることが好ましく、0〜20%の範囲内に設置されることがより好ましい。
【0036】
絶縁性容器が搬送方向に長い場合は、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側の内側面と、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面の後尾部とに陰極を一箇所ずつ設置するだけでは絶縁性容器内を通過するエレメントに流れる電流を十分に均一化できない場合がある。このような場合、陰極は更に、第一の絶縁性容器(第二の絶縁性容器)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面に少なくとも一箇所追加して設置されることが好ましい。ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面に設置する陰極の数は絶縁性容器の搬送方向の長さ及び所望される電流に応じて決定すればよい。また、陰極を三箇所以上設置する場合は、ファスナーチェーンの通過方向に等間隔に複数設置されることが絶縁性容器内を通過するエレメントに流れる電流の均一性を高める上で好ましい。
【0037】
図17には、絶縁性容器の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側の内側面、並びにファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面の中央部及び後尾部に陰極が一箇所ずつ設置される場合のエレメントに流れる電流の搬送方向の変化が模式的に示されている。これによれば、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側の内側面と、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面の後尾部に設置された陰極に起因する電流(点線で示す)が、絶縁性容器内のファスナーチェーンの通過方向中央付近において大きく低下したとしても、陰極がファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面の中央部に設置されていることで、当該陰極に起因する電流(一点鎖線で示す)が流れる。これにより、三つの陰極に起因する電流を合計すると、実線で示すように、ファスナーチェーンの搬送方向における電流の均一性を改善することができる。三つの陰極を設置する実施態様において、電流の均一性を高めるという観点からは、第一の絶縁性容器(第二の絶縁性容器)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面に設置される陰極は、当該内側面のファスナーチェーンの通過方向の長さ100%に対して、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側から30〜70%の範囲内に設置されることが好ましく、40〜60%の範囲内に設置されることがより好ましい。
【0038】
第一の絶縁性容器(第二の絶縁性容器)の内側面のうち、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面に設置される陰極は、当該内側面と面一に設置されることが好ましい(
図18参照)。これにより、導電性媒体の流動が陰極によって阻害されることがなくなる。
【0039】
導電性媒体は各絶縁性容器内で流動可能となっており、ファスナーチェーンの走行に伴って導電性媒体は流動及び/又は回転及び/又は上下運動しながら各エレメントとの接触場所を常時変化させる。これによって電流を通る場所や接点抵抗も常時変化するため、均一性の高いめっき被膜を成長させることが可能となる。導電性媒体は、流動可能な状態で容器内に収容されている限り、その形状に制約はないが、流動性の観点から球状であることが好ましい。
【0040】
各導電性媒体の寸法はファスナーチェーンのチェーン幅、エレメントのスライダー摺動方向の幅及びピッチによって最適値が異なるが、後述するような固定セル方式の電気めっき装置を使用する場合、第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内をファスナーチェーンが通過中に、ファスナーチェーンの走行通路内に導電性媒体が進入して走行通路内に導電性媒体が詰まりにくくするにはチェーン厚以上であることが好ましい。
【0041】
第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内に収容する導電性媒体の個数については特に制約はないが、ファスナーチェーンの各エレメントに給電を行うことができるという観点、特に、ファスナーチェーンが走行中に導電性媒体が進行方向に移動しても、導電性媒体が第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を通過中の各エレメントと接触を常に保てるだけの数量を確保するという観点から、適宜設定することが望ましい。一方で、ファスナーチェーンの各エレメントには、導電性媒体から適度な押し付け圧力が掛かるほうが電気が流れやすくなり好ましいが、過度な押し付け圧力は搬送抵抗を増大させてファスナーチェーンのスムーズな搬送を妨害する。このため、ファスナーチェーンは過度な搬送抵抗を受けることなくスムーズに第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を通過できることが好ましい。以上の観点から、例示的には、各絶縁性容器内に収容する導電性媒体は、導電性媒体をエレメント上に敷き詰めた場合に3層以上(換言すれば、導電性媒体の直径の3倍以上の積層厚み)形成できる量が望ましく、3〜8層(換言すれば、導電性媒体の直径の3〜8倍の積層厚み)形成できる量とするのが典型的である。
【0042】
後述するような固定セル方式の電気めっき装置を使用する場合に、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を水平に通過すると、導電性媒体は搬送方向の先頭に移動して集積しやすい。すると、先頭部分に集積した分の導電性媒体の重みによってファスナーチェーンが押し付けられるため、ファスナーチェーンに対する搬送抵抗が大きくなる。また、陰極から導電性媒体に電流が流れる際、セルの長さが長くなると電圧降下によってめっき効率が低下する。このため、第一の絶縁性容器及び第二の絶縁性容器をそれぞれ二つ以上直列に連結することで導電性媒体による重みに起因する搬送抵抗を受けにくくすることができ、また、めっき効率を向上させることができる。各絶縁性容器を二つ以上直列に連結する数の増減によってめっき被膜の厚みやファスナーチェーンの走行速度を調整することもできる。
【0043】
搬送抵抗を低減するという観点からは、各絶縁性容器内を通過するファスナーチェーンの走行方向に上向きの角度を設けること、すなわちファスナーチェーンが各絶縁性容器内を上昇しながら通過することが望ましい。これにより、搬送方向に移動しやすい導電性媒体が自重によって搬送方向の後方に落ちてくるため、搬送方向の先頭に導電性媒体が集積しにくくなる。傾斜角度は搬送速度、導電性媒体の大きさ及び個数等によって適宜設定すればよいが、導電性媒体が球形であり、エレメント上に3〜8層形成可能な量とする場合には、ファスナーチェーンが走行中に導電性媒体が進行方向に移動しても、導電性媒体が第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を通過中の各エレメントとの接触を保たれるようにするという観点から、9°以上が好ましく、典型的には9°以上45°以下である。
【0044】
めっき装置をよりコンパクトに設計するという観点からは、ファスナーチェーンが各絶縁性容器内を鉛直方向に上昇しながら通過する方法もある。当該方法によれば、めっき槽が鉛直方向に長くなる一方で水平方向には短くなるのでめっき装置の設置面積を小さくすることができる。
【0045】
本発明に係るめっき方法の一実施形態においては、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内を通過中に、主としてファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第一の絶縁性容器内の複数の導電性媒体に接触させることにより給電する。この際、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で第一の陽極を設置することで、陽イオンと電子に規則的な流れが生じ、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面側にめっき被膜を迅速に成長させることができる。導電性媒体にめっきがなされるのを抑制するという観点からは、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係でのみ第一の陽極を設置することが好ましい。
【0046】
また、本発明に係るめっき方法の別の一実施形態においては、ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器内を通過中に、主として該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第二の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させることにより給電する。この際、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で第二の陽極を設置することで、陽イオンと電子に規則的な流れが生じ、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面側にめっき被膜を迅速に成長させることができる。エレメント以外の余計な箇所にめっきがなされるのを抑制するという観点からは、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係でのみ第二の陽極を設置することが好ましい。
【0047】
複数の導電性媒体をファスナーチェーンの両方の主表面にランダムに接触させると陽イオンと電子の流れも乱雑となり、電子めっき被膜の成長速度が遅くなってしまうため、できるだけ片方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を優先的に複数の導電性媒体に接触させることが望ましい。よって、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内を通過中に、第一の絶縁性容器内の導電性媒体の全個数のうち60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更により好ましくはすべてをファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に接触可能に構成することが望ましい。第一の絶縁性容器内の導電性媒体のすべてをファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に接触可能に構成するというのは、第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第一の絶縁性容器内の導電性媒体に接触させることを意味する。
【0048】
同様に、ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器内を通過中に、第二の絶縁性容器内の導電性媒体の全個数のうち60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更により好ましくはすべてをファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に接触可能に構成することが望ましい。第二の絶縁性容器内の導電性媒体のすべてをファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に接触可能に構成するというのは、第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第二の絶縁性容器内の導電性媒体に接触させることを意味する。
【0049】
ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と第一の陽極の最短距離、及び、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と第二の陽極の最短距離は、それぞれ短い方が各金属製エレメントへ効率的にめっきすることができ、不要な箇所(例えば、導電性媒体)へのめっきを抑制することができる。めっき効率が高まることにより、導電性媒体のメンテナンス費用、薬品代、電気代が節約できる。具体的には各金属製エレメントと陽極の最短距離は10cm以下が好ましく、8cm以下がより好ましく、6cm以下が更により好ましく、4cm以下が更により好ましい。この際、第一の陽極及び第二の陽極はファスナーチェーン搬送方向に平行に延設されることがめっき効率の観点から望ましい。
【0050】
(3.めっき装置)
次に、本発明に係る金属製エレメントの列を有するファスナーチェーンの電気めっき方法を実施するのに好適な電気めっき装置の実施形態について説明する。ただし、電気めっき方法の実施形態の説明の中で述べた構成要素と同一の構成要素に関する説明は、電気めっき装置の実施形態の説明においても該当するため、原則として重複する説明を省略する。
【0051】
本発明に係る電気めっき装置は一実施形態において、
めっき液を収容可能なめっき槽と、
めっき槽中に配置された第一の陽極と、
めっき槽中に配置され、且つ、複数の導電性媒体が陰極に電気的に接触した状態で流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第一の絶縁性容器と、
を備える。
【0052】
本実施形態において、第一の絶縁性容器は、主として該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第一の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させながら、該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内を通過することが可能なように構成される。また、本実施形態において、第一の陽極は、該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器を通過する際に、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向することができる位置関係で設置される。本実施形態によれば、ファスナーチェーンの一方の主表面側に露出したエレメント列の表面を主としてめっきすることができる。
【0053】
本発明に係る電気めっき装置は別の一実施形態において、
めっき槽中に配置された第二の陽極と、
めっき槽中に配置され、且つ、複数の導電性媒体が陰極に電気的に接触した状態で流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第二の絶縁性容器と、
を更に備える。
【0054】
本実施形態において、第二の絶縁性容器は、主として該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第二の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させながら、該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器内を通過することが可能なように構成される。また、本実施形態において、第二の陽極は、該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器を通過する際に、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で設置される。本実施形態によれば、ファスナーチェーンの両主表面側に露出したエレメント列の表面に対してめっきが可能である。
【0055】
(3−1 固定セル方式めっき装置)
次に、本発明に係る電気めっき装置の具体的な構成例について説明する。最初に説明するのは固定セル方式の電気めっき装置である。固定セル方式は一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを絶縁性容器内の導電性媒体に接触させることができるという点で有利である。固定セル方式のめっき装置においては、絶縁性容器はめっき装置内で固定されており、回転動作等の動きを伴わない。固定セル方式のめっき装置の一構成例における絶縁性容器(第一及び第二の絶縁性容器の何れにも使用可能である。)の構造を
図2〜
図4に模式的に示す。
図2は、固定セル方式のめっき装置の絶縁性容器をファスナーチェーンの搬送方向と向き合う方向から見たときの模式的な断面図である。
図3は、
図2に示す絶縁性容器の模式的なAA’線断面図である。
図4は、
図2に示す絶縁性容器から導電性媒体及びファスナーチェーンを取り除いたときの模式的なBB’線断面図である。
【0056】
図2及び
図3を参照すると、絶縁性容器110はファスナーチェーン7の走行経路を案内する通路112、及び複数の導電性媒体111を流動可能に収容する収容部113を内部に有する。通路112はファスナーチェーンの入口114と、前記ファスナーチェーンの出口115と、ファスナーチェーン7の一方(第一又は第二)の主表面側と対向する側の路面112aに複数の導電性媒体111へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口117と、ファスナーチェーン7の他方(第二又は第一)の主表面側と対向する側の路面112bにめっき液が連通可能で且つ電流が流れることを可能とした複数の開口116とを有する。路面112bにはエレメント3の搬送方向を案内するためのガイド溝120を搬送方向に沿って延設してもよい。
【0057】
複数の導電性媒体111へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口117について、チェーン幅方向の長さをW
2とし、導電性媒体111の直径をDとすると、チェーン幅方向に3〜6個のボール球が部分的に重なるように配列すると、ボール球の移動や回転のためのスペースが確保されつつ、給電が安定しやすいことから、2D<W
2<6Dの関係が成立することが好ましく、2D<W
2<3Dの関係が成立することがより好ましく、2.1D≦W
2≦2.8Dが更により好ましい。ここで、チェーン幅とはJIS 3015:2007に規定される通り、噛み合ったエレメントの幅を指す。また、導電性媒体の直径は測定対象となる導電性媒体と同一の体積を有する真球の直径と定義する。
【0058】
入口114から絶縁性容器110内に入ったファスナーチェーン7は、通路112内を矢印の方向に走行し、出口115から出て行く。ファスナーチェーン7が通路112内を通過中、収容部113に保持された複数の導電性媒体111は、開口117を通じてファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各エレメント3の表面に接触可能である。しかし、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各エレメント3の表面に対して導電性媒体111がアクセス可能な開口は存在しない。このため、収容部113に保持された複数の導電性媒体111は、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各エレメント3の表面に接触することはできない。
【0059】
通路112内を走行するファスナーチェーン7に引きずられて、導電性媒体111は搬送方向の先頭に移動して集積しやすくなるが、過度に集積すると導電性媒体111が先頭で詰まり、ファスナーチェーン7が強く押し付けられるため、ファスナーチェーン7の搬送抵抗が大きくなる。このため、
図3に示すように、入口114よりも高いところに出口115を設けることで通路112を上り傾斜させることにより、絶縁性容器110内に収容されている複数の導電性媒体111は重力によって搬送方向の後方に戻すことができるので、搬送抵抗を低下させることができる。入口114の鉛直上方に出口115を設けてファスナーチェーン7の搬送方向を鉛直上方とすることも可能であり、これにより搬送抵抗の制御が容易となり、また、設置スペースも小さくて済むという利点が得られる。
【0060】
図4を参照すると、収容部113の内面のうち、搬送方向の先頭側の内側面113aに板状陰極118が設置されている。複数の導電性媒体111は板状陰極118に電気的に接触することが可能である。また、ファスナーチェーン7が通路112内を通過中、複数の導電性媒体111はファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各エレメント3の表面に電気的に接触することが可能である。複数の導電性媒体111のうち少なくとも一部がこれら両方の導電性媒体111に電気的に接触することで電気の経路が生まれると、ファスナーチェーン7が通路112内を通過中、各エレメント3に対して給電が可能となる。
【0061】
典型的な実施形態においては、ファスナーチェーン7はめっき液中に浸漬された状態で電気めっきされる。ファスナーチェーン7が絶縁性容器110の通路112内を通過中、めっき液は開口116を通じて通路112内に浸入することで、各エレメント3に接触可能である。ファスナーチェーン7の他方(第二又は第一)の主表面側と対向する側に陽極119を設置することで、めっき液中の陽イオンは、ファスナーチェーンの他方の主表面側に効率的に到達することができ、当該主表面側に露出した各エレメント3の表面にめっき被膜を迅速に成長させることができる。
【0062】
路面112bに形成する開口116は、通路112内を走行するファスナーチェーン7との引っ掛かりがないように設けることがファスナーチェーン7の円滑な搬送にとって有利である。この観点からは、各開口116は円形状の穴とすることが好ましく、例えば、直径1〜3mmの円形状の穴とすることができる。
【0063】
また、路面112bに形成する開口116は、通路112内を走行するファスナーチェーン7のエレメント3全体に電気が高い均一性で流れるように設けることが均一性の高いめっき皮膜を得る上で好ましい。このような観点から、路面112bの開口116を含む面積に対する開口116の面積の比率(以下、開口率という。)は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。ただし、開口率は強度確保の理由により、60%以下であることが好ましい。また、複数の開口116は、
図4に示すように、ファスナーチェーン7の搬送方向に沿って複数配列することが好ましく(
図4では3列)、エレメント3の露出した面全面に電流が流れてめっきが付きやすくするという観点から、千鳥配列することがより好ましい。
【0064】
ファスナーチェーン7が通路112内を走行中、複数の導電性媒体111はファスナーテープ1に接触しないことが好ましい。複数の導電性媒体111がファスナーテープ1に接触すると、ファスナーチェーンの搬送抵抗を増大させるためである。従って、開口117は複数の導電性媒体111がファスナーテープに接触できない場所に設置することが好ましい。絶縁性容器をファスナーチェーンの搬送方向と向き合う方向から見たとき(
図2参照)、開口117の両側壁からエレメント3の両端までのチェーン幅方向の隙間C1、C2はそれぞれ各導電性媒体111の半径以下であることがより好ましい。ただし、開口117の両側壁間の距離が狭くなると、導電性媒体111とエレメント3の接触頻度が低くなるため、隙間C1、C2は0以上であることが好ましく、0より大きいことがより好ましい。なお、導電性媒体の半径は測定対象となる導電性媒体と同一の体積を有する真球の半径と定義する。
【0065】
通路112内に導電性媒体が入り込まないように、路面112aと路面112bの間の距離は導電性媒体の直径よりも短いことが好ましい。通路112内に導電性媒体が入り込むと搬送抵抗を著しく増大させて、ファスナーチェーン7の搬送が困難に陥る原因となるからである。
【0066】
図5〜
図10には、固定セル方式の電気めっき装置の全体構成例が幾つか示されている。
図5〜
図10に示す実施態様においては、ファスナーチェーン7は、めっき液202の入っためっき槽201中でテンションをかけて矢印の方向に搬送される。テンションは0.1N〜0.2Nの加重が好ましい。
【0067】
図5に示す実施態様においては、ファスナーチェーン7は、めっき液202中に入った後、めっき槽201の底部まで鉛直下方に進む。底部に到達後は反転して、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bを順に鉛直上方に通過し、めっき液202から出て行く。
【0068】
図5に示す実施態様においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。また、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bの内部はそれぞれ、直列に連結された二つの区画A、Bに分かれている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。本実施形態によれば、一つのめっき槽で両面めっきが可能であり、設置スペースも少なくて済む。第一の絶縁性容器110aと第二の絶縁性容器110bの間には相互に影響を受けないようにするための、電気遮断用の絶縁性の仕切り板121が設けられている。仕切り板121の材質としては絶縁体であれば特に制限はないが、例えば塩化ビニル樹脂等の樹脂製とすることができる。
【0069】
図6に示す実施態様においては、ファスナーチェーン7は、めっき液202中に入った後、めっき槽201の底部まで鉛直下方に進む。底部に到達後は反転して、第一の絶縁性容器110aを鉛直上方に通過する。ファスナーチェーン7はいったんめっき液202から出た後、反転して再びめっき液202中に入り、めっき槽201の底部まで鉛直下方に進む。底部に到達後は再度反転して、第二の絶縁性容器110bを鉛直上方に通過し、めっき液202から出て行く。
【0070】
図6に示す実施態様においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。また、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bの内部はそれぞれ、直列に連結された二つの区画A、Bに分かれている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。本実施形態によれば、一つのめっき槽で両面めっきが可能である。
【0071】
図7に示す実施態様においては、ファスナーチェーン7は、めっき液202中に入った後、めっき槽201の底部まで鉛直下方に進む。底部に到達後は反転して、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bの第一のセットを順に鉛直上方に通過する。ファスナーチェーン7はいったんめっき液202から出た後、反転して再びめっき液202中に入り、めっき槽201の底部まで鉛直下方に進む。底部に到達後は再度反転して、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bの第二のセットを鉛直上方に通過し、めっき液202から出て行く。
【0072】
図7に示す実施態様においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。第一の絶縁性容器110aと第二の絶縁性容器110bの間には相互に影響を受けないようにするための、電気遮断用の絶縁性の仕切り板121が設けられている。更に、第一のセットと第二のセットの間にも、相互に影響を受けないようにするための、電気遮断用の仕切り板121が設けられている。本実施形態によれば、一つのめっき槽で両面めっきが可能である。
【0073】
図8に示す実施態様においては、めっき槽201は第一のめっき槽201a、第二のめっき槽201b、及び第三のめっき槽201cに分かれている。ファスナーチェーン7は、第一のめっき槽201aのめっき液202a中に入った後、第一のめっき槽201aの底部まで鉛直下方に進む。底部に到達後は反転して、直列に配列された二つの第一の絶縁性容器110aを鉛直上方に通過し、めっき液202aから出る。次いで、ファスナーチェーン7は、第二のめっき槽201bの側壁に設けられた入口204からめっき液202b中に入り、直列に配列された三つの第二の絶縁性容器110bを斜め上方に通過し、第二のめっき槽201bの側壁に設けられた出口205から出る。出口205は入口204よりも高い位置にある。次いで、ファスナーチェーン7は、第三のめっき槽201cのめっき液202c中に入った後、第三のめっき槽201cの底部まで鉛直下方に進む。底部に到達後は反転して、直列に配列された二つの第一の絶縁性容器110aを鉛直上方に通過し、めっき液202cから出る。
【0074】
図8に示す実施態様においては、第二のめっき槽201bの入口204及び出口205からはめっき液がオーバーフローする。オーバーフローしためっき液は戻りパイプ210を通って貯留槽203に回収された後、循環ポンプ208によって送りパイプ212を通って再び第二のめっき槽201bに供給される。貯留槽203内にヒータ209を設置して内部のめっき液を加温してもよい。
【0075】
図8に示す実施態様においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。
【0076】
図9に示す実施態様においては、めっき槽201は第一のめっき槽201a及び第二のめっき槽201bに分かれている。ファスナーチェーン7は、第一のめっき槽201aの側壁に設けられた入口206からめっき液202a中に入り、直列に配列された三つの第一の絶縁性容器110aを斜め上方に通過し、第一のめっき槽201aの側壁に設けられた出口207から出る。出口207は入口206よりも高い位置にある。次いで、ファスナーチェーン7は、第二のめっき槽201bのめっき液202b中に入った後、第二のめっき槽201bの底部まで鉛直下方に進む。底部に到達後は反転して、直列に配列された三つの第二の絶縁性容器110bを鉛直上方に通過し、めっき液202bから出る。
【0077】
図9に示す実施態様においては、第一のめっき槽201aの入口206及び出口207からはめっき液がオーバーフローする。オーバーフローしためっき液は戻りパイプ210を通って貯留槽203に回収された後、循環ポンプ208によって送りパイプ212を通って再び第一のめっき槽201aに供給される。貯留槽203内にヒータ209を設置して内部のめっき液を加温してもよい。
【0078】
図9に示す実施態様においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。
【0079】
図10に示す実施態様においては、めっき槽201は第一のめっき槽201a及び第二のめっき槽201bに分かれている。ファスナーチェーン7は、第一のめっき槽201aの側壁に設けられた入口204からめっき液202a中に入り、直列に配列された三つの第一の絶縁性容器110aを斜め上方に通過し、第一のめっき槽201aの側壁に設けられた出口205から出る。出口205は入口204よりも高い位置にある。次いで、ファスナーチェーン7は方向転換して、第一のめっき槽201aの上方に設置された第二のめっき槽201bの側壁に設けられた入口206からめっき液202b中に入り、直列に配列された三つの第二の絶縁性容器110bを斜め上方に通過し、第二のめっき槽201bの側壁に設けられた出口207から出る。
【0080】
図10に示す実施態様においては、第一のめっき槽201aの入口204及び出口205からはめっき液がオーバーフローする。オーバーフローしためっき液は戻りパイプ210aを通って貯留槽203に回収された後、循環ポンプ208によって送りパイプ212aを通って再び第一のめっき槽201aに供給される。また、第二のめっき槽201bの入口206及び出口207からはめっき液がオーバーフローする。オーバーフローしためっき液は戻りパイプ210bを通って貯留槽203に回収された後、循環ポンプ208によって送りパイプ212bを通って再び第二のめっき槽201bに供給される。
【0081】
図10に示す実施態様において、第一のめっき槽201a内にはめっき液202aの液面を調整するための戻りパイプ214、第二のめっき槽201b内にはめっき液202bの液面を調整するための戻りパイプ216がそれぞれ設置されており、各めっき槽(201a、201b)からめっき液が溢れるのを防止している。
【0082】
図10に示す実施態様においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。
【0083】
図5〜
図10に示す実施態様において、ファスナーチェーン7を走行させながら直列に配置された各固定セル(第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110b)の陰極へ流れる電流量に変化を与える(電流のON/OFF、電流の大小)ことで、エレメント3毎にめっき膜厚を変えることができる。これにより、ファスナーチェーン7に対してまだら模様(膜厚が異なる)のめっき外観を付与することができる。
【0084】
図8〜
図10に示す実施態様において、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bが収容されるめっき槽が分かれている。このため、両者を同一組成のめっき液中に浸漬することもできるが、両者を異なる組成のめっき液の入っためっき槽に配置することで、一方の主表面と他方の主表面を異なる色にめっきすることができる。
【0085】
(3−2 回転バレル方式めっき装置)
次に説明する例は回転バレル方式の電気めっき装置である。回転バレル方式はファスナーチェーンを水平走行させるだけで両面めっきができるという点で有利である。回転バレル方式のめっき装置においては、絶縁性容器はファスナーチェーンの走行方向に平行な回転軸を有する回転バレルを形成する。
図11は、回転バレル方式の電気めっき装置においてファスナーチェーンの上面に優先的にめっきされる原理を説明する模式図である。
図12は、回転バレル方式の電気めっき装置においてファスナーチェーンの下面に優先的にめっきされる原理を説明する模式図である。
図11及び
図12においては、回転バレルをファスナーチェーンの搬送方向と向き合う方向から見たときの様子が描かれている。
【0086】
図11を参照すると、めっき槽201内のめっき液202中に浸漬された第一の回転バレル310aには複数の導電性媒体311が流動可能に収容されており、複数の導電性媒体311は第一の回転バレル310a内で、ファスナーチェーン7の上面側に露出した各エレメント3の表面よりも、ファスナーチェーン7の下面側に露出した各エレメント3の表面へ優先的に接触する高さまで充填されている。具体的な高さの調整は、導電性媒体311の直径及び個数、ファスナーチェーン7の高さなどを考慮し、適宜行うことができる。第一の回転バレル310aの壁面には導電性媒体311が通過できない程度の大きさの開口318が設けられており、開口318を通じてめっき液が第一の回転バレル310a内へ出入りすることができるようになっている。ファスナーチェーン7が第一の回転バレル310a内を回転軸に平行な方向に通過中、複数の導電性媒体311は第一の回転バレル310aの回転動作に伴って第一の回転バレル310aの断面視円形状の内側面上を動きながら、第一の回転バレル310a内に設置された陰極317に少なくとも一部の導電性媒体311が接触し、また、第一の回転バレル310a内を通過中のファスナーチェーン7の下面側に露出した各エレメント3の表面に少なくとも一部の導電性媒体311が接触することができる。複数の導電性媒体311のうち少なくとも一部がこれら両方の導電性媒体311に電気的に接触することで電気の経路が生まれると、ファスナーチェーン7が第一の回転バレル310a内を通過中、各エレメント3に対して給電が可能となる。
【0087】
図11において、陽極316はファスナーチェーン7の上面側に露出した各エレメント3の表面と向き合う位置に設置されている。これによって、めっき液中の陽イオンは、ファスナーチェーン7の上面側に効率的に到達することができ、上面側に露出した各エレメント3の表面側にめっき被膜を迅速に成長させることができる。
【0088】
一方、第一の回転バレル310a内の複数の導電性媒体311は、重力の影響を受けて第一の回転バレル310aの内側面を滑り落ちる又は転がり落ちるためファスナーチェーン7の上面側に露出した各エレメント3の表面に接触することは困難である。
【0089】
図12を参照すると、めっき槽201内のめっき液202中に浸漬された第二の回転バレル310bには複数の導電性媒体311が流動可能に収容されている。第二の回転バレル310bの壁面には導電性媒体311が通過できない程度の大きさの開口318が複数設けられており、開口318を通じてめっき液が第二の回転バレル310b内へ出入りすることができるようになっている。第二の回転バレル310b内に収容された多数の導電性媒体311が、前記ファスナーチェーン7の下面側に露出したエレメント3の表面よりも、ファスナーチェーン7の上面側に露出した各エレメント3の表面へ優先的に接触するように、第二の回転バレル310bは断面視円形状の内側面から内側(
図12では回転軸の方向)に向かって突出した少なくとも一つのガイド部材312(
図12では等間隔で回転軸と平行な方向に延びた8枚のガイド板)を有する。
【0090】
ファスナーチェーン7が第二の回転バレル310bを通過中、複数の導電性媒体311は第二の回転バレル310bの回転動作に伴って、第二の回転バレル310bの内側面をガイド部材312に支持されながら途中まで登ることができる。第二の回転バレル310bの回転動作が進行すると、ガイド部材312で支持しきれなくなった導電性媒体311が第二の回転バレル310bの内側へ流動する。
【0091】
内側へ流動中の導電性媒体311の少なくとも一部は第二の回転バレル310b内に設置された陰極317に接触し、また、第二の回転バレル310b内を回転軸に平行な方向に通過中のファスナーチェーン7の上面側に露出した各エレメント3の表面に少なくとも一部の導電性媒体311が接触することができる。複数の導電性媒体のうち少なくとも一部がこれら両方の導電性媒体と電気的に接触することで電気の経路が生まれると、ファスナーチェーン7が第二の回転バレル310b内を通過中、各エレメント3に対して給電が可能となる。
【0092】
図12において、陽極316はファスナーチェーン7の下面側に露出した各エレメント3の表面と向き合う位置に設置されている。これによって、めっき液中の陽イオンは、ファスナーチェーン7の下面側に効率的に到達することができ、下面側に露出した各エレメント3の表面側にめっき被膜を迅速に成長させることができる。
【0093】
一方、第二の回転バレル310b内の底部にある複数の導電性媒体311は、第二の回転バレル310bの回転に伴い、ガイド部材312に押されて持ち運び去られるため、第二の回転バレル310b内の底部には滞留しにくい。このため、第二の回転バレル310b内の複数の導電性媒体311がファスナーチェーン7の下面側に露出した各エレメント3の表面に接触することは困難である。
【0094】
図13には、回転バレル方式の電気めっき装置の全体構成例が示されている。ファスナーチェーン7は、矢印の方向に搬送されながら、めっき槽401の側壁に設けられた入口406からめっき液402中に入り、第一の回転バレル310aの入口314aから出口315aまで水平方向に直線状に通過する。第一の回転バレル310aを通過中、主としてファスナーチェーンの上面側に露出した各エレメント3の表面がめっきされる。次いで、ファスナーチェーン7は、第一の回転バレル310aに直列に連結された第二の回転バレル310bの入口314bから出口315bまで水平方向に直線状に通過し、めっき槽401の側壁に設けられた出口407から出る。第二の回転バレル310bを通過中、主としてファスナーチェーン7の下面側に露出した各エレメント3の表面がめっきされる。第一の回転バレル310aと第二の回転バレル310bの間には相互に影響を受けないようにするための、電気遮断用の絶縁性の仕切り板321が設けられている。
【0095】
図13に示す実施態様においては、めっき槽401の入口406及び出口407からはめっき液がオーバーフローする。オーバーフローしためっき液は戻りパイプ410を通って貯留槽403に回収された後、循環ポンプ408によって送りパイプ412を通って再びめっき槽401に供給される。貯留槽403内にヒータ409を設置して内部のめっき液を加温してもよい。
【0096】
図13に示す実施態様では、ファスナーチェーン7の上面側に露出した各エレメント3の表面にめっき被膜を成長させるための第一の回転バレル310aと、ファスナーチェーン7の下面側に露出した各エレメント3の表面にめっき被膜を成長させるための第二の回転バレル310bの両方を使用したが、どちらか一方のみを使用することでもファスナーチェーンの両面にめっきすることが可能である。例えば、第一の回転バレル310aを通過したファスナーチェーン7を上下反転させた後、別の第一の回転バレル310aを通過させる方法が考えられる。また、第二の回転バレル310bを通過したファスナーチェーン7を上下反転させた後、別の第二の回転バレル310bを通過させる方法も考えられる。第二の回転バレル310bよりも第一の回転バレル310aのほうがめっきの均一性を高くしやすいので、ファスナーチェーン7を上下反転させながら第一の回転バレル310aのみを使用する方法が好ましい。
【実施例】
【0097】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明及びその利点をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図しない。
【0098】
(比較例1)
図14に示す電気めっき装置を構築し、搬送中のファスナーチェーンに対して電気めっきを連続的に行った。当該電気めっき装置においては、めっき液202を入れためっき槽201の中に、多数の導電性媒体111を収容した絶縁性容器110が配置されている。絶縁性容器110の内部中央には陰極118が設置されており、導電性媒体111は陰極と電気的に接触している。絶縁性容器110はファスナーチェーン7の走行方向に対して前方及び後方の内側面に陽極119を有する。この例においては、ファスナーチェーン7がめっき液202中を通過する最中、ファスナーチェーン7の両方の主表面側に露出したエレメントに導電性媒体がランダムに接触することで、エレメントの表面にめっき被膜が成長する。
【0099】
めっき試験条件は以下である。
・ファスナーチェーンの仕様:YKK(株)製型式5RGチェーン(チェーン幅:5.75mm、エレメント素材:丹銅)
・めっき液:5L、組成:Sn−Co合金めっき用めっき液
・導電性媒体:ステンレス球、直径4.5mm、2700個
・電流密度:5A/dm
2
電流密度は、整流器の電流値(A)を、ガラス容器内のエレメントの全表面積(両面)及びステンレス球の表面積の合計(dm
2)で除した値とした。ステンレス球の表面積を加味したのはステンレス球にもめっきが付着するためである。
・めっき液中での滞留時間:7.2秒
・搬送速度:2.5m/分
・絶縁性容器:ガラスビーカー
【0100】
(実施例1:固定セル方式めっき装置)
図2〜
図4に示す構造の絶縁性容器を以下の仕様で作製した。
・導電性媒体:3μm程度の厚みのピロリン酸銅めっき被膜を表面に有する鉄球、直径4.5mm、450個、積層数=6個
・絶縁性容器:アクリル樹脂製
・傾斜角度:9°
・開口116:開口率54%、直径2mmの円形状の穴、千鳥状に配列
・隙間C1、C2:2mm
・幅W
2:10mm
【0101】
上記の絶縁性容器を用いて
図10に示す電気めっき装置を構築し、搬送中のファスナーチェーンに対して電気めっきを連続的に行った。
めっき試験条件は以下である。
・ファスナーチェーンの仕様:YKK(株)製型式5RGチェーン(チェーン幅:5.75mm、エレメント素材:丹銅)
・めっき液:120L、組成:黒色Sn−Co合金めっき用めっき液
・電流密度:8.7A/dm
2
めっき厚=析出速度×電流密度×めっき時間であり、析出速度はめっき液毎の定数であることから、めっき時間(分)、析出速度(μm/((A/dm
2)×分))及びめっき厚(μm)から電流密度(A/dm
2)を求めた。なお、めっき厚は複数箇所の断面観察による実測値の平均値であり、めっき時間は各エレメントが3つの絶縁性容器を通過するのに要する時間(片面毎のめっき時間)である。
・めっき時間:14.4秒
・搬送速度:2.5m/分
・各エレメントと陽極の間の最短距離:3cm
【0102】
(実施例2:固定セル方式めっき装置)
めっき試験条件を以下とした他は実施例1と同様の方法で搬送中のファスナーチェーンに対して電気めっきを連続的に行った。
・ファスナーチェーンの仕様:YKK(株)製型式5RGチェーン(チェーン幅:5.75mm、エレメント素材:丹銅)
・めっき液:120L、組成:ピロリン酸銅めっき用めっき液
・電流密度:13.5A/dm
2
めっき厚=析出速度×電流密度×めっき時間であり、析出速度はめっき液毎の定数であることから、めっき時間(分)、析出速度(μm/((A/dm
2)×分))及びめっき厚(μm)から電流密度(A/dm
2)を求めた。なお、めっき厚は複数箇所の断面観察による実測値の平均値であり、めっき時間は各エレメントが3つの絶縁性容器を通過するのに要する時間(片面毎のめっき時間)である。
・めっき時間:30.0秒
・搬送速度:1.2m/分
・各エレメントと陽極の間の最短距離:3cm
【0103】
(実施例3:固定セル方式めっき装置)
めっき試験条件を以下とした他は実施例1と同様の方法で搬送中のファスナーチェーンに対して電気めっきを連続的に行った。
・ファスナーチェーンの仕様:YKK(株)製型式5RGチェーン(チェーン幅:5.75mm、エレメント素材:丹銅)
・めっき液:120L、組成:硫酸銅めっき用めっき液
・電流密度:25.0A/dm
2
めっき厚=析出速度×電流密度×めっき時間であり、析出速度はめっき液毎の定数であることから、めっき時間(分)、析出速度(μm/((A/dm
2)×分))及びめっき厚(μm)から電流密度(A/dm
2)を求めた。なお、めっき厚は複数箇所の断面観察による実測値の平均値であり、めっき時間は各エレメントが3つの絶縁性容器を通過するのに要する時間(片面毎のめっき時間)である。
・めっき時間:36.0秒
・搬送速度:1.0m/分
・各エレメントと陽極の間の最短距離:3cm
【0104】
(実施例4:固定セル方式めっき装置)
めっき試験条件を以下とした他は実施例1と同様の方法で搬送中のファスナーチェーンに対して電気めっきを連続的に行った。
・ファスナーチェーンの仕様:YKK(株)製型式5RGチェーン(チェーン幅:5.75mm、エレメント素材:丹銅)
・めっき液:120L、組成:ノンシアンCu−Sn合金めっき用めっき液
・電流密度:4.0A/dm
2
めっき厚=析出速度×電流密度×めっき時間であり、析出速度はめっき液毎の定数であることから、めっき時間(分)、析出速度(μm/((A/dm
2)×分))及びめっき厚(μm)から電流密度(A/dm
2)を求めた。なお、めっき厚は複数箇所の断面観察による実測値の平均値であり、めっき時間は各エレメントが3つの絶縁性容器を通過するのに要する時間(片面毎のめっき時間)である。
・めっき時間:14.4秒
・搬送速度:2.5m/分
・各エレメントと陽極の間の最短距離:3cm
【0105】
(めっき均一性)
比較例1、実施例1〜4について、得られたファスナーチェーンのエレメントのめっき被膜を目視により観察したときの評価結果を以下に示す。
評価は以下の手順により行った。各エレメントについて表裏の両方にめっきが付着しているか否かを調査する。各エレメントにめっきが付着しているかどうかの評価は目視によりエレメント表面が全体的に黒色(実施例1)、銅色(実施例2)、銅色(実施例3)又は、銀色(実施例4)にそれぞれ変化しているか否かで行う。表裏の両方の面にめっきが付着しているときのみ、当該エレメントにめっきが付着していると判断する。当該調査を隣接し合うエレメント200個について行い、表裏にめっきが付着しているエレメントの個数割合(%)を算出する。結果を表1に示す。結果は同様のめっき試験を複数回行ったときの平均値で示した。
【0106】
【表1】
【0107】
<考察>
本発明の実施例に係るめっき装置を使用することにより、各エレメントに対して高い均一性でめっき被膜を形成可能であった。また、給電用鉄球は陽極と離れており、かつ樹脂容器で囲まれているので鉄球にはほとんどめっきが付かなかった。
【0108】
(実施例5.陰極からの距離とめっき最大距離の関係)
図2〜
図4に示す構造の絶縁性容器を以下の仕様で作製した。陰極は、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側の内側面のみに設けた。
・導電性媒体:3μm程度の厚みのピロリン酸銅めっき被膜を表面に有する鉄球、直径4.5mm、450個、積層数=6個
・絶縁性容器:アクリル樹脂製
・絶縁性容器のファスナーチェーン搬送方向の長さ:20cm
・傾斜角度:9°
・開口116:開口率54%、直径2mmの円形状の穴、千鳥状に配列
・隙間C1、C2:2mm
・幅W
2:10mm
【0109】
めっき試験条件は以下である。
・ファスナーチェーンの仕様:YKK(株)製型式5RGチェーン(チェーン幅:5.75mm、エレメント素材:丹銅)
・めっき液:120L、組成:ニッケルめっき用めっき液
・ファスナーチェーンの搬送を停止し、絶縁性容器内のファスナーチェーンを左右に揺動しながら、陰極に2Aの電流を10秒間流した。
【0110】
めっき試験後、目視によりめっきの付着が確認されたエレメントのうち、陰極から最も遠いエレメントまでの距離を測定したところ、12cmであった。次いで、陰極における電流値及びめっき時間を、表2に記載の条件に変化させた他は同一の試験条件として、目視によりめっきの付着が確認されたエレメントのうち、陰極から最も遠いエレメントまでの距離をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0111】
また、D
0=2A、I
0=12cmを基準にして、以下の実験式に基づき、陰極における電流(I
1)を1.5A、1.0A、0.5Aと変化させたときの、エレメントがめっきされる最大距離(D
1)を求めた。結果を表2に示す。実験結果は実験式から求めた最大距離によく一致していることが分かる。
【0112】
【数2】
【0113】
【表2】
【0114】
(実施例6.陰極を複数設置することによるめっき効率の向上)
ファスナーチェーンの通過方向の先頭側の内側面(地点A)、ファスナーチェーンの通過方向に平行な内側面であって、ファスナーチェーンの通過方向の先頭側の内側面から7cm離れた箇所(地点B)及び14cm離れた箇所(地点C)の計3か所に陰極を設けた他は、実施例5と同一の絶縁性容器を作製した。
【0115】
めっき試験条件は以下である。
・ファスナーチェーンの仕様:YKK(株)製型式5RGチェーン(チェーン幅:5.75mm、エレメント素材:丹銅)
・めっき液:120L、組成:ニッケルめっき用めっき液
・ファスナーチェーンの搬送を停止し、絶縁性容器内のファスナーチェーンを左右に揺動しながら、各陰極の電流値を表3に示す値に設定して表3に記載の時間めっきした。
【0116】
【表3】
【0117】
実施例5との対比から、陰極を複数設置することで、各陰極への電流値を抑制しながらも、めっき可能なエレメントの領域が増加することが理解できる。また、合計電流値が同じでも各陰極における最大電流値は半分以下になることから、陰極を一か所に設置する場合と比較して、2倍以上の合計電流値でめっき可能であることが理解できる。このことは、ファスナーチェーンの走行速度を2倍以上にしてもめっき可能であることを示唆している。