(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記10個の各金属製エレメント3について、頭部9の凸状部位9aの頂点及び凹状部位9bの最深点に母材が表出しないようにめっき被膜が形成されている請求項1又は2に記載のファスナーストリンガー。
前記10個の各金属製エレメント3について、頭部9の凸状部位9aの頂点及び凹状部位9bの最深点におけるめっき被膜の厚みが共に0.02μm以上である請求項1〜4の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
前記10個の各金属製エレメント3について、頭部9の凸状部位9aの頂点及び凹状部位9bの最深点におけるめっき被膜の厚みが0.02μm以上である請求項6又は7に記載のファスナーストリンガー。
前記めっき被膜は金属製エレメント3の列がファスナーテープ1の長手方向の一側縁に所定の間隔をおいて固定された後に形成されたものである請求項1〜11の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
一対のファスナーストリンガーの対向する金属製エレメント3の列が噛み合わされたファスナーチェーンであって、各ファスナーストリンガーが請求項1〜12の何れか一項に記載のファスナーストリンガーであるファスナーチェーン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
給電ドラム方式では給電ドラムとエレメントの接触が不均一となり易いため、めっき被膜が形成されていないエレメントをなくすために給電ドラムとの接触を多数繰り返す必要があった。しかしながら、給電ドラムとの接触を多数繰り返すと、めっき被膜の厚みのばらつきが大きくなるという問題が生じていた。めっき被膜の厚みのばらつきが大きくなると、外観上は均一な色調に見えるが、めっきの種類に応じた耐食性、耐磨耗性、耐変色性等の品質がエレメント毎に異なり、めっき被膜の薄いエレメントから順に劣化してしまう。また、めっき被膜の厚みが大きく異なると、スライダーを操作するときの摺動抵抗が一定せず、ユーザに対して違和感を生じさせることになる。このため、エレメント上のめっき被膜の厚みのばらつきの大きい金属ファスナーは高品質の金属ファスナーということはできない。
【0012】
また、バレルめっきの場合、バレル内で多数のエレメントが回転中にエレメント同士が噛み合う危険がある。めっきプロセスの最後まで噛み合っていれば不良として排除できるが、噛み合いが途中で外れた場合は、その噛み合っていた部分の膜厚は薄くなる。このため、設計通りに均一性の高いめっき被膜を形成することは難しい。また、バレルめっきの場合、エレメント全面にめっき被膜が形成されるため、ファスナーテープへ植え付け後には隠れて見えないエレメントの表面部分にもめっきが形成されていることになり、めっき液を無駄に消費することとなる。更には、エレメントをめっきしてからファスナーテープに植え付けると、エレメントの加締め工程でエレメントが変形してめっき皮膜にクラックが入りやすくなる。クラックが入ると外観が悪くなり、そのクラックからの変色も起きやすくなる。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、めっき被膜を有する金属製エレメント列を備えたファスナーストリンガー、ファスナーチェーン及びスライドファスナーについて、エレメント同士が予め電気的に接続されていなくても、エレメント表面にめっき被膜を改善された厚み均一性で無駄なく形成することを課題の一つとする。
【0014】
更に、給電ドラム方式ではエレメント頭部の噛合部位(凸状部位及び凹状部位)においてめっきの付き回り性が悪いという問題が生じていた。そこで、本発明は、めっき被膜を有する金属製エレメント列を備えたファスナーストリンガー、ファスナーチェーン及びスライドファスナーについて、エレメント同士が予め電気的に接続されていなくても、各エレメント頭部の噛合部位(凸状部位及び凹状部位)におけるめっきの付き回り性を改善することを別の課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明者等が鋭意検討したところ、ファスナーチェーンをめっき液中で走行させている間に、ファスナーチェーンに固定されているそれぞれの金属製エレメントを流動可能に収容された複数の導電性媒体に接触させ、該導電性媒体を介して通電する手法が有効であることを見出した。そして、金属製エレメントを導電性媒体に接触させる際には、導電性媒体はファスナーチェーンの一方の主表面側に配置しつつ他方の主表面側には導電性媒体を配置せず金属製エレメントとめっき液との接触を確保することで、他方の主表面側にめっき被膜が高い均一性で成長し、且つ、エレメント頭部の噛合部位(凸状部位及び凹状部位)へのめっき付き回り性が有意に改善することを見出した。
【0016】
上記知見を基礎として完成した本発明は以下のように例示される。
【0017】
[1]
ファスナーテープの長手方向の一側縁に所定の間隔をおいて固定されためっき被膜を有する金属製エレメントの列を備えたファスナーストリンガーであって、
各金属製エレメントが接触しているファスナーテープの部分は絶縁性であり、
各金属製エレメントは、一対の脚部と当該一対の脚部を連結するとともに噛み合わせのための凸状部位及び凹状部位を有する頭部とを備えており、
各金属製エレメントの表面のうちファスナーテープと接触して隠蔽されている部分にはめっき被膜が形成されておらず、
金属製エレメントの列は2n個又は2n+1個(nは5以上の整数)の金属製エレメントにより構成されており、
金属製エレメントの列の何れかの一端から長手方向にn−4番目からn+5番目までの隣り合う10個の金属製エレメントについて、ファスナーテープの何れか一方の主表面側のエレメント中央におけるめっき被膜の厚みの平均値をA
1、ファスナーテープの当該一方の主表面側のエレメント中央におけるそれぞれのめっき被膜の厚みをD
1とすると、これら何れの金属製エレメントについても0.6≦D
1/A
1≦2.0が成立するファスナーストリンガー。
[2]
前記めっき被膜の厚みの平均値A
1が0.05μm以上である[1]に記載のファスナーストリンガー。
[3]
前記10個の各金属製エレメントについて、頭部の凸状部位の頂点及び凹状部位の最深点に母材が表出しないようにめっき被膜が形成されている[1]又は[2]に記載のファスナーストリンガー。
[4]
前記10個の各金属製エレメントについて、前記一方の主表面側のエレメント中央におけるめっき被膜の厚みD
1に対する頭部の凸状部位の頂点及び凹状部位の最深点におけるめっき被膜の厚みが共に30%以上である[1]〜[3]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[5]
前記10個の各金属製エレメントについて、頭部の凸状部位の頂点及び凹状部位の最深点におけるめっき被膜の厚みが共に0.02μm以上である[1]〜[4]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[6]
ファスナーテープの長手方向の一側縁に所定の間隔をおいて固定されためっき被膜を有する金属製エレメントの列を備えたファスナーストリンガーであって、
各金属製エレメントが接触しているファスナーテープの部分は絶縁性であり、
各金属製エレメントは、一対の脚部と当該一対の脚部を連結するとともに噛み合わせのための凸状部位及び凹状部位を有する頭部とを備えており、
各金属製エレメントの表面のうちファスナーテープと接触して隠蔽されている部分にはめっき被膜が形成されておらず、
金属製エレメントの列は2n個又は2n+1個(nは5以上の整数)の金属製エレメントにより構成されており、
金属製エレメントの列の何れかの一端から長手方向にn−4番目からn+5番目までの隣り合う10個の金属製エレメントについて、頭部の凸状部位の頂点及び凹状部位の最深点に母材が表出しないようにめっき被膜が形成されているファスナーストリンガー。
[7]
前記10個の各金属製エレメントについて、ファスナーテープの何れか一方の主表面側のエレメント中央におけるめっき被膜の厚みをD
1とすると、D
1に対する頭部の凸状部位の頂点及び凹状部位の最深点におけるめっき被膜の厚みが共に30%以上である[6]に記載のファスナーストリンガー。
[8]
前記10個の各金属製エレメントについて、頭部の凸状部位の頂点及び凹状部位の最深点におけるめっき被膜の厚みが0.02μm以上である[6]又は[7]に記載のファスナーストリンガー。
[9]
前記10個の金属製エレメントについて、ファスナーテープの前記一方の主表面側のエレメント中央におけるめっき被膜の厚みの平均値をA
1、ファスナーテープの当該一方の主表面側のエレメント中央におけるそれぞれのめっき被膜の厚みをD
1とすると、これら何れの金属製エレメントについても0.6≦D
1/A
1≦2.0が成立する[6]〜[8]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[10]
前記めっき被膜の厚みの平均値A
1が0.05μm以上である[9]に記載のファスナーストリンガー。
[11]
前記10個の各金属製エレメントの露出面全体にめっき被膜が形成されている[1]〜[10]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[12]
前記めっき被膜は金属製エレメントの列がファスナーテープの長手方向の一側縁に所定の間隔をおいて固定された後に形成されたものである[1]〜[11]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[13]
一対のファスナーストリンガーの対向する金属製エレメントの列が噛み合わされたファスナーチェーンであって、各ファスナーストリンガーが[1]〜[12]の何れか一項に記載のファスナーストリンガーであるファスナーチェーン。
[14]
[13]に記載のファスナーチェーンを備えたスライドファスナー。
[15]
[14]に記載のスライドファスナーを備えた物品。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態によれば、エレメント同士が予め電気的に接続されていなくても、改善された厚み均一性で無駄なく形成されためっき被膜を有する金属製エレメント列を備えた金属ファスナーが得られる。また、本発明の別の一実施形態によれば、エレメント同士が予め電気的に接続されていなくても、各エレメント頭部の噛合部位(凸状部位及び凹状部位)におけるめっきの付き回り性の改善された金属ファスナーが得られる。このように、本発明は金属ファスナーのエレメントに対して低コストで高品質なめっき被膜を付与することを可能とし、ユーザに対して幅広い色調のファスナー商品を低価格で提案可能とすることに大きく貢献する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
(1.金属ファスナー)
図1に例示的に金属ファスナーの模式的な正面図を示す。
図1に示すように金属ファスナーは、ファスナーテープ1の長手方向の一側縁に所定の間隔をおいて固定されためっき被膜を有する金属製エレメント3の列を備える。一本のファスナーテープ1の一側縁にエレメント3の列が固定された状態のものをファスナーストリンガーといい、一対のファスナーストリンガーの対向するエレメント3の列が噛み合わされた状態となっているものをファスナーチェーンという。
【0022】
一実施形態においては、金属製エレメント3の列を構成する各金属製エレメント3は、ファスナーテープ1の内側縁側に形成された芯部2に加締め固定(装着)される。また、金属ファスナーは、金属製エレメント3の列の上端及び下端でファスナーテープ1の芯部2に加締め固定された上止具4及び下止具5と、対向する一対のエレメント3の列間に挿通され、一対の金属製エレメント3の噛合及び開離を行うための上下方向に摺動自在なスライダー6を備えることができる。下止具5は、蝶棒、箱棒、箱体からなる開離嵌挿具とし、スライダーの開離操作にて一対のファスナーチェーンを分離できるようにしたものであっても構わない。図示しないその他の実施形態も可能である。
【0023】
図2にはファスナーテープ1の一側縁に固定された一個の金属製エレメント3をその配列方向(ファスナーテープ1の長手方向)に向き合う方向から観察したときの模式的な底面図が示されている。
図3には、金属製エレメント3をファスナーテープ1の表裏方向中心を通る切断面で切断したときの断面図(
図2のファスナーテープを除くXX’断面図)が示されている。各金属製エレメント3は、一対の脚部10と当該一対の脚部10を連結するとともに噛み合わせのための凸状部位9a及び凹状部位9bを有する頭部9とを備える。ここで、脚部10と頭部9の境界は、金属製エレメント3をその配列方向(ファスナーテープ1の長手方向)に向き合う方向から観察したとき、ファスナーテープ1の表裏方向に延びた直線であって、ファスナーテープ1が両脚部10の間に進入可能な最も頭部側の内周部分を通過する直線とする(
図2の点線C参照)。
【0024】
本発明に係る金属ファスナーにおいては、各金属製エレメント3が接触しているファスナーテープ1の部分は絶縁性であり、導電糸が編み込まれていないため、隣接するエレメント同士が電気的に接続されていない。このような金属ファスナーに対しては、エレメント3に対して膜厚均一性の高いめっき被膜を形成するのは難易度が高い。しかしながら、本発明者は、電気めっき時にエレメント列を構成する各エレメントに満遍なく給電可能な方法を見出したために、エレメント間のめっき被膜の均一性が高く、且つ、エレメントの頭部9の噛合部位(凸状部位9a及び凹状部位9b)におけるめっきの付き回り性の高い金属ファスナーを得ることが可能である。また、各金属製エレメント3の露出面全体にめっき被膜を形成することも可能である。
【0025】
本発明に係る金属ファスナーの一実施形態においては、各ファスナーストリンガーを形成するファスナーテープ1の長手方向の一側縁に固定された金属製エレメント3の列は2n個又は2n+1個(nは5以上の整数)の金属製エレメント3により構成されており、金属製エレメント3の列の何れかの一端から長手方向にn−4番目からn+5番目までの隣り合う10個の金属製エレメント3について、ファスナーテープ1の何れか一方の主表面側のエレメント中央におけるめっき被膜の厚みの平均値をA
1、当該10個の金属製エレメント3について、ファスナーテープ1の当該一方の主表面側のエレメント中央におけるそれぞれのめっき被膜の厚みをD
1とすると、これら何れの金属製エレメント3についても0.6≦D
1/A
1≦2.0が成立し、好ましくは0.6≦D
1/A
1≦1.5が成立し、より好ましくは0.6≦D
1/A
1≦1.4が成立し、より好ましくは0.7≦D
1/A
1≦1.3が成立し、更により好ましくは0.8≦D
1/A
1≦1.2が成立する。
【0026】
上記のように、n−4番目からn+5番目までの隣り合う10個の金属製エレメント3を測定対象とした理由は、安定して被膜調査ができるという点と便宜上の点からである。例えば
、101個(2n+1=101、n=50)のエレメントが固定されているファスナーチェーンの場合であれば、その何れかの一端側から数えてn−4=50−4=46番目からn+5=50+5=55番目までのエレメントが測定対象である。
【0027】
本発明に係る金属ファスナーの好ましい一実施形態においては、各ファスナーストリンガーを形成するファスナーテープ1の長手方向の一側縁に沿って隣り合って並ぶ任意の10個のエレメント3について、ファスナーテープ1の何れか一方の主表面側のエレメント中央におけるめっき被膜の厚みの平均値をA
1、当該隣り合って並ぶ10個のエレメント3について、ファスナーテープ1の当該一方の主表面側のエレメント中央におけるそれぞれのめっき被膜の厚みをD
1とすると、これら何れの金属製エレメント3についても0.6≦D
1/A
1≦2.0が成立し、好ましくは0.6≦D
1/A
1≦1.5が成立し、より好ましくは0.6≦D
1/A
1≦1.4が成立し、より好ましくは0.7≦D
1/A
1≦1.3が成立し、更により好ましくは0.8≦D
1/A
1≦1.2が成立する。
【0028】
ここで、ファスナーテープ1の何れか一方の主表面側のエレメント中央とは、ファスナーチェーン(又はファスナーストリンガー)の何れか一方の主表面を該主表面に垂直な方向から観察したときに、金属製エレメント3を、ファスナーテープ1の長手方向(
図4中のA方向)に二等分する直線と該長手方向に垂直な方向(
図4中のB方向)に二等分する直線の交点部分Qを指す(
図4参照)。
【0029】
エレメント中央におけるめっき被膜の厚みの平均値A
1に特段の制約はなく、めっきの種類に応じて適宜変更すればよいが、耐摩耗性を考慮すると、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることが更により好ましい。一方で、スライダーの摺動抵抗を抑制するという観点や、めっきコストを抑制するという観点からは、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.3μm以下であることが更により好ましい。
【0030】
更に、本発明に係る金属ファスナーの一実施形態においては、ファスナーストリンガーを構成するn−4番目からn+5番目までの隣り合う10個の各金属製エレメント3について、好ましくはファスナーストリンガーを構成する任意の隣り合う10個の各金属製エレメント3について、頭部9の凸状部位9aの頂点及び凹状部位9bの最深点に母材が表出しないようにめっき被膜が形成されている。
【0031】
更に、本発明に係る金属ファスナーの一実施形態においては、ファスナーストリンガーを構成するn−4番目からn+5番目までの隣り合う10個の各金属製エレメント3について、好ましくはファスナーストリンガーを構成する任意の隣り合う10個の各金属製エレメント3について、前記一方の主表面側のエレメント中央におけるめっき被膜の厚みD
1に対する頭部9の凸状部位9aの頂点及び凹状部位9bの最深点におけるめっき被膜の厚みが共に30%以上であり、好ましくは40%以上であり、より好ましくは45%以上であり、更により好ましくは50%以上であり、例えば40〜150%とすることができる。
【0032】
例示的には、ファスナーストリンガーを構成するn−4番目からn+5番目までの隣り合う10個の各金属製エレメント3について、好ましくはファスナーストリンガーを構成する任意の隣り合う10個の各金属製エレメント3について、頭部9の凸状部位9aの頂点及び凹状部位9bの最深点におけるめっき被膜の厚みを共に0.02μm以上とすることができ、0.05μm以上とすることもでき、更には0.1μm以上とすることもできる。
図3には、例示的に、頭部9の凸状部位9aの頂点をP及び凹状部位9bの最深点をDで表している。
【0033】
金属製エレメントについて、エレメント中央、頭部9の凸状部位9aの頂点及び凹状部位9bの最深点におけるめっき被膜の厚みはそれぞれ、オージェ電子分光法(AES)により元素デプスプロファイルを得ることで測定する。分析条件は以下とする。
各金属製エレメントの前記エレメント中央Qにおけるめっき被膜の厚みはそれぞれ、オージェ電子分光法(AES)により元素デプスプロファイルを得て、めっきした金属元素の濃度が最大値に対して半分になる深さをめっき被膜の厚みとする。分析条件は以下とする。
加速電圧:10kV
電流量:3×10
-8A
イオンガン:2kV
測定径:50μm
エッチング:20秒毎に測定
試料傾斜:30°
検出深さは、SiO
2標準物質のエッチング速度8.0nm/minを用いて換算、算出。
なお、めっき皮膜が合金めっき等の複数元素で構成される場合は、金属製エレメントの母材を構成する主成分以外で検出強度が最も高い金属元素を分析対象としてめっき被膜の厚みを評価する。例えば、主成分がCuのエレメント表面に対してCu−Sn合金めっき被膜を形成するときは、Snを基準にめっき被膜の厚みを測定する。また、主成分がCuのエレメントに対してCo−Sn合金めっき被膜を形成するときは、何れか検出強度の高い元素を基準にめっき被膜の厚みを測定する。
【0034】
金属製エレメント3の材料には特に制限はないが、銅(純銅)、銅合金(例:丹銅、真鍮、洋白など亜鉛を含有する銅合金(Cu−Zn系合金))やアルミニウム合金(Al−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Si系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金、Al−Zn−Mg系合金、Al−Zn−Mg−Cu系合金など)、亜鉛、亜鉛合金、鉄、鉄合金等を用いることができる。
【0035】
金属製エレメント3の表面に各種のめっき被膜を形成することができる。めっきは所望の色調を得るという意匠目的の他、防錆効果、ひび割れ防止効果、摺動抵抗低減効果を狙って行うことができる。めっきの種類に特に制限はなく、単一金属めっき、合金めっき、複合めっきの何れでもよいが、例示的にはSnめっき、Cu−Sn合金めっき、Cu−Sn−Zn合金めっき、Sn−Co合金めっき、Rhめっき、Pdめっきが挙げられる。また、Znめっき(ジンケート処理を含む)、Cuめっき(青化銅めっき、ピロリン酸銅めっき、硫酸銅めっきを含む)、Cu−Zn合金めっき(真鍮めっきを含む)、Niめっき、Ruめっき、Auめっき、Coめっき、Crめっき(クロメート処理を含む)、Cr−Mo合金めっきなども挙げられる。めっきの種類はこれらに限られるものではなく、目的に応じてその他の各種金属めっきを行うことができる。
【0036】
ファスナーテープ1としては、従来スライドファスナーに使用されてきた織物製テープ、編物製テープ、不織布製テープなど繊維製のテープを、特に制限無く使用することができる。繊維の材質としては、従来スライドファスナーに使用されてきたポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、アクリル等を特に制限無く使用することができる。本発明に係る金属ファスナーの一実施形態によれば、各金属製エレメント3が接触しているファスナーテープ1の部分は少なくとも絶縁性であり、典型的にはファスナーテープ1は全体が絶縁性である。
【0037】
本発明に係る金属ファスナーは各種の物品に取着することができ、特に開閉具として機能する。スライドファスナーが取着される物品としては、特に制限はないが、例えば衣料品、鞄類、靴類及び雑貨品といった日用品の他、貯水タンク、漁網及び宇宙服といった産業用品が挙げられる。
【0038】
図5は、金属製エレメント3、上止具4及び下止具5のファスナーテープ1の芯部2への取付けの仕方を例示する図面である。図示するように金属製エレメント3は、熱処理及び冷間圧延工程を経て作製された断面略Y字状からなる異形線8を所定寸法ごとに切断し、これをプレス成形することにより、頭部9に噛み合せ用の凸状部位9a及び凹状部位9bを形成し、その後、ファスナーテープ1の一側縁に長手方向に形成された芯部2へ両脚部10を加締めることにより、装着される。
【0039】
上止具4は、断面矩形状の矩形線11(平角線)を所定寸法ごとに切断し、曲げ加工により略断面コ字状に成形し、その後、ファスナーテープ1の芯部2へ加締めることにより、装着される。下止具5は、断面略X字状からなる異形線12を所定寸法ごとに切断し、その後、ファスナーテープ1の芯部2へ加締めることにより、装着される。
【0040】
なお、
図5においては、金属製エレメント3、上下止具4、5が、同時にファスナーテープ1に装着されるように見えるが、実際は、まず、ファスナーテープ1に所定領域ごと間欠的に金属製エレメント3を取付けてファスナーストリンガーを作製し、一対のファスナーストリンガーの対向するエレメント列を噛み合わせてファスナーチェーンを作製する。次いで、ファスナーチェーンのエレメントが取着されていない領域に所定の上下止具4又は5が装着される。
【0041】
(2.めっき方法)
上記のようなめっき被膜の付き回り性が高く、めっき被膜の厚みの均一性も高い金属製エレメント列を備えた金属ファスナーを製造するためのめっき方法について以下に説明する。工業生産を考える上では、ファスナーチェーンを搬送しながら連続的に電気めっきすることが望ましい。
【0042】
本発明者の検討結果によれば、ファスナーチェーンをめっき液中で走行させている間に、ファスナーチェーンに固定されているそれぞれの金属製エレメントを流動可能に収容された複数の導電性媒体に接触させ、該導電性媒体を介して通電する手法が有効であることが分かった。金属製エレメントを導電性媒体に接触させる際には、導電性媒体はファスナーチェーンの一方の主表面側に配置しつつ他方の主表面側には導電性媒体を配置せず金属製エレメントとめっき液との接触を確保することで、他方の主表面側にめっき被膜を効率的に成長させることができる。すなわち、金属製エレメントはファスナーチェーンの片面毎にめっきすることで個々のエレメントへの給電を確実に行うことができる。
【0043】
本発明に係る電気めっき方法の一実施形態においては、ファスナーチェーンの一方の主表面側に露出した金属製エレメント列の表面を主としてめっきすることを目的として、各金属製エレメントがめっき槽中のめっき液に接触した状態で、陰極に電気的に接触した複数の導電性媒体が流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第一の絶縁性容器内を該ファスナーチェーンが通過する工程を含む。
【0044】
本発明に係る電気めっき方法の別の一実施形態においては、ファスナーチェーンの他方の主表面側に露出した金属製エレメント列の表面を主としてめっきすることを目的として、各金属製エレメントがめっき槽中のめっき液に接触した状態で、陰極に電気的に接触した複数の導電性媒体が流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第二の絶縁性容器内を該ファスナーチェーンが通過する工程を更に含む。
【0045】
これらの両工程を経ることでファスナーチェーンの両主表面側に露出した金属製エレメント列の表面に対してめっきが可能である。また、異なるめっき液を使用して両工程を経ることで、ファスナーチェーンの一方の主表面と他方の主表面に対して異なるめっきが可能である。
【0046】
また、本発明に係るファスナーストリンガーは一実施形態において、金属製エレメント列がファスナーテープに固定された後にめっきされていることで各金属製エレメントの表面のうちファスナーテープと接触して隠蔽されている部分にはめっき被膜が形成されていない。このことは、めっき液の節約につながり、製造コストの低減に貢献する。
【0047】
めっき液の組成、温度などの条件は各金属製エレメントに析出させたい金属成分の種類によって当業者が適宜設定すればよく、特に制限されるものではない。
【0048】
導電性媒体の材料としては特に制限はないが、金属が一般的である。金属の中でも、耐腐食性が高い、耐磨耗性が高いという理由により、鉄、ステンレス、銅、真鍮が好ましく、鉄がより好ましい。但し、鉄製の導電性媒体を使用する場合、導電性媒体がめっき液に接触すると密着性の悪い置換めっき被膜が鉄球の表面に形成される。このめっき被膜はファスナーチェーンを電気めっき中に導電性媒体から剥がれて細かな金属片となってめっき液中に浮遊する。金属片がめっき液中に浮遊するとファスナーテープに付着したりするので浮遊は防止することが好ましい。そのため、鉄製の導電性媒体を使用する場合は、置換めっきされるのを防ぐために予め導電性媒体をピロリン酸銅めっき、硫酸銅めっき、ニッケルめっき、又は錫ニッケル合金めっきをしておくことが好ましい。なお、導電性媒体に青化銅めっきを行うことでも置換めっきを防止することはできるが、導電性媒体表面の凹凸が比較的大きくなり導電性媒体の回転が阻害されるため、ピロリン酸銅めっき、硫酸銅めっき、ニッケルめっき、又は錫ニッケル合金めっきが好ましい。
【0049】
第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器の材質としては、耐薬品性、耐磨耗性、耐熱性の観点から、高密度ポリエチレン(HDPE)、耐熱性硬質ポリ塩化ビニル、ポリアセタール(POM)が好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましい。
【0050】
第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内に流動可能に収容された複数の導電性媒体が陰極に電気的に接触していることにより、陰極から各金属製エレメントに導電性媒体を介して給電を行うことができる。陰極の設置場所には特に制限はないが、各絶縁性容器内で各導電性媒体との電気的な接触が途切れない位置に設置することが望まれる。
【0051】
例えば、後述するような固定セル方式の電気めっき装置を使用する場合に、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を水平方向に通過すると、導電性媒体は搬送方向の先頭に移動して集積しやすく、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を鉛直上方に通過すると、導電性媒体は下方集積しやすい。
【0052】
そこで、ファスナーチェーンが水平方向に通過する場合は、絶縁性容器の内面のうち、導電性媒体が集積しやすい搬送方向の先頭側の内面には少なくとも陰極を設置することが好ましく、ファスナーチェーンが鉛直上方に通過する場合は、絶縁性容器の内面のうち、導電性媒体が集積しやすい下方側の内面には少なくとも陰極を設置することが好ましい。陰極の形状に特に制限はないが、例えば板状とすることができる。
【0053】
ファスナーチェーンは水平方向と鉛直方向の中間の斜め方向にも走行し得るが、この場合は傾斜、走行速度、導電性媒体の数や大きさによって導電性媒体の集積しやすい場所が変化するため、実際の条件に応じて陰極を設置する場所を調整すればよい。
【0054】
導電性媒体は各絶縁性容器内で流動可能となっており、ファスナーチェーンの走行に伴って導電性媒体は流動及び/又は回転及び/又は上下運動しながら各金属製エレメントとの接触場所を常時変化させる。これによって電流を通る場所や接点抵抗も常時変化するため、均一性の高いめっき被膜を成長させることが可能となる。導電性媒体は、流動可能な状態で容器内に収容されている限り、その形状に制約はないが、流動性の観点から球状であることが好ましい。
【0055】
各導電性媒体の寸法はファスナーチェーンのチェーン幅、エレメントのスライダー摺動方向の幅及びピッチによって最適値が異なるが、後述するような固定セル方式の電気めっき装置を使用する場合、第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内をファスナーチェーンが通過中に、ファスナーチェーンの走行通路内に導電性媒体が進入して走行通路内に導電性媒体が詰まりにくくするにはチェーン厚以上であることが好ましい。
【0056】
第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内に収容する導電性媒体の個数については特に制約はないが、ファスナーチェーンの各金属製エレメントに給電を行うことができるという観点、特に、ファスナーチェーンが走行中に導電性媒体が進行方向に移動しても、導電性媒体が第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を通過中の各金属製エレメントと接触を常に保てるだけの数量を確保するという観点から、適宜設定することが望ましい。一方で、ファスナーチェーンの各金属製エレメントには、導電性媒体から適度な押し付け圧力が掛かるほうが電気が流れやすくなり好ましいが、過度な押し付け圧力は搬送抵抗を増大させてファスナーチェーンのスムーズな搬送を妨害する。このため、ファスナーチェーンは過度な搬送抵抗を受けることなくスムーズに第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を通過できることが好ましい。以上の観点から、例示的には、各絶縁性容器内に収容する導電性媒体は、導電性媒体を金属製エレメント上に敷き詰めた場合に3層以上(換言すれば、導電性媒体の直径の3倍以上の積層厚み)形成できる量が望ましく、3〜8層(換言すれば、導電性媒体の直径の3〜8倍の積層厚み)形成できる量とするのが典型的である。
【0057】
後述するような固定セル方式の電気めっき装置を使用する場合に、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を水平に通過すると、導電性媒体は搬送方向の先頭に移動して集積しやすい。すると、先頭部分に集積した分の導電性媒体の重みによってファスナーチェーンが押し付けられるため、ファスナーチェーンに対する搬送抵抗が大きくなる。また、陰極から導電性媒体に電流が流れる際、セルの長さが長くなると電圧降下によってめっき効率が低下する。このため、第一の絶縁性容器及び第二の絶縁性容器をそれぞれ二つ以上直列に連結することで導電性媒体による重みに起因する搬送抵抗を受けにくくすることができ、また、めっき効率を向上させることができる。各絶縁性容器を二つ以上直列に連結する数の増減によってめっき被膜の厚みやファスナーチェーンの走行速度を調整することもできる。
【0058】
搬送抵抗を低減するという観点からは、各絶縁性容器内を通過するファスナーチェーンの走行方向に上向きの角度を設けること、すなわちファスナーチェーンが各絶縁性容器内を上昇しながら通過することが望ましい。これにより、搬送方向に移動しやすい導電性媒体が自重によって搬送方向の後方に落ちてくるため、搬送方向の先頭に導電性媒体が集積しにくくなる。傾斜角度は搬送速度、導電性媒体の大きさ及び個数等によって適宜設定すればよいが、導電性媒体が球形であり、金属製エレメント上に3〜8層形成可能な量とする場合には、ファスナーチェーンが走行中に導電性媒体が進行方向に移動しても、導電性媒体が第一の絶縁性容器内及び第二の絶縁性容器内を通過中の各金属製エレメントとの接触を保たれるようにするという観点から、9°以上が好ましく、典型的には9°以上45°以下である。
【0059】
めっき装置をよりコンパクトに設計するという観点からは、ファスナーチェーンが各絶縁性容器内を鉛直方向に上昇しながら通過する方法もある。当該方法によれば、めっき槽が鉛直方向に長くなる一方で水平方向には短くなるのでめっき装置の設置面積を小さくすることができる。
【0060】
本発明に係るめっき方法の一実施形態においては、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内を通過中に、主としてファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第一の絶縁性容器内の複数の導電性媒体に接触させることにより給電する。この際、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で第一の陽極を設置することで、陽イオンと電子に規則的な流れが生じ、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面側にめっき被膜を迅速に成長させることができる。導電性媒体にめっきがなされるのを抑制するという観点からは、ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係でのみ第一の陽極を設置することが好ましい。
【0061】
また、本発明に係るめっき方法の別の一実施形態においては、ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器内を通過中に、主として該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第二の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させることにより給電する。この際、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で第二の陽極を設置することで、陽イオンと電子に規則的な流れが生じ、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面側にめっき被膜を迅速に成長させることができる。エレメント以外の余計な箇所にめっきがなされるのを抑制するという観点からは、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係でのみ第二の陽極を設置することが好ましい。
【0062】
複数の導電性媒体をファスナーチェーンの両方の主表面の両側にランダムに接触させると陽イオンと電子の流れも乱雑となり、電子めっき被膜の成長速度が遅くなってしまうため、できるだけ片方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を優先的に複数の導電性媒体に接触させることが望ましい。よって、ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内を通過中に、第一の絶縁性容器内の導電性媒体の全個数のうち60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更により好ましくはすべてをファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に接触可能に構成することが望ましい。第一の絶縁性容器内の導電性媒体のすべてをファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に接触可能に構成するというのは、第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第一の絶縁性容器内の導電性媒体に接触させることを意味する。
【0063】
同様に、ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器内を通過中に、第二の絶縁性容器内の導電性媒体の全個数のうち60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更により好ましくはすべてをファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に接触可能に構成することが望ましい。第二の絶縁性容器内の導電性媒体のすべてをファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面に接触可能に構成するというのは、第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを第二の絶縁性容器内の導電性媒体に接触させることを意味する。
【0064】
ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と第一の陽極の最短距離、及び、ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と第二の陽極の最短距離は、それぞれ短い方が各金属製エレメントへ効率的にめっきすることができ、不要な箇所(例えば、導電性媒体)へのめっきを抑制することができる。めっき効率が高まることにより、導電性媒体のメンテナンス費用、薬品代、電気代が節約できる。具体的には各金属製エレメントと陽極の最短距離は10cm以下が好ましく、8cm以下がより好ましく、6cm以下が更により好ましく、4cm以下が更により好ましい。この際、第一の陽極及び第二の陽極はファスナーチェーン搬送方向に平行に延設されることがめっき効率の観点から望ましい。
【0065】
(3.めっき装置)
次に、上述した電気めっき方法を実施するのに好適な電気めっき装置の実施形態について説明する。ただし、電気めっき方法の実施形態の説明の中で述べた構成要素と同一の構成要素に関する説明は、電気めっき装置の実施形態の説明においても該当するため、原則として重複する説明を省略する。
【0066】
本発明に係る電気めっき装置は一実施形態において、
めっき液を収容可能なめっき槽と、
めっき槽中に配置された第一の陽極と、
めっき槽中に配置され、且つ、複数の導電性媒体が陰極に電気的に接触した状態で流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第一の絶縁性容器と、
を備える。
【0067】
本実施形態において、第一の絶縁性容器は、主として該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第一の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させながら、該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器内を通過することが可能なように構成される。また、本実施形態において、第一の陽極は、該ファスナーチェーンが第一の絶縁性容器を通過する際に、該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向することができる位置関係で設置される。本実施形態によれば、ファスナーチェーンの一方の主表面側に露出した金属製エレメント列の表面を主としてめっきすることができる。
【0068】
本発明に係る電気めっき装置は別の一実施形態において、
めっき槽中に配置された第二の陽極と、
めっき槽中に配置され、且つ、複数の導電性媒体が陰極に電気的に接触した状態で流動可能に収容された一つ又は二つ以上の第二の絶縁性容器と、
を更に備える。
【0069】
本実施形態において、第二の絶縁性容器は、主として該ファスナーチェーンの第二の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面を第二の絶縁性容器内の前記複数の導電性媒体に接触させながら、該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器内を通過することが可能なように構成される。また、本実施形態において、第二の陽極は、該ファスナーチェーンが第二の絶縁性容器を通過する際に、該ファスナーチェーンの第一の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面と対向する位置関係で設置される。本実施形態によれば、ファスナーチェーンの両主表面側に露出したエレメント列の表面に対してめっきが可能である。
【0070】
次に、本発明に係る電気めっき装置の具体例である固定セル方式の電気めっき装置について説明する。固定セル方式は一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面のみを絶縁性容器内の導電性媒体に接触させることができるという点で有利である。固定セル方式のめっき装置においては、絶縁性容器はめっき装置内で固定されており、回転動作等の動きを伴わない。固定セル方式のめっき装置の一構成例における絶縁性容器(第一及び第二の絶縁性容器の何れにも使用可能である。)の構造を
図6〜
図8に模式的に示す。
図6は、固定セル方式のめっき装置の絶縁性容器をファスナーチェーンの搬送方向と向き合う方向から見たときの模式的な断面図である。
図7は、
図6に示す絶縁製容器の模式的なAA’線断面図である。
図8は、
図6に示す絶縁製容器から導電性媒体及びファスナーチェーンを取り除いたときの模式的なBB’線断面図である。
【0071】
図6及び
図7を参照すると、絶縁性容器110はファスナーチェーン7の走行経路を案内する通路112、及び複数の導電性媒体111を流動可能に収容する収容部113を内部に有する。通路112はファスナーチェーンの入口114と、前記ファスナーチェーンの出口115と、ファスナーチェーン7の一方(第一又は第二)の主表面側と対向する側の路面112aに複数の導電性媒体111へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口117と、ファスナーチェーン7の他方(第二又は第一)の主表面側と対向する側の路面112bにめっき液が連通可能で且つ電流が流れることを可能とした複数の開口116とを有する。路面112bには金属製エレメント3の搬送方向を案内するためのガイド溝120を搬送方向に沿って延設してもよい。
【0072】
複数の導電性媒体111へのアクセスを可能とする一つ又は二つ以上の開口117について、チェーン幅方向の幅をW
2とし、導電性媒体111の直径をDとしたとき、チェーン幅方向に3個のボール球が部分的に重なるように配列すると、ボール球の移動や回転のためのスペースが確保されつつ、給電が安定しやすいことから、2D<W
2<3Dの関係が成立することが好ましく、2.1D≦W
2≦2.8Dがより好ましい。ここで、チェーン幅とはJIS 3015:2007に規定される通り、噛み合ったエレメントの幅を指す。また、導電性媒体の直径は測定対象となる導電性媒体と同一の体積を有する真球の直径と定義する。
【0073】
入口114から絶縁性容器110内に入ったファスナーチェーン7は、通路112内を矢印の方向に走行し、出口115から出て行く。ファスナーチェーン7が通路112内を通過中、収容部113に保持された複数の導電性媒体111は、開口117を通じてファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメント3の表面に接触可能である。しかし、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメント3の表面に対して導電性媒体111がアクセス可能な開口は存在しない。このため、収容部113に保持された複数の導電性媒体111は、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメント3の表面に接触することはできない。
【0074】
通路112内を走行するファスナーチェーン7に引きずられて、導電性媒体111は搬送方向の先頭に移動して集積しやすくなるが、過度に集積すると導電性媒体111が先頭で詰まり、ファスナーチェーン7が強く押し付けられるため、ファスナーチェーン7の搬送抵抗が大きくなる。このため、
図7に示すように、入口114よりも高いところに出口115を設けることで通路112を上り傾斜させることにより、絶縁性容器110内に収容されている複数の導電性媒体111は重力によって搬送方向の後方に戻すことができるので、搬送抵抗を低下させることができる。入口114の鉛直上方に出口115を設けてファスナーチェーン7の搬送方向を鉛直上方とすることも可能であり、これにより搬送抵抗の制御が容易となり、また、設置スペースも小さくて済むという利点が得られる。
【0075】
図8を参照すると、収容部113の内面のうち、搬送方向の先頭側の内側面113aに板状陰極118が設置されている。複数の導電性媒体111は板状陰極118に電気的に接触することが可能である。また、ファスナーチェーン7が通路112内を通過中、複数の導電性媒体111はファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメント3の表面に電気的に接触することが可能である。複数の導電性媒体111のうち少なくとも一部がこれら両方の導電性媒体111に電気的に接触することで電気の経路が生まれると、ファスナーチェーン7が通路112内を通過中、各金属製エレメント3に対して給電が可能となる。
【0076】
典型的な実施形態においては、ファスナーチェーン7はめっき液中に浸漬された状態で電気めっきされる。ファスナーチェーン7が絶縁性容器110の通路112内を通過中、めっき液は開口116を通じて通路112内に浸入することで、各金属製エレメント3に接触可能である。ファスナーチェーン7の他方(第二又は第一)の主表面側と対向する側に陽極119を設置することで、めっき液中の陽イオンは、ファスナーチェーンの他方の主表面側に効率的に到達することができ、当該主表面側に露出した各金属製エレメント3の表面にめっき被膜を迅速に成長させることができる。
【0077】
路面112bに形成する開口116は、通路112内を走行するファスナーチェーン7との引っ掛かりがないように設けることがファスナーチェーン7の円滑な搬送にとって有利である。この観点からは、各開口116は円形状の穴とすることが好ましく、例えば、直径1〜3mmの円形状の穴とすることができる。
【0078】
また、路面112bに形成する開口116は、通路112内を走行するファスナーチェーン7の金属製エレメント3全体に電気が高い均一性で流れるように設けることが均一性の高いめっき皮膜を得る上で好ましい。このような観点から、路面112bの開口116を含む面積に対する開口116の面積の比率(以下、開口率という。)は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。ただし、開口率は強度確保の理由により、60%以下であることが好ましい。また、複数の開口116は、
図8に示すように、ファスナーチェーン7の搬送方向に沿って複数配列することが好ましく(
図8では3列)、金属製エレメント3の露出した面全面に電流が流れてめっきが付きやすくするという観点から、千鳥配列することがより好ましい。
【0079】
ファスナーチェーン7が通路112内を走行中、複数の導電性媒体111はファスナーテープ1に接触しないことが好ましい。複数の導電性媒体111がファスナーテープ1に接触すると、ファスナーチェーンの搬送抵抗を増大させるためである。従って、開口117は複数の導電性媒体111がファスナーテープに接触できない場所に設置することが好ましい。絶縁性容器をファスナーチェーンの搬送方向と向き合う方向から見たとき(
図6参照)、開口117の両側壁から金属製エレメント3の両端までのチェーン幅方向の隙間C1、C2はそれぞれ各導電性媒体111の半径以下であることがより好ましい。ただし、開口117の両側壁間の距離が狭くなると、導電性媒体111とエレメント3の接触頻度が低くなるため、隙間C1、C2は0以上であることが好ましく、0より大きいことがより好ましい。なお、導電性媒体の半径は測定対象となる導電性媒体と同一の体積を有する真球の半径と定義する。
【0080】
通路112内に導電性媒体が入り込まないように、路面112aと路面112bの間の距離は導電性媒体の直径よりも短いことが好ましい。通路112内に導電性媒体が入り込むと搬送抵抗を著しく増大させて、ファスナーチェーン7の搬送が困難に陥る原因となるからである。
【0081】
図9には、固定セル方式の電気めっき装置の全体構成例が示されている。
図9に示す実施態様においては、ファスナーチェーン7は、めっき液202の入っためっき槽201中でテンションをかけて矢印の方向に搬送される。テンションは0.1N〜0.2Nの加重が好ましい。
【0082】
図9に示す実施態様においては、めっき槽201は第一のめっき槽201a及び第二のめっき槽201bに分かれている。ファスナーチェーン7は、第一のめっき槽201aの側壁に設けられた入口204からめっき液202a中に入り、直列に配列された三つの第一の絶縁性容器110aを斜め上方に通過し、第一のめっき槽201aの側壁に設けられた出口205から出る。出口205は入口204よりも高い位置にある。次いで、ファスナーチェーン7は方向転換して、第一のめっき槽201aの上方に設置された第二のめっき槽201bの側壁に設けられた入口206からめっき液202b中に入り、直列に配列された三つの第二の絶縁性容器110bを斜め上方に通過し、第二のめっき槽201bの側壁に設けられた出口207から出る。
【0083】
図9に示す実施態様においては、第一のめっき槽201aの入口204及び出口205からはめっき液がオーバーフローする。オーバーフローしためっき液は戻りパイプ210aを通って貯留槽203に回収された後、循環ポンプ208によって送りパイプ212aを通って再び第一のめっき槽201aに供給される。また、第二のめっき槽201bの入口206及び出口207からはめっき液がオーバーフローする。オーバーフローしためっき液は戻りパイプ210bを通って貯留槽203に回収された後、循環ポンプ208によって送りパイプ212bを通って再び第二のめっき槽201bに供給される。
【0084】
図9に示す実施態様において、第一のめっき槽201a内にはめっき液202aの液面を調整するための戻りパイプ214、第二のめっき槽201b内にはめっき液202bの液面を調整するための戻りパイプ216がそれぞれ設置されており、各めっき槽(201a、201b)からめっき液が溢れるのを防止している。
【0085】
図9に示す実施態様においては、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bはファスナーチェーン7の各主表面を基準にして互いに反対向きに設けられている。ファスナーチェーン7は、第一の絶縁性容器110aを通過中、ファスナーチェーン7の一方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされ、第二の絶縁性容器110bを通過中、ファスナーチェーン7の他方の主表面側に露出した各金属製エレメントの表面がめっきされる。
【0086】
図9に示す実施態様において、第一の絶縁性容器110a及び第二の絶縁性容器110bが収容されるめっき槽が分かれている。このため、両者を同一組成のめっき液中に浸漬することもできるが、両者を異なる組成のめっき液の入っためっき槽に配置することで、一方の主表面と他方の主表面を異なる色にめっきすることもできる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明及びその利点をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図しない。
【0088】
(比較例1:給電ドラム方式)
特公平8−3158号公報の
図7に記載されるような給電ドラム方式のめっき装置を使用し、搬送中のファスナーチェーンの両主表面側に露出した金属製エレメントに対して電気めっきを連続的に行った。
【0089】
めっき試験条件は以下である。
・ファスナーチェーンの仕様:YKK(株)製型式5RGチェーン(チェーン幅:5.75mm、エレメント素材:丹銅、ファスナーテープ素材:ポリエステル)
・めっき液:5L、組成:ニッケルめっき用めっき液
・給電ドラム仕様:材質チタン、直径100mm
・めっき液中での滞留時間:18.8秒
・搬送速度:1m/分
【0090】
(実施例1:固定セル方式)
図6〜
図8に示す構造の絶縁性容器を以下の仕様で作製した。
・導電性媒体:3μm程度の厚みのピロリン酸銅めっき被膜を表面に有する鉄球、直径8mm、300個、積層数=4個
・絶縁性容器:アクリル樹脂製
・傾斜角度:3°
・開口116:開口率54%、直径2mmの円形状の穴、千鳥状に配列
・隙間C1、C2:4mm
・幅W
2:17mm
【0091】
上記の絶縁性容器を用いて
図9に示す電気めっき装置を構築し、搬送中のファスナーチェーンの両主表面側に露出した金属製エレメントに対して電気めっきを連続的に行った。
めっき試験条件は以下である。
・ファスナーチェーンの仕様:YKK(株)製型式5RGチェーン(チェーン幅:5.75mm、エレメント素材:丹銅、ファスナーテープ素材:ポリエステル)
・めっき液:120L、組成:ノンシアンCu−Sn合金めっき用めっき液
・めっき時間:14.4秒
・搬送速度:2.5m/分
・各エレメントと陽極の間の最短距離:3cm
【0092】
(めっき被膜の厚み測定)
比較例1について、得られためっき後のファスナーチェーンを構成する片方のファスナーストリンガーは、ファスナーテープの長手方向の一側縁に沿って、2n個(n=100)の金属製エレメントを有しており、n−4番目からn+5番目までの隣り合って並ぶ10個の金属製エレメントを抽出した。
そして、当該隣り合って並ぶ10個の金属製エレメントの各エレメント中央(ファスナーチェーンの何れか一方の主表面側)におけるめっき被膜の厚みをそれぞれ、蛍光X線分析により測定した。測定条件は、電圧:50kV、電流:1000μA、測定時間:120秒、コリメータ:0.2mmφとした。
また、実施例1について、得られためっき後のファスナーチェーンを構成する片方のファスナーストリンガーは、ファスナーテープの長手方向の一側縁に沿って、2n個(n=100)の金属製エレメントを有しており、何れかの一端から長手方向にn−4番目からn+5番目までの隣り合って並ぶ10個の金属製エレメントを抽出した。そして、当該隣り合って並ぶ10個の金属製エレメントの各エレメント中央(ファスナーチェーンの何れか一方の主表面側)、頭部の凸状部位の頂点及び凹状部位の最深点におけるめっき被膜の厚みをそれぞれ、先述した測定条件に従って、オージェ電子分光法(AES)(日本電子株式会社製の型式JAMP9500F)により元素デプスプロファイルを得ることで測定した。
結果を表1−1及び表1−2に示す。比較例1のめっき厚測定法は実施例1と異なるが、実施例1の測定法で測定したとしても大きな差はないと推察される。
なお、比較例1及び実施例1の何れのファスナーチェーンについても、エレメントの表面のうちファスナーテープと接触して隠蔽されている部分にはめっき被膜が形成されていなかった。
【0093】
【表1-1】
【0094】
【表1-2】
【0095】
<考察>
実施例1のファスナーチェーンは、エレメント同士が予め電気的に接続されていなくても、めっき被膜の厚みの均一性の高い金属製エレメント列を備えていることが理解できる。また、実施例1のファスナーチェーンは、エレメント同士が予め電気的に接続されていなくても、各エレメント頭部の噛合部位(凸状部位及び凹状部位)におけるめっきの付き回り性が高いことが理解できる。実際、顕微鏡写真を用いて厚みの測定対象となった10個のエレメントを確認したところ、ファスナーテープとの接触部分はCu−Sn合金が形成されておらず母材の丹銅色が見られるが、ファスナーテープと接触していない部分は全てのエレメントにCu−Sn合金めっきが形成されていた。また、観察したエレメント全ての頭部の凸状部位と凹状部位には、母材が表出しないようにめっきが形成されていた。
一方、比較例1のファスナーチェーンは、めっき被膜の厚みのばらつきが多く、また、各エレメント頭部の噛合部位におけるめっきの付き回り性が悪かった。顕微鏡写真を用いて厚みの測定対象となった10個のエレメントを確認したところ、幾つかのエレメントの頭部の凸状部位と凹状部位には全くめっきが付いておらず母材の丹銅色が見られ、また、エレメントの頭部の凸状部位と凹状部位に部分的にめっきが形成されていても母材の表出が見られた。
【0096】
実施例1のファスナーチェーンに対しては、上記の中央部の10個のエレメントのみならず、隣り合う10個のファスナーエレメントの組を任意に複数組抽出してめっき被膜の評価を行ったが、同様の結果であった。