(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6670972
(24)【登録日】2020年3月4日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】養蜂箱
(51)【国際特許分類】
A01K 47/06 20060101AFI20200316BHJP
【FI】
A01K47/06
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-185862(P2019-185862)
(22)【出願日】2019年10月9日
【審査請求日】2019年11月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519363672
【氏名又は名称】大神 省二
(73)【特許権者】
【識別番号】519364439
【氏名又は名称】立石 靖司
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 正寛
(74)【代理人】
【識別番号】100094215
【弁理士】
【氏名又は名称】安倍 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】大神 省二
(72)【発明者】
【氏名】立石 靖司
【審査官】
吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2018−027067(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00671122(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巣箱の内部に少なくとも2本の支持棒が、互いに平行となるように設けられ、これらの支持棒に、巣枠の端部を掛止することにより、この巣箱の内部にこの巣枠を吊り下げるように収納される養蜂箱であって、
上記巣枠は上記支持棒に線接触または点接触で掛止される養蜂箱。
【請求項2】
上記支持棒には、上記巣枠と接する部分に刃先が形成されることにより、上記巣枠が上記支持棒に線接触または点接触で掛止される請求項1に記載の養蜂箱。
【請求項3】
上記支持棒の長さ方向と直交する方向の断面形状において、上記刃先と点対称位置となる部分が鋭角となるように、この支持棒に第2の刃先が形成された請求項2に記載の養蜂箱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養蜂箱、詳しくは、蜜蜂の巣や巣枠へのハチノスツヅリガの幼齢虫の侵入を防ぐことにより、巣盤の食害を防ぎ、越年歩留まりのよい巣を養成する養蜂箱に関する。
【背景技術】
【0002】
養蜂は、養蜂業者がミツバチの入った養蜂箱を野原や山地に設置して、ミツバチが花の蜜を養蜂箱まで運び、養蜂業者が蜜を集めることにより行われる。養蜂箱は、所定の箇所にミツバチの出入り口を形成し、その内部に巣枠を設けた構造である。ミツバチの出入り口は、単にミツバチが出入りできる隙間に形成されている。
ところが、夜間にハチノスツヅリガの成虫が養蜂箱内入りこみ、巣箱底部に産卵し幼齢虫が生まれる。その幼齢虫が蜜蝋を食べてしまい、結果的にミツバチが養蜂箱から逃避する食害が従来から養蜂業界において問題視されている。このような状況の中で、たとえば、凹凸構造を表面に有する虫滑落性フィルムを備えた養蜂箱(特許文献1)や、養蜂箱内に扉を設けたもの(特許文献2)など、様々な解決策が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−108635号公報
【特許文献2】特開2001−136860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食害の原因であるハチノスツヅリガの幼齢虫は、プラスチック製品を食べてプラスチックを分解することで現在注目されているものであり、プラスチック製品のように平滑面であっても滑ることも無く移動する(動く)ことが可能であることが知られている。このため、養蜂箱から内部に侵入した場合には、たとえ養蜂箱に虫滑落性フィルムを備えたとしても、蜜蜂の巣(巣盤)や巣枠へのハチノスツヅリガの幼齢虫の侵入を完全に防ぐことはできず、その結果、食害の改善効果は極めて低いものであった。
そもそも、養蜂箱の内部へのハチノスツヅリガの幼齢虫の侵入については、養蜂箱の材質および構造上、防止することは不可能である。一度侵入したハチノスツヅリガの幼齢虫は、容易に蜜蜂の巣や巣枠に到達することが可能である。
【0005】
そこで、発明者は、養蜂箱を構成する部材同士の接触部分(接触面積)に着目し、養蜂箱に侵入したハチノスツヅリガの幼齢虫は、容易に巣盤や巣枠に到達することができないように部材の接触面積を小さくすることで、食害の改善効果を高めることができることを知見し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、巣盤や巣枠へのハチノスツヅリガの幼齢虫の侵入を防ぐことにより、巣盤の食害を防ぎ、越年歩留まりのよい巣盤を養成する養蜂箱を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、巣箱の内部に少なくとも2本の支持棒が、互いに平行となるように設けられ、これらの支持棒に、巣枠の端部を掛止することにより、この巣箱の内部にこの巣枠を吊り下げるように収納される養蜂箱であって、上記巣枠は上記支持棒に線接触または点接触で掛止される養蜂箱である。
請求項2に記載の発明は、上記支持棒には、上記巣枠と接する部分に刃先が形成されることにより、上記巣枠が上記支持棒に線接触または点接触で掛止される請求項1に記載の養蜂箱である。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、巣箱の内部に少なくとも2本の支持棒が互いに平行となるように設けられている。この支持棒に巣枠の端部を掛止する。このとき、巣枠の支持棒への掛止方法によるが、支持棒と巣枠とが線接触(接触方向と直交する方向での断面視したとき、支持棒と巣枠とが点接触)しているか、支持棒と巣枠とが点接触している。すわわち、巣枠の掛止する部分と、支持棒とが平行となるように巣枠を支持棒に掛止する場合は、支持棒と巣枠とが線接触することになるが、巣枠の掛止する部分と、支持棒とが直行するように巣枠を支持棒に掛止する場合は、支持棒と巣枠とが点接触することになる。そして、支持棒に巣枠の端部を掛止したとき、巣箱の内部にこの巣枠を吊り下げるように収納された状態を維持している。つまり、巣枠と巣箱とが、支持棒の接触部分以外は接触しない状態を維持している。このように、巣枠と巣箱との接触を必要最小限とすることにより、たとえ、ハチノスツヅリガの幼齢虫が養蜂箱の内部に侵入してきたとしても、巣盤や巣枠に到達することはできない。あわせて、ハチノスツヅリガの幼齢虫が隠れる場所が少なくなり、蜜蜂によるハチノスツヅリガの幼齢虫の駆除が容易となり、蜜蜂の巣盤防衛負担軽減につながる。その結果、巣盤の食害を防ぎ、越年歩留まりのよい巣を養成することができる。
【0009】
巣枠と支持棒とが線接触または線接触する構造であれば、巣枠の支持棒と接触する部材の断面形状と支持棒の断面形状については特に限定しない。このため、たとえば、支持棒または巣枠の支持棒と接触する部材の断面形状が円形であってもよく、両部材の断面形状が円形であってもよい。最も好ましいのは、請求項2に記載の発明のように、支持棒が巣枠と接する部分に刃先が形成されたものが好ましい。この場合、巣枠の支持棒と接する部材と支持棒との接していない部分の離間距離が長くなり、ハチノスツヅリガの幼齢虫が巣盤や巣枠に到達することの困難性が増す。あわせて、ハチノスツヅリガの幼齢虫が隠れる場所がさらに少なくなり、蜜蜂のハチノスツヅリガの幼齢虫の駆除が極めて容易となり、蜜蜂のさらなる巣盤防衛負担軽減につながる。
巣枠と支持棒との線接触される部分の長さは巣枠と支持棒との掛止方法や、両部材の断面形状によって変わってくる。例えば、巣枠の支持棒と接する部材と支持棒とを平行にして掛止する場合には、線接触部分の長さは支持棒の長さによって決定されるが、両部材が直行するようにして掛止する場合には、巣枠の支持棒と接する部材の幅と断面形状により決定される。このとき、例えば巣枠の支持棒と接する部材の断面形状が円形で、支持棒の巣枠と接する部分に刃先が形成されている場合は、実質的には点接触で掛止することになるため、ハチノスツヅリガの幼齢虫が蜜蜂の巣や巣枠に到達することの困難性は極めて高い。
【0010】
請求項2に記載の「刃先」とは、巣枠を支持棒に掛止することを前提とするため、刃先の表面における角度が鋭角であればよく、その角度や、先端部分の角取りの有無については特に問わない。巣枠を支持棒に掛止することにより巣枠の損傷を防止すべく、その角度は10〜30度であれば足り、先端部分は角取りされているほうが好ましい。
【0011】
請求項3に記載の発明は、上記支持棒の長さ方向と直交する方向の断面形状において、上記刃先と点対称位置となる部分が鋭角となるように、この支持棒に第2の刃先が形成された請求項2に記載の養蜂箱である。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、巣枠と支持棒の刃先とが接する部分に対して中心を通る対抗位置(点対称位置)となる部分に第2の刃先が形成されている。支持棒による巣枠の接触部分を除き、巣枠と巣箱との間に空間が形成されている(つまり、支持棒による巣枠の接触部分を除き、巣枠と巣箱は接触していない)。このような構造のもとでは、巣盤が巣枠の枠外にも形成されることがある。支持棒に第2の刃先が形成されることにより、巣枠を巣箱の外部へ取り出すときに、巣枠の枠外に形成された巣盤を第2の刃先によりそぎ落とすことができ、容易に巣枠を巣箱の外部へ取り出すことができる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、巣枠と巣箱との接触を必要最小限とすることにより、たとえ、ハチノスツヅリガの幼齢虫が養蜂箱の内部に侵入してきたとしても、巣盤や巣枠に到達することはできない。また、ハチノスツヅリガの幼齢虫が隠れる場所が少なくなり、蜜蜂のハチノスツヅリガの幼齢虫の駆除が容易となり、蜜蜂の巣盤防衛負担軽減につながる。その結果、巣盤の食害を防ぎ、越年歩留まりのよい巣盤を養成することができる。
特に、請求項2に記載の発明のように、支持棒が巣枠と接する部分に刃先が形成されたものであれば、巣枠の支持棒と接する部材と支持棒との接していない部分の離間距離が長くなり、ハチノスツヅリガの幼齢虫が巣盤や巣枠に到達することの困難性が増す。さらに、ハチノスツヅリガの幼齢虫が隠れる場所が極端に少なくなり、蜜蜂のハチノスツヅリガの幼齢虫の駆除が極めて容易となり、蜜蜂のさらなる巣盤防衛負担軽減につながる。これにより、巣盤の食害防止効果が高く、さらに越年歩留まりの高まった巣盤を養成することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、支持棒に第2の刃先が形成されることにより、巣枠を巣箱の外部へ取り出すときに、巣枠の枠外に養成された巣盤を第2の刃先によりそぎ落とすことができ、容易に巣枠を巣箱の外部へ取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(A)本発明の実施例1に係る養蜂箱と巣枠との関係を示す概略斜視図である。(B)本発明の実施例1に係る養蜂箱の内部を示す概略斜視図である。
【
図2】(A)本発明の実施例1に係る養蜂箱における、巣枠掛止部と支持棒の断面図である。(B)本発明の実施例1に係る養蜂箱における、他の実施形態である巣枠掛止部と支持棒の断面図である。(C)本発明の実施例1に係る養蜂箱における、他の実施形態である巣枠掛止部と支持棒の断面図である。
【
図3】本発明の実施例2に係る養蜂箱における、巣枠掛止部と支持棒の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る養蜂箱における実施例について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
(実施例1)
図1に示すように、本発明の実施例1に係る養蜂箱10は、複数個の巣枠11を縦方向に並べて収容できる木製の巣箱である。具体的には、養蜂箱10は、1つの巣枠11を着脱自在に収容可能な木製の養蜂箱ユニット10aを複数個有することにより、複数個の巣枠11を着脱自在に収容可能に構成されている。この養蜂箱10は、全体的に略立方体形状であり、この養蜂箱10の上部開口を覆う木製の蓋(図示せず)を備えている。
【0018】
養蜂箱ユニット10aは、上面視して矩形の底壁と、その底面の外周縁から立設された側壁と備え、全体的に略直方体形状の、蓋を有しない木製の箱である。この養蜂箱ユニットには、その内部に底壁上面から所定高さ位置に2本の支持棒10bが、これらの支持棒10bが平行に設けられている。つまり、
図1(B)に示すように、支持棒10bは、側壁の内周面から垂直に突出するように設けられている。
【0019】
巣枠11は、木製のラングストロス式巣枠であって、巣枠内には蜜蜂に巣脾を作らせるための巣礎が張られている。各巣枠は、横方向に延びる上桟及び下桟と、上下方向に延びる左右一対の縦桟と、を有し、上桟の左右両端には横方向外方に向けて突出する一対の掛止部11bが設けられている。
【0020】
養蜂箱ユニット10aに巣枠11を収容したとき、巣枠11の掛止部11bが、支持棒10bに当接されることにより、巣枠11は支持棒10bに掛止される。このとき、巣枠11は養蜂箱ユニット10aの側壁及び底壁に接触せず、支持棒10bにより養蜂箱ユニット10bの内部に吊り下げられた状態で収容される。
【0021】
ここで、支持棒10bと巣枠掛止部11bの断面形状の関係を
図2に基づいて説明する。まず、本発明では、支持棒10bと巣枠掛止部11bは線接触(点接触を含む)であることが前提である。そこで、比較実施形態では、
図2(A)に示すように、支持棒10bおよび巣枠掛止部11bの断面形状が矩形のものを用いて養蜂箱10、巣枠11を作製した。そして、支持棒10bの長さ方向と巣枠掛止部11bの長さ方向とが直交するようにして巣枠11を支持棒10bに掛止して、養蜂を行った。その結果、巣枠11及び巣盤に到着したハチノスツヅリガの幼齢虫が多く、翌年、当該巣盤を活用することができず、当該巣盤を用いて養蜂することはできなかった。
その一方で、実施形態1では、
図2(B)に示すように、支持棒10bの断面形状が円形で、巣枠掛止部11bの断面形状が矩形のものを用いて養蜂箱10、巣枠11を作製した。そして、支持棒10bの長さ方向と巣枠掛止部11bの長さ方向とが直交するようにして巣枠11を支持棒10bに掛止して、養蜂を行った。その結果、巣枠11及び巣盤に到着したハチノスツヅリガの幼齢虫はわずか(およそ3匹程度)であり、翌年も巣盤を活用して養蜂することができた。
実施形態2では、
図2(C)に示すように、巣枠掛止部11bの断面形状は矩形であるが、支持棒10bの断面形状は巣枠掛止部11bの接する側に刃先が形成された刀形状であるものを用いて養蜂箱10、巣枠11を作製した。なお、支持棒10bの刃先は、巣枠掛止部11を損傷しないよう面取りを行っている。そして、支持棒10bの長さ方向と巣枠掛止部11bの長さ方向とが直交するようにして巣枠11を支持棒10bに掛止して、養蜂を行った。その結果、巣枠11及び巣盤に到着したハチノスツヅリガの幼齢虫は発見されず、翌年も巣盤を活用して養蜂することができた。
【0022】
(実施例2)
本発明の実施例2に係る養蜂箱は、実施例1の実施形態3に係る養蜂箱において、支持棒20aの刃先が上下に形成されており、先端が面取りされている。その他の構造は実施例1の場合と同様であるため、省略する。
この場合、支持棒20aと巣枠掛止部21aとの接触部分を除き、巣枠と巣箱との間に空間が形成されている(つまり、支持棒20aと巣枠掛止部21aとの接触部分を除き、巣枠と巣箱は接触していない)。このような構造のもとでは、巣盤が巣枠の枠外にも養成されることがある。支持棒20aの下方に刃先が形成されることにより、巣枠を巣箱の外部へ取り出すときに、巣枠の枠外に養成された巣盤を刃先によりそぎ落とすことができ、容易に巣枠を巣箱の外部へ取り出すことができる。
【要約】
【課題】巣盤や巣枠へのハチノスツヅリガの幼齢虫の侵入を防ぐことにより、巣盤の食害を防ぎ、越年歩留まりのよい巣盤を養成する。
【解決手段】巣箱の内部に少なくとも2本の支持棒が互いに平行となるように設ける。支持棒に巣枠の端部を掛止する。このとき、支持棒と巣枠とが線接触・点接触する。支持棒に巣枠の端部を掛止したとき、巣箱の内部に巣枠を吊り下げるように収納された状態を維持する。巣枠と巣箱との接触を必要最小限とすることにより、たとえハチノスツヅリガの幼齢虫が養蜂箱の内部に侵入してきたとしても、巣盤や巣枠に到達できないようにする。
【選択図】
図2