特許第6671021号(P6671021)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6671021神経測定において神経反応を検出するための方法およびデバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671021
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】神経測定において神経反応を検出するための方法およびデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/04 20060101AFI20200316BHJP
   A61N 1/36 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   A61B5/04 A
   A61N1/36
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-533127(P2016-533127)
(86)(22)【出願日】2014年11月22日
(65)【公表番号】特表2017-501767(P2017-501767A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】AU2014050369
(87)【国際公開番号】WO2015074121
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2017年11月9日
(31)【優先権主張番号】2013904519
(32)【優先日】2013年11月22日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】513144730
【氏名又は名称】サルーダ・メディカル・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・スコット・ヴァラック・シングル
(72)【発明者】
【氏名】ディーン・マイケル・カラントニス
【審査官】 佐藤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第02/049500(WO,A2)
【文献】 国際公開第2006/091636(WO,A2)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0313483(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0286748(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0287609(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0225211(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/155190(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0249643(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/159545(WO,A2)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0167369(US,A1)
【文献】 Kyung Hwan Kim et al.,A Wavelet-Based Method for Action Potential Detection From Extracellular Neural Signal Recording With Low Signal-to-Noise Ratio,IEEE TRANSACTIONS ON BIOMEDICAL ENGINEERING,2003年,第50巻,第8号,第999−1011頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経測定において神経反応が存在するかどうかを検出するために、アーチファクトの存在下で得られた前記神経測定を処理する移植可能デバイスの作動方法であって、前記移植可能デバイスが、
1つまたは複数の検知電極から神経測定を得るステップと、
フィルタテンプレートに対して前記神経測定を相関させるステップであって、前記フィルタテンプレートが、窓によって振幅変調された交流波形の少なくとも3つの半周期を含む、ステップと、
前記相関の出力から、前記神経測定において神経反応が存在するかどうかを決定するステップと
を実行する、方法。
【請求項2】
前記窓が三角窓を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記三角窓が、以下のような、すなわち、
Lが奇数の場合:
1≦n≦(L+1)/2に対して、w(n)=2n/(L+1)
(L+1)/2+1≦n≦Lに対して、w(n)=2−2n(L+1)
Lが偶数の場合:
1≦n≦L/2に対して、w(n)=(2n−1)/L
L/2+1≦n≦Lに対して、w(n)=2−(2n−1)/L
のような係数w(n)を含む長さLの標準の三角窓である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記三角窓が、サンプル1およびLが0であるバートレット窓である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記窓が、ハニング窓、矩形窓またはカイザーベッセル窓のうちの1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記窓が、正弦曲線二項変換から導き出される1つまたは複数の基底関数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記フィルタテンプレートが、交流波形の4つの半周期を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記フィルタテンプレートが、前記窓によって振幅変調されることによって修正された正弦波の半周期を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記フィルタテンプレートが、前記窓によって振幅変調されることによって修正された余弦波の半周期を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記相関の単一のポイントのみが計算される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記相関の前記単一のポイントが、事前に定義された最適な時間遅延で計算される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記移植可能デバイスが、信号対アーチファクト比が1より大きい際に、前記神経測定とフィルタテンプレートとの間の相互相関の第1または単一のポイントを生成すべきである前記最適な時間遅延を決定するステップをさらに実行する方法であって、前記最適な時間遅延を決定するステップが、
前記神経反応と前記フィルタテンプレートとの間の近似時間遅延で、前記神経測定のDFTの基本周波数の実数および虚数部分を演算するステップと、
前記実数および虚数部分によって定義された位相を計算するステップと、
前記フィルタテンプレートの基本周波数に対して、前記計算された位相をπ/2に変更するために必要とされる時間調整を計算するステップと、
前記近似時間遅延と前記時間調整との総和として前記最適な時間遅延を定義するステップと
を行うことによるものである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記最適な時間遅延が、神経反応の検出の毎回の試みの前に再計算される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記最適な時間遅延が、ユーザの姿勢の変化の検出に応答して再計算される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
神経測定において神経反応が存在するかどうかを検出するために、アーチファクトの存在下で得られた前記神経測定を処理するための移植可能デバイスであって、
1つまたは複数の検知電極から神経測定を得るための測定回路と、
フィルタテンプレートに対して前記神経測定を相関させるように構成されたプロセッサであり、前記フィルタテンプレートが、窓によって振幅変調された交流波形の少なくとも3つの半周期を含む、プロセッサであって、前記相関の出力から、前記神経測定において神経反応が存在するかどうかを決定するようにさらに構成される、プロセッサと
を備える、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2013年11月22日に出願された豪州仮特許出願第2013904519号明細書の利益を主張し、同特許は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、刺激によって生じる神経反応などの神経反応の検出に関する。具体的には、本発明は、神経測定を得るために神経経路の最も近くに移植された1つまたは複数の電極を使用することによる複合活動電位の検出に関する。
【背景技術】
【0003】
電気神経変調は、慢性痛、パーキンソン病および片頭痛を含む各種の疾患を治療するため、ならびに、聴覚および運動機能などの機能を回復させるために使用されるかまたは使用が構想される。神経変調システムは、治療効果を生み出すために、電気パルスを神経組織に印加する。そのようなシステムは、通常、移植された電気パルス発生器と、経皮誘導伝達によって充電可能であり得るバッテリなどの電源とを備える。電極アレイは、パルス発生器に接続され、対象の神経経路の近くに位置付けされる。電極によって神経経路に印加された電気パルスは、ニューロンの脱分極を引き起こし、それにより、治療効果を達成するために、逆行性であれ、順行性であれ、その両方であれ、伝播活動電位が生成される。
【0004】
例えば、慢性痛を和らげるために使用される際は、電気パルスは、脊髄の後索(DC)に印加され、電極アレイは、背側硬膜外腔に位置付けられる。このように刺激を受ける後索線維は、脊髄のその区分から脳への痛みの伝達を阻害する。
【0005】
一般に、神経変調システムにおいて生成された電気刺激は、阻害または興奮効果を有する神経活動電位をトリガする。阻害効果を痛みの伝達などの望ましくないプロセスを調整するために使用するか、または、興奮効果を筋肉の収縮もしくは聴覚神経の刺激などの所望の効果を生じさせるために使用することができる。
【0006】
大多数の線維間で生成された活動電位は、複合活動電位(CAP)を形成するように総和される。CAPは、単一の線維活動電位の大多数からの反応の総和である。CAPが電気的に記録される際は、測定は、脱分極している大多数の異なる線維の結果を含む。伝播速度は、線維直径によって大部分が決定され、後根進入部(DREZ)および近くの後索に見られるような大有髄線維の場合は、速度は60ms−1を超える可能性がある。同様の線維群の興奮から生成されるCAPは、記録電位において、正のピークP、次いで、負のピークNとして測定され、その後、第2の正のピークPが続く。これは、個々の線維に沿って活動電位が伝播するにつれて記録電極を通過する活性化領域によって引き起こされ、典型的な3つのピークを有する反応プロファイルを生成する。刺激極性および検知電極構成に応じて、いくつかのCAPの測定プロファイルは、2つの負のピークおよび1つの正のピークを有する逆極性のものであり得る。
【0007】
神経測定を得るために提案される手法については、その内容が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2012/155183号において本出願人によって説明されており、また、例えば、King(米国特許第5,913,882号明細書)、Nygard(米国特許第5,758,651号明細書)およびDaly(米国特許出願公開第2007/0225767号明細書)によっても説明されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
神経変調および/または他の神経刺激の効果をより良く理解するため、ならびに、例えば、神経反応フィードバックによって制御される刺激子を提供するため、刺激によるCAPを正確に検出することが望ましい。誘発反応は、アーチファクトよりも後の時間に現れる際または信号対雑音比が十分に高い際は、検出はそれほど難しくはない。アーチファクトは刺激から1〜2ms後の時間に限定される場合が多く、従って、この時間窓の後に神経反応が検出されるならば、反応測定をより容易に得ることができる。これは、刺激場所から記録電極への伝播時間が2msを超えるような、刺激電極と記録電極との間に大きな距離(例えば、60ms−1で伝導している神経の場合は12cmを超える)がある手術モニタリングにおける事例である。
【0009】
しかし、後索からの反応を特徴付けるため、高い刺激電流および電極間の近接近が必要とされ、従って、そのような状況では、測定プロセスは、アーチファクトを直接克服しなければならない。しかし、神経測定において観察されるCAP信号成分は、通常、マイクロボルトの範囲の最大振幅を有するため、これは、難しいタスクであり得る。対照的に、CAPを誘発するために印加される刺激は、通常、数ボルトであり、電極アーチファクトを生じさせ、電極アーチファクトは、神経測定において、CAP信号と同時に部分的にまたは全体的に数ミリボルトの減衰出力として現れ、はるかに小さな対象のCAP信号の分離(または検出までも)への著しい障害を提示する。
【0010】
例えば、入力5Vの刺激の存在下で1μVの分解能を有する10μV CAPを解決するには、例えば、134dBのダイナミックレンジを有する増幅器が必要とされ、それは、移植システムでは実用的ではない。神経反応は刺激および/または刺激アーチファクトと同時のものであり得るため、CAP測定は、測定増幅器設計の難題を提示する。実際には、多くの非理想的な回路の態様はアーチファクトにつながり、これらの大部分が正または負の極性であり得る指数関数的に減衰する外観を有するため、それらの識別および除去は、多くの時間と労力を要するものであり得る。
【0011】
この問題の困難は、移植デバイスにおけるCAP検出の実装を試みる際にさらに悪化する。典型的な移植物は、所望のバッテリ寿命を維持するため、刺激ごとに限られた数(例えば、幾百または数千)のプロセッサ命令が認められる電力予算を有する。それに従って、移植デバイスのためのCAP検出器が規則的(例えば、1秒間に1回)に使用されることになっている場合は、検出器は、好ましくは、電力予算のほんの一部のみを消費すべきであり、従って、望ましくは、そのタスクを完了するために、プロセッサ命令のうちのほんの数十のみを必要とすべきである。
【0012】
本明細書に含まれている文書、行為、材料、デバイス、物品または同様のものについての論考は、単に、本発明のための文脈を提供するためのものである。これらの事項のいずれかまたはすべてが、先行技術基盤の一部を形成するか、あるいは、この出願の各請求項の優先日前に存在していたために、本発明に関連する分野において共通の一般的な知識であったことの承認として受け取ってはならない。
【0013】
この明細書全体を通じて、「備える、含む(comprise)」という用語または「備える、含む(「comprises」または「comprising」)」などのその変形語は、述べられる要素、整数もしくはステップ、または、要素、整数もしくはステップ群の包含を含意するが、他の任意の要素、整数もしくはステップ、または、要素、整数もしくはステップ群の除外は含意しないと理解されよう。
【0014】
この明細書では、要素がオプションのリスト「の少なくとも1つ」であり得るという言明は、要素が、リストされるオプションのいずれか1つでも、リストされるオプションのうちの2つ以上の任意の組合せでもあり得ると理解されたい。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の態様によれば、本発明は、神経測定において神経反応が存在するかどうかを検出するために、アーチファクトの存在下で得られた神経測定を処理するための方法であって、
1つまたは複数の検知電極から神経測定を得るステップと、
フィルタテンプレートに対して神経測定を相関させるステップであって、フィルタテンプレートが、窓によって振幅変調された交流波形の少なくとも3つの半周期を含む、ステップと、
相関の出力から、神経測定において神経反応が存在するかどうかを決定するステップと
を含む方法を提供する。
【0016】
第2の態様によれば、本発明は、神経測定において神経反応が存在するかどうかを検出するために、アーチファクトの存在下で得られた神経測定を処理するための移植可能デバイスであって、
1つまたは複数の検知電極から神経測定を得るための測定回路と、
フィルタテンプレートに対して神経測定を相関させるように構成されたプロセッサであって、フィルタテンプレートが、窓によって振幅変調された交流波形の少なくとも3つの半周期を含む、プロセッサであり、相関の出力から、神経測定において神経反応が存在するかどうかを決定するようにさらに構成される、プロセッサと
を備えるデバイスを提供する。
【0017】
窓は、三角窓を含み得る。三角窓は、以下の、すなわち、
Lが奇数の場合:
1≦n≦(L+1)/2に対して、w(n)=2n/(L+1)
(L+1)/2+1≦n≦Lに対して、w(n)=2−2n(L+1)
Lが偶数の場合:
1≦n≦L/2に対して、w(n)=(2n−1)/L
L/2+1≦n≦Lに対して、w(n)=2−(2n−1)/L
の係数w(n)を含む長さLの標準の三角窓であり得る。より好ましくは、三角窓は、サ
ンプル1およびLが0であるバートレット窓であり、本明細書における三角窓との記載は
、標準の三角窓と、上記で説明されるようなバートレット窓の両方を包含し、他の実質的
に三角形のまたはテント形状の窓関数も包含することが意図されることを理解されたい。
あるいは、窓は、バートレット窓、ハニング窓、矩形窓、または、適切なベータ値のカイ
ザーベッセル窓を含み得る。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、フィルタテンプレートは、交流波形の4つの半周期を含む。得られた神経測定に対して相関させるために使用される、どこか予期される3つのピークを有するCAP反応のような形状の3つのピークを有するテンプレートを含む一致フィルタは、雑音が白色である際にSNRを最適化できるが、アーチファクトは白色雑音ではなく、そのような3つのピークを有する一致フィルタは、アーチファクトの存在下でのCAP検出ではそれほど最適には実行できないことをそのような実施形態は認識している。
【0019】
フィルタテンプレートは、三角窓によって振幅変調されることによって修正された正弦波の4つの半周期を含み得、従って、4つの交流ピークを含む。あるいは、フィルタテンプレートは、三角窓内に振幅を収めることによって修正された余弦波の4つの半周期を含み得、従って、5つの交流ピークを含む。そのようなフィルタテンプレートの逆(すなわち、異極性を有する)は、いくつかの実施形態において採用することができる。代替の実施形態の交流波形は、非正弦曲線であり得るが、好ましくは、連続曲線であり、いくつかの実施形態では、4つの半周期を含むが、神経反応のプロファイルに似ている場合がある。
【0020】
従って、本発明は、アーチファクト拒絶が改善されたフィルタテンプレートの選択に備える。本発明は、別個の時定数を有する2つの指数関数の総和としてアーチファクトをかなり正確にモデル化でき、バートレットフィルタテンプレート窓がeのテイラー展開の最初の3つの項(すなわち、DC、線形および二次の項)を拒絶するため、本発明のそのような実施形態は、アーチファクト拒絶を容易にすることを認識している。
【0021】
第3の態様によれば、本発明は、神経測定において神経反応が存在するかどうかを検出するために、アーチファクトの存在下で得られた神経測定を処理するための方法であって、
1つまたは複数の検知電極から神経測定を得るステップと、
第1の時間オフセットにおいて、第1の測定値mを生成するために、第1のフィルタテンプレートに対して神経測定を相関させるステップであって、第1のフィルタテンプレートが、第1の位相の交流波形を含む、ステップと、
第1の時間オフセットにおいて、第2の測定値mを生成するために、第2のフィルタテンプレートに対して神経測定を相関させるステップであって、第2のフィルタテンプレートが、第1の位相に対して90度のオフセットが設けられた第2の位相の交流波形を含む、ステップと、
第1の時間オフセットから180度の非整数倍のところにあるオフセットである第2の時間オフセットにおいて、第3の測定値mを生成するために、第1のフィルタテンプレートに対して神経測定を相関させるステップと、
第2の時間オフセットにおいて、第4の測定値mを生成するために、第2のフィルタテンプレートに対して神経測定を相関させるステップと、
神経測定において神経反応が存在するかどうかを検出するために、m〜mを処理するステップと
を含む方法を提供する。
【0022】
第4の態様によれば、本発明は、神経測定において神経反応が存在するかどうかを検出するために、アーチファクトの存在下で得られた神経測定を処理するためのデバイスであって、
1つまたは複数の検知電極から神経測定を得るための測定回路と、
プロセッサであって、
第1の時間オフセットにおいて、第1の測定値mを生成するために、第1のフィルタテンプレートに対して神経測定を相関させるステップであって、第1のフィルタテンプレートが、第1の位相の交流波形を含む、ステップと、
第1の時間オフセットにおいて、第2の測定値mを生成するために、第2のフィルタテンプレートに対して神経測定を相関させるステップであって、第2のフィルタテンプレートが、第1の位相に対して90度のオフセットが設けられた第2の位相の交流波形を含む、ステップと、
第1の時間オフセットから180度の非整数倍のところにあるオフセットである第2の時間オフセットにおいて、第3の測定値mを生成するために、第1のフィルタテンプレートに対して神経測定を相関させるステップと、
第2の時間オフセットにおいて、第4の測定値mを生成するために、第2のフィルタテンプレートに対して神経測定を相関させるステップと、
神経測定において神経反応が存在するかどうかを検出するために、m〜mを処理するステップと
を行うように構成されたプロセッサと
を備えるデバイスを提供する。
【0023】
第3および第4の態様のいくつかの実施形態では、第1のフィルタテンプレートは、虚数のDFT出力を作成するために反対称であり得、第2のフィルタテンプレートは、実数のDFT出力を作成するために対称であり得る。
【0024】
第3および第4の態様のいくつかの実施形態では、第2の時間オフセットは、第1の時間オフセットから90度または270度のオフセットである。
【0025】
第3および第4の態様のいくつかの実施形態では、第1および/または第2のフィルタテンプレートは各々が、三角窓によって振幅変調された交流波形の4つの半周期を含む。例えば、第1のフィルタテンプレートは、三角窓によって振幅変調された正弦波形の4つの半周期を含み、第2のフィルタテンプレートは、三角窓によって振幅変調された余弦波形の4つの半周期を含む。あるいは、本発明の第3および第4の態様のいくつかの実施形態における第1および第2のフィルタテンプレートの交流波形は、カイザーベッセル窓(例えば、β=6を有する)によって振幅変調することができる。
【0026】
本発明の第1から第4までの態様は、神経測定とのフィルタテンプレートの相関の実行は、通常、プロセッサ命令のうちのほんの数十のみを必要とするという点で、移植デバイスに関連して適用される際にさらに有利であり、従って、例えば、幾百のプロセッサ命令を必要とする二重指数関数的な一致フィルタ手法と比較して、典型的な移植物の電力予算の適切なほんの一部のみを消費する。本発明の第1から第4までの態様の好ましい実施形態では、事前に定義された最適な時間遅延で、相関の単一のポイントのみが計算される。
【0027】
本発明の第1から第4までの態様のいくつかの実施形態は、信号対アーチファクト比が1より大きい際に、神経測定とフィルタテンプレートとの間の相互相関の第1または単一のポイントを生成すべきである最適な時間遅延を効率的に決定するための方法であって、
神経反応とフィルタテンプレートとの間の近似時間遅延で、神経測定のDFTの基本周波数の実数および虚数部分を演算するステップと、
実数および虚数部分によって定義された位相を計算するステップと、
基本周波数に対して、計算された位相をπ/2に変更するために必要とされる時間調整を計算するステップと、
近似時間遅延と時間調整との総和として最適な時間遅延を定義するステップと
を含む方法を提供することができる。
【0028】
本発明の第3および第4の態様の他の実施形態は、神経測定とフィルタテンプレートとの間の相互相関の第1または単一のポイントを生成すべきである最適な時間遅延を効率的に決定するための方法であって、
第1の時間オフセットにおいて、第5の測定値mを生成するために、第3のフィルタテンプレートに対して神経測定を相関させるステップであって、第3のフィルタテンプレートが、第1のフィルタテンプレートの周波数の2倍の第3の位相の交流波形を含む、ステップと、
第2の時間オフセットにおいて、第6の測定値mを生成するために、第3のフィルタテンプレートに対して神経測定を相関させるステップと、
およびmから、第1の時間オフセットと第2の時間オフセットとの間のアーチファクトの減衰を決定するステップと
を含む方法を提供することができる。
【0029】
次いで、最適な時間遅延を使用して、神経測定とフィルタテンプレートとの間の相互相関を生成すべきである単一のポイントを定義することができる。最適な時間遅延は、例えば、神経反応の検出の毎回の試みの前もしくは時折、例えば、1秒間隔で、または、ユーザの姿勢の変化の検出に応答して、規則的に計算することができる。
【0030】
基本周波数は、CAPの3つの位相の周波数および/またはフィルタテンプレートの4つの周期の周波数であり得る。
【0031】
フィルタテンプレートの長さは、好ましくは、フィルタテンプレートが、神経測定が評価されるサンプリングレートにおいて典型的な神経反応の持続時間の4/3である多くのフィルタポイントを含むように選択される。
【0032】
好ましい実施形態では、測定は、本出願人による国際公開第2012/155183号の教示に従って得られる。さらなる好ましい実施形態では、検出器出力は、例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、本出願人による国際公開第2012/155188号の教示と併せて、神経変調を制御するために閉ループフィードバック回路において使用される。
【0033】
従って、本発明は、フィルタテンプレートが、アーチファクトと実質的に直交し、誘発反応と一致する一致フィルタのものに近い反応とのドット積を有するならば、神経測定とフィルタテンプレートのドット積を計算することによって誘発反応の振幅を測定できることを認識している。フィルタテンプレートは、好ましくは、DCを拒絶し、一次信号(一定の傾きを有する信号)を拒絶し、アーチファクトなどの指数関数的にまたは同様に減衰する低周波信号を拒絶する。フィルタは、好ましくは、刺激のすぐ後に発生した信号に対して動作できるように構成される。
【0034】
4つの極値部分がアーチファクトの拒絶と雑音利得との間の最適なトレードオフを提供しているが、本発明の代替の実施形態は、より多くのまたはより少ない極値部分を含むフィルタテンプレートを有効に採用することができる。そのような実施形態では、フィルタテンプレートは、例えば、正弦曲線二項変換(SBT)から導き出される1つまたは複数の基底関数を含み得る。3つまたは5つの極値部分を有するフィルタテンプレートを含む実施形態では、DCおよびテイラー展開のランプ成分をより良く拒絶し、従って、アーチファクトをより良く拒絶するため、窓は、好ましくは、例えば、三角ピークというよりむしろ、SBTによって返されるような平らな中央部分を含む。本発明のいくつかの実施形態は、複数の同一のフィルタテンプレート要素であるが、時間がシフトされたものを使用することができる。これらが直交ではないとしても、複合テンプレートを作成する逐次近似法は、より良い近似を提供することができる。それに加えてまたはその代替として、いくつかの実施形態は、異なる周波数のテンプレート、異なるオフセットのテンプレートおよび/または異なる数の極値部分のテンプレートの総和であるテンプレートを使用することができる。
【0035】
ここでは、添付の図面を参照して、本発明の例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実装に適した移植可能デバイスを示す。
図2】漸増に応答して刺激制御をもたらすためのフィードバックコントローラの概略図である。
図3a】本発明の一実施形態による神経反応検出器を示す。
図3b図3aの実施形態の修正バージョンを示す。
図4図3の検出器で使用されるフィルタテンプレートの振幅プロファイルと、コサインフィルタテンプレートおよびバートレット窓とを示す。
図5a】誘発反応が移り変わるというフィルタテンプレートの能力を示す。
図5b】アーチファクトを阻止するというフィルタテンプレートの能力を示す。
図6】窓関数を掛け合わせたDFTの複素項を演算するためのハードウェアを示す。
図7】誘発反応検出器の臨床フィッティング手順の効果を示す。
図8】指数関数の時定数への指数関数のDFT項の位相の依存性を示す。
図9a-b】2つの指数関数としてモデル化される際にアーチファクトからのみ生じる、それぞれの時刻における、検出器出力ベクトル成分を示す。
図10a-b】2つの指数関数としてモデル化されたアーチファクトからおよび誘発反応から生じる、それぞれの時刻における、検出器出力ベクトル成分を示す。
図11a-b】CAPを測定するための4ポイント測定技法を示す。
図12】指数関数的な推定および減算を示す。
図13】誘発反応とサンプリング窓との間の相対位相が知られていない時のための6ポイント検出のためのシステムを示す。
図14】6ポイント検出のための代替の実施形態を示す。
図15a-b】3つ、4つおよび5つの極値部分を有するそれぞれのフィルタテンプレートの生成を示す。
図16a-b】図15の手法から導き出された、4つおよび3つの極値部分を有するフィルタテンプレートのポイント値をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、本発明の実装に適した移植可能デバイス100を示す。デバイス100は、移植制御ユニット110を備え、移植制御ユニット110は、神経刺激の印加を制御し、多数の電極の各々からの刺激によって誘発された神経反応の測定を得るための測定プロセスを制御する。制御ユニット110は、療法マップを定義するデータを含むルックアップテーブルを格納するための記憶メモリ(または他の記憶装置、図示せず)を含み、印加された刺激レジームと所望の神経反応との間の関係を提示する。デバイス100は、電極122の3×8のアレイから成る電極アレイ120をさらに備え、電極122の各々は、刺激電極もしくは検知電極またはその両方として選択的に使用することができる。
【0038】
図2は、漸増に基づいて、制御ユニット110によって実装されたフィードバックコントローラの概略図である。そのようなフィードバック制御の重要なコンポーネントは、漸増推定器210であり、漸増推定器210は、簡単な形態では、脊髄電位(SCP)増幅器による神経測定出力において神経反応が存在するかどうかを検出するという難しい操作、または、より複雑な形態では、そのような神経反応の振幅を決定するという難しい操作のタスクが課せられる。
【0039】
この実施形態における誘発CAP測定は、国際公開第2012/155183号で提示される神経反応測定技法の使用によって行われる。
【0040】
図3aは、本発明の一実施形態による神経反応検出器300を示す。SCP増幅器によって得られた神経測定のデジタル化されたサンプリング済みの形態は、入力302として取り入れられる。フィルタテンプレート304は、バートレット窓310で正弦波308を変調することによって306で作成される。代替の実施形態では、テンプレートは、この方法で事前に定義され、単に、制御ユニット110内のメモリまたは同様のものから回収されることになる。神経測定302の適切な窓とフィルタテンプレート304とのドット積は、312、314で計算され、単一値のスカラである検出器出力316が生成される。検出器300は、例えば、相関器が比較のために頂点間ECAP検出器とほぼ同じ結果を生成できるように、利得項「a」を加えることによって、図3bに示されるように修正することができる。
【0041】
図4は、図3の検出器300で使用されるフィルタテンプレート304の振幅プロファイルを示す。図4は、正弦波308を振幅変調するために使用されるバートレット窓310をさらに示す。以下の論考を支援するため、図4は、バートレット窓310によって振幅変調された余弦波を含む追加のフィルタテンプレート402も示す。図4のx軸上では、使用されるサンプリングレートにおいて、フィルタテンプレートは各々が大体2msの時間(この実施形態で予期される神経反応の持続時間の4/3である)をカバーするように、フィルタテンプレート304および402は各々が十分な数のポイントを含むことが述べられている。
【0042】
図5aは、アーチファクトの不在下での誘発反応502、4つの極値部分を有するフィルタテンプレート304およびそのスライディングドット積または相互相関504を示す。この場合もやはり、反応502が3つの極値部分を含むのに対して、フィルタテンプレート304が、4つの極値部分を含み、反応502の予期される長さの4/3であることが述べられている。スライディングドット積504で見られるように、誘発反応502は、フィルタテンプレート304によって検出器300の出力に実質的に移り変わる。対照的に、図5bは、純粋なアーチファクト506との4つの極値部分を有するフィルタテンプレート304の相関508を示し、アーチファクトがフィルタテンプレート304によって実質的に阻止されるかまたは激しく減衰し、従って、検出器300の出力に移り変わらないことを示す。この実施形態では、予期される神経反応が移り変わる際の4つの極値部分を有するフィルタテンプレート304の性能は、一致フィルタのものの2dB内にあるが、アーチファクト拒絶はかなり改善されている。
【0043】
例えば、10kHzでサンプリングする際、2msの窓で20のサンプルが得られ、その結果、完全な相互相関を決定するには400回の乗算/加算演算が必要とされることが述べられている。それに従って、単一のポイントは、10kHzで2msの窓をサンプリングする際は20のサンプルのみを必要とするため、測定された神経反応とフィルタテンプレートとの間の完全な相互相関を計算するよりむしろ、本実施形態は、さらに、検出器300の出力316のような相関の単一のポイントのみの計算に備える。神経反応の到達時刻または神経測定302内のその位置は先験的には知られていないことに留意した上で、相関の単一のポイントを計算すべき、神経測定とテンプレートフィルタとの間の最適な時間遅延またはオフセットを決定することが必要である。目的は、曲線504のピークでの単一のポイントを計算し、他を計算しないことである。この目的のために、本実施形態は、以下に留意することによって、最適な時間遅延を効率的に決定する。
【0044】
DFTは、
【0045】
【数1】
【0046】
によって定義される。
【0047】
方程式(1)およびこの文書の残りの部分では、周波数領域信号は大文字で表され、時間領域信号は小文字を使用する。スペクトル分析のためにDFTを使用する際は、データに窓W(n)を掛けることが普通であり、従って、これは、以下のようになる。
【0048】
【数2】
【0049】
これは、従来の大きさおよび位相項で表現することができ、窓関数を掛け合わせたDFT項の大きさは、
【0050】
【数3】
【0051】
であり、窓関数を掛け合わせたDFT項の位相は、
【0052】
【数4】
【0053】
である。
【0054】
【数5】
【0055】
の1つの項を演算するために使用されるハードウェア600は、図6に示される。特に、図4に示されるサインテンプレート304およびコサインテンプレート402が回路600で使用される。この構成を前の方程式と比較すると、第3の項は、
【0056】
【数6】
【0057】
であり、フィルタテンプレート304(図3)を使用する検出器300は、窓関数を掛け合わせたDFTの第3の項の虚数部分を演算することが述べられている。従って、検出器300の出力への言及は、窓関数を掛け合わせたDFTの第3の項の虚数部分であるものと理解すべきであり、これは、本発明の以下のさらなる改良点を理解する上で重要である。
【0058】
また、これは、図7に示されるように、臨床フィッティング手順の間に時間遅延が調整されると起こることへの洞察も提供する。図7bは、三角窓および単一の極値部分を有する反応を示すが、これは、表現を分かり易くするためのものであり、4つの極値部分を有するフィルタテンプレート304および3つの極値部分を有する反応502をそれぞれ表すことを意図する。時間領域においてオフセットまたは遅延をスライドすること(図7b)によって異なる時間遅延調整を探究することにより、測定の座標系が回転する(図7a)。誘発反応位相が図7aの虚数軸と位置合わせされると、検出器300の出力は、その最大値にある。また、これは、この位相にある際(すなわち、相関器出力が最大値であり、スペクトル成分の実数部分が0である際)、問題の演算上効率的な解も提示し、従って、図3で描写されるようなその計算を回避し、プロセッササイクルを節約することができる。検出器300の出力は、虚数軸への(複素)誘発反応の投射である。
【0059】
完全な相互相関を、窓を横切る誘発反応スライド(図7b)と見なす際は、図7aの誘発反応ベクトルは、原点の周りを少なくとも2回完全に360度回転し、従って、比較的急速に変化する。しかし、図7bの下部で示されるように、誘発反応および窓の畳み込みの振幅は、比較的ゆっくり変化する。それに従って、本実施形態は、誘発反応を虚数軸と位置合わせし、従って、相関器出力におけるピークを見出すための迅速な技法が、以下を行うことであることを認識している。
1.窓と信号S(t)を大まかに位置合わせする。
2.虚数(サイン)および実数(コサイン)項を計算する。
a.I=S(t).W(t).sin(1KHz.2π.t)および
b.Q=S(t).W(t).cos(1KHz.2π.t)
3.atan(Q/I)を使用してy軸に対する角度を見出す。
4.テンプレートが固定された既知の周波数を有するため、サイン項をその最大値に設定するために必要な時間シフトを計算する。
5.新しい遅延に対する虚数(サイン)および実数(コサイン)項を計算する。コサイン項は、サイン項よりはるかに小さいはずであり、方法がうまくいったことが確認される。
【0060】
そのような実施形態は、特に、ピークを見出すために変動遅延の探検を必要とする臨床プロセスと比較して有利であり得る。
【0061】
本実施形態は、本発明の第3および第4の態様をさらに組み込み、アーチファクト506を異なる時定数の2つの指数関数の総和としてうまくモデル化できることを認識している。各指数成分は、電圧および時間値を有し、
【0062】
【数7】
【0063】
をもたらし、式中、υおよびτは、各成分に対して定数である。
【0064】
以下の式
【0065】
【数8】
【0066】
が成り立つ場合は、その窓関数を掛け合わせたDFT E’を考慮することができ、それに対し、各項は、大きさおよび位相を有し、項E’は、図6の複素相関器600で計算することができる。
【0067】
何らかの信号
【0068】
【数9】
【0069】
を取り、相関が何らかの任意の時刻Tによって実行される信号のポイントをシフトした場合、
【0070】
【数10】
【0071】
が成り立つ(式中、cは、何らかの定数である)ため。
【0072】
従って、単一の指数関数のDFT項の位相は、フィルタテンプレート304に対して図8に示されるように、指数関数の時定数に依存する。しかし、本実施形態は、各DFT項の位相が時間遅延によって変化しないことを認識している。
【0073】
図9は、2つの指数関数としてモデル化される際にアーチファクトからのみ生じるフィルタ出力ベクトル成分を示す。第1の時刻では、図9aに示されるように、AおよびBは、2つのアーチファクト位相ベクトルである。これらは、全アーチファクト902を生成するために、ベクトル加法を使用して加えることができる。従って、検出器300は、このベクトルの虚数部分である出力904(すなわち、y軸への902の投射)を生成する。時間が経過するにつれて、2つのベクトルの長さは、時定数が異なるため異なるレートで、B2は急速に減衰し、A2はゆっくり減衰しながら、指数関数的に減少する。しかし、方程式(8)に従って、位相は変わらないままであり、図9bに示される状況をもたらす。ここでは、全アーチファクトベクトルは912であり、それは、各指数成分からの異なる相対寄与が902に対してわずかに変化した位相のものであることに起因する。従って、検出器300は、出力914を生成する。
【0074】
図10aおよび10bは、2つの指数関数としてモデル化されたアーチファクトからおよび誘発反応から生じる、それぞれの時刻における、検出器出力ベクトル成分を示す。図10aに示される第1の時刻tでは、VおよびVは、2つのアーチファクト位相ベクトルであり、CAPは、誘発反応ベクトルである。これらは、全アーチファクト1002を生成するために、ベクトル加法を使用して加えることができる。従って、検出器300は、このベクトルの虚数部分である出力1004(すなわち、y軸への1002の投射)を生成する。後の時刻t+dtでは、2つのアーチファクトベクトルの長さは、時定数が異なるため異なるレートで、Vは急速に減衰し、Vはゆっくり減衰しながら、指数関数的に減少した。しかし、図10bに示されるように、方程式(8)に従って、位相は変わらないままである。対照的に、誘発反応ベクトルCAPの振幅は、図7bに関連して論じられるように、比較的ゆっくり変化するが、図7aに関連して論じられるように、位相の変化を受ける。従って、図10bに示されるように、CAPベクトルは、著しい振幅変化を受けることなく回転する。従って、ある瞬間(図10a)には、CAPベクトルは、Vに直交し得、後の時刻(図10b)には、Vと一直線になり得る。
【0075】
2つの指数項としてアーチファクトをモデル化する際は、実際のアーチファクトの測定から、第1の(低速)指数項の時定数τが、一般的には300μs〜30msの範囲、より一般的には500μs〜3ms、そして、最も一般的には約1msであり、第2の(高速)指数項の時定数τが、一般的には60〜500μsの範囲、より一般的には100〜300μs、そして、最も一般的には約150μsであることが決定されている。
【0076】
本発明の第3および第4の態様を利用するこの実施形態の方法は、図11aに示されるように、1周期の1/4にだけ分離された時点で誘発反応の2つの複素測定を行うことに依存する。測定のタイミングは、図7に関連して上記で説明される方法で最適化され、その結果、第1の測定値(m1およびm2)は、純粋な虚数の誘発反応寄与を有し(すなわち、誘発反応はサイン相関器304と位置合わせされる)、第2の測定値(m3およびm4)は、純粋な実数である(すなわち、コサイン402と位置合わせされる)。これは、4つの測定値m1〜m4をもたらす。4つの未知数(アーチファクトの大きさ、誘発反応の大きさ、アーチファクトの位相および高速指数の時定数)がある。アーチファクトの低速指数成分は、フィルタテンプレート304によってうまく拒絶され、従って、省略することができる。サインおよびコサイン相関器へのアーチファクト寄与は、定率を有することが知られている。簡単な代数を使用することで、未知数を除外することができる。従って、神経測定において存在するいかなるCAPも以下の通り計算することができ、
【0077】
【数11】
【0078】
式中、
【0079】
【数12】
【0080】
である。
【0081】
図11bは、実数および虚数検出器出力上のこれらの4つの測定値m1〜m4の場所を示す。
【0082】
kを知っていることで、τおよび高速アーチファクト指数の評価も可能になる。
【0083】
【数13】
【0084】
アーチファクトに対する高速指数項の電圧を見出すため、1.0に正規化される、その時定数の指数入力に対して検出器から予期されるものである指数関数のDFTをさらに計算することができる。
【0085】
【数14】
【0086】
次いで、高速アーチファクト項の推定は、以下の通りである。
【0087】
【数15】
【0088】
上記を計算すると、図12に示されるように、推定指数を減ずることによって信号のSARを改善することが可能である。
【0089】
測定データでこのアルゴリズムを実装することにおける困難は、一度に2つの信号(すなわち、誘発反応および高速指数)を測定することであり、各々は、他方の雑音源を形成する。一般的には、誘発反応の位相は正確には知られておらず、これは、図11bに誤差をもたらす。誘発反応が指数より大きく、誘発反応の位相が知られていない際は、指数推定アルゴリズムは、解を常に見出すとは限らず、従って、本実施形態は、これらの状況のための第2の推定方法をさらに提供する。このさらなる推定方法は、入力として使用される代わりに誘発反応の位相を計算できるようにするために、追加の相関を加えることによって上記のアルゴリズムを拡張できることを認識している。
【0090】
サンプリング窓への誘発反応の相対位相(θ)が知られていない際は、図11の提案は、5つの未知数および4つの測定値を有し、従って、未知数を見出すことはできない。図13に示されるように、あと2つのDFTポイントを加えることにより、これを克服することができる。これらの追加のポイント(m5およびm6)は、誘発反応が直交する、誘発反応の基本波の半分に等しい周波数で評価される。従って、これらの2つの追加のポイントにより、kの評価が可能になる。
【0091】
【数16】
【0092】
そして、5つの項a、b、k、θおよびcを次々と見出すことができる。測定窓と誘発反応との間の何らかの位相θに対し、
m1=a+c sinθ
m2=b+c cosθ
m3=ak+c conθ
m4=bk+c sinθ (15)
であり、従って、
【0093】
【数17】
【0094】
である。
【0095】
位相はゆっくり変化し、従って、θを知っている時点で、サンプリング窓の減衰を調整し、次いで、図11の4ポイントアルゴリズムに戻ることが可能である。
【0096】
図13の6ポイント技法の実装を考慮する際は、いくつかの実施形態では、特に、最小数の乗算演算を使用するためにFFTが因数分解されている場合は、FFTの方がDFTより速くこれを演算することが述べられている。DFT長の良い選択は16であり得、
【0097】
【数18】
【0098】
として因数分解される。この因数分解に対し、F演算間の回転因子は自明なものであり、従って、必要な唯一の複素乗算は中央のものである。
【0099】
図14は、6つの測定ポイントを利用する代替の実施形態を示す。
【0100】
誘発反応が終了した後に計算を実行することにより、低速指数を測定できることがさらに述べられている。
【0101】
脊椎の誘発反応(3つの位相を有する)は、およそ1ms要する。30KHzのサンプルレートまたは33μsの単間隔を採用する実施形態では、誘発反応は、30サンプル近く要する。結果的に、そのような実施形態では、4つの位相を有するフィルタテンプレートは、およそ40のタップ値またはデータポイントを含む。代替の実施形態では、代替のサンプリングレートを使用するかまたはより速いもしくはより遅いCAPを測定すると、フィルタ長は、相応に、より多くのまたはより少ないフィルタタップを含み得る。
【0102】
先行の実施形態は、4つの半周期を含むフィルタテンプレートに関連して説明してきたが、それにもかかわらず、本発明の代替の実施形態は、より多くのまたはより少ない極値部分を含むフィルタテンプレートを有効に採用することができる。従って、本発明は、極値部分の場合は理想的な数が4つであることを認識している。これは、2つの極値部分を有するフィルタ(等しい第1および第2の極値部分を有し、従って、信号対アーチファクト比がより悪い信号の早期部分の方により重点を置く)とは対照的である。さらに、奇数の極値部分を有するフィルタは、良いアーチファクト拒絶特性を有さない傾向がある。その上、仮に6つの極値部分を有するフィルタまたはより高い偶数の極値部分を有するフィルタを使用するならば、3つの極値部分を有する神経反応と比較して窓は広くなり過ぎ、相関時間の少なくとも半分は単に雑音を眺めているだけとなる。問題が多いアーチファクトのほとんどは最初の2つの極値部分にあるため、6つの極値部分を有するフィルタは、4つの極値部分を有するフィルタより悪いアーチファクト拒絶を提供する傾向がある。従って、4つの極値部分は、アーチファクト拒絶と雑音利得との間の最適なトレードオフを提供する。
【0103】
それにもかかわらず、本発明の代替の実施形態は、より多くのまたはより少ない極値部分を含むフィルタテンプレートを有効に採用することができる。ここでは、本発明の他の実施形態のテンプレートの数学的な特性について説明する。「テンプレート」という用語は、ECAPを検出するために相関を介して使用されるフィルタを指すために使用される。テンプレートは、1つまたは複数のウェーブレットまたは基底関数を含み得るか、あるいは、他の何らかの方法によって導き出すことができ、ECAPを優先的に通過させるように構成されるが、アーチファクトを優先的に阻止するかまたはアーチファクトと直交するように構成される。図15aは、本発明のさらなる実施形態による正弦曲線二項式ベクトルを示す。図15bは、3つの極値部分、4つの極値部分および5つの極値部分を有するテンプレートの生成を示す。SBTの顕著な特性は、同じ長さのその基底関数が直交することである。図15の最大5つの極値部分を有するテンプレートを生成するために使用される方法は、より多くの数の極値部分に拡大できることを理解されたい。3つまたは5つの極値部分を有するフィルタテンプレートの場合、窓は三角ではないが、両方の場合において平らな中央部分を有し、5つの極値部分の場合は、窓は上下する区分直線を有することがさらに述べられている。従って、本実施形態によって提案された3つの極値部分を有するフィルタテンプレート窓は、三角ではないが、上部が平らな窓であり、3つの極値部分を有するフィルタテンプレートの三角窓と比較してアーチファクト拒絶を著しく改善することが分かっている。
【0104】
すなわち、正弦曲線二項式変換(SBT)の重要な特性は、多項式信号を拒絶するその能力である。n次のSBTテンプレートが使用される場合は、それは、最大n次までのテイラー級数のすべての項を拒絶する。
【0105】
図16aは、図15の教示に従って生成された、4つの極値部分を有する32ポイントのフィルタテンプレートのポイント値を示す。図16bは、図15の教示に従って生成された、3つの極値部分を有する33ポイントの、特に、上部が平らな窓を有するフィルタテンプレートのポイント値を示す。
【0106】
さらに、4つの半周期のコサインテンプレート402に対する図4の例に留意して、3つ、5つまたはそれ以上の極値部分を有するコサインテンプレートを同様に生成できることを理解されたい。
【0107】
先行の実施形態は、三角窓を使用したフィルタテンプレートの造りについてさらに説明する。三角窓は、バートレット、ハニング、矩形、および、各種のベータ値のカイザーベッセルより優れている。4つの極値部分を有する三角テンプレートの性能は、最適化されたオフセットに対して一致フィルタの2dB内にあり得る。それにもかかわらず、代替の実施形態は、有益な効果のために三角窓以外の窓を利用することができ、従って、そのような実施形態は本発明の範囲内にある。
【0108】
その上、説明される実施形態は、反応検出のためにSBTの単一の項を使用するが、本発明は、この方法に可能な拡張があることをさらに認識している。従って、本発明のいくつかの実施形態は、複数の同一のテンプレートであるが、時間がシフトされたものを使用することができる。これらが直交ではないとしても、複合テンプレートを作成する逐次近似法は、より良い近似を提供することができる。それに加えてまたはその代替として、いくつかの実施形態は、異なる周波数のテンプレート、異なるオフセットのテンプレートおよび/または異なる数の極値部分のテンプレートの総和であるテンプレートを使用することができる。
【0109】
本発明のいくつかの実施形態の利益は、いくつかの実施形態では、検出器が、検出器出力を生成するために複数の神経測定を必要とすることなく、単一の神経測定に基づいて出力を生成することである。従って、そのような実施形態は、検出器出力を利用するフィードバック制御ループの迅速な応答時間を提供することができる。
【0110】
当業者であれば、広範囲にわたって説明される本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されるように、本発明に対する多くの変形形態および/または変更形態を作成できることが理解されよう。従って、本実施形態は、あらゆる点において、制限的なものではなく、例示的なものと見なすべきである。
【符号の説明】
【0111】
100 移植可能デバイス
110 移植制御ユニット
120 電極アレイ
122 電極
210 漸増推定器
300 神経反応検出器
302 入力
304 フィルタテンプレート
308 正弦波
310 バートレット窓
316 検出器出力
402 フィルタテンプレート
502 誘発反応
504 相互相関
506 アーチファクト
600 ハードウェア
902 全アーチファクト
904 出力
912 全アーチファクトベクトル
914 出力
1002 全アーチファクト
1004 出力
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5a
図5b
図6
図7
図8
図9a-b】
図10a-b】
図11a-b】
図12
図13
図14
図15a-b】
図16a-b】