【実施例】
【0023】
図1は、上腕動脈用血管内皮機能測定装置10を示している。上腕動脈用血管内皮機能測定装置10は、水平な上面を有する長手状の基台12と、基台12の一端部に固定され、超音波プローブ14を収容する密閉容器16と、密閉容器16に設けられた上腕圧迫装置18と、基台12の他端部に固定された表示装置20と、基台12の下に配置された電子制御装置22とを備えている。
【0024】
超音波プローブ14は、生体の右上腕29内の上腕動脈29aに関連する生体情報すなわち血管パラメータを検出するためのセンサとして機能するものであって、
図2に示すように、互いに平行な1対の第1短軸用超音波アレイ探触子A及び第2短軸用超音波アレイ探触子Bと、それらの長手方向と直交する方向に長手状を成し、それらの長手方向中央部を連結する長軸用超音波アレイ探触子Cとを、1平面上すなわち平坦な探触面46に有するH型の超音波プローブである。
図4に示されるように、超音波プローブ14は、ベース部材46に固定された多軸位置決め装置48に固定されている。第1短軸用超音波アレイ探触子A、第2短軸用超音波アレイ探触子B、及び長軸用音波アレイ探触子Cは、例えば後述する
図2に示すように、圧電セラミックスから構成された多数個の超音波振動子(超音波発振子)a1〜anが直線的に配列されることにより長手状にそれぞれ構成されている。
【0025】
図2は、超音波プローブ14に互いに平行に設けられた第1短軸用超音波アレイ探触子Aおよび第2短軸用超音波アレイ探触子Bと、それら第1短軸用超音波アレイ探触子Aおよび第2短軸用超音波アレイ探触子Bの長手方向の中央部間にそれらと直交して位置するように設けられた長軸用超音波アレイ探触子Cとを示す斜視図である。多軸位置決め装置48は、第1短軸用超音波アレイ探触子Aの長手方向と平行でその第1短軸用超音波アレイ探触子Aの超音波ビーム放射方向に位置し、上腕動脈29a又はその付近を通る方向をy軸とし、長軸用超音波アレイ探触子Cの長手方向と平行でy軸と直交する方向をx軸とし、第1短軸用超音波アレイ探触子Aの長手方向と長軸用超音波アレイ探触子Cの長手方向との交点を通り且つx軸方向およびy軸と直交する方向をz軸とするとき、超音波プローブ14は、多軸位置決め装置48によって、y軸方向に並進可能、且つ、y軸およびz軸まわりに回動可能とされている。
【0026】
図3は、上腕動脈用血管内皮機能測定装置10の測定対象である上腕動脈29aの多層膜構成を概略的に示す拡大図である。この
図3に示す上腕動脈29aは、内膜(内皮)L1、中膜L2、及び外膜L3の3層構造を備えている。超音波の反射は、一般に音響インピーダンスの異なる部分で発生することから、超音波を用いた上腕動脈29aの状態測定において、実際は血管内腔の血液と内膜L1の境界面、及び中膜L2と外膜L3との境界面が白く表示され、組織が白黒の班で表示される。
【0027】
図4に詳しく示されるように、容器16は、側方に開口する開口24と互いに平行で平坦且つ基台12に対して垂直な一対の側壁16aおよび16bとを有し、音響インピーダンスが生体と類似していて超音波透過効率の高い材質たとえば酢酸ビニル系等の樹脂等の有機材料から構成されて超音波透過可能な超音波透過板材26により開口24が液密に閉じられている。これにより、音響インピーダンスが生体と類似していて伝搬損失の少ない超音波媒質たとえばオイル28が容器16の内部に充填されている。また、超音波透過板材26は基台12に対して垂直となるように容器16に固定されており、超音波透過板材26と一対の側壁16aおよび16bとは相互に直角を成している。
【0028】
図5から
図8にも詳しく示されるように、上腕圧迫装置18は、基台12の長手方向の中央部であって幅方向の一端に固定され、右上腕29が載置された状態でその上腕29を支持する上腕載置台30、および基台12の長手方向の中央部であって幅方向の他端に固定され、右腕の肘31が載置された状態でその肘31を支持する肘受け台32と、基台12の肘受け台32の直下の位置において基台12の上面に対して垂直且つ肘受け台32を通過する回動軸線C1まわりに回動可能に設けられた基端部と右手33の掌が載置されてそれを支持する手掌載置台34が設けられた先端部と有し、基台12上から水平方向に突設されて前腕35と共に回動する回動ブラケット36と、可撓性ベルト38から構成され、容器16の開口24の上側開口縁および下側開口縁にそれぞれ取り付けられた可撓性ベルト38と、開口24の上側開口縁および下側開口縁の間に位置する超音波透過板材26とから成る環状の圧迫帯40と、圧迫帯40の内側に装着され、膨張することにより圧迫帯40の張力を高める膨張袋42とを、備えている。超音波透過板材26は、実質的に圧迫帯40の一部を構成している。上腕圧迫装置18では、生体の右上腕29が圧迫帯40により巻回された状態で膨張袋42が圧縮空気の供給によって膨張させられると、圧迫帯40の張力が高められると同時に、生体の右上腕29が超音波透過板材26に押しつけられ、生体の右上腕29が超音波透過板材26によって圧迫されるようになっている。
【0029】
上腕動脈用血管内皮機能測定装置10における上腕動脈29aの内皮機能の測定に先立って、上腕29が圧迫帯40により密閉容器16に固定される。この上腕29の固定に際しては、密閉容器16の開口24を閉じるように装着された超音波透過板材26とそれに直角な密閉容器16の一対の側壁16aおよび16bのうちの前腕35側の側壁16aとを利用した以下の再現性の高い位置決め手順によって密閉容器16に設けられた圧迫帯40により固定される。まず、回動ブラケット36が基台12の長手方向に対して直角な方向に位置させられた状態で、伸ばした右腕の上腕29、肘31、および手33の掌が上腕載置台30、肘受け台32、および手掌載置台34の上にそれぞれ載置される。
図5はこの状態を示している。このときの上腕29には、圧迫帯40が巻回されていないか、或いは圧迫帯40が緩く巻回されていて、上腕29が長手方向に移動可能とされている。
【0030】
次に、
図6に示されるように、前腕35が密閉容器16の前腕35側の側壁16aに当接するまで、前腕35を肘31まわりに回動させるとともに、その前腕35を支持する回動ブラケット36も回動軸線C1まわりに回動させられる。好適には、前腕35が密閉容器16の前腕35側の側壁16aに当接するまで回動させられる。これにより、肘31の位置が密閉容器16に対して定まる結果、超音波透過板材26に沿って位置する上腕29の長手方向の位置が密閉容器16或いはその中の超音波プローブ14に対して再現性よく定められる。この状態で、上腕29に巻回された圧迫帯40がある程度締めつけられることで、上腕29が拘束される。
図6はこの状態を示している。そして、上腕動脈用血管内皮機能測定装置10による上腕動脈29aの内皮機能の測定に際しては、
図7および
図8に示すように、前腕35が上腕29に対して直線状となるまで回動ブラケット36とともに回動させられ、腕が伸ばされる。
【0031】
ところで、生体の腕において、手33および上腕29を固定しても肘31は腕の長手方向軸まわりにある程度の角度で可能であるため、手掌載置台34上に手33を載置し、肘受け台32の上に肘31を載置し、上腕載置台30の上に上腕29を載置した姿勢では、肘31の腕の長手方向軸まわりの姿勢がばらつく。このため、超音波プローブ14と上腕動脈29aとの間には、音響インピーダンスが不均一な脂肪を含む皮下組織が介在するので、超音波断面画像がノイズの多い不鮮明な画像となる場合があった。これに対して、上記のような位置決め手順によって上腕29が圧迫帯40に締めつけられることにより上腕29が固定される場合には、前腕35が上腕29に対して曲げられることで肘31の内側が密閉容器16に向いた姿勢で上腕29が固定されるので、上腕二頭筋が上腕動脈29aと超音波透過板材26との間に位置させられる。このため、上記のような位置決め手順によって前腕35が上腕29に対して曲げられると、肘31の内側が密閉容器16に向いた姿勢で上腕29が固定されるので、超音波プローブ14は音響インピーダンスが均一な上腕二頭筋を通して上腕動脈29aに対して超音波を授受できるので、上腕動脈29aの鮮明な超音波断面画像が得られる。
【0032】
図4の電子制御装置22は、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って入力信号を処理するCPUを有する所謂マイクロコンピュータである。電子制御装置22は、超音波駆動制御回路50および位置決めモータ駆動回路52を、備えている。血管評価装置10による血管状態の測定においては、電子制御装置22によって超音波駆動制御回路50から駆動信号が供給されると、超音波プローブ14の第1短軸用超音波アレイ探触子A、第2短軸用超音波アレイ探触子B、及び長軸用超音波アレイ探触子Cからよく知られたビームフォーミング駆動によりビーム状の超音波が順次放射される。そして、第1短軸用超音波アレイ探触子A、第2短軸用超音波アレイ探触子B、及び長軸用超音波アレイ探触子Cにより超音波の反射信号が検知され、電子制御装置22へ入力させる。電子制御装置22へ入力された反射波信号は、検波処理部82により検波され、超音波信号処理部84により画像合成可能な情報として処理される。これにより、皮膚下の超音波二次元断面画像が発生させられ、モニタ画面表示装置或いは画像表示装置として機能する表示装置20に表示される。
【0033】
多軸位置決め装置48は、y軸回動モータにより超音波プローブ14の
図2のy軸まわりの回動位置を位置決めするy軸回動機構と、y軸並進モータにより超音波プローブ14の
図2のy軸方向に位置決めするy軸並進機構と、z軸回動モータにより超音波プローブ14の
図2のz軸まわりの回動位置を位置決めするz軸回動機構とを備えている。位置決めモータ駆動回路52は、y軸回動モータ、y軸並進モータ、およびz軸回動モータを、電子制御装置22からの指令にしたがって制御する。
【0034】
図4に示すように、電子制御装置22は、位置決めモータ駆動制御部78、超音波駆動制御部80、検波処理部82、超音波信号処理部84、圧迫圧制御部88、血管状態評価部90、及び表示制御部92を備えている。これらの制御機能は、電子制御装置22に機能的に備えられたものであるが、それらの制御機能のうち一部乃至全部が電子制御装置22とは別体の制御部として構成され、相互に情報の通信を行うことにより以下に詳述する制御を行うものであってもよい。
【0035】
電子制御装置22は、超音波プローブ14から上腕動脈29aに対して出力される超音波の反射信号に基づいて、上腕動脈29aの超音波断面画像から血管断面画像を抽出し、その血管断面画像からその長手方向に直交する断面を示す超音波短軸画像を生成し、その超音波短軸画像から内径、内膜厚、プラーク等を測定し、さらにはFMD(Flow−Mediated Dilation:血流依存性血管拡張反応)の評価を行う。このFMDの評価に際して、表示装置20は、上腕動脈29aにおける内膜の径のずり応力付与前の径に対する変化率すなわち内腔径の拡張率Rを時系列的に表示する。FMDの評価及び上腕動脈29aの超音波画像の生成等に際しては、超音波プローブ14は、測定対象である上腕動脈29a上の皮膚に対して繰り返し走査される。
【0036】
電子制御装置22による上腕動脈29aの血管状態の測定においては、超音波プローブ14は、前記生体における上腕29の皮膚下に位置する上腕動脈29aに対して超音波透過板材26を通して超音波信号を放射し、その反射波を受信する。この状態で、位置決めモータ駆動制御部78は、第1短軸用超音波アレイ探触子Aにより受信された超音波反射信号から超音波信号処理部84により生成された上腕動脈29aの第1短軸断面画像の位置、第2短軸用超音波アレイ探触子Bにより受信された超音波反射信号から超音波信号処理部84により生成された上腕動脈29aの第2短軸断面画像の位置、長軸用超音波アレイ探触子Cにより受信された超音波反射信号から超音波信号処理部84により生成された上腕動脈29aの長軸断面画像の位置に基づいて、上腕動脈29aが第1短軸用超音波アレイ探触子Aおよび第2短軸用超音波アレイ探触子Bの長手方向の中央部下に位置し、且つ長軸用超音波アレイ探触子Cと上腕動脈29aとが平行となるように、超音波プローブ14を自動的に位置決めする。
【0037】
超音波信号処理部84は、上腕動脈29aと他の組織との伝播速度差によりそれらの境界から反射される超音波反射信号間の時間差処理等を行って、第1短軸用超音波アレイ探触子A直下の超音波二次元画像である第1短軸断面画像、第2短軸用超音波アレイ探触子B直下の超音波二次元画像である第2短軸断面画像、及び長軸用超音波アレイ探触子C直下の超音波二次元画像である長軸断面画像から成る画像データを所定の周期で繰り返し生成するとともに、その画像データを順次記憶する。
【0038】
膨張することにより圧迫帯40の張力を高める膨張袋42は、
図1に示すように、電子制御装置22に備えられた圧迫圧制御部88により空気ポンプ58及び圧力制御弁60等が制御されることにより実行される。例えば、電子制御装置22からの指令に従って、空気ポンプ58からの元圧が圧力制御弁60で制御され、上腕29に巻回された圧迫帯40の膨張袋42に供給される。具体的には、膨張袋42内の圧迫圧力(圧迫圧)が昇圧させられることで、上腕29内の上腕動脈29aが圧迫される。本実施例では、圧迫帯40の一部が超音波透過板材26により構成されており、超音波プローブ14によりその超音波透過板材26を通して上記上腕29内の上腕動脈29aの圧迫部位に対して超音波信号の授受が行われるので、上腕動脈29aの被圧迫部位の断面画像が得られるようになっている。
【0039】
血管状態評価部90は、
図9に示すように、血管形状算出部100、血管拡張率測定制御部102、血管硬さ測定制御部104を、備えている。血管形状算出部100は、上記のようにして生成される上腕動脈29aの断面画像から、その上腕動脈29aの外径、壁圧、或いは内皮L1の直径である内皮径(内腔径)d1等を算出する。
【0040】
血管形状算出部100は、圧迫圧制御部88により静脈圧よりも高く且つ最低血圧値Pdよりも低い圧で上腕29を圧迫させたとき、超音波断面画像中に存在する複数個の管状臓器を示す画像のうちで潰れない管状臓器を、上腕動脈29aとして判定し、超音波断面画像中で特定する処理を行う。これにより特定された上腕動脈29aについて、後述のように、上腕動脈29aの径、上腕動脈29aの内皮L1の直径である内皮径(内腔径)d1、虚血反応性充血後のFMD(血流依存性血管拡張反応)を表す上腕動脈29aの血管内腔径の拡張率(変化率)R(%)、生体の最高血圧値Psおよび最低血圧値Pd、上腕動脈29aの硬さを表すスティフネスパラメータβ等の測定が行われる。このような動脈特定画像処理は、穿刺に際しても有用である。
【0041】
血管拡張率測定制御部102は、上腕29に巻回された圧迫帯40により上腕動脈29aの内皮L1に対して血流を利用したずり応力を付与した後に、血流依存性血管拡張反応により一時的に拡大する内皮径(内腔径)d1等を逐次算出し、ずり応力付与後のFMD(血流依存性血管拡張反応)を表す血管内腔径の拡張率(変化率)R(%)[=100×(d
MAX−da)/da]を算出する。この式における「da」は、安静時の血管内腔径(ベース径、安静径)を示している。血管状態評価部90は、ずり応力付与後のFMD(血流依存性血管拡張反応)を表す血管内腔径の拡張率(変化率)Rの測定部としても機能している。
【0042】
血管拡張率測定制御部102による上腕動脈29aの拡張率(変化率)R(%)の測定では、生体における測定部位例えば上腕29が上腕圧迫装置18の圧迫帯40によりにより圧迫されて上腕動脈29aの内皮L1に対して血流を利用したずり応力を付与されることで、血管壁の内皮L1へのずり応力増加に伴う内皮からの一酸化窒素(NO)の産生が起こり、その一酸化窒素に依存する平滑筋の弛緩状況が内皮径(内腔径)d1を調べることで上腕動脈29aの内皮機能の判定が行われる。
【0043】
図10は、血管拡張率測定制御部102による上腕動脈29aのFMD評価における、阻血(駆血)開放後の血管内腔径d1の変化を例示したタイムチャートである。この
図10においては、時点t0までが安静期間、時点t0から時点t1までがずり応力付与期間、時点t1以降がずり応力付与後の血流依存性血管拡張反応の測定期間を表しており、時点t2から血管内腔径d1が拡張し始め、時点t3で血管内腔径d1がその最大値d
MAXに達していることが示されている。従って、電子制御装置22が算出する血管内腔径d1の拡張率Rは、時点t3で最大になる。
【0044】
ここで、上記のような上腕動脈29aのFMD評価に際して血管拡張反応を発生させるために、従来では、上腕動脈29aの超音波断面画像を計測する部位よりも上流側位置または下流側位置をカフ等を用いて最高血圧値よりもたとえば50mmHg程度高い圧力で所定時間たとえば5分間圧迫(阻血)した後にたとえば0.6秒程度で大気圧まで急解放することでそれまで零であった血流が開始されることにより上腕動脈29aにずり応力の付与が行われていた。このような従来の方法では、被測定者に最高血圧値よりもかなり高い圧力での5分間の圧迫による苦痛を強いることとなっていた。しかし、本実施例の血管拡張率測定制御部102は、上腕動脈29aの超音波断面画像において、1脈波周期の一部たとえば最低血圧Pdのタイミング付近で上腕動脈29aの潰れた状態たとえば上腕動脈29aの断面が閉じられた閉塞状態(たとえば平坦に圧迫されて閉じられた圧平状態)或いは上腕動脈29aの断面が閉じられないまでも断面が局所的に狭窄された状態が超音波断面画像から観察或いは判定されるように膨張袋42による上腕動脈29aへの所定の圧迫圧力を所定時間T1の間或いは所定脈拍数の間維持するように調圧することで、脈拍毎の上腕動脈29aの開閉でずり応力の付与を繰り返すので、ずり応力の付与を従来よりも低い圧力で且つ短期間で行うようになっている。
【0045】
上記の所定の圧迫圧力は、脈拍毎の上腕動脈29aの開閉に伴う血液の乱流の繰り返しの発生によって効率的にずり応力を内皮L1に付与するずり応力付与圧と称されるべきものであり、1脈波周期の一部たとえば最低血圧Pdのタイミング付近で上腕動脈29aの潰れた状態となるように、最高血圧値よりも低く且つ最低血圧値よりも高い圧力範囲P1内に設定される。また、上記所定時間T1或いは上記所定脈拍数は、上腕動脈29aのFMD評価に際して血管拡張反応を発生させるために必要且つ十分な値に、たとえば実験的値に基づいて設定される。上記所定時間T1或いは上記所定脈拍数は、たとえば数拍乃至数十拍、好適には10拍乃至十数拍、或いは数秒乃至数十秒、好適には10秒乃至十数秒に設定される。要するに、上腕動脈29aのFMD評価に際して血管拡張反応を発生させるためには、生体圧迫装置18による圧迫は、所定の所定時間T1で、1脈波周期内の一部で上腕動脈29aが潰された区間を有する拍動となるように所定の圧力範囲P1内に制御されればよい。
【0046】
圧迫圧制御部88は、膨張袋42内の圧迫圧を検出する圧力センサ64からの信号に応じてその圧迫圧を検出する。そして、
図10においては、例えば、圧迫圧制御部88は、ずり応力付与期間完了前の所定時間T1すなわち時点t1前の所定時間T1にわたって圧迫圧を前記所定範囲の圧力値P1であるずり応力付与圧で圧迫し、時点t1において圧迫圧を直ちに大気圧にまで減圧する。圧迫圧制御部88は、ずり応力付与制御部としても機能している。
【0047】
図9に戻って、血管硬さ測定制御部104は、まず、超音波信号処理部84により生成された超音波断面画像内に示される生体の上腕動脈29aの形状と、圧迫圧制御部88による圧迫後とから生体の最高血圧値Psおよび最低血圧値Pdを決定する。すなわち、血管硬さ測定制御部104は、生体の最高血圧値Psより高く設定された昇圧値まで圧迫圧を上昇させた後、所定の減圧速度たとえば3〜6mmHg/secで圧迫圧を減少させる過程で、超音波断面画像内に示される生体の上腕動脈29aの断面が1脈波周期内で開かれた脈波の発生時点の圧迫圧を最高血圧値Psとして決定するとともに、上腕動脈29aの断面が1脈波周期内で閉じられなくなった時点の圧迫圧を最低血圧値Pdとして決定し、最高血圧値Psの決定時点の上腕動脈29aの血管径Dsおよび最低血圧値Pd決定時点の上腕動脈29aの血管径Ddを、最高血圧値Psおよび最低血圧値Pdと共に記憶する。
【0048】
次いで、血管硬さ測定制御部104は、上腕動脈29aの硬さを表すスティフネスパラメータβを求める予め記憶された次式(スティフネスパラメータ算出式)から、最高血圧値Psの決定時点の上腕動脈29aの血管径Ds、最低血圧値Pd決定時点の上腕動脈29aの血管径Dd、最高血圧値Ps、および最低血圧値Pdに基づいて、スティフネスパラメータβを算出する。
β=(lnPs−lnPd)/((Ds−Dd)/D0)
【0049】
上式スティフネスパラメータ算出式のD0は、本来は無印加時の血管径であるべきであるが臨床的には計測ができないため、臨床指標として使われる場合には、血管壁厚を含む血管径(=Dd+2IMT)が用いられる。このIMTは、たとえば内膜および中膜の複合体の厚みである。
【0050】
一般に、血管径Dを表す軸と血圧Pを表す軸との二次元座標では血圧Pの増加に対して血管径Dの増加が飽和する非線形の関係であるが、その二次元座標において血圧Pを表す軸を血圧の対数値lnPを表す軸に置換した片対数グラフにて表すと、線形な関係で表すことができる。この線形な関係において、血管径Dの変化率ΔDと血圧Pの変化量ΔPで成り立つ弾性率Epの式(Ep=ΔP/2(ΔD/D)において、ΔPの代わりに(lnPs−lnPd)を用いた関係において、弾性率Epに替わる指標としたのが、スティフネスパラメータβである。前記スティフネスパラメータ算出式は、上記の関係から導かれたものである。
【0051】
表示制御部92は、血管状態評価部90において算出された上腕動脈29aの径、内皮L1の直径である内皮径(内腔径)d1、虚血反応性充血後のFMD(血流依存性血管拡張反応)を表す上腕動脈29aの血管内腔径の拡張率(変化率)R(%)、生体の最高血圧値Psおよび最低血圧値Pd、上腕動脈29aの硬さを表すスティフネスパラメータβ等を、画像表示装置20に表示させる。
【0052】
図11および
図12は、電子制御装置22の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、
図11は血管状態評価部90に対応するFMD測定ルーチン、
図12は血管状態評価部90に対応する動脈硬さ測定ルーチンを、それぞれ示している。上記動脈判定ルーチン、FMD測定ルーチン、動脈硬さ測定ルーチンは、上腕動脈用血管内皮機能測定装置10の起動操作に連動して実行されてもよいが、個別の起動操作に応答して実行されてもよい。
【0053】
血管状態評価部90に対応する
図11のFMD測定ルーチンにおいて、S11では、超音波信号処理部84により得られた超音波断面画像中の動脈として特定された画像から、たとえばテンプレートなどを用いて上腕動脈29aの断面画像が抽出される。
【0054】
S12では、上記S11で抽出された上腕動脈29aの横断面画像から、動脈29の径たとえば内皮L1の内径である内皮径(内腔径)d1が測定される。そして、S13では、S12で測定された内皮径(内腔径)d1が安静時の内腔径daとして記憶される。
図10の時点t0はこの状態を示している。
【0055】
次いで、S14では、上腕動脈29aの開閉の繰り返しに伴う血液の乱流の発生によって効率的にずり応力を内皮L1に付与できるずり応力付与圧となるように、上腕圧迫装置18による圧迫により上腕29が圧迫されて、上腕29内の上腕動脈29aに対して血流に基づくずり応力の付与が開始される。
図10の時点t0はこの状態を示している。このずり応力の付与は、たとえば数拍乃至数十拍或いは数秒乃至数十秒の所定時間T1で、1脈波周期内で上腕動脈29aが潰れたたとえば圧平された(平坦に閉じられた)区間を有する拍動となるように、上腕圧迫装置18による圧迫圧が、所定の圧力範囲P1内に制御される。たとえば所定の圧力範囲P1内に設定された一定値に上記所定時間T1内に維持されるように制御されてもよいが、たとえば5〜6mmHg/sec程度での上昇過程或いは減少過程でその所定の圧力範囲P1を上記所定時間T1で通過させるように制御されてもよい。
【0056】
次いで、S15において、上記ずり応力の付与開始から所定時間T1が経過したか否かが判断される。このS15の判断が否定されるうちはS14以下が繰り返し実行さえるが、S15の判断が肯定されると、S16において、S11と同様の動脈血管断面検出制御ルーチンが実行される。上記のように、繰り返し開閉される上腕動脈29a内の血流に繰り返し乱流が発生して測定部位の血管29aの内皮L1に繰り返しずり応力が付与される。これにより、上腕動脈29aの内皮L1からの一酸化窒素(NO)の産生が起こり、その一酸化窒素に依存する平滑筋の弛緩によって上腕動脈29aの内皮径の一時的増加現象が発生する。
【0057】
この状態において、S16では、S11と同様の動脈血管断面検出制御ルーチンが、所定の周期で繰り返される超音波プローブ14の走査毎に実行される。そして、S17では、S12と同様に、S16で生成された上腕動脈29aの横断面画像から、上腕動脈29aの径たとえば内皮L1の直径である内皮径(内腔径)d1が、上記走査毎に測定され、順次測定された内皮径(内腔径)d1が止血解放後の内腔径d1として逐次記憶される。
図10の時点t1以降はこの状態を示している。この止血解放後の内腔径d1の測定は、S18において止血解放後の上腕動脈29aの内腔径dが、
図10の時点t3に示すように最大値d
MAXに到達すると判断されるまで、S16以下が繰り返し実行される。
【0058】
しかし、S18において、ずり応力付与後の上腕動脈29aの内腔径dが最大値d
MAXに到達したと判断されると、S19において、S18において判定された最大値d
MAXとS13において求められた安静時の上腕動脈29aの内皮L1の直径である内腔径daとに基づいて、上腕動脈29aの内皮機能を評価するための虚血反応性充血後のFMD(血流依存性血管拡張反応)を表す血管内腔径の拡張率(変化率)R(%)[=100×(d
MAX−da)/da]が算出され、表示制御部92によって、表示装置20に表示される。
【0059】
血管硬さ測定制御部104に対応する
図12の動脈硬さ測定ルーチンにおいて、S20では、上腕圧迫装置18により上腕の最高血圧よりも高い圧力まで上腕29に対する圧迫圧が高められた後、その圧迫圧が所定の速度たとえば3〜6mmHg/secで圧迫圧を減少させる過程で、超音波断面画像内に示される上腕動脈29aの断面が1脈波周期内で開かれた最初の脈波の発生時点の圧迫圧が最高血圧値Psとして決定されるとともに、上腕動脈29aの断面が1脈波周期内で閉じられなくなったときの脈波の発生時点の圧迫圧が最低血圧値Pdとして決定された後、圧迫圧が解放される。次いで、S21では、上記最高血圧値Psが決定された時点の上腕動脈29aの血管径Dsおよび最低血圧値Pdが決定された時点の上腕動脈29aの血管径Ddが、超音波断面画像内に示される上腕動脈29aの断面が測定される。次に、S22において、血圧測定が完了したか否かが判断される。このS22の判断が否定さえるうちは、S20以下が繰り返し実行されるが、肯定される場合は、S23において、最高血圧値Psが決定された時点の上腕動脈29aの血管径Dsおよび最低血圧値Pdが決定された時点の上腕動脈29aの血管径Ddが、最高血圧値Psおよび最低血圧値Pdと共に記憶される。
【0060】
次に、S24では、前述のスティフネスパラメータ算出式)から、前述のS23において記憶された、最高血圧値Psが決定された時点の上腕動脈29aの血管径Dsおよび最低血圧値Pdが決定された時点の上腕動脈29aの血管径Ddと、最高血圧値Psおよび最低血圧値Pdとに基づいて、上腕動脈29aの硬さに対応するスティフネスパラメータβが、算出される。そして、S25では、そのスティフネスパラメータβが、表示装置20に表示される。
【0061】
上述のように、本実施例の上腕動脈用血管内皮機能測定装置10によれば、上腕29に巻回されてそれを締めつけるための環状の圧迫帯40と、圧迫帯40の一部において上腕29に密着可能に設けられた超音波透過可能な超音波透過板材26と、圧迫帯40の張力を調節して超音波透過板材26の上腕29に対する圧迫圧力を変化させることが可能な膨張袋(アクチュエータ)42とを有する上腕圧迫装置18と、基台12上に固設され、超音波透過板材26によってふさがれた開口24を有する密閉容器16と、密閉容器16内に収容され、超音波透過板材26を通して上腕29との間で超音波を授受する超音波プローブ14と、圧迫帯40に巻回された上腕29と前腕35との間の肘31を受ける肘受け台32と前腕35に連なる手33の掌を受ける手掌載置台34とを両端部に有し、肘受け台32を通り基台12に対して垂直な回動軸線C1まわりに回動可能に基台12に設けられた回動ブラケット36とを、備える。このため、回動ブラケット36上の前腕35をその回動ブラケット36と共に超音波透過板材26を抱き込む方向に上腕29に対して一旦曲げた状態で、上腕29をそれに巻回された圧迫帯40により位置決めし、次いで、上腕29と直線状となるように前腕35を伸ばすことで、超音波断面画像の取得およびその画像からの血管内皮径の取得を可能とする最適位置に超音波プローブ14を上腕動脈29aに対して維持することができ、しかも測定毎に上腕動脈29a上の同じ部位において超音波プローブ14を位置決めできる。また、上記のように位置決めされた上腕29では、超音波プローブ14と上腕動脈29aとの間に、超音波に対して良質な伝播媒体である上腕二頭筋が介在させられることから、ノイズの少ない正確な超音波断面画像が得られるので、上腕動脈29aの断面画像およびそれから測定される内腔径の精度が高められる。さらに、上腕圧迫装置18の超音波透過板材26による上腕29内の圧迫部位と超音波プローブ14により超音波透過板材26を通して得られる上腕29内の断面画像の位置とが一致するので、上腕圧迫装置18による圧迫圧力に対する上腕29内の断面画像の形状が、正確に得られる。
【0062】
また、本実施例の上腕動脈用血管内皮機能測定装置10によれば、超音波プローブ14が収容される容器は液体が充填された密閉容器16であり、超音波プローブ14はオイル(液体)28および超音波透過板材26を通して上腕動脈29aとの間で超音波を授受することから、超音波の減衰が可及的に抑制されるので、一層明確な超音波断面画像が得られる。
【0063】
また、本実施例の上腕動脈用血管内皮機能測定装置10によれば、超音波断面画像中の上腕動脈29aの状態に基づいて上腕圧迫装置18による上腕29に対する圧迫圧力を制御する電子制御装置(制御装置)22を、含むことから、上腕動脈29aの断面形状に応じた圧迫圧力が得られる利点がある。たとえば、電子制御装置22は、上腕動脈29aの血管断面形状に基づいて上腕動脈29aを潰れた状態たとえば圧平状態すなわち平坦形状に潰された状態を判定し、1拍の脈拍周期の一部または全部が潰れた状態内となるように、上腕圧迫装置18による上腕29に対する圧迫圧力を変化させて、ずり応力を付与することができる。
【0064】
また、本実施例の上腕動脈用血管内皮機能測定装置10によれば、電子制御装置(制御装置)22は、超音波プローブ14に受信された超音波信号に基づいて超音波断面画像を生成するとともに、前記超音波断面画像から上腕29内の上腕動脈29aの内腔径d1を逐次算出し、上腕圧迫装置18に上腕動脈29aへ一時的な圧迫を加えさせた後に拡張する上腕動脈29aの内腔径の最大値d
MAXを判定し、上腕圧迫装置18による圧迫前の安静時の内腔径「da」に対する上記内腔径の最大値の拡張率(変化率)R(%)[=100×(d
MAX−da)/da]が算出されて出力される。これにより、FMD(血流依存性血管拡張反応)測定が、正確な超音波断面画像に基づいて行われるので、精度の高い測定が得られる。
【0065】
また、本実施例の上腕動脈用血管内皮機能測定装置10によれば、電子制御装置(制御装置)22は、上腕動脈29aの血管拡張反応の測定に際して、前記超音波断面画像に基づいて生体の1脈波周期の一部において上腕29の上腕動脈29aが潰れた状態とされる脈拍が所定数持続するように、上腕圧迫装置18による上腕29に対する圧迫圧力を制御することで、上腕動脈29aに対するずり応力が付与されることから、上腕動脈29aの内皮に対するずり応力の付与が効率よく行われる。たとえば、上腕動脈29aに対して5分間の阻血した後に解放することによってずり応力が付与される従来のFMD(血流依存性血管拡張反応)測定に比較して、短時間でずり応力の付与が行われる。これにより、FMD測定を短時間で行うことが可能となる。
【0066】
また、本実施例の上腕動脈用血管内皮機能測定装置10によれば、電子制御装置(制御装置)22は、前記超音波断面画像に基づく上腕29内の上腕動脈29aの血管形状変化と上腕圧迫装置18による圧迫圧力の変化との割合から上腕動脈29aの血管の硬さを示す指標(スティフネスパラメータβ)が算出され、出力される。これにより、上腕動脈29aの硬さに基づいた診断が可能となる。たとえば、上腕動脈29aにずり応力が与えられた後のその動脈の拡径割合と併せることにより、動脈硬化に対する一層正確な診断が可能となる。
【0067】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0068】
たとえば、前述の実施例において、密閉容器16が超音波プローブ14を収容していたが、超音波プローブ14を収容するのは解放型容器であってもよい。この場合は、密閉容器16の開口24に超音波透過板材26が設けられておらず、超音波プローブ14は直接上腕29に接触させられる。
【0069】
また、前述の実施例の密閉容器16内にはオイル28が充填されていたが、水或いは水溶性流体などの流体が充填されていてもよい。
【0070】
また、前述の超音波プローブ14は、互いに平行な2列の第1短軸用超音波アレイ探触子A及び第2短軸用超音波アレイ探触子Bと、それらの長手方向中央部を連結する長軸用超音波アレイ探触子Cとを一平面に有して成るH型のハイブリッド型の超音波プローブであったが、一平面内において長手方向が交差する少なくとも一対の超音波アレイ探触子を有するものであればよい。上記一対の超音波アレイ探触子の交差角は、直角が好ましいが、やや計算が複雑となることが許容される場合には、必ずしも直角でなくてもよい。
【0071】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。